(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
板厚方向と切断方向とが平行となる断面で前記金属被覆層を見た場合に、前記金属被覆層の前記金属組織が、円相当径が0.2μm以下の結晶粒で構成される微細領域および円相当径が0.2μm超の結晶粒で構成される粗大領域からなるバイモーダル組織であり、
前記粗大領域が前記準結晶相と、Zn相、Al相、MgZn相のうちの少なくとも1つとを含み、
前記微細領域がMg51Zn20相、Zn相、アモルファス相、Mg32(Zn、Al)49相のうちの少なくとも1つを含み、
前記準結晶相の前記平均円相当径が0.2μm超〜1μmである
ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の準結晶含有めっき鋼板。
板厚方向と切断方向とが平行となる断面で前記金属被覆層を見た場合に、前記金属被覆層の前記金属組織が、円相当径が0.2μm以下の結晶粒で構成される微細領域および円相当径が0.2μm超の結晶粒で構成される粗大領域からなるバイモーダル組織であり、
前記粗大領域がZn相、Al相、MgZn相のうちの少なくとも1つを含み、
前記微細領域が前記準結晶相と、Mg51Zn20相、Zn相、アモルファス相、Mg32(Zn、Al)49相のうちの少なくとも1つとを含み、
前記準結晶相の前記平均円相当径が0.01μm〜0.2μmである
ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の準結晶含有めっき鋼板。
前記断面で見た場合に、前記金属被覆層の厚さをDとし、前記金属被覆層の表面から前記板厚方向に沿って前記鋼板に向かう0.05×Dまでの範囲を金属被覆層最表部とし、前記鋼板と前記金属被覆層との界面から前記板厚方向に沿って前記金属被覆層に向かう0.05×Dまでの範囲を金属被覆層最深部とするとき、前記金属被覆層最表部に対する前記粗大領域の面積分率が7%〜100%未満であり、および前記金属被覆層最深部に対する前記粗大領域の面積分率が7%〜100%未満であり、
前記金属被覆層の前記金属被覆層最表部および前記金属被覆層最深部以外の範囲を金属被覆層本体部とするとき、前記金属被覆層本体部に対する前記微細領域の面積分率が50%〜100%未満である
ことを特徴とする請求項5に記載の準結晶含有めっき鋼板。
前記断面で見た場合に、前記金属被覆層の厚さをDとし、前記金属被覆層の表面から前記板厚方向に沿って前記鋼板に向かう0.05×Dまでの範囲を金属被覆層最表部とし、前記鋼板と前記金属被覆層との界面から前記板厚方向に沿って前記金属被覆層に向かう0.05×Dまでの範囲を金属被覆層最深部とするとき、前記金属被覆層最表部に対する前記粗大領域の面積分率が7%〜100%未満であり、および前記金属被覆層最深部に対する前記粗大領域の面積分率が7%〜100%未満であり、
前記金属被覆層の前記金属被覆層最表部および前記金属被覆層最深部以外の範囲を金属被覆層本体部とするとき、前記金属被覆層本体部に対する前記微細領域の面積分率が50%〜100%未満である
ことを特徴とする請求項6に記載の準結晶含有めっき鋼板。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただ、本発明は本実施形態に開示の構成のみに限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0023】
本実施形態に係るめっき鋼板は、鋼板(地鉄)と、この鋼板の表面に配された金属被覆層(めっき層)とを備える。この金属被覆層は、薄膜形状を示し、かつ鋼板との密着性を確保した合金であり、地鉄への防食、機能付与をになう役割を有し、一方、地鉄の材料強度、剛性等の性能を損なうことがない。すなわち、本実施形態に係るめっき鋼板は、鋼板および金属被覆層という二種の金属合金材料を合わせた複合材料である。また複合化の方法として、鋼板と金属被覆層との界面には、金属原子の相互拡散による界面合金層(Fe−Al含有合金層)、もしくは、拡散部分が存在してもよく、その結果、金属の原子結合による界面密着性が得られる。まず、本実施形態に係るめっき鋼板の金属被覆層に求められる特性について説明する。
【0024】
めっき鋼板の金属被覆層は、耐腐食性能に優れることが求められる。耐腐食性能は、耐食性と犠牲防食性とに分けられる。金属被覆層の耐食性とは、一般に、金属被覆層自体の腐食抵抗のことであり、各種の腐食試験において、一定期間経過後における金属被覆層の腐食減量で評価されることが多い。
【0025】
この腐食減量が小さければ、鋼板(地鉄)に対する保護皮膜としての金属被覆層が長期間残存することを意味し、すなわち耐食性が優れることを意味する。純金属を用いて腐食減量を評価した場合、その耐食性は、一般に、MgよりもZnが高く、ZnよりもAlが高い傾向にある。
【0026】
一方、金属被覆層の犠牲防食性とは、何らかの原因で鋼板(地鉄)が腐食環境に曝された場合に、周囲の金属被覆層が鋼板に代わって腐食して鋼板を保護する作用のことである。純金属を用いて評価した場合、その犠牲防食性は、電気的に卑で、腐食し易い金属が高く、一般に、AlよりもZnが高く、ZnよりもMgが高い傾向にある。
【0027】
本実施形態に係るZn−Mg合金めっき鋼板は、金属被覆層中に多量のMgを含有するので、犠牲防食性に優れる。一方、その課題は、金属被覆層の腐食減量を如何に小さくするか、すなわち金属被覆層の耐食性を如何に高めるかである。
【0028】
本発明者らは、Zn−Mg合金めっき鋼板において、金属被覆層の腐食減量を極力小さくするために、金属被覆層の金属組織の構成相について検討した。その結果、金属被覆層中に準結晶相を含有させると、飛躍的に耐食性が向上することを見出した。
【0029】
本実施形態に係るめっき鋼板の主たる特徴は、金属被覆層の金属組織にある。後述する特定範囲の化学成分でかつ特定の製造条件でめっき鋼板を製造した場合に、金属被覆層中に準結晶相が生成されて、耐食性を飛躍的に向上させることが可能となる。本実施形態で、金属被覆層中に生成される上記の準結晶相の平均円相当径(直径)は0.01μm〜1μmとなる。
【0030】
本実施形態に係るめっき鋼板の金属被覆層は上記の準結晶相を含有するので、準結晶相を含有しない金属被覆層より耐食性が向上する。加えて、本実施形態に係るめっき鋼板の金属被覆層は多量のMgを含有するので、鋼板に対する優れた犠牲防食性を併せ持つ。すなわち、本実施形態に係るめっき鋼板は、耐食性と犠牲防食性とが同時に優れる理想的な金属被覆層を備える。
【0031】
以下、本実施形態に係るめっき鋼板について、金属被覆層の化学成分、金属被覆層の金属組織、および製造条件の順に詳細に説明する。
【0032】
通常、Zn、Al、Mg
2Zn、Fe
2Al
5等の金属相や金属間化合物の構成式を表示する際は質量比でなく原子比を利用する。本実施形態の説明においても、準結晶相に着目しているので、原子比を利用する。つまり、以下の説明で化学成分を示す%は、特に断りがない限り、原子%を意味する。
【0033】
まず、金属被覆層の化学成分について、数値限定範囲とその限定理由とを説明する。
【0034】
本実施形態に係るめっき鋼板の金属被覆層は、基本成分としてZnとAlとを含有し、必要に応じて選択成分を含有し、そして残部がMg及び不純物からなる。
【0035】
Zn(亜鉛):28.5%〜52%
金属被覆層の金属組織として準結晶相を得るためには、上記範囲のZnを含有することが必須である。このため、金属被覆層のZn含有量を28.5%〜52%とする。また、このZn含有量は、
図6に示すZn−Mg二元系平衡状態図の共晶組成(Mg72%−Zn28%)に基づいて決定されており、Mg−Zn共晶組成よりもZnが高濃度となる組成とする。共晶組成よりMg含有量が多くZn含有量が少ないと、耐食性に乏しいMg相が主体となる組織となり、金属被覆層の耐食性が劣化する。このため、金属被覆層のZn含有量を28.5%以上とする。これにより、適切な製造条件において、金属被覆層中にZn相を優先して分散させることが可能となる。Zn相をさらに高い面積分率で生成させるため、Zn含有量の下限を30%としてもよい。Zn相の面積分率が高まると耐食性も向上する。しかし、Zn含有量が52%を超えると、めっき層の組成バランスが崩れ、Mg
4Zn
7、MgZn等の金属間化合物が多量に生成し、準結晶相も形成しなくなることから、耐食性が悪くなる。そのため、Zn含有量の上限を52%とする。
【0036】
また、準結晶を好ましく生成させて耐食性をさらに向上させるためには、Zn含有量を、33%以上とすることが好ましい。33%以上とすると、初晶として、Zn相や、準結晶相が成長しやすい組成範囲となり、Mg相が初晶として成長しにくくなる。すなわち、金属被覆層での準結晶相の相量(面積分率)を多くできるとともに、耐食性を劣化させるMg相を極力減らすことが可能である。より好ましくは、Zn含有量を35%以上とする。通常、この組成範囲でかつ本実施形態に係る製法でめっき鋼板を製造すれば、Mg相はほとんど存在しない。
【0037】
Al(アルミニウム):0.5%〜10%
Alは、金属被覆層の平面部の耐食性を向上させる元素である。また、Alは、準結晶相の生成を促進する元素である。これらの効果を得るために、金属被覆層のAl含有量を0.5%以上とする。また、Alが0.5%以上含有されると、上記の準結晶相に加えて、金属被覆層にZn相またはAl相が生成される。このZn相とAl相とが共晶組織を形成すると、金属被覆層の耐食性が好ましく向上する。準結晶相、Zn相、およびAl相の3相が共存することにより、耐食性がさらに好ましく向上する。ただし、Al含有量が10%を超えると、金属被覆層中でAl相の粒径が急激に粗大化して、Zn相とAl相との共晶組織が形成されなくなる。また、Zn相も形成されなくなる。そのため、耐食性が悪化する。よって、金属被覆層のAl含有量の上限を10%とする。準結晶相の平均円相当径を好ましく制御するためには、金属被覆層のAl含有量を5%未満としてもよい。準結晶相の平均円相当径が大きくなると、耐食性へ悪影響を与えることはないが、化成処理性がやや劣位になり、塗膜下耐食性(塗装後耐食性)が悪くなる傾向にある。また、Alは、後述するFe−Al界面合金層を形成する上で含有されることが好ましい元素である。
【0038】
金属被覆層中の準結晶相の粒径が小さい場合、加工部での赤錆の発生が抑制されるので好ましい。例えば、めっき鋼板に強加工(絞り加工、しごき加工)などを施すと、金属被覆層中の準結晶相が粗大な場合、準結晶相が起点となって部分的に金属被覆層と鋼板とが剥離しやすくなる。この剥離部では鋼板が剥きだしとなるから、赤錆が発生しやすくなる。一方、金属被覆層中の準結晶相が微細な場合、準結晶相が起点となる金属被覆層と鋼板との剥離が生じにくい。たとえ、金属被覆層と鋼板とが剥離したとしてもその面積が微小であるので、剥離部での赤錆の発生が抑制される。例えば、円筒絞り加工を施しためっき鋼板の円筒絞り部の耐食性を評価すると、準結晶相の平均円相当径が1μm以下である場合、赤錆の発生が好ましく抑制される。
【0039】
また、金属被覆層に準結晶相をさらに好ましく生成させるためには、Zn含有量およびAl含有量を次のように制御することが好ましい。すなわち、金属被覆層の化学成分中のZn含有量とAl含有量とが、原子%で、30%≦Zn+Al≦52%を満足することが好ましい。Zn含有量およびAl含有量が上記条件を満足するとき、金属被覆層に準結晶相が好ましい面積分率で生成される。例えば、金属被覆層に準結晶相が、金属被覆層中の全体に対する面積分率で5〜12%で生成されるので好ましい。この技術的理由は明らかでない。しかし、本実施形態での準結晶相がZnとMgとを主体とする結晶構造を有すること、AlがZnと置換することで準結晶相の生成が促進されること、そしてこのAlの置換量に最適値が存在することが関係していると考えられる。
【0040】
Mg(マグネシウム)は、ZnおよびAlと同様に、金属被覆層を構成する主要な元素であり、さらに、犠牲防食性を向上させる元素である。また、Mgは、準結晶相の生成を促進させる重要な元素である。本実施形態においては、金属被覆層のMgの含有量について特に規定する必要がなく、上記した残部のうちで不純物の含有量を除いた含有量とする。すなわち、Mg含有量は、38%超〜71%未満とすればよい。しかしながら、残部におけるMg含有量は50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましい。本実施形態においては、Mgの含有は必須である。しかし、含有されたMgが、金属被覆層でMg相として析出することを抑制することが耐食性向上のために好ましい。すなわち、Mg相は、耐食性を劣化させるので、含有されたMgは、準結晶相や、その他の金属間化合物の構成物とすることが好ましい。
【0041】
上記した基本成分の他に、本実施形態に係るめっき鋼板の金属被覆層は、不純物を含有する。ここで、不純物とは、めっき鋼板を工業的に製造する際に、鋼およびめっき合金の原料、または製造環境等から混入する、例えば、C、N、O、P、S、Cd等の元素を意味する。これらの元素が不純物として、それぞれ0.1%程度含有されても、上記効果は損なわれない。
【0042】
本実施形態に係るめっき鋼板の金属被覆層は、残部である上記Mgの一部に代えて、さらに、Ca、Y、La、Ce、Si、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、V、Nb、Cu、Sn、Mn、Sr、Sb、およびPbから選択される少なくとも1つ以上の選択成分を含有させてもよい。これらの選択成分は、その目的に応じて含有させればよい。よって、これらの選択成分の下限を制限する必要がなく、下限が0%でもよい。また、これらの選択成分が不純物として含有されても、上記効果は損なわれない。
【0043】
Ca(カルシウム):0%〜3.5%
Y(イットリウム):0%〜3.5%
La(ランタン):0%〜3.5%
Ce(セリウム):0%〜3.5%
Ca、Y、La、Ceは、溶融めっきの操業性を改善するために必要に応じて含有されてもよい。本実施形態に係るめっき鋼板を製造する場合、めっき浴として酸化性の高い溶融Mg合金を大気中で保持する。そのため、何らかのMgの酸化防止手段を取ることが好ましい。Ca、Y、La、CeはMgよりも酸化し易く、溶融状態でめっき浴面上に安定な酸化被膜を形成し浴中のMgの酸化を防止する。よって、金属被覆層のCa含有量を0%〜3.5%とし、Y含有量を0%〜3.5%とし、La含有量を0%〜3.5%とし、Ce含有量を0%〜3.5%としてもよい。さらに好ましくは、Ca含有量、Y含有量、La含有量、Ce含有量に関して、それぞれ、下限を0.3%とし、上限を2.0%としてもよい。
【0044】
Ca、Y、La、Ceから選ばれる少なくとも1つの元素を合計で0.3%以上含有させると、Mg含有量が高いめっき浴を大気中で酸化させることなく保持できるので好ましい。一方、Ca、Y、La、Ceは酸化し易く、耐食性に悪影響を及ぼすことがあるため、Ca、Y、La、Ceの含有量の上限を、合計で、3.5%とすることが好ましい。すなわち、金属被覆層の化学成分中のCa含有量とY含有量とLa含有量とCe含有量とが、原子%で、0.3%≦Ca+Y+La+Ce≦3.5%を満足することが好ましい。
【0045】
また、金属被覆層に準結晶相を好ましく生成させるためには、Ca、Y、La、Ceの含有量を、合計で、0.3%以上2.0%以下とすることが好ましい。これらの元素は、準結晶相を構成するMgと置換すると考えられるが、多量にこれらの元素を含有する場合、準結晶相の生成が阻害されることもある。これらの元素が適切な含有量で含有されると、準結晶相やその他の相の赤錆抑制効果が向上する。この効果は、準結晶相の溶出のタイミングが白錆の保持力に影響を与えることに起因すると推測される。すなわち、金属被覆層中の準結晶相の溶出後、形成する白錆中にこれらの元素が取り込まれ、白錆の防錆力が向上し、そして、地鉄の腐食による赤錆発生までの期間が長くなると推測される。
【0046】
また、これらの元素のうち、上記効果(酸化防止、準結晶相の生成)は、Ca、La、Ceの含有によって比較的大きく得られる。一方、Yの含有によって得られる上記効果は、Ca、La、Ceと比較すると、小さいことが判明している。Ca、La、Ceは、Yと比較して、酸化しやすく、反応性に富む元素であることが関連していると推定される。準結晶相の化学成分をEDX(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)で分析したとき、Yが検出されない場合が多いので、Yは準結晶中に容易に取り込まれないと推定される。一方、Ca、La、Ceは含有濃度に対して、その濃度以上に準結晶から検出される傾向にある。すなわち、金属被覆層にYを必ずしも含有させなくてもよい。金属被覆層にYが含有されない場合、0.3%≦Ca+La+Ce≦3.5%とし、0.3%≦Ca+La+Ce≦2.0%としてもよい。
【0047】
なお、めっき浴が接触する雰囲気を不活性ガス(例えばAr)で置換するか、または真空とする場合、すなわち酸素遮断措置を製造設備に設置する場合には、Ca、Y、La、Ceをあえて添加する必要はない。
【0048】
また、Al、Ca、La、Y、Ceの合計の含有量を次のように制御することが好ましい。すなわち、金属被覆層の化学成分中のAl含有量とCa含有量とLa含有量とY含有量とCe含有量とが、原子%で、0.5%≦Al+Ca+La+Y+Ce<6%を満足することが好ましく、0.5%≦Al+Ca+La+Y+Ce<5.5%を満足することがさらに好ましい。Al、Ca、La、Y、Ceの合計の含有量が上記条件を満足するとき、金属被覆層に好ましい平均円相当径を有する準結晶相が生成される。これらの条件を満たすことで、準結晶相の平均円相当径を、0.6μm以下に制御できる。そして、めっき層のパウダリング特性(圧縮応力に対する剥離耐性)が向上させることができる。Alの他、微量添加されるCa、La、Y、Ce等が準結晶相の粒界に析出し、粒界強化が行われると推定される。
【0049】
Si(シリコン):0%〜0.5%
Ti(チタニウム):0%〜0.5%
Cr(クロミウム):0%〜0.5%
Si、Ti、Crは、金属被覆層に準結晶相を好ましく生成させるために必要に応じて含有されてもよい。微量のSi、Ti、Crが金属被覆層に含有されると、準結晶相が生成しやすくなり、準結晶相の構造が安定化する。SiはMgと結合して微細Mg
2Siを形成することによって、またMgとの反応性が乏しいTiおよびCrは微細金属相となることによって、準結晶相の生成の起点(核)になると考えられる。また、準結晶相の生成は、一般に、製造時の冷却速度に影響を受ける。しかし、Si、Ti、Crが金属被覆層に含有されると、準結晶相の生成に対する冷却速度の依存性が小さくなる傾向にある。よって、金属被覆層のSi含有量を0%〜0.5%とし、Ti含有量を0%〜0.5%とし、Cr含有量を0%〜0.5%としてもよい。さらに好ましくは、Si含有量、Ti含有量、Cr含有量に関して、それぞれ、下限を0.005%とし、上限を0.1%としてもよい。
【0050】
また、Si、Ti、Crから選ばれる少なくとも1つの元素を合計で、0.005%〜0.5%含有させると、準結晶の構造がさらに安定化するので好ましい。すなわち、金属被覆層の化学成分中のSi含有量とTi含有量とCr含有量とが、原子%で、0.005%≦Si+Ti+Cr≦0.5%を満足することが好ましい。また、これらの元素が適切な含有量で含有されると、準結晶が微細にかつ多量に好ましく生成するため、金属被覆層表面の耐食性が向上する。湿潤環境での耐食性が向上し、白錆の発生が抑制される。
【0051】
Co(コバルト):0%〜0.5%
Ni(ニッケル):0%〜0.5%
V(バナジウム):0%〜0.5%
Nb(ニオビウム):0%〜0.5%
Co、Ni、V、Nbは、上述のSi、Ti、Crと同等の効果を有する。上記効果を得るために、Co含有量を0%〜0.5%とし、Ni含有量を0%〜0.5%とし、V含有量を0%〜0.5%とし、Nb含有量を0%〜0.5%としてもよい。さらに好ましくは、Co含有量、Ni含有量、V含有量、Nb含有量に関して、それぞれ、下限を0.05%とし、上限を0.1%としてもよい。ただし、これらの元素は、Si、Ti、Crと比較すると、耐食性を向上する効果が小さい。
【0052】
なお、金属被覆層には、母材である鋼板から鋼板を構成する元素が混入することがある。特に、溶融めっき法では、鋼板から金属被覆層へ、および金属被覆層から鋼板への元素の相互拡散によって密着性が高まる。そのため、金属被覆層中には、一定量のFe(鉄)が含まれる場合がある。例えば、金属被覆層全体の化学成分として、Feが2%前後含有される場合がある。しかし、金属被覆層へ拡散してきたFeは、鋼板と金属被覆層との界面付近で、Al、Znと反応して金属間化合物を生成することが多い。そのため、金属被覆層の耐食性に対して影響を与える可能性は小さい。よって、金属被覆層のFe含有量を0%〜2%としてもよい。同様に、金属被覆層へ拡散してきた鋼板を構成する元素(本実施形態に記述する元素以外で鋼板から金属被覆層へ拡散してきた元素)が、金属被覆層の耐食性に対して影響を与える可能性は小さい。
【0053】
Cu(銅):0%〜0.5%
Sn(スズ):0%〜0.5%
鋼板と金属被覆層との密着性を向上させるために、溶融めっき工程前の鋼板にNi、Cu、Sn等のプレめっきを施す場合がある。プレめっきを施された鋼板を使用してめっき鋼板を製造した場合、金属被覆層中に、これらの元素が0.5%程度まで含まれることがある。Ni、Cu、Snのうち、Cu、Snは、Niが有する上述した効果を有さない。しかし、0.5%程度のCu、Snが金属被覆層に含有されても、準結晶の生成挙動や、金属被覆層の耐食性に対して影響を与える可能性は小さい。よって、金属被覆層のCu含有量を0%〜0.5%とし、Sn含有量を0%〜0.5%としてもよい。さらに好ましくは、Cu含有量、Sn含有量に関して、それぞれ、下限を0.005%とし、上限を0.4%としてもよい。
【0054】
Mn(マンガン):0%〜0.2%
めっき鋼板の母材である鋼板として、近年、高張力鋼(高強度鋼)が使用されるようになってきた。高張力鋼を使用してめっき鋼板を製造した場合、高張力鋼に含まれるSi、Mn等の元素が、金属被覆層中に拡散することがある。SiおよびMnのうち、Mnは、Siが有する上述した効果を有さない。しかし、0.2%程度のMnが金属被覆層に含有されても、準結晶の生成挙動や、金属被覆層の耐食性に対して影響を与える可能性は小さい。よって、金属被覆層のMn含有量を0%〜0.2%としてもよい。さらに好ましくは、Mn含有量に関して、下限を0.005%とし、上限を0.1%としてもよい。
【0055】
Sr(ストロンチウム):0%〜0.5%
Sb(アンチモン):0%〜0.5%
Pb(鉛):0%〜0.5%
Sr、Sb、Pbは、めっき外観を向上させる元素で、防眩性の向上に効果がある。この効果を得るために、金属被覆層のSr含有量を0%〜0.5%とし、Sb含有量を0%〜0.5%とし、Pb含有量を0%〜0.5%としてもよい。Sr含有量、Sb含有量、およびPb含有量が上記範囲である場合、耐食性への影響はほとんどない。さらに好ましくは、Sr含有量、Sb含有量、およびPb含有量に関して、それぞれ、下限を0.005%とし、上限を0.4%としてもよい。
【0056】
上記した金属被覆層の化学成分は、ICP−AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)またはICP−MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)などを使用して計測する。めっき鋼板を、インヒビターを加えた10%塩酸に、1分程度浸漬し、金属被覆層部分を剥離し、この金属被覆層を溶解した溶液を準備する。この溶液をICP−AESまたはICP−MSなどによって分析して、金属被覆層の全体平均としての化学成分を得る。
【0057】
また、溶融めっき法では、溶融めっき浴の化学成分とほぼ同等の化学成分を有する金属被覆層が形成される。そのため、鋼板と金属被覆層との間の相互拡散を無視できる元素に関しては、使用するめっき浴の化学成分を測定し、その測定値を金属被覆層の化学成分として代用してもよい。めっき浴から、小片インゴットを採取し、ドリル粉を採取し、このドリル粉を酸溶解した溶液を準備する。この溶液をICPなどによって分析して、めっき浴の化学成分を得る。このめっき浴の化学成分の測定値を、金属被覆層の化学成分として用いてもよい。
【0058】
次に、金属被覆層の金属組織について説明する。
【0059】
本実施形態に係るめっき鋼板は、その金属被覆層に、金属組織として、準結晶相を含む。この準結晶相は、準結晶相に含まれるMg含有量、Zn含有量、およびAl含有量が、原子%で、0.5≦Mg/(Zn+Al)≦0.83を満足する準結晶相として定義される。すなわち、Mg原子と、Zn原子及びAl原子の合計との比であるMg:(Zn+Al)が、3:6〜5:6となる準結晶相として定義される。理論比としては、Mg:(Zn+Al)が4:6であると考えられる。準結晶相の化学成分は、TEM−EDX(Transmission Electron Microscope―Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)による定量分析や、EPMA(Electron Probe Micro−Analyzer)マッピングによる定量分析で算出することが好ましい。なお、準結晶を金属間化合物のように正確な化学式で定義することは容易でない。準結晶相は、結晶の単位格子のように繰り返しの格子単位を定義することができず、さらには、Zn、Mgの原子位置を特定するのも困難なためである。
【0060】
また、本実施形態では、金属被覆層に含まれる準結晶相の平均円相当径が、0.01μm〜1μmとなる。なお、準結晶相として、TEMによる電子顕微鏡像および電子線回折像によって、平均円相当径として0.01μm程度までの準結晶相を同定することができる。金属被覆層には、円相当径が0.01μm未満である準結晶相も含まれていると考えられるが、上述の理由より、準結晶相の平均円相当径の下限を0.01μmとする。また、準結晶相の平均円相当径の上限は、特に制限されないが、後述する金属被覆層の金属組織の構成上、準結晶相の平均円相当径の上限を1μmとすることが好ましい。金属被覆層の塗膜下耐食性(塗装後耐食性)をさらに向上させるためには、準結晶相の平均円相当径の上限を0.8μmとすることが好ましく、上限を0.6μmとすることがさらに好ましい。また、しごき加工後の耐食性をさらに向上させるためには、準結晶相の平均円相当径の上限を0.5μmとすることが好ましく、上限を0.4μmとすることがさらに好ましい。
【0061】
また、上記金属被覆層の金属組織は、板厚方向と切断方向とが平行となる断面で見た場合に、円相当径が0.2μm超の結晶粒で構成される粗大領域、および、円相当径が0.2μm以下の結晶粒で構成される微細領域からなるバイモーダル組織であることが好ましい。なお、この粗大領域に含まれる結晶粒の円相当径の上限、および微細領域に含まれる結晶粒の円相当径の下限は、特に限定されない。ただ、粗大領域が大きくなりすぎると、金属組織の分散具合が偏るため、その上限を、10μm、5μm、2μm、または1μmとしてもよい。また、必要に応じて、微細領域の下限を、0μm超または0.01μmとしてもよい。
【0062】
準結晶相の平均円相当径が0.2μm超〜1μmであるとき、上記のバイモーダル組織では、上記の粗大領域が準結晶相と、Zn相、Al相、MgZn相のうちの少なくとも1種以上とを含み、上記の微細領域がMg
51Zn
20相、Zn相、アモルファス相、Mg
32(Zn、Al)
49相のうちの少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0063】
または、準結晶相の平均円相当径が0.01μm〜0.2μmであるとき、上記のバイモーダル組織では、上記の粗大領域がZn相、Al相、MgZn相のうちの少なくとも1種以上を含み、上記の微細領域が準結晶相と、Mg
51Zn
20相、Zn相、アモルファス相、Mg
32(Zn、Al)
49相のうちの少なくとも1種以上とを含むことが好ましい。
【0064】
なお、金属被覆層に含まれるZn相とAl相とが共晶組織を生成していてもよい。Zn相とAl相とが共晶組織を生成する場合、この共晶組織のブロックサイズの平均円相当径が0.2μm超となることが好ましい。
【0065】
金属被覆層の金属組織を、上述のような粗大領域と微細領域とからなるバイモーダル組織へ制御することで、耐食性が好ましく向上する。
【0066】
一般に、バイモーダル組織とは、金属組織に含まれる結晶粒の円相当径などの度数分布が双峰分布となる組織を意味する。本実施形態に係るめっき鋼板でも、金属被覆層の金属組織に含まれる結晶粒の円相当径の度数分布が双峰分布となることが好ましい。ただ、本実施形態に係るめっき鋼板では、必ずしも上記度数分布が双峰分布となる必要がなく、例えば、この度数分布がブロードな分布であっても上記効果が得られる。すなわち、本実施形態でのバイモーダル組織とは、金属被覆層の金属組織に含まれる結晶粒の円相当径の度数分布が正規分布に従わず、かつ、金属被覆層の金属組織が、円相当径が0.2μm以下の結晶粒で構成される微細領域および円相当径が0.2μm超の結晶粒で構成される粗大領域からなることを意味する。
【0067】
また上述したように、本実施形態に係るめっき鋼板の金属被覆層の金属組織に含まれる準結晶相の平均円相当径は、0.01μm〜1μmである。すなわち、この準結晶相の結晶粒を個別に考慮した場合、上記金属被覆層の金属組織には、円相当径が0.2μm以下である準結晶相と、円相当径が0.2μm超である準結晶相とが含まれている。そして、準結晶相の平均円相当径が0.2μm超〜1μmである場合、準結晶相は、主として、上記金属被覆層の上記粗大領域に含まれることとなる。また、準結晶相の平均円相当径が0.01μm〜0.2μmである場合、準結晶相は、主として、上記金属被覆層の上記微細領域に含まれることとなる。
【0068】
粗大領域に含まれる構成相、例えば、Al相、MgZn相などに関しては、これらの平均円相当径が0.2μm超であることが好ましい。この場合、上記金属被覆層の金属組織には、円相当径が0.2μm以下であるこれらの結晶粒と、円相当径が0.2μm超であるこれらの結晶粒とが含まれるが、これらの結晶粒は、主として、上記粗大領域に含まれることとなる。また、Zn相とAl相とが共晶組織を生成する場合、この共晶組織のブロックサイズの平均円相当径が0.2μm超となることが好ましい。この場合、上記金属被覆層の金属組織には、円相当径が0.2μm以下であるブロックと、円相当径が0.2μm超であるブロックとが含まれるが、Zn相とAl相との共晶組織は、主として、上記粗大領域に含まれることとなる。なお、粗大領域に含まれる構成相や共晶組織の平均円相当径の上限は、特に限定されない。必要に応じて、その上限を、10μm、5μm、2μm、または1μmとしてもよい。
【0069】
微細領域に含まれる構成相、例えば、Mg
51Zn
20相、アモルファス相、Mg
32(Zn、Al)
49相などに関しては、これらの平均円相当径が0.01μm〜0.2μmであることが好ましい。この場合、上記金属被覆層の金属組織には、円相当径が0.2μm以下であるこれらの結晶粒と、円相当径が0.2μm超であるこれらの結晶粒とが含まれるが、これらの結晶粒は、主として、上記微細領域に含まれることとなる。
【0070】
金属被覆層の金属組織に含まれるZn相の平均円相当径は、特に限定されない。必要に応じて、その上限を、10μm、5μm、2μm、または1μmとしてもよい。また、必要に応じて、その下限を、0μm超または0.01μmとしてもよい。すなわち、Zn相は、主として上記粗大領域に含まれてもよいし、または、主として上記微細領域に含まれてもよい。
【0071】
図1は、本実施形態に係るめっき鋼板の電子顕微鏡写真であって、切断方向がめっき鋼板の板厚方向と平行である切断面を観察して得た金属組織写真である。この断面写真は、SEM(Scanning Electron Microscope)で観察したものであり、反射電子組成像(COMPO像)である。
図1中で示す1が鋼板であり、2が金属被覆層である。また、
図1中で示す2aが粗大領域であり、2bが微細領域である。この粗大領域2aに、準結晶相、Zn相、Al相、MgZn相のうちの少なくとも1種以上が含まれる。この微細領域2bに、準結晶相、Mg
51Zn
20相、Zn相、アモルファス相、Mg
32(Zn、Al)
49相のうちの少なくとも1種以上が含まれる。この
図1から、金属被覆層の金属組織がバイモーダル組織であることが示される。
【0072】
なお、厳密には、粗大領域2a中に、円相当径が0.2μm以下の微細な金属間化合物や金属相が分散することもある。しかし、このような粗大領域2a中に存在する微細粒は、微細領域2bとはしない。本実施形態における微細領域2bとは、円相当径が0.2μm以下である微細粒が複数個連続して集積し、SEMレベルの観察において、相当の面積で観察される領域とする。
【0073】
図2および
図3は、同実施形態に係るめっき鋼板の金属被覆層の電子顕微鏡写真であって、切断方向がめっき鋼板の板厚方向と平行である切断面を観察して得た金属組織写真である。この断面写真は、TEMで観察したものであり、明視野像である。
図2は、金属被覆層の表面近傍の金属組織写真であり、
図3は、金属被覆層と鋼板との界面近傍の金属組織写真である。
図2および
図3中で、例えば、2aが粗大領域であり、2bが微細領域である。
図2および
図3には、
図1と同様に、金属被覆層の金属組織がバイモーダル組織であることが示される。
【0074】
図4Aは、
図2に示す粗大領域2a内の局所領域2a1から得られた電子線回折像である。
図4Bは、
図2に示す微細領域2b内の局所領域2b1から得られた電子線回折像である。この
図4Aには、正20面体構造に起因する放射状の正10角形の電子線回折像が示される。この
図4Aに示す電子線回折像は、準結晶からのみ得られ、他のいかなる結晶構造からも得ることができない。この
図4Aに示す電子線回折像によって、粗大領域2aに準結晶相が含まれることが確認できる。また、
図4Bには、Mg
51Zn
20相に由来する電子線回折像が示される。この
図4Bに示す電子線回折像によって、微細領域2bにMg
51Zn
20相が含まれることが確認できる。
【0075】
また、
図5Aは、
図3に示す粗大領域2a内の局所領域2a2から得られた電子線回折像である。
図5Bは、
図3に示す微細領域2b内の局所領域2b2から得られた電子線回折像である。この
図5Aに示す電子線回折像によって、粗大領域2aにMgZn相が含まれることが確認できる。また、
図5Bに示す電子線回折像によって、微細領域2bにZn相が含まれることが確認できる。また、図示しないが、粗大領域2aに、Zn相、Al相などが含まれる場合があること、微細領域2bに、準結晶相、アモルファス相、Mg
32(Zn、Al)
49相などが含まれる場合があることを確認した。
【0076】
なお、平均円相当径が例えば1μm以下の準結晶相は非常に微細なため、電子ビームの照射位置によっては、複数の準結晶相からの回折パターンが重なることがある。その場合、明瞭な正10角形の電子線回折像が得られず、アモルファス相に特有のハローパターンに類似の回折パターンが検出される場合がある。よって、準結晶相の同定には注意が必要である。
【0077】
なお、微細領域2bでは、Mg含有量が高い場合にMg
51Zn
20が、Mg含有量が低い場合にMg
32(Zn、Al)
49が多く観察される。また、Zn相、Al相、MgZn相、Mg
51Zn
20相、Mg
32(Zn、Al)
49相、アモルファス相などの金属間化合物や金属相の存在は、上述のようにTEMによる電子線回折像で確認することもできるし、またはXRD(X−Ray Diffractometer)によって確認することも可能である。
【0078】
なお、Mg
51Zn
20相は、JCPDSカード:PDF#00−008−0269、又は、#00−065−4290、もしくは、東らの非特許文献(Journal of solid state chemistry 36,225−233(1981))で同定できる構成相と定義する。また、Mg
32(Zn、Al)
49相は、JCPDSカード:PDF#00−019−0029、又は、#00−039−0951で同定できる構成相と定義する。
【0079】
また、上記した金属間化合物や金属相の化学成分は、TEM−EDXまたはEPMAにより簡易的に定量分析できる。また、この定量分析結果から、構成相中の各結晶粒が、準結晶相、Mg
51Zn
20相、Mg
32(Zn、Al)
49相、Mg
4Zn
7相、MgZn相、Mg相、Zn相、またはその他の相であるのかを簡易的に同定することができる。
【0080】
また、Mg
51Zn
20は、東らの非特許文献(Journal of solid state chemistry 36,225−233(1981))によれば、立方晶に近い単位格子を有し、単位格子中に正20面体を形成する原子構造を有していると報告されている。このMg
51Zn
20の単位格子は、準結晶の正20面体構造と異なるため、厳密には、Mg
51Zn
20と準結晶とは異なる相である。しかし、Mg
51Zn
20および準結晶の結晶構造が類似しているので、Mg
51Zn
20相が準結晶相の生成に影響していると考えられる。また、Mg
32(Zn、Al)
49は、Frank−Kasper相とも呼ばれており、このMg
32(Zn、Al)
49も複雑な原子の立体配置(菱形30面体)を有している。このMg
32(Zn、Al)
49相も、Mg
51Zn
20相と同様に、準結晶相の生成に密接に関連していると推定される。
【0081】
また、微細領域2bに含まれることがあるアモルファス相、準結晶相、Mg
51Zn
20相は、原子配列(結晶構造)が異なるものの、ZnとMgとの比率で代表される化学成分にほとんど違いがない。図示はしないが、準結晶相、Mg
51Zn
20相、アモルファス相の化学成分に大きな違いがないことを、微細領域2bのEDXマッピングによって確認した。これらの準結晶相、Mg
51Zn
20相、アモルファス相は、めっき鋼板の製造時に、平衡相が析出するまえに急冷されて生成する非平衡相であると判断できる。
【0082】
金属被覆層の構成相の耐食性は、準結晶相>Mg
32(Zn、Al)
49相>Mg
51Zn
20相>MgZn相>Al相>Zn相>アモルファス相>>Mg相の順で優れる傾向にある。これらの構成相が混在する場合には、耐食性の高い相の分率を高め、均一分散させることが、金属被覆層の耐食性に有利となる。
【0083】
ただし、金属被覆層中で多種の金属相や金属間化合物が共存すると、カップリングセルの形成により、金属被覆層が単相である場合と比較して、耐食性が低下することがある。一般に、金属被覆層中に複数の相が混入すると、金属被覆層内に電気エネルギー的に貴および卑な部分が生まれ、カップリングセル反応を起こす。そして、卑な部分が先に腐食して耐食性が低下する。ただ、本実施形態に係るめっき鋼板では、金属被覆層が上記のバイモーダル組織である場合、カップリングセル形成による耐食性低下がほとんど見られず無視でき、むしろ準結晶含有による耐食性の向上が顕著にみられる。
【0084】
また、粗大領域に含まれる各構成相の平均円相当径を2μm以下、好ましくは1μm以下としてもよい。この場合、例えば、既存のZn系化成処理を利用することが可能である。金属の塗装下地処理として利用されるZn系りん酸塩処理は、通常、粗大領域に含まれる構成相の粒径が大きくなると、粗大領域上でりん酸結晶が成長しにくくなる。そして、この領域がスケ(化成処理性が悪いために化成結晶が生成しない領域)となって、塗装後の耐食性が著しく低下する恐れがある。一方、粗大領域に含まれる各構成相の平均円相当径を2μm以下、好ましくは1μm以下に制御すれば、りん酸結晶を好ましく成長させることができる。
【0085】
また、一般に、金属間化合物相やアモルファス相は塑性変形性が乏しい。塑性加工性の乏しい粗大な構成相の分率を減少させると、めっき鋼板の加工時に金属被覆層の割れが微細となるため、鋼板(地鉄)の露出面積が小さくなり耐腐食性能が好ましく改善される。また、金属被覆層の剥離も抑制されるため、加工部における赤錆発生までの期間が長くなって耐腐食性能が好ましく改善される。
【0086】
準結晶相は、非平衡相であり熱的に不安定である。そのため、250〜330℃近傍の高温環境に長時間曝されると相分解し、Mg
51Zn
20相に加え、耐食性に乏しいMg相が生成することがある。その結果、めっき鋼板全体としての耐食性を劣化させる可能性がある。めっき鋼板を高温環境下で使用する場合には注意が必要である。
【0087】
また、上述のように、Zn相とAl相とが共晶組織を生成していてもよい。本実施形態にて、Zn相とはZnを95%以上含有する相であり、このZn相には金属被覆層を構成する元素であるMg、Al、Ca等が5%未満固溶している。また、Al相とはAlを33%以上含有する相であり、このAl相にはAl以外に主としてZnが含有され、そして金属被覆層を構成する元素であるMgまたはCa等が少量固溶している。また、Zn相とAl相との共晶組織(Zn―Al共晶)とは、上記のZn相と、上記のAl相との混合相で構成される共晶組織のことをいう。
【0088】
本実施形態に係るめっき鋼板の金属被覆層は、金属被覆層全体の金属組織に対する粗大領域の面積分率(粗大領域の面積÷金属被覆層の面積)が5%〜50%であることが好ましく、また、金属被覆層全体の金属組織に対する微細領域の面積分率(微細領域の面積÷金属被覆層の面積)が50%〜95%であることが好ましい。この条件を満たすとき、金属被覆層の耐食性がさらに向上する。さらに好ましくは、金属被覆層全体の金属組織に対する粗大領域の面積分率を5%〜20%とし、粗大領域の面積分率を5%〜10%としてもよい。
【0089】
本実施形態に係るめっき鋼板の金属被覆層は、準結晶相の平均円相当径が0.2μm超〜1μmである場合、粗大領域に含まれる準結晶相の面積分率が、粗大領域に対して(粗大領域中の準結晶相の面積÷粗大領域の面積)80%〜100%未満であることが好ましく、また、微細領域に含まれるMg
51Zn
20相、Zn相、アモルファス相、およびMg
32(Zn、Al)
49相の合計の面積分率が、微細領域に対して(微細領域中の上記各構成相の合計面積÷微細領域の面積)80%〜100%未満であることが好ましい。一方、準結晶相の平均円相当径が0.01μm〜0.2μmである場合、粗大領域に含まれるZn相、Al相、およびMgZn相の合計の面積分率が、粗大領域に対して(粗大領域中の上記各構成相の合計面積÷粗大領域の面積)80%〜100%未満であり、微細領域に含まれる準結晶相の面積分率が、微細領域に対して(微細領域中の準結晶相の面積÷微細領域の面積)0%超〜10%未満であることが好ましい。これらの条件を満たすとき、金属被覆層の耐食性がさらに向上する。なお、粗大領域の残部、および微細領域の残部には、上記以外の金属間化合物または金属相が含まれる場合があるが、本実施形態の上記効果は損なわれない。
【0090】
本実施形態に係るめっき鋼板では、金属被覆層の金属組織にMg相が含まれないことが好ましい。金属被覆層中に含有されるMg相は、粗大領域、微細領域いずれの領域にあっても耐食性を劣化させるため、極力、Mg相の析出を減らすことが好ましい。Mg相の有無の判定は、TEM−EDXまたはSEM−EDXなどによって確認してもよいし、XRDによって確認してもよい。例えば、XRD回折パターンで、Mg相の(110)面からの回折強度が、Mg
51Zn
20相(またはMg
7Zn
3相)の回折角度:2θ=36.496°における回折強度に対して1%以下ならば、金属被覆層の金属組織にMg相が含まれないと言える。同様に、TEM回折像で、任意の結晶粒を100個以上でサンプリングしたときのMg相の結晶粒の個数分率が3%以下ならば、金属被覆層の金属組織にMg相が含まれないと言える。Mg相の結晶粒の個数分率は2%未満であるとさらに好ましく、Mg相の結晶粒の個数分率が1%未満であると最も好ましい。
【0091】
金属被覆層中で、Mg相は、融点直下の初晶として生成しやすい。初晶としてMg相が生成するかどうかは、金属被覆層の化学成分および製造条件によってほぼ決まる。Mg−Zn二元系平衡状態図の共晶組成(Mg72%−Zn28%)よりMg含有量が高い場合、Mg相が初晶として晶出する可能性がある。一方、この値よりMg含有量が低い場合は、原理的にはMg相が初晶として晶出する可能性が小さい。また、本実施形態に係る製造プロセスは、初晶として準結晶を生成させるものであるため、共晶組成よりMg含有量が高くても、極めてMg相が生成しにくく、また確認できたとしても主相としてMg相が存在する可能性が小さい。Mg相の結晶粒の存在は、個数分率で、最大3%程度である。また、本発明者らが確認した場合、Zn含有量が28.5%以上のとき、金属被覆層の金属組織に含まれる結晶粒に対して、Mg相の結晶粒が、個数分率で、2%未満となる傾向にある。また、Zn含有量が33%以上のとき、金属被覆層の金属組織に含まれる結晶粒に対して、Mg相の結晶粒が、個数分率で、1%未満となる傾向にある。なお、Mg相が金属被覆層に存在すると、特に、湿潤環境中で経時的に金属被覆層の表面が黒色に変化し、めっき外観不良を引き起こす場合がある。この点から、特に金属被覆層の表層においてMg相の混入を避けることが好ましい。金属被覆層の表面が黒色に変化する外観不良は、めっき鋼板を恒温恒湿槽に一定期間保管することで、その発生状況を判断することが可能である。
【0092】
本実施形態に係るめっき鋼板の金属被覆層は、板厚方向と切断方向とが平行となる断面で見た場合に、金属被覆層の板厚方向の厚さを単位μmでDとし、金属被覆層の表面から板厚方向に沿って鋼板に向かう0.05×Dまでの範囲を金属被覆層最表部とし、鋼板と金属被覆層との界面から板厚方向に沿って金属被覆層に向かう0.05×Dまでの範囲を金属被覆層最深部とするとき、金属被覆層最表部に対する粗大領域の面積分率(金属被覆層最表部中の粗大領域の面積÷金属被覆層最表部の面積)が7%〜100%未満であり、かつ金属被覆層最深部に対する粗大領域の面積分率(金属被覆層最深部中の粗大領域の面積÷金属被覆層最深部の面積)が7%〜100%未満であることが好ましく、また、金属被覆層の金属被覆層最表部および金属被覆層最深部以外の範囲を金属被覆層本体部とするとき、金属被覆層本体部に対する微細領域の面積分率(金属被覆層本体部中の微細領域の面積÷金属被覆層本体部の面積)が50%〜100%未満であることが好ましい。この条件を満たすとき、金属被覆層に含まれる構成相が好ましい配置となるので、金属被覆層の耐食性がさらに向上する。加えて、金属被覆層の密着性が向上する傾向にある。なお、粗大領域中の結晶粒が金属被覆層最表部と金属被覆層本体部とにまたがる位置に存在する場合、または粗大領域中の結晶粒が金属被覆層最深部と金属被覆層本体部とにまたがる位置に存在する場合、その結晶粒のうちの金属被覆層最表部または金属被覆層最深部に含まれる面積を用いて、上記の面積分率を算出すればよい。同様に、微細領域中の結晶粒が金属被覆層最表部と金属被覆層本体部とにまたがる位置に存在する場合、または微細領域中の結晶粒が金属被覆層最深部と金属被覆層本体部とにまたがる位置に存在する場合、その結晶粒のうちの金属被覆層本体部に含まれる面積を用いて、上記の面積分率を算出すればよい。
【0093】
本実施形態に係るめっき鋼板は、Fe−Al含有合金層をさらに有し、Fe−Al含有合金層が鋼板と金属被覆層との間に配され、Fe−Al含有合金層がFe
5Al
2またはAl
3.2Feのうちの少なくとも1種以上を含み、Fe−Al含有合金層の板厚方向の厚さが10nm〜1000nmであることが好ましい。鋼板と金属被覆層との界面に、上記条件を満たすFe−Al含有合金層が配されると、金属被覆層の剥離が好ましく抑制される。また、このFe−Al含有合金層が形成されると金属被覆層の密着性が向上する傾向にある。
【0094】
本実施形態に係るめっき鋼板の金属被覆層の厚さDは、特に限定されない。この厚さDは、必要に応じて制御すればよい。一般的に、この厚さDは35μm以下となることが多い。
【0095】
上記した金属被覆層の金属組織は、次のように観察する。板厚方向と切断方向とが平行になる切断面が観察面となるように、めっき鋼板を切断して試料を採取する。この切断面を研磨、またはCP(Cross Section Polisher)加工する。研磨した場合は、この断面をナイタールエッチングする。光学顕微鏡またはSEMでこの断面を観察し、金属組織写真を撮影する。また、SEMで観察された断面が
図1に示すようにCOMPO像であれば、粗大領域と微細領域とで化学成分が異なることに起因してコントラストが大きく異なるので、粗大領域と微細領域との境界が判別しやすい。なお、構成相の化学成分は、EDXまたはEPMAによる分析によって測定することができる。この化学成分結果から、構成相を簡易的に同定することができる。この金属組織写真を、例えば画像解析で2値化し、金属被覆層の白色部、もしくは黒色部の面積率を測定することによって、構成相の面積分率を測定できる。また、求められた個別の粗大領域の面積より、平均円相当径を計算により求めることができる。または、EBSD(Electron Back Scattering Diffraction Pattern)法によって金属被覆層の金属組織を観察し、構成相を同定し、構成相の面積分率および平均円相当径を求めてもよい。
【0096】
さらに詳しく構成相を同定するには、金属被覆層の金属組織を次のように観察する。板厚方向と切断方向とが平行になる切断面が観察面となるように、めっき鋼板を切断して薄片試料を採取する。この薄片試料にイオンミリング法を施す。または、板厚方向と切断方向とが平行になる切断面が観察面となるように、めっき鋼板をFIB(Focused Ion Beam)加工して薄片試料を採取する。TEMで、これらの薄片試料を観察し、金属組織写真を撮影する。構成相は、電子線回折像によって正確に同定することができる。この金属組織写真を画像解析することによって、構成相の面積分率および平均円相当径を求めることができる。
【0097】
また、空間的な存在状態はわからないが、最も簡易的には、金属被覆層のXRDの回折ピークから構成相の存在を確認することも可能である。ただし、準結晶、Mg
51Zn
20、Mg
32(Zn、Al)
49は互いに回折ピーク位置が重なるため、存在は確認できるが判別することが困難である。
【0098】
金属被覆層中の構成相、例えば、Zn相、Al相、MgZn相、準結晶相、又はZn―Al共晶の面積分率および平均円相当径は、金属被覆層の上記断面の6μm×100μmの領域を3箇所でEPMAマッピング像を撮影して求めてもよい。
【0099】
なお、本実施形態に係るめっき鋼板として、めっき鋼板の母材となる鋼板は特に限定されない。鋼板として、Alキルド鋼、極低炭素鋼、高炭素鋼、各種高張力鋼、Ni、Cr含有鋼等が使用可能である。
【0100】
次に、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法について説明する。
【0101】
本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法は、鋼板の表面に金属被覆層を形成するために、上記鋼板を成分が調整された溶融めっき浴に浸漬する溶融めっき工程と、上記金属被覆層の液相線温度を単位℃でT
meltとし、上記金属被覆層が固相と液相との共存状態でありかつ上記金属被覆層に対する上記固相の体積比(固相の体積÷金属被覆層の体積)が0.01〜0.1となる温度範囲を単位℃でT
solid−liquidとするとき、上記金属被覆層の温度がT
melt+10℃からT
solid−liquidに至る温度範囲にて上記金属被覆層の平均冷却速度が15℃/秒〜50℃/秒となる条件で、上記溶融めっき工程後の上記鋼板を冷却する第1冷却工程と、上記金属被覆層の温度が第1冷却工程の冷却終了時の温度から250℃に至る温度範囲にて上記金属被覆層の平均冷却速度が100℃/秒〜3000℃/秒となる条件で、上記第1冷却工程後の上記鋼板を冷却する第2冷却工程と、を備える。
【0102】
なお、金属被覆層の液相線温度であるT
meltの値は、例えば、
図7に示すように、Liangらの非特許文献(Liang,P.,Tarfa,T.,Robinson,J.A.,Wagner,S.,Ochin,P.,Harmelin,M.G.,Seifert,H.J.,Lukas,H.L.,Aldinger,F.,“Experimental Investigation and Thermodynamic Calculation of the Al−Mg−Zn System”,Thermochim.Acta,314,87−110 (1998))にて開示されている液相線温度(液相面温度)を使用して求めることができる。このように、T
meltの値は、金属被覆層中に含有される、Zn、Al、Mg比率より、ほぼ推定可能である。
【0103】
T
solid−liquidの値は、合金状態図から一義的に求めることが可能である。具体的には、金属被覆層の化学成分と対応する合金状態図を用いて、天びんの法則より複数相共存中の各構成相の体積比(体積分率)を求めることができる。すなわち、合金状態図を用いて、固相の体積比が0.01となる温度と、固相の体積比が0.1となる温度とを求めればよい。本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法では、合金状態図を用いて、T
solid−liquidの値を求めてもよい。その際、合金状態図として、熱力学計算システムに基づいた計算状態図を用いてもよい。ただ、合金状態図はあくまでも平衡状態を表しているので、合金状態図から求めた構成相比と、冷却中の金属被覆層内の実施の構成相比とが、正確に一致するわけでない。本発明者らは、冷却中の金属被覆層が固相と液相との共存状態でありかつ金属被覆層に対する固相の体積比が0.01〜0.1となる温度範囲であるT
solid−liquidについて鋭意検討した結果、次式、{345+0.8×(T
melt−345)}−1≦T
solid−liquid<T
meltによって、T
solid−liquidを経験的に求めることができることを見出した。よって、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法では、T
solid−liquidの値を、この式から求めてもよい。
【0104】
溶融めっき工程では、鋼板の表面に形成される金属被覆層の化学成分が、原子%で、Zn:28.5%〜52%、Al:0.5%〜10%、Ca:0%〜3.5%、Y:0%〜3.5%、La:0%〜3.5%、Ce:0%〜3.5%、Si:0%〜0.5%、Ti:0%〜0.5%、Cr:0%〜0.5%、Fe:0%〜2%、Co:0%〜0.5%、Ni:0%〜0.5%、V:0%〜0.5%、Nb:0%〜0.5%、Cu:0%〜0.5%、Sn:0%〜0.5%、Mn:0%〜0.2%、Sr:0%〜0.5%、Sb:0%〜0.5%、Pb:0%〜0.5%を含有し、残部がMg及び不純物からなるように、めっき浴の化学成分を調整する。
【0105】
なお、本実施形態では、一例として、溶融めっき工程を選択した。しかし、鋼板の表面に金属被覆層を形成する方法は、上記化学成分の金属被覆層を鋼板の表面に形成できるのであれば制限されない。溶融めっき法の他、溶射法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、蒸着法、電気めっき法を適用してもよい。
【0106】
溶融めっき工程によって鋼板の表面に形成された金属被覆層は、めっき浴からの引き上げ直後、溶融状態(液相)である。この溶融状態の金属被覆層を本実施形態に特有の第1冷却工程と第2冷却工程とによって冷却することで、金属被覆層を準結晶が含有される上記の金属組織に制御することができる。
【0107】
また、溶融めっき工程以外の金属被覆層の形成方法を選択した場合には、金属被覆層を形成しためっき鋼板を加熱炉にて再加熱し、金属被覆層のみを溶融した後に、本実施形態に特有の第1冷却工程と第2冷却工程とによって冷却することで、金属被覆層を準結晶が含有される上記の金属組織に制御することができる。
【0108】
MgおよびZnを主成分とする金属被覆層の融点と、母材である鋼板の融点とは全く異なる。よって、金属被覆層のみを溶融させる温度および時間は、当業者であれば容易に最適化して決定することが可能である。
【0109】
例えば、700℃で加熱すれば金属被覆層は完全に溶融し、母材である鋼板は溶融しない。特に、高温雰囲気による急速加熱は、雰囲気に接触するめっき鋼板の金属被覆層を優先的に加熱するので好ましい。
【0110】
また、溶融めっき工程では、上記鋼板を浸漬するときの雰囲気の酸素濃度が体積比で0ppm〜100ppmであり、上記めっき浴を保持するめっき槽が鋼製であり、上記めっき浴の温度であるT
bathがT
meltより10℃〜100℃高く、上記鋼板が上記めっき浴中に浸漬される時間が1秒〜10秒であることが好ましい。
【0111】
上記酸素濃度が体積比で100ppm以下であるとき、めっき浴の酸化を好ましく抑制することができる。酸素濃度が体積比で50ppm以下であるとさらに好ましい。上記めっき槽が鋼製であるとき、めっき浴中の介在物が低減されるので、金属被覆層の金属組織に準結晶が好ましく生成される。また、上記めっき槽が鋼製であるとき、めっき槽がセラミック製である場合と比較して、めっき槽の内壁の損耗を抑制できる。めっき浴の温度であるT
bathがT
meltより10℃〜100℃高いとき、金属被覆層が鋼板の表面に好ましく形成され、またFe−Al含有合金層が鋼板と金属被覆層との間に形成される。また、上記めっき浴の温度であるT
bathは、T
meltより30℃〜50℃高いことがさらに好ましい。鋼板がめっき浴中に浸漬される時間が1秒〜10秒であるとき、金属被覆層が鋼板上に好ましく形成され、またFe−Al含有合金層が鋼板と金属被覆層との間に形成される。また、鋼板が上記めっき浴中に浸漬される時間は2秒〜4秒であることがさらに好ましい。
【0112】
第1冷却工程では、金属被覆層の温度が、金属被覆層の液相線温度であるT
melt+10℃から、金属被覆層中(液相+固相)に対する固相の体積比が0.01〜0.1となる温度範囲であるT
solid−liquidに至るときの、金属被覆層の平均冷却速度を制御することが重要である。第1冷却工程では、この平均冷却速度が15℃/秒〜50℃/秒となるように制御して、金属被覆層が形成された鋼板を冷却する。
【0113】
もしくは、第1冷却工程の冷却を以下の条件で行ってもよい。T
melt≧T
solid−liquid+10℃の場合、金属被覆層の温度がT
meltからT
solid−liquidに至る温度範囲にて金属被覆層の平均冷却速度が15℃/秒〜50℃/秒となる条件で、溶融めっき工程後の鋼板を冷却してもよい。T
melt<T
solid−liquid+10℃の場合、T
solid−liquid+10℃からT
solid−liquidに至る温度範囲にて金属被覆層の平均冷却速度が15℃/秒〜50℃/秒となる条件で、溶融めっき工程後の鋼板を冷却してもよい。
【0114】
この第1冷却工程での冷却によって、冷却開始前に溶融状態(液相)である金属被覆層中に、初晶として、Zn相、準結晶相、MgZn相、またはAl相のうちの少なくとも1種が晶出する。晶出したこのZn相、準結晶相、MgZn相、またはAl相が、最終的に、粗大領域に含まれる構成相となる。なお、このZn相とAl相とが共晶組織を生成してもよい。この共晶組織のブロックサイズの平均円相当径が0.2μm超となり、粗大領域となることが好ましい。
【0115】
第1冷却工程での平均冷却速度が15℃/秒未満であると、本来、非平衡相として生成する準結晶相の冷却速度に達しないため、準結晶が生成しづらくなる。また、Zn相、Al相、またはMgZn相を主に含む粗大領域が生成されにくくなる。一方、第1冷却工程での平均冷却速度が50℃/秒を超えると、準結晶相、Zn相、MgZn相、Al相等の平均円相当径が0.2μmに達しないものが多くなる。また、粗大領域が形成せず、上記したバイモーダル組織とならない場合がある。また極端に冷却速度が大きい場合は、アモルファス相が過剰に生成してしまうため、第1冷却工程での平均冷却速度の上限を50℃/秒とする。
【0116】
第1冷却工程で、T
melt+10℃よりも低い温度から金属被覆層の平均冷却速度を上記条件に制御した場合(T
melt≧T
solid−liquid+10℃のときにT
meltよりも低い温度から制御した場合、またはT
melt<T
solid−liquid+10℃のときにT
solid−liquid+10℃よりも低い温度から制御した場合)、金属被覆層中に晶出する初晶をZn相、準結晶相、MgZn相、またはAl相とすることができない。また、T
solid−liquidよりも高い温度で上記平均冷却速度の上記条件への制御をやめた場合、またはT
solid−liquidよりも低い温度まで上記平均冷却速度を上記条件に制御した場合、Zn相、Al相、準結晶相、MgZn相、またはZn―Al共晶の平均円相当径と面積分率とを好ましく制御することがでない。また、上記した粗大領域および微細領域からなるバイモーダル組織へ制御することができない場合がある。また、金属被覆層中の液相に対する固相の体積比が0.01〜0.1とならない温度を基準として第1冷却工程での冷却を行った場合、Zn相、Al相、またはZn―Al共晶の平均円相当径と面積分率とを好ましく制御することができない。また、上記した粗大領域および微細領域からなるバイモーダル組織へ制御することができない場合がある。また、第1冷却工程での金属被覆層の平均冷却速度が15℃/秒未満または50℃/秒超の場合、Zn相、Al相、準結晶相、MgZn相、またはZn―Al共晶が粗大領域とならない場合がある。
【0117】
第2冷却工程では、金属被覆層の温度が、第1冷却工程の冷却終了時の温度から、すなわちT
solid−liquid内である第1冷却終了温度から、250℃に至るときの、金属被覆層の平均冷却速度を制御することが重要である。この平均冷却速度が100℃/秒〜3000℃/秒となるように制御して、第1冷却工程後の鋼板を冷却する。上記温度範囲の下限は、好ましくは200℃、さらに好ましくは150℃、最も好ましくは100℃である。
【0118】
この第2冷却工程での冷却によって、初晶としてZn相、準結晶相、MgZn相、またはAl相が晶出して固相と液相とが共存状態である金属被覆層中に、より微細な準結晶相、Mg
51Zn
20相、Zn相、アモルファス相、またはMg
32(Zn、Al)
49相のうちの少なくとも1種とが晶出する。晶出したこの準結晶相、Mg
51Zn
20相、Zn相、アモルファス相、またはMg
32(Zn、Al)
49相が、最終的に、微細領域に含まれる構成相となることが好ましい。
【0119】
第2冷却工程で、T
solid−liquidよりも高い温度から、またはT
solid−liquidよりも低い温度から上記平均冷却速度を上記条件に制御した場合、Zn相、Al相、準結晶相、MgZn相、またはZn―Al共晶の平均円相当径と面積分率とを好ましく制御することができない。また、上記した粗大領域および微細領域からなるバイモーダル組織へ制御することができない場合がある。また、250℃よりも高い温度で上記平均冷却速度の上記条件への制御をやめた場合、非平衡相である準結晶相、Mg
51Zn
20相、Mg
32(Zn、Al)
49相が相分解することがある。また、上記した粗大領域および微細領域からなるバイモーダル組織へ制御することができない場合がある。また、第2冷却工程での上記平均冷却速度が100℃/秒未満の場合、準結晶相、Mg
51Zn
20相、Zn相、アモルファス相、またはMg
32(Zn、Al)
49相が生成されないか、極端にMg相の多い金属組織となる。また、準結晶相、Mg
51Zn
20相、Zn相、アモルファス相、またはMg
32(Zn、Al)
49相が微細領域とならない場合がある。第2冷却工程での上記平均冷却速度が3000℃/秒超の場合、アモルファス相が過剰に生成し、上記したバイモーダル組織へ制御できない場合がある。
【0120】
上記のように、金属被覆層の液相線温度であるT
meltは、Zn、Al―Mg3元系液相面図から求めてもよい。また、金属被覆層に対する固相の体積比が0.01〜0.1となる温度範囲であるT
solid−liquidは、次式、{345+0.8×(T
melt−345)}−1≦T
solid−liquid<T
meltから求めてもよい。金属被覆層に対する固相の体積比が0.01〜0.1となる温度範囲内で、第1冷却工程での冷却を終了する理由は、この温度範囲近傍で固相が爆発的に増加するためである。{345+0.8×(T
melt−345)}を基準として、冷却の制御を行うことで、構成相の平均円相当径と面積分率とを好ましく制御することができる。このように、上記した金属被覆層の形成のためには、精密な温度制御が必要となる。
【0121】
本実施形態に係るめっき鋼板製造の際の金属被覆層の温度の実測方法は、接触式の熱電対(K−type)を用いればよい。接触式の熱電対を原板に取り付けることで、金属被覆層全体の平均温度を常にモニタリングできる。機械的に、引き上げ速度、厚み制御を行い、鋼板の予熱温度、溶融めっき浴温度等を統一すれば、その製造条件におけるその時点での金属被覆層全体の温度をほぼ正確にモニタリングすることが可能となる。そのため、第1冷却工程および第2冷却工程での冷却を精密に制御することが可能となる。なお、接触式ほど、正確ではないが、金属被覆層の表面温度は、非接触式の放射温度計によって測定してもよい。
【0122】
また、熱伝導解析を行う冷却シミュレーションによって、金属被覆層の表面温度と金属被覆層全体の平均温度との関係を求めておいてもよい。具体的には、鋼板の予熱温度、溶融めっき浴温度、めっき浴からの鋼板の引き上げ速度、鋼板の板厚、金属被覆層の層厚、金属被覆層と製造設備との熱交換熱量、金属被覆層の放熱量などの各製造条件に基づいて、金属被覆層の表面温度および金属被覆層全体の平均温度を求めればよい。そして、金属被覆層の表面温度と金属被覆層全体の平均温度との関係を求めればよい。その結果、めっき鋼板の製造時に金属被覆層の表面温度を実測することで、その製造条件におけるその時点での金属被覆層全体の平均温度が類推することが可能となるので、第1冷却工程および第2冷却工程での冷却を精密に制御することが可能となる。
【0123】
第1冷却工程および第2冷却工程での冷却方法は、特に制限されない。冷却方法として、整流化した高圧ガス冷却、ミスト冷却、水没冷却を行えばよい。ただ、金属被覆層の表面状態や準結晶の生成を好ましく制御するためには、整流化した高圧ガスによる冷却が好ましい。H
2、Heを利用すると冷却速度が上昇する。
【0124】
本実施形態で適用する溶融めっき法は、ゼンジミア法、プレめっき法、2段めっき法、フラックス法等、公知のすべてのめっき法が適用可能である。プレめっきには、置換めっき、電気めっき、蒸着法等を利用することが可能である。
【0125】
本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法として、めっき鋼板の母材となる鋼材は特に限定されない。上記効果は、鋼材の化学成分に影響されず、Alキルド鋼、極低炭素鋼、高炭素鋼、各種高張力鋼、Ni、Cr含有鋼等が使用可能である。
【0126】
また、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法では、溶融めっき工程前の、製鋼工程、熱間圧延工程、酸洗工程、冷間圧延工程などの各工程も特に限定されない。すなわち、溶融めっき工程に供される鋼板の製造条件や、この鋼板の材質についても特に限定されない。
【0127】
ただ、溶融めっき工程に供される鋼板は、その表面と内部とに温度差を有していることが好ましい。具体的には、めっき浴に浸漬される直前の鋼板は、その表面の温度が、内部の温度よりも高いことが好ましい。例えば、めっき浴に浸漬される直前の鋼板の表面温度は、鋼板の板厚方向の中心の温度よりも、10℃〜50℃だけ高いことが好ましい。この場合、めっき浴からの引き上げ直後に、金属被覆層が鋼板によって抜熱されるので、金属被覆層を準結晶が含有される上記の金属組織に好ましく制御することができる。めっき浴に浸漬される直前の鋼板に、表面と内部との温度差を生じさせる方法は特に限定されない。例えば、めっき浴に浸漬される直前の鋼板を、高温雰囲気によって急速加熱して、鋼板の表面温度だけを溶融めっきするために好ましい温度に制御すればよい。この場合、鋼板の表面領域だけが優先的に加熱され、鋼板の表面と内部とに温度差を有した状態でめっき浴に浸漬させることができる。
【0128】
金属被覆層の耐食性を評価するためには、実環境での金属被覆層の耐食性を評価することが可能である暴露試験が最も好ましい。一定期間中に金属被覆層の腐食減量を評価することで耐食性の優劣を評価することが可能である。
【0129】
耐食性が高い金属被覆層の耐食性を比較する場合には、長期の耐食性試験を実施することが好ましい。赤錆発生までの期間の大小で、その耐食性を評価する。また、耐食性を評価する際は、鋼板の防食期間についても考慮することが重要である。
【0130】
より簡便に耐食性を評価するために、複合サイクル腐食試験機や塩水噴霧試験等の腐食促進試験を使用することができる。腐食減量や赤錆防錆期間を評価することで、耐食性の優劣を判断できる。耐食性が高い金属被覆層の耐食性を比較する場合には、高濃度5%前後のNaCl水溶液を使用した腐食促進試験を使用することが好ましい。濃度の薄い(1%以下)NaCl水溶液を使用すると耐食性の優劣がつきにくい。
【0131】
金属被覆層上に、さらに、有機、無機化成処理を行ってもよい。本実施形態に係る金属被覆層は、金属被覆層中に一定含有量以上のZnを含むため、Zn基めっき鋼板と同様の化成処理を行うことが可能である。化成処理皮膜上の塗装についても同様である。また、ラミネート鋼板の原板としても利用することも可能である。
【0132】
本実施形態に係るめっき鋼板の用途としては、特に腐食環境が厳しい場所での利用が考えられる。建材、自動車、家電、エネルギー分野などに利用されている各種めっき鋼板の代用として利用できる。
【実施例1】
【0133】
次に、実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に詳細に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0134】
表1及び表2に示す製造条件の溶融めっき工程、第1冷却工程、および第2冷却工程によって、準結晶含有めっき鋼板を製造した。めっき浴は、所定量の各純金属インゴットを溶解して得た。めっき浴は、シーリングボックスで覆い、そしてArガス置換を行うことで、所定の酸素濃度に制御した。
【0135】
めっきの原板(めっき鋼板の母材となる鋼板)として、板厚0.8mmの熱延鋼板(炭素含有量:0.2質量%)を用いた。鋼板は、100mm×200mmに切断した。溶融めっきは、バッチ式の溶融めっき試験装置を使用した。製造中のめっき鋼板の温度は、鋼板の中心部をモニタリングした。
【0136】
鋼板をめっき浴に浸漬する前、酸素濃度を制御した炉内においてN
2−5%H
2ガスで、800℃に加熱した鋼板の表面を還元した。この鋼鈑をN
2ガスで空冷し、鋼板の表面温度がめっき浴の浴温より20℃高い温度に到達した後、鋼板をめっき浴に所定の時間だけ浸漬した。めっき浴への浸漬後、鋼板を引上速度100mm/秒で引上げた。引上げ時、吹出し口を平行スリットで整流化した高圧のN
2ガスまたはH
2とN
2との混合ガスを吹き付けて、めっき付着量(金属被覆層の厚さ)と冷却速度の制御とを行った。
【0137】
作製しためっき鋼板中の任意の10箇所から、20(C方向:板幅方向)mm×15(L方向:圧延方向)mmのサンプルを採取した。これらを、10%HCl水溶液に1秒間浸漬して酸化被膜を除去した。各サンプルの切断面(切断方向と板厚方向とが平行)の金属組織をSEMで観察し、各構成相(各結晶粒)の円相当径や面積分率を測定し、そして平均値を算出した。なお、各構成相の円相当径や面積分率は、画像解析によって求めた。また、構成相の化学成分は、EPMAによる分析によって測定した。
【0138】
また、10サンプルのうちの任意の3サンプルの金属組織を光学顕微鏡(×1000倍)で観察し、目的箇所にビッカース跡を付与した。このビッカース跡を基準にして、8mm角のサンプルを切り出した。各サンプルよりTEM観察用サンプルをクライオイオンミリング法により作製した。
【0139】
TEMで観察された主要な結晶粒の電子線回折像を解析し、金属組織中に含有される構成相(準結晶、Zn、Al、MgZn、Mg
51Zn
20、Mg
32(Zn、Al)
49、アモルファス相など)を同定した。また、必要に応じて、各構成相の円相当径や面積分率を画像解析によって求め、各構成相の化学成分をEDXによる分析によって測定した。Mg相の有無の判定は、XRDによって確認した。XRD回折パターンでMg相の回折強度が規定よりも小さい場合に、金属被覆層の金属組織にMg相が含まれないと判断した。
【0140】
製造しためっき鋼板の耐食性、犠牲防食性、防眩効果、および外観を評価した。なお、耐食性として、腐食減量、赤錆発生、白錆発生、加工部での赤錆発生、および塗装後耐食性の評価を行った。
【0141】
腐食減量は、JASO(M609−91)サイクルに準拠した腐食促進試験(CCT:Combined cycle Corrosion Test)によって評価した。具体的には、腐食減量評価のために、製造しためっき鋼板より50(C方向)mm×100(L方向)mmのサンプルを切り出し、腐食促進試験に供した。0.5%NaCl水溶液を使用して腐食促進試験(CCT)を行い、150サイクル後の腐食減量を評価した。
【0142】
腐食減量評価として、腐食減量が20g/m
2未満のめっき鋼板を「Excellent」、腐食減量が20g/m
2〜30g/m
2未満のめっき鋼板を「Good」、そして腐食減量が30g/m
2以上のめっき鋼板を「Poor」と判断した。なお、「Excellent」が最も腐食減量評価で優れることを表す。
【0143】
赤錆発生は、上記した腐食促進試験(CCT)によって評価した。具体的には、製造しためっき鋼板を用いて5%NaCl水溶液による腐食促進試験(CCT)を行い、めっき鋼板の平面部に面積%で5%超の赤錆が発生する試験サイクル数を調査した。
【0144】
赤錆発生評価として、300サイクル後に上記赤錆が確認されないめっき鋼板を「Excellent」、150サイクル後に上記赤錆が確認されないめっき鋼板を「Very Good」、100サイクル後に上記赤錆が確認されないめっき鋼板を「Good」、そして100サイクル未満で上記赤錆が確認されためっき鋼板を「Poor」と判断した。なお、「Excellent」が最も赤錆発生評価で優れることを表す。
【0145】
白錆発生は、JIS Z2371:2000に準拠した塩水噴霧試験(SST:Salt Spray Test)によって評価した。具体的には、製造しためっき鋼板を用いて5%NaCl水溶液による塩水噴霧試験(SST)を行い、めっき鋼板の平面部に面積%で5%超の白錆が発生する試験経過時間を調査した。
【0146】
白錆発生評価として、120時間経過後に上記白錆が確認されないめっき鋼板を「Excellent」、24時間経過後に上記白錆が確認されないめっき鋼板を「Good」、そして24時間未満で上記白錆が確認されためっき鋼板を「Poor」と判断した。なお、「Excellent」が最も白錆発生評価で優れることを表す。
【0147】
加工部の赤錆発生は、深絞り加工を施しためっき鋼板を用いて、JASO(M609−91)サイクルに準拠した腐食促進試験(CCT:Combined cycle Corrosion Test)によって評価した。具体的には、製造しためっき鋼板を用いて、ポンチ径φ50mm、ダイス肩R10mm、ポンチ肩R10mm、絞り比2.0、しわ押さえ圧0.5トンの条件で、カップ形状に深絞り加工(円筒絞り加工)を実施した。このめっき鋼板を用いて腐食促進試験を行い、めっき鋼板の加工部に面積%で5%超の赤錆が発生する試験サイクル数を調査した。
【0148】
加工部の赤錆発生評価として、60サイクル後に上記赤錆が確認されないめっき鋼板を「Excellent」、30サイクル後に上記赤錆が確認されないめっき鋼板を「Good」、そして30サイクル未満で上記赤錆が確認されためっき鋼板を「Poor」と判断した。なお、「Excellent」が最も加工部の赤錆発生評価で優れることを表す。
【0149】
塗装後耐食性は、以下に示す条件の試験によって評価した。具体的には、製造しためっき鋼板をりん酸亜鉛系化成処理(サーフダイン:SD5350、日本ペイント社製)し、その後、電着塗装(PN110グレー:日本ペイント社製)して、さらに塗装鋼板の表面にカッターナイフで10mmの長さの地鉄に到達するカット疵を与えた。このカット疵を有する塗装鋼板を用いて複合サイクル腐食試験(JASO M609−91)にて240サイクルで腐食させ、240サイクル後でのカット疵周囲の塗膜膨れ幅を評価した。
【0150】
塗装後耐食性評価として、240サイクル後に平面部でブリスターがなく、かつカット疵からの塗膜膨れ幅が2mm以内のめっき鋼板を「Excellent」、ブリスターがなく、かつカット疵からの塗膜膨れ幅が3mm以内のめっき鋼板を「Very Good」、ブリスターがなく、かつカット疵からの塗膜膨れ幅が5mm以内のめっき鋼板を「Good」、そしてブリスターが1箇所以上観察されたか、もしくは、カット疵からの塗膜膨れ幅が5mm超のめっき鋼板を「Poor」と判断した。なお、「Excellent」が最も塗装後耐食性評価で優れることを表す。
【0151】
犠牲防食性は、電気化学的手法によって評価した。具体的には、製造しためっき鋼板を0.5%NaCl水溶液中に浸漬し、Ag/AgCl参照電極を用いて製造しためっき鋼板の腐食電位を測定した。この場合、Feの腐食電位は、約―0.62Vを示す。
【0152】
犠牲防食性評価として、Ag/AgCl基準電極に対して、腐食電位が―1.0〜―0.8Vとなるめっき鋼板を「Excellent」、そして腐食電位が―1.0〜―0.8Vとならないめっき鋼板を「Poor」と判断した。なお、「Excellent」が鉄との電位差が小さく、適度に犠牲防食作用が働き優れることを表す。
【0153】
防眩効果は、分光測色法によって評価した。本来は目視による評価が好ましいが、目視と色彩計によるL
*値とに相関性があることを予め確認した上で、分光測色計(D65光源、10°視野)を用いてSCI(正反射光込み)方式で評価した。具体的には、製造しためっき鋼板を、コニカミノルタ製の分光測色計CM2500dを用いて、測定径8φ、10°視野、D65光源の条件で、L
*値を調査した。
【0154】
防眩効果として、L
*値が75未満となるめっき鋼板を「Excellent」、そしてL
*値が75未満とならないめっき鋼板を「Poor」と判断した。なお、「Excellent」が防眩効果に優れることを表す。
【0155】
めっき鋼板の外観は、恒温恒湿槽内での保管試験によって評価した。具体的には、製造しためっき鋼板を、温度40℃および湿度95%の恒温恒湿槽内で72時間保管し、保管後めっき鋼板の平面部での黒変部分の面積%を調査した。
【0156】
外観評価として、評価面積45mm×70mmに対して、面積%で、黒変部分が1%未満のめっき鋼板を「Excellent」、黒変部分が1%〜3%未満のめっき鋼板を「Good」、そして黒変部分が3%以上のめっき鋼板を「Poor」と判断した。なお、「Excellent」が最も外観評価で優れることを表す。
【0157】
めっき鋼板のパウダリング特性は、円筒絞り加工の前後でのめっき鋼板の質量変化によって評価した。具体的には、製造しためっき鋼板を用いて、φ90ブランクからφ50ポンチ絞り(絞り比2.2、低粘土油塗布)で円筒絞り加工を実施した。円筒絞り加工後、めっき鋼板の内面部のテープ剥離を行い、試験前後の質量変化を測定した。質量変化の評価には、合計10回の試験の平均値を使用した。
【0158】
パウダリング特性評価として、パウダリング量(g/m
2)がめっき付着量(g/m
2)に対して、1/2000以下のめっき鋼板を「Excellent」、1/1000以下のめっき鋼板を「Good」、1/1000超のめっき鋼板を「Poor」と判断した。なお、「Excellent」が最もパウダリング特性評価で優れることを表す。
【0159】
上記した製造条件、製造結果、および評価結果を、表1〜12に示す。なお、表中で、下線付き数値は本発明の範囲外であることを示し、空欄は合金元素を意図的に添加していないことを示す。
【0160】
実施例であるNo.1〜23は、何れもが、本発明の範囲を満足し、耐食性と犠牲防食性とに優れためっき鋼板となっている。一方、比較例であるNo.1〜16は、本発明の条件を満たさなかったため、耐食性または犠牲防食性が十分でなかった。
【0161】
【表1】
【0162】
【表2】
【0163】
【表3】
【0164】
【表4】
【0165】
【表5】
【0166】
【表6】
【0167】
【表7】
【0168】
【表8】
【0169】
【表9】
【0170】
【表10】
【0171】
【表11】
【0172】
【表12】
この準結晶含有めっき鋼板は、鋼板とこの鋼板の表面に配された金属被覆層とを備える。上記金属被覆層の化学成分が、Mg、Zn、Alを含有する。上記金属被覆層の金属組織が、準結晶相を含み、上記準結晶相に含まれるマグネシウム含有量と亜鉛含有量とアルミニウム含有量とが、原子%で、0.5≦Mg/(Zn+Al)≦0.83を満足する。そして、上記準結晶相の平均円相当径が0.01μm〜1μmである。