特許第5784273号(P5784273)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5784273レーザ加工方法及び切断方法並びに多層基板を有する構造体の分割方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5784273
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】レーザ加工方法及び切断方法並びに多層基板を有する構造体の分割方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/364 20140101AFI20150907BHJP
   B23K 26/04 20140101ALI20150907BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20150907BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20150907BHJP
   B23K 26/40 20140101ALI20150907BHJP
   B28D 5/00 20060101ALI20150907BHJP
   C03B 33/07 20060101ALI20150907BHJP
   C03B 33/09 20060101ALI20150907BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20150907BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   B23K26/364
   B23K26/04
   B23K26/064 A
   B23K26/38
   B23K26/40
   B28D5/00 Z
   C03B33/07
   C03B33/09
   G02F1/13 101
   G02F1/1333 500
【請求項の数】19
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2009-509277(P2009-509277)
(86)(22)【出願日】2008年4月2日
(86)【国際出願番号】JP2008056583
(87)【国際公開番号】WO2008126742
(87)【国際公開日】20081023
【審査請求日】2011年3月22日
【審判番号】不服2013-21369(P2013-21369/J1)
【審判請求日】2013年11月1日
(31)【優先権主張番号】特願2007-99868(P2007-99868)
(32)【優先日】2007年4月5日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2007-218524(P2007-218524)
(32)【優先日】2007年8月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2007-275395(P2007-275395)
(32)【優先日】2007年10月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507096940
【氏名又は名称】チャーム エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 将尚
(72)【発明者】
【氏名】住吉 哲実
(72)【発明者】
【氏名】辻川 晋
(72)【発明者】
【氏名】関田 仁志
【合議体】
【審判長】 栗田 雅弘
【審判官】 石川 好文
【審判官】 久保 克彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−288503(JP,A)
【文献】 特開2006−130903(JP,A)
【文献】 特開2007−66951(JP,A)
【文献】 特開2007−13056(JP,A)
【文献】 特開2006−263754(JP,A)
【文献】 特表2005−511313(JP,A)
【文献】 特開2005−305462(JP,A)
【文献】 特開2005−179154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面及び第2の面を有する被加工物体に対して透明となる波長を有する超短パルスレーザ光を集光手段を通して集光し、第1の面の側から、集光された前記レーザ光のビームウェスト位置が前記被加工物体の第1の面と第2の面の間に形成されるように前記レーザ光を照射し、前記被加工物体内部の超短パルス高ピークレーザ光伝播による自己集束作用により前記レーザ光の進行方向に集光チャンネルが形成されることにより、前記集光チャネルに空洞を含むレーザ加工領域が形成され、
前記集光チャネルが前記被加工物体内部から第2の面まで形成されることにより、前記空洞が前記被加工物体内部から第2の面まで形成されたり、前記集光チャネルが第1の面から第2の面まで形成されることにより、前記空洞が第1の面から第2の面まで形成されたり、前記集光チャネルが第1の面から前記加工物体内部まで形成されることにより、前記空洞が第1の面から前記加工物体内部まで形成され、
前記被加工物体の第1の面側に前記レーザ波長に対して透明な他の物体を設置することで前記被加工物体に生成される自己集束作用による前記集光チャネルの長さを変更することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記パルスレーザ光は、パルス幅100ps以下である請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記パルスレーザ光は、パルス幅500fsないし10psである請求項2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記レーザ光進行方向の第2の面との交点近傍が周辺の表面よりも高く盛り上がっている盛り上がり構造が形成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記被加工物体がガラス、サファイア、もしくはダイヤモンドなどの誘電体材料、またはシリコンもしくは窒化ガリウムなどの半導体材料であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記超短パルスレーザ光は、パルスエネルギー1mJ以下の出力パルスである請求項1ないし5のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記超短パルスレーザ光は、パルスエネルギー10μJ以下の出力パルスである請求項1ないし5のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
前記被加工物体が平板状の物体であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項9】
前記被加工物体はシリコン基板とし、前記波長は1μmないし2μmとすることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項10】
前記被加工物体が同種または異種の材料の平板状物体が2枚以上重なった多層構造であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
【請求項11】
前記多層構造をなす被加工物体が密着しているかまたは間にエアーギャップ、有機材料も
しくは透明電極層が存在することを特徴とする請求項10に記載のレーザ加工方法。
【請求項12】
前記集光手段で前記被加工物体内部に集光した前記超短パルスレーザ光を、切断する方向に沿って任意の速度で相対移動させることで、前記空洞の空間的な重なりを設けることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
【請求項13】
前記集光手段で前記被加工物体内部に集光した前記超短パルスレーザ光を、切断する方向に沿って任意の速度で相対移動させることで、前記空洞を空間的に離して設けることを特徴とする請求項1ないし12のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
【請求項14】
前記被加工物体が、平面状をした物体であり、前記超短パルスレーザの集光レーザ光を前記被加工物体の第1面の法線方向から一定の角度で傾斜して入射させ、前記集光レーザ光に前記角度の傾斜をもたせつつ回転させて円形の走査を行い、加工面を傾斜して加工することを特徴とする請求項12または13に記載のレーザによる加工方法。
【請求項15】
前記相対移動を複数回行い各相対移動の間に前記レーザ光のビームウェストの高さを変更する操作を有する、請求項12ないし14のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
【請求項16】
請求項12ないし15のいずれか1項に記載の方法による被加工物体のレーザ加工を行った後に、加工部分にそって前記被加工物体を切断することを特徴とする被加工物体の切断方法。
【請求項17】
請求項16に記載の被加工物体の切断方法であって、前記被加工物体は、液晶表示パネルの基板であることを特徴とする液晶表示パネル基板切断方法。
【請求項18】
請求項17に記載の被加工物体の切断方法であって、前記液晶表示パネルは第1の基板と第2の基板の積層構造を有し、第2の基板の第1の基板側の表面上に搭載された部品の上に前記レーザ波長に対して不透明な材料を塗布もしくは接着もしくは密着させて第1の基板の側から第1の基板内にビームウェストを形成するようにレーザを照射するステップを有し、前記照射の際、第1の基板を通過したレーザ光が前記部品に損傷を与えないようにすることを特徴とする液晶表示パネル基板切断方法。
【請求項19】
請求項17または18に記載の液晶表示パネル基板切断方法を含むことを特徴とする、液晶表示パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工対象物体、とくに基板のような平板状を有する物体をその物体に対して透明となる波長の超短パルスレーザを用いて効率的且つ高品質に加工する方法に関する。
本発明は、また、少なくとも2枚の基板を平行に配置し、その間にスペーサを挿入した構造を有する、多層基板を有する構造体のレーザ光を用いた分割方法に関する。液晶表示パネル、プラズマ表示パネルなどのガラス基板を用いた平板表示パネルを分割するのに好適である。
【背景技術】
【0002】
電子工業においてCPUやDRAM、SRAMなどの半導体デバイスの微細化は年々進展し、それにつれて内部の回路の高集積化が図られている。これらのデバイスの構造はシリコンウェハなどの半導体基板上に高集積な回路パターンで形成される。半導体ウェハから多数のチップを収穫するためにはチップの分割に要する面積を最小化する必要がある。このためにはスクライビング工程で加工除去物の飛散が少ないことが望まれる。液晶ディスプレイなどのガラス基板の切断工程では、正確に所定寸法で分割できることが望まれる。これらの分割工程では、加工部の周囲への熱損傷や機械的損傷の無い条件で除去加工することが必要であり、このためにナノ秒パルス以下の狭いパルスが使用されている。超短パルスレーザを用いた加工では、熱的加工変質層の発生が低減できることや、その波長にとって透明な材料であっても多光子吸収に代表される非線形な光吸収によって加工可能であることは周知技術である。
超短パルス発振のレーザ光を用いた透明体の加工方法は特許文献2により周知であり、さらに被加工物体を基板の裏面に集光してレーザ加工を施すことは特許文献3に記載されている。
【0003】
表面吸収の大きなUVレーザ光を照射すると照射表面からプラズマが発生し、そこでレーザ光が吸収されるので、レーザエネルギーの利用効率は低下するとともに、プラズマからの副次的は放射により周囲が照射され、周囲のデバイス特性に影響を与える場合もある。そこで半導体基板、薄膜トランジスタ用のガラス基板などを所定の大きさに分割するスクライビング工程として、切れ目を入れる面(加工面)と反対側の面から加工面に焦点を合わせてレーザ光を照射することで加工面に切れ目を加工する方法が特許文献3に記載されている。この方法ではレーザ光入射側と反対の面にレーザ光を集光させてレーザアブレーション加工行うため、加工溝の深さが十分得られない欠点がある。溝深さが十分深く得られないと、その溝に沿って分離するために、ブレーキングするために要する折り曲げの力が大きくなるばかりか、スクライブ線に沿って分割されないこともある。加工溝の深さが十分あれば、少ない応力でスクライブ線に沿って分割可能である。
【0004】
一方、液晶表示装置の製造においては、パネルを構成する大型ガラス基板を切断する工程がある。液晶表示装置のパネル面は少なくとも2枚のガラス板を平行配置し、その間に表示装置に必要なカラーフィルタや液晶、薄膜トランジスタ(TFT)、制御電極などの配線が設けられている。これらのガラス板は製造工程では最終の表示装置の大きさより大きなガラスを用いて同時に多数枚の表示装置を製造することで同時に多数枚の表示パネルの製造を行い、効率化を図っている。従って、最終的に製品のパネルサイズに合わせて大きな多数枚のパネルが形成された大型ガラス基板から個別に切断する必要がある。従来のガラス板の切断方法はダイヤモンド刃、超硬刃等の刃等を利用してガラス表面を所望の切断すべき線に沿って切り込みを入れてスクライブ線を設け、その後応力を該スクライブ線に直角方向に加えて該スクライブ線に沿って破断して分離させる方法や、レーザ光線を所望の切断すべき線に沿って走査し、加熱し、熱応力をガラス基板に発生させて、その部分から破断分割する方法などがあり、この場合ガラス板に吸収率の大きなレーザ波長を用いて照射し、局部加熱させ、その後強制冷却し、照射位置から分割する。
【0005】
2枚のガラス板の間に表示要素を挿入してガラスの周囲をシール剤で封止してから個別の表示パネルに分割する場合は、2枚重ねのガラス板の両面から片側ずつスクライビングを行い、その後切断する方法が実施される。これにはダイヤモンド刃で切り込みを入れるため、片面にスクライビング加工を行った後に、2層ガラス板を表裏反転させて残りの片面にスクライビングを施してから2枚重ねのガラス板を一緒に分割する方法となる。近年の市場が表示パネルのサイズの大型化の傾向により、パネルに用いるガラスの大きさが益々大きくなる傾向にあり、そのため製造用大型ガラス板の搬送装置が複雑化し、反転機構が大がかりになり高価な設備となる。そのため、ガラス板は反転しないで、片側からスクライビングする方法は実用的に有効な製造方法となる。紫外線レーザを2枚重ねのガラスの片側から各ガラス表面に照射し、2枚重ね構造の両方のガラス板の表面にスクライビングを施す提案が特許文献4に開示されている。この方法はガラスがレーザ光に対して透明性を有し、上部ガラス側からレーザ光を照射するとした場合、上部ガラスを通過して下部ガラス表面に紫外線レーザ光が到達することが必要条件となる。従って下部ガラスの上面や上部ガラス板の内面の金属配線などに用いる金属膜があるとレーザ光が照射されることにより金属膜が破損し、又は金属膜に遮られて下部ガラスまでレーザビームを導くことが困難となる。このように2枚ガラスの間に介在物がある場合、片側面からのレーザビーム照射では上部のガラス板を通じて下部のガラス板をスクライビングすることが困難である。
【0006】
【特許文献1】米国再発行特許第37585号明細書
【特許文献2】特開2002−205179号公報
【特許文献3】特開2004−351466号公報
【特許文献4】特開2005-132694号公報
【特許文献5】特開平8−64556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、加工物体に対して透明となる波長の超短パルスレーザ光を用いて加工物体を入射側と反対の面(ウラ面)において高精度加工を実施する際に、加工物体内部に小さな直径のビームを集光点の焦点深度より長い範囲にわたってレーザ光進行方向に設ける点である。
また、さらなる課題は多層基板を有する構造体の一つの基板面側のみからレーザ光を照射して該構造体が分割できる方法を提供することである。また、2枚の基板の間に金属薄膜を有する構造において、金属薄膜を露出させるような分割方法を提供することである。また、2枚の基板間に封止部を有し、封止部内側に電子部品を形成した場合、該電子部品から封止部外側に配線を導出することを可能とする構造体の分割方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
加工物体内部に自己集束作用を発生させ、レーザ光による加工幅を小さくしたまま、レーザ光の進行方向の加工距離を通常のアブレーション加工よりも格段に大きくすることによって上記課題を解決する。
【0009】
上記課題を解決するため、本発明はレーザ加工方法であって、第1の面及び第2の面を有する被加工物体に対して透明となる波長を有する超短パルスレーザ光を集光手段を通して集光し、第1の面の側から、集光された前記レーザ光のビームウェスト位置が前記被加工物体の第1の面と第2の面の間に形成されるように前記レーザ光を照射し、前記被加工物体内部の超短パルス高ピークレーザ光伝播による自己集束作用により前記レーザ光の進行方向に集光チャンネルが形成されることにより、前記集光チャネル部分に第2の面に達する空洞、もしくは第2の面近傍に達する空洞が形成されることを特徴とする。それによって、レーザ光進行方向の加工距離を通常のアブレーション加工よりも大きくすることができる。
【0010】
また、前記レーザ光進行方向の第2の面との交点近傍が周辺の表面よりも高く盛り上がっている機械強度の弱い盛り上がり構造が形成されることを特徴とする。また、前記集光チャネルが第2の面まで形成されることにより、前記空洞が第2の面まで形成されることを特徴とする。また、前記集光チャネルが第1の面から第2の面まで形成されることにより、前記空洞が第1の面から第2の面まで形成されることを特徴とする。また、前記集光チャネルが第1の面から前記加工物体内部まで形成されることにより、前記空洞が第1の面から前記加工物体内部まで形成されることを特徴とする。それぞれにより、レーザ光進行方向の加工距離を通常のアブレーション加工よりも大きくすることができる。
【0011】
また、前記被加工物体が同種または異種の材料の平板状物体が2枚以上重なった多層構造であることを特徴とする。それによって、2枚以上の物体を同時に加工可能である。
また、前記被加工物体の第1の面側に前記レーザ波長に対して透明な他の物体を設置することで前記被加工物体に生成される自己集束作用による前記集光チャネルの長さを変更することを特徴とする。それによって、レーザ光進行方向の加工距離を調整することができる。
また、前記被加工物体の第1の面側に前記レーザ波長に対して透明な他の物体を設置することで前記被加工物体に生成される自己集束作用による前記集光チャネルを第1面に到達させることを特徴とする。それによって、基板のオモテ面まで加工することができる。
【0012】
また、前記集光手段で前記被加工物体内部に集光した前記超短パルスレーザ光を、切断する方向に沿って任意の速度で相対移動させることで、前記空洞の空間的な重なりを設けることを特徴とする。また、前記集光手段で前記被加工物体内部に集光した前記超短パルスレーザ光を、切断する方向に沿って任意の速度で相対移動させることで、前記空洞を空間的に離して設けることを特徴とする。それぞれにより、被加工物体に切断線を作成することができ、かつレーザ光進行方向の加工距離が大きいので少ない曲げ応力で切断することができる。
また、前記被加工物体が、平面状をした物体であり、前記超短パルスレーザの集光レーザ光を前記被加工物体の第1面の法線方向から一定の角度で傾斜して入射させ、前記集光レーザ光に前記角度の傾斜をもたせつつ回転させて円形の走査を行い、加工面を傾斜して加工することを特徴とする。それによって、円形の切断線を作成することができる。
また、前記相対移動を複数回行い各相対移動の間に前記レーザ光のビームウェストの高さを変更する操作を有することを特徴とする。それによって、被加工物体に深部に渡って空洞形成がなされるため、部分切断から全切断までの加工を施すことが可能である。
【0013】
一方、本発明は被加工物体の切断方法であって、前記記載の被加工物体のレーザ加工を行った後に、加工部分にそって少ない応力で前記被加工物体を切断することを特徴とする。それによって、切断線に正しく沿って被加工物体を分割することができる。
また、液晶表示パネルの基板切断方法であって、液晶表示パネルは第1の基板と第2の基板の積層構造を有し、第2の基板の第1の基板側の表面上に搭載された部品の上に前記レーザ波長に対して不透明な材料を塗布もしくは接着もしくは密着させて第1の基板の側から第1の基板内にビームウェストを形成するようにレーザを照射するステップを有し、前記照射の際、第1の基板を通過したレーザ光が前記部品に損傷を与えないようにすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明では、第1及び第2基板とそれらの間にスペーサを部分的に挟んで平行に配置された構造体の分割方法を提供する。方法は次の通りである。
第1及び第2基板に透明となる波長を有する、パルス幅100ps以下の超短パルスレーザを集光手段を通して集光し、第1基板の外側からビームウェスト位置がいずれか一方の基板の表面または内部に形成するように照射して、該超短パルスレーザ伝播による自己集束作用により該超短パルスレーザ光の進行方向に集光チャネルが形成されることにより、該集光チャネル部に空洞が形成し、該超短パルスレーザ光を相対的に移動することでスクライブ線を形成するスクライブ線形成ステップ、及びその後、該スクライブ線に沿って前記スクライブ線が形成された基板を切断する基板切断ステップを有する。レーザビームを多層基板、とくに2層の基板、を有する構造体の一方の面のみから照射して加工ができるので設備の簡素化が図れる。
また、本発明はさらに、前記スクライブ線形成ステップにおいて、下記ステップAを有し、該基板切断ステップにおいては下記ステップCを有することを特徴とする。
また、本発明は前記スクライブ線形成ステップにおいて、下記A及びBのステップを有しA、BまたはB、Aの順序で実施し、前記基板切断ステップにおいては下記C及びDのステップを有し、C、Dの順序で実施することを特徴とする。これにより、第1基板を対峙させない第2基板の部分を形成できるので、制御回路を第2基板の内側の面上に、又はその面の上部に形成することが可能となり、液晶パネルなど表示パネルの薄型化が図れる。
【0015】
ステップA:第1基板を透過し、第2基板に該ビームウェストがくるように該超短パルスレーザを集光して第2基板に第1のスクライブ線を形成し、さらにビームウェストを第1基板に位置するように集光し第1スクライブ線と同じ平面位置で該超短パルスレーザを相対的に移動することで第1基板に第2のスクライブ線を形成する。
ステップB:前記ビームウェストを第1基板に位置するように前記超短パルスレーザを集光して、第2スクライブ線と所定の距離離して平行に前記超短パルスレーザ光を相対的に移動することで第1基板に第3のスクライブ線を形成する。
ステップC:第1及び第2スクライブ線に沿って第2及び第1の基板を切断することにより、該構造体を分割する。
ステップD:第3スクライブ線に沿って第1基板を切断することにより、第1基板の第2スクライブ線から第3スクライブ線の部分を除去する。
【0016】
さらに、前記構造体が第2基板の第1基板側と対向した面上に、金属薄膜を有し、さらに、前記スペーサが、封止材であって第1及び第2基板と該封止材とで囲む空間を構成する該封止材を有し、該空間に電子部品を形成され、前記金属薄膜が該空間の内側と外側にまたがって存在し、前記金属薄膜が該電子部品と電気的に接続されると、金属薄膜が封止体を横切り、この金属薄膜が封止体内部に形成された該電子部品と電気的に接続されているので、この金属薄膜は配線として用いることができ、該電子部品を封止部の外側で配線することが可能になる。
【0017】
さらに、本発明はレーザ加工装置であって、超短パルスレーザ発生装置と、前記超短パルスレーザ発生装置から発生したパルスレーザ光を一定の角度で偏向させて回転する回転ミラーと、偏向された前記パルスレーザ光の光路と光軸が一致するように前記回転ミラーと同期して回転し、回転によって焦点が円軌跡を描く集光レンズと、前記集光レンズを前記光軸方向に沿って移動させる手段と加工物体搭載手段とを有することを特徴とする。該構成により、被加工物体に円形に切断線を入れることができ、さらに切断線に沿って円形に切断することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
自己集束作用の発生により、レーザ光の進行方向に集光チャネルが、ビームウェストよりも長い距離にわたって形成され、集光チャネル部分に空洞が形成され、集光チャネル部に第2の面に達する空洞、または第2の面近傍に達する空洞が形成されることから、レーザ光進行方向の加工距離を通常のアブレーション加工よりも大きくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を説明する。図1は本発明による加工方法の実施形態を示す図である。超短パルスレーザ発生装置1から出力される超短パルス15であるレーザ光(ビーム)2をコリメータ(図示されず)によって平行にし、集光レンズ3などの集光手段に入射し、集束レーザビーム5として被加工物体4のオモテ面45から入射させる。超短パルスのレーザとはパルス幅100ps以内のレーザとする。前記被加工物体4の例としては、ガラス、サファイア、もしくはダイヤモンドなどの誘電体材料、またはシリコンもしくは窒化ガリウムなどの半導体材料があげられる。また、被加工物体4は基板など平板状の物体が好適である。このため、以下、被加工物体4を基板と称することもある。レーザは、被加工物体に対して透明となる波長となるものを選ぶ。ここで透明とは、かならずしも100%光を透過するという意味とは限らない。レーザ光がある程度透過できる場合も含まれるものとする。例えば、被加工物体をシリコン基板とすると、波長が1μmないし2μmである赤外の領域であればよい。レーザ媒体の例として、チタンサファイア結晶(中心波長780nm)のほか、エルビウム添加ファイバー、イットリビウム添加ファイバー、Nd:YAG結晶、Nd:YVO結晶、Nd:YLF結晶などがあげられる。また、ガラス基板を被加工物体とする場合、レーザ媒体はチタンサファイア結晶(中心波長780nm)とするのが好ましい。
なお、オモテ面とは、レーザ光が入射する側の面であり、それとは反対側の面をウラ面と称する。集束レーザビーム5は被加工物体4の内部に集光点であるビームウェスト6を形成する。被加工物体4に集束レーザビーム5を照射し、そのビームウェスト6をオモテ面45からウラ面44までの被加工物体内部の適当な位置に合わせてビームを照射する。
【0020】
集束レーザビーム5のエネルギー、波長及びパルス幅並びに前記集光レンズ3の焦点距離や集光位置を調整し、被加工物体4の内部において超短パルスを高パワー密度に集光すると、ビームウェスト6から進行方向に向かってカー効果に基づく自己集束作用が発生し、ビームウェスト6程度の直径を有する細いビームの伝播チャンネル8が形成される。図1において、被加工物体4の厚さ7の内部でウラ面44からオモテ面方向に、レーザビームウェスト6を形成するように照射条件を設定すると、入射する集束レーザビーム5はビームウェスト6からは、パワー密度が微弱でカー効果による自己集束作用が発生しない領域では、一旦ビームウェストで集光された後は発散性のビーム10として伝播するが、カー効果が現れる十分高いパワー密度の集光点がビームウェストに形成されると、フィラメント状のチャンネル8が距離13に渡って形成される、被加工物体内部のチャンネル8に沿って伝播し、レーザビームエネルギーを消費しながらウラ面44に向かって進み、ウラ面44においてもカー効果が維持できる程度のエネルギーが維持されていれば、チャンネル8にある被加工物体の一部は衝撃波により周囲に圧縮される結果、細い空洞が形成され、残りはウラ面から外部に排出され、または排出されない場合はウラ面44に盛り上がりが形成され、細長い空洞がチャンネル8に沿ってビームウェスト6からウラ面44までの距離14に渡って形成される。ウラ面44まで被加工物体に吸収されないで到達したビームは、もはや自己集束作用により閉じ込められることがないので発散性ビーム11として放出される。
【0021】
被加工物体中での自己集束作用によるビームの集光効果が顕著になる条件として、文献J. H. Marburger, Prog. Quantum Electron., Vol. 4, p.35 (1975).によると自己集束の臨界閾値パワーPcrと呼ばれる数式1で示す指標がある。
【数1】

数式1において、λはレーザ波長、n0は物体の屈折率、n2は物体の非線形屈折率とする。
数式1によると、例えば石英ガラスの自己集束の臨界閾値パワーは2.3MWであり、被加工物体に入射されたレーザパルスのピーク出力(レーザパルスエネルギーをレーザパルス幅で除算した値)がこの値よりも大きくなると自己集束作用が顕著に起こる。
【0022】
超短パルスレーザのエネルギー、波長、パルス幅、及び集光レンズの焦点距離、集光位置の調整を図ることにより、自己集束作用の発生状況を変えることができる。これにより、ウラ面に達する空洞、もしくはウラ面近傍に達する空洞が形成される。ここで面近傍とは、その面から内部方向に基板などの被加工対象である物体の厚さの1/10程度の距離まで含めるものとする。空洞形成状態はつぎのように設定可能である。
(1)空洞はウラ面まで達しないのでウラ面が周辺の表面よりも高く盛り上がっている機械強度の弱い盛り上がり構造が形成される。
(2)前記集光チャネルがウラ面まで形成されることにより、空洞がウラ面まで形成される。
(3)前記集光チャネルがオモテ面からウラ面まで形成されることにより、空洞がオモテ面からウラ面まで形成される。
(4)集光チャネルがオモテ面から加工物体内部までのみに形成されることにより、空洞がオモテ面から加工物体内部までのみ形成される。
【0023】
本発明によれば、被加工物体に対して透明な波長を有する超短パルスレーザ光を集光光学系により、基板内に十分小さなレーザ光断面積に集光させることで、集光点には高いパワー密度の集光点を実現し、それによって基板内に伝播するレーザ光は一旦集光されると、カー効果による自己集束作用を生じ、一方集光点にプラズマによるデフォーカス作用が発生し、この2作用のバランスによってレーザパルス光の伝播は、自己集束作用の自己トラップされたフィラメントを形成する。このトラップされる範囲は、通常のパワーレベルでの自己集束作用の現れない条件での焦点付近に形成されるビームウェストの焦点深度より、何倍も大きな距離の値まで自己集束作用によるレーザ光伝播チャンネルを形成できる。チャンネルの長さは、材料特性、レーザビームのパワー密度、エネルギーなどのパラメータで変化する。チャンネルのレーザ光伝播方向の端部がウラ面に到達し、その後にチャネル内部に蓄積されたエネルギーにより局所的な高温、高圧力状態が作り出され内部から外部に向かう力が働くため、上記自己集束作用の集光チャンネルの通過跡には空洞が形成されて残る。
【0024】
図2に示すように、超短パルスレーザ光2を被加工物体4内のレーザ光の集光点から進行方向16に長く形成される自己集束作用による長い円筒型チャンネルによる空洞を走査線48に沿って形成する。さらに、形成後走査線48に直角方向に曲げ応力49を印加してブレーキングを行う場合、穴径に比べて非常に深い穴が形成されるため、その溝に沿った線(スクライブ線)がブレーキングの起点として作用し、スクライブ線に沿って比較的弱い応力でも切断することができる。基板のウラ面には連続した浅い溝や構造的に弱い盛り上がり構造が形成されているので、ブレーキング方向は走査線48、言い換えればスクライブ線に沿ってだけ確実に生じることになる。ウラ面近くで表面に穴が空く場合や、チャネル出口部が周囲の表面よりも高く盛り上がる機械強度が弱い構造となる場合があるが、いずれの場合でもレーザ光を基板の切断したい方向に走査することにより基板内部奥深くからウラ面に到る加工形状が、走査線48、言い換えればスクライブ線に沿って形成される。加工溝の深さが十分得られるので、その後少ない曲げ応力49で走査線48に沿って基板を切断することができる。スクライブ線の形成は、レーザ光の移動でなく、被加工物体4の移動によっても可能である。何れかの移動を相対的走査と称する。また破断したい方向にレーザ光を走査する場合、走査速度を調整することにより、破断面を連続的にスクライブ線を設けることも、また間隔を空けて離散的にスクライブ線を設けることも可能であり、いずれの場合も少ない曲げ応力によってスクライブ線に沿って基板を切断することが可能である。
【0025】
図3には、被加工物体のある高さにレーザ光を集光しながら一度被加工物体を走査して加工した後にレーザ光集光点の集光位置を変更し、再度加工を行う方法を示す。まず、(a)に示すように、被加工物体4のウラ面44から内部へ空洞形成距離57(135μm程度)程度離れた個所にレーザ光のビームウェストを合わせ、自己集束作用によるチャネル8を形成し、走査方向47に沿って直線的に一度走査する。これにより、空洞列を直線的に形成する。つぎに(b)に示すように集光レンズ3を光軸方向に沿って移動し、空洞形成距離58程度だけビームウェストが形成される高さをオモテ面側にずらしてチャネル8を形成して再度走査する。このとき、初回の走査による加工線35の上を走査するので、空洞列が、初回の走査で形成された空洞列とほぼ連続的につながるように形成される。さらに、必要であれば、(c)に示すように、ビームウェストの高さ移動と空洞列形成のための走査を行う。高さ移動と走査は必要な回数だけ繰り返すものとする。この操作の繰り返しにより被加工物体4の内部に合体した直線状の空洞の壁が形成される。最後に被加工物体4に曲げ応力を与えて空洞の壁に沿って切断する。初回の走査は、必ずしも空洞がウラ面に到達する必要はない。また、ビームウェストがオモテ面に到達するまで高さ移動及び走査を繰り返すことも可能である。このような方法により、被加工物体に深部に渡って空洞形成を繰り返すため、部分切断から全切断までの加工を施すことが可能である。
【0026】
加工対象物体である基板は、1枚とは限らない。同種または異種材料の2枚以上の基板を重ねた多層構造であってもすべての基板に対して加工が可能である。多層構造の場合、基板を密着しても、離してもよく、離した場合、空隙は空気とするほか、有機材料もしくは透明電極層であってもよい。基板2枚とした場合、図4のように、レーザ入射光側に置かれた上部基板81と反対側に置かれた下部基板82から構成され、空隙83が入る場合もある。この方法であれば、複数の層からなるガラスであっても本発明の方法が適用可能である。
【0027】
図4のように基板2枚の場合、下部基板82の方がレーザ伝搬方向により長い加工が行われる。これは自己集束作用が被加工物体中の伝搬距離に依存して増加するためである。また、自己集束作用による集光チャンネルが形成されるには、10ないし200μm程度の距離レーザが被加工物体内を伝播する必要がある。この距離が長いほど、同じエネルギーでも長い空洞が形成される。このことを利用すれば、基板のオモテ面側にそれと同種またはレーザ光に対する透明な異種材料からなる他の基板を載せることで実効的に自己集束作用を増強させ、空洞形成距離を長くすることが出来、より深い加工を行うことができる。とくに、被加工物体に集光チャネルをオモテ面からウラ面まで形成させて、空洞をオモテ面からウラ面までにわたって形成することもできる。被加工物体でない他の基板には空洞が形成されないことも形成されることもある。
【0028】
この方法は、液晶表示パネルのガラス基板の切断に適用できる。液晶表示パネルのガラス基板は、空隙を挟んでレーザ入射光側に置かれた上部基板と反対側に置かれた下部基板から構成された構造をしている。
上部ガラス基板には上面側から、レーザビームウェストが該基板(上部ガラス基板)の表面または内部の適当な位置に来るよう超短パルスレーザを照射すると、上部ガラス基板に空洞が形成される。レーザ光を相対的に移動することにより、上部ガラス基板に切断面(スクライブ線)を形成する。
【0029】
下部ガラス基板も上部ガラス基板の上面側から超短パルスレーザを照射することで、切断面を形成できる。レーザビームウェストが該基板(下部ガラス基板)の表面または内部の適当な位置に来るよう照射する。超短パルスレーザは上部ガラス基板に損傷を与えることなく透過し、下部ガラス基板に空洞を形成することができる。超短パルスレーザを走査することにより、下部ガラス基板に切断面(スクライブ線)を形成する。
【0030】
図5(a)に液晶表示パネル断面図を示す。液晶表示パネル90は、ガラス基板2枚からなる積層構造からなる。上部ガラス基板91の内側表面には、透明電極、カラーフィルタ、薄膜トランジスタなどの部品95が形成され、下部ガラス基板92の内側表面には、電極などの部品96が形成される。また、2枚のガラス基板の間には液晶93が充填されている。液晶は、気密封止材94の中に封印されている。切断工程には、上部ガラス基板と第2のガラス基板(下部ガラス基板)とを同じ切断線に沿って切り離す場合または少し離れた別の切断線で切り離す工程とがある。同じ切断線に沿って切り離す場合は、前述した、図4に示したような2枚以上の基板を重ねてすべての基板に対して加工する場合を適用すればよい。
【0031】
図5(a)は、さらに、離れた別の切断線で切り離す工程を示している。この工程では、上部ガラス基板の切断97と下部ガラス基板の切断98を行う。集束レーザビーム5を、上部ガラス基板91のオモテ面から、レーザビームウェストが該基板の内部の適当な位置に来るよう照射すると、上部ガラス基板91のウラ面付近に空洞61が形成される。集束レーザビーム5を走査することにより、上部ガラス基板91に切断面を形成する。この際、上部ガラス基板91の加工に消費されなかったレーザビームが上部ガラス基板91を通過し、下部ガラス基板92上に形成された電極などの部品96に照射されることから、電極などの部品96にダメージを与え、最終的には液晶表示装置としての動作に悪影響を与える可能性がある。このような悪影響を防止するため、図5(b)に示すよう、事前に電極などの部品96のレーザビームが照射される位置上に保護用コーティング99を、塗布、接着または密着などして形成しておく。保護用コーティング99は、集束レーザビームの波長に対して不透明なものとする。ここで不透明とは、完全にレーザ光を透過しないという場合だけでなく、保護用コーティング99下の電極などの部品96にダメージを与えないという目的にかなえばわずかの光を透過することも含まれるものとする。
【0032】
上部ガラス基板91への加工とは別途下部ガラス基板92への加工を行う。これは、同様に、集束レーザビーム5を上部ガラス基板91のオモテ面から照射するが、レーザビームウェストが下部ガラス基板92内部の適当な位置に来るよう照射する。集束レーザビーム5は上部ガラス基板91を通過し、下部ガラス基板92のウラ面付近に空洞91を形成する。集束レーザビーム5を走査することにより、下部ガラス基板92に切断面を形成する。ガラス基板に応力を加えてガラス基板を切り離したあと、液晶表示パネルを他の部品との組み立て工程を経て、液晶表示装置が製造される。したがって、本方法は液晶表示パネル及び液晶表示装置の製造に用いることが可能である。
【0033】
複数基板となる場合の、別の実施形態を示す。この実施形態では、基板2枚からなる構造体の分割方法を示す。図6はこの実施形態を説明するための模式的な断面図である。
構造体70は上部ガラス基板91と下部ガラス基板92とが平行に配置されて構成された構造を有する。液晶表示パネルとして用いる場合、構造体70は2枚のガラス基板間にスペーサが部分的に挿入されている。2枚のガラス基板の間に空隙を設けるためにスペーサが必要である。例えば液晶表示パネルでは、球状のシリカまたはポリスチレンや円柱状のフォトレジスト材料などの物体が多数個配置される。本実施形態例では、2枚のガラス基板間に気密封止材94が挿入されており、本来は該ガラス基板とこの気密封止材94とで閉空間を構成するのが目的であるが、他に物体が挿入されていない場合は、スペーサとしての役割も果たす。気密封止材94を挿入しない場合は、別途スペーサ94が挿入されるものとする。下部ガラス基板92の上面には金属薄膜配線89がある範囲で設けられている。前記の気密封止材を有する場合、前述の閉空間の下部ガラス基板92上には、電子部品(図示されず)が配置され、また、金属薄膜配線89は、該電子部品に電気的に接続されており、気密封止材94を跨って、配置されることが好ましい。構造体が液晶表示パネルなら該閉空間には表示装置要素が形成される。
【0034】
ここで下部ガラス基板92上の金属薄膜配線89を外部から接近可能にするために、構造体70を分離する。まず、上部ガラス基板91の上面側から超短パルスレーザビーム2を集光レンズ3により集光し、レーザビームウェストが下部ガラス板92の上面(レーザ光入射側の面)上または内部の適当な位置に来るように照射する(図ではレーザビームウェストが上面上にあるがこれに限らない、以下同様)。ただし、下部ガラス板のうち金属薄膜配線89がない位置とする。レーザビーム2は上部ガラス基板91を通過し、下部ガラス基板92内に自己収束作用による空洞64を形成する。レーザビーム2を相対的に移動することにより、連続的または離散的に空洞を形成し、下部ガラス基板92に第1のスクライブ線88を形成する。
【0035】
次いで、集光レンズ3を上方に移動し、レーザビームウェストを上部ガラス板91上面(レーザ光入射側の面)上または内部の適当な位置に来るように照射する。上部ガラス板91内に自己収束作用による空洞63を形成する。レーザビーム50を相対的に移動することにより、連続的または離散的に空洞を形成し、第2のスクライブ線87を上部ガラス基板91に形成する。第2のスクライブ線87は、第1のスクライブ線88の真上に形成される。次いで、または第1と第2のスクライブ線88及び87形成に先立って、第2のスクライブ線87と同様な方法にて、第3のスクライブ線86を上部ガラス板91に作成する。この過程では空洞62が形成される。第3のスクライブ線86は、上部及び下部のガラス基板91及び92間の気密封止材またはスペーサ94に接近した位置に設けるのが好ましく、通常下部ガラス基板92上面の金属薄膜配線89を跨るように形成される。また第3のスクライブ線86は、第2のスクライブ線87と距離77(ΔY)離して平行に形成する。
【0036】
気密封止材を有し、気密封止材と2枚の基板で構成される閉空間の内部に電子部品が配置された場合、第3のスクライブ線は、該閉空間の外部で、該気密封止材94に接近した位置に設けるのが好ましい。
【0037】
この際、上部ガラス基板91における第3のスクライブライン作成86に消費されなかったレーザビーム2が上部ガラス基板91を通過し、金属薄膜配線89に照射されることからこれらにダメージを与える可能性がある。しかしながら、上部ガラス基板91を透過したレーザビーム2の強度は通常、これらにダメージを与えるほど十分に強くはない。またダメージを防止するため、事前に金属薄膜配線89のレーザビームが照射される位置上に保護用コーティングを、塗布、接着または密着などして形成しておくことも可能である。保護用コーティングは、後述のように第3のスクライブラインに沿って切断されて外部から接近可能になった後、取り除く。なお、保護用コーティングは、レーザビームの波長に対して不透明なものとし、不透明とは、完全にレーザ光を透過しないという場合だけでなく、該部品にダメージを与えないという目的にかなえばわずかの光を透過することも含まれる。
【0038】
このように第1から第3までのスクライブ線を形成後、構造体70に第1スクライブ線88とその真上の第2スクライブ線87に沿って折り曲げる応力をかけると、下部及び上部ガラス基板ともそれぞれ第1と第2のスクライブ線が設けられた部分が破断することで第1及び第2のスクライブ線に沿って構造体70が分割される。次いで、上部ガラス基板91に第3のスクライブ線に沿って折り曲げる応力をかけると上部ガラス基板91のうち第2と第3のスクライブ線の距離ΔY部分が分離される。以上の手順にて、構造体70を切断する。
【0039】
図7にこのようにして切断した2層構造体を示す。第2及び第3のスクライブ線間隔11に相当するΔYだけ下部ガラス基板92が広がり、上部に上部ガラス基板91を有さない段差構造を有する。下部ガラス基板92が広がった部分には外部から接近することが可能となる。したがって、新たに制御回路などの電子部品や金属薄膜配線を形成することが可能となる。また、下部ガラス基板上に気密封止部内部から外側に導出された金属薄膜配線を有する場合は、外部に導出された部分の配線の接続が可能になる。
【0040】
図7において、下部ガラス基板92及び上部ガラス基板91のそれぞれの断面66,及び65はそれぞれ第1のスクライブ線88と第3のスクライブ線86を起点として分割された断面である。ガラス板の側面68,67は第1と第2のスクライブ線88及び87形成方法と同様に上部から超短レーザパルスを集光して下部及び上部のガラス基板にそれぞれスクライブ線を形成後、分割して形成できる。
【0041】
本実施形態により、レーザビームをガラス構造体の片面側からだけ照射して加工ができるので設備の簡素化が図れる。また、上部基板を上部に有さない下部基板の部分を形成できるので、外部から接近することが可能となり、制御回路などの電子部品または金属薄膜配線を下部基板上面から、又はその基板の上に設けることが可能となる。このため、表示パネルの薄型化が図れる。また、気密封止部内部から外側に導出された金属薄膜配線部分の他への接続が可能になる。
【0042】
図8は本実施形態を液晶パネルの製造に適用する場合の例を示した図である。液晶パネルが多数形成された上下2枚の大型のガラス基板91及び92を有する大型構造体70から液晶パネル製造後に個別パネル80に分割する工程に本実施形態を実施する。該ガラス基板91及び92及びこれらの間に挿入された気密封止材94で囲まれた空間には液晶表示パネルに必要なカラーフィルタ、液晶93、駆動トランジスタ、配線、スペーサ等(液晶以外は図示されず)が内蔵されている。(a)は上面図及び断面図であり、Y方向に沿って切断した断面図を拡大したものが(b)である。Z方向は紙面に垂直な方向とする。
【0043】
X方向に沿ったスクライブ線74−1〜74−mはつぎのように形成する。下部ガラス基板92への第1のスクライブ線88の形成は、その上面に下部ガラス板に金属薄膜配線89が無い部分に行う。また、上部ガラス基板91において第2のスクライブ線87を第1のスクライブ線88の上に形成する。また、上部ガラス基板には第3のスクライブ線を、好ましくは気密封止材94に接近した位置に設ける。第3のスクライブ線86は、第2のスクライブ線87と距離77(ΔY)離して平行にする。第3のスクライブ線86は、通常、金属薄膜配線89を跨るように形成される。
【0044】
Y方向に沿ったスクライブ線73−1〜73−nは単にスクライブ線を1本ずつパネル幅76の間隔で設ければよい。前記第1と第2のスクライブ線を形成する方法と同様にして設けられる。
【0045】
スクライブ線形成後、この上部と下部のガラス基板に形成されたスクライブ線に沿って分割する、このようにしてX、Y方向に分割できるから液晶表示パネル80が大型2層構造体70から多数枚製造することができる。その場合特に、液晶表示パネル80の少なくとも1つの側面には下部ガラス基板92の上に気密封止材94の内部から外部に向けて金属薄膜配線89がとりだされて、容易に外部から接近できるので各種電気的接続が可能な構造が実現できる。
【0046】
本実施形態による多数枚取りの大型2層構造体から複数の表示パネルを個別に分割する場合、レーザビームを片側からだけ照射することで2枚のガラス基板にスクライブ線を加工して設けることが可能なので、大型ガラスの反転搬送手段は不要である。さらに、表示パネルの内部構造から外部への電気配線等の金属膜などをレーザビームで損傷することなく、一方の基板上に外部から容易に接近が可能な、上下の2枚のガラス板にΔYの幅で段差構造を形成できる。下部ガラス基板の表面のスクライブ線に近くの上部ガラス板に対向する表面に設けられた金属薄膜や電子部品に上部ガラス基板の端が第2と第3スクライブ線間の部分として除去されるので、外部からの接近が容易になる。また、下部ガラス基板上に封止部を超えて表示パネル内部から導出された金属薄膜配線が可能になる。したがって配線を封止部外部から行うことが可能となる。
【0047】
本方法は、液晶表示パネルのみでなくプラズマ表示パネルなどの他の平板表示パネルの切断にも適用することができる。また、本方法は、これらの平板表示パネルの製造工程に用いることができる。
【0048】
構造体を構成する基板がガラスになっているが、発明が対象とする材料はこれに限定されるものではない。また、基板が2層となっているが、3層以上の基板を有する場合にも、適用されることは明らかである。
【0049】
図9は、ベベル(傾斜面)加工方法の実施形態を示す。超短パルスレーザ発生装置1からの超短パルスレーザビーム2を回転ミラー51を用いて回転軸55の周りに一定角度θだけ偏向させながら回転52させる。回転するレーザビーム53及び54の光路と光軸が一致しながら回転ミラー51と一体的に回転する集光レンズ3を用いると、集光レンズ3の焦点は円軌跡を描く。ステージなどの加工物体搭載手段(図示せず)に基板状の被加工物体4を配置しておく。該円軌跡と加工物体搭載手段の搭載面とを平行にしておくなどによって基板状の被加工物体4をそのオモテ面に対する法線が回転軸55と平行になるよう配置すると、レーザ光照射位置を被加工物体4の上で回転走査させ円形軌跡の照射を行うことが可能となる。この場合、被加工物体4には回転軸55から角度θ傾けて傾斜加工を行うことになる。まず、被加工物体4のウラ面56から内部へ空洞形成距離57(135μm程度)程度離れた個所にビームウェストを合わせ、円形に走査することにより、法線から角度θずれた方向にフィラメント上の空洞列を円状に形成する。さらに集光レンズ3を光軸方向に沿って回転ミラー51の方向に移動させることにより、順次空洞形成距離58、59程度移動して移動のたびに空洞列を形成して走査を繰り返し、被加工物体4のオモテ面からウラ面にわたる円形の空洞の壁を形成する。その後、曲げて分離することによって、周囲が傾斜面の加工をされ、円形に切り出される。このように、本発明は被加工物体の表面近傍だけでなく、内部に渡っても、空洞形成を繰り返すことにより可能となり、部分切断から全切断までの加工を施すことが可能である。
【0050】
以上のレーザ加工において、パルスエネルギーは1mJ以下が好ましく、さらには10μJ以下とすることが好ましい。10μJ以下の場合、きれいで滑らかな切断面を得られ、クラックの発生が少なく破壊強度が高い。クラックなどが存在するとガラスなど被加工物体の強度が弱くなるため不都合を来す場合がある。パルスエネルギーが大きい場合には、オモテ面付近を加工しようとすると、パルス先端部がオモテ面付近に作り出す自由電子プラズマによってパルス中心部ないし後端部が反射や散乱、吸収されてしまうため、ガラス内部に空洞を形成することが困難な場合がある。パルスエネルギーが小さい場合、オモテ面付近で発生する自由電子プラズマの密度が低くなり、パルスの伝搬を大きく阻害することがなくなるので、ガラス内部に空洞チャネルを容易に形成することが可能である。
【0051】
また、超短パルスのレーザとはパルス幅100ps以内のレーザであり、またパルス幅は500fsないし10psとすることが好ましく、さらには2ps程度にした場合に最も好ましい。破断面を連続的に形成した後にガラス基板を割断する際に必要となる応力が低くなり、割断面の品質が良いためである。
また、ガラス基板を被加工物体とする場合、パルス幅150フェムト秒、出力エネルギー1μJ以上で好適であった。
【0052】
以上示したように、本発明は、超短パルスの集光ビームの焦点深度の小さなビームウェストを用い、被加工物体の内部に形成される自己集束作用を用いて、加工の実質的な焦点深度の増大を用いることができる新たな加工方法を提供する。この方法は、従来の加工方法には見られない、レーザビームと加工物との相互作用によって初めて実現できる精密加工方法である。
【実施例1】
【0053】
レーザ媒体はチタンサファイア結晶(中心波長780nm)とし、パルス幅150フェムト秒、出力エネルギー1μJ以上とした。また、加工対象はガラス基板であるCorning Eagle 2000であり、厚さ700μmとした。各実施例にこれと相違する記述がない場合には、これらはすべての実施例で共通である。
【0054】
本実施例は、図1に示した構成で、被加工物体にレーザ照射したときの集光位置をオモテ面から内部に移動した場合に被加工物体に生じる変化を観察し、本加工方法の原理を実証する実験例である。
被加工物体内に生じる変化を観察した断面図の顕微鏡写真を図10及び図11に示す。図10は被加工物体である基板のオモテ面45、図11はウラ面44近傍を示す。図1の構成に対してレンズの入射ビーム直径は6mm、集光レンズ3の焦点距離fは約3.1mmの収差補正された非球面レンズを使用した。レーザビームの横モードをガウス分布のビームとすると集光点におけるビーム直径は約1μmであり、ビームウェストにおけるエネルギーの90%を含む範囲の焦点深度は1μm以下であると算出される。このように焦点深度の小さな値を有する超短パルスレーザビームを被加工物体4に照射する場合、オモテ面45にビームウェストの位置が置かれるように集束してビームを照射する場合は、図10にオモテ面45から内部に深さ23で示される浅い部分21が除去加工され、更に内部にビームウェストを移動すると表面除去量は減少し、さらに内部にビームウェストの位置を移動すると被加工物体4の内部に光学的な歪みの生じる範囲24,25などがビームウェストの置かれる深さ方向の位置に応じてその周辺部分に発生した。内部にビームウェストを置くと、表面の除去加工は減少し、その代わり内部の光学的な歪が現れて、範囲24,25が現れた。
【0055】
図11はさらに基板内部にビームウェストを移動させた場合の断面観察写真である。オモテ面45には変化のない条件ではビームウェスト部分に光学的変化を起こした部位31、32が生じていることが観察された。さらに被加工物体のウラ面44に接近するにしたがって内部からウラ面にわたり数100μmの範囲で光学的変化を起こした部位33が観察された。さらにビームウェストがウラ面44から約135μm近くになると、フィラメント状に内部からウラ面に渡り直線的に空洞34が形成された。さらにレーザビームウェストをウラ面44に合わせると、ウラ面の近傍だけが除去加工された。このような加工結果から、レーザビームの焦点深度37が前記のように1μm程度であるにもかかわらず、ビームウェストの直径であるフィラメント状の空洞34がビームの進行方向に向かって空洞形成距離(135μm程度)で形成され、自己集束作用が発現しない場合は、ビームの焦点深度(1μm程度)の範囲でのみ加工が行われるのに比べ、本方法では2桁程度長い範囲にわたりフィラメント状の空洞加工が行われた。
【実施例2】
【0056】
本実施例は、ウラ面付近に空洞チャネルを形成しながらレーザ光を走査し、空洞チャネルによる切断面を形成した場合である。
自己集束作用によるフィラメント状空洞が形成される場合、図12内の図に示すよう、ウラ面に漏斗形の部分43があわせて形成される場合がある。該漏斗形の部分43を互いに隣接部の重なりを持たせて、フィラメント状空洞はチャンネル8と同一箇所に個別に形成して、被加工物体のウラ面44に沿って、超短レーザパルスを相対的に走査することにより、走査方向に沿って所定の加工深さの包絡線46に並べられた多数のフィラメント状空洞を形成した。図12にはこのようにして形成したフィラメント状空洞による切断面の顕微鏡写真を合わせて示す。この例では3mm/sの走査速度でレーザパルスの走査後、走査線に沿って折り曲げて分割することにより断面を観察した。この図には、被加工物体の厚さ41の加工において、ウラ面44から深さ42に渡る範囲の包絡線46に渡りフィラメント状の空洞チャンネルの多数を形成し、そこを起点として分割した被加工物体の加工断面が示される。図13は空洞61の断面を撮影した走査型顕微鏡写真であり、また図14はウラ面近傍を特に拡大した走査型顕微鏡写真である。空洞61が形成されている箇所の表面が周囲より盛り上がった機械強度の弱い盛り上がり構造71を示している。
【実施例3】
【0057】
図3に示すような構成で、ビームウェストの高さを変えて、複数回の走査を行い、ウラ面付近に加工を行った。走査回数4回、パルスエネルギー10μJ、パルス幅2psとした場合の断面を図15に示す。パルスエネルギーを小さくし、パルス幅を最適化することにより、品質の高い加工領域36がウラ面付近に形成された。
【実施例4】
【0058】
この実施例でも図3に示すような構成で、ビームウェストの高さを変えて、複数回の走査を行い加工を行った。この実施例では、ガラス基板のオモテ面付近に加工領域を設定するようにビームウェストを形成した。図16には走査回数10回パルスエネルギー1μJ、パルス幅2psとした場合の断面を示す。パルスエネルギー及びパルス幅を最適化することにより、オモテ面へわたる良好な加工領域36が得られた。
【実施例5】
【0059】
本実施例は、被加工物体をガラス基板2枚の積層構成にした場合である。図4に示す構成とし、レーザの集光位置をガラス製の上部基板81のオモテ面からウラ面にわたって変化させて加工した。図17に2枚のガラス基板の加工後の顕微鏡写真示す。上部ガラス81だけでなくそのウラ面側に置かれた下部ガラス82にも加工が行われている。上部ガラス81には、最大150μmにわたり、下部ガラス82には最大250μmにわたって加工が行われた。前述のように下部におかれた基板の方がレーザ伝搬方向により長い加工が行われた。
【0060】
以上本発明の実施例を説明した。特許請求の範囲に記載された発明の技術的思想から逸脱することなく、これらに変更を施すことができることは明らかである。
また、本願は以下に記載する態様を含む。
(態様1)
第1の面及び第2の面を有する被加工物体に対して透明となる波長を有する超短パルスレーザ光を集光手段を通して集光し、第1の面の側から、集光された前記レーザ光のビームウェスト位置が前記被加工物体の第1の面と第2の面の間に形成されるように前記レーザ光を照射し、前記被加工物体内部の超短パルス高ピークレーザ光伝播による自己集束作用により前記レーザ光の進行方向に集光チャンネルが形成されることにより、前記集光チャネル部に第2の面に達する空洞、もしくは第2の面近傍に達する空洞が形成されることを特徴とするレーザ加工方法。
(態様2)前記パルスレーザ光は、パルス幅100ps以下である態様1に記載のレーザ加工方法。
(態様3)前記パルスレーザ光は、パルス幅500fsないし10psである態様2に記載のレーザ加工方法。
(態様4)前記レーザ光進行方向の第2の面との交点近傍が周辺の表面よりも高く盛り上がっている機械強度の弱い盛り上がり構造が形成されることを特徴とする態様1ないし3のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
(態様5)前記集光チャネルが第2の面まで形成されることにより、前記空洞が第2の面まで形成されることを特徴とする態様1ないし3のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
(態様6)前記集光チャネルが第1の面から第2の面まで形成されることにより、前記空洞が第1の面から第2の面まで形成されることを特徴とする態様1ないし3のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
(態様7)前記集光チャネルが第1の面から前記加工物体内部まで形成されることにより、前記空洞が第1の面から前記加工物体内部まで形成されることを特徴とする態様1ないし3のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
(態様8)前記被加工物体がガラス、サファイア、もしくはダイヤモンドなどの誘電体材料、またはシリコンもしくは窒化ガリウムなどの半導体材料であることを特徴とする態様1ないし7のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
(態様9)前記超短パルスレーザ光は、パルスエネルギー1mJ以下の出力パルスである態様1ないし8のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
(態様10)前記超短パルスレーザ光は、パルスエネルギー10μJ以下の出力パルスである態様1ないし8のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
(態様11)前記被加工物体が平板状の物体であることを特徴とする態様1ないし10のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
(態様12)前記被加工物体はシリコン基板とし、前記波長は1μmないし2μmとすることを特徴とする、態様1ないし11のいずれか一項に記載のレーザ加工方法。
(態様13)前記被加工物体が同種または異種の材料の平板状物体が2枚以上重なった多層構造であることを特徴とする態様1ないし12のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
(態様14)前記多層構造をなす被加工物体が密着しているかまたは間にエアーギャップ、有機材料もしくは透明電極層が存在することを特徴とする態様13に記載のレーザ加工方法。
(態様15)前記被加工物体の第1の面側に前記レーザ波長に対して透明な他の物体を設置することで前記被加工物体に生成される自己集束作用による前記集光チャネルの長さを変更することを特徴とする態様1ないし14のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
(態様16)前記被加工物体の第1の面側に前記レーザ波長に対して透明な他の物体を設置することで前記被加工物体に生成される自己集束作用による前記集光チャネルを第1面に到達させることを特徴とする態様1ないし15のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
(態様17)前記集光手段で前記被加工物体内部に集光した前記超短パルスレーザ光を、切断する方向に沿って任意の速度で相対移動させることで、前記空洞の空間的な重なりを設けることを特徴とする態様1ないし16のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
(態様18)前記集光手段で前記被加工物体内部に集光した前記超短パルスレーザ光を、切断する方向に沿って任意の速度で相対移動させることで、前記空洞を空間的に離して設けることを特徴とする態様1ないし17のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
(態様19)前記被加工物体が、平面状をした物体であり、前記超短パルスレーザの集光レーザ光を前記被加工物体の第1面の法線方向から一定の角度で傾斜して入射させ、前記集光レーザ光に前記角度の傾斜をもたせつつ回転させて円形の走査を行い、加工面を傾斜して加工することを特徴とする態様17または18に記載のレーザによる加工方法。
(態様20)前記相対移動を複数回行い各相対移動の間に前記レーザ光のビームウェストの高さを変更する操作を有する、態様17ないし19のいずれか1項に記載のレーザ加工方法。
(態様21)態様17ないし20のいずれか1項に記載の方法による被加工物体のレーザ加工を行った後に、加工部分にそって少ない応力で前記被加工物体を切断することを特徴とする被加工物体の切断方法。
(態様22)態様21に記載の被加工物体の切断方法であって、前記被加工物体は、液晶表示パネルの基板であることを特徴とする液晶表示パネル基板切断方法。
(態様23)態様22に記載の被加工物体の切断方法であって、前記液晶表示パネルは第1の基板と第2の基板の積層構造を有し、第2の基板の第1の基板側の表面上に搭載された部品の上に前記レーザ波長に対して不透明な材料を塗布もしくは接着もしくは密着させて第1の基板の側から第1の基板内にビームウェストを形成するようにレーザを照射するステップを有し、前記照射の際、第1の基板を通過したレーザ光が前記部品に損傷を与えないようにすることを特徴とする液晶表示パネル基板切断方法。
(態様24)態様22または23に記載の液晶表示パネル基板切断方法を含むことを特徴とする、液晶表示パネルの製造方法。
(態様25)
第1及び第2基板とそれらの間にスペーサを部分的に挟んで平行に配置された構造体に、第1及び第2基板に透明となる波長を有する、パルス幅100ps以下の超短パルスレーザを集光手段を通して集光し、第1基板の外側からビームウェスト位置がいずれか一方の基板の表面または内部に形成するように照射して、該超短パルスレーザ伝播による自己集束作用により該超短パルスレーザ光の進行方向に集光チャネルが形成されることにより、該集光チャネル部に空洞が形成し、該超短パルスレーザ光を相対的に移動することでスクライブ線を形成するスクライブ線形成ステップ、及びその後該スクライブ線に沿って前記スクライブ線が形成された基板を切断する基板切断ステップを有し、該スクライブ線形成が下記Aを有し、該基板切断ステップが下記Cを有する該構造体の分割方法。
A:第1基板を透過し、第2基板に該ビームウェストがくるように該超短パルスレーザを集光して第2基板に第1のスクライブ線を形成し、さらにビームウェストを第1基板に位置するように集光し第1スクライブ線と同じ平面位置で該超短パルスレーザを相対的に移動することで第1基板に第2のスクライブ線を形成するステップ。
C:第1及び第2スクライブ線に沿って第2及び第1の基板を切断することにより、該構造体を分割するステップ。
(態様26)
前記スクライブ線形成ステップにさらに下記Bを有し、前記A、該Bまたは該B、前記Aの順序で実施し、前記基板切断ステップにさらに下記Dを有し、前記C、該Dの順序で実施する態様25に記載の方法。
B:前記ビームウェストを第1基板に位置するように前記超短パルスレーザを集光して、第2スクライブ線と所定の距離離して平行に前記超短パルスレーザ光を相対的に移動することで第1基板に第3のスクライブ線を形成するステップ。
D:第3スクライブ線に沿って第1基板を切断することにより、第1基板の第2スクライブ線から第3スクライブ線の部分を除去するステップ。
(態様27)
前記構造体が第1基板の第2基板側と対向した面上に、金属薄膜を有する、態様26に記載の方法。
(態様28)
第2基板に形成された第3スクライブ線が、前記金属薄膜を空間上横切る、態様27に記載の方法。
(態様29)
前記スペーサが、封止材であって第1及び第2基板と該封止材とで囲む空間を構成する該封止材を有する、態様25または26に記載の方法。
(態様30)
前記スペーサが、封止材であって第1及び第2基板と該封止材とで囲む空間を構成する該封止材を有し、該空間に電子部品を形成され、前記金属薄膜が該空間の内側と外側にまたがって存在し、前記金属薄膜が該電子部品と電気的に接続された態様27または28に記載の方法。
(態様31)
第1基板及び第2基板がいずれもガラス基板である、態様25ないし30何れか一項に記載の方法。
(態様32)
前記構造体が液晶表示パネルまたはプラズマ表示パネルである、態様25ないし31何れか一項に記載の方法。
(態様33)
態様32に記載の方法を含む液晶表示パネルまたはプラズマ表示パネルの製造方法。
(態様34)超短パルスレーザ発生装置と、
前記超短パルスレーザ発生装置から発生したパルスレーザ光を一定の角度で偏向させて回転する回転ミラーと、
偏向された前記パルスレーザ光の光路と光軸が一致するように前記回転ミラーと同期して回転し、回転によって焦点が円軌跡を描く集光レンズと、
前記集光レンズを前記光軸方向に沿って移動させる手段と
加工物体搭載手段
とを有する、レーザ加工装置。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】この発明に関するカー効果による自己集束作用を用いた被加工物体の加工方法を説明する構成図である。
図2】レーザを走査させ、基板加工を行う構成図である。
図3】被加工物体を走査して加工した後にレーザ光集光点の集光位置を変更して、再度加工を行う方法を示す図である。
図4】2枚の基板からなる多層構造に加工をする構成図である。
図5】液晶パネル構造及び2枚のガラス基板を別位置で切断する場合の説明図である。
図6】基板2枚からなる構造体の分割方法の説明するための模式的な断面図である。
図7】基板2枚からなるガラス構造体の概観形状の1例を示す。
図8】大型ガラス構造体から個別の液晶表示パネルに分割する場合の説明図である。
図9】本発明の加工方法を傾斜面加工に適用した実施形態を示す図である。
図10】第1の実施例の結果を示す図であり、被加工物体オモテ面付近の顕微鏡写真である。
図11】第1の実施例の結果を示す図であり、被加工物体ウラ面付近の顕微鏡写真である。
図12】第2の実施例の結果を示す図であり、空洞チャネルによる切断面の説明図とその顕微鏡写真である。
図13】第2の実施例の結果を示す図であり、空洞61の断面を撮影した走査型顕微鏡写真である。
図14図13において、基板ウラ面近傍を特に拡大した走査型顕微鏡写真である。
図15】第3の実施例の結果を示す図であり、切断面の顕微鏡写真である。
図16】第4の実施例の結果を示す図であり、切断面の顕微鏡写真である。
図17】第5の実施例の結果を示す図であり、2枚の基板の加工後を示す顕微鏡写真である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の活用例として、半導体デバイス、液晶などの表示デバイスに用いられる被加工物体の加工において、シリコンウェハ、薄膜トランジスタや表示デバイスの基板分割、高耐圧パワー半導体基板加工、その他、多層構造電子素子の層内部の除去加工を表面から進行させる場合における微細、且つ熱影響の少ない加工に対して有効である。高集積回路製造において、加工幅の微小化、加工除去物の減少などにより製品歩留まり向上により電子部品の製造コストの低減が可能になる。更に、石英、サファイアなどの半導体デバイスの基板の穴加工等にも有効性が得られる。微細な穴を多数設けるフィルタの加工にも有効である。さらに、本発明は、液晶表示パネル、プラズマ表示パネルなどの多層ガラス構造を用いる電子装置の製造に利用可能である。
図1
図2
図3
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図10
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