(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記少なくとも一つの短軸断面における二次元的なパターンマッチングにより、前記少なくとも一つの短軸断面における心壁の壁運動情報を得る運動情報演算手段を更に備え、
前記画像生成手段は前記少なくとも一つの短軸断面において前記壁運動情報をマッピングした画像を前記第1の超音波画像として生成すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の超音波診断装置又は超音波画像処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第1実施形態乃至第3実施形態を図面に従って説明する。以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1の構成図である。本超音波診断装置10は、超音波プローブ11、送信ユニット13、受信ユニット15、Bモード処理ユニット17、移動ベクトル処理ユニット19、画像生成ユニット21、表示ユニット23、制御ユニット(CPU)31、追跡処理ユニット33、ボリュームデータ生成ユニット35、運動情報演算ユニット37、記憶ユニット39、操作ユニット41、送受信ユニット43を具備している。なお、本発明を超音波画像処理装置に適用する場合には、
図1の点線内がその構成要素となる。
【0017】
超音波プローブ11は、送信ユニット12からの駆動信号に基づき超音波を発生し、被検体からの反射波を電気信号に変換する複数の圧電振動子、当該圧電振動子に設けられる整合層、当該圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有している。当該超音波プローブ11から被検体に超音波が送信されると、生体組織の非線形性により、超音波の伝播に伴って種々のハーモニック成分が発生する。送信超音波を構成する基本波とハーモニック成分は、体内組織の音響インピーダンスの境界、微小散乱等により後方散乱され、反射波(エコー)として超音波プローブ11に受信される。
【0018】
送信ユニット13は、図示しない遅延回路およびパルサ回路等を有している。パルサ回路では、所定のレート周波数fr Hz(周期;1/fr秒)で、送信超音波を形成するためのレートパルスが繰り返し発生される。また、遅延回路では、チャンネル毎に超音波をビーム状に集束し且つ送信指向性を決定するのに必要な遅延時間が、各レートパルスに与えられる。送信ユニット12は、このレートパルスに基づくタイミングで、所定のスキャンラインに向けて超音波ビームが形成されるように振動子毎に駆動パルスを印加する。
【0019】
受信ユニット15は、図示していないアンプ回路、A/D変換器、加算器等を有している。アンプ回路では、プローブ11を介して取り込まれたエコー信号をチャンネル毎に増幅する。A/D変換器では、増幅されたエコー信号に対し受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与え、その後加算器において加算処理を行う。この加算により、所定のスキャンラインに対応した超音波エコー信号を生成する。
【0020】
Bモード処理ユニット17は、受信ユニット15から受け取った超音波エコー信号に対して包絡線検波処理を施すことにより、超音波エコーの振幅強度に対応したBモード信号を生成する。
【0021】
移動ベクトル処理ユニット19は、時相の異なる二つのフレーム間でパターンマッチング処理を用いて組織位置を検出し、この移動位置に基づいて各組織の移動量(又は速度)を求める。具体的には、一方のフレーム上の関心領域について、最も類似性の高い他方のフレーム上の対応領域を求める。この関心領域と対応領域との間の距離を求めることで、組織の移動量を求めることができる。また、この移動量をフレーム間の時間差で除することにより、組織の移動速度を求めることができる。この処理をフレーム上の各位置でフレームバイフレームにて行うことにより、各組織の変位(移動ベクトル)又は組織の変位に関する時空間分布データを取得することができる。
【0022】
画像生成ユニット21は、Bモード信号の所定断層に係る次元分布を表したBモード超音波像を生成する。また、画像生成ユニット21は、Bモード超音波像、組織の運動情報に関する画像、Bモード超音波像と組織の運動情報に関する画像との重畳画像等を生成する。ここで、組織の運動情報とは、組織の歪み、歪み率、移動距離、速度その他の組織の運動に関して取得可能な物理情報である。以下、このような組織の運動情報を含む画像の総称を「運動情報画像」と呼ぶ。
【0023】
表示部23は、画像生成ユニット21からのビデオ信号に基づいて、生体内の形態学的情報や運動情報等を画像として所定の形態で表示する。また、表示部23は、複数の画像を表示する場合に、画像間の位置の対応付けを支援するためのマーカを表示する。
【0024】
制御ユニット(CPU)31は、情報処理装置(計算機)としての機能を持ち、本超音波診断装置本体の動作を静的又は動的に制御する。特に、制御ユニット31は、記憶ユニット39に記憶された専用プログラムを図示していないメモリに展開することで、後述する任意断面追跡機能を実現する。
【0025】
追跡処理ユニット33は、所定の時相におけるボリュームデータに設定された任意の断面の動きを経時的に追跡する任意断面追跡処理を実行する。
【0026】
ボリュームデータ生成ユニット35は、Bモード処理ユニット17から受け取ったフレーム毎のBモードデータ、移動ベクトル処理ユニット19から受け取った時相毎の組織変位の空間分布データ等を用いて空間的な補間処理を実行し、周期的に運動する診断対象に関するボリュームデータを、当該周期的運動に関する各時相について生成する。なお、本実施形態においては、ボリュームデータ生成ユニット35は、画像生成ユニット21より前段のデータ(いわゆる生データ)を用いてボリュームデータを生成するものとする。しかしながら、これに拘泥されず、当該ボリュームデータ生成ユニット35において画像生成ユニット21より後段のデータ(いわゆる画像データ)を用いてボリュームデータを生成し、後述する断面追跡機能を実現するようにしてもよい。
【0027】
運動情報演算ユニット37は、ボリュームデータ生成ユニット35において生成された時相毎の組織変位に関するボリュームデータと、断面追跡ユニット33によって取得された時相毎の追跡対象面とを用いて、各追跡対象面に関する運動情報を演算する。
【0028】
記憶ユニット39は、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記録媒体、及びこれらの媒体に記録された情報を読み出す装置である。この記憶ユニット37には、送受信条件、所定のスキャンシーケンス、各時相に対応する生データや超音波画像データ(例えば、組織ドプラモード、Bモード等によって撮影された組織画像データ)、ボリュームデータ生成ユニット35において生成された時相毎のボリュームデータ、運動情報演算ユニット37において生成された運動情報、断面追跡機能を実現するための専用プログラム画像生成、表示処理を実行するための制御プログラム、診断情報(患者ID、医師の所見等)、診断プロトコル、ボディマーク生成プログラム等を記憶する。
【0029】
操作ユニット41は、装置本体に接続され、オペレータからの各種指示、関心領域(ROI)の設定指示、種々の画質条件設定指示、任意断面追跡処理における初期時相の指定、当該初期時相における任意断面の設定等を装置本体にとりこむためのマウスやトラックボール、モード切替スイッチ、キーボード等を有している。
【0030】
送受信ユニット43は、ネットワークを介して他の装置と情報の送受信を行う装置である。本超音波診断装置1において得られた超音波画像等のデータや解析結果等は、送受信ユニット43よって、ネットワークを介して他の装置に転送可能である。
【0031】
(任意断面追跡機能)
次に、本超音波診断装置1が有する任意断面追跡機能について説明する。この機能は、超音波イメージングにより、周期的運動を行う診断対象に設定された任意断面の空間的な変動を経時的に追跡することで、当該診断対象に関する画像診断を支援するものである。なお、本実施形態では、説明を具体的にするため、周期的運動をする診断対象が心臓である場合について説明する。
【0032】
図2は、第1の実施形態に係る任意断面追跡機能に従う処理(任意断面追跡処理)の流れを示したフローチャートである。以下、各ステップにおける処理の内容について説明する。
【0033】
[ステップS1:ボリュームデータの取得]
まず、診断対象である心臓について、期間Tに亘るボリュームスキャンを実行し、
図3に示すように、Bモード信号のボリュームデータ及び組織変位に関するボリュームデータを、t0、t1、・・・、tnの各心時相毎に取得する(ステップS1)。
【0034】
なお、期間Tは、診断対象の運動の一周期以上(今の場合、一心周期以上)の期間であるとする。また、ボリュームスキャンの方法には、特に拘泥されない。例えば、一次元アレイブローブ、二次元アレイプローブのいずれを用いてボリュームスキャンを行ってもよく、また、ECGと同期させて収集した小領域に関するサブボリュームデータを、対応付けたトリガに基づいてつなぎ合わせることで所望の範囲に関するボリュームデータを生成すると共に、時間情報に従ってサブボリュームを逐次更新する三次元トリガスキャンを用いるようにしてもよい。
【0035】
[ステップS2:任意断面の設定]
次に、いずれか所定の時相に関するボリュームデータに対して、任意断面を設定する(ステップS2)。本実施形態では、期間Tの初期時相t0において、Basal/Mid/Apicalの三断面(以下簡単のため、それぞれB面、M面、A面と呼ぶ。)が設定される。
【0036】
なお、この初期時相のボリュームデータに対する任意断面の設定は、装置によって自動的に実行してもよいし、操作者の操作ユニット41からの入力に従ってマニュアル的に実行してもよい。また、医学的見地から、初期時相は拡張末期時相又は収縮末期時相であることが好ましい。
【0037】
[ステップS3:任意断面追跡処理]
次に、追跡処理ユニット33は、ステップS2において断面が設定されなかった残りの時相(すなわち、期間T内の初期時相t0以外の各時相)のボリュームデータにおいて、初期時相t0において設定された各任意断面に対応する領域をスペックルトラッキング(パターンマッチング手法を用いた追跡)することで、各任意断面の追跡を実行する(ステップS3)。
【0038】
この任意断面追跡の具体的な手法について、以下実施例に従って
図4を参照しながら説明する。
【0039】
[実施例1]
本実施例に係る追跡法は、各断面に存在する組織の各位置における移動ベクトルを法線方向に射影して平均することで移動成分Vを求め、これを用いて各時相における任意断面を追跡するものである。
【0040】
図4は、ステップS3における任意断面追跡処理の流れを示したフローチャートである。同図に示すように、まず、初期時相のボリュームデータに対して設定されたB面、M面、A面のそれぞれにおける各心筋(すなわち、各面に含まれる組織の各位置)の移動ベクトルの法線方向成分(法線方向の射影成分)のみを平均し、初期時相t0における移動成分V=Vz,meant(t0)を算出する(ステップS31)。
【0041】
次に、初期時相において設定されたB面、M面、A面のそれぞれをその法線方向に沿って移動成分V=Vz,meant(t0)だけ平行移動させ、移動後のB面、M面、A面のそれぞれに含まれる心臓領域を、時相t1における任意断面として設定する(ステップS32)。
【0042】
次に、時相t1におけるB面、M面、A面のそれぞれにおける各心筋の移動ベクトルの法線方向成分のみを平均し、時相ti(ただし、iは2≦i≦nを示す整数)における移動成分V=Vz,meant(ti)を算出する(ステップS33)。
【0043】
次に、時相tiにおいてB面、M面、A面のそれぞれをその法線方向に沿って移動成分V=Vz,meant(ti)だけ平行移動させ、時相tiにおけるB面、M面、A面を設定する(ステップS34)。
【0044】
以下、時系列に上記ステップ33、34の処理を時相tnまで逐次繰り返すことで、各時相におけるB面、M面、A面を追跡することができる。
【0045】
以上述べた本実施例1の手法によって追跡されるB面、M面、A面は、各面上の各位置(各心筋)の法線方向成分のみを平均して算出した移動成分Vを用いてその移動後の位置を検出している。従って、
図5に示すように、各時相におけるB面、M面、A面は、それぞれ初期時相において設定したB面、M面、A面と平行なものとなる。
【0046】
[実施例2]
本実施例に係る追跡法は、設定された任意断面内に存在する組織の各位置における移動ベクトルを(法線方向に射影せずに)平均することで移動成分Vを求め、これを用いて各時相における任意断面を追跡するものである。
【0047】
すなわち、
図4において、まず、初期時相のボリュームデータに対して設定されたB面、M面、A面のそれぞれにおける各心筋(すなわち、各面に含まれる組織上の各位置)の移動ベクトルを平均し、初期時相t0における移動成分V=Vmeant(t0)を算出する(ステップS31)。
【0048】
次に、初期時相において設定されたB面、M面、A面のそれぞれを移動成分V=Vmeant(t0)だけ平行移動させ、時相t1におけるB面、M面、A面を設定する(ステップS32)。
【0049】
次に、時相t1におけるB面、M面、A面のそれぞれにおける各心筋の移動ベクトルを平均し、時相ti(ただし、iは2≦i≦nを示す整数)における移動成分V=Vmeant(ti)を算出する(ステップS33)。
【0050】
次に、時相tiにおいてB面、M面、A面のそれぞれをその法線方向に沿って移動成分V=Vmeant(ti)だけ平行移動させ、時相tiにおけるB面、M面、A面を設定する(ステップS34)。
【0051】
以下、時系列に上記ステップ33、34の処理を時相tnまで逐次繰り返すことで、各時相における任意断面を追跡することができる。
【0052】
以上述べた本実施例2の手法によって追跡されるB面、M面、A面は、各面上の各位置(各心筋)の移動ベクトルを平均して算出した移動成分Vを用いてその移動後の位置を検出している。従って、
図6に示すように、各時相におけるB面、M面、A面は、それぞれ初期時相において設定したB面、M面、A面と常に平行であるとは限らない。
【0053】
[実施例3]
本実施例に係る追跡法は、設定された任意断面内に存在する組織の各位置をその位置毎の移動ベクトルを用いて次時相における任意断面上の各位置を検出し、これを時系列に逐次繰り返すことで、各時相における任意断面を追跡するものである。
【0054】
すなわち、
図4において、まず、初期時相t0のボリュームデータに対して設定されたB面、M面、A面のそれぞれにおける各位置pj(x,y,z)(ただし、jは1≦j≦mを満たす整数。mは各面上に存在する心筋組織の位置の数)に関する移動ベクトルV=V(j,t0)を算出する(ステップS31)。
【0055】
次に、初期時相でのB面、M面、A面の各面上の各位置をその移動ベクトルV=V(j,t0)だけ移動させた位置を検出し、これらによって構成される各面を次の時相t1におけるB面、M面、A面とする(ステップS32)。
【0056】
次に、時相t1におけるB面、M面、A面の各面上の各位置をその移動ベクトルV=V(j,t1)を算出する(ステップS33)。
【0057】
次に、時相t1においてB面、M面、A面におけるB面、M面、A面の各面上の各位置を位置毎の移動ベクトルV=V(j,t1)だけ移動させた位置を検出し、これらによって構成される各面を次の時相ti(ただし、iは2≦i≦nを示す整数)におけるB面、M面、A面とする(ステップS34)。
【0058】
以下、時系列に上記ステップ33、34の処理を時相tnまで逐次繰り返すことで、各時相における任意断面を追跡することができる。
【0059】
本実施例3の手法によって追跡されるB面、M面、A面は、各面上の各位置(各心筋)の移動ベクトルを用いて次時相においてB面、M面、A面の各面を構成する各位置を検出し、これを時系列に逐次繰り返すことで、各時相における任意断面を追跡するものである。従って、
図7に示すように、各時相におけるB面、M面、A面は、それぞれ初期時相以後の各時相において三次元座標系における任意曲面になる。
【0060】
なお、実施例3、実施例2、実施例1の順番で、より局所的な追跡位置に対応した精度の高い運動情報の配置が可能となる。
【0061】
[ステップS4:Cモード画像生成]
次に、画像生成ユニット21は、各時相における任意断面に属するデータ(任意断面データ)を投影面に投影し、超音波画像(Cモード画像)を生成する(ステップS4)。各々の追跡方法における任意断面データの投影の仕方としては、上記実施例1又は実施例2に係る追跡方法を用いた場合には、追跡された任意断面(いずれの方法も平面)と投影面とを等しくしておくのが好適である。
【0062】
一方、実施例3に係る手法の場合には、追跡された任意断面は必ずしも平面にならない。従って、
図8に示すように、追跡された任意断面内の心筋の微少な各局所位置(追跡処理において追跡した各位置pj(x,y,z))に関する回帰平面を求め、この回帰平面を投影面として超音波画像(Cモード像)を再構成するのが好適である。或いは、回帰平面上の各位置でのデータそのものを用いて、当該回帰平面に関するCモード像を生成するようにしてもよい。
【0063】
[ステップS5:運動情報の演算]
次に、運動情報演算ユニット21は、各時相の任意断面に関する運動情報を演算する(ステップS5)。運動情報の演算手法には拘泥されない。本実施形態では、例えば特開平2003−175041号に説明されている組織歪みイメージング法を用いるものとする。
【0064】
なお、組織歪みイメージング法では、複数の時相に関する速度分布画像が必要とされる。この速度分布画像は、Bモード等によって収集された複数の時相に関する複数の2次元又は三次元組織画像に対してパターンマッチング処理を施すことで得ることができる。
【0065】
[ステップS6:画像表示]
次に、任意断面追跡処理によって追跡された任意断面に関する運動情報画像を表示する(ステップS6)。すなわち、画像生成ユニット21は、ステップS5において生成された任意断面内の各位置での運動情報を、ステップS4での投影面に投影することで運動情報画像を生成する。また、投影面を回帰平面とする場合には、回帰平面上の各位置で運動情報を求めて、ステップS4において生成されたCモード像上へ重畳させることで、運動情報画像を生成する。表示ユニット23は、生成された運動情報画像を、時相順に従って連続的に表示(追跡表示)する。
【0066】
なお、運動情報画像を表示する場合、運動情報画像と同時に、当該運動情報画像と直交する断層像(今の場合、長軸像)を表示しておき、当該長軸像に運動情報画像に対応する位置をマーカ表示することも可能である。
【0067】
図9は、長軸像上における運動情報画像に対応する位置のマーカ表示の一例を示した図である。同図において、4C像、2C像の各長軸像上の破線はB面、M面、A面のそれぞれに対応する運動情報画像の位置のマーカ表示を示している。また、B面、M面、A面の各運動情報画像(短軸像)上の破線は、4C像、2C像のそれぞれに対応する位置のマーカ表示を示している。
【0068】
この様なマーカ表示により、動的に追随するB面、M面、A面の位置の把握が可能となると共に、心筋虚血等により長軸方向への伸縮が局所的に低下している部位の把握も可能となる。この様子は、例えば
図9の左側の長軸像において、B面、M面、A面に対応する3つの短軸像の位置が平行であれば、左右の心壁においてBasal/Mid/Apicalの全領域が均等に移動していることを表すのに対し、同図の様に、M面に対応する短軸像だけ他の断面に対して左下に斜めになっているような場合は、右側心筋のBasal部位よりも、相対的に左側心筋のBasal部位の方が、局所的にshorteningが小さいことを表すこととして理解されよう。
【0069】
また、追跡された任意断面に関する運動情報を、三次元的なサーフェスレンダリング表示することもできる。
【0070】
図10は、追跡された任意断面に関する運動情報を、三次元的なサーフェスレンダリング表示した場合の一例を示した図である。同図では、形状が心筋の横断面が位置を変えながら変形していく様子を示しており、カラーマップに従って、壁運動パラメータ(例えばradial-strain:壁厚変化率)の程度を異なる色彩が割り付けられている。
【0071】
(効果)
以上述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
【0072】
本超音波診断装置によれば、各時相における移動ベクトルを算出し、当該移動ベクトルを用いて次時相における任意断面を検出し、これを逐次繰り返すことで、任意断面の空間的な変動を追跡している。追跡によって得られた各時相における任意断面上のデータを用いて、Cモード像、運動情報画像を生成し、これを例えば時系列で連続的に表示することができる。この様な表示により、心筋の断面が心時相に応じて経時的にどのように変形していく様子を直感的かつ定量的に把握することが可能となる。その結果、動きのある心筋の同一部位に関する三次元運動情報を正確且つ迅速に取得することができる。
【0073】
また、例えばshorteningがある場合であっても、常に同一の局所セグメントにおける心筋の壁厚変化を一例とした運動情報が観察可能となる。さらに、ASEが推奨する、臨床的に左心室全体を解析するのに必要な3領域に対応した3つのCモード像のみを用いているため、従来の装置を用いた観察に比して同時把握がし易くなる。
【0074】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、短軸像に対応するB面、M面、A面に含まれる心臓領域を追跡する場合について説明した。これに対し、本実施形態に係る任意断面追跡処理は、臨床的に意義の高い長軸像に対応する心尖四腔断面(4C断面)、心尖三腔断面(3C断面)、心尖二腔断面(2C断面)を用いて行うものである。本実施形態に係る手法は、単独で、或いは第1の実施形態で述べた手法と組み合わせて実施することができる。
【0075】
なお、以下においては、説明を具体的にするため、長軸像に対応する任意断面を4C断面及び2C断面とした場合を例とする。しかしながら、これに拘泥する趣旨ではなく、4C断面、3C断面、2C断面のうちのいずれの組み合わせを用いてもよく、また、3断面全て、或いはいずれか一断面のみを用いるようにしてもよい。
【0076】
図11は、第2の実施形態に係る任意断面追跡処理の流れを示したフローチャートである。以下、各ステップにおける処理の内容について説明する。
【0077】
同図に示すように、第1の実施形態の場合と同様に、診断対象である心臓について、期間Tに亘るボリュームスキャンにより、t0、t1、・・・、tnの各心時相に関するボリュームデータが取得され(ステップS31)、初期時相に関するボリュームデータに対して、4C断面、2C断面を任意断面として設定する(ステップS32)。
【0078】
次に、追跡処理ユニット33は、ステップS2において断面が設定されなかった残りの時相(すなわち、期間T内の初期時相t0以外の各時相)のボリュームデータにおいて、初期時相t0において設定された4C断面、2C断面に対応する領域をスペックルトラッキングすることで、任意断面追跡を実行する(ステップS33)。当然ながら、この任意断面の追跡方法については、実施形態において述べた手法を用いることができる。
【0079】
次に、画像生成ユニット21は、追跡された各時相における4C断面、2C断面を投影し4C像及び2C像を生成する(ステップS34)。また、運動情報演算ユニット37は、追跡された各時相における4C断面、2C断面上で定義される任意の運動情報を演算する。演算された運動情報は、4C像及び2C像に重畳させて運動情報画像として表示ユニット23に表示される(ステップS35、S36)。
【0080】
このとき、運動情報画像は、例えば第1の実施形態と同様に、複数の短軸像と同時に、且つ各短軸像において長軸像に対応する位置をマーカ表示することで、長軸像の断面位置や、追跡位置の把握を支援する。このようなマーカ表示について、実施例3において述べて追跡方法によって得られる回帰平面に投影した場合の好適な表示例(運動情報画像の心時相は収縮末期の例)を
図12に示した。各短軸像に表示した、二つの破線のマーカが各々拡張末期時相での4C像と2C像の位置に対応し、実線が各々の収縮末期時相での各長軸像のマーカを示す。このような表示により、例えばApicalレベルでの短軸像中の長軸像マーカが左向きに回転し、Basalレベルでの短軸像中の長軸像マーカがApicalレベルと逆方向である右向きに回転していれば、心筋壁の捻れ運動の様子や程度が把握可能となる。
【0081】
また、上記表示例では追跡後の長軸像についても二元的な断面図として投影させたが、形状変化の様子を把握し易くするために、これを
図13に一例を示したように、三次元的にサーフェスレンダリング表示しても良い。本図の例では、追跡開始を拡張末期とし、拡張末期での長軸像位置を破線でガイド表示するとともに、収縮末期での追跡後の長軸像位置を実線で示している。この様な表示形態を採用すれば、捻れ運動があるような場合には把握が容易となる。
【0082】
以上述べた構成によっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。一般に、健康な左心室では、雑巾を絞るように心筋壁が捻れ運動をすることで血液を全身に駆出していることが知られている。上述の長軸像を見ることで、このような捻れ運動があっても常に同一の局所セグメントにおける心筋の長軸方向における心筋収縮率の変化を一例とした運動情報が観察可能となる。
【0083】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。第1及び第2の実施形態では任意断面を追跡するために三次元的な移動ベクトルを求め、これを用いて三元的トラッキングを行った。これに対し、本実施形態では、三次元的トラッキングよりも演算が高速な二次元的トラッキングの手法を用いて、同様な効果を簡易に得ることができる例について説明する。
【0084】
図14は、第3の実施形態に係る任意断面追跡処理の流れを示したフローチャートである。以下、各ステップにおける処理の内容について説明する。
【0085】
同図に示すように、まず、診断対象である心臓について、期間Tに亘るボリュームスキャンにより、t0、t1、・・・、tnの各心時相に関するボリュームデータが取得され、4C像と2C像による長軸2断面、或いは4C像、2C像、3C像による長軸3断面が描出される(ステップS41)。
【0086】
次に、描出された各長軸断面に基づいて、操作者から指定される追跡を開始する初期時相(拡張末期時相ないし収縮末期時相が好適)を受け付けると、追跡処理ユニット33は、当該初期時相での長軸断面1つ当たり左右の2つの弁輪位置を、予め登録しておいた弁輪形状辞書をテンプレートとして2次元的なパターンマッチングの手法によって探索する(ステップS42)。なお、パターンマッチングによる手法の他、操作ユニット41を介した操作者からの入力に従って、各弁輪位置をマニュアル的に指定しても良い。
【0087】
次に、各時相における心尖部の位置指定が指定されると、追跡処理ユニット33は、当該指定された心尖部の位置とステップS42において探索された2つの弁輪位置とに基づいて、初期時相における全弁輪を抽出する(ステップS43)。各時相における心尖部の位置指定は、まず、操作ユニット41を介した操作者からの指定に基づいて、所定の時相における長軸断面像に心尖部の位置を指定し、この位置を他の残りの時相の長軸断面像で共有することで実行される。しかしながら、心尖部の位置指定は、この手法に拘泥されない。例えば、全長軸断面像に対して所定の方法により個別に心尖部の位置を指定し、全長軸断面像間での平均位置を新たな心尖部の位置として指定するようにしてもよい。一般的に、心尖部の動きは少ないので、このような心尖位置の指定は、ある時相で設定した結果を他の全ての時相でも共有するのが好適である。
【0088】
次に、残りの時相について、二次元的にパターンマッチング手法を用いた追跡をすることで、全弁輪の位置を少なくとも1心周期に関して各長軸像内で追跡する(ステップS44)。
【0089】
次に、追跡処理ユニット33は、Cモード画像レベルを設定する(ステップS45)。すなわち、各時相の長軸像において、4点ないし6点の弁輪位置の重心位置を求め、本重心と心尖位置とを結ぶ中心軸を各時相で定義する。そして、中心軸を3つに分割し、各領域における短軸断面のレベル(すなわち、B面、M面、A面のレベル)を指定する。最も単純には、中心軸上での各領域の中央の位置を各短軸断面のレベルとしても良い。中心軸を放線ベクトルとして、各レベルにおける断面が定義できるので、これを短軸断面(B面、M面、A面)として設定する。
【0090】
次に、設定された短軸断面に関するCモード画像を再構成する(ステップS46)。Cモード画像の再構成については、既述の通りである。
【0091】
次に、このようにして中心軸方向へ追跡された短軸像中で二次元的なトラッキングを行うことにより、壁厚変化率等の任意の壁運動パラメータを演算し(ステップS47)、前記Cモード像に重畳して表示する(ステップS48)。本実施例に基づく表示の好適な一例を
図15に示した。
【0092】
以上述べた構成によれば、例えばshorteningしてもほぼ同じセグメント心筋の壁厚等の運動情報を観察可能なだけでなく、これらのCモード像内で二次元トラッキングすることで壁運動算出における、実質的な三次元的トラッキング効果が期待され、演算時間が短縮された擬似的な三次元的トラッキングによる局所的な壁運動解析を達成することができる。
【0093】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。本実施形態は、第3の実施形態の変形例であり、長軸像に関する追跡の対象位置について、上記した弁輪位置ではなく、長軸像での各短軸像の心筋との交差位置を用いるものである。
【0094】
図16は、第4の実施形態に係る任意断面追跡処理の流れを示したフローチャートである。以下、各ステップにおける処理の内容について説明する。
【0095】
同図に示すように、まず、診断対象である心臓について、期間Tに亘るボリュームスキャンにより、t0、t1、・・・、tnの各心時相に関するボリュームデータが取得され、4C像と2C像による長軸2断面(或いは4C像と3C像との組み合わせ、4C像、2C像、3C像の全てでもよい。)による長軸3断面像が描出される(ステップS51)。
【0096】
次に、操作ユニット41からの指示に基づいて、追跡を開始する初期時相(拡張末期時相ないし収縮末期時相が好適)が指定され、当該初期時相の長軸断面像に短軸断面のレベル(すなわち、B面、M面、A面のレベル)が設定される(ステップS52)
次に、各時相における心尖部の位置指定が指定されると、初期時相における各短軸断面と心筋との交差位置を公知のエッジ検出技術を適用して検出する(ステップS53)。各時相における心尖部の位置指定は、既述の通りである。
【0097】
次に、残りの時相について、二次元的にパターンマッチング手法を用いた追跡をすることで、各短軸断面の各交差位置を少なくとも1心周期に関して各長軸像内で追跡する(ステップS54)。追跡処理ユニット33は、各短軸断面の交差位置にと付いて、Cモード画像レベルを設定する(ステップS55)。
【0098】
次に、画像生成ユニット21は、設定された短軸断面に関するCモード画像を再構成する(ステップS56)。Cモード画像の再構成については、既述の通りである。
【0099】
次に、このようにして中心軸方向へ追跡された短軸像中で二次元的なトラッキングを行うことにより、壁厚変化率等の任意の壁運動パラメータを演算し(ステップS57)、前記Cモード像に重畳して表示する(ステップS58)。本実施例に基づく表示の好適な一例を
図17に示した。
【0100】
以上述べた構成によっても、第3の実施形態と同様の効果を実現することができる。
【0101】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。本実施形態に係る装置は、壁厚方向の壁運動情報(例えば、壁厚変化率(Radila Strain)やその時間変化(Radila Strain Rate)、壁厚等の内外膜間の三次元的な距離を用いて定義される物理量)を先ず三次元空間上で定義して演算し、任意断面に投影しカラーで重畳表示するものである。これにより、三次元的に正確に演算された壁厚方向の壁運動情報について、従来から検者が慣れ親しんでいる2次元断層像上での評価を可能にすることができる。
【0102】
なお、本実施形態においては、説明を具体的にするため、三次元空間上で定義された壁厚方向の壁運動情報を投影する断面として、第1乃至第4の実施形態のいずれかの手法によって時間的に追跡し取得された任意断面とする。しかしながら、本実施形態の技術的思想はこれに拘泥されない。例えば、時間的に変動しない位置に設定された断面を観察する場合等、第1乃至第4の実施形態のいずれの手法も利用しないで取得された断面を用いる場合であっても、三次元的に正確に演算された壁厚方向の壁運動情報について、2次元断層像上での評価を可能とする。
【0103】
[運動情報の演算]
運動情報演算ユニット37は、ボリュームデータ生成ユニット35において生成された時相毎の組織変位に関するボリュームデータと、断面追跡ユニット33によって取得された時相毎の任意断面とを用いて、各時相における壁厚方向の壁運動情報を三次元空間上で演算する。すなわち、運動情報演算ユニット37は、各ボリュームデータに設定される任意断面によって定義される(当該任意断面上に存在する)内膜上の各位置に対応する外膜の各位置を特定し、壁厚、壁厚変化率等の運動情報(壁厚方向の壁運動情報)を演算する。
【0104】
なお、本壁厚方向の壁運動情報の演算処理は、例えば
図2のステップS5、
図11のステップS35、
図4のステップS47、
図16のステップS57において実行される。
【0106】
なお、本画像表示処理は、例えば
図2のステップS6、
図11のステップS36、
図14のステップS48、
図16のステップS58において実行される。
【0109】
以上述べた構成によれば、三次元的に正確に壁厚方向の壁運動情報を演算し、その演算結果を、壁厚方向の壁運動情報をC−mode面等の所定の断面に投影することができる。従って、ユーザは、従来から慣れ親しんでいる二次元断層像上で、正確な壁厚方向の壁運動情報を評価することが可能となる。
【0110】
また、C−mode像に壁厚方向の壁運動情報が投影された重畳画像を表示する場合、壁厚方向の壁運動情報の表示領域のサイズとC−mode像上の心壁領域のサイズとを対応させて表示することも可能である。従って、壁厚方向の壁運動情報の表示領域とC−mode像上の心壁領域とが一致しないため、ユーザが不自然な印象を受けた場合であっても、その表示形態を変更することにより、自然な印象による画像観察を実現することができる。
【0111】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。具体的な変形例としては、例えば次のようなものがある。
【0112】
(1)各実施形態に係る各機能は、当該処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記録媒体に格納して頒布することも可能である。
【0113】
(2)各実施形態において、任意断面追跡処理によって取得される任意断面に関する運動情報を、所定のMPR断面像に投影表示する代わりに、あるいは投影表示するのと同時に、例えば
図18に示すように、Poler-mapに座標変換して表示しても良い。なお、
図18においては、右下の表示がPoler-map表示に該当する。壁運動情報をカラー変換する際のカラーバーと共に示した。このようにすれば、局所的に正確に演算された壁運動情報を用いて、左心室全体における壁運動情報の拡がりの様子が一覧性良く把握できる。
【0114】
(3)上記各実施形態においては、各組織の移動ベクトル又は組織の変位に関する時空間分布データを、スペックルトラッキングを用いた手法によって取得する場合を例示した。しかしながら、これに拘泥されず、組織ドプラ法によって収集された複数の時相に関する二次元又は三次元画像データに基づいて生成するようにしてもよい。
【0115】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。