特許第5785684号(P5785684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東海工業ミシン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5785684-ミシン 図000002
  • 特許5785684-ミシン 図000003
  • 特許5785684-ミシン 図000004
  • 特許5785684-ミシン 図000005
  • 特許5785684-ミシン 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5785684
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
   D05B 35/06 20060101AFI20150910BHJP
   D05C 7/08 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   D05B35/06
   D05C7/08
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2009-263256(P2009-263256)
(22)【出願日】2009年11月18日
(65)【公開番号】特開2011-104169(P2011-104169A)
(43)【公開日】2011年6月2日
【審査請求日】2012年11月13日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219749
【氏名又は名称】東海工業ミシン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077539
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 義仁
(72)【発明者】
【氏名】近藤 徹朗
【審査官】 西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−177071(JP,A)
【文献】 特公平03−001429(JP,B2)
【文献】 特公昭47−020108(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 35/06−35/08
D05C 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に駆動される針棒と、針棒の下端部に取付けられた縫い針と、針棒と同軸心上に組付けられ、その軸心回りの回転が自由な回転体と、紐状部材が巻装されたボビンと、前記回転体に取付けられて縫い針の針元位置へ前記ボビンから繰り出された紐状部材を案内するガイドとを少なくとも含んでなり、刺繍データに基づきミシンテーブル上を移動する刺繍枠に保持された被縫製物の移動方向に応じて前記回転体を回転制御し、針元への紐状部材の案内方向が適正となるように前記ガイドの向きを変更しつつ、この紐状部材を本縫いにより被縫製物に縫い着ける形式のミシンにおいて、
前記ボビンが前記針棒の軸線に交差することなく該針棒の周辺に位置するような配置で該ボビンを支持し、前記針棒の軸心を略中心とした回転が可能であり、該回転に伴って前記ボビンを前記針棒の軸心周りで公転させるように構成された支持部材であって、該支持部材は、前記刺繍枠の上方において、少なくとも前記刺繍枠の動きを妨げないような高さ設けられており、かつ、前記回転体から構造的に分離されて配置されると共に、回転中心を含む所定範囲において前記針棒の通過を許す開口部を有するものと、
前記支持部材を前記回転体の回転制御に追従して回転させる駆動源と
を備えるミシン。
【請求項2】
前記ミシンテーブルの上方から前記支持部材を保持するアーム部材をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記支持部材は支持するボビンに相対する位置に抜き穴を有してなり、ボビンの下方部を前記抜き穴に沈み込ませてボビンを支持することを特徴とする請求項1又は2に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープやコードなどの紐状部材を本縫いによって布地などの被縫製物に縫い着ける形式のミシンに関する。特に、回転体の回転にあわせて紐状部材が多量に巻装されうる大型のボビンを方向制御することによって、常に紐状部材を針元位置へ適正に案内することのできるようにしたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、上下に駆動される針棒と、針棒の下端部に取付けられた縫い針と、針棒と同軸心上に組付けられてその軸心回りの回転が自由な回転体と、紐状部材が巻装されたボビンと、前記回転体に取付けられて縫い針の針元位置へ紐状部材(例えばテープやコードなどの紐状の刺繍材)を案内するガイドとを備え、刺繍データに基づく布地の移動方向に応じて回転体を回転制御し、針元への紐状部材の案内方向が適正となるようにガイドの向きを変更しつつ、この紐状部材を本縫いにより布地に縫い着ける形式のミシンが知られている。このようなミシンにおいては、紐状部材を巻装したボビンを回転体に装着するようになっており、この回転体が刺繍データに基づく縫い制御に従って回転制御されることに伴い前記ガイドとともに前記装着されたボビンも回転し、これらの動きによって常に紐状部材が針元位置へ適正に案内されるようになっている。しかしながら、こうした従来のミシンではボビンを前記回転体に装着するようにしているため、その装着箇所ゆえに装着可能なボビンの大きさが制約されてしまうことになり、紐状部材を多量に巻装することが可能なまでにボビンを大型化することは困難であった。
【0003】
そこで、上記不都合を解決するための一例として、下記に示す特許文献1に記載のミシンが従来知られている。下記の特許文献1には前記形式のミシンにおいて、紐状部材が巻装されたボビンを針棒の上方に配置(装着)できるようにすることによって、ボビンの大型化を実現したミシンが開示されている。このミシンについて簡単に説明すると、ミシンフレームに上方にのびるようにして固定された一対の支持部材に両端が支持されたボビン軸に、紐状部材が巻装されたボビンを配置(装着)できるようにしている。前記ボビン軸は、軸上に設けてある一対の保持部材によりボビンの両端部を支持する。このように紐状部材が巻装されたボビンを前記回転体とは別途独立に針棒や回転体等から離れた上方の高い位置に配置することによってボビンを大型化することが可能となって、ボビンに多量の紐状部材を巻装することができることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-286797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、上記特許文献1に記載されているような従来知られたミシンにおいては、紐状部材が巻装されたボビンを針棒や回転体等から離れた上方の高い位置に配置することによってボビンの大型化を実現している。しかしながら、布地などの被縫製物に紐状部材を縫い付ける際には回転体を回転しうるが、前記ボビンは上方に固定配置されておりその向きを方向制御できるようになっていない。そのため、例えば刺繍データに基づく縫い制御に従って回転体が360°以上回転されるような場合には、ボビンから繰り出された紐状部材がミシンヘッドに巻きついて絡まる恐れがある。これを防止するには、回転体を360°以上回転させないように刺繍データを生成しておく必要があるが、このように回転体の回転を制限してしまうと被縫製物に形成することの可能な模様が制限されてしまう、という問題があった。
【0006】
また、ボビンをミシンヘッドの上方高くに配置する構成であるがために、ボビンを取付ける際にボビンを高く持ち上げなければならないが、多量の紐状部材を巻装した大型のボビンはその重量が大幅に増加してしまい、このような従来に比較して重くなる大型のボビンをミシンヘッドの上方高くまで持ち上げて取付けるのは、非常に大きな力が必要とされる作業であって作業者の負担が大きく都合が悪い。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、多量の紐状部材を巻装可能な大型のボビンを使用する場合であっても、被縫製物に形成する模様を制限することなく縫い制御することができ、また多量の紐状部材を巻装することに伴い重量が増した大型のボビンを少ない力で容易に取付けることのできるミシンを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るミシンは、上下に駆動される針棒と、針棒の下端部に取付けられた縫い針と、針棒と同軸心上に組付けられ、その軸心回りの回転が自由な回転体と、紐状部材が巻装されたボビンと、前記回転体に取付けられて縫い針の針元位置へ前記ボビンから繰り出された紐状部材を案内するガイドとを少なくとも含んでなり、刺繍データに基づきミシンテーブル上を移動する刺繍枠に保持された被縫製物の移動方向に応じて前記回転体を回転制御し、針元への紐状部材の案内方向が適正となるように前記ガイドの向きを変更しつつ、この紐状部材を本縫いにより被縫製物に縫い着ける形式のミシンにおいて、前記ボビンが前記針棒の軸線に交差することなく該針棒の周辺に位置するような配置で該ボビンを支持し、前記針棒の軸心を略中心とした回転が可能であり、該回転に伴って前記ボビンを前記針棒の軸心周りで公転させるように構成された支持部材であって、該支持部材は、前記刺繍枠の上方において、少なくとも前記刺繍枠の動きを妨げないような高さ設けられており、かつ、前記回転体から構造的に分離されて配置されると共に、回転中心を含む所定範囲において前記針棒の通過を許す開口部を有するものと、前記支持部材を前記回転体の回転制御に追従して回転させる駆動源とを備える。
【0009】
この発明によると、紐状部材が巻装されたボビンを支持する支持部材は、該ボビンが針棒の軸線に交差することなく該針棒の周辺に位置するような配置で該ボビンを支持し、且つ、該針棒の軸心を略中心とした回転が可能であり、該回転に伴って前記ボビンを前記針棒の軸心周りで公転させるように構成され、かつ、該支持部材は、前記回転体から構造的に分離されて配置されると共に、回転中心を含む所定範囲において前記針棒の通過を許す開口部を有する構成である。これにより、紐状部材が巻装されたボビンを針棒(及び縫い針)や回転体(及びガイド)等を含んでなるミシンヘッドから離れた位置に配置することができ、回転体にボビンを装着する従来のミシンに比べてボビンの大きさが制約されずにボビンの大型化が可能となる。そして、前記支持部材は駆動源によって回転体の回転制御に追従して方向制御されることから、例えば回転体を360・以上回転させると支持部材は針棒の軸心上を略中心として同様に回転する。支持部材が回転すると、該支持部材に支持されたボビンが前記ミシンヘッドの周りを回転(公転)することになる。こうしてボビン自体が前記ミシンヘッドの周囲を回転(公転)するので、回転体が回転されても常に紐状部材を針元位置へ適正に案内することができる。すなわち、回転体が刺繍データに基づきどのように回転したとしてもそれに追従してボビン自体がミシンヘッドの周囲を公転することから、従来のような紐状部材がミシンヘッドに巻きついて絡まり紐状部材が針元位置へ適正に案内されないといった恐れが生じない。したがって、被縫製物に形成する模様を制限することなく紐状部材を縫い着けることができるようになる。
【0010】
また、前記支持部材は、前記刺繍枠の上方において、少なくとも前記刺繍枠の動きを妨げないような高さ設けられる構成であるため、ミシンヘッドの下端寄りの相対的に低い位置に配置されることとなり、ボビンを取付ける際にボビンを従来のように高く持ち上げる必要がなく、作業者の負担を軽減できることとなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ボビンを大型化できるとともに、被縫製物に形成する模様を制限することなく紐状部材を縫い着けることができるようになる、という優れた効果を奏する。
また、該ボビンを支持する支持部材は、刺繍枠の上方において、少なくとも該刺繍枠の動きを妨げないような高さ設けられる構成であるため、ミシンヘッドの下端寄りの相対的に低い位置に配置されることとなり、ボビンを高く持ち上げて取付ける必要がなく作業者の負担を軽減することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る刺繍ミシンの一実施例を示す正面図である。
図2図1に示した刺繍ミシンの平面図である。
図3】ボビン支持装置の構造について説明するための正面図である。
図4図3に示したボビン支持装置の右側面図である。
図5図3に示したボビン支持装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に従って詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る刺繍ミシンの一実施例を示す正面図である。図2は、図1に示した刺繍ミシンの平面図である。まず、図1及び図2によって当該刺繍ミシンの全体構造について概要を説明する。ただし、これら図1及び図2において、本来であれば刺繍ミシンにおけるミシンフレーム1の前面(ここでは図1の手前側、図2の下側がそれぞれ前面に相当する)には複数個のミシンヘッド3が一定の間隔で配置されていてもよいが、この実施例では説明を理解し易くするために1つのミシンヘッド3のみを示している。
【0015】
図1及び図2に示すように、ミシンフレーム1には前面に紐状部材の縫い付けが可能な周知のミシンヘッド3が配設されるとともに、前記ミシンヘッド3の下方において平板状のミシンテーブル2がミシンフレーム1に設けられている。このミシンテーブル2上には、布地などの被縫製物を保持する刺繍枠4が周知の駆動部(図示せず)によってX/Y方向(図2において左右上下方向)へ適宜に移動可能に設けてある。さらに、紐状部材を巻装したボビン20を支持し前記ミシンヘッド3に対して前記紐状部材を供給するボビン支持装置5がミシンテーブル2の上方に、より具体的には前記刺繍枠4の上面から所定の間隔を確保した状態で前記ミシンヘッド3に対応した所定の取付位置に取付けられている(詳しくは後述する)。
【0016】
図3は、ボビン支持装置5について説明するための正面図である。図4は、図3に示したボビン支持装置の右側面図である。図5は、図3に示したボビン支持装置の平面図である。
【0017】
ここで、ボビン支持装置5について説明する前に、図3及び図4を参照して前記ミシンヘッド3について簡単に説明しておく。前記ミシンヘッド3は周知のものであり、下端部に縫い針27を備えて上下に駆動される針棒23と、前記針棒23と同軸心上に組付けられ、その軸心回りの回転が自由な回転体24と、この回転体24に取付けられて針棒23の上下駆動に対し所定のタイミングで回動駆動されるガイドレバー25と、前記ガイドレバー25の下端に設けられて紐状部材Aを縫い針27の針元位置へ案内するガイド26とを備えている。そして、刺繍データに基づく縫い制御に従って布地(図示せず)を保持した刺繍枠4の移動方向に応じて回転体24を回転制御して紐状部材Aの案内方向が適正となるようにガイド26の向きを変更しつつ、ガイドレバー25を針棒23の一往復毎に針元位置の左右に回動駆動することによって、紐状部材Aを所謂チドリ縫いによって順次布地に縫い付けるようになっている。
【0018】
前記ボビン支持装置5の詳細について、図3図5を用いて説明する。図3図5に示した各図から理解できるように、ミシンヘッド3を挟む左右両側には、その基端部をボルト等によってミシンフレーム1の前面に固定された支持アーム6が配置されている。この両支持アーム6は刺繍ミシンの前面側(図3の手前側、図4の左側)へ水平に延びた状態でミシンフレーム1の前面にそれぞれ固定されており、各支持アーム6にはミシンテーブル2及び刺繍枠4に対して垂直にかつそれらに向かって延びる棒状の連結ロッド7がそれぞれ2本ずつ(合計で4本、勿論これに限られない)取付けられている。
【0019】
前記連結ロッド7の下端部には、ベース部材8が固定的に取付けられている。図5に示すように、前記ベース部材8は中央に開口部8aを有するドーナツ形状(リング若しくは座金形状)に形成された円板からなり、さらに該ベース部材8の底面には左右に2つずつ突出するようにして腕部9が設けられている。この腕部9の先端部には、前記連結ロッド7の下端部が固定されている。前記ベース部材8はその下方を刺繍枠4が通り抜け可能なようにミシンテーブル2の上面との間隔を確保した状態でかつミシンテーブル2の上面と平行となるように、前記腕部9を介して前記連結ロッド7の先端に固定されている。言い換えるならば、前記ベース部材8とミシンテーブル2(刺繍枠4)とが所定の間隔を確保した状態に配置されるよう、ミシンフレーム1の前面における支持アーム6の固定位置、前記連結ロッド7の長さ、ベース部材8の厚さの少なくともいずれかが予め調整されていることになる。
【0020】
一方、前記ベース部材8の上面には支持部材10が設けられている。支持部材10は、ミシンヘッド3に設けられた周知の針棒23の軸心上を中心として回転自在であるが上下動しないようにベース部材8上に設けてある。この支持部材10は前記ベース部材8と同様に、中央に開口部10aを有するドーナツ形状(リング若しくは座金形状)に形成された円板からなるものである。ただし、支持部材10の外周部には複数の歯(ギヤ11)が全周にわたって形成された伝動部12が設けてある。
【0021】
前記ベース部材8に設けられた腕部9のうちいずれか1つには(図5では右側後方の腕部9)ブラケット13が取付けられ、さらにこのブラケット13を介して駆動モータ14が固定されている。駆動モータ14のモータ軸には、前記支持部材10の外周部に設けられた伝動部12のギヤ11と噛合する駆動ギヤ15が固定してある。上述した構成によると、駆動モータ14の駆動に応じてモータ軸の回転が駆動ギヤ15及びギヤ11を介して前記支持部材10へと伝達され、前記ベース部材8に対して相対的に前記支持部材10のみを回転させることができることとなる。上記のように前記ベース部材8に対し相対的に回転しうる前記支持部材10の上面には、一対の軸受部材16が上方に向かって起立した状態で立設されている。これら軸受部材16の軸受部は、ボビン軸17の両端部を回転自在に支持する。
【0022】
ボビン軸17の両端部付近には、前記軸受部材16の内側面と当接して当該ボビン軸17の左右位置(図5において左右)を規制するカラー18がそれぞれ固定してある。さらに、前記ボビン軸17の前記カラー18の内側には、一対の保持部材19が回転可能でかつ軸方向に沿ってスライド可能に設けてある。両保持部材19の外周面は、互いに対向する内側から外側に向けて径が大きくなるテーパ面(図示しない)を有している。両保持部材19の間には、例えばテープやコードなどのような紐状部材Aが巻装されたボビン20を着脱可能に取付けることができる。ボビン20を取付ける際には、ボビン20の両端部を両保持部材19のテーパ面にて支持させる。すなわち、各種ボビン20の内径に対応させて両保持部材19を互いに接近あるいは離反させることにより、内径の大きさが異なる各種ボビン20をボビン軸17に確実に固定した状態で取付けることができるようにしている。以上のことから、駆動モータ14の駆動に応じて支持部材10を回転することによって、ボビン20がミシンヘッド3の周囲を針棒23の軸心上を略中心として回転する(つまりは公転させる)ことのできるようにしている。
【0023】
さらに、支持部材10にはボビン20を支持する軸受部材16間に対応する所定位置に例えば長方形状の抜き穴21が形成してあり、一対の保持部材19に取付けられたボビン20の一部が前記抜き穴21を通って支持部材10を貫通して下方に沈み込むことのできるようにしている。勿論、支持部材10を貫通して下方に沈み込んだボビン20の一部はベース部材8と接触することがないようにしている。これにより、特に直径の大きい大型のボビン20を取付けた場合であって、支持部材10が回転してボビン20がミシンヘッド3の後方側に回されたとしても、ボビン20がミシンフレーム1と干渉してボビン20がミシンヘッド3の周囲を回転できなくなることを防止している。ただし、前記抜き穴21は、支持部材10の回転が妨げられない程度の大きさにボビン20の直径(より具体的には紐状部材の巻量)が限られている場合には必ずしも形成されなくてよい。
【0024】
ボビン20を支持する位置とミシンヘッド3とが対向する支持部材10における内径側の所定位置には一対のガイド棒22が立設されており、ボビン20から繰り出された紐状部材Aは両ガイド棒22の間を通されてミシンヘッド3に供給するようになっている。
【0025】
次に、上述したような構成の刺繍ミシンにおいて、本縫いによりボビン20に巻装された紐状部材Aを刺繍枠4に保持された布地(図示しない)に縫い着ける作業について説明する。まず、作業者はボビン20に巻装された紐状部材Aを引き出し、支持部材10の両ガイド棒22の間に通した後にミシンヘッド3に供給し、ミシンヘッド3において前記供給された紐状部材Aをガイド26に通して縫い針27の針元位置へと導く。この状態で図示しない布地をセットした刺繍枠4を所定の刺繍データに基づきXY方向(図2参照)へ移動制御するとともに、針棒23を上下に駆動して縫い針27と図示しない釜との機能によって周知の本縫いを行う。
【0026】
この際に、回転体24は、ガイド26が布地の移動に基づくミシンヘッド3の相対的な進行方向の前面に位置するように回転制御され、紐状部材Aが縫い針27の針元位置へ適正に案内される。ガイドレバー25は、針棒23の上下駆動に対し所定のタイミングで回動駆動され、ガイドレバー25の下端に固定されたガイド26により針元位置へ案内されている紐状部材Aが、針棒23の一往復毎(一縫い毎)に針元位置の左右に振られる。これにより、紐状部材Aは所謂チドリ縫いによって順次布地に縫い着けられることとなる。
【0027】
上記のようにして紐状部材Aが布地に縫い着けられていくのに伴い、支持部材10は回転体24の回転制御に対応して制御される駆動モータ14によって回動駆動され、これによりボビン20が回転体24の回転に追従するようにしてミシンヘッド3の周囲を支持部材10の回転円周に沿って針棒23の軸心上を略中心として回転(公転)する。こうした支持部材10(つまりはボビン20)の回転は駆動モータ14を制御して、回転体24の回転と同タイミングで同様なスピードで行うようにしてもよいし、回転体24の回転から少し遅らせてかつスピードもゆっくりとして行うようにしてもよい。また、回転体24の回転に常に追従させるのではなく、例えば回転体24(あるはガイド26)と支持部材10(具体的にはボビン20の中間位置など)との相違角度が例えば45°以上になったときに支持部材10を回動させるなど、その方式は如何なるものであってもよい。
【0028】
以上のように、上記実施例に示した刺繍ミシンによれば、紐状部材Aが巻装されたボビン10をミシンテーブル2の上方に回転可能に設けた支持部材10に支持することにより、ボビン20の大きさが制約されることなくボビン20の大型化が可能となる。そして、支持部材10は回転体24の回転制御に追従して方向制御され、例えば回転体24を360°以上回転させてもボビン20を同様に回転させることができ、これにより常に紐状部材Aを針元位置へ適正に案内することができる。したがって、回転体24が刺繍データに基づく縫い制御に従ってどのように回転されたとしても、紐状部材Aがミシンヘッド3に巻きついて絡まり紐状部材Aが針元位置へ適正に案内されないといった恐れが生じ得ず、もって被縫製物に形成する模様を制限することなく紐状部材Aを縫い着けることができるようになる。
また、ボビン20を支持する前記支持部材10はミシンヘッド3の下端よりの従来に比較して低い位置に配置されるため、ボビン20を取付ける際にボビン20を従来のように高く持ち上げる必要がなく、作業者の負担を軽減できることとなる。
【0029】
以上、図面に基づいて実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、様々な実施形態が可能であることは言うまでもない。例えば、ミシンヘッド3を一つ備えた単頭刺繍ミシンを例に示したがこれに限らず、ミシンヘッド3を複数備えた多頭刺繍ミシンであってもよい。この場合、各ミシンヘッド3に対応させて、上述したボビン支持装置5をそれぞれ設けることは言うまでもない。この場合に、支持部材10を回転させる駆動モータ14を各ボビン支持装置5それぞれに設けてもよいが、複数のボビン支持装置5の各支持部材10を同時に回転させる共通の駆動モータ14を1個のみ設けておき、各ボビン支持装置5の支持部材10に対して1個の駆動モータ14の回転を伝達するように構成してもよい。
【0030】
なお、ボビン20からの紐状部材Aの繰り出しがスムーズに行われるように、ボビン20を積極的に回転させるための駆動源を別途に設けてもよい。
なお、伝動部12はギヤ11の替わりに摩擦ベルトを用い、また駆動ギヤ15の替わりに摩擦ローラを用いるようにしてもよい。すなわち、駆動モータ14の回転を支持部材10に対して伝達できれば公知のどのようなものであってもよい。
なお、上述した実施例においては紐状部材Aを所謂チドリ縫いによって被縫製物に縫い付ける刺繍ミシンを例示したが、勿論これに限定されるものではない。
なお、上述した実施例においてはボビン20を支持部材10の回転円周に沿って前記針棒23の軸心周りで公転させるが、前記支持部材10の回転円周は同心円に限らず、例えば楕円あるいは偏心円等であってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…ミシンフレーム、2…ミシンテーブル、3…ミシンヘッド、4…刺繍枠、5…ボビン支持装置、6…支持アーム、7…連結ロッド、8…ベース部材、8a(10a)…開口部、9…腕部、10…支持部材、11…ギヤ、12…伝動部、13…ブラケット、14…駆動モータ、15…駆動ギヤ、16…軸受部材、17…ボビン軸、18…カラー、19…保持部材、20…ボビン、21…抜き穴、22…ガイド棒、23…針棒、24…回転体、25…ガイドレレバー、26…ガイド、27…縫い針、A…紐状部材
図1
図2
図3
図4
図5