特許第5785337号(P5785337)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5785337加飾易成形用紙と成形同時加飾繊維成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5785337
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】加飾易成形用紙と成形同時加飾繊維成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/10 20060101AFI20150910BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20150910BHJP
   B27N 3/12 20060101ALI20150910BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20150910BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   B32B27/10
   B32B27/00 E
   B27N3/12
   B32B27/40
   B29C45/14
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-551004(P2014-551004)
(86)(22)【出願日】2013年11月8日
(86)【国際出願番号】JP2013080217
(87)【国際公開番号】WO2014087795
(87)【国際公開日】20140612
【審査請求日】2015年3月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-266013(P2012-266013)
(32)【優先日】2012年12月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】日本写真印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大西 智之
(72)【発明者】
【氏名】竹中 寛
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−143561(JP,A)
【文献】 特開2007−307831(JP,A)
【文献】 特開平10−063189(JP,A)
【文献】 特開2002−266256(JP,A)
【文献】 特開2011−136498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B27N 3/12
B29C45/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な皺を一面に形成し見かけ上の寸法を小さくした易成形用紙と、
前記易成形用紙の一方の面上に形成された図柄層と、
前記易成形用紙および前記図柄層の上に形成されたニス層と、
前記ニス層の上に形成され、ポリオール系化合物および、2官能以上のイソシアネートを含有するインキ組成物からなる保護層とを備えたことを特徴とする加飾易成形用紙。
【請求項2】
微細な皺を一面に形成し見かけ上の寸法を小さくした易成形用紙と、
前記易成形用紙の一方の面上に形成されたニス層と、
前記ニス層の上に形成された図柄層と、
前記図柄層の上に形成され、ポリオール系化合物および、2官能以上のイソシアネートを含有するインキ組成物からなる保護層とを備えたことを特徴とする加飾易成形用紙。
【請求項3】
前記ポリオール系化合物と前記2官能以上のイソシアネートの重量比が100/3 〜100/20部である請求項1又は請求項2に記載の加飾易成形用紙。
【請求項4】
前記保護層のインキ組成物中に、さらに5〜25重量%のシリカ固形粒子を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の加飾易成形用紙。
【請求項5】
前記ポリオール系化合物が、20〜90のOH価を持つアクリルポリオールである請求項1〜4のいずれかに記載の加飾易成形用紙。
【請求項6】
前記ポリオール系化合物が、80〜90のOH価を持つアクリルポリオールである請求項1〜5のいずれかに記載の加飾易成形用紙。
【請求項7】
前記ポリオール系化合物が、20〜30のOH価を持つアクリルポリオールである請求項1〜5のいずれかに記載の加飾易成形用紙。
【請求項8】
前記イソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネート系である請求項1〜7のいずれかに記載の加飾易成形用紙。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の加飾易成形用紙を金型に挟み込み、
次いで型締めし、
次いで繊維性主材料に高分子結合材および水を添加して混練した混合物を成形材料として用い、加熱した金型のキャビティ内に前記成形材料を充填し、
次いで前記金型のパーティング面の間に0.02〜0.50mmの間隙を形成し、前記間隙から前記キャビティ内で発生した水蒸気を放出除去して前記成形材料を乾燥し固化させ、
次いで型開きして前記加飾易成形用紙が表面に一体成形された繊維成形品を得ることを特徴とする成形同時加飾繊維成形品の製造方法。
【請求項10】
前記金型に挟み込む前の前記易成形用紙の含水量が5〜10%である請求項9記載の成形同時加飾繊維成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形同時加飾繊維成形品に適した加飾易成形用紙と成形同時加飾繊維成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維成形品の製造方法として、繊維性主材料に高分子結合材および水を添加して混練した混合物を成形材料として用い、加熱した金型のキャビティ内に前記成形材料を充填し、次いで前記金型のパーティング面の間に、0.02〜0.50mmの間隙を形成し、この間隙から前記キャビティ内で発生した水蒸気を放出除去して前記成形材料を乾燥し固化させ、繊維成形品を得る飾繊維成形品の製造方法があった(たとえば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
上記製造方法に用いる繊維性主材料としてパルプが多用されることから、上記の繊維成形品の製造方法はパルプ射出成形(Pulp Injection Molding、PIM(登録商標))とも呼ばれている。
【0004】
更に、上記繊維成形品に美麗な加飾を行う方法として、成形同時加飾繊維成形品の製造方法がある。
成形同時加飾繊維成形品の製造方法とは、すなわち、微細な皺を一面に形成し見かけ上の寸法を小さくした易成形用紙にあらかじめ図柄を形成して加飾し、易成形用紙を金型に挟み込み、次いで型締めし次いで繊維性主材料に高分子結合材および水を添加して混練した混合物を成形材料として用い、加熱した金型のキャビティ内に成形材料を充填し、次いで金型のパーティング面の間に0.02〜0.50mmの間隙を形成し、この間隙から前記キャビティ内で発生した水蒸気を放出除去して成形材料を乾燥し固化させ、次いで型開きして易成形用紙が表面に一体成形された繊維成形品を得る方法である(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2916136号公報
【特許文献2】特許3084216号公報
【特許文献3】特開2011−136498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の成形同時加飾繊維成形品の製造方法には、以下のような課題があった。すなわち、加熱された金型の熱と成形材料がキャビティ内に充填された時の加飾易成形用紙に対する押圧とにより、図柄インキの流動が起こり、図柄インキの膜厚が不均一になることで色ムラ(それを「インキ流れ」という)が出ることがあった。 また、易成形用紙に形成された表面の図柄が成形時に発生した水蒸気によりインキ密着不良が起きるので、成形同時加飾繊維成形品の耐摩耗性が不十分であった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、成形時のインキ流れを生じさせず、成形同時加飾繊維成形品の耐摩耗性が優れた加飾易成形用紙と成形同時加飾繊維成形品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、上記の目的を達成するために、第1の発明は、微細な皺を一面に形成し見かけ上の寸法を小さくした易成形用紙と、前記易成形用紙の一方の面上に形成された図柄層と、前記易成形用紙および前記図柄層の上に形成されたニス層と、前記ニス層の上に形成され、ポリオール系化合物および、2官能以上のイソシアネートを含有するインキ組成物からなる保護層とを備えた加飾易成形用紙である。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記ポリオール系化合物と前記2官能以上のイソシアネートの重量比が100/3 〜100/20部の加飾易成形用紙である。
【0010】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記保護層のインキ組成物中に、さらに5〜25重量%のシリカ固形粒子含有する加飾易成形用紙である。
【0011】
第4の発明は、第1〜3の発明の構成において、前記ポリオール系化合物が、20〜90のOH価を持つアクリルポリオールである加飾易成形用紙である。
【0012】
第5の発明は、第1〜4の発明の構成において、前記ポリオール系化合物が、80〜90のOH価を持つアクリルポリオールである加飾易成形用紙である。
【0013】
第6の発明は、第1〜4の発明の構成において、前記ポリオール系化合物が、20〜30のOH価を持つアクリルポリオールからなる加飾易成形用紙である。
【0014】
第7の発明は、第1〜6の発明の構成において、前記イソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネート系である加飾易成形用紙である。
【0015】
第8の発明は、第1〜7の発明いずれかの加飾易成形用紙を金型に挟み込み、次いで型締めし、次いで繊維性主材料に高分子結合材および水を添加して混練した混合物を成形材料として用い、加熱した金型のキャビティ内に前記成形材料を充填し、次いで前記金型のパーティング面の間に0.02〜0.50mmの間隙を形成し、間隙から前記キャビティ内で発生した水蒸気を放出除去して前記成形材料を乾燥し固化させ、次いで型開きして前記加飾易成形用紙が表面に一体成形された繊維成形品を得る成形同時加飾繊維成形品の製造方法である。
【0016】
第9の発明は、第8の発明において、前記金型に挟み込む前の前記易成形用紙の含水量が5〜10%である成形同時加飾繊維成形品の製造方法である。
【0017】
第10の発明は、微細な皺を一面に形成し見かけ上の寸法を小さくした易成形用紙と、前記易成形用紙の一方の面上に形成されたニス層と、前記ニス層の上に形成された図柄層と、前記図柄層の上に形成され、ポリオール系化合物および、2官能以上のイソシアネートを含有するインキ組成物からなる保護層とを備えた加飾易成形用紙である。第10の発明は、第2〜9のいずれかの発明と適宜組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の加飾易成形用紙は、保護層がポリオール系化合物の水酸基とイソシアネートのイソシアネート基がインキ塗膜を乾燥させるときの熱で架橋、すなわち熱硬化されている。そのため、加熱された金型の熱と成形材料がキャビティ内に充填された時の加飾易成形用紙に対する圧力が加わっても、図柄インキの流動で膜厚が不均一になることが熱硬化している保護層により抑えられる。つまり、インキ流れを防止することができる。
【0019】
また、保護層が熱硬化して易成形用紙と強固に密着しているため、間にある図柄層の密着性が向上するので、耐摩耗性に優れる。
【0020】
また、本発明の成形同時加飾繊維成形品の製造方法は、上記の効果を要する成形同時加飾繊維成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に用いる加飾易成形用紙の一例を示す断面図である。
図2】本発明に用いる加飾易成形用紙の一面に形成された微細な皺の一例を示す写真である。
図3】本発明の一実施例を示す断面図である。
図4】本発明の一実施例を示す断面図である。
図5】本発明の一実施例を示す断面図である。
図6】本発明の一実施例を示す斜視図である。
図7】本発明に用いる加飾易成形用紙の他の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[加飾易成形用紙]
図1に本発明の第1実施形態を示す。
図1に示される加飾易成形用紙11は、易成形用紙1と、易成形用紙1の一方の面上に形成された図柄層8と、易成形用紙1及び図柄層8の上に形成されたニス層9と、ニス層9の上に形成された保護層10とを備えている。図柄層8、ニス層9及び保護層10は、印刷層2である。
【0023】
易成形用紙1は、微細な皺を一面に形成し見かけ上の寸法を小さくしたものを用いる(図2参照)。このような構成の易成形用紙1は、立体成形性に優れるため、立体形状を有する繊維成形品6の表面に一体化して積層する際、しわや破れなどが生じることなく美麗に積層することが可能である。また、後に行う乾燥工程において、水蒸気の透過性に優れる。また、乾燥工程において加えられる加熱によっても用紙自体に変質が生じない。
【0024】
易成形用紙1としては、さらに具体的には、次のような製造方法によって得たものを使用するとよい。すなわち、紙中水分を20〜50%に調整した湿紙を、ロールの幅向に一定間隔で溝を周方向に設けた金属ロールと平滑なゴムロールから成る収縮付与装置を用い、金属ロールの周速に対してゴムロールの周速が遅いプレスロールから成る収縮付与装置に通紙して紙匹を収縮させ、処理後に乾燥することによって、縦方向及び横方向の破断伸びが15〜50%である易成形用紙1を得ることがきる(特許3407114号等参照)。
【0025】
易成形用紙1の原料となる天然パルプとしては、針葉樹や広葉樹を用いた木材パルプ、ケナフやバガスなどの非木材パルプ、古紙パルプなど通常の製紙用原料であれば特に制限されるものではないが、汎用性などの点から木材パルプの使用が好適である。この木材パルプの叩解度は、伸び特性、強度、抄紙性などからCSF200〜450mlが好適であり、より好ましくはCSF250〜400mlである。天然パルプの配合率は50%以上であることが好ましい。
【0026】
図柄層8は、所望の意匠性を付与するための層であり、全面や部分的に設けられる層である。図柄層8の絵柄は、柄パターン層及び全面ベタ層を単独で又は組み合わせて設けることができる。各種印刷法などの手段により図柄2を形成して加飾を行う。印刷法としては、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法、孔版印刷法などの手段を用いることができる。また、インクジェット印刷法など、版を用いない手段によって図柄層8を形成してもよい。図柄層8を形成するインキとしては、一般的に使用される油性オフセットインキであればよい。例えば、「BEST ONE ベスト SP(商品名)」(T&K TOKA社製)のように、ロジン変性フェノールまたはロジン変性アルキッドを主成分とし石油系溶剤を含有しないものであれば、易成形用紙との密着性の点で好ましい。また、易成形用紙1を構成する繊維にインキが含浸するようにして図柄層8を形成してもよい。
【0027】
なお、インキの着色材やバインダーとして、天然素材由来のものや生分解性を有するものを利用することにより、成形同時加飾繊維成形品7を再利用したり廃棄したりする際、環境対応をより容易にすることが可能となる。
【0028】
ニス層9は、成形熱による図柄層8の溶出を防止するための層であり図柄層8の上に積層される。ニス層9は、酸化重合型の層であり、例えば、「スーパー耐ブロッキング OP ニス(商品名)」(三星インキ社製)を用いるとよい。印刷法としては、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法、孔版印刷法などの手段を用いることができる。
【0029】
保護層10は、ニス層9と図柄層8を保護するための層である。保護層10はポリオール系化合物と2官能以上のイソシアネートとを含有するインキ組成物からなる層である。印刷法としては、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法、孔版印刷法などの手段を用いることができる。
【0030】
[ポリオール系化合物]
ポリオール系化合物は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールであればよい。特に好ましくは、アクリルポリオールであり、たとえば、2−ヒドロキシエチルアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートから選択されるアクリルモノマー、並びに、メチルアクリレート及びメチルメタクリレートから選択されるアクリルモノマーの2グループのアクリルモノマーを必須成分としているものが好ましい。また、ポリエステルポリオールは、たとえば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、1,6−ヘキサンジオール、フランジメタノール、及びシクロヘキサンジメタノールの如き飽和または不飽和の二価アルコールと、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水フタル酸、テレフタル酸ジメチル、ダイマー酸等の如き飽和または不飽和のポリカルボン酸との反応から形成されるものが用いられる。また、ポリエーテルポリオールは、たとえば、エチレングリコ―ル、ジエチレングリコ―ル、プロピレングリコ―ル、ブチレングリコ―ル、ヘキサメチレングリコ―ルなどの2価アルコ―ル、トリメチロ―ルプロパン、グリセリン、ペンタエリスリト―ルなどの3価アルコ―ルなどの低分子ポリオ―ルに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフランなどを付加重合させてなるものが用いられる。なお、ポリオール系化合物は、取り扱い上、溶剤で希釈されているものが使いやすい。
【0031】
また、ポリオール系化合物が、20〜90のOH価を持つアクリルポリオールであると好ましい。アクリルポリオールの水酸基とイソシアネートのイソシアネート基の架橋度により、熱硬化度と伸縮性に優れるためである。20以上のOH価を持つアクリルポリオールでは、アクリルポリオールの水酸基とイソシアネートのイソシアネート基の架橋度が高くなるため、熱硬化度が向上する。そのため、インキ流れの防止と耐摩耗性の効果を高めることができる。特に、80〜90のOH価を持つアクリルポリオールでは、熱硬化度に優れている。また、90以下のOH価を持つアクリルポリオールでは、アクリルポリオールの水酸基とイソシアネートのイソシアネート基の架橋度が低くなることにより、伸縮性の効果を高めることができる。特に、20〜30のOH価を持つアクリルポリオールでは、伸縮性に優れている。
【0032】
[2官能以上のイソシアネート]
2官能以上のイソシアネートは、1分子中にイソシアネート基を少なくとも2つ有するものであれば、特に限定されず、公知のものを使用することができる。例えば、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸が有するカルボキシル基をイソシアネート基に置き換えたダイマージイソシアネートなどの鎖状脂肪族ジイソシアネート;シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、1,3−ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネートなどの環状脂肪族ジイソシアネート;4,4'−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネートなどのジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルテトラメチルメタンジイソシアネートなどのテトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4'−ジベンジルイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;リジンジイソシアネートなどのアミノ酸ジイソシアネートなどが挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用される。また、本発明では、本発明の効果を損なわない範囲で、ジイソシアネート類のほかに、他のイソシアネート類(モノイソシアネート、3価のイソシアネート類等)も用いることができる。
【0033】
また、2官能以上のイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネート系(HDI系)であると、塗膜の柔軟性が優れる。
HDI系のイソシアネートは1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0034】
なお、ポリオール系化合物と2官能以上のイソシアネートの重量比が100/3〜100/20部であると好ましい。下限値に満たないと、架橋不足となり耐熱性が不足する点でよくなく、上限値を超えると過度の架橋による柔軟性不足や余剰のイソシアネートによる副反応が起こる点で好ましくない。より好ましくは、100/6〜100/7部にするとよい。
【0035】
[成形同時加飾繊維成形品の製造方法]
以下、成形同時加飾繊維成形品7の製造方法について、図3図6を用いて説明する。まず、上記したような加飾易成形用紙11を金型3に挟み込み、次いで型締めし(図3参照)、次いで繊維性主材料に高分子結合材および水を添加して混練した混合物を成形材料5として用い、加熱した金型3のキャビティ4内に前記成形材料5を充填し(図4参照)、次いで前記金型3のパーティング面の間に0.02〜0.50mmの間隙を形成し、前記間隙から前記キャビティ4内で発生した水蒸気を放出除去して前記成形材料5を乾燥し、固化させ、次いで型開きして前記加飾易成形用紙11が表面に一体成形された繊維成形品6を得る(図5参照)。
【0036】
このような加飾易成形用紙11を、金型3に挟み込む前に、調湿が可能な部屋で一定時間保管し、加飾易成形用紙11の水分の量を調整する。後述する成型時の金型3の熱によって、加飾易成形用紙11の昇温が抑制される程度の含水量、例えば、5〜10%にするのが好ましい。上限を越えると、加飾易成形用紙11が水分によって伸長するため、加飾易成形用紙11の位置合わせ精度が難しくなる。また、下限を下回ると、加飾易成形用紙11が収縮するため、加飾易成形用紙11の位置合わせ精度が難しくなる。さらに、成型時に色うつりと色かすれが発生しやすくなる。
【0037】
上記のように水分量を調整した加飾易成形用紙11を成形に用いると、色うつりと色かすれの生じない美麗な成形同時加飾繊維成形品7を得ることができる。なぜなら、色うつりと色かすれは、加飾易成形用紙11の含水量が少ない場合に、加飾易成形用紙11が昇温し、加飾易成形用紙11に形成された図柄8のインクの温度が上昇することによって生じるからである。すなわち、含水量が一定以上あることで、加飾易成形用紙11の昇温が成型品内で抑えられ、金型3内への色うつりを防止することが可能である。また、加飾易成形用紙11の含水量は、加飾易成形用紙11の形状にも影響する。すなわち、加飾易成形用紙11は、伸縮性が良いため、含水量の変化により伸縮が起こりやすく成型時の位置合わせに大きく影響する。
【0038】
なお、本明細書でいう加飾易成形用紙11の含水量とは、以下の意味で用いる。すなわち、水分を含有した加飾易成形用紙11の全体重量に対して、加飾易成形用紙11が含有する水分の重量が占める割合をパーセンテージで示した値をいうものとする。また、加飾易成形用紙11の含水量は、水分計で測定することができる。例えば、株式会社ケツト科学研究所製のHK-300シリーズなどを用いることができる。
【0039】
次いで、加飾易成形用紙11を金型3に挟み込み、次いで型締めを行う(図3参照)。
【0040】
金型3としては、繊維成形品6を得るために用いる成形材料5を注入可能で、加熱により成形材料5に含有される水分を水蒸気として排出除去して乾燥させるように構成されたパルプ射出成形法に使用するものを用いる(特許2916136号公報、特許3084216号公報等参照)。
【0041】
金型3のキャビティ4面に加飾易成形用紙11を確実に沿わせるようにするため、加飾易成形用紙11をあらかじめキャビティ4面の形状に立体成形しておいてもよい(予備成形)。立体成形はプレス法など、既知の手段により行うとよい。加飾易成形用紙11がキャビティ面に沿うように配置することにより、後に行う成形材料5の充填工程において、加飾易成形用紙11の最終的に最表面に位置する側の面に成形材料5が回り込む不具合(裏回りとも言う)を防止することができる。
【0042】
次いで、繊維性主材料に高分子結合材および水を添加して混練した混合物を成形材料5として用い、加熱した金型3のキャビティ4内に前記成形材料5を充填する(図4参照)。
【0043】
繊維性主材料としては、針葉樹や広葉樹を用いた木材パルプ、ケナフやバガスなどの非木材パルプ、古紙パルプなど通常の製紙用原料を用いることができる。また、紙ごみ、故紙、綿布、麻、籾殻、豆腐殻、木粉のような天然の繊維性のもの、およびガラス繊維、並びにナイロン、ポリアクリル、ポリエステルのような合成樹脂からなる繊維の何れでも使用できるが、特に紙ごみ、故紙のような紙繊維が好ましい。なお、このような紙繊維の繊維長さは短いので、強度を必要とする成形品の場合には、他の繊維を5%〜40%、好ましくは5%〜20%複合すると効果的であり、複合する繊維の長さは、3mm〜10mmが好ましい。
【0044】
高分子結合材としては、繊維性主材料と混練する際には、水に可溶であるか、低粘度のエマルジョンを形成し、水を気化除去した際には、固形状で成形品の離型が容易なものが好ましく、澱粉、ポリビニールアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリイタコン酸、カルボキシメチルセルローズ、並びにこれらの共重合体のような水溶性高分子材料が使用でき、またユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステルのような本来は水溶性でない熱硬化性樹脂でも、その初期縮合物が水溶液もしくはエマルジョンとなるものは使用できる。
【0045】
上記した繊維性主材料に、上記した高分子結合材および水を添加して混練した混合物を成形材料5とする。成形材料5の配合割合は、たとえば、繊維性主材料を50%〜90%、好ましくは60%〜80%、高分子結合材を10%〜50%、好ましくは20%〜40%、水を20%〜80%、好ましくは30%〜70%にするとよい。
【0046】
金型3の加熱は、たとえば、キャビティ4を形成する型壁面の温度が120℃〜240℃、好ましくは160℃〜220℃となるように加熱するとよい。
【0047】
次いで、前記金型3のパーティング面の間に0.02〜0.50mmの間隙を形成し、前記間隙から前記キャビティ4内で発生した水蒸気を放出除去して前記成形材料5を乾燥し固化させる。
【0048】
成形材料5を加熱した金型3のキャビティ4内に充填することにより、混練時に添加した水は瞬時に気化され、その蒸気圧により繊維性主材料は発泡され、同時に繊維性主材料は、蒸気圧によりキャビティ4内に充満されてその壁面に押圧されるので、肉厚変化の大きな成形品でも良好な転写性で成形され、また気化した水蒸気は、金型3間の隙間から排気除去されて成形品の固化が速やかに行われる。
【0049】
本発明の加飾易成形用紙は、保護層がアクリルポリオールの水酸基とイソシアネートのイソシアネート基がインキ塗膜を乾燥させるときの熱で架橋、すなわち熱硬化されている。そのため、加熱された金型3の熱と成形材料がキャビティ内に充填された時の加飾易成形用紙に対する圧力が加わっても、図柄インキの流動で膜厚が不均一になることが熱硬化している保護層8により抑えられる。つまり、インキ流れを防止することができる。
【0050】
ところで、パッケージに用いられる加飾された紙では、表面を保護するために、加飾された紙の上にポリプロピレンフィルムをラミネートされていることが多い。本発明において、仮に保護層にポリプロピレンフィルムを使用すると、通気性が悪いため、乾燥工程における水蒸気の排出の妨げとなる。また耐熱性がないため、乾燥工程の加熱によって溶融や黄変などの変質を生じる。
これに対して、本発明の加飾易成形用紙11は通気性に優れるため、乾燥工程における水蒸気の排出の妨げにならない。また、加飾易成形用紙11は、パルプ等の耐熱性に優れた素材から形成されたものであるため、乾燥工程の加熱によって溶融や黄変などの変質を生じることもない。
【0051】
次いで、型開きして加飾易成形用紙11が繊維成形品6の表面に一体成形された成形同時加飾繊維成形品7を得ることができる(図5参照)。
【0052】
最後に、必要に応じて繊維成形品6周囲の加飾易成形用紙11の不要領域を、プレス法、トムソン法などの手段によって除去することにより、美麗な成形同時加飾繊維成形品7を得ることができる(図6参照)。
【0053】
また、保護層が熱硬化して易成形用紙と強固に密着しているため、間にある図柄層の密着性が向上するので、耐摩耗性に優れる。
このようにして得た成形同時加飾繊維成形品7は、インキ流れの防止と耐摩耗性に優れており、美麗なものとなる。
また、繊維成形品6のキャビティ面に接する領域と、加飾易成形用紙1のキャビティ面に接する領域との間に段差が生じず、表面が面一の一体感に優れたものとなる。また、繊維成形品6と加飾易成形用紙1は、水素結合により強固に密着するため、接着剤等を用いることなく一体化させることが可能である。また、加飾易成形用紙11と繊維成形品6は、いずれもパルプなどの繊維質材料から形成されるものであり、その手触りは独特の柔らかいものである。さらに、再利用時や廃棄時も、いずれもパルプなどの繊維質材料から形成されるものであるため、その処理が極めて容易な環境配慮型の製品となる。
【0054】
以上、本発明の第一実施形態について説明したが、この形態に限らない。例えば、保護層のインキ組成物として、アクリルポリオールと、2官能以上のイソシアネートに加え、さらにシリカ固形粒子を含有するようにしてもよい(第二実施形態)。シリカ固形粒子を含有することにより、水蒸気透過性が向上するため、外観不良の発生が起こりにくくなる。
【0055】
[シリカ固形粒子]
シリカ固形粒子の含有量は、5〜25重量%が好ましく、特に10〜20重量%がより好ましい。5重量%に満たないと、水蒸気透過性が低くなる。25重量%を超えると、インキ組成物中にシリカ固形粒子が混ざりにくくなり、印刷が困難になる。
【0056】
シリカ固形粒子の形状としては、球、楕円形、多面体、燐片形などがあげられ、これらの形状が均一で、整粒であることが好ましい。
また、シリカ固形粒子の平均粒径は、インキ組成物により形成する層の厚さにより適宜選択しうるが、通常2〜3μmの粒径であると好ましい。
ここで、平均粒径は、JISZ8820‐1(液相重力沈降法による粒子径分布測定方法)で測定することが出来る。
【実施例】
【0057】
《実施例1》
パルプ100%からなり一面に微細な皺が形成された易成形用紙(カルティエレ・カリオラロ社製)の片面に、オフセット印刷を用いて印刷層を形成した。印刷層は、図柄層、ニス層及び保護層からなる。図柄層は、「BEST ONE ベスト SP(商品名)」(T&K TOKA社製)を使用し、ニス層は、「スーパー耐ブロッキング OP ニス(商品名)」(三星インキ社製)を使用した。保護層は、OH価が86のアクリルポリオールと、ヘキサメチレンジイソシアネートとを重量比が100/6部で含有し、さらに20重量%のシリカ固形粒子を含有させたインキを用いた。
【0058】
次いで、この易成形用紙を室温25℃、湿度50%に設定された室内で5時間安置し、易成形用紙の含水量を10%にした。次いで、あらかじめ成形品形状にプレス成形し、金型のキャビティ面に沿う立体形状に成形した。このとき、ヘキサメチレンイソシアネート
を使用したため、塗膜の柔軟性に優れる。
【0059】
また、繊維性主材料として麻とコウゾを、高分子結合材として澱粉をそれぞれ用い、水を添加して混練し、成形材料を得た。
【0060】
155〜170℃に加熱されたパルプインジェクション用金型のキャビティ面に、上記の易成形用紙を固定し、型締めして上記の成形材料を充填した。次いで金型のパーティング面に0.20mmの隙間を形成し、1分間水蒸気を放出除去して成形材料を乾燥し固化させた。このとき、シリカ固形粒子を含有させたため、水蒸気透過性が向上する。
【0061】
次いで、型開きして易成形用紙が一体化された繊維成形品を得、易成形用紙の周囲形状等をトムソン型で打ち抜き除去して成形同時加飾繊維成形品を得た。
【0062】
実施例1のようにして得た成形同時加飾繊維成形品は、成形同時加飾繊維成形品表面の柄が、インキ流れがなく、耐摩耗性に優れた美麗なものであった。なお、OH価が86と多いので、アクリルポリオールの水酸基とイソシアネートのイソシアネート基の架橋度が高くなることにより、特に上記効果が優れる。
【0063】
《実施例2》
アクリルポリオールのOH価が27であること以外は、実施例1と同じである。
【0064】
このようにして得た成形同時加飾繊維成形品も、実施例1程ではないが、成形同時加飾繊維成形品表面の柄が、インキ流れがなく、耐摩耗性に優れた美麗なものであった。またOH価が27と、アクリルポリオールの水酸基数が少ないため、アクリルポリオールの水酸基とイソシアネートのイソシアネート基の架橋度が低くなることにより、伸縮性が優れる。
【0065】
なお、加飾易成形用紙11は、上記第1実施形態の層構成に限られるものではない。
図7を参照して、易成形用紙1と、易成形用紙1の一方の面上に形成されたニス層9と、易成形用紙9およびニス層9の上に形成された図柄層8と、 図柄層8の上に形成された保護層10とを備える加飾易成形用紙11として、ニス層9と図柄層8とを逆に積層してもよい。
【0066】
ニス層9によって、保護層10を形成する時に、保護層10を構成するインキ組成物が易成形用紙1に染み込むことを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は成形同時加飾繊維成形品の製造方法に関し、特に美麗な加飾が可能な成形同時加飾繊維成形品の製造方法に関するものである。
【符号の説明】
【0068】
1 易成形用紙
2 印刷層
3 金型
4 キャビティ
5 成形材料
6 繊維成形品
7 成形同時加飾繊維成形品
8 図柄層
9 ニス層
10 保護層
11 加飾易成形用紙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7