特許第5784999号(P5784999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5784999
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】ワイヤソー装置及び切断加工方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20150907BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20150907BHJP
   B28D 5/04 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   B24B27/06 D
   H01L21/304 611W
   B28D5/04 C
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-134814(P2011-134814)
(22)【出願日】2011年6月17日
(65)【公開番号】特開2013-840(P2013-840A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2014年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】391003668
【氏名又は名称】トーヨーエイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077931
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100110939
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100110940
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋田 高久
(74)【代理人】
【識別番号】100113262
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 祐二
(74)【代理人】
【識別番号】100115059
【弁理士】
【氏名又は名称】今江 克実
(74)【代理人】
【識別番号】100117581
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 克也
(74)【代理人】
【識別番号】100117710
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 智雄
(74)【代理人】
【識別番号】100124671
【弁理士】
【氏名又は名称】関 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100131060
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 靖也
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100131901
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 雅典
(74)【代理人】
【識別番号】100132012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩下 嗣也
(74)【代理人】
【識別番号】100141276
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 康二
(74)【代理人】
【識別番号】100143409
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100157093
【弁理士】
【氏名又は名称】間脇 八蔵
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(74)【代理人】
【識別番号】100163197
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100163588
【弁理士】
【氏名又は名称】岡澤 祥平
(72)【発明者】
【氏名】今久留主 昌治
(72)【発明者】
【氏名】岩井 利光
(72)【発明者】
【氏名】星山 豊宏
(72)【発明者】
【氏名】藤村 健司
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−023145(JP,A)
【文献】 特開平11−070457(JP,A)
【文献】 特開平09−155858(JP,A)
【文献】 特開2007−276097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B28D 5/04
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行しながら揺動する切断用ワイヤに被加工物を押し付けて当該被加工物を切断するワイヤソー装置であって、
前記被加物が押し付けられる方向に対して略垂直な基準位置から所定の角度の範囲で揺動軸を中心に揺動するワイヤガイド支持部と、
前記ワイヤガイド支持部に配置され、各々が互いに離れて前記揺動軸と平行な回転軸を中心に回転する一対のワイヤガイドと、
一対の前記ワイヤガイドの周囲に中間部分が螺旋状に巻き付けられる1本の前記切断用ワイヤと、
前記切断用ワイヤの一方の端部側の巻き出し及び巻き取りが可能なワイヤ供給装置と、
前記切断用ワイヤの他方の端部側の巻き出し及び巻き取りが可能なワイヤ巻取装置と、
前記被加工物を支持し、変位して当該被加工物を前記切断用ワイヤに押し付けるワーク保持部と、
制御装置と、
を備え、
前記制御装置が、
前記ワイヤガイド支持部の揺動角度の絶対値が増加するに従って次第に減少し、当該揺動角度の絶対値が減少するに従って次第に増加するように、前記ワーク保持部の変位速度を制御する変位制御手段、
前記ワイヤガイド支持部の揺動角度の絶対値が増加するに従って次第に減少し、当該揺動角度の絶対値が減少するに従って次第に増加するように、当該ワイヤガイド支持部の揺動速度を制御する揺動制御手段、
の少なくともいずれか一方を有しているワイヤソー装置。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤソー装置において、
前記変位制御手段は、前記揺動角度の絶対値が最大になる時に前記変位速度が0になるように制御するワイヤソー装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のワイヤソー装置において、
前記揺動角度の絶対値が所定の閾値に至るまでは前記変位速度は一定に保持され、前記変位制御手段の制御が当該閾値以上の範囲で実行されるワイヤソー装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載のワイヤソー装置において、
前記揺動角度の絶対値における最大角度とその近傍の所定の角度の範囲で、前記変位速度は一定に保持されるワイヤソー装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載のワイヤソー装置において、
前記揺動角度の絶対値が所定の閾値に至るまでは前記揺動速度は一定に保持され、前記揺動制御手段の制御が当該閾値以上の範囲で実行されるワイヤソー装置。
【請求項6】
走行しながら揺動する切断用ワイヤに被加工物を押し付けて当該被加工物を切断する切断加工方法であって、
前記切断用ワイヤの揺動角度の絶対値が増加するに従って次第に減少し、当該揺動角度の絶対値が減少するに従って次第に増加するように、前記被加工物の変位速度を自動制御する変位制御工程を含む切断加工方法。
【請求項7】
走行しながら揺動する切断用ワイヤに被加工物を押し付けて当該被加工物を切断する切断加工方法であって、
前記切断用ワイヤの揺動角度の絶対値が増加するに従って次第に減少し、当該揺動角度の絶対値が減少するに従って次第に増加するように、前記切断用ワイヤの揺動速度を自動制御する揺動制御工程を含む切断加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、シリコンインゴット等から薄板状の基板を切り出すのに用いられるワイヤソー装置及び切断加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種のワイヤソー装置では、離れて配置された複数のワイヤガイドの周囲に切断用ワイヤ(単にワイヤともいう)が螺旋状に巻き付けられている。このワイヤを走行制御することで、ワイヤガイド間には略平行に並んで同方向に走行するワイヤ群が形成される。これらワイヤ群にシリコンインゴット等(ワークともいう)を押し当てることにより、ワークから複数の基板を同時に切り出すことができる。
【0003】
ところが、切削が進むと、ワークとワイヤとの間に隙間が無くなり、接触量が増えて切削除去量も増加する。そうなると、切削負荷は大きくなるし、切り粉も排出され難くなるため、切断効率が低下する。
【0004】
そこで、ワイヤを揺動させながら切断する方法(揺動切断)が提案されている(特許文献1)。ワイヤを揺動させた場合、ワークとワイヤとの接触量が全体的に小さくなるため、切断速度が増大し、切り粉も排出され易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−171753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、揺動切断を行った場合、揺動角度が大きくなるとワイヤが撓み易くなるという問題がある。
【0007】
図1図2に、揺動切断途中におけるワークWとワイヤ101を示す。これら図では、矢印線で示す範囲を揺動しながら走行しているワイヤ101に対し、ワークWが上方から押し付けられている状態を示している。図1は揺動角度が最も小さい時を表しており、図2は揺動角度が最も大きい時を表している。なお、ワークWはワイヤ101に向かって一定速度で変位していてワイヤ101に常に押し付けられている。
【0008】
ワイヤ101の揺動角度が小さい時には、図1に示すように、ワイヤ101が撓んでも、ワークWとワイヤ101との接触量は小さく、ワークWの切削除去量(網目線で示す部分)も少ない。従って、同図の(b)に示すように、ワイヤ101がワークWに押し付けられて撓んでも、直ぐに仮想線で示すように撓みが無くなるため、ワイヤ101はほとんど撓みの無い状態でワークWを切削することができる。
【0009】
ところが、揺動角度が大きくなると、図2に示すように、ワークWとワイヤ101との接触量が大きく、ワークWの切削除去量も多くなる。その結果、切削による切り込み速度がワークWの変位速度に追随できなくなり、ワイヤ101の撓みも戻り難くなる。ワイヤ101が撓むと、ワイヤ101に過度な張力が加わる虞があるうえ、更に接触量が増えて切削負荷も増加するし、切り粉も排出され難くなる。
【0010】
そこで、本発明の目的は、揺動角度が大きくなっても、ワイヤの撓みを抑制することができ、バランスよく切断できるワイヤソー装置及び切断加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のワイヤソー装置は、走行しながら揺動する切断用ワイヤに被加工物を押し付けて当該被加工物を切断する。ワイヤソー装置は、前記被加物が押し付けられる方向に対して略垂直な基準位置から所定の角度の範囲で揺動軸を中心に揺動するワイヤガイド支持部と、前記ワイヤガイド支持部に配置され、各々が互いに離れて前記揺動軸と平行な回転軸を中心に回転する一対のワイヤガイドと、一対の前記ワイヤガイドの周囲に中間部分が螺旋状に巻き付けられる1本の前記切断用ワイヤと、前記切断用ワイヤの一方の端部側の巻き出し及び巻き取りが可能なワイヤ供給装置と、前記切断用ワイヤの他方の端部側の巻き出し及び巻き取りが可能なワイヤ巻取装置と、前記被加工物を支持し、変位して当該被加工物を前記切断用ワイヤに押し付けるワーク保持部と、制御装置と、を備えている。
【0012】
そして、前記制御装置が、前記ワイヤガイド支持部の揺動角度の変化に反比例して前記ワーク保持部の変位速度を制御する変位制御手段、前記ワイヤガイド支持部の揺動角度の変化に反比例して当該ワイヤガイド支持部の揺動速度を制御する揺動制御手段、の少なくともいずれか一方を有している。
【0013】
このワイヤソー装置によれば、ワーク保持部の変位速度やワイヤガイド支持部の揺動速度は、ワイヤガイド支持部の揺動角度の変化に反比例して制御される。すなわち、揺動角度が小さくなれば、それに対応して被加工物の変位速度や切断用ワイヤの揺動速度は大きくなり、揺動角度が大きくなれば、それに対応して被加工物の変位速度や切断用ワイヤの揺動速度は小さくなる。
【0014】
揺動角度が大きくなっても、被加工物の変位速度や切断用ワイヤの揺動速度が小さくなれば、切断用ワイヤへの被加工物の押し付け量が小さくなるため、切断用ワイヤと被加工物との接触量や切削除去量が増加しても切削し易くなる。その結果、切削による切り込み速度を被加工物の変位速度に追随させることができ、切断用ワイヤの撓みを抑制することできる。
【0015】
前記変位制御手段は、前記揺動角度が最大になる時に前記変位速度が0になるように制御するのが好ましい。そうすれば、切断用ワイヤの撓みを効果的に抑制できる。
【0016】
例えば、前記揺動角度が所定の閾値に至るまでは前記変位速度は一定に保持され、前記変位制御手段の制御が当該閾値以上の範囲で実行されるようにしてもよい。また、前記揺動角度における最大角度とその近傍の所定の角度の範囲で、前記変位速度は一定に保持されるようにすることもできる。更に、前記揺動角度が所定の閾値に至るまでは前記揺動速度は一定に保持され、前記揺動制御手段の制御が当該閾値以上の範囲で実行されるようにすることもできる。
【0017】
好適な切断加工方法としては、例えば、前記切断用ワイヤの揺動角度の変化に反比例して、前記被加工物の変位速度を自動制御する変位制御工程や、前記切断用ワイヤの揺動角度の変化に反比例して、前記切断用ワイヤの揺動速度を自動制御する揺動制御工程を含むようにすればよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のワイヤソー装置等によれば、揺動角度が大きくなれば、それに応じて切削負荷が小さくなるように制御されるので、揺動角度の大小にかかわらずワイヤの撓みを安定して抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】揺動切断時におけるワークとワイヤとの関係を示す、断面方向から見た概略図である。(b)は(a)の一点鎖線で区画した部分の拡大図である。
図2】揺動切断時におけるワークとワイヤとの関係を示す、断面方向から見た概略図である。(b)は(a)の一点鎖線で区画した部分の拡大図である。
図3】実施形態に係るワイヤソー装置の要部の全体構成を示す概略図である。
図4】ワイヤソー装置の主要部の概略図である。
図5】揺動角度に対する揺動速度のタイムチャートである。(a)は揺動角度の変化を、(b)は(a)に対応した揺動速度の変化を表している。
図6】揺動角度に対する変位速度のタイムチャートである。(a)は揺動角度の変化を、(b)は(a)に対応した変位速度の変化を表している。
図7】第1変形例の揺動角度に対する変位速度のタイムチャートである。(a)は揺動角度の変化を、(b)は(a)に対応した変位速度の変化を表している。
図8】第2変形例の揺動角度に対する変位速度のタイムチャートである。(a)は揺動角度の変化を、(b)は(a)に対応した変位速度の変化を表している。
図9】第3変形例の揺動角度に対する変位速度のタイムチャートである。(a)は揺動角度の変化を、(b)は(a)に対応した変位速度の変化を表している。
図10】第4変形例の揺動角度に対する変位速度のタイムチャートである。(a)は揺動角度の変化を、(b)は(a)に対応した揺動速度の変化を表している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(ワイヤソー装置)
図3に、本実施形態のワイヤソー装置1を示す。このワイヤソー装置1は、例えば、半導体装置や太陽電池等の製造に用いられるシリコンインゴット等の柱状の被加工物(ワークWと称する)を、複数の薄板状の基板に切断するために使用される。ワイヤソー装置1には、ワイヤガイド2や切断用ワイヤ3、ワイヤガイド支持部4、ワイヤ供給装置6、ワイヤ巻取装置7、制御装置8、側壁プレート10、張力保持機構11、ワーク保持部50などが備えられている。
【0021】
側壁プレート10は、ワイヤソー装置1の加工領域を区画する壁体の一部であり、加工領域に面するその側面に円形に開口する貫通孔12を有している。貫通孔12の内側には、揺動円板91が配置されている。揺動円板91は、貫通孔12の中心を通る揺動軸A1回りに揺動変位する。
【0022】
揺動円板91の一方の側面(加工領域側)には、ワイヤガイド支持部4が固定されている。ワイヤガイド支持部4も揺動軸A1を中心に揺動変位する。ワイヤガイド支持部4は、揺動軸A1の方向に離れて対向する一対の支持壁4a,4aや、これら支持壁4aの一端に連なる連結壁4bなどで構成されている。ワイヤガイド支持部4における連結壁4bの反対側(ワーク側)に、一対のワイヤガイド2、2が配置されている。
【0023】
ワイヤガイド2は、円柱形状をしている。ワイヤガイド2の端部は両支持壁部4aに支持されていて、各ワイヤガイド2は互いに離れて並列している。ワイヤガイド2は、互いに同期して、揺動軸A1と平行な回転軸A2を中心に回転する。これら2つの回転軸A2を結ぶ線分の中点に揺動軸A1が位置している(図4参照)。
【0024】
揺動円板91の他方の側面(裏面側)には、ワイヤガイド駆動モータ20や揺動駆動モータ92が取り付けられている。揺動駆動モータ92の駆動によって揺動円板91は揺動し、ワイヤガイド駆動モータ20の駆動によってワイヤガイド2は回転する。揺動駆動モータ92及びワイヤガイド駆動モータ20は、制御装置8によって駆動制御されている。
【0025】
本実施形態では、切断用ワイヤ3(ワイヤ3ともいう)に、ワイヤ3の表面にダイヤモンド等の微細な砥粒が固着されている固定砥粒ワイヤが用いられている。1つのワイヤソー装置1に対し、例えば100m以上の長さの1本のワイヤ3が用いられる。一対のワイヤガイド2、2の間に略平行な複数のワイヤ3の列(ワイヤ群3aともいう)が形成されるように、ワイヤ3は一対のワイヤガイド2、2に螺旋状に巻き付けられている。
【0026】
具体的には、図4にも示すように、ワイヤ3の中間部分が、一対のワイヤガイド2の全体の周囲に繰り返し巻き掛けられ、両ワイヤガイド2の間に張り渡されている。ワイヤ3は、一方のワイヤガイド2(供給側ワイヤガイド2)のワークW側を通って他方のワイヤガイド2(巻取側ワイヤガイド2)まで張り渡され、巻取側ワイヤガイド2に巻き掛けられている。巻取側ワイヤガイド2に巻き掛けられたワイヤ3は、連結壁4b側を通って供給側ワイヤガイド2まで張り渡され、供給側ワイヤガイド2に巻き掛けられている。この状態が回転軸A2の方向に所定のピッチで繰り返し行われ、最後に巻取側ワイヤガイド2のワークW側からワイヤ3が引き出されている。
【0027】
供給ワイヤガイド2から外方に引き出されたワイヤ3は、複数のプーリPに案内されてワイヤ供給装置6まで延びている。ワイヤ供給装置6には、供給側ボビン61や供給側アシストモータ62などが備えられている。ワイヤ供給装置6には、最初に、ワイヤ3の新線が巻装された供給側ボビン61が装着される。供給側アシストモータ62は、制御装置8と協働して供給側ボビン61を回転駆動し、所定の速度で所定量のワイヤ3を巻き出したり巻き取ったりする。
【0028】
巻取側ワイヤガイド2から外方に引き出されたワイヤ3は、複数のプーリPに案内されてワイヤ巻取装置7まで延びている。ワイヤ巻取装置7には、巻取側ボビン71や巻取側アシストモータ72などが備えられている。ワイヤ巻取装置7には、最初に、ワイヤ3が巻装されていない空の状態の巻取側ボビン71が装着される。巻取側アシストモータ72は、制御装置8と協働して巻取側ボビン61を回転駆動し、供給側アシストモータ62と同期してワイヤ3を巻き取ったり巻き出したりする。
【0029】
ワイヤ3の張力を一定に保持制御するために、供給側ボビン61と供給側ワイヤガイド2との間、及び巻取側ボビン71と巻取側ワイヤガイド2との間に、張力保持機構11が配設されている。張力保持機構11には、テンションアーム11aやテンションモータ11bなどが備えられている。テンションモータ11bは、例えば、フィードバック制御されたサーボモータで構成され、ワイヤ3の張力の実測値に基づいて回動変位するように設定されている。テンションモータ11bの作動によってテンションアーム11aに軸支されたプーリPが変位し、ワイヤ3の張力は一定に保持される。
【0030】
本実施形態のワイヤソー装置1では、回転方向を交互に変えてワイヤガイド駆動モータ20及び両アシストモータ62,72を駆動させることにより、ワイヤ供給装置6及びワイヤ巻取装置7のそれぞれにおいてワイヤ3の巻き出しとワイヤ3の巻き取りとが交互に繰り返し行われる。具体的には、供給側ボビン61から所定長さのワイヤ3が巻き出されて巻取側ボビン71に巻き取られる。続いて、所定長さよりも短い長さ分だけ、巻取側ボビン71からワイヤ3が巻き出されて供給側ボビン61に再度巻き取られる。この処理を交互に繰り返し行うことにより、ワイヤ3の新線部分は供給側ボビン61から順次繰り出され、ワイヤ3は、供給側ボビン61から巻取側ボビン71へと順次巻き取られていく。
【0031】
ワーク保持部50は、ワーク保持部材51やワーク昇降モータ52などで構成さていて、ワイヤガイド支持部4のワークW側に離れて配設されている。詳しくは、図4に示したように、軸方向から見て、揺動軸A1を通り、揺動角度が0の時の2つの回転軸A2を結ぶ線分に対して略垂直な延長線L上にワーク保持部材51が位置している。ワーク保持部材51の一端(テーブル51aともいう)はワイヤ群3aと対向していて、そのテーブル51aにワークWが着脱可能に支持されている。
【0032】
ワーク保持部材51の他端側に、ワーク昇降モータ52が配置されている。ワーク昇降モータ52は、制御装置8と協働し、ボールネジ機構(不図示)によってワーク保持部材51を延長線Lに沿って変位させる。
【0033】
制御装置8は、CPUやメモリ等のハードウエアと、メモリに実装された制御プログラム等のソフトウエアとで構成されている。制御装置8には、ワイヤガイド駆動モータ20やワーク昇降モータ52、供給側アシストモータ62,巻取側アシストモータ72、揺動駆動モータ92等が接続されていて、制御装置8はこれらを駆動制御している。
【0034】
具体的には、制御装置8は、ワイヤガイド駆動モータ20や供給側アシストモータ62,巻取側アシストモータ72を駆動制御している。それにより、ワイヤ3の巻き出し及び巻き取りの処理が交互に繰り返し行われ、ワイヤ3は次第に供給側ボビン61から巻取側ボビン71に巻き取られる。
【0035】
制御装置8は、揺動駆動モータ92も駆動制御している。それにより、揺動円盤91やワイヤガイド支持部4、ワイヤガイド2、ワイヤ群3aは揺動する。具体的には、延長線Lに垂直な揺動角度0の基準位置から、時計回り及び反時計回りに所定の角度(θ)の範囲で、ワイヤガイド支持部4等は揺動軸A1を中心に揺動変位する。制御装置8が、ワイヤガイド駆動モータ20等とワイヤガイド支持部4等とを同時に駆動制御することにより、ワイヤ群3aは走行した状態で揺動変位する。
【0036】
また、制御装置8はワーク昇降モータ52も駆動制御している。それにより、ワーク保持部材51やワークWはワイヤ群3aに向かって変位し、ワークWは切断されるまで常時ワイヤ3に押し付けられる。
【0037】
そして、本実施形態の制御装置8には、揺動によって生じるワイヤ3の撓みを抑制するために、ワークWの変位速度を制御する変位制御プログラム8a(変位制御手段)や、ワイヤ3の揺動速度を制御する揺動制御プログラム8b(揺動制御手段)が組み込まれている。変位制御プログラム8aや揺動制御プログラム8bについては、次の切断加工方法の説明において詳細に説明する。
【0038】
(切断加工方法)
このワイヤソー装置1では、ワークWをセットし、例えば、操作スイッチを操作してワイヤソー装置1を作動させることで、ワイヤガイド駆動モータ20等と制御装置8との協働により、ワークWの切断が完了するまでの一連の処理が自動的に実行される。
【0039】
まず最初には、テーブル51aにワークWがセットされる(ワーク支持工程)。具体的には、ワークWはその切断方向がワイヤ群3aと平行になるようにテーブル51aに取り付けられる。そうしてワイヤソー装置1を作動させると、ワイヤガイド2の回転に連動して、ワイヤ供給装置6及びワイヤ巻取装置7においてワイヤ3の引き出し処理や巻き取り処理が行われ、ワイヤ3は、所定の速度で前進と後退を繰り返す(ワイヤ走行工程)。
【0040】
ワイヤ3の走行に連動して、ワイヤガイド支持部4等も制御装置8によって自動的に揺動制御される(揺動制御工程)。本実施形態の揺動制御工程では、上述した揺動制御プログラム8bが実行される。具体的には、ワイヤガイド支持部4等の揺動角度の変化に反比例するように、ワイヤガイド支持部4等の揺動速度が制御される。
【0041】
図5に、その制御における揺動角度に対する揺動速度のタイムチャートを示す。同図の(a)はワイヤガイド2等の時間経過に対する揺動角度の変化を表している。同図の(b)は(a)に対応したワイヤガイド支持部4等の揺動速度の変化を表している。
【0042】
本実施形態では、揺動角度が増加するに従って揺動速度が次第に減少し、揺動角度が減少するに従って揺動速度が次第に増加するように制御されている。そして、揺動角度が0になる時には、揺動速度が予め設定された設定値(Vy)になり、揺動角度が最大になる時には、揺動速度が設定値Vyよりも小さい値(予め設定される減速値:Vy1)になるように制御されている。
【0043】
揺動角度が大きくなれば、それに応じて揺動速度が小さくなってワイヤ群3aへのワークWの押し付け量も小さくなるので、ワイヤ群3aとワークWとの接触量や切削除去量が増加してもワイヤ3は切削し易くなる。その結果、切削による切り込み速度をワークWの変位速度に追随させることができ、ワイヤ3の撓みを抑制することできる。また、ワークWが切削され易い時(揺動角度が0になる時)には揺動速度は最大になるので、効率よく切削できる。
【0044】
そして、ワークWをワイヤ群3aに押し付けるために、揺動制御されながら走行しているワイヤ群3aに向かってワーク保持部材51が変位する(変位制御工程)。走行するワイヤ群3aにワークWが接すると、その摩擦抵抗によってワークWは切削される。切削時には、オイル供給装置(不図示)よりワークWの切削部位にオイルが供給される。ワークWが分断されるまで、ワイヤ3の走行制御及び揺動制御が自動的に実行される。
【0045】
本実施形態の変位制御工程では、上述した変位制御プログラム8aが実行される。具体的には、ワイヤガイド2等の揺動角度の変化に反比例するように、ワークWの変位速度が制御される。
【0046】
図6に、その制御における揺動角度に対する変位速度のタイムチャートを示す。同図の(a)はワイヤガイド2等の時間経過に対する揺動角度の変化を表している。同図の(b)は(a)に対応したワーク保持部50の変位速度の変化を表している。
【0047】
本実施形態では、揺動角度が増加するに従って変位速度が次第に減少し、揺動角度が減少するに従って変位速度が次第に増加するように制御されている。そして、揺動角度が0になる時には変位速度が最大(Vh:設定変位速度)になり、揺動角度が最大になる時には変位速度が0になるように制御されている。
【0048】
揺動角度が大きくなれば、それに応じてワークWの変位速度が低くなってワイヤ群3aへのワークWの押し付け量も小さくなるので、ワイヤ群3aとワークWとの接触量や切削除去量が増加してもワイヤ3は切削し易くなる。その結果、切削による切り込み速度をワークWの変位速度に追随させることができ、ワイヤ3の撓みを抑制することできる。
【0049】
揺動角度が0の時には変位速度は最大になるので、効率よく切削できる。また、揺動角度が最大の時には変位速度は0になるので、ワイヤ3の撓みを効果的に抑制できる。揺動角度の大小に対応してワイヤ3の撓みをバランス良く制御することができるので、安定した切削を実現することができる。
【0050】
特に、本実施形態のワイヤソー装置1では、ワークWの変位速度の制御とワイヤ群3aの揺動速度の制御とが同時に行われるので、よりいっそうワイヤ3の撓みが抑制でき、安定した切削を実現することができる。
【0051】
(変形例)
変位制御プログラム8aや揺動制御プログラム8bの構成は、上述した実施形態に限られず、仕様等に合わせて適宜変更することができる。
【0052】
図7に、その変形例の一例を示す(第1変形例)。同図の(a)はワイヤガイド2等の時間経過に対する揺動角度の変化を、同図の(b)は(a)に対応したワーク保持部50の変位速度の変化を表している。本変形例では、揺動角度(絶対値)が所定の閾値(θs)に至るまではワーク保持部50の変位速度は一定に保持され、その閾値以上の範囲で変位制御プログラム8aの制御が実行されるように設定されている。
【0053】
具体的には、ワイヤガイド2等の揺動角度(絶対値)が0〜θsの範囲では、ワーク保持部50の変位速度は設定変位速度(Vh)に保持される。そして、ワイヤガイド支持部4等の揺動角度(絶対値)がθs以上の範囲において、上述した実施形態の場合と同様に、揺動角度が増加するに従って変位速度が次第に減少し、揺動角度が減少するに従って変位速度が次第に増加するように制御されている。
【0054】
このように制御すれば、揺動角度が大きくなるところではワイヤ3の撓みを抑制しながら、揺動角度が小さいところでは変位速度を高く保持できるので、安定した切削を実現しながら切削時間の短縮も図ることができる。
【0055】
更に、図8に、別の変形例を示す(第2変形例)。同図の(a)はワイヤガイド2等の時間経過に対する揺動角度の変化を、同図の(b)は(a)に対応したワーク保持部50の変位速度の変化を表している。
【0056】
本変形例では、揺動角度が最大になる時に、変位速度が0にならずに設定変位速度よりも小さい値(Vh1)になるように制御されている点で、第1変形例と異なっている。
【0057】
また更に、図9に、別の変形例を示す(第3変形例)。同図の(a)はワイヤガイド2等の時間経過に対する揺動角度の変化を、同図の(b)は(a)に対応したワーク保持部50の変位速度の変化を表している。
【0058】
本変形例では、揺動角度における最大角度とその近傍の所定の角度の範囲で、変位速度が一定に保持されるように制御されている点で、上述した実施形態等と異なっている。このように、揺動角度が大きくなっている時に、ワーク保持部50等の変位を一定期間停止させることで、ワイヤ3は更に切削し易くなるため、ワイヤ3の撓みをよりいっそう効果的に抑制することができる。
【0059】
また更に、図10に、別の変形例を示す(第4変形例)。同図の(a)はワイヤガイド2等の時間経過に対する揺動角度の変化を、同図の(b)は(a)に対応したワイヤガイド支持部4等の揺動速度の変化を表している。
【0060】
本変形例では、揺動角度が所定の閾値(θs)に至るまではワイヤガイド支持部4等の揺動速度は一定に保持され、その閾値以上の範囲で揺動制御プログラム8bの制御が実行されるように設定されている。
【0061】
具体的には、ワイヤガイド2等の揺動角度(絶対値)が0〜θsの範囲では、ワイヤガイド支持部4等の揺動速度は設定変位速度(Vy)に保持される。そして、ワイヤガイド支持部4等の揺動角度(絶対値)がθs以上の範囲において、上述した実施形態の場合と同様に、揺動角度が増加するに従って揺動速度が次第に減少し、揺動角度が減少するに従って揺動速度が次第に増加するように制御されている。
【0062】
なお、本発明にかかるワイヤソー装置1等は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。本発明が適用可能なワイヤソー装置1は、図1に示すワイヤソー装置1に限られない。揺動しながら走行するワイヤにワークを押し当てて切断加工を行うタイプのワイヤソー装置1に本発明は広く適用可能である。
【0063】
例えば、張力保持機構11は、テンションアーム11a等に限らない。例えば、ワイヤ供給装置6やワイヤ巻取装置7に張力保持機構を組み込んであってもよい。ワイヤガイド2は3つ以上であってもよい。
【0064】
ワークWの形状(加工前の形状)も特に限定されるものではない。例えば、円柱状や直方体状等の様々な形状を持つワークWに本発明は広く適用可能である。ワークWの材質もシリコン等に限定されるものではない。切断用ワイヤは固定砥粒ワイヤに限らないが、ワークWがサファイアや炭化ケイ素(SiC)等の難削材の場合には固定砥粒ワイヤを用いるのが好ましい。
【0065】
変位制御手段8a及び揺動制御手段8bは、同時に行う必要はない。それぞれ単独で行ってもよい。実施形態のように、ワイヤソー装置1は、変位制御手段8a、揺動制御手段8bの双方を有していてもよいし、変位制御手段8aのみ、あるいは揺動制御手段8bのみを有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のワイヤソー装置及び切断加工方法は、シリコンインゴット等の切断に好適である。
【符号の説明】
【0067】
1 ワイヤソー装置
2 ワイヤガイド
3 切断用ワイヤ
4 ワイヤガイド支持部
6 ワイヤ供給装置
7 ワイヤ巻取装置
8 制御装置
8a 変位制御プログラム
8b 揺動制御プログラム
10 側壁プレート
11 張力保持機構
50 ワーク保持部
61 供給側ボビン
71 巻取側ボビン
P プーリ
W ワーク
A1 揺動軸
A2 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10