【実施例】
【0065】
A.細胞、抗体及び他の生体分子に関する実施例
一般実験手順
1.1 材料
化学薬品
Breox 50A 1000(エチレンオキシド及びプロピレンオキシドの等量コポリマー(EOPO))、Mw 3900、下記参照。
【0066】
ポリオキシエチレン100ステアレート(Myrj59)、Mw 5450、Sigma社、Ref.P−3690。
【0067】
Gammanorm(ポリクローナルIgG)(pI約7)、Octapharma社、Batch C19A8601。
【0068】
ウシ血清アルブミン(BSA)(およそpI 5.6)、Sigma社、A7638。
【0069】
ミオグロビン(およそpI 7)、Sigma社、M1882。
【0070】
本研究で使用した他の化学薬品はすべて分析用のものであって、E.Merck社(ダルムシュタット)又はSigma Aldrich社から購入した。
【0071】
特記しない限り、EOPOポリマーとは、50%エチレンオキシド及び50%プロピレンオキシドからなる(数平均)分子質量3900ダルトンのランダムコポリマーであるBreox 50A 1000をいう。これはある種の用途についてFDAの承認を得ており、(現在はCognis社(www.cognis.com)の一部である)International Specialty Chemicals社(サウサンプトン、英国)から入手した。
【0072】
モノクローナル抗体及び発酵試料
精製モノクローナル抗体(Mab)
次の2種の専売Mab(Mab01及びMab03)を使用した。
Mab01
プロテインAを用いて精製し、陰イオン交換クロマトグラフィーで10倍に濃縮した。
【0073】
CHO細胞中で産生させ、リン酸グリセリン(pH7.8及び5.2mS/cm)中に貯蔵した。
【0074】
濃度4.4mg/ml、MW推定値150kDa、pI推定値9。
Mab03
プロテインAを用いて精製し、陰イオン交換クロマトグラフィーで10倍に濃縮した。
【0075】
CHO細胞中で産生させ、リン酸緩衝食塩水(pH5.8及び16.2mS/cm)中に貯蔵した。
【0076】
濃度5.8mg/ml、MW推定値150kDa、pI推定値7。
実際の供給液試料
4種の「実際の」未濾過かつ未清澄化Mab発酵供給液をチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞ベースの発酵で得た。これらは相異なるMabを含み、供給液1、2、3及び4と呼ばれる。緑色蛍光タンパク質(GFP)は
E.Coli中で発現させた。
【0077】
1.1 方法
以下に示す原液の適当な量/容量を混合することで、各々の水性二相系(ATPS)溶液を(特記しない限り)直接に10ml Sarstedt管中で調製した。各系の最終容量は5mlであった。混合物を約30秒間渦動させ、次いで40℃の水浴中に約15分間放置して相形成させた。
【0078】
原液
EOPO、20%(w/w):10gのEOPOを40gのMQ水に溶解することで調製した。
【0079】
EOPO、40%(w/w):20gのEOPOを30gのMQ水に溶解することで調製した。
【0080】
Myrj59(8μM):3.6mgのMyrj59を100mlのMQ水に溶解することで調製した。
【0081】
Myrj59(400μM):0.18gのMyrj59を100mlのMQ水に溶解することで調製した。
【0082】
NaP(リン酸Na、0.8M):0.8M NaH
2PO
4及び0.8M Na
2HPO
4を混合することで様々なpH(pH5、6、7、8)とした。
【0083】
クエン酸Na(0.8M):0.8Mクエン酸ナトリウム及び0.8Mクエン酸を混合することでpH7の原液を調製した。
【0084】
NaCl(5M):14.6gのNaClを50mlのMQ水に溶解することで調製した。
【0085】
実施例1:ATPSの形成に対するリン酸Na濃度及びpHの効果
適当な量/容量の原液を混合することで、1種のポリマー(EOPO)に基づく水性二相系(ATPS)を直接に10ml Sarstedt管中で調製した。各系の最終容量は5mlであった。混合物を30秒間渦動させ、次いで水浴中で約40℃に約15分間加熱して相形成させた。
【0086】
8%EOPO、150mM NaCl及び50〜200mMリン酸Na緩衝液(pH4、6、7及び8)に基づくATPSを調製した。水浴中において40℃で約15分間インキュベートした後、試験したすべてのpHで二相系が形成された。
【0087】
別の一連の実験では、異なる濃度のリン酸Na緩衝液(pH7)を用いて、150mM NaClを含む8%EOPOのATPSを調製した。
【0088】
結果は以下のことを示唆していた。
(1)低濃度(20mM)のリン酸Naを使用した場合には、いかなる二相系も形成されなかった。しかし、リン酸Na濃度を50mMに増加した場合、二相系が形成された。
(2)50mMリン酸Naを用いて形成されたATPSでは、100〜300mMリン酸Naを用いて形成された他の系の容量比が4であるのに比べて、高い相容量比(5.25)が得られた。
これは、その張度(重量オスモル濃度)が生細胞を溶解せずに分配するのに適する程度に低い塩濃度を有するEOPOベースの二相系を開発するのが可能であることを示唆している。これは、(1)EOPO濃縮物を添加して二相系を形成するため、最初は増殖培地中に等張性緩衝塩を使用することが望まれる用途、(2)生細胞の外部に輸送される標的タンパク質を含む発酵液を清澄化すると共に、細胞を溶解して宿主細胞タンパク質(HCP)を放出させることなしに細胞を処理することが望まれる用途、及び(3)(2)のような状況であって、細胞が連続培養状態に保たれるか、或いは他の方法によってインタクトな形態で処理される場合において重要である。
【0089】
Ucon(登録商標)ポリマーはBreox EOPOに非常に類似しているので、Tcの変化に関連して温度を僅かに変更すれば、Breox EOPO(下記参照)の代わりにこれを使用することができた。Pluronicポリマーを始めとして、その他多くの類似ポリマーが存在する。Pluronic L−81(10%EO及び90%PO、Mwt 2700)を試験したところ、ポリマー濃度が水又はリン酸緩衝液中で10〜20%であった場合、二相系が室温で成功裡に形成された。このことは、操作者が(例えば、プロテアーゼ活性を妨げるため)発酵液を室温に冷却するのを望むような状況下で使用するために重要であり得る。
【0090】
実施例2:ATPS形成及びタンパク質相分配に対する抗体濃度の効果、又はGFP含有溶解E.coli細胞ペーストの使用
実施例1の記載に従って、1種のポリマー(EOPO)に基づくATPSを調製した。表2は条件の異なる4つの系を示しており、これらを用いてポリクローナルIgG Gammanorm又は組換え緑色蛍光タンパク質(GFP)含有溶解
E.coli細胞ペースト試料を試験した。
【0091】
【表2】
【0092】
結果は以下のことを表している。
(1)試験した条件下では、低濃度(20mM)のリン酸Naを使用した場合にはいかなる二相系も形成されなかった。しかし、リン酸Na濃度が200mMであった場合には二相系が形成された。
(2)8〜10%w/w EOPO系では、Gammanormポリクローナルヒト抗体由来の全吸収の90〜100%は上部のポリマープア相中に得られた。
(3)490nmで測定したGFP活性のすべては、系4の上部相中に見出された。
E.coli細胞破片は単位重力(g)下で界面に分配された。試験管を3000×gで5分間遠心した場合、全ての細胞破片は分離した相を全く乱すことなく管の底部に沈降した。
【0093】
相容量比及び標的回収率に対するEOPO濃度の効果を調べた。5mg Gammanorm、5〜14%Breox EOPOポリマー並びに150mM NaCl及び200mMリン酸Na緩衝液(pH7)を用いて、最終容量5mlの系を調製した。40℃では、相容量比はEOPO濃度に逆比例して減少し、5%EOPOでは11.5の容量比が得られ、14%EOPOでは2.33の容量比が得られた。相形成後、相を分離し、各相の吸光度を分光光度計によって280nmでモニターした。分配係数(K)及び上部相中における各Fabの%濃度(C/Co)を算出した。すべての系が高いK値(>200)及び100%の標的回収率を示した。この結果は実用上重要である。なぜなら、Breox及び関連ポリマーは比較的安価であるので、標的タンパク質が回収される液体の容量の顕著な低減を達成し、そしてプロセスの初期に標的の濃縮を達成することができるならば、EOPO系を6%から12%に移行することは正当化できるからである。
【0094】
EOPOに基づくATP系中でのタンパク質溶解度を検討するため、5mlのATPS系(8%EOPO、200mMリン酸Na(pH7.4)及び150mM NaCl)中に様々な量のGammanormを用いて一連の実験を実施した。相形成後、相を分離し、各相の吸光度を分光光度計によって280nmでモニターした。上部相中における各タンパク質の分配係数(K)は高かった(>200)。これらの条件下でのEOPO系は、実質的に100%のGammanorm回収率を生じた。20%EOPO系を用いた別のセットの実験では、処理能力は同一の塩条件下で20g/Lに達し、>97%の回収率を与える。かかる結果は、EOPO系が高い処理能力を有することを示唆している。これは、PEG/塩系(約1g/L)及びPEG/デキストラン系(約5g/L)に比べて非常に勝っている。
【0095】
一般的に有用であるためには、かかるアプローチは細胞培養液に対して役立つべきである。我々は、細胞培養液がEOPO−ATPS中での相形成に影響を与え得るかどうかを検討した。8%EOPO、150mM NaCl及び200mMリン酸Naからなる5mlのATPS中で細胞培養液(2.6ml)を試験した。結果は、試験したすべての細胞培養液(Ex−cell CA CHO−3 Sigma 126K8042、BD CHO ref.220229、Power CHO−1−CP Lonza 070920及びCA OPTI CHO ref 12681−011−(Invitrogen))に関して二相系が形成されたことを示している。これは、
E.coliブロス/ペーストを用いて行った試験の成功、並びにEOPO及び塩をタンパク質含有溶液に直接添加して行った試験の成功に追加されるものである。しかし、処理を促進するためには、乾燥粉末ではなく濃縮原液を添加するのが一層良いかもしれない(下記参照)。
【0096】
実施例3:クエン酸塩に基づくEOPO系1ポリマーATPS
リン酸塩は、Breoxポリマーを用いた相系形成のために適している。これは、一つにはリン酸塩が比較的低い塩濃度(ある種のPEG−塩二相系の塩濃度の10分の1)で系を形成するからであり、また形成された系が良好な標的タンパク質回収率及び非標的タンパク質に関してある程度の選択性を与えるように思われるからである。しかし、リン酸塩は購入するのに高くつく上、処分するのにも高くつく。それとは対照的に、クエン酸塩は安価であり、生態学的にもやさしい。ここでは、新しい系の調製に際してクエン酸ナトリウム緩衝液を試験した。8%EOPO及び150mM NaClを含む系を調製するため、表3に示すように、様々な濃度のクエン酸Na緩衝液(pH7)を様々な温度で使用した。
【0097】
結果は以下のことを示していた。
●50〜200mMのクエン酸Na濃度を約40℃の温度で用いて二相系を形成することができる。
●250mM以上のクエン酸Na濃度をRTで用いて二相系を形成することができるが、相逆転によって相の順序が逆になった(ポリマー相が上部相になり、水相が下部相になる)。かかる系の水相中におけるIgGの回収率は約96%であった。
●250mM以上のクエン酸Na濃度をRTで用いて形成した系では、それより低い低いクエン酸Na濃度を40℃で用いて形成した系に比べて低い相比が得られた。
これは、クエン酸Naを主要塩の1種として用いて好適なEOPO系を生成できることを証明した(ただし、高いpHでの緩衝能力を高めるために若干のリン酸塩を添加することもできる)。認められた相逆転は、以前に報告されていた(M.Pereira et al.,Biochemical Engineering Journal 15(2003)131−138)。この場合の著者らは、30℃及び40℃のUcon−(NH
4)
2SO
4系を用いて遠心分離発酵試料上澄み液中のポリガラクツロナーゼ(Mabでない)の分配を観察していた。
【0098】
【表3】
【0099】
クエン酸塩に基づくEOPO ATP系中での相形成に対するNaCl濃度の効果を、100〜250mMクエン酸Na緩衝液を40℃及びRTで使用して評価した。結果は、100〜200mMクエン酸Na緩衝液を使用した場合、NaClは40℃での相形成にほとんど影響を与えないことを示している。しかし、250mMクエン酸Na緩衝液を使用した場合には、RTでの相形成のために150mM以上のNaCl濃度が必要であった。8%EOPOに基づく系中で2種の実際の未清澄化Mabプロセス供給液(2及び3)を用いて、pH変化の効果を試験した。上部相からの画分のMab含有量をプロテインAクロマトグラフィー分析によって分析したところ、pH7〜8で150mMクエン酸Na及び150mM NaClを用いて98%より高いMab回収率が得られることが示唆された。もちろん、他の塩の存在が上記の結果に影響を及ぼすことはあった。
【0100】
実施例4:EOPO ATPS中におけるHCP分配
pH及び疎水的親和性リガンドの効果:
これらの実験では、8%EOPO、150mM NaCl、及び200mMリン酸Na(pH6及び8)又は(PEG−アルキル疎水的親和性リガンドとして作用するように添加した)8μM Myrj59界面活性剤を含む200mMリン酸Na(pH8)からなる5mlの系中で粗Mab供給液1を分配した。水浴中において40℃で約15分間インキュベートした後、相を分離し、HCP含有量を分析した(表4)。結果は、高pH(pH8)の緩衝液を用いれば良好なHCP低減率が得られることを示唆している。
【0101】
【表4】
【0102】
本試験では、HCP濃度に関して、pH6からpH8になるとHCPの上部相分配の劇的な減少(即ち、下部相分配の増加)が見られる。疎水的親和性リガンドはpH8では僅かな効果しか示さなかったが、これは分析されたHCP実在物が比較的非疎水性タンパク質であったことに原因するのかもしれない。
【0103】
クエン酸Naに基づくEOPO ATPS中でのHCP分配に対するpHの効果:
粗供給液及びATPS処理供給液に関するHCPデータを測定した。結果(表5参照)は以下のことを示唆している。
●13〜23%のHCP低減率が生じた。
●HCPの低減率は緩衝液のpHの上昇と共に増加する。
●HCPの低減率はポリマー濃度の上昇と共に増加する。
これらの結果は、かかる系がポリマープア相を好む疎水性活量塩基性タンパク質(例えば、多くの抗体)に関しては多くの他の系と同様に挙動する一方、HCP混合物のある種の成分(通例は数種の酸性タンパク質及び負に帯電したタンパク質を含む)はポリマーリッチ相中により高度に分配されるという考えに合致している。タンパク質の分子量(及び疎水性)もまた、一定の役割を演じることがある。
【0104】
【表5】
【0105】
実施例5:粗供給液からのMabの濃縮
8%EOPO及び200mMリン酸Na緩衝液(pH7.4)に基づく約10mlのATPSを、0.8gの100%EOPOポリマー、固体リン酸塩(87mgのNaH
2PO
4、24.5mgのNa
2HPO
4)及び9.2mlのMab供給液2から調製した。混合し、水浴中において40℃で約15分間インキュベートしたところ、二相系が形成された。相の全容量は9.5mlであって、これは7.7mlの水リッチ相及び1.8mlのポリマーリッチ下部相からなり、4.27の相容量比を与える。この容量比は、40%EOPO溶液を0.8Mリン酸Na緩衝液と共に用いて調製した系からの容量比(5.25)より低い。したがって、濃縮EOPOポリマー及び固体リン酸塩から調製したATPSを用いればMab供給液を16%濃縮できる。
【0106】
以前の結果は、相容量比がEOPOポリマー濃度に逆比例して変化することを表している。Breox濃度を8%から12%に移行すると、回収率に影響を与えることなしに標的含有相の容量を低減させ得ることが認められた。我々は、Mab供給液2を使用しながら、様々な塩タイプ(リン酸塩及びクエン酸塩)及び塩濃度を有する12%EOPOポリマーの系中でのMabの回収率を検討した。プロテインAクロマトグラフィー分析を用いて水リッチ相中のMab回収率を測定した。結果は以下のことを示している。
●系が7〜8のpH範囲で100mMクエン酸Na及び150mM NaClを含む場合、両方のMab供給液試料に関して約100%の回収率が得られた。
●8%EOPOに基づく系(4.0〜4.1ml)に比べて少ない容量(3.5〜3.6ml)の水相が得られた。これは、EOPO濃度を上昇させた場合には高いMab濃度が得られることを意味している。
我々は、20%EOPOのポリマー濃度で様々な塩濃度を試験した。結果は、150mM NaClの存在又は不存在下で100mMリン酸Naを使用すれば、Mab含有水相をそれぞれ19%及び28%だけ濃縮できることを示している。
【0107】
実施例6:リン酸緩衝液及びクエン酸緩衝液系を用いた粗供給液からのMabの精製
この一連の実験では、8%EOPO、150mM NaCl及び様々な濃度のリン酸Na又はクエン酸Na緩衝液に基づく(かつ2.6mlの粗Mab供給液1又は2を含む)10mlのEOPO−ATPSを調製した。250mMの相逆転した系はRTに保った。その他の系は、相を分離させるため、水浴中において40℃で約15分間インキュベートした。若干の系からの相の純度をSDS PAGE電気泳動(ゲル勾配8〜25%)によって分析した(
図2)。粗供給液及びATPS実験後の回収Mabに関するHCPデータを表6に示す。得られた結果からは、以下のような結論を下すことができる。
●リン酸Na又はクエン酸Na緩衝液系のいずれについても、MabはATPSによって部分的に精製された(
図2参照)。
●200mMリン酸Na系に基づくATPSによって20%を超えるHCPを低減させることができ、250mMクエン酸Na緩衝液系では約30%を達成できる(表6参照)。
●リン酸Na緩衝液系に比べて、250mMクエン酸Na緩衝液系ではより小さい容量の水相が得られた(8.2mlに対して6.5ml、表6参照)。これは、クエン酸Na系の上部相中におけるMab濃度がより高いことを意味している。
【0108】
【表6】
【0109】
この場合にも、相系がHCPを低減させ得ることがわかる。これらの試験では、HCPは下部相又は相界面に移動すると推測された。後者の場合、それは細胞破片と会合していたのかもしれない。
【0110】
実施例7:ATPS系のさらなる特性決定
水相の導電率
アフィニティークロマトグラフィーその他の捕捉クロマトグラフィーのような後続の分離段階に対する適合性を調べるため、8%EOPO、150mM NaCl及び様々な濃度の緩衝液(リン酸Na又はクエン酸Na)から調製した5mlのATPSを(2.6mlの)粗Mab供給液の存在下又は不存在下で用いて水相の導電率を測定した。結果は、水リッチ(ポリマープア)標的含有相の導電率が約30〜40mS/cmであったことを示している。我々は、(約35の導電率を有する)ATPSで予備処理したMabをさらなる精製のためMabSelect(プロテインA関連)親和性カラムに直接適用できることを以下に実証する。我々は、これらの溶液が疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー及びある種の形態の混合モードクロマトグラフィー(又は捕捉濾過)にも適することを提唱する。これらはまた、ある種の形態の標的通過イオン交換又は標的捕捉イオン交換にも適している。試料をイオン交換カラムに直接適用するのであれば、多少の希釈が必要となることもある。しかし、Mab又はFabのような標的タンパク質が高度に帯電していれば、25mS/cmでも良好な結合を達成するのが可能であり得ることが最近証明された(例えば、C.Harinarayan et al.,Biotechnology and Bioengineering,95(2006)775−787)。
【0111】
二相中におけるポリマー含有量の分析
8%EOPO、150mM NaCl及び200mM NaP又はクエン酸Na緩衝液から調製した水相及びポリマー相中におけるEOPOポリマーの含有量を、全炭素含有量(TOC)法によって分析した。結果は、水相中のEOPOポリマー含有量が約1%(w/w)にすぎないことを示している。それに対し、ポリマーリッチ相中の含有量は約40%(w/w)であった。この結果は、10%(w/w)Breox 50A 1000−水二相系に関する文献値(Cunha et al.,Journal of Chromatography B,711(1998)53−60)に勝っている。この文献中では、相分離を達成して、8の相容量比並びにそれぞれ約3%及び60%の上部相及び下部相ポリマー濃度を有する系を得るためには温度を60℃に上昇させることが必要であった。このように本系では、(濾過に続いてカラム上に直接装填すべき)標的含有相中のポリマー含有量は、恐らくはリン酸塩又はクエン酸塩が200mMで含まれるため、Cunha et al.の1/3である。さらに、40%EOPOの下部相は60%(w/w)EOPOの系よりも高度に非標的タンパク質を分配させる能力を有すると予想できる。
【0112】
14%の微小凝集体を含むMab試料の分離
人工的に自己会合抗体(多量体凝集体)を富化したMab試料を、8%EOPO、150mM NaCl及び200mM リン酸Na(pH7)中での分配にかけた。結果は、凝集体濃度の減少も増加も見られないことを示唆している。高度の分配を可能にするMabの表面構造が凝集体表面上になお存在するとすれば、これは恐らく意外なことではない。同様な結果はMab二量体についても予想される。したがって分配は、理想的には、MabSelectアフィニティークロマトグラフィー又はAdhere多モードクロマトグラフィーのような選択的マルチプレート分離方法と組み合わせるべきである。凝集体が相界面張力によって保持され得るサイズに到達すれば、分配は一部の大きい凝集体を除去するはずである。
【0113】
実施例8:ATPS及びプロテインAカラムを用いたMabの精製
粗Mab供給液1(2.6ml Mab)を、上述したような(8%EOPO、200mMリン酸Na(pH7)、150mM NaCl)系による処理にかけた。上部相からの2ml画分を集め、さらなる精製のためHiTrap MabSelect Sureカラム上に適用した。適用された試料は約35mS/cmの導電率を有していた。カラムをpH7.4のリン酸緩衝食塩水(PBS)で予備平衡化し、60mMクエン酸Na緩衝液(pH3.4)で溶離した。対照として、EOPO−ATPSではなく遠心分離及び濾過によって処理した同量の粗Mab供給液1(導電率12mS/cm)を同じカラム上で精製した。溶出画分の純度をSDS PAGE電気泳動によって分析した。粗Mab並びにATPS及びプロテインAクロマトグラフィー実験後の回収Mabに関する(商業的ELISAからの)タンパク質回収率及びHCPデータを表7及び表8に示す。これらの実験からの結果は、以下のことを示唆している。
●Mabは、ATPSにより、100%の回収率で部分的に精製された(
図3、表7)。
●ATPSで予備処理されたMab試料はMabSelect上に直接適用できる(
図4)。
●(試験した供給液及びATPS系については)ATPSによって20%を超えるHCP低減率を得ることができる(表8参照)。
【0114】
ATPS処理及びSure処理からの試料間における相対抗体バンド位置のシフトは、(溶出)試料のpH及び導電率の差(即ち、Sure溶出試料の低いpH)並びにATPS試料中における残留ポリマーの存在に原因すると考えられる。下部のポリマーリッチ相中に認められる拡散した非バンド化は、該相中に分配されて該相中のタンパク質と相互作用する宿主細胞タンパク質に原因すると考えられる。
【0115】
プロテインAカラムからの回収率は、この試料に関しては、ATPS試料及び供給液試料のいずれについても60〜70%の範囲内にある。これはプロテインAとしては比較的低い(通例100%が正常である)。しかし、ある種のMabはこのような結果を示すことがある。それでも、ATPS分配は100%回収率を生じ、Mab供給液試料に比べてカラムの性能を変えなかった。
【0116】
【表7】
【0117】
【表8】
【0118】
ATPS段階はカラムに適用されるHCP負荷を低減させる(表8)が、プロテインAクロマトグラフィー後の低減率に影響を与えなかった。しかし、22%(この場合)というHCP負荷の低減は、非特異的汚損の減少及びカラム寿命の増加の点でプロセスに利益をもたらすことができよう。
【0119】
実施例9:ATPS及びCapto MMCカラムを用いたMabの精製
ここでの目的は、ATPSからの水リッチ標的含有相が多モード陽イオン交換体Capto MMCを含む後続のクロマトグラフィー段階に適合し得るかどうかを検証することであった。実際のMab供給液1である未清澄化供給液(pH7)を使用した。Mabの概略pIは6.5であり、その濃度は0.4mg/mlであった。MMCには、熱誘起相の分配後における水リッチ標的含有相を装填した。対照として、遠心分離によって清澄化した供給液を使用した。ATPS系の組成は、8%EOPO、200mMリン酸塩(pH7.4)、150mM NaClであった。いずれの場合にも、装填溶液のpHはクロマトグラフィーに先立って5に調整した。
【0120】
Capto MMC媒体をTricon 5/100中に約10cmのベッド高さ及び約2mlの全容量で充填した。試料は、1mlの(遠心分離を受けていない)標的含有相又は清澄化供給液であった。流量はすべての試験について1ml/分(300cm/h)であった。MabをpH勾配によって溶離した。画分容量は2mlであった。緩衝液Aは50mM 酢酸(pH4.75)であり、緩衝液Bは50mM Tris−HCl(pH9)であった。分析は、Superdex 200 5/150 GLカラムにPBSを0.3ml/分で流すゲル濾過によって行った。
【0121】
最初の実験はややゆがんだ吸収ピークを示し、分析は通過液中へのMabの漏れを示した。加えて、溶出液中には多少の夾雑物が検出された。したがって、我々は供給液試料を半分に希釈して約0.2mg/ml Mabにした。希釈試料をATPS及びCapto MMC分離方法にかけ、ゲル濾過によって分析した。通過液中へのMabの漏れがなかった(
図5及び
図6)ので、分析はCapto MMC媒体に対するMabの良好な結合を示した。
【0122】
Capto MMCは「高塩クロマトグラフィー樹脂」として推奨されている。これらの結果は、Capto MMCが未希釈の標的含有上部相に関連する導電率で試験したMabを結合できたことを示している。pHをタンパク質のpI付近又はそれ以上の点に上昇させることが、結合タンパク質を溶離するための最も効率的な方法である。回収率は、MabSelectの結果と同様な60〜70%であった。HCPの低減率は供給液の結果と同様な約90%であるが、MabSelectより低い。
【0123】
実施例10:ATPS及びプロテインAカラムを用いるMabのスケールアップ精製
ここで我々は、本発明に係る分配が、凝集体の形成を増加させたり、回収率を低下させたり、或いはプロテインA段階に関して回収率及び純度を低下させたりするようにしてMabを妨害しないことを示す。即ち、ATPSは清澄化兼分離段階として作用し、プロテインAカラムの汚損を引き起こすことがある大きい粒子又は凝集体の含有量を低減させることができた。ATPSを直接に発酵容器(又は発酵液を移した容器)内で形成することにより、分配を同一単位操作の一部とすることができ、時間の損失がない。第2の段階として、上述した場合と同様にして、MabSelect Sureを用いてMab含有画分(水リッチ相)をさらに精製した。
【0124】
出発原料は、遠心分離によって清澄化したMab含有CHO細胞発酵供給液2であった。清澄化供給液を使用したのは、それが相分離動力学に従わせるのが容易だったからである。Mab濃度は約0.4g/lであった。供給液試料は、ゲル濾過で判断したところ、15〜20%(A280による)の抗体二量体及び凝集体を含んでいた。
【0125】
100%EOPOポリマー及び適量の固体リン酸塩を使用した系5を除き、40%(w/w)EOPOポリマー及び0.8M緩衝液の原液の適当な量/容量を混合することにより、水性二相系を直接に1リットルのガラスシリンダー内で調製した。各系の最終容量は、供給液の添加によって800mlに調整した。各系を混合し、次いで耐候試験機内において40℃でインキュベートした。ただし、系3は室温に保った。相の形成後、相形成時間、各相の容量及び相容量比を記録した(表9参照)。次いで、各系からのMab含有水リッチ相をさらなる精製のために取り出した。
【0126】
表9は、様々な二相系からのデータを示している。一部の欄は2つの値を含んでいる。これは中間相のサイズに原因するものである。中間相はいくつかの方法で集めることができる。系5では、塩を最終濃度になるように固体結晶として添加した。
【0127】
【表9】
【0128】
これらの800mL系は、30分から120分までの様々な時間にわたって相分離を示したことがわかる。相分離は、容量よりも相系の高さ(深さ)に大きく依存することに注意すべきである。即ち、20cmの高さを有する1L系は、20cmの高さを有する500L系と同様にして相分離し得る。これは、20cmの高さを有する500L系を半径90cmの容器内で処理できるので重要である。
【0129】
プロテインAクロマトグラフィー
クロマトグラフィーは5mlのHiTrap MabSelectSureを用いて実施した。分析は、1ml HiTrap MabSelectSureカラム及びSuperdex 200 5/150 GLを用いて実施した。試料は50mlの供給液又は水リッチ相であり、緩衝液Aは0.15M NaCl中の20mMリン酸ナトリウム(pH7.2)であり、緩衝液Bは50mMクエン酸ナトリウム(pH=3.0)であった。流量は5ml/分(150cm/h)、勾配は0〜100%の階段勾配であった。通過液及び溶出液を集め、さらにMab、HCP及び凝集体レベルを分析した。回収率の推定及びその他の分析を一層正確に(カラムを汚損することがある大きい凝集体に関係しないように)するため、水リッチ相を遠心分離してから後続のクロマトグラフィー段階に適用した。したがって、この遠心分離段階はクロマトグラフィーに先立つテプス濾過と同等なものと見なされた。
【0130】
試料の分析
MabSelectSureカラムを用いてMabの濃度を測定した。50μlの試料を1ml HiTrap MabSelectSureカラムに適用した。溶出液ピークの面積を積分し、それぞれ供給液及び水相の容量を掛けた。ATPSを用いた抽出に関する回収率を、面積単位の総数を比較することで算出した。MabSelectSure段階に関するMabの回収率を同様にして算出した。試料:50μlの供給液又は水相、カラム:1ml HiTrap MabSelectSure、緩衝液A:PBS、緩衝液B:100mMクエン酸ナトリウム(pH=3.0)、流量:1ml/分(150cm/h)、勾配:0〜100%Bの階段勾配。
【0131】
Superdex 200 5/150 GLゲル濾過カラムを用いて、二量体及び凝集体(さらにMab濃度)を測定した。二量体ピーク及び単量体ピークの面積をUNICORNソフトウェアによって自動的に積分した。供給液及び水相からの二量体の総面積を比較した。試料:50μlの供給液又は水相、カラム:3ml Superdex 200 5/150 GL、緩衝液:PBS、流量:0.3ml/分(45cm/h)。
【0132】
結果
いかなる希釈或いはpH又は導電率の変化もなしに、水相をMabSelectSureカラムに直接適用することが可能であった(
図7)。
【0133】
MabSelectSureカラムを用いて、供給液及び水相からのMab濃度の分析を行った(
図8)。
図8では、粗供給液を分析した。図からわかる通り、大部分のタンパク質及び他の280nmUV吸収化合物はカラムを直ぐに通過した。
【0134】
図9は、系3の上部相に関するMab濃度の分析結果を示している(表9)。このクロマトグラムは全体的な形状が
図8に類似しているが、これは予想されたことである。
図10は、親和性カラムを通過させた上部相に関する溶出液試料の親和性分析結果を示している。
図8及び
図9と比較すれば、Mab(2番目のピーク)に対する親和性カラムの濃縮効果がわかる。
【0135】
表10は、表9中の様々な試験で得られた結果を示している。二相抽出からのMab回収率は、1例を除くすべての場合について>95%であることが示されている。試験した条件下では、このMab試料の場合、二相抽出はHCPの低減率にあまり寄与せず、それは10%未満であった。しかし、この場合、系はMab回収率を最適化するように選択された。単量体と二量体との比が変化しなかったことから判断すると、凝集体濃度の明らかな低減は存在しなかった。
【0136】
表10はまた、MabSelect Sure試験からの結果の要約も示している。即ち、MabSelect Sureカラムからの溶出液を出発原料と比較した。出発原料は供給液又は様々な標的含有水リッチ相であった。予想された通り、回収率はほぼ100%であり、HCPの低減率は>99%であった。二量体/凝集体の低減率は不確実であり、分析方法の変動の範囲内にあるのかもしれない。供給液及びこの段階からの溶出液中の二量体/凝集体比を比較すると、差が存在している。供給液では、MabSelect Sure段階前の比は0.17であるのに対し、MabSelect Sure段階後には0.14〜0.15である。
【0137】
【表10】
【0138】
結果の分析に関しては、Aktaクロマトグラフィーユニット(GE Healthcare社)で動作させたMabSelectSureカラムを用いてMab濃度を測定した。50μlの試料を1ml HiTrap MabSelectSureカラムに適用した。緩衝液Aは10mMリン酸Na(pH7.2)中の150mM NaCl(PBS)、緩衝液Bは100mMクエン酸ナトリウム(pH3)、流量は1ml/分(150cm/h)、勾配は0〜100%Bの階段勾配であった。溶出液ピークの面積を積分し、それぞれ供給液及び水相の容量を掛けた。ATPSを用いた抽出に関する回収率を、面積単位の総数を比較することで算出した。
【0139】
(分配後の)MabSelectSure段階に関するMabの回収率を同様にして算出した。若干の場合には、Superdex 200 5/150 GLゲル濾過カラムを用いて、二量体及び凝集体(さらにMab濃度)を測定した。二量体ピーク及び単量体ピークの面積をUNICORNソフトウェアによって自動的に積分した。供給液及び水相からの二量体の総面積を比較した。試料:50μlの供給液又は水相、カラム:3ml Superdex 200 5/150 GL、緩衝液:PBS、流量:0.3ml/分(45cm/h)。GyroLabを用いて宿主細胞タンパク質(HCP)を測定した。
【0140】
例えば、回収率が110%を超える場合(系5の溶出液)及び系8の溶出液に関して76%である場合には、2つの結果をアウトライヤーと見なすのは容易である。多年の経験によれば、回収率は試験した条件下ではすべてのプロテインA媒体について常に100%に近いはずであることが示唆されている。
【0141】
水相及び出発原料中のHCP含有量(
図10)を比較すると、相対HCP濃度の僅かな低下が見られる。即ち、ATPSはHCP含有量を低減させる。二量体/凝集体の低減になると、一部のATPSは二量体の濃度を僅かに増加させたように思われた。その差は小さく、分析方法の分散の範囲内にあるものかもしれない。
【0142】
MabSelectSure段階後、予想された通り、HCPの大きな低減が見られた。2つの方法、即ち「Sure」方法及びゲル濾過によってそれぞれ回収率を測定した。これらの間には差があるが、いずれの方法も相系及び後続のプロテインAからわの高い回収率を示した。
【0143】
実施例11:リン酸Na及びクエン酸Naに基づくATPS中におけるFabの分配
Mabタンパク質は、それが比較的疎水性でありかつ通例は正の正味電荷を有するため、リン酸塩又はクエン酸塩のような塩を含むEOPO−水ATPS中の水リッチ相を好む傾向があると推測される。極めて疎水性であるGFPも高いK値を示すとすれば、ブレンステッド式によって予測されるようにサイズが二次的な役割を演じることがある。その予測は、系が分子集合体、二量体及びモノマーMab形態を差別的に分配できないこと(上記参照)によって裏付けられる。幸いにも、それはまた、分配が抗体のFabフラグメントタンパク質(Fab)に対しても適していることを示唆している。リン酸Na及びクエン酸Na緩衝液に基づくEOPO−ATPSにおいて、系分配中に0.5mg Fabを各系に添加することで、MWが約5.5kDaのポリクローナルFab(pI:5.5〜9.5)の分配を試験した。40℃での相形成後、相を分離し、各相の吸光度を分光光度計によって280nmでモニターした。分配係数(K)及び上部相中における各Fabの%濃度((C/Co)×100%)を算出した(表11参照)。結果は、クエン酸Na緩衝液に基づく水相中におけるFabの回収率がリン酸Na緩衝液に基づく類似の相中(60%)より高い(79%)ことを示している。これらの分配値は、この報告中で注目されたMab及びポリクローナルIgに関する典型値より低い。しかし、試験した系はFabでなくMabに対して最適化されていた。加えて、Fab試料は明らかにpIが極めて酸性であるタンパク質を多少含んでいたので、その分配K値が低いことがあるのは意外でない。
【0144】
【表11】
【0145】
実施例12:EOPO系ATPS中におけるタンパク質選択性
8%EOPO、200mMリン酸Na(pH7.4)及び150mM NaClを含む5mlの系中において、様々なpIを有するタンパク質を40℃で分配した。系中の全タンパク質濃度は1mg/mlであった。相形成後、相を分離し、各相の吸光度を分光光度計によって280nmでモニターした。分配係数(K)を算出し、表12にまとめて示す。結果は、塩基性タンパク質が完全に水相中に分配されたのに対し、最も酸性のタンパク質は上部相及び下部相の両方に分配されたことを示唆している。ポリクローナルIg試料は約7の平均pIを有していたにもかかわらず、恐らくは疎水性及びサイズのために(以前に認められたような)高いK値を示した。
【0146】
【表12】
【0147】
分配は、親水性(水リッチ相を好む陽性タンパク質による単位面積当たりの正味電荷)及び疎水性(自己会合したEOPO相が排除するので水リッチ相中により多く存在する疎水性タンパク質)の両方に関係するはずである。試験した系は相当量のリン酸Na及びNaClを含み、したがって大部分のタンパク質が顕著な上部相分配を示したことは意外でないかもしれない。しかし、かかる系に関しても、ある程度の選択性が実証された。ここに述べた他の結果に基づけば、NaCl及びリン酸Naを100mM NaClに減少させかつpHを8に上昇させると、α−ラクトアルブミン、BSA及びミオグロビンに関するK値を低下させてより選択的な系を導くことができる。しかし、かかる系は抗体のような標的に関して最良の回収率を与えないかもしれない。低分配タンパク質が標的タンパク質である場合、その分配は、塩、pH、疎水的親和性リガンドの含有、又は上記実施例中に記載された他の変量を変化させることで増加させ得る。
【0148】
実施例13:ミルク又は血液に対する二相系の形成
植物、ミルク、血液などに含まれる組換えタンパク質又は天然タンパク質のような各種の生物関連試料に対して二相系を使用する可能性に関し、ミルク系又は血液系の溶液を処理できるか否かを調べるための研究を実施した。ミルクに関する実験では、二相の形成について4種の条件をスクリーニングした(表13参照)。一部の条件で相系が形成されたが、その相形成は脂肪物質の存在並びに(恐らくは)高カルシウムレベルによって複雑化されることが認められた。後者は、オキシポリマー及びリン酸塩とキレート化し、リン酸緩衝食塩水水のPEGに塩化カルシウムを添加した場合に生じるような沈殿を形成し得ることが知られている。結果は、本プロセスがスキムミルクに対して一層良く働くことを示唆している。
【0149】
【表13】
【0150】
血液に関する実験では、Breox 50A EOPOポリマー原液及びクエン酸Na(pH7.4)原液を7mlの血液(これは天然に150mM NaClを含む)に添加することで、15mlのキャップ付きプラスチック円錐管中に10%EOPO及び容量10mlの約70%(v/v)血液等張溶液を生成した。手で穏やかに転倒させることにより37℃で混合した後、混合物は10分以内に2つの液相及び細胞領域に分離した。このように処理した血液試料に関しては、良好な相形成、清澄化及び相分離が見られた(データベースは示さず)。
【0151】
実施例14:Pluronic L81による二相系の形成
Breox及びUconポリマーは、EO及びPOのランダムコポリマーである。Pluronicは、(EO)
x(PO)
y(EO)
x型のコブロックコポリマーである。(10%EO及び90%POを含みかつ約2700の全ポリマーMWを有する)Pluronic L81ポリマーに基づくATPS中におけるMabの回収率を調べるため、Mab供給液2を用いて、相異なる塩タイプ(リン酸塩及びクエン酸塩)に関する若干の実験を行った。Pluronic L81は上記の研究の多くで使用したBreoxポリマーより低いTcを有しており、室温で使用するのに適するかもしれない。ポリマー濃度が10〜20%である場合、二相系は室温で形成されたが、これは他の熱応答性クラウディングポリマーも本発明の方法で使用するのに適していることを表している。MabSelect Sure分析を用いて、水リッチ相中の(供給液2からの)Mab回収率を測定した。EOPOに基づくATPSを対照として使用した。結果を表14に示すが、これはEOPO系に関して92%以上及び(非最適化)L81系に関して86%以上のMab回収率を示している。
【0152】
【表14】
【0153】
実施例15:使い捨てバイオリアクター内における14リットルスケールの分配
ここで我々は、14リットルスケールで遠心分離なしに細胞除去(清澄化)を可能にするため、Breox(EOPO)ポリマーを塩との濃縮状態で直接にWAVE(商標)バッグ中の10L Mab細胞培養物に添加してなる水性二相系(ATPS)を使用することを示す。この研究では、容量低減を最適化するのではなく混合の容易さを助けるため、ポリマー及び塩原液を添加する方法が選択されたことに注意されたい。その上、相系は迅速な分離及び良好なMab回収率を達成するようにも選択された。それは、Mab回収率と宿主細胞タンパク質除去とのバランスを取るように最適化されたわけではなかった。上記の実施例に基づけば、HCP及び他の夾雑物の除去に関する試薬添加方法及び系最適化は、機能し得るモデル系が実証できれば明らかであるように感じられた。
【0154】
実際の供給液4のMab細胞培養物はCHO細胞株で発現される。培養期間は18日であり、培養容器は20Lのバッグ及びpH/オキシウェルを有するWAVEバイオリアクター系20/50であった。培養液は、5g/Lの加水分解物UF8804(Millipore社)を含みかつ必要に応じてグルコース及びグルタミンを供給したPowerCHO2(Lonza社)であった。供給液試料は、細胞の平均生存率が40%を下回った場合に収穫可能と定義された。WAVEバッグの内容物は、ポリマー−塩溶液を添加した場合、42℃に温度安定化された。
【0155】
ATPSポリマー系は、9.5kgのMab供給液4を含むWAVEバッグ中に原液混合物を直接ポンプ注入することで調製した(
図11参照)。
【0156】
【表15】
【0157】
10%(w/w)EOPO、200mMリン酸Na(pH8.0)及び150mM NaClの最終濃度を達成するためには、表15に従って原液を予備混合した。かくして、総量8.37Lのこの混合物を40℃まで加熱し、次いで蠕動ポンプを用いて(ほぼ同じ温度を有する)WAVEバッグ中の供給液材料に注入した。ポリマー混合物のポンプ注入時間は約50分であった。WAVEリアクター上に混合物を放置して15分間振盪した後、バッグホルダーを含めたWAVEバッグをリアクターから取り外し、長軸が垂直になるようにして実験台上に配置した(
図11参照)。これは、相形成の可視化を助けると共に、バッグのチューブ挿入口をバッグの上部及び下部に位置させた。それはまた、一層ラージスケールのプロセスにおいて予想されるものに一致するように相の高さを調整した(上記の議論を参照されたい)。二相系の形成は5分後に認められ、30分後に完了した。
図12に見られるように、細胞破片の層が界面に形成された。次いで、WAVEバッグの上部からチューブを挿入し、それを蠕動ポンプに連結することで、上部相を複数の瓶に移した(
図12参照)。次いで、WAVEバッグを長軸が垂直になるように配置した場合にその下部コーナーになる部分に取り付けたチューブを用いて、下部(ポリマー)相を瓶に移した(
図11参照)。
【0158】
複数の瓶からの集めた上部相材料をプールし(約13.5L)、次いで6インチUltra HC 0.2μmフィルターに連結した6インチUltra 0.6μm GFを用いて濾過した。7リットルの材料を濾過した後、圧力が2.5バールに増加したので、6インチUltra 0.6μm GFを新しいフィルターと交換した。濾過した材料をWAVEバッグ中に集め、次いで4℃に保った。
【0159】
ATPS後の上部ポリマープア相画分中におけるMabの回収率を、MabSelect Sure分析(上記参照)を用いて測定した。粗供給液及びATPS実験後の回収Mabに関するMab回収率及び宿主細胞タンパク質(HCP)データを表16に示す。これらの実験からの結果は、MabがATPSによって>99%の回収率で部分的に精製され(表16)、細胞破片の顕著な除去(
図11及び
図12)も見られることを示していた。この実験で使用した水性ポリマー二相系によってHCPの顕著な低減は得られなかった(表16)。
【0160】
【表16】
【0161】
9.5kgのMab細胞培養物(供給液4)を含む20LのWAVEバッグに、8Lを超えるポリマー溶液をポンプ注入した。二相系の形成は5分後に既に認められ、30分後に完了した。細胞及び破片の層が界面に形成された。ATPSによれば、細胞及び破片は成功裡に除去され、標的Mabタンパク質は水性上部相中にほぼ完全に回収された。実際の供給液に関するスモールスケール研究の場合と同じく、簡単な濾過後、清澄化Mab含有相をMabの損失又はカラム性能の低下なしにMabSelect親和性カラムに直接適用することができた。
【0162】
実施例16:ウイルス及びウイルスワクチンの処理
一般実験手順
ウイルス関連の実験は、上記の抗体発酵供給液及びそれに関連する実験からの代表的な系をウイルスワクチン処理に関連する実験に適用することを含んでいた。したがって、同様なポリマー、塩、系及び技法を使用した。2種のウイルス株を用いて2つの例示的な実験を行った。第1のものはCHO細胞タンパク質で増強されたショ糖勾配精製ウイルスを用いた分配を含み、第2のものは(同一供給源からの)清澄化かつ濃縮ウイルスで増強された実際のウイルス供給液であった。
【0163】
化学薬品、試薬及びウイルス株
Breox(商標)50A 1000
1、MW 3900、上記参照。
【0164】
本研究で使用した他の化学薬品はすべて分析用のものであって、MERCK社から購入した。
【0165】
1本研究で使用したBreox(商標)は通常の工業用界面活性剤であり、いくつかの供給源から入手できる。同様なポリマーはバイオ医薬品の処理及び製剤化で使用されていて、その場合にこれらは様々な機能を果たす。Breox 50A 1000は、50%エチレンオキシド及び50%プロピレンオキシドからなるランダムコポリマーである。その分子質量(数平均)は3900Daであり、膜タンパク質の抽出のために有用なBreox−洗浄剤二相系(J.Chromatogr.B,vol 711,pp.53−60,1998を参照されたい)に関連した大規模研究で使用するためにはKTH(バイオテクノロジー部)によってInternational Speciality Chemicals社(サウサンプトン、英国)から入手した。Breox系列のポリマーは極めて安全で生体適合性を有するように思われ、ある種の製剤中に使用されている。
【0166】
ウイルス材料
2種の生物学的材料の試料を使用した。第1のものは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞発酵液からMabSelect親和性カラム(GE Healthcare社)通過液(FT)を取り出すことで得たワクチン増強CHO細胞系供給液であった。FTはMabをほとんど又は全く含んでいなかったが、標準的なCHO宿主細胞タンパク質及び他の夾雑物は含んでいた。それをA/H1N1/New Caledoniaインフルエンザウイルスの40%ショ糖勾配で精製されたインタクトウイルス画分(ホルムアルデヒド処理、赤血球凝集素(HA)濃度約200μg/ml)で富化した。
【0167】
第2の試料(ウイルス供給液という)は、約13.8μg/mlのHA濃度を有する(MDCK細胞中で増殖させた)活性A/H1N1/Solomon Islandsインフルエンザウイルスの粗収穫物に基づいていた。結果を一層容易に評価するため、9mlの清澄化かつ濃縮A/H1N1/Solomon Islandsインフルエンザウイルス(約73μg/ml)を51mlの粗収穫物に添加することでウイルス供給液中のウイルス濃度を増加させた。このウイルス材料はまた、10mM TRIS(pH7.4)及び0.15M NaClを含んでいた。
【0168】
分配方法
以下の表17に示す原液の適当な量/容量を混合することで、各々の水性二相系(ATPS)を直接に15ml Sarstedt管中で調製した。かかるATPSは、100mM NaP(pH7)及び150mM NaCl中の8〜12%EOPO系に基づいていた。ウイルス供給液混合物の添加後、各系の最終容量をPBSで10mlに調整した(表参照)。混合物を約30秒間渦動させ、次いでオーブン内において40〜45℃で約1時間放置して相形成させた。次いで、形成された相を分離し、以下に示す方法で分析した。
【0169】
原液
BREOX 50A 1000、100%(w/w):そのまま使用した。
【0170】
NaP(リン酸Na、0.8M):0.8M NaH
2PO
4及び0.8M Na
2HPO
4の適量を混合することでpH7とした。
【0171】
NaCl(5M):14.6gのNaClを50mlのMQ水に溶解することで調製した。
【0172】
【表17】
【0173】
分析
ショ糖勾配で精製されたウイルス増強CHO細胞試料に関する分配結果を、インタクトなウイルス粒子を検出する酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)法(宝酒造)を用いて分析した。これは、ショ糖密度勾配で精製された試料のインタクトウイルス画分からのウイルスでCHO FT供給液を増強した場合(上記)に一致している。
【0174】
実際のワクチン供給液試料の結果を標準の商業的に利用できるアッセイに従って分析した。総タンパク質はBradfordアッセイによって分析し、デオキシリボ核酸(DNA)は(MDCK細胞のゲノムDNAに対する)qPCRアッセイ及びPicoGreen(登録商標)(Molecular Probes社)によって分析し、宿主細胞タンパク質(HCP)は(MDCK細胞に対するウサギポリクローナル抗体を用いる)Biacore(商標)装置(GE Healthcare社)に基づく表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイの使用によって分析し、ウイルスHAはBiacore SPRアッセイ(C.Estmer Nilsson et al,Vaccine 28(2010)759−766参照)によって分析した。Biacore HAアッセイはウイルスHAタンパク質を検出し、したがってウイルス関連夾雑物(HA)を含む他のウイルス破片及び細胞破片のすべてに対しても感受性を有する。
【0175】
前述した通り、上部相中のBreox EOPOポリマー濃度は約1%(w/w)である一方、下部相中ではそれは遙かに高い(例えば、70%)と予想される。Bradfordアッセイに対するEO(ポリエチレングリコール)及びデキストランのような親水性ポリマーの効果が、Barbarosa et al.(Protein quantification in the presence of dextran or poly(ethyleneglycol)(PEG)and dextran using the Bradford method.Helder Barbosa,Nigel K.H.Slater,Joao C.Marcos,Analytical Biochemistry 395(2009)108−110)を始めとする複数の著者によって研究されている。彼らは、10%を超えるPEG濃度がアッセイ感度の実質的な低下をもたらすと結論づけている。
【0176】
結果及び考察
相異なるBreoxポリマー濃度(8〜12%w/w)を有する3相系を二重反復実験で試験した。系及び塩の組合せは、タンパク質処理に関して試験したものと同じであった。40℃より高く加熱したところ、供給液試料中に二相が容易に形成された。下部相は高いポリマー濃度のために分析するのが困難であったが、上部相は加熱前の一相系と同様に容易に分析された。若干の場合には、熱応答性EOPOブロックコポリマー(例えば、Pluronic(登録商標)L81)を用いて同様な結果が得られた(データは示さず)。全体の結果を
図13に示す。3種のEOPOポリマー濃度のいずれにおいても、実際のウイルス供給液試料は基本的に同様な結果を与えたことがわかる。即ち、Biacore HAアッセイによる上部相中のウイルスHAは約20%であり、上部相中のHCPは60〜70%であり、上部相中の総(Bradford)タンパク質は70〜80%であり、上部相中のDNAは5%未満であった。供給液が清澄化CHO細胞供給液で増強されたインタクトなショ糖勾配精製ウイルスである別の実験では、(PicoGreen(登録商標)アッセイで測定された)上部相へのDNA分配は70%であったのに対し、ELISAアッセイによって分析されたインタクトウイルスの上部相分配は70〜100%であった。DNA分配は、EOPOの2ポリマー系に関して国際公開第2004/020629号に記載されたものと一致している。
【0177】
かかるデータは、供給液中に形成された単一応答性ポリマーの二相系を用いて、さらなる処理のためにウイルス供給液の清澄化及びインタクトウイルス粒子の一次回収を行うのが可能であることを示している。Mab処理の場合と同じく、上部相は多少のHCP及び多少のDNA並びにウイルスを含むが、アフィニティークロマトグラフィーその他の方法によるさらなる処理を施すことができるはずである。実験は、使用するアッセイ又は供給液のタイプに応じてウイルス及びDNAの分配係数に顕著な差があることを示唆している。これは、一部では、相間におけるインタクトウイルス及びウイルス破片の不均等な分配の関数であるのかもしれない。細胞及びウイルス破片を含む試料においてやや意外にも上部相中へのDNA分配がないことは、部分的には、DNAと細胞及びウイルス破片との相互作用によってDNAが破片と共に界面に集積することで説明できる。
【0178】
本明細書中で言及された特許、特許出願公開及びその他の公表参考文献のすべては、各々が個別かつ詳細に本明細書中に組み込まれた場合と同じく、その全体が援用によって本明細書の内容の一部をなしている。以上、本発明の好ましい例示的な実施形態を記載してきたが、当業者には、限定のためでなく例示を目的として示した記載の実施形態以外のやり方でも本発明を実施できることが容易に理解されよう。本発明は、以下に示す特許請求の範囲によってのみ限定される。