【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとをイミド化して得られ、芳香環数が3個及び/又は4個の芳香族ジアミンを、前記の芳香族ジアミン全量に対して50モル%以上含有することを特徴とするポリイミド樹脂にカーボンブラックを充填した半導電性ポリイミド樹脂ベルトが、上記の目的を達成できることを見出した。この知見に基づいてさらに発展させることにより本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は下記の半導電性ポリイミド樹脂ベルト、およびその製造方法を提供する。
【0017】
項1.カーボンブラック及びポリイミド樹脂を含む半導電性ポリイミド樹脂ベルトであって、該ポリイミド樹脂が、ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとをイミド化して得られ、かつ、前記の芳香族ジアミン全量に対して芳香環数が3個及び/又は4個の芳香族ジアミンを50モル%以上含有することを特徴とする半導電性ポリイミド樹脂ベルト。
項2.前記芳香族ジアミン成分が、4,4’−ジアミノ−パラ−ターフェニルを芳香族ジアミン全量に対して50〜90モル%含有することを特徴とする項1に記載の半導電性ポリイミド樹脂ベルト。
項3.前記芳香族ジアミン成分が、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−パラ−ターフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル及びビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテルからなる群から選ばれる少なくとも1つの芳香族ジアミンを含むことを特徴とする項1又は2に記載の半導電性ポリイミド樹脂ベルト。
項4.JIS K7113に準じて測定した応力−ひずみ曲線で記録される引張降伏強さ:σyが180MPa以上であり、引張破断強さ:σbとの関係が、
(引張破断強さ:σb)/(引張降伏強さ:σy)≧1.1
を満たす項1〜3のいずれかに記載の半導電性ポリイミド樹脂ベルト。
項5.表面抵抗率が1×10
8〜1×10
14Ω/□である項1〜4のいずれかに記載の半導電性ポリイミド樹脂ベルトからなる電子写真機器の中間転写ベルト。
項6.ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを、有機極性溶媒中で反応して得られるポリアミド酸溶液に、カーボンブラックを分散させてカーボンブラック分散ポリアミド酸溶液組成物を調製し、該カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液組成物を回転成形法にて管状物に成形し、該成形体を加熱処理してイミド化する半導電性ポリイミド樹脂ベルトの製造方法であって、
(1)回転する円筒金型の内周面に、該カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液組成物を塗布する工程、
(2)該円筒金型を回転させたまま80〜150℃の温度で加熱して、自己支持性の皮膜を形成する工程、及び
(3)該皮膜を円筒金型の内周面に付着した状態のまま、300〜350℃の温度で加熱してイミド化する工程、
を含むこと特徴とする製造方法。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
1.半導電性ポリイミド樹脂ベルト
本発明は、カーボンブラック及びポリイミド樹脂を含む半導電性ポリイミド樹脂ベルトであって、該ポリイミド樹脂が、ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとをイミド化して得られ、かつ、前記の芳香族ジアミン全量に対して芳香環数が3個及び/又は4個の芳香族ジアミンを50モル%以上含有することを特徴とする半導電性ポリイミド樹脂ベルトに関する。
【0020】
1.1 ポリイミド樹脂
本発明で用いるポリイミド樹脂としては、ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン全量に対して芳香環数が3個及び/又は4個の芳香族ジアミンを50モル%以上含有する芳香族ジアミンとをイミド化して得られるポリイミド樹脂であれば特に限定されるものではない。
【0021】
ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物とは、芳香族環を3個有するものであり、下記のような構造を有するものである。
【0022】
【化1】
【0023】
本発明で用いるカルボン酸二無水物成分としては、ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物を用いるものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物以外のカルボン酸二無水物を含んでいてもよい。
【0024】
ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物以外のカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−スルホニルジフタル酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物等の公知の酸無水物等を挙げることができる。
【0025】
本発明で用いる芳香族ジアミン成分としては、芳香族ジアミン全量に対して芳香環数が3個及び/又は4個の芳香族ジアミンを50モル%以上含有するものであればよく、特に限定されるものではない。
【0026】
本発明においては、芳香族ジアミン全量に対して芳香環数が3個及び/又は4個の芳香族ジアミンを50モル%以上含有するものであるが、60モル%以上含有することが好ましく、70モル%以上含有することがより好ましい。また、上限値は特に限定されないが、例えば、100モル%であることが好ましい。芳香環数が3個及び/又は4個の芳香族ジアミンを前記範囲で含有することにより、得られた半導電性ポリイミド樹脂ベルトの剛性と強靭性のバランスが良好であり、耐久性に優れ、長期間走行させた場合でも、ベルトの平面度が悪化することがないため好ましい。
【0027】
芳香環数が3個の芳香族ジアミンとしては、
【0028】
【化2】
【0029】
等を挙げることができる。
【0030】
芳香環数が4個の芳香族ジアミンとしては、
【0031】
【化3】
【0032】
等を挙げることができる。
【0033】
これらの芳香環数が3個の芳香族ジアミン、芳香環数が4個の芳香族ジアミンの中から1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0034】
これらの中でも4,4’−ジアミノ−パラ−ターフェニルを含む芳香族ジアミンを用いることが好ましく、その場合の含有量としては、芳香族ジアミン全量に対して4,4’−ジアミノ−パラ−ターフェニルを50〜90モル%含有することが好ましく、60〜80モル%含有することがより好ましく、70〜80モル%含有することがさらに好ましい。4,4’−ジアミノ−パラ−ターフェニルを前記範囲で含有することにより、得られた半導電性ポリイミド樹脂ベルトの剛性と強靭性のバランスが良好であり、耐久性に優れ、長期間走行させた場合でも、ベルトの平面度が悪化することがないため好ましい。
【0035】
また、本発明で用いる芳香族ジアミン成分としては、芳香環数が3個の芳香族ジアミンと芳香環数が4個の芳香族ジアミンの両方を含むことが好ましく、その配合割合としては、3個の芳香族ジアミン:芳香環数が4個の芳香族ジアミン=30:70〜80:20(モル比)となることが好ましく、50:50〜70:30(モル比)となることがより好ましい。前記範囲で含有することにより、得られた半導電性ポリイミド樹脂ベルトの剛性と強靭性のバランスが良好であり、耐久性に優れ、長期間走行させた場合でも、ベルトの平面度が悪化することがないため好ましい。
【0036】
また、芳香環数が3個の芳香族ジアミンと芳香環数が4個の芳香族ジアミンの組合せとしては、4,4’−ジアミノ−パラ−ターフェニルと4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、又は、4,4’−ジアミノ−パラ−ターフェニルとビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテルの組合せであることが好ましい。
【0037】
また、本発明において使用できる、前記芳香環数が3個及び/又は4個の芳香族ジアミン以外の芳香族ジアミン成分としては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルサルファイド、ベンジジン、1,5−ナフタレンジアミン、2,6−ナフタレンジアミン等を挙げることができ、これらの中でも4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。
【0038】
本発明で用いるポリイミド樹脂は、下記一般式(1)で示される、ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を含む。
【0039】
【化4】
【0040】
また、本発明で用いるポリイミド樹脂は、下記一般式(2)〜(6)で示される構造単位のいずれか1種以上を含むことが好ましい。
【0041】
【化5】
【0042】
【化6】
【0043】
【化7】
【0044】
【化8】
【0045】
【化9】
【0046】
前記一般式(2)〜(6)で示される構造単位は、4,4’−ジアミノ−パラ−ターフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンに由来する単位構造である。
【0047】
本発明で用いるポリイミド樹脂としては、酸二無水物成分由来の構造単位(1)とジアミン成分由来の構造単位(2)〜(6)からなる下記繰り返し単位を含むポリイミド樹脂が好ましい。
【0048】
【化10】
【0049】
ポリイミド樹脂の合成方法としては特に限定されるものではなく、通常用いられている方法を採用することができるが、前記カルボン酸二無水物成分と芳香族ジアミン成分との略等モル量とを、有機極性溶媒中で反応してポリイミド前駆体溶液を製造し、その後加熱処理によりイミド化する方法が好ましい。
【0050】
有機極性溶媒としては、特に限定されるものではないが、非プロトン系有機極性溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と言うこともある)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等を挙げることができ、これらのうちの1種又は2種以上の混合溶媒であってもよい。これらの中でも、沸点が200℃以上と高く、熱イミド化中に膜から揮発しにくく、残留溶媒の可塑化効果によりイミド化が進行しやすくなる等の点から、NMPが特に好ましい。
【0051】
ポリイミド前駆体溶液の25℃における粘度は、特に限定されるものではないが、例えば、3.0〜50Pa・sであることが好ましく、5.0〜20Pa・sであることがより好ましい。
【0052】
前述のように、ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン全量に対して芳香環数が3個及び/又は4個の芳香族ジアミンを50モル%以上含有する芳香族ジアミンとをイミド化して得られるポリイミド樹脂を用いることにより、得られた半導電性ポリイミド樹脂ベルトの剛性と強靭性のバランスが良好であり、耐久性に優れ、長期間走行させた場合でも、ベルトの平面度が悪化することがないため好ましい。
【0053】
本発明においては、カーボンブラックをポリイミド前駆体溶液に混合してカーボンブラック分散ポリイミド前駆体溶液組成物(以下、前駆体溶液組成物とする)を製造するが、混合方法としては、カーボンブラックがポリイミド前駆体溶液中に均一に混合、分散される方法であれば特に制限はなく、例えば、サンドミル、ビーズミル、超音波ミル、3本ロール等を用いた方法を挙げることができる。
【0054】
前駆体溶液組成物中のカーボンブラックの含有量は、前駆体溶液組成物中の全固形分中15〜30重量%であることが好ましく、18〜26重量%であることがより好ましい。
【0055】
ここで、前記前駆体溶液組成物中のカーボンブラックの含有量とは、該溶液から得られる半導電性ポリイミド樹脂ベルト中のカーボンブラック含有量と同様である。
【0056】
したがって、本発明の半導電性ポリイミド樹脂ベルト中には、ポリイミド樹脂を70〜85重量%含むことが好ましく、74〜82重量%含むことがより好ましい。
【0057】
なお、本発明の効果に悪影響を与えない範囲で、上記組成物中にイミダゾール系化合物(2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−メチル−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール)、界面活性剤(フッ素系界面活性剤等)等の添加剤を加えてもよい。
【0058】
上記方法によりカーボンブラックが均一分散された前駆体溶液組成物を製造することができる。
【0059】
溶液中に分散しているカーボンブラックの平均粒径は、0.1〜0.5μmであることが好ましく、0.1〜0.3μmであることがより好ましい。また、分散しているカーボンブラックの最大粒子径は1μm以下であることが好ましく、0.6μm以下であることがより好ましい。最大粒子径の下限値は特に限定されるものではないが、0.2μm以上であることが好ましい。
【0060】
1.2 カーボンブラック
本発明で使用するカーボンブラックとしては、特に限定されるものではないが、例えば、カーボンブラック粒子表面にポリマーをグラフト化させたり、絶縁材を被覆したりすることで導電特性を制御したカーボンブラック;カーボンブラック粒子表面に酸化処理を施したカーボンブラック等を挙げることができる。これらの中でも、オイルファーネス法のカーボンブラックは、燃料を燃やした1400℃以上の高温ガス中で炭化水素を還元雰囲気で熱分解して製造されるため、粒子内部や表面の酸素含有量や不純物が著しく少なく、結晶子が発達するため好ましい。また、カーボンブラックの揮発分含有量を調整できる点から、オイルファーネス法で製造されたカーボンブラックをさらに酸化処理することが好ましい。
【0061】
以下に、オイルファーネス法で製造されたカーボンブラックをさらに酸化処理したカーボンブラックについて説明する。
【0062】
酸化処理で用いる酸化剤としては、硝酸を含む窒素酸化物、オゾン、次亜塩素酸類、硫酸ガス等の酸化剤を挙げることができる。これらの中でも、酸化処理後のカーボンブラックに酸化剤の残存が少なく、未分解原料炭化水素(PAH)が分解される点から、オゾンを含む酸化剤が好ましく、オゾンが特に好ましい。未分解原料炭化水素(PAH)は可能な限り少ない方が良く、具体的には10ppm以下であればよい。
【0063】
前述したように、オイルファーネス法で製造されたカーボンブラックをさらに酸化処理することにより、カーボンブラックの揮発分含有量を調整することができる。カーボンブラックの揮発分含有量としては、2〜5重量%であることが好ましく、2.5〜5重量%がより好ましい。
【0064】
酸化処理により揮発分2〜5重量%に調整されたカーボンブラックの表面には、フェノール性水酸基やカルボニル基、カルボキシル基等の酸素官能基(特に、カルボキシル基)を含むため、ポリイミド前駆体溶液組成物中での該カーボンブラックの流動性及び分散安定性が向上し、またポリイミド樹脂への親和性も向上する。
【0065】
また、オイルファーネス法で製造された同じ比表面積及びジブチルフタレート(DBP)吸収量のカーボンブラックであれば、その揮発分量と粉体抵抗はほぼ比例関係にある。該カーボンブラック表面の揮発分である酸素官能基は、π電子の流れを阻害する絶縁物として働くため、酸化処理されていないオイルファーネス法によるカーボンブラックよりも粉体抵抗が大きくなる。従って、揮発分を上記の範囲に設定することにより、カーボンブラックの粉体抵抗を3〜30Ω・cm程度の高い値で制御することができる。
【0066】
そのため、半導電性ポリイミド樹脂ベルトの表面抵抗率を所望の範囲(10
8〜10
14Ω/□)に設定する場合に、ポリイミド樹脂中に該カーボンブラックを高充填(半導電性ポリイミド樹脂ベルト(ポリイミド樹脂とカーボンブラックの総重量)中、カーボンブラックが15〜30重量%)することができる。これにより、カーボンブラック同士の連鎖による導電性が付与され、外部環境や印加電圧に影響を受けにくい安定した電気特性を有する半導電性ポリイミド樹脂ベルトを得ることができる。換言すれば、本発明の半導電性ポリイミド樹脂ベルト中にカーボンブラックが15〜30重量%の高含有量に制御できることになる。
【0067】
なお、カーボンブラックの揮発分は、実施例に記載の方法により測定される。
【0068】
揮発分が2%未満のカーボンブラック(例えば、三菱化学(株)製 三菱カーボンブラック「MA11」「MA100」、デクサ製「Printex 95」「Printex L6」等)では、ポリイミド前駆体溶液に対する親和性に問題があり、分散後にファンデルワールス力によって2次凝集体を形成しやすい傾向がある。
【0069】
また、揮発分が5%を超えるカーボンブラック(例えば、デクサ製「Color Black FW200」「Special Black 5」「Special Black 4」「Printex 150T」等)は、チャンネル法のカーボンブラックがほとんどであり、水素や酸素以外に、硫黄や未分解原料炭化水素(PAH)等の不純物が多く含まれ、この不純物がポリイミド樹脂等のバインダー樹脂本来の機械的特性を低下させる傾向がある。
【0070】
また、オイルファーネス法のカーボンブラックを揮発分が5%を超えるように酸化処理した場合、粉体抵抗が大幅に高くなるため(絶縁性カーボンブラックになるため)、中間転写ベルトとして必要な表面抵抗率10
8〜10
14Ω/□を実現できない傾向がある。
【0071】
本発明で使用するカーボンブラックの窒素吸着比表面積(JIS K6217)は、80〜150m
2/gであることが好ましく、90〜130m
2/gであることがより好ましい。
【0072】
一般にカーボンブラックを各種の方法で酸化すると、比表面積が大きくなるほど酸素官能基は多く付与される。しかし、カーボンブラックの粉体抵抗やこれを各種材料に配合した際の物性は、酸素官能基の絶対量でなく単位表面に付与している酸素官能基の数と相関している。
【0073】
窒素吸着比表面積が80m
2/g未満であると、ポリイミド前駆体溶液との親和性が得られず粉体抵抗も充分に高い値にならない傾向がある。また、150m
2/gを超えると、高比表面積のカーボンブラック、即ち一次粒子が小さいか又は同一粒子径においても細孔を形成したカーボンブラックとなり、酸素官能基を付与しても結果的にカーボンブラックの粉体抵抗が高くならないため、カーボンブラック含有量が高い(例えば、15重量%以上の高濃度で充填した)半導電性ポリイミド樹脂ベルトが得られない傾向がある。つまり、カーボンブラック充填量が低い半導電性ポリイミド樹脂ベルトしか得られない傾向がある。
【0074】
本発明で使用するカーボンブラックのpHは、2〜5であることが好ましく、2〜4であることがより好ましく、2〜3であることがさらに好ましい。
【0075】
また、本発明で使用するカーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸収量は、40〜100ml/100gであることが好ましく、50〜90ml/100gであることがより好ましい。DBP吸収量が100ml/100gを超えると、酸化処理を施してもカーボンブラックの粉体抵抗が高くならないため、カーボンブラックを15重量%以上の高濃度で充填した半導電性ポリイミド樹脂ベルトが得られない傾向がある。DBP吸収量が40ml/100g未満であると、粉体抵抗が高くなりすぎるため、該固形分中のカーボンブラック濃度は30重量%を超えて充填しないと半導電性ポリイミド樹脂ベルトが得られなくなる。
【0076】
本発明の半導電性共重合ポリイミドベルトの表面抵抗率は、1×10
8〜1×10
14Ω/□であることが好ましく、1×10
9〜1×10
14Ω/□であることがより好ましく、1×10
10〜1×10
13Ω/□であることがより好ましい。表面抵抗率がこの範囲にあることで、中間転写ベルトに電荷が蓄積することがなく、転写時に発生するトナー飛散の抑制と中間転写ベルトの自己除電機能を両立させることができるため好ましい。
【0077】
本発明の半導電性ポリイミド樹脂ベルト、特に、半導電性ポリイミド樹脂ベルトからなる電子写真機器の中間転写ベルトの材料設計において、引張降伏強さ:σyと引張破断強さ:σbとは、ベルトとしての材料設計の重要な強度因子であり、少なくとも引張降伏強さ:σyは180MPaであることが好ましく、195MPaであることがより好ましい。引張降伏強さ:σyがこの範囲にあることで、ベルトの厚みを80μm以下に薄くしてもベルトの幅方向にかかる荷重による塑性変形を起こさないため好ましい。塑性変形(伸びによる寸法変化)を起こすとベルト自体の平面度が悪化し、このことが画像ムラを起こすため好ましくない。
【0078】
また、引張破断強さ:σbは、引張降伏強さ:σyより大きいことも必要で、ベルト回転の耐寿命(タフネス)に寄与する。したがって、σb/σy≧1.1であること好ましく、σb/σy≧1.15であることがより好ましい。σb/σyが1.1未満では、塑性変形する前にベルトが破壊する傾向がある。
【0079】
ここで、引張破断強さ:σbと引張降伏強さ:σyは、JIS K7113に準じて測定した応力−ひずみ曲線で記録される引張破断強さと引張降伏強さである。
【0080】
本発明の半導電性ポリイミド樹脂ベルトのベルト幅方向の平面度が2mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましい。平面度がこの範囲にあることでベルト駆動を行う駆動ロールと中間転写ベルトとの密着性が保たれ、高精度の画像あわせが可能となるため好ましい。ここで、平面度とは実施例に記載の方法により測定される値をいう。
【0081】
また、本発明の半導電性ポリイミド樹脂ベルトの製造方法は、特に限定されるものではないが、下記方法により製造することが好ましい。
【0082】
2.導電性ポリイミド樹脂ベルトの製造方法
本発明は、ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを、有機極性溶媒中で反応して得られるポリイミド前駆体溶液(ポリアミド酸溶液とも言う)に、カーボンブラックを分散させてカーボンブラック分散ポリイミド前駆体溶液組成物(カーボンブラック分散ポリアミド酸溶液組成物とも言う)を調製し、該カーボンブラック分散ポリイミド前駆体溶液組成物を回転成形法にて管状物に成形し、該成形体を加熱処理してイミド化する半導電性ポリイミド樹脂ベルトの製造方法であって、
(1)回転する円筒金型の内周面に、該カーボンブラック分散ポリイミド前駆体溶液組成物を塗布する工程、
(2)該円筒金型を回転させたまま80〜150℃の温度で加熱して、自己支持性の皮膜を形成する工程、及び
(3)該皮膜を円筒金型の内周面に付着した状態のまま、300〜350℃の温度で加熱してイミド化する工程、
を含むこと特徴とする製造方法に関する。
【0083】
以下、カーボンブラック分散ポリイミド前駆体溶液組成物(以下、前駆体溶液組成物とする)を使った半導電性ポリイミド樹脂ベルトの製造方法について説明する。
【0084】
なお、前記製造方法で用いる前駆体溶液組成物としては、本明細書に記載されているいずれの前駆体溶液組成物も好適に用いることができる。
【0085】
前駆体溶液組成物は、回転する円筒金型の内周面に、該前駆体溶液組成物を均一な厚さで塗布する。円筒金型の回転速度としては特に限定されるものではないが、重力加速度の0.5〜10倍の遠心加速度で低速回転することが好ましい。重力加速度の0.5〜10倍の遠心加速度という低速回転で、前駆体溶液組成物が供給されることで回転方向に受けるせん断力が小さく、分子鎖の配向やカーボンブラック等のフィラーのストラクチャー配向を抑制できる。
【0086】
前記の遠心加速度が重力加速度の0.5倍未満であると、供給された前駆体溶液組成物が円筒金型の内周面に密着せずに流れ落ちる(たれ)危険性がある。一方、重力加速度の10倍より大きくなると、供給時に受ける回転方向へのせん断力による分子鎖の配向やカーボンブラック等のフィラーのストラクチャー配向だけでなく、遠心力による前駆体溶液組成物の流動が発生し、平面度に影響を与える傾向がある。
【0087】
なお、本発明で使用する遠心加速度(G)は、下記式から導かれる。
【0088】
G(m/s
2)=r・ω
2=r・(2・π・n)
2
【0089】
ここで、rは円筒金型の半径(m)、ωは角速度(rad/s)、nは1秒間での回転数(60秒間の回転数がr.p.m.)を示す。比較する重力加速度(g)は、9.8 (m/s
2)である。
【0090】
前駆体溶液組成物の供給手段は、ノズル法やスプレー法で吐出させながら回転する円筒金型の回転軸方向に移動させることによって、円筒金型の内周面に前駆体溶液組成物を均一な厚みで塗布する。ここで、均一な厚みとは、円筒金型の内周面に塗布平均厚みに対して±5%の範囲で塗布することをいう。
【0091】
前駆体溶液組成物の供給手段としては、前駆体溶液組成物を霧化することで、供給時の流動を限りなく小さく、回転する円筒金型の内周面に瞬間的に密着できる点、前駆体溶液組成物の粘度にもあまり影響されず同一回転速度下で原料供給できる点、薄い厚みの塗膜を容易に得ることができ、前駆体溶液組成物の不揮発分濃度を高く設定することが可能である点から、スプレー法が好ましい。
【0092】
塗布ヘッドの形状は、特に制約はなく、円形や矩形等、適時使用できる。また、その大きさも特に制約はなく、吐出される前駆体溶液組成物の粘度との組み合わせによって、適正な吐出圧力となるように設計することが可能である。
【0093】
スプレーヘッドと円筒金型の距離は任意でよく、5〜200mm程度が好ましい。吐出圧力の方式には特に制限はないが、圧縮空気や高粘度液対応のモーノポンプ、ギヤポンプ等が用いられる。
【0094】
このように円筒金型の内周面に均一な厚みで前駆体溶液組成物を塗布した場合は、円筒金型の高速回転、即ち、遠心力によって前駆体溶液組成物を流動させ塗膜の膜厚を均一にさせる必要はない。遠心力を利用した回転成形では、原料を供給後、遠心力により前駆体溶液組成物を円筒金型の内面に均一に流延させる。そして遠心力によって生じる流動によってカーボンブラックの粒子が流動方向にストラクチャーを成形したように並ぶ。そのため、これによってポリイミド製中間転写ベルトの電気特性に悪影響を引き起こす場合がある。これに対し、高速回転させない本発明の方法によれば、この様な問題はほとんど生じない。
【0095】
円筒金型の内周面には、ポリイミド樹脂が密着しないように、離型剤を塗布することが好ましい。離型材の種類に制限はないが、前駆体溶液組成物の溶媒や加熱反応時に樹脂から発生する水の蒸気等に侵されないものであれば特に限定はない。
【0096】
液体樹脂の皮膜形成工程においては、重量加速度の0.5〜10倍の遠心加速度で低速回転させたまま、80〜150℃(好ましくは、100〜140℃)の温度で溶媒を揮発して固形分濃度を40重量%以上とすることで円筒金型の内周面に自己支持性を有する皮膜を形成することで達成できる。
【0097】
ポリイミド樹脂皮膜形成工程においては、ポリイミド樹脂の種類によって異なるが円筒金型の内周面に付着した状態のまま、60〜120分間で約250℃に上昇する。次に完全にポリイミド転化する温度、例えば300〜350℃で30〜90分間、皮膜を加熱させることでポリイミド樹脂皮膜を形成することができる。皮膜形成を円筒金型の内周面に付着した状態で行うことで、イミド化反応や溶媒揮発で起こる収縮を抑えてその応力でポリマー鎖を面内方向に均一配向させることが可能となる。
【0098】
以上のように、本発明で用いる前駆体溶液組成物は、高い固形分濃度を有するものであり、さらに、高含有量でカーボンブラックを含んでいるものである。さらに、これを用いて成形される半導電性ポリイミド樹脂ベルトは高いカーボンブラック濃度を有しており、しかも、ポリイミド樹脂の本来の機械的特性(強靭性等)が充分に保持されている。
【0099】
得られる半導電性ポリイミド樹脂ベルトの平均膜厚は、通常50〜150μm程度、好ましくは60〜125μm程度に調節される。
【0100】
このように製造した本発明の半導電性ポリイミド樹脂ベルトは、例えば、電子写真機器のカラー画像形成装置の中間転写ベルトとして使用した場合、ベルトの幅方向にかかる荷重によるクラックや割れが発生しにくく、耐久性に優れ、長期間走行させても安定した使用が可能である優れた機械的特性を発揮することができる。
【0101】
本発明の半導電性ポリイミド樹脂ベルトは、電子写真機器の中間転写ベルト、一本のベルトで転写と定着を兼ね備えた転写兼定着ベルトのベルト基材として有効である。転写兼定着ベルトとして使用する場合には、表面に付着するトナーの剥離性向上のため、表面に非粘着性の樹脂皮膜を形成することが有効である。その非粘着性の樹脂皮膜の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系樹脂等が好ましい。また、弾性シリコーン樹脂、フッ素ゴム樹脂、弾性フロロシリコーン樹脂、弾性ポリシロキサン等を用いてもよい。