【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
まず、本実施例で用いられる略号の正式名称を記載する。
(1)有機化合物の保護基
Fmoc: 9-フルオレニルメトキシカルボニル基
tBu: tert-ブチル基
Ac: アセチル基
Bzl: ベンジル基
(2)有機試薬
TFA: トリフルオロ酢酸(trifluoroacetic acid)
TIPS: トリイソプロピルシラン(triisopropylsilane)
DIPEA: ジイソプロピルエチルアミン(diisopropylethylamine)
HATU: O-(7-アザベンゾトリアゾル-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(O-(7-azabenzotriazol-1-yl)-1,1,3,3-tetramethyluronium hexafluorophosphate)
Pd/C: パラジウム炭素(Palladium carbon)
(3)ペプチド固相合成に用いられる固相樹脂
Fmoc-NH-SAL-PEG-resin: N-α-9-Fluorenylmethoxycarbonyl-Super Acid Labile polyethyleneglycol handle polystylene
(4)有機溶媒
DMF: N,N'-ジメチルホルムアミド(N,N'-dimethylformamide)
DMSO: ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide)
(5)蛍光性アミノ酸または複合体内における蛍光性アミノ酸ユニット
Pyr: 3-(1-ピレニル)アラニン(3-(1-pyrenyl) alanine)
Bad: 3-(12-オキソ-5,12-ジヒドロ-ベンゾ[b]アクリジン-2-イル]アラニン(3-(12-oxo-5,12-dihydro-benzo[b]acridin-2-yl]alanine)
Moc: 3-(7-メトキシ-クマリン-4-イル)アラニン(3-(7-methoxy-coumarin-4-yl)alanine)
(6)緩衝溶液調製用試薬
HEPES: 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)
(7)その他
X1〜X8: Cys(システイン)を除く19種類の天然アミノ酸の当量混合物(なお、天然には20種類の天然アミノ酸が存在する。)
【0040】
(実施例1)新規分岐状アミノ酸の合成
本発明の分岐状アミノ酸1および2を合成した。合成経路を
図1に示す。
まず、原料であるFmoc-Glu-OBzlとH-Asp(OtBu)-OtBuとを脱水縮合することでFmoc-Glu{Asp(OtBu)-OtBu}-OBzlを得た(収率82%)。次に、得られた化合物を接触水素添加によりBzl基を脱保護することで分岐状アミノ酸1を得た(収率32%)。
分岐状アミノ酸2は、分岐状アミノ酸1の中間体であるFmoc-Glu{Asp(OtBu)-OtBu}-OBzlを原料として、まず、酸によりカルボン酸tert-ブチルエステルを脱保護し、カルボン酸を得た。次に、その化合物を、H-Asp(OtBu)-OtBuとの脱水縮合および接触水素添加により、分岐状アミノ酸2を得た(Fmoc-Glu-OBzlから考えて収率16%)。
【0041】
これらの分岐状アミノ酸1および2は、
1H-NMRよりその構造及び純度を確認した(それぞれ
図2および
図3)。分岐状アミノ酸1および2は、それぞれ側鎖にカルボン酸誘導体が、2個および4個含まれた構造を有する。得られた分岐状アミノ酸1および2は、ペプチド固相合成法に使用することを考慮して、アミノ基がFmoc基で保護されている。
【0042】
(実施例2)分岐状アミノ酸と蛍光性アミノ酸との複合体を含むペプチドの合成
分岐状アミノ酸と蛍光性アミノ酸との複合体を含むペプチドは、従来法であるFmocペプチド固相合成法によって作製した。
蛍光性アミノ酸のFmoc体である、Fmoc-Ala(Bad)-OH、Fmoc-Ala(Pyn)-OHは渡辺化学工業株式会社から、Fmoc-Lys(Moc)-OHはBachem社から購入した。Fmoc化された水溶性リンカーから成るアミノ酸はMerck社より購入した。蛍光性アミノ酸のFmoc体の化学構造を
図4に示す。その他のペプチド合成に必要な試薬類はいずれも渡辺化学工業株式会社より購入した。Fmoc化された蛍光性アミノ酸および天然アミノ酸はいずれもL体である。
【0043】
ペプチド固相合成法は具体的には以下のようにして行った。まず、樹脂Fmoc-NH-SAL-PEG-resinを膨潤させるためにジクロロメタン/DMF混合溶媒で室温3時間撹拌した。樹脂をDMFで洗浄後、20%ピペリジンを含むDMF溶液で40℃にて10分間撹拌した後、DMFで洗浄した(この操作を以下「脱保護」と表記する)。次に、目的のペプチドのシークエンスを作るのに対応する各種アミノ酸のFmoc体、HATUおよびDIPEAをDMFに溶解させた後、樹脂に加えた。40℃にて30〜60分間撹拌した後、DMFで洗浄した(この操作を以下「カップリング」と表記する)。続いて、5%無水酢酸および6%ルチジンを含むDMF溶液で40℃にて3分間撹拌した後、DMFで洗浄した(この操作を以下「キャッピング」と表記する)。樹脂表面上に目的の配列のペプチドが伸長するまで、脱保護、カップリング、キャッピングの操作を繰り返した。最後に付加するFmoc体のFmoc基を脱保護した後、樹脂にTFA/水/TIPS(= 95/2.5/2.5 v/v/v)を加えて、室温にて60分間撹拌した。これにより樹脂から切り出された目的のペプチドの溶液は風乾後、メタノール溶液として冷凍庫に保管した。
【0044】
一次構造が以下のペプチドをそれぞれペプチド固相合成法により合成し、分岐状アミノ酸1および2を、ペプチドに導入した。以下のペプチドにおいて、1もしくは2が、分岐状アミノ酸1もしくは2に該当する。
Ac-E-E-Pyr-E-E-G-G-NH
2 (E-Pyr)
Ac-1-1-Pyr-1-1-G-G-NH
2 (1-Pyr)
Ac-2-2-Pyr-2-2-G-G-NH
2 (2-Pyr)
上記ペプチドにおいて、NH
2はペプチドのC末端がアミド結合であることを示している。Pyrは9-ピレニルアラニンユニットであり、蛍光性アミノ酸である。
【0045】
合成された上記ペプチドを、MALDI-TOF Massより同定することが可能であった(
図5)。分岐状アミノ酸1および2のような非常にかさ高い分岐状アミノ酸を、ペプチド固相合成法によりペプチドに導入できることがわかった。
【0046】
(実施例3)分岐状アミノ酸による蛍光性アミノ酸の非特異反応の防止効果の確認
(1)分岐状アミノ酸と蛍光性アミノ酸との複合体を含むペプチドの合成
分岐状アミノ酸による蛍光性アミノ酸とゲルろ過材との吸着を防止する効果を検討するため、
図6に記載のペプチドを作製した(E-Pyr-X, 1-Pyr-X, E-Bad-X, 1-Bad-X, E-Moc-Xおよび1-Moc-X)。
図6に記載のペプチドは、ランダムなペプチド8量体と、蛍光性アミノ酸、分岐状アミノ酸を結合させたものである。
図6中、X
1〜X
8はいずれもシステインを除く19種類の天然アミノ酸の当量混合物である。ペプチドの合成は、実施例2と同様にペプチド固相合成法により行った。
【0047】
(2)分岐状アミノ酸による蛍光性アミノ酸の非特異反応の防止効果の確認
1-Pyr-X, 1-Bad-Xおよび1-Moc-Xの混合物(それぞれの最終濃度は5 M(300pmol))について、室温で溶出バッファーを50 mM HEPES-NaOH (pH 7.4)として、SuperdexTM 75 prep grade(GEヘルスケアより購入)(カラム体積は0.7 cm (直径) * 20 cm (高さ))を用いて、ゲルろ過を行ない、各フラクションを得た。それぞれのフラクションについて、50%メタノールを含む50 mM HEPES-NaOH (pH 7.4)中で2次元蛍光スペクトルを測定した(日本分光社製 FP-6600)。混合物中のペプチド(蛍光性アミノ酸)のそれぞれの濃度を、各フラクションの2次元蛍光スペクトルの蛍光強度の最小自乗解析により求めた。なお、この解析の際、各々の蛍光性アミノ酸の2次元蛍光スペクトルをコンポーネントスペクトルとした。リファレンスとして、E-Pyr-X, E-Bad-XおよびE-Moc-Xの混合物も同様にゲルろ過を行ない、各フラクションのペプチド(蛍光性アミノ酸)の濃度を求めた。
【0048】
その結果を
図7に示す。E-Bad-XおよびE-Pyr-Xは、広い分布で溶出されていることがわかった。すなわち、蛍光アミノ酸BadやPyrが、使用したゲルろ過材に非特異的に吸着していることを示しす。E-Moc-Xは、E-Bad-XおよびE-Pyr-Xより狭い分布で溶出されており、Mocがゲルに非特異的に吸着していないことがわかった。このように蛍光性アミノ酸の種類に応じてゲルに非特異的に吸着しないものと吸着するものがあることがわかった。
【0049】
BadやPyrのようにゲルろ過材に非特異的に吸着するものは、非特異的吸着を防止して、ゲルろ過材に用いる必要がある。ここで
図7において、BadやPyrを分岐状アミノ酸で包括した1-Bad-Xおよび1-Pyr-Xは、狭い分布で溶出されている。分布の程度を表すために、FWHM/fmax(全体の溶出量に対する各フラクションの溶出量の割合の最大値(fmax)を半値幅(FWHM)で割った値)を求めた。FWHM/fmax の値が0に近づくほど、その分布は狭い(分布曲線が鋭い)ことを示している。E-Bad-X、E-Pyr-XおよびE-Moc-XのFWHM/fmaxの値はそれぞれ1.37,、0.98 および0.36であった。一方、1-Bad-X、1-Pyr-Xおよび1-Moc-XのFWHM/fmaxの値はそれぞれ0.26、0.27および0.32であった。これらの結果から、分岐状アミノ酸1によって蛍光性アミノ酸BadやPyrを包括することにより、蛍光性アミノ酸とゲルとの間の非特異的吸着を防止できることがわかった。