(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記単結晶が、テルビウム・スカンジウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶、テルビウム・スカンジウム・ルテチウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶、テルビウム・ガリウム・ガーネット型単結晶、又はテルビウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶である、請求項4に記載の結晶体。
互いに対向し、光を通過させる一対の光通過面と、前記一対の光通過面を連結する少なくとも1つの側面とを有し、結晶で構成される結晶体を製造する結晶体の製造方法であって、
前記結晶で構成されるとともに、前記結晶体を得るための被加工材を準備する準備工程と、
前記被加工材を切断して前記結晶体を得る切断工程とを含み、
前記切断工程において、前記被加工材の切断によって新たに現れる切断面を含む表層部を除去することによって前記結晶体を形成し、
前記切断工程において、前記表層部が転位を含み、前記光通過面における転位密度A(個/cm2)及び前記側面における転位密度B(個/cm2)の比であるB/Aが、下記一般式:
1≦(B/A)≦3600 (1)
を満たすように前記表層部を除去する、結晶体の製造方法。
前記単結晶が、テルビウム・スカンジウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶、テルビウム・スカンジウム・ルテチウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶、テルビウム・ガリウム・ガーネット型単結晶、又はテルビウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶である、請求項12に記載の結晶体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1に記載の結晶体は、消光比の点で必ずしも良好とは言えず、未だ改善の余地を有していた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、良好な消光比を実現できる結晶体、これを有する光学装置及び結晶体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、上記特許文献1に記載のファラデー回転子においては、以下の理由により良好な消光比が得られないのではないかと考えた。すなわち、上記特許文献1において、ファラデー回転子が単結晶で構成される場合、このファラデー回転子は、柱状の試料の両端面を研磨加工するとともに、試料の外周表面に外周研削加工を施すことにより得られている。このとき、外周研削加工によりファラデー回転子の外周表面には、内部に残留応力を生じさせる転位が導入される。その一方、試料の両端面は研磨加工により研磨されることで、転位の密度が大きく減少する。ここで、転位は、ファラデー回転子の光通過面において複屈折を生じさせる。このため、本発明者は、ファラデー回転子の両端面における転位密度と外周表面の転位密度との比が大きくなりすぎていることが、良好な消光比を得ることができない原因となっているのではないかと考えた。またこのことは、ファラデー回転子のみならず、一対の光通過面とこれらを連結する側面とを有し且つ良好な消光比が求められる他の光学用途においてもあてはまるものと本発明者は考えた。そこで、本発明者は更に鋭意研究を重ねた結果、結晶体において一対の光通過面の転位密度とこれら一対の光通過面を連結する側面の転位密度との比が特定の範囲にあることが、上記課題を解決する上で重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、互いに対向し、光を通過させる一対の光通過面と、前記一対の光通過面を連結する少なくとも1つの側面とを有し、結晶で構成される結晶体であって、前記光通過面における転位密度A(個/cm
2)及び前記側面における転位密度B(個/cm
2)の比であるB/Aが、下記一般式:
1≦(B/A)≦3600 (1)
を満たす結晶体である。
【0009】
この結晶体によれば、良好な消光比を実現できる。
【0010】
本発明の結晶体により上記効果が得られる理由について本発明者は以下のように推測している。
【0011】
すなわち、光通過面における転位密度A(個/cm
2)及び側面における転位密度Bの比(B/A)が上記範囲にあることで、光通過面への光の入射方向に直交する面において複屈折、すなわち直交する2方向における屈折率の差が大きくなることが十分に抑制され、入射した直線偏光が楕円偏光となりにくくなる。その結果、良好な消光比が実現できるのではないかと本発明者は推測している。
【0012】
また本発明は、結晶体を有する光学装置である。
【0013】
この光学装置によれば、良好な消光比を実現できる。
【0014】
上記光学装置は、前記結晶体の前記一対の光通過面のうちの一方の光通過面に対向するように配置される偏光子と、前記結晶体の前記一対の光通過面のうちの他方の光通過面に対向するように配置される検光子と、前記結晶体に磁界を印加する磁界印加装置とを更に備えてもよい。
【0015】
また本発明は、互いに対向し、光を通過させる一対の光通過面と、前記一対の光通過面を連結する少なくとも1つの側面とを有し、結晶で構成される結晶体を製造する結晶体の製造方法であって、前記結晶で構成されるとともに、前記結晶体を得るための被加工材を準備する準備工程と、前記被加工材を切断して前記結晶体を得る切断工程とを含み、前記切断工程において、前記被加工材の切断によって新たに現れる切断面を含む表層部を除去することによって前記結晶体を形成し、前記切断工程において、前記表層部が転位を含み、前記光通過面における転位密度A(個/cm
2)及び前記側面における転位密度B(個/cm
2)の比であるB/Aが、下記一般式:
1≦(B/A)≦3600 (1)
を満たすように前記表層部を除去する、結晶体の製造方法である。上記製造方法は、具体的には、互いに対向し、光を通過させる一対の光通過面と、前記一対の光通過面を連結する少なくとも1つの側面とを有し、結晶で構成される結晶体を製造する結晶体の製造方法であって、前記結晶で構成されるとともに、前記結晶体を得るための結晶部を少なくとも1つ有する被加工材であって前記結晶部が前記一対の光通過面を有する被加工材を準備する準備工程と、前記被加工材を切断して前記結晶部を得てから前記結晶体を得る過程で、前記被加工材の切断によって新たに現れる切断面を含む表層部を除去して前記側面を形成し、前記結晶体を得る切断工程とを含み、前記切断工程において、前記表層部が転位を含み、前記光通過面における転位密度A(個/cm
2)及び前記側面における転位密度B(個/cm
2)の比であるB/Aが、下記一般式:
1≦(B/A)≦3600 (1)
を満たすように前記表層部を除去する、結晶体の製造方法である。ここで、結晶部とは、その表層部を除去するだけで結晶体を得ることができる状態にある部分のことを言う。
【0016】
上記製造方法によれば、良好な消光比を実現できる結晶体を得ることができる。
【0017】
上記切断工程において、前記表層部に含まれる転位は、例えば前記被加工材の切断又は前記切断面に対する研削により生じた転位である。
【0018】
前記切断工程において、前記表層部を研磨により除去することが好ましい。
【0019】
この場合、表層部を研削により除去する場合に比べて、転位密度を効果的に減少させることができ、結晶体を効率よく製造することができる。
【0020】
上記(B/A)は1〜1000であることが好ましい。
【0021】
この場合、(B/A)が上記範囲を外れる場合と比較して、より良好な消光比を実現できる。
【0022】
上記(B/A)は1であることがより好ましい。
【0023】
この場合、(B/A)が1より大きい場合又は1未満である場合と比較して、より良好な消光比を実現できる。
【0024】
前記結晶は単結晶であることが好ましい。この場合、結晶体において粒界が無いため、結晶が多結晶である場合に比べて、結晶体の透過率がより高くなる。また結晶体は、結晶が多結晶である場合に比べて、より高いレーザ耐性を有することが可能となる。
【0025】
前記単結晶は、テルビウム・スカンジウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶、テルビウム・スカンジウム・ルテチウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶、テルビウム・ガリウム・ガーネット型単結晶、又はテルビウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶であることが好ましい。
【0026】
なお、本発明において、一対の光通過面における転位密度A(個/cm
2)は、一対の光通過面における転位密度の平均値を言うものとする。すなわち、一対の光通過面における転位密度A(個/cm
2)は下記式で定義される。
一対の光通過面における転位密度A(個/cm
2)=(一方の光通過面における転位密度A+他方の光通過面における転位密度A)/2
【0027】
また本発明において、少なくとも1つの側面における転位密度B(個/cm
2)は、側面が複数である場合には、その複数の側面における転位密度の平均値を言うものとする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、良好な消光比を実現できる結晶体、これを有する光学装置及び結晶体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について
図1を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る結晶体の一実施形態を示す図である。
【0031】
図1に示すように、結晶体3は、互いに対向し、光を通過させる一対の光通過面3a、3bと、一対の光通過面3a、3bを連結する少なくとも1つの側面3cとを有している。すなわち、結晶体3は、互いに離間し、光を通過させる一対の光通過面3a、3bと、一対の光通過面3a、3bを連結する少なくとも1つの側面3cとを有している。ここで、少なくとも1つの側面3cは、一対の光通過面3a、3bのうち一方の光通過面3aの縁部と他方の光通過面3bの縁部とを結ぶように形成されている。
【0032】
そして、光通過面3a,3bにおける転位密度A(個/cm
2)及び側面3cにおける転位密度B(個/cm
2)の比であるB/Aは、下記一般式:
1≦(B/A)≦3600 (1)
を満たしている。
【0033】
上記結晶体3によれば、良好な消光比を実現できる。
【0034】
ここで、結晶体3について詳細に説明する。
【0035】
結晶体3を構成する結晶は、光通過面3a,3bに直交する方向に磁界を印加した場合に、偏光面を回転させる単結晶であればいかなるものであっても用いることができる。このような結晶としては、例えばテルビウム・スカンジウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶(TSAG)、テルビウム・スカンジウム・ルテチウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶(TSLAG)、テルビウム・ガリウム・ガーネット型単結晶(TGG)、テルビウム・アルミニウム・ガーネット(TAG)などのガーネット型単結晶や、酸化テルビウムなどの単結晶などの単結晶が挙げられる。但し、結晶体3は、特性が結晶方位に依存しない用途、例えばファラデー回転子、レーザ結晶として使用される場合には、多結晶で構成されてもよい。しかし、結晶は単結晶であることが好ましい。この場合、結晶体3において粒界が無いため、結晶が多結晶である場合に比べて、結晶体3の透過率がより高くなる。また結晶体3は、結晶が多結晶である場合に比べて、より高いレーザ耐性を有することが可能となる。
【0036】
上記比(B/A)は、好ましくは1〜1000であり、より好ましくは1〜790であり、特に好ましくは1〜100である。この場合、(B/A)が上記範囲を外れる場合に比べて、より良好な消光比を実現できる。
【0037】
中でも、上記比(B/A)は1であることが特に好ましい。この場合、(B/A)が1より大きい場合又は1未満である場合と比べて、より良好な消光比を実現できる。
【0038】
光通過面3a,3bにおける転位密度は、特に限定されるものではないが、好ましくは1〜1×10
4個/cm
2であり、より好ましくは1〜5.8×10
3個/cm
2であり、特に好ましくは1〜1×10
3個/cm
2である。
【0039】
結晶体3の形状は、四角柱状でも円柱状でも三角柱状でもよく、特に限定されるものではない。なお、結晶体3が例えば四角柱状である場合には側面3cの数は4つとなり、結晶体3が円柱状である場合には側面3cの数は1つとなる。
【0040】
次に、上記結晶体3の製造方法について
図2〜
図6を参照しながら説明する。
図2は、
図1の結晶体を製造するために使用する被加工材の一例を示す斜視図、
図3は、
図2の被加工材から切り出した結晶成形加工体を示す斜視図、
図4は、
図3の結晶成形加工体を示す部分断面図、
図5は
図3の結晶成形加工体を分断して得られる結晶部を示す斜視図、
図6は、
図5の結晶部を示す部分断面図である。
【0041】
はじめに、
図2に示すように、被加工材20を準備する(準備工程)。この被加工材20は、結晶体3と同一の単結晶で構成されている。被加工材20は、結晶体3に対応する結晶部23、すなわち結晶体3を得るための結晶部23を複数有して構成される結晶成形加工体23Aを有しており、結晶部23は一対の光通過面3a,3bを有する。すなわち、結晶部23における一対の光通過面3a,3bは被加工材20の表面の一部を構成している。
【0042】
次に、被加工材20を切断して結晶体3を得る(切断工程)。具体的には、被加工材20を切断して結晶部23を得てから結晶体3を得る過程で、被加工材20の切断によって新たに現れる切断面を含む表層部を除去して側面3cを形成し、結晶体3を得る(切断工程)。
【0043】
上記切断工程は、被加工材20から複数の結晶体3を得る場合には、具体的には以下のようにして行う。
【0044】
すなわち、まず被加工材20を切断して、複数の結晶部23で構成される結晶成形加工体23Aを切り出す(
図3参照)。
【0045】
次に、結晶成形加工体23Aのうち新たに現れる切断面23aを含む表層部24を除去し(
図4参照)、結晶体3の全側面3cのうちの一部の側面3cを得る。ここで、表層部24には通常、転位が含まれており、表層部24を除去することによって側面3cにおける転位密度を減少させることができる。この転位は、被加工材20の切断や、切断面23aの研削等によって生じるものである。この表層部24の除去は、光通過面3a,3bにおける転位密度A(個/cm
2)及び側面3cにおける転位密度B(個/cm
2)の比であるB/Aが、下記一般式:
1≦(B/A)≦3600 (1)
を満たすように行う。
【0046】
ここで、表層部24の除去は、研磨によって行うことが好ましい。この場合、表層部24を研削により除去する場合に比べて、側面3cの転位密度を効果的に減少させることができ、結晶体3を効率よく製造することができる。研磨は、例えばコロイダルシリカの溶液をパッドと切断面23aとの間に配置し、パッドを切断面23aに押し当てて表層部24を削ることにより行うことができる。
【0047】
このとき、除去する表層部24の厚さは、B/Aの比が上記式(1)を満足することができる限り特に制限されるものではないが、通常、転位は切断面23aから0.1〜3μmの範囲に存在するので、除去する表層部24の厚さは、この範囲内のいずれかの範囲の厚さとするのがよい。除去する表層部24の厚さは、研磨を行う時間を調節することによって調節することが可能である。
【0048】
なお、結晶成形加工体23Aの表層部24の除去を行う前に、切断面23aに対して研削加工を行ってもよい。ここで、研削は、例えばダイヤモンドの砥石で削ることによって行うことができる。
【0049】
続いて、表層部24が除去された結晶成形加工体23Aを切断して複数の結晶部23に分断し、各結晶部23から結晶体3を得る。このとき、
図5に示すように、この切断工程で結晶部23のうち新たに現れる切断面23bを含む表層部25を除去し(
図6参照)、全側面3cのうちの残りの側面3cを得る。ここで、表層部25には通常、転位が含まれており、表層部25を除去することによって側面3cにおける転位密度を減少させることができる。この転位は、切断面23bの研削等によって生じるものである。このときの表層部25の除去も、光通過面3a,3bにおける転位密度A(個/cm
2)及び側面3cにおける転位密度B(個/cm
2)の比であるB/Aが、下記一般式:
1≦(B/A)≦3600 (1)
を満たすように行う。なお、このとき、表層部25の除去は、研磨によって行うことが好ましい。この場合、表層部25を研削により除去する場合に比べて、側面3cの転位密度を効果的に減少させることができ、結晶体3を効率よく製造することができる。またこのとき、結晶部23の表層部25の除去を行う前に、切断面23bに対して研削加工を行ってもよい。ここで、研削は、例えばダイヤモンドの砥石で削ることによって行うことができる。
【0050】
こうして一対の光通過面3a,3bとこれらを連結する側面3cを有する結晶体3を得る。
【0051】
なお、被加工材20から1つの結晶体3を得る場合には、結晶体3は、以下のようにして製造することができる。この製造方法について
図4、
図7及び
図8を用いて説明する。
図7は、
図1の結晶体を製造するために使用する被加工材の他の例を示す斜視図、
図8は、
図7の被加工材から切り出した結晶成形加工体を示す斜視図である。
【0052】
まず
図7に示すように、被加工材20を準備する(準備工程)。この被加工材20は、結晶体3と同一の単結晶で構成されている。被加工材20は、結晶体3に対応する結晶部23、すなわち結晶体3を得るための結晶部23を1つ有しており、結晶部23は一対の光通過面3a,3bを有する。すなわち、結晶部23における一対の光通過面3a,3bは被加工材20の表面の一部を構成している。
【0053】
次に、被加工材20を切断して結晶体3を得る(切断工程)。具体的には、被加工材20を切断して結晶部23を得てから結晶体3を得る過程で、被加工材20の切断によって新たに現れる切断面を含む表層部を除去して側面を形成し、結晶体3を得る(切断工程)。
【0054】
具体的には、まず
図8に示すように、被加工材20から、1つの結晶部23で構成される結晶成形加工体23Aを切り出す。
【0055】
次に、
図4に示すように結晶成形加工体23Aのうち新たに現れる切断面23aを含む表層部24を除去することで、結晶体3の全側面3cを得る。こうして、一対の光通過面3a,3bとこれらを連結する側面3cを有する結晶体3が得られる。
【0056】
このとき、表層部24の除去は、光通過面3a,3bにおける転位密度A(個/cm
2)及び側面3cにおける転位密度B(個/cm
2)の比であるB/Aが、下記一般式:
1≦(B/A)≦3600 (1)
を満たすように行う。
【0057】
なお、表層部24の除去方法、及び、除去する表層部24の厚さは、被加工材20から複数の結晶部23を得る場合と同様である。また、被加工材20から複数の結晶部23を得る場合と同様、結晶成形加工体23Aの表層部24の除去を行う前に、切断面23aに対して研削加工を行ってもよい。このとき、研削加工の方法は、被加工材20から複数の結晶部23を得る場合と同様である。
【0058】
上記のようにして結晶体3を得ることにより、良好な消光比を実現できる結晶体3を得ることができる。
【0059】
次に、上記準備工程及び上記切断工程について
図9および
図10を参照しながら詳細に説明する。
図9は
図2及び
図7の被加工材を製造するために使用する単結晶インゴットの一例を示す平面図、
図10は、
図9の単結晶インゴットから切り出した輪切り部を示す断面図である。
【0060】
(準備工程)
上記準備工程において用いられる被加工材20は、
図9に示すように、例えばチョクラルスキー法などによって育成された単結晶インゴット30を用意し、この単結晶インゴット30の延び方向、すなわち引上げ方向Eに対して直交する面Cで単結晶インゴット30を輪切りに切断して、
図10に示すように輪切り部31を形成し、この輪切り部31のうち新たに現れた切断面30aを含む表層部32を除去することにより得ることができる。このとき、表層部32の除去は、上記と同様にして行うことができる。このとき、輪切り部31において表層部32を除去することにより、2つの光通過面3a,3bが得られる。このとき、表層部32の除去は、光通過面3a,3bにおける転位密度が好ましくは1〜1×10
4個/cm
2となり、より好ましくは1〜1×10
3個/cm
2となるように行えばよい。またこのとき、輪切り部31のうち切断面30a以外の面30bに対しては表層部の除去は行われていない。
【0061】
(切断工程)
上記切断工程においては、表層部24及び表層部25の除去は、上記比(B/A)が、好ましくは1〜1000、より好ましくは1〜790、特に好ましくは1〜100となるように行うことが好ましい。この場合、得られる結晶体3が、(B/A)が上記範囲を外れる場合に比べて、より良好な消光比を実現できる。
【0062】
中でも、光通過面3a,3bにおける転位密度A(個/cm
2)及び側面3cにおける転位密度B(個/cm
2)の比(B/A)が1となるように表層部24及び表層部25の除去を行うことが特に好ましい。
【0063】
この場合、(B/A)が1より大きい場合又は1より小さい場合と比較して、より良好な消光比を実現できる結晶体3を得ることができる。
【0064】
次に、本発明の光学装置の一例について
図11を参照しながら説明する。
図11は、本発明の光学装置の一例を示す部分断面図である。
図11に示すように、光学装置としての光アイソレータ10は、ファラデー回転子としての結晶体3と、結晶体3の光通過面3aに対向するように配置される偏光子1と、結晶体3の光通過面3bに対向するように配置される検光子2と、結晶体3に磁界Bを印加する磁界印加装置4とを備えている。
【0065】
磁界印加装置4は、例えば偏光子1から検光子2に向かう方向、即ち光Lの入射方向に平行に磁界Bを印加するものであり、例えば磁石で構成される。また偏光子1及び検光子2は、それらの光透過軸同士が互いに非平行となるように、例えば90°の角度をなすように配置されている。
【0066】
結晶体3は、磁界Bの印加により、偏光子1の光透過軸を通過した光Lについて、その偏光面を回転させて、検光子2の光透過軸を通過させるものである。
【0067】
光通過面3a,3bは光入射方向に対して直交するように配置されている。
【0068】
上記光アイソレータ10によれば、上記結晶体3を用いているため、良好な消光比を実現できる。
【0069】
なお、
図11では、光学装置10が、結晶体3をファラデー回転子として用いる光アイソレータで構成されているが、結晶体3は、一対の光通過面とこれらを連結する側面とを有する形状を有していれば、偏光子、波長変換素子、レンズ、波長板、レーザ結晶、ビームスプリッタ、電気光学素子、音響光学素子、などの良好な消光比を示すことが求められる他の用途にも適用可能である。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
まず以下のようにして被加工材を準備した。はじめに、チョクラルスキー法によってテルビウム・スカンジウム・ルテチウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶(TSLAG)からなる直径20mmの単結晶インゴットを育成した。そして、この単結晶インゴットの延び方向に対して直交する面で単結晶インゴットを内周刃切断機(製品名:「S−LM−Eー50」、東京精密社製)にて輪切りに切断し、直径20mm、長さ20mmの輪切り部を形成した。そして、この輪切り部において新たに現れた2つの互いに平行な切断面に対して研削を行った後、研磨を行って切断面を含む表層部を除去した。このとき、研削は、ダイヤモンドの砥石で削ることにより行い、具体的には研削装置(製品名:「SGM−6301」、秀和工業社製)を用いて行った。また研磨は、コロイダルシリカの溶液を、パッド(商品名:「530N」、エンギス社製)と切断面との間に配置し、パッドを切断面に押し当てて切断面を10分間にわたって削ることにより行い、具体的には研磨装置(製品名:「EJW−400IFN」、エンギス社製)を用いて行った。このとき、除去した表層部の厚さは1.6μmであった。またコロイダルシリカの溶液としては、商品名「コンポール」(フジミインコーポレーテッド社製)からなる溶液を用いた。輪切り部のうち切断面以外の面に対しては研削も研磨も行わなかった。こうして被加工材を得た。
【0072】
次に、この被加工材を切断し、複数の結晶部からなる20mm×6mm×18mmの寸法を有する直方体状の結晶成形加工体を切り出した。
【0073】
このとき結晶成形加工体のうち新たに現れる切断面に対しても、輪切り部の切断面に対して行った研削及び研磨と同様にして研削及び研磨を順次行い、切断面を含む表層部を除去し、一部の側面を得た。このとき、研磨によって除去した表層部の厚さは1.6μmであった。
【0074】
続いて、結晶成形加工体を切断して6枚の板状の結晶部に分断した。このとき結晶部において新たに現れた切断面に対しても、輪切り部の切断面に対して行った研削及び研磨と同様にして研削及び研磨を順次行い、切断面を含む表層部を除去し、残りの側面を得た。
【0075】
こうして一対の光通過面とこれらを連結する4つの側面を有する結晶体を得た。このとき、結晶体を切断し、その断面を透過型電子顕微鏡で観察し、光通過面における転位密度A(個/cm
2)及び側面3cにおける転位密度B(個/cm
2)を、観察される視野内における転位の個数と、視野の面積とから下記式:
転位密度=(観察される視野内における転位の個数)/視野の面積(cm
2)
に従って算出し、A及びBの値からB/Aの値を算出した。結果を表1に示す。なお、断面を観察した際、転位については顕微鏡で観察される1本の黒いラインを1個の転位があると判断した。
【0076】
なお、転位密度が小さく透過型電子顕微鏡によって観察される視野内に転位が存在しない場合には、エッチピッド法で転位の密度を測定した。エッチピッド法は研磨面を200℃のリン酸に浸し、純水にて洗浄したのち、光学顕微鏡で観察して、リン酸でエッチングされた凹みの部分を転位と判断する方法である。転位の密度は、視野面積と転位の数から算出した。
【0077】
(実施例2)
結晶成形加工体のうち新たに現れる切断面及び結晶部において新たに現れた切断面に対する研磨時間を10分間から3分間とし、除去した部分の厚さを1.6μmから0.48μmとすることにより、B/Aの値を表1に示す通り1から790としたこと以外は実施例1と同様にして結晶体を作製した。
【0078】
(実施例3)
結晶成形加工体のうち新たに現れる切断面及び結晶部において新たに現れた切断面に対する研磨時間を10分間から1分間とし、除去した部分の厚さを1.6μmから0.16μmとすることにより、B/Aの値を表1に示す通り1から3600としたこと以外は実施例1と同様にして結晶体を作製した。
【0079】
(比較例1)
結晶成形加工体のうち新たに現れる切断面及び結晶部において新たに現れた切断面に対する研磨時間を10分間から0分間とし、除去した部分の厚さを1.6μmから0μmとすることにより、B/Aの値を表1に示す通り1から480000としたこと以外は実施例1と同様にして結晶体を作製した。
【0080】
(実施例4)
被加工材として、テルビウム・スカンジウム・ルテチウム・アルミニウム・ガーネット型単結晶(TSLAG)からなる直径20mmの単結晶インゴットを準備する代わりに、テルビウム・ガリウム・ガーネット型単結晶(TGG)からなる直径20mmの単結晶インゴットを準備し、結晶成形加工体を切断する際に結晶成形加工体を6枚の板状の結晶部に分断する代わりに9枚の板状の結晶部に分断するとともに、光通過面の転位密度A、側面の転位密度B、及びB/Aの値をそれぞれ表2に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして結晶体を得た。
【0081】
(比較例2)
結晶成形加工体のうち新たに現れる切断面に対して、輪切り部の切断面に対して行った研削と同様にして研削のみを行い、結晶成形加工体を切断して板状の結晶部に分断した際に結晶部において新たに現れた切断面に対しても、輪切り部の切断面に対して行った研削と同様にして研削のみを行うとともに、光通過面の転位密度A、側面の転位密度B、及びB/Aの値をそれぞれ表2に示す通りとしたこと以外は実施例4と同様にして結晶体を得た。
【0082】
[特性評価]
(消光比の測定及び偏光観察)
まず偏光子の光透過軸と検光子の光透過軸とのなす角が90°となるようにした。その状態で強度(P1)の光を入射し、検光子から出射された光の強度(P2)を測定した。そして、P2/P1を算出し、下記式に基づいて消光比(単位:dB) を算出した。
【数1】
【0083】
なお、消光比は通常はマイナスの値として算出されるが、本明細書では、簡便化のために絶対値で記載することとした。こうして偏光子と検光子との間に何もない状態で消光比が50dB以上であることを確認した。
【0084】
次に、偏光子と検光子との間に、実施例1〜4及び比較例1〜2の結晶体を配置した。このとき、結晶体の2つの光通過面をそれぞれ偏光子及び検光子と平行になるように配置した。そして、光が結晶体を通過する状態にして、上記と同様に消光比(単位:dB)を算出した。結果を表1及び表2に示す。また比較例1の結晶体における消光比を基準とした場合の実施例1〜3の消光比の増加率の結果を表1に、比較例2の結晶体における消光比を基準とした場合の実施例2の消光比の増加率の結果を表2に示す。なお、光は、その入射方向が結晶体の光通過面に直交するように入射させた。
【0085】
また消光比を測定している間、検光子を観察した。その結果を
図12〜
図17に示す。
図12〜
図17はそれぞれ実施例1〜3、比較例1、実施例4及び比較例2の結晶体の偏光観察結果を示す図である。
図12〜
図17において、結晶体の内部における残留応力が大きい箇所ほど検光子側から観察した場合に明るく見え、残留応力が小さい箇所ほど検光子側から観察した場合に暗く見える。残留応力が大きい箇所ほど検光子側から観察した場合に明るく見えるのは以下の理由によるものである。すなわち、偏光子と検光子との間に結晶体を配置しない場合には、偏光子を通過した光は検光子を透過しないようになっており、偏光子と検光子との間に結晶体を配置した場合でも結晶体の内部に残留応力が生じていなければ複屈折が生じることがないため、偏光子を通過して結晶体を透過した光は検光子を透過しないようになっている。しかし、偏光子と検光子との間に結晶体を配置した場合でも結晶体の内部に残留応力が生じていれば複屈折が生じるため、偏光子を通過して結晶体を透過した光は検光子を透過し得る。そのため、結晶体において残留応力が大きい箇所ほど検光子側から観察した場合に明るく見える。
【表1】
【表2】
【0086】
表1及び表2に示す結果より、実施例1〜3の結晶体は、比較例1の結晶体よりも、消光比の増加率が十分に大きく、実施例4の結晶体は、比較例2の結晶体よりも、消光比の増加率が十分に大きいことが分かった。
【0087】
また
図12〜
図17の結果より、実施例1〜3の結晶体は、比較例1の結晶体よりも、残留内部応力が小さく、実施例4の結晶体は、比較例2の結晶体よりも、残留内部応力が小さいことも分かった。
【0088】
以上より、本発明の結晶体は、良好な消光比を実現できることが確認された。
本発明は、互いに対向し、光を通過させる一対の光通過面と、一対の光通過面を連結する少なくとも1つの側面とを有し、結晶で構成される結晶体である。本発明の結晶体は、光通過面における転位密度A(個/cm