(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2、3に示されたような遮蔽部材や遮蔽手段を用いる装置では、成形型の加熱に利用する熱エネルギーの効率が低下してしまう。また、特許文献4に示された回転駆動可能なテーブルの表面に成形型を配置して、この成形型の外周部を取り囲む発熱素子を配置した構成を有する装置では、この発熱素子により加熱処理できる成形型は1個のみである。すなわち、テーブル(支持台)には1個の成形型しか配置できないため、単位時間当たりの生産量をさらに向上させることが困難である。
【0008】
一方、特許文献1〜4等に例示したような成形型を一方向に移送しつつ各工程を実施することでガラス成形体を量産する場合、個々のガラス成形体の品質・精度が確保されていることの他に、個々のガラス成形体間の品質ばらつきが小さいことも重要である。そして、品質ばらつきを抑制するためには、成形型を加熱処理する際に、個々の成形型間の温度差が小さいことが必要である。
【0009】
特に、凹レンズのような中心肉厚と周辺部の肉厚との差が大きなガラス成形体や、外径が比較的大きな(例えば、φ30mm以上)ガラス成形体をプレス成形する場合、成形型の成形面上におけるわずかな温度差(1℃〜5℃)により、ニュートンリング1本〜4本程度の形状誤差が生じることがある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、生産性がより高く、成形型の加熱効率が高く、かつ、成形型間の温度ばらつきを小さくすることにより、高精度のガラス成形体を得られる製造方法およびガラス成形体の製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
第一の本発明のガラス成形体の製造方法は、
ガラス素材を収容した複数の成形型を支持台で保持して一定方向に移送しながら、ガラス素材を軟化させるために、成形型を加熱する加熱工程と、軟化したガラス素材をプレス成形するプレス成形工程と、プレス成形されたガラス素材を冷却する冷却工程と、を少なくとも経ることにより、ガラス成形体を製造するガラス成形体の製造方法において、加熱工程が、支持台の移送方向に沿って配置された複数の成形型を、移送方向の両側から加熱できるように配置された加熱部材により、加熱すると共に、支持台上に配置された複数の成形型の移送方向に対する配列順序を、少なくとも1回以上逆転させるように複数の成形型を移送させること、により実施されることを特徴とする。
【0012】
第二の本発明のガラス成形体の製造方法は、
ガラス素材を収容した複数の成形型を支持台で保持して一定方向に移送しながら、ガラス素材を軟化させるために、成形型を加熱する加熱工程と、軟化したガラス素材をプレス成形するプレス成形工程と、プレス成形されたガラス素材を冷却する冷却工程と、を少なくとも経ることにより、ガラス成形体を製造するガラス成形体の製造方法において、冷却工程が、支持台の移送方向に沿って配置された複数の成形型に収容されたガラス素材を冷却すると共に、支持台上に配置された複数の成形型の移送方向に対する配列順序を、少なくとも1回以上逆転させるように複数の成形型を移送させること、により実施されることを特徴とする。
【0013】
第一および第二の本発明のガラス成形体の製造方法の一実施態様は、支持台上に2つの成形型が配置され、支持台を移送方向に対して180度回転させることにより、2つの成形型の移送方向に対する配列順序を逆転させることが好ましい。
【0014】
第一および第二の本発明のガラス成形体の製造方法の他の実施態様は、複数の成形型の移送方向に対する配列順序を、少なくとも1回以上逆転させる動作を、加熱工程および冷却工程の双方において行うことが好ましい。
【0015】
第一および第二の本発明のガラス成形体の製造方法の他の実施態様は、支持台を移送する支持台移送手段から、複数の成形型を保持する支持台を離間させた状態で当該支持台を水平方向に回転させることにより、支持台上に配置された複数の成形型の移送方向に対する配列順序を、逆転させることが好ましい。
【0016】
第一および第二の本発明のガラス成形体の製造方法の他の実施態様は、ガラス成形体が、凹面形状を有する光学素子であることが好ましい。
【0017】
本発明のガラス成形体の製造装置は、成形型内に収容されたガラス素材を軟化させるために、成形型を加熱する加熱部と、軟化したガラス素材をプレス成形するプレス成形部と、プレス成形されたガラス素材を冷却する冷却部と、支持面を有し、当該支持面上に複数の成形型を支持する支持台と、支持台を、加熱部、プレス成形部および冷却部へと順次移送させる支持台移送手段と、を少なくとも備え、支持面上に支持される複数の成形型が、支持台の移送方向に沿って配置され、加熱部が、支持台の移送方向の両側に沿って、複数の成形型を支持台の移送方向の両側から加熱できるように配置された加熱部材を備え、支持台が、支持台の支持面上に支持された複数の成形型の移送方向に対する配列順序を逆転させるように、回転移動可能であることを特徴とする。
【0018】
本発明のガラス成形体の製造装置の一実施態様は、支持台の支持面上に2つの成形型が、支持台の移送方向前方側と支持台の移送方向後方側とに各々配置され、2つの成形型の移送方向に対する配列順序を逆転させるように、支持台が移送方向に対して180度回転可能であることが好ましい。
【0019】
本発明のガラス成形体の製造装置の他の実施態様は、支持台上に配置された複数の成形型の移送方向に対する配列順序を逆転させるために、支持台を、支持台の移送方向に対して180度回転させる回転移動機構を備えることが好ましい。
【0020】
本発明のガラス成形体の製造装置の他の実施態様は、回転移動機構は、支持台移送手段から、複数の成形型を保持す支持台を離間させた状態で、当該支持台を水平方向に回転させることが好ましい。
【0021】
本発明のガラス成形体の製造装置の他の実施態様は、支持台移送手段が、一方向に間欠的に回転可能な回転テーブルであり、回転テーブルの上面の外周側に、支持台が、回転テーブルの回転方向に沿って複数個配置され、かつ、回転テーブルの回転方向に沿って、少なくとも、加熱部、プレス成形部および冷却部がこの順に配置されていることが好ましい。
【0022】
本発明のガラス成形体の製造装置の他の実施態様は、凹面形状を有するガラス製レンズの製造に用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、生産性がより高く、成形型の加熱効率が高く、かつ、成形型間の温度ばらつきを小さくすることにより、高精度のガラス成形体を得られる製造方法およびガラス成形体の製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(ガラス成形体の製造方法)
本実施形態のガラス成形体の製造方法は、
ガラス素材を収容した複数の成形型を支持台で保持して一定方向に移送しながら、ガラス素材を軟化させるために、成形型を加熱する加熱工程と、軟化したガラス素材をプレス成形するプレス成形工程と、プレス成形された上記ガラス素材を冷却する冷却工程と、を少なくとも経ることにより、ガラス成形体を製造するガラス成形体を製造する。ここで、加熱工程では、支持台の移送方向に沿って配置された複数の成形型を、移送方向の両側から加熱できるように配置された加熱部材により加熱し、また、冷却工程では、支持台の移送方向に沿って配置された複数の成形型に収容されたガラス素材を冷却する。そして、加熱工程および冷却工程から選択される少なくとも一方の工程において、支持台上に配置された複数の成形型の移送方向に対する配列順序を、少なくとも1回以上逆転させるように複数の成形型を移送させる。
【0026】
本実施形態のガラス成形体の製造方法では、複数の成形型を保持した支持台を移送させながら、これら複数の成形型を1セットとして、加熱工程、プレス成形工程、冷却工程等の各工程を実施する。このため、1つの支持台に1個の成形型のみが配置される特許文献4に例示したような従来のガラス成形体の製造方法と比較して、本実施形態のガラス成形体の製造方法は生産性がより高い。また、本実施形態のガラス成形体の製造方法では、特許文献2、3に示されたような遮蔽部材や遮蔽手段を用いる必要はないため、加熱効率が高い。
【0027】
なお、以下の説明においては、支持台上に配置された複数の成形型の移送方向に対する配列順序を、少なくとも1回以上逆転させる動作を、加熱工程において実施する場合を第一の実施形態と称し、冷却工程において実施する場合を第二の実施形態と称し、第一の実施形態および第二の実施形態の一方または双方を指す場合を単に本実施形態と称する。また、以下の説明においては、特に説明の無い限り、一方向に移送する支持台の支持面上には、支持台の移送方向前方側(以下、「前方側」と略す場合がある)と支持台の移送方向後方側(以下、「後方側」と略す場合がある)とに、それぞれ1つずつ合計2個の成形型が配置された場合を前提とする。
【0028】
ここで、加熱工程では、支持台に保持された2つの成形型の加熱は、支持台の移送方向の両側に沿って、2つの成形型を支持台の移送方向の両側から加熱できるように配置された加熱部材により実施される。
【0029】
このことは、支持台の移送方向の両側に沿って配置された加熱部材間に形成される加熱エリア内に、支持台と共に、前方側に配置された成形型が、最初に突入し、後方側に配置された成形型が、その次に突入することを意味する。ここで、加熱エリアの移送中において、前方側の成形型は、後方側の成形型よりも累積加熱時間が長いため、前方側の成形型は、後方側の成形型よりも温度が高なる。しかしながら、加熱エリアの通過に要する時間は、前方側の成形型も、後方側の成形型も同一である。このため、加熱時間のみを考慮すれば、加熱エリアを通過し終えた時点では、結果的に前方側の成形型の温度も、後方側の成形型の温度も同一となるはずである。
【0030】
同様に、冷却工程においても、冷却エリアの移送中において、前方側の成形型は、後方側の成形型よりも累積冷却時間が長いため、前方側の成形型は、後方側の成形型よりも温度が低くなる。しかしながら、冷却エリアの通過に要する時間は、前方側の成形型も、後方側の成形型も同一である。このため、冷却時間のみを考慮すれば、冷却エリアを通過し終えた時点では、結果的に前方側の成形型の温度も、後方側の成形型の温度も同一となるはずである。
【0031】
しかしながら、加熱エリアに突入した前方側および後方側の成形型が、所定の位置で停止して加熱工程などの各種処理を受けるとき、前方側の成形型は進行方向前方側のエリアの熱的影響を受け、後方側の成形型は進行方向後方側のエリアの熱的影響を受ける。これは、冷却エリアに突入した前方側および後方側の成形型についても同様である。そして、加熱工程を実施する加熱エリアの進行方向両隣りのエリアや、冷却工程を実施する冷却エリアの進行方向両隣りのエリアでは、異なる工程を実施するために、設定される温度も大なり小なり異なってくる。それゆえ、このように前方側と後方側とで成形型に温度差が生じたまま、一の工程を実施するエリアから他の工程を実施するエリアへと各成形型が移送されても、温度差が解消されない。
【0032】
このような成形型間の温度差は、前方側に配置された成形型内で作製されたガラス成形体と、後方側に配置された成形型内で作製されたガラス成形体との品質ばらつきの発生を招くことになる。たとえば、前方側に配置された成形型と、後方側に配置された成形型とに対して同時にプレス成形工程を実施した場合、前方側に配置された成形型内に収容されたガラス素材の方が、後方側に配置された成形型内に収容されたガラス素材よりも相対的により温度が高い(相対的により粘度が低い)ため、得られるガラス成形体間の形状精度(肉厚精度や転写精度を含む)に差が生じ易くなる。
【0033】
しかしながら、第一の本実施形態のガラス成形体の製造方法は、支持台の移送方向の両側に沿って配置された加熱部材間(加熱エリア)にある支持台の支持面上に配置された2つの成形型の支持台の移送方向に対する配列順序を、少なくとも1回以上、逆転させるように2つの成形型を移動させる。すなわち、加熱エリアにある相対的に加熱され易い前方側の成形型を、後方側へと配置し、加熱エリアにある相対的に加熱され難しい後方側の成形型を、前方側へと配置することで、1つの支持台の支持面上に配置された2つの成形型間の温度ばらつきをより小さくすることができる。
【0034】
また、第二の本実施形態のガラス成形体の製造方法は、冷却エリアにある支持台の支持面上に配置された2つの成形型の支持台の移送方向に対する配列順序を、少なくとも1回以上、逆転させるように2つの成形型を移動させる。すなわち、冷却エリアにある相対的に冷却され易い前方側の成形型を、後方側へと配置し、冷却エリアにある相対的に
冷却され
難い後方側の成形型を、前方側へと配置することで、1つの支持台の支持面上に配置された2つの成形型間の温度ばらつきをより小さくすることができる。
【0035】
なお、同様の効果は、たとえば、支持台の移送速度を極端に遅くしたり、あるいは、加熱エリアや冷却エリアをより縦長な形状とすることでも実現できると考えられる。しかしながら、両者のいずれを採用しても、加熱工程や冷却工程を完了するまでに必要な時間が大幅に増加する。これに加えて、後者の方法を採用したガラス成形体の製造装置では、装置がより大型化する。このため、これらの方法は、本実施形態のガラス成形体の製造方法と比べて、実用性に劣る。
【0036】
なお、加熱エリアに移送され加熱処理を受け、および/または、冷却エリアに移送され冷却処理を受ける支持台の支持面上に配置された2つの成形型の支持台の移送方向に対す配列順序を、少なくとも1回以上、逆転させるように2つの成形型を移動させる方法としては、特に限定されないが、たとえば、以下に示す方法が挙げられる。すなわち、(1)加熱または冷却された成形型から熱を奪わず、かつ、余分な熱も与えない程度の温度に制御されたアームで、前方側に配置された成形型と、後方側に配置された成形型とを保持して、前方側に配置された成形型を後方側へ配置するのと略同時に、後方側に配置された成形型を
前方側へ配置する方法が挙げられる。また、(2)加熱エリアに移送され加熱処理を受け、および/または、冷却エリアに移送され冷却処理を受ける支持台の支持面上に支持された2つの成形型の支持台の移送方向に対する配列順序を、各支持台に成形型を載置した状態で支持台の移送方向に対して支持台を180度回転させることにより、逆転させる方法が挙げられる。なお、本実施形態のガラス成形体の製造方法を利用したガラス成形体の製造装置の小型化や構造の単純化という点では、上記(1)に示す方法よりも上記(2)に示す方法を採用することがより好ましい。また、上記(2)に示す方法を実施する場合、たとえば、支持台を移送する支持台移送手段から、2つの成形型を保持する支持台を離間させた状態で、当該支持台を水平方向に回転させることができる。
【0037】
また、加熱部材は、支持台の移送方向の両側に沿って、2つの成形型を支持台の移送方向の両側から加熱できるように構成されているのであれば、その構成は特に限定されない。加熱部材としては、加熱部材を構成する個々のヒータの発熱量が略同一とすることが好ましく、また、支持台の移送方向の両側に沿って、当該移送方向に対して略線対称を成すようにヒータを配置することが好ましい。なお、ヒータの形状は特に限定されず、たとえば、棒状、平板状などの単純な形状の他に、断面が正弦波形状、矩形波形状、三角波形状等を有する板状であってもよい。
【0038】
本実施形態のガラス成形体の製造方法は、成形型を用いたプレス成形により製造可能なガラス成形体であれば、如何様なガラス成形体の製造にも利用できるが、高い形状精度や品質が要求されるガラス製レンズの製造に用いることが好ましい。また、本実施形態のガラス成形体の製造方法のように、支持面上に2つの成形型を配置した支持台を移送させながら、2つの成形型を1セットとして、加熱工程、プレス成形工程、冷却工程等の各工程を実施する方式では、作製するガラス製レンズの直径が大きくなるほど、加熱エリアおよび冷却エリアを移送中の、前方側の成形型と、後方側の成形型とにおける温度差が大きくなりやすい。これは、作製するガラス製レンズの直径が大きくなると、成形型の体積も大きくなり、結果として、成形型の熱容量も大きくなるためである。以上の点を考慮すれば、本実施形態のガラス成形体の製造方法は、直径10mm以上のガラス製レンズの製造に用いることがより効果的であり、直径20mm以上のガラス製レンズの製造に用いることが更に好ましい。また、凹メニスカスレンズや両凹レンズなどの凹レンズ(凹面形状を有する光学素子)は、中心肉厚と周辺部の肉厚との差が大きいため、成形型の成形面上における温度差により形状誤差が生じ易い。しかし、本実施形態のガラス成形体の製造方法によれば、前方側の成形型と後方側の成形型とにおける温度差や、個々の成形型における成形面上の温度差を実質的に解消できるため、形状誤差の少ないレンズを製造することができる。なお、製造するガラス製レンズの直径の上限は特に限定されないが、実用上は60mm以下であることが好ましい。
【0039】
なお、加熱エリアおよび/または冷却エリアを移送中の支持台の支持面上に配置された2つの成形型の支持台の移送方向に対する配列順序の逆転配置は、少なくとも1回実施すればよいが、2つの成形型間の温度ばらつきをより確実に小さくする観点から、1回〜4回の範囲内で実施することが好ましい。また、支持台の支持面上に配置された2つの成形型の支持台の移送方向に対する配列順序の逆転配置は、加熱工程および冷却工程の双方において行うことがより好ましい。
【0040】
また、本実施形態のガラス成形体の製造方法では、成形型内に収容されたガラス素材を軟化させるために、成形型を加熱する加熱工程と、軟化したガラス素材をプレス成形するプレス成形工程と、プレス成形されたガラス素材を冷却する冷却工程と、を少なくとも有する。しかしながら、本実施形態のガラス成形体の製造方法では、その他の工程を有していてもよく、また、冷却工程は、目的に応じて2種類に分けて実施してもよい。たとえば、プレス成形工程の後に、ガラス素材が固化しない範囲(ガラス転移温度Tg以上)で冷却することを目的とした冷却工程(徐冷工程)と、この徐冷工程を経た後にプレス成形されたガラス素材の形状精度をより向上させるために再度のプレス成形を行う再プレス成形工程とを実施し、その後にガラス素材を固化させることを目的とした冷却工程(急冷工程)を実施してもよい。
【0041】
徐冷工程では、ガラス素材の過度の冷却によりガラス素材の粘度が
増加して、次工程である再プレス成形工程の実施が困難となるのを防ぐために、加熱工程と同様に、一方向に移送する支持台の支持面上の、支持台の移送方向前方側と支持台の移送方向後方側とに各々配置された2つの成形型を、支持台の移送方向の両側に沿って、2つの成形型を支持台の移送方向の両側から加熱できるように配置された加熱部材により、加熱してもよい。このように、徐冷工程でも加熱部材を用いる場合には、徐冷工程においても加熱部材間(加熱エリア)にある支持台の支持面上に配置された2つの成形型の支持台の移送方向に対する配列順序の逆転配置を実施してもよい。
【0042】
また、加熱工程で用いられる加熱部材は、支持台の移送方向の両側に、少なくとも1つずつ配置されていればよい。しかしながら、通常は、支持台の移送方向の両側に、1対を成すように、略同程度の、サイズ、形状および発熱量を有する加熱部材が配置されていることが好ましい。この一対の加熱部材は、移送方向の一方の側と他方の少なくとも1セット配置されていればよいが、2〜4セット配置されていることが好ましい。すなわち、加熱エリアを例えば2〜4室の複数の処理室に区画し、処理室毎に所定温度に温度設定できるように構成することができる。この場合、たとえば、各々の一対の加熱部材毎に、加熱温度の設定を変えることなどにより、成形型の温度制御をより正確かつ容易に行える。たとえば、3セットの一対の加熱部材、すなわち、3つの加熱エリア(急熱室1、急熱室2、均熱室)を、支持台の移送方向に沿って配置した場合、加熱工程は、各々の加熱エリアを利用して、2つの成形型を急速に加熱する第一の急熱プロセス(急熱室1)、第一の急熱プロセスを経た後の2つの成形型を更に高温に加熱する第二の急熱プロセス(急熱室2)、および、第二の急熱プロセスを経た後の2つの成形型の温度ばらつきを小さくすると共に、次工程であるプレス
成形工程の実施に適した温度に調整する均熱プロセス(均熱室)、以上の3つに分けて実施することができる。この場合、これら3つの加熱エリアを順次移送中の支持台の支持面上に配置された2つの成形型の支持台の移送方向に対する配列順序の逆転配置は、第二の急熱プロセスおよび均熱プロセスで各々実施することが好ましい。
【0043】
なお、加熱工程における加熱条件は、プレス成形工程を実施する直前のガラス素材の粘度が10
6〜10
9dPa・sになるように設定されることが好ましい。また、徐冷工程では、プレス成形工程後のガラス素材の温度が、当該ガラス素材のガラス転移温度Tg近傍の温度になるまで、時間と共に低下するように制御することが好ましい。
【0044】
また、支持台は、少なくとも2つの成形型を支持できるように構成されているものであればその形状は特に限定されないが、たとえば、円盤状等の単純な形状とすることができる。この場合、当該円盤の上面が支持面となる。また、支持台の上面に、成形型を配置するための円柱形状等からなる台座を設けてもよい。この場合、当該台座の頂面が支持面となる。
【0045】
なお、以上の説明においては、2つの成形型が、支持台の移送方向前方側と移送方向後方側とに各々配置された態様について主に詳述した。しかしながら、本実施形態のガラス成形体の製造方法は、3つ以上の成形型が、支持台の移送方向に沿って、支持台の支持面上に配置された態様でも同様に実施することができる。たとえば、支持台の移送方向に沿って、No.1−No.2−No.3の順(順配列)に3つの成形型を支持台に配置した場合には、支持台を180度回転させることで、成形型の配列順序をNo.3−No.2−No.1の順(逆配列)に変えることができる。このとき、No.1およびNo.3の成形型は、成形型の支持台の移送方向に対する配列順序が逆転したことで、配置位置の違いに起因する温度差が解消される。また、No.2の成形型は、順配列および逆配列のいずれであってもNo.1の成形型とNo.3の成形型との間に位置し続けるが、支持台を180度回転させることにより、移送方向の両側からの熱的影響を均等化できる。また、No.1−No.2−No.3−No.4の順(順配列)に4つの成形型を支持台に配置した場合には、支持台を180度回転させることにより、成形型の配列順序をNo.4−No.3−No.2−No.1の順(逆配列)に変えることができる。
【0046】
(ガラス成形体の製造装置)
次に、本実施形態のガラス成形体の製造装置について説明する。本実施形態のガラス成形体の製造装置は、本実施形態のガラス成形体の製造方法が実施可能な構成を有するものであれば特に限定されないが、具体的には以下のような構成を有することが好ましい。
【0047】
すなわち、本実施形態のガラス成形体の製造装置は、成形型内に収容されたガラス素材を軟化させるために、成形型を加熱する加熱部と、軟化したガラス素材をプレス成形するプレス成形部と、プレス成形されたガラス素材を冷却する冷却部と、支持面を有し、当該支持面上に複数の成形型を支持する支持台と、支持台を、加熱部、プレス成形部および冷却部へと順次移送させる支持台移送手段と、を少なくとも備え、支持面上に支持される複数の成形型が、支持台の移送方向に沿って配置され、加熱部が、支持台の移送方向の両側に沿って、複数の成形型を支持台の移送方向の両側から加熱できるように配置された加熱部材を備え、支持台が、支持台の支持面上に支持された複数の成形型の移送方向に対する配列順序を逆転させるように、回転移動可能であることが特に好ましい。
【0048】
なお、本実施形態のガラス成形体の製造装置では、加熱工程を実施する加熱部、プレス成形工程を実施するプレス成形部、冷却工程を実施する冷却部などの各工程を実施するプロセス実施部が、この順に、たとえば、直線方向に並べて配置されていてもよく、円周方向に並べて配置されていてもよい。なお、後者の配置態様(円周方向配置)を採用する場合、本実施形態のガラス成形体の製造装置は、支持台移送手段が、一方向に間欠的に回転可能な回転テーブルであり、回転テーブルの上面の外周側に、支持台が、回転テーブルの回転方向に沿って複数個配置され、かつ、回転テーブルの回転方向に沿って、少なくとも、加熱部、プレス成形部および冷却部がこの順に配置されていることが好ましい。また、支持台上に配置された複数の成形型の移送方向に対する配列順序を逆転させる手段としては特に限定されるものではないが、たとえば、支持台を、支持台の移送方向に対して180度回転させる回転移動機構を用いることができる。この場合、回転移動機構により、支持台を水平方向に回転させる。そして、この際の回転動作は、回転テーブル等の支持台移送手段から支持台を離間させた状態、あるいは、接触させた状態のいずれの状態で実施してもよいが、回転動作の安定性等の観点からは回転テーブル等の支持台移送手段から支持台を離間させた状態で実施することがより好ましい。また、この回転移動機構は、ガラス成形体製造装置の内部または外部に設置された回転機の駆動軸に連結される。
【0049】
図1は、本実施形態のガラス成形体の製造装置の一例を示す模式平面図であり、具体的には各工程を実施するプロセス実施部(処理室)が円周方向に配置された構成を有するガラス成形体の製造装置について示したものである。ここで、
図1に示すガラス成形体製造装置10は、支持台移送手段として、回転軸Aを有し、かつ、反時計回りの回転方向R1に、間欠的に回転可能な回転テーブル20を有している。そして、この回転テーブル20の上面の外周側に、20個の円盤状の支持台30が、回転テーブル20の回転方向R1に沿って等間隔に配置されている。ここで、
図1中、回転方向R1に沿って番号順に示した、アルファベット「P」と数字との組み合わせからなる符号:P1〜P20は、移送(移動)と停止とを繰り返しながら回転方向R1に回転テーブル20が間欠的に回転する過程において、回転テーブル20が停止した状態における支持台30の位置(以下、支持台停止位置と称す場合がある)を示すものである。また、支持台30上には、回転方向R1と平行かつ支持台の中心軸Xを通る支持台30の移送方向Mの前方側および後方側に、各々、円柱状の成形型支持部40A、40Bが設けられている。
【0050】
ここで、支持台停止位置P1、P2には2個の支持台30X(30)、30Y(30)が停止しており、各支持台30上には、それぞれ2つの成形型(
図1中、不図示)が載置される。そして、支持台停止位置P1,P2の近傍には、ガラス成形体製造装置10の外部で組み立てられた成形型を、ガラス成形体製造装置10内に搬入し、支持台停止位置P1、P2に停止している支持台30上に成形型を載置すると共に、所定のプロセスが終了した成形型をガラス成形体製造装置10外へと搬出する搬入・搬出手段(
図1中、不図示)が配置されている。また、支持台停止位置P3、P4の両側には、移送方向Mの両側に沿って略線対称に一対の加熱部材50(板状ヒータ50A、50B)が配置され、その後段の支持台停止位置P5〜P16の両側にも同様に、
移送方向Mの両側に沿って略線対称に一対の加熱部材51〜56(板状ヒータ51A、51B〜56A、56B)が配置されている。
【0051】
また、
図1中の符号S1〜S8は、各プロセス実施部における温度環境を維持するために設けられた仕切り板である。ここで仕切り板S1、S2、S3、S4、S5、S6、S7、S8は、各々、支持台停止位置P2−P3間、P4−P5間、P6−P7間、P8−P9間、P10−P11間、P12−P13間、P14−15間、P16−P17間に配置される。そして仕切り板S1〜S8は、回転テーブル20の回転に伴って支持台30および成形型が仕切り板S1〜S8を通過する際、自動的に開閉するシャッター機構を具備している。ただし、加熱部HT3とプレス成形部PRとの間の仕切り板S4は省略してもよい。
【0052】
支持台停止位置P9、P10に停止する2つの支持台30の成形型支持部40A、40Bの真上には、これら支持台30上に載置された4つの成形型の上面を押圧する押圧手段(図中、不図示)が配置されている。また、支持台停止位置P13〜P16に停止する4つの支持台30の成形型支持部40A、40Bの真上には、これら支持台30上に載置された8つの成形型の上面を押圧する押圧手段(図中、不図示)が配置されている。さらに、支持台停止位置P17〜P20の近傍には、これらの位置に停止する支持台30上に載置された成形型(図中、不図示)を急冷するための冷却手段(たとえば、冷却ガス吹き付けノズルなど)が配置されている。
【0053】
ここで、板状ヒータ50A、50B、51A、51B、52A、52B、・・・・56A、56Bの、回転テーブル20上面と平行な面における断面形状は、
移送方向Mと平行を成すように円弧状を成すものである。なお、一対の加熱部材50においては、内周側に配置された板状ヒータ50Aよりも、外周側に配置された板状ヒータ50Bの方が、移送方向Mと平行な方向の長さが長いが、この点を除けば略同一の形状、サイズおよび発熱量を有するものである。また、この点は、一対の加熱部材51〜56についても同様である。また、回転テーブル20は、回転方向R1に関して互いに隣り合う2つの支持台30を1セットとして、36度毎に間欠的に回転する。すなわち、支持台30X、30Yは、奇数番号(または偶数番号)の支持台停止位置から、次の奇数番号(または次の偶数番号)の支持台停止位置へと、移送と停止とを繰り返しながら
移送方向Mに沿って順次移動する。このため、
図1に示すガラス成形体製造装置10では、同時に4つの成形型について、プレス成形工程を実施できる。
【0054】
したがって、
図1に示すガラス成形体製造装置10では、プロセス実施部として、支持台停止位置P1、P2に対応する位置に、成形体の搬入や搬出を行う搬入・搬出工程を実施する搬入・搬出部(LD/ULD)が設けられ、支持台停止位置P3〜P8に対応する位置に、加熱工程を実施する加熱部(HT1、HT2、HT3)が設けられ、支持台停止位置P9、P10に対応する位置に、プレス成形工程を実施するプレス成形部(PR)が設けられ、支持台停止位置P11、P12に対応する位置に、徐冷工程(冷却工程)を実施する冷却部(徐冷部)(SC)が設けられ、支持台停止位置P13〜P16に対応する位置に、徐冷工程を行いつつ再プレス成形工程を実施する再プレス成形
部(RPR1、RPR2)が設けられ、支持台停止位置P17〜P20に対応する位置に、急冷工程(冷却工程)を実施する冷却部(急冷部)(RC1、RC2)が設けられていることになる。ここで、各プロセス実施部では、より具体的には、たとえば、下記の表1に示す処理を実施できる。
【0056】
ここで、1つの支持台30の成形型支持部40A、40B上に各々配置された2つの成形型の移送方向Mに対する配列順序の逆転(逆転動作)は、加熱部HT1、加熱部HT2、加熱部HT3、冷却部(徐冷部)SC、冷却部(急冷部)RC1、冷却部(急冷部)RC2から選択される少なくともいずれか1つ以上のプロセス実施部で実施される。また、必要であれば上記に列挙した以外のプロセス実施部でも逆転動作を実施してもよい。しかしながら、表1に示した態様では、成形型間の温度ばらつきをより小さくする観点から、逆転動作は、加熱部HT2、加熱部HT3、および、冷却部(徐冷部)SCで実施することが好ましい。なお、プロセス実施部として、加熱部、プレス成形部および冷却部を各々少なくとも1つ備えているのであれば、本実施形態のガラス成形体の製造装置は、
図1に示す態様には特に限定されず、たとえば、
図1に示すガラス成形体製造装置10に対して、回転テーブル20に設けられる支持台30の数をより少なくして簡略化した構成としてもよく、回転テーブル20に設けられる支持台30の数をより多くして複雑化した構成としてもよい。また、プロセス実施部における加熱工程、プレス成形工程、徐冷工程、再プレス成形工程、急冷工程の数を適宜増減してもよく、この場合、回転テーブル20の間欠的な回転角度は、プロセス実施部の数に応じて適切な角度に設定することが好ましい。
【0057】
次に、
図1に示すガラス成形体製造装置10における逆転動作の具体例について説明する。
図2〜
図4は、
図1に示すガラス成形体製造装置10における逆転動作の一例を示す模式断面図であり、具体的には、回転テーブル20が停止している状態における1つの支持台30近傍の移送方向Mと略平行な面の断面について示した図である。ここで、
図2〜
図4中、
図1に示すものと同様のものについては同じ符号が付してある。
【0058】
図2に示すように、回転テーブル20には貫通穴22が設けられており、回転テーブル20の上面20Uに配置された支持台30はこの貫通穴22を塞ぐように配置されている。この支持台30の底面30Bは、貫通穴22を介して鉛直方向に伸びる支持柱32に接続されている。ここで、支持台30、支持柱32および貫通穴22の各中心軸は一致している(図中に示す符号Xで示される一点鎖線)。なお、カム駆動機構(
図2〜4中、不図示)などと共に回転移動機構の一部を構成する支持柱32は、鉛直方向に昇降すると共に、水平方向に回転することができる。一方、支持台30の上面30Uには、支持台30および支持柱32の中心軸Xに対して点対称に、移送方向Mの前方側と後方側とに、それぞれ円柱状の成形型支持部40A、40Bが形成されている。そして、成形型支持部40A、40Bの頂面(支持面)42A、42Bには、それぞれ成形型60A(60)、60B(60)が配置されている。
【0059】
逆転動作を行う場合、まず、支持柱32が上方Uに上昇することで、支持台30が、回転テーブル20から離間するように、回転テーブル20の上方側へと移動し、回転テーブル20の上面20Uから所定の高さ位置(例えば、2mm〜50mm)に達した時点で、支持台30の上方への移動は停止する(
図2および
図3)。次に、支持台30は、支持柱32の回転により、中心軸Xを回転軸として矢印R2方向に180度回転する(
図3)。これにより、支持台30上において、中心軸Xに対して
移送方向Mの前方側に位置していた成形型支持部40Aおよび成形型60Aは、中心軸Xに対して移送方向Mの後方側へと移動し、中心軸Xに対して移送方向Mの後方側に位置していた成形型支持部40Bおよび成形型60Bは、中心軸Xに対して移送方向Mの前方側へと移動する(
図4)。その後、
図4に示すように、支持柱32が下方Dに下降することで、支持台30の底面30Bが、回転テーブル20の上面20Aと接触する位置まで降下する。これにより、成形型60A、成形型60Bについて、移送方向に対する配列順序が逆転した以外は、
図2に示す状態と同様となる。
【0060】
なお、
図2〜
図4に示す逆転動作は、支持台30の上昇、回転および降下、からなる3つの動作の組み合わせにより実現されるが、上昇および降下を省いてもよい。
【0061】
また、
図1における搬入・搬出部(LD/ULD)における成形型支持部40A、40Bの移送方向Mに対する配列順序(40Aが移送方向前方側、40Bが移送方向後方側)は、一連のプロセスが完了して回転テーブル20が1回転した時点において、プロセス実施前の移送方向Mに対する配列順序と同じであることが好ましい。
【0062】
なお、
図1に示すガラス成形体製造装置10では、成形素材70を収容した複数の成形型60を支持台30で保持した状態で、回転テーブル20を回転方向R1(反時計回り方向)に間欠的に回転させる。そして、これにより、支持台30を間欠的に移送して、各プロセス実施部にて各工程を実施する。しかしながら、回転方向R1に沿って配置される各プロセス実施部は、
図1に示す形態とは逆向きに配置した上で、回転テーブル20も逆方向に回転させることで支持台30も回転方向R1と反対方向(時計回り方向)に間欠的に移送してもよい。
【0063】
また、
図1に示すガラス成形体製造装置10では、2つの支持台30(30X、30Y)を1セットとして、これらを同時に、同一のプロセス実施部において各種処理を実施している。しかしながら、1つのプロセス実施部での処理形態は、2つの支持台30を1セットとして同時に処理する形態以外にも、たとえば、1つの支持台30のみを処理する形態でもよく、3つまたはそれ以上の数の支持台30を1セットとして同時に処理する形態でもよい。
【0064】
−成形型−
次に、本実施形態のガラス成形体製造方法および本実施形態のガラス成形体製造装置10に用いることができる成形型としては、公知の成形型が利用できる。この成形型としては、鉛直方向に対向配置される上型および下型と、上型と下型を同軸上に支持する胴型とを、を少なくとも備えたものが用いられる。ここで、ガラス成形体の製造に際しては、上型と下型との間にガラス素材が配置される。
【0065】
図5は、本実施形態のガラス成形体の製造方法および本実施形態のガラス成形体の製造装置に用いられる成形型の一例を示す模式断面図であり、具体的には凹レンズ製造用の成形型について示した図である。
図5に示す成形型60は、円筒状の胴型62と、胴型62の内周側に互いの成形面が対向するように嵌挿された上型64および下型66とを有し、上型64および下型66の間にガラス素材70(成形素材)が配置されている。ここで、上型64は、凸状の成形面64Aを備えた円柱状の部材であり、成形面64Aと反対側にはリング状の鍔部64Bが設けられている。ここで、成形面64Aは、たとえば非球面とすることができる。この上型64は、胴型62の軸方向に移動可能であり、プレス成形に際しては、鍔部64Bが設けられた側の面が、押圧部材により押圧されることで、下型66側へと移動する。下型66は凹面または略平面状の成形面66Aを備えた円柱状の部材であり、成形面66Aと反対側には鍔部66Bが設けられている。また、
図5に示すガラス素材70は、プレス成形前の状態を示したものであり、略円盤状を成している。なお、
図5に示す成形型60は、凹レンズ作製用のものであるが、凸レンズを作製したい場合は、成形面64Aを凹状とすることができる。ガラス成形体の製造に際しては、成形型60は、下型66の底面66Cが、成形型支持部40A、40Bの頂面42A、42Bに接触するように配置される。そして、プレス成形工程を実施する際に、加熱によって軟化した状態のガラス素材70が、上型64と下型66とによりプレス成形され、各成形面64A、66Aの形状がガラス素材70に精密に転写される。
【0066】
成形型60を構成する材料としては、作製するガラス成形体の形状に応じた精密な形状加工が可能であること、鏡面加工が可能であること、および、繰り返しプレス成形に耐える硬度や耐熱性を有すること、以上の3点を満たす材料であれば特に制限なく公知の材料が利用できる。このような材料としては、たとえば、SiC、WC、TiC、TaC、BN、TiN、AlN、Si
3N
4、SiO
2、Al
2O
3、ZrO
2、W、Ta、Mo、サーメット、サイアロン、ムライト、カーボンファイバー、WC−Co合金等が挙げられる。
【実施例】
【0067】
次に、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
図1に示すガラス成形体製造装置10において、表1に示すプロセスを実施する際に、加熱部HT2および加熱部HT3の双方において、逆転動作を実施した場合における、加熱部HT1、HT2、HT3における加熱処理終了直後での、成形型60Aの温度T1、成形型60Bの温度T2、および、温度差ΔT(=|T1−T2|)について評価した。ここで、温度T1、T2は、正確には、成形型支持部40A、40Bの頂面42A、42B近傍に配置した熱電対により測定された値を意味する。また、用いた成形型60は、高さが約70mm、直径が約50mmであり、プレス成形体の直径が約30mm、該プレス成形体の外周部を芯取り加工した後の直径が20mmの凹メニスカスレンズ製造用のものである。
【0069】
なお、温度T1、T2、温度差ΔTについては、搬入・搬出工程において互いに隣接する2つの支持台30について測定した。具体的には、
図6に示すように、支持台停止位置
P2において、移送方向Mの前方側(以下、Pos(A)と称す)に位置する成形型60Aの温度をT1(A)、移送方向Mの後方側(以下、Pos(B)と称す)に位置する成形型60Bの温度をT2(B)、T1(A)とT2(B)との差の絶対値をΔT(A−B)とし、支持台停止位置
P1において、移送方向Mの前方側(以下、Pos(C)と称す)に位置する成形型60Aの温度をT1(C)、移送方向Mの後方側(以下、Pos(D)と称す)に位置する成形型60Bの温度をT2(D)、T1(C)とT2(D)との差の絶対値をΔT(C−D)とした。なお、
図6は、支持台停止位置P1、P2に停止している2つの支持台30と、この支持台30上に載置された成形型60の配置関係とについて示したものである。よって、移送方向Mに対するPos(A)とPos(B)との配列順序、および、移送方向Mに対するPos(C)とPos(D)との配列順序は、支持台停止位置P5、P6において1回目の逆転動作が実施される前までは維持される。一方、支持台停止位置P5、P6において1回目の逆転動作を終えた後は、
図7に示すように、移送方向Mに対するPos(A)とPos(B)との配列順序が逆転し、移送方向Mに対するPos(C)とPos(D)との配列順序が逆転する。すなわち、移送方向Mに対して、前方側から後方側へと、Pos(B)、Pos(A)、Pos(D)、Pos(C)の順に配列されることになる。しかしながら、支持台停止位置P7、P8において2回目の逆転動作を終えた後は、
図6に示した場合と同様に、移送方向Mに対して、前方側から後方側へと、Pos(A)、Pos(B)、Pos(C)、Pos(D)の順に配列されることになる。以下、表2に、T1(A)、T2(B)、ΔT(A−B)の測定結果を示し、表3にT1(C)、T2(D)、ΔT(C−D)の測定結果を示す。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
(比較例1)
逆転動作を全く行わなかった以外は、実施例1と同様の条件で、加熱部HT1、HT2、HT3にて成形型60の加熱処理を行い、T1(A)、T2(B)、ΔT(A−B)、T1(C)、T2(D)、ΔT(C−D)を測定した。結果を表4および表5に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
実施例1では、逆転動作を2回実施することにより、加熱部HT1での加熱処理終了後において各々50℃を示したΔT(A−B)、ΔT(C−D)は、加熱部HT3での加熱処理終了後では、各々0℃にまで大幅に改善された。また、加熱部HT3での加熱処理終了後において、Pos(A)〜Pos(D)における4つの位置間での温度差も0℃に抑制することができた。そして、各種プロセスを実施して得られた凹メニスカスレンズは、目標形状に対する形状誤差がニュートンリング1本以内であり、面精度や肉厚精度が極めて良好であった。
【0076】
一方、逆転動作を全く実施しなかった比較例1では、加熱部HT1での加熱処理終了後において各々50℃を示したΔT(A−B)、ΔT(C−D)は、加熱部HT3での加熱処理終了後においても、各々10℃であった。すなわち、Pos(A)とPos(B)との間、および、Pos(C)とPos(D)との間における温度ばらつきは充分に改善されなかった。また、加熱部HT3での加熱処理終了後において、Pos(A)〜Pos(D)における4つの位置間での温度差も7℃であり、4つの位置間における温度ばらつきも大きいままであった。しかるに、各種プロセスを実施して得られた凹メニスカスレンズは、目標形状に対する形状誤差がニュートンリング4本以上のものもあり、面精度や肉厚精度のばらつきが大きく、歩留まりの低下を招く結果であった。