特許第5785532号(P5785532)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5785532-銀コート銅粉及びその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5785532
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】銀コート銅粉及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/02 20060101AFI20150910BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20150910BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20150910BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20150910BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20150910BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   B22F1/02 A
   B22F1/00 L
   H01B5/00 C
   H01B1/00 C
   H01B1/22 A
   H01B13/00 501Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-261812(P2012-261812)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-105387(P2014-105387A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2013年2月1日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎司
(72)【発明者】
【氏名】田中 正則
(72)【発明者】
【氏名】児平 寿博
(72)【発明者】
【氏名】坂上 貴彦
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−214080(JP,A)
【文献】 特開2004−156062(JP,A)
【文献】 特開2007−100155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00− 1/02
H01B 1/00
H01B 1/22
H01B 5/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅からなるコア粒子と、該コア粒子の表面に位置する銀コート層とを有する銀コート銅粉であって、
前記銀コート銅粉のBET比表面積をS(m/g)とし、前記銀コート銅粉を顕微鏡観察し画像解析して求められた粒径D50から算出された比表面積をS(m/g)とし、前記銀コート層の厚みをt(nm)としたとき、(S/S)≦0.005×t+1.45を満たし、
BET比表面積Sが0.01〜0.96m/gであり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50Lが1.18〜100μmであり、
L*値が68.0以上である銀コート銅粉。
【請求項2】
請求項1に記載の銀コート銅粉を含む導電ペースト。
【請求項3】
請求項1に記載の銀コート銅粉の製造方法であって、
銀イオンと、銅からなるコア粒子とを水中で接触させて置換めっきを行い、該コア粒子の表面に銀を析出させて前駆体粒子を得、次いで
前記前駆体粒子と、銀イオンと、銀イオンの還元剤とを水中で接触させて、該前駆体粒子の表面に更に銀を析出させる銀コート銅粉の製造方法であって、
前記還元剤として、蟻酸、シュウ酸、L−アスコルビン酸又はエリソルビン酸を用いる銀コート銅粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀コート銅粉及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅粉は導電ペーストの原料として広く用いられてきた。導電ペーストは、その取り扱いの容易さ故に、実験目的なものから電子産業用途に到るまで広範に使用されている。特に、銀コート層によって表面が被覆された銀コート銅粉は、導電ペーストに加工されて、スクリーン印刷法を用いたプリント配線板の回路形成や、各種電気的接点部等に応用され、電気的導通確保の材料として用いられてきた。この理由は、銀コート銅粉は、通常の銅粉と比較して電気的伝導性に優れるからである。また銀コート銅粉は、銀のみからなる銀粉と異なり、高価でないので経済的にも有利である。したがって、導電特性に優れた銀コート銅粉を用いた導電ペーストによって導体形成を行うと、低抵抗の導体を低コストで製造できる。
【0003】
銀コート銅粉は、一般に銅と銀との置換反応を利用した無電解置換めっき法によって製造されてきた。例えば特許文献1においては、金属銅粉及び硝酸銀を含む溶液を強く撹拌しながら、金属銅粉の表面に金属銀を析出させる方法が提案されている。また、本出願人も先に、無電解置換めっき法によって銀コート銅粉を製造する方法を提案した(特許文献2参照)。この方法においては、銀の置換反応を行う前に銅粉を酸性溶液中に分散させて銅粉表面の酸化物を確実に除去している。また、キレート化剤を加えた銅粉スラリーに緩衝剤を添加してpH調整を行い、銀イオン溶液を連続的に添加することで銀の置換反応速度を一定に維持している。
【0004】
以上の技術とは別に、特許文献3においては、銅粉を還元剤中に分散させたpH3.5〜4.5の銅粉スラリーに銀イオン溶液を連続的に添加し、無電解置換めっきと還元型無電解めっきによって銅粉表面に銀層を形成することが記載されている。還元剤としては、ブドウ糖(グルコース)、マロン酸、コハク酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、酒石酸ナトリウムカリウム(ロッシェル塩)、ホルマリンなどが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−212501号公報
【特許文献2】特開2004−052044号公報
【特許文献3】特開2011−214080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、置換めっき法によって銀を還元すると、還元した銀の代わりに溶出する銅によって、銅コート層中に多数の細孔が形成されてしまい、その細孔を通じて酸化されやすい金属である銅が外部へ露出してしまう。その結果、時間の経過とともに酸化が進行して粉の導電性が低下してしまう。
【0007】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る銀コート銅粉及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、銅からなるコア粒子と、該コア粒子の表面に位置する銀コート層とを有する銀コート銅粉であって、
前記銀コート銅粉のBET比表面積をS(m/g)とし、前記銀コート銅粉を顕微鏡観察し画像解析して求められた粒径D50から算出された比表面積をS(m/g)とし、前記銀コート層の厚みをt(nm)としたとき、(S/S)≦0.005×t+1.45を満たし、
BET比表面積Sが0.01〜0.96m/gであり、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50Lが1.18〜100μmである銀コート銅粉を提供するものである。
【0009】
また本発明は、前記銀コート銅粉の好適な製造方法として、銀イオンと、銅からなるコア粒子とを水中で接触させて置換めっきを行い、該コア粒子の表面に銀を析出させて前駆体粒子を得、次いで
前記前駆体粒子と、銀イオンと、銀イオンの還元剤とを水中で接触させて、該前駆体粒子の表面に更に銀を析出させる銀コート銅粉の製造方法であって、
前記還元剤として、蟻酸、シュウ酸、L−アスコルビン酸又はエリソルビン酸を用いる銀コート銅粉の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の銀コート銅粉は、銅からなるコア粒子の表面が、均一かつ緻密な銀の層によって被覆されているので、高い導電性を有するものとなる。また、酸化されにくいので、経時的な導電性の低下を抑制することができる。また本発明の製造方法によれば、かかる銀コート銅粉を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例及び比較例で得られた(S1/S2)とtとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の銀コート銅粉は、銅からなるコア粒子の表面が、銀からなる層(以下「銀コート層」とも言う。)で被覆されている銀コート銅粒子の集合体からなるものである。銀コート層は、銅からなるコア粒子の表面を連続して被覆している。その結果、銀コート銅粒子は、その表面の全域が銀のみからなり、下地である銅は銀コート銅粒子の表面に一切露出していない。
【0013】
本発明の銀コート銅粉は、銅からなるコア粒子の表面を被覆している銀コート層に特徴の一つを有している。詳細には、この銀コート層は、細孔の存在が極めて少ない非常に緻密なものである。このような構造の銀コート層によって、銅からなるコア粒子の表面の全域が被覆されていることによって、銅の酸化が極力抑制される。その結果、長期間の保存の後であっても、本発明の銀コート銅粉は、電気抵抗の低下が極力抑えられたものとなる。これに対して、銀コート層が多数の細孔を有していると考えられる特許文献1及び2に記載の銀コート銅粒子においては、銅からなるコア粒子の表面が、細孔を通じて外界に接しやすくなることから、長期間の保存によって銅が酸化される傾向にあり、そのことに起因して電気抵抗が低下しやすい。細孔の存在が少ない緻密な銀コート層を形成する方法については後述する。
【0014】
上述したとおり、本発明の銀コート銅粉は、銀コート層が緻密なものであることを特徴の一つとする。銀コート層の緻密さを客観的に示すことは容易でないところ、本発明者が検討した結果、銀コート銅粉のBET比表面積をS1(m2/g)とし、銀コート銅粉を顕微鏡観察し画像解析して求められた粒径D50から算出された比表面積をS2(m2/g)とした場合、S2/S1の値が銀コート層の緻密さの尺度となることが判明した。S1/S2の値には、次に述べるような技術的意義がある。すなわち、S2は、銀コート銅粒子の画像解析から求められた比表面積なので、銀コート層に細孔が存在しているか否かは考慮されない。換言すれば、S2は銀コート層が完全に緻密な状態と仮定した場合の比表面積であると言える。一方S1は、BET法によって実測された比表面積の値なので、銀コート層に存在する細孔の程度を反映している。したがって、銀コート層中に存在する細孔の数が大きいほど、S1の値は大きくなる傾向にある。これらの説明から明らかなとおり、S1/S2の値が1に近づくほど、銀コート層に存在する細孔の数は少ないと判断することができる。逆に、S1/S2の値が1から遠ざかるほど、銀コート層に存在する細孔の数が多いと判断することができる。
【0015】
本発明者が更に検討を推し進めた結果、S1/S2の値は、銀コート層の厚みt(nm)にも依存していることが判明した。すなわち、銀コート層中での細孔の存在密度(単位体積当たりに存在する細孔の数)が同じであり、かつ銀コート層の厚みが異なる2種の銀コート銅粉を比較した場合、銀コート層の厚みが大きいほどS1/S2の値は大きくなることが判明した。
【0016】
以上の各知見に基づき、本発明者が種々の銀コート銅粉について検討した結果、以下に示す式(1)を満たす銀コート銅粉は、銀コート層が緻密なものであり、長期間の保存後における電気抵抗の上昇が抑制されたものになることが判明した。
(S1/S2)≦0.005×t+1.45 (1)
【0017】
本発明の銀コート銅粉は、前記式(1)を満たすことを条件として、銀コート層の厚みが0.1〜500nmであることが好ましく、5〜100nmであることが更に好ましく、10〜100nmであることが一層好ましい。この範囲の厚みでもって、銅からなるコア粒子の表面を被覆することで、銀の使用量を少なくしつつ、コア粒子の表面を満遍なく被覆することができる。銀コート層の厚みの測定方法は、後述する実施例において詳述する。
【0018】
また本発明の銀コート銅粉は、前記式(1)を満たすことを条件として、BET比表面積S1の値が0.01〜15.0m2/gであることが好ましく、0.05〜7.0m2/gであることが更に好ましく、0.1〜2.0m2/gであることが一層好ましい。一方、画像解析から求めた比表面積S2の値は0.01〜15.0m2/gであることが好ましく、0.05〜7.0m2/gであることが更に好ましく、0.1〜2.0m2/gであることが一層好ましい。BET比表面積S1の値の測定方法は、後述する実施例において詳述する。S2の値の測定方法についても同様である。
【0019】
比表面積S2の値に関連して、本発明の銀コート銅粉を構成する銀コート銅粒子は、画像解析から求められた粒子径であるD50の値が0.05〜50μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることが更に好ましく、0.5〜8μmであることが一層好ましい。D50の値に関連して、銀コート銅粒子は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50Lが0.01〜100μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることが更に好ましく、0.5〜10μmであることが一層好ましい。D50の値やD50Lの値がこの範囲内であることによって、本発明の銀コート銅粉は、導電性と保存安定性(長期間の保存後における導電性の低下の防止)とがバランスしたものとなる。D50の値及びD50Lの値の測定方法は、後述する実施例において詳述する。
【0020】
先に述べたとおり、本発明の銀コート銅粉においては、銅からなるコア粒子の表面が、銀コート層で薄く被覆されている。したがって、コア粒子の粒径と銀コート銅粒子の粒径との間に大きな相違はない。コア粒子の粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50Lで表して0.01〜50μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることが更に好ましく、0.5〜10μmであることが一層好ましい。このD50Lの値は、銀コート銅粒子のD50Lの値と同様の方法で測定される。
【0021】
前記(1)を満たす限り、銀コート銅粒子の形状に特に制限はない。一般に銀コート銅粒子は、充填性の向上及びそれに起因する導電性の向上の観点から球形であることが好ましいが、これ以外の形状、例えばフレーク状や紡錘状であってもよい。銅からなるコア粒子の形状も、銀コート銅粒子と同様に球形であることが好ましい。
【0022】
銀コート銅粒子における銀の割合は、銅のコア粒子の表面を満遍なく被覆する観点と経済性の観点とのバランスから、0.1〜35質量%であることが好ましく、0.5〜30質量%であることが更に好ましく、0.5〜25質量%であることが一層好ましく、1〜25質量%であることが更に一層好ましい。銀コート銅粒子における銀の占める割合は、例えば酸を用いて銀コート銅粒子を全溶解し、溶液をICP発光分光分析することなどによって測定することができる。
【0023】
次に、本発明の銀コート銅粉の好適な製造方法について説明する。本製造方法においては、銅からなるコア粒子を用意し、該コア粒子の表面に銀コート層を形成する。本製造方法は、銀コート層の形成方法に特徴の一つを有する。銀コート層の形成は、以下の工程1及び工程2の2工程によって行われる。
【0024】
〔工程1〕
銀イオンと、銅からなるコア粒子とを水中で接触させて置換めっきを行い、該コア粒子の表面に銀を析出させる。この析出によって前駆体粒子を得る。
〔工程2〕
工程1で得られた前駆体粒子と、銀イオンと、銀イオンの還元剤とを水中で接触させて、該前駆体粒子の表面に更に銀を析出させる。
【0025】
工程1において用いるコア粒子は種々の方法で製造することができる。例えば、ヒドラジン等の各種の還元剤を用い、酢酸銅や硫酸銅などの銅化合物を湿式で還元することでコア粒子を得ることができる。あるいは、銅の溶湯を用い、アトマイズ法によってコア粒子を得ることができる。このようにして得られたコア粒子の好ましい粒子径や形状は先に述べたとおりである。これらの方法によって得られたコア粒子を水中で銀イオンと接触させる。
【0026】
銀イオンは、銀源となる銀化合物から生成させる。銀化合物としては、例えば硝酸銀等の水溶性銀化合物を用いることができる。水中における銀イオンの濃度は、0.01〜10mol/L、特に0.04〜2.0mol/Lに設定することが、望ましい量の銀をコア粒子の表面に析出させ得る観点から好ましい。
【0027】
一方、水中におけるコア粒子の量は、1〜1000g/L、特に50〜500g/Lとすることが、やはり望ましい量の銀をコア粒子の表面に析出させ得る観点から好ましい。
【0028】
コア粒子と銀イオンとの添加の順序に特に制限はない。例えばコア粒子と銀イオンとを同時に水中に添加することができる。置換めっきによる銀の析出のコントロールのしやすさの観点からは、水中にコア粒子を予め分散させてスラリーを調製し、このスラリーに銀源となる銀化合物を添加することが好ましい。この場合、スラリーは常温でもよく、あるいは0〜80℃の温度範囲でもよい。また、銀化合物の添加に先立ち、スラリー中にエチレンジアミン四酢酸、トリエチレンジアミン、イミノ二酢酸、クエン酸若しくは酒石酸、又はそれらの塩等の錯化剤を添加しておき、銀の還元をコントロールするようにしてもよい。
【0029】
銀化合物の添加は、水溶液の状態で行うことが好ましい。この水溶液は、スラリー中に一括添加することもでき、あるいは所定の時間にわたって連続的に又は不連続に添加することもできる。置換めっきの反応を制御しやすい点から、銀化合物の水溶液は、所定の時間にわたってスラリーに添加することが好ましい。
【0030】
置換めっきによってコア粒子の表面に銀が析出して前駆体粒子が得られる。前駆体粒子における銀の析出量は、最終的に得られる銀コート銅粒子における銀の量の0.1〜50質量%、特に1〜10質量%とすることが、緻密な銀コート層を形成し得る点から好ましい。
【0031】
工程2においては、工程1で得られた前駆体粒子を含むスラリーに、銀イオン及び銀イオンの還元剤を添加する。この場合、工程1で得られた前駆体粒子を一旦固液分離した後に水に分散させてスラリーとなしてもよく、あるいは工程1で得られた前駆体粒子のスラリーをそのまま工程2に供してもよい。後者の場合、スラリー中に、工程1で添加した銀イオンが残存していてもよく、あるいは残存していなくてもよい。
【0032】
工程2において添加する銀イオンは、工程1と同じく水溶性銀化合物から生成させる。銀化合物は、水溶液の状態でスラリーに添加することが好ましい。銀水溶液中の銀イオンの濃度は好ましくは0.01〜10mol/L、更に好ましくは0.1〜2.0mol/Lである。この範囲の濃度を有する銀水溶液を、1〜1000g/L、特に50〜500g/Lの前駆体粒子を含む前記スラリーにおける該前駆体粒子100質量部に対して0.1〜55質量部、特に1〜25質量部添加することが、緻密な銀コート層を形成し得る点から好ましい。
【0033】
工程2において添加する還元剤としては、銀の置換めっき及び還元めっきを同時に進行させ得る程度の還元力を有するものを用いる。このような還元剤を用いることで、緻密な銀コート層を首尾よく形成することができる。還元性の強い還元剤を用いると、還元めっきが一方的に進行してしまい目的とする緻密な構造を有する銀コート層を形成することが容易でない。一方、還元性の弱い還元剤を用いると、銀イオンの還元めっきが進行しづらく、そのことに起因してやはり緻密な構造を有する銀コート層を形成することが容易でない。以上の観点から、還元剤としては、これを水に溶解したときに酸性を示す有機還元剤を用いることが好ましい。具体的には、蟻酸、シュウ酸、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、ホルムアルデヒドなどがある。これらの有機還元剤は1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。その中でも、L−アスコルビン酸を用いることが好ましい。ここで言う「酸性」とは、有機還元剤0.1モルを1000gの水に溶解した水溶液が、25℃において1〜6のpHを示すことである。
【0034】
還元剤の添加量は、添加する銀溶液中の銀イオンに対して0.5〜5.0当量、特に1.0〜2.0当量とすることが、銀の置換めっき及び還元めっきを同時に進行させやすい点から好ましい。
【0035】
前駆体粒子を含むスラリーに還元剤及び銀イオンを添加するときの順序に特に制限はない。銀イオンの還元を制御して、緻密な銀コート層を形成する観点からは、スラリー中に還元剤を添加した後に銀イオンを添加することが好ましい。銀源となる銀化合物は、スラリー中に一括添加することもでき、あるいは所定の時間にわたって連続的に又は不連続に添加することもできる。銀イオンの還元を制御しやすい点から、銀化合物はその水溶液の状態で、所定の時間にわたってスラリーに添加することが好ましい。
【0036】
工程2において、銀の置換めっき及び還元めっきを同時に進行させるときには、スラリーを常温の状態にしておいてもよく、あるいは0〜80℃の温度範囲で加熱しておいてもよい。
【0037】
工程2においては、反応時間や銀イオンの濃度を適宜調整することによって、目的とする銀コート銅粉が得られる。このようにして得られた銀コート銅粉は、これを含む導電性組成物の状態で好適に用いられる。例えば銀コート銅粉をビヒクル及びガラスフリット等と混合して導電ペーストとなすことができる。あるいは、銀コート銅粉を有機溶媒等と混合してインクとなすことができる。このようにして得られた導電ペーストやインクを適用対象物の表面に施すことで、所望のパターンを有する導電性膜を得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0039】
〔実施例1〕
40℃に加熱した500mLの純水中に、100gの銅粉を投入し、スラリーとなした。この銅粉としては、三井金属鉱業(株)製の湿式銅粉1100Y(レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50Lが1.18μm)を用いた。このスラリーを撹拌しながら、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム4.3gを添加し、溶解させた。更にこのスラリーに、0.44mol/Lの硝酸銀水溶液48mLを6分間にわたって連続添加して、置換めっきを行い、銅粒子の表面に銀を析出させて前駆体粒子を得た。
【0040】
還元剤としてのL−アスコルビン酸をスラリー中に添加し、溶解させた。更に、0.44mol/Lの硝酸銀水溶液192mLを24分間にわたって連続添加した。これによって、還元めっきと置換めっきとを同時に進行させて、前駆体粒子の表面に銀を更に析出させ、目的とする銀コート銅粉を得た。
【0041】
〔実施例2ないし6〕
銅粉として表1に示す粒径のものを用いた。また、置換めっき時及び置換・還元めっき同時進行時の硝酸銀の溶液の濃度をいずれも0.88mol/L(実施例2)、0.04mol/L(実施例3)、0.14mol/L(実施例4)、0.22mol/L(実施例5)、0.40mol/L(実施例6)に変更して銀のコート率を変更した。これ以外は実施例1と同様にして銀コート銅粉を得た。
【0042】
〔比較例1〕
本比較例は、実施例1に対応する比較例であり、置換めっきのみよって銀コート銅粉を製造した例である。40℃に加熱した500mLの純水中に、100gの銅粉を投入し、スラリーとなした。この銅粉としては、三井金属鉱業(株)製の湿式銅粉1100Y(レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が1.18μm)を用いた。このスラリーを撹拌しながら、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム4.3gを添加し、溶解させた。更にこのスラリーに、0.44mol/Lの硝酸銀水溶液240mLを30分間にわたって連続添加して、置換めっきを行い、銅粒子の表面に銀を析出させて銀コート銅粉を得た。
【0043】
〔比較例2ないし6〕
銅粉として表1に示す粒径のものを用いた。また、置換めっき時の硝酸銀の溶液の濃度をいずれも0.88mol/L(比較例2)、0.04mol/L(比較例3)、0.14mol/L(比較例4)、0.22mol/L(比較例5)、0.40mol/L(比較例6)に変更し、銀のコート率を変更した。これ以外は比較例1と同様にして銀コート銅粉を得た。比較例4は、実施例4に対応する比較例である。
【0044】
〔比較例7〕
本比較例は、還元剤を硝酸銀溶液の添加前から入れて銀コート銅粉を製造した例である。銅粉としては表1に示すものを用いた。40℃に加熱した500mLの純水中に、100gの銅粉を投入し、スラリーとなした。このスラリーを撹拌しながら、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム4.3gを添加し、溶解させた。その後、還元剤としてのアスコルビン酸をスラリー中に添加し、溶解させた。更にこのスラリーに、0.40mol/Lの硝酸銀水溶液240mLを30分間にわたって連続添加して、置換めっきと還元めっきを行い、銅粒子の表面に銀を析出させて銀コート銅粉を得た。
【0045】
〔比較例8〕
本比較例は特許文献2(特開2004−052044号公報)の段落〔0023〕及び〔0024〕に記載の「実施形態」を、表1に記載の銅粉を用いて行った例である。硫酸濃度15g/Lの硫酸水溶液2000mLに、上述した銅粉1kgを分散させた。続いてデカンテーション処理を行い、エチレンジアミン四酢酸80gを添加して溶解し、銅スラリー(総量5000mL)を調製した。次いで、緩衝剤としてフタル酸カリウムを用い、これを銅スラリー中に溶解してpH4となるようにpH調整を行った。このようにpH調整した銅スラリーに硝酸銀溶液2000mL(硝酸銀180gを水に添加して2000mLとして調製したもの)を、30分間の時間をかけてゆっくりと添加しながら置換反応処理を行い、更に30分間の撹拌をして銀コート銅粉を得た。そして、濾過洗浄、吸引脱水することで銀コート銅粉と溶液とを濾別した。水洗した後に銀コート銅粉を70℃の温度で5時間の乾燥を行った。
【0046】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた銀コート銅粉について、上述した方法でAg量(銀コート銅粉中の銀の割合(mass%))を測定した。また、以下の方法でBET比表面積S1を測定し、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50Lを測定した。更に画像解析によってD50を算出し、その値から比表面積S2を算出した。これらに加えて銀コート銅粉のL*値を測定し、更に圧粉抵抗を測定した。圧粉抵抗は、製造直後及び加速劣化試験後に測定した。測定結果を以下の表1に示す。更に、測定によって得られた(S1/S2)とtとの関係をグラフ化したものを図1に示す。
【0047】
〔銀コート銅粉のBET比表面積S1
銀コート銀粉2.0gを、75℃で10分間の脱気処理を行った後、モノソーブ(カンタクロム社製)を用いてBET1点法で測定した。
【0048】
〔銀コート銅粉のレーザー回折散乱式粒度分布測定法によるD50L
0.1gの試料を、SNディスパーサント5468の0.1質量%水溶液(サンノプコ社製)と混合した後、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所製 US−300T)で5分間分散させた。そしてレーザー回折散乱式粒度分布測定装置 Micro Trac HRA 9320−X100型(Leeds+Northrup社製)を用いて粒度分布を測定した。
【0049】
〔銀コート銅粉の画像解析による平均粒子径D50及びD50相当の比表面積S2
画像解析による平均粒子径D50は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い1000〜10000倍に拡大して得られたSEM像を用い、個々の銀コート銅粒子(測定サンプル数は100個以上)の面積から粒子径を求め、測定サンプル数で平均することで求めた。そのD50相当の比表面積S2は次式から算出した。なお式中、10.49は銀の密度(g/cm3)であり、8.92は銅の密度(g/cm3)である。
【0050】
【数1】
【0051】
〔銀コート層の厚み〕
銀コート層の厚みtは次式から算出される。
【0052】
【数2】
【0053】
〔銀コート銅粉のL*値〕
コニカミノルタ製のCM−3500Dを用いて測定した。L*値は、銅からなるコア粒子の表面が銀によって均一に被覆されている尺度となるものであり、L*値が大きいほど銀の被覆が均一であることを意味する。
【0054】
〔銀コート銅粉の圧粉抵抗〕
銀コート銅粉15gを500kgfの圧力でプレスし、直径25mmのペレットを作製した。そのペレットの電気抵抗を、ダイヤインスツルメンツ製のPD−41を用い四端子法によって測定した。なお圧粉抵抗は、銀コート銅粉の製造直後、及び加速劣化後に測定した。加速劣化後の圧粉抵抗は、150℃に加熱された棚板乾燥機内に銀コート銅粉を75時間にわたって静置した後に測定した。そして製造直後の圧粉抵抗R1と、加速劣化後の圧粉抵抗R2とを用い、圧粉抵抗の変化率を算出した。圧粉抵抗の変化率は、(加速劣化後の圧粉抵抗R2)/(製造直後の圧粉抵抗R1)で定義される。
【0055】
【表1】
【0056】
表1及び図1に示す結果から明らかなとおり、各実施例の銀コート銅粉(本発明品)は、コア粒子が同じ粒径で、銀コート層がほぼ同じ厚みの場合、比較例と比べると製造直後及び加速劣化後のいずれにおいても、圧粉抵抗が低いことが判る。またL*値が高く、このことから銀コート層が均一に形成されていることが示唆される。
図1