特許第5784308号(P5784308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5784308
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】手術用照明システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 19/00 20060101AFI20150907BHJP
【FI】
   A61B19/00 503
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2010-535692(P2010-535692)
(86)(22)【出願日】2009年11月2日
(86)【国際出願番号】JP2009005830
(87)【国際公開番号】WO2010050244
(87)【国際公開日】20100506
【審査請求日】2012年10月31日
【審判番号】不服2014-11047(P2014-11047/J1)
【審判請求日】2014年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2008-281642(P2008-281642)
(32)【優先日】2008年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508214271
【氏名又は名称】合同会社ジャパン・メディカル・クリエーティブ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(72)【発明者】
【氏名】小山 勇
(72)【発明者】
【氏名】田中 武
(72)【発明者】
【氏名】林 秀朗
【合議体】
【審判長】 長屋 陽二郎
【審判官】 竹下 和志
【審判官】 関谷 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/001882(WO,A1)
【文献】 特開平10−262983(JP,A)
【文献】 特開2004−344217(JP,A)
【文献】 特開2006−6451(JP,A)
【文献】 特開平5−253173(JP,A)
【文献】 特開2008−99718(JP,A)
【文献】 特表2009−502215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00
A61B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光体を有する照明部と、上記照明部を手術を受ける生体に固定するための固定部とを有する照明装置と、
前記照明装置を生体の腔内に案内する案内具と、
前記照明装置を把持する把持具と、を備え、
前記案内具は、湾曲機構を有し、前記照明装置が挿通される可撓管から構成され、
前記湾曲機構は、
中心線方向に並べて配置される複数の環状部材と、
前記可撓管の先端部から基端部に亘って中心線と平行に延び、互いに前記可撓管の周方向に180°離れて配置される第1操作ワイヤー及び第2操作ワイヤーと、
前記環状部材の内周面に設置され、前記第1操作ワイヤー及び前記第2操作ワイヤーの配設位置に設けられ、前記第1操作ワイヤー、前記第2操作ワイヤーがそれぞれ挿通される中空状のワイヤーガイドと、
前記第1操作ワイヤー及び前記第2操作ワイヤーの配設位置に対応して設けられ、前記第1操作ワイヤー及び前記第2操作ワイヤーのそれぞれの先端部が固定される第1ワイヤー固定部材及び第2ワイヤー固定部材と、を有しており、
それぞれの前記環状部材の周壁部には、前記可撓管の中心線方向に突出する2つの突片が周方向に180°離れて形成され、前記突片が、隣接する前記環状部材の周壁部に対し、前記周壁部を貫通する方向に延びるピンで連結されて前記環状部材が前記ピンの中心線周りに回動可能であり、
前記第1操作ワイヤーと前記第2操作ワイヤーとが前記環状部材の突片から周方向に90°離れて配置されており、
前記第1操作ワイヤー及び前記第2操作ワイヤーの一方が巻き取られ、他方が緩められることで前記湾曲機構が湾曲
前記把持具は、棒状で可撓性の本体部及び前記本体部の先端部に設けられた可撓性のC字状部を備えており、
前記照明装置のケースの外面に周方向に延びて前記C字状部が嵌まる溝と前記ケースの軸方向に延びる前記本体部が嵌まる溝とが形成されており、
生体の腔内に挿入される前記案内具に前記把持具に把持された前記照明装置が挿入され、前記案内具の湾曲に追従して前記本体部が湾曲し、前記本体部が挿入方向に押し込まれることで前記照明装置が生体組織に固定される、
ことを特徴とする手術用照明システム。
【請求項2】
請求項1に記載の手術用照明システムにおいて、
固定部は、照明部から突出する針であることを特徴とする手術用照明システム。
【請求項3】
請求項1に記載の手術用照明システムにおいて、
生体外へ延びるように形成された取り出し部材を備えていることを特徴とする手術用照明システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の手術用照明システムにおいて、
撮影部を備えていることを特徴とする手術用照明システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の手術用照明システムにおいて、
前記発光体は発光ダイオードまたは有機ELで構成されていることを特徴とする手術用照明システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体を手術する際に用いられる手術用照明システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、手術時に用いられる照明器具としては、例えば、無影灯が知られている(例えば、特許文献1参照)。この無影灯は、多数のランプを有するランプユニットを備えており、このランプユニットは、通常、手術室の天井に可動機構を介して取り付けられている。そして、実際に手技を行う医師の要求に合うようにランプユニットの位置を調整して使用されている。
【0003】
また、従来より、腹腔内や胸腔内の外科手術の際に、腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術が行われている。腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術では、例えば、特許文献2、3に開示されているようなトロッカーと呼ばれる器具が用いられている。トロッカーは、直管形状の導管と、導管内に挿入される内針とからなる。このトロッカーを使用する場合には、まず、皮膚に5mm〜20mm程度の小切開を加え、内針を導管に挿入したまま、内針を皮膚の小切開部分に押し付けて内針及び導管を一緒に体表側組織を貫通させて腹腔や胸腔内へ差し込む。その後、内針を導管から抜き、腹腔鏡や胸腔鏡、鉗子、電気メス、縫合器等の手術器具を導管に差し込むことで手術手技を行うことができる。
【0004】
また、腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術とは別に、胸部や腹部を切開して開放して行われる手術も一般に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−147482号公報
【特許文献2】特開平8−168465号公報
【特許文献3】特開2006−87609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術では、胸部や腹部を開放しないので、天井に設置されている照明の光が腔内(胸腔内や腹腔内)に届かない。そのため、トロッカーを介して腔内に挿入した内視鏡の光でしか腔内を照明することができず、十分な明るさを広範囲に確保できない。よって、術者は、手技をスムーズに行うのが困難となる。
【0007】
また、胸部や腹部を開放して行う一般の手術の場合には、無影灯からの光が術野に照射されることになるが、無影灯は術野の上方から照射するだけなので、腔内の奥の方まで光が届かないことがある。この場合も、手技をスムーズに行うのが困難になる。
【0008】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、手術時に術野を広範囲に直接照明できるようにして、手技をスムーズに行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明では、発光体を有する照明部と、上記照明部を手術を受ける生体に固定するための固定部とを備えている構成とする。
【0010】
この構成によれば、固定部により照明部を生体に固定することが可能になる。この照明部を、例えば、トロッカーを介して胸腔内や腹腔内まで導入し、生体組織に固定することで、腔内を広範囲に亘って十分な明るさで照明することが可能になる。
【0011】
また、胸部や腹部を開放して行う一般の手術の場合には、胸腔や腹腔の奥の方に向けて光が届くように発光体の向きを設定して照明部を生体組織に固定することにより、腔内の奥の方まで十分な明るさで照明することが可能になる。
【0012】
第2の発明では、発光体を有する照明部と、上記照明部を手術を受ける生体へ導入する操作を行うための操作部とを備えている構成とする。
【0013】
この構成によれば、術者が操作部を操作することにより照明部を生体へ導入することが可能になる。この照明部により、第1の発明と同様に、生体の腔内を照明することが可能になる。
【0014】
第3の発明では、発光体を有する照明部を備え、上記照明部を手術を受ける生体に置くように構成されているものとする。
【0015】
この構成によれば、照明部を生体に置いて使用することが可能になる。この照明部により、第1の発明と同様に、生体の腔内を照明することが可能になる。
【0016】
第4の発明では、第1の発明において、固定部は、照明部から突出する針である構成とする。
【0017】
この構成によれば、針を生体組織に刺すだけで照明部を固定することが可能になる。
【0018】
第5の発明では、第1の発明において、照明部の発光体と固定部との間には、断熱材が設けられている構成とする。
【0019】
この構成によれば、発光体の熱が生体組織に伝わり難くなる。
【0020】
第6の発明では、第1の発明において、生体外へ延びるように形成された取り出し部材を備えている構成とする。
【0021】
この構成によれば、照明部が腔内にある場合に、取り出し部材が生体外に延びるようになるので、取り出し部材を引っ張ることにより、照明部を生体外へ容易に取り出すことが可能になる。また、取り出し部材が生体外に延びていることで、照明部が腔内に残っていることの目印にもなる。
【0022】
第7の発明では、第1から6のいずれか1つの発明において、照明部及び固定部を生体の腔内に案内する案内具を備えている構成とする。
【0023】
この構成によれば、照明部を腔内に固定する場合に、照明部及び固定部が案内具で腔内に案内されるので、照明部を容易に固定することが可能になる。
【0024】
第8の発明では、第1から7のいずれか1つの発明において、発光体に接続される電池を内蔵している構成とする。
【0025】
この構成によれば、電池により発光体に電力を供給することが可能になるので、外部から電力を供給するための配線やコネクタ等が不要になる。
【0026】
第9の発明では、第1から8のいずれか1つの発明において、撮影部を備えている構成とする。
【0027】
この構成によれば、発光体の光で照らした部位を撮影部により撮影することが可能になる。
【0028】
第10の発明では、第1から9のいずれか1つの発明において、固定部は、生体の切開部を覆うようにして該生体に固定される保護具で構成され、該保護具に照明部が取り付けられている構成とする。
【0029】
この構成によれば、照明部を、切開部の保護具を介して生体に固定することが可能になる。
【0030】
第11の発明では、第1から10のいずれか1つの発明において、発光体は発光ダイオードまたは有機ELで構成されているものとする。
【0031】
この構成によれば、照明部をコンパクトにしながら、十分な光量を得ることが可能になる。また、発光ダイオード及び有機ELは発熱量が小さいので、発光体から発生する熱が生体組織に与える影響を小さくすることが可能になる。
【発明の効果】
【0032】
第1の発明によれば、発光体を有する照明部と、該照明部を手術を受ける生体に固定する固定部とを備えているので、様々な手術の際に術野を十分な明るさで広範囲に亘って照明でき、手技をスムーズに行うことができる。
【0033】
第2の発明によれば、発光体を有する照明部と、照明部を手術を受ける生体へ導入する操作を行うための操作部とを備えているので、第1の発明と同様に術野を十分な明るさで広範囲に亘って照明でき、手技をスムーズに行うことができる。
【0034】
第3の発明によれば、発光体を有する照明部を備え、照明部を手術を受ける生体に置くことができるようにしたので、第1の発明と同様に術野を十分な明るさで広範囲に亘って照明でき、手技をスムーズに行うことができる。
【0035】
第4の発明によれば、固定部を針で構成したので、針を生体組織に刺すだけで照明部を任意の位置に固定することができ、照明部の固定作業を容易にすることができる。
【0036】
第5の発明によれば、照明部の発光体と固定部との間に断熱材を設けたので、発光体の熱が生体組織に伝わり難くなり、生体組織に熱による影響を殆ど与えずに済み、より一層低侵襲な治療を行うことができる。
【0037】
第6の発明によれば、生体外へ延びるように形成された取り出し部材を備えているので、腔内に照明部がある場合に、取り出し部材を引っ張ることで照明部を腔内から容易に取り外すことができる。また、生体外に延びている取り出し部材が、照明部が腔内に残っていることの目印としても機能し、照明部が腔内に残されたままとなるのを防止でき、医療行為の安全性を高めることができる。
【0038】
第7の発明によれば、照明部及び固定部を腔内に案内する案内具を備えているので、照明部を腔内に容易に導入して固定することができ、照明部の固定作業性を良好にできる。
【0039】
第8の発明によれば、電池を内蔵したことで、照明部の発光体に外部から電力を供給するための配線やコネクタ等を不要にでき、腔内への固定作業性を良好にできる。
【0040】
第9の発明によれば、発光体の光で照明した部位を撮影部で撮影することができるので、手技に役立つ鮮明な画像を得ることができる。
【0041】
第10の発明によれば、生体の切開部を覆うように生体に固定される保護具に照明部を固定するようにしたので、照明部を生体に固定するにあたり、生体組織に傷等を付ける虞れはなく、低侵襲に固定することができる。
【0042】
第11の発明によれば、照明部の発光体を発光ダイオードまたは有機ELで構成したので、照明部をコンパクトにでき、しかも、発光体から発生する熱量が少なくなって、照明部を固定したことによる生体組織への影響を小さくでき、低侵襲な手術を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】実施形態1に係る照明装置の斜視図である。
図2】照明装置の正面図である。
図3】照明装置の縦断面図である。
図4図3のIV−IV線断面図である。
図5】直線状態にある可撓管及び被覆材の断面図である。
図6】湾曲状態にある可撓管及び被覆材の断面図である。
図7】トロッカーを穿刺した患者の腹部の断面図である。
図8】照明装置を把持具を用いて腹腔に挿入した状態の図7相当図である。
図9】照明装置を腹腔内の生体組織に固定した状態の図7相当図である。
図10】複数の照明装置を腹腔内の生体組織に固定した状態を説明する図である。
図11】実施形態1の変形例に係る図3相当図である。
図12】実施形態2に係る図2相当図である。
図13】実施形態2に係る照明装置の右側面図である。
図14】実施形態2に係る把持具の斜視図である。
図15】実施形態2に係る照明装置を案内具により腹腔に挿入する途中の状態を示す図7相当図である。
図16】実施形態2に係る図9相当図である。
図17】変形例に係る図2相当図である。
図18】実施形態3に係る照明装置の側面図である。
図19図18のXIX−XIX線断面図である。
図20】実施形態3に係る照明装置を患者に固定した状態を説明する図である。
図21】実施形態3に係る照明装置の使用状態を説明する図である。
図22】実施形態4に係る照明装置の斜視図である。
図23】実施形態4の変形例に係る図22相当図である。
図24】実施形態4に係る照明装置の使用状態を説明する図である。
図25】実施形態4に係る照明装置の別の使用状態を説明する図である。
図26】実施形態4に係る照明装置のさらに別の使用状態を説明する図である。
図27】実施形態4の変形例に係る図22相当図である。
図28】実施形態5に係る照明装置の斜視図である。
図29】実施形態6に係る照明装置の斜視図である。
図30】実施形態6に係る照明装置の使用状態を説明する図である。
図31】実施形態7に係る照明装置の側面図である。
図32】実施形態8に係る照明装置の斜視図である。
図33】実施形態8に係る照明装置の使用状態を説明する図である。
図34】複数の照明装置がそれぞれ有するカメラで腹部を撮影した場合に得られる画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0045】
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係る照明システム1(図8に示す)を構成する照明装置2を示している。この照明システム1は、例えば、腹腔鏡下手術で用いられるものであり、照明装置2の他に、照明装置2を把持する把持具3を備えている。
【0046】
照明装置2は、図2図3に示すように、照明部10と、照明部10を腹腔S内で生体組織に固定するための固定用の針(固定部)11と、腹腔S内の照明部10を外部に取り出すための取り出し部材12とを備えている。
【0047】
図4に示すように、照明部10は、複数の白色発光ダイオード15が実装された発光ダイオード実装基板16と、図3に示す電池17と、断熱材18と、これら発光ダイオード実装基板16、電池17及び断熱材18を収容するケース19とを備えている。ケース19は、円筒状とされており、外径は、10mm以下に設定され、軸方向の寸法は、20mm以下に設定されている。尚、ケース19の寸法は上記に限られるものではない。
【0048】
ケース19を構成する部材は、生体への影響が殆ど無い材料であれば特に限定されない。ケース19の長手方向一端部には、閉塞板部19aが設けられている。ケース19の長手方向他端部には、レンズ20が設けられている。レンズ20の外面は、ケース19の外方へ向けて湾曲している。電池17は、ケース19内の閉塞板部19a側に配設されている。電池17は、周知のボタン電池である。電池17の寿命は、発光ダイオード15の点灯時間が2〜5時間程度となるように設定されており、従って、照明部10は1回使用された後に廃棄される、所謂、使い捨てタイプとなっている。
【0049】
一方、発光ダイオード実装基板16は、ケース19内のレンズ20側の端部近傍に配設されており、ケース19の断面形状に対応した円板形状となっている。発光ダイオード実装基板16のレンズ20側の面には、図4に示すように、発光ダイオード15が縦横に並ぶように設けられている。発光ダイオード15の数や位置は、図4に示す以外にも任意に設定することができ、例えば、1つの発光ダイオード15を発光ダイオード実装基板16の中心近傍に配設してもよい。また、白色発光ダイオード15以外にも赤色発光ダイオード、緑色発光ダイオード及び青色発光ダイオードを設けて、生体組織を観察し易い波長の光を発するようにしてもよい。また、近赤外光を発する発光ダイオードを設けることも可能である。
【0050】
発光ダイオード実装基板16には、発光ダイオード15へ供給する電力を制御する制御回路21が設けられており、制御回路21には、配線23を介して電池17が接続されている。また、ケース19には、発光ダイオード15への電力供給を開始するための点灯スイッチ22が設けられている。点灯スイッチ22は、ケース19の外方に臨むように配設されており、ケース19の外面からは突出しないようになっている。点灯スイッチ22は、制御回路21に接続されている。制御回路21は、点灯スイッチ22が操作されたことを検出すると、発光ダイオード15に対し電力の供給を開始するように構成された周知のものである。
【0051】
断熱材18は、ケース19内の発光ダイオード実装基板16と電池17との間に配設されている。断熱材18は、樹脂の発泡材等で構成することができるが、これに限られるものではない。
【0052】
針11は、ケース19の閉塞板部19aの中心部からケース19外方へ真っ直ぐに突出している。また、取り出し部材12は、紐12aと、小片部材12bとで構成されている。紐12aの基端部は、針11の基端部に結び付けられている。小片部材12bは、紐12aの先端部に取り付けられている。紐12aの長さは、例えば300mm程度に設定されており、照明部10を腹腔S内の生体組織に固定した状態で、紐12aの先端側が外部まで延び、小片部材12bが腹腔Sの外部に出るようになっている。尚、紐12aの代わりに糸やワイヤー等を用いてもよい。また、小片部材12bの形状は各図に示すものに限られない。
【0053】
把持具3は、図5に示す可撓管30と、可撓管30の外周面を被覆する被覆材31と、可撓管30を湾曲させる操作部(図示せず)と、把持ワイヤー42(図8に示す)を備えている。可撓管30の先端側の所定範囲には、管状をなすように構成された湾曲機構32が設けられている。この湾曲機構32の先端部には、先端管部33が設けられている。
【0054】
上記湾曲機構32は、複数の環状部材34、34、…を中心線方向に並べて構成されている。各環状部材34の周壁部には、可撓管30の中心線方向に突出する2つの突片34aが周方向に約180゜離れて形成されている。これら突片34aが、隣接する環状部材34の周壁部に対し、該周壁部を貫通する方向に延びるピン35により連結されている。環状部材34は、このピン35の中心線周りに回動するようになっている。環状部材34の周壁部は、突片34aから周方向に離れるに従って中心線方向の寸法が短くなるテーパー形状をなしている。これにより、隣り合う環状部材34、34の間には、突片34aから周方向に離れるに従って大きくなる隙間Tが形成される。このように隣り合う環状部材34、34の間に隙間Tが形成されることによって、各環状部材34は、隣り合う環状部材34に対し回動可能となる。隙間Tの大きさは、図6に示すように、可撓管30の先端側がU字状となるまで、即ち、先端管部33が可撓管30の基端側へ向くまで、湾曲するように設定されている。
【0055】
また、湾曲機構32における可撓管30の基端部に位置する環状部材34は、上記と同じピン35を介して可撓管30の本体部分30aに回動可能に連結されている。また、先端管部33にも突片33aが2つ設けられており、これら突片33aが湾曲機構32の先端部に位置する環状部材34にピン35によって回動可能に連結されている。
【0056】
図5に示すように、可撓管30の内部には、該可撓管30の先端部から基端部に亘って中心線と略平行に延びる第1操作ワイヤー36及び第2操作ワイヤー37が配設されている。第1操作ワイヤー36及び第2操作ワイヤー37は、互いに可撓管30の周方向に180゜離れ、かつ、環状部材34の突片34aからは周方向に90゜離れて配置されている。第1操作ワイヤー36及び第2操作ワイヤー37の基端部は、操作部が有する一対の巻き取り軸にそれぞれ連結されている。
【0057】
各環状部材34の内周面には、第1及び第2操作ワイヤー36、37がそれぞれ挿通する中空状の第1及び第2ワイヤーガイド38、39が、該操作ワイヤー36、37の配設位置に対応して設けられている。また、可撓管30の本体部分30aの内周面にも、同様に第1及び第2ワイヤーガイド38、39が設けられている。さらに、先端管部33の内周面には、第1及び第2操作ワイヤー36、37の先端部がそれぞれ固定される第1及び第2ワイヤー固定部材40、41が、該操作ワイヤー36、37の配設位置に対応して設けられている。
【0058】
そして、第1操作ワイヤー36を操作部の巻き取り軸で巻き取るとともに、第2操作ワイヤー37を緩めると、湾曲機構32が図6に示すように湾曲する。一方、第1操作ワイヤー36を緩めるとともに、第2操作ワイヤー37を巻き取り軸に巻き取ると、湾曲機構32が反対側に湾曲する。湾曲機構32の湾曲度合いは、第1及び第2操作ワイヤー36、37の巻き取り量によって任意に調整できる。
【0059】
上記被覆材31は、柔軟性を有する樹脂材で構成され、可撓管30の基端部から先端部に亘って外周面に密着するように形成されている。可撓管30と被覆材31とは一体化している。この被覆材31の柔軟性は、可撓管30の湾曲機構32の湾曲動作を阻害しない程度に設定されている。
【0060】
また、把持ワイヤー42は、照明装置2を把持するためのものであり、可撓管30の内部に挿通している。把持ワイヤー42の先端部は輪を形成するようになっており、可撓管30の先端部から突出している。この把持ワイヤー42の先端部によって照明装置2を把持する。また、把持ワイヤー42の基端部は、可撓管30の基端部から突出するようになっており、術者が引っ張ることができるようになっている。
【0061】
次に、上記のように構成された照明システム1を使用する場合について説明する。まず、図7に示すように、手術を受ける患者の腹部Cには、トロッカーAを穿刺する。トロッカーAの数は4つである。その後、炭酸ガスをトロッカーAを介して腹腔Sに導入して腹部Cを膨らませる。
【0062】
しかる後、照明装置2を把持具3の把持ワイヤー42で把持する。すなわち、把持ワイヤー42の先端の輪となっている部分を照明装置2のケース19の外周に掛けて、把持ワイヤー42の基端部を引っ張ると、照明装置2が把持ワイヤー42の輪の部分と可撓管30の先端部とで挟まれて把持される。このとき照明装置2の点灯スイッチ22はONにしておく。
【0063】
次いで、図8に示すように、照明装置2をトロッカーAから腹腔S内へ挿入していく。このとき、把持ワイヤー42による把持力を弱めることで照明装置2の向きを変えることができるので、照明装置2をトロッカーAに挿入し易い向き、即ち、照明装置2の軸方向がトロッカーAの軸方向と略一致する方向にする。このようにして照明装置2を腹腔S内に挿入した後、図9に示すように、可撓管30を湾曲させ、針11の先端が生体組織に刺さるように照明装置2の向きを変える。また、照明装置2の挿入時には、取り出し部材12の先端側をトロッカーAから外部に出しておく。
【0064】
そして、照明装置2を生体組織に押し付けるための押し付け具BをトロッカーAから腹腔S内に挿入し、押し付け具Bの先端部を照明装置2に当てて、照明装置2を生体組織に押し付ける。これにより、針11が生体組織に刺さって固定された状態となる。
【0065】
その後、把持ワイヤー42を緩めて可撓管30をトロッカーAから抜き、押し付け具BもトロッカーAから抜く。
【0066】
また、図10に示すように、照明装置2は、別のトロッカーAからも腹腔S内に挿入して生体組織に固定することが可能であり、腹腔S内の複数箇所に照明装置2を設けることができる。
【0067】
上記のようにして腹腔S内に固定された照明装置2により、腹腔S内が照明されるので、広範囲に亘って十分な明るさを確保することが可能になり、内視鏡による観察を確実に、かつ、スピーディに行えるようになる。
【0068】
照明装置2の照明中には、発光ダイオード15から熱が発生するが、その量はフィラメントを有する電球等に比べて極めて少ないため、熱によって生体組織が悪影響を受けることは殆どない。また、発光ダイオード15と針11との間には、断熱材18が介在しているので、発光ダイオード15の熱は針11へ殆ど伝わらない。このことによっても、熱によって生体組織が悪影響を受けるのを回避することが可能になる。
【0069】
手術を終える際には、照明装置2を例えば鉗子等で掴んで引っ張ることで針11を生体組織から抜き、トロッカーAから取り出す。このとき、照明装置2に取り出し部材12が設けられているので、取り出し部材12を引っ張ることで容易に取り出すことが可能である。また、取り出し部材12がトロッカーAから外部に出ているので、照明装置2が腹腔S内に残っていることの目印となり、照明装置2の取り出し忘れを防止できる。尚、取り出した後の照明装置2は廃棄処分される。さらに、取り出し部材12を持っておくことで、照明装置2が腹腔S内に落下してしまうのを防止できる。
【0070】
以上説明したように、この実施形態1によれば、発光ダイオード15を有する照明部10を針11によって腹腔S内の生体組織に固定するようにしたので、腹腔S内を広範囲に亘って十分な明るさで照明することができ、手技をスムーズに行うことができる。
【0071】
また、針11を生体組織に刺すだけで照明部10を任意の位置に固定することができ、照明部10の固定作業を容易にすることができる。
【0072】
また、発光ダイオード15で照明するようにしたので、十分な明るさが得られる照明部10をコンパクトにでき、しかも、照明部10が発生する熱量を少なくして、照明部10を固定したことによる生体組織への影響を小さくでき、低侵襲な手術を行うことができる。
【0073】
また、照明部10の発光ダイオード15と針11との間に断熱材18を設けたので、発光ダイオード15で発生する熱が生体組織に伝わり難くなる。これにより、生体組織に熱による影響を殆ど与えずに済むので、より一層低侵襲な治療を行うことができる。
【0074】
また、生体外へ延びるように形成された取り出し部材12を備えているので、腹腔S内に照明部10を固定している場合に、取り出し部材12を引っ張ることで照明部10を腹腔S内から容易に取り外すことができる。また、取り出し部材12が生体外に延びているので、照明部10が腹腔S内に残っていることの目印として機能し、照明部10が腹腔S内に残されたままとなるのを防止でき、医療行為の安全性を高めることができる。
【0075】
また、照明装置2を把持する把持具3を備えているので、照明装置2を把持具3で把持して腹腔S内に容易に導入することができる。
【0076】
また、照明装置2が電池17を内蔵しているので、照明部10の発光ダイオード15に外部から電力を供給するための配線やコネクタ等を不要にでき、腹腔S内への固定作業性を良好にできる。
【0077】
また、複数の照明装置2を腹腔S内に固定することで、観察部位を多方向から照明することができるので、観察部位に影が生じにくくなる。
【0078】
また、図11に示す変形例のように、照明装置2には、カメラ(撮影部)45を取り付けてもよい。照明装置2には、カメラ45で撮影された画像の信号を図示しない画像表示装置に送るための信号線46が設けられている。この照明装置2により、腹腔S内を照明しながら撮影することが可能になり、手技に役立つ鮮明な画像を得ることができる。カメラ45の画角は、50゜〜80゜程度が好ましく、画素数は、300万〜500万画素程度が好ましいが、この範囲に限られるものではない。カメラ45は赤外光にも対応したタイプが好ましい。また、カメラ45はCCD(charge-coupled device)を用いた走査型とするのが好ましいが、これに限られるものではない。
【0079】
尚、上記実施形態では、照明システム1は把持具3を備えているが、この把持具3は省略してもよい。また、複数の照明装置2、2、…をセットにして照明システム1を構成してもよい。この場合、各照明装置2の明るさや光の波長を変えてもよい。
【0080】
《発明の実施形態2》
図12は、本発明の実施形態2に係る照明装置2を示している。この実施形態2に係る照明システム1(図15に示す)は、照明装置2を把持する把持具50の構造と、案内具51を備えている点で実施形態1のものと異なっている。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分を詳細に説明する。
【0081】
図14に示すように、実施形態2の把持具50は、棒材で構成された本体部50aと、本体部50aの先端部に設けられたC字状部50bとを備えている。C字状部50bの周方向中心部が本体部50aに固定されている。本体部50a及びC字状部50bは可撓性を有する柔軟な樹脂で構成されている。
【0082】
また、図12及び図13に示すように、照明装置2のケース19の外面には、把持具50のC字状部50bが嵌るように周方向に延びる溝19bと、この溝19bの長手方向中央部に連続してケース19の軸方向に延び、本体部50aが嵌る溝19cとが形成されている。溝19bは、ケース10の針11に近い側に位置している。溝19cは、レンズ20まで延びている。そして、溝19bに把持具50のC字状部50bを嵌めるとともに、溝19cに本体部50aを嵌めることにより、照明装置2が把持具50に把持されるようになっている。このとき、針11は、把持具50の本体部50aとは反対側に突出することになる。
【0083】
また、図15に示す案内具51は、実施形態1の把持具3の可撓管30、被覆材31及び操作部と同様に構成された可撓管、被覆材及び操作部(全て図示せず)とからなるものである。可撓管の内径は、照明装置2の外径よりも大きく設定されており、可撓管の内部には、可撓管の軸方向に延びるように向いた照明装置2が挿通するようになっている。
【0084】
次に、図15及び図16を参照しながら、実施形態2の照明システム1を使用する場合について説明する。まず、案内具51をトロッカーAから腹腔S内に挿入し、さらに、照明装置2を把持具50で把持する。そして、術者は、把持具50の本体部50aを持って照明装置2を可撓管に挿入していく。
【0085】
しかる後、図16に示すように、可撓管を湾曲させて可撓管の先端部を、生体組織に対向させ、把持具50の本体部50aを可撓管の挿入方向へ押すと、その力が照明装置2に伝わっての照明装置2の針11が生体組織に刺さる。これにより、照明装置2が固定される。このとき、取り出し部材12を可撓管の基端部から外部に出しておく。
【0086】
照明装置2を固定した後、案内具51をトロッカーAから抜く。そして、例えば鉗子等をトロッカーAから腹腔Sへ挿入し、把持具50の本体部50a及びC字状部50bを掴んで照明装置2の溝19b、19cから外し、把持具50をトロッカーAから抜く。
【0087】
したがって、この実施形態2によれば、実施形態1の同様に、腹腔S内を広範囲に亘って十分な明るさで照明することができ、手技をスムーズに行うことができる。
【0088】
また、照明装置2を腹腔S内に案内する案内具51を備えているので、照明装置2を腹腔S内に容易に導入でき、照明装置2の固定作業性を良好にできる。
【0089】
上記実施形態1、2の照明装置2は、胸腔鏡下手術においても同様にして胸腔内に固定して使用可能である。
【0090】
尚、図17に示す変形例のように、上記実施形態1、2の照明装置2の針11の先端部に抜け止め部11aを設けてもよい。この抜け止め部11aは、針11の先端部から径方向に突出する形状となっており、針11が生体組織に刺さった状態で生体組織に食い込み、これにより、針11の抜けが阻止されるようになっている。
【0091】
《発明の実施形態3》
図18は、本発明の実施形態3に係る照明システム1を示している。この実施形態3に係る照明装置54は、照明部55を、患者Cの切開部を保護する保護具60に取り付けるようにした点で、実施形態1、2のものと異なっている。以下、実施形態1、2と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0092】
すなわち、この実施形態の照明システム1は、図20に示すように、左右一対の照明装置54で構成されている。照明装置54は、照明部55と保護具(固定部)60とを備えている。図19に示すように、照明部55は、針を有しておらず、保護具60の表側に貼り付けられるようになっている。また、照明装置54は、矩形箱状のケース53を備えており、内部には、発光ダイオード15が実装された矩形の発光ダイオード実装基板(図示せず)、制御回路(図示せず)、電池(図示せず)が設けられている。また、ケース53には点灯スイッチ(図示せず)が設けられている。
【0093】
保護具60は、胸部や腹部を手術する際に、体表側組織が切開されて形成された切開部D(図20に示す)を保護するためのものである。保護具60は、図19に示すように、樹脂製の中間シート61と、この中間シート61の表側に配置される第1吸液材62と、第1吸液材62を中間シート61との間で保持する第1布材63と、上記中間シート61の裏側に配置される基材64と、第2吸液材66と、該第2吸液材66を保持する第2布材67とを備えている。また、上記第2布材67の裏側には、上記基材64から離れた部位に粘着剤68と、該粘着剤68を覆う剥離シート69とが設けられている。
【0094】
上記中間シート61は、ポリエチレンからなる矩形の半透明フィルムで構成されている。中間シート61の長手方向の寸法は約210mmとされ、幅方向の寸法は約150mmとされている。図18に示すように、中間シート61の4つの隅は曲線で構成されている。尚、この中間シート61は、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等で構成してもよく、また、これら樹脂材を積層した多層構造のフィルムで構成してもよい。
【0095】
上記第1吸液材62は、水膨潤性繊維で構成されている。この水膨潤性繊維としては、アクリル繊維の内層と吸水性樹脂からなる外層とで構成された東洋紡績株式会社製のランシールを用いることができる。この水膨潤性繊維の吸水速さは、水に接触すると約10秒で平衡吸水量の約50%以上を吸水する速さである。また、この水膨潤性繊維は、吸水した後は、多少の圧力を加えても離水せず、また、水には溶けない性質を持っている。さらに、この水膨潤性繊維の吸水後の繊維径は、吸水前の繊維径の約5倍以上に拡大する一方、繊維の長さ方向の寸法は、アクリル繊維で維持されて吸水前後で殆ど変化しない。また、水膨潤性繊維の繊維物性はアクリル繊維で維持されているので、外層の吸水樹脂が吸水しても殆ど低下しないようになっている。尚、第1吸液材62は、綿やレーヨン等からなるガーゼで構成してもよいし、これら綿やレーヨンに上記水膨潤性繊維を混合した不織布や、綿やレーヨンに水膨潤性繊維を積層した積層体で構成してもよい。
【0096】
上記第1布材63は、水の透過性を有する不織布で構成されている。この第1布材63を構成する不織布は、熱を加えることにより樹脂材に溶着するヒートシール性を有している。
【0097】
上記粘着剤68は、人間の皮膚への貼り付け用として一般に用いられているアクリル系、シリコーン系、ポリウレタン系やゴム系のものである。
【0098】
上記剥離シート69は、樹脂製シートや紙等をシリコーン系剥離剤等で剥離処理したものである。剥離シート69を樹脂製シートで構成する場合には、例えばポリエチレンテレフタラートフィルムやポリプロピレンフィルム等を用いることができ、一方、紙で構成する場合には、グラシン紙、クレーコート紙、ラミネート紙等を用いることができる。
【0099】
上記基材64は、多数の樹脂製線材を網状に組み合わせてなり、平面視で上記第1吸液材62と略同じ形状とされている。各線材は、曲げた際に途中で切れることなく、かつその曲げた形状を保持する形状保持性を有する樹脂材で構成されている。この樹脂材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン等を使用することができるが、この実施形態では、これら樹脂材の中で形状保持性が最も優れているポリエチレンを使用している。
【0100】
上記第2吸液材66及び第2布材67は、上記第1吸液材62及び第1布材63とそれぞれ同じものである。
【0101】
また、上記保護具60は、図示しないが、透湿性がない樹脂製のフィルムからなる袋に滅菌用の紙と一緒に収容された状態で保管されるようになっている。このため、第1吸液材62及び第2吸液材66が保管中に空気中の水分を吸収して吸液能力が低下するのを防止することができる。
【0102】
次に、この実施形態3の照明システム1を使用する場合について説明する。図20及び図21に示すように、切開部Dを開いた後、保護具60を、その第2布材67が切開部D側となるように向けてから、該切開部Dの辺縁に沿うように曲げ、該保護具60によって切開部Dの辺縁を覆う。その後、剥離シート69を粘着剤68から剥がして貼着部68を皮膚の表面に密着させる。これにより、保護具60が患者に固定される。また、照明部55が胸腔や腹腔S内に配置されることになる。この照明部55の向きは、発光ダイオード15からの光が胸腔や腹腔Sの奥に届くように設定しておく。尚、照明部55の数は任意に設定することができる。
【0103】
上記のように、切開部Dの辺縁を保護具60で覆うことにより、切開部Dに病原菌等が付着し難くなって、感染の虞れが低くなる。
【0104】
また、手術中に切開部Dから出血した血液や滲出した体液等は第2布材67を通過して第2吸液材66によって吸収される。
【0105】
したがって、この実施形態3によれば、胸部や腹部を開放して行う一般の手術の場合に、胸腔や腹腔Sの奥の方に向けて光が届くように発光ダイオード15の向きを設定して照明部55を生体組織に固定することにより、胸腔及び腹腔S内を広範囲に亘って十分な明るさで照明することができ、手技をスムーズに行うことができる。
【0106】
また、照明部55を保護具60に取り付けるようにしたので、実施形態1、2のように生体組織に針11を刺す必要はなく、照明部55を低侵襲に固定することができる。
【0107】
また、実施形態3の照明装置54に、実施形態1、2の照明装置2を組み合わせて照明システムを構成してもよい。また、実施形態3の照明装置54に実施形態1の変形例のようなカメラを設けることもできる。
【0108】
《発明の実施形態4》
図22は、本発明の実施形態4に係る照明装置70を示しており、この照明装置70は、照明部72を板部材71に取り付けるようにした点で、実施形態1のものと異なっている。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0109】
すなわち、照明装置70は、照明部72と板部材71とを備えている。照明部72は、箱状をなしている。照明部72には、図示しないが、発光ダイオード実装基板、電池及び断熱材が収容されている。発光ダイオード実装基板は、照明部72の表面に臨むようにして配置されており、発光ダイオード15の光の照射方向が照明部72の外方へ向くように設定されている。
【0110】
板部材71を構成する材料としては、例えば、生体への影響が殆ど無い材料であればよく、例えば、ステンレス鋼やアルミニウム合金等が挙げられる。この板部材71は、術者が手で曲げることができる程度の剛性を有しており、曲がった形状が保たれるようになっている。板部材71の厚みは、例えば0.5mm〜2.0mm程度が好ましいが、これに限られるものではない。
【0111】
照明部72は、板部材71の表面に貼り付けられている。照明部72の貼り付け位置は、図23に示す変形例のように板部材71の長手方向中間部であってもよく、任意に設定できる。
【0112】
また、照明部72で発生した熱は、板部材71に伝わって放熱されるようになっている。すなわち、板部材71は、照明部72の放熱部材としても機能する。
【0113】
上記照明装置70の使用時には、例えば、図24に示すように板部材71を屈曲させて、板部材71の長手方向両端部に水平部分を形成するとともに、長手方向中間部が上方へ盛り上がるように形成する。そして、患者の腹部を切開した後、照明装置70を腹腔に入れて板部材71の水平部分を内部の生体組織の上に置く。これにより、照明装置70が腹部内に設置された状態となり、照明部72の光によって腹腔内が照明される。照明部72の光の照射方向は、板部材71の形状によって任意に設定することが可能である。
【0114】
以上説明したように、この実施形態4によれば、発光ダイオード15を有する照明部72を腹腔内に設置することができるので、腹腔内を広範囲に亘って十分な明るさで照明することができ、手技をスムーズに行うことができる。
【0115】
板部材71は、芯材をステンレス鋼やアルミニウム合金等の金属材で構成し、その芯材を樹脂材で被覆した多層構造であってもよい。また、板部材71は形状記憶合金であってもよい。
【0116】
また、図25の左側に示すように、板部材71を、腹部Cの表面側から開口縁部を経て腹腔S内に達するように折り曲げることにより、照明部72を腹腔S内の開口縁部近傍に固定するようにしてもよい。この場合は、板部材71が固定部となる。
【0117】
また、図25の右側に示すように、板部材71を曲げることなく使用することもできる。板部材71は、術者や助手が把持する取っ手となり、この板部材71を持って照明部72を腹腔Sに導入することができる。
【0118】
また、図26に示すように、板部材71の3箇所を曲げて使用することもできる。また、板状部71の2箇所、又は4箇所以上を曲げてもよいし、湾曲させてもよい。
【0119】
また、板部材71には、生体用の接着部材を設けてもよい。接着部材としては、例えば両面テープ等が挙げられ、両面テープを用いる場合には、剥離紙を剥がし易くするために、剥離紙の角のあたる部分を板部材71から浮かすようにするのが好ましい。また、板部材71に接着剤を塗布するようにしてもよい。
【0120】
また、図27に示す変形例のように、照明部72と板部材71との間に断熱材73を設けるようにしてもよい。これにより、照明部72で発生した熱が板部材71に直接伝わらなくなり、患者への熱の影響を少なくできる。また、この変形例では、照明部72から延びる配線74a,74aを板部材71に埋め込んでいる。配線74a,74aは、板部材71における照明部72と反対側の端部まで延びている。配線74a,74aの照明部72と反対側の端部には、コネクタピン74b,74bがそれぞれ設けられている。コネクタピン74b,74bには、外部電源装置が接続されるようになっている。
【0121】
《発明の実施形態5》
図26は、本発明の実施形態5に係る照明装置75を示しており、この照明装置75は、照明部77を固定板(固定部)76に取り付けるようにした点で、実施形態1のものと異なっている。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0122】
すなわち、照明装置75は、照明部77と固定板76とを備えている。照明部77には、図示しないが、実施形態4と同様に、発光ダイオード実装基板、電池及び断熱材が収容されている。
【0123】
固定板76は、実施形態4の板部材71と同様な材料を矩形状に成形してなる。固定板76の周縁部には、複数の貫通孔76a、76a、…が周方向に間隔をあけて形成されている。これら貫通孔76aには、手術用の糸78が挿通するようになっている。尚、固定板76の形状は、例えば円形であってもよい。
【0124】
照明部77は、固定板76の表面に貼り付けられている。照明部77の貼り付け位置は、固定板76の周縁部近傍であってもよく、任意に設定できる。
【0125】
上記照明装置75の使用時には、患者の腹部を切開した後、照明装置75を腹腔に入れて固定板76を内部の生体組織に当てる。そして、固定板76の貫通孔76aに糸78を挿通して生体組織に縫い付ける。これにより、照明装置65が固定された状態となり、照明部77の光によって腹腔内が照明される。照明部77の光の照射方向は、固定板76を固定する部位によって任意に設定することが可能である。
【0126】
以上説明したように、この実施形態5によれば、発光ダイオード15を有する照明部77を腹腔内に設置することができるので、腹腔内を広範囲に亘って十分な明るさで照明することができ、手技をスムーズに行うことができる。
【0127】
固定板76には、上記実施形態4の板部材71と同様に、両面テープ等からなる生体用の接着部材を設けてもよいし、接着剤を塗布してもよい。
【0128】
《発明の実施形態6》
図27は、本発明の実施形態6に係る照明装置79を示しており、この照明装置79は、照明部10の固定構造が実施形態1のものと異なっている。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0129】
すなわち、照明装置79は、ワイヤー81及び針82からなる固定部80と、実施形態1の照明部10とを備えている。ワイヤー81の基端は、ケース19の閉塞板部19aに固定されている。針82は、ワイヤー81の先端に固定されている。ワイヤー81の長さは、100mm以上が好ましい。ワイヤー81はステンレス鋼等が好ましい。
【0130】
上記照明装置79の使用時には、図28に示すように、まず、患者の腹部Cを切開した後、照明装置79を腹腔Sに入れた後、針82を腹腔Sから体表側へ向けて生体組織に刺して該生体組織を貫通させる。その後、体表側で針82をワイヤー81から切り離す。そして、図示しないが、ワイヤー81を体表側で結んで結び目を形成する。この結び目によってワイヤー81の抜けが阻止されて、照明部10が固定された状態となり、照明部10の光によって腹腔S内が照明される。ワイヤー81に結び目を形成する代わりに、ワイヤー81を鉗子等で挟んで保持するようにしてもよい。
【0131】
以上説明したように、この実施形態6によれば、発光ダイオード15を有する照明部10を腹腔S内に固定することができるので、腹腔S内を広範囲に亘って十分な明るさで照明することができ、手技をスムーズに行うことができる。
【0132】
尚、ワイヤー81の代わりに糸や紐を用いてもよい。
【0133】
《発明の実施形態7》
図29は、本発明の実施形態7に係る照明装置84を示しており、この照明装置84は、照明部87を台85に取り付けるようにした点で実施形態1のものと異なっている。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0134】
すなわち、照明装置84は、照明部87と、台85とを備えている。台85は、実施形態4の板部材71と同様な材料を厚肉な板状に成形してなり、照明部86が取り付けられる取付部材86を有している。照明部86は取付部材86の任意の部位に取り付けることができるようになっている。
【0135】
上記照明装置84の使用時には、患者の腹部を切開した後、照明装置84を腹腔に入れて台85を内部の生体組織の上に置く。これにより、照明装置84が設置された状態となり、照明部87の光によって腹腔内が照明される。照明部77の光の照射方向は、台85を置く部位によって任意に設定することが可能である。
【0136】
以上説明したように、この実施形態7によれば、発光ダイオード15を有する照明部87を腹腔内に設置することができるので、腹腔内を広範囲に亘って十分な明るさで照明することができ、手技をスムーズに行うことができる。
【0137】
《発明の実施形態8》
図30は、本発明の実施形態8に係る照明装置91を示しており、この照明装置91は操作部としての棒材89と、実施形態1の照明部10とを備えている。棒材89の基端は、ケース19の閉塞板部19aに対し、脱着機構90を介して取り外し可能に固定されている。棒材89の長さは、500mm以上が好ましい。また、棒材89は、可撓性を有しており、照明部10を手術を受ける患者の体内へ導入する操作を行うためのものである。
【0138】
上記照明装置91は、内視鏡を用いて消化器官を観察する場合及び内視鏡を用いながら消化器官を手術する場合に使用する。図31に示すように、この照明装置91を使用する際には、まず、ガイドチューブEを患者の口から食道へ向けて挿入する。その後、術者が棒材89を持ち、照明部10をガイドチューブEに挿入していき、消化器官としての胃Dへ導入する。照明部10の位置は、棒材89を操作することによって簡単に変更することが可能となっている。照明部10は食道内を照明することもできる。
【0139】
以上説明したように、この実施形態8によれば、発光ダイオード15を有する照明部10を消化器官まで導入することができ、消化器官内を広範囲に亘って十分な明るさで照明することができ、手技をスムーズに行うことができる。
【0140】
また、図示しないが、各照明装置2の制御回路21には、電池17の残量を検出する電池残量検出部と、送受信器と、発光ダイオード15の明るさをコントロールするコントロール部とを設けてもよい。送受信器は、他の照明装置2の送受信器と無線通信可能に構成されている。送受信器の通信形態としては特に限定されず、例えば、可視光通信であってもよい。
【0141】
送受信器は、電池残量検出部により電池残量が低下したことが検出されると、その信号を送信するようになっている。従って、複数の照明装置2を用いる場合に、例えば、そのうちの1つの照明装置2の電池残量が低下した場合には、そのことが電池残量検出部により検出されて、電池残量低下信号が送受信器により他の照明装置2に送信される。電池残量低下信号を受信した照明装置2は、コントロール部により発光ダイオード15の明るさを高める。これにより、電池残量が低下した照明装置2の明るさが低下するのを他の照明装置2で補うことができる。また、電池残量が低下した場合に光や音等で報知する報知部を設けてもよい。
【0142】
また、制御回路21が送受信器を備えている場合には、カメラ45で撮影された画像の信号を無線で外部の画像表示装置(図示せず)に送信して表示させることも可能である。この画像表示装置には、複数の照明装置2のカメラ45の画像信号が入力されるようになっている。画像表示装置には、これらカメラ45で撮影された画像を処理する画像処理部が設けられている。画像処理部は、各カメラ45で撮影した画像をつなぎ合わせて広範囲画像を合成して出力するように構成されている。合成した画像を図32に示す。同図に示す領域X1は、患者の腹部の右上領域を撮影したカメラ45の画像であり、領域X2は、腹部の左上領域を撮影したカメラ45の画像であり、同様に、領域X3及びX4は、それぞれ、腹部の右下領域及び左下領域を撮影したカメラ45の画像である。各カメラ45で実際に撮影した領域は、それぞれ、X1〜X4よりも広めに設定されており、重複している部分は合成時に削除されるようになっている。この図に示すように、胃、小腸及び大腸を一度に見ることができる。領域X1〜X4の大きさは互い異なっていてもよい。カメラ45で胸部を撮影することも可能である。
【0143】
また、上記画像処理部では、各カメラ45で撮影された画像を合成することなくそのまま出力することもできるようになっている。
【0144】
尚、発光ダイオード15は、ケース19の外周面に設けてもよい。これにより、より広範囲を明るく照らすことが可能になる。
【0145】
また、上記実施形態1〜8では、発光ダイオード15を設けているが、これに限らず、電球や有機EL(Organic Electro-Luminescence)等の発光体を設けてもよいし、これらを組み合わせてもよい。発光体の種類は上記に限られるものではない。また、発光体には、外部電源装置を接続するようにしてもよい。
【0146】
有機ELは光の放射面形状を自由に設定することが可能であるため、有機ELの形状を、例えばケース19の端面と同じ形状として光の放射面を広く確保してもよいし、ケース19の外周面に沿う形状として光をケース19の外周面から放射できるようにしてもよい。
【0147】
また、照明装置2、54、70、75、79、84、91だけで手術用照明システムを構成することもできる。
【0148】
尚、上記使用方法は例示であり、他の方法で使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0149】
以上説明したように、本発明に係る照明システムは、例えば、腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術をはじめ、胸部や腹部を切開して開放して行われる手術にも用いることができる。
【符号の説明】
【0150】
1 手術用照明システム
10 照明部
11 針(固定部)
12 取り出し部材
15 発光ダイオード
17 電池
18 断熱材
45 カメラ(撮影部)
51 案内具
60 保護具
85 台
89 棒材(操作部)
A トロッカー
D 切開部
S 腹腔
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