特許第5784251号(P5784251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5784251
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】唾液分泌促進マウスピース
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/00 20060101AFI20150907BHJP
   A61H 39/04 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   A61C19/00 Z
   A61H39/04 M
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-8243(P2015-8243)
(22)【出願日】2015年1月20日
【審査請求日】2015年1月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515017979
【氏名又は名称】佐竹 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100163533
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 義信
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 秀一
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−252288(JP,A)
【文献】 実用新案登録第3167198(JP,Y2)
【文献】 特開2011−000417(JP,A)
【文献】 特開2001−128994(JP,A)
【文献】 特公昭60−057340(JP,B1)
【文献】 特開2009−028202(JP,A)
【文献】 特許第4399645(JP,B2)
【文献】 国際公開第2013/057979(WO,A1)
【文献】 特許第3359873(JP,B2)
【文献】 特開2000−070404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/00
A61H 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
の上顎歯列又は下顎歯列のうち少なくとも左右の奥歯に着脱自在に嵌合可能な嵌合部を有するマウスピースと、
前記マウスピースの表面から突出した突状部と、
を備え、
前記突状部は、その先端が、第1大臼歯または第2大臼歯または第3大臼歯近傍の歯茎部分唾液腺近傍の口腔内面部分うち少なくとも一方に接触するように形成されたことを特徴とする唾液分泌促進マウスピース。
【請求項2】
前記突状部は、棒状であり、
複数の前記突状部が林立して形成されている、請求項1に記載の唾液分泌促進マウスピース。
【請求項3】
前記マウスピースは、前記左右の奥歯のみに嵌合される一対の嵌合部と、
前記一対の嵌合部を連結する円弧状をした紐状の連結部、とからなる請求項1または2に記載の唾液分泌促進マウスピース。
【請求項4】
前記マウスピースは、前記左右の奥歯のみに嵌合される一対の嵌合部のみから成る請求項1または2に記載の唾液分泌促進マウスピース。
【請求項5】
記マウスピースは、人の体温を超えた温度で軟化する熱可塑性樹脂で形成されている請求項1〜4の何れか1項に記載の唾液分泌促進マウスピース。
【請求項6】
前記突状部は、前記マウスピースの奥歯位置から前記唾液腺の1つである耳下腺に対応する口腔内面部分方向に突起されている請求項1〜5の何れか1項に記載の唾液分泌促進マウスピース。
【請求項7】
前記突状部は、前記マウスピースの奥歯位置から前記奥歯の歯茎に被さるように跨設されたスカート状部材であり、該スカート状部材の前記奥歯の歯茎部分に接触する内側面に微細突起が形成されている請求項1〜5の何れか1項に記載の唾液分泌促進マウスピース。
【請求項8】
前記突状部は、
前記マウスピースの奥歯位置から前記唾液腺の1つである耳下腺に対応する口腔内面部分方向に突起された第1突状部と、
前記マウスピースの奥歯位置から前記奥歯の歯茎に被さるように跨設されたスカート状部材であり、該スカート状部材の前記奥歯の歯茎部分に接触する内側面に微細突起が形成された第2突状部と、
で構成される請求項1〜5の何れか1項に記載の唾液分泌促進マウスピース。
【請求項9】
前記突状部には、唾液によってガルバニック電流を発生させる金属が被服されている請求項1〜8の何れか1項に記載の唾液分泌促進マウスピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は唾液分泌促進マウスピースに係り、特に唾液の分泌を促進することにより、口臭を防止する唾液分泌促進マウスピースに関する。
【背景技術】
【0002】
他人との会話の際に、口臭を気にする人は多く、食後の歯磨きの励行、口臭防止洗浄液、口臭防止スプレー、口臭防止サプリメント等の口臭防止対策が一般的に行われている。
また、口臭防止を持続させる器具として、特許文献1は、人の口腔内の唾液腺の開口部近傍に消臭剤等の投与物質を貯留しておくための室を具備した歯科補綴物を、歯列に保持させ、非飲食時のみ口腔内に消臭剤が投与されるようにした口腔内拡散方式の投与装置が開示されている。これにより、口腔内に消臭剤が投与されることにより、長時間安定して口臭防止を行うことができるとされている。
【0003】
ところで、唾液の分泌を促進することは、食物の消化を助けるのみならず、口臭防止になることは良く知られている。また、唾液の分泌促進は、口臭防止以外にも虫歯予防等においても重要である。
唾液の分泌を促進する器具として、例えば特許文献2、特許文献3が提案されている。
【0004】
特許文献2は、口腔内に挿入される板状の咬合部と、咬合部に連設された棒状の把持部と、で構成される。そして、把持部を手で持って咬合部を口腔内に挿入し、咬合部を咬合することで唾液の分泌を促進する。
【0005】
特許文献3は、対象者の唾液腺に皮膚上(顔の外側)から刺激を伝達するための刺激付与部と、対象者の皮膚上(顔の外側)から唾液腺に前記刺激付与部が位置するように配置させたフレーム部と、で構成された唾液分泌促進用具が開示されている。そして、フレーム部を手で持ちながら刺激付与部で顔の外側から唾液腺に刺激を与えることで唾液の分泌を促進する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−258910号公報
【特許文献2】特許4399645号公報
【特許文献3】特開2013−210204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2及び特許文献3の唾液分泌促進器具は、器具を手で保持しなくてはならないとともに、人前で使用することができないので、使用するタイミングが限られてしまう。例えば、特に口臭が気になる他人との会話中に使用することができないという問題がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、特に口臭が気になる他人との会話中のように人前でも使用することができ、使用するタイミングが限られることなくいつでも使用することができる唾液分泌促進マウスピースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の唾液分泌促進マウスピースは上記目的を達成するために、人の体温を超えた温度で軟化する熱可塑性樹脂で形成され、人の上顎歯列又は下顎歯列のうち少なくとも左右の奥歯に着脱自在に嵌合可能な嵌合部を有する馬蹄形のマウスピースと、前記マウスピースに一体的に形成され、前記奥歯近傍の歯茎部分及び唾液腺近傍の口腔内面部分の少なくとも一方に接触して刺激することにより唾液の分泌を促進する突状部と、から成ることを特徴とする。
【0010】
本発明の唾液分泌促進マウスピースの大きな特徴は、奥歯近傍の歯茎部分及び唾液腺近傍の口腔内面部分の少なくとも一方に接触して刺激することにより唾液の分泌を促進する突状部をマウスピースに一体的に設け、マウスピースを介して突状部を使用者の上顎歯列又は下顎歯列のうち少なくとも左右の奥歯に着脱自在に支持させることである。これにより、突状部を使用者が手で保持する必要がなくなり、口臭が気になる他人との会話中でも装着したままにできるようにした点にある。
【0011】
本発明によれば、人の体温を超えた温度で軟化する熱可塑性樹脂で形成されたマウスピースに、奥歯近傍の歯茎部分及び唾液腺近傍の口腔内面部分の少なくとも一方に接触して刺激することにより唾液の分泌を促進する突状部を一体的に設けた。
【0012】
これにより、マウスピースを上顎歯列又は下顎歯列のうち少なくとも左右の奥歯に嵌合することによって、突状部が奥歯近傍の歯茎部分及び唾液腺近傍の口腔内面部分の少なくとも一方に接触して刺激し、唾液の分泌を促進する。
【0013】
上記嵌合において、マウスピースは、人の体温を超えた温度で軟化する熱可塑性樹脂で形成されている。これにより、予め加熱水等で加熱して軟化させた状態で嵌合し、口腔内で冷却固化することによって、上顎歯列又は下顎歯列の大きさや形状が異なる唾液分泌促進マウスピースの使用者であっても、上顎歯列又は下顎歯列にしっかりと嵌合させることができる。
【0014】
したがって、本発明の唾液分泌促進マウスピースは、従来の唾液分泌促進器具のように、器具を手で持って使用する必要がない。また、マウスピースタイプなので、唾液分泌促進マウスピースを口腔内に装着したままで会話することができる。
【0015】
本発明の唾液分泌促進マウスピースの態様において、前記マウスピースは、前記人の上顎歯列全体又は下顎歯列全体に嵌合可能な嵌合部を有する馬蹄形のマウスピースであることが好ましい。
これは、マウスピースの態様の一例であり、上顎歯列全体に嵌合する嵌合部又は下顎歯列全体に嵌合する嵌合部を有することで馬蹄形に形成された一般的なものである。
【0016】
本発明の唾液分泌促進マウスピースの態様において、前記マウスピースは、前記左右の奥歯のみに嵌合される一対の嵌合部と、前記一対の嵌合部を連結する円弧状をした紐状の連結部、とからなることが好ましい。また、紐状の連結部を有さない態様もある。
また、本発明の唾液分泌促進マウスピースの態様において、前記マウスピースは、前記左右の奥歯のいずれかにのみ嵌合されるものであっても良いし、前記左右の奥歯のいずれかの奥歯を含んで連続して隣接する2〜3個の歯で構成される歯列にのみ嵌合されるものであっても良い。即ち、左の奥歯に入れるマウスピースと右の奥歯に入れるマウスピースとで対になったものではなく、左右どちらかの奥歯にのみ入れるマウスピースであっても良い。
【0017】
これにより、紐状の連結部がないので口腔内での違和感が少なくなる。また、前記マウスピースは、左右のいずれかの奥歯(または、その奥歯及びその奥歯に並んだ1〜2個の歯)にしか装着しないので、装着しやすいし、やはり、口腔内での違和感が少なく、装着していることが他人に分かり難いという効果も有する。
【0018】
本発明の唾液分泌促進マウスピースは、上顎歯列全体又は下顎歯列全体に嵌合する上記の態様でも喋ることができる。しかし、本態様のように、左右の奥歯のみ(または、その奥歯及びその奥歯に並んだ1〜2個の歯)に嵌合されるマウスピース(一対の嵌合部を紐状の連結部で連結したものも含む)とすることで、装着したままでも一層無理なく喋ることができ、口を開けても外部から装着していることが分かり難い。
【0019】
これにより、特に口臭が気になる他人との会話中のように人前でも使用することができ、使用するタイミングが限られることなくいつでも使用することができる。
【0020】
本発明の唾液分泌促進マウスピースの態様において、前記マウスピースは、前記左右の奥歯のみに嵌合される一対の嵌合部のみから成ることが好ましい。
このように、左右の奥歯のみに嵌合される一対の嵌合部のみでマウスピースを形成すれば、上記した紐状の連結部を有する場合よりもさらに無理なく喋ることができ、口を開けても外部から装着していることがさらに分かり難い。
【0021】
本発明の唾液分泌促進マウスピースの態様において、前記突状部は、前記マウスピースと同様に人の体温を超えた温度で軟化する熱可塑性樹脂で形成されていることが好ましい。
この態様によれば、唾液分泌促進マウスピースを加温して突状部を軟化させてから、マウスピースを上顎歯列又は下顎歯列へ嵌合させる。そして、突状部が奥歯近傍の歯茎部分及び唾液腺近傍の口腔内面部分の少なくとも一方に適切に接触するように、軟化状態の突状部の突起方向や突状部の長さ等を指で適宜調整した後、突状部を自然冷却させる。
これにより、突状部で効果的に唾液の分泌を促進することができる。
【0022】
本発明の唾液分泌促進マウスピースの態様において、前記突状部は、前記マウスピースの奥歯位置から前記唾液腺の一つである耳下腺に対応する口腔内面部分方向に突起されていることが好ましい。これにより、大きな唾液腺の一つである耳下腺を刺激して、唾液の分泌を効果的に促進できる。
【0023】
本発明の唾液分泌促進マウスピースの態様において、前記突状部は、前記マウスピースの奥歯位置から前記奥歯の歯茎に被さるように跨設されたスカート状部材であり、該スカート状部材の前記奥歯の歯茎部分に接触する内側面に微細突起が形成されていることが好ましい。これにより、奥歯近傍の歯茎部分を刺激することができ、奥歯の歯茎部分には大きな唾液腺である舌下腺や顎下腺の導管があるので、唾液の分泌を効果的に促進できる。
【0024】
本発明の唾液分泌促進マウスピースの態様において、前記突状部は、前記マウスピースの奥歯位置から前記唾液腺の一つである耳下腺に対応する口腔内面部分方向に突起された第1突状部と、前記マウスピースの奥歯位置から前記奥歯の歯茎部分に被さるように跨設されたスカート状部材であり、該スカート状部材の前記奥歯に接触する内側面に微細突起が形成された第2突状部と、で構成されることが好ましい。
これにより、3つの大きな唾液腺である耳下腺、舌下腺及び顎下腺を一度に刺激することができるので、唾液の分泌促進を一層行うことができる。
【0025】
本発明の唾液分泌促進マウスピースは、前記突状部には、唾液によってガルバニック電流を発生させる金属が被服されていることが好ましい。
本発明によれば、突状部に、唾液によってガルバニック電流を発生させる金属を被服させたので、奥歯近傍の歯茎部分及び唾液腺近傍の口腔内面部分の少なくとも一方を刺激する刺激力が強くなる。これにより、唾液の分泌を一層促進することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の唾液分泌促進マウスピースによれば、特に口臭が気になる他人との会話中のように人前でも使用することができ、使用するタイミングが限られることなくいつでも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の形態のハードタイプの唾液分泌促進マウスピースについて、突状部の態様を示した説明図
図2】人の顔の唾液腺の位置を説明する説明図
図3】マウスピースに形成された第1突状部の形状に関する好ましい態様図
図4】第1突状部及び第2突状部が刺激する唾液腺を説明する説明図
図5】本発明の実施の形態のソフトタイプの唾液分泌促進マウスピースについて、突状部の態様を示した説明図
図6】本発明の実施の形態の奥歯嵌合タイプの唾液分泌促進マウスピースについて、突状部の態様を示した説明図
図7】奥歯嵌合タイプの唾液分泌促進マウスピースについて、突状部の更に別の態様を示した説明図
図8】本発明の実施の形態の奥歯嵌合タイプの唾液分泌促進マウスピースについて、突状部に金属を被服させた態様を示した説明図
図9】本発明の実施の形態の奥歯嵌合タイプの唾液分泌促進マウスピースの使用方法における軟化ステップについて示した説明図
図10】奥歯嵌合タイプの唾液分泌促進マウスピースの使用方法における転写ステップ及び調整ステップについて示した説明図
図11】奥歯嵌合タイプの唾液分泌促進マウスピースの使用方法における作用効果の説明図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下添付図面にしたがって、本発明に係る唾液分泌促進マウスピースの好ましい実施の形態について説明する。
[唾液分泌促進マウスピースの構成]
【0029】
本発明の実施の形態の唾液分泌促進マウスピースは、人の体温を超えた温度で軟化する熱可塑性樹脂で形成され、人の上顎歯列又は下顎歯列のうち少なくとも左右の奥歯に着脱自在に嵌合可能な嵌合部を有する馬蹄形のマウスピースと、マウスピースに一体的に形成され、奥歯近傍の歯茎部分及び唾液腺近傍の口腔内面部分の少なくとも一方に接触して刺激することにより唾液の分泌を促進する突状部と、で構成される。
【0030】
図1及び図5に示すように、唾液分泌促進マウスピース10は、肉厚な熱可塑性樹脂で形成され、歯列形状がマウスピース12の内面のみに転写(外面は平坦)されるハードタイプ(図1)と、肉薄な熱可塑性樹脂で形成され、歯列形状がマウスピース12全体に転写(内面と外面が同一形状)されるソフトタイプ(図5)の2種類があり、いずれを使用することもできる。
【0031】
図1は、ハードタイプの唾液分泌促進マウスピース10の一例で、人の上顎歯列全体又は下顎歯列全体に嵌合する場合であり、マウスピース12には唾液の分泌を促進する突状部14が一体的に形成されている。
【0032】
以下の説明において、突状部14を第1突状部14Aと第2突状部14Bとの2種類で説明する。
マウスピース12及び第1及び第2突状部14A,14Bのうち、少なくともマウスピース12は、人の体温を超えた温度で軟化する熱可塑性樹脂で形成されており、本実施の形態ではマウスピース12及び第1及び第2突状部14A,14Bの両方が熱可塑性樹脂で形成されている例で以下に説明する。
【0033】
ここで、人の体温を超えた温度で軟化するとは、唾液分泌促進マウスピース10を形成する熱可塑性樹脂を、人の体温を超えた温度に加温して上顎歯列又は下顎歯列に押し付けたときに歯列形状が転写される程度に軟化することを意味する。軟化温度の上限は特に限定されないが、唾液分泌促進マウスピース10を軟化させる手段として一般的に加熱水が好ましいことから、現実的な温度として水の沸点である100℃以下であることが好ましい。
【0034】
唾液分泌促進マウスピース10の形成に使用される熱可塑性樹脂としては、衛生面の安全性が保証され、且つ歯や歯茎へのアレルギー等の影響のない樹脂材料であればどのような樹脂でも良い。
【0035】
例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン)、ポリビニルアセテート(PVA)、ポリウレタンエラストマー等が含まれる。これらの樹脂のうち、軟化温度が人の体温を超えた50℃以上、上限が水の沸点温度100℃以下を満足するエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が特に好ましい。
【0036】
図2は、人の顔の唾液腺の位置を示す図であり、唾液腺は主として、耳下腺16、舌下腺18、顎下腺20の3つから構成される。符号22は咬筋である。
耳下腺16は、耳下の頬部分に広がって存在する唾液腺であり、唾液を出す導管16Aが頬の粘膜に開口している。舌下腺18は、口腔の床で舌の付け根の間の粘膜下に存在する唾液腺で歯茎近傍に複数の導管18Aが開口している。顎下腺20は、下顎骨になかば隠れるように存在する唾液腺で、導管20Aが下顎の歯列と舌の付け根との間に開口している。
【0037】
したがって、唾液分泌促進マウスピース10のマウスピース12を、上顎歯列24又は下顎歯列26の少なくとも奥歯部分に嵌合し、突状部14で奥歯近傍の歯茎部分及び唾液腺近傍の口腔内面部分の少なくとも一方に接触させることで、唾液を分泌する3つの唾液腺を刺激して唾液の分泌を促進することができる。
【0038】
なお、耳下腺16を刺激する場合には、唾液分泌促進マウスピース10は上顎歯列24又は下顎歯列26のいずれに嵌合するタイプでも良い。しかし、図2から分かるように、舌下腺18及び顎下腺20の唾液を出す導管18A,20Aが下顎の歯列部分に存在するため、舌下腺18及び顎下腺20の唾液分泌を促進するには、下顎歯列26に嵌合するタイプが好ましい。
【0039】
図1の(A),(B),(C)は、ハードタイプの唾液分泌促進マウスピース10に形成した第1及び第2突状部14A,14Bの好ましい3態様を示したものであるが、この態様に限定されるものではない。
【0040】
図1(A)の唾液分泌促進マウスピース10は、第1突状部14Aが、マウスピース12の奥歯位置から唾液腺の1つである耳下腺16の口腔内面部分方向に突起されている態様である。
【0041】
第1突状部14Aは、先端部が口腔内面に接触して耳下腺16に刺激を与えることで唾液の分泌を促進するが、口腔内面を傷つけないように丸みを帯びていることが好ましい。第1突状部14Aの形状として、図3(A)に示すように半円板状(図1の突状部)、図3(B)に示すように半球状、図3(C)に示すように棒の先端が球状をした形状のもの(以下「スティックタイプ」という)を好適に採用することができる。
【0042】
なお、図1(A)では、マウスピース12の左右奥歯位置にそれぞれ1つの第1突状部14Aを形成した図で示したが、第1突状部14Aを複数形成しても良い。特に、スティックタイプの第1突状部14Aの場合には、複数本の第1突状部14Aを奥歯部分に林立させることが好ましい。
【0043】
これにより、図1(A)の唾液分泌促進マウスピース10によれば、図4(A)に示すように、唾液分泌促進マウスピース10の第1突状部14Aが耳下腺16に対応する口腔内面部分を刺激し、耳下腺16からの唾液分泌を促進することができる。
なお、図4において、符号28は歯茎である。
【0044】
図1(B)の唾液分泌促進マウスピース10は、第2突状部14Bが、マウスピース12の奥歯位置から奥歯の歯茎に被さるように跨設されたスカート状部材であり、奥歯の歯茎部分に接触するスカート状部材の内側面に微細突起aが複数形成されている態様である。
これにより、図1(B)の唾液分泌促進マウスピース10によれば、図4(B)に示すように、第2突状部14Bが舌下腺18に対応する口腔内面部分及び顎下腺20の導管20Aを刺激し、舌下腺18及び顎下腺20からの唾液分泌を促進することができる。
【0045】
微細突起aは、奥歯近傍の歯茎28部分を刺激することで、舌下腺18の口腔内面部分及び顎下腺20の導管20Aを刺激できる形状であればどのような形状でも良いが、歯茎28を傷つけない形状であることが好ましい。例えば、半円形状の微細突起a(図1の微細突起)、蒲鉾状の山が複数配列された線状微細突起(図示せず)を好適に採用できる。線状微細突起の場合には、歯列に平行に蒲鉾状の山が複数配列されることが好ましい。これにより、線状微細突起が歯茎28に対する抵抗となって唾液分泌促進マウスピース10が歯列から外れ難くなる。
【0046】
図1(C)の唾液分泌促進マウスピース10は、マウスピース12の奥歯位置から耳下腺16に対応する口腔内面部分方向に突起された第1突状部14Aと、マウスピース12の奥歯位置から奥歯の歯茎28部分に被さるように跨設されたスカート状部材であり、奥歯に接触するスカート状部材の内側面に微細突起aが形成された第2突状部14Bと、で構成されている態様である。
【0047】
即ち、図1(C)の唾液分泌促進マウスピース10は、図1(A)の第1突状部14Aと、図1(B)の第2突状部14Bとの両方を備えた場合である。
これにより、図1(C)の唾液分泌促進マウスピース10によれば、図4(C)に示すように、耳下腺16、舌下腺18、及び顎下腺20の3つの唾液腺を同時に刺激することができる。
【0048】
図5は、ソフトタイプの唾液分泌促進マウスピース10の突状部14として3つの態様を示したものであり、図5(A)は図1(A)の第1突状部14A、図5(B)は図1(B)の第2突状部14B、図5(C)は図1(C)の第1及び第2突状部14A,14Bと同様である。
【0049】
図6は、ハードタイプの唾液分泌促進マウスピース10の変形例であり、奥歯のみにマウスピース12の嵌合部12Aを設けたものである(以下「奥歯嵌合タイプ」という)。図6(A)はマウスピース12の外面図であり、図6(B)は内面図である。
【0050】
図6に示すように、奥歯嵌合タイプの唾液分泌促進マウスピース10は、左右の奥歯のみに嵌合される一対の嵌合部12A,12Aと、一対の嵌合部12A,12Aを連結する円弧状をした紐状の連結部12Bとから構成される。
【0051】
図6(A)に示すように、嵌合部12Aの外面は平坦になっており、図6(B)に示すように、嵌合部12Aの内面に歯列形状が形成される。嵌合部12Aを嵌合する奥歯は、第1大臼歯、第2大臼歯、第3大臼歯の3本が好ましい。
【0052】
奥歯嵌合タイプの唾液分泌促進マウスピース10によれば、左右の奥歯のみに嵌合される一対の嵌合部12A,12Aを紐状の連結部12Bで連結したマウスピース12とすることで、装着したままでも一層無理なく喋ることができ、口を開けても外部から装着していることが分かり難い。
【0053】
奥歯嵌合タイプの唾液分泌促進マウスピース10にも、唾液の分泌を促進する突状部14が一体的に形成されている。図6(A)、(B)は図1(A)の第1突状部14A、図7(A)は図1(B)の第2突状部14B、図7(B)は図1(C)の第1及び第2突状部14A,14Bと同様である。
【0054】
図8は、上記した第1突状部14Aに加えて、更に唾液の分泌を促進するように、第1突状部14Aの外面に唾液によってガルバニック電流を発生させる金属14Cが被服されるようにしたものである。図8(A)はマウスピース12の外面図であり、図8(B)は内面図である。
【0055】
図8は、奥歯嵌合タイプの唾液分泌促進マウスピース10で示した一例であるが、図1のハードタイプの唾液分泌促進マウスピース10、及び図5のソフトタイプの唾液分泌促進マウスピース10の場合も同様である。また、図8は、第1突状部14Aにガルバニック電流を発生させる金属14Cが被服される図で示したが、第2突状部14Bに金属14Cを被服しても良く、第1及び第2突状部14A,14Bの両方に金属14Cを被服しても良い。
【0056】
ガルバニック電流(ガルバニー電流ともいう)は、通常、異なる種類の金属が触れ合うことで発生する。しかし、口腔内においては唾液で電気の伝導性が高まっているため、一種類の金属14C(例えば、アマルガム、金、銀、パラジウム、銅合金、ニッケルクロム合金、コバルト合金、アルミニウム等)が唾液でイオン化して口腔内で電位差を生じ、微弱電流であるガルバニック電流が発生する。このガルバニック電流が発生すると、ピリッとした刺激を感じる。
【0057】
このように、第1及び第2突状部14A,14Bに、唾液によってガルバニック電流を発生させる金属14Cを被服させたので、奥歯近傍の歯茎28部分及び唾液腺近傍の口腔内面部分の少なくとも一方を刺激する刺激力が強くなる。これにより、唾液の分泌を一層促進することができる。
【0058】
次に、上記の如く構成された本実施の形態の唾液分泌促進マウスピース10の使用方法について説明する。使用方法の説明は、奥歯嵌合タイプの唾液分泌促進マウスピース10の図7(B)の第1突状部14Aと第2突状部14Bの両方を備えた例で以下に説明する。
【0059】
先ず、唾液分泌促進マウスピース10の使用者は、図9に示すように、唾液分泌促進マウスピース10を、加熱容器30に貯留された加熱水32の中に浸漬してマウスピース12及び嵌合部12A,12Aを軟化させる(軟化ステップ)。加熱容器30は、加熱容器30を搭載する加熱手段34により、加熱される。
【0060】
唾液分泌促進マウスピース10の材質として、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)の場合には、50〜100℃の加熱温度の範囲において、歯列に対する転写精度が良い温度を適宜選択することができる。
【0061】
次に、図10に示すように、使用者は軟化状態の唾液分泌促進マウスピース10の左右の嵌合部12A,12Aを、下顎歯列26の左右の奥歯の上から下方に向かって押さえつけ、この状態で上顎歯列24と噛み合わせることにより、マウスピース12の内側面に奥歯形状を転写させる(転写ステップ)。
【0062】
この場合、第2突状部14Bが奥歯の歯茎28の位置に跨設されるようにする。この状態で十分冷却するまで待ち、体温まで冷却したところで唾液分泌促進マウスピース10を下顎歯列26から取り外す。これにより、マウスピース12の内側面には、図6(B)で示した第1大臼歯、第2大臼歯、第3大臼歯の3本の奥歯の形状Pが溝状に転写される。
【0063】
この場合、転写後のマウスピース12に口腔内で当たって違和感のある箇所等があれば、例えばナイフ等で削り取り、形状を整える。その後必要に応じ、再度軟化点以上の温度の湯に入れて軟化させ、軟らかいうちに再び下顎歯列26の奥歯に嵌合させて口腔内にて噛み合わせて微調整を行い、使用者の口腔内形状に適合した唾液分泌促進マウスピース10を形成する。このようにして軽減された時間と労力で、使用者の口腔内形状の特徴に合わせた唾液分泌促進マウスピース10を得ることができる。
【0064】
また、使用者は、唾液分泌促進マウスピース10が軟化状態にあるうちに、第1突状部14Aが耳下腺16に対応する口腔内面部分を適切に刺激するように、第1突状部14Aの方向や長さを指で矯正し、矯正した状態で自然冷却して固化する(第1突状部の調整ステップ)。
【0065】
更に、使用者は、唾液分泌促進マウスピース10が軟化状態にあるうちに、第2突状部14Bの内側面と奥歯の歯茎28の表面との隙間をなくして、第2突状部14Bの内側面に形成した微細突起aが歯茎28の表面に適切に接触するように矯正する(第2突状部の調整ステップ)。
【0066】
これにより、図11に示すように、使用者の下顎歯列26の左右奥歯に、一対の嵌合部12Aが密着嵌合する唾液分泌促進マウスピース10を形成できる。さらに、第1突状部14Aと第2突状部14Bとにより、耳下腺16、舌下腺18、及び顎下腺20の3つの唾液腺を適切に刺激することができる唾液分泌促進マウスピース10を提供できる。
【0067】
また、唾液分泌促進マウスピース10を下顎歯列26に装着したままでも無理なく喋ることができ、口を開けても外部から装着していることが分かり難い。
これにより、特に口臭が気になる他人との会話中のように人前でも使用することができ、使用するタイミングが限られることなくいつでも使用することができる。
【0068】
なお、上記した本実施の形態では、使用者が、唾液分泌促進マウスピース10を軟化させて歯列形状を取るようにしたが、歯医者に依頼し、より精巧な歯列形状を取ることもできる。
また、本発明の唾液分泌促進マウスピース10は、特に歯医者等の世話にならなくても、使用者自身で簡単に歯列形状を取れるように、唾液分泌促進マウスピース10を構成するマウスピース12と突状部14のうちの少なくともマウスピース12は人の体温を超えた温度で軟化する熱可塑性樹脂とした。
【0069】
しかし、歯医者に依頼して唾液分泌促進マウスピース10を作製する場合には、非熱可塑性樹脂の材料を使用することも可能である。また、マウスピースは、一般的に石膏模型の作製などを経て作製されるが、3Dプリンタで次のようにして作製することも可能である。即ち、上顎歯列24および下顎歯列26をカメラでそれぞれ少なくとも2方向から撮影し、これらの撮影画像から上顎歯列24および下顎歯列26の三次元画像を取得する。そして、この三次元画像から得られる三次元座標データを用いて3Dプリンタにより唾液分泌促進マウスピース10を作製することもできる。
【0070】
なお、本実施の形態では、左右の奥歯のみに嵌合される一対の嵌合部12A,12Aのみでマウスピース12を構成する場合には、図6の紐状の連結部12Bを除いた構成となり、特に図示しなかった。
【0071】
しかしながら、この態様であれば、上記した紐状の連結部12Bを有するマウスピース12の場合よりもさらに無理なく喋ることができ、口を開けても外部から装着していることがさらに分かり難くすることができる。
【符号の説明】
【0072】
10…唾液分泌促進マウスピース、12…マウスピース、12A…嵌合部、12B…連結部、14…突状部、14A…第1突状部、14B…第2突状部、16…耳下腺、16A…導管、18…舌下腺、18A…導管、20…顎下腺、20A…導管、22…咬筋、24…上顎歯列、26…下顎歯列、28…歯茎、30…加熱容器、32…加熱水、34…加熱手段
【要約】
【課題】特に口臭が気になる他人との会話中のように人前でも使用することができ、使用するタイミングが限られることなくいつでも使用することができる唾液分泌促進マウスピースを提供する。
【解決手段】人の体温を超えた温度で軟化する熱可塑性樹脂で形成され、人の上顎歯列24又は下顎歯列26のうち少なくとも左右の奥歯に着脱自在に嵌合可能な嵌合部12Aを有する馬蹄形のマウスピース12と、マウスピース12に一体的に形成され、奥歯近傍の歯茎28部分及び唾液腺近傍の口腔内面部分の少なくとも一方に接触して刺激することにより唾液の分泌を促進する突状部14A,14Bと、から成ることを特徴とする唾液分泌促進マウスピース。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11