【文献】
Chua A.S.M. et al.,Water Research ,2003年,Vol.37,pp.3602-3611
【文献】
Kopinke F.D. et al.,Polymer Degradation and Stability,1996年,Vol.52,pp.25-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記混合液からの乾燥されたバイオマスが、窒素雰囲気中、10℃/分というおおよそ一定の温度上昇でもって105℃〜300℃の範囲の温度にさらされた場合、前記バイオマス中のPHAの最大重量損失率が260℃を超える温度に存在するように、前記混合液を処理することを含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
前記PHA及びバイオマスの化学的及び/又は熱的安定性を向上させた後に、100℃より高い温度で有機溶媒と前記バイオマスとを混合することによって前記バイオマスからPHAを回収し、PHA樹脂を製造することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
産業廃水及び/又は都市廃水を処理する事業の一部として生じるバイオマスは、意図的に、PHA蓄積細菌(PHA accumulating bacteria)(PAB)を混入させることができる。PABを豊富に含むバイオマスは、易生分解性化学的酸素要求量(readily biodegradable chemical oxygen demand)(RBCOD)を含んでいる有機廃棄物流とともに供給されるとき、PHAを蓄積する顕著な能力を示す。RBCODは、典型的には、揮発性脂肪酸類(VFA)から構成されるが、これに限定されない。PABがRBCODとともに供給される場合、PHAは、このバイオマス中に、最終的なバイオマスの乾燥重量に対し、有意なレベルまで蓄積されるだろう。PABを豊富に含むバイオマスを、PHAの収率が最大化されるように、RBCODを豊富に含む廃水と好気性又は嫌気性の条件下で混合する。一般的には、最終的なバイオマス乾燥重量は、PHAとして40%を十分に超えており、この場合、1キログラムの活性なバイオマス乾燥重量は、一般的に、乾燥重量キログラムの3分の2を超えるPHAを蓄積することができる。この含有量のPHAは、細胞質に埋め込まれた小型の細胞内顆粒としてバイオマス中のPABに分配され、これらの顆粒は、直径が最大で約0.5μmまでの範囲に及ぶだろう。この包含物は、包含物自体のリン脂質膜で包まれており、この膜は、包含物合成のためのタンパク質を含む。PHAは、95%より高い純度で、さらに最大では99%までの純度でポリマーとしてバイオマスから回収することができる。この回収されたポリマーを回収PHA樹脂と呼ぶ。ここに開示している発明の開発目的は、以下を行うことであった。
1.バイオマスからPHA樹脂を回収するための実行可能なプロセスを確立する、
2.このプロセスでバイオマスから回収したPHA質量の収率を最大化する、
3.溶媒抽出の間にPHAの分子量が制御されずに低下する可能性を最小限にする、及び
4.高い熱安定性を示すPHA樹脂を抽出する手段を容易にする。
【0003】
このバイオマスによって産生されるPHAは、一般には、排他的ではないが、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)及び/又は3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシ吉草酸とのコポリマーである。このバイオマスから回収することができるPHAは、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレン(PE)などのプラスチックと同様の物理的特性を示す生分解性のポリエステル又はバイオポリマーである。PHAは、プラスチックに配合されてもよいし、又はさらに中心的な基本骨格となる化合物に変換されてもよい。しかし、PP及びPEとは異なり、PHAは完全に生分解性である。本発明は、廃水処理プロセスについての全体的な生物精製の概念の部分的な構成部分をあらわし、限定されないが、以下の要素を含んでいてもよい(
図1)。
I.PHAを有意に蓄積する既存の能力でバイオマスを産生しながら、流入液中の有機物質のいくらか又は全てを、RBCODを豊富に含む廃水に変換し、この廃水から全てのRBCODを除去するように設計されたユニットプロセス。
II.安定な廃水処理プロセスの操作及びPHA産生の目的のために作られたバイオマスの保持量を制御し、計量しつつ輸送するための手段。
III.その廃水自体又はその場所若しくは他の場所からの廃棄物有機源に由来するRBCODを豊富に含む供給物を用いることによって、産生されたバイオマス中で有意なレベルまでPHAを蓄積するためのユニットプロセス。
IV.例えば、このバイオマスから取り出された任意のPHA以外の材料からのエネルギー生成における利点を同時に確保しながら、熱に安定であり、温度上昇又は化学的な相互作用に起因する分解に耐性があるPHA含有バイオマス(PHA−in−biomas)を作製するためのユニットプロセス。
V.熱安定性のPHA樹脂を抽出するためのユニットプロセス。
本発明は、蓄積した後にこのPABを豊富に含むバイオマスから最終的な精製(V)を行うために必須な工程として、工程IV(すなわち、回収のためにPHA含有バイオマスを調製する工程)に集中するものであり、本発明は、PHA回収において生成物の質の目標を満たし、かつ廃水処理及び残留廃棄物処理能力、並びに以下にさらに説明するような節約目標を同時に満足するための現実的な解決法を提供する。
【0004】
PHAを豊富に含むバイオマスからのPHAの回収には、有機画分及び無機画分の両方を含む他の非PHA細胞材料(NPCM)から顆粒を分離するという問題がある。プラスチック配合物に対する成分として使用するためにバイオマスから回収したPHA樹脂の品質は、以下の観点で評価されるだろう。(1)純度、(2)平均分子量及びその分布、(3)熱安定性、(4)化学薬品安定性、及び(5)コポリマーの微小構造及び組成。純度とは、残存するバイオマスNPCMを指し、おそらく、精製プロセスの間に導入されるか又は持ち越される他の化合物又は元素も指すだろう。
【0005】
平均分子量は、ポリマー鎖長の平均的な大きさを反映する。ほとんどの場合、PHAは、比較的広い分子量分布を有するポリマーである。M
nとは、数平均モル質量であり、以下のように定義される。
【数1】
ここでN
iは、モル質量がM
iである分子の数である。重量平均モル質量M
wは以下のように定義される。
【数2】
多分散性指数(PDI)は、分子量分布の指数であって、以下のように定義される。
【数3】
M
wは、常に、M
nより大きく、そのためPDIは常に1より大きい。PHA樹脂のPDIは典型的には、ほぼ2であって、M
wは、10,000〜3,000,000Daの範囲があり得る。分子量分布は、バイオマス中でPHAを蓄積する方法、このPHAを回収するための方法、及びこの樹脂を最終使用者の製品へとさらに処理する方法によって影響を受けることがある。
【0006】
熱安定性とは、特定の大気中での温度及び時間の関数としてのポリマーの耐分解性を指す。大気は、不活性(例えば、窒素)であっても、又は反応性(例えば、空気又は酸素)であってもよい。熱安定性は、サンプルが揮発又は重量損失する特徴的な分解温度という観点で評価することができる。実際には、ポリマーの処理温度又は処理温度よりわずかに高い温度でのポリマーの安定性も関係がある。従って、熱安定性はまた、空気中又は窒素ガスのような不活性雰囲気中、関連する処理温度での処理中の分解反応速度論(つまり、分子量が減るか、及び/又は動粘性係数が低下する)によっても評価される。ここで化学薬品安定性とは、液体(溶剤、非溶剤、水性、非水性又はその混合物)と接触したときにポリマーが分解する傾向を指す。化学反応は、液体と接触したポリマーとともに、さらに移動性が高くなる化合物又は反応基が移動及び拡散する温度に起因して開始するだろう。液体環境における化学反応生成物は、さらに分解プロセスを促進することがある。
【0007】
混合培養物を作製して、PHAのホモポリマー及びコポリマーを生成してもよく、このコポリマー中のモノマーの種類及び分布が、処理の特徴及び最終的な材料の特性に影響を及ぼす。例えば、酪酸又は酢酸をバイオマスに供給することは、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)(PHB)の蓄積についてのRBCODを代表する。酢酸及びプロピオン酸のRBCOD混合物をバイオマスに供給することによって、3−ヒドロキシ酪酸及び3−ヒドロキシ吉草酸(PHBV)のコポリマーの生成を促進することができる。
【0008】
PHA樹脂中の不純物は、有機物であっても、及び/又は無機物であってもよい。純度が高いことが望ましいが、異なる不純物がポリマーの特性又は加工性に対して異なる影響を呈するという事実に起因して、ある程度の不純物は許容される場合がある。一般には、本発明者らは、絶対純度が95%を超えるまで、理想的には99%を超えるまでPHAを回収しようと努めた。この純度は、一般には、バイオマスNPCM中にみられる有機成分及び無機成分に関する。有機不純物としては、バイオマス由来のタンパク質、炭水化物及び脂質残留物を挙げることができる。無機不純物としては、陽イオン、例えば、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム並びに対応する陰イオン、例えば、リン酸イオン、硫酸イオン及び塩素イオンを挙げることができる。PHA不純物は、望ましくない有機不純物又は無機不純物の存在の兆候である水分の保持に起因することもある。有機不純物は、PHA樹脂をプラスチック及び生成物に加工する際に望ましくない色及び刺激臭を生じることがある。有機不純物は、ポリマーの化学薬品安定性にも関係がある。無機不純物は、樹脂の熱安定性をひどく損なう場合がある。蓄積プロセス後のPHAを豊富に含む乾燥したバイオマスに含まれるPHAは、一般には、乾燥質量の40〜60%の範囲であってもよい。
【0009】
蓄積後の純粋なPHA及び混合培養バイオマス中でのPHAの化学薬品安定性及び熱安定性は一般に悪く、過剰な分子量低下を避けるべき場合、100℃を超える温度をバイオマス処理又はPHA回収に用いることはできない。
【0010】
PHAを豊富に含む乾燥バイオマスの60パーセントまでがNPCMであるかもしれないことを考えれば、効率的なPHA回収とともに非PHA画分の上述のような運命を解決することが同時に必要となる場合がある。廃水の生物学的処理により生じる過剰なバイオマスを最終的に廃棄することは、地球規模の問題となっている。研究開発の著しい労力によって、廃棄されたバイオマスからエネルギー及び資源を最大限回収し、かつ確実に廃棄を要する物質をできるだけ少なくする技術開発が行われた。
【0011】
NPCMの運命は、廃水を処理するために用いられるバイオマスが過剰であるという状況では、PHAの回収にとっての制約となっている。NPCMの残渣は、廃水処理施設で固体として取り扱われるとき、環境保護における技術水準と適合してもよく、理想的には、技術水準をさらに改善してもよい。廃水処理プラントでのスラッジ取扱いのための現在の処理溶液によって生じる欠陥及び問題を正すために、多くの技術および開発費用が向けられている。理想的には、PHA回収のための手法は、付加価値のあるバイオポリマーを生成すべきだというだけではなく、全体的な残渣固体の管理をよりよくかつより有効に制御するという機会を与えるべきである。
【0012】
精製した樹脂からプラスチックへのバイオポリマーPHAの変換では、添加剤を組み合わせてもよい。これらの成分を、樹脂の処理温度又は処理温度よりわずかに高い温度で組み合わせ、混合物は押出成形され、成形してプラスチックのペレットとされる。溶融サイクルでは、材料中の最終的なPHA量が、添加剤と溶融物とを混合することに起因して低下することがある。通常は、PHAをプラスチックペレットに配合することを意図しており、次いで、これらのペレットは、再度プラスチックを加熱及び形成することを必要とする最終使用者の製品の生成において用いられる原料となる。従って、PHA樹脂は、一般には、最終使用者の製品となる前に、少なくとも2回の加熱サイクルに耐える。あらゆる加熱サイクルのときに、プラスチック中のPHAは、平均分子量が低下する。プラスチック材料の特性は、樹脂の分子量によって直接的及び間接的に影響を受ける。例えば、溶融物の粘度は、分子量とともに低下して、プラスチックの加工性は、溶融物の粘度によって影響を受けやすい。粘度が高すぎても、又は低すぎても、同様に望ましくない場合がある。にもかかわらず、溶融物中で予測可能な挙動をするポリマーが好ましく、そのため一定の熱安定性及び化学薬品安定性をもつポリマーが一般的に有益である。機械的な特性は、処理されたポリマーの最終分子量によって変わり、分子量の低下は、生成物の機械的特性に対する負の影響を意味しているだろう。
【0013】
平均分子量の低下度は、PHAの熱安定性及び化学薬品安定性、溶融時間、温度、スクリュー速度、及び処理のときに加えられる剪断力を含めた要因に依存する。溶融物中のポリマーの分解は、所定の処理温度においてポリマー安定性を向上もしくは低下させる可能性のある化学的不純物又は添加剤によっても強く影響を受ける。最終材料における非PHA画分は、抽出された樹脂に存在する元々の不純物から構成されるだろう。非PHA画分は、添加された有機化合物及び無機化合物も構成要素であろう。
【0014】
添加される化合物の目的は、以下のようにまとめることができる:
1.熱安定化剤は、最終生成物の材料特性である加工性を損なう溶融物中の望ましくないポリマー分解物を減らすことに役立つ。熱安定化剤は、無機添加剤及び有機添加剤の両方を包含していてもよく、PHAからのプラスチック生成に費用を追加する。例は、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム及びホスホン酸である。
2.核形成剤は、溶融物からのポリマーの結晶化の開始及び速度を高め、迅速な結晶化は、最終生成物の産業上のプラスチック加工及び耐用年数にとって実際上重要である。最終的なPHAのモルフォロジー(形態)が影響を受け、これにより、材料の特性が影響を受ける。例は、窒化ホウ素、滑石、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、サッカリン、塩化アンモニウム、ステアリン酸塩及びホスホン酸である。
3.可塑化化合物は、ポリマーのガラス遷移を低減し、ポリマーを柔らかくして、脆弱性を低減し、それによって伸長度および衝撃強度を大きくする。これらの添加剤は、脆弱なPHB及びPHBVと同様に、短い鎖長のPHAに対して役割を果たす。例は、クエン酸アセチルトリアルキル類、トリアセチン、フタレートエステル類、マレイン酸塩、セバシン酸塩、アジピン酸塩、PHAオリゴマー類、ジオール類及びトリオール類である。
4.着色剤は、プラスチックに対し、特殊な色を付与する。色の要件は、極めて厳しく、従って、加工に起因する樹脂からのどのような着色傾向も、一貫しており、かつ補償され得ることが望ましい。
5.複合材料は、充填剤の機能的役割を果たし、材料の機械的特性を増強する添加剤を含む。例えば、バイオマスNPCMは、充填剤であると考えてもよく、得られた複合体は、樹木の苗のための生分解性容器(機械的特性の要求は、それほど面倒ではない)として用いられてきた。また、天然の繊維をPHAとの複合体として用いてもよく、この場合、ポリマーは、繊維の網目構造のマトリックスを提供する。このような繊維強化PHAは、PHA単独をかなり上回る耐衝撃性を有するPHAの強度を示しうる。また、複合体の材料特性がその用途の要求事項を満たすものであれば、PHA含量を減らすことによってプラスチックの費用を安くするために、充填剤を使用してもよい。
【0015】
バイオマスから回収されたPHAは、良好ではない熱安定性及び化学薬品安定性を示すことが観察された。現在市場で入手可能な天然の樹脂は、溶融物中で急速に分解する。加工中の分子量低下は、溶融粘度が低くなりすぎたり、又は、最終生成物の品質に悪影響が出たりする時点までは許容することができる。しかし、このような分子量低下マージンは、加工時間内に得ることは現実的に可能でない場合がある。回収されたPHA樹脂の熱安定性は、関与する不純物を除去するためのさらなる精製によって、又は安定化剤を添加することによって改善することができる。これによって複雑化し、費用が増える。それに加え、安定化剤の中には、PHA系プラスチック生成物が寿命を迎えるまでに起こり得る環境的な問題に起因して、責任が生じるものがある。
【0016】
蓄積プロセスから回収されたバイオマスのPHA含量を増やすために、バイオマスに由来するNPCMを除去してもよい。NPCMは、機械的手段、化学的手段、酵素による手段及び熱的手段又はそれらの組み合わせを含む処理の戦略を用いて除去することができる。最適なNPCM除去条件は、処理期間、化学物質/酵素の濃度、加えたエネルギーの量及び温度を包含する。バイオマスのPHA含量を70%をかなり上回るところまで高める能力があるものの、このような処理は、バイオマス中のPHAの分解をある程度促進してしまうことがある。細胞の溶解及び基質中へのPHA顆粒の放出によって、他の細胞破片からのPHA包含物の分離がさらに複雑化する場合があり、生成物の収量が減ってしまうことがある。バイオマスがかなりの量可溶化することによって、有機物の炭素、窒素及びリンが溶液に放出することに起因して、下流の排水処理問題が生み出される。
【0017】
PHA含量を高めることができる場合であっても、バイオマスの調整によって、炭素、窒素及びリンが同時に放出することに起因して同様の廃棄物管理の責任が生じる。この責任は、炭素を用いてバイオガスを生成することができ、栄養分が欠乏する産業廃水を生物学的に処理するために栄養分を再利用することができるという状況では、利点に変えることができる。しかし、ポリマー回収の収率は、細胞破砕後に懸濁固体の捕捉がうまくいかず、細胞破片及びPHA顆粒の混合物が生じてしまうために、減ることがある。
【0018】
バイオマスの調整によってPHA含量を高めることができる場合であっても、PHA樹脂の生成は、最終的に常に、ある形態の溶媒抽出を要するだろう。PHAは、溶媒にPHAを溶解することによってNPCMから分離される。バイオマス中でPHAの熱安定性が悪いために100℃を超える温度を避けるべきである場合、クロロホルム及びジクロロメタンのような塩素化溶媒が必要なことがある。これらの溶媒を用いてPHAを抽出するときは、溶解しないNPCMを濾過した後に水又はメタノールのような非溶剤を用いて溶媒からPHAを沈殿させる。用いられる塩素化溶媒及び共溶媒の組み合わせに起因して、大量の有害廃棄物が生み出される。
【0019】
PHAの場合、バイオマスが、マトリックス中のPHAの熱安定性及び化学安定性を改善する程度まで少なくとも調整されたならば、PHA回収のプロセスに必要な温度は、100℃〜160℃の範囲であってもよく、この温度で分子量の低下はわずかである。この温度範囲では、多数の貧溶媒がNPCMからPHAを抽出することができる。これらの溶媒は、100℃未満ではPHAを溶解しない溶媒であるが、100℃を上回ればPHAを抽出するのによい溶媒である。このような溶媒の例はとりわけ、アセトン、ブタノール、プロパノール、エタノール、メタノール及び1,2プロピレンカーボネートである。しかし、これらの溶媒に溶解したPHAの安定性は、溶媒の種類および異性体によって変わる。いくつかのPHAは、より低温で抽出することができ、その結果、必要な溶媒及び抽出温度も、PHAによって変わる。PHBは、溶解度及び溶媒抽出に関して最悪の状況の1つを提供する。バイオマスからPHA樹脂を溶媒抽出するのに必要な高温にさらされる可能性にかかわらず、一般には、溶媒抽出前のバイオマス乾燥は、100℃よりかなり上の温度でさらに効果的に達成されるだろう。例えば、二重ベルトの低温乾燥器は、140〜180℃の温度にバイオマスをさらすことを意味しているだろう。
【0020】
抽出後のNPCM残渣は、元々のバイオマスのうちほとんどの有機物の炭素、窒素及びリンをまだ含んでいる。この抽出残渣は、衛生的であり、生物学的技術及び熱化学技術のための適切な原料であって、骨格となる化学物質及び/又はエネルギーが得られる。化学物質抽出/エネルギー抽出の後のNPCM又は引き続く残渣をまた、農業用の栄養及びミネラルを供給することを意図している製品配合物に直接用いてもよい。従って、PHA回収の方法は、スラッジ管理における現時点での技術水準と比較して、廃棄物管理の問題を回避しながら、他の付加価値のある残渣を捕捉するのと並列的な方法であることもわかるだろう。
【0021】
PHAを豊富に含むバイオマスからPHA回収溶液を得るための開発の労力は、以下を中心的な目的として念頭においていた。
1.化学的な添加剤の必要性を限定し、それによって、廃棄物バイオマスプロセスに関連するプロセスの複雑性及び費用を低減する、
2.樹脂抽出の前に高温のバイオマス乾燥を可能にする、
3.バイオマス中のPHAが、溶媒抽出前に熱的及び化学的に安定であることを確保することによって、非塩素化溶媒でのバイオマスからの高温樹脂溶媒抽出を可能にする。
4.プラスチック配合物中での安定化剤の必要性を有意に減らすために、高温安定性であるPHAの生成を容易にする、および
5.NPCM残渣の供給源を捕捉し、その無機物、有機物及び熱の含有量について容易に管理及び活用できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
純粋培養及び混合培養のバイオマス中のPHAが示す熱安定性は劣っている場合がある。市販のPHA樹脂はまた、任意の安定化剤が存在しない状態では、示す熱安定性が劣っていることも公知である。PHA含有バイオマスの熱安定性、及び純粋な樹脂の形態のPHAは、カルシウム、マグネシウム及びナトリウムのような残留するI族およびII族の金属の存在によって有意に影響されることが理解される。
【0026】
樹脂中のPHAの熱安定性は、一般的にはPHAが溶融状態である間に安定化剤を加えることによってある程度まで克服できる。従って、安定化剤は、平均分子量の低下を犠牲にして添加される。さらに、安定化剤は、PHA樹脂マトリクスと均一に相互作用しない場合もあり、これが今度は材料特性に影響する。従って、PHA樹脂の元々の熱安定性が高いほど、混合されたマトリクスの全体的な特性が優れることになる。
【0027】
或いは、PHA樹脂の熱安定性は、酸性化した塩素化溶媒中での酸洗浄による費用及びその労力を通じて残留金属含量を減らすことによって改善することができることが報告されている。精製した樹脂としてのPHAの熱安定性が劣っていれば、ポリマーの加工性は損なわれる場合がある。PHA樹脂の熱安定性が相殺されようと(安定化剤)又は改善されようと(酸−塩素化溶媒による処理)、これらの改善法では、環境に優しい技術の原料としてPHAの魅力を損なう費用及び廃棄物の追加が必要となる。さらに樹脂精製のための適切な抽出溶媒の種類が制限される可能性があることは、最終樹脂の顕著な分子量低下を起こさず、乾燥及び溶媒抽出に100℃を超える温度を加えることが可能であるような、PHAを豊富に含むバイオマスが望ましいことを意味しており、従って、バイオマス中のPHAの熱安定性及び化学薬品安定性は、バイオマスの乾燥及び樹脂の溶媒抽出の前に改善される必要がある。
【0028】
PHAの蓄積後の混合培養バイオマスを処理するための溶液は、一連の処理工程に関係する(
図2)。いくつかの処理工程は、実質的に時間及び/又は場所の隔てられた別個の及び別々の作業の一部として行われることが当然であろう。これらのプロセス工程のいくつかを行うために、別個のユニットプロセス(リアクター)が必要な場合があるが、この一連の他の工程が、同じユニットプロセス又はリアクター内で容易に統合され組み合わされてもよい。このプロセスに入れられるのは、PHAの乾燥重量が40%を超える蓄積された後の新しいバイオマスである。このバイオマスマトリクスのPHAが示す化学薬品安定性及び熱安定性は悪い。このバイオマスは、貯蔵されたPHAを解重合する傾向がある酵素系でまだ活性なままである。
図1のプロセスVから出てくるのは、5重量%未満の水分と、化学薬品安定性及び熱安定性が有意に改善されたPHAとを含有する同じバイオマスである。このバイオマスは、PHAの特性を損なうことなく100℃を超える温度で溶媒によって抽出することができる。溶媒抽出後の生成物は、PHA樹脂、NPCM及びリサイクル可能な溶媒である。
【0029】
工程の順序は以下のとおりである。
1.蓄積後の一次バイオマス脱水:
できる限り処理した廃水を排出する。蓄積後、2〜10g/LのTSSを含む混合液(そのTSSのPHAは、乾燥重量として40%を超える)が典型的には予想されるだろう。この混合液のpHは典型的には、7を超えるが、10未満である。蓄積プロセスによって、炭素除去における生物学的処理が得られる。その後のバイオマスの取扱いでは、pH調節が必要であり、そのため緩衝能力を減じるためにできるだけ多く液体を除去することが有利である。好気性のバイオマス代謝に起因するPHA損失を最小にするためには嫌気性条件が有益である。定着した(settled)バイオマスは、ポリマー含量に対するなんら有意な影響なしに最大12時間まで貯蔵された。この最初の脱水によって、1%を超えるが10%未満に乾燥した固体を得ることが予想される。化合物の添加を用いてバイオマス凝集を補助してもよい。脱水工程への空気の取り込みは、回避されなければならないが、不可避である場合、空気取り込みの量及び期間は最小限にすべきである。
【0030】
2.混合液のpH低下。
一方でバイオマス中のPHAの熱安定性及び化学薬品安定性も高めつつ、微生物活性を阻害するために、混合液pHを2〜5に調節する。PHA含有バイオマスの熱安定性の改善は、標準的な方法による熱重量分析(Thermal Gravimetric Analysis)(TGA)によって評価することができる。バイオマス乾燥及び引き続く溶媒抽出が両方とも100℃を超える温度の場合、熱安定性を高めることが好ましい。熱安定性は、バイオマスの無機物含量と、かつ最も顕著には、カルシウムのような陽イオンと正の相関関係がある。
【0031】
PHA化学薬品安定性の改善は、例えば、アセトン中、125℃で2時間標準化された抽出を行った後の分子量の低下によって評価することができる。バイオマス中のPHAが化学的に安定であることなく熱的に安定であることが可能であり、かつ熱安定性の改善が最小限でありながら化学薬品安定性を達成することが可能である。熱安定性又は化学薬品安定性は、単独でも高温での乾燥及び溶媒抽出の際の分子量低下度を低減するが、熱安定性及び化学薬品安定性を組み合わせると、最高の結果が得られる。
【0032】
pHの低下は、限界的なバイオマス可溶化という副次的な影響をもたらす。例えば、H
2SO
4によってpH2まで酸性化すると、100mgCOD/gTSS及び5mgN/gTSSという程度まで放出されると予想されるだろう。バイオマスからのCOD及び窒素の可溶化は、(可能性が高いのは)細胞外タンパク質及び多糖類の放出に関係がある。一般には、バイオマスからの窒素放出は、炭素放出に比例する。5未満のpHにおいては、液体マトリックスの緩衝能は無視できるようになる。しかし、バイオマスは、5未満、かつ2を超えるpHに関しては有意でかつ一定の緩衝能を発揮することが観察された。pH2付近では、バイオマスの緩衝能は劇的に増大する。本発明者らは、バイオマス中のPHAの熱安定化及び化学的安定化の目的が、2より大きく5未満のpHで十分に達成され得ることを観察した。必要なpHは、混合液マトリックスの性質及び蓄積供給物次第で事例ごとに変わるだろう。pHの調節は運用費用を追加してしまうので、pH調節は、必要最低限であるべきである。TGA測定によって、任意のPHA含有バイオマスの安定化が達成されたか否かを決定する手段が得られる。
【0033】
混合液のpHを下げると、無機物の炭素が炭酸に強制的に変わるため、二酸化炭素ガスの放出を含む場合がある。このような二酸化炭素の泡は、溶存ガスを浮遊させること、及びpH調節後の混合液からのバイオマスの分離に利用できる。バイオマスの酸化又は機械的な分散を酸性pH調節とともに用いる場合、懸濁した固体の脱水特性が悪くなることがわかった。
【0034】
バイオマス中のPHAの熱安定性がある程度改善された化合物を増やすという同様の結果は、穏和な酸化によって達成することができる。特定的でない酸化剤の例としては、次亜塩素酸塩、過酸化水素及びオゾンが挙げられる。次亜塩素酸塩のみを用いたバイオマスの穏和な酸化は、熱安定性を同じ程度まで改善しない場合があるが、その場合であっても、熱溶媒抽出のためのPHA安定性の満足な改善が得られるようである。TGA測定によって、次亜塩素酸塩処理が、バイオマス中のPHAの熱分解の開始の境界となる温度を高めることが示される。バイオマスの穏和な酸化は、PHAの化学薬品安定性を高める。このような穏和な酸化をpH調節と組み合わせると、バイオマスからのPHAの溶媒抽出のための熱安定性及び化学薬品安定性にとって良好な結果となり得る。しかし、バイオマスの酸化はまた、かなりの量の有機物の炭素及び窒素を溶液中に溶解させる。バイオマスからのCODストリッピング(取り出し)の利点は、懸濁した固体中のPHA含量が増えることである。COD及び窒素の放出の不利な点は、これによって廃水処理の懸念が生じることである。酸化剤は、バイオマスだけではなく、ポリマーも分解することがある。
【0035】
3.pH低下後の二次的なバイオマス増粘及び脱水:
このバイオマスをさらに、例えば、溶存ガスの浮遊を含む種々の手段によって脱水する。このガスは、一部は、酸性化によって形成される二酸化炭素の泡に起因するものであろう。浮遊によってバイオマスの分離を達成するために、分散空気も添加してもよい。さらに、バイオマス脱水を改善するために、分離中に化合物を添加してもよい。混合液のpHを下げた後、バイオマスの代謝活性が低下し、それによって、バイオマス中のPHAは、溶解した空気の浮遊又は他の形態の空気取り込みの間に代謝による分解を受けにくくなる。バイオマスを、好ましくは20%を超えて乾燥した固体にまで脱水する。溶解した空気の浮遊によって、4%を超えて乾燥した固体が達成されることがあり、そのため追加の手段、例えば、遠心分離が必要であろう。バイオマスの水含量を下げる他の方法を、溶存空気の浮遊及び/又は遠心分離の代わりに適用してもよい。
【0036】
CODの可溶化は、酸化剤、酵素、界面活性剤、分散、均質化及び/又はバイオマスの熱処理によって増強することができる。この段階でのバイオマスの化学的、熱的又は機械的な処理は、限定するものではないが、以下を含む理由のために興味深い場合がある。(1)バイオマス中のPHA含量を向上させること、(2)VFA又はバイオガス生成のためのCODの供給、(3)生物学的廃水処理のための窒素の供給、又は(4)懸濁した固体の脱水における改善。同時に、これらの処理は、攻撃性が強すぎて、PHAの損失を生じる可能性があるという危険性がある。資源(化合物及びエネルギー)を入れることは、PHA及びNCPMの管理という両方の観点から正当化されることがある。混合した培養系に関して場合に応じて、用量、時間及び温度を含む条件の最適化が必要になる可能性がある。
【0037】
4.バイオマスの乾燥又は水置換。
高温溶媒抽出のための最適条件を達成するためには、バイオマスを乾燥しなければならず、又は水を置換しなければならない。乾燥後の最終水分含量は好ましくは、5%を超えてはならない。PHA含有バイオマスの安定性を達成するための上述の調整で、100℃を十分に超える乾燥温度の使用が可能になる。
【0038】
5.溶媒抽出。
PHAを、100℃を超える温度で、PHBについては、好ましくは120℃を超える温度で、非塩素系有機溶媒によってNPCMから抽出してもよい。抽出した後、PHA沈殿の前または後に、PHAをNPCMから分離する。抽出溶媒によっては、PHA樹脂の沈殿は、第二溶媒の添加を必要とすることがある。溶媒をNPCM及びPHAから分離する。この溶媒を回収し、蒸留によって再利用することができる。PHAを乾燥する。NPCM及び溶媒は関連の残滓とともに、回収されてもよいし、及び/又は加熱要求のための燃料として部分的に用いられてもよい。
【0039】
バイオマス中のPHAの十分な調整(安定化)が達成されたならば、抽出後のPHA樹脂は、バイオマスの調整をしない場合と比較してその分子量のかなりを保持するはずであり、PHAは、TGAによって、又は動的レオロジー測定による分子量低下率によって評価される場合、安定であるはずである。
【0040】
PHA含有バイオマス及びPHA樹脂の安定性評価
熱重量分析(Thermal Gravimetric Analysis)(TGA)
乾燥したPHAを豊富に含むバイオマス又はPHA樹脂サンプルを2〜5mg秤量し、空気中又は窒素ガスのような不活性ガス環境で加熱する。サンプルの温度を105℃に上げ、重量を平衡状態にする。サンプルからの水分の消失を、105℃で重量を平衡状態にした後に評価する。温度を上げ、一定温度上昇(傾斜)条件下、又は一定温度(等温)条件下のいずれかで重量低下を記録する。プロセス評価のために、及びこの開示で提示された結果について、標準化したTGA測定プロトコールを採用した。このTGAプロトコールは、サンプルのバイオマスを、窒素雰囲気下、(105℃で水分を除去した後に)連続して温度を10℃/分で最大350℃まで上昇させ、その後に、最終温度が600℃になるまで空気雰囲気下で上昇させることを含む。バイオマス中のポリマー及び抽出されたPHA樹脂の両方とも、この標準化された方法によって評価することができる。温度の関数としてのこの重量低下及び重量低下率の変化が検討された。
【0041】
PHA含有バイオマス及びPHA樹脂についての、温度の関数としてのサンプルの重量損失率トレンドにおけるピークは、一般には200〜300℃の範囲で観察される。PHA質量分解に関連するこのピークの領域は、抽出され、正規化され、かつこのピークについての異なる特徴的な温度関連属性が規定される。分解温度(T
d)とは、上で規定した標準化されたTGAプロトコールを使用した場合の最大PHA重量損失率の時点での温度であると定義される。総ピーク領域の特徴的な画分を示す温度、例えば、5(T
5)、25(T
25)、50(T
50)、75(T
75)及び95(T
95)パーセンタイルも定義することができる。当業者はまた、250℃でのPHA分解画分(f
d250)のような特定の温度に対してピーク面積画分を比較することができる。T
5、T
25などの用語は、上で規定した標準化されたTGA測定プロトコールに基づいて定義される。従って、T
5を決定するには、例えば、サンプルバイオマスについて、標準化されたTGA測定プロトコールを行う。同じことがT
dを決定するためにもあてはまる。
【0042】
レオロジーによる動粘性係数測定
提示されるTGAデータと同様に、本開示で報告されるデータについては、標準化された動粘性係数測定方法が適用されている。乾燥し、抽出したPHAサンプル0.6gを180℃で2分間、最大圧力10barで加圧した。このサンプルを、25mmの直径を有する1mm厚の円板形の型に溶融加圧した。加圧後、サンプルを、円板形の型から取り出して、過剰な蒸発性材料を除去した。得られたPHA円板状サンプルを、TA Instrument AR 2000のようなレオメータに入れ、動粘性係数を、180℃で最大40分までの温度掃引測定で測定した。この温度掃引の間、2%の歪み振幅及び10Hzの周波数を両方とも一定に保持した。窒素ガスで冷却しつつ、温度を一定に維持した。
【0043】
Pa・sで表される動粘性係数(|η
*|)は、溶融が非ニュートン性である限り、重量平均分子量(M
w)と直線的に関連し得る:
M
w=m・|η
*|+b
ここで、m及びbは、PHAの種類及びレオロジー測定の条件(温度、頻度及びひずみ)に依存して変わり得る比例定数である。|η
*|の減少は、M
Wの減少と同等である。定数m及びbが同じであることが予想される所定のポリマーについては、|η
*|の差は、ポリマーM
Wの差と比例した値を示す。
【0044】
平均分子量分布の評価
一定の所定温度かつあらかじめ決めておいた抽出時間で、有機溶媒を用いて乾燥バイオマスからPHAを抽出した。この抽出したポリマーを沈殿させ、標準化された方法によって溶媒から分離した。バイオマスの前処理及び抽出方法が分子量低下に及ぼす影響は、以下のようないくつかの関係する参照項目から決定できる:(1)異なる暴露時間についての同じ抽出方法に関する一次減衰係数、(2)標準化された抽出方法に関連する変化、又は(3)抽出温度の変化に伴う分子量低下に関連する熱感受性。
【0045】
抽出したポリマーの分子量分布(ポリスチレン標準をリファレンスとする)を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって決定した。SECは、ポンプ(Viscotek VE 1 122)、二重屈折計/粘度計−検出器(Viscotek Model 250)及び連続して結合された3つの直線状カラム(Shodex KF−805、Shodex KF−804及びShodex KF802.5)を用いて行った。検出器の温度は、37℃であったが、この試験は室温で行った。用いた溶媒は、流速1mL/分のクロロホルム(Merckプロ分析>99%)であった。注入容積は、100μlであった。
【0046】
分子量は、それぞれ1,800、650、96及び30.3kg/molという既知の平均分子量を有する4つの異なるポリスチレン標準を参照して較正した。屈折率を測定する検出器を用いて、標準及びサンプルのシグナルを検査した。
【0047】
SECによって検査したサンプルを、5mg/mLの濃度になるように100℃で10分かけてクロロホルムに溶解した。カラム中にサンプルを注入する前に、ポリマー溶液を濾過した(PALL Life Sciences Acrodisc(登録商標)CR25mm Syringe Filter(0.45μmの細孔サイズを有する))。各々のサンプル由来のPHAについての分子量に分けた分布から、M
w、M
n及びPDIの特徴的な量を算出する。
【0048】
実験による概念の裏付けおよび立証
バイオマスの供給源及びバイオマス中のPHA蓄積
PHAを蓄積するバイオマスの3つの別個の供給源を考慮した。栄養を制限した条件下で、RBCODの選択された供給源をバイオマスに供給することによって、PHAを蓄積した。栄養とは、非PHAバイオマス成長のための任意の要素を指し、有機物の炭素は含まれない。例えば、微生物増殖のための窒素及び/又はリンの必要性に関する栄養制限を用いてバイオマス中のPHA貯蔵反応を刺激した。
【0049】
このバイオマス源は以下のとおりであった:
●スウェーデンのパイロットプラント規模の施設で酪農業の産業廃水処理に用いられる活性化スラッジ(activated sludge)(AS)(AS−S)。AS−Sサンプルを受領し、PHA蓄積実験は、2年にわたるパイロットプラントの運営、及び5年のベンチスケールのプロセス開発で、このバイオマスについて定められたとおりに行われた。このパイロットプラントは、連続バッチリアクター(反応器)(SBR)で構成されていた。このSBRは、12時間サイクルで操作される400Lの作業容積を有していた。SBR中のバイオマスの滞留は、重力沈降によった。名目上の廃水の水理学的滞留時間(hydraulic retention time)(HRT)は1日であって、プロセスは、1〜8日の種々の年齢のスラッジ(固体保持時間又はSRT)で行われた。1〜2g−RBCOD/L/dの有機物保持速度を適用し、廃水処理プロセス中で微生物増殖が制限されないように、栄養物を必要に応じて供給した。活性化されたスラッジバイオマスは、PHAを含まない乾燥バイオマス重量の最大でほぼ100%という有意なPHA蓄積能力を示した。
●フランスにおいてフルスケールでの都市廃水の処理に用いられる活性化スラッジ(AS)(AS−F)。AS−Fのサンプルを受領し、PHA蓄積実験は、このバイオマスに対して実験室で(500mL)及びパイロットスケールで(100L)行った。
このバイオマスを生成する都市廃水処理プラントは、フルスケールで200,000人規模になるように設計されたものである。このプラントは、26,750kgCOD/dという都会の有機廃水汚染の処理を管理する。高度に保持された活性化スラッジのユニットプロセスは、流入液の廃水から容易に生分解可能な有機含量を除去して、これによって1日あたり約22.2トンの廃棄物の活性化スラッジ(WAS)が生じる。この活性化スラッジバイオマスは、PHAを含まないバイオマス乾燥重量の最大約67%までのPHA蓄積能力を示す。
●Cuphavidus necatorの純粋培養(PC)バイオマスをフランスで培養及び生成し(PC−F)、PHA蓄積後に乾燥されたPCバイオマスサンプルとして提供した。Cuphavidus necatorとは、PHA産生のための純粋培養研究で長年にわたって用いられてきた、グラム陰性の原核生物である。この純粋培養は、PHAを含まない乾燥バイオマス重量の最大でほぼ400%になる過度のPHA蓄積能力を示す。
【0050】
PHAは、バイオマス中で好気的に蓄積された。スウェーデン及びフランスのASバイオマス(AS−S及びAS−F)は、発酵された酪農業の廃水又は産業廃水のいずれかを基質として用いて100Lの流入バッチ反応器(リアクター)中でPHAが蓄積された。両方の基質ともVFAが豊富である。同時に、両供給源について栄養含量が少ないということは、このバイオマスがこれらの廃水とともに供給された場合、微生物の増殖が栄養によって制限されることを意味する。従って、廃水VFAは、バイオマス中でPHA蓄積のためにRBCODとして用いられ、かつ蓄積応答の間の微生物増殖反応は抑制された。蓄積サイクルは、5〜24時間にわたり、かつバイオマス中のPHAの最終レベルは、蓄積後の乾燥バイオマスの30〜60%におよんだ。蓄積サイクル後、通気を中断し、バイオマスを重力によって沈降させた。蓄積の終了時点でのリアクター中の残留VFA量は無視できた。上側にある処理済みの廃水をデカントした。重力によって沈降した増粘したバイオマスは、PHA含有バイオマスの安定性及びこのPHAを豊富に含むバイオマスからのPHA樹脂回収の評価のための出発原料であった。
【0051】
PC−Fは、実験室規模でRBCOD供給源として酪酸を供給されたバッチであった。蓄積の終わりの時点で、バイオマスを遠心分離して、上清をデカントした。PHAを豊富に含むC.necatorの増粘バイオマスを直接凍結乾燥した。凍結乾燥したバイオマスを、この純粋培養のPHAを豊富に含むバイオマスにおいてPHA安定性を考慮するための出発材料として用いた。
【0052】
PHA含有バイオマス及びバイオマスの無機画分の熱安定性
バイオマスサンプルのTGAは、バイオマス無機画分、並びにバイオマス中のPHAの量及び熱安定性の情報を与える。バイオマスの無機画分は、600℃のオーブン温度に達した後、サンプルの残った重量から推定した(
図3)。無機画分又はバイオマス灰分(biomass−ash)という用語は、空気中でサンプルを最大600℃にした後に残っている推定のTGAサンプル残留物を指して用いる。灰分含量を推定した後、サンプルの重量から推定の灰分含量を引いたもの、すなわち推定の有機サンプル重量をさらに考慮した。TGAは、相対的なサンプルの有機物重量が徐々に減っていき、漸近的に相対重量ゼロになって終わることを示す。バイオマス中のPHAの量及び質は、温度の関数として質量低下率から評価できる(
図4及び
図5)。10℃/分という勾配の、本発明者らのTGAの標準方法に従って、バイオマス中のPHAは、200〜300℃で一般には生じる、重量低下率の特徴的なピークによって特定される。PHAピークについての温度が高いほど、バイオマス中でPHAの熱安定性は高い。本開示の目的に関して、PHA含有バイオマスの分解温度(T
d)とは、分解がこの温度より低い温度で開始しその後に続く場合であっても、バイオマス中のPHAについて最大の重量損失率となる温度で定義される。特徴的なPHA分解温度はまた、5(T
5)、25(T
25)、50(T
50)、75(T
75)及び95(T
95)パーセンタイルのような、バイオマス中のPHAの分解のパーセンタイルによって定義することができる。いくつかの場合には、250℃のような固定温度(f
d250)での分画的PHA分解を特定することも有益である。バイオマスの有機物含量の傾向から、当業者は、有機バイオマスのPHA画分及び非PHA有機画分、並びにPHA含有バイオマスの熱安定性を観察する。
【0053】
蓄積の間のバイオマス中のPHAの熱安定性は、そのバイオマスに関連する無機物の量に対して負の相関関係がある。一般には、バイオマス中の無機物の量が少なくなると、PHAの熱安定性はさらに高くなった。バイオマスの無機画分は、最終的な脱水及び乾燥の前に混合液のpHを下げることによって有意に減少した(
図6)。
【0054】
AS−Sを用い、繰り返し蓄積実験を行った。酪酸に富んだ化学的な産業廃水、又は酪酸及び酢酸に富んだ酪農業の産業廃水のいずれかを用いてバイオマス中でPHAを蓄積させた。PHA蓄積の間のpHは制御しなかったが、一般には、pH7.5〜pH9の範囲内であった。それぞれのPHA蓄積の終わりに、バイオマスサンプルを遠心分離して、上清をデカントした。残りの濃縮ペレットを70℃で乾燥した。PHA含有バイオマスの熱安定性は、一貫しておらず、各実行でさまざまに変化したことが観察された。PHA蓄積(g−VSS)と並行して、各々の実験について異なる程度で、このバイオマスはまた、無機物の量の増加と関係していたことが観察された。蓄積実験の終わりのPHA含有バイオマス(PHA−in−biomass)の熱安定性は、このバイオマスによる同時の無機物同化(g−ash)のレベルと負に相関した。1つの異常値によって、無機物の量だけでなく、無機物の種類もさらに考慮する必要があることが示唆された(
図7)。
【0055】
バイオマス無機画分への注目
PHA含有バイオマスの熱安定性に対するバイオマス中の灰分含量の役割をよりよく理解するために、別の蓄積実験からのバイオマスのサンプルを、元素分析に送った。バイオマスの脱水サンプル及び乾燥サンプルとして、PHA蓄積の前(2サンプル)、PHA蓄積の後(3サンプル)、及び最終脱水の前に混合液を酸性化した後(3サンプル)に採取したサンプルを選択した。
【0056】
バイオマスの相対的な無機組成は一貫性があり、カルシウム及びリンが主要成分であり、続いて、カリウム、鉄及びマグネシウムとなっていた(
図8)。銅、亜鉛及びアルミニウムが続き、約1%という相対含有量に相当する相対量であった。マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、コバルト、ニッケル、クロム及びモリブデンは、画分の相対量で、1%の微量成分であった。I族及びII族の金属、例えば、Ca
+2、Mg
+2、及びNa
+1は、PHAの熱安定性に影響することが文献的に公知の元素である。PHAの熱安定性はまた、金属Zn
+2、Sn
+2又はAI
+3によってほとんど影響されないことが以前に示された。蓄積前のバイオマスの評価された相対的なカルシウム含量は、最も変動しやすかった。しかし、PHAの蓄積は、無機含量のうち、カルシウム及びリン成分が相対的に顕著に増加するという一貫した傾向と関係があるようであった。同様に、最終的な脱水及び乾燥の前iPHA蓄積後の混合液を酸性化すると、バイオマスの灰分含量のうちの相対カルシウム含量の有意な低下を促進することが観察された。
【0057】
少なくとも水化学の観点から、蓄積プロセス中のカルシウム増加というこれらの観察は、理解できる。蓄積プロセスは、水中のRBCODをPHA及び二酸化炭素に変換する。pHが大きくなるにつれて、生成した二酸化炭素の大部分が、溶液中で炭酸塩として保持される。炭酸カルシウム無機物形成の傾向は、カルシウム及び/又は炭酸塩の濃度が増加するにつれて増加する。アルカリ性のpHは、無機物形成を促進するが、酸性pHは、ミネラル溶解度を増加させる。リン酸カルシウムを含むカルシウムの他の無機物はまた、pH低下とともに溶解度が増大するという同様の傾向で形成されることがある。マグネシウムのような他の陽イオンは、カルシウムと同様に挙動するだろう。
【0058】
バイオマスのカルシウム含量は、リン、カリウム、マグネシウム、マンガン、バリウム及びストロンチウムに対して強い相関関係があった。カルシウムは、バイオマス灰分含量の主要分であるが、PHA熱安定性に影響し得る元素としても公知であるので、測定されたバイオマスカルシウム含量とPHA含有バイオマス熱安定性との間の見かけ上の関係(
図9及び
図10)を考慮した。この傾向は、これらのサンプルについて40〜50%の範囲にあるバイオマスPHA含量における相違に対して敏感であるようには見えなかった。バイオマス中のカルシウム無機物含量の減少は、バイオマス中のPHA分解を示す温度範囲が大きくなっていくことと関係があった。この効果は、進行していくようには見えず、限界値へと向けて少なくなるように見えた。PHA含有バイオマスの分解は、低い方の温度範囲である210〜230℃から270〜290℃の温度範囲までシフトした(
図9)。250℃でのPHA含有バイオマス分解の程度は、100から10%未満まで低下した(
図10)。
【0059】
100℃を超える温度で有機溶媒を用いてバイオマスからPHAが抽出され、バイオマス中のPHAの熱分解を避けるべきであるならば、PHA含有バイオマスの高い熱安定性が必要である。繰り返し蓄積実験におけるPHA含有バイオマスの熱安定性は、T
dが220〜260℃におよび、さまざまであった。最終的なバイオマスの脱水及び乾燥の前に混合液を酸性化すると、T
dが280℃を超える一定レベルまで上昇した。必要な酸性化の程度は、270℃より大きい、ただし好ましくは280℃を超えるPHA含有バイオマスの分解温度を有する乾燥バイオマスを生じるようなpH低下として操作上定義することができる。
【0060】
溶媒抽出前のPHA含有バイオマスの熱安定性の役割
PHA熱安定性を高めるためにバイオマスを調整する重要性は、AS−Fバイオマスで行われた蓄積実験によって同様に示された(
図11、
図12、及び
図13)。70℃で乾燥したバイオマスサンプルを、PHA蓄積前、PHA蓄積及び脱水後に採取し(対照のサンプル)、ここではpHは7と9との間であり、かつPHA蓄積後、pHは3に調節し、引き続く濃縮工程は、溶存ガス浮遊及び最大150g/Lまでの遠心分離を含んでいた。蓄積の間、バイオマス無機画分は、徐々に減少し、酸性化によってさらに減少し、これによって、PHA含有バイオマス分解温度が最も有意に上昇した。
【0061】
より高いPHA含有バイオマス熱安定性を達成することができなかったとき、アセトン又は1,2−プロピレンカーボネート溶媒(非塩素系溶媒)系のいずれかを用いる125℃で2時間の抽出の間に顕著な分子量低下が生じた。ある程度の分子量低下が、40℃でジクロロメタン抽出したときにも観察された。対照、及び酸性化した混合液(ML)抽出について、PHA樹脂純度は、それぞれ96及び93パーセント(ジクロロメタン)、96及び97パーセント(アセトン)、並びに97及び95パーセント(プロピレンカーボネート)であった。PHA樹脂の多分散性は、1.8±0.2であった。この実験で試験した全てのそれぞれの抽出溶媒では、混合液(ML)の酸性化によるバイオマスの事前調整によって、優れた結果が得られた(
図13)。ポリマー抽出の収率は、抽出時間を長くすると増やすことができ、分子量低下は、一次速度則に従うことが観察された。従って、抽出の収率と分子量低下との間の二律背反は、時に避けられない場合がある。このような二律背反は、抽出前のPHA含有バイオマスの熱安定性の改善によって低減することができる。
【0062】
しかし、分子量低下(
図13)は、抽出されたPHA樹脂のT
dに影響しなかった(
図14)。混合液(mixed liquor)(ML)の酸性化は、PHA含有バイオマスのT
dをさらに上昇させ、アセトン抽出によって、さらに改善された熱安定性を有するPHA樹脂が得られた(
図14)。対照的に、ジクロロメタン及びプロピレンカーボネートによる抽出は、PHA含有バイオマスのT
dとより類似したPHA樹脂熱安定性を与えた。抽出後のPHA樹脂についてのT
dは、TGAにより導出された非PHA残渣質量画分とは相関関係がなかった。
【0063】
従って、PHA含有バイオマスの熱安定性を改善するためのバイオマスの調整によって、バイオマス乾燥及び溶媒抽出の間の分子量の低下度を低減することができる。さらに、PHA含有バイオマスのT
dの改善をもたらす事前調整は、抽出後のPHA樹脂にそのまま移行される。さらに、アセトンは、PHA抽出溶媒として、出発物質であるPHA含有バイオマスのT
dを上回りかつ超えてPHA樹脂の熱安定性をさらに改善するという注目すべき属性を示した。抽出されたPHA樹脂の純度は、結果となるT
dを示すものではなかった。
【0064】
改善されたPHA樹脂溶融安定性の指標であることが発見された、抽出されたPHA樹脂の評価のためのTGAパラメーターは、250℃のPHA分解画分(f
d250)、及び5%PHA樹脂分解の温度(T
5)である。T
5は高いほど、f
d250は低いほどよく、PHA樹脂溶融安定性についての質が向上した。アセトン抽出によって、両方の場合とも一貫して低いPHA樹脂f
d250が得られた。PHA含有バイオマス熱安定性の事前調整及び用いられる溶媒の種類は、得られたPHA樹脂の処理品質に影響を及ぼすことがある。
【0065】
純粋培養バイオマスに対する試験原理
PHA生成プロセスを、廃水処理施設でスラッジ管理作業と組み合わせて行った。しかし、それにもかかわらず、本発明者らは、本開示の原理が、PHA生成のための純粋培養発酵のプロセスに基づいたPHA生成についても同様に関係があるか否かを解明することを望んだ。この目的を達成するために、PC−Fのサンプルを遠心分離によって脱水し、PHA蓄積後に直接凍結乾燥した。PC−Fバイオマスの有機画分は、重量あたりほぼ81%PHAであった。バイオマス中のPHAを調整する原理を、既に乾燥したバイオマスから出発した場合にも試験した。
【0066】
PC−Fは、3つの画分、すなわち、リファレンス、脱イオン水による洗浄(リンス)、及び酸性水による洗浄に分けた。リファレンスは、受領したままのPC−Fバイオマスをどんな形の事前調整も行わずに評価し、抽出したものであった。洗浄は、1グラムのバイオマスあたり45mLの洗浄溶液(それぞれ、脱イオン水又は0.001Nの塩酸)を組み合わせること、及び室温で25分連続混合することによって達成した。最終的に、洗浄後、それらのバイオマス画分を遠心分離によって脱水して、その後上清をデカントして、得られたバイオマスを70℃で乾燥した。
【0067】
PHA含有バイオマスの熱安定性をTGAによって検査した(
図15)。PC−Fバイオマスを洗浄することで、PHA含有バイオマスの熱安定性の有意な改善が促進された。この改善は、最終的なバイオマス脱水及び乾燥の前の、混合液の酸性化についてのAS−S及びAS−Fに対する結果と同様の結果である。AS−S及びAS−Fについてと同様、PC−Fの酸性洗浄が、PHA含有バイオマスの熱安定性を最も改善した。PHA含有バイオマスの分解温度(T
d)の改善の程度は、ASバイオマスで達成されたほど大きくなかった。PHA含有バイオマスのT
dは、AS−S及びAS−Fについて280℃に近い温度が達成され、一方、PC−Fは、酸性洗浄後、ほぼ270℃のTdを達成した(
図15及び
図16)。この相違は、AS−S及びAS−Fでの試行に対するような蓄積直後の事前調整ではなく、既に乾燥したバイオマスを調整したことによって影響を受けたのかもしれない。にもかかわらず、PHA含有バイオマスの250℃での分解の程度は、ASと同様であり、酸性に調整した後は10%未満であった(
図17)。溶媒抽出前のPC−Fの事前調整は、同様に、バイオマスの無機画分を減少させ(
図16)、PHA有機画分は、83%までわずかに増加した。PHA含有バイオマスの熱安定性の基本的な観察及び操作の原理は、PHA樹脂の純粋な培養溶媒抽出に関しても再現され、等しく有用であることが見出された。
【0068】
PHAは、3つの異なる溶媒系(ジクロロメタン40℃、アセトン125℃及び2−ブタノール125℃)を用いて低温(40℃)及び高温(125℃)でPC−Fバイオマスから抽出された。抽出されたポリマーを、分子量分布(
図18)についてはSECによって分析し、また、PHA樹脂の熱安定性及び純度についてはTGAによって分析した(
図19及び
図20)。最大平均分子量は、凍結乾燥したPC−Fバイオマスを低温でジクロロメタン抽出したときに得られた。AS−Fバイオマス(
図13)とは対照的に、アセトン抽出は、分子量を10%しか低下させず、バイオマスを脱イオン水で洗浄するか又は酸性水で洗浄するかのいずれに対しても非感受性であった。しかし、バイオマス洗浄が、抽出した平均分子量に及ぼす影響は、2−ブタノール抽出のときに最も明らかであった。PC−Fバイオマスの酸性洗浄後、2−ブタノール抽出すると、ジクロロメタンで抽出したリファレンスと同様の分子量分布を有するPHAが得られた。PHAは、2−ブタノールの場合に高温での分子量低下の影響をさらに受けやすかったが、PC−Fバイオマスを事前調整すると、2−ブタノール抽出についてPHAの安定性が高まった。全てのサンプルについての多分散性は1.8±0.3で比較的一定であった。
【0069】
洗浄による事前調整は、100℃を超える温度での溶媒抽出プロセス中、PHAの平均分子量低下を軽減する能力を示す。分子量を保持する潜在的な有益性にもかかわらず、洗浄による事前調整は、その後の処理の間の溶融における分解に対して抵抗性を有する抽出PHAを生成するのに役立つだろう。
図19は、それぞれの抽出後のPHA含有バイオマスとPHA樹脂との熱安定性の差を比較する。上記で考察されたAS−Fプロピレンカーボネート抽出物についての結果と同様、ジクロロメタン及び2−ブタノールによる抽出は、PHA含有バイオマスのT
dの傾向に従った。2−ブタノール抽出におけるPHA樹脂のT
dは、抽出前の現存のPHA含有バイオマスのT
dを反映した。PHA含有バイオマスのT
dは、バイオマスの調整によって改善されたが、ジクロロメタン抽出の間、PHA樹脂のT
dは、一貫して最低であった。報告されたAS−F抽出の結果と一致して、アセトン抽出では、それぞれのPHA含有バイオマスの熱安定性を上回ってPHA樹脂のT
dが増強された。
【0070】
酸で洗浄され、アセトンで抽出されたPC−Fは、リファレンスであるジクロロメタンで抽出したPC−Fの255℃というT
dに比較して、283℃という最高のT
dを示した。抽出したPHA樹脂の熱安定性の改善は、抽出した生成物の純度の改善とは関係がなかった(
図19)。従って、PHA樹脂の化学的純度は、溶融安定性のような実用上の問題を含む機能的な安定性の改善と同義ではなかった。より純度の高いPHA樹脂は、実際のプラスチック処理の観点から必ずしも優れているとはいえない。
【0071】
溶融安定性の改善の指標であることが発見された抽出PHA樹脂の分析のためのTGAパラメーターは、250℃のPHA分解画分(f
d250)、及び5%PHA樹脂分解の温度(T
5)である。T
5は高いほど、f
d250は低いほど、溶融安定性に関してPHA樹脂の質はよくなるだろう。
図20は、f
d250及びT
5の連関を図示しており、これは、洗浄方法及び抽出のための溶媒に依存する。PC−Fの酸性洗浄、再乾燥及びアセトン抽出によって、純度がアセトン又はジクロロメタンで抽出したリファレンスPC−Fほど良くないにもかかわらず、f
d250及びT
5について最適の結果が得られた(
図21)。
【0072】
従って、機能的な品質を生成物の属性として考える場合、PHA樹脂の純度は、おそらく不純物の種類よりも小さな要因である。さらに、PHA含有バイオマスを事前調整することが熱安定性を改善するという結果を再現したことは、加熱溶媒での抽出について分子量が保持されることと関係があるだろう。PHA含有バイオマス熱安定性が高いほど、抽出されたPHA樹脂は、より熱安定性である傾向があるだろう。同時に、抽出に用いられる溶媒の種類は、結果に影響を及ぼすことがある。
【0073】
PHA樹脂の溶融安定性の実際上の重要性、及びその熱安定性が抽出されたPHA樹脂純度に対して十分に関連しないという観点から、本発明者らの混合培養PHAと市販の純粋な培養PHAとの間で純度をさらに検討し、一方では、TGA分解と、ポリマー溶融レオロジーと、溶融安定性との間のデータの連関を確立するための作業もした。
【0074】
無機不純物及びPHA樹脂の熱安定性
AS−S PHA樹脂(MC−PHA−AK)のサンプル、及び2つの別個の市販グレードのPHA樹脂(PC−PHA−1及びPC−PHA−2)を、無機元素含量について分析した(
図22及び
図23)。MC−PHA−AKは、酪農業の廃水を処理する混合培養物に由来し、市販のPHAは、純水培養(PC)発酵プロセスによって生成されていた。これらのサンプルについてのTGAによる非PHA含量は、200℃でのサンプル重量に対する、PHA重量低下ピーク後の350℃のTGA温度での残留物の画分に基づく。元素分析による非PHA含量は、検出した元素の質量に基づく非PHA画分を指す(
図23)。絶対純度に関して(
図22)、PC−PHA−1は、極めて純度が高いが、他の2つのサンプルは、同等の純度であった。しかし、TGA由来の推定の非PHA含量は、元素分析に基づく非PHA無機質量の合計値とは相関関係になかった。
【0075】
元素分析から導出されるみかけのPHA純度に基づくと(
図23)、PHA樹脂の純度の順序は、MC−PHA−AK、PC−PHA−1、PC−PHA−2の順に変わり、定量された無機質量は、247、559及び1642mg/kgであった。相対的な元素組成は変化したものの、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、リン、カリウム、鉄及びアルミニウムが、主な寄与因子であることが見出された。PHAサンプルのカルシウム含量の変動は、Na、Mg、P、K、Zn、Pb、Cu及びMnと強い正の相関関係にあった。PHAカルシウム含量もまた、PHA樹脂熱安定性と強い負の相関関係にあった(
図24)。従って、絶対純度の順位付けと異なり、PHA樹脂の機能的な質は、元素含量に関係があり(
図23)、カルシウムが主要な元素である。
【0076】
これらの元素とPHA樹脂との会合の性質を評価するために、市販のPHAを、脱イオン水又は酸性化水で洗浄し、再乾燥し、次いで、熱安定性の変化について再度試験した。PC−PHA−1の洗浄及び乾燥は、PHA樹脂の熱安定性を改善したが、非PHA含量がわずかに増加した(
図25及び
図26)。安定性の改善は、酸性リンスではさらに顕著であって、これは、PHA含有バイオマスの熱安定性に影響するという経験と大筋で一致する。PHA樹脂の絶対純度は、必ずしも、熱安定性が改善していることを示さない。PHA樹脂熱安定性に影響すると思われる元素は、きつく結合しておらず、低いpHでの洗浄によってポリマーから容易に解離する。カルシウム及びマグネシウムのような陽イオンの無機物は、酸の中でより可溶性となることが公知である。
【0077】
陽イオンとPHAとの会合が熱安定性に影響するという事実を確認するために、逆転実験(reverse experiment)(
図27)を行った。PHA樹脂を100℃でクロロホルムに溶解し、CaCl
2(Ca
+2として)、MgCl
2(Mg
+2として)、FeSO
4(Fe
+2として)及びNH
4Cl(NH
4+1として)のいずれかを0、40、400又は4000ppm(ポリマーの量に従って算出)含有するメタノールを、ポリマーの沈殿を促進する連続撹拌下でクロロホルムにゆっくり添加した。このポリマーをペトリ皿に移し、溶媒を70℃で24時間蒸発させた。沈殿したPHA樹脂に会合する特定のイオンをより高濃度で得るように、異なる濃度のイオン溶液を用いた。この対照実験で、PHA樹脂に会合するようになったそれぞれのイオンが増えることは、観察されたポリマーのTGAでの非PHA含量の増加と一致していた。カルシウム及びマグネシウムは、熱安定性の低下に対して、重量基準で同様で最も顕著な影響を促進した。同時に、なんらイオンの添加のないPHA樹脂の溶解及び再沈殿の手順、は、驚くべきことに、熱安定性に対して負の影響を示した。しかし、これらの対照のサンプルについて非PHA含量が合わせて増加していることは、汚染源を示唆していた。PHA樹脂は見かけ上、特定のイオン汚染に対してかなり低濃度で感受性である。
【0078】
PHA樹脂の熱安定性の結果は、PHA含有バイオマスの熱安定性の結果と一致した。無機物は、PHA樹脂及びバイオマスの元素分析から観察される支配性のためにカルシウム及びマグネシウムのような陽イオンを強調するが、ポリマーの熱安定性にある役割を果たす。これらのイオンのレベルがバイオマス中で又はPHA樹脂中で低下すれば、熱安定性を増大するように働く。これらのイオンに関して、PHAを豊富に含むバイオマスの無機含量が低下すると、バイオマス乾燥及び溶媒抽出の間の分子量低下の程度を低減させることができる。PHAを豊富に含むバイオマスの熱安定性の改善は、促進される(ジクロロメタン、2−ブタノール及びプロピレンカーボネート抽出)か、又はPHA樹脂の熱安定性がさらに増強されることさえある(アセトン抽出)。従って、PHA含有バイオマスの高い熱安定性を達成することは、等価又はさらに高い熱安定性のPHA樹脂を生成することと同等である。
【0079】
熱安定性が悪いPHA樹脂が生成される場合であっても、本発明者らは、この効果を担うイオンが、ポリマーに対して強力に結合しているようではないことを発見した。これらのイオンは、少なくともある程度まで、水性洗浄液を用いてポリマーから洗い流すことができる。酸性の水性洗浄の方が強い影響を示しており、このことは、原因のイオンが、pHが低いほどより可溶であるということを示唆している。洗浄したポリマーを再び乾燥してもよく、熱安定性の顕著な改善を示すだろう。高温乾燥及び溶媒抽出における分子量の保持、および例えばさらに樹脂を洗浄し再び乾燥させることの必要のような外部的な後処理の低減という利益のために、同じ効果をPHA含有バイオマスで達成することができる。
【0080】
溶融安定性に関するPHA樹脂の熱安定性
追加の作業を行って、熱安定性の改善が、処理のために優れた機能的な品質を有するPHA樹脂にどのように関係があるかをさらによく理解した。機能的な品質とは、処理に必要だと思われる溶融物中のPHAの安定性を指す。市販の純粋な培養由来のPHA樹脂、及び本発明者らの混合培養(活性化スラッジ)由来PHA樹脂の多くのサンプルのレオロジーによる動粘性係数を検査した。
【0081】
溶融物中のPHA樹脂の初期の動粘性係数は、ポリマーの平均分子量に関連し得る。一定の温度及び歪みにおける、溶融物中の経時的な動粘性係数の減少は、平均分子量の低下と相関関係にある。AS−S由来のPHA樹脂についての典型的な結果を
図28に示す。機能的な質、又はPHA樹脂の溶融安定性を反映するために用いられ得る1つの数字へとこの傾向を単純化するために、1−log溶融安定性を細かく測定した。1−log溶融安定性とは、ここで用いられるポリマーレオロジー試験の特定の方法に準拠するPHAの動粘性係数を1ケタの大きさ減らすための時間である。PHA含有バイオマスの熱安定性を事前に調整して、続いてアセトン抽出することによって、少なくとも2つの市販のPHA樹脂に比較して、機能的に優れたPHAが生成されたことが直ちに明らかになった(
図29)。
【0082】
多くの異なるサンプルについて、並びに純粋及び混合培養物を含めて異なるバイオマス源からの、PHA樹脂の溶融安定性の結果を評価した。PHA樹脂の熱安定性について観察されたとおり、1−log溶融安定性は、非PHA物質含量のパーセントに対して一般には関連し得ない(
図30)。TGAによる非PHA含量は、200℃でのサンプル重量に対する、PHA重量低下ピーク後の350℃のTGA温度での残留物の画分に基づく。PHA樹脂の純度は、原料の意図される用途に関連して材料特性の課題と関連があるかもしれないが、純度は、処理のための機能的な質の絶対的な指標としては劣っているようであった。PHA樹脂の純度が低いことは必ずしも、ポリマーの熱安定性が劣ることの指標ではない。PHA樹脂由来を混成することによって得られたプラスチックが含むPHA成分は有意に減少している場合があり、これによって、出発するPHA樹脂が96%純粋又は99%純粋であるかはさらに関係がなくなる。プラスチック化合物生成にとってより関連すると思われるものは、溶融物中のPHAの性能及び安定性である。
【0083】
PHA樹脂についてのTGAによる結果が豊富に存在し、TGA分析データは、動粘性係数測定よりも少ないサンプル材料で得ることが容易であるために、熱安定性の結果と1−log溶融安定性との間の実験的な関連(
図31及び
図32)が確立された。これらの結果によって、T
5が260℃より大きい場合(好ましくは262℃より大きい場合)、1−log溶融安定性は15分を超える可能性がとても高いことが示唆された。1−log溶融安定性に関連して、f
d250は、TGAデータによるPHA樹脂の質の4つのゾーンをさらに示唆した:
ゾーン1:0.1<f
d250<1.0 0<1−log溶融安定性<5分
ゾーン2:0.012<f
d250<0.1 5<1−log溶融安定性<15分
ゾーン3:0.01<f
d250<0.012 15<1−log溶融安定性<25分
ゾーン4:0.001<f
d250<0.01 25<1−log溶融安定性<35分
【0084】
このデータ中に観察されたばらつきは、ゾーン3と4との間では自信をもって識別することを困難とする。提示された質のゾーンに対するさらなる洗練は、TGAデータのさらに洗練された分析で可能になり得る。
図32の傾向線に関する実験データの変動は、この研究について用いられた装置でのTGA測定自体についての信号対ノイズ比についての能力のためであるかもしれない。それにもかかわらず、PHA樹脂の機能的な質のこれらの結果では、T
5が260℃より大きく、かつf
d250が0.011以下である場合、優れた成果が期待されることが示された。PHA含有バイオマスのより高い熱安定性のためにPHA含有バイオマスを事前調整することは、少なくともゾーン3のPHA樹脂を確実に達成するための有効な経路である。
【0085】
本発明は、当然ながら、本発明の本質的な特徴から逸脱することなく、本明細書に特異的に示される方法以外の方法で行ってもよい。本発明の実施形態は、あらゆる点で、例示とみなされるべきであって、制限とみなされるべきではなく、全ての変更はこの意味におさまり、そして添付の特許請求の範囲の均等範囲は、その中に包含されるものとする。