特許第5784222号(P5784222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5784222中性子遮蔽用エポキシ樹脂組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5784222
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】中性子遮蔽用エポキシ樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 1/10 20060101AFI20150907BHJP
   G21F 1/08 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   G21F1/10
   G21F1/08
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-510258(P2014-510258)
(86)(22)【出願日】2012年5月11日
(65)【公表番号】特表2014-514587(P2014-514587A)
(43)【公表日】2014年6月19日
(86)【国際出願番号】KR2012003721
(87)【国際公開番号】WO2012157903
(87)【国際公開日】20121122
【審査請求日】2014年1月8日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0045085
(32)【優先日】2011年5月13日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500002490
【氏名又は名称】コリア アトミック エナジー リサーチ インスティチュート
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】キム ジェ−ウ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ジ−ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ペ ヨン−ジュ
【審査官】 青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−132893(JP,A)
【文献】 特表2002−512286(JP,A)
【文献】 特開昭60−194394(JP,A)
【文献】 特開2010−230411(JP,A)
【文献】 特開2010−038615(JP,A)
【文献】 特開2003−255081(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0102279(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0254171(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0226673(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 1/10
G21F 1/08
G21F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子吸収用ホウ素化合物粉末、ガンマ線遮蔽用高密度金属粉末及び難燃剤粉末を含む混合物にアミン系硬化剤を混合して硬化剤と粉末との混合物を得る混合段階と、
前記混合物に超音波ホーンを直接に入れて超音波を加えて前記粉末表面をアミン系硬化剤でコーティングしてコーティング層を形成しながら硬化剤内に分散させる超音波処理段階と、
前記超音波処理された粉末が分散されたアミン系硬化剤をエポキシ樹脂と混合し、分散させる分散段階と
を含む、中性子遮蔽用エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ホウ素化合物は、BC、BN、B及びB(OH)からなるグループより選択される少なくとも一つであり、前記高密度金属粉末は、Fe、Ni、Cu、W、Pb及びこれらの酸化物からなるグループより選択される少なくとも一つであり、前記難燃剤は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなるグループより選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の中性子遮蔽用エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ホウ素化合物及び高密度金属粉末は、粒子サイズが200nm以上1000nm未満である、請求項1に記載の中性子遮蔽用エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記難燃剤は、粒子サイズが200nm以上10μm以下である、請求項1に記載の中性子遮蔽用エポキシ樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の方法によって製造されたエポキシ樹脂組成物を一定形状に成形した後、乾燥硬化する段階を含む、中性子遮蔽材の製造方法。
【請求項6】
エポキシ樹脂100重量部に対し、
アミン硬化剤40〜60重量部と、
粒子サイズが200nm以上1000nm未満、前記アミン硬化剤でコーティングされた中性子吸収用ホウ素化合物粉末を樹脂組成物全体重量に対して1〜10重量%と、
子サイズが200nm以上1000nm未満、前記アミン硬化剤でコーティングされた2次ガンマ線遮蔽用高密度金属粉末を樹脂組成物全体重量に対して1〜30重量%と、
子サイズが200nm〜10μm、水酸化アルミニウム粉末、水酸化マグネシウム粉末またはこれらの混合物である難燃剤粉末を樹脂組成物全体重量に対して10〜30重量%と
を含む、放射線遮蔽用エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記ホウ酸化合物粉末はBC、BN、B及びB(OH)からなるグループより選択される少なくとも一つであり、前記高密度金属粉末はFe、Ni、Cu、W、Pb及びこれらの酸化物からなるグループより選択される少なくとも一つである、請求項に記載の放射線遮蔽用エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記水酸化アルミニウム粉末または水酸化マグネシウム粉末は、アミン硬化剤でコーティングされる、請求項に記載の放射線遮蔽用エポキシ樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの中性子吸収物質及び高密度金属物質、難燃物質を含む中性子遮蔽能に優れた使用済み核燃料輸送容器における中性子遮蔽用ナノ複合エポキシ樹脂組成物及びその樹脂組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近は、原子力産業の発展に伴い、原子力発電所の安全な運営が社会的に重要なイシューとして浮き彫りになっている。中でも、使用済み核燃料の安全かつ効率的な管理は、原子力産業の安全性を向上させるための多様な要因のうち、非常に重要な課題である。原子力発電所の核燃料(濃縮ウラン)は、使用周期が終わると新たな核燃料に交換されるため使用済み核燃料が周期的に排出されており、このような使用済み核燃料も放射線を放出し続けるため放射線を適切に遮蔽することは非常に重要な課題となる。
【0003】
使用済み核燃料は、世界的に乾式または湿式の二つの方式で貯蔵されている。韓国国内では、発電所敷地内の貯蔵庫に湿式及び乾式の方式で一時貯蔵されている実情にある。使用済み核燃料を敷地内で一定期間保管したり、または中間貯蔵施設や永久処分施設、再処理施設などに保管するためには、輸送容器(キャスク)を用いて外部に移動させる必要がある。このとき、このような使用済み核燃料の輸送容器には中性子遮蔽材を充填しなければならない。一般に、中性子遮蔽材としては、水素含量の多いエポキシや高密度ポリエチレン、ポリスチレン、水、エチレングリコールなどを用いる。
【0004】
放射線遮蔽材は、人体に加える放射線量を最小限に抑え、放射線によって構造材料または機器材料が損傷されないようにしなければならない。特に、使用済み核燃料から発生する中性子は、エネルギーが高く、強い透過力を有することから、上記のような高エネルギー中性子を安全かつ確実に遮蔽することができる中性子遮蔽材の開発が行われている。
【0005】
上記中性子は、エネルギーによって高速中性子と熱中性子に区分される。高速中性子は、水素のような軽い元素と衝突して減速し、エネルギーを失って熱中性子化される。このような熱中性子は、熱中性子の吸収断面積が大きいボロン、リチウム及びガドリニウムのような物質によって最終的に吸収される。
【0006】
このため、高速中性子遮蔽材として水素密度が高い高分子化合物である、エチレングリコール、ポリエチレンなどのポリオレフィン系熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂に熱中性子を吸収することができる遮蔽物質を混合した素材が用いられている。
【0007】
一方、上記中性子によって2次ガンマ線も生成されるが、このような2次ガンマ線は、高密度金属粉末を混合することで遮蔽することができる。上記高密度金属粉末は、遮蔽材密度が一般的に1.6g/cm以上になるように添加される。
【0008】
また、火事が発生した場合に中性子遮蔽能を維持することができる中性子遮蔽材も開発されている。これに関しては、難燃剤として水酸化アルミニウム粉末や水酸化マグネシウム粉末などが混合された中性子遮蔽材が提案されている。
【0009】
上記の通り、添加される中性子吸収粒子としては、マトリックスである高分子樹脂内における分散性及び中性子に対する遮蔽性を考慮して平均粒径10〜200μmサイズを有する中性子遮蔽粉末が用いられてきた。しかし、このような中性子遮蔽物質、高密度金属粉末及び難燃剤粒子のサイズは、殆どがマイクロメートル単位以上と非常に大きいため、放射線が漏れるという短所があり、このような粒子が異物となって複合材の物性を低下させる要因として作用する。
【0010】
上記のような短所を克服するためには、放射線と中性子遮蔽物質及び高密度金属粒子との衝突確率を高める必要があり、粒子を微細化して用いることで、放射線遮蔽効率を高める方法が考えられる。
【0011】
一方、ナノサイズの放射線遮蔽物質を用いる場合、放射線遮蔽能及び複合材物性の向上などの多くの長所があるが、上記ナノサイズの遮蔽物質は表面エネルギーが高くて高分子の粘度を増加させるためマトリックス樹脂に混練することが困難であり、ナノ粒子が不安定な状態に存在するため粒子間に凝集しようとする性質を有し、ナノ粒子を高分子樹脂に分散させることが非常に難しい。
【0012】
一般に、高分子樹脂にナノサイズの粉末を分散させる場合は、粉末間の凝集を防止し、樹脂内における界面接着性を向上させることが重要となる。このため、一般的に界面活性剤を用いることで粒子表面を化学的に処理する方法が用いられている。
【0013】
但し、界面活性剤を用いる化学的表面処理過程は複雑で、界面活性剤自体が異物として作用する可能性がある。また、高価な工程であることから高分子(エポキシ)複合材の製造における経済的ダメージが大きい。
【0014】
しかし、本発明者らは、遮蔽材内において放射線遮蔽物質の粒子サイズが放射線遮蔽の性能に大きな影響を及ぼし、具体的には、遮蔽材内にナノサイズの放射線遮蔽物質が含まれる場合、入射される放射線との衝突確立が増加するようになって放射線遮蔽効果を向上させることができる点を見出した。これに基づいて、ナノサイズの放射線遮蔽物質粒子を均一に高分子基材などに分散させた放射線遮蔽材に関して特許出願し(韓国公開特許第2010−0047510号)、上記特許文献にもナノ粒子の均一な分散のためにボールミル工程でナノ粒子を製造する過程において高分子樹脂との親和度が高い界面活性剤でナノ粒子を物理的表面処理して高分子樹脂に溶融混合する技術を記載した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、中性子遮蔽能に優れたエポキシ樹脂組成物に関するもので、ナノサイズの中性子吸収材及びガンマ線遮蔽用高密度金属粉末を簡単な方法で物理的に表面コーティングすることで、エポキシ樹脂内に均一に分散させ、ナノ粉末と高分子との界面接着性を向上させて複合材の放射線遮蔽能を向上させるとともに、機械的物性を大幅に向上させることができるエポキシ樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【0016】
また、本発明の目的は、このような方法によって得られたエポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、中性子遮蔽用エポキシ樹脂組成物を製造する方法に関するもので、中性子吸収用ホウ素化合物粉末、選択的に含まれるガンマ線遮蔽用高密度粉末及び難燃剤粉末を含むそれぞれの粉末または上記粉末の混合物にアミン系硬化剤を混合することで硬化剤と粉末との混合物を得る混合段階と、上記各混合物に超音波を加えて上記粉末表面をアミン系硬化剤でコーティングしながら硬化剤内に分散させる超音波処理段階と、上記超音波処理された粉末が分散されたアミン系硬化剤をエポキシ樹脂に混合し、分散させる分散段階と、を含む中性子遮蔽用エポキシ樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0018】
上記ホウ素化合物は、BC,BN,B及びB(OH)からなるグループより選択される少なくとも一つであることが好ましい。上記高密度金属粉末は、Fe、Ni、Cu、W、Pb及びこれらの酸化物からなるグループより選択される少なくとも一つ、上記難燃剤は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなるグループより選択される少なくとも一つであることができる。
【0019】
また、上記ホウ素化合物及び高密度金属粉末は、粒子サイズが200nm以上1000nm以下であるものを用いることが好ましい。
【0020】
また、上記難燃剤は、粒子サイズが200nm以上10μm以下であるものを用いることができる。
【0021】
また、上記超音波処理は、アミン硬化剤と、ホウ素化合物、高密度金属及び選択的に難燃剤粉末とがそれぞれ混合された混合物に超音波ホーンを直接入れて超音波を加えることで行われる。
【0022】
また、本発明は、上記製造されたエポキシ樹脂組成物を一定形状に成形した後、乾燥硬化する段階を含む中性子遮蔽材の製造方法を提供する。
【0023】
本発明は、エポキシ樹脂100重量部に対してアミン硬化剤40〜60重量部と、粒子サイズが200nm以上1000nm以下であり、上記アミン硬化剤で表面処理された中性子吸収用ホウ素化合物粉末を樹脂組成物全体重量に対して1〜10重量%含み、選択的に粒子サイズが200nm以上1000nm以下であり、上記アミン硬化剤で表面処理された2次ガンマ線遮蔽用高密度金属粉末を樹脂組成物全体重量に対して1〜30重量%と、選択的に粒子サイズが200nm以上10μm以下であり、水酸化アルミニウム粉末、水酸化マグネシウム粉末またはこれらの混合物を樹脂組成物全体重量に対して10〜30重量%含む放射線遮蔽用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0024】
上記ホウ酸化合物粉末は、BC、BN、B及びB(OH)からなるグループより選択される少なくとも一つ、上記高密度金属粉末は、Fe、Ni、Cu、W、Pb及びこれらの酸化物からなるグループより選択される少なくとも一つを用いることが好ましい。
【0025】
また、上記水酸化アルミニウム粉末または水酸化マグネシウム粉末は、アミン硬化剤で表面処理されたものを用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、直接超音波分散法を用いることで、ナノサイズの粉末を非常に簡単かつ効果的にエポキシマトリックス内に均一に分散させることができ、エポキシマトリックスと中性子遮蔽材粉末との強力な結合を図ることができるため、いかなる化学的処理及び不純物も使用せずに、ナノサイズの粉末による中性子及びガンマ線のような放射線を遮蔽する優れた性能を得ることができ、遮蔽材の機械的特性を向上させることができる。
【0027】
本発明によって得られる放射線遮蔽材は、中性子吸収及びガンマ線遮蔽のために添加される物質をナノ化することができるため基本的により薄くて軽い遮蔽材を得ることができ、樹脂マトリックスと粒子との界面接着性を向上できるため遮蔽材の優れた物性を得ることができる。これにより、使用済み核燃料に対する輸送容器のエポキシに基づいた中性子遮蔽材の製造に効果的に活用されることができ、その他の中性子吸収粉末の高分子分散にも直接活用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の直接超音波分散法によって硬化剤にBCナノ粒子を分散させる工程を概略的に示した工程概念図である。
図2】超音波容器内においてエポキシによって表面処理される前(a)とされた後(b)のBC粒子の表面モフォロジーを示す写真である。
図3】多様な条件で製造された5重量%のBC/エポキシ複合材の破断表面のSEMイメージで、(a)は何の表面処理も施していないraw−BC、(b)は直接超音波処理を施していないエポキシ−コーティングされたBC(上記図2の(b)に該当)、(c)は直接超音波表面処理−分散されたraw−BC及び(d)は直接超音波表面処理−分散されたエポキシ−コーティングされたBCに対するSEMイメージである。
図4】多様な条件下においてBCが分散されたアミン硬化剤のFTIRスペクトルで、(a)は直接超音波表面処理−分散されたBC/硬化剤混合物、(b)は直接超音波処理されていない無処理BC/硬化剤混合物、(c)は純粋な硬化剤、(d)は直接超音波処理されていないエポキシ−コーティングされたBC/硬化剤混合物、(e)は直接超音波処理されたエポキシ−コーティングされたBC/硬化剤混合物に関するFTIRスペクトルである。
図5】純粋なエポキシマトリックス及び多様な条件で製造されたBC/エポキシ複合体の最終引張強度を示すグラフである。
図6】純粋なエポキシマトリックス及び多様な条件で製造されたBC/エポキシ複合体のヤングモジュラスを示すグラフである。
図7】2.5重量%のBCを含むBC/エポキシ複合材に対するBC粉末の粒度による熱中性子遮蔽能を、MCNP(Monte Carlo n−Particles)プログラムを用いて評価した結果を示すグラフである。
図8】複合材に含まれるPbO粉末が直接超音波処理されたか否かによるPbO/エポキシ複合材の引張強度値を示すグラフである。
図9】粒子サイズに対する相対的な中性子フラックスを示す図面である。
図10】1MeVのガンマ線に対して用いられた粒子サイズによる相対的なガンマフラックスを示した図面である。
図11】0.1MeVのガンマ線に対して用いられた粒子サイズによる相対的なガンマフラックスを示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、中性子吸収用ホウ素化合物及びガンマ線遮蔽用高密度金属の粉末、特にナノサイズの粉末の表面をコーティング処理することで、ナノサイズの粉末が凝集する現象を防止して粉末を高分子マトリックスに均一に分散させ、上記ナノサイズの粉末と高分子との界面接着性を向上させるためのものである。このため、分散しようとするナノサイズの粉末が混合された硬化剤に超音波ホーンを入れて直接的に上記ナノ粉末及び硬化剤を活性化することで、ナノ粉末の表面をコーティング処理する方法及びこれによって得られる中性子遮蔽能を有するエポキシ樹脂組成物を提供する。
【0030】
本発明の中性子遮蔽用樹脂組成物は、主剤としてエポキシ樹脂のマトリックスに上記エポキシ樹脂に対する硬化剤中性子吸収粉末及び2次ガンマ線遮蔽用高密度金属粉末を含ませる。また、難燃剤を混合することで難燃性を与えることができる。
【0031】
上記主剤として用いられるエポキシ樹脂とは、架橋することができるエポキシ基を含有する樹脂を意味する。本発明で用いることができるエポキシ樹脂としては、本技術分野において一般的に用いられるものであれば特に限定されず、いかなるものも用いることができる。具体的には、グリシジルエーテル型/二官能フェノール型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型/多官能フェノール型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型/アルコール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂などを挙げることができ、これらエポキシ樹脂の環構造に水素を入れた水素添加エポキシ樹脂を混合して用いることができる。このようなエポキシ樹脂は、1種類のエポキシ樹脂を用いてもよく、2種類以上のエポキシ樹脂を混合して用いてもよい。
【0032】
本発明の中性子遮蔽用樹脂組成物は、エポキシ樹脂と反応して架橋構造を形成するもので、アミン系硬化剤、酸及び酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤などを挙げることができ、好ましくはアミン系硬化剤を用いることができる。また、アミン系硬化剤のうち脂環式アミン系硬化剤や芳香族アミン系硬化剤などの環構造を有する硬化剤は、耐熱性が高いため本発明の組成物に好ましく用いられる。硬化剤は、1種類の硬化剤を用いることができ、2種以上の硬化剤を混合して用いることもできる。
【0033】
上記硬化剤は、用いられる硬化剤の種類や他の成分の種類、含有量などによって異なることができるが、アミン系硬化剤を例に挙げて説明すると、上記エポキシ樹脂100重量部に対して40〜60重量部含むことができる。エポキシ樹脂に対するアミン硬化剤の含量が40重量部未満であると硬化剤としての効果が弱く、60重量部を超過すると過度に早く硬化して充填などに必要な作業時間を確保することができなくなる。
【0034】
一方、本発明の中性子遮蔽用樹脂組成物は、中性子吸収用ホウ素化合物粉末及びガンマ線遮蔽用高密度金属粉末を含む。このようなホウ素化合物は、微量配合されて中性子吸収材としての機能を有するもので、本技術分野において中性子吸収に広く用いられている。このように、本技術分野において中性子吸収能があるものであれば特に限定されず用いることができる。
【0035】
中性子吸収能を有するホウ素化合物としては、これに限定されないが、例えば、低速中性子及び熱中性子に対して大きい吸収断面積を有する窒化ホウ素、無水ホウ酸、ホウ化鉄、正ホウ酸、炭化ホウ素、メタホウ酸などのホウ素化合物を挙げることができる。このようなホウ素化合物は、1種類のホウ素化合物を用いることができ、2種類以上のホウ素化合物を混合して用いることもできる。このうち、炭化ホウ素(BC)は、温度によって変化されず、水分を吸収しないなど、化学的に安定性が高く、高分子を主体にした中性子遮蔽材料に及ぼす影響が大きくないため特に好ましい。
【0036】
上記ホウ素化合物は粉末で用いられ、その粒径及び添加量は適切に調節して添加されることができる。ホウ素化合物の添加量は、用いられるホウ素化合物の種類や他の成分の種類、含有量によって変動されるが、例えば、樹脂組成物全体重量に対して1〜10重量%の範囲で含まれることが好ましい。上記ホウ素化合物の含量が1重量%未満の場合は、添加されたホウ素化合物による中性子遮蔽能の効果が低く、10重量%を超過する場合は、遮蔽材の水素濃度及び遮蔽材の物性が低下するという問題があるため好ましくない。
【0037】
また、本発明の中性子遮蔽用樹脂組成物は、遮蔽材の密度を増加させてガンマ線を遮蔽するための高密度金属粉末を含む。上記ガンマ線遮蔽のための高密度金属としては、これに限定されないが、例えば、Fe、Ni、Cu、W、Pb及びこれらの酸化物を挙げることができる。このような高密度金属粉末は、1種類の粉末を用いることができ、2種類以上の粉末を混合して用いることもできる。このうち、酸化鉛(PbO)が化学的安定性が高く、安価で、高分子を主体にした中性子遮蔽材に及ぼす影響が大きくないため、特に好ましい。
【0038】
上記高密度金属物質は粉末で用いられ、その粒径及び添加量は適切に調節して添加されることができる。高密度金属粉末の添加量は、用いられる粉末の種類や他の成分の種類、含有量などによって変動されることができるが、樹脂組成物全体重量に対して1〜30重量%の範囲で含まれることが好ましい。高密度金属粉末が1重量%未満の場合は、遮蔽材の密度増加効果が低く、30重量%を超過する場合は、遮蔽材の水素濃度低下及び物性低下の問題がある。
【0039】
従来は、上記中性子吸収用ホウ素化合物またはガンマ線遮蔽用高密度金属粉末粒子については、樹脂内の分散性及び放射線遮蔽性を考慮して平均粒径10〜200μm程度のマイクロサイズの粉末が用いられてきた。即ち、放射線遮蔽性を考えると、粒子が小さいほど好ましいが、エポキシ樹脂内における分散性限界を考慮するとさらに小さいナノサイズの粒子の使用には限界があった。
【0040】
しかし、本発明では中性子吸収及びガンマ線遮蔽のためにナノメートルサイズの平均粒径を有するナノサイズの粉末を用いても、後述する本発明の方法によってエポキシ樹脂内に均一な分散性を確保することができるため、中性子吸収用ホウ素化合物及びガンマ線遮蔽用高密度金属をナノメートルサイズを有する粉末に適用することができる。また、このようにナノメートルサイズの粉末が均一に分散される場合は、本発明の組成物によって得られる遮蔽材の放射線遮蔽能及び機械的特性を強化させることができる。
【0041】
ナノサイズの中性子吸収用ホウ素化合物及びガンマ線遮蔽のための高密度金属粉末を均一に分散させるべく、本発明では超音波ホーンを用いる。より具体的には、図1に概略的に示されているように、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂に対する硬化剤にナノサイズの粉末を混合し、得られた混合物に上記超音波ホーンを用いて超音波を直接に加えることで、簡単に粉末を均一に分散させることができる。上記超音波処理は、ナノサイズのホウ素化合物及び高密度金属粉末をともに処理したり、それぞれ別に処理したりすることができる。このようにナノサイズ粉末と硬化剤との混合物に超音波ホーンを入れて直に超音波を加えることで、ナノ粒子の表面が硬化剤によってコーティングされる。これにより、硬化剤内にナノ粒子が均一に分散されることができる。
【0042】
これは、直接超音波による励起がエポキシマトリックス内におけるナノ粒子の分散及びエポキシマトリックスとナノ粒子との結合を強化するメカニズムではないが、強力な超音波エネルギーがナノ粒子表面に微細バブルの破壊を生成して密度変動をもたらし、上記ナノ粒子表面における密度変動中に硬化剤とナノ粒子との間のエポキシマトリックスでの粒子の濡れ性を向上させるための強いファンデルワールス力によって得られるものと考えられる。
【0043】
上記のようなエポキシ樹脂、硬化剤及び硬化剤によって表面コーティングされた中性子吸収用ホウ素化合物及びガンマ線遮蔽用高密度金属粉末を含むエポキシ樹脂組成物を用いてエポキシ複合材を製造することで、中性子遮蔽能に優れた中性子遮蔽材を得ることができる。
【0044】
また、このような本発明の中性子遮蔽用樹脂組成物は、選択的に水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの難燃剤も含むことができる。このような難燃剤は、例えば、火事が発生した場合のように中性子遮蔽材が高温にさらされたときに中性子遮蔽能を維持することができるように中性子遮蔽材を残存させることを目的に添加されるもので、上記難燃剤を単独で用いたり、または2種類以上混合して用いることができる。
【0045】
一般に、上記水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムの難燃剤は、粉末状であり、これら難燃剤粉末の粒径に関しては特に限定されないが、10μm以下の平均粒径を有するものを用いることができる。上記中性子吸収及び2次ガンマ線遮蔽のための粉末と同様に、粒子サイズが小さいほどさらに良好な難燃特性及び遮蔽材の機械的物性の向上効果を得ることができることから、10μm以下の平均粒径を有するものを用いることができるが、ナノサイズの平均粒径を有する難燃剤を用いることがより好ましい。
【0046】
このような難燃剤も上記ホウ素化合物粉末及び高密度金属粉末と同様に直接超音波処理を加えることで、難燃剤粉末表面を硬化剤でコーティングして硬化剤内における均一な分散効果を図ることができる。
【0047】
上記難燃剤の添加量は、用いられる難燃剤や他の成分の種類、含有量などによって変動されることができるもので、特に限定されないが、樹脂組成物全体重量に対して10〜30重量%の範囲で添加されることが好ましい。難燃剤が10重量%未満の場合は難燃剤使用によって得られる難燃効果が弱く、30重量%を超過すると高分子を主体にした水素濃度が相対的に減少するようになって中性子吸収能が低下するおそれがある。
【0048】
本発明に従い、直接超音波処理によって中性子吸収粉末及び高密度金属粉末を硬化剤でコーティングし、硬化剤内に均一に分散させた後、その混合物をマトリックスとして用いられるエポキシ樹脂と混合して得られた樹脂組成物を用いて中性子遮蔽材を製造すると、中性子遮蔽材の機械的物性の向上効果を奏することができる。
【0049】
以下では、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例によって限定されない。
【実施例】
【0050】
実施例1
【0051】
水添エポキシ樹脂(ST3000、Kukdo Chemical.Co.,LTD.)60重量部及びビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂(YD127、Kukdo Chemical.Co.,LTD.)40重量部のエポキシ樹脂、アミン硬化剤(KH−816、Kukdo Chemical.Co.,LTD.)55重量部及び平均粒度500nm(Kojundo Chem.,Japan)のBC粉末を上記エポキシ樹脂、アミン硬化剤及びBC粉末を含む全体重量に対して5重量%の含量で添加してエポキシ樹脂組成物を製造した。
【0052】
まず、上記BC粉末として以下のような2種類を用いた。
【0053】
i)何の表面処理も施されていないBC粉末の粒子
ii)BC粉末とエポキシ樹脂を10:1の重量比で混合した後、これをアセトンが入っているビーカーにアセトン重量に対して0.35重量部になるように添加して混練した。上記ビーカーを超音波バスに30分間入れた後、上記ビーカーを乾燥オーブンに入れてアセトンを蒸発させた。これにより、BC粉末をエポキシ樹脂でコーティングしてエポキシコーティングされたBC粉末が得られた。
【0054】
上記得られたそれぞれのBC粉末をFE−SEMで撮影し、そのイメージを図2に示した。図2において、(a)はi)の表面処理されていないBC粉末のFE−SEMイメージ、(b)はエポキシ樹脂でコーティングされたBC粉末のFE−SEMイメージである。
【0055】
図2から分かるように、上記エポキシコーティングされたBC粉末は、(a)の表面処理されていないBC粒子とは異なる表面モフォロジーを有することから、BC粒子表面にエポキシコーティング層を有すると判断した。
【0056】
上記のようなBC粉末を用いてBC/エポキシ複合材を以下のような方法でそれぞれ製造した。
【0057】
水添エポキシ樹脂(ST3000)及びビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂(YD127、Kukdo Chemical.Co.,LTD.)を予備混合して高い水素濃度を有するエポキシ樹脂を製造した。
【0058】
その後、上記i)及びii)のBC粉末を硬化剤(KH−816)と混合して硬化剤−BCの混合物を用意し、この混合物を上記用意されたエポキシ樹脂と混合して組成物1及び2を製造した。
【0059】
一方、上記i)及びii)のBC粉末を図1のように上記アミン硬化剤に混合し、5分間機械的撹拌した後、超音波ホーン(JUW−2014、JANO Sonic Ltd.,Korea)を上記混合物に入れ、20分間超音波処理して励起することで、アミン硬化剤で表面処理されたBC−硬化剤の混合物が得られた。このとき、超音波は、周波数が20kHz、電力が約50Wであった。続いて、上記アミン硬化剤で表面処理されたBC−硬化剤の混合物を上記用意されたエポキシ樹脂に混合することで組成物3及び4を製造した。
【0060】
上記のように得られた組成物1から4をそれぞれ15分間エポキシミキサーで回転ブレードによって撹拌した。上記ブレードの回転速度を65〜70rpmに維持し、混合中に混合チャンバーを真空ポンプにつないで空隙を最小限にした。このような機械的混合の後に、上記エポキシ混合物をシリコンモールドに注ぎ、50℃の乾燥オーブンで20時間硬化して4種類のBC/エポキシ複合材をそれぞれ製造した。
【0061】
得られたBC/エポキシ複合材に存在するBC粒子の表面状態を評価すべく、上記で得られた4種類のBC/エポキシ複合材の表面をSEMで撮影し、そのイメージを図3に示した。図3において、(a)は何の処理もされていないraw−BCが用いられた組成物1によって得られた複合材の破断面のイメージ、(b)はエポキシコーティングされたBC(epoxy−coated BC)が用いられた組成物2によって得られた複合材の破断面のイメージ、(c)は何の処理もされていないraw−BCを直接超音波処理して得られたBCが用いられた組成物3によって得られた複合材の破断面のイメージ、(d)はエポキシコーティングされたBC(epoxy−coated BC)を入れて超音波処理して得られたBCが用いられた組成物4によって得られた複合材の破断面のイメージである。
【0062】
図3の(a)を参照すると、上記BC粒子は相対的に適宜に分散されているように見えるが、イメージ上に円で示された粒子表面とマトリックスとの間にギャップがあることが確認できる。上記ギャップは、マトリックスと粒子との結合が弱いことを示す。
【0063】
また、図3の(b)から分かるように、表面にBC粒子の凝集が観察されており、図3の(b)に挿入された拡大図によると、粒子境界部にギャップがあることが分かる。このような結果により、エポキシ樹脂でコーティングされたBCを用いても、BC凝集体とエポキシマトリックスとの結合力が弱いと予想できる。
【0064】
このような図3の(a)及び(b)のイメージから、BC粒子に対するエポキシコーティングは、エポキシマトリックスにおける分散及びエポキシマトリックスとの結合を向上させない点が予想できる。むしろ、raw−BCの方が、エポキシマトリックスと粒子との結合力は多少弱いが、より良好な分散性を示すと言える。
【0065】
これに対し、組成物3及び4を用いて得られた複合体のイメージを示す図3の(c)及び(d)では、BC粒子が複合材の破断面にほんの一部観察された。ポリマーマトリックスとフィラー粒子との結合が強いと、破断面は粒子と高分子との界面ではなく、マトリックス自体に沿って展開されるようになる。よって、図3の(c)及び(d)のSEMイメージに示される少量のBC粒子は、エポキシマトリックスとBC粒子との良好な結合を示す確固たる証であると言える。これにより、超音波ホーンを用いて直接超音波処理して励起すると、(a)及び(b)の場合に比べて上記エポキシマトリックスとBC粒子との結合がより強くなることが分かる。
【0066】
また、直接超音波処理による励起は、図3の(c)及び(d)において粒子間の凝集が示されていないことから、BC粒子の分散の向上に効果的であると判断される。
【0067】
直接超音波処理による励起がエポキシマトリックス内におけるBC粒子の分散及びエポキシマトリックスとBC粒子との結合を強化させるメカニズムは、明確に理解されるものではなく、いかなる理論によっても限定されないが、強力な超音波エネルギーが硬化剤によって生成された微細バブルの破壊を誘導してBC表面において密度の変動をもたらし、上記のような密度変動中に、アミン硬化剤分子のリング置換体とBCとの間に強いファンデルワールス力が作用してエポキシマトリックスにおける粒子の濡れ性を向上させると予想される。
【0068】
また、BC粒子の表面状態を評価すべく、BC−硬化剤混合物のFTIRスペクトルを分析して図4に示した。図4において、(a)はiii)によって得られた超音波処理により分散されたraw−BC/硬化剤に関するもの、(b)はi)の超音波分散されていないrawBC/硬化剤に関するもの、(c)は純粋な硬化剤に関するもの、(d)はii)の超音波分散されていないエポキシコーティングされたBC/硬化剤に関するもの、さらに(e)はiv)の超音波分散されたエポキシコーティングされたBC/硬化剤に関するFTIRスペクトルである。
【0069】
このようなFTIRスペクトルは、KRS−5のウィンドー内部に位置したBC分散された硬化剤の薄い液状フィルムを用いて得られた。図4において、硬化剤のリング内部に炭素と炭素の伸縮振動モードを含む芳香族C=C振動が1607cm−1に示されており、1585cm−1に位置した二つ目のピークはリング置換体によるものである。セラミック粉末が分散された高分子複合体の吸収ピークを調査することは粒子結合の評価に非常に有用である。これは、高分子分子の振動吸収ピークが、ファンデルワールス相互作用からの影響を大きく受けることに起因する。
【0070】
図4の(b)及び(d)は、純粋な硬化剤に該当する(c)と同様に、各位置において二つの同一の伸縮ピークを示す。このようなスペクトルにおいて、硬化剤の吸収ピークは、(b)及び(d)ともにBCの影響を受けない。これは、BC表面において硬化剤分子との結合が硬化剤の吸収ピークを変化させるほど十分に強くない点を意味する。これに対し、図4の(a)及び(e)に示された吸収ピークは、硬化剤分子の上記C=C伸縮振動がBC粒子との強い結合の影響を受けるため低く平坦である。このような平坦で低い吸収ピークは、ファンデルワールス相互作用によってBCと強く結合されたリング置換体からの影響を受ける、連続して赤色偏移された伸縮運動エネルギースペクトルに起因すると言える。
【0071】
また、BC/エポキシ複合材の最終引張強度及びヤングモジュラスを、多目的機械テスト器具(Instron 3000、USA)が用いられたASTM D638標準の引張サンプルを用いて分析し、その結果を図5に示した。上記引張速度は50mm/min、試片数はそれぞれ5個以上である。図5のグラフにおけるエラーバー(error bar)は各サンプルに対して5回の測定を行い標準偏差を示したものである。
【0072】
図5は多様な条件下において製造された純粋なエポキシマトリックス及びBC−エポキシ複合材の最終引張強度を示す。一般に、エポキシマトリックスの引張強度は、セラミックフィラーの添加によって減少することが明らかである。これに対し、エポキシマトリックス内におけるフィラー粒子の分散及びエポキシマトリックスとの結合をうまく制御すると、エポキシ複合材の機械的特性を強化させることができる。
【0073】
図5によると、純粋なエポキシ樹脂が用いられたエポキシマトリックスにおける引張強度は54.1MPaであるが、(1)の組成物に用いられた表面処理されていないraw−BC粒子がエポキシマトリックスに分散される場合、BC/エポキシ複合材の引張強度が43.6MPaと多少減少し、(2)の組成物に用いられたエポキシ−コーティングされたBC/エポキシ複合材の引張強度は31.6MPaとさらに減少した。
【0074】
このような引張強度の減少は、図3の(a)及び(b)に示されたエポキシマトリックスとBCとの弱い界面結合による結果であると考えられる。これは、不純物が占める面積または体積が損失されたエポキシマトリックスの面積または体積と同一であり、強度の低下をもたらすためである。不純物のサイズに関連し、エポキシ−コーティングされたBCの凝集体のサイズがコーティングされないBCに比べて大きいため、引張強度をさらに弱化させると考えることが合理的である。
【0075】
これに対し、超音波ホーンを用いた直接超音波処理により硬化材内に分散されたraw−BC及びエポキシ−コーティングされたBCが用いられた組成物3及び4によって得られたBC/エポキシ複合材の引張強度は、それぞれ52.6MPa及び56.9MPaと向上した。これらは、直接超音波分散を施さずに製造されたものに比べて遥かに高い水準の引張特性を示す。これらは、純粋なエポキシマトリックスと比較しても、エラー範囲において競争力があるか数値が高い。上記内容により、直接超音波処理によって分散されて得られた組成物を用いることで、複合材の引張強度を強化させることができることが分かる。このような引張強度の強化は、図3の(c)及び(d)に示されているように、BCとマトリックスとの向上した界面結合による結果であると判断できる。
【0076】
直接超音波処理されたraw−BC/エポキシ複合材及びエポキシ−コーティングされたBC/エポキシ複合材の引張強度は類似した値を示す。これは、エポキシコーティングされたか否かに関わらず、BC粒子の直接超音波による励起は超音波励起中にコーティングされた物質のタイプとは関係なくファンデルワールス相互作用を増加させることを意味する。
【0077】
これは、図4のBC/エポキシ複合体のFTIRスペクトルによっても確認された。硬化剤分子のピーク強度の変化によると、BC自体(図4(a))またはBC表面のエポキシの影響を受けることが明確である。BC表面のエポキシによる影響と関連し、BC表面に結合されたエポキシ分子は、BC自体と類似して硬化剤分子の伸縮振動に影響を及ぼすものと思われる。このような強力なファンデルワールス相互作用は、超音波励起中のBC粒子の界面におけるエポキシまたは硬化剤分子の相互拡散によるものであることができる。しかし、直接超音波励起されなかった場合、硬化剤分子の振動モードは、BCはもちろんのこと、BC上のエポキシ分子によっても変化しなかった。
【0078】
図6には、純粋なエポキシマトリックスに比べてBC/エポキシ複合材のヤングモジュラスが増加することが示されている。このように、セラミックフィラーの添加により高分子複合材のモジュラスが増加する傾向は、純粋なエポキシマトリックスに比べて高い強度を示す一般的な結果である。しかし、本発明における直接超音波分散によるモジュラスの増加は、BCとエポキシマトリックスとの強力な界面接着に基づいた高い靭性により維持または増加した変形率の特性から説明することができる。
【0079】
実施例2−水酸化アルミニウム含有エポキシ複合材の製造及び物性評価
【0080】
平均粒子サイズ5μmの水酸化アルミニウム(Al(OH))粉末が用いられた点を除いては、実施例1の組成物1及び3と同一の方法でエポキシ樹脂組成物5及び6をそれぞれ製造し、上記それぞれの組成物を用いて実施例1と同一の方法によって水酸化アルミニウム/エポキシ複合材を製造した。これによって得られた複合材をそれぞれ複合材5及び6とする。
【0081】
上記で得られた複合材5及び6の機械的物性として最大引張強度及び破壊前の延伸率を測定した。超音波処理段階を行っていない組成物5によって得られた複合材5の引張強度及び破壊前の延伸率はそれぞれ28.0MPa及び7.3%であったが、超音波処理段階を行った組成物6によって得られた複合材6の引張強度及び破壊前の延伸率はそれぞれ40.9MPa及び9.6%であった。
【0082】
上記結果から分かるように、直接超音波処理によって硬化剤内に分散される場合は、純粋なエポキシ樹脂に比べて引張強度及び延伸率値が多少低下するが、このような直接超音波処理を行っていない複合材6と比べると引張強度が約45%高く、延伸率も約7.3%向上する。
【0083】
これにより、本発明による直接超音波処理は、マトリックス内にナノサイズの粉末はもちろんのこと、マイクロサイズの比較的大きい粉末も均一に分散させることができ、機械的物性も向上させることができる効果的な方法である。
【0084】
実施例3−BC粒度によるエポキシ複合材の熱中性子遮蔽能の評価
【0085】
2.5重量%のBC粒子を含むBC−エポキシ複合材において、用いられたBCの粒度によって熱中性子遮蔽能をMCNP(Monte Carlo n−Particles)プログラムを用いて評価し、その結果を図7に示した。一方、エポキシ複合材の厚さは3cmと仮定した。
【0086】
図7から分かるように、BC粒度が100μmから1μmまで粒度が減少するにつれ、中性子遮蔽能が向上することが分かる。しかし、1μm未満の粒度を有する場合は、一定の遮蔽能効果を示すことが分かる。これにより、粒度が1μm未満のナノサイズを有するホウ素化合物粉末を用いることで中性子遮蔽により優れた効果を奏することが分かる。
【0087】
実施例4−PbO/エポキシ複合材の製造
【0088】
PbO粉末の分散において、超音波処理されるか否かによる引張強度への影響を把握すべく、PbO粉末が樹脂組成物全体重量に対して10重量%含まれるPbO/エポキシ樹脂組成物を製造し、上記樹脂組成物を用いてPbO/エポキシ複合材を製造した。このとき、PbO粉末は、それぞれ平均粒子サイズ10μm及び200nmの粉末を用いた。
【0089】
上記平均粒子サイズ10μmのPbO粉末を用いて実施例1の組成物1を製造するのと同様の方法で樹脂組成物を製造して組成物7を製造し、上記平均粒子サイズ200nmのPbO粉末を用いて実施例1の組成物1を製造するのと同様の方法で樹脂組成物を製造して組成物8を製造した。また、上記平均粒子サイズ200nmのPbO粉末を用いて実施例1の組成物の3を製造するのと同様の方法で樹脂組成物を製造して組成物9を製造した。
【0090】
上記で得られた組成物7、8及び9を用いてPbO/エポキシ複合材を製造し、これによって得られた複合材をそれぞれ複合材7、8及び9とした。
【0091】
上記複合材7から9のPbO/エポキシ複合材の引張強度を測定し、その結果を図8に示した。
【0092】
図8から分かるように、純粋なエポキシ樹脂で形成された遮蔽材(a)の引張強度は54.1MPaを示している。これに対し、マイクロサイズのPbO粉末を含み、直接超音波処理を施さなかった複合材(b)の引張強度は43.1MPa、ナノサイズのPbO粉末を含み、直接超音波処理を施さなかった複合材(c)の遮蔽材の引張強度は44.0MPaと測定された。(b)及び(c)の遮蔽材は、引張強度において大差がないことが分かる。
【0093】
一方、ナノサイズのPbO粉末を含み、直接超音波処理を施してPbO粉末を表面処理した複合材(d)の遮蔽材は46.8MPaの引張強度値を示すことから、(b)及び(c)に比べて高い引張強度値を示すことが分かる。
【0094】
上記内容から分かるように、PbO粉末を含むと純粋なエポキシより引張強度が低下するが、(d)のように直接超音波処理を用いるとエポキシ樹脂内にPbO粉末をより均一に分散させ、樹脂界面接着性を向上させることができるため、複合材の物性を改善させることができる。
【0095】
実施例5−複合材の熱中性子遮蔽能の評価
【0096】
C/PbO/Al(OH)を組成物全体重量に対してそれぞれ5重量%、10重量%及び25重量%含有するエポキシ複合材の粉末粒度による熱中性子遮蔽能をMCNPプログラムを用いて評価し、その結果を図9に示した。
【0097】
C及びPbOの粒度をそれぞれ同一に100μm、1μm及び0.1μm、また、Al(OH)粉末の粒度は全ての場合において一律2μmに仮定した。また、エポキシ複合材の厚さは3cmと仮定した。
【0098】
Al(OH)粉末の粒度を全ての場合において2μmと仮定したのは、Al(OH)の熱中性子及びガンマ線に対する遮蔽性能が他の粉末に比べて相対的に劣るためである。
【0099】
図9から分かるように、熱中性子に対する各粉末の粒度に関し、粒度が小さいほど熱中性子のフラックスが減少することが分かる。これにより、1μm未満の粒度を有する粉末を使用することで優れた中性子遮蔽効果を有することができることが分かる。
【0100】
実施例6−複合材のガンマ線遮蔽能の評価
【0101】
C/PbO/Al(OH)を組成物全体重量に対してそれぞれ5重量%、10重量%及び25重量%含有するエポキシ複合材の粉末粒度によるガンマ線遮蔽能をMCNPプログラムを用いて評価し、その結果を図10及び図11に示した。
【0102】
このとき、用いられた粒子の粒度、濃度及びエポキシ複合材の厚さは上記実施例5と同一に設定し、ガンマ線エネルギーが1MeV及び0.1MeVの二つの場合に対して評価した。
【0103】
図10及び図11から分かるように、ガンマ線のエネルギーが0.1MeVの場合が1MeVの場合に比べてガンマ線のフラックス減少効果が増加する。これにより、1μm未満の粒度を有する粉末を用いる場合に優れたガンマ線遮蔽効果を有し、特に、低エネルギーガンマ線の場合、本エポキシ複合材がさらに優れた遮蔽能を有することが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11