特許第5785492号(P5785492)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5785492
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】ガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/04 20060101AFI20150910BHJP
   C25B 9/00 20060101ALI20150910BHJP
   C25B 9/10 20060101ALI20150910BHJP
   C25B 11/03 20060101ALN20150910BHJP
【FI】
   C25B9/04 302
   C25B9/00 E
   C25B9/10
   !C25B11/03
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-515878(P2011-515878)
(86)(22)【出願日】2010年5月24日
(86)【国際出願番号】JP2010003470
(87)【国際公開番号】WO2010137284
(87)【国際公開日】20101202
【審査請求日】2013年4月3日
(31)【優先権主張番号】特願2009-126622(P2009-126622)
(32)【優先日】2009年5月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000105040
【氏名又は名称】ティッセンクルップ・ウーデ・クロリンエンジニアズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100091971
【弁理士】
【氏名又は名称】米澤 明
(74)【代理人】
【識別番号】100095120
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 亘彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100157118
【弁理士】
【氏名又は名称】南 義明
(72)【発明者】
【氏名】浅海 清人
(72)【発明者】
【氏名】井口 幸徳
(72)【発明者】
【氏名】浜守 光晴
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−322018(JP,A)
【文献】 特開2001−003189(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/080193(WO,A2)
【文献】 特開2004−002993(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0189936(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、イオン交換膜、ガス拡散電極を配置した陰極室を有するガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽において、前記陰極室の背面板とガス拡散電極の電解面の反対側に形成した陰極ガス室に、前記ガス拡散電極に接してコイル状の通気性の弾性部材が配置され、前記弾性部材は、表面に耐食性導電層を形成した複数個の平板状の通電部材同士を間隔を設けずに前記背面板に接合して前記ガス拡散電極と前記背面板との間の導電接続を形成したことを特徴とするガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食塩水等のアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解等に使用されるガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽に関するものであり、特に二室法ガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
ガス拡散電極を設けたガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽は、ガス拡散電極において外部から取り入れた気体と反応させることによって電気分解電圧を減少させる手段として利用されている。
ガス拡散電極を陰極に使用したアルカリ金属塩化物水溶液のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽では、陽極室には塩化アルカリ水溶液を供給し、陽極において塩素ガスを生成している。一方、陰極室には酸素含有気体を供給し、ガス拡散電極において酸素を還元すると共にアルカリ金属水酸化物水溶液を生成する。
【0003】
ガス拡散電極は、イオン交換膜に均一に密着した状態を維持しなければ電解液がガス拡散電極の全面に対して流れるようにすることができず、ガス拡散電極の電解面に対して均一に電流を流すことができなくなる。
そこで、ガス拡散電極の背面の陰極室との背面板との間に通気性を有する弾性部材を配置し、ガス拡散電極をイオン交換膜に密着させると共に、陰極室の背面板からガス拡散電極への通電を確保したイオン交換膜電解槽が提案されている。
また、陰極室内には、アルカリ金属水酸化物水溶液と酸素が存在しているので、陰極室の内壁面は、酸化性環境が形成されるので、陰極室内の構成部材には、ニッケル、ニッケル合金等が用いられているが、このような環境下では、ニッケル、ニッケル合金は、表面に酸化によって不動態被膜が形成される。
ニッケル、ニッケル合金に形成された不動態被膜によって金属の腐食の進行は防止可能であるものの、不動態被膜によって陰極室の背面板から弾性部材との接触によって通電されているガス拡散電極への通電回路には、大きな通電抵抗が生じることとなる。
そこで、不動態被膜による導電性の低下を防止するために、陰極室の背面板および弾性部材に銀めっきを施して通電抵抗の上昇を防止することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−322018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽において、陰極室の背面板、弾性部材等の構成部材の表面に銀めっきを施すことで導電性の低下を防止し、通電抵抗の上昇を防止することは、電解槽電圧の上昇を防止するうえで効果的な手段であるものの、電気分解を長期間継続していると、電解槽電圧の上昇を避けることができなかった。
本発明は、ガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽において、陰極室内でのガス拡散電極から陰極室の背面板への通電回路における通電抵抗の上昇による電解槽電圧の上昇を防止して長期にわたり、ガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽の特徴である低い電解槽電圧による運転が可能なガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、陽極、イオン交換膜、ガス拡散電極を配置した陰極室を有するガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽において、前記陰極室の背面板とガス拡散電極の電解面の反対側に形成した陰極ガス室に、前記ガス拡散電極に接してコイル状の通気性の弾性部材が配置され、前記弾性部材は、表面に耐食性導電層を形成した複数個の平板状の通電部材同士を間隔を設けずに前記背面板に接合して前記ガス拡散電極と前記背面板との間の導電接続を形成したガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽である。
また、前記通電部材は、ニッケルまたはニッケル合金製の箔または板に、銀または白金族金属を含む耐食性導電層を有する前記のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽である。
また、前記通電部材は、前記背面板に一部または全部が接合されている前記のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽である。
前記弾性部材が導電接触面または全面に耐食性導電層を形成したガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽は、ガス拡散電極に通電する弾性部材と陰極室の背面板とが接触する面には、表面に耐食性導電層を形成した複数個の通電部材を配置して通電したので、ガス拡散電極に通電する弾性部材との接触部の特性が安定しており、長期にわたり電解槽電圧が低く安定したガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽の実施態様を説明する図であり、断面図である。
図2図2は、本発明のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽の実施態様を説明する図であり、分解斜視図である。
図3図3は、本発明のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽の実施態様を説明する図であり、通電部材を説明する図である。図3Aは、比較的面積が大きな通電部材を背面板に装着したものである。図3Bは、図3Aに示したものに比べて面積が小さな通電部材板を背面板に多数装着したものである。
図4図4は、本発明のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽の実施例、比較例を説明する図である。
図5図5は、本発明のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽の実施例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽の陰極室の背面板の導電接触面に形成した導電性に優れた銀等の被覆層の部分的な剥離は、めっき等によって形成された被覆層には膜厚等にむらが生じているために、電気化学的な特性が異なる部位が生じることが原因であることを見出したものである。
すなわち、陰極室の背面板は、陰極室枠体によって四方を囲まれているためにめっき槽内でめっき液の流れにむらが生じる等の現象が避けられず、その結果、膜厚をはじめとした特性が異なる部位が形成されるために電気分解を続けると背面板からの剥離等の問題が生じるものと考えられる。
【0010】
そこで、本発明は、背面板に導電層を直接めっきした際に生じる問題点を、表面に銀、白金族金属等の耐食性導電層をめっき等によって形成した平板状の金属箔、金属板からなる通電部材の複数個を背面板に接合することにより、弾性部材との接触部の特性を均一なものとし、これによって、弾性部材と接触する耐食性導電層の剥離等の現象を防止することが可能であることを見出したものである。
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽の実施態様を説明する図であり、断面図である。
単一の陽極室と単一の陰極室をイオン交換膜を介して積層した食塩水の電気分解に使用するガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽を例に挙げて説明する。
図1は、ガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽を電極面に垂直な面で切断した断面図である。
ガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽1は、イオン交換膜10により陽極室20と陰極室30に区画されたものであり、二室法ガス拡散電極装着電解槽と称されているものである。
陽極室20には、陽極211が設けられており、内部には陽極液213として食塩水が充填されており、陽極室20下部には陽極液入口215が設けられている。
また、陽極室上部には電気分解によって濃度が低下した陽極液及び気体出口217が設けられており、陽極室枠体219は陽極室側ガスケット221を介してイオン交換膜10と積層されている。
【0012】
一方、イオン交換膜10の陽極室20とは反対側の面には、陰極室30が設けられており、陰極室内にはガス拡散電極313が設けられている。
ガス拡散電極313を含む陰極室内部空間301と、イオン交換膜10との間には、液体保持部材311が配置されている。
【0013】
また、ガス拡散電極313は、液体保持部材311に面する側の反対面には、線材等で作製した内部に気体が通過する空間を設けた弾性部材330が配置されている。
弾性部材330は、ガス拡散電極313、液体保持部材311をイオン交換膜10側に密着して、陰極室内に陰極ガス室317を形成し、陰極室30の背面板327に接合した,表面に耐食性導電層を形成した複数個の通電部材340の耐食性導電層341と接触してガス拡散電極313と背面板327との間に通電回路を形成している。
【0014】
本発明のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽1の陽極室20にアルカリ金属塩化物水溶液を供給し、陰極室30の陰極ガス室317に、酸素入口319から酸素含有気体を供給しながら陽極211とガス拡散電極313間に通電すると、ガス拡散電極313では液体保持部材311側からアルカリ金属水酸化物水溶液の水分が供給され、また反対面の陰極ガス室317側からは酸素含有気体が供給されてガス拡散電極313内においてアルカリ金属水酸化物水溶液の生成反応が進行する。
生成したアルカリ金属水酸化物水溶液は濃度勾配によって液体保持部材311へ移行して吸収、保持されるとともに、液体保持部材311内部やガス拡散電極313のガス室側を流下して陰極ガス室出口321から排出される。
【0015】
陰極ガス室317には、高濃度酸素、水蒸気、アルカリ金属水酸化物水溶液のミストが存在し、温度は90℃前後に達するので、陰極室の構成部材には、ニッケル、ニッケル合金等が用いられている。また、弾性部材にも耐食性が優れるとともに、導電性が大きな金属材料が用いられており、ニッケル、高ニッケル合金が用いられている。
【0016】
従来のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽では、陰極ガス室317に用いられている、ニッケル、またはニッケル合金等の耐食性が良好な金属は、高濃度の酸素の存在のもとでは、表面が酸化されて不動態被膜を形成して通電を阻害することとなり、電解槽電圧の上昇が起こる。
【0017】
これに対して、本発明のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽にあっては、陰極室30の背面板327には、表面に耐食性導電層341を形成した複数個の平板状の通電部材340が配置されている。
平板状の通電部材340は、めっき、クラッド,あるいは焼き付け被覆によって表面の特性が一様な耐食性導電層341が形成されているので、背面板327の面積が大きくなっても、部位に係わらず特性が一様な面が得られる。
その結果、ガス拡散電極313と背面板327との間の通電回路を形成する弾性部材330の接触面は、耐食性導電層341の存在によって長期間の運転においても接触抵抗の増大が起こらず、電解槽電圧の上昇を防止することが可能となる。
【0018】
平板状の通電部材には、厚みが0.1〜1.0mmの陰極室の背面板と同一のニッケル材を用いることが好ましい。また、耐食性導電層は、銀、白金族の金属によって形成することができるが、なかでも導電性の良好な銀が好ましく、めっき、クラッド,焼き付け等によって形成することができる。
耐食性導電層の厚みは、0.5μm以上とすることが好ましく、0.5μmよりも薄い場合には充分な特性を得ることができない。一方、厚みが厚くなるほど耐食性等が優れたものが得られるが、5μm程度の厚みで充分である。
また、平板状の通電部材は、60×56mm〜1220×500mmの大きさのものとすることが好ましい。60×56mmよりも小さな場合には、設置個数が多くなってスポット溶接個所が増加して、均一性が低下する可能性がある。一方、1220×500mmよりも大きくなると、めっき等によって耐食性導電層を形成する際に不均一なものが生じやすくなるので好ましくない。
【0019】
図2は、本発明のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽の実施態様を説明する図であり、弾性部材と通電部材を説明する分解斜視図である。
陰極室枠体323の背面板327には、複数個の通電部材340が接合されている。この図の例では、12個の通電部材340が配置されている。
通電部材340に対向して通電部材340に一方の面が接触し、他方の面がガス拡散電極の電解面の反対側に接触する弾性部材330が配置されている。
弾性部材330は、図2で示す例では、弾性部材枠体331に気体の通路を形成する中空のコイルばね状の部材からなる単位弾性部材333a,333b,333c,333d333e,333f,333g,333hの8個が装着されており、ガス拡散電極を均等に押圧し、ガス拡散電極と背面板との間に均等な通電が可能となるように配置されている。
このように、複数個の単位弾性部材を用いることによって、ガス拡散電極の電解面積が大きくなっても、ガス拡散電極に加わる圧力および電流分布を均等にすることができる。 また、弾性部材330を形成する単位弾性体333a〜333h、および通電部材の数は、電解面積,通電電流密度等の大きさに応じて、適宜設定することができる。
【0020】
図3は、本発明のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽の実施態様を説明する図であり、通電部材を説明する図である。
陰極室の背面板327に装着する通電部材340は、図3Aで示すように、比較的面積が大きな通電部材340を、接合部343においてスポット溶接等の方法で背面板に装着し、通電部材340に形成した耐食性導電層341をガス拡散電極側に配置したものである。
また、図3Bは、図3Aに示したものに比べて、面積が小さな通電部材340を背面板327に多数装着し、それぞれ接合部343によって接合して表面に耐食性導電層341を形成したものである。
このように、小さな通電部材340を多数装着することによって背面板からガス拡散電極に対して長期間にわたり安定した通電が可能となる。
以下に、実施例、比較例を示して本発明を説明する。
【実施例】
【0021】
実施例1
有効電解面積が高さ56mm、横60mmの電解槽に、食塩水電気分解用陽極(ペルメレック電極製JP202R)に接してイオン交換膜(旭硝子製陽イオン交換膜F−8020)を配置し、イオン交換膜の陽極とは反対面には、液体保持部材として、電解面を覆う厚さ0.4mmの炭素繊維布(ゾルテック社製)を積層し、更に液体保持部材上に、液体透過性ガス拡散電極(ペルメレック電極製)を積層した。
ガス拡散電極の電解面とは反対面には、線径0.17mmのニッケル線を巻径6mmでコイル状にして1個を配置した。
陰極室枠体の陰極室の背面板に、縦56mm、横60mm,厚さ0.2mmのニッケル箔(NW2201材)の一方の面に厚さ10μmの銀めっきを施した通電部材1個を、それぞれ6個所をスポット溶接して接合した。
【0022】
ガス拡散電極に電圧測定端子を取付けて、電流密度3kA/m2、電解温度を87〜89℃、水酸化ナトリウム水溶液濃度30〜33質量%に維持して17日間運転を行った。
ガス拡散電極と背面板との間の電位差、すなわち電圧降下を測定して、その結果を図4に示す。初期電圧0.001Vで、17日後も電圧上昇はなく、17日間の運転を通し安定していた。
【0023】
実施例2
有効電解面積が、幅620mm、高さ1220mmの電解槽に、食塩水電気分解用陽極(ペルメレック電極製JP202R)に接してイオン交換膜(旭化成ケミカルズ製陽イオン交換膜 アシプレックスF−4403)を配置し、イオン交換膜の陽極とは反対面には、液体保持部材として、電解面を覆う厚さ0.4mmの炭素繊維布(ゾルテック社製)を積層し、更に液体保持部材上に、液体透過性ガス拡散電極(ペルメレック電極製)を積層した。
【0024】
ガス拡散電極の電解面とは反対面には、線径0.17mmのニッケル線を巻径6mmでコイル状にして4個を配置した。
陰極室枠体の陰極室の背面板に、縦1160mm、横310mm、厚さ0.2mmのニッケル箔(NW2201材)の一方の面に厚さ10μmの銀めっきを施した通電部材2個を、それぞれ144個所をスポット溶接して接合した。
この電解槽を用いて、電流密度3kA/m2、電解温度75〜85℃、水酸化ナトリウム濃度30〜34質量%に保持して電気分解を行った。
電解槽電圧の変化を図5に示すように電圧の上昇は確認されなかった。
更に、運転を継続して500日間の運転後、電解槽を解体したが銀めっきを施した通電部材に異常は見られなかった。
【0025】
比較例1
通電部材として、銀めっきを施さなかった点を除き実施例1と同様にして作製した電解槽を用いて実施例1と同様の条件で電気分解を行い、実施例1と同様にガス拡散電極と陰極室の背面板との間の電位差を測定した。その結果を図4に示すように運転の経過とともに電位差の増大が見られた。
また、運転停止後、電解槽を解体したところ、通電部材として使用したニッケル箔は不動態被膜の形成によって黒く変色していた。
【0026】
比較例2
通電部材を使用せずに、陰極室の背面板に中心で測定した厚み10μmの銀めっきを施した陰極室によって作製した電解槽を用いた点を除き実施例2と同様にして電気分解を行って、電解槽電圧の変化を測定した。
300日間の運転で、200mVの電解槽電圧の上昇があった。また、運転停止後に電解槽を解体したところ、前記背面板の銀めっき層の弾性部材と接触する通電個所のほぼすべての部分の銀めっきが剥離し、下地のニッケル材が露出すると共に下地であるニッケル材が、不動態被膜の形成によって黒く変色していた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽は、ガス拡散電極に通電する弾性部材と陰極室の背面板とが接触する面には、表面に耐食性導電層を形成した複数個の通電部材を配置して通電したので、ガス拡散電極に通電する弾性部材との接触部の特性が安定しており、通電部材の表面からの耐食性導電層の剥離がなく、ガス拡散電極とは前記背面板との間の電圧降下が小さく、長期に安定した性能が得られるガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽を提供することができる。
【符号の説明】
【0028】
1…ガス拡散電極装着イオン交換膜電解槽、10…イオン交換膜、20…陽極室、30…陰極室、211…陽極、213…陽極液、215…陽極液入口、217…陽極液及び気体出口、219…陽極室枠体、221…陽極室側ガスケット、301…陰極室内部空間、311…液体保持部材、313…ガス拡散電極、317…陰極ガス室、319…酸素入口、321…陰極ガス室出口、323…陰極室枠体、325…陰極室側ガスケット、327…背面板、330…弾性部材、331…弾性部材枠体、333a,333b,333c,333d,333e,333f,333g,333h…単位弾性体、340…通電部材、341…耐食性導電層、343…接合部
図1
図2
図3
図4
図5