(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸線方向で互いに対向して配置された一対のカム部材を有しかつそれらのカム部材の間にこれらカム部材を互いに反対方向に回転するようにトルク差が生じた場合にそのトルク差に応じた軸線方向への推力を発生するカム機構と、磁気吸着力によって吸着することにより発生する摩擦力で前記トルク差を生じさせる吸引部材とを備え、いずれか一方の前記カム部材を前記吸引部材側に押圧する推力によって前記トルク差を増大させて前記カム部材を前記吸引部材側に押圧する係合力を増大させるように構成された電磁係合装置において、
前記吸引部によって吸着されて前記摩擦力を発生させる被吸引部を備えるとともに、
その被吸引部が、いずれかの一方の前記カム部に、当該一方のカム部材と一体となって回転しかつ軸線方向に相対移動可能に取り付けられ、
前記被吸引部を磁気吸引力に抗して前記吸引部から離れる方向に弾性力を作用させる第1リターンスプリングと、前記一方のカム部材を前記推力に抗して前記吸引部から離れる方向に弾性力を作用させる第2リターンスプリングとを更に備え、
前記第2リターンスプリングの弾性力は、前記第1リターンスプリングの弾性力よりも大きい
ことを特徴とする電磁係合装置。
前記一方のカム部材が係合するまでは電磁コイルに通電する電流を制御してトルク制御し、当該一方のカム部材が係合したときは前記カム機構がセルフロックするようにカム角度と、カム摩擦係数と、転動体配置径との少なくともいずれかの値が設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁係合装置。
前記被吸引部は、前記一方のカム部材と前記吸引部との間に配置され、前記推力により前記一方のカム部材が前記吸引部との間に前記被吸引部を挟みつけるように構成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電磁係合装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1あるいは2に記載された構成では、内外周の二つのアーマチュアを設け、それぞれのアーマチュアに対してリターンスプリングを配置するとともに、それぞれのアーマチュアを電磁力によって吸引するようになっている。したがって、特許文献1に記載された構成では、クラッチを解放させるための電磁力は上記のリターンスプリングの弾性力以上である必要があり、クラッチを解放するためには大きい電流を流すことになるので、エネルギ効率を向上させる点で改善する余地があった。
【0007】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、係合状態もしくは解放状態を設定するために要する電磁気力を低減してエネルギ効率を向上させることのできる電磁係合装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、軸線方向で互いに対向して配置された一対のカム部材を有しかつそれらのカム部材の間にこれらカム部材を互いに反対方向に回転するようにトルク差が生じた場合にそのトルク差に応じた軸線方向への推力を発生するカム機構と、磁気吸着力によって吸着することにより発生する摩擦力で前記トルク差を生じさせる吸引部材とを備え、いずれか一方の前記カム部材を前記吸引部材側に押圧する推力によって前記トルク差を増大させて前記カム部
材を前記吸引部材側に押圧する係合力を増大させるように構成された電磁係合装置において、前記吸引部によって吸着されて前記摩擦力を発生させる被吸引部を備えるとともに、その被吸引部が、いずれかの一方の前記カム部に、当該一方のカム部材と一体となって回転しかつ軸線方向に相対移動可能に取り付けられ、前記被吸引部を磁気吸引力に抗して前記吸引部から離れる方向に弾性力を作用させる第1リターンスプリングと、前記一方のカム部材を前記推力に抗して前記吸引部から離れる方向に弾性力を作用させる第2リターンスプリングとを更に備
え、前記第2リターンスプリングの弾性力は、前記第1リターンスプリングの弾性力よりも大きいことを特徴とする電磁係合装置である。
【0010】
また、本発明は、前記一方のカム部材が係合するまでは電磁コイルに通電する電流を制御してトルク制御し、当該一方のカム部材が係合したときは前記カム機構がセルフロックするようにカム角度と、カム摩擦係数と、転動体配置径との少なくともいずれかの値を設定されていることを特徴とする電磁係合装置である。
【0011】
また、本発明は、前記被吸引部は、前記一方のカム部材と前記吸引部との間に配置され、前記推力により前記一方のカム部材が前記吸引部との間に前記被吸引部を挟みつけるように構成されていることを特徴とする電磁係合装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電磁係合装置の構造を簡素にすることができ、被吸引部と可動カム部とに異なるリターンスプリングによる弾性力を付勢させているので、電流低減により容易に解放可能になる。また、被吸引部を吸引させる磁気吸引力は、第1リターンスプリングの弾性力にのみ打ち勝てばよいので、吸引時の消費電力を低減させることができる。さらに、通電電流量の制御によってトルク容量の制御が可能になる。また、第2リターンスプリングの弾性力によって可動カム部を離隔させることができ、可動カム部に押圧力を残すことができる。
【0013】
また、本発明によれば、リターンスプリングの弾性力を大小異なるように設定すればよく、電磁係合装置の構造を簡素にすることができる。相対的に第1リターンスプリングの弾性力が小さいので、吸引時の消費電力をさらに低減させることができ、係合初期の過大トルクの発生を抑制することができる。相対的に第2リターンスプリングの弾性力が大きいので、さらに容易に電流低減により解放が可能となる。また、摩擦面の衝撃的な荷重を低減させることができ、これによって電磁係合装置の耐久性を向上させ、摩擦面の摩擦係数の維持を可能にさせることができる。さらに、角加速度入力による可動カム部材のストロークを防止でき、リスクを低減させることができる。被吸引部を従来に比べて軽量に設計し構成に含めることが可能となる。被吸引部への振動入力によって、被吸引部がヨーク側へストロークした場合であっても、第2リターンスプリングの大きい弾性力によって可動カム部はストロークしないので、被吸引部が衝突してもトルク容量は一瞬に留められる。
【0014】
また、本発明によれば、電磁係合装置がセルフロックすることで、電流に依存しない係合状態を保つことができ、消費電力を低減されることができる。また、セルフロックの構成でありながら、電流によるトルク容量の制御が可能な領域を有しているので、電流制御によって動作制御が可能である。
【0015】
また、本発明によれば、係合部材と被吸引部とが摩擦係合している係合状態と、第1可動カム部被吸引部を介して係合部材と係合している係合状態と、異なるふたつの係合状態によって、係合と解放ができる。また、係合初期時の衝撃を低減でき、トルク容量の制御も容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明に係る一実施形態における電磁係合装置について説明する。
【0018】
図1は、本実施形態における電磁係合装置1の解放状態の断面図を模式的に示した図である。
図1に示す電磁係合装置1は、電磁気力による磁気吸引力を発生するアクチュエータ2と、一対のカム部材の間に相反する方向にトルクが作用することすなわちトルク差が生じることにより軸線方向の推力を発生させるカム機構3と、このアクチュエータ2とカム機構3との間に設けられカム機構3に弾性力を付勢するリターンスプリング4とを備えている。
【0019】
アクチュエータ2は、通電されると磁束を発生する電磁コイル6と、その電磁コイル6を備えているヨーク7とを有している。ヨーク7は、磁気吸引力によってカム機構3の一部を構成するアーマチュア8を吸引し、接触して摩擦力を発生するものである。このヨーク7は、回転軸5の外周側に配置され、図示しないミッションケーシングなどの固定部材に固定されており、全体として環状を成し、かつ周辺部分の断面が軸線方向に開いたコ字状に形成されている。電磁コイル6は、ヨーク7に形成されたコ字状の内部に嵌め込まれた状態になっている。またヨーク7は、アーマチュア8と対向して配置され、このアーマチュア8と摩擦係合する摩擦面7aが形成されている。このヨーク7の摩擦面7aは、リング状もしくは方形枠状に形成されている。さらにヨーク7は、強磁性体の磁気特性と、衝撃や摩擦に対する強度や耐久性などを向上させて構成されている。
【0020】
カム機構3は、回転軸5に一体化されている第1カム部材である回転板10と、回転板10と同軸上に配置され回転軸5に対して回転し軸線方向にも移動可能な第2カム部材と、回転板10と第2カム部材との間に挟み込まれた転動体である球体状のカムボール11とによって構成されている。第2カム部材は、軸線方向に相対移動が可能な二つの部材に分割されており、回転板10に対向して配置されカムボール11を挟み込んでいる第1可動カム部材である可動カム部9と、ヨーク7に対向して配置され磁気吸引力によって吸引される第2可動カム部材であるアーマチュア8とによって構成されている。したがって、カム機構3は回転軸5とともに回転する。
【0021】
このカム機構3は、回転軸5の外周側に配置され、軸線方向において、第2カム部材であるアーマチュア8及び可動カム部9が、第1カム部材である回転板10とアクチュエータ2を構成するヨーク7との間に配置されている。また、軸線方向においてアーマチュア8がヨーク7と可動カム部9との間に配置されている。さらに、可動カム部9の一部もヨーク7と対向して配置されている。
【0022】
アーマチュア8は、回転部材であって、通電された電磁コイル6が磁束を発生しているときに磁化され、ヨーク7側へ磁気吸引されて、ヨーク7に接触すると磁気吸着されヨーク7と摩擦係合する部材である。このアーマチュア8は、
図1に例示するように、断面が平板形状を形成する平板部がヨーク7と可動カム部9との間に配置され、内周側の部分が可動カム部9と軸線方向に相対移動可能に連結されている。例えば、このアーマチュア8の内周側の部分には、可動カム部9とスプライン嵌合する連結部が設けられている。換言すれば、この連結部における軸線方向の一部から径方向すなわち外周側方向に平板部が伸びて配置されている。アーマチュア8とヨーク7との間には第1リターンスプリングが配置され、この連結部付近の径方向におけるヨーク7と対向する箇所へ第1リターンスプリング4aの弾性力が付勢されるように構成されている。また、この平板部は、ヨーク7と対向する面にはヨーク7と摩擦係合して摩擦力を発生させる摩擦面8aが形成され、一方で可動カム部9と対向する面には可動カム部9と接触し押圧される押圧面8bが形成されている。また、アーマチュア8は、強磁性体の磁気特性を有する磁性材料によって構成されている。
【0023】
可動カム部9は、回転板10との間で差回転が生じるようにトルクが作用することにより、そのトルクに基づく軸線方向の推力によって、軸線方向に移動をする部材であって、アーマチュア8を押圧しアーマチュア8を挟み込んでヨーク7と係合する部材である。この可動カム部9は、環状の回転部材であって、
図1に例示するように、断面が略コ字状である。また可動カム部9は、軸線方向にアーマチュア8と相対移動が可能に連結されている。例えば、可動カム部9の内周側に設けられた軸線方向の突部には、この突部の内周側にボス部が形成され、このボス部にアーマチュア8をスプライン嵌合させ、この突部とヨーク7とが対向する箇所に第2リターンスプリング4bの弾性力が付勢されるように構成されている。また、可動カム部9の外周側に設けられた軸線方向の突部には、アーマチュア8と対向する面であって、アーマチュア8と接触する場合にはアーマチュア8をヨーク7側へ押圧する押圧面9bが形成されている。さらに、可動カム部9と回転板10と対向する面には後述にて詳細に説明するカム面9aが形成され、回転板10と挟み込んでカムボール11を保持している。なお、可動カム部9は、磁気吸引力によって吸引されることはなく、アクチュエータ2によってヨーク7側へ移動されない。
【0024】
また、カムボール11を介する可動カム部9と回転板10との対向する面には、カムボールを保持する溝部としてカム面9a,10aがそれぞれ形成されている。このカム面9a,10aは、
図4に例示するように、径方向から見ると面がV字状に傾斜させられている。カム機構3は、回転軸5からの入力側の回転板10と、摩擦力を発生させるアーマチュア8と、アーマチュア8からの入力側の可動カム部9と、カムボール11とを含む構成であって、生じたトルク差によってトルクカム反力を発生させ、このトルクカム反力による押圧する推力を発生するものである。また、カム機構3が発生した推力は、カム機構3の構成部材同士を一体化させる係合力となり、この係合力によって自縛的にロック状態を形成するセルフロック機能の有無を設定することができる。例えば、カム面の摩擦係数、カムボール11の配置径、回転板10における摩擦面の有効半径、各カム部材におけるカム面9a,10aの各カム角度θなどのパラメータがある。なお、
図4にはカム作用力Fを図示した。このカム機構3は、これらパラメータが所定値に設定され、ロック成立条件に設定されれば自縛的にロック状態を形成するセルフロック機能を有し、他方でロック非成立条件に設定されれば自縛的にロック状態を形成しない非セルフロック機能を有する。
【0025】
リターンスプリング4は、アーマチュア8および可動カム部9のそれぞれの一部がヨーク7に対向している箇所の間に配置されている。したがって、リターンスプリング4は二重に設けられている。このリターンスプリング4には、アーマチュア8とヨーク7との間に配置されアーマチュア8へヨーク7から離れる方向に弾性力を付勢する第1リターンスプリング4aと、可動カム部9とヨーク7との間に配置され可動カム部9へヨーク7から離れる方向に弾性力を付勢する第2リターンスプリング4bとが含まれる。
図1に例示するように、解放状態では、アーマチュア8とヨーク7とが離隔し、かつ可動カム部9とヨーク7とが離隔している。また、リターンスプリング4は、ヨーク7または第2カム部材のどちらか一方に取り付けられた図示しないスラストベアリングを介して設けられている。さらに、各リターンスプリング4a,4bの弾性力は大小異なるように設定されている。本実施形態における電磁係合装置1では、第1リターンスプリング4aの弾性力は、第2リターンスプリング4bの弾性力よりも小さく設定されている。
【0026】
次に、電磁係合装置1の係合動作および解放動作について説明する。アクチュエータ2の電磁コイル6へ通電されていない状態では、アーマチュア8へ第1リターンスプリング4aにより付勢される弾性力、および可動カム部9へ第2リターンスプリング4bにより付勢される弾性力によって、アーマチュア8および可動カム部9がヨーク7と離隔している。この解放状態は、
図1に例示するように、アーマチュア8とヨーク7とが非接触の状態であり、かつアーマチュア8の押圧面8bと可動カム9の押圧面9bとが接触している状態である。この解放状態において電磁コイル6に電流を流すと、電磁コイル6は磁束を発生し、電磁気力によって磁化されたアーマチュア8は、ヨーク7側に磁気吸引される力を受ける。このアーマチュア8は、ヨーク7側に吸引される磁気吸引力が、第1リターンスプリング4aがヨーク7側から離れる方向に付勢する弾性力に打ち勝った場合、この弾性力に抗してヨーク7側へ軸線方向に移動する。
【0027】
この磁気吸引されヨーク7側へ移動してきたアーマチュア8は、ヨーク7と接触して摩擦係合し、摩擦力を生じ摩擦トルクを発生する。この係合状態は、
図2に例示する通りであり、アーマチュア8とヨーク7とが摩擦係合しているが、可動カム部9とヨーク7とが係合していない状態を表す。この係合状態を、第1係合状態とする。この第1係合状態におけるアーマチュア8は、アクチュエータ2の磁気吸着力によってヨーク7と摩擦係合している。したがって、電磁コイル6が通電され、この磁気吸着力が第1リターンスプリング4aの弾性力に打ち勝っている間は第1係合状態が維持され、この弾性力が磁気吸着力に打ち勝った場合は第1係合状態が解除され解放状態に遷移する。また、第1係合状態の係合初期である接触時、瞬時にヨーク7がアーマチュア8の回転を停止させる係合状態にはならず、アーマチュア8はヨーク7に相対回転し摺動する。なお、本実施形態における電磁係合装置1は、ヨーク7と回転中のアーマチュア8とが相対回転し摩擦係合している間、アーマチュア8の摩擦面8aとヨーク7の摩擦面7aとの摩擦により摩擦力が生じ、この摩擦力に起因して摩擦トルクが発生する。
【0028】
この摩擦トルクは、アーマチュア8に制動力を付与するものであって、回転軸5に制動力を付与するブレーキトルクである。こ
の第1係合状
態における摩擦トルクをブレーキトルクTb1とする。ブレーキトルクTb1は、磁気吸着力をFm、摩擦面の摩擦係数をμ、摩擦半径をrとすると、「Tb1=μ・r・Fm」の関係で表される。したがって、電磁コイル6に通電される電流量を増加させると磁気吸引力Fmが増加され、ブレーキトルクTb1のトルク容量を増加させることになる。この関係は
図5に例示するように、第1係合状態において、通電電流の増加に伴いブレーキトルクTb1のトルク容量は比例して増加する。
【0029】
また、第1係合状態において、ブレーキトルクTb1である摩擦トルクが発生すると、この摩擦トルクに起因する差回転によってカム機構3が作動する。この差回転は、第1カム部材と第2カム部材とを反対方向に回転させるようにトルク差が生じた場合に発生する。したがって、生じたトルク差に応じて軸線方向への推力が発生する。カム機構3の作動時は、第1カム部材である回転板10と、第2カム部材であるアーマチュア8および可動カム部9とが差回転しトルクカム反力を発生する。具体的には、差回転によりカムボール11がカム面9a,10aに乗り上げて、可動カム部9および回転板10を押圧し離隔させる方向にトルクカム反力を生じる。可動カム部9においてトルクカム反力が第2リターンスプリング4bから付勢されている弾性力に打ち勝った場合、この弾性力に抗して可動カム部9がヨーク7側へ軸線方向に移動する。また、アーマチュア8とヨーク7との摩擦力が増大し差回転が大きくなると、アーマチュア8からの摩擦トルクは可動カム部9によって入力され、トルクカム反力を増大させることになる。したがって、トルクカム反力は、カム機構3における差回転によって発生するもの、すなわち摩擦係合により生じた摩擦力に起因する摩擦トルクによって発生するものである。このトルクカム反力は、第1係合状態から
図3に例示する第2係合状態へ遷移する間は、可動カム部を軸線方向に移動させる推力として作用するものである。
【0030】
このトルクカム反力を受けて可動カム部9はヨーク7側へ軸線方向に移動させられ、ヨーク7と摩擦係合しているアーマチュア8と接触する。しがたって、離隔していたアーマチュア8の押圧面
8bと可動カム部9の押圧面
9bとが接触する。この状態は
図3に例示するように、ヨーク7とアーマチュア8との摩擦面7a,8aが接触し、かつアーマチュア8と可動カム部9との押圧面
8b,9bが接触している状態である。この状態を第2係合状態とする。この第2係合状態では、アーマチュア8とヨーク7とが摩擦係合し、かつトルクカム反力を受ける可動カム部9がアーマチュア8を介してヨーク7を押圧して係合している状態である。したがって、この可動カム部9はトルクカム反力によってヨーク7およびアーマチュア8を押圧し係合しており、このトルクカム反力が、第2リターンスプリング4bの弾性力と第1リターンスプリング4aの弾性力から磁気吸着力を減じた力との合力に打ち勝っている間は第2係合状態が維持される。また、この合力または第2リターンスプリング4bの弾性力が、このトルクカム反力に打ち勝った場合、第2係合状態は解除され、第1係合状態または解放状態に遷移する。
【0031】
例えば、第2係合状態の係合初期時、電磁コイル6が通電され発生している磁束による電磁吸着力によってアーマチュア8がヨーク7に摩擦係合されており、可動カム部9は、アーマチュア8を介して第1リターンスプリング4aの弾性力から磁気吸着力を減じた力を付与されない。したがって、可動カム部9は、トルクカム反力が第2リターンスプリング4bの弾性力に打ち勝っている間は、第2係合状態は維持される。一方、電磁コイル6に通電していた電流を停止しアーマチュア8を吸着していた電磁吸着力はなくなった場合、可動カム部9はアーマチュア8を介して第1リターンスプリング4aの弾性力をヨーク7側から離れる方向に付勢される。この場合、トルクカム反力がリターンスプリング4の弾性力の合力に打ち勝っている間は、可動カム部9がアーマチュア8を介してヨーク7を押圧し続け第2係合状態は維持される。なお、電磁コイルに通電していた電流を停止した場合、即時または緩やかに磁気吸着力が失われるか否かは、ヨーク7およびアーマチュア8を構成する強磁性体材料の磁気特性に起因するものである。
【0032】
また、第2係合状態の係合初期である接触時、瞬時にヨーク7が可動カム部9の回転を停止させる係合状態にはならず、アーマチュア8はヨーク7に相対回転し摺動する。この係合初期に限らず、ヨーク7と回転中のアーマチュア8が摩擦係合している間、アーマチュア8の摩擦面8aとヨーク7の摩擦面7aとによって摩擦力が生じ、この摩擦力に起因して摩擦トルクが発生している。
【0033】
この摩擦トルクは、アーマチュア8に制動力を付与するものであって、回転軸5に制動力を付与するブレーキトルクである。この第2係合状態における摩擦トルクとブレーキトルクTb2とする。ブレーキトルクTb2は、磁気吸着力をFm、摩擦面の摩擦係数をμ、摩擦半径をrとすると、「Tb2=μ・r・(Fm+Fc)」の関係で表される。したがって、第2係合状態の係合初期における磁気吸引力Fmとトルクカム反力Fcとの合計の力と比較して、係合力(Fm+Fc)が増加されると、ブレーキトルクTb2のトルク容量を増加させることになる。したがって、磁気吸着力Fmが減少した場合であっても、トルクカム反力が増大し、相対的に係合力が増大されれば、トルク容量は増大されることになる。このトルクカム反力は、第2係合状態を維持している間は、第2カム部材をヨーク7に係合させる係合力として作用するものである。また、第2係合状態におけるトルクカム反力は、摩擦トルクが増大することに伴って増大するものである。
【0034】
ここで、カム機構3のパラメータが、ロック非成立条件に設定された場合と、ロック成立条件に設定された場合との係合状態について説明する。このロック非成立条件に設定された場合、電磁係合装置1は、自縛的なロック状態に形成させない非セルフロック機能を有する。一方、ロック成立条件に設定された場合、電磁係合装置1は、自縛的なロック状態に形成させるセルフロック機能を有する。
【0035】
電磁係合装置1が非セルフロック機能を有する場合、電磁コイル6に電流を通電し続けなければ、すなわち磁気吸着力によってアーマチュア8がヨーク7に吸着されていなければ、第2係合状態を維持することができない。換言すれば、電磁係合装置1は、カム機構3におけるトルクカム反力が第2リターンスプリング4bの弾性力に打ち勝っていれば第2係合状態を維持でき、第1係合状態と第2係合状態とともにアクチュエータ2における通電電流によってトルク容量を制御することが可能になる。図
5(a)は、非セルフロック構造すなわち電流によるトルク制御可能な構造における電流とトルク容量との関係を示した図である。図
5(a)に例示するように、第1係合状態および第2係合状態において、通電電流の増加に比例してトルク容量は増加される。このトルク容量の増加を示す傾きは、係合状態における係合力に比例するものであり、第1係合状態における係合力は磁気吸着力に基づき、第2係合状態における係合力は磁気吸着力およびトルクカム反力に基づくものである。したがって、電磁コイルへの通電電流量の増加に伴い磁気吸着力は増加するため、第2係合状態における係合力はトルクカム反力が付与されているので、第2係合状態における傾きが第1係合状態における傾きよりも大きくなる。
【0036】
一方、電磁係合装置1がセルフロック機能を有する場合、第2係合状態において、電磁コイル6に通電されていた電流を停止しても、すなわち磁気吸着力がなくなっても、第2係合状態を維持することができる。したがって、第2係合状態において、アクチュエータ2における通電電流によってトルク容量を制御できない。一方で、セルフロック状態になれば、ヨーク7によって付与され摩擦力が増大され、この増大された摩擦力による摩擦トルクが増大され、この摩擦トルクによる差回転による入力がされるとトルクカム反力が増大する循環を繰り返し行う。
図5(b)は、セルフロック構造における電流とトルク容量との関係を示した図である。
図5(b)に例示するように、第1係合状態において、通電電流の増加に比例してトルク容量は増加される。一方、第2係合状態において、通電電流を増加させてもトルク容量の増加に寄与しない。したがって、セルフロック構造において、第1係合状態では、アクチュエータ2における通電電流によってトルク制御が可能である。第2係合状態では、セルフロック状態となりトルク循環して自縛的な係合力を増加させるため、通電電流によらずにトルク容量を増大させることができる。また、セルフロック機能は、カム機構3の構成部材同士を一体化させる係合力を増大させるものである。
【0037】
なお、この電磁係合装置1は、カム機構3における差回転によってトルクカム反力が発生するものであり、例えば
図1に例示する解放状態においても第1カム部材と第2カム部材とが差回転する場合にはトルクカム反力が発生してしまう。しかしながら、この電磁係合装置1において、カム機構3が作動することによる意図しないロック状態(誤ロック)を防止するため、所定のロック成立条件の設定や、第2リターンスプリング4bの弾性力の強化がされている。例えば、セルフロック状態となり誤ロックを起こさないロック成立条件として、カム角度が適正な角度に設定されていることや、カム面9a,10aとカムボール11との摩擦力に寄与するカム摩擦係数を適正な所定値に設定することや、カムボール11の配置径が適正な値になるように配置することなどがある。この所定のロック成立条件が設定されていることで、カム機構3はセルフロック機能を発揮し、かつ誤ロックを防止するものである。また、アーマチュア8への振動入力によってアーマチュア8がヨーク7側へ移動させられる場合も考えられる。この場合におけるリスク低減のため、アーマチュア7は軽量に構成されてもよい。また、可動カム部9が解放状態の位置に維持され、アーマチュア8のみが振動によってヨーク7と衝突しても、トルク容量は衝突時の一瞬だけに留めることが可能である。
【0038】
また、電磁係合装置1は、係合状態において、リターンスプリングの弾性力が係合力に打ち勝った場合、係合状態は解除され、解放状態へ移行する。例えば、第1係合状態において、第1リターンスプリング4aの弾性力が磁気吸着力に打ち勝った場合、アーマチュア8はヨーク7から離れる方向に移動させられ、第1係合状態が解除され解放状態に移行する。また、非セルフロック構造のカム機構3における第2係合状態において、電磁コイル6に通電される電流が停止され磁気吸着力がなくなり第2リターンスプリング4bの弾性力が係合力に打ち勝った場合、可動カム部9は第2リターンスプリング4bによってヨーク7から離れる方向に移動させられ、第2係合状態が解除され解放状態に移行する。さらに、セルフロック構造のカム機構3における第2係合状態において、第1リターンスプリング4aと第2リターンスプリング4bとの弾性力の合力がトルクカム反力に打ち勝った場合、アーマチュア8は第1リターンスプリング4aによって、かつ可動カム部9は第2リターンスプリング4bによって、ヨーク7から離れる方向に移動させられ、第2係合状態は解除され解放状態に移行する。
【0039】
次に、
図6を参照して、本発明に係る電磁係合装置を搭載したハイブリッド車両の動作について説明する。
図6は、本実施形態の電磁係合装置1を搭載したハイブリッド車両のギヤトレーンの一例を模式的に示したスケルトン図である。ここに示す例は、いわゆる2モータタイプのハイブリッド駆動装置であって、エンジン40が出力した動力を動力分割機構41によって出力軸42側の第1モータ・ジェネレータ43側とに分割するように構成されている。そのエンジン40は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機構であり、そのクランクシャフトなどの出力要素が動力分割機構41に連結されている。動力分割機構41は、
図6に示す例では、シングルピニオン側の遊星歯車機構によって構成されており、サンギヤ44とリングギヤ45とが同心円上に配置され、これらサンギヤ44およびリングギヤ45に噛み合っているピニオンギヤがキャリア46によって自転かつ公転できるように保持されている。エンジン40は、そのキャリア46に連結され、したがってキャリア46が入力要素になっている。また、サンギヤ44には第1モータ・ジェネレータ43が連結され、したがってサンギヤ44が反力要素となっている。さらに、リングギヤ45が出力軸42に連結され、したがってリングギヤ45が出力要素となっている。
【0040】
また、出力軸42には第2モータ・ジェネレータ47が変速部48を介して連結されている。この変速部48は、第2モータ・ジェネレータ47のトルクを増大もしくは減少させて出力軸42に伝達する変速機構によって構成されており、その変速比は所定の一つの値に固定されていてもよく、あるいは複数の変速比に切り替えられるように構成されていてもよい。
【0041】
各モータ・ジェネレータ43,47は、例えば永久磁石式の同期電動機によって構成され、コイルに通電することによりモータとして機能してトルクを出力し、またロータが外力によって強制的に回転させられることにより発電機として機能し、電力を発生するように構成されている。これらの各モータ・ジェネレータ43,47は、図示しないインバータを介してバッテリなどの蓄電装置に電気的に接続され、また一方のモータ・ジェネレータで発電した電力を他方のモータ・ジェネレータに供給できるように構成されている。そして、インバータにはマイクロプロセッサーを主体にして構成された図示しない電子制御装置が接続され、この電子制御装置によって、各モータ・ジェネレータ43,47の回転数やトルク、発電量などを制御するように構成されている。なお、エンジン40は、吸入空気量や燃料供給量、点火時期などが電気的に制御され、それに伴ってトルクや回転数が電気的に制御されているように構成されている。
【0042】
このエンジン40が出力した動力を出力軸42側の第1モータ・ジェネレータ43側に分割するいわゆる通常のハイブリッドモードでは、第1モータ・ジェネレータ43が発電機として機能させられ、発電に伴うトルクがサンギヤ44にいわゆる反力トルクとして作用する。これに伴って、出力要素であるリングギヤ45には、エンジントルクを増幅させたトルクが生じる。また、第1モータ・ジェネレータ43で得られた電力は、第2モータ・ジェネレータ47がモータとして機能し、その出力トルクが変速部48を介して出力軸42に伝達される。すなわち、エンジン40が出力した動力の一部は、動力分割機構41を介して出力軸42に伝達され、かつ他の動力が一旦電力に変換された後、再び機械的な動力に変換されて出力軸42に伝達される。
【0043】
また、エンジン負荷が次第に小さくなると、サンギヤ44すなわち第1モータ・ジェネレータ43の回転数を低下させる。これは、エンジン40の回転数を燃費のよい回転数に制御することによる。そして、ついにはサンギヤ44の回転数を0にする走行状態になり、その場合には、第1モータ・ジェネレータ43によって反力トルクを生じさせる代わりに、電磁係合装置1を係合させて電磁係合装置1によりサンギヤ44を固定する反力トルクを発生させる。こうすることにより、第1モータ・ジェネレータ43のトルクを制御する必要がなくなり、エネルギ損失を抑制することができる。
【0044】
このハイブリッド駆動装置を搭載した車両の車速がさらに増加し、かつエンジン負荷が相対的に小さい場合、エンジン40の過回転を防止するなどのために、第1モータ・ジェネレータ43をモータとして機能させてサンギヤ44をエンジン40とは反対方向に回転させる。この場合、第2モータ・ジェネレータ47を発電機として機能させてエネルギ回生を行い、その電力が第1モータ・ジェネレータ43に供給される。
【0045】
また、本発明に係る電磁係合装置1をハイブリッド駆動装置にブレーキとして用いる場合、
図6を参照して説明してきた上述のハイブリッド駆動装置の構成に限定されない。例えば、
図7に示すように構成されたハイブリッド駆動装置に用いることができる。
図7に示す例は、動力分割機構41を、1組のシングルピニオン型遊星歯車機構と1組のダブルピニオン型遊星歯車機構とからなるいわゆる複合型遊星歯車機構によって構成した例である。これは、エンジン40が連結されているシングルピニオン側遊星歯車機構におけるキャリア46がダブルピニオン型遊星歯車機構におけるリングギヤ51に連結され、出力軸42に連結されているシングルピニオン型遊星歯車機構におけるリングギヤ45が、ダブルピニオン型遊星歯車機構におけるキャリア52に連結されている。そして、このダブルピニオン型遊星歯車機構におけるサンギヤ53が、電磁係合装置1に連結されている。他の構成については、
図6に例示する構成と同様であり、
図7は
図6と同様の参照符号を付している。
【0046】
このように構成されたハイブリッド駆動装置においても、電磁係合装置1を係合させることにより、第1モータ・ジェネレータ43が受け持つトルクを、電磁係合装置1に受け持たせて第1モータ・ジェネレータ43への通電や第1モータ・ジェネレータ43による発電を停止させることができる。
【0047】
また、
図8に示す例は、
図7に示すハイブリッド駆動装置の構成要素の配列を、前置きエンジン前輪駆動車に適するように替えた例である。したがって、
図8に
図6と同様の参照符号を付して説明を省略する。なお、
図8に示す例では、変速部48はキャリアを固定したシングルピニオン型遊星歯車機構55によって構成されている。また、出力軸42に替えてカウンタギヤ対56が設けられている。このカウンタギヤ対56を介してフロントディファレンシャル57に動力を出力するように構成されている。
【0048】
なお、本発明に係る電磁係合装置は、上述してきた実施形態に限定されるものではなく、ブレーキ以外にクラッチとして用いられる電磁係合装置を対象としたものであってもよく、また上述のハイブリッド駆動装置以外の駆動装置に適用することができる。また、一の実施形態である電磁係合装置1に限定されず、別実施形態を適用してもよいものであることは当然である。
【0049】
例えば、上述の実施形態では、ヨーク7が固定部に固定され回転軸5に制動力を付与する例について説明したが、ヨーク7が回転軸5の伝達トルクを受け動力伝達系統の他構成部材にトルク伝達する構成であってもよい。
【0050】
なお、通電された電磁コイル6が発生するものを磁束として説明してきたが、これは表現上のものであって本発明はこれに限定されない。例えば、通電された電磁コイル6が発生するものは、磁力線や磁界や磁場などと表現するものであってもよい。したがって、上述の説明における磁束の流れについても、磁気回路や磁路などと表現するものであってもよい。
【0051】
また、上述の実施形態における電磁係合装置1では、第2カム部材が第1可動カム部材と第2可動カム部材とに分割され、第1可動カム部材を可動カム部9とし、第2可動カム部材をアクチュエータ8として説明をしてきたが、これは説明のための表現の一例である。したがって、第2カム部材は一体化している構成部材であって、この第2カム部材を可動カム部として、この可動カム部にアクチュエータの一部を構成するアーマチュアが軸線方向に相対移動可能であり一体回転するように連結されているものであってもよい。つまり、アーマチュアをアクチュエータを構成する一部材と捉えるか若しくはカム機構を構成する一部材と捉えるかという表現上の相違であって、いずれの表現による構成も本発明に含まれる。