【文献】
WANG X. et al.,Specificity and functional characteristics of anti-HLA-A mAbs LGIII-147.4.1 and LGIII-220.6.2.,Tissue Antigen,2003年,Vol. 62,p. 139-148
【文献】
MULDER A. et al.,A human monoclonal antibody against HLA-Cw1 and a human monoclonal antibody against an HLA-A locus d,Tissue Antigen,1998年,Vol. 52,p. 393-396
【文献】
KUBO K. et al.,A human monoclonal antibody that detects HLA-A1, A23 and A24 antigens.,Tissue Antigen,1993年,Vol. 41,p. 186-189
【文献】
SCHEINBERG D.A. et al.,Inhibition of cell proliferation with an HLA-A-specific monoclonal antibody.,Tissue Antigen,1991年,Vol. 38,p. 213-223
【文献】
KIMURA N. et al.,2D7 diabody bound to the alpha2 domain of HLA class I efficiently induces caspase-independent cell d,Biochem. Biophys. Res. Commun. ,2004年,Vol. 325,p. 1201-1209
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、HLAクラスIを認識する抗体に関する。
【0015】
本発明においてHLAクラスIは特に限定されず、HLA-A、HLA-B、HLA-CなどHLA-クラスIに属する限りいかなる抗原でもよい。本発明のHLAクラスIの好ましい例としてHLA-A、HLA-B、HLA-Cを挙げることができ、特に好ましい例としてHLA-Aを挙げることができる。
【0016】
本発明において、HLA-Aを認識する抗体は、HLA-Aを認識すれば如何なる抗体であってもよく、例えば、HLA-Aを特異的に認識する抗体であってもよいし、HLA-A以外に他の抗原(例えば、HLA-BやHLA-Cなどの他のHLAクラスI抗原)を認識してもよい。
より具体的には、本発明は以下の(a)〜(d)いずれかに記載の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体を提供する。
【0017】
(a) 配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:22に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖、および配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:25に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(b) 配列番号:2(F17重鎖可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号:3(F17軽鎖可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(c) 配列番号:4(ヒト化重鎖可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号:5(ヒト化軽鎖可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体、
(d) 配列番号:8(ヒト化重鎖)に記載のアミノ酸を有する重鎖、および配列番号:9(ヒト化軽鎖)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む抗体。
(e) 配列番号:26に記載の塩基配列にコードされるアミノ酸を含む抗体。
【0018】
本発明における抗体の由来は特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物由来であり、より好ましくはマウス由来の抗体又はヒト由来の抗体を挙げることが出来る。本発明の抗体は上述の(a)〜(d)いずれかに記載の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体であれば特に限定されないが、該エピトープを特異的に認識することが好ましい。
【0019】
本発明で使用される抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生される抗体、遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生される抗体、等がある。
【0020】
抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、例えばHLA-Aを感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。抗原の調製は公知の方法、例えばバキュロウィルスを用いた方法(WO98/46777など)等に準じて行うことができる。また、HLA-Aの遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のHLA-A分子を公知の方法で精製し、この精製HLA-A蛋白質を感作抗原として用いることもできる。また、HLA-A分子と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。さらに、HLA-B、もしくはHLA-Cも同様に感作抗原として用いることができる。
【0021】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
【0022】
感作抗原による動物の免疫は、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline )や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4-21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
【0023】
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付される。細胞融合に付される好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0024】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney, J. F. et al. J. Immunol. (1979) 123, 1548-1550)、P3X63Ag8U.1 (Current Topics in Microbiology and Immunology (1978) 81, 1-7) 、NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976) 6, 511-519 )、MPC-11(Margulies. D. H. et al., Cell (1976) 8, 405-415 )、SP2/0 (Shulman, M. et al., Nature (1978) 276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods (1980) 35, 1-21 )、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med. (1978) 148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277, 131-133 )等が適宜使用される。
【0025】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルシュタインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C. 、Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。
【0026】
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0027】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0028】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG溶液、例えば、平均分子量1000〜6000程度のPEG溶液を通常、30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
【0029】
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日〜数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。
【0030】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0031】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0032】
本発明には、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C. A. K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
【0033】
具体的には、目的とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマから、抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299 )、AGPC法(Chomczynski, P. et al., Anal. Biochem. (1987)162, 156-159)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)等を使用してmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス製)を用いることによりmRNAを直接調製することができる。
【0034】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002;Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)を使用することができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作成し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
【0035】
目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。
【0036】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させることができる。哺乳類細胞を用いた場合、常用される有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させたDNAあるいはそれを含むベクターにより発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0037】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV40)等のウィルスプロモーター/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサーを用いればよい。
【0038】
例えば、SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mulliganらの方法(Mulligan, R. C. et al., Nature (1979) 277, 108-114) 、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushimaらの方法(Mizushima, S. and Nagata, S. Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322 )に従えば容易に実施することができる。
【0039】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーターとしては、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合、Wardらの方法(Ward, E. S. et al., Nature (1989) 341, 544-546;Ward, E. S. et al. FASEB J. (1992) 6, 2422-2427 )、araBプロモーターを使用する場合、Betterらの方法(Better, M. et al. Science (1988) 240, 1041-1043 )に従えばよい。
【0040】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379-4383)を使用すればよい。ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切にリフォールド(refold)して使用する(例えば、WO96/30394を参照)。
【0041】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0042】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。抗体製造のための産生系は、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0043】
真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1)哺乳類細胞、例えば、CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Veroなど、(2)両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21、Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。
【0044】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E.coli)、枯草菌が知られている。
【0045】
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivoにて抗体を産生してもよい。
【0046】
一方、in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。
【0047】
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
【0048】
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702)。
【0049】
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda, S. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。さらに、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciensのようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacumに感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian, K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol.(1994)24, 131-138)。
【0050】
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO 94-11523参照)。
【0051】
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(chimeric)抗体、ヒト化(humanized)抗体などを使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
【0052】
キメラ抗体は、上述のようにして得た抗体V領域をコードするDNAをヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 125023、国際特許出願公開番号WO 92-19759参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0053】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。
【0054】
具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400 、国際特許出願公開番号WO 96/02576参照)。
【0055】
CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0056】
キメラ抗体、ヒト化抗体には、ヒト抗体定常領域が使用される。ヒト抗体重鎖定常領域の例としては、IgG1定常領域、IgG2定常領域、IgG3定常領域、IgG4定常領域などを使用することができる。ヒト抗体軽鎖定常領域の例としては、λ鎖定常領域、κ鎖定常領域などを使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性等を改善するために、ヒト抗体定常領域がアミノ酸の置換、欠失などにより改変されていてもよい。
【0057】
キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来のC領域からなり、またヒト化抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域とヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC領域からなり、両者はヒト体内における抗原性が低下しているため、医薬品に使用される抗体として有用である。
【0058】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は周知であり、WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388を参考にすることができる。
【0059】
本発明で使用される抗体は、低分子化抗体であってもよい。本発明において低分子化抗体(minibody)とは、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)を親抗体とし、全長抗体の一部分が欠損している抗体断片を含み、抗原への結合能を有していれば特に限定されない。本発明の抗体断片は、全長抗体の一部分であれば特に限定されないが、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)を含んでいることが好ましく、特に好ましいのはVHとVLの両方を含む断片である。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv(シングルチェインFv)、sc(Fv
2)などを挙げることができるが、好ましくはdiabody (Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883、 Plickthun「The Pharmacology of Monoclonal Antibodies」Vol.113, Resenburg 及び Moore編, Springer Verlag, New York, pp.269-315, (1994))である。このような抗体断片を得るには、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンなどで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい(例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976 ; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476-496 ; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497-515 ; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652-663 ; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663-669 ; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132-137参照)。
【0060】
本発明における低分子化抗体は、全長抗体よりも分子量が小さくなることが好ましいが、例えば、ダイマー、トリマー、テトラマーなどの多量体を形成すること等もあり、全長抗体よりも分子量が大きくなることもある。
【0061】
本発明における低分子化抗体の例としては、抗体のVHを2つ以上及びVLを2つ以上含み、これら各可変領域を直接あるいはリンカー等を介して間接的に結合した抗体を挙げることができる。結合は、共有結合でも非共有結合でもよく、また、共有結合と非共有結合の両方でよい。さらに好ましい低分子化抗体は、VHとVLが非共有結合により結合して形成されるVH-VL対を2つ以上含んでいる抗体である。この場合、低分子化抗体中の一方のVH-VL対と他方のVH-VL対との間の距離が、全長抗体における距離よりも短くなる抗体が好ましい。
【0062】
本発明においてscFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域を連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12-19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0063】
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖又は、H鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖又は、L鎖V領域をコードするDNAを鋳型とし、それらの配列のうちの所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNAおよびその両端を各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合わせて増幅することにより得られる。
【0064】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されれば、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いて常法に従って、scFvを得ることができる。
【0065】
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
【0066】
本発明において特に好ましい低分子化抗体はdiabodyである。diabodyは、可変領域と可変領域をリンカー等で結合したフラグメント(例えば、scFv等)(以下、diabodyを構成するフラグメント)を2つ結合させて二量体化させたものであり、通常、2つのVLと2つのVHを含む(P.Holliger et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90, 6444-6448 (1993)、EP404097号、WO93/11161号、Johnson et al., Method in Enzymology, 203, 88-98, (1991)、Holliger et al., Protein Engineering, 9, 299-305, (1996)、Perisic et al., Structure, 2, 1217-1226, (1994)、John et al., Protein Engineering, 12(7), 597-604, (1999)、Holliger et al,. Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 90, 6444-6448, (1993)、Atwell et al., Mol.Immunol. 33, 1301-1312, (1996))。diabodyを構成するフラグメント間の結合は非共有結合でも、共有結合でよいが、好ましくは非共有結合である。
【0067】
また、diabodyを構成するフラグメント同士をリンカーなどで結合して、一本鎖diabody(sc diabody)とすることも可能である。その際、diabodyを構成するフラグメント同士を20アミノ酸程度の長いリンカーを用いて結合すると、同一鎖上に存在するdiabodyを構成するフラグメント同士で非共有結合が可能となり、二量体を形成する。
【0068】
diabodyを構成するフラグメントは、VLとVHを結合したもの、VLとVLを結合したもの、VHとVHを結合したもの等を挙げることができるが、好ましくはVHとVLを結合したものである。diabodyを構成するフラグメント中において、可変領域と可変領域を結合するリンカーは特に制限されないが、同一フラグメント中の可変領域の間で非共有結合がおこらない程度に短いリンカーを用いることが好ましい。そのようなリンカーの長さは当業者が適宜決定することができるが、通常2〜14アミノ酸、好ましくは3〜9アミノ酸、特に好ましくは4〜6アミノ酸である。この場合、同一フラグメント上にコードされるVLとVHとは、その間のリンカーが短いため、同一鎖上のVLとVHの間で非共有結合がおこらず、単鎖V領域フラグメントが形成されない為、他のフラグメントとの非共有結合による二量体を形成する。さらに、diabody作製と同じ原理で、diabodyを構成するフラグメントを3つ以上結合させて、トリマー、テトラマーなどの多量体化させた抗体を作製することも可能である。diabodyの例としては、上述のC3B3 diabody(WO2008/007755)や、2D7 diabody(Kimura, et al., Biochem Biophys Res Commun., 325: 1201-1209 (2004))等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
ある抗体が上述の(a)〜(d)いずれかの抗体と同じエピトープを認識するか否かは、両者のエピトープに対する競合によって確認することができる。抗体間の競合は、競合結合アッセイによって評価することができ、その手段としてELISA、蛍光エネルギー転移測定法(FRET)や蛍光微量測定技術(FMAT(登録商標))などが挙げられる。
抗原に結合した(a)〜(d)いずれかの抗体の量は、同じエピトープへの結合に対して競合する候補競合抗体(被検抗体)の結合能に間接的に相関している。すなわち、同じエピトープに対する被検抗体の量や親和性が大きくなるほど、(a)〜(d)いずれかの抗体の抗原への結合量は低下し、抗原への被検抗体の結合量は増加する。具体的には、抗原に対し、適当な標識をした(a)〜(d)いずれかの抗体と評価すべき抗体を同時に添加し、標識を利用して結合している(a)〜(d)いずれかの抗体を検出する。抗原に結合した(a)〜(d)いずれかの抗体量は、該抗体を予め標識しておくことで、容易に測定できる。この標識は特には制限されないが、手法に応じた標識方法を選択する。標識方法は、具体的には蛍光標識、放射標識、酵素標識などが挙げられる。
【0070】
例えば、HLA-Aを発現させた動物細胞に蛍光標識した(a)〜(d)いずれかの抗体と、非標識の(a)〜(d)いずれかの抗体あるいは被検抗体を同時に添加し、標識された抗体を蛍光微量測定技術によって検出する。
【0071】
ここでいう「同じエピトープを認識する抗体」とは、当該標識された(a)〜(d)いずれかの抗体に対して、非標識の(a)〜(d)いずれかの抗体の結合により結合量を50%低下させる濃度(IC
50)に対して、被検抗体が非標識該抗体のIC
50の通常、100倍、好ましくは50倍、さらに好ましくは30倍、より好ましくは10倍高い濃度で少なくとも50%、標識該抗体の結合量を低下させることができる抗体である。
【0072】
2つの抗体について抗体間の競合を測定する際は、特に限定されないが、2つの抗体について同じサブタイプの定常領域を用いることが好ましい。
【0073】
本発明において、抗体が同じエピトープを認識するか否かを確認する際に使用されるHLAクラスIは特に限定されず、HLA-A、HLA-B、HLA-CなどHLAクラスIに属する如何なる抗原が用いられてもよい。HLAクラスIの好ましい例として、HLA-A、HLA-B又はHLA-Cが挙げられ、特に好ましい例としてHLA-Aが挙げられる。
【0074】
上述の(a)〜(d)いずれかの抗体が結合するエピトープに結合する抗体は、特に高い細胞死誘導活性を有する点で医薬品として有用である。
【0075】
上述の(a)の配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:21に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:22に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖、および配列番号:23に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:24に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:25に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体がFRおよび/または定常領域を有する場合、そのFRおよび/または定常領域は特に限定されず、如何なるFR、定常領域が使用されてもよい。
【0076】
上述の(b)の配列番号:2(F17重鎖可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号:3(F17軽鎖可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体、または上述の(c)の配列番号:4(ヒト化重鎖可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号:5(ヒト化軽鎖可変領域)に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む抗体が定常領域を有する場合、その定常領域は特に限定されず、如何なる定常領域が使用されてもよい。
【0077】
重鎖定常領域の好ましい例としては、ヒトIgG1定常領域、ヒトIgG2定常領域、ヒトIgG3定常領域、ヒトIgG4定常領域、またはこれら定常領域において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入された改変体などを挙げることができる。そのような改変体の例としては、ヒトIgG1定常領域とヒトIgG2定常領域を組み合わせた定常領域(例えば、ヒンジ領域がヒトIgG2由来で、他の領域がヒトIgG1由来の定常領域、等)を挙げることができる。
【0078】
本発明の抗体は、細胞に発現したHLAクラスIに結合した場合に何らかの生物学的作用を細胞の生じさせる抗体であることが好ましい。生物学的作用の例としては細胞傷害作用、抗腫瘍作用などが挙げられるが、これに限定されるものではない。さらに具体的な例としては、細胞死誘導作用、アポトーシス誘導作用、細胞増殖抑制作用、細胞分化抑制作用、細胞分裂抑制作用、細胞増殖誘導作用、細胞分化誘導作用、細胞分裂誘導作用、細胞周期調節作用などを挙げることができるが、好ましくは細胞死誘導作用、細胞増殖抑制作用である。
【0079】
細胞死誘導作用、細胞増殖抑制作用などの上記作用の対象となる細胞は特に限定されないが、免疫系細胞、血球系細胞、浮遊細胞が好ましい。血球系細胞の具体的な例としては、リンパ球(B細胞、T細胞)、NK細胞、NKT細胞、好中球、好酸球、好塩基球、単球(好ましくは活性化した末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell、PBMC))、ミエローマ細胞などを挙げることができるが、リンパ球(B細胞、T細胞)、ミエローマ細胞が好ましく、T細胞またはB細胞(特に活性化したB細胞または活性化したT細胞)が最も好ましい。浮遊細胞は、細胞を培養した際、細胞がガラスやプラスチックなどの培養器の表面に付着することなく、浮遊状で増殖する細胞である。これに対し、接着細胞(付着細胞)とは、細胞を培養した際、ガラスやプラスチックなどの培養器の表面に付着する細胞である。
【0080】
一般的に、抗HLAクラスI抗体が有する細胞死誘導活性等の生物学的作用を増強させる為に抗IgG抗体などでクロスリンクを行うことも可能である。従って、本発明におけるHLA-A発現細胞に結合した場合に生物学的作用を生じさせる抗体は、抗IgG抗体などの他の抗体を用いてクロスリンクした場合に生物学的作用が生じる抗体でもよいし、他の抗体によるクロスリンクなしで生物学的作用が生じる抗体でもよい。なお、クロスリンクは当業者に公知の方法により行うことができる。
【0081】
本発明の抗体は医薬品として特に有用である。従って、本発明は本発明の抗体を含む医薬組成物を提供する。さらに、本発明は本発明の抗体を含む治療用医薬組成物を提供する。
本発明の抗体は癌細胞などの細胞に細胞死を誘導する為の細胞死誘導剤として有用である。従って、本発明は本発明の抗体を含む細胞死誘導剤を提供する。
さらに、本発明の抗体は抗癌剤として有用である。従って、本発明は本発明の抗体を含む抗癌剤を提供する。
【0082】
本発明の医薬組成物が対象とする疾患が癌の場合、癌種は特に限定されず、骨髄腫、血液癌(血液腫瘍)、肝癌、肺癌、大腸癌、乳癌、前立腺癌、白血病、リンパ腫、膵臓癌、胆管癌など、如何なる癌でもよい。癌は原発性および続発性のどちらでもよい。好ましい癌としては、骨髄腫又は血液癌(血液腫瘍)を挙げることができる。血液癌(血液腫瘍)の具体的な例として、白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、バーキットリンパ腫、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、形質細胞異常症(骨髄腫、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症)、骨髄増殖性疾患(真性赤血球増加症、本態性血小板血症、特発性骨髄線維症)、成人性T細胞白血病(ATL)などを挙げることができる。又、本発明の抗癌剤が対象とする癌の好ましい態様として、正常細胞よりHLAの発現が亢進している癌を挙げることができる。 さらに、本発明の抗体は自己免疫疾患の治療剤や移植の際の拒絶反応を抑制する為の薬剤として用いることも可能である。
本発明の医薬組成物は維持療法の為の他の薬剤と併用してもよい。
【0083】
本発明の医薬組成物が投与される対象は哺乳動物である。哺乳動物は、好ましくはヒトである。
【0084】
本発明の医薬組成物は、医薬品の形態で投与することが可能であり、経口的または非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。例えば、点滴などの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐薬、注腸、経口性腸溶剤、経皮投与、経肺投与などを選択することができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。有効投与量は、一回につき体重1kgあたり0.01mgから100mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり1〜1000mg、好ましくは5〜50mgの投与量を選ぶことができる。好ましい投与量、投与方法は、血中にフリーの抗体が存在する程度の量が有効投与量であり、具体的な例としては、体重1kgあたり1ヶ月(4週間)に0.5mgから40mg、好ましくは1mgから20mgを1回から数回に分けて、例えば2回/週、1回/週、1回/2週、1回/4週などの投与スケジュールで点滴などの静脈内注射、皮下注射などの方法で、投与する方法などである。投与スケジュールは、投与後の状態の観察および血液検査値の動向を観察しながら2回/週あるいは1回/週から1回/2週、1回/3週、1回/4週のように投与間隔を延ばしていくなど調整することも可能である。
【0085】
本発明において医薬組成物には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる担体が添加されていてもよい。製剤上許容しうる担体とは、それ自体は上記の細胞傷害活性を有する材料であってもよいし、当該活性を有さない材料であってもよく、本発明の医薬組成物とともに投与可能な材料を意味する。また、細胞傷害活性を有さない材料であるが、抗HLAクラスI抗体と併用することによって相乗的もしくは相加的な安定化効果を有する材料であってもよい。
【0086】
製剤上許容される材料としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。
【0087】
本発明において、界面活性剤としては非イオン界面活性剤を挙げることができ、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの、等を典型的例として挙げることができる。
【0088】
また、界面活性剤としては陰イオン界面活性剤も挙げることができ、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質;炭素原子数12〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。
【0089】
本発明の医薬組成物には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。本発明の医薬組成物で使用する好ましい界面活性剤は、ポリソルベート20、40、60又は80などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、ポリソルベート20及び80が特に好ましい。また、ポロキサマー(プルロニックF-68(登録商標)など)に代表されるポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールも好ましい。
【0090】
界面活性剤の添加量は使用する界面活性剤の種類により異なるが、ポリソルベート20又はポリソルベート80の場合では、一般には0.001〜100mg/mLであり、好ましくは0.003〜50mg/mLであり、さらに好ましくは0.005〜2mg/mLである。
【0091】
本発明において緩衝剤としては、リン酸、クエン酸緩衝液、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、乳酸、リン酸カリウム、グルコン酸、カプリル酸、デオキシコール酸、サリチル酸、トリエタノールアミン、フマル酸などの他の有機酸等、あるいは、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、ヒスチジン緩衝液、イミダゾール緩衝液等を挙げることが出来る。
【0092】
また溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製してもよい。緩衝液の濃度は一般には1〜500mMであり、好ましくは5〜100mMであり、さらに好ましくは10〜20mMである。
【0093】
また、本発明の医薬組成物は、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、アミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、糖アルコールを含んでいてもよい。
【0094】
本発明においてアミノ酸としては、塩基性アミノ酸、例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等、またはこれらのアミノ酸の無機塩(好ましくは、塩酸塩、リン酸塩の形、すなわちリン酸アミノ酸)を挙げることが出来る。遊離アミノ酸が使用される場合、好ましいpH値は、適当な生理的に許容される緩衝物質、例えば無機酸、特に塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、蟻酸又はこれらの塩の添加により調整される。この場合、リン酸塩の使用は、特に安定な凍結乾燥物が得られる点で特に有利である。調製物が有機酸、例えばリンゴ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸等を実質的に含有しない場合あるいは対応する陰イオン(リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、フマル酸イオン等)が存在しない場合に、特に有利である。好ましいアミノ酸はアルギニン、リジン、ヒスチジン、またはオルニチンである。さらに、酸性アミノ酸、例えばグルタミン酸及びアスパラギン酸、及びその塩の形(好ましくはナトリウム塩)あるいは中性アミノ酸、例えばイソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、スレオニン、バリン、メチオニン、システイン、またはアラニン、あるいは芳香族アミノ酸、例えばフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、または誘導体のN-アセチルトリプトファンを使用することもできる。
【0095】
本発明において、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物としては、例えばデキストラン、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース,トレハロース、ラフィノース等を挙げることができる。
【0096】
本発明において、糖アルコールとしては、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール等を挙げることができる。
【0097】
本発明の医薬組成物を注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液と混合することができる。また該水溶液は適当な溶解補助剤(例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等)と併用してもよい。所望によりさらに希釈剤、溶解補助剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
【0098】
本発明において、含硫還元剤としては、例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等を挙げることができる。
【0099】
また、本発明において酸化防止剤としては、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸パルミテート、L−アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤を挙げることが出来る。
【0100】
また、必要に応じ、マイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16
th edition", Oslo Ed., 1980等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 1981, 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. 1982, 12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 1983, 22: 547-556;EP第133,988号)。
【0101】
使用される製剤上許容しうる担体は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組み合わせて選択されるが、これらに限定されるものではない。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[実施例1] マウス抗HLAクラスI抗体の取得
ハイブリドーマ作製
1.1. 免疫用可溶型HLA-A-FLAG(sHLA-A-flag)の調製
1.1.1. sHLA-A-flag発現ベクターの構築とsHLA-A-flag産生CHO株の作製
HLA-A6802(GenBank No. AM235885)の細胞外ドメインのC末に、flagタグを付与したsHLA-A-flag(配列番号:1、307〜314はFLAGタグ)を動物細胞発現用のベクターに導入した。塩基配列の確認は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。作製した発現ベクターをCHO細胞に導入し、sHLA-A-flag産生CHO株を構築した。
【0103】
1.1.2. sHLA-A-flagの精製
1.1.1で作製したCHO細胞の培養上清から、Q-Sepharose FF (GE Healthcare)、ANTI-FLAG M2 Affinity Gel (SIGMA)およびHiLoad 16/60 Superdex 200 pg (GE Healthcare) を用いて、sHLA-A-flagタンパク質を精製した。ゲルろ過溶出画分は、Centriprep YM-10 (Millipore) にて濃縮後、Dc Protein Assay Kit (BIO-RAD) にてウシガンマグロブリン換算し、タンパク質濃度を算出した。
【0104】
1.2. マウス抗HLAクラスI抗体産生ハイブリドーマの作製
1.2.1. sHLA-A-flag免疫マウスを用いたハイブリドーマの作製
MRL/lpr、雄、4週齢マウス(日本チャールズリバー)を免疫に用いた。
初回免疫では、精製したsHLA-A-flag蛋白をcompleteアジュバンドH37Ra(DIFCO #231131)で100μg / headになるようにマウス匹数分調整し、エマルジョンを作成した後、100μlずつを皮下に免疫した。二回目以降の免疫では、incomplete アジュバンド (DIFCO #263910)を用いてエマルジョンを作成し、50μg / headの免疫を行った。免疫は1週間おきに行い、血清抗体価の上昇を確認後、最終免疫(免疫6回目)で、sHLA-A-flagを50μg/200μlになるようにPBSで調整し、200μl/headでマウスにi.v.投与した。
最終免疫の4日後、マウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞P3X63Ag8U.1(P3U1と称す、ATCC CRL-1597)をPEG1500(Roche Diagnostics)を用いた常法に従い細胞融合した。融合細胞、すなわちハイブリドーマは、HAT培地 [RPMI1640 + PS, 10% FCS, HAT (Sigma, H0262), 5% BM condimed H1 (Roche: #1088947)] にて培養した。
【0105】
1.2.2. ハイブリドーマ細胞の選抜
一次スクリーニングは、フュージョンから約1週間後に、細胞凝集誘導活性を指標に行った。細胞凝集誘導活性は、ARH77細胞を2 x 10
4 cells/well・40μlで96 well plateに撒き、各ハイブリドーマの培養上清80μlを加え37℃で4時間培養した。各ウェルを顕微鏡で1つ1つ観察し、細胞凝集をおこしているウェルを目視で判断した。細胞凝集を起こしているウェルのハイブリドーマ細胞を陽性クローンとして選択した。細胞凝集誘導活性が陽性であったウェルのハイブリドーマ細胞を2.5 cells/wellとなるように96 well plateにまきなおし、約10日間培養した後に、再び細胞凝集誘導活性を調べた。二次スクリーニングは、抗体の細胞死誘導活性を指標に実施した。ARH77細胞を、1〜8 x 10
5 cells /well で24 well plateに撒き、これに各抗体を加え、200μl培地中で37℃4〜5時間以上培養した。これをマイクロチューブに回収後、100〜200μl propidium iodide (PI) 溶液 (5μg/ml in FACS buffer)に懸濁し、室温で15分インキュベートした。その後、遠心により細胞を沈殿させた後、500μl FACS bufferに懸濁し、FACS(Beckman Coulter, ELITE)を行ってPI陽性細胞(死細胞)の割合を測定し、各クローンの細胞死誘導活性を比較した。この結果、細胞死誘導活性の強かったクローンF17B1を選抜した。
【0106】
[実施例2] F17B1抗体、2D7抗体、及びC3B3抗体の細胞障害活性の比較
ARH77細胞に実施例1で作製されたF17B1抗体あるいはHLAクラスIを認識する抗体である2D7抗体、C3B3抗体をそれぞれ0.2μg/ml、1μg/ml、5μg/mlになるように添加した。抗体添加後、37℃で4〜5時間培養したした後、細胞をPIで染色し、死細胞の割合をFACSで解析した(
図1)。
【0107】
[実施例3]マウス抗HLAクラスI抗体:F17B1の可変領域の決定
ハイブリドーマ細胞から、RNeasy Mini Kits(QIAGEN)を用いてトータルRNAを抽出し、SMART RACE cDNA Amplification Kit(BD Biosciences)によりcDNAを合成した。作製したcDNAを用いて、PCRにより、抗体の可変領域遺伝子をクローニングベクターに挿入した。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。決定したマウスF17B1抗体のH鎖可変領域(配列番号:2)、L鎖可変領域(配列番号:3)に示した。CDR,FRの決定はKabat numberingに従って行った。
【0108】
[実施例4]ヒト化抗HLAクラスI抗体の取得
マウスF17B1抗体の可変領域をヒトのgermline配列、またはヒト抗体配列と比較し、抗体のヒト化に用いるFR配列を決定した。使用したFR配列を表1にまとめた。
ヒト化H鎖可変領域H2(配列番号:4)は表1に記載されるFR1、FR2、FR3、FR4から構成される。作製したH2と定常領域G1d(配列番号:6)を結合したH2_G1d(配列番号:8)をコードする塩基配列を動物細胞発現ベクターに導入した。
ヒト化L鎖可変領域(配列番号:5)は表1に記載されるFR1、FR2、FR3、FR4から構成される。FR3は2種類のgermline配列 hVk2_28; GVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYC(配列番号:18)とVk6_21; GVPSRFSGSGSGTDFTLTINSLEAEDAATYYC(配列番号:19)から構成される。作製したL1と定常領域k0(配列番号:7)を結合したL1_k0(配列番号:9)をコードする塩基配列を動物細胞発現ベクターに導入した。
作製した発現ベクターを用いて、H鎖としてH2_G1d(配列番号:8)、L鎖としてL1_k0(配列番号:9)からなるH2_G1d/L1_k0を作製した。抗体の発現と精製は参考例1に記した方法で実施した。
【0109】
【表1】
【0110】
[実施例5] ヒト化抗HLAクラスI抗体:H2-G1d_L1-k0による細胞死誘導
HLAクラスIを発現しているヒトリンパ芽球腫細胞株IM-9(ATCC,CCL-159)を用いて、以下に示す通りヒト化抗HLAクラスI抗体のH2-G1d_L1-k0による細胞死誘導活性を測定した。
精製したH2-G1d_L1-k0を培地にて20 μg/mLに調整し、96well U bottom plate(BM Equipment)を用いて希釈公比3、合計9系列の希釈液を調製した(final conc.;10-0.0015 μg/mL)。IM-9細胞を10% FBS (BOVOGEN)、2 mM L-glutamine、1.5 g/l sodium bicarbonate、4.5 g/L glucose, 、10 mM HEPES、1 mM sodium pyruvateを含むRPMI1640倍地 (SIGMA) で1.2x10
5 cells/mLとなるように調製した。H2-G1d_L1-k0希釈溶液50μLに細胞懸濁液50μLを播種し、37℃、5% CO
2インキュベーターにて3日間培養した。培養終了後、各wellにCell Counting Kit-8(Dojindo)を10μL添加し、37℃、5% CO
2インキュベーターにて4時間反応させた。その後、吸光度(450 nm)を測定した(Molecular Devices, Emax)。H2-G1d_L1-k0の細胞死誘導活性は、培地のみ(細胞及び抗体非添加)のwellの値を0%, 細胞のみ(抗体非添加)のwellの値を100%として、阻害率(%)を算出した。測定はn=5で行い、その平均値を用いた。その結果、
図2に示すように、H2-G1d_L1-k0はIM9細胞株において、濃度依存的に細胞増殖を抑制することが明らかとなった。
【0111】
[実施例6]脱糖鎖型 F17B1ヒトキメラ抗体の作成
ヒトIgG1のFc領域中の297番目のアスパラギンをアラニンに置換し、脱糖鎖型にすることによって、エフェクター細胞上のFc受容体への結合が弱まり、これによりエフェクター細胞によるADCC活性が消失することが文献的に知られている。そこで、F17B1抗体について、脱糖鎖型ヒトキメラ化抗体の作成を行った。
文献情報(Cancer Res 2008, 68, 9832-9838)に従って、ヒトIgG1 Fc領域中の297番目アスパラギンをアラニンに置換した重鎖定常領域(CH_N297A)(配列番号:26)を作成した。H鎖は、マウスF17B1抗体のH鎖可変領域(配列番号:2)にCH_N297Aを連結し、これをコードする塩基配列を動物細胞発現ベクターに導入した。
L鎖は、マウスF17B1抗体のL鎖可変領域(配列番号:3)にL鎖定常領域k0(配列番号:7)を結合し、これをコードする塩基配列を動物細胞発現ベクターに導入した。
抗体の発現と精製は下記参考例1に記した方法で実施した。
【0112】
[実施例7] F17B1抗体による生存期間延長効果
(1)ヒト骨髄腫マウスモデルの作製
ヒト骨髄腫マウスモデルは以下のように作製した。ARH77細胞(ATCC)を10%ウシ胎児血清(GIBCO BRL社製)を含むRPMI1640培地(GIBCO BRL社製)で3×10
7個/mLになるように調製し、あらかじめ前日抗アシアロGM1抗体(和光純薬社製)0.2mgを腹腔内投与したSCIDマウス(メス、6週齢、日本クレア)に上記ARH77細胞懸濁液200μL(6×10
6個/マウス)を尾静脈より注入した。
(2)投与抗体の調製
実施例6で作製されたF17B1抗体を投与当日、濾過滅菌したPBS(-)を用いて、1 mg/mLになるように調製し、投与試料とした。
(3)抗体投与
(1)で作製したヒト骨髄腫マウスモデルに対し、ARH77細胞移植後1日目と8日目に、1日1回、上記(2)で調製した投与試料を10mL/kgにて、尾静脈より投与した。陰性対照(vehicle)として、濾過滅菌したPBS(-)を同様に1日目と8日目に、1日1回、10mL/kgにて、尾静脈より投与した。1群7匹で行った。
(4)結果
F17B1抗体の投与によりヒト骨髄腫マウスモデルの生存期間は有意に延長された(
図3)。
【0113】
[実施例8] F17B1抗体、2D7 diabody、C3B3 diabodyが結合するHLA class Iのsubclass解析
FlowPRA(商標登録) Specific Antibody Detection Test(株式会社One Lambda, Inc.)を用いて、F17B1抗体(F17B1 IgG)が結合するHLAクラスIのsubclassを解析し、2D7 diabodyとC3B3 diabodyの結合subclassと比較した。
(1) 方法
32種類の精製されたHLAクラスI抗原をコートした32種類のビーズに、F17B1IgG(0.01 μg/mL)、2D7 diabody (1 μg/mL)、C3B3 diabody (1 μg/mL)をそれぞれ加え、30分間室温にて反応した後に、キット添付のwash bufferにて2回washし、F17B1 IgGを結合したビーズにはFITC conjugated F(ab7)2 anti-human IgGを、2D7 diabodyまたはC3B3 diabodyを結合したビーズにはFITC conjugated anti-FLAG antibody をそれぞれ加え、30分間遮光室温にて反応した。反応後、wash bufferにて2回wash、さらに0.5% ホルムアルデヒドPBSにて固定し、フローサイトメーターにて、各抗体の結合HLAクラスI subclassを同定した。
(2)結果
表2にF17B1 IgG、2D7 diabody、C3B3 diabodyの結合するHLAクラスI subclassを示した。F17B1 IgGはA1を除くすべてのHLA-Aに結合し、すべてのHLA-B及びHLA-Cには結合しないことが明らかとなった。2D7 diabodyは、A29, A68, A31の一部のHLA-A subclassと一部のHLA-B, -C subclassに結合すること、C3B3 diabodyは、多くのHLA-A, -B, -C subclassに結合することが明らかとなった。したがって、F17B1 IgGは2D7 diabodyやC3B3 diabodyとは異なるエピトープを認識することが明らかとなった。
【0114】
【表2】
【0115】
[参考例1] 抗体の発現ベクターの作製および抗体の発現と精製
目的の抗体のH鎖およびL鎖の塩基配列をコードする遺伝子は、Assemble PCR等を用いて当業者公知の方法で行った。アミノ酸置換の導入はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)あるいはPCR等を用いて当業者公知の方法で行った。得られたプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。抗体の発現は以下の方法を用いて行った。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % Fetal Bovine Serum (Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5〜6 × 10
5個/mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔きこみCO
2インキュベーター(37℃、5% CO
2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加した。調製したプラスミドをlipofection法により細胞へ導入した。得られた培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して滅菌して培養上清を得た。得られた培養上清からrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で抗体を精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定した。得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。