【課題を解決するための手段】
【0022】
第1の態様によると、本発明の対象は、その結晶内構造が、ミクロ細孔の少なくとも1つのネットワーク、2〜5nmの平均直径を有する小型メソ細孔の少なくとも1つのネットワーク、及び10〜50nmの平均直径を有する大型メソ細孔の少なくとも1つのネットワークを有し、これら種々のネットワークが相互接続されている、改変フォージャサイト構造のY型ゼオライトである。
【0023】
従って、本発明の改変Y型ゼオライトは、三峰性結晶内細孔性を有しており、つまり異なる平均直径を有する細孔の3つのネットワークが各結晶内に存在する。
【0024】
参考までに、Y型ゼオライトは、一般的に、平均直径が0.7〜1.4nmのミクロ細孔を有する。
【0025】
特に、本発明による改変Y型ゼオライトは、有利には、1以上、特に1.20以上、又は1.60以上でさえあり、特には1.80以上、さらに特には2以上である、大型メソ細孔容積(Vl)に対する小型メソ細孔容積(Vs)の比率Vs/Vlを有する。
【0026】
本発明によるゼオライトは、100ppm以下、特に50ppm以下であるナトリウム(Na)含量を有していてもよい。
【0027】
本ゼオライトは、25以下、特に24以下、又は23以下でさえあり、特には22以下、さらに特には21以下であり、任意で20.5以下であるSi/Al原子数比を有していてもよい。
【0028】
また、Si/Al比は、40以下、特に35以下、又は30以下でさえあってもよく、特には28以下、さらに特には25以下であってもよい。
【0029】
Si/Al原子数比は、6以上、特に8以上、又は10以上でさえあってもよく、特には11以上、さらに特には12以上であってもよい。
【0030】
また、Si/Al比は、15以上、特に17以上、又は18以上でさえあってもよく、特には19以上、さらに特には20以上であってもよい。
【0031】
改変Y型ゼオライトは、0.20ml/g以上、特に0.25ml/g以上、特には0.35ml/g以上、又は0.40ml/g以上でさえあるメソ細孔容積を有していてもよい。
【0032】
用語「メソ細孔容積」は、2〜50nmの平均直径を有するメソ細孔の容積を意味し、この場合は、小型及び大型メソ細孔の容積の合計を表す。
【0033】
詳細には、本発明によるゼオライトは、0.10ml/g以上、特に0.15ml/g以上、特には0.20ml/g以上、又は0.25ml/g以上でさえある小型メソ細孔容積(Vs)を有していてもよい。
【0034】
また、改変Y型ゼオライトは、0.20ml/g以下、特に0.18ml/g以下、特には0.16ml/g以下、又は0.125ml/g以下でさえあってもよく、特には0.10ml/g以下であるミクロ細孔容積を有していてもよい。
【0035】
メソ細孔/ミクロ細孔容積比は、1以上、特に1.5以上、特に3以上、又は3.5以上でさえあってもよく、特には4以上、さらに特には4.5以上、又は5以上でさえあってもよい。
【0036】
改変Y型ゼオライトは、200m
2/g以上、特に250m
2/g以上、特には300m
2/g以上、又は350m
2/g以上でさえあり、特には400m
2/g以上の外部表面積S
extを有していてもよい。
【0037】
TPD NH
3により測定された酸性部位の密度は、0.25mmol/g以下、特に0.23mmol/g以下、特には0.22mmol/g以下、又は0.21mmol/g以下でさえあってもよい。
【0038】
改変Y型ゼオライトは、X線回折図に示すY型ゼオライトの特徴ピークを有する。これらのピークは、以下の面間距離に対応する:d=13.965、8.552、7.293、5.549、4.655、4.276、3.824、3.689、3.232、2.851、2.793、及び2.578Å(Collection of simulated XRD powder patterns for zeolites、改訂第5版、M.M.J Treacy及びJ.B.Higgins著、Elsevier編参照)。
【0039】
本発明による改変Y型ゼオライト、又は特に総重量に対して少なくとも20重量%の本発明による改変Y型ゼオライトを含む複合材料は、下記ステップにより調製することができる:
a)Y型ゼオライト又は特に総重量に対して少なくとも20重量%の含量でY型ゼオライトを含む複合材料を、例えば0.001〜0.5Mの範囲の濃度の少なくとも1つの強塩基、特にNaOH若しくはKOH、及び/又は弱塩基、特に炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどを含む塩基性水溶液と共に、磁気撹拌又は機械撹拌しながら室温で懸濁するステップ、
b)得られたY型ゼオライトをろ過し、溶媒、特に極性溶媒、例えば純粋な蒸留水でそれを洗浄するステップ、
c)任意で、洗浄したゼオライトを乾燥するステップ、
d)洗浄され、任意で乾燥されたゼオライトを、特に0.01〜0.5Mの範囲の濃度のNH
4NO
3溶液、特に水溶液と撹拌しながら接触させるステップ、
e)ゼオライトを蒸留水で洗浄して中性pHにするステップ、
f)得られたゼオライトをか焼する(calcining)ステップ、及び
g)ゼオライトを回収するステップ。
【0040】
この生成物は、5以上、40以下のSi/Al原子数比、及び/又は0.22ml/g以上のメソ細孔容積を有する改変Y型ゼオライトの生成を可能にする。
【0041】
さらに、このプロセスは、出発ゼオライトと比べて、以下を有するY型ゼオライトの生成を可能にする:
− 少なくとも0.05ml/g、特に少なくとも0.1ml/g、特には少なくとも0.15ml/g、又は少なくとも0.21ml/gでさえあるメソ細孔容積の増加、
− 少なくとも0.05ml/g、特に少なくとも0.1ml/g、及び特には少なくとも0.15ml/gの小型メソ細孔容積の増加、
− 少なくとも0.05ml/g、特に少なくとも0.075ml/g、特には少なくとも0.10ml/g、又は少なくとも0.15ml/gでさえあるミクロ細孔容積の減少、及び/又は
− 少なくとも2、特に少なくとも4、特には少なくとも6、又は少なくとも10でさえあるSi/Al原子数比の減少、
− 少なくとも50m
2/g、特に少なくとも100m
2/g、特には少なくとも150m
2/g、又は少なくとも240m
2/gでさえある外部表面積(S
ext)の増加、及び/又は
− 少なくとも0.05mmol/g、及び特に少なくとも0.1mmol/gの、TPD NH
3による酸性示標の減少。
【0042】
ステップa)において、水溶液/ゼオライト及び特にY型ゼオライト重量比は、20〜100、特に30〜80、特には40〜60の範囲であってもよく、又は約50でさえあってもよい。
【0043】
ステップa)の溶液の塩基濃度は、0.001〜0.5M、特に0.005〜0.2、特に0.01〜0.1の範囲であってもよく、又は約0.05Mでさえあってもよい。
【0044】
ステップd)において、NH
4NO
3溶液/Y型ゼオライト重量比は、5〜75、特に10〜50、及び特には20〜30の範囲であってもよく、又は約25でさえあってもよい。
【0045】
ステップd)の溶液のNH
4NO
3濃度は、0.01〜0.5M、特に0.05〜0.4、特には0.1〜0.3の範囲であってもよく、又は約0.2Mでさえあってもよい。
【0046】
最も具体的には、出発物質は、少なくとも1つの脱アルミニウム化、特には部分的な処理、例えば酸処理及び/又は水蒸気処理を受けたY型ゼオライトである。これらの処理は、(i)材料の酸性度を低減すること、(ii)理論的には純粋にミクロ細孔性である初期材料のメソ細孔性を、たとえわずかであっても増加させることを可能にする。最も具体的には、これら処理は、その内容が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5601798号に記述されているものに対応する。
【0047】
このプロセスは、第1のろ過前に、溶液を中和するステップを含むこともできる。これにより、脱ケイ素化の停止が可能になる。この脱ケイ素化は、メソ細孔性、特に過剰なメソ細孔性の生成という結果をもたらす場合がある。この段階において、メソ細孔性のこの生成は、特にそれが過剰である場合に問題である可能性があり、ゼオライト結晶構造の喪失、例えばミクロ細孔性の喪失を引き起こし、材料の固有活性の低減を引き起こす場合がある。
【0048】
この中和ステップは、特に大量生産時の工業的条件下では、水又は任意のタイプの酸、例えば硫酸で洗浄することにより実施することができる。
【0049】
有利には、塩基性溶液及び/又はNH
4NO
3溶液と接触(懸濁)させるステップは室温で行われ、特には、いかなる加熱も必要としない。
【0050】
本発明の目的では、用語「室温」は、18〜25℃の範囲の温度、及び特には20℃の温度を意味する。
【0051】
ステップa)において、塩基性溶液との接触は、5〜120分間、特に10〜60分間、及び特には15〜30分間継続させてもよい。
【0052】
接触させている期間中、懸濁液を、特に磁気撹拌又は機械撹拌により撹拌してもよい。
【0053】
乾燥ステップは、70℃以上、特に75℃以上、又は80℃以上でさえある温度で実施してもよい。乾燥ステップは、1〜36時間、特に3〜24時間、及び特には8〜15時間の範囲であってもよい。
【0054】
乾燥ステップは、ゼオライトの重量がもはや変化しなくなるまで、特には、t時点でのゼオライト重量と2時間加熱した後のこのゼオライト重量との差異が、ゼオライト重量に対して0.1重量%未満だけ異なるまで継続してもよい。
【0055】
乾燥は、空気下で実施してもよく、又は不活性雰囲気下で実施してもよい。
【0056】
NH
4NO
3溶液と接触させるステップd)は、2〜24時間、特に3〜12時間、及び特には4〜8時間継続してもよく、又は約4時間さえ継続してもよい。
【0057】
か焼ステップf)は、400℃以上、特に450℃以上、又は500℃以上でさえある温度で実施してもよい。加熱は、2〜8時間、特には3〜6時間、又は約5〜7時間さえ継続してもよい。
【0058】
加熱は、0.5〜2℃/分及び特に1℃/分の温度上昇を含んでいてもよい。
【0059】
加熱は、空気中又は不活性雰囲気中で実施してもよい。
【0060】
上述のプロセスにより、出発Y型ゼオライトのミクロ細孔容積の30%未満、特に40%、特には45%、又は50%でさえあるミクロ細孔容積を有するY型ゼオライトを得ることが可能である。
【0061】
上述のプロセスにより、出発Y型ゼオライトのメソ細孔容積の30%を超える、特に35%、特には40%、又は45%でさえあるメソ細孔容積を有するY型ゼオライトを得ることが可能である。特には、メソ細孔容積の増加は、本質的に小型メソ細孔の生成による。
【0062】
言うまでもなく、本発明は、上述のプロセスにより得ることができるY型ゼオライトにも関する。
【0063】
本発明の別の態様によると、本発明は、任意で、アルカリ処理により生成される結晶欠陥の修復に関し、これらの欠陥は、NH
3離脱により測定される酸性部位の密度の減少をもたらす。この修復は、穏やかな水蒸気処理(van Donkら、Generation, Characterization, and Impact of Mesopores in Zeolite Catalysts. Catalysis Reviews、2003年、45巻(2):297〜319頁を参照)により実施してもよく、これにより、NH
3のTPDにより測定して0.25mmol/gを超える酸性度値がもたらされる。
【0064】
本発明の別の態様によると、本発明の対象は、粒子、特には、本発明による改変Y型ゼオライト及びシリカ又はアルミナなどの少なくとも1つの結合剤を含む触媒粒子である。これらの粒子は、触媒金属を含むこともできる。
【0065】
これらの粒子は、上述のアルカリ処理プロセスに従って、改変Y型ゼオライト及びシリカ又はアルミナなどの少なくとも1つの結合剤を混合することにより調製することができる。
【0066】
これらの粒子を調製するためのプロセスは、触媒金属の固定化ステップ、例えば吸着ステップを含むこともできる。
【0067】
これらの主題は、触媒の巨視的成形、つまりシリカ又はアルミナタイプの結合剤を使用した改変材料の成形に対応する。これにより、例えば、典型的な工業用反応器、例えば固定床式反応器中で材料を直接使用することが可能になる場合がある。この成形は、押出しにより実施することができるが、固定床又は移動床反応器での使用に適合させることができるビーズ又は他の巨視的形状の巨視的成形を可能にすることもできる。
【0068】
詳細には、アルカリ処理プロセスは、特に固定床又は移動床反応器でそのまま使える粒子の形態、特に押出し形態又はビーズ形態の、少なくとも1つの改変(脱アルミニウム化プロセス後の)Y型ゼオライト及び結合剤を含む組成物に適用することができる。
【0069】
これにより、複合材料(複合材料=ゼオライト+結合剤)中に存在するY型ゼオライトのメソ細孔容積を増加させることができる。
【0070】
本発明の別の態様によると、本発明の対象は、本発明による改変Y型ゼオライト及び任意で触媒、特に触媒金属を含む触媒である。この金属は、固定化ステップ、例えば含浸ステップによりゼオライトに沈着させることができる。
【0071】
挙げることができる触媒金属の中には、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、及びタングステンがあるが、他の遷移金属でもよい。
【0072】
本発明の別の態様によると、本発明の主題は、上述のような少なくとも1つのゼオライトを含む触媒、又はそのようなゼオライト及び任意でそれに支持された触媒を含む複合材料である。
【0073】
本発明の別の態様によると、本発明の対象は、石油又は重質残油を処理するためのプロセスにおける、特にFCCにおける水素化転換触媒としての、例えば水素化分解又は水素化異性化触媒としての、本発明による触媒又は粒子の使用である。
【0074】
本発明の対象は、上述のように触媒金属をゼオライトに含浸させる少なくとも1つのステップを含む、触媒を製造するためのプロセスでもある。
【0075】
種々の特徴を測定するために使用される方法は、一般的に標準技術である。より具体的には、本発明の文脈では下記技術が使用された:
i)化学的組成、詳細にはSi/Al原子数比及びナトリウム含量は、原子吸光分光法により決定した(CNRS中央分析部門、ソレーズ)。
ii)ゼオライトの構造は、コバルトのKα12線を使用し、Bruker社製Advance D8型の回折計を使用して、5〜50°の2シータ角のスペクトルを記録したX線回折(XRD)により定義した。
iii)吸着及び離脱の測定は、Micrometrics社製Tristar3000型機器を用いて液体窒素の温度で行った。各測定の前には、試料を、窒素下、300℃で840分間脱気した。
iv)ゼオライトの微細構造は、100kVの電圧で操作したJeol社製1200EXII顕微鏡を使用して、透過型電子顕微鏡法(TEM)により観察した(拡大率20 000〜120 000)。
v)電子断層撮影研究は、200kVの電圧でTecnai 20型機器を使用して、透過型電子顕微鏡で実施した。一連の画像は、19 000又は29 000の拡大率で、−75〜75°の角度範囲及び1°の傾斜インクリメントの明視野画像条件下で取得した。三次元再構成は、IMODソフトウェアを使用して、一連の取得傾斜から計算した。
vi)外部表面積(S
ext)、ミクロ細孔容積(V
micro)、及びメソ細孔容積(V
meso)により定義される組織構造上の特性は、当業者に周知の方法を適用することにより、Micromeritics社製ASAP 2000/2010型機器を用いて77Kで記録された吸着等温線から、窒素容積測定により定義した(Barett,E.P.;Joyner,L.G.;Halenda,P.P. J.Am.Chem.Soc.1951年、73巻、373〜380頁、Rouquerol,F.;Rouquerol,J.;Sing. K.Adsorption by powders and porous solids;Academic Press:San Diego、1999年)。
vii)触媒の酸性度は、離脱したアンモニアを導電率により分析することにより、100〜650℃でのアンモニアの昇温離脱法(Thermally Programmed Desorption of ammonia)(TPD NH
3)によって確立した(Niwa,M.;Iwamoto,M.;Segawa,K. B.Chem.Soc.Jpn 1986年、59巻)。
【0076】
これから、添付の非限定的な図面を参照して本発明を説明する。