(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0031】
まず、本発明の各実施例について説明する前に、蛍光LSMの結像特性について説明する。
蛍光LSMの結像式は、式(1)、(2)で表される。
【数1】
【0032】
ここで、PSF
LSM、MTF
LSMは、それぞれ蛍光LSMの結像特性を示す点像分布関数(PSF:Point Spread Function)、及びそのフーリエ変換である変調伝達関数(MTF: Modulation Transfer Function)である。PSF
ex、MTF
exは、それぞれ標本上での励起光スポットの点像分布関数、及びそのフーリエ変換である変調伝達関数であり、励起光が標本面に集光する際の集光特性を示す。PSF
em、MTF
emは、それぞれ標本面上での検出波長における点像分布関数、及びそのフーリエ変換である変調伝達関数であり、標本面から生じた蛍光が像面(共焦点面)に結像する際の結像特性を示す。PH、~PHは、それぞれ共焦点絞りの透過関数を標本へ投影した関数、それをフーリエ変換した関数である。なお、rは、光軸からの距離であり、標本位置の空間座標を示す。fは、rの空間周波数である。
【0033】
また、点像分布関数PSF
ex、PSF
em、変調伝達関数MTF
ex、MTF
em、関数PH、~PHは、近似的にそれぞれ式(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)で表される。なお、式(7)、(8)は、共焦点絞りの開口がピンホール形状(円形)である場合に適用される式である。
【数2】
【0034】
ここで、f
c,ex、f
c,emは、それぞれ標本上における励起波長λ
exの励起光の空間強度分布のカットオフ周波数(空間周波数の上限)、標本面上における検出波長λ
emの蛍光の空間強度分布のカットオフ周波数(空間周波数の上限)であり、式(9)、(10)で表される。NA、d
PH、M
obは、それぞれ対物レンズの標本側の開口数、共焦点絞りの開口径、標本面から共焦点絞りまでの投影倍率である。また、Jinc関数、chinesehat関数は、それぞれ式(11)、(12)で表される関数である。J
1は、第1種Bessel関数である。
【数3】
【0035】
図1は、蛍光LSMの点像分布関数を例示した図であり、点像分布関数PSF
emと共焦点絞りの設定が異なる複数の点像分布関数PSF
LSMとを示している。
図1の横軸は、点像分布関数PSF
emの半値全幅(FWHM:Full Width Half Maximum)で正規化された光軸からの距離r/FWHM_PSF
em(r)である。
図2は、蛍光LSMの変調伝達関数を例示した図であり、変調伝達関数MTF
emと共焦点絞りの設定が異なる複数の変調伝達関数MTF
LSMとを示している。
図2の横軸は、カットオフ周波数f
c,emで正規化された空間周波数f/f
c,emである。なお、
図1及び
図2では、共焦点絞りの設定として、蛍光が共焦点絞り上に形成するエアリーディスク径に対する共焦点絞りの開口径の比αが0、0.5、1となる場合が例示されている。
図3は、点像分布関数の半値全幅と検出効率について、蛍光LSMと広視野蛍光顕微鏡を比較した図である。横軸は、上述したエアリーディスク径に対する共焦点絞りの開口径の比αであり、縦軸は、広視野蛍光顕微鏡を基準とした蛍光LSMの点像分布関数の半値全幅または検出効率である。なお、ここで、広視野蛍光顕微鏡とは、標本面を均一に照明する蛍光顕微鏡であり、非共焦点顕微鏡である。
【0036】
蛍光LSMの結像特性は、式(1)、(2)に示されるように、蛍光LSMが励起光、蛍光のそれぞれに対して行う変調に依存している。また、蛍光に対する変調には、光学系による変調のみならず、共焦点絞りよる変調も含まれる。これに対して、広視野蛍光顕微鏡の結像特性は、蛍光に対する光学系による変調により定まる。これは、広視野蛍光顕微鏡では、励起光に対する光学系による変調(励起光の標本面への集光)や蛍光に対する共焦点絞りによる変調は行われないためである。つまり、
図1、
図2に例示される点像分布関数PSF
em、変調伝達関数MTF
emは、それぞれ広視野蛍光顕微鏡の点像分布関数、変調伝達関数に相当する。
【0037】
図1に示されるように、点像分布関数PSF
LSMは点像分布関数PSF
emに比べて光軸(r/FWHM_PSF
em(r)=0)に近い位置により多くの光が分布する特性を有している。また、
図2に示されるように、変調伝達関数MTF
LSMは変調伝達関数MTF
emに比べてより広い空間周波数まで分布している。これらは、蛍光LSMは広視野蛍光顕微鏡よりも高い結像性能を有し、より高い周波数成分まで検出することができることを示している。また、
図1及び
図2に示されるように、蛍光LSMは、比αを小さく設定するほどより高い周波数成分まで検出することができる。
【0038】
その一方で、
図2に示されるように、比αが1の状態の蛍光LSMでは、広視野蛍光顕微鏡のカットオフ周波数を上回る超解像成分は、極わずかしか伝達されない。また、超解像成分をより効率的に伝達するために比αを小さくすると、
図3に示されるように、点像分布関数の半値全幅の減少に対して検出効率が著しく低下する。このため、生成される画像データは標本の画像を非常に暗く表示するものとなってしまう。従って、いずれにしても、検出された超解像成分を画面上で視認することはほとんどできず、超解像成分は可視化されない。
【0039】
このように、従来の蛍光LSMは、超解像成分を検出し得るが、超解像成分を可視化するには至っていない。
以下、本発明の各実施例について具体的に説明する。
【実施例1】
【0040】
図4は、本実施例に係る蛍光LSMの構成を例示した図である。
図4に例示される蛍光LSM10は、超解像成分が可視化された超解像画像を生成する標本観察装置である。蛍光LSM10は、励起光2を射出するレーザ光源11と、励起光2を透過し標本1からの蛍光3を反射するダイクロイックミラー12と、標本1を走査するガルバノミラー13と、変調制御信号に基づいてガルバノミラー13を駆動するガルバノミラー駆動装置14と、励起光2を標本1に集光させる対物レンズ15と、レンズ16と、対物レンズ15による励起光2の集光位置と光学的に共役な位置にピンホール(開口)が形成された共焦点絞り17と、レンズ18と、蛍光3を検出して検出信号を生成するPMT検出器19と、変調制御信号と検出信号から標本1の画像データを生成するPC20と、標本1の画像データを記憶する記憶装置21と、標本1の画像データを表示するモニタ22と、を含んでいる。
【0041】
本実施例に係る蛍光LSM10では、レーザ光源11から射出された励起光2は、ダイクロイックミラー12を透過して、ガルバノミラー13を介して対物レンズ15に入射する。そして、対物レンズ15が励起光2を標本1上に集光することで、励起光2が標本1に照射される。即ち、蛍光LSM10では、レーザ光源11、ダイクロイックミラー12、ガルバノミラー13、及び対物レンズ15は、励起光2を標本1に照射する励起光照射手段であり、対物レンズ15は、励起光2を標本1上に集光させる集光手段である。なお、集光手段として機能する対物レンズ15は、標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数を高める効果を有している。
【0042】
また、励起光2の集光位置は、PC20からの変調制御信号に基づいて、ガルバノミラー駆動装置14がガルバノミラー13を駆動することにより、光軸と直交するXY平面上で移動する。即ち、蛍光LSM10では、ガルバノミラー13は、標本1上における励起光2の空間強度分布を変調する励起光変調手段であり、対物レンズ15により集光された励起光2の集光位置を移動させて標本1を走査する走査手段である。また、ガルバノミラー駆動装置14は、PC20からの変調制御信号に基づいて励起光変調手段を制御する励起光変調制御手段である。
【0043】
励起光2が照射された標本1では、集光位置に存在する蛍光物質が励起されて、標本1における励起光2の照射強度に線形に依存する光量の蛍光3を発光する。蛍光3は、励起光2と同じ経路を反対方向に進行して、ダイクロイックミラー12に入射する。ダイクロイックミラー12を反射した蛍光3は、レンズ16により集光されて共焦点絞り17に入射する。
【0044】
共焦点絞り17では、集光位置以外から生じた蛍光は遮断され、集光位置から生じた蛍光3が開口を通過する。なお、共焦点絞り17は、その共焦点効果により、標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数よりも高い周波数成分の検出に寄与する。
【0045】
その後、蛍光3は、レンズ18を介してPMT検出器19に入射して検出される。PMT検出器19は、検出した蛍光3の光量に応じた検出信号を生成してPC20へ送信する。即ち、蛍光LSM10では、PMT検出器19は、励起光2の照射により生じる標本1からの蛍光3を検出して検出信号を生成する光検出手段である。
【0046】
PC20は、生成する画像データのナイキスト周波数が標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数よりも大きくなるように変調制御信号を生成し、且つ、生成した画像データに含まれる標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数を上回る高周波成分を強調する画像処理を行う。即ち、蛍光LSM10では、PC20は、標本1の画像データを生成する画像生成手段であるとともに、変調制御信号を生成する変調制御信号生成手段であり、また、画像データの高周波成分を強調する画像処理手段である。なお、ナイキスト周波数とカットオフ周波数の比較は、標本1と像面の間の投影倍率を考慮して行われる。具体的には、ナイキスト周波数とカットオフ周波数の一方を投影倍率で補正することに得られる換算量と他方とを比較する。
【0047】
図5は、蛍光LSM10で実行される超解像画像生成処理のフローを示す図である。以下、蛍光LSM10による超解像画像の生成方法について、
図5を参照しながら、具体的に説明する。
【0048】
超解像画像生成処理が開始されると、まず、ステップS1では、利用者が観察に使用する励起波長λ
ex、蛍光波長(検出波長)λ
emを選択することで、励起波長λ
ex及び蛍光波長λ
emがLSM10に設定される。例えば、レーザ光源11がArレーザであり、標本1中の蛍光物質が強化緑色蛍光タンパク質(EGFP:Enhanced Green Fluorescence Protein)であれば、ステップS1では、励起波長、蛍光波長は、それぞれλ
ex=488nm、λ
em=508nmに設定される。
【0049】
ステップS2では、利用者が対物レンズ15を選択する。例えば、レンズ16と組み合わせて100倍の倍率を有し、且つ、開口数が1.4である対物レンズが選択されて、蛍光LSM10にM
ob=100、NA=1.4が設定される。
【0050】
ステップS3では、標本1上における励起波長λ
exの励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数f
c,exと、標本1上における検出波長λ
emの蛍光3の空間強度分布のカットオフ周波数f
c,emとを算出する。ここでは、式(9)、(10)により、それぞれf
c,ex=5.7μm
−1、f
c,em=5.5μm
−1と算出される。
なお、式(9)で示されるように、標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数
fc,exは、励起光2の波長λ
exと対物レンズ15の射出側(標本1側)の開口数NAから算出される回折限界により定まる。
【0051】
ステップS4では、蛍光LSM10で生成される画像データのナイキスト周波数を設定する。画像データのナイキスト周波数f
Nyquistは、超解像成分を記録するために、標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数f
c,exよりも大きくなるように設定する。ここでは、例えば、下式(13)により算出した画像データのナイキスト周波数f
Nyquist=11.2μm
−1を設定する。
【数4】
【0052】
これにより、標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数f
c,exの2倍程度までの周波数成分を記録することができる。
なお、ここでは、式(13)を用いて算出したナイキスト周波数f
Nyquistを設定したが、画像データのナイキスト周波数f
Nyquistとカットオフ周波数f
c,exとの関係は、この関係に限られない。高い超解像性能を実現するためには、ナイキスト周波数f
Nyquistは、カットオフ周波数f
c,exの約1.5倍以上であることが望ましい。一方で、ナイキスト周波数f
Nyquistが高すぎると、その周波数を実現するために光量低下やノイズ増大が生じうる。これを避けるためには、ナイキスト周波数f
Nyquistは、カットオフ周波数f
c,exの約4倍以下であることが望ましい。
【0053】
ステップS5では、ガルバノミラー13による標本1の走査のサンプリング間隔を設定する。サンプリング間隔d
pixには、ステップS4で設定されたナイキスト周波数f
Nyquistに応じた値が設定される。これは、画像データのナイキスト周波数f
Nyquistがガルバノミラー13による標本1の走査のサンプリング間隔により定まるからである。具体的には、サンプリング間隔d
pixは、ナイキスト周波数f
Nyquistがサンプリング周波数(f
pix=1/d
pix)の1/2となるように、下式(14)により算出された値に設定される。ここでは、サンプリング間隔d
pixは0.044μmに設定される。
【数5】
【0054】
これにより、変調制御信号生成手段であるPC20では、式(14)で算出されたサンプリング間隔d
pixで標本1を走査する変調制御信号が生成される。
【0055】
ステップS6では、共焦点絞り17のピンホール径d
PHを設定する。ピンホール径d
PHは、超解像成分、つまり、標本上における励起光の空間強度分布のカットオフ周波数f
c,exを上回る周波数成分を高いコントラストで記録するために、レイリー径以下に設定することが望ましい。
【0056】
具体的には、下式(15)により、標本1上での蛍光スポットのエアリーディスク径d
emを算出する。ここでは、エアリーディスク径d
emは、0.44μmと算出される。そして、算出されたエアリーディスク径d
emを用いて、下式(16)により、ピンホール径d
PHを算出する。式(16)において、比αに1以下の値を用いることで、ピンホール径d
PHをレイリー径以下とすることができる。ここでは、例えば、比α=0.5とする。
【数6】
【0057】
なお、比αの値が大きくなるほど、後述するコンボリューションフィルタによる強調処理による超解像周波数領域(超解像成分)の増強度を大きくする必要がある。このため、比αの値が大きすぎると、超解像画像中のノイズが目立ちやすくなってしまう。一方、比αの値が小さくなるほど、検出効率が低下し生成される画像データのS/N比も低下する。このため、比αの値が小さすぎる場合にも、超解像画像中のノイズが目立ちやすくなってしまう。従って、比αは、これらを勘案して最適な値に設定することが望ましい。
【0058】
ステップS7では、PC20での高周波成分の強調に用いられるデジタルコンボリューションフィルタCFを設定する。コンボリューションフィルタについては、
図6、
図7を参照しながら説明する。
図6は、
図5に示されるコンボリューションフィルタの設定処理(ステップS7)のフローを示す図である。
図7は、
図5に示されるコンボリューションフィルタの設定処理を説明するための図である。
【0059】
まず、ステップS8で、式(1)により、蛍光LSMで実際に得られる点像分布関数PSF
LSMを算出する(
図7の破線を参照)。
図7に例示されるように、実際に得られる点像分布関数PSF
LSMは、広視野蛍光顕微鏡に相当する点像分布関数PSF
emに比べて、高い結像性能を示している。
【0060】
ステップS9では、コンボリューションフィルタCFによる強調処理後に得られる、目標とする点像分布関数PSF
DSTを設定する(
図7の一点鎖線を参照)。目標とする点像分布関数PSF
DSTは、例えば、そのカットオフ周波数f
DSTが下式(17)を満たすような、仮想的な点像分布関数を設定する。
【数7】
【0061】
なお、カットオフ周波数f
DSTが大きくなるほど、コンボリューションフィルタCFを用いた強調処理による超解像周波数領域(超解像成分)の増強度を大きくする必要がある。このため、カットオフ周波数f
DSTが大きすぎると、超解像画像中のノイズが目立ちやすくなってしまう。従って、カットオフ周波数f
DSTは、この点を勘案して最適な値に設定することが望ましい。
【0062】
次に、ステップS10では、コンボリューションフィルタCFのサイズN
cを設定する。ここでは、例えば、N
c=7とする。なお、コンボリューションフィルタCFのサイズN
cが大きくなると、計算コスト(計算時間や使用メモリ容量など)も大きくなる。従って、サイズN
cは、超解像画像の超解像性と計算コストとを勘案して、最適なサイズを設定することが望ましい。
【0063】
最後に、ステップS11では、コンボリューションフィルタCFの係数を設定する。コンボリューションフィルタCFの係数は、下式(18)を満たすように、最小二乗法を用いた数値計算により算出して設定する。
【数8】
【0064】
以下は、比α=0.5の場合のコンボリューションフィルタCFの係数の算出結果の一例である。
【数9】
【0065】
このようにして算出されたコンボリューションフィルタCFを用いて画像データに対して強調処理(コンボリューション演算)を行うことで、
図7に例示されるように、目標とする点像分布関数PSF
DSTに近似した点像分布関数PSF
rを有する超解像画像の画像データを得ることができる(
図7の実線を参照)。なお、算出されるコンボリューションフィルタCFの係数は、比αにより、つまり、ピンホール径の設定により異なる。
【0066】
図8は本実施例に係る蛍光LSM10で強調処理前後の点像分布関数PSF
LSMとPSF
rのFWHMを比較した図である。横軸は、上述したエアリーディスク径に対する共焦点絞りの開口径の比αであり、縦軸は、広視野蛍光顕微鏡を基準とした点像分布関数の半値全幅の比である。本実施例に係る蛍光LSM10で強調処理後に得られる点像分布関数PSF
LSMのFWHMは、比α<1.2において、広視野蛍光顕微鏡の点像分布関数のFWHMに対して、0.5倍から0.8倍程度となる。つまり、本実施例に係る蛍光LSM10は、比α<1.2において、広視野蛍光顕微鏡に対して、1.6倍から2倍程度の超解像性を有している。従って、蛍光LSM10は、比αを過度に小さくして検出効率を低下させることなく、高い超解像性を実現することができる。
【0067】
また、コンボリューションフィルタCFの係数は、励起光2の波長や蛍光3の波長に応じて調整してもよい。また、コンボリューションフィルタCFの係数は、対物レンズ15の射出側の開口数に応じて調整してもよい。また、コンボリューションフィルタCFの係数は、標本1の光学像が共焦点絞り17に投影される倍率に応じて調整されてもよい。さらに、コンボリューションフィルタCFの係数は、画像データのナイキスト周波数f
Nyquistに応じて調整されてもよい。これにより、コンボリューションフィルタCFの係数を、蛍光LSM10の励起光2の波長、蛍光3の波長、開口数、倍率、ナイキスト周波数に最適化することができる。
【0068】
また、コンボリューションフィルタCFは、画像処理の分野で広く使用されているLoG(Laplacian of Gaussian)タイプのフィルタであってもよい。これにより、超解像画像のノイズを効果的に抑制することができる。また、本実施例で例示されるように、対物レンズ15の開口数が0.5を超えるような場合には、計算精度を向上させるために、ベクトル回折理論を採用して点像分布関数を算出してもよい。
【0069】
コンボリューションフィルタCFの設定を含む各種設定が完了すると、
図5に示されるように、ステップS12では、蛍光LSM10による画像取得処理が行われる。このとき、ガルバノミラー13による標本1の走査は、ステップS5で設定されたサンプリング間隔d
pixで行われる。これにより、標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数f
c,exよりも大きい超解像成分を含む画像データがPC20で生成される。
【0070】
ステップS13では、PC20が、生成された画像データに対して、ステップS7で設定したコンボリューションフィルタCFを使用したコンボリューション演算により強調処理を行う。これにより、標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数f
c,exよりも大きい超解像成分が強調された超解像画像の画像データがPC20で生成される。
【0071】
ステップS13で生成された超解像画像の画像データは、ステップS14でモニタ22に表示される。ステップS15では、画像取得を継続するか否かが判断されて、継続する場合には、ステップS12に戻って同様の処理を繰り返す。これにより、モニタ22に超解像画像が動画表示される。
【0072】
画像取得が終了すると、ステップS16で生成した超解像画像の画像データを記憶装置21に記憶して、その後、処理を終了する。
【0073】
以上、本実施例に係る蛍光LSM10によれば、超解像成分が可視化された超解像画像を生成することができる。具体的には、蛍光LSM10では、従来は可視化されていなかった超解像成分を強調処理することにより、超解像成分を可視化することができる。また、強調処理が行われるため、
図8に示されるように、共焦点絞り17のピンホール径(開口径)をレイリー径程度に広げても高い超解像性を発揮することができる。このため、蛍光LSM10では、高い光の利用効率と超解像性能を両立することができる。また、既知の光学系の特性から超解像画像の生成に適したピンホール径(開口径)やサンプリング間隔を算出することができるため、蛍光LSM10では、事前に画像を取得して設定を調整するなどの作業が不要であり、開口径やサンプリング間隔の設定を自動化することができる。さらに、強調処理が簡単な行列のコンボリューション演算であるため、強調処理を短時間で行うことができる。即ち、PC20は、画像データの生成に合わせて強調処理を実時間処理することが可能であり、蛍光LSM10では、画像取得後、超解像画像をほぼリアルタイムでモニタ22に表示することができる。
なお、式(1)から分かるように、標本面上での検出波長における点像分布関数PSF
emとピンホールの透過関数PHのコンボリューションの範囲外に分布する励起光はLSMの結像に寄与しない。従って、励起光が必ずしも全て1点に集光する必要性は無い。
【実施例2】
【0074】
図9は、本実施例に係る2光子励起顕微鏡の構成を例示した図である。
図9に例示される2光子励起顕微鏡30は、実施例1に係る蛍光LSM10と同様に、超解像成分が可視化された超解像画像を生成する標本観察装置である。2光子励起顕微鏡30は、励起光2である超短パルスレーザ光を射出する超短パルスレーザ光源31と、標本1を走査するガルバノミラー32と、変調制御信号に基づいてガルバノミラー32を駆動するガルバノミラー駆動装置33と、励起光2を透過し標本1からの2光子蛍光4を反射するダイクロイックミラー34と、励起光2を標本1に集光させる対物レンズ35と、標本1から生じる2光子蛍光4(多光子励起蛍光)を検出して検出信号を生成するPMT検出器36と、変調制御信号と検出信号から標本1の画像データを生成するPC37と、標本1の画像データを記憶する記憶装置38と、標本1の画像データを表示するモニタ39と、を含んでいる。
【0075】
2光子励起顕微鏡30は、蛍光LSM10と異なり、2光子励起により共焦点効果を生じさせることができる。このため、蛍光(2光子蛍光4)をPMT検出器36へ導く構成が蛍光LSM10と異なっており、その結果、結像式も蛍光LSM10と異なっている。具体的には、2光子励起顕微鏡30の結像式は式(20)、(21)で表される。
【数10】
【0076】
ここで、PSF
2p、MTF
2pは、それぞれ2光子励起顕微鏡30の結像特性を示す点像分布関数、変調伝達関数である。PSF
ex、MTF
exは、それぞれ標本1上での励起光スポットの点像分布関数及びそのフーリエ変換である変調伝達関数であり、励起光が標本面に集光する際の集光特性を示す。rは、光軸からの距離であり、標本位置の空間座標を示す。fは、rの空間周波数である。なお、PSF
ex、MTF
exは、上述した式(3)、(5)により表される。
【0077】
式(20)、(21)に示されるように、2光子励起顕微鏡30の結像特性は、励起光が標本面に集光する際の集光特性である点像分布関数PSF
ex、変調伝達関数MTF
exに依存するが、検出波長(蛍光波長)における点像分布関数PSF
em、変調伝達関数MTF
emには依存しない点が、実施例1に係る蛍光LSM10の結像特性と異なっている。
【0078】
2光子励起顕微鏡30は、PC37が生成する画像データのナイキスト周波数が標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数よりも大きくなるように変調制御信号を生成し、且つ、生成した画像データに含まれる標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数を上回る高周波成分を強調する画像処理を行う点については、蛍光LSM10と同様である。即ち、2光子励起顕微鏡30でも、蛍光LSM10と同様に、PC37は、標本1の画像データを生成する画像生成手段であるとともに、変調制御信号を生成する変調制御信号生成手段であり、また、高周波成分を強調する画像処理手段である。なお、ナイキスト周波数とカットオフ周波数の比較は、実施例1と同様に、標本1と像面の間の投影倍率を考慮して行われる。具体的には、ナイキスト周波数とカットオフ周波数の一方を投影倍率で補正することに得られる換算量と他方とを比較する。
【0079】
図10は、本実施例に係る2光子励起顕微鏡で実行される超解像画像生成処理のフローを示す図である。以下、2光子励起顕微鏡30による超解像画像の生成方法について、
図10を参照しながら、具体的に説明する。
【0080】
超解像画像生成処理が開始されると、まず、ステップS21では、利用者が観察に使用する励起波長λ
exを選択することで、励起波長λ
exが2光子励起顕微鏡30に設定される。例えば、超短パルスレーザ光源31がチタンサファイアレーザ(Ti:Sapphire Laser)であり、ステップS21では、励起波長は、λ
ex=900nmに設定される。
【0081】
ステップS22では、利用者が対物レンズ35を選択する。例えば、25倍の倍率を有し、且つ、開口数が1.05である対物レンズが選択されて、2光子励起顕微鏡30にM
ob=25、NA=1.05が設定される。
【0082】
ステップS23では、標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数f
c,exを算出する。ここでは、式(9)により、f
c,ex=2.3μm
−1と算出される。
【0083】
ステップS24では、2光子励起顕微鏡30で生成される画像データのナイキスト周波数を設定する。画像データのナイキスト周波数f
Nyquistは、超解像成分を記録するために、標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数f
c,exよりも大きくなるように設定する。ここでは、例えば、下式(22)により算出した画像データのナイキスト周波数f
Nyquist=4.6μm
−1を設定する。
【数11】
【0084】
これにより、標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数f
c,exの2倍程度までの周波数成分を記録することができる。
なお、ナイキスト周波数f
Nyquistは、実施例1と同様の理由により、カットオフ周波数f
c,exの約1.5倍以上であり、且つ、約4倍以下であることが望ましい。従って、画像データのナイキスト周波数f
Nyquistとカットオフ周波数f
c,exとの関係は、式(22)の関係に限られない。
【0085】
ステップS25では、ステップS24で設定されたナイキスト周波数f
Nyquistに応じて、ガルバノミラー32による標本1の走査のサンプリング間隔を設定する。具体的には、サンプリング間隔d
pixは、ナイキスト周波数f
Nyquistがサンプリング周波数(f
pix=1/d
pix)の1/2となるように、上述した式(14)により算出された値に設定される。ここでは、サンプリング間隔d
pixは0.11μmに設定される。
【0086】
ステップS26では、PC37での高周波強調処理に用いられるコンボリューションフィルタCFの設定を設定する。具体的な設定手順は、実施例1に係る蛍光LSM10と同様である。ただし、2光子励起顕微鏡30では、下式(23)、(24)で表される点像分布関数PSF
DST、変調伝達関数MTF
DSTを目標として設定し、下式(25)を満たすようにコンボリューションフィルタCFを算出して設定する点が、実施例1に係る蛍光LSM10と異なっている。即ち、2光子励起顕微鏡30では、目標とする点像分布関数PSF
DSTには、2光子蛍光像とカットオフ周波数が等しい広視野蛍光像の点像分布関数を設定する。
【数12】
【0087】
なお、
図11は、2光子励起顕微鏡30の強調処理前の点像分布関数PSF
2pと強調処理後の目標とする点像分布関数PSF
DSTを比較した図であり、点像分布関数PSF
2p、PSF
DSTは、それぞれ点線、破線で示されている。また、
図12は、2光子励起顕微鏡30の強調処理前の変調伝達関数MTF
2pと強調処理後の目標とする変調伝達関数MTF
DSTを比較した図であり、変調伝達関数MTF
2p、MTF
DSTは、それぞれ点線、破線で示されている。
【0088】
以下は、コンボリューションフィルタCFの係数の算出結果の一例である。
【数13】
【0089】
このようにして算出されたコンボリューションフィルタCFを用いて画像データに対して強調処理を行うことで、
図11に例示されるように、目標とする点像分布関数PSF
DSTに近似した点像分布関数PSF
rを有する超解像画像の画像データを得ることができる(
図11の実線を参照)。
【0090】
コンボリューションフィルタCFの設定を含む各種設定が完了すると、2光子励起顕微鏡30による画像取得処理が行われ(ステップS27)、取得された画像データに対するコンボリューションフィルタCFを使用した強調処理が行われ(ステップS28)、コンボリューション処理により生成された超解像画像がモニタに表示される(ステップS29)。そして、画像取得が終了するまでこれらの処理(ステップS27からステップS29)が繰り返し行われる(ステップS30)ことで、超解像画像の動画表示が行われる。画像取得が終了すると、超解像画像の画像データを記憶装置21に記憶して、処理を終了する(ステップS31)。
【0091】
以上、本実施例に係る2光子励起顕微鏡30によっても、超解像成分が可視化された超解像画像を生成することが可能であり、実施例1に係る蛍光LSM10と同様の効果を得ることができる。
【0092】
なお、実施例2では、標本観察装置として2光子励起顕微鏡30を例示したが、その他の多光子励起顕微鏡についても、
図10に例示したフローと同様の超解像画像生成処理により超解像画像を生成することができる。
【実施例3】
【0093】
図13は、本実施例に係る第2高調波(SHG:Second Harmonic Generation)顕微鏡の構成を例示した図である。
図13に例示されるSHG顕微鏡40は、実施例1に係る蛍光LSM10と同様に、超解像成分が可視化された超解像画像を生成する標本観察装置である。SHG顕微鏡40は、励起光2である超短パルスレーザ光を射出する超短パルスレーザ光源41と、標本1を走査するガルバノミラー42と、変調制御信号に基づいてガルバノミラー42を駆動するガルバノミラー駆動装置43と、励起光2を標本1に集光させる対物レンズ44と、標本1から発生するSHG光5を集光するレンズ45と、標本1を透過した励起光2を遮断するバリアフィルタ46と、標本1から発生するSHG光5(高次高調波)を検出して検出信号を生成するPMT検出器47と、変調制御信号と検出信号から標本1の画像データを生成するPC48と、標本1の画像データを記憶する記憶装置49と、標本1の画像データを表示するモニタ50と、を含んでいる。なお、SHG顕微鏡40で検出するSHG光5は、蛍光と異なりコヒーレント光であるため、PMT検出器47は透過光路上に配置される。
【0094】
SHG顕微鏡40は、PC48が生成する画像データのナイキスト周波数が標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数よりも大きくなるように変調制御信号を生成し、且つ、生成した画像データに含まれる標本1上における励起光2の空間強度分布のカットオフ周波数を上回る高周波成分を強調する画像処理を行う点については、蛍光LSM10や2光子励起顕微鏡30と同様である。即ち、SHG顕微鏡40においても、PC48は、標本1の画像データを生成する画像生成手段であるとともに、変調制御信号を生成する変調制御信号生成手段であり、また、高周波成分を強調する画像処理手段である。なお、ナイキスト周波数とカットオフ周波数の比較は、実施例1と同様に、標本1と像面の間の投影倍率を考慮して行われる。具体的には、ナイキスト周波数とカットオフ周波数の一方を投影倍率で補正することに得られる換算量と他方とを比較する。
【0095】
SHG顕微鏡40で実行される超解像画像生成処理のフローは、実施例2に係る2光子励起顕微鏡30と同様であるので、詳細な説明は省略する。
以上、本実施例に係るSHG顕微鏡40によっても、超解像成分が可視化された超解像画像を生成することが可能であり、実施例1に係る蛍光LSM10や実施例2に係る2光子励起顕微鏡30と同様の効果を得ることができる。
【0096】
なお、実施例3では、標本観察装置としてSHG顕微鏡40を例示したが、例えば、第3高調波(THG:Third Harmonic Generation)顕微鏡などの他の高次高調波顕微鏡についても、同様の超解像画像生成処理により超解像画像を生成することができる。
【実施例4】
【0097】
図14は、本実施例に係るコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS:coherent anti-Stokes Raman scattering)顕微鏡の構成を例示した図である。
図14に例示されるCARS顕微鏡60は、実施例1に係る蛍光LSM10と同様に、超解像成分が可視化された超解像画像を生成する標本観察装置である。CARS顕微鏡60は、励起光であるpump光6を射出するpump光レーザ光源61と、pump光6とは異なる波長の励起光であるStokes光7を射出するStokes光レーザ光源62と、ミラー63と、pump光6を透過しStokes光7を反射するダイクロイックミラー64と、標本1を走査するガルバノミラー65と、変調制御信号に基づいてガルバノミラー65を駆動するガルバノミラー駆動装置66と、異なる2つの波長成分を含む励起光(pump光6、Stokes光7)を標本1に集光させる対物レンズ67と、標本1からのラマン散乱光に含まれるアンチストークス成分であるCARS光8を集光するレンズ68と、標本1を透過した励起光を遮断するバリアフィルタ69と、CARS光8を検出して検出信号を生成するPMT検出器70と、変調制御信号と検出信号から標本1の画像データを生成するPC71と、標本1の画像データを記憶する記憶装置72と、標本1の画像データを表示するモニタ73と、を含んでいる。なお、CARS顕微鏡60で検出するCARS光8は、蛍光と異なりコヒーレント光であるため、PMT検出器70は透過光路上に配置される。
【0098】
CARS顕微鏡60は、pump光6の2光子とStokes光7の1光子による3光子励起によりCARS光8を生じさせる。具体的には、CARS顕微鏡60の結像式は式(27)、(28)で表される。
【数14】
【0099】
ここで、PSF
CARS、MTF
CARSは、それぞれCARS起顕微鏡60の結像特性を示す点像分布関数、及びそのフーリエ変換である変調伝達関数である。PSF
pump、MTF
pumpは、それぞれ標本1上でのpump光スポットの点像分布関数、及びそのフーリエ変換である変調伝達関数であり、pump光が標本面に集光する際の集光特性を示す。PSF
Stokes、MTF
Stokesは、それぞれ標本1上でのStokes光スポットの点像分布関数、及びそのフーリエ変換である変調伝達関数であり、Stokes光が標本面に集光する際の集光特性を示す。rは、光軸からの距離であり、標本位置の空間座標を示す。fは、rの空間周波数である。
【0100】
従って、取得されるCARS顕微鏡画像の空間強度分布のカットオフ周波数f
CARSは、pump光6の波長λ
pumpをとし、Stokes光7の波長λ
Stokesをとすると、下式(29)により表される。
【数15】
【0101】
ここで、pump光6のカットオフ周波数f
pump、Stokes光7のカットオフ周波数f
Stokesは、それぞれ式(30)、(31)で表される。
【数16】
【0102】
CARS顕微鏡60は、PC71が生成する画像データのナイキスト周波数が標本1上におけるpump光およびStokes光の空間強度分布のカットオフ周波数よりも大きくなるように変調制御信号を生成し、且つ、生成した画像データに含まれる標本1上におけるpump光およびStokes光スポットの空間強度分布のカットオフ周波数を上回る高周波成分を強調する画像処理を行う点については、蛍光LSM10と同様である。即ち、CARS顕微鏡60でも、蛍光LSM10と同様に、PC71は、標本1の画像データを生成する画像生成手段であるとともに、変調制御信号を生成する変調制御信号生成手段であり、また、高周波成分を強調する画像処理手段である。なお、ナイキスト周波数とカットオフ周波数の比較は、実施例1と同様に、標本1と像面の間の投影倍率を考慮して行われる。具体的には、ナイキスト周波数とカットオフ周波数の一方を投影倍率で補正することに得られる換算量と他方とを比較する。
【0103】
図15は、本実施例に係るCARS顕微鏡で実行される超解像画像生成処理のフローを示す図である。以下、CARS顕微鏡60による超解像画像の生成方法について、
図15を参照しながら、具体的に説明する。
【0104】
超解像画像生成処理が開始されると、まず、ステップS41では、利用者が観察に使用するpump光6の波長λ
pump、Stokes光7の波長λ
Stokesを選択することで、pump光6の波長λ
pump、Stokes光7の波長λ
StokesがCARS顕微鏡60に設定される。例えば、CARS顕微鏡60で脂質を観察する場合であれば、ステップS41では、pump光6の波長、Stokes光7の波長は、それぞれ、λ
pump=711nm、λ
Stokes=839nmに設定される。
【0105】
ステップS42では、利用者が対物レンズ67を選択する。例えば、60倍の倍率を有し、且つ、開口数が1.2である対物レンズが選択されて、CARS顕微鏡60にM
ob=60、NA=1.2が設定される。
【0106】
ステップS43では、標本1上における励起光の空間強度分布のカットオフ周波数f
CARSを算出する。ここでは、式(29)により、f
CARS=9.6μm
−1と算出される。
なお、式(29)から式(31)で示されるように、標本1上における励起光の空間強度分布のカットオフ周波数f
CARSは、励起光(pump光6、Stokes光7)の波長λ
pump、λ
Stokesと対物レンズ67の射出側(標本1側)の開口数NAから算出される回折限界により定まる。
【0107】
ステップS44では、CARS顕微鏡60で生成される画像データのナイキスト周波数を設定する。画像データのナイキスト周波数f
Nyquistは、超解像成分を記録するために、標本1上におけるpump光およびStokes光の空間強度分布のカットオフ周波数よりも大きくなるように設定する。ここでは、例えば、下式(32)により算出した画像データのナイキスト周波数f
Nyquist=9.6μm
−1を設定する。
【数17】
【0108】
ステップS45では、ステップS44で設定されたナイキスト周波数f
Nyquistに応じて、ガルバノミラー65による標本1の走査のサンプリング間隔を設定する。具体的には、サンプリング間隔d
pixは、ナイキスト周波数f
Nyquistがサンプリング周波数(f
pix=1/d
pix)の1/2となるように、上述した式(14)により算出された値に設定される。ここでは、サンプリング間隔d
pixは0.052μmに設定される。
【0109】
ステップS46では、PC71での高周波強調処理に用いられるコンボリューションフィルタCFの設定を設定する。具体的な設定手順は、実施例1に係る蛍光LSM10と同様である。ただし、CARS顕微鏡60では、コンボリューションフィルタCFによる強調処理後に得られる目標とする点像分布関数PSF
DSTとして、例えば、そのカットオフ周波数f
DSTが下式(33)を満たすような、仮想的な点像分布関数を設定する。
【数18】
【0110】
コンボリューションフィルタCFの設定を含む各種設定が完了すると、CARS顕微鏡60による画像取得処理が行われ(ステップS47)、取得された画像データに対するコンボリューションフィルタCFを使用した強調処理が行われ(ステップS48)、コンボリューション処理により生成された超解像画像がモニタに表示される(ステップS49)。そして、画像取得が終了するまでこれらの処理(ステップS47からステップS49)が繰り返し行われることで、超解像画像の動画表示が行われる(ステップS50)。画像取得が終了すると、超解像画像の画像データを記憶装置72に記憶して(ステップS51)、処理を終了する。
【0111】
以上、本実施例に係るCARS顕微鏡60によっても、超解像成分が可視化された超解像画像を生成することが可能であり、実施例1に係る蛍光LSM10、実施例2に係る2光子励起顕微鏡30、実施例3に係るSHG顕微鏡40と同様の効果を得ることができる。
【0112】
なお、実施例4では、標本観察装置としてCARS顕微鏡60を例示したが、例えば、異なる2つの波長成分を含む励起光で標本を励起して、標本における4光波混合により生じる発光を検出して標本を観察する顕微鏡についても、同様の超解像画像生成処理により超解像画像を生成することができる。