【文献】
J. Agric. Food Chem.,2008, 56,10142-10153
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
【0014】
(劣化臭生成抑制方法、香気劣化抑制方法)
まず、本実施形態に係る劣化臭生成抑制方法と香気劣化抑制方法について説明する。
本実施形態の劣化臭生成抑制方法は、シトラスフレーバー含有製品に対して、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩を添加することにより、前記シトラスフレーバーを含む飲料中におけるp−クレゾール、p−サイメン、p−メチルアセトフェノン、α−テルピネオールおよびテルピノレンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物の生成を抑制する、劣化臭生成抑制方法である。
【0015】
また、本実施形態の香気劣化抑制方法は以下に示す通りである。
シトラスフレーバー含有製品に対して、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩を添加することを特徴とする、香気劣化抑制方法。
【0016】
すなわち、本実施形態に係る劣化臭生成抑制方法および香気劣化抑制方法は、シトラスフレーバー含有製品に対して、特定の構造を備えるジカルボン酸又はその金属塩を添加するものであり、これによって、シトラスフレーバーに対して加熱や長期保存を行った際に生じる特定の化合物の生成を抑制することができ、結果として、香気の劣化を抑制することができる。
【0017】
(シトラスフレーバー含有製品)
本実施形態に係る劣化臭生成抑制方法および香気劣化抑制方法は、シトラスフレーバーを含ませることが慣用的になされている製品であれば、いずれの製品であっても適用することができる。
このような製品としては、飲料をはじめ、アイスクリームや飴、ガム等の菓子類、ドレッシング等の調味料類等の食料品が挙げられる。また、食用以外では、香水や化粧品、入浴剤や、芳香剤、洗剤、洗口剤等の香粧品にも適用することができる。
このなかでも、本実施形態の方法は、製品が飲料である場合に好ましく用いられる。
【0018】
(シトラスフレーバー)
本実施形態の劣化臭生成抑制方法に係るシトラスフレーバーとしては、加熱時や保存時において、上述のp−クレゾール、p−サイメン、p−メチルアセトフェノン、α−テルピネオールおよびテルピノレンからなる群から選ばれる化合物群のうち、少なくとも一種の化合物が生成しうる成分を含むフレーバーから選ばれる。
その代表的な例としては、加熱時や保存時にp−クレゾール、p−サイメンおよびp−メチルアセトフェノンが生成しうるシトラールを含むフレーバーや、加熱時や保存時にp−クレゾール、p−サイメン、α−テルピネオールおよびテルピノレンが生成しうるリモネンを含むフレーバーが挙げられる。
【0019】
ここで、シトラスフレーバーを加熱や長期保存した場合においては、上記の化合物群として示した化合物以外にも雑多な化合物が生成するが、本発明者は飲料等を作製するにあたって、上記の五つの化合物の生成を抑制、管理することがシトラスフレーバー固有の風味等を担保する上で効果的であることを見出した。
すなわち、本実施形態に係るフレーバーとしては、上述のシトラールやリモネン以外の香気成分を含むシトラスフレーバーであっても、上記五つの成分のいずれかを生成しうるフレーバーであれば適用することができる。
【0020】
また、本実施形態において、例えばシトラスフレーバーがシトラールを含む場合は、生成しうるp−クレゾール、p−サイメンおよびp−メチルアセトフェノンの全ての化合物の生成が抑制されることが好ましく、また、シトラスフレーバーがリモネンを含む場合は、生成しうるp−クレゾール、p−サイメン、α−テルピネオールおよびテルピノレンの全ての化合物の生成が抑制されることが好ましい。これにより、製品として、シトラスフレーバー特有の香気を十分にもたせることができる。
この効果を達成するための具体的な手法としては、たとえば、製品の組成を調整することや、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸またはその金属塩の添加量を調整すること等が挙げられ、適宜スクリーニングを行うことで、上記のような効果を発現することができる。
【0021】
本実施形態において、製品全体におけるシトラスフレーバーの含有量は、設計する製品に合わせて適宜設定することができる。
このシトラスフレーバーを構成する成分のうち、p−クレゾール、p−サイメン、p−メチルアセトフェノン、α−テルピネオールおよびテルピノレンからなる群から選ばれる化合物群が生成しうる成分の含有量の下限値としては、たとえば1ppm以上であり、好ましくは3ppm以上であり、より好ましくは5ppm以上である。
また、当該成分の製品全体における含有量の上限値は、たとえば1000ppm以下であり、好ましくは500ppm以下であり、より好ましくは300ppm以下である。
また、製品全体におけるシトラスフレーバー全体の含有量は、設計する製品に合わせて適宜設定することができるが、その下限値としては、たとえば5ppm以上であり、好ましくは20ppm以上であり、より好ましくは50ppm以上である。
また、製品全体におけるシトラスフレーバー全体の含有量の上限値は、たとえば10000ppm以下であり、好ましくは5000ppm以下であり、より好ましくは3000ppm以下である。
【0022】
(分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩)
本実施形態の劣化臭生成抑制方法および香気劣化抑制方法においては、上記の化合物の生成を抑制するために、製品に対して、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩を添加することを特徴とする。
ここで、この「分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸またはその金属塩」は、ここで規定する化合物としての特徴を満足し、また、製品として添加することのできる材料の中から適宜選択すればよい。
ここで、分子内における共役二重結合が、製品中に含まれるシトラスフレーバーに対して還元作用をもたらし、加熱時や長期保存時における劣化臭の生成を効果的に抑制することができるものと考えられる。
【0023】
なお、共役二重結合は分子内のカルボキシル基から隔離された部位に複数の二重結合が備えられ、これらが共役する関係にあるものでもよいが、分子内のカルボキシル基が有するC=O二重結合に対して共役する態様が好ましい。
また、共役二重結合に寄与する二重結合は炭素−炭素二重結合に限られるものではなく、炭素原子とヘテロ原子との二重結合であってもよい。また、例えば芳香族化合物のように二重結合を介して環を構成していてもよい。
ここで、共役に寄与する原子数が増えることにより、劣化臭生成抑制の効果はより顕著となり、より具体的には、分子の有する二つのカルボン酸が分子内に備えられる二重結合によって、共役する関係にあることが好ましい。
【0024】
ここで、このようなジカルボン酸又はその金属塩の例としては、フマル酸やイタコン酸又はこれらの金属塩が挙げられる。特に、入手容易性の高さや劣化臭生成抑制の効果の高さからフマル酸が好ましく用いられる。
なお、フマル酸のような分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸は、一般に食品用途における添加物として用いられており、それにより、抗酸化作用を発現させる試みがなされている。しかしながら、従来技術として、シトラスフレーバー含有製品に対して、添加を行い、上述の劣化臭をもたらす化合物の生成を抑制するという知見は見出されていなかった。
これに対し、本発明者は、鋭意検討の結果、この特定の構造を備えるジカルボン酸等を、シトラスフレーバーを含有する製品に添加することで、劣化臭の生成を抑制し、香気の劣化を抑制できることを見出した。
【0025】
ここで、先述の特許文献1〜4に記載される技術はいずれも、シトラール等の香気成分以外の第三成分を加えることで、シトラスフレーバーの劣化を抑制するものである。そのため、たとえばシトラスフレーバーを含有する飲料を作製する際に、この第三成分を加えることによって飲料の風味が左右されてしまうという点で改善する余地があった。
これに対し、上記のようなジカルボン酸は、一般に、飲料等について「酸味」を付与するために用いられる。その一方で、適用させるシトラスフレーバーも通常はレモンのようなスッキリとした香気を付与する効果をもたらすため、これらを添加する目的は相反するものではない。
そのため、たとえば飲料に適用したとしても、シトラスフレーバー固有の香気・風味を損なうことなく、劣化臭の生成を抑制することができることがいえる。また、このような観点から、飲料のみならず、シトラスフレーバーを含有する製品の開発の幅を飛躍的に拡充することができる。
【0026】
ここで、本実施形態に係る金属塩は、ジカルボン酸の備える二つのカルボキシル基のうち、片方のカルボキシル基に対するアニオンについて、対応する金属カチオンが存在するものであってもよいし、ジカルボン酸の備える双方のカルボキシル基に対するアニオンについて、対応する金属カチオンが存在するものであってもよい。
ここで、金属カチオンの例としては、1価のカチオンのものと、2価のカチオンのものが挙げられ、1価のカチオンとしてはナトリウムイオン、カリウムイオン等を採用することができる。また、2価のカチオンとしては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等を採用することができる。
【0027】
本実施形態において、上記のジカルボン酸を製品に添加するか、あるいはジカルボン酸の金属塩を製品に添加するかは、設計する製品に合わせて適宜選択すればよい。
たとえば、飲料に適用した場合、ジカルボン酸をそのまま添加した場合は、飲用した際に速やかこのジカルボン酸に由来する風味が消え、全体としてキレのある風味となる傾向があり、また、ジカルボン酸の金属塩を添加した場合は、この風味が後まで残る傾向がある。
【0028】
本実施形態の劣化臭生成抑制方法および香気劣化抑制方法に係る、上記分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩の飲料に対する添加量は、目的に合わせて適宜調整することができる。
たとえば、シトラスフレーバー含有製品中における、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩の添加量の下限値としては、0.5ppm以上とすることが好ましく、より好ましくは10ppm以上であり、さらに好ましくは100ppm以上であり、特に好ましくは250ppm以上である。
また、シトラスフレーバー含有製品中における、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩の添加量の上限値としては、たとえば15000ppm以下である。
【0029】
より具体的には、シトラスフレーバーとして、シトラールを含むフレーバーを用いる場合は、製品全体に対する分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩の添加量を0.5ppm以上とすることが好ましく、このようにすることにより、p−クレゾールとp−メチルアセトフェノンの生成を抑制しやすくなる。
また、p−クレゾールとp−メチルアセトフェノンのみならず、p−サイメンの生成も効果的に抑制できる観点から、製品全体に対する分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩の添加量を10ppm以上とすることがより好ましい。
なお、上記のようにシトラスフレーバーとしてシトラールを含むフレーバーを用いる場合、製品中に含ませることのできる分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩の量の上限値は特に限定されるものでなく、製品の設計に合わせて適宜選択できるが、例えば、15000ppm以下である。
【0030】
また、シトラスフレーバーとして、リモネンを含むフレーバーを用いる場合は、製品全体に対する分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩の添加量を0.5ppm以上とすることが好ましく、このようにすることにより、p−クレゾールの生成を抑制しやすくなる。
また、p−クレゾールのみならず、p−サイメン、α−テルピネオール及びテルピノレンの生成も効果的に抑制できる観点から、製品全体に対する分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩の添加量を10ppm以上とすることがより好ましく、100ppm以上とすることがさらに好ましく、250ppm以上とすることが特に好ましい。
なお、シトラスフレーバーとしてリモネンを含むフレーバーを用いる場合、製品中に含ませることのできる分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩の量の上限値は特に限定されるものでなく、製品の設計に合わせて適宜選択できるが、例えば、15000ppm以下である。
【0031】
また、本実施形態において、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩の種類と添加量を適宜設定することにより、効果的にシトラスフレーバーの劣化を抑制し、ジカルボン酸又はその金属塩を加えなかった場合に比べて、製品中におけるシトラスフレーバーにおける香気成分の量(残存量)を増加させることができる。
ジカルボン酸又はその金属塩の種類としては、フマル酸又はその金属塩が、この効果を顕著に発現させ、また、このフマル酸を添加する場合の添加量としては、製品全体に対するフマル酸又はその金属塩の添加量を0.5ppm以上に設定することで、係る効果が発現されやすくなる。
このような効果から、シトラスフレーバーを含む製品を、加熱や長期保存を行った場合であっても、その香気を十分に保持することができる。
【0032】
(飲料)
本実施形態の劣化臭生成抑制方法および香気劣化抑制方法は好ましくは飲料に対して適用することができる。係る飲料は、先述のシトラスフレーバーと、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩とを含有するものであり、それ以外の組成等は適宜設定することができる。
また、当該飲料はアルコール飲料であってもよく、またノンアルコール飲料であってもよい。なお、アルコール飲料としてのアルコール濃度の下限値は、たとえば1%以上であり、好ましくは2%以上であり、より好ましくは3%以上である。
また、アルコール飲料としてのアルコール濃度の上限値は、たとえば15%以下であり、好ましくは12%以下である、より好ましくは10%以下である。
本実施形態においては、係る飲料に先述の分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩を添加することにより、加熱時や長期保存時においても劣化臭の生成が抑制され、結果として、香気の劣化が抑制された飲料を提供することができる。
【0033】
本実施形態に係る飲料のpHに関して、シトラスフレーバーは、飲料のpHが低くなるほど、変性を起こしやすくなり、結果として、劣化臭を招く化合物を生成しやすくなる傾向がある。
このことから、本実施形態に係る劣化臭生成抑制方法及び香気劣化抑制方法においては、飲料が酸性、すなわち、飲料のpHが7未満である場合に、その効果が顕著なものとなる。同様の観点から、飲料のpHを6未満とすることもできるし、pHが5未満とすることもできる。
なお、飲料のpHは公知の方法に従って測定することができ、例えば、東亜ディーケーケー社製のpHメーター HM−30R等を用いて測定することができる。
【0034】
また、上記のようなpHに調整するために、適宜、飲料に対してpH調整剤を添加することもできる。このpH調整剤としては、設計する製品に合わせて適宜選択すればよいが、例えばクエン酸のようなカルボン酸やクエン酸ナトリウムのようなカルボン酸塩等が挙げられる。
また、このpH調整剤は、飲料のpHを逐次観測しながら、添加量を調整すればよい。
【0035】
(香料組成物)
上述の劣化臭生成抑制方法等においては、シトラスフレーバー含有製品に対して、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩を添加する態様を示したが、他の実施形態として、事前にシトラスフレーバーと、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩とを含有する香料組成物を調製しておき、この香料組成物を製品に添加することで所望の効果を発現することができる。
【0036】
このような香料組成物は、例えば、シトラスフレーバー100質量部に対して、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩を0.01質量部以上含むものであり、より好ましくは0.1質量部以上含むものであり、さらに好ましくは1質量部以上、特に好ましくは5質量部以上含むものである。
なお、本実施形態に係る香料組成物は、必ずしも全体として均一である必要はなく、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩が固体状で混合されていてもよい。
また、本実施形態に係る香料組成物に含まれる分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩の上限値は、例えば、シトラスフレーバー100質量部に対して、50質量部以下である。
【0037】
ここで、先述の通り、シトラスフレーバーは加熱時や長期保存時、また、pHの低い環境におかれることにより、変性を招きやすくなる。これに対し、本実施形態の香料組成物においては、保管する環境を適切に管理することにより上述の添加量であっても十分にシトラスフレーバー固有の香気を保つことができる。
より具体的には、香料組成物を不活性ガスとともに容器に収容した上で密閉し、冷暗所に保管することが、シトラスフレーバー固有の香気を保つ観点から好ましい態様である。
【0038】
本実施形態に係る香料組成物は、飲料に添加することができるのは勿論のこと、アイスクリームや飴、ガム等の菓子類、ドレッシング等の調味料類等の食料品に添加することができる。また、食品以外であっても、香水や化粧品、入浴剤や、芳香剤、洗剤、洗口剤等の香粧品にも添加することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
<1>
シトラスフレーバー含有製品に対して、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩を添加することにより、
前記シトラスフレーバー含有製品中におけるp−クレゾール、p−サイメン、p−メチルアセトフェノン、α−テルピネオールおよびテルピノレンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物の生成を抑制する、劣化臭生成抑制方法。
<2>
前記分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩は、フマル酸あるいはイタコン酸又はこれらの金属塩であることを特徴とする、<1>に記載の劣化臭生成抑制方法。
<3>
前記シトラスフレーバー含有製品中における、前記分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩の添加量は、0.5ppm以上15000ppm以下であることを特徴とする、<1>または<2>に記載の劣化臭生成抑制方法。
<4>
前記シトラスフレーバーはシトラールを含む、<1>乃至<3>のいずれか1項に記載の劣化臭生成抑制方法。
<5>
p−クレゾール、p−サイメンおよびp−メチルアセトフェノンの全ての化合物の生成が抑制されることを特徴とする、<4>に記載の劣化臭生成抑制方法。
<6>
前記シトラスフレーバーはリモネンを含む、<1>乃至<3>のいずれか1項に記載の劣化臭生成抑制方法。
<7>
p−クレゾール、p−サイメン、α−テルピネオールおよびテルピノレンの全ての化合物の生成が抑制されることを特徴とする、<6>に記載の劣化臭生成抑制方法。
<8>
前記シトラスフレーバー含有製品は、シトラスフレーバーを含む飲料である、<1>乃至<7>のいずれか1項に記載の劣化臭生成抑制方法。
<9>
前記シトラスフレーバーを含む飲料のpHが7未満であることを特徴とする、<8>に記載の劣化臭生成抑制方法。
<10>
シトラスフレーバー含有製品に対して、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩を添加することを特徴とする、香気劣化抑制方法。
<11>
前記分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩は、フマル酸あるいはイタコン酸又はこれらの金属塩であることを特徴とする、<10>に記載の香気劣化抑制方法。
<12>
前記シトラスフレーバー含有製品は、シトラスフレーバーを含む飲料である、<10>または<11>に記載の香気劣化抑制方法。
<13>
シトラスフレーバーと、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩とを含有することを特徴とする、香料組成物。
<14>
前記分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩は、フマル酸あるいはイタコン酸又はこれらの金属塩であることを特徴とする、<13>に記載の香料組成物。
<15>
シトラスフレーバーと、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩とを含有することを特徴とする、シトラスフレーバー含有製品。
<16>
前記分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩は、フマル酸あるいはイタコン酸又はこれらの金属塩であることを特徴とする、<15>に記載のシトラスフレーバー含有製品。
<17>
前記シトラスフレーバー含有製品は、シトラスフレーバーを含む飲料である、<15>または<16>に記載のシトラスフレーバー含有製品。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0041】
まず、本実施例項において、飲料中に含まれる各成分の量はガスクロマトグラフィ(GC)分析を用いて定量を行っている。この分析の手順は以下に示す通りである。
(サンプル作製方法)
試料を50.0g秤量し、内部標準として2−オクタノールを100μL添加した上で、50mLの水で希釈を行う。これとは別にジクロロメタン(5mL)、エタノール(5mL)、水(20mL)にて順次コンディショニングを行った固相(Waters社製Oasis HLB 200mg/6cc)を準備し、上で得られた希釈試料に含まれる有機成分を全量吸着させる。その後、ジクロロメタン5mLにて溶出を行い、この溶出液を無水硫酸ナトリウムで脱水し、その上清をスピッツ管に移注して窒素パージにて200μLまで濃縮し、分析用のサンプルを作製する。
(定量方法)
この分析用のサンプルは以下に示す条件にて、ガスクロマトグラフィ(GC)分析を行う。試料中の成分量は内部標準として用いた2−オクタノールのピークとの面積比から計算する。また、同一試料についてGC分析を二度行い、その平均値として試料中の成分量であるものとして定量を行う。
(GC条件)
機器名:Agilent Technologies社製 5973inert Mass Selective Detector
カラム:DB−WAX(60m×0.25mm×0.25μm)
オーブン温度:40℃(1min)−(3℃/min)−210℃(3min)
流量:1ml/min
インジェクション温度:250℃
インジェクション量:1μL
スプリット比:10:1
【0042】
(実施例1)
モデル液Aとして、アルコール濃度5%、シトラール10ppmを含む飲料を用意し、この飲料のpHを、pH調整剤であるクエン酸三ナトリウムを用いてpHが3.1となるように調整した。なお、ここでpHは東亜ディーケーケー社製のpHメーター HM−30Rを用いて測定した。
この飲料に対し、フマル酸一ナトリウムを、飲料全体の250ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるシトラールの量、p−クレゾールの量、p−サイメンの量、p−メチルアセトフェノンの量を定量した。
この含有量について、後述する比較例1における各成分の含有量との比として表1に示した。
【0043】
(実施例2、3)
実施例1の方法において、フマル酸一ナトリウムの添加量を表1に記載の通りに調整する以外は、実施例1と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれる各成分の量を定量した。結果は表1に示す。
【0044】
(実施例4)
実施例1の方法において、フマル酸一ナトリウムの代わりに、フマル酸を210ppmとなるように添加した以外は、実施例1と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれる各成分の量を定量した。結果は表1に示した。
【0045】
(比較例1)
実施例1の方法において、フマル酸一ナトリウムを加えなかった以外は、実施例1と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれる各成分の量を定量した。この比較例1の結果を対照(100.0%)として表1に示した。
【0046】
ここで、これらの実施例1−4においては、「シトラス感」、「劣化香」、「美味しさ」の項目について、官能評価を行った。
官能評価は3名の専門パネラーが行い、比較例1と比較して良い印象を持ったものを+1、悪い印象を持ったものを−1、印象として変わらないものを0として、3名のパネラーの平均点を評点として表1に示した。
なお、「劣化香」については、シトラールの劣化した香気がより感じられないものを良い場合として評価を行っている。
【0047】
【表1】
【0048】
(実施例5)
モデル液Aとして、アルコール濃度5%、シトラール10ppm、を含む飲料を用意し、この飲料のpHを、pH調整剤であるクエン酸三ナトリウムを用いてpHが3.3となるように調整した。なお、ここでpHは東亜ディーケーケー社製のpHメーター HM−30Rを用いて測定した。
この飲料に対し、フマル酸一ナトリウムを、飲料全体の250ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるシトラールの量、p−クレゾールの量、p−サイメンの量、p−メチルアセトフェノンの量を定量した。
この含有量について、後述する比較例2における各成分の含有量との比として表2に示した。
【0049】
(実施例6、7)
実施例5の方法において、フマル酸一ナトリウムの添加量を表2に記載の通りに調整する以外は、実施例5と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれる各成分の量を定量した。結果は表2に示した。
【0050】
(比較例2)
実施例5の方法において、フマル酸一ナトリウムを加えなかった以外は、実施例5と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれる各成分の量を定量した。この比較例2の結果を対照(100.0%)として表2に示した。
【0051】
(実施例8)
モデル液Aとして、アルコール濃度5%、シトラール10ppm、を含む飲料を用意し、この飲料のpHを、pH調整剤であるクエン酸三ナトリウムを用いてpHが3.5となるように調整した。なお、ここでpHは東亜ディーケーケー社製のpHメーター HM−30Rを用いて測定した。
この飲料に対し、フマル酸一ナトリウムを、飲料全体の250ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるシトラールの量、p−クレゾールの量、p−サイメンの量、p−メチルアセトフェノンの量を定量した。
この含有量について、後述する比較例3における各成分の含有量との比として表2に示した。
【0052】
(実施例9)
実施例8の方法において、フマル酸一ナトリウムの添加量を表2に記載の通りに調整する以外は、実施例8と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれる各成分の量を定量した。結果は表2に示した。
【0053】
(比較例3)
実施例8の方法において、フマル酸一ナトリウムを加えなかった以外は、実施例8と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれる各成分の量を定量した。この比較例3の結果を対照(100.0%)として表2に示した。
【0054】
ここで、これらの実施例5−9においては、「シトラス感」、「劣化香」、「美味しさ」の項目に従い、官能評価を行った。
具体的な手法は実施例1−4で行ったものに準じるものであり、実施例5−7は比較例2に対して、実施例8、9は比較例3に対して、各項目における印象を統計している。結果は表2に示した通りである。
【0055】
【表2】
【0056】
(実施例10)
モデル液Bとして、アルコールを含まず、シトラール10ppm、を含む飲料を用意し、この飲料のpHを、pH調整剤であるクエン酸三ナトリウムを用いてpHが3.0となるように調整した。なお、ここでpHは東亜ディーケーケー社製のpHメーター HM−30Rを用いて測定した。
この飲料に対し、フマル酸一ナトリウムを、飲料全体の250ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるシトラールの量、p−クレゾールの量、p−サイメンの量、p−メチルアセトフェノンの量を定量した。
この含有量について、後述する比較例4における各成分の含有量との比として表3に示した。
【0057】
(比較例4)
実施例10の方法において、フマル酸一ナトリウムを加えなかった以外は、実施例10と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれる各成分の量を定量した。この比較例4の結果を対照(100.0%)として表3に示した。
【0058】
【表3】
【0059】
(実施例11)
モデル液Cとして、アルコール濃度5%、リモネン10ppm、を含む飲料を用意し、この飲料のpHを、pH調整剤であるクエン酸三ナトリウムを用いてpHが3.3となるように調整した。なお、ここでpHは東亜ディーケーケー社製のpHメーター HM−30Rを用いて測定した。
この飲料に対し、フマル酸一ナトリウムを、飲料全体の250ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるリモネンの量、p−クレゾールの量、p−サイメンの量、α−テルピネオール、テルピノレンの量を定量した。
この含有量について、後述する比較例5における各成分の含有量との比として表4に示した。
【0060】
(比較例5)
実施例11の方法において、フマル酸一ナトリウムを加えなかった以外は、実施例11と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれる各成分の量を定量した。この比較例5の結果を対照(100.0%)として表4に示した。
【0061】
【表4】
【0062】
(実施例12)
モデル液Aとして、アルコール濃度5%、シトラール10ppm、を含む飲料を用意し、この飲料のpHをpH調整剤であるクエン酸三ナトリウムを用いてpHが3.0となるように調整した。なお、ここでpHは東亜ディーケーケー社製のpHメーター HM−30Rを用いて測定した。
この飲料に対し、フマル酸一ナトリウムを、飲料全体の10ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるシトラールの量、p−クレゾールの量、p−サイメンの量、p−メチルアセトフェノンの量を定量した。
この含有量について、後述する比較例6における各成分の含有量との比として表5に示した。
【0063】
(実施例13)
実施例12の方法において、フマル酸一ナトリウムの添加量を表5に記載の通りに調整する以外は、実施例12と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれる各成分の量を定量した。結果は表5に示した。
【0064】
(実施例14)
実施例12の方法において、フマル酸一ナトリウムの代わりにイタコン酸を用い、含有量を250ppmに設定した以外は、実施例12と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれる各成分の量を定量した。結果は表5に示した。
【0065】
(比較例6)
実施例12の方法において、フマル酸一ナトリウムを加えなかった以外は、実施例12と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれる各成分の量を定量した。この比較例6の結果を対照(100.0%)として表5に示した。
【0066】
【表5】
【0067】
各実施例に示されるように、シトラスフレーバーを有する飲料に対して、特定のジカルボン酸又はその金属塩を添加することにより、劣化臭をもたらす成分の生成が抑制された。
また、このように劣化臭をもたらす成分の生成を抑制することにより、飲用した者に心地よいシトラス感や美味しさをもたらすことができた。
【解決手段】本発明の劣化臭生成抑制方法は、シトラスフレーバー含有製品に対して、分子内に共役二重結合を有するジカルボン酸又はその金属塩を添加することにより、前記シトラスフレーバー含有製品中におけるp−クレゾール、p−サイメン、p−メチルアセトフェノン、α−テルピネオールおよびテルピノレンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物の生成を抑制する。