(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記二次相の前記固体電解質層に占める面積比は、前記固体電解質層の中心部分を通り、前記固体電解質層と前記正極活物質層との界面に垂直な面で切断した切断面において、0.3〜16%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の全固体二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
本発明の全固体二次電池は少なくとも正極活物質層が固体電解質層に接して配置された後、同時焼成によって良好な界面接合を形成することで作製される。以下に、最良の形態について詳細に説明する。
【0010】
<部材の構成>
本発明における正極活物質層は一般式LiMPO
4で表されるオリビン型構造を有する材料を用いることが好ましい。ここでMはマンガンMn、コバルトCoおよびニッケルNiよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である。本発明によればマンガンMnが含まれる正極活物質層での改善効果が最も顕著であるが、マンガンMn以外のコバルトCoおよびニッケルNiからなる正極活物質層でも改善効果があり、使用可能である。何故なら遷移金属の固体電解質層への拡散以外に、より低温で起こるリチウムLiの固体電解質層への拡散を抑制できることから、従来よりも反応抑制が可能となる。
【0011】
ベースとなる固体電解質層の結晶構造はNASICON型と呼ばれる構造が、リチウムイオン伝導性が高く、大気中でも安定であるために好適である。なかでも一般式Li
1+xAl
xTi
2−x(PO
4)
3(以下、「LATP」と略す。)が最も好ましい。リン酸骨格の一部をシリコンSiで置換しても良い。チタンTiはゲルマニウムGeやジルコニウムZrなど他の遷移金属に一部置換しても良い。アルミニウムAlはガリウムGaやインジウムInやランタンLaなど他の3価の遷移金属に置換しても良いが、リチウムLi量を増やすために3価の遷移金属を含ませること(x>0)が好ましい。Li量が多い組成ほど正極活物質層からのLi拡散を抑制できるためである。
【0012】
本発明での固体電解質層は、AB
2(PO
4)
3骨格のNASICON型構造のリン酸塩で形成されている。
置換されていない場合、LiTi
2(PO
4)
3で表される。
一部置換した場合、下記のように表される。
Li
1+x+zD
x(E
yTi
1−y)
2−x(SiO
4)
z(PO
4)
3−z
(0≦x≦0.8、0≦y<1、0≦z≦0.5、元素Dは3価のアルミニウムAl、ガリウムGaの少なくとも一種から選ばれる、元素Eは4価のゲルマニウムGe、ジルコニウムZrの少なくとも一種から選ばれる)
【0013】
このベースの固体電解質層に遷移金属を添加すると、正極活物質層との反応を著しく抑制できるようになる。さらに固体電解質層の焼結性も向上し、低温で緻密な焼結体が得られやすくなる。例えばマンガンMn系で言えば、LATP1molに対して0.2molの添加により、850℃での焼成で理論密度に対して97%以上の緻密化が可能である。添加しない場合の850℃焼成では理論密度に対して85%程度である。マンガンMnやコバルトCo等の遷移金属の出発原料を前記LATPの合成段階で添加してもよいが、合成後LATPのグリーンシートを塗工する際のスラリー作製の配合時に添加してもよい。また、添加量を考慮して他の構成元素の割合を全体で化学量論組成としてもよいが、化学量論組成のLATPに遷移金属を追加で添加すると良い。何故なら添加した遷移金属の一部はLATPに固溶するが、一部は固溶せずに粒子状のLiMPO
4が析出する。過剰の遷移元素Mが固溶出来ないためであり、このように正極活物質層を構成するLiMPO
4と同一の化合物が析出するような条件が、正極活物質層からの元素拡散反応抑制において最良の形態となる。言い換えると、遷移元素Mが固溶しているLATP(M−LATP)だけでは正極活物質層からの元素拡散反応を高度に抑制することはできない。添加量はLiMPO
4が析出し始める量が下限となり、二次相が増大し、NASICON構造が著しく低下し始める量が上限となる。具体的にはLATP1molに対して遷移金属Mが0.05mol以上0.40mol以下が望ましい。より望ましくは0.10mol以上、0.30mol以下である。
【0014】
負極層を形成するやり方としては、集電極層に負極活物質層を形成するやり方、または、集電極層のみを形成させるやり方がある。
前者は、集電極層を構成する部材としてニッケルNi、銅Cu、パラジウムPd、金Au、銀Ag、アルミニウムAl、鉄Feなどの金属やこれらの合金あるいはカーボンCがあげられ、負極活物質層を構成する部材として、Li
4Ti
5O
12やTiO
2、Li
3Fe
2(PO
4)
3やLiFeP
2O
7があげられる。負極活物質層はLi
4Ti
5O
12やTiO
2のような酸化物系も適用可能であるが、高温での熱処理において固体電解質層との反応が懸念されるため、固体電解質層と同様のリン酸塩系が望ましい。Li
3Fe
2(PO
4)
3やLiFeP
2O
7が使用可能であるが、Fe系の化合物では動作電位が3V(vsLi/Li
+)付近と高く、電池として取り出せる電圧がやや小さくなる。一方、LiTi
2(PO
4)
3やLATPのようにTiを含むものを用いた場合、約2.5V(vsLi/Li
+)での動作が可能である。
また、後者では、すなわち最良の形態は、固体電解質層をLATP系とし、別途負極活物質層を形成させないで、負極集電体のみを形成させることである。このような形態では、固体電解質層のうち、負極集電体近傍の固体電解質が負極活物質として動作する。一般的にLiTi
2(PO
4)
3やLATPのようなTiを含むNASICON型リン酸塩を用いた場合、約2.5V(vsLi/Li
+)での動作が可能である。
この場合、集電極層を構成する部材として、ニッケルNi、銅Cu、パラジウムPd、金Au、銀Ag、アルミニウムAl、鉄Feなどの金属やこれらの合金あるいはカーボンCがあげられる。
【0015】
<全固体二次電池の形態>
次に全固体二次電池の最良の形態について説明する。固体電解質層や正極活物質層(存在する場合は、負極活物質層)を極力薄くして多積層することが、抵抗低減やエネルギー密度向上につながるため、薄膜を作製する手法が望ましいといえる。またエネルギーデバイス全般に対して、低コスト化が訴求されるため、安価なプロセスであることが重要である。以上のことから、安価で薄膜を作製できるプロセスとしては、積層プロセスを用いることにより、安価で大量に製造できるという点で最良と考える。
図24は、全固体二次電池の積層型構造を示す。
図24(a)は、積層型構造の全固体二次電池の外観斜視図である。
図24(a)に示すように、大きさとしては、例えば縦横高さがそれぞれ数mmの直方体形状をしている。
図24(b)は、
図24(a)のB−B’断面を描いた断面図である。集電極21、正極活物質層20、固体電解質層10、負極活物質層30、集電極31の順で並んだ全固体二次電池が、多数積層されている。外部電極50、50にそれぞれの集電極が接続されることにより、複数の全固体二次電池が並列接続されて容量を増している。
図24では、略直方体形状の全固体二次電池を示したが、円板型(コイン電池型)の全固体二次電池を積層型構造で形成することもできる。
【0016】
<全固体二次電池の製造プロセス>
図25は、全固体二次電池の製造プロセスを示す流れ図である。ステップ1は、固体電解質層、集電極、正極活物質層、(必要な場合は、負極活物質層)を構成する組成物をそれぞれ合成する工程である。ステップ2は、合成したそれぞれの組成物をスラリー化する工程である。スラリー化では、バインダー、有機溶剤、可塑剤と混合して液状化する。
ステップ3は、塗工印刷の工程である。例えば、固定電解質層が15μmの厚み、正(負)極活物質層5μm、集電極5μmの厚みで印刷する。ステップ4は、塗工印刷により印刷されたシートを積層する工程である。例えば20層のシートを積層する。ステップ5は、積層シートを圧着する工程であり、例えば40MPa(メガパスカル)の圧力をかけて圧着する。ステップ6は、切断工程である。例えば25×15mmの寸法で切断する。ステップ7は、焼成工程である。例えば800℃、180分間で焼成する。ステップ8は、外部電極形成工程である。例えば、樹脂と銀Agとを含むペーストを塗布して150℃乾燥する。
【0017】
もう少し詳しく説明すると、ステップ3の塗工印刷は、まず固体電解質の塗工用スラリーを作製して種々の塗工方式を用いてグリーンシートを作製する工程、グリーンシート上に正極あるいは負極活物質を種々の印刷方式によりパターン印刷する工程からなる。そして、ステップ4の積層工程は、正極印刷グリーンシートと負極印刷グリーンシートを交互に積層する工程からなる。さらにステップ6の切断工程は、積層したグリーンシートを各チップ単位に切断する工程である。ステップ7の焼成工程は、熱処理を施す工程である。
【0018】
まずグリーンシート作製を具体的に説明する。固体電解質を予め合成し、必要に応じて適切な粒度に調製しておく。この固体電解質をバインダー、分散剤、可塑剤等とともに水あるいは有機溶剤に均一分散させることでスラリーを作製する。スラリーの作製方法はポットミル、ビーズミル、湿式ジェットミル、各種混練機、高圧ホモジナイザーなどが適用可能であるが、適切な粒度分布に調整する工程と分散工程を同時に行うことができるビーズミルがより好適である。作製したスラリーを所望のシート厚に塗工する。塗工方式は特に限定はされず、スロットダイ方式、リバースコート方式、グラビアコート方式、バーコート方式、ドクターブレード方式など従来公知の塗工方式が適用可能である。
【0019】
次に、集電体層および活物質層の塗布形成について説明する。集電体層を構成する部材はニッケルNi、銅Cu、パラジウムPd、金Au、銀Ag、アルミニウムAl、鉄Feなどの金属やこれらの合金あるいはカーボンCが適用可能である。集電体層および活物質層を形成するためにそれぞれ適宜ペースト化する。特に指定は無いが、固体電解質グリーンシート上や、集電体層あるいは活物質層印刷部上に印刷するため、下部材質がペースト内の溶剤による下部シートあるいは活物質等電極材印刷部への浸透で構造劣化を伴わないことが望ましい。ペーストを作製する場合の混練手法はビーズミル、遊星型ペースト混練機、自動擂潰機、三本ロールミル、ハイシェアミキサー、プラネタリーミキサーなど従来公知の混練方法を適用できる。調整したペーストを所望の形状パターンで印刷する。まずグリーンシート上に正極(あるいは負極)活物質ペーストを印刷し、その上に集電体ペーストを印刷し、その上に再度正極(あるいは負極)活物質ペーストを印刷する。積層印刷したものを正極(あるいは負極)ユニットとする。パターン印刷方法は特に限定はされないが、スクリーン印刷法、凹版印刷法、凸版印刷法などを適用できる。薄層かつ高積層の積層デバイスを作製するにはスクリーン印刷がもっとも一般的と考えられるが、ごく微細な電極パターンや特殊形状が必要な場合はインクジェット印刷を適用する方が好適な場合もある。正極ユニットと負極ユニットを作製後、それぞれ少しずらした位置で交互に積層していく。
【0020】
次に、積層、切断、外部電極形成を行う。パターン印刷を施したグリーンシートを積層後、各種手法で圧着し、チップ状にカットする。積層部の上下にはグリーンシートを多層に積層させたカバー層を設けることができる。カバー層には固体電解質も絶縁材も適用可能である。必要に応じて外部電極を形成させた後に熱処理を行うこともできるし、熱処理を施した後に外部電極を形成することもできる。必要に応じて、外装や実装に適したリードフレームを形成することもできる。多くの場合、全固体二次電池は有極性であるため、外部電極や外装、リードフレーム等の形状にて正負極を視認できるようにすると良い。またカバー層の一部に正負極が認識できるパターンを印刷したグリーンシートを用いることもできる。この場合、パターン形成したグリーンシートは最外層への配置ではなく、数μm〜数十μm内側の層への配置とすると、剥がれやショートの懸念が無く好ましく、パターンには集電体と同様のペーストを用いることができる。
【0021】
熱処理は集電体を構成する材料が酸化性雰囲気での熱処理に適さない場合は、非酸化性雰囲気下で行う。本発明では700℃〜1000℃が温度範囲として望ましい。より望ましくは750℃〜950℃、最も望ましくは800℃〜900℃である。最高温度での保持時間は10min〜10hrで行うことが望ましく、より望ましくは30min〜5hr、さらに望ましくは1hr〜3hrである。短時間の保持だと構造体の内部と外側での焼成ムラを生じるために好ましくなく、保持時間が長すぎると生産性が悪くなりプロセスコストが嵩んでしまう。なお、最高温度に達するまでにバインダーを十分に除去するために酸化性雰囲気において最高温度より低い温度で保持する工程を設けてもよい。最高温度の下限は一般的に固体電解質層および集電体などの焼結緻密化温度によって規定される。固体電解質層および集電体の焼結による緻密化はデバイスの特性を決定的に支配する因子であるため、これらの緻密化が起こる最低温度が焼成の最高温度の下限となる。一方、最高温度の上限は固体電解質層の集電体の融解や分解の温度で規定される場合と活物質層の高温化での物質移動や化学反応等に伴う特性劣化で規定される場合がある。またできるだけプロセスコストを低減するためにはできるだけ低温で焼成することが望ましいためコスト面でも規定される場合がある。
【0022】
熱処理後の全固体二次電池は再酸化処理を施してもよい。
【0023】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0024】
《拡散のメカニズムの特定》
本発明者らは上述の課題を解決するに先立って、LiMPO
4中の遷移金属Mがリン酸塩系固体電解質層へと拡散するメカニズムについて調べた。そして、そのメカニズムがリチウムLiの拡散、Li−P−O系液相の形成、液相中への遷移金属Mの溶出という順に起こることを明らかにした(比較例1、3、4)。
まず、拡散のメカニズムを特定する実験のうちの一つである比較例1について述べる。
[比較例1]
比較例1は、遷移金属MとしてマンガンMnを用いた場合についての拡散のメカニズムを特定する実験である。
<固体電解質の調製(比較例1)>
出発原料であるLi
2CO
3、α―Al
2O
3、アナターゼ型TiO
2、およびNH
4H
2PO
4を酸化物モル換算で0.65LiO/0.15Al
2O
3/1.7TiO
2/1.5P
2O
5という比率で混合後、大気中、850℃で仮焼することで固相反応させ、得られた粉体を湿式ビーズミルで粉砕してレーザー回折径でD50=1μmになるように調整し、固体電解質LATP(Li
1+xAl
xTi
2−x(PO
4)
3)とした。得られた粉体を粉末XRD法で評価したところ、NASICON型の結晶構造に帰属される回折ピークが観察され、単相であることを確認した。
【0025】
<正極活物質の調製(比較例1)>
出発原料であるLi
2CO
3、MnCO
3およびNH
4H
2PO
4を酸化物モル換算で0.5Li
2O/1.0MnCO
3/0.5P
2O
5という比率で混合後、大気中、850℃で仮焼することで固相反応させ、得られた粉体を湿式ビーズミルで粉砕してレーザー回折径でD50=1μmになるように調整し、正極活物質とした。得られた粉体を粉末XRD法で評価したところ、オリビン型の結晶構造に帰属される回折ピークが観察され、単相であることを確認した。
【0026】
<活物質と固体電解質の反応性評価1 混合焼成(比較例1)>
作製した固体電解質と正極活物質を10gずつ測りとり、エタノール分散媒100g、φ1.5mmのジルコニア製粉砕メディアを200g加えて、遊星型ボールミルにて400rpmで5分間撹拌混合処理を施した。処理後、粉砕メディアとスラリーを分離した後、分散媒を加熱除去し、自動擂潰機で解砕することで混合粉を得た。この混合粉を、バインダー等を添加することなくφ10mmの金型に0.2g入れて、手で押す程度の弱い力で圧粉するという手法で円板を6つ作製した。この混合粉円板を大気中500℃、550℃、600℃、650℃、700℃および750℃で焼成した。
焼成後のXRD(X線回折)結果を
図7に示す。焼結体にMn
2P
2O
7(以下、「MP」と呼ぶ)が含まれることが確認され、またMP/LMP比推移を
図9(―●―)にそれぞれ示す。650℃でのMP/LMP比は24.2%であった。この結果から、650℃までにLiMnPO
4から固体電解質側へのLi拡散が起こったと考えられた。
【0027】
<正極活物質と固体電解質との反応性評価2 界面評価用焼結体実験(比較例1)>
作製した固体電解質とLiMnPO
4に対して、それぞれPVAバインダーを用いて造粒処理を施し、固体電解質層/LiMnPO
4層/固体電解質層となるように、それぞれ平坦に均しながら順次φ10mmの金型に入れ、2MPaで加圧成型して積層圧粉体を得た。このときの固体電解質層は各々約0.5mm厚、LiMnPO
4層は約0.25mm厚とした。積層圧粉体を大気中850℃で焼成し、固体電解質層とLiMnPO
4層との焼結体(界面評価用焼結体)を得た。
この焼結体の切断面(「焼結体の中心部を通り、界面に対して垂直方向に切断した面」をいう。以下、走査型顕微鏡の観察を行う切断面について同じ。)を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図16(a)に、Mn元素マッピング像を
図16(b)にそれぞれ示す。この結果、固体電解質粒子間にMn化合物が多く存在している様子が観察され、LiMnPO
4層から固体電解質層へのマンガンMnの拡散が認められた。MP/LMP比が650℃より高温で再び低下していく傾向であることを考慮すると、この拡散は500〜650℃でリチウムLiがLiMnPO
4から固体電解質層側に拡散し、LiMnPO
4層と固体電解質層の境界にMn
2P
2O
7が形成され、さらにより高温になると、Mn
2P
2O
7からMnが固体電解質層側に拡散するものと考えられた。
【0028】
<固体電解質焼結体の電気特性評価(比較例1)>
調整した固体電解質LATPを用いて、次の方法でグリーンシートを作製した。LATP、ポリビニルブチラール系バインダー、可塑剤、トルエン、エタノールをφ1.5mmの粉砕メディアと共に遊星ボールミルの容器に封入し、400rpmで30分間撹拌処理を行った。処理後のスラリーを粉砕メディアと分離した後、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの離型処理が施された面にドクターブレード法で塗工し、50℃のホットプレート上で溶媒を乾燥させることにより、15μm厚のグリーンシートを得た。このグリーンシートをPETフィルムから剥離して、10枚分重ねてPETフィルムに挟みながらロールプレス機にて50kgf、80℃にて仮圧着を行った。仮圧着した積層シートをφ17mmに打ち抜き、10層円板を得た。この10層円板を4つ、φ17mmのプレス金型に入れて、油圧プレス機にて10MPaで圧着して40層円板を得た。このφ17mmの40層円板の中心部分をφ14mmに打ち抜き、再度油圧プレス機にて5MPaで圧着して積層円板とした。この積層円板を大気中850℃で焼成して固体電解質焼結体を得た。この焼結体の大きさは直径約11mm×厚み約400μmであった。得られた焼結体の両面にAu電極をスパッタリング形成した後、電気化学特性を交流インピーダンス解析にて行った。測定は25℃恒温槽内において0.1Hz〜500kHzの範囲で行った。
この手法で、電気化学特性を評価した結果、総合イオン伝導率は2.1×10
−4S/cmであった。
【0029】
次に、比較例3(遷移金属MとしてコバルトCoを用いた場合)について述べる。
[比較例3]
比較例1と同様に固体電解質LATPを調製した。また、正極活物質の調整において、遷移金属源を炭酸マンガンMnCO
3から酢酸コバルト(CH
3COO)
2Coへと変更してLiCoPO
4を合成した。それ以外の条件は比較例1と同様に正極活物質を調製した。
<正極活物質層と固体電解質層との反応性評価2 界面評価用焼結体実験(比較例3)>
比較例1と同様の手法で界面評価用焼結体を得た。この焼結体の切断面を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図20に示す。この結果、比較例1と同様に、固体電解質粒子間にCo化合物が多く存在している様子が観察され、LiCoPO
4層から固体電解質層へのCoの拡散が認められた。
【0030】
次に、比較例4(遷移金属MとしてニッケルNiを用いた場合)について述べる。
[比較例4]
比較例1と同様に固体電解質LATPを調整した。また、正極活物質の調整において、遷移金属源を炭酸マンガンMnCO
3から酸化ニッケルNiOに変更して仮焼温度を800℃でLiNiPO
4を合成した。それ以外の条件は比較例1と同様に正極活物質を調整した。
<正極活物質層と固体電解質層との反応性評価2 界面評価用焼結体実験(比較例4)>
実施例1と同様の手法で界面評価用焼結体を得た。この焼結体の切断面を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図21に示す。この結果、比較例1と同様に、固体電解質粒子間にNi化合物が多く存在している様子が観察され、LiNiPO
4層から固体電解質層へのニッケルNiの拡散が認められた。
【0031】
《比較例1(及び比較例3,4)の考察及びそれらから得た知見》
まず、
図7に示された混合焼成のXRD測定(X線回折測定)の結果を考察する。
図7の横軸は2θを表す角度であり、縦軸は強度である。
図7の測定結果には、X線回折における二つのピーク値が見られる。大きい方のピーク値は、2θが29.25度付近のピークであり、焼成前、500℃、550℃、600℃、650℃、700℃、750℃のいずれにも共通にみられるピークである。小さい方のピーク値は、2θが28.95度付近のピークであり、焼成前には見られず、600℃、650℃の焼成温度で強くみられ、700℃、750℃の焼成温度では弱くなるピークである。
ここで、29.25度付近のピークは、LMP(リチウム、マンガン、リンの化合物)を示す。そして、28.95度付近のピークは、MP(マンガンとリンとを含む化合物:Mn
2P
2O
7)を示す。
図7のグラフから読み取れることは、第一に、低温の焼成でリチウムが活物質のLMPから固体電解質に移動することである。その結果、LMPからリチウムLiが移動したために、MPが出てくる。第二に、Li−P−O系液相の形成がなされ、当該液相中へのMの溶出が起こることである。その結果、700℃、750℃の焼成温度では、MPが少なくなる。
図9は、横軸に焼成温度、縦軸にMP/LMPのXRD強度比をとって黒丸(―●―)でプロットして示したグラフである。
このことから、遷移金属MがマンガンMnの場合について、LiMPO
4中の遷移金属Mがリン酸塩系固体電解質層へと拡散するメカニズムがリチウムLiの拡散、Li−P−O系液相の形成、液相中への遷移金属Mの溶出という順に起こる、という知見を得た。
【0032】
《界面評価用焼結体実験について》
上述のように、比較例1の界面評価用焼結体を得て、その切断面を走査型顕微鏡で観察した観察像(反射電子像:
図16(a))とMn元素マッピング像(
図16(b))によると、マンガンMnが正極活物質層側から固体電解質層側に拡散している様子が見られ、固体電解質層の粒界に沿って粒状に点在していると見て取れる。
また、比較例3の遷移元素がコバルトCoの場合、及び比較例4の遷移元素がニッケルNiの場合の観察像においても、同様に遷移元素が固体電解質層の側に拡散している様子が見て取れる。したがって、マンガンMnのみならず、コバルトCo、ニッケルNiの場合であっても上述の拡散のメカニズムについての知見が同様に言えるものと考えられる。
【0033】
《反応を抑制する固体電解質組成、本発明の完成》
発明者らは、上述の知見に基づいて、このような反応を抑制する最適な固体電解質組成を見出し、本発明を完成するに至った(実施例1〜10)。具体的な構成は次の通りである。
固体電解質はリン酸塩系正極活物質との同時焼成において、550−650℃で起こる活物質側からのLi拡散を抑制する材料である。
Li拡散が少ないと、ついで650−750℃で起こる遷移金属の拡散をよりよく抑制できる。
正極活物質を構成する遷移金属と同等の金属を固体電解質中に含むことで、空間を占める濃度勾配を緩和し、正極活物質層から固体電解質層側への元素拡散を広い温度域に渡って抑制できる。
すなわちそのような固体電解質は、リン酸塩系NASICON型固体電解質であって、固体電解質中のO原子12molに対して遷移金属元素であるM原子が0.05mol以上含まれているものである。なお、前述したLATP、Li
1+xAl
xTi
2−x(PO
4)
3は、xが0〜0.8ぐらいまでの値をとるときに、NASICON型構造を維持することができる。
そして、この固体電解質層を用いて全固体二次電池を作製して、電池特性評価を行い、全固体二次電池として機能することを確認した。
さらに、積層構造の全固体二次電池を作成し、動作確認を行った。
【0034】
《固体電解質に遷移金属元素Mを添加するプロセス》
LATPに遷移元素Mを添加するには、LATPを合成する際に炭酸マンガン(マンガンMnの炭酸塩)を添加して合成(仮焼成)してMn添加LATPを調整する。Mn添加LATPと、バインダーと、有機溶剤と、可塑剤とを混合しスラリー化して、PETフィルムに塗布して、グリーンシート(未焼結の膜)を形成し、正極活物質層を積層し、同時焼成(本焼成)して界面評価用焼結体の焼結体を作製することができる。
あるいは、LATPの合成の際にはマンガン添加をしないで、合成した後、スラリー化する際に、酸化マンガン(マンガンの酸化物)を添加して、塗布し、積層して、本焼成することでもよい。このとき炭酸マンガンではなくて酸化マンガンを添加するのは、本焼成の際の炭酸ガスの発生を避けるためである。
したがって、遷移金属元素Mを添加するタイミングは、本焼成の前であればよく、LATP合成の前後を問わない。なお、遷移元素MがマンガンMnの場合のみならず、コバルトCo、ニッケルNiの場合も同様である。
【0035】
《添加物の本焼成時の作用、本焼成後の状態、構造》
LATPに添加した遷移元素は、固体電解質層の全体に一様に散在する。本焼成に当たって温度上昇に伴い、添加した遷移元素は、LATPのNASICON型結晶構造を持つ結晶粒子内に固溶する。そして、固溶限界を超えた遷移元素は、二次相(粒状の析出物)となり、固体電解質層の至る所に散在する。この二次相(粒状の析出物)が形成される場所は、粒界であると考えられる。
固体電解質層に散在する二次相(粒状の析出物)は、オリビン型の結晶構造を有している(比較例1,3,4において拡散したものは、Mn
2P
2O
7であって、識別可能である)。そして、この遷移元素は、正極活物質を構成する遷移元素と同一の元素である。したがって、正極活物質層と固体電解質層との間の組成勾配を緩和する作用をする。
そして拡散防止については、第一に、添加物のうちLATPに固溶した遷移元素の存在は、正極活物質層から固体電解質層へと、リチウムLi及び遷移元素が固溶することによる拡散を抑える。第二に、添加物のうち固溶限界を超えて粒状の析出物(オリビン型の結晶構造)となった遷移元素の存在は、正極活物質層から固体電解質層へと、リチウムLi及び遷移元素が粒界に沿った拡散を抑える。第三に、固体電解質層と正極活物質層とを一体焼成することと、組成勾配の緩和とがあいまって、緻密な面接合をもたらし、正極活物質層と固体電解質層との界面付近にリチウムLi及び遷移元素Mが析出すること(好ましくない二次相の発生)をも抑える。
また、添加した遷移元素Mは、固溶しているか、あるいは粒状の析出物として散在する程度であるので、NASICON型構造によるLi
+イオンの通過(固体電解質層の本来の機能であるリチウムイオン伝導)を阻害しない。
【0036】
《析出したオリビン型結晶構造の析出物が、固体電解質層の断面において占める面積比、粒径》
本発明にかかる固体電解質層の断面における遷移元素マッピング像を二値化(デジタイズ)して、オリビン型結晶構造の析出物が固体電解質層の断面における固体電解質層に占める面積比を算出したところ、0.3%から16%の範囲が良好な範囲として得られた。
また、粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察像(反射電子像)を用いて測定したところ、10μm以下である。
粒径測定方法は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、観察したうちで最も粗大な粒子の粒子径を求める。SEM観察による粒子径の測長は次の方法で行う。測定対象の試料、ここでは上述の固体電解質層の断面を準備する。カーボンブラック粒子を分散状態で含有するアクリル樹脂でこの試料をSEM試料台に固定する。
走査型電子顕微鏡10000倍の倍率にて任意箇所の反射電子像を10枚撮影する。粒子径の計測の仕方としては、それぞれの粒子において、feret径を求める。具体的には、粒子像に外接を描いた長方形の2辺の長さと、45度傾斜させて外接させるように描いた長方形の2辺の長さの計4辺の平均値を、観察した粒子の粒子径とする。このようにして各画像で最も大きい粒子径を抽出し、10個の最大径の平均値を算出する。
【0037】
《本発明における用語、概念の定義》
本発明において、全固体二次電池とは、電解質として液体を用いず、固体電解質を用いることとした二次電池のことをいう。
固体電解質は、遷移金属Mを含有するリン酸塩系NASICON型構造の固体電解質である。ここで遷移金属Mはオリビン型正極活物質中に含まれる遷移金属Mと同一元素であり、マンガンMn、コバルトCo、ニッケルNiの群から選ばれる少なくとも一つの元素である。
リン酸塩系NASICON型構造の固体電解質は、その一般式が、AB
2(PO
4)
3と表されるものとすることができる。ここで、Aサイトは、リチウムLiが入る。Bサイトに単一で入る元素は、チタンTi、ゲルマニウムGe、ジルコニウムZrなどである。アルミニウムAlは、価数が4価ではなく、3価であるので、例えばBサイトにアルミニウムAlを0.3、チタンTiを1.7入れるとき、AサイトのリチウムLiを1.3とすることになる。それによってイオン伝導度を高くすることができる。
【0038】
リン酸塩系NASICON型構造の固体電解質の好ましい組成は、Li
1+xAl
xTi
2−x(PO
4)
3とすることができる。これを本明細書において、LATPと呼ぶ。ここで、NASICON型構造を維持するには、xの値は、0から0.8ぐらいまでである必要がある。
遷移金属Mを含有するLATPを本明細書においては、M−LATPと呼ぶ。マンガンMnを含有するものをMn−LATP、コバルトCoを含有するものをCo−LATP、ニッケルNiを含有するものをNi−LATPと表記することとする。
遷移金属Mを含有するとは、遷移金属MがNASICON型構造に固溶できる量が固溶した上で、固溶限界を超えた量が固体電解質層の全体にわたって一様に粒状の析出をして点在することを意味する。固溶しているものについては、元素の組成として表記できる可能性もあるが、固溶と析出との双方があることを表現すべく、M−LATPと表記したものである。
【0039】
NASICON型構造とは、MO
68面体(M:遷移金属)と、XO
44面体(Xは、ここではリンP)とが頂点を共有して3次元的に配列した結晶構造をいう。
オリビン系正極活物質は、LiMPO
4(M:遷移金属、ここでは、マンガンMn、コバルトCo、ニッケルNi)であり、オリビン型結晶構造を有する。
オリビン型結晶構造は、カンラン石の結晶構造であり、六方密充填酸素骨格を有する。
活物質は、電池反応の中心的役割を担い、電子を送り出し受け取る酸化/還元反応を行う物質である。
【0040】
スラリー化とは、バインダーと、有機溶剤と、可塑剤とを混合して液体化することである。
焼成は、固体電解質層と正極活物質層とを一体焼成することをいう。
焼結体は、焼成により出来上がったセラミック焼結体をいう。
拡散は、焼成の際に、熱によりリチウムLi、遷移元素Mなどが散らばり拡がることをいう。
【0041】
固溶とは、ある金属の結晶構造の中に他の原子が入り込んでも,元の結晶構造の形を保って固体状態で混じり合っている状態である。
固溶限界とは、固溶体として他の元素が入り込める限界の量をいう。
析出とは、固溶限界を越えて,元の結晶構造の固溶体(母相)の中に違う結晶構造を持つ相(析出物)が現れる現象である。
粒界とは、結晶粒同士のつなぎ目である。
相とは、組成や 物性が均一な物理的状態をいう。
二次相とは、母相の中に現れる別の相をいう。
【0042】
《M=Mnの検討》
遷移元素MがマンガンMnである場合について、まず検討する。
【0043】
《実施例1》
<固体電解質の調製>
出発原料であるLi
2CO
3、α―Al
2O
3、アナターゼ型TiO
2、MnCO
3およびNH
4H
2PO
4を酸化物モル換算で0.65LiO/0.15Al
2O
3/1.7TiO
2/0.2MnCO
3/1.5P
2O
5という比率で混合後、大気中、850℃で仮焼することで固相反応させ、得られた粉体2を湿式ビーズミルで粉砕してレーザー回折径でD50=1μmになるように調整し、固体電解質Mn−LATPとした。得られた粉体を粉末XRD法で評価したところ、NASICON型の結晶構造に帰属される回折ピークが観察され、単相であることを確認した。
【0044】
<正極活物質の調製>
出発原料であるLi
2CO
3、MnCO
3およびNH
4H
2PO
4を酸化物モル換算で0.5Li
2O/1.0MnCO
3/0.5P
2O
5という比率で混合後、大気中、850℃で仮焼することで固相反応させ、得られた粉体を湿式ビーズミルで粉砕してレーザー回折径でD50=1μmになるように調整し、正極活物質とした。得られた粉体を粉末XRD法で評価したところ、オリビン型の結晶構造に帰属される回折ピークが観察され、単相であることを確認した。
【0045】
<活物質と固体電解質の反応性評価1 混合焼成>
作製した固体電解質と正極活物質を10gずつ測りとり、エタノール分散媒100g、φ1.5mmのジルコニア製粉砕メディアを200g加えて、遊星型ボールミルにて400rpmで5分間撹拌混合処理を施した。処理後、粉砕メディアとスラリーを分離した後、分散媒を加熱除去し、自動擂潰機で解砕することで混合粉を得た。この混合粉を、バインダー等を添加することなくφ10mmの金型に0.2g入れて、手で押す程度の弱い力で圧粉するという手法で円板を6つ作製した。この円板を大気中500℃、550℃、600℃、650℃、700℃および750℃で焼成した。焼成後の円板をメノウ乳鉢で粉砕し、粉末XRDで評価した。各温度で出発物質であるLiMnPO
4およびMn−LATPの回折ピークの減少は見られなかったことからLiMPO
4からMn−LATPへの元素拡散は抑制されていることが示唆された。各温度で焼成した焼成粉のXRD(
図1)において、28.9°付近のMn
2P
2O
7に帰属される回折ピーク強度と29.3°付近のLiMnPO
4に帰属される回折ピーク強度の比率(%;以下、MP/LMP比)の推移を求めたところ
図9(―○―)のようになった。650℃でのMP/LMP比は1.3%であった。Mn
2P
2O
7はLiMnPO
4から固体電解質側にリチウムLiが拡散すると二次相として現れるが、マンガンMnをLATP添加することでLi拡散も抑制されるという結果であった。
【0046】
<活物質と固体電解質の反応性評価2 界面評価用焼結体実験>
作製した固体電解質とLiMnPO
4に対して、それぞれPVAバインダーを用いて造粒処理を施し、固体電解質層/LiMnPO
4層/固体電解質層となるように、それぞれ平坦に均しながら順次φ10mmの金型に入れ、2MPaで加圧成型して積層圧粉体を得た。このときの固体電解質層は各々約0.5mm厚、LiMnPO
4層は約0.25mm厚とした。積層圧粉体を大気中850℃で焼成し、固体電解質とLiMnPO
4の焼結体を得た。この焼結体を円板の直径に相当するカットラインで切断し、切断面を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図10(a)に示す。この結果、固体電解質層とLiMnPO
4層の間で反応の痕跡は認められなかった。そこで、EDS組成分析を行い、マンガンMnの組成マッピングを評価したところ、各元素の拡散やそれに伴う偏析は見られなかった。
図10(b)のMnマッピング像(粒状に見える部分がマンガンMn存在箇所)ではマンガンMnのLATP側(上側)への拡散は確認されていない。なお、固体電解質層にはコントラストの異なる偏析が見えるが、XRDより、粉体では確認されなかった二次相としてLiMnPO
4に帰属されるわずかなピークが確認された。焼結の過程で析出するものと思われるが、これは固体電解質単体で焼結させても確認されていることからもLiMnPO
4側からの拡散に伴う偏析ではないと考えられる。
【0047】
<固体電解質焼結体の電気特性評価>
実施例1で調整した固体電解質Mn−LATPを用いて、以下の方法でグリーンシートを作製した。Mn−LATP、ポリビニルブチラール系バインダー、可塑剤、トルエン、エタノールをφ1.5mmの粉砕メディアと共に遊星ボールミルの容器に封入し、400rpmで30分間撹拌処理を行った。処理後のスラリーを粉砕メディアと分離した後、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの離型処理が施された面にドクターブレード法で塗工し、50℃のホットプレート上で溶媒を乾燥させることにより、15μm厚のグリーンシートを得た。このグリーンシートをPETフィルムから剥離して、10枚分重ねてPETフィルムに挟みながらロールプレス機にて50kgf、80℃にて仮圧着を行った。仮圧着した積層シートをφ17mmに打ち抜き、10層円板を得た。この10層円板を4つ、φ17mmのプレス金型に入れて、油圧プレス機にて10MPaで圧着して40層円板を得た。このφ17mmの40層円板の中心部分をφ14mmに打ち抜き、再度油圧プレス機にて5MPaで圧着して積層円板とした。この積層円板を大気中850℃で焼成して固体電解質焼結体を得た。この焼結体の大きさは直径約11mm×厚み約400μmであった。得られた焼結体の両面にAu電極をスパッタリング形成した後、電気化学特性を交流インピーダンス解析にて行った。測定は25℃恒温槽内において0.1Hz〜500kHzの範囲で行った。総合イオン伝導率は5.0×10
−4S/cmであった。
【0048】
《実施例2》
固体電解質の調整において、添加する炭酸マンガンMnCO
3のモル数を0.2から0.15に変更したこと以外は実施例1と同様に実験を行った。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価1 混合焼成>
実施例1と同様の手法で混合粉円板を作製し、焼成した。焼成後のXRD結果を
図2に、またMP/LMP比推移を
図9(―△―)にそれぞれ示す。650℃でのMP/LMP比は4.5%であった。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価2 界面評価用焼結体実験>
実施例1と同様の手法で界面評価用焼結体を得た。この焼結体の切断面を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図11に示す。この結果、固体電解質層とLiMnPO
4層の間で反応の痕跡は認められなかった。
<固体電解質焼結体の電気特性評価>
実施例1と同様の手法で電気化学特性を評価した結果、総合イオン伝導率は3.9×10
−4S/cmであった。
【0049】
《実施例3》
固体電解質の調整において、添加する炭酸マンガンMnCO
3のモル数を0.2から0.1に変更したこと以外は実施例1と同様に実験を行った。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価1 混合焼成>
実施例1と同様の手法で混合粉円板を作製し、焼成した。焼成後のXRD結果を
図3に、またMP/LMP比推移を
図9(―□―)にそれぞれ示す。650℃でのMP/LMP比は4.5%であった。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価2 界面評価用焼結体実験>
実施例1と同様の手法で界面評価用焼結体を得た。この焼結体の切断面を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図12に示す。この結果、固体電解質層とLiMnPO
4層の間で反応の痕跡は認められなかった。
<固体電解質焼結体の電気特性評価>
実施例1と同様の手法で電気化学特性を評価した結果、総合イオン伝導率は3.1×10
−4S/cmであった。
【0050】
《実施例4》
固体電解質の調整において、添加する炭酸マンガンMnCO
3のモル数を0.2から0.05に変更したこと以外は実施例1と同様に実験を行った。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価1 混合焼成>
実施例1と同様の手法で混合粉円板を作製し、焼成した。焼成後のXRD結果を
図4に、またMP/LMP比推移を
図9(―◇―)にそれぞれ示す。650℃でのMP/LMP比は8.7%であった。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価2 界面評価用焼結体実験>
実施例1と同様の手法で界面評価用焼結体を得た。この焼結体の切断面を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図13に示す。この結果、固体電解質層とLiMnPO
4層の間で反応の痕跡は認められなかった。
<固体電解質焼結体の電気特性評価>
実施例1と同様の手法で電気化学特性を評価した結果、総合イオン伝導率は2.3×10
−4S/cmであった。
【0051】
《実施例5》
固体電解質の調整において、添加する炭酸マンガンMnCO
3のモル数を0.2から0.25に変更したこと以外は実施例1と同様に実験を行った。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価1 混合焼成>
実施例1と同様の手法で混合粉円板を作製し、焼成した。焼成後のXRD結果を
図5に、またMP/LMP比推移を
図9(―▽―)にそれぞれ示す。650℃でのMP/LMP比は1.4%であった。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価2 界面評価用焼結体実験>
実施例1と同様の手法で界面評価用焼結体を得た。この焼結体の切断面を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図14に示す。この結果、固体電解質層とLiMnPO4層の間で反応の痕跡は認められなかったが、実施例1よりも固体電解質層中のLiMnPO
4偏析の数が増加していた。
<固体電解質焼結体の電気特性評価>
実施例1と同様の手法で電気化学特性を評価した結果、総合イオン伝導率は3.4×10−4S/cmであった。
【0052】
《実施例6》
固体電解質の調整において、添加するMnCO
3のモル数を0.2から0.3に変更したこと以外は実施例1と同様に実験を行った。固体電解質Mn−LATPのXRDでは二次相としてLiTiPO
5およびLiMnPO
4に帰属される回折ピークが認められた。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価1 混合焼成>
実施例1と同様の手法で混合粉円板を作製し、焼成した。焼成後のXRD結果を
図6に、またMP/LMP比推移を
図9(―△―)にそれぞれ示す。650℃でのMP/LMP比は0.0%であった。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価2 界面評価用焼結体実験>
実施例1と同様の手法で界面評価用焼結体を得た。この焼結体の切断面を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図15に示す。この結果、固体電解質層とLiMnPO
4層の間で反応の痕跡は認められなかったが、実施例5よりも固体電解質中のLiMnPO
4偏析の数が増加していた。
<固体電解質焼結体の電気特性評価>
実施例1と同様の手法で電気化学特性を評価した結果、総合イオン伝導率は1.8×10
−4S/cmであった。
以上のように、LiMnPO
4とLATPの反応は抑制されていたが、イオン伝導率の若干の低下が見られ、これは不純物量の増加、LiMnPO
4偏析の増大および焼結性の低下が要因と考えられた。
【0053】
《比較例1,3,4及び比較例2について》
比較例1,3,4については、既に言及したが、発明に至る知見として「拡散のメカニズムの特定」をするための実験の位置付けであった。
ここでは、実施例に対する比較データを示す意味を、比較例1、3、4が有していることを確認する。比較例1については、すでに触れたので繰り返さない。しかし、もう一つの比較例である比較例2については、初出であるので、改めて説明する。
【0054】
《比較例2》
固体電解質の調整において、炭酸マンガンMnCO
3のモル数を0.2から0.03に変化させたこと以外は実施例1と同様に実験を行った。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価1 混合焼成>
実施例1と同様の手法で混合粉円板を作製し、焼成した。焼成後のXRD結果を
図8に、またMP/LMP比推移を
図9(―■―)にそれぞれ示す。650℃でのMP/LMP比は33.0%であった。この結果から、650℃までにLiMnPO
4層から固体電解質側へのLi拡散が起こったと考えられ、Mnの添加効果はないと判断できた。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価2 界面評価用焼結体実験>
実施例1と同様の手法で界面評価用焼結体を得た。この焼結体の切断面を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図17に示す。この結果、比較例1と同様に、固体電解質粒子間にMn化合物が多く存在している様子が観察され、LiMnPO
4層から固体電解質層へのMnの拡散が認められた。
<固体電解質焼結体の電気特性評価>
実施例1と同様の手法で電気化学特性を評価した結果、総合イオン伝導率は2.1×10
−4S/cmであった。
【0055】
《マンガンMn添加量と点在オリビンの面積比率》
実施例1〜6に基づいて、それぞれ得られた焼結体の切断面(焼結体の中心部分を通り、正極活物質層と固体電解質層との界面に対して垂直に切断した面)の走査顕微鏡の元素マッピング像を二値化(コンピュータによりデジタイズ)して、点在オリビン(オリビン型結晶構造の析出物)の面積を測定し、固体電解質層に占める面積比を算出した。その結果をプロットしたグラフが
図23である。また、実施例1〜8と比較例1〜4との結果を表にまとめたのが
図22である。
図23に示すように、Mn添加量に対して、点在オリビンの面積比は、単調増加する傾向がみられる。そして、界面評価用焼結体実験により良好化界面状態が得られたMn添加量の範囲は、0.05〜0.3molであり、それに対応するオリビンの面積比は、0.3〜16%である。
また、電気特性(総合イオン伝導率)を含めた評価を行えば、好ましいMn添加量の範囲は、0.1〜0.25molであり、それに対するオリビンの面積比は、0.6〜10%である。
なお、
図10から
図21まで(うち
図10(b)と
図16(b)のみがMnマッピング像)に走査顕微鏡の観察像を示した。いずれも横を貫いて延びる線(直線に近い曲線)は、固体電解質層と正極活物質層との間の界面を示している。当該界面よりも上の部分が固体電解質層であり、下の部分が正極活物質層である。観察像の中に描かれた粒状のものは実施例においては、オリビン型結晶構造を有する析出物であり、比較例にあっては、Mn
2PO
7の析出物を示している。
【0056】
《M=Co、Niの検討》
次に、遷移元素MをマンガンMnではなく、コバルトCo又はニッケルNiとする場合について、実施例7,8及び比較例3,4において検討する。
【0057】
《実施例7》
固体電解質の調整において、遷移金属のモル数は変えずに、MnCO
3を(CH
3COO)
2Coに変更したこと以外は実施例1と同様に固体電解質Co−LATPを調製した。また、正極活物質の調整において、遷移金属源をMnCO
3から(CH
3COO)
2Coに置き換えてLiCoPO
4を合成したこと以外は実施例1と同様に正極活物質を調製した。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価2 界面評価用焼結体実験>
固体電解質Co−LATPと活物質LiCoPO
4を用いたこと以外、実施例1と同様の手法で界面評価用焼結体を得た。この焼結体の切断面を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図18に示す。この結果、固体電解質層とLiCoPO
4層の間で反応の痕跡は認められなかった。
<固体電解質焼結体の電気特性評価>
実施例1と同様の手法で電気化学特性を評価した結果、総合イオン伝導率は5.2×10
−4S/cmであった。
【0058】
《実施例8》
固体電解質の調整において、遷移金属のモル数は変化させずに、MnCO
3をNiOに変化させたこと以外は実施例1と同様に固体電解質を調製した。また、正極活物質の調整において、遷移金属源をMnCO
3からNiOに変化させて仮焼温度を800℃でLiNiPO
4を合成したこと以外は実施例1と同様に正極活物質を調製した。
<正極活物質と固体電解質の反応性評価2 界面評価用焼結体実験>
固体電解質Ni−LATPと活物質LiNiPO
4を用いたこと以外、実施例1と同様の手法で界面評価用焼結体を得た。この焼結体の切断面を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図19に示す。この結果、固体電解質層とLiCoPO
4層の間で反応の痕跡は認められなかった。
<固体電解質焼結体の電気特性評価>
実施例1と同様の手法で電気化学特性を評価した結果、総合イオン伝導率は2.4×10
−4S/cmであった。実施例1、実施例7よりも総合イオン伝導率が低い要因としては、電子顕微鏡像からLiNiPO
4は850℃焼成では若干焼結性が低かったことが推察された。
【0059】
《比較例3》
固体電解質の調整において、酢酸コバルト(CH
3COO)
2Coを使用しなかったこと以外は実施例7と同様に実験を行った。
<活物質と固体電解質の反応性評価2 界面評価用焼結体実験>
実施例1と同様の手法で界面評価用焼結体を得た。この焼結体の切断面を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図20に示す。この結果、比較例1と同様に、固体電解質粒子間にCo化合物が多く存在している様子が観察され、LiCoPO
4層から固体電解質層へのコバルトCoの拡散が認められた。
【0060】
《比較例4》
固体電解質の調整において、酸化ニッケルNiOを使用しなかったこと以外は実施例8と同様に実験を行った。
<活物質と固体電解質の反応性評価2 界面評価用焼結体実験>
実施例1と同様の手法で界面評価用焼結体を得た。この焼結体の切断面を走査型顕微鏡で観察した。観察像(反射電子像)を
図21に示す。この結果、比較例1と同様に、固体電解質粒子間にNi化合物が多く存在している様子が観察され、LiNiPO
4層から固体電解質層へのニッケルNiの拡散が認められた。
【0061】
《実施例9》
<円板型全固体二次電池の作製と電池特性評価>
(1) 金属リチウム負極使用ハーフセルの検討
実施例7で作製した、正極活物質LiCoPO
4と固体電解質Co−LATPを用い、負極に金属リチウムを用いた円板型全固体二次電池を作製した。<固体電解質焼結体の電気特性評価>の手法と同様の手法でグリーンシートの積層体を作製する際、円板の最上面には、LiCoPO
4とCo−LATPとパラジウムPdのコンポジットペーストをスクリーン印刷し、ついでその上にPdペーストをスクリーン印刷したグリーンシートを用いた。このように作製した円板を大気中850℃で焼成することにより、正極層形成焼結円板を作製した。焼成後の円板の直径は約12mm、厚みは約400μm、断面観察による厚み測定では正極活物質層の厚みは約2μmであった。
得られた円板の最下面にポリエチレンオキシドとLiTFSIからなるポリマー電解質を形成し、Ar雰囲気のグローブボックス中で金属リチウム箔を最下面に貼り付けた後、2032型のコインセルに封入した。このコインセルの電気化学測定を実施した。
【0062】
まず80℃において掃引速度0.2mV/secにて4V−5Vでのサイクリックボルタンメトリー(以下、「CV測定」と称する)を行った。
図26に測定結果のサイクリックボルタモグラムを示す。初回4.8−3.9V付近にLi脱離に伴う2本のピークが観察され、その後4.7V付近にLi挿入に伴うピークが認められた。このことから、正極活物質LiCoPO
4が動作しているものと判断できる。初回は大きな不可逆容量が観察された。2サイクル目、3サイクル目はほぼ同様の曲線を描き、クーロン効率も向上していた。CV測定から充放電容量を算出したところ、初回の充電・放電容量はそれぞれ25.4μAh、10μAh、2回目はそれぞれ10μAh、7.3μAh、3回目はそれぞれ9.6μAh、7.2μAhであった。
続いて80℃にて充放電測定を行った。充電は20μA定電流で行い、終了電圧を5Vとした。放電は4μA定電流で行い、終了電圧を4Vとした。
図27に測定結果の充放電曲線を示す。測定は15サイクルまで行った。15サイクルまで容量低下は見られず約9μAhの放電容量を示した。以上より、正極活物質層にLiCoPO
4、固体電解質層にCo−LATP、負極活物質層に金属リチウムを用いると、4.8V級の全固体電池が作製可能であることが示された。
【0063】
(2) Co−LATPを負極活物質に適用し(負極活物質を新たに設けない)全固体二次電池
実施例7で作製した、正極活物質LiCoPO
4と固体電解質Co−LATPを用いて、円板型全固体二次電池を作製した。<固体電解質焼結体の電気特性評価>の手法と同様の手法でグリーンシートの積層体を作製する際、円板の最上面には、LiCoPO4とCo−LATPとPdのコンポジットペーストをスクリーン印刷し、ついでその上にPdペーストをスクリーン印刷したグリーンシートを用いた。また最下面には、Pdペーストをスクリーン印刷したグリーンシートを用いた。このように作製した円板を大気中850℃で焼成することにより、円板型全固体二次電池を作製した。焼成後の円板の直径は約12mm、厚みは約400μm、断面観察による厚み測定では正極活物質層の厚みは約2μmであった。
得られた円板型全固体二次電池をAr雰囲気のグローブボックス中で2032型のコインセルに封入した後、電気化学測定を実施した。
【0064】
室温でのCV測定では
図28に示すように2.5V、2.9V付近でLi脱離ピーク、2.4V、2.1V付近でLi挿入ピークが観察された。また80℃でのCV測定では、
図29に示すように2.5V付近のLi脱離ピーク、2.1V付近のLi挿入ピークがより明瞭になり、正極活物質LiCoPO
4(4.8V vs Li/Li
+)と負極活物質Co−LATP(2.5V vs Li/Li
+)の酸化還元電位から推定される2.3Vでの動作が起こっていると思われた。続いて充放電試験を行った。室温での測定では充電20μA、終止電圧3V、放電4μA、終止電圧1.5Vとし、4サイクルまで行った。充放電曲線は
図30に示すように3〜4μAと容量は小さいが室温でも動作するという結果であった。また80℃では室温と同様の電流値での試験で、充電時の終止電圧を2.5Vとした。充放電曲線は
図31に示すように、より応答の良好な結果となっており、放電容量も12μAhと増加していた。以上より、正極活物質にLiCoPO
4、固体電解質兼負極活物質にCo−LATPを用いると、2.3V級の全固体電池が作製可能であることが示された。
【0065】
《実施例10》
<積層チップ型全固体二次電池の作製と電池特性評価>
正極活物質にLiCoPO
4、固体電解質兼負極活物質にCo−LATPを用いた積層型全固体二次電池を作製した。実施例7で作製したグリーンシートに実施例9で使用したLiCoPO
4とCo−LATPとパラジウムPdのコンポジットペーストをパターン印刷し、その上に同様のパターンでPdペーストをパターン印刷、再度、コンポジットペーストをパターン印刷するという方法で正極ユニットグリーンシートを作製した。また、Pdペーストを正極ユニットと位置を少しずらしたパターンCo−LATPグリーンシート上にパターン印刷して負極ユニットグリーンシートを作製した。これらを複数枚作製し、正極ユニットグリーンシートと負極ユニットグリーンシートを交互に積層していき、集電体層/負極活物質層/固体電解質層/正極活物質層/集電体層というセルが30セルとなるように積層した。このとき印刷を施していないグリーンシートを各セルの正負極間に2枚追加して、正負極間の固体電解質層がグリーンシート3枚分となるようにした。セル積層部の上下にそれぞれ印刷をしていないグリーンシート15層の積層体をカバー層として形成させた。このようにして作製した積層体を静水圧プレス機で130℃・42MPaで圧着した後、正極と負極が左右に引き出されるように積層体をチップ状にカットした。このチップを大気中850℃で焼成し、樹脂銀ペーストを外部電極として形成して150℃で乾燥させ、積層チップ型全固体二次電池とした。このチップの外形寸法を測定したところ、縦、横がいずれも5mmであり、厚さが1.1mmであった。
【0066】
作製した積層チップ型全固体二次電池の電池特性を評価した。室温にて充放電試験を行った。充電5μA(充電時間4hrあるいは電圧3Vで終了)、放電1μA(放電時間20hrあるいは電圧1.5Vで終了)で充放電を行ったところ、
図32に示すように放電容量は14.7μAhであった。チップの断面観察等から有効面積を算出したところ、4.1cm
2であった。これは円板の有効面積1.44cm
2に対しておよそ3倍の値であったことから、積層チップ型全固体二次電池の容量は、円板型全固体二次電池の室温での容量から計算して妥当な値だと言えた。以上より、正極活物質にLiCoPO
4、固体電解質兼負極活物質にCo−LATPを用いた2.3V級の全固体電池において、多積層化およびそれによる高容量化が可能であることが示された。
【0067】
《効果、作用》
本発明により得られた全固体二次電池は、全固体であることから発火や液漏れの危険性がない。
また高温で焼成可能であることから緻密化が進行し、高いイオン伝導性と界面での抵抗低減を両立できる。
さらに固体電解質層と正極活物質層とを同時焼成することが可能であるために固体電解質を薄層化して多積層構造とすることができる。
したがって高いエネルギー密度と出力密度を両立した全固体二次電池が得られる。
焼結助剤添加やコーティングなどの工程や部材を必要しないため、安価な製品を提供可能となる。