特許第5784008号(P5784008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5784008
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】リガンド固定化用基材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/24 20060101AFI20150907BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20150907BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20150907BHJP
   A61K 35/14 20150101ALI20150907BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20150907BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20150907BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20150907BHJP
   C08F 220/34 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   B01J20/24 C
   B01J20/28 A
   B01J20/22 C
   A61K35/14 Z
   A61P7/00
   A61M1/36 545
   C08F220/10
   C08F220/34
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-509465(P2012-509465)
(86)(22)【出願日】2011年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2011057678
(87)【国際公開番号】WO2011125618
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2014年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-83455(P2010-83455)
(32)【優先日】2010年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100133307
【弁理士】
【氏名又は名称】西本 博之
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】長澤 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】福島 正和
【審査官】 松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−226550(JP,A)
【文献】 特開2007−130194(JP,A)
【文献】 特開2004−154613(JP,A)
【文献】 特開昭59−017354(JP,A)
【文献】 特開2009−300239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00− 20/34
A61L 33/00
A61M 1/36
C08F 220/10
C08F 220/34
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性担体の少なくとも表面に下記一般式(1)で表される共重合体が結合してなる、リガンド固定化用基材。
【化1】
[一般式(1)中、n及びmは正の整数を示し、m/(n+m)の値は0.1以上0.45以下である。また、式(1)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基、R
【化2】
を示す。]
【請求項2】
水不溶性担体の少なくとも表面に、下記式(2)で表されるN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインと下記一般式(3)で表される重合性モノマーとの共重合体が結合しており、該共重合体における前記N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインのモル組成比が0.1以上0.45以下である、リガンド固定化用基材。
【化3】
【化4】
[一般式(3)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基を示す。]
【請求項3】
前記共重合体がエポキシ基を含む、請求項1又は2に記載のリガンド固定化用基材。
【請求項4】
前記共重合体による前記水不溶性担体表面の被覆率が27%以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載のリガンド固定化用基材。
【請求項5】
前記水不溶性担体が多孔膜又は粒子である、請求項1から4のいずれか一項に記載のリガンド固定化用基材。
【請求項6】
リガンド固定化用基材を製造するための下記一般式(1)で表される共重合体の使用。
【化5】
[一般式(1)中、n及びmは正の整数を示し、m/(n+m)の値は0.1以上0.45以下である。また、一般式(1)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基、R
【化6】
を示す。]
【請求項7】
前記共重合体がエポキシ基を含む、請求項6に記載の共重合体の使用。
【請求項8】
(i)水不溶性担体に放射線を照射する工程と、
(ii)下記式(2)で表されるN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインと下記一般式(3)で表される重合性モノマーとを含む溶液に、工程(i)で得られた水不溶性担体を浸漬してグラフト重合させる工程と、
を含むことを特徴とするリガンド固定化用基材の製造方法。
【化7】
【化8】
[一般式(3)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基を示す。]
【請求項9】
前記重合性モノマーが、エポキシ基を有する、請求項8に記載のリガンド固定化用基材の製造方法。
【請求項10】
前記水不溶性担体が多孔膜又は粒子である、請求項8又は9に記載のリガンド固定化用基材の製造方法。
【請求項11】
請求項1から5のいずれか一項に記載されたリガンド固定化用基材に、抗体、蛋白質、ペプチド及び低分子化合物からなる群より選択されるリガンドが結合した吸着材。
【請求項12】
内部に血液を導入するための入口と、該血液を外部に排出するための出口と、を備えた容器の内部に、請求項11に記載の吸着材が充填された血液処理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアフィニティーリガンドを固定化するためのリガンド固定化用基材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液から特定成分を除去する目的で、該特定成分に対して親和性のある物質、すなわち、リガンドを水不溶性担体に共有結合によって固定した吸着材が臨床的に広く利用されている。これら吸着材は、患者血液を一旦体外に取り出し、その血液あるいは血漿分離器で分離した血漿を吸着材に流して処理した後、患者に返血するという形で使用される。
【0003】
このため吸着材からリガンドが溶出すると、直接患者体内に入り、種々の生理作用を引き起こす危険性がある。よって、リガンドの溶離量が多い吸着材は、安全性の点より臨床で利用できない。すなわち、これら吸着材を実用化するに当たっては、水不溶性担体とリガンドとの結合を強固にし、溶離するリガンド量を減らせるかが最も重要な技術課題である。
【0004】
また、血液との接触に伴うタンパク質や細胞(白血球や血小板など)、その他血中成分の表面吸着が起きにくいといった吸着材の血液適合性も重要である。特に、選択的吸着材においては、特定成分を選択的に吸着させるために、基材そのものに目的成分以外のものの非特異的な吸着が起きない基材が望まれている。
【0005】
従来、臨床で使用されているポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリ塩化ビニルなどの医療用材料は、単に工業用樹脂材料を医療用に転用したものであり、血液適合性が十分であるとはいえない。そこで、医療用材料表面の親水性及び疎水性を改善するために、該医療用材料表面に、放射線、紫外線等を照射したり、アーク、直流グロー、高周波、マイクロ波、コロナ放電等によりプラズマ処理したり、UV−オゾン処理する等の方法において発生させたラジカルを開始点として、これにラジカル重合性モノマーを作用させて表面にグラフト重合層を形成させる方法が広く用いられている。例えば、非特許文献1には、放射線を用いたグラフト重合が、また非特許文献2には、ポリ酢酸ビニル水溶液を用いたメチルメタクリレート又はアクリル酸を、ポリプロピレン表面上あるいはポリエチレン表面上でグラフト重合させる方法等が提案されている。
【0006】
一方、重合性を有するベタイン化合物として、リン脂質の極性基であるホスホリルコリンを高分子鎖の側鎖に有するポリ2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、MPCという。)が広く知られている(例えば、特許文献1及び2)。MPCポリマーは、生体膜と同じ両性型のリン脂質を有することから、生体適合性に優れ、その表面に血漿タンパク質が吸着せず、血小板の粘着や活性化などを誘発しないという利点があると解されているが、MPCポリマーを構成している2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンは、その調製のために煩雑な操作を必要とし、しかもその純度を高めることが困難であるとともに、生成した結晶が短時間で潮解するという欠点があるため、その取り扱いが不便であることなどが影響して、合成高分子化合物としては比較的高価である。
【0007】
これに対し、比較的安価でかつ容易に大量に調製することができる化合物として、グリシン型の両性基を持つN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(以下、CMBという。)が提案されている(例えば、特許文献3、4及び5)。CMB及び重合性モノマーとの共重合ポリマーはタンパク質や血球などの生体成分との相互作用が小さいなどの優れた生体適合性を有しているとの報告がある(特許文献6)が、CMBとリガンド固定化用官能基を有するモノマーとの共重合体を基材表面に有するリガンド固定化用基材は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭54−63025号公報
【特許文献2】特開2000−279512号公報
【特許文献3】特開平9−95474号公報
【特許文献4】特開平9−95586号公報
【特許文献5】特開平11−222470号公報
【特許文献6】特開2007−130194号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A.Henglein, Angew. Chem., 70、461(1955)
【非特許文献2】Y. Ogiwara, et. al., Poym. Sci., PolymLetter Ed., 19、457(1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
細胞を吸着する目的においては、吸着基材に選択的な細胞吸着性能を付与する方法として、基材表面にカチオン性官能基(例えば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基)やアニオン性官能基(例えば、硫酸エステル基、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸エステル基)をバランスよく固定化して細胞の選択吸着を行う技術が従来から知られているが、このような方法では目標とする高い細胞選択性を発現させることが困難な場合が多い。
【0011】
これに対し、高い細胞選択吸着性を得るために目的細胞の細胞表面に存在するタンパク質や糖鎖に特異的な親和性を有するアフィニティーリガンドを用いる方法は効果的である。特に細胞表面の蛋白質や糖鎖に強い親和性のあるアミノ酸配列を有した抗体や、抗体の抗原結合部位を含む抗体断片(F(ab)’、Fab、Fab’等)、さらにそのようなアミノ酸配列を有する合成ペプチド、又はそれらの修飾ペプチドが効果的であり、これらを吸着基材に共有結合にて固定化する方法が効果的であると考えられる。
【0012】
さらに細胞吸着材に限らず、血液中から選択的に目的物質を除去又は回収する選択吸着材を製造する場合には、吸着材からのリガンドの漏出が極めて少ないといった安全性も重要である。つまり、非特異吸着の起きにくい吸着材へのリガンドの固定化を共有結合でほぼ達成し、リガンドの物理的な非共有結合を十分に低減させておく必要がある。
【0013】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、蛋白質や血球などの生体成分との非特異的相互作用が少ないなどの優れた生体適合性を有し、リガンドを強固に結合し、固定化したリガンドとの特異的相互作用に基づく高い吸着性能を発揮し得るリガンド固定化用基材、及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、優れた生体適合性を有し、リガンドと強固に結合してリガンドが溶出するリスクが少なく、固定化したリガンドの性能を十分に発揮させ得る基材について鋭意研究を進めた結果、水不溶性担体の表面にCMBと求電子官能基を有する重合性モノマーとの共重合体が結合してなるリガンド固定化用基材が上記の課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
[1] 水不溶性担体の少なくとも表面に下記一般式(1)で表される共重合体が結合してなる、リガンド固定化用基材。
【化1】
[一般式(1)中、n及びmは正の整数を示し、m/(n+m)の値は0.1以上0.45以下である。また、式(1)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基、R
【化2】
を示す。]
[2] 水不溶性担体の少なくとも表面に、下記式(2)で表されるN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインと下記一般式(3)で表される重合性モノマーとの共重合体が結合しており、該共重合体におけるN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインのモル組成比が0.1以上0.45以下である、リガンド固定化用基材。
【化3】
【化4】
[一般式(3)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基を示す。]
[3] 前記共重合体がエポキシ基を含む、[1]又は[2]に記載のリガンド固定化用基材。
[4] 前記共重合体による前記水不溶性担体表面の被覆率が27%以上である、[1]から[3]のいずれかに記載のリガンド固定化用基材。
[5] 前記水不溶性担体が多孔膜又は粒子である、[1]から[4]のいずれかに記載のリガンド固定化用基材。
[6] リガンド固定化用基材を製造するための下記一般式(1)で表される共重合体の使用。
【化5】
[一般式(1)中、n及びmは正の整数を示し、m/(n+m)の値は0.1以上0.45以下である。また、一般式(1)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基、R
【化6】
を示す。]
[7] 前記共重合体がエポキシ基を含む、[6]に記載の共重合体の使用。
[8] (i)水不溶性担体に放射線を照射する工程と、(ii)下記式(2)で表されるN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインと下記一般式(3)で表される重合性モノマーとを含む溶液に、工程(i)で得られた水不溶性担体を浸漬してグラフト重合させる工程と、
を含むことを特徴とするリガンド固定化用基材の製造方法。
【化7】
【化8】
[一般式(3)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基を示す。]
[9] 前記重合性モノマーが、エポキシ基を有する、[8]に記載のリガンド固定化用基材の製造方法。
[10] 前記水不溶性担体が多孔膜又は粒子である、[8]又は[9]に記載のリガンド固定化用基材の製造方法。
[11] [1]から[5]のいずれかに記載されたリガンド固定化用基材に、抗体、蛋白質、ペプチド及び低分子化合物からなる群より選択されるリガンドが結合した吸着材。
[12] 内部に血液を導入するための入口と、該血液を外部に排出するための出口と、を備えた容器の内部に、[11]に記載の吸着材が充填された血液処理器。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、蛋白質や血球などの生体成分との非特異的相互作用が少ないなどの優れた生体適合性を有し、リガンドを強固に結合し、固定化したリガンドとの特異的相互作用に基づく高い吸着性能を発揮し得るリガンド固定化用基材、及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態に係るリガンド固定化用基材の模式断面図である。
図2】一実施形態に係る吸着材の模式断面図である。
図3】一実施形態に係る血液処理器の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明を限定するものではない。
【0019】
本発明のリガンド固定化用基材は、水不溶性担体の少なくとも表面に下記一般式(1)で表される共重合体が結合していることを特徴とする。
【化9】
ここで、一般式(1)中、n及びmは正の整数を示し、m/(n+m)の値は0.1以上0.45以下である。また、一般式(1)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基、R
【化10】
を示す。
一般式(1)で表される共重合体は、繰り返し数がmの繰り返し単位と、繰り返し数がnの繰り返し単位とのランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0020】
一般式(1)で表される共重合体は、式(2)で表されるN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(CMB)と、一般式(3)で表される求電子官能基を有する重合性モノマーとを共重合させることによって得ることができる。
【化11】
【化12】
一般式(3)中、RはH又はCH、Rは求電子官能基を有する有機基を示す。
なお、上記共重合体は、式(2)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物との、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0021】
また、一般式(1)で、繰り返し数がmの繰り返し単位はCMB由来の残基(以下、ベタイン基という)であり、繰り返し数がnの繰り返し単位は求電子官能基を有する重合性モノマー由来の残基である。
【0022】
式(2)で表されるCMBは、例えば、特開平9−95474号公報、特開平9−95586号公報、特開平11−222470号公報などに記載されている方法により、容易に高純度で調製することができる。
【0023】
本明細書において、「求電子官能基」とは求電子的に反応する官能基を意味し、一般式(3)で表される求電子官能基を有する重合性モノマーの具体例としては、エポキシ基、イソシアネート基若しくはアルデヒド基等を分子内(一般式(1)及び一般式(3)中、R)に有する重合性モノマーが挙げられる。
【0024】
上記のエポキシ基を分子内に有する重合性モノマーとしては、特に限定されないが、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリルアミド、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、グリシジルソルベート、グリシジルメタイタコナート、エチルグリシジルマレアート、グリシジルビニルスルホナート等を例示でき、イソシアネート基を分子内に有する重合性モノマーとしては、アクリロイルオキシエチルイソシアネート、アクリロイルオキシメチルイソシアネート、アクリロイルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、メタクリロイルエチルイソシアネート等を例示でき、さらに、アルデヒド基を分子内に有する重合性モノマーとしては、シンナムアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン等を例示できるが、この中でも入手の容易さ、コスト、取り扱いの容易さから、エポキシ基を分子内に有する重合性モノマーが好ましく、その中でも特にグリシジルメタクリレートが好ましい。
【0025】
水不溶性担体の少なくとも表面に共重合体がどのような様式で結合しているかは特に限定されず、共有結合、イオン結合、物理吸着等のいずれの結合様式であっても良い。結合方法としては、グラフト法、不溶化沈殿法等、あらゆる公知の方法を用いることができる。したがって、高分子化合物やそのモノマーを放射線あるいはプラズマ等を用いてグラフト重合する、共有結合するなどの公知の方法により表面改質を施す方法(特開平1−249063号公報、特開平3−502094号公報)は本発明に好適に用いられる。
【0026】
放射線照射グラフト重合法を用いる場合、種々の公知の方法を利用することができる。例えば、担体上に活性点を導入するための電離性放射線は、α線、β線、γ線、加速電子線、X線、紫外線などが挙げられるが、実用的には加速電子線又はγ線が好ましい。加速電子線又はγ線の照射量は担体の性質、重合性モノマーの性質、固定化量などにより任意に変えることができるが、10kGyから200kGyが好ましい。本発明に従って、担体と重合性モノマーをグラフト重合させる方法としては、担体と重合性モノマーの共存下で放射線を照射する同時照射法と、担体のみに予め放射線を照射した後、重合性モノマーと担体とを接触させる前照射法のいずれも使用可能であるが、前照射法が、グラフト重合以外の副反応を生成しにくいため好ましい。重合性モノマー濃度は通常1質量%以上20質量%以下、反応温度は5℃以上40℃以下の範囲で、重合性モノマーと担体との反応を行うことができるが、この範囲に限定されるものではなく、適宜設定してよい。重合性モノマーと担体との反応の際の溶媒は、無溶媒若しくは水、メタノール、エタノール、その他アルコール、アセトン等の溶媒又はそれらの混合溶媒で、重合性モノマーが溶解、分散するものであれば用いることができる。また、放射線照射グラフト重合法を用いる場合、担体への共重合体のグラフト率(G)は5%以上300%以下が好ましく、20%以上200%以下がさらに好ましく、50%以上150%以下が特に好ましい。グラフト率が5%未満であると、担体表面のグラフト鎖による被覆が不十分となりやすく、担体表面の改質が不十分となるおそれや、リガンドの固定化量が不十分となるおそれがある。またグラフト率が300%を超えると、担体自体の物理特性が失われるおそれがあり、吸着材の設計上好ましくない。
【0027】
なお、ここにいうグラフト率(G)は、下記式(4)で表される値である。
G(%)=[(グラフト後担体重量−グラフト前担体重量)/(グラフト前担体重量)]×100 (4)
【0028】
重合反応後は、過剰のモノマーや連鎖移動反応によって生成したグラフトされていないポリマーを適当な溶剤にて十分洗浄除去すればよい。
【0029】
本発明の共重合体におけるN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(CMB)のモル組成比は、0.1以上0.45以下であることが好ましい。ベタイン基のモル組成比が0.1未満であると、生体適合性の性質が発揮されなくなる。またベタイン基のモル組成比が0.45を超えると、生体適合性の性質は十分に発揮されるが、必然的に求電子官能基の含有量が低くなり、リガンドの固定化が十分に行われないため好ましくない。前記共重合体を形成する反応時の各重合性モノマーの混合量は、選択する溶媒等に依存するので、適宜選択すればよい。
【0030】
共重合体による水不溶性担体表面の被覆率は27%以上が好ましく、より好ましくは27%以上75%以下である。担体表面の被覆率が27%未満であると、担体の表面性質が残存しやすい傾向にあり、非特異的吸着が増加するおそれや、リガンドの固定化が十分に行われないおそれがある。
【0031】
本発明に用いる不溶性担体を形成する素材としては、天然高分子、合成高分子、再生高分子等の有機高分子化合物、ガラスや金属に代表される無機化合物、さらに有機/無機ハイブリッド化合物などが挙げられるが特に限定されない。
【0032】
加工性の面からは、有機高分子素材が特に好ましく、例えばポリアルキレンテレフタレート類、ポリカーボネート類、ポリウレタン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体(エバール)、エチレン/ビニルアセテート共重合体、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、ポリスルホン類、セルロース及びセルロース誘導体類、ポリフェニレンエーテル類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等、及びこれらを構成するモノマーの共重合体、更には上記高分子の1種又は2種以上のアロイ、ブレンド等が挙げられる。
【0033】
水不溶性担体としては、医療用吸着材の担体として周知のもの全てを使用できるが、多孔膜や粒子が好ましく、多孔質粒子、不織布、中空糸膜が体外循環時の体液の流通性より最も好ましく、細胞吸着を目的とする場合は不織布又は粒子が好ましい。
【0034】
多孔膜としては、これらの素材から得られる繊維状物(中実繊維や中空繊維)を用いて製造される不織布、織布、編布、メッシュ等が挙げられる。また、有機高分子素材や無機高分子素材を熱溶融した状態、溶媒によって溶解した溶液状態、可塑剤を用いて可塑化した状態等から、発泡法、相分離法(熱誘起相分離法や湿式相分離法)、延伸法、焼結法等によって得ることができるシート状膜(平膜)や空糸膜も使用できる。
【0035】
多孔膜においては、連通孔を有し、連通孔の少なくとも表面部分に存在するアフィニティーリガンドとの接触によって目的成分が吸着されるのであればどのような構造であっても構わず特に限定されない。連通孔とは、支持多孔膜の一方の膜面から反対側の膜面にかけて連通した孔のことであって、その連通孔を通して液体が通過するとこができるのであれば、その孔の膜表面の形状や膜内部の構造はどのようなものであってもよい。
【0036】
特に、目的吸着成分が細胞である場合に好ましいものとしては、細胞浮遊液の透過性、及び細胞捕捉性の観点から、各種繊維状物から製造される不織布、織布、編布、メッシュ等が挙げられ、特に不織布は好ましく用いられる多孔膜である。不織布形状の場合、その平均繊維径(平均繊維直径)は0.1μm〜50μmが好ましい。さらに平均繊維径は0.5μm〜40μmであることが好ましく、1μm〜30μmであることがより好ましく、1μm〜20μmであることが特に好ましく、2μm〜10μmであることが最も好ましい。平均繊維径が0.1μm未満であると、リガンド固定化用基材や細胞選択吸着材の機械的強度が低下しやすい。また50μmを超えると細胞選択吸着材とした場合の吸着表面積が小さくなり細胞捕捉性が低下しやすい。
【0037】
本発明に用いる粒子は目的吸着成分によって、無孔質、多孔質、また多孔質においてはその孔径を選択すればよい。平均粒径は、25μm以上2500μm以下のものを利用できるが、その比表面積(吸着材としての吸着能力)と体液の流通性を考慮すると、50μm以上1500μm以下のものが好ましい。
【0038】
図1は、一実施形態に係るリガンド固定化用基材の模式断面図である。リガンド固定化用基材100は、水不溶性担体1と、水不溶性担体1の少なくとも表面に結合した上記一般式(1)で表される共重合体2と、を備える。共重合体2は、結合部分10で水不溶性担体1と結合し、リガンド固定化用基材100の表面にR基20及びR基30を有している。ここでR基20及びR基30は、上記一般式(1)中のR基及びR基と同義である。すなわち、R基20は、
【化13】
を示し、R基30は求電子官能基を示す。なお、結合部分10は、主に共重合体2の主鎖に相当する部分である。
【0039】
本発明の吸着材において、リガンド固定化用基材に固定化されるリガンドは、特定の血液成分に対して選択的アフィニティーを有するアフィニティーリガンドとすることができる。アフィニティーリガンドは、求電子官能基と化学結合するものであれば特に制限されないが、分子量が500Da以下程度の低分子化合物、蛋白質、また優れた吸着能を発現させるのであれば、ターゲット成分に極めて高いアフィニティーを有する抗体やキメラ抗体、抗体が有する重鎖又は軽鎖の可変領域の相補性決定領域を形成しうるアミノ酸配列を有するF(ab’)、Fab、Fab’、及びその他ペプチド又はその修飾ペプチド型のリガンドの使用が好ましい。
【0040】
図2は、一実施形態に係る吸着材の模式断面図である。吸着材110は、リガンド固定化用基材100のR基30と、リガンド40とが化学結合してなるものである。リガンド40としては上述したものを用いることができる。
【0041】
本発明の血液処理器は、内部に血液を導入するための入口と、内部の血液を外部に排出するための出口とを備えた容器の内部に、上記吸着材が充填されたものである。上記吸着材が選択的にターゲット成分を吸着することができるため、例えば、血液から特定の成分を除去する目的に好ましく利用することができる。具体的には、直接血液灌流用の血液成分吸着器や特異的細胞吸着器等が挙げられる。
【0042】
図3は、一実施形態に係る血液処理器の模式断面図である。血液処理器200は、容器50と、容器50の内部に充填された複数の吸着材110とを有する。容器50の両端部には、ヘッダーキャップ60a、60bが設けられている。ヘッダーキャップ60aは内部に血液を導入するための入口(導入口)となり、ヘッダーキャップ60bは血液を外部に排出するための出口(導出口)となる。ヘッダーキャップ60aの導入口より矢印Fの方向から血液処理器200の内部に流入した血液が、吸着材110と接することにより、リガンド40と相互作用する血液中の成分が吸着する。これにより、ヘッダーキャップ60bの導出口から流出した際には血液中から上記成分が除去されている。
【0043】
本発明に係る水不溶性担体の少なくとも表面に上記一般式(1)で表される共重合体が結合してなる基材は、血液から特定成分(リガンドと特異的に結合する成分)を除去するための吸着材又は血液処理器に用いられるリガンドを固定化するために使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により、本発明の構成及び効果を具体的に述べるが、いずれも本発明を限定するものではない。
【0045】
[実施例1]
(A)方法
(1)γ線照射
担体としてポリプロピレンからなる不織布(平均繊維径3.8μm 目付80g/m)0.108mを脱酸素剤とともに酸素低透過性袋に封入し十分に酸素を除いた後、−78℃にて25kGyのγ線を照射した。
(2)グラフト反応
N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン10.8g、及びグリシジルメタクリレート(GMA)26.3mLを500mLのメタノールに溶解し、40℃にて60分間窒素を通気した。
耐圧ガラス容器に上記の不織布をすばやく入れ、減圧後、上記の溶液を引き込み40℃にて1時間反応させた。反応後、取り出した不織布をジメチルホルムアミド及びメタノールにより洗浄し、40℃にて真空乾燥することでリガンド固定化用不織布(リガンド固定化用基材)を得た。
(3)細胞吸着フィルター(吸着材)の作製
上記で得られたリガンド固定化用不織布を直径0.68cmの円形に切断した(以下、「円形不織布状基材」という。)。次に、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び硫酸アンモニウム(26mg)を溶解したカルシウム及びマグネシウムを含まないリン酸緩衝生理食塩液(以下、「PBS(−)」という。)400μLに、得られた円形不織布状基材4枚を37℃にて16時間浸し、該モノクローナル抗体を円形不織布状基材に固定した。その後、このモノクローナル抗体を固定化した円形不織布状基材(以下、「抗体固定化円形不織布」という。)をPBS(−)2mlで洗浄した。次に、0.2%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート/PBS(−)溶液(以下、「Tween20溶液」という。)に該抗体固定化円形不織布を常温で2.5時間浸し、ブロッキングを行った。その後、該抗体固定化円形不織布をPBS(−)2mlで洗浄することで、細胞吸着フィルターを作製した。
(4)細胞吸着フィルターの洗浄
2%ドデシル硫酸ナトリウム/PBS(−)(以下、「SDS溶液」という。)により細胞吸着フィルター4枚を95℃で10分間浸した。これを3回繰り返した後、該細胞吸着フィルターをPBS(−)2mlで洗浄した。
(5)細胞吸着器(血液処理器)の作製
入口と出口を有する容量1mlの容器に、上記で得られた細胞吸着フィルター4枚と充填液としてPBS(−)溶液とを充填し、細胞吸着器を作成した。
(6)細胞吸着器の細胞吸着性
上記で得られた細胞吸着器の入口から、ACD−A添加ヒト新鮮血液8ml(血液:ACD−A=8:1)をシリンジポンプにて流速0.2ml/分で送液した。細胞吸着器の出口から回収される細胞吸着後溶液のうち、前半4mL分をフラクション1(以下、「F1」という。)、後半4mL分をフラクション2(以下、「F2」という。)となるよう分取した。その後、細胞吸着器の出口から細胞吸着後の溶液を回収した。
【0046】
(B)結果
(1)X線光電子分光法(XPS)による表面解析
上記で得られたリガンド固定化用不織布の表面をX線光電子分光法(XPS ESCA)により解析した。XPSより得られる炭素、酸素、窒素の各相対元素濃度をそれぞれC、C、Cとすると、基材表面に存在するCMB相対モル濃度(X)、GMA相対モル濃度(Y)、担体構成ポリマー相対モル濃度(Z)はそれぞれ下記式(5)から(7)で表される。
X=x/(x+y+z) (5)
Y=y/(x+y+z) (6)
Z=z/(x+y+z) (7)
ただし、x=C、y=(C−4x)/3、z={C−(10x+7y)}/Aであって、Aは担体構成ポリマーの単位炭素組成であり、例えば、ポリエチレンの場合A=2、ポリプロピレンの場合A=3である。
上記で得られる相対モル濃度より共重合ポリマー中のCMBのモル組成比Rは次式(8)で表される。
R=m/(n+m)=X/(X+Y) (8)
また、CMBポリマーの単位分子量M、GMAポリマー単位分子量M、担体構成ポリマー単位分子量Mとすると、被覆率S(%)は下記式(9)で表される。
S=100{1−ZM/(XM+YM+ZM)} (9)
これらの計算式に基づき、CMBモル組成比R及び被覆率Sを算出した結果、CMBのモル組成比Rは0.1、被覆率Sは75%であった。
(2)比表面積測定
上記で得られたリガンド固定化用不織布の比表面積は自動比表面積/細孔分布測定装置(SHIMADZU社製 MICRIMERITICS TRISTAR 3000)を用いてBET法による多点法比表面積を測定した。その結果、比表面積は0.60m/gであった。
(3)抗体固定化量の定量
上記で得られた細胞吸着フィルターにおける抗ヒトCD4モノクローナル抗体の固定化量はBCAタンパク質定量試薬(PIERCE社製 Micro BCA(登録商標) Protein Assay Reagent Kit 23235)を用い、マイクロプレート分光光度計(Molecular Devices社製 SPECTRA MAX340PC、解析ソフトSOFT max PRO)によって吸光度測定を行い、定量した。その結果、洗浄前の細胞吸着フィルター(4枚)には10.0mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには8.0mgの抗体が固定化されていた。
(4)CD4陽性細胞及び血小板の吸着率
フローサイトメーター(BECTON DICKINSON社製 FACSCALIBUR)を用いたフローサイトメトリー法によって、細胞吸着前のACD−A添加ヒト新鮮血液及び細胞吸着後の溶液(F1及びF2)中のCD4陽性細胞数を測定し、細胞吸着器への細胞の吸着率を計算した。その結果、CD4陽性細胞の吸着率は93.2%(F1)及び60.1%(F2)であった。また血小板の吸着率は35.6%(8mL平均)であった。
【0047】
[実施例2]
実施例1と同様の方法でN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン21.5g、及びグリシジルメタクリレート26.3mLを500mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用不織布を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.26、被覆率Sは54%であった。また比表面積を測定したところ0.50m/gであった。該不織布から細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには11.6mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには8.4mgの抗体が固定化されていた。該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は99.7%(F1)及び89.0%(F2)であった。また血小板の吸着率は21.4%(8mL平均)であった。
【0048】
[実施例3]
実施例1と同様の方法でN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン43.1g、及びグリシジルメタクリレート26.3mLを500mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用不織布を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.32、被覆率Sは54%であった。また比表面積を測定したところ0.51m/gであった。該不織布から細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには9.6mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには8.8mgの抗体が固定化されていた。該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は95.1%(F1)及び86.0%(F2)であった。また血小板の吸着率は12.4%(8mL平均)であった。
【0049】
[実施例4]
実施例1と同様の方法でN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン68.9g、及びグリシジルメタクリレート21.1mLを400mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用不織布を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.45、被覆率Sは55%であった。また比表面積を測定したところ0.37m/gであった。該不織布から細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには9.2mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには7.8mgの抗体が固定化されていた。該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は92.5%(F1)及び52.4%(F2)であった。また血小板の吸着率は4.6%(8mL平均)であった。
【0050】
[実施例5]
ポリエチレンからなる平均粒径320μmの粒子を脱酸素剤とともに酸素低透過性袋に封入し十分に酸素を除いた後、−78℃にて25kGyのγ線を照射した。
実施例1と同様の方法でN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン21.5g、及びグリシジルメタクリレート26.3mLを500mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用粒子(リガンド固定化用基材)を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.25、被覆率Sは44%であった。また比表面積を測定したところ、0.027m/gであった。該リガンド固定化用粒子360μLから細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには15.2mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには10.1mgの抗体が固定化されていた。また該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は84.8%(F1)及び73.5%(F2)であった。また血小板の吸着率は2.0%(8mL平均)であった。
【0051】
[実施例6]
実施例1と同様の方法でN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン10.8g、及びグリシジルメタクリレート13.2mLを500mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用不織布を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.27、被覆率Sは27%であった。また比表面積を測定したところ0.56m/gであった。該不織布から細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには11.0mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには8.2mgの抗体が固定化されていた。該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は99.3%(F1)及び87.1%(F2)であった。また血小板の吸着率は21.0%(8mL平均)であった。
【0052】
[比較例1]
実施例1と同様の方法でグリシジルメタクリレート26.3mLを500mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用不織布を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0、被覆率Sは64%であった。また比表面積を測定したところ0.51m/gであった。該不織布から細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには10.6mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには7.5mgの抗体が固定化されていた。該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は91.9%(F1)及び34.4%(F2)であった。また血小板の吸着率は81.2%(8mL平均)であった。
【0053】
[比較例2]
実施例1と同様の方法でN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン103.3g、及びグリシジルメタクリレート15.8mLを350mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用不織布を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.56、被覆率Sは56%であった。また比表面積を測定したところ0.36m/gであった。該不織布から細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには0.5mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには0.1mgの抗体が固定化されていた。該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は23.2%(F1)及び0.2%(F2)であった。また血小板の吸着率は5.9%(8mL平均)であった。
【0054】
以上の結果を表1及び表2にまとめた。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【符号の説明】
【0057】
1…水不溶性担体、2…共重合体、10…結合部分、20…R基、30…R基(求電子官能基)、40…リガンド、50…容器、60a、60b…ヘッダーキャップ、F…血液の流れ方向、100…リガンド固定化用基材、110…吸着材、200…血液処理器。
図1
図2
図3