【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冶金法によるシリコン原料の精製においては、ボロンの除去、リンの除去、金属成分の除去工程がある。これらは各々独立した工程であり、夫々独立した炉で処理される。これらの各工程では、原料シリコンが融液の状態で処理され、その量は100(Kg)を超える規模となっている。従って、各工程間では、原料シリコンを融液の状態のままで搬送することにより、作業効率を向上させることができる。
【0006】
しかしシリコンの融点は約1412(℃)であり、このような高融点の融液を搬送する際には、融液の凝固により搬送ができなくなる問題が深刻となる。一般に、シリコン以外の多くの冶金プロセスでは、特許文献2〜6等に示される方法により、高融点の原料融液を搬送する。厚い耐火物製の母材に、溝を掘り込んで融液の流通経路を構成し、その上側に厚い耐火物性の蓋をかぶせた構造の搬送部材を用いる。その流通経路部は、ガスバーナーや通電加熱によって融点に近い温度まで加熱される。たとえば、銅やアルミニウムはシリコンよりもはるかに融点が低い素材であるが、この様な搬送部材を用いて加熱保温する手段が用いられる。
【0007】
しかしながら、シリコンの融液をこのような手段で、各工程間を搬送しようとすると、次に示すようないくつかの問題がある。
【0008】
まず、第一は、シリコン融液の搬送部材への浸潤と反応の問題である。これは、シリコンの融液の粘性が著しく低く、かつ化学的活性が高いことによる。このため、搬送部材自体がシリコン融液の浸潤と化学反応によって痛められ、ひいてはシリコン融液が搬送部材を貫通することで、搬送部材から融液が漏れ出す恐れがある。また、これと同時に搬送部材に含まれる、ボロン、リン、重金属等の不純物がシリコン融液側に移動して、精製したシリコンの純度を損なう。
【0009】
第二は、真空プロセスに関する問題である。シリコン融液からリン等を蒸発除去する精製工程においては、高真空の中でシリコンを処理することになる。従って、この工程にシリコン融液を供給するには、シリコン融液の搬送部材を、真空炉の内部に設置し、真空ゲートバルブを通して出し入れすることも必要になる。
【0010】
また、多くの冶金プロセスで使用されているような搬送部材では、肉厚の断熱層や、加熱用ヒーターやバーナー等の付帯物を伴う。これらの付帯物を真空炉内に設置、出し入れ可能にすることは、設備的に非常に困難である。例えば、大型の部材を炉内に出し入れするためには、炉内の真空維持のため、ゲートバルブを通した大型の前室の設置が必要になり、操業上、その前室と炉内の圧力調整等の作業も煩雑になる。
【0011】
また、真空炉内では、バーナーによる加熱は使用できないが、搬送部材を通電加熱する場合には、電力系の配線が必要になり、これには真空放電等に対する対策も施さなくてはならない。この様な設備的な問題に加えて、耐熱性部材の多くは高温の真空中で気化蒸発するものが多く、搬送部材自体が蒸発して消耗が激しいばかりでなく、気化蒸発した部材からの成分が、炉内の真空度維持の大きな障害となる上に、その蒸発成分が精製したシリコンを汚染する問題がある。
【0012】
第三は、シリコン融液表面に発生する酸化皮膜の問題である。シリコン融液は、活性が高く酸素と反応しやすいため、融液が酸素源に触れるその表面に固体のSiO皮膜が生成し、その流動性が著しく低下する。このため、シリコン融液の温度を補償するために、バーナーで直接加熱することは好ましくない。また、この酸化を防止するためには、搬送部材自体をチャンバーで覆い不活性ガスでパージするか、真空の状態に置く等の対策が有効であるが、これにも大規模な設備が必要となる。
【0013】
上記の様な、数々の問題点から、太陽電池シリコン原料の冶金法による精製においては、原料シリコンの融液を、各工程間で融液のまま搬送することが、極めて困難で実現不可能であると考えられてきた。このため、従来技術では、冶金法の各工程で精製処理したシリコン融液は、一旦冷却して固体のシリコン塊とし、次の工程の炉にて改めて加熱溶解する方法を取らざるを得なかった。これでは、時間的にも、熱エネルギー的にも、機械エネルギー的にも、作業労力にしても、多分なコストが発生する。
【0014】
本発明は、上記の課題を克服するためになされたものであり、シリコン融液を凝固させずに一方から他方へ搬送することが可能なシリコン融液の搬送部材およびシリコン融液の搬送方法を提供することを目的とする。特に、冶金法によるシリコン原料の精製プロセスにおいて、不純物を除去精製する各工程間を、原料シリコンを融液の状態のままで効率よく搬送することが可能な、太陽電池製造用等の高純度シリコンを得るためのシリコン融液の搬送部材およびシリコン融液の搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、上記課題を解決するために、冶金法によるシリコン原料の精製プロセスの条件を満たす設備で、シリコン融液を搬送する数々の試験を行った。
図3は、シリコン溶液を搬送する試験機の斜視図である。
【0016】
同図を参照して、取鍋1には、前工程で処理されたシリコン融液2が収容されている。搬送部材3は、水平面に対して傾斜している。搬送部材3は、室温に置かれている。搬送部材3のうち、搬送部材上端4は取鍋1の融液排出口に位置しており、その搬送部材下端5は受皿6の上部に位置している。上述の構成において、取鍋1を傾動させると、取鍋1内の融液が搬送部材上端4から搬送部材3に流入する。搬送部材3に流入した融液は、搬送部材3に沿って流れて、受皿6に注がれる。
【0017】
枠材などに支持される搬送部材に含まれる搬送経路部の定義は下記の通りである。搬送部材が断熱材を有する場合には、搬送部材のうち断熱材以外の部分が搬送経路部に相当し、搬送部材が断熱材を有しない場合には、搬送部材の全てが搬送経路部に相当する。
【0018】
また、本発明が想定しているプロセスにおいては、融液の移送に関わる溶融装置の配置から、流通経路部は長くとも10(m)程度である。また、搬送経路部材のシリコン融液が流れる部分の幅は、搬送元と搬送先の装置との取り合いと、流れの安定性を考慮して、0.2(m)以下に制限される。また、搬送するシリコン融液の重量は、数10(Kg)以上であるが、この様な大量の融液を、ルツボや取鍋等を徐々に傾斜させて、搬送部材に一定の速度で制御しながら安定に注ぎこむことは容易ではない。このため、実際に移送するのに要する時間は、搬送重量が1000(Kg)の場合で1分から30分の範囲になる。
【0019】
しかし、30分程度の時間であれば、これは溶液の搬送に係る、前後のプロセス装置で同量のシリコン融液を精製処理するのに要する時間に比べて十分短く、実用上大きな問題はない。従って、想定される融液の搬送流量は約30(Kg/min)から1000(Kg/min)の範囲である。また、シリコン融液の動粘性は、3x10^-7(m2/sec)であり、水よりも数倍小さいため、搬送部材3をわずか数度傾斜させることにより、容易に流速を0.1(m/sec)以上に増速ことができる。
【0020】
従って、流れる融液の幅及び深さがそれぞれ、0.2(m)、0.2(m)である場合には、その断面積が4x10^-2(m2)であり、このときの流速が0.1(m/sec)と低速であっても、その流量は600(Kg/min)にもなる。従って、流通経路部上の融液が流れる部分の幅は実用上0.2(m)以下で十分である。
【0021】
この様な実際のプロセス条件を考慮して、実験を行った中で、発明者らは、融液搬送の多くの問題の根源が凝固による閉塞であり、この凝固閉塞のほとんどが20(Kg)程度の融液を流すまでの初期段階で起こり、ひとたび融液が凝固せず順調に流れ始めた場合には、問題なく搬送を完了できる事がほとんどであることに気がついた。
【0022】
また、搬送する融液の流量速度が速いほど、融液は滞りなく流れ、流量速度が50(Kg/min)未満、もしくは、流速が0.1(m/sec)未満であると、前記初期段階を過ぎた場合でも固化が起きやすく、搬送の継続が困難であることもわかった。
【0023】
この初期段階での凝固現象は、以下の様に搬送部材3に注がれた融液先頭部分での熱伝達の仕組みによるものと考えられる。すなわち、融液の先頭部分では、その底面が常に室温に近い低温の流通経路部に接して熱を奪われると同時に、後続の融液から熱が伝えられると考えられるが、このプロセスで想定されるような、幅よりも長さの長い流路においては、後者による入熱に比べて前者の抜熱の方が圧倒的に大きい。このため、融液の先頭部での熱収支は、搬送部材3への抜熱と、これに伴うシリコン融液の凝固による潜熱の発生とのバランスが主となるはずである。
【0024】
しかしながらシリコンは、凝固潜熱が極めて大きい物質であるため、先端部の凝固の進行は、搬送部材3での融液との接触面積や流速のような伝熱条件に律速されるのではなく、融液の持つある一定の凝固潜熱の量によるものと考えられる。従って、ここで、凝固閉塞の条件として実験的に判明した重量の閾値の20(Kg)分が、この一定の凝固潜熱に対応していると考えられる。
【0025】
これらの実験結果から、融液の搬送が可能な条件を明らかにするため、本発明者らは、シリコン融液の搬送工程を、2つの段階に分けて熱収支の観点から考察を行った。第1段階は、注湯開始から、融液の先端が搬送経路部材の下端に到達し、定常に流れだして、流通経路部が融液からの熱を吸収して温まり、熱的に定常状態になるまでの時間帯であり、これを“初期非定常段階”とする。
【0026】
第2段階は、流通経路部が熱的に定常になり融液が熱的にも流動的にも定常な状態で安定して流れている時間帯であり、これを“定常段階”とする。発明者らは、融液の凝固閉塞は前者の初期非定常段階で起こり、後者の定常段階では、起こらないと考えた。つまり、初期の20(Kg)を搬送するまでの時間帯が初期非定常段階であり、その後の融液の搬送が完了するまでの時間帯が、定常段階である。
【0027】
まず、定常段階での熱バランスについては、流れているシリコンの単位量に対して、融液表面からの輻射放熱と、搬送部材3への熱伝導による放熱の二つを考える。シリコンの単位重量あたりで考えると、搬送による融液表面からの輻射放熱量qrad(J/Kg)は、融液の流量をF(Kg/sec)、流速をV(m/sec)、搬送部材の長さL(m)、融液が搬送部材3を通過するのに要する時間をt(sec)、融液の幅をW(m)、融液が室温空間に対する実効輻射率をε、ステファン・ボルツマン定数をσ(W/m2/K4)、融液の温度をTm(K)、室温をT0(K)とすると、これは以下の式で見積もられる。
qrad = 〔εσ(Tm^4-T0^4)x W x t 〕 / 〔 F/V 〕 (式1)
ここで、流速がV=L/tであることを考慮すると、 (式1)は、以下のようになる。
qrad = 〔εσ(Tm^4-T0^4)x W x L〕 / F (式2)
ここで、変数値として、εを0.28、σは5.67x10E-8(W/m2/K4)、Tmは融液の温度で1773(K)=1500(℃)、T0は室温で300(K)=27(℃)、ρは2.53x10^3(Kg/m3)、を用いる。
【0028】
また、想定される融液の流量Fは50(Kg/min)=0.83(Kg/sec)、流速Vを0.1(m/sec)、Wを搬送経路のシリコン痕跡から求めた実験値の0.1(m)とする。qradはそれぞれ、以下の様になる。
qrad = 1.5x10^4 x L (J/Kg) (式3)
ここで、シリコンの凝固潜熱は1.6x10^6(J/Kg)であるから、たとえ、搬送経路部材の長さが10(m)であり、融液の幅が0.2(m)であったとしても、qradは3.0x10^5(J/Kg)で、凝固潜熱より十分小さい。
【0029】
尚、輻射放熱の影響が融液の表面だけに留まると、融液表面のみが固化する状況も考えられるが、溶融金属であるシリコンの熱伝導が67(W/Km)と大きい上に、流動によりその実質的な熱伝導度が大幅に増加するため、流れている融液内部の温度は一様となり、輻射放熱の影響は表面に留まらず融液全域に及ぶとみなせて、局部的な凝固は考えにくい。
【0030】
一方、搬送中に断熱材側への熱伝導による放熱qcnd(J/Kg)については、断熱材の熱伝導度K(W/Km)、断熱層の実質的な厚さをD(m)、断熱材の高温(融液)側の温度をTh、高温側の表面積が融液表面の3倍として仮定すると、次の式で表せる。
qcnd = 3x 〔 K/D x (Th-T0)〕x W x L / F (式4)
ここで、変数値として、Thをシリコンの融点1685K(1412℃)、T0は室温の300K、Kはアルミナーファイバー製断熱材の熱伝導度1.0(W/Km)、Dを60(mm)、その他はqradと同じ値とすると以下の(式5)のようになり、qcndはqradに比べて2桁小さいことがわかる。
qcnd = 1.9x10^2 x L (J/Kg) (式5).
【0031】
尚、断熱材側の部材が無い、もしくは、薄い場合には、流通経路部の外表面からの輻射放熱を無視できないが、その外表面は、融液面より広面積であるものの融液より低温なので、これによる放熱は融液表面からの輻射放熱の程度以下である。
【0032】
従って、定常段階でシリコン融液が流れる場合には、輻射による熱損失も、伝導による熱損失も、シリコンの凝固潜熱に比べて十分小さく、融液が搬送中に凝固する可能性は実用上十分小さいと考えられ、発明者らの実験事実と合致している。
【0033】
つぎに、初期非定常段階での熱バランスを考える。発明者らは、この時間帯を、シリコン融液20(Kg)を搬送するのに要する時間であると考えた。これは流量50(Kg/min)、流速0.1(m/min)の流量で搬送する場合には24秒となる。このとき、シリコン融液が搬送部材3を進む距離は2.5(m)である。この初期非定常段階での、シリコン融液の単位重量あたり融液面からの輻射によって放出される熱量qradは、定常状態の時と変わることがないから、これは先に示したように、凝固潜熱に比べて十分小さい。
【0034】
一方、シリコン融液から流通経路部へ伝導により吸収される熱量は、非定常であるので(式2)の単位重量あたりでの式では見積もることができない。しかし、簡易的には、部材が持つ熱容量と、部材がシリコン融液の通過により温度上昇する温度の積で見積もることができる。流通経路部となるような緻密な物質は、熱伝導度が大きく、かつ断熱によって外周からの熱輻射や熱伝導が十分小さいときには、最大で、室温から融液の凝固点に近い1685(K)まで加熱されると考えられる。従って、この段階で流通経路部が吸収しうる全熱量qab(J)は、次の様に表せる。
qab = C x 〔 Tm - T0 〕 (式6)
ここで、Cは流通経路部の熱容量(J/K)である。
【0035】
たとえば、流通経路部が、
図2に示すような内半径70mm、外半径76mm、の半円断面の、比熱1800(J/K/Kg)密度1800(Kg/m3)の等方性黒鉛製の円筒であったとして、この上をシリコン融液が流れはじめて2.5mほど進んだ状態で、シリコンの熱を吸収するのに関与している円筒部材の熱容量Cは、以下の様に計算される。
C =(1800)x(1800)x( 0.076^2 - 0.070^2) x 2.5 = 11000 (J/K) (式7)
【0036】
したがって、C=11000(J/K)、Tm=1685(K)、T0=300(K)としてqabを計算すると、その値は、1.5Ex10^7(J/Kg)となる。これはシリコン20(Kg)の凝固潜熱3.6Ex10^7(J/Kg)の半分に相当する。従って、初期非定常段階においては、シリコン融液から奪われる熱のかなりの部分が流通経路部等への熱吸収で説明できることがわかった。
【0037】
上記の考察から、発明者らは、融液搬送での凝固閉塞の最たる原因は、注湯直後の初期非定常段階での流通経路部とそれに付帯する断熱材による熱吸収であると考えるに至り、これを防ぐ工夫をすることが、この課題の本質と考えた。従って、融液から流通経路部への熱吸収を防ぐ方法として、従来の様に搬送部材を加熱するまでもなく、搬送部材を構成する部材の低熱溶量化を図り、その熱容量をシリコン20(Kg)分の凝固潜熱よりさらに小さくすることが、この問題の解決手段として有効であるとの結論に至った。
【0038】
そこで、シリコン融液搬送部材単独で、当該搬送部材の熱容量を様々に変えて、シリコン融液を流す実験を行い、シリコン融液が凝固しない熱容量の条件を検討した結果、シリコン融液の熱容量が13000(J/K)
以下であれば、シリコン融液が凝固しないことを見出した。
【0039】
その理由としては、シリコン融液20(Kg)分の凝固潜熱は3.6x10^7(J)であり、この3.6x10^7(J)を流通経路部の室温からの温度上昇幅1400(K)で除した値は26000(J/K)であることから、シリコン融液搬送部材の熱容量が26000(J/K)以上であれば、確実に凝固することが判る。しかし、実際には、シリコン融液搬送には様々な外乱要因が存在する。たとえば、融液の跳ねとびによる局所的な冷却、融液に混入した異物による流路抵抗の増大、混入した不純物成分による析出物の生成、酸化物の混入による融液表面や搬送経路部材界面での酸化凝固、注湯操作に伴う不意の注湯量の減速、等である。従って、シリコン融液搬送部材の熱容量がこれよりも低い場合でも、凝固するケースが存在する。13000(J/K)は実験的に求めた結果であるが、上記理論値の半分の値となっており、妥当な値であるものと考えられる。
【0040】
更に、搬送部材3として、シリコン融液流通部材だけではなく、当該流通部材の融液側とは反対側に断熱材も設けた場合において、シリコン融液を流す実験を行い、シリコン融液が凝固しない熱容量の条件を検討した結果、シリコン流通部材と断熱材を組み合わせた場合は、流通経路部の熱容量と断熱材における流通経路部から30(mm)以内にある部分の熱容量との合計が、13000(J/K)
以下であれば、従来技術のように加熱保温手段を設けなくても、シリコン融液が凝固しないことを見出した。
【0041】
この様な視点から、改めてシリコン融液を搬送する部材の構成を考え直したところ、部材の低熱容量化には次のような3つの利点があることもわかってきた。
1)熱容量を小さくすることは、同時に搬送部材をコンパクトに作ることを意味しており、これは、搬送部材に付帯する設備を簡素にして、かつ、関連する設備との取り合いを容易にできる。
2)シリコンの流通経路部の素材として適切でないと考えられる様な素材、たとえば黒鉛の様にシリコンと反応性が低いものの熱伝導度が大きく、かつ、比熱が高い部材であったり、炭素繊維複合材の様に、単位重量あたりの価格が高い部材であったりしても、薄肉化によりそれが利用しやすくなる。
3) 流通経路部の熱容量が十分小さければ、部材を加熱する必要がなく、その設備が不要となる。
【0042】
上記の観点から、流通経路の素材として、発明者らが検討して最も適切であった部材は、炭素繊維強化炭素複合材(以降C/C材と記載)製の、流通経路部である。これらは、厚さ1mmから3mm程度の薄いシート状のC/Cの原素材を、型に嵌めて圧縮加熱して成型したもので、主として断熱材の補強材や、高温部材の点接触支持部材として使用されており、各炭素素材メーカーから販売されている。これら市販品の標準形状は、L字型やU字型、もしくは円筒の断面を持った、長さ1m程度のものであり、融液の搬送部材に加工するのに都合が良い形状をしている。
【0043】
また、これらは標準品の形状だけでなく、成型用の型次第で、断面形状が、V字、U字、円弧、楕円弧のような折線もしくは曲線、または、円、楕円、多角形等の閉じた線であり、その断面形状がシリコンの搬送方向に対して連続していることで、その全体形状が、流通経路部として使用可能なものを作成できる。また、この素材は、黒鉛やセラミクス製品のような焼結体と異なり、繊維体であるため、熱衝撃や機械衝撃によって破損する可能性が低く、耐久性が高い利点がある。
【0044】
以上のことから、発明者らが創作に至った太陽電池用のシリコン融液の搬送部材は、次のような特徴を持つものとなる。
(1)シリコン融液と直接接触する流通経路部からなり、前記シリコン融液を一方から他方へ流通させるシリコン融液の搬送部材であって、前記流通経路部の熱容量が13000(J/K)以下であ
り、前記流通経路部は、シリコン融液の搬送方向に対して垂直方向の断面の形状が折線もしくは曲線、または、閉じた線であり、その断面形状がシリコンの搬送方向に対して連続していることで、その全体形状がアングル形状もしくは筒形状になるようにして構成された炭素繊維強化炭素複合体であることを特徴とする。ここで融液の流通経路部を、炭素繊維複合材で構成すると、品質への汚染防止と部材の耐久化が図れるため好ましい。
【0045】
(2)シリコン融液と直接接触する流通経路部と、前記流通経路部における前記シリコン融液と接触する面とは反対側の面を覆う断熱材とからなり、前記シリコン融液を一方から他方へ流通させるシリコン融液の搬送部材であって、前記断熱材における流通経路部から30mm以内にある部分の熱容量と前記流通経路部の熱容量との合計が、13000(J/K)以下であ
り、前記流通経路部は、シリコン融液の搬送方向に対して垂直方向の断面の形状が折線もしくは曲線、または、閉じた線であり、その断面形状がシリコンの搬送方向に対して連続していることで、その全体形状がアングル形状もしくは筒形状になるようにして構成された炭素繊維強化炭素複合体であることを特徴とする。この場合の断熱材の素材としては、ファイバー、積層薄膜もしくは発泡体製の熱容量の低いものを使用する。また、上記距離30(mm)の理由は、断熱材の流通経路部から離れている部分の温度は高温にならず、シリコン融液からの熱吸収は実質流通経路側から30(mm)以内にある部分に相当する量だと考えられるためである。さらに、融液の流通経路部を、炭素繊維複合材で構成することで、品質への汚染防止と部材の耐久化が図れる。
【0047】
(
3)前記流通経路部が、層構成部材をシリコン融液の搬送方向に対して垂直な方向に積層することにより構成されていることを特徴とする(1)
又は(2)に記載のシリコン融液の搬送部材。本発明で流通経路部として、炭素繊維強化複合材のように比較的シリコン融液を浸透しやすい素材を使用すれば、その長期の使用においては流通経路からシリコン融液が流通経路部の下面から染み出し、断熱材や、架台等を損傷する恐れがある。そのため、流通経路部を複層構造にすることにより、流通経路部の底部を多重に保護するかたちにして使用すると好ましい。それらの熱容量の合計が規定の値13000(J/K)以下であれば、問題なくシリコン融液を搬送することができる。ここで、「複層構造」とは、シリコンの搬送方向に対して直交する方向に独立した複数のシート状部材を積層した構造を意味しており、実施例4のようにC/C製L字アングル材10を積層した構造はもちろんのこと、実施例5のような二重円筒構造をも含む主旨である。
【0048】
(
4)(1)〜(
3)のいずれか1項に記載のシリコン融液の搬送部材を使用したシリコン融液の搬送方法であって、50(Kg/min)以上の流量で、かつ、0.1(m/sec)以上の速度で前記シリコン融液を搬送することを特徴とするシリコン融液の搬送方法。発明者らの実験では、本発明のシリコン融液の搬送部材を用いた場合でも、50(Kg/min)未満の搬送速度にした場合や、搬送速度を0.1(m/sec)とした場合では、シリコン融液が凝固する場合があることが判った。従って、本部材を用いて、シリコン融液を大量に搬送するにおいては、その流量速度が50(Kg/min)でかつ流速が0.1(m/sec)以上とすることが望ましい。