(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5785518
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】コンデンサ及びその誘電体層
(51)【国際特許分類】
H01G 4/10 20060101AFI20150910BHJP
【FI】
H01G4/10
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-95929(P2012-95929)
(22)【出願日】2012年4月19日
(65)【公開番号】特開2013-225534(P2013-225534A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2014年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000186762
【氏名又は名称】昭栄化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512103561
【氏名又は名称】エナジー・ストレージ・マテリアルズ合同会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋和
(72)【発明者】
【氏名】有光 直樹
【審査官】
小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−130844(JP,A)
【文献】
特開平02−148656(JP,A)
【文献】
特開平02−225310(JP,A)
【文献】
特開平04−162306(JP,A)
【文献】
特開平06−140286(JP,A)
【文献】
特開2005−038843(JP,A)
【文献】
特許第4249616(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/10
H01G 11/56
H01M 6/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Li1+xM1xM22−x(PO4)3(但し、M1はAl,Y,Ga,InおよびLaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、M2はTi,Geから選ばれる少なくとも1種の金属であり、0<x≦0.6である)で示されるLiイオン伝導性化合物を含み、膜厚が10μm以下である誘電体層と、
当該誘電体層を介して対向する電極層を備える
ことを特徴とするデカップリングコンデンサ。
【請求項2】
前記膜厚が2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のデカップリングコンデンサ。
【請求項3】
一般式Li1+xM1xM22−x(PO4)3(但し、M1はAl,Y,Ga,InおよびLaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、M2はTi,Geから選ばれる少なくとも1種の金属であり、0<x≦0.6である)で示されるLiイオン伝導性化合物を含み、
膜厚が10μm以下である
ことを特徴とする、デカップリングコンデンサに用いられる誘電体層。
【請求項4】
前記膜厚が2μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の誘電体層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Liイオン伝導性化合物を用いたデカップリングコンデンサ及びその誘電体層に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、様々な電子回路等においてデカップリングコンデンサ(バイパスコンデンサともいう)が使用されている。
【0003】
例えば、高周波回路においては、BaTiO
3を誘電体材料として用いる積層セラミックコンデンサが広く使われている。一般的に積層セラミックコンデンサは、BaTiO
3粉末を含むグリーンシートとNi等の金属粉末を含む導電ペースト層(電極層)とを交互に積層し、焼成することによって得られる。積層セラミックコンデンサは、無極性で周波数特性にも優れていることから広く利用されているが、その容量は0.5pF〜22μF程度であり、近年においては更に容量の大きい積層セラミックコンデンサが求められている。
【0004】
また、低周波回路においては、アルミ電解コンデンサ等の電解コンデンサが使われることが多い。電解コンデンサは、積層セラミックコンデンサに比べて大きな容量(例えば0.1μF〜10万μF)が得られるが、電解液が外部に漏れ出す恐れがあり、また周波数特性が悪いといった問題もあった。
【0005】
その他、容量の非常に大きいコンデンサとして、電気二重層コンデンサが知られている。固体電解質を用いた電気二重層コンデンサの一例として、特許文献1には、一般式Li
1+x,M
1xTi
2−x(PO
4)
3(但し、M
1はAl,Y,Ga,InおよびLaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、0≦x≦0.6)で示されるLiイオン伝導性化合物を用いたものが開示されている。
【0006】
しかしながら電気二重層コンデンサは、通常、周波数特性が極めて悪く、その用途としてはパソコンや自動車等のバックアップ電源として活用されることが殆どであり、デカップリング用途としては使用できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−130844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した背景技術に鑑みて成されたものであり、新規なコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、一般式Li
1+xM
1xM
22−x(PO
4)
3(但し、M
1はAl,Y,Ga,InおよびLaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、M
2はTi,G
eから選ばれる少なくとも1種の金属であり、0
<x≦0.6である)で示されるLiイオン伝導性化合物を含み、膜厚が10μm以下である誘電体層と、当該誘電体層を介して対向する電極層を備えるデカップリングコンデンサによって達成される。
【0010】
また、上記目的は、一般式Li
1+xM
1xM
22−x(PO
4)
3(但し、M
1はAl,Y,Ga,InおよびLaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、M
2はTi,G
eから選ばれる少なくとも1種の金属であり、0
<x≦0.6である)で示されるLiイオン伝導性化合物を含み、膜厚が10μm以下であるデカップリングコンデンサ用の誘電体層によって達成される。
【0011】
本発明において好ましくは、前記膜厚が2μm以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Liイオン伝導性化合物を用いながら周波数特性に優れたデカップリングコンデンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1で得たコンデンサの周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者等は、当初、特許文献1に記載されている電気二重層コンデンサ用の固体電解質材料として、Liイオン伝導性化合物であるLiAlTi(PO
4)
3について、その物性や特性の検討を行った。
【0016】
当該Liイオン伝導性化合物を用いたコンデンサは、特許文献1に詳細に報告されているような掃引速度の遅い低周波領域で作動させている間は、コンデンサ容量は当該化合物の厚みに依存せず、電気二重層コンデンサとして動作している。
【0017】
しかしながら、本発明者等は、当該Liイオン伝導性化合物の物性・特性について検討を進める内に、印加する周波数やその厚みに因って従来の電気二重層コンデンサとは全く異なる挙動を示すことを見出した。
【0018】
本発明者等の検討に因れば、当該Liイオン伝導性化合物を用いたコンデンサは、数kHz程度までの低周波帯においては、当該化合物の膜厚が10μm以下の時に若干の減少傾向が見られる程度で、そのコンデンサ容量は当該膜厚に殆ど依存していない。ところが、それより高周波側(例えば10kHz程度)の周波数帯になると、容量の当該膜厚に対する依存性が出現する。
【0019】
本発明者等は、この依存性が、当該膜厚が大きければ大きいほど高周波側における周波数特性が悪くなる(=容量変化が大きくなる)ものであることに着目し、当該膜厚を制御することにより、当該Liイオン伝導性化合物を用いながらも、周波数特性の良い、デカップリング用途に適したコンデンサが得られるのではないかと思い至ったことから、本発明を完成させるに到った。
【0020】
すなわち、本発明は特定のLiイオン伝導性化合物を誘電体として用い、当該誘電体層の膜厚が10μm以下であるデカップリングコンデンサを要旨とする。
【0021】
本発明において誘電体層は、その膜厚が2μm以下であると更に周波数特性が改善され好ましい。
【0022】
本発明の誘電体として用いられるLiイオン伝導性化合物としては、特許文献1に記載されているLi
1+xM
1xTi
2−x(PO
4)
3(但し、M
1はAl,Y,Ga,InおよびLaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、0≦x≦0.6である)の一般式によって示されるLiイオン伝導性化合物を利用することができる。
【0023】
但し、上記化合物において、Tiの一部或いは全部を、G
eで置換しても本発明の作用効果が得られることが確認できていることから、本発明のLiイオン伝導性化合物は、一般式でLi
1+xM
1xM
22−x(PO
4)
3(但し、M
1はAl,Y,Ga,InおよびLaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属であり、M
2はTi,G
eから選ばれる少なくとも1種の金属であり、0
<x≦0.6である)と示される。
【0024】
本発明におい
て金属M
1が含まれることにより、Liイオン伝導性が向上し、高周波側の周波数特性が向上するといった作用効果が得られる。好ましいxの範囲は、0.3≦x≦0.6である。
【0025】
更に本発明においては、Liイオン伝導性化合物は、そのLiの一部がMg,Ca,Mn等の二価の金属で置換されていても良い。Liの一部が二価の金属で置換されていることにより、Liの空きサイトが増加し、Liイオン伝導性の向上に伴う高周波特性の向上が期待できる。
【0026】
また、本発明において誘電体層としては、Li系ガラスを熱処理することによって、上述したLiイオン伝導性化合物を析出させた結晶ガラス(ガラスセラミック)であってもよい。
【0027】
なお、本発明において誘電体層は、焼成後の膜厚が10μm以下になるように成形する他は、特許文献1に記載されているペレットやグリーンシートとほぼ同様にして作製することもできる。
【0028】
例えば、Liイオン伝導性化合物の原材料を混合した後、焼成することによってLiイオン伝導性化合物を合成することができる。ここで原材料としては特に限定はなく、目的とするLiイオン伝導性化合物に用いられる金属を含む酸化物、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、有機化合物等から適宜選択して用いれば良い。この際、原材料の焼成条件は、目的とするLiイオン伝導性化合物に応じて適宜設定すればよく、例えば200℃〜1300℃の温度で3〜48時間焼成する。
【0029】
その他、本発明においてLiイオン伝導性化合物は、広く知られている噴霧熱分解法や、特開2004−067462号公報、特開2004−083372号公報に記載されている熱分解性原料粉末を気相中で熱分解する製法によって製造されても良い。これらの製法によれば、微細で粒度の揃った生成物粒子が得られ、好ましい。なお、この際の原材料や加熱条件等も目的とするLiイオン伝導性化合物に応じて適宜選択することができる。
【0030】
得られたLiイオン伝導性化合物は、必要に応じてジェットミルやボールミル等を用いて粉砕した後、有機バインダー及び溶剤を加えてスラリー乃至はペーストが調製される。この際、用いることのできる有機バインダーとしては、セルロース類、ブチラール樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ロジンエステル等が、また溶剤としてはアルコール系、エーテル系、エステル系、炭化水素系等の有機溶剤や水、これらの混合溶剤等を用いることができるが、本発明はこれらに限定されない。更に必要に応じて可塑剤、粘度調整剤、界面活性剤等の添加剤を加えても良い。
【0031】
このようにして得られたスラリーやペーストを用いて焼成後の膜厚が10μm以下、好ましくは2μm以下になるように成形・乾燥することによってグリーンシート(未焼成の誘電体シート)が作製される。
【0032】
その後、例えば400℃〜1300℃の温度で当該グリーンシートを1〜72時間焼成することにより、本発明の誘電体層を得ることできる。
【0033】
続いて、この誘電体層の両面に、公知の印刷法、薄膜法、塗布法、溶射法、スパッタ法、メッキ法等を用いて一対の電極層を形成することでコンデンサ構造とすることができる。
【0034】
電極層形成に用いる導電材料としては、Au、Pt、Pd、Ag、Ni、Cu等の金属材料や合金材料を用いることができ、これらの金属の粉末材料を含むスラリーやペーストと用いて電極層を形成しても良いし、或いはこれらの金属を含むレジネートを用いて電極層を形成するようにしても良い。
【0035】
なお、誘電体層の膜厚が薄く、その取扱いが困難である場合には、電極上に直接、スラリーやペーストを塗布や印刷等を行うようにしても良い。
【0036】
また、本発明は、積層セラミックコンデンサと同様に、誘電体層と電極層とを交互に積層した積層体に外部電極を付与した積層型のコンデンサとしても良い。
【0037】
すなわち、前述のLiイオン伝導性化合物を含むペーストを用いてグリーンシートを形成し、導電ペーストを用いて形成される内部電極ペースト層と交互に複数層積重ねて未焼成の積層体を得た後、これを高温で同時焼成し、さらに該積層体の内部電極層が露出する端面に端子電極ペーストを塗布・焼成して内部電極層と電気的に導通した端子電極を形成することにより積層型コンデンサとすることができる。なお、積層体は、グリーンシートを用いることなく、誘電体ペースト及び電極ペーストを直接、交互に積層することによって製造しても良い。また、工程の簡略化のために、端子電極ペーストを前記未焼成の積層体端面に塗布し、該積層体と同時焼成することによって端子電極を形成する場合もある。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
Liイオン伝導性化合物として、Li
1.5Al
0.5Ti
1.5(PO)
3を作製した。
【0039】
先ず、原材料として化学量論量の硝酸リチウム、硝酸アルミニウム九水和物及びチタンラクテート(hydroxybis(lactato)titanium)を水に溶解し、水溶液を調製した。
【0040】
この水溶液を酸素含有雰囲気中において1000℃で噴霧熱分解し、得られた生成物を回収した。
【0041】
回収された生成物に対して、化学量論量のリン酸二水素アンモニウムを加え、均一に混合した後に、酸素含有雰囲気中において300〜900℃の温度で4時間、焼成した。
【0042】
得られた焼成物にアセトンを加え、湿式ボールミルで12時間粉砕した後、ブチラール樹脂、メンタノール及び高分子系分散剤と共にロールミルで均一に混合することによって、上記Liイオン伝導性化合物を含むスラリーを調製した。
【0043】
このスラリーを用いて、Pdの電極シート上に、焼成後の膜厚が75μmとなるように未焼成の誘電体層を形成した後、酸素含有雰囲気中において1000℃で2時間、焼成した。
【0044】
その後、得られた誘電体層上のPd電極層と対向する面に、スパッタ法によりAu電極層を形成してコンデンサを作製した。
【0045】
その後、同様にして、焼成後の誘電体層の膜厚が57μm、37μm、25μm、20μm、15μm、7μm、4μm、2μm、1μmのコンデンサを作製した。
【0046】
それぞれのコンデンサに対し、インピーダンス測定装置“65120B”(Wayne Kerr Elctronics社製)を用いて、AC振幅電圧100mVで、20Hzから120MHzの範囲で周波数特性を測定した。
【0047】
その結果を
図1に示す。なお、
図1において横軸は誘電体(Liイオン伝導性化合物)の膜厚、縦軸は1kHzにおける容量を基準にした高周波領域における容量維持率を示す。
【0048】
この
図1から明らかなように、誘電体の膜厚が10μm以下になると、10kHzまで容量を維持できるようになり、更に誘電体の膜厚が2μm以下になると1MHzまで容量を維持できるようになる。
【0049】
なお、上記各コンデンサに直流電圧を印加しても静電容量が変化しなかったことから、本発明のコンデンサはDCバイアス特性を備えないものであることが確認された。
〔実施例2〕
Liイオン伝導性化合物として、Li
1.5Al
0.5Ti
1.5(PO)
3に代えてLi
1.3Al
0.3Ge
1.7(PO)
3を用いた以外は実施例1と同様の実験を行ったところ、
図1とほぼ同じ周波数特性が得られた。