【実施例1】
【0012】
最初に、
図1〜
図7を参照しながら、本発明の実施例1を説明する。
図1は、本発明の金型を利用した射出成形装置の主要部を示す断面図,
図2は、本実施例の金型を利用して成形された熱可塑性樹脂成形品の表面の一部を拡大して示す断面図である。また、
図3は、本実施例の実験例と比較例のSEM画像及び3次元表面粗さパラメータ計測の結果を示す図である。
図4及び
図5は、本実施例の実験例の3次元表面粗さパラメータ計測の結果を示す図,
図6及び
図7は、比較例の3次元表面粗さパラメータ計測の結果を示す図である。
図1に示す射出成形装置は、本実施例の金型10と、射出装置20と、図示しない型締機構により構成されている。前記金型10は、固定型12と、該固定型12に対して進退可能な可動型14が型締機構により開閉可能な分割構造となっている。これら固定型12と可動型14の内側には、成形材料(溶融状態の樹脂)が充填されるキャビティ16が形成される。
【0013】
前記固定型12には、前記射出装置20に設けられたノズル22から供給される溶融樹脂の流入通路であるゲート18が設けられており、該ゲート18を通じて前記キャビティ16に溶融樹脂が射出充填される。また、前記固定型12と可動型14には、それぞれ、前記キャビティ16内の温度を調節するための熱媒体の流路24が複数設けられている。該流路24は、温度調節装置26に接続されており、該流路24を流れる媒体の切り替えが制御される。例えば、前記キャビティ16を加熱するときには媒体として飽和蒸気が流れ、キャビティ16を冷却するときには媒体として冷水が流れるようにするという具合である。
【0014】
本実施例では、可動型14側のキャビティ面30に凹凸加工(シボ加工)が施されている。該キャビティ面30は、
図1に示すように、凹凸が粗い第1のシボ加工部32上に、該第1のシボ加工部32よりも凹凸が細かい第2のシボ加工部34が形成された2段構成となっている。第2のシボ加工部34は、第1のシボ加工部32の凸部上のみでなく、凹部上にも形成されている。このようなキャビティ面30を有する金型10を利用して成形された熱可塑性樹脂成形品40に形成されるシボ表面42は、
図2(A)及び(B)に示すように、凹凸が小さい上層側(表面側)の凹凸46と、該凹凸46よりも凹凸が粗い下地側の凹凸44からなる2段構成となっている。前記上層側の凹凸46は、微細な鋭角形状であって無数に形成されている。前記熱可塑性樹脂成形品40のシボ表面42の3次元表面粗さパラメータにおいて、算術平均粗さSaを、1μm≦Sa<10μmとし、表面高さ分布の偏り度Sskを、−1≦Ssk≦0とし、表面高さ分布の尖り度Skuを、3≦Sku≦8となるように設定すると、低光沢性ないし光拡散性を有する熱可塑性樹脂成形品が得られる。
【0015】
更に、前記上層側の凹凸46の大きさは、高さHb及び幅Wbが、1μm≦Hb<10μm,1μm≦Wb<10μmの範囲を満たし、好ましくは、1μm≦Hb<5μm,1μm≦Wb<5μmを満たすようにするとよい。また、前記下地側の凹凸44と上層側の凹凸46の大きさは、
図2(B)に示すように、上層側の鋭角状の凹凸46の高さHbと下地側の凹凸44の高さHaの比が、Ha/Hb=2〜7となり、かつ、鋭角形状の凹凸46の幅Wbと下地側の凹凸44の幅Waの比が、Wa/Wb=20〜30となるように設定される。例えば、鋭角形状の凹凸46(細かいシボ)の幅Wbが3μm,高さHbが4μmであり、下地側の凹凸44(粗いシボ)の幅Waが70μm,高さHaが13μmの場合には、前記高さの比Ha/Hbは3.25、幅の比Wa/Wbは23.33であり、上述した範囲内となる。なお、以上のようなシボ表面42の3次元表面粗さパラメータ及び鋭角形状の凹凸46の高さ及び幅の数値範囲は、後述する実験例を根拠として定めたものである。
【0016】
次に、本実施例の射出成形方法を説明する。まず、図示しない型締機構により固定型12と可動型14を型締めし、温度調節装置26によって流路24に加熱用の媒体を流し、キャビティ16内を所定の温度となるように加熱する。この状態で、前記射出装置20から、前記ノズル22及びゲート18を介して、キャビティ16に溶融状態の樹脂を射出充填する。前記樹脂としては、公知の各種の熱可塑性樹脂が利用可能である。前記充填工程時に、キャビティ16を加熱しておくことにより、第1のシボ加工部32及び第2のシボ加工部34のそれぞれの凹凸の内側に隙間なく樹脂が入り込む。充填が完了したら、前記温度調節装置26により、流路24を流れる媒体を、加熱用媒体から冷却用媒体に切り替えてキャビティ16を冷却する。
【0017】
冷却が完了したら、型締機構により金型10を開き、第1のシボ加工部32及び第2のシボ加工部34のパターンが転写された熱可塑性樹脂成形品40を離型する。このとき、前記充填工程において凹凸の内側に隙間なく樹脂を流し込み、その後の冷却工程によってキャビティ16を冷却しているため、良好なパターンの転写とスムースな離型が可能となる。以上のようにして形成された射出成形品の表面の一部には、上述した2段のシボ加工が転写されているため、射出成形後に追加の工程を設けることなく低光沢性が付与されている。このような低光沢性を有する成形品は、例えば、自動車の計器類のカバーとして利用することで、良好な視認性を確保することができる。
【0018】
<実験例>・・・次に、
図3〜
図7を参照しながら、本発明の実験例について説明する。まず、
図3を参照しながら、上層の凹凸46と下地側の凹凸44の寸法について検討する。
図3(A)には、比較例CのSEM画像が示されており、
図3(B)には、本実施例のサンプルSのSEM画像が示されている。また、
図3(C)には、比較例Cの3次元表面粗さパラメータ計測の結果が示され、
図3(D)には、サンプルSの3次元表面粗さパラメータ計測の結果が示されている。比較例Cは、下地側の凹凸44のみを形成した熱可塑性樹脂成形品に相当するものである。なお、3次元表面粗さパラメータ計測には、カールツァイス社製のレーザ顕微鏡「LSM5 PASCAL」を使用した。また、3次元表面粗さパラメータ計測の結果と合わせて、60°光沢を測定する光沢計であるコニカミノルタセンシング株式会社製の「UNI GLOSS60」によって測定したグロス値を示した。これらの結果を見ると、上層側の鋭角形状の凹凸46は、高さHbと幅Wbが、1μm≦Hb<10μm,1μm≦Wb<10μmの範囲を満たし、好ましくは、1μm≦Hb<5μm,1μm≦Wb<5μmを満たすようにするとよい。また、前記鋭角形状の凹凸46に対し、下地側の凹凸44の高さHbの比率が2〜7倍(Ha/Hb=2〜7であり、かつ、幅の比率が20〜30倍(Wa/Wb=20〜30)である。
【0019】
次に、本実施例の加熱制御を行った実験例と、加熱制御を行わない比較例について、比較検討を行った。
図4(A)〜(F)には、本実施例の射出成形方法によって加熱・冷却の制御を行って成形した熱可塑性樹脂成形品のサンプル1〜6についての3次元表面粗さパラメータ計測の結果が示され、
図5(A)〜(F)には、同じくサンプル7〜12についての3次元表面粗さパラメータ計測の結果が示されている。また、
図6(A)〜(F)には、温度制御をしない場合の比較例1〜6の3次元表面粗さパラメータ計測の結果が示され、
図7(A)〜(F)には、同じく比較例7〜12についての3次元表面粗さパラメータ計測の結果が示されている。これらサンプル1〜12及び比較例1〜12は、いずれも下地側の凹凸と上層側の凹凸の2段の凹凸からなるシボ表面を有している。
【0020】
前記サンプル1〜12については、溶融樹脂の射出充填時及び充填完了後の冷却工程におけるキャビティ16の温度を、前記温度制御装置26によって制御した。例えば、溶融樹脂としてABS樹脂を用いた場合には、射出充填時には、ABS樹脂の荷重たわみ温度以上(例えば130℃以上)とし、充填完了後の冷却工程においては、ABS樹脂の荷重たわみ温度以下(例えば40℃以下)となるように制御を行った。また、比較例1〜12については、キャビティ16の温度を50℃で一定とした。なお、前記比較例1〜12は、温度制御以外については、前記サンプル1〜12と同様の手法により成形したものとする。また、前記
図4〜
図7の3次元表面粗さパラメータの計測には、前記
図3の3次元表面粗さパラメータ計測と同じ装置を使用し、これらの計測結果と合わせて、前記G値を示した。
【0021】
まず、
図4(A)〜(F)及び
図5(A)〜(F)の結果を見ると、サンプル8,9,10,11でG値が0.6となっており、サンプル1,2,5,7,12でG値が0.5となっており、サンプル3,4,6,でG値が0.4となっており、全てのサンプルについてG値が1.0以下の低光沢性を示している。これらの結果を考慮すると、シボ表面42の3次元表面粗さパラメータにおいて、
算術平均粗さSaが、1μm≦Sa<10μm,
表面高さ分布の偏り度Sskが、−1≦Ssk≦0,
表面高さ分布の尖り度Skuが、3≦Sku≦8,
の範囲を満たすようにすると、低光沢性を付与できることが確認できた。前記算術平均粗さSaが10μm以上になると、凹凸による離型に問題が生じることが確認された。
【0022】
これに対し、
図6(A)〜(F)及び
図7(A)〜(F)の結果を見ると、比較例1〜12の全てにおいてG値が1以上となっている。これは、前記表面高さ分布の偏り度Sskが0より大きくなると、表面凹凸の高さ分布が平均面に対して下側に偏っていることを表し、シボの転写が浅く表面の凹凸が下側に偏り、低光沢性が十分に発揮されていないことが確認できた。これらの結果から、前記金型10を用いた射出成形においては、射出充填時の加熱と充填完了後の冷却という温度制御により、キャビティ面30のシボ加工の転写が良好に行われることが確認された。
【0023】
このように、実施例1によれば、次のような効果がある。
(1)キャビティ面30にシボ加工が施されている金型10を利用して成形した熱可塑性樹脂成形品40の表面に形成されるシボ表面42が、下層側の粗い凹凸44と、上層側の細かい鋭角形状の無数の凹凸46からなる2段構成となっており、前記シボ表面42の3次元表面粗さパラメータにおいて、算術平均粗さSa,表面高さ分布の偏り度Ssk,表面高さの尖り度Skuを所定の数値範囲内としたので、熱可塑性樹脂成形品40を低光沢化することができる。
(2)前記金型10に、キャビティ16内の温度を調節するための媒体の通路となる流路24を設け、該流路24を温度調節装置26に接続するとともに、キャビティ面30に、粗い凹凸を有する第1のシボ加工部32と設け、該第1のシボ加工部32上の全面に、該第1のシボ加工部32よりも凹凸が細かい第2のシボ加工部34を設ける。そして、射出充填時にキャビティ16を加熱して第1のシボ加工部32及び第2のシボ加工部34の凹凸の内側まで溶融樹脂を入れ込み、充填完了後はキャビティ16を冷却することとしたので、シボ加工部32,34の凹凸パターンが確実に熱可塑性樹脂成形品40に転写されるとともに、金型10からの成形品の離型をスムースに行うことができる。
【0024】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例では、熱可塑性樹脂成形品40のシボ表面42を構成する下層の凹凸44は波型,上層側の細かい凹凸46は断面略3角形の鋭角形状としたが、これらの形状は一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。また、規則的形状ではなく、ランダムな形状であってもよい。更に、凹凸44,46の寸法も一例であり、上述した範囲内であれば、必要に応じて適宜変更可能である。
(2)前記実施例では、可動型14側のキャビティ面30にのみ第1のシボ加工部32及び第2のシボ加工部34を設けることとしたが、これも一例であり、固定型12側にも設けるようにしてもよいし、キャビティ16の内面のいずれか必要な部分にのみ成形品の用途に応じて形成するようにしてよい。
【0025】
(3)前記実施例では、熱可塑性樹脂成形品40のシボ表面42として、下層側の凹凸44上に上層側の凹凸46を形成した2段構造としたが、これも一例であり、3段以上の凹凸からなるシボ表面を形成してもよい。
(4)成形材料として黒色の樹脂を利用すると、上述した実施例のように低光沢性を有する成形品が得られるが、他の色の樹脂を利用してもよい。あるいは、透明の樹脂を利用することにより、転写された凹凸パターンによる光の乱反射が可能となるため、光拡散性を有する成形品として利用してもよい。光拡散性を有する成形品は、側面から入射させた光をシボ表面で拡散させることにより、例えば、導光板などの用途に適用可能である。また、上述した透明や黒色は一例であり、成形品の用途等に応じた低光沢性や光拡散性を付与することができるものであれば、他の色とすることを妨げない。
(5)前記実施例では、加熱方法として、流路24に飽和蒸気を流す方法を利用することとしたが、これも一例であり、熱媒体として飽和蒸気の他に加圧水や加熱オイルを流すようにしてもよいし、電熱ヒーターを用いる方法や誘導加熱により加熱する方法、あるいは、炎を加熱する方法を用いるようにしてもよい。更に、それらの方法を組み合わせるようにしてもよい。冷却方法についても同様に、前記実施例以外の方法を用いてよい。
(6)前記実施例で示した低光沢性の成形品の用途は一例であり、本発明は、低光沢性ないし光拡散性を有する射出成形品の成形全般に適用可能である。