特許第5784777号(P5784777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5784777
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】流体動圧軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/74 20060101AFI20150907BHJP
   F16C 17/10 20060101ALI20150907BHJP
   F16C 35/02 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   F16C33/74 Z
   F16C17/10 A
   F16C35/02 Z
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-62085(P2014-62085)
(22)【出願日】2014年3月25日
(62)【分割の表示】特願2010-180426(P2010-180426)の分割
【原出願日】2010年8月11日
(65)【公開番号】特開2014-129887(P2014-129887A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2014年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 冬木
(72)【発明者】
【氏名】原田 和慶
(72)【発明者】
【氏名】山下 信好
(72)【発明者】
【氏名】皆見 章行
(72)【発明者】
【氏名】沢津橋 寿久
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−252168(JP,A)
【文献】 特開2007−225062(JP,A)
【文献】 特開2008−069835(JP,A)
【文献】 特開2006−081274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72−33/82
F16C 17/00−17/26
F16C 33/00−33/28
F16C 35/00−39/06
F16C 43/00−43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部及びフランジ部を有する軸部材と、内周に前記軸部が挿入された軸受スリーブと、内周面に前記軸受スリーブが固定された円筒状の側部、及び、側部の軸方向一方の開口部を閉塞する底部を有するハウジングと、前記軸部材の外周面から外径に突出して設けられ、回転体が搭載されるハブと、前記軸部の外周面に固定され、前記ハウジングの側部の軸方向他方の開口部を覆う円盤部、及び、前記円盤部の外径端から軸方向一方に突出した円筒部を有し、前記ハブと別体に形成されたシール部材と、前記ハウジングの側部の外周面と前記シール部材の円筒部の内周面との間に形成され、前記ハウジングの内部に満たされた潤滑油の漏れ出しを防止するシール空間と、前記軸部の外周面と前記軸受スリーブの内周面との間のラジアル軸受隙間の油膜に生じる動圧作用で前記軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部と、前記軸受スリーブの軸方向一方の端面とこれに対向する前記フランジ部の端面との間のスラスト軸受隙間の油膜に生じる動圧作用で前記軸部材をスラスト方向一方に支持する第1スラスト軸受部と、前記ハウジングの底部の端面とこれに対向する前記フランジ部の端面との間のスラスト軸受隙間の油膜に生じる動圧作用で前記軸部材をスラスト方向他方に支持する第2スラスト軸受部とを備えた流体動圧軸受装置であって、
前記シール部材の円盤部と前記ハウジングの側部の軸方向他方の端面との間の軸方向隙間、及び、前記シール部材の円盤部と前記軸受スリーブの軸方向他方の端面との間の軸方向隙間が、何れも、前記第1スラスト軸受部及び前記第2スラスト軸受部のスラスト軸受隙間の合計量よりも大きい値に設定され
前記円盤部の軸方向他方の端面の全面が、前記ハブの端面に当接した流体動圧軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部材と軸受部材との間の軸受隙間に生じる油膜で、軸部材を回転自在に支持する流体動圧軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体動圧軸受装置は、その高回転精度および静粛性から、各種ディスク駆動装置(例えばHDD等の磁気ディスク駆動装置、CD,DVD,ブルーレイディスク等の光ディスク駆動装置、あるいはMD,MO等の光磁気ディスク駆動装置等)のスピンドルモータや、レーザビームプリンタのポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイールモータ、あるいは電子機器の冷却ファンモータ等に好適に使用される。
【0003】
このような流体動圧軸受として、例えば特許文献1には、軸受部材(軸受スリーブ及びハウジングと)、軸受部材の内周に挿入された軸部材と、軸部材の端部から外径に突出して設けられたディスクハブとを備えた構成が示されている。ディスクハブの内周面と軸受部材の外周面との間にはシール空間が形成され、このシール空間により、軸受部材の内部に満たされた潤滑油の外部への漏れ出しを防止している。このように、シール空間を軸受部材の外周に形成することで、例えばシール空間を軸受部材の内周に形成する場合と比べて、シール空間が大径化されて容積が大きくなる。従って、シール空間の容積を維持しながら、シール空間の軸方向寸法を小さくすることができ、軸受装置の軸方向寸法を縮小することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−207787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の流体動圧軸受装置に設けられるディスクハブは、軸部材の外周面から外径に突出した円盤部と、円盤部から軸方向に突出した筒状部と、筒状部から外径に突出した鍔部とを一体に有する。鍔部の上面には、磁気ディスク等が搭載されるディスク搭載面が設けられ、円筒部の内周面には、軸受部材の外周面との間にシール空間を形成するシール面が形成される。このように、ディスクハブにディスク搭載面及びシール面の双方を形成することで、ディスクハブは、鍔部及び円筒部からなる二股部分を有する複雑な形状となる。このため、ディスクハブの形成が困難となり、ディスク搭載面及びシール面の加工精度が低下する恐れがある。特に、金属のプレス加工により上記のような二股部分を有するディスクハブを形成することは極めて困難である。
【0006】
また、ディスクハブを軸部材の外周面に圧入固定する場合、圧入時の抵抗によりディスクハブが変形する恐れがある。この場合、ディスクハブに形成されたシール面が変形し、シール空間の容積の精度が低下して油漏れが生じる恐れがある。
【0007】
上記のような課題は、ディスクハブに限らず、回転体が搭載されるハブにシール面を形成する場合に同様に生じる。例えば、ポリゴンミラーが搭載されるポリゴンスキャナモータのハブや、カラーホイールが搭載されるカラーホイールモータのハブに、シール面を形成する場合にも、上記と同様の課題が生じる。
【0008】
本発明の解決すべき課題は、軸受部材の外周にシール空間が形成される流体動圧軸受装置において、ハブの形状を単純化して形成を容易化することにより、回転体の搭載面及び潤滑油のシール面の加工精度を高めることにある。
【0009】
また、本発明の解決すべき他の課題は、ハブを軸部材の外周面に圧入固定する場合でも、シール面の変形を防止してシール空間の容積を高精度に設定し、油漏れを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、軸部及びフランジ部を有する軸部材と、内周に前記軸部が挿入された軸受スリーブと、内周面に前記軸受スリーブが固定された円筒状の側部、及び、側部の軸方向一方の開口部を閉塞する底部を有するハウジングと、前記軸部材の外周面から外径に突出して設けられ、回転体が搭載されるハブと、前記軸部の外周面に固定され、前記ハウジングの側部の軸方向他方の開口部を覆う円盤部、及び、前記円盤部の外径端から軸方向他方に突出した円筒部を有し、前記ハブと別体に形成されたシール部材と、前記ハウジングの側部の外周面と前記シール部材の円筒部の内周面との間に形成され、前記ハウジングの内部に満たされた潤滑油の漏れ出しを防止するシール空間と、前記軸部の外周面と前記軸受スリーブの内周面との間のラジアル軸受隙間の油膜に生じる動圧作用で前記軸部材をラジアル方向に支持するラジアル軸受部と、前記軸受スリーブの軸方向一方の端面とこれに対向する前記フランジ部の端面との間のスラスト軸受隙間の油膜に生じる動圧作用で前記軸部材をスラスト方向一方に支持する第1スラスト軸受部と、前記ハウジングの底部の端面とこれに対向する前記フランジ部の端面との間のスラスト軸受隙間の油膜に生じる動圧作用で前記軸部材をスラスト方向他方に支持する第2スラスト軸受部とを備えた流体動圧軸受装置であって、前記シール部材の円盤部と前記ハウジングの側部の軸方向他方の端面との間の軸方向隙間、及び、前記シール部材の円盤部と前記軸受スリーブの軸方向他方の端面との間の軸方向隙間が、何れも、前記第1スラスト軸受部及び前記第2スラスト軸受部のスラスト軸受隙間の合計量よりも大きい値に設定された流体動圧軸受装置を提供する。
【0011】
このように、本発明の流体動圧軸受装置では、回転体が搭載されるハブと別体にシール部材を形成し、このシール部材の内周面と軸受部材の外周面との間にシール空間が形成される。すなわち、回転体を搭載する搭載面をハブに形成し、シール空間を形成するシール面をシール部材に形成する。このように、搭載面及びシール面がそれぞれ別部材に形成されることにより、ハブに二股部分を形成する必要がなくなり、ハブの形状を単純化することができる。従って、ハブの形成が容易化され、製造コストを低減できると共に、ハブの加工精度が高められる。また、シール面が、二股部分を有する複雑な形状の部材ではなく、単純な形状のシール部材に形成されるため、シール面の加工精度が高められる。
【0012】
上記のようにハブの形状が単純化されることで、ハブを、例えば金属のプレス成形により形成することが可能となる。
【0013】
また、上記のようにハブとシール部材とを別体に形成することで、例えばハブを軸部材の外周面に圧入固定する場合であっても、ハブの圧入による影響がシール部材に及ぶことはないため、シール部材に形成されたシール面の変形を防止できる。
【0014】
シール部材の内周面と軸部材の外周面とを隙間を介して嵌合させれば、シール部材を軸部材に固定する際にシール面が変形することを確実に防止できる。この場合、シール部材を薄肉化することができ、低コスト化及び軽量化を図ることができる。
【0015】
軸部材に、シール部材の端面に当接する係止部を設ければ、シール部材を軸部材に対して容易に位置決めすることができる。この場合、シール部材を、軸部材の係止部とハブとで軸方向両側から挟持固定することができる。
【0016】
ハブには、例えば回転体としてHDDの記憶媒体である磁気ディスクを搭載することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、回転体の搭載面がハブに形成されると共に、シール面がシール部材に形成されることで、ハブの形状が単純化されて形成を容易化することができる。これにより、搭載面の加工精度が高められて回転体の回転精度が向上すると共に、シール面の加工精度が高められてシール性能が向上する。
【0018】
また、シール部材を軸部材に隙間を介して嵌合することで、シール部材の変形を防止し、シール性能の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置を組み込んだスピンドルモータの断面図である。
図2】流体動圧軸受装置の断面図である。
図3】軸受スリーブの断面図である。
図4】軸受スリーブの下面図である。
図5】ハウジングの上面図である。
図6】(a)〜(d)は、流体動圧軸受装置の組立工程を示す断面図である。
図7】シール部材と軸部材との固定部周辺を拡大して示す断面図である。
図8】他の実施形態に係るハウジングの断面図である。
図9図8のハウジングと軸受スリーブとの固定部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置1が組み込まれたモータを示す。このモータは、例えば2.5インチHDDのディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータであり、軸部材2を回転自在に支持する流体動圧軸受装置1と、軸部材2に固定されたハブ3(ディスクハブ)と、流体動圧軸受装置1が取り付けられたブラケット6と、半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4はブラケット6に取り付けられ、ロータマグネット5はハブ3に取り付けられる。ハブ3には回転体が搭載され、本実施形態では、HDDの記憶媒体としての磁気ディスクDが所定の枚数(図示例では2枚)搭載される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、これによりハブ3、ディスクD、および軸部材2が一体となって回転する。
【0022】
流体動圧軸受装置1は、図2に示すように、軸部材2と、内周に軸部材2を挿入した軸受部材Aと、軸部材2の端部に固定されたハブ3と、軸受部材Aの開口部をシールするシール部材9とを備える。本実施形態では、軸受部材Aが有底筒状のハウジング7と、ハウジング7の内周面7a1に固定された軸受スリーブ8とで構成される。尚、以下では、軸方向でハウジング7の開口側(シール部材9側)を上側、閉塞側(底部7b側)を下側として説明を進める。
【0023】
軸部材2は、軸部2aと、軸部2aの下端に設けられたフランジ部2bとからなる。軸部2aは、大径部2a1と、大径部2a1から上方に延びた小径部2a2と、大径部2a1と小径部2a2との間に形成された肩面2a3とを有する。肩面2a3は、シール部材9に下方から当接する係止部として機能する。大径部2a1の外周面2a11は平滑な円筒面状に形成され、その軸方向中間部に、他の領域よりも僅かに小径な逃げ部2a12が形成される。フランジ部2bは、軸部2aの下端部から外径に突出した円盤形状をなす。フランジ部2bの両端面2b1,2b2は、平坦に形成され、それぞれ軸受スリーブ8の下側端面8b及びハウジング7の底部7bの上側端面7b1と軸方向で対向する。フランジ部2bは、軸受スリーブ8の下側端面8bと軸方向で係合することにより、軸部材2の軸受部材A(ハウジング7及び軸受スリーブ8)からの抜け止めとして機能する。軸部材2は、例えばステンレス鋼等の金属で形成され、軸部2a及びフランジ部2bが切削加工により一体に形成される。この他、軸部2aとフランジ部2bとを金属で別体に形成した後、両者を溶接等により接合して一体化したり、軸部2aを金属、フランジ部2bを樹脂で形成したりすることもできる。
【0024】
軸受スリーブ8は、例えば銅を主成分とする焼結金属で円筒状に形成される。この他、黄銅等の軟質金属で軸受スリーブ8を形成することも可能である。
【0025】
軸受スリーブ8の内周面8aには、ラジアル軸受隙間の潤滑油に動圧作用を発生させるラジアル動圧発生部が形成される。本実施形態では、軸受スリーブ8の内周面8aの軸方向に離隔した2つの領域にラジアル動圧発生部が形成される(図2に点線で示す)。ラジアル動圧発生部は、例えば図3に示すように、ヘリングボーン形状の動圧溝8a1,8a2で構成される。上側の動圧溝8a1は軸方向非対称に形成されており、具体的には、丘部(図3にクロスハッチングで示す)の軸方向中央部の円筒部分より上側領域の軸方向寸法X1が、下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている(X1>X2)。下側の動圧溝8a2は軸方向対称に形成されている。
【0026】
軸受スリーブ8の下側端面8bには、スラスト軸受隙間の潤滑油に動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部が形成される(図2に点線で示す)。本実施形態では、スラスト動圧発生部として、例えば図4に示すようなポンプインタイプのスパイラル形状の動圧溝8b1が形成される。軸受スリーブ8の外周面8dには、軸方向溝8d1が軸方向全長にわたって形成され、本実施形態では、例えば3本の軸方向溝8d1が円周方向に等配される。
【0027】
ハウジング7は、例えば樹脂の射出成形で有底筒状に形成される。本実施形態では、ハウジング7が、図2に示すように、円筒状の側部7aと、側部7aの下端開口部を閉塞する底部7bとで構成される。ハウジング7の内周面7a1は、円筒面状に形成され、軸受スリーブ8の外周面8dが隙間接着、圧入、接着剤介在下の圧入等により固定される。ハウジング7の外周面7a2の上端部には、下方へ向けて縮径したテーパ面7a21が設けられ、テーパ面7a21の下方に円筒面7a22が設けられる。テーパ面7a21は、シール部材9の内周面との間にシール空間Sを形成する。円筒面7a22には、ブラケット6(図1参照)の内周面が、圧入や接着等の適宜の手段で固定される。
【0028】
ハウジング7の底部7bの上側端面7b1には、スラスト軸受隙間の潤滑油に動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部が形成される(図2に点線で示す)。本実施形態では、スラスト動圧発生部として、例えば図5に示すようなポンプインタイプのスパイラル形状の動圧溝7b10が形成される。
【0029】
シール部材9は、ハブ3と別体に形成され、軸部材2に固定される。本実施形態では、図2に示すように、シール部材9が、ハウジング7の上端開口部を覆う円盤部9aと、円盤部9aの外径端から下方に突出した円筒部9bとからなる。円盤部9a及び円筒部9bは、例えば金属のプレス成形や樹脂の射出成形により一体に形成される。
【0030】
円盤部9aは、軸部材2の軸部2aに固定される。詳しくは、円盤部9aの内周面9a1と軸部2aの小径部2a2の外周面2a21とが隙間を介して嵌合し、この状態で、円盤部9aが、軸部2aの肩面2a3(係止部)とハブ3の下側端面3a2とで上下から挟持固定される。円盤部9aの下側端面9a2は、ハウジング7の側部7aの上端面7a3及び軸受スリーブ8の上側端面8cと軸方向隙間δを介して対向する。この軸方向隙間δは、潤滑油で満たされ、後述する第1スラスト軸受部T1及び第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間の合計量よりも大きい値とされる。すなわち、軸部材2がハウジング7の底部7bに当接した場合でも、円盤部9aがハウジング7や軸受スリーブ8に当接しないように軸方向隙間δの大きさが設定される。
【0031】
円筒部9bは、ハウジング7の外周を囲むように設けられる。円筒部9bの内周面9b1は、ハウジング7の外周面7a2と径方向に対向し、これらの間にシール空間Sが形成される。具体的には、円筒部9bの円筒面状内周面9b1と、ハウジング7の外周面7a2のテーパ面7a21との間に、上方へ向けて径方向寸法を漸次縮小した楔形状を成したシール空間Sが形成される。このシール空間Sにより、ハウジング7の内部に満たされた潤滑油の外部への漏れ出しを防止する。具体的には、シール空間Sの毛細管力により、シール空間Sの内部に保持された潤滑油が上方(軸受部材Aの内部側)に引き込まれる。また、ハウジング7の外周面7a2のテーパ面7a21でシール空間Sを形成することで、軸部材2の回転時にシール空間S内の潤滑油に遠心力が加わわり、シール空間Sに保持された潤滑油が上方に引き込まれる。シール空間Sの容積は、軸受部材Aの内部に満たされた潤滑油の熱膨張を吸収できる大きさに設定される。
【0032】
ハブ3は、図1に示すように、軸部材2の外周面から外径に突出して設けられる。具体的には、軸部材2に固定された円盤部3aと、円盤部3aの外径端から下方に延びた円筒部3bと、円筒部3bの下端から外径に突出した突出部3cとを有する。突出部3cの上面3c1には、ディスクDが搭載される平坦なディスク搭載面が設けられ、円筒部3bの内周面3b1には、ロータマグネット5の固定面が設けられる。円盤部3aの内周面3a1は、軸部2aの小径部2a2の外周面2a21に圧入固定される(図2参照)。円盤部3aの下側端面3a2は、シール部材9の円盤部9aの上側端面9a3に当接している。
【0033】
上述のように、シール空間Sを形成するシール面をシール部材9に形成すると共に、ディスクDを搭載するディスク搭載面をハブ3に形成することにより、ハブ3に二股部分を設ける必要がなくなり、ハブ3の形状が単純化される。これにより、ハブ3の形成が容易化され、例えば金属のプレス成形でハブ3を形成することが可能となり、ハブ3の製造コストが低減されると共に、ディスク搭載面の加工精度が高められ、ディスクDの回転精度が高められる。尚、ハブ3は、金属のプレス成形に限らず、例えば金属の機械加工(切削加工等)や樹脂の射出成形で形成することもできる。また、シール部材9の形状も単純化できるため、シール面の加工精度が高められ、シール空間Sの容積を高精度に設定してシール性能を高めることができる。
【0034】
上記の流体動圧軸受装置1は、例えば以下のようにして組み立てられる。まず、図6(a)に示すように、ハウジング7の内周に軸部材2及び軸受スリーブ8を挿入する。このとき、軸部材2のフランジ部2bの両端面2b1,2b2に、軸受スリーブ8の下側端面8b及びハウジング7の底部7bの上側端面7b1をそれぞれ当接させ、スラスト軸受隙間を0の状態とする。この状態から、図6(b)に示すように、ハウジング7に対して軸部材2を上方(ハウジング開口側)に引き上げ、第1スラスト軸受部T1及び第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間のねらい値の合計量だけ軸受スリーブ8をハウジング7に対して軸方向移動させる。この位置で軸受スリーブ8を固定することで、スラスト軸受隙間(図6では誇張して示す)が設定される。
【0035】
次に、図6(c)に示すように、軸部2aにシール部材9を装着する。このとき、シール部材9の円盤部9aの内周面9a1と軸部2aの小径部2a2の外周面2a21とは隙間(図6では誇張して示す)を介して嵌合させる。これにより、シール部材9の軸部2aへの装着時に、円盤部9aに大きな負荷が加わることがなく、シール部材9の変形を防止できる。また、軸部2aの肩面2a3に円盤部9aの下側端面9a2を当接させることで、シール部材9の軸部材2に対する軸方向位置が決定される。
【0036】
その後、図6(d)に示すように、軸部2aにハブ3を装着する。ハブ3の円盤部3aの内周面3a1は、軸部2aの小径部2a2の外周面2a21よりも僅かに小径とされ、これによりハブ3が軸部2aの小径部2a2に圧入固定される。このとき、ハブ3には大きな負荷が加わるが、この負荷がシール部材9に影響することはなく、シール空間Sの精度が維持される。こうして軸部2aの小径部2a2に圧入されたハブ3の円盤部3aの下側端面3a2を、シール部材9の円盤部9aの上側端面9a3に当接させる。これにより、図7に拡大して示すように、シール部材9の円盤部9aが、ハブ3の円盤部3aの下側端面3a2と、軸部材2の軸部2aの肩面2a3とで、軸方向両側から挟持固定される。
【0037】
ところで、軸部2aをハブ3に圧入する際、軸部2aの小径部2a2の外周面2a21とハブ3の円盤部3aの内周面3a1とが圧入代を介して摺動する。これにより、軸部2aやハブ3の表面が削れて削り屑が生じ、この削り屑が軸受部材Aの内部に満たされた潤滑油にコンタミとして混入する恐れがある。このとき、図7に示すように、シール部材9の円盤部9aの内周面9a1と軸部2aの小径部2a2の外周面2a21とを隙間Cを介して嵌合させることで、ハブ3と小径部2a2との圧入により生じた削り屑Gを、シール部材9と軸部2aとの間の嵌合隙間C内に捕捉することができる。また、シール部材9の円盤部9aの下側端面9a2と軸部2aの肩面2a3とを全周にわたって密着させることにより、嵌合隙間Cと軸受部材Aの内部に満たされた潤滑油(散点で示す)とが遮断され、嵌合隙間Cに捕捉した削り屑Gが潤滑油に混入する事態を確実に防止できる。
【0038】
以上のようにして組み立てた後、軸受スリーブ8の内部気孔を含めたハウジング7の内部の空間に潤滑油を充満させることにより、図2に示す流体動圧軸受装置1が完成する。このとき、潤滑油の油面はシール空間Sの内部に保持される。
【0039】
軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部2aの大径部2a1の外周面2a11との間にラジアル軸受隙間が形成される。そして、動圧溝8a1,8a2によりラジアル軸受隙間の油膜の圧力が高められ、この圧力(動圧作用)により軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が構成される。
【0040】
これと同時に、軸受スリーブ8の下側端面8bとフランジ部2bの上側端面2b1との間、及び、ハウジング7の底部7bの上側端面7b1とフランジ部2bの下側端面2b2との間に、それぞれスラスト軸受隙間が形成される。そして、動圧溝8b1,7b10によりスラスト軸受隙間の油膜の圧力が高められ、この圧力(動圧作用)により軸部材2を両スラスト方向に回転自在に非接触支持するスラスト軸受部T1,T2が構成される。
【0041】
このとき、軸受スリーブ8の外周面8dに形成された軸方向溝8d1により、潤滑油が流通可能な連通路が形成される。この連通路で、ハウジング7の閉塞側の空間(底部7bに面する空間)と開口側の空間(シール部材9に面する空間)とが連通され、軸受部材Aの内部に満たされた潤滑油に局部的な負圧が発生する事態を防止できる。特に本実施形態では、図3に示すように、上側の動圧溝8a1が軸方向非対称な形状に形成されているため、軸部材2の回転に伴ってラジアル軸受隙間の潤滑油が下方に押し込まれ、上記の連通路を介して潤滑油が強制的に循環され、これにより局部的な負圧の発生を確実に防止できる。
【0042】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
上記の実施形態では、シール部材9が、軸部材2の軸部2aの肩面2a3とハブ3の円盤部3aの下側端面3a2とで挟持固定されているが、これに限られない。例えば、軸部2aの小径部2a2の外周面2a21とシール部材9の円盤部9aの内周面9a1との嵌合隙間に接着剤を介在させて固定してもよい。あるいは、軸部2aとシール部材9とを溶接や超音波溶着等の手段で固定してもよい。これらの場合、ハブ3が、シール部材9と軸部2aとの固定に関与しないため、ハブ3を軸部2aに取り付ける前にシール部材9を軸部2aに固定し、シール空間Sを形成することができる。従って、ハブ3を軸部2aに装着していない状態で、軸受部材Aの内部に潤滑油を注入することが可能となる。
【0044】
また、上記の実施形態では、ハブ3に、回転体としてHDD用の磁気ディスクDが搭載される場合を示しているが、これに限られない。例えば、ポリゴンスキャナモータのポリゴンミラーや、カラーホイールモータのカラーホイールを搭載するハブ3に、本発明を適用することもできる。
【0045】
また、上記の実施形態では、ハウジング7の内周面7a1が円筒面形状(断面真円形状)である場合を示しているが、これに限らず、例えば図8に示すように、ハウジング7の内周面7a1を非真円形状(図示例では正20角形)とすることもできる。このハウジング7の内周面7a1に軸受スリーブ8を軽圧入する場合、ハウジング7の内周面7a1を軸受スリーブ8の円筒面状外周面8dに倣って弾性変形させた状態で両者を接触させることができる。これにより、ハウジング7の内周面7a1の加工精度が緩和され、製造コストを低減できる。また、この場合、図9に示すように、ハウジング7の内周面7a1と軸受スリーブ8の外周面8dとの間に、軸方向に延びる隙間Pが形成される。この隙間Pを、潤滑油の連通路とすれば、図4に示すような軸受スリーブ8の外周面8dの軸方向溝8d1を省略することができ、軸受スリーブ8の製造コストが低減される。尚、ハウジング7の外周面7a2の円筒面7a22はブラケット6の内周面に固定されるため、少なくともブラケット6が固定される領域は、図8に示すように円筒面形状とすることが好ましい。
【0046】
また、上記の実施形態では、軸受部材Aが複数の部材(ハウジング7及び軸受スリーブ8)で構成されているが、これに限らず、例えば軸受部材Aを一体に成形してもよい。
【0047】
また、上記の実施形態では、ラジアル動圧発生部として、図3に示すようなヘリングボーン形状の動圧溝8a1,8a2が形成されているが、これに限られない。例えば、軸受スリーブ8の内周面8aに他の形状の動圧溝(軸方向に延びる動圧溝など)を形成したり、内周面8aを複数の円筒面を組み合わせた多円弧形状とすることで、ラジアル動圧発生部を構成してもよい。あるいは、ラジアル軸受隙間を介して対向する軸受スリーブ8の内周面8a及び軸部材2の外周面2a11の双方を平滑な円筒面状とすることで、いわゆる真円軸受を構成してもよい。この場合、ラジアル軸受隙間の油膜に積極的に動圧作用を発生させるラジアル動圧発生部は設けられないが、軸部材2の回転に伴う潤滑油の流動によりラジアル軸受隙間の油膜の圧力が高められる。
【0048】
また、上記の実施形態では、スラスト軸受隙間の潤滑油に動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部として、図4及び図5に示すようなスパイラル形状の動圧溝8b1,7b10が形成されているが、これに限らず、例えば他の形状の動圧溝(ヘリングボーン形状の動圧溝など)を形成してもよい。
【0049】
また、上記の実施形態では、ラジアル動圧発生部を軸受スリーブ8の内周面に形成しているが、この面とラジアル軸受隙間を介して対向する軸部材2の外周面2a11にラジアル動圧発生部を形成してもよい。同様に、スラスト動圧発生部を、軸部材2のフランジ部2bの両端面2b1,2b2に形成してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 流体動圧軸受装置
2 軸部材
2a 軸部
2a1 大径部
2a2 小径部
2a3 肩面
2b フランジ部
3 ハブ
3a 円盤部
3b 円筒部
3b1 内周面
3c 突出部
3c1 上面(ディスク搭載面)
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
6 ブラケット
7 ハウジング
7a 側部
7b 底部
7b10 動圧溝
8 軸受スリーブ
8a1,8a2 動圧溝
8b1 動圧溝
8d1 軸方向溝
9 シール部材
9a 円盤部
9b 円筒部
9b1 内周面(シール面)
A 軸受部材
C 嵌合隙間
D ディスク
G 削り屑
R1,R2 ラジアル軸受部
T1,T2 スラスト軸受部
S シール空間
δ 軸方向隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9