(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5784600
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】体内への針の侵入を可視化するためのシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20150907BHJP
A61B 5/15 20060101ALI20150907BHJP
A61M 5/158 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
A61B10/00 E
A61B5/14 300H
A61M5/158 500D
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-519727(P2012-519727)
(86)(22)【出願日】2010年7月8日
(65)【公表番号】特表2012-532682(P2012-532682A)
(43)【公表日】2012年12月20日
(86)【国際出願番号】US2010041361
(87)【国際公開番号】WO2011005954
(87)【国際公開日】20110113
【審査請求日】2013年5月16日
(31)【優先権主張番号】61/224,133
(32)【優先日】2009年7月9日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】12/831,885
(32)【優先日】2010年7月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595117091
【氏名又は名称】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マーク アイ.ゼーメル
【審査官】
福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−200325(JP,A)
【文献】
特開2004−237051(JP,A)
【文献】
特開2006−130201(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0194930(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0318891(US,A1)
【文献】
米国特許第06178340(US,B1)
【文献】
国際公開第2006/073869(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 5/15
A61M 5/158
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針と、
前記針を被覆する放射線散乱コーティングと、
放射線可視化装置と、
を備え、
前記コーティングは、前記コーティングの少なくとも一部に設けられた空間を血液によって満たす機能である飽和機能を含む、
体内への針の侵入を可視化するためのシステム。
【請求項2】
前記コーティングは少なくとも1つのポリマーを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記コーティングはフッ化エチレンプロピレン(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記コーティングは入射する近赤外線放射を散乱させる顔料および染料のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記空間は溝によって画成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記空間は細い溝によって画成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記空間は穴によって画成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記コーティングは針の針先のみを被覆している、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記コーティングは針先を除いて針を被覆している、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記コーティングは被覆されている部分および被覆されていない部分のパターンを用いて針を被覆する、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記放射線可視化装置は断層撮影法、分光法、および分光画像法のうちの少なくとも1つに基づいて可視化する検出器を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
針と、
前記針を被覆する放射線散乱コーティングと、
を備え、
前記コーティングは放射線散乱顔料および放射線散乱染料のうちの少なくとも1つをさらに含み、
前記コーティングは、前記コーティングの少なくとも一部に設けられた空間を血液によって満たす機能である飽和機能を含む、
体内への針の侵入を可視化するためのシステム。
【請求項13】
前記コーティングはフッ化エチレンプロピレン(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記コーティングは被覆されている部分および被覆されていない部分のパターンを用いて針を被覆する、請求項13に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体組織内の針を可視化するためのシステム及び方法に関する。より詳細には、本発明は、針を可視化するため、及び標的構造の独特な吸収および散乱特性に対して高感度な機器により体内の解剖構造の位置を特定するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毎日、何十万もの医療処置において血管に穴があけられている。緊急時の液体の投与、血液成分の投与、及び手術中の麻酔薬の投与のため、又は生化学分析のための採血を可能にするために、静脈穿刺が必要であることが知られている。しばしば静脈注射用の化合物を投与する際の速度制限段階となる静脈穿刺は、患者が新生児、幼児、老人、肥満又は火傷患者である場合に、30分かそれより長くかかることがある。私達の社会全体にかかる莫大な財政負担にもかかわらず、手術室および医療従事者は静脈ラインが配置されるのを待たなくてはならないので、静脈ラインの配置の遅れは実際に生命を危うくし得る。さらに、臨床医の血管の位置決めの失敗によって引き起こされる多数の静脈穿刺に随伴して付加的な問題がある。
【0003】
静脈穿刺をすることが時には困難であるのは、血管は、吸収し散乱させる光学的性質によって通常条件下で血管の可視化を不可能にする組織の中の比較的深い位置にあることがあるためである。さらに、血管は過剰に操作されると痙攣および収縮するおそれがあるという事実によって、状態は悪化する。したがって、医療従事者は患者のリスクを減らし、時間を節約し、処置のコストを減らすために、静脈穿刺の間中、即時に血管を可視化する必要がある。さらに、処置時間の節約は、潜在的に汚染された針に従事者がさらされるのを制限する。最後に、血管組織を可視化することは、血栓症、がん、又は血管奇形など特定の疾病についての重要な診断上および治療上の情報を提供することができる。
【0004】
1970年代中盤に、表在血管の可視化を外科医に提供すると称された1つの器具が考案された。それは、皮膚に押し付けられた際に皮下組織を透過して表在血管の可視化を助ける可視光源からなる。血管トランスイルミネ―ターは、血液および組織の異なる吸収特性を使用していた。血液は一定の波長の光を強く吸収し、一方で、脂肪および皮膚は他の波長を吸収するので、医療従事者は皮下の血管の位置を肉眼によって視覚的に区別することができると称された。トランスイルミネーターは、表在血管の静脈穿刺のため以外の使用のために十分な血管と組織との間のコントラストを提供することができないので、基本的に使用されなくなっている。さらに、いくつかのバージョンの血管トランスイルミネ―ターは患者に温熱損傷を引き起こした。
【0005】
トランスイルミネーターの欠陥に応じて、表面組織を深部血管の深さまで透過するが血液によって非常によく吸収されもする照度波長を使うことを提案している参考文献がいくつかある(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、これらの参考文献は血管の本体構造を有効に照らしおよび検出する効率的な方法を明らかにしていない。
【0006】
より最近の考案は、体から反射された後方散乱された照明を検出するための偏光子を用いることによるもっと効果的な結果を生じた。例えば、参照により本明細書中に組み込まれる、生体組織から電磁反射を検出するための方法および装置と題された特許文献1を参照されたい。標的組織から際立って散乱される反射電磁放射線を用いて、これらの方法は、医療関係者に血管などの解剖構造をその周辺組織と高いコントラストで効率的に見せることを可能とする。したがって、この方法によれば、医療臨床医は血管などの内部解剖構造を可視化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6032070号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Cheong,W−Fらによる「A Reviw of the Optical Properties of Biological Tissues」、IEEE Journ.Quant.Elec.、1990年発行第26巻2166−2185頁
【非特許文献2】Flock.S.らによる「Thermal Damage of Blood Vessels using Insocyanine Green and a Pulsed Alexandrite Laser」、Lasers Med.Sci.、1993年発行第8巻185−196頁
【非特許文献3】Sudhadra Sinivasanおよびその他らによる「Interpreting Hemoglobin and Water Concentration, Oxygen Saturation, and Scattering Measured in Vivo by Near−infrared Breast Tomography」、PNAS、2003年10月14日発行第100巻第21号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この開示のシステムおよび方法は、現在利用できる技術によっては未だ完全に解決されてはいない本技術分野における問題および要求に応えて開発されている。したがって、これらのシステムおよび方法は、医療従事者が内部解剖構造だけでなく体内の針も可視化できるように開発されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの態様においては、システムは、体内への針の侵入の可視化のために提供されており、針、放射線散乱コーティング(本明細書において、単に「コーティング」又は「針コーティング」ともいう。)、及び放射線可視化装置を含む。この放射線散乱コーティングは、近赤外線放射散乱コーティングまたは赤外線放射散乱コーティングであってもよい。この針コーティングは針の少なくとも部分に被覆されている。
【0011】
いくつかの実施形は1つまたは複数の次の特徴を含んでいてもよい。コーティングは1つまたは複数のポリマーを含んでいてもよい。コーティングはフッ化エチレンプロピレン(FEP)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含んでいてもよい。コーティングは、入射する近赤外線放射を散乱させる顔料および染料のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。コーティングは、溝、細い溝、または穴の飽和機能(saturating feature)を含んでいてもよい。コーティングは針先のみをコーティングされていてもよい。あるいは、針先を除いて針の全体がコーティングされていてもよい。コーティングは覆われている部分と覆われていない部分とのパターンを用いて針を覆っていてもよい。放射線可視化装置は、断層撮影法、分光法、または分光画像法に基づいて可視化する検出器を含んでいてもよい。
【0012】
別の態様においては、体内への針の侵入を可視化するためのシステムは、針、針にコーティングされた放射線散乱コーティングであって、フッ化エチレンプロピレン(FEP)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のうちの少なくとも1つを含み、放射線を散乱する顔料および放射線を散乱する染料のうちの少なくとも1つをさらに含むコーティング、および放射線可視化装置を含んでいる。
【0013】
いくつかの実施形は1つまたは複数の次の特徴を含んでいてもよい。コーティングは飽和機能を含んでいてもよい。コーティングは針の針先にのみコーティングされていてもよい。放射線可視化装置は、断層撮影法、分光法、または分光画像法に基づいて可視化する検出器を含んでいてもよい。
【0014】
別の態様において、血管内への針の侵入を可視化する方法は、放射線散乱コーティングを有する針を提供する工程、放射線可視化装置を提供する工程、体内へ針を差し込む工程、および血管に向かう針の前進を放射線可視化装置を用いてモニタリングする工程を備える。
【0015】
いくつかの実施形は1つまたは複数の次の特徴を含んでいてもよい。針の前進は、針先が体の血管へ入る際に視覚化されたときに停止されてもよい。飽和機能は針コーティング上に含まれていてもよい。放射線散乱コーティングは針の針先のみに配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
したがって、このシステムの実施によって、内部解剖構造だけでなく、体内に前進している際の針も医療臨床医に目に見えるようにすることができる。臨床医は内部構造を可視化できるので、静脈穿刺の処置はより速く正確に行われるであろう。
【0017】
本発明の上記特徴および他の特徴ならびに利益が得られる方法を容易に理解するために、簡単に上述した本発明のより詳細な説明を、添付図面に例示されるその具体的な実施形態を参照して示す。これらの図面は本発明の典型的な実施形態のみを示しており、したがって、本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】代表的な実施形態に従った撮像システムおよび放射線散乱コーティングを備える針の概略図である。
【
図2】代表的な実施形態に従ったヘルメット装置に組み込まれた撮像システムおよびコーティングを備える針の概略図である。
【
図3】代表的な実施形態に従った針の透視図である。
【
図4】代表的な実施形態に従った放射線散乱コーティングを有する針の透視図である。
【
図5】別の代表的な実施形態に従った放射線散乱コーティングを有する針の透視図である。
【
図6】さらに別の代表的な実施形態に従った放射線散乱コーティングを有する針の透視図である。
【
図7】さらに別の代表的な実施形態に従った飽和機能を備える放射線散乱コーティングを有する針先の透視図である。
【
図8A】
図7の線8−8に沿って取った、さらに別の実施形態に従った飽和機能を備える放射線散乱コーティングを有する針先の正面図である。
【
図8B】さらに別の実施形態に従った飽和機能を備える放射線散乱コーティングを有する針先の別の正面図である。
【
図9】さらに別の実施形態に従った飽和機能を備える放射線散乱コーティングを有する針先の透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態は、図面を参照して最もよく理解されるものであり、ここで、同様の参照番号は同一の又は機能的に同様の要素を示す。本明細書において一般的に記載されおよび図中に示されるような本発明の構成要素は、多種多様な異なる構成にアレンジおよび設計されることができることは、容易に理解されよう。したがって、図面に示されるような以下のより詳細な説明は、特許請求の範囲に記載されるように本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の現在の好ましい実施形態の単なる代表である。
【0020】
図1は体内への針の侵入を可視化するためのシステムの実施形態を示す。このシステムは放射線可視化装置すなわちシステム20(例えば、VueTek Scientific社由来のDigital VeinVue)を含み、これは放射光源30、放射線検出器36、および表示部38を含む。いくつかの実施形態において放射線は赤外線(IR)放射であり、他の実施形態において放射線は近赤外線放射(NIR)である。内部解剖構造を見るため、光源30は、光線が標的解剖構造42によって吸収されるまで生体構造を部分的に透過するように、生体組織40上に入射光32の光線を放射する。画像検出器36(例えば、Dage−MTI社から入手可能なCCD−72型カメラ)は、解剖構造と異なる吸収波長を有する標的解剖構造を取り囲む組織から主に反射する反射光34を検出する。画像検出器36は映像信号44によって表示部38とつながれており、組織から反射された入射光の強度情報は画像の形式により表示部に表示される。
【0021】
撮像の間、又は撮像の後、針22は生体組織40へ差し込まれてもよいし、標的解剖構造42へ向けられてもよい。針が進むにつれて、光源30からの光32は、針22の上に放射され、針22を被覆する放射線散乱コーティング26(本明細書において、単に「コーティング」又は「針コーティング」ともいう。)により散乱される。同時に、針22の被覆されていない部分上へ入射した光32は、コーティング26上へ入射した光32よりも大きい程度で吸収される。よって、針22の被覆されていない部分からよりも被覆されている部分26から、より多くの光34が反射される。反射光34は検出器36により検出され、表示部38により画像化される。表示部はこのようにして標的解剖構造42の形状および針22の被覆されている部分を画像化する。このように、医療従事者は標的解剖構造42の中へ針先24を向けることができる。したがって、いくつかの実施形態において針コーティング26は放射線散乱コーティングである。あるいは、他の実施形態においては、針コーティング26は放射線吸収コーティングであり、その中で、針コーティングは、より不透明な背景または標的解剖構造から区別される。
【0022】
放射線散乱コーティングは、さまざまな医療処置の間、医療従事者を助けることができる。したがって、放射線散乱コーティングは様々なタイプの針に適用できる。たとえば、いくつかの実施形態において針は皮下注射針である。他の例において針はオーバー針カテーテルの配置処置に使用される導入針である。代わりに又は加えて、放射線散乱コーティングは導入針とともに使用されるカテーテルにも適用できる。他の実施形態において、放射線散乱コーティングは硬質なカテーテル上にコーティングされている。本明細書において「針」という用語には、皮下注射針のような標準の針と同様に、カテーテル及び体の外表面付近の解剖構造へアクセスするため及び/又はそこへ液体を送達するために使用される他の同種の機器が含まれる。
【0023】
針22を覆いおよび放射線可視化装置とともに使用される際、各種コーティングは放射線を反射または吸収して望ましい効果を生じる。よって、各種コーティングのタイプは針に適用することができる。いくつかの実施形態において、コーティングはポリマーまたはコポリマーである。例えば、1つの実施形態においてコーティングは、溶解押し出し成型、被覆、または含浸により針に適用できるフッ化エチレンプロピレン(FEP)(例えば、Daikin社由来の「Neoflon(登録商標)」およびHoechst社由来の「Hostaflon(登録商標)」)を含む。いくつかの実施形態においては、コーティングはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(例えば、Dupont社由来の「Teflon(登録商標)FEP」)を含む。FEPは高度に透明であり得るので、患者または医療従事者が注目すること及び気の散ることなしに、針を被覆することができる。
【0024】
代わりに又は加えて、いくつかの実施形態において、針22または針コーティング26は入射する近赤外線放射を散乱させる顔料や染料を含んでいる。例えば、インドシアニングリーン(ICG)染料は、組織が相対的に透過性である800nm付近を強く吸収する。(非特許文献2参照)。よって、針コーティングとともに配置されるか又は針を覆うICG染料は、800nmの照明を反射することができる。他の実施形態においては、他のNIR/IR不透明性物質又はNIR/IR反射性物質が、針22または針コーティング26に適用されている。
【0025】
表示された画像の可視化を高めるため、針コーティング26は、針22全体、針先24(
図1〜2、及び
図4に示される)、又は針先を除く針全体(
図5に示される)に適用することができる。さらに、いくつかの実施形態においては、
図6に示されるように、被覆されている領域と被覆されていない領域とが交互に並ぶような針コーティング26のパターンが針22に適用される。
【0026】
NIR放射は、医療従事者に体組織の12cmほどを通った信号反射を検出することを可能にする。(非特許文献3参照)。さらに、1.5cmに至るまでの深さで非常に高いコントラストの画像が作り出されることができる。NIR照射は、特に、血管または静脈の造影のために有用である。
【0027】
撮像手順の間、針先24に関する血管または静脈の位置は、適切な針の配置にとって重要である。針コーティングなしの場合、針は入射光の大半を検出器36から離れる方に向ける。この結果、静脈もまた表示部38に黒く現れるので、いつ針が静脈へ入ったかを決定することが困難になる。したがって、コーティングの性質に基づき、造影の間に針先のはっきりとした画像を提供するために、針先は被覆されていてもよく又は被覆されていなくてもよい。
【0028】
例示されるように、いくつかの実施形態において、表示部38は周囲の組織よりも暗いように血管42aを示す。このように臨床医は血管42aの位置を可視化する。さらに、いくつかの実施形態において、針コーティングの特質はコーティングを表示部の中においてより暗いように表示させる。したがって、臨床医は、より暗い被覆された針先を血管の中へ正確に速く向けることができる。他の実施形態においては、針コーティングの特性はそれをより明るい物体として表示されるようにし、そして、この状況において、被覆された先端は、適切な針先24の配置を確実にする際に、より暗い血管の中に姿を消すことができるより明るい物体として表示されるであろう。よって、針コーティングは医療従事者に体内へ針をより有効に導入することを可能にする。
【0029】
針22および針コーティング26は各種の放射線可視化装置とともに利用することができる。
図1の放射線可視化システム20は、この針および針コーティングとともに利用することができる放射線可視化システム又は装置のいくつかの可能な実施形態のうちの1つに過ぎない。例示の目的のために、これから可視化システム20の操作及び構成について説明する。はじめに、内部解剖構造を見るために、光源30は、光線が標的解剖構造42によって吸収されるまで生体組織を部分的に透過するように、生体組織40上に入射光32の光線を放射する。画像検出器36(例えば、Dage−MTI Inc.社から入手可能なCCD−72型カメラ)は、解剖構造と異なる吸収波長を有する標的解剖構造を取り囲む組織から主に反射する反射光34を検出する。
【0030】
いくつかの実施形態においては、組織から反射された入射光の強度情報が画像の形式により表示部上に表示されるように、画像検出器36は映像信号44によって表示部38とつながれている。多色光源が使用されたとすれば、標的構造の撮像のための有効範囲外の波長は1つまたは複数の帯域通過フィルタ48によって除去されるべきである。あるいは、電荷結合素子赤外線カメラ(CCD)(例えば、Electrophysics Corp.社(ニュージャージー州フェアフィールド)から入手可能なCCD1350−1赤外線CCDカメラ、および9300−00イメージインテンシファイア)を用いて起こるように、画像検出器は有効範囲内の波長のみを検出することができる。あるいは、リアルタイムデジタル画像処理機(例えば、Dage−MTI Inc.社から入手可能なCSP−2000Processor)は多色光源によって生じた情報不十分な波長を除去するために使用することができる。
【0031】
本発明の代替的な実施形態においては、偏光フィルタ(例えば、Ealing Electro−Optics Ind.社(マサチューセッツ州ホリストン)、又はOriel Corp.社(コネチカット州ストラスフォード)から入手可能)のような偏光光学素子46aがレーザーまたは他の単色光源と組み合わせて使用されている。単色光源には、例として、New Focus Inc.社(カリフォルニア州サニーヴェール)から入手可能な6124型レーザーダイオード、Micracor Inc.社(マサチューセッツ州アクトン)から入手可能なModel Micralase、及びMcDonnell Douglas Aerospace社(ミズーリ州セントルイス)から入手可能なMDL−DLAW10が含まれる。偏光フィルタは、組織に関して特定の平面の入射光を偏光させることによって、際立って反射した光を異なる偏光のものにさせる。検出器の前にある第2の偏光光学素子46bは、その時、光源から際立って反射された光を優先的に選び出す。画像情報をほとんど伝達しない多重散乱された放射線は、典型的には無作為に偏光され、そしてしたがって第2の偏光光学素子46bを通過して画像検出器12に渡されないであろう。光源30のために多色光源が使用されている場合には、偏光フィルタは、帯域通過フィルタ48、電荷結合素子赤外線カメラ、またはこれらの任意の組み合わせのいずれかとともに使用することができる。また、これらの素子の任意の組み合わせは、光源40がレーザーまたは他の単色光源を含むときに使用することができる。
【0032】
他の実施形態においては、システムは、体の内部解剖構造を画像化するための他の撮像システムを組み込んでいる。例えば、いくつかの実施形態においては、撮像システムは、デジタル画像プロセッサ、フレームグラバ(例えば、Dage−MTI Inc.社から入手可能なCSP−2000Processor)、及び少なくとも2つの波長を投影する光源を利用する。いくつかの実施形態においては、撮像システムは散乱光を取り除くコリメーターとして利用できる。
【0033】
いくつかの実施形態においては、撮像システムは反射像34の位相変調検出を実行する。これらの実施形態においては、入射レーザー光34は、回転する非球面の光学部品またはカーセル(例えば、Meadowlark Optics社(コロラド州ロングモント)、Advanced Optronics Inc.社(カリフォルニア州サンノゼ)、又はNinds Instruments Inc.社(オレゴン州ヒルズバラ)から入手可能)のような光位相変調器28を制御する変調源30によって位相変調される。変調源は、液晶ビデオテレビジョンのような位相感知画像検出器を制御する。したがって、画像検出器は、入射光と同じ状態の変調を有する反射光だけを測定する。他の全ての光は測定から取り除かれる。
【0034】
ここで
図2を参照すると、いくつかの実施形態においては、撮像システム100は標的解剖構造の両眼立体視による画像化を利用する。これらの実施形態においては、2つの画像検出器136aおよび136b(例えば、FJW Optical Systems Inc.社(イリノイ州パラタイン)由来の8900型焦点合せ接眼レンズおよび対物レンズ付き赤外線感知ビデオカメラ)を使用して標的組織領域からの反射光の2つの角度を検出することにより、3次元深さ情報が画像の中に組み込まれる。この実施形態の1つのバリエーションにおいては、光源130(例えば、Thor−Labs社(ニュージャージー州ニュートン)由来のLD1001ドライバーを備えるMcDonnell Douglas Aerospace社(ミズーリ州セントルイス)由来のMDL−DLAW10ダイオードレーザー、および12ボルトの直流源)は、今度は、2つの画像検出器136aおよび136bを保持するヘルメット(例えば、Welch−Allyn Inc.社(ニューヨーク州スカニースルズフォールズ)由来のPhysician´s Headlight)に据えつけられている。光源出力は、約20インチの距離に約1mmのスポットを作り出すために、ダイオードレーザー照準光学系(例えば、Thor−Labs社(ニュージャージー州ニュートン)由来のLT110P−B型)を任意選択的に用いて焦点合わせされてもよい。入射光32は34のように標的組織から反射されて戻る。両眼立体視による撮像システムの変形は、このシステムおよび方法に組み込まれてもよい。
【0035】
ここで
図3を参照すると、代表的な実施形態による針22が描かれている。針は針22の近位端に配置された針ハブ202を含む。針シャフト206は針ハブ202の遠位端から伸びている。斜角が付けられた針先208は、体内への侵入を容易にするために針の遠位端に形成されている。針は、針先の長さのおおよそ2〜3倍である遠位部24もまた含む。
【0036】
いくつかの実施形態においては、針コーティング210は、
図4に示されるように針先208上のみを被覆しているか、または針の遠位部24上のみを被覆している。あるいは、いくつかの実施形態においては、針コーティング210は、
図5に示されるように針先208を除いた針シャフト206の全体を被覆している。他の実施形態においては、針コーティング210は、
図6に示されるように覆われている部分および覆われていない部分のパターンを用いて、シャフト206、針先208、又は遠位端24のいずれかを被覆している。針は、遠位端から近位端まで針を通って延びる内部管腔204をさらに含む。
【0037】
ここで
図7を参照すると、針22は針コーティング210を有するものとして描かれている。1つまたは複数の飽和機能302は針コーティング210の中に含まれていてもよい。飽和機能は、血液がコーティングの散乱特性に打ち勝つために針コーティング210を充填し、毛管作用により満たし(wick)、さもなければ別の方法により飽和させることを可能にする。いくつかの実施形態においては、血液は針コーティング210とは異なった形で放射線を吸収または散乱し、したがって、血液が透明であってもよいコーティングを飽和させるとき、飽和されたコーティング上へ入射された放射線は、血管と同じようにまたは実質的に同じように応答する。したがって、医療従事者が表示部38の反射光34の画像を見るとき、血管が適切にアクセスされたことを確実にするために、針コーティング210の飽和状態を観察することができる。
【0038】
フラッシュバック特徴を有する針とともに使用される場合、飽和機能302は、医療従事者に、放射線可視化装置なしに直接目に見える前に、針に沿ってフラッシュバックを見せることができる。例えば、針コーティング210を有する針22とともに放射線可視化装置を使用するとき、医療従事者は、血管などの標的解剖構造への針先の侵入を視覚化することができる。血液が導入針およびカテーテルの間など針に沿って流れ始める際に、医療従事者は、放射線可視化装置を依然として使用して、血液が針コーティング210に打ち勝つ際に、フラッシュバックを見ることができる。血液はコーティングよりも暗いように表示される可能性があるので、血液が飽和機能302を飽和させる際に、コーティングがより暗く現れるようにする。このような特徴により、医療従事者は、表示部および針差込部位の両方を観察するよりも、放射線可視化装置/システムを使用することにより、針差込過程の全体を実施することができる。
【0039】
いくつかの実施形態において、飽和機能は、針コーティング内の1つまたは複数の溝、穴、細い溝、又は他の同様の特徴である。ここで
図7〜
図8Bを参照すると、いくつかの実施形態において、針コーティングは針22の長さの下方へ延びる1又は複数の飽和機能を含んでいる。
図8Aおよび
図8Bは
図7の線8に沿って取った針の遠位端の正面図を示す。描かれるように、針シャフト206は、内部管腔306および外側の針コーティング210を含む。コーティングは、少なくとも部分的に針コーティングの中に、そして針の長さに沿って延びている溝または細い溝の形の1つまたは複数の飽和機能302aおよび302bを含んでいる。いくつかの実施形態において、飽和機能302aは針コーティングの外側に配置されている。他の実施形態において、飽和機能302bは針コーティングの内側に配置されている。さらに、いくつかの実施形態においては、
図8Bに示されるように、飽和機能302cは針コーティングの至るところに配置されている。血液は、飽和機能302a〜302bに沿って、又は飽和機能302a〜302bを通って、あるいはそれらの中に毛管作用により満たされて、流れることができる。
【0040】
図9は針22上の針コーティング210を示す。針コーティング210は飽和機能として作用する多数の穴304を含む。血液が針コーティングと接触する際に、血液は、毛管作用により満たすこと(wicking)や他の手段によって、その中に引き込まれる。いったん針コーティング内に引き込まれると、血液は針コーティングに打ち勝って、血液が針コーティング内に飽和されていることを医療臨床医に認識させることができる。したがって、飽和機能は、体の外側でフラッシュバックが見える前に体内に配置された針に沿ってフラッシュバックが認識されることを可能にする。
【0041】
よって、このシステムの実施形態は、医療臨床医に、内部解剖構造のみならず、針が体内に前進する際に針も目に見えるようにすることができる。針上に放射線散乱コーティングを適用することにより、臨床医に体の内部構造を目に見えるようにすることができる。可視化の強化は、静脈穿刺の手順を、放射線散乱コーティングを備える針がない場合に可能であるよりも、速くおよび正確に実行することができるようにする。
【0042】
本発明は、本明細書中に広く記載されおよび特許請求の範囲に記載されるその構造、方法、又は他の本質的な特徴から逸脱することなく、他の具体的な形態において具体化されることができる。記載された実施形態は、あらゆる点において、単なる例示であり限定するものではないとみなされるべきである。本発明の範囲は、それゆえに、前述の説明よりもむしろ添付の特許請求の範囲により示されている。特許請求の範囲と同等の意味および範囲に入るすべての変更は、それらの範囲に包含されるべきである。