【文献】
Alcatel-Lucent, Alcatel-Lucent Shanghai Bell,Technology Issues for Heterogeneous Network for LTE-A, 3GPP TSG-RAN WG1#58b R1-093788,2009年10月16日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記時間シフト部は、前記下りデータ信号および前記第2識別子を含まない1以上の無送信サブフレームを、送信しようとする1つの第2無線フレームの前に挿入することにより、前記第2無線フレームの前記送信タイミングをシフトさせる
請求項1の中継局。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
中継局が固定されている場合には、基地局から送信される下りリンク信号と中継局から送信される下りリンク信号との干渉が低減されるように、各種のパラメータ(例えば、同期信号の種類、信号の送信タイミング等)をあらかじめ設定しておくことが可能である。他方、モバイルリレーシステムにおいては、中継局の移動に伴いその中継局の接続先の基地局(セル)が変化するため、中継局のハンドオーバ先の基地局から送信される同期信号と中継局自身から送信される同期信号とが偶発的に重複し、ユーザ装置に対する無線通信の品質が低下する場合がある。
【0007】
特許文献1の技術では、中継局がハンドオーバする際に、ハンドオーバ元基地局の同期信号とハンドオーバ先基地局の同期信号とをユーザ装置に対して同時に(すなわち、同一のサブフレーム系列で)送信し、ユーザ装置をハンドオーバ先基地局の同期信号へハンドオーバさせることで同期信号の重複に伴う問題を解消している。しかしながら、特許文献1の技術では、ユーザ装置のハンドオーバが必要であるため、ユーザ装置−中継局間のシグナリング量(通信量)が増大し、無線通信システム全体のパフォーマンスに影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、中継局の移動に伴って中継局−基地局間のハンドオーバが実行される場合であっても、ユーザ装置(移動局)に対する無線通信の品質を維持しつつ、シグナリング量の増加を抑制することが可能な中継局、無線システム、および送信制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る中継局は、基地局から送信される第1無線フレームを受信する受信部と、受信した前記第1無線フレームに含まれる下りデータ信号を含む第2無線フレームを、中継局自身のセルに在圏する移動局へ送信する送信部とを備える中継局であって、前記中継局のハンドオーバ元セルからハンドオーバ先セルへのハンドオーバ過程において又はハンドオーバ完了後に、前記ハンドオーバ先セルに対応した基地局が送信する第1無線フレームに含まれる第1識別子と、前記第1識別子の送信タイミングとを検出する検出部と、前記第1識別子と、前記移動局へ送信すべき前記第2無線フレームに含まれる、前記中継局自身のセルの識別子である第2識別子とが一致するか否かを判定する第1判定部と、前記第1識別子の送信タイミングと、前記送信部が送信する前記第2識別子の送信タイミングとが一致するか否かを判定する第2判定部と、前記第1識別子と前記第2識別子とが一致し、かつ、前記第1識別子の送信タイミングと前記第2識別子の送信タイミングとが一致すると判定された場合に、前記第1識別子の送信タイミングと前記第2識別子の送信タイミングとを相違させるように、前記送信部が送信する前記第2無線フレームの送信タイミングをシフトさせる時間シフト部とを備え
、前記第2無線フレームの前記送信タイミングがシフトされる時間幅は、無線問題(Radio Problem)が検出された後に無線リンク障害(Radio Link Failure)が発生したと判定されるまでの所定の許容時間幅未満である。
【0010】
以上の構成によれば、中継局のハンドオーバの際(すなわち、ハンドオーバ過程中またはハンドオーバ完了後)に、ハンドオーバ先基地局のセルの第1識別子と中継局のセルの第2識別子とが一致し、かつ、第1識別子の送信タイミングと第2識別子の送信タイミングとが一致する場合(すなわち、第1識別子と第2識別子とが衝突する場合)に、中継局が送信する第2無線フレームの送信タイミングがシフトされるので、第1識別子と第2識別子との干渉が回避される。したがって、中継局のハンドオーバ前後で、中継局のセルに在圏する移動局の受信品質が維持される。
【0011】
また、以上の構成によれば、第2無線フレームの送信タイミングのシフト幅を無線リンク障害と判定される時間幅未満に制限するので、送信タイミングシフトを行っても無線リンク障害が発生したとは判定されない。そのため、中継局と移動局との接続が維持され、再接続、セルサーチ等の接続動作が抑制される。したがって、シグナリング量の増加が抑制される。
【0012】
本発明の好適な態様において、前記時間シフト部は、前記下りデータ信号および前記第2識別子を含まない1以上の無送信サブフレームを、送信しようとする1つの第2無線フレームの前に挿入することにより、前記第2無線フレームの前記送信タイミングをシフトさせる。
以上の構成によれば、無送信サブフレームの挿入という簡易な方法によって、識別子自体および識別子の送信タイミングの一致を回避することが可能である。
【0013】
前記第1識別子および前記第2識別子の各々は、初期同期に用いられる個別識別子(Unique Identity)である。
以上の構成によれば、初期同期に用いられる個別識別子の一致・不一致に基づいて衝突回避動作の要否を判定するから、個別識別子を含むより上位の識別子(例えば、物理セル識別子)の全体の一致・不一致に基づいて衝突動作の要否を判定する構成と比較して、信号処理に要する時間及び負荷が抑制される。
【0014】
また、本発明に係る無線通信システムは、1以上の移動局と、各々が第1無線フレームを送信する複数の基地局と、前記第1無線フレームを受信する受信部と、受信した前記第1無線フレームに含まれる下りデータ信号を含む第2無線フレームを、中継局自身のセルに在圏する前記移動局へ送信する送信部とを備える中継局とを備える無線通信システムであって、前記中継局は、前記中継局のハンドオーバ元セルからハンドオーバ先セルへのハンドオーバ過程において又はハンドオーバ完了後に、前記ハンドオーバ先セルに対応した基地局が送信する第1無線フレームに含まれる第1識別子と、前記第1識別子の送信タイミングとを検出する検出部と、前記第1識別子と、前記移動局へ送信すべき前記第2無線フレームに含まれる、前記中継局自身のセルの識別子である第2識別子とが一致するか否かを判定する第1判定部と、前記第1識別子の送信タイミングと、前記送信部が送信する前記第2識別子の送信タイミングとが一致するか否かを判定する第2判定部と、前記第1識別子と前記第2識別子とが一致し、かつ、前記第1識別子の送信タイミングと前記第2識別子の送信タイミングとが一致すると判定された場合に、前記第1識別子の送信タイミングと前記第2識別子の送信タイミングとが相異なるように、前記送信部が送信する前記第2無線フレームの送信タイミングをシフトさせる時間シフト部とを備え
、前記第2無線フレームの前記送信タイミングがシフトされる時間幅は、無線問題(Radio Problem)が検出された後に無線リンク障害(Radio Link Failure)が発生したと判定されるまでの所定の許容時間幅未満である。
【0015】
また、本発明に係る送信制御方法は、基地局から送信される第1無線フレームを受信する受信部と、受信した前記第1無線フレームに含まれる下りデータ信号を含む第2無線フレームを、中継局自身のセルに在圏する移動局へ送信する送信部とを備える中継局における送信制御方法であって、前記中継局のハンドオーバ元セルからハンドオーバ先セルへのハンドオーバ過程において又はハンドオーバ完了後に、前記ハンドオーバ先セルに対応した基地局が送信する第1無線フレームに含まれる第1識別子と、前記第1識別子の送信タイミングとを検出し、前記第1識別子と、前記移動局へ送信すべき前記第2無線フレームに含まれる、前記中継局自身のセルの識別子である第2識別子とが一致するか否かを判定し、前記第1識別子の送信タイミングと、前記送信部が送信する前記第2識別子の送信タイミングとが一致するか否かを判定し、前記第1識別子と前記第2識別子とが一致し、かつ、前記第1識別子の送信タイミングと前記第2識別子の送信タイミングとが一致すると判定された場合に、前記第1識別子の送信タイミングと前記第2識別子の送信タイミングとを相違させるように、前記送信部が送信する前記第2無線フレームの送信タイミングをシフトさせ
、前記第2無線フレームの前記送信タイミングがシフトされる時間幅は、無線問題(Radio Problem)が検出された後に無線リンク障害(Radio Link Failure)が発生したと判定されるまでの所定の許容時間幅未満である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る無線通信システム1を示す概略図である。無線通信システム1は、基地局100と、移動可能な乗物20に設置された中継局200と、乗物20に収容され得るユーザ装置300とを備える。無線通信システム1内の各通信要素(基地局100、中継局200、ユーザ装置300等)は所定の無線アクセス技術(Radio Access Technology)、例えばLTE(Long Term Evolution)に従って無線通信を行う。具体的には、基地局100、中継局200、およびユーザ装置300は、無線フレームを相互に送受信することによって無線通信を行う。乗物20は、不特定かつ複数のユーザを収容し得るバス、列車、トラム、その他の公共交通機関の乗物であるが、自家用車等の個人用の乗物であってもよい。
なお、以下の実施形態では、無線通信システム1がLTEに従って動作する形態を例示して説明するが、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。本発明は、必要な設計上の変更を施した上で、他の無線アクセス技術(例えば、公衆無線LANまたはWiMAX)にも適用可能である。
【0018】
基地局100は、LTEシステムにおけるeNodeB(evolved Node B)であり、その基地局100のセルに在圏する中継局200およびユーザ装置300と無線通信可能である。以下では、基地局100が1つのセルを有する構成のみについて開示するが、基地局100が複数のセル(セクタ)を有する構成が採用され得ることは当然に理解される。
ユーザ装置300は、LTEシステムにおけるUE(User Equipment)であり、基地局100または中継局200との間に設定されるUuリンクを用いて無線通信可能である。すなわち、ユーザ装置300は、基地局100に帰属することも、中継局200に帰属することも可能である。また、ユーザ装置300は、基地局−基地局間のハンドオーバ、基地局−中継局間のハンドオーバ、中継局−中継局間のハンドオーバのいずれをも実行可能である。
【0019】
中継局200は、LTEシステムにおけるRN(Relay Node)であり、基地局100と、その中継局200のセルに在圏するユーザ装置300との無線通信を中継可能である。基地局100同様、中継局200も複数のセル(セクタ)を有していてもよい。中継局200と基地局100との間にはUnリンクが設定される。中継局200は、基地局100からはユーザ装置(UE)であると認識されることが可能であるとともに、ユーザ装置300からは基地局(eNodeB)であると認識されることが可能である。また、中継局200は、基地局−基地局間のハンドオーバを実行することが可能である。
【0020】
図2は、本発明の実施形態に係る中継局200の構成を示すブロック図である。中継局200は、基地局インタフェース210と、受信部220と、送信部230と、ユーザ装置インタフェース240と、制御部250と、記憶部260とを含む。
【0021】
基地局インタフェース210は、基地局100からの電波を受信するアンテナ212と、受信した電波を電気信号(無線フレーム)に変換して受信部220に供給する電気回路とを備える。受信部220は、基地局インタフェース210から供給された無線フレームを、送信部230および制御部250へ供給する。送信部230は、制御部250の制御の下、受信部220から供給された無線フレームに含まれる下りデータ信号を含む無線フレームを生成して、ユーザ装置インタフェース240に供給する。ユーザ装置インタフェース240は、送信部230から供給された無線フレームを電波に変換する電気回路と、変換した電波をユーザ装置300へ送信するアンテナ242とを備える。制御部250は、検出部252と、判定部254と、時間シフト部256とを要素として内包する。制御部250内の各要素の詳細な動作は後述される。
なお、以降の部分において、基地局100から受信した電波を基地局インタフェース210が変換して受信部220に供給する無線フレームを単に受信無線フレームと称する場合があり、送信部230にて生成される、ユーザ装置インタフェース240からユーザ装置300へ送信されるべき電波の元となる無線フレームを単に送信無線フレームと称する場合がある。
【0022】
受信部220、送信部230、および制御部250(内包される各要素(検出部252、判定部254、時間シフト部256)を含む)は、中継局200内の図示しないCPU(Central Processing Unit)がコンピュータプログラムを実行し、そのコンピュータプログラムに従って機能することにより実現される機能ブロックである。記憶部260は、以上のコンピュータプログラムおよび本発明の送信制御に必要な各種の情報を記憶する記憶媒体であり、例えばRAM(Random Access Memory)である。
【0023】
図3は、無線通信システム1にて使用される無線フレームFのフォーマットを示す図である。1つの無線フレームFは10個のサブフレームSFを含む。各サブフレームSFは、各々が複数のOFDMシンボルを有する2つのスロット(不図示)を含む。各サブフレームSFの時間長は1ミリ秒であるから、1つの無線フレームFの時間長は10ミリ秒である。各サブフレームSFは、送信順に付される#0から#9までのサブフレーム番号を有する。図示の通り、無線フレームF内において1番目および6番目に位置するサブフレーム(サブフレーム#0およびサブフレーム#5)がPCI(Physical Cell Identity,物理セル識別子)を含む。したがって、PCIは5サブフレーム周期で(すなわち5ミリ秒周期で)に送信される。
【0024】
PCIはセル毎に設定され、同期、チャネル推定、データのスクランブル等の種々の動作に利用される(3GPP TS 36.211 V10.1.0 (2011-03), Chapter 6.11, Synchronization signals参照)。PCIは、セルの個別ID(Unique Identity)を示すP−SS(Primary Synchronization Signal,第1同期信号)およびセルのグループIDを示すS−SS(Secondary Synchronization Signal,第2同期信号)を含む。
【0025】
図4は、PCIに含まれるP−SSおよびS−SSの構成を示す図である。P−SS(個別ID)は3通り存在し、S−SS(グループID)は168通り存在する。
図4に示すように、各S−SSについて3通りのP−SSが存在するから、504通り(=168×3)のPCIが存在する。
【0026】
ここで、PCIを用いた同期の概略を以下に説明する。同期は2段階で実行される。まず、受信側装置(例えばユーザ装置300)が、送信側装置(例えば基地局100)から受信した受信信号と受信側装置自身に記憶されているP−SSのレプリカ信号との相関演算に基づいて、受信信号に含まれるP−SS(個別ID)を同定し、P−SSの送信タイミング(サブフレームタイミング)を検出する(初期同期,Primary Synchronization)。次いで、受信側装置が、P−SSでスクランブルされている受信信号(S−SSを含む)をデスクランブルし、デスクランブル後の受信信号と受信側装置自身に記憶されているS−SSのレプリカ信号との相関演算に基づいて、受信信号に含まれるS−SS(グループID)を同定し、無線フレームFの送信タイミングを検出する(2次同期,Secondary Synchronization)。
【0027】
図5は、中継局200およびユーザ装置300が移動した場合の無線通信の様子を示す図である。
図5においては、当初、基地局100aのセルCa内に位置していた中継局200およびユーザ装置300が、収容先の乗物20(不図示)の移動に伴って基地局100bのセルCb内へと移動する場合を考える。ユーザ装置300は、中継局200のセルCrに在圏し、中継局200との間に設定されたUuリンクで無線通信を行っている。
以上の場合、中継局200は、乗物20が移動するのに伴ってセルCaからセルCbへと移動するので、セルCaに対応する基地局100aからセルCbに対応する基地局100bへとハンドオーバする必要があると理解される。
【0028】
当初、ハンドオーバ元セルCaに対応する基地局100aとUnリンクで接続していた中継局200は、ハンドオーバ(Unハンドオーバ)を実行して、ハンドオーバ先セルCbに対応する基地局100bとのUnリンクを確立する。一方、中継局200とユーザ装置300との間のUuリンクは、Unハンドオーバの前後において維持される。
ここで、中継局200がハンドオーバした後のユーザ装置300は、中継局200自身のセルCrおよび基地局100bのセルCbに位置するから、中継局200および基地局100bの双方から無線信号を受信する。そのため、セルCrとセルCbとでPCI(特に、個別ID)が衝突すると、ユーザ装置300の同期性能が劣化する、すなわち、中継局200が送信する無線フレームと基地局100bが送信する無線フレームとが干渉して判別困難になることによりユーザ装置300における同期が困難になるという問題がある。以下、
図6を参照して具体的に説明する。
【0029】
図6は、ハンドオーバ元基地局100a、ハンドオーバ先基地局100b、および中継局200の各々が送信する無線フレームF(FRa,FRb,FS)の送信タイミングの関係を示す図である。
【0030】
まず、PCIの衝突が生じないケース、すなわち、ハンドオーバ元基地局100aからの受信無線フレームFRa(以下、単に受信無線フレームFRaと称する場合がある)と中継局200の送信無線フレームFSとの関係について説明する。
図6に示すように、受信無線フレームFRa(
図6(a))と送信無線フレームFS(
図6(c))とは相異なる送信タイミング(無線フレームF(サブフレームSF#0)が開始するタイミング)を有するので、PCIが送信されるタイミングも受信無線フレームFRaと送信無線フレームFSとで相違する。したがって、仮に両者のPCI(P−SSおよびS−SS)が一致したとしても、衝突(Collision)は生じない。
【0031】
次いで、PCIの衝突が生じ得るケース、すなわち、ハンドオーバ先基地局100bからの受信無線フレームFRb(以下、単に受信無線フレームFRbと称する場合がある)と中継局200の送信無線フレームFSとの関係について説明する。
図6に示すように、受信無線フレームFRb(
図6(b))の送信タイミングと送信無線フレームFS(
図6(c))の送信タイミングとが一致するので、PCIが送信されるタイミングも無線フレームFRbと送信無線フレームFSとで一致する。以上の場合に、受信無線フレームFRbのPCIと送信無線フレームFSのPCIとが一致すると、PCIの衝突が発生する。
すなわち、PCIの衝突という概念は、複数のPCI同士が互いに一致し、かつ、それら複数のPCIの送信タイミングも一致する事象であると理解できる。以上の概念は、PCI全体のみならず、PCIの一部であるP−SSおよびS−SSにも適用され得る。例えば、S−SSは衝突せずにP−SSのみが衝突する場合も生じ得る。
【0032】
なお、受信無線フレームFRbと送信無線フレームFSとでフレーム送信タイミングは相違するがPCI送信タイミングが一致する場合、例えば、受信無線フレームFRbのサブフレームSF#0と送信無線フレームFSのサブフレームSF#5とが同じタイミングで送信される場合にもPCIの衝突が生じ得ることは、当然に理解される。
【0033】
ユーザ装置300はPCIに基づいて送信信号(無線フレームF)を識別するから、PCIが衝突する場合には、基地局100bからの受信無線フレームFRbと中継局200からの送信無線フレームFSとを識別することが不可能になる。
また、PCI全体が衝突しない場合であっても、P−SS(個別ID)が衝突する場合には以下のような問題がある。P−SSが衝突する場合には、受信無線フレームFRbと送信無線フレームFSとでPCI送信タイミングが同一となるため、S−SS同士も同じ送信タイミングで送信される。さらに、同一のP−SSで双方のS−SSがスクランブルされるから、スクランブル後のS−SS同士は直交しない。そのため、受信無線フレームFRbのS−SSと送信無線フレームFSのS−SSとが干渉して信号品質が劣化するので、S−SSをデスクランブルすることが困難になる。また、仮にS−SSがデスクランブルされたとしても、送信タイミングが同一であるから、復号されたS−SSが基地局100bから送信されたものなのか中継局200から送信されたものなのかをユーザ装置300が判断できない。
【0034】
前述の通り、P−SSは3通りに限られているため、中継局200に対応するセルCrのP−SSと、中継局200がハンドオーバしようとするセルCb(基地局100b)のP−SSとが一致する可能性は低くない。また、中継局200は移動可能であるから、中継局200(セルCr)のP−SSとハンドオーバ先セルのP−SSとが常に相違するように設定することは原理上困難である。
【0035】
以上の事情に鑑み、本実施形態の中継局200(制御部250)は、セル間ハンドオーバの過程においてP−SSが衝突するか否かを判定し、P−SSが衝突する場合には中継局200が送信する送信無線フレームFSの送信タイミングをシフトさせて、P−SSの衝突、ひいては受信無線フレームFRbと送信無線フレームFSとの干渉(特にS−SS同士の干渉)を回避する。
【0036】
図7は、送信タイミングのシフトの前後における送信無線フレームFSの変化を示す図である。
図7(a)は時間シフト前の送信無線フレームFSであり、
図7(b)は時間シフト後の無線フレームFSであり、
図7(c)はハンドオーバ先基地局100bからの受信無線フレームFRaである。
図7(a)および(b)が、
図6(b)および(c)(衝突状態)に対応する。
中継局200の制御部250は、P−SSの衝突が生じていると判定すると(判定の詳細は後述される)、
図7(c)に示すように、これから送信しようとする1つの送信無線フレームFSの前に無送信サブフレームNSFを挿入して、送信無線フレームFSの送信タイミングを時間幅SDだけ時間シフトさせる。そのため、時間シフト後の無線フレームFSは、時間シフト前の送信無線フレームFSと比較して、サブフレーム番号が後にずれることとなる。無送信サブフレームNSFは、基地局100bから送信される下りデータ信号および中継局200(セルCr)のPCIを少なくとも含まないサブフレームSFであり、いかなる信号も送信されないサブフレームSFであってもよい。無送信サブフレームNSFにはサブフレーム番号として便宜的に#0が付与されると好適である。
なお、無送信サブフレームNSFが挿入される位置は、送信無線フレームFSの前に限られず、送信無線フレームFS中(例えば、サブフレームSF#0とサブフレームSF#1との間)に挿入されてもよい。以上の場合、挿入される無送信サブフレームNSFには、無送信サブフレームNSFの直後に送信されるサブフレームSFと同じサブフレーム番号が付与されると好適である。
【0037】
図8は、シフトされる時間幅SDの許容値(上限値)となり得るRLF検出期間の説明図である(3GPP TS 36.300 V10.3.0 (2011-03), Chapter 10.1.6, Radio Link Failure参照)。
無線通信中に無線問題(Radio Problem)が発生した場合、段階的な接続状況判定および接続回復処理が実行される。端末側装置が無線問題を検出すると、所定の時間幅D1をカウントするタイマT310が起動される。端末側装置はタイマT310が満了するまで待機する(第1フェーズ)。第1フェーズ中に無線問題が解消されれば、端末側装置は通常の通信状態に復帰する。他方、第1フェーズ中に無線問題が解消されずタイマT310が満了すると、端末側装置は無線リンク障害(Radio Link Failure,RLF)の発生を検出し、所定の時間幅D2をカウントするタイマT311が起動される。端末側装置は、タイマT311が満了するまでの間、接続していたセルへの再接続を試行する(第2フェーズ)。第2フェーズ中に再接続が成功すれば、端末側装置は通常の通信状態に復帰する。端末側装置は、第2フェーズが満了するまでは、接続していたセルへの接続を維持しているステータス(すなわち、RRC接続状態(RRC_CONNECTED))を有する。他方、第2フェーズ中に再接続が成功せずタイマT311が満了すると、端末側装置は再接続を中止してアイドル状態(RRCアイドル状態(RRC_IDLE))へ移行する(すなわち、無線接続断の状態となる)。
【0038】
RLF検出期間が満了するまで(すなわち、タイマT310が満了するまで)は、端末側装置は接続動作(再接続、セルサーチ等)を実行しない。すなわち、無線問題が検出されるまでに受信していた同期信号(P−SSおよびS−SS)が検出されるのをモニタしつつ待機する。したがって、同期信号に対する時間シフトにより無線問題(同期外れ)が生じても、その時間シフト幅がRLF検出期間の時間幅未満であれば、第1フェーズ終了前に、すなわち同一セルへの再接続動作が実行される前に、同期信号が検出されて無線問題が解消され、通常動作に復帰できる。
【0039】
以上の事情に鑑み、本実施形態では、送信無線フレームFSがシフトされる時間幅SDをRLF検出期間(タイマT310)の時間幅未満に設定する。したがって、時間シフトに伴う接続動作(再接続、セルサーチ等)が回避され、ユーザ装置300−中継局200間におけるシグナリングの発生が抑制される。
ここで、前述の通り、1つのサブフレームSF(無送信サブフレームNSF)の時間長は1ミリ秒である一方、タイマT310の設定値は0ミリ秒、50ミリ秒、100ミリ秒、200ミリ秒、500ミリ秒、1000ミリ秒、2000ミリ秒のいずれかから選択されるので、タイマT310に0ミリ秒が設定されない限り、シフト時間幅SD(1以上の無送信サブフレームNSFを挿入する期間)を確保することが可能である。タイマT310の設定値は、中継局200の記憶部260に予め記憶されていてもよいし、接続中の基地局100から随時に通知されてもよい。
【0040】
図9および
図10を参照して、本実施形態の同期信号衝突判定および衝突回避動作の詳細を説明する。
図9は同期信号衝突判定および衝突回避動作のシーケンス図であり、
図10は同期信号衝突判定および衝突回避動作のフローチャートである。
【0041】
乗物20の移動に伴い中継局200のUnハンドオーバが開始すると、中継局200の検出部252は、ハンドオーバ先セルCbに対応した基地局100bが送信する受信無線フレームFRbに含まれるP−SS(ハンドオーバ先セルCbのP−SS)と、そのP−SSの送信タイミング(サブフレームタイミング)とを検出して、判定部254に供給する。
【0042】
判定部254は、ハンドオーバ先セルCbのP−SSと、送信無線フレームFSに含まれる中継局200自身のセルCrのP−SSとが一致するか否かを判定する(ステップS100)。なお、中継局200自身のセルCrのP−SSは任意の方法により供給され得る。例えば、中継局200自身のセルCrのP−SSが記憶部260に記憶され、ステップS100の判定の際に判定部254に供給されてもよく、送信無線フレームFSを送信する送信部230から随時に中継局200自身のセルCrのP−SSが取得されても良い。
P−SSが一致しない場合(ステップS100:NO)、P−SSの衝突は発生しないから衝突回避動作は実行されずに終了する。他方、P−SSが一致する場合(ステップS100:YES)、判定部254は更なる判定のためにステップS110に進む。
【0043】
ステップS110において、判定部254は、ハンドオーバ先セルCbのP−SSの送信タイミングと中継局200自身のセルCrのP−SSの送信タイミングとが一致するか否かを判定する。なお、中継局200自身のセルCrのP−SSの送信タイミングは、中継局200自身のセルCrのP−SSと同様に、任意の方法により供給され得る。供給方法の例示についても同様である。
P−SSの送信タイミングが一致しない場合(ステップS110:NO)、P−SSの衝突は発生しないから衝突回避動作は実行されずに終了する。他方、P−SSの送信タイミングが一致する場合(ステップS110:YES)、ハンドオーバ先セルCb(基地局100b)のP−SSと中継局200自身のセルCrのP−SSとが衝突するので、判定部254は、時間シフト部256に無送信サブフレームNSFの挿入を指示する。
【0044】
指示を受けた時間シフト部256は、ハンドオーバ先セルCbのP−SSの送信タイミングと中継局200自身のセルCrのP−SSの送信タイミングとを相違させるように、送信部230がこれから送信しようとする1つの送信無線フレームFSの前に、1以上の無送信サブフレームNSFを挿入する(ステップS120)。無送信サブフレームNSFの挿入により、送信無線フレームFSの送信タイミングがシフトされる。前述のように、時間シフト部256によりシフトされる時間幅SD(すなわち、無送信サブフレームNSFの挿入数×1サブフレーム時間(1ミリ秒))は、無線リンク障害検出期間の時間幅未満に設定される。
【0045】
以上に説明した実施の形態によれば、P−SSが衝突すると判定された場合に、送信無線フレームFSが時間シフトされる(無送信サブフレームNSFが挿入される)ので、中継局200とユーザ装置300との接続が維持されたままP−SSおよびS−SSの干渉が回避される。したがって、中継局200のハンドオーバ前後で、中継局200のセルCrに在圏するユーザ装置300の受信品質が維持される。また、シフトされる時間幅SDは無線アクセス障害検出期間の時間幅未満に設定されるので、無線アクセス障害の発生が抑制されてユーザ装置300と中継局200との間での再接続やセルサーチが抑制され、システム全体のシグナリング量の増加が抑制される。さらに、PCIの衝突を回避するために中継局200のPCIを変更する構成と比較して、本実施形態ではPCI(P−SSおよびS−SS)を変更せずに衝突を回避できるので、システムの構成がより簡易となるし、中継局200のPCI変更に伴うユーザ装置300のハンドオーバも抑制されるから、システム全体のシグナリング量の増加がより抑制される。
【0046】
<変形例>
以上の実施の形態は多様に変形される。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は相互に矛盾しない限り適宜に併合され得る。
【0047】
(1)変形例1
以上の実施の形態では、P−SS(個別ID)同士の衝突に基づいて衝突回避動作を実行したが、PCI同士の衝突に基づいて衝突回避動作を実行してもよい。すなわち、中継局200の検出部252がハンドオーバ先セルCbのPCIを検出し、判定部254がハンドオーバ先セルCbのPCIと中継局200自身のセルCrのPCIとが一致するか否かを判定し(ステップS100)、PCIの送信タイミングの一致を判定し(ステップS110)、以上の判定に基づいて衝突回避動作(ステップS120)を実行する構成も採用しうる。ただし、PCIが一致するならばP−SSも一致する一方、PCIの一致を判定するにはS−SSの復号処理等が必要になり処理時間・処理負荷が増大するから、P−SSの衝突に基づく構成の方が迅速かつ効率よく衝突判定および衝突回避動作を実行することが可能である。
【0048】
(2)変形例2
以上の実施の形態では、P−SS(個別ID)の送信タイミングの一致に基づいて衝突回避動作を実行した。これは、受信無線フレームFRbと送信無線フレームFSとでフレーム送信タイミングは相違するがP−SSの送信タイミングが一致する場合、すなわち、受信無線フレームFRbのサブフレームSF#0と送信無線フレームFSのサブフレームSF#5とが同じタイミングで送信される場合にも衝突回避動作を実行可能としたものである。しかしながら、単純に、受信無線フレームFRbの送信タイミングと送信無線フレームFSの送信タイミングとが一致するか否かに基づいて、衝突回避動作を実行してもよい。
【0049】
(3)変形例3
以上の実施の形態では、中継局200がハンドオーバ元セルCaからハンドオーバ先セルCbへのUnハンドオーバの過程において衝突判定・衝突回避動作を実行したが、Unハンドオーバの完了後に衝突判定・衝突回避動作を実行してもよい。
【0050】
(4)変形例4
以上の実施の形態では、時間シフト部256がサブフレームSF単位で送信無線フレームFSを時間シフトさせたが、スロット単位または無線フレームF単位での時間シフト(すなわち、無送信スロットまたは無送信フレームの挿入)を行ってもよい。さらに、サブフレーム等の所定の送信単位に依らずに、任意の時間幅で時間シフトを行ってもよい。ただし、以上の実施の形態の構成によれば、無送信サブフレームNSFの挿入(サブフレーム番号のシフト)という簡易な方法によってPCI(P−SSおよびS−SS)の衝突を回避することが可能となるのでより好適である。
【0051】
(5)変形例5
以上の実施の形態では、送信無線フレームFSがシフトされる時間幅SDが無線アクセス障害検出期間の時間幅(タイマT310の継続時間)未満に設定されたが、無線アクセス障害検出期間の時間幅以上に設定されてもよい。斯かる構成によってもPCI(P−SSおよびS−SS)の衝突を回避できるからである。しかし、中継局200とユーザ装置300との無線接続の維持という観点からは、実施形態のように時間幅SDを無線アクセス障害検出期間の時間幅未満とすることがより好適である。
【0052】
(6)変形例6
中継局200においてCPUが実行する各機能は、CPUの代わりに、ハードウェアで実行してもよいし、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)等のプログラマブルロジックデバイスで実行してもよい。