【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、曲げ加工は、前述したように所望の曲率・管路形状に柔軟に対応できる利点がある一方で、これを加工事業者側から見ると、限られた台数の加工装置によって様々な加工要求に応えなければならないことを意味する。例えば、減肉率について述べれば、比較的緩やかなものからゼロに近い厳しい減肉率が求められる場合まであり、高精度の曲げ管を製造するには、金属管に付与する圧縮力を正確に制御する必要がある。
【0006】
一方、曲げ管の製造にあたっては、1台の加工装置で径の異なる管、あるいは指定された減肉率が異なる管を次々と加工していくことも多く、生産性の観点から、素材となる直管のセットから加工終了後の管の取り出しまでの作業を効率良く行う必要もある。
【0007】
しかしながら、前記特許文献記載の装置も含め従来、幅広い減肉率や様々な種類の管に高精度に対応可能な、しかも作業性が良好な曲げ加工装置は必ずしも提供されていない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、広範な要求圧縮力(特に減肉率)に高精度に対応可能な、同時に作業性も良好な新たな曲げ加工装置を得る点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し目的を達成するため、本発明に係る金属管の曲げ加工装置は、曲げ加工対象である金属管の一部を環状に加熱する加熱手段と、当該加熱手段に向け前記金属管を管軸方向へ推進させる推進手段と、前記金属管を把持すると共に支軸を中心として回動可能なクランプアームを含み、このクランプアームによって前記加熱手段による金属管の加熱部の前方部分を把持すると共にこの把持点を前記推進手段による金属管の推進に伴い前記支軸を中心として旋回させ、これにより前記金属管に曲げモーメントを加える案内手段と、前記金属管の後部を把持して当該金属管に推進力を伝達する後部クランプを有しかつ前記加熱手段に向け進行可能な移動ベースと、前記推進手段による金属管の推進方向とは反対方向への力である引戻力を、前記支軸を支点として前記クランプアームを介し前記金属管に加えることにより当該金属管に圧縮力を作用させる圧縮手段とを備える金属管の曲げ加工装置であって、前記圧縮手段は、第一圧縮駆動手段と、当該第一圧縮駆動手段より出力の小さい第二圧縮駆動手段と、これら第一圧縮駆動手段と第二圧縮駆動手段とを制御する圧縮制御部とを含み、前記圧縮制御部により前記第一圧縮駆動手段および前記第二圧縮駆動手段のいずれか一方又は双方を使用して前記引戻力を前記金属管に付与可能とした。
【0010】
本発明の曲げ加工装置では、上記加熱手段により金属管の一部を環状に加熱しつつ当該金属管を推進させ、同時に、案内手段によって加熱手段を通過した金属管が弧を描いて湾曲するように案内する。
【0011】
具体的には、金属管の推進方向を「前方」とした場合に(本出願では金属管の推進方向に向かって先方を「前」、その逆である後方を「後」として説明する)、加熱部の前方部分をクランプアームによって把持する。このクランプアーム(以下単に「アーム」と称することがある)は、支軸を中心として回動可能に設置してあり、上記推進手段による金属管の推進に伴って回動する。また、このアームの回動に伴い前記把持部分は当該支軸を中心に旋回し、金属管の前記加熱部に曲げモーメントが加わり、これにより金属管を連続的に塑性変形させて円弧を描くように金属管を曲げることが出来る。なお、金属管の後部は、前記加熱手段に向け進行可能な移動ベースに備えた後部クランプによって把持され、前記推進手段は、この移動ベースを介して金属管を加熱手段に向け押し進める。
【0012】
一方、上記曲げモーメントに加えて管軸方向へ圧縮力を加えることにより、管外周側の減肉(肉厚の減少)を防ぐ。この圧縮力は、前記圧縮手段によって管の推進方向とは反対方向への力である引戻力を、上記支軸を支点としてクランプアームを介して金属管に加えることにより生じさせる。この圧縮手段は、出力の大きい第一圧縮駆動手段と、出力の小さい第二圧縮駆動手段とを含み、前記圧縮制御部によってこれら第一圧縮駆動手段および第二圧縮駆動手段を制御し、第一圧縮駆動手段および第二圧縮駆動手段のいずれか一方又は双方を使用して前記引戻力を前記金属管に付与する。
【0013】
本発明においてこのように出力の異なる第一圧縮駆動手段と第二圧縮駆動手段を備えてこれらを選択的に使用するのは、要求される減肉率や加工対象の管径・肉厚寸法など(即ち必要な圧縮力)に応じて圧縮駆動手段を使い分け、より精度の高い圧縮力を金属管に付与するためである。
【0014】
例えば、要求される減肉率が小さく、大きな圧縮力が必要な場合には、出力の大きい第一圧縮駆動手段を使用することにより(或いは第一圧縮駆動手段と第二圧縮駆動手段の両方を使用しても良い)、曲げ加工を行う。また、これら第一圧縮駆動手段および第二圧縮駆動手段には後に述べるように典型的な態様として油圧シリンダを使用するが、油圧シリンダのようなアクチュエータを含め駆動装置(後述の比例リリーフ弁についても同様)は、一般に定格(最大出力)に対して非常に小さい出力領域では精度が落ちる(例えば線形性が崩れ正確な出力を得にくい)特性がある。したがって、例えば厳しい減肉率が要求されない場合のように小さな圧縮力しか必要ない場合には、大出力の圧縮駆動手段より小出力の圧縮駆動手段を使用したほうがより正確な圧縮力を付与する点で好ましい。この観点から、本発明では、出力の大きい前記第一駆動手段のほかに出力の小さい第二圧縮駆動手段を備え、小さな圧縮力が必要な場合にはこの第二圧縮駆動手段により金属管に圧縮力をかけることを可能とした。
【0015】
典型的な例として、前記第一圧縮駆動手段および第二圧縮駆動手段は共に、油圧シリンダにより構成する。すなわち、第一圧縮駆動手段として第一油圧シリンダを、第二圧縮駆動手段として第二油圧シリンダをそれぞれ備える。またこの場合、圧縮制御部は、設定可能な最大圧力が異なる2つの比例リリーフ弁を、すなわち、設定可能な最大圧力が大きな第一比例リリーフ弁と、設定可能な最大圧力が当該第一比例リリーフ弁より小さな第二比例リリーフ弁とを含み、これら第一比例リリーフ弁および第二比例リリーフ弁のいずれか一方を介して前記第一油圧シリンダおよび前記第二油圧シリンダのいずれか一方又は双方に作動油を供給して前記引戻力を金属管に付与するよう構成する。
【0016】
これは、前記大小2つの油圧シリンダを備えたのと同じ理由によるもので、比例リリーフ弁についても一般に、設定可能な圧力範囲の低圧力側より高圧力側(最大圧力に近い圧力値)のほうが設定圧力の精度が高いからである。したがって本発明の一態様では、最大圧力が異なる大小2つの比例リリーフ弁を備え、大きな圧縮力が必要な場合には最大圧力が大きい第一比例リリーフ弁を使用する一方、小さな圧縮力しか必要ない場合には最大圧力が小さい第二比例リリーフ弁を使用することで、より正確な圧縮力を付与することを可能とする。
【0017】
また、第一圧縮駆動手段および第二圧縮駆動手段として油圧シリンダを使用する場合には、前記圧縮制御部は、これらの油圧シリンダに作動油を供給する油圧回路を構成することになるが、この油圧回路には、上記第一および第二比例リリーフ弁のほか、油圧ポンプや油タンク、更には、使用するリリーフ弁を上記第一比例リリーフ弁と第二比例リリーフ弁との間で切り換えるための切換弁や、使用するシリンダを選択する切換弁が含まれる。
【0018】
また、本発明の装置では、前記支軸が鉛直方向に延在し、前記クランプアームは、金属管の推進に伴い水平に旋回して当該金属管を案内し、平面から見たときに金属管を挟んで一方の側に前記支軸と前記第二圧縮駆動手段とを配置し、平面から見たときに金属管を挟んで他方の側でかつ金属管より下方に前記第一圧縮駆動手段を配置することが好ましい。また、このような装置において更に好ましくは、前記クランプアームに固定され当該クランプアームと共に回動する第一案内輪および第二案内輪と、前記第一油圧シリンダから出力される力を前記第一案内輪に伝達する第一連結部材と、前記第二油圧シリンダから出力される力を前記第二案内輪に伝達する第二連結部材とを前記圧縮手段が備える。
【0019】
曲げ加工後に金属管を装置から取り出すには通常、金属管にワイヤロープをかけ吊り上げて行うが、上記のように他方の側(平面から見て金属管を挟んで支軸とは反対側)に配置する第一圧縮駆動手段を金属管より下方に設置すれば、この第一圧縮駆動手段や第一案内輪、第一連結部材が金属管の取出し作業の邪魔になることを防ぐことが出来るからである。なお、この点については、
図4を参照して後に更に述べる。
【0020】
また、このような第一圧縮駆動手段(並びに第一案内輪及び第一連結部材)の配置構成によれば、当該第一圧縮駆動手段が金属管の取出し作業の邪魔にならないから、第一案内輪の径を大きくする(例えば第一案内輪の径を、クランプアームによる金属管の把持点と支軸との距離より大きくする)ことができ、これにより第一圧縮駆動手段によってより大きな圧縮力を金属管に加え、曲げ加工時の減肉量を小さく抑えることが可能となる。
【0021】
また同様に金属管の取出しを容易にする観点から、前記推進手段は、上記一方の側(平面から見て金属管を挟んで支軸と同じ側)に、すなわち金属管より支軸寄りに配置することが好ましい。
【0022】
さらに本発明の装置では、クランプアームは、金属管を把持するクランプ部を鉛直方向の中間部に備え、当該クランプ部より上部ならびに下部の各位置において前記支軸により当該クランプアームを回動可能に支持し、前記クランプ部より下部位置に前記第一案内輪を固定し、前記クランプ部より上部位置に前記第二案内輪を固定することが好ましい。
【0023】
金属管の前方部を把持して金属管に曲げモーメントを加えるクランプアームは、加工中前記推進手段による推進力を受けるが、この推進力は管の径や肉厚寸法・材料等にもよるが数百トンになることもある。一方、クランプアームとこれが固定される装置本体との間には、ベアリング等の可動部が介在し、またアーム自体の撓りもあるから、これら可動部に含まれる隙間(遊び)やアームの撓りが積み重なって、推進力を受けたときにクランプアームが傾いてしまう現象が生じる(以下これをアームの「倒れ」と言う)。
【0024】
このアームの倒れは、加工誤差の原因となり、高精度の曲げ加工を妨げる。一方、このようなアームの倒れを予め織り込んだ段取り(加工装置のセッティング)を行うことも考えられるが、実際の作業にあたっては、管径の異なる様々な管を次々と加工していくことも少なくなく、加工すべき管を取り換えるたびごとに、あるいは指定された減肉率が変わるたびに装置の設定を逐一変更していくことは煩雑で生産性を低下させる。
【0025】
そこで、本発明では、好ましい態様として上記のように金属管を把持するクランプ部の上下でクランプアームを支軸により支持するとともに、上部位置に前記第二案内輪を固定する。この第二案内輪は、前記第二圧縮駆動手段による圧縮力(引戻力)を受けるものであり、当該第二圧縮駆動手段を使用すれば、推進力とは逆方向の引戻力をアームの上部にかけることができ、金属管に圧縮力をかけると同時にアームを引き起こし(後述の
図2の矢印Eを参照)、アームの倒れを防止ないし軽減することが出来る。
【0026】
なお、上記第二案内輪は、その径を前記支軸から金属管までの距離より小さくし、当該第二案内輪および前記第二連結部材が前記一方の側(金属管より支軸に近い側)に納まるように配置することが、金属管の取出し作業の邪魔になることを防ぐ点から好ましい。