(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るX線CT装置(X線コンピュータ断層撮影装置)10の構成を示したブロック図であり、
図2は、
図1のX線CT装置10による断層像撮影形態を示した斜視図である。
【0010】
なおX線CT装置には、X線管と検出器システムとが一体化して被検体の周囲を回転する回転/回転(ROTATE/ROTATE)タイプ、リング状に多数の検出素子がアレイされ、X線管のみが被検体の周囲を回転する固定/回転(STATIONARY/ROTATE)タイプ、電子ビームを偏向させることで電子的にX線源の位置をターゲット上で移動するタイプ等、様々なタイプが存在するが、この実施形態に示される構成は何れのタイプにも適用可能である。以下の説明では現在主流を占める回転/回転タイプのX線CT装置を例として説明する。
【0011】
図1に示されるように、X線CT装置10は、X線管11、回転リング12、2次元検出器システム13、データ収集回路(DAS)14、非接触データ伝送装置15、前処理装置17、架台駆動部19、スリップリング20、高電圧発生装置21、ホストコントローラ25、記憶装置27、補助記憶装置28、データ処理装置29、再構成装置30、入力装置31、画像処理部33、表示装置35、アライメントデータ記憶部36、ネットワーク通信装置37、及びデータ/制御バス40を有して構成される。また、データ/制御バス40を介して、当該装置本体10には外部の画像処理装置(図示せず)が接続されている。
【0012】
X線管11はX線を発生するX線源であり、回転リング12に設けられている。当該X線管11には、X線の曝射に必要な電力が高電圧発生装置21からスリップリング20を介して供給される。X線管11は、供給された高電圧により電子を加速させてターゲットに衝突させることで、有効視野領域FOV内に載置された被検体Pに対してコーン状のX線を照射する。
【0013】
このX線管11は管電圧および管電流を切り替えることで、少なくとも2段階にわたりその駆動状態を切り替えることが可能である。各駆動状態ごとに線質の異なるX線が出力され、線質に応じた複数のX線画像が取得される。この実施形態では硬軟の2段階にわたり変化させた線質に基づいてX線画像を取得する、デュアルエナジースキャンを行う装置を想定する。デュアルエナジースキャンに拠れば、硬X線により取得した硬X線画像と、軟X線画像により取得した軟X線画像とを比較することにより被検体内の対象領域の物性を特定(物質の識別など)することが可能である。
【0014】
なおX線管11は、より精度の高い撮影を実現するために、撮影の際にX線ビームの中心が2次元検出器システム13の中心と向かい合うように相対的に位置調節されていることが好ましい。
【0015】
回転リング12には、X線管11と、2次元検出器システム13と、データ収集回路14が設けられている。回転リング12は、架台駆動部19によって駆動されるもので、X線管11及び2次元検出器システム13と共に1回転あたり1秒以下という高速で被検体Pの回りを回転する。
【0016】
2次元検出器システム13は、被検体Pを透過したX線を検出する検出器システムであり、X線管11に対向するようにして回転リング12に取り付けられている。
図2に示されるように、2次元検出器システム13には、シンチレータとフォトダイオードとの組み合わせで構成される複数の検出素子が、被検体Pの体軸(列)方向とそれに直交するチャネル方向とに関して2次元状に配列されている。例えば、チャネル方向に関しては1,000個(1,000チャネル)程度の検出素子が配列されている(以下、この1,000個の検出素子が配列された一の列を「検出素子列」と称する)。本X線CT装置10は、例えば256列のマルチ(256列マルチとは、256列の断層像が同時に収集されるものを言う。実際には検出素子列が64列、128列、256列等多数配列される。)で構成される。
【0017】
データ収集回路(DAS)14は、複数のDASチップを有し、2次元検出器システム13で検出されたM×Nの全チャネルに関する膨大なデータ(1ビューあたりのM×Nチャネル分のデータを、以下“投影データ”と称する)を入力し、増幅処理、A/D変換処理等の後、一括して光通信を応用した非接触データ伝送装置15を介して固定側のデータ処理ユニットに伝送する。
【0018】
非接触データ伝送装置15は、収集したX線透過データを光学的に次段装置に伝送する。この非接触データ伝送装置15やデータ収集回路14等については、2次元検出器システム13において、膨大、且つ高速に発生する2次元投影データを時間遅れなく伝送するための超高速処理化が図られている。
【0019】
すなわち、被検体を透過したX線は、2次元検出器システム13においてアナログ電気信号に変換され、更にデータ収集回路14でデジタル電気信号の2次元投影データに変換された後、各種補正を行う前処理装置17に送られる。
【0020】
前処理装置17は、非接触データ伝送装置15から2次元投影データを入力し、感度補正やX線強度補正等の前処理を行う。前処理を受けた2次元投影データは、直接、或いは記憶装置27に一旦記憶された後、データ処理装置29に送られる。なお、本実施形態では、前処理後の投影データを記憶しているが、前処理前の投影データを記憶するようにしても良い。
【0021】
架台駆動部19は、診断用開口内に挿入された被検体の体軸方向に平行な中心軸のまわりに、X線管11と2次元検出器システム13とを一体で回転させる等の駆動制御を行う。この架台駆動部19は、X線管11のみを中心軸のまわりに回転させるものとしても良い。
【0022】
高電圧発生装置21は、X線の曝射に必要な電力を、スリップリング20を介してX線管11に高電圧を供給する装置であり、高電圧変圧器、フィラメント加熱変換器、整流器、高電圧切替器等から成っている。この高電圧発生装置21によるX線管11への高電圧供給は、スリップリング20により行われる。
【0023】
ホストコントローラ25は、撮影処理、データ処理、画像処理等の各種処理に関する統括的な制御を行う。例えば、撮影処理においては、ホストコントローラ25は、予め入力されたスライス厚等のスキャン条件を内部メモリに格納し、患者ID等によって自動的に選択されたスキャン条件(或いは、マニュアルモードにおいて、入力装置31から直接設定されたスキャン条件)に基づいて、高電圧発生装置21、図示されない寝台駆動部、架台駆動部19、及び寝台の体軸方向への送り量、送り速度、X線管11及び2次元検出器システム13の回転速度、回転ピッチ、及びX線の曝射タイミング等を制御し、被検体Pの所望の撮影領域に対して多方向からX線ビームを照射してX線CT画像の撮影処理を行う。
【0024】
また、ホストコントローラ25は、スキャン条件に基づいて、2次元検出器システム13のスイッチ群の各スイッチ切り替え制御を行う。すなわち、ホストコントローラ25は、2次元検出器システム13が有する各検出素子とデータ収集素子との接続状態を切り替え、各検出素子で検出されたX線透過データを所定の単位で束ねる。このような処理を「チャネル束ね」と称し、詳しくは後述する。
【0025】
さらに、ホストコントローラ25はスキャン条件に対応した複数スライスのX線透過データとして、後段のデータ収集回路14に送り出し、所定の処理を実行する。
【0026】
補助記憶装置28は、再構成装置30により生成された再構成画像データを記憶可能な大容量の記憶領域を有する装置である。
【0027】
データ処理装置29は、例えばCPU等を有するコンピュータ回路を搭載しており、2次元検出器システム13により収集された投影データを記憶する。そして、データ処理装置29は、撮影系(X線管11及び2次元検出器システム13)の回転による多方向から得られた同一スライスの全ての投影データを加算する処理や、その加算処理により得られた多方向データに対して必要に応じて補間処理、補正処理等を施すようになっている。
【0028】
再構成装置30は、データ処理装置29によりデータ処理されて得られた投影データを再構成処理して、所定のスライス分の再構成画像データを生成する。具体的には、再構成装置30は、2次元画像再構成、或いはFeldkamp法に代表される3次元画像再構成アルゴリズムによる再構成を行い、体軸方向を横切る複数断面毎のX線吸収系数の2次元的分布データ、或いは体軸方向に広い対象領域(ボリューム)内におけるX線吸収系数の3次元的分布データ(ボクセルによる3次元ボリュームデータの集まりであり、「ボクセルボリュームデータ」と称される。)を再構成する。なお、当該再構成装置30は、1枚の断層像の再構成に必要な多方向の投影データを収集するのに要する時間より、短時間で多方向の投影データから断層像を再構成する、所謂リアルタイム再構成を行う。
【0029】
入力装置31は、図示されないキーボードや各種スイッチ、マウス等を備えており、オペレータを介してスライス厚やスライス数等の各種スキャン条件を入力可能な装置である。
【0030】
画像処理部33は、再構成装置30により生成された再構成画像データに対して、ウィンドウ変換、RGB処理等の、表示のための画像処理を行って表示装置35に出力する。また、画像処理部33は、オペレータの指示に基づき、任意断面の断層像、任意方向からの投影像、3次元表面画像等のいわゆる疑似3次元画像の生成を行い、表示装置35に出力する。出力された画像データは、X線CT画像として表示装置35に表示される。
【0031】
ネットワーク通信装置37は、院内LAN、インターネット等のネットワークを介して、通信機能を有する他の装置と情報のやり取りを行う。特に、ネットワーク通信装置37は、インターネット等を介して当該本X線CT装置10の画像情報やメンテナンス情報の送受信を行う。
【0032】
再構成、断面変換等のデータ処理、表示オペレーションに関する演算処理等は、一般的にX線CT装置10内の制御部41により実施される。制御部41はこの実施形態に係わる処理機能として切り替え部41a、チャネル束ね部41b、算出部41cを備える。
【0033】
切り替え部41aは、X線管11の管電圧および管電流を切り替えてデュアルエナジースキャンを実施するための制御を行う。すなわち切り替え部41aは、X線管11の管電圧を高低の2段階にわたり切り替えることによりX線の線質を硬軟の2段階にわたり変化させる。これに伴いX線管11の管電流も切り替えられるが、この実施形態では切り替えの前後での変化を最小に、好ましくは0とすべく以下の制御を行う。
【0034】
チャネル束ね部41bは、軟X線の照射に際して上記「チャネル束ね」処理を行う。「チャネル束ね」とは、
図2に示す2次元検出器システム13の複数の検出素子を、チャネル方向、列方向に一定の単位で結合することによりDAS14に渡されるデータの解像度を可変する処理である。例えば検出素子が0.5mm間隔で配置されている場合に2チャネルにわたるチャネル束ねを行うと、1mm間隔で配置された素子からの出力と等価な投影データが収集される。すなわち「チャネル束ね」によりチャネル方向、列方向の各実効素子数を可変することができ、狭い領域を高分解能で撮影する場合と広い領域を高感度で撮影する場合の何れにも対応することが可能となる。
【0035】
「チャネル束ね」には検出素子ごとのノイズレベルを平均化するという効果がある。すなわち複数の素子出力を結合することにより素子サイズが大きくなるのと同等のデータが得られ、空間分解能は低下するがノイズに対しては強くなる。この実施形態ではこの効果を利用することにより高kV時と低kV時のmAの差を最小にする。
【0036】
算出部41cは、チャネル束ねの単位を、被検体内のターゲット(対象領域)のサイズ、および軟X線画像の空間分解能に基づいて最適化する。すなわち算出部41cは、軟X線の照射時の管電流を硬X照射時の管電流に近づけることで軟X線画像に生じるノイズ成分を、軟X線画像の空間分解能を下げることにより抑圧するための機能を提供する。この機能はチャネル束ねの単位の最適値を算出することで達成されるもので、算出部41cはそのための演算処理を実行する。
【0037】
なおワークステーション等の外部画像処理装置において、制御部41をはじめとする各処理部の機能を実施する構成であってもよい。この場合、X線CT装置10の本体から、外部画像処理装置に送られるデータは、再構成前でも、再構成後でも、データ処理後の表示直前でも、何れの状態でも本実施形態の効果を妨げるものではない。
【0038】
次に、上記構成における作用を説明する。
図3は、上記構成におけるX線CT装置10における処理手順を示すフローチャートである。この実施形態では硬X線画像(高kVに対応)を診断用の画像として用い、軟X線画像(低kVに対応)はターゲットの物性の特定にのみ用いるものとする。
【0039】
図3においてデュアルエナジースキャンが開始されると、CT画像として診断に必要な硬X線画像に要求されるSD(Standard Deviation:標準偏差)がシステムに与えられる(ステップS1)。このSDに応じて制御部41は、高kVの条件下すなわち硬X線照射時の管電流mAを算出する(ステップS2)。
【0040】
次に、デュアルエナジースキャンにより物質の組成診断を行う予定の対象領域(ターゲット)のサイズ(目標値)がシステムに与えられる(ステップS3)を決める。対象領域のサイズは、被検体に対する事前の検査結果から特定(例えば別のX線画像を用いたオペレータのROI(Region of Interest)設定など)すればよい。または、臨床的に処置が必要となるサイズに設定してもよい。または、各病院におけるガイドラインに基づくサイズに設定しても良いし、あるいは各病院ごとに処置可能な最低限のサイズに設定しても良い。対象領域のサイズが与えられると、制御部41は硬X線画像と対比して使用される軟X線画像の最低限必要な空間分解能を算出する(ステップS4)。この空間分解能は、軟X線画像において上記サイズの物質を最低限特定可能な値に設定される。
【0041】
上記空間分解能に基づいて、制御部41はチャネル束ね処理の単位を決定する(ステップS5)。すなわち制御部41は、上記空間分解能を実現できるDAS14のピッチを求め、そのピッチに応じて2次元検出器システム13の検出素子に対する2次元のチャネル束ねを行う。つまり制御部41は、軟X線画像の空間分解能と、対象領域のサイズとに基づいてチャネル束ねの単位を最適化する。
【0042】
例えば2次元検出器システム13において
図4に示すように検出素子が2次元アレイ状に配列されているとき、2チャネルを単位とするチャネル束ねを行うと、
図5に示す素子配置と等価な状態を得られる。ずなわち
図5の太線に示すように、4つの素子の出力が合成されて素子面積が4倍になった状態と等価な出力が得られる。
【0043】
次に制御部41は、ステップS5で決定されたチャネル束ね処理の単位に基づいて、軟X線撮影時における必要最低限の密度分解能を実現可能な管電流(mA)を決定する(ステップS6)。すなわちステップS4で決定された最低限必要な空間分解能を満たせるまで、チャネル束ねを行い、低いmAでノイズの少ない軟X線画像を得られるようにする。ここで算出された管電流の値は、硬X線撮影時における管電流値と可能な限り近い値が好ましい。両者の差が0であればより好ましい。
【0044】
次にシステムは、上記のように決定した硬X線撮影の条件(管電圧、管電流)と、軟X線撮影の条件(管電圧、管電流、チャネル束ねの単位)とに基づいてデュアルエナジースキャン撮影を行い(ステップS7)、対象領域の組成診断が実施される(ステップS8)。その後、組成がわかった時点で本来どこまでが対象の物質で構成されているか、詳細に領域を判断するために、硬X線画像に対してソフトウェア的な領域識別を行い、最終的な対象物質の領域を決定するようにする。
【0045】
図6は、X線の線質の切り替えにかかる時間とばく射時間とを、管電流が一定の場合と変動する場合とで比較して示すタイミングチャートである。
図6(a)に示すように、硬X線撮影時と軟X線撮影時とで管電流が一定であるほうが、
図6(b)の管電流が変化する場合に比べて明らかに短時間で切替を実現できる。
【0046】
以上説明したようにこの実施形態では、軟X線撮影時に2次元検出器システム13におけるチャネル束ねを行い、軟X線画像の要求画質とターゲットのサイズとに基づきチャネル束ねの単位を最適化することで、硬X線撮影時における管電流と軟X線撮影時における管電流との差を最小限にするようにしている。言い換えれば管電流を可及的に安定化させることが可能になる。これによりデュアルエナジースキャン撮影時に管電流の切り替えにかかる時間を最小にでき、検査時間を短縮することが可能になり、ひいては被ばく量も診断に必要な最小限の量にすることができる。つまり、デュアルエナジースキャンにおいてkV毎のmAの設定を極力近付けることができ、スキャン時間を短くすることができるとともに息止め時間も短縮して患者さんへの負担を軽減することができる。さらに、検査に必要な最低限のmAの設定が可能となるため、検査トータルでの被ばく線量を最低限に抑えることができ、被爆低減につながる。これらのことから、デュアルエナジー型のX線コンピュータ断層撮影装置においてX線ビーム特性の切り替えにかかる時間を短縮することが可能となる。
【0047】
なおこの実施形態に限らず、別の形態も可能である。例えば上記実施形態では硬X線画像を診断用の画像として用い、軟X線画像はターゲットの物性の特定にのみ用いるものとした。これに代えて軟X線画像を診断用の画像とし硬X線画像をターゲットの物性の特定に用いるようにしてもよい。いずれを選択するかは、診断に必要となる画像、画質、トータルの被ばく線量、検査時間のバランスなどにより決定すればよい。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。