【実施例】
【0044】
以下、実施例により、本発明の構成及び効果を具体的に述べるが、いずれも本発明を限定するものではない。
【0045】
[実施例1]
(A)方法
(1)γ線照射
担体としてポリプロピレンからなる不織布(平均繊維径3.8μm 目付80g/m
2)0.108m
2を脱酸素剤とともに酸素低透過性袋に封入し十分に酸素を除いた後、−78℃にて25kGyのγ線を照射した。
(2)グラフト反応
N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン10.8g、及びグリシジルメタクリレート(GMA)26.3mLを500mLのメタノールに溶解し、40℃にて60分間窒素を通気した。
耐圧ガラス容器に上記の不織布をすばやく入れ、減圧後、上記の溶液を引き込み40℃にて1時間反応させた。反応後、取り出した不織布をジメチルホルムアミド及びメタノールにより洗浄し、40℃にて真空乾燥することでリガンド固定化用不織布(リガンド固定化用基材)を得た。
(3)細胞吸着フィルター(吸着材)の作製
上記で得られたリガンド固定化用不織布を直径0.68cmの円形に切断した(以下、「円形不織布状基材」という。)。次に、抗ヒトCD4モノクローナル抗体(16μg)及び硫酸アンモニウム(26mg)を溶解したカルシウム及びマグネシウムを含まないリン酸緩衝生理食塩液(以下、「PBS(−)」という。)400μLに、得られた円形不織布状基材4枚を37℃にて16時間浸し、該モノクローナル抗体を円形不織布状基材に固定した。その後、このモノクローナル抗体を固定化した円形不織布状基材(以下、「抗体固定化円形不織布」という。)をPBS(−)2mlで洗浄した。次に、0.2%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート/PBS(−)溶液(以下、「Tween20溶液」という。)に該抗体固定化円形不織布を常温で2.5時間浸し、ブロッキングを行った。その後、該抗体固定化円形不織布をPBS(−)2mlで洗浄することで、細胞吸着フィルターを作製した。
(4)細胞吸着フィルターの洗浄
2%ドデシル硫酸ナトリウム/PBS(−)(以下、「SDS溶液」という。)により細胞吸着フィルター4枚を95℃で10分間浸した。これを3回繰り返した後、該細胞吸着フィルターをPBS(−)2mlで洗浄した。
(5)細胞吸着器(血液処理器)の作製
入口と出口を有する容量1mlの容器に、上記で得られた細胞吸着フィルター4枚と充填液としてPBS(−)溶液とを充填し、細胞吸着器を作成した。
(6)細胞吸着器の細胞吸着性
上記で得られた細胞吸着器の入口から、ACD−A添加ヒト新鮮血液8ml(血液:ACD−A=8:1)をシリンジポンプにて流速0.2ml/分で送液した。細胞吸着器の出口から回収される細胞吸着後溶液のうち、前半4mL分をフラクション1(以下、「F1」という。)、後半4mL分をフラクション2(以下、「F2」という。)となるよう分取した。その後、細胞吸着器の出口から細胞吸着後の溶液を回収した。
【0046】
(B)結果
(1)X線光電子分光法(XPS)による表面解析
上記で得られたリガンド固定化用不織布の表面をX線光電子分光法(XPS ESCA)により解析した。XPSより得られる炭素、酸素、窒素の各相対元素濃度をそれぞれC
1、C
2、C
3とすると、基材表面に存在するCMB相対モル濃度(X)、GMA相対モル濃度(Y)、担体構成ポリマー相対モル濃度(Z)はそれぞれ下記式(5)から(7)で表される。
X=x/(x+y+z) (5)
Y=y/(x+y+z) (6)
Z=z/(x+y+z) (7)
ただし、x=C
3、y=(C
2−4x)/3、z={C
1−(10x+7y)}/Aであって、Aは担体構成ポリマーの単位炭素組成であり、例えば、ポリエチレンの場合A=2、ポリプロピレンの場合A=3である。
上記で得られる相対モル濃度より共重合ポリマー中のCMBのモル組成比Rは次式(8)で表される。
R=m/(n+m)=X/(X+Y) (8)
また、CMBポリマーの単位分子量M
X、GMAポリマー単位分子量M
Y、担体構成ポリマー単位分子量M
Zとすると、被覆率S(%)は下記式(9)で表される。
S=100{1−ZM
Z/(XM
X+YM
Y+ZM
Z)} (9)
これらの計算式に基づき、CMBモル組成比R及び被覆率Sを算出した結果、CMBのモル組成比Rは0.1、被覆率Sは75%であった。
(2)比表面積測定
上記で得られたリガンド固定化用不織布の比表面積は自動比表面積/細孔分布測定装置(SHIMADZU社製 MICRIMERITICS TRISTAR 3000)を用いてBET法による多点法比表面積を測定した。その結果、比表面積は0.60m
2/gであった。
(3)抗体固定化量の定量
上記で得られた細胞吸着フィルターにおける抗ヒトCD4モノクローナル抗体の固定化量はBCAタンパク質定量試薬(PIERCE社製 Micro BCA(登録商標) Protein Assay Reagent Kit 23235)を用い、マイクロプレート分光光度計(Molecular Devices社製 SPECTRA MAX340PC、解析ソフトSOFT max PRO)によって吸光度測定を行い、定量した。その結果、洗浄前の細胞吸着フィルター(4枚)には10.0mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには8.0mgの抗体が固定化されていた。
(4)CD4陽性細胞及び血小板の吸着率
フローサイトメーター(BECTON DICKINSON社製 FACSCALIBUR)を用いたフローサイトメトリー法によって、細胞吸着前のACD−A添加ヒト新鮮血液及び細胞吸着後の溶液(F1及びF2)中のCD4陽性細胞数を測定し、細胞吸着器への細胞の吸着率を計算した。その結果、CD4陽性細胞の吸着率は93.2%(F1)及び60.1%(F2)であった。また血小板の吸着率は35.6%(8mL平均)であった。
【0047】
[実施例2]
実施例1と同様の方法でN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン21.5g、及びグリシジルメタクリレート26.3mLを500mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用不織布を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.26、被覆率Sは54%であった。また比表面積を測定したところ0.50m
2/gであった。該不織布から細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには11.6mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには8.4mgの抗体が固定化されていた。該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は99.7%(F1)及び89.0%(F2)であった。また血小板の吸着率は21.4%(8mL平均)であった。
【0048】
[実施例3]
実施例1と同様の方法でN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン43.1g、及びグリシジルメタクリレート26.3mLを500mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用不織布を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.32、被覆率Sは54%であった。また比表面積を測定したところ0.51m
2/gであった。該不織布から細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには9.6mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには8.8mgの抗体が固定化されていた。該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は95.1%(F1)及び86.0%(F2)であった。また血小板の吸着率は12.4%(8mL平均)であった。
【0049】
[実施例4]
実施例1と同様の方法でN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン68.9g、及びグリシジルメタクリレート21.1mLを400mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用不織布を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.45、被覆率Sは55%であった。また比表面積を測定したところ0.37m
2/gであった。該不織布から細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには9.2mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには7.8mgの抗体が固定化されていた。該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は92.5%(F1)及び52.4%(F2)であった。また血小板の吸着率は4.6%(8mL平均)であった。
【0050】
[実施例5]
ポリエチレンからなる平均粒径320μmの粒子を脱酸素剤とともに酸素低透過性袋に封入し十分に酸素を除いた後、−78℃にて25kGyのγ線を照射した。
実施例1と同様の方法でN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン21.5g、及びグリシジルメタクリレート26.3mLを500mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用粒子(リガンド固定化用基材)を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.25、被覆率Sは44%であった。また比表面積を測定したところ、0.027m
2/gであった。該リガンド固定化用粒子360μLから細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには15.2mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには10.1mgの抗体が固定化されていた。また該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は84.8%(F1)及び73.5%(F2)であった。また血小板の吸着率は2.0%(8mL平均)であった。
【0051】
[実施例6]
実施例1と同様の方法でN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン10.8g、及びグリシジルメタクリレート13.2mLを500mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用不織布を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.27、被覆率Sは27%であった。また比表面積を測定したところ0.56m
2/gであった。該不織布から細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには11.0mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには8.2mgの抗体が固定化されていた。該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は99.3%(F1)及び87.1%(F2)であった。また血小板の吸着率は21.0%(8mL平均)であった。
【0052】
[比較例1]
実施例1と同様の方法でグリシジルメタクリレート26.3mLを500mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用不織布を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0、被覆率Sは64%であった。また比表面積を測定したところ0.51m
2/gであった。該不織布から細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには10.6mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには7.5mgの抗体が固定化されていた。該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は91.9%(F1)及び34.4%(F2)であった。また血小板の吸着率は81.2%(8mL平均)であった。
【0053】
[比較例2]
実施例1と同様の方法でN−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン103.3g、及びグリシジルメタクリレート15.8mLを350mLのメタノールに溶解したものを反応液としグラフト反応を行い、リガンド固定化用不織布を得た。XPSによる表面解析の結果、CMBのモル組成比Rは0.56、被覆率Sは56%であった。また比表面積を測定したところ0.36m
2/gであった。該不織布から細胞吸着フィルターを作成し、その抗体固定化量を測定した結果、洗浄前の細胞吸着フィルターには0.5mg、SDS洗浄後の細胞吸着フィルターには0.1mgの抗体が固定化されていた。該細胞吸着フィルターから細胞吸着器を作成し、細胞の吸着率を測定した結果、CD4陽性細胞の吸着率は23.2%(F1)及び0.2%(F2)であった。また血小板の吸着率は5.9%(8mL平均)であった。
【0054】
以上の結果を表1及び表2にまとめた。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】