特許第5785871号(P5785871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5785871有機ELデバイスの製造方法、有機ELデバイスの検査方法および有機ELデバイスの判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5785871
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】有機ELデバイスの製造方法、有機ELデバイスの検査方法および有機ELデバイスの判定方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/10 20060101AFI20150910BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20150910BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20150910BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   H05B33/10
   H05B33/14 A
   H05B33/12 Z
   H05B33/28
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2011-289299(P2011-289299)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-137973(P2013-137973A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】514188173
【氏名又は名称】株式会社JOLED
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】青沼 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 明
【審査官】 大竹 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−034811(JP,A)
【文献】 特開2011−103188(JP,A)
【文献】 特開2007−115800(JP,A)
【文献】 特開2006−349648(JP,A)
【文献】 特開2002−352956(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0224544(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/10
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に陽極を形成する陽極形成工程と、
前記陽極上に発光層を含む機能層を形成する機能層形成工程と、
前記機能層上に薄膜法を用いて陰極を形成する陰極形成工程と、
を含み、
前記機能層形成工程では、次工程で形成される陰極と接することとなる位置に、有機化合物を含む材料からなる電子輸送層をも形成し、
前記陰極形成工程における陰極の形成は、
電子輸送層の特性を示す物理変数を指標とした基準値に基づき予め決定された形成条件を用いて実行し、
前記物理変数は、
電子輸送層を構成する、当該電子輸送層と陰極との界面に形成される変質層と、当該変質層の残余である残余電子輸送層とにおける誘電率の和で与えられる合成誘電率であ
前記形成条件は、
初期条件に対して、N回(Nは、1以上の整数)の変更をしたものを第N形成条件と定義した場合、第(N−1)形成条件から第N形成条件への条件変更を前記基準値に基づき行うことにより決定され、
前記条件変更は、
基板、陽極、電子輸送層、陰極のみから構成され、且つ、同順で積層される陰極薄膜評価素子を、前記陽極形成工程、前記機能層形成工程における前記電子輸送層を形成する工程および前記陰極形成工程を用いて作製し、
当該陰極薄膜評価素子の前記物理変数である合成誘電率の値を用いて前記基準値と対照することにより行う、
ことを特徴とする有機ELデバイスの製造方法。
【請求項2】
前記合成誘電率は、
印加する交流電圧の周波数を100kHz以上に設定して測定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の有機ELデバイスの製造方法。
【請求項3】
前記周波数は、1GHz以下とする、
ことを特徴とする請求項に記載の有機ELデバイスの製造方法。
【請求項4】
前記形成条件は、
前記合成誘電率が2以上10以下となるように設定された前記基準値を用いて決定する、
ことを特徴とする請求項またはに記載の有機ELデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記陰極形成工程では、
マグネトロンスパッタリング法を用いて前記陰極を形成する、
ことを特徴とする請求項1ないしの何れか1項に記載の有機ELデバイスの製造方法。
【請求項6】
前記陰極形成工程では、
透明導電性材料を用いて前記陰極を形成する、
ことを特徴とする請求項1ないしの何れか1項に記載の有機ELデバイスの製造方法。
【請求項7】
基板上に陽極を形成し、当該陽極上に発光層を含む機能層を形成し、当該機能層上に薄膜法を用いて陰極を形成し、かつ、前記陰極と接するように、有機化合物を含む材料を用いて前記機能層を構成する電子輸送層をも形成して製造される有機ELデバイスの検査方法であって、
デバイス性能と相関を有する電子輸送層の特性を示す物理変数を指標として、当該指標を媒介させることにより前記デバイス性能と陰極の形成条件とを対応させた性能相関データに基づき評価し、
前記物理変数は、
電子輸送層を構成する、当該電子輸送層と陰極との界面に形成される変質層と、当該変質層の残余である残余電子輸送層とにおける誘電率の和で与えられる合成誘電率であ
基板、陽極、電子輸送層、陰極のみから構成され且つ同順で積層される陰極薄膜評価素子を、前記製造される有機ELデバイスにおける各前記基板、前記陽極、前記電子輸送層および前記陰極を形成する各製造の工程を用いて作製し、
当該陰極薄膜評価素子を対象とした測定にて得られた前記物理変数である合成誘電率の値と、前記性能相関データとを対照して前記評価をする
ことを特徴とする有機ELデバイスの検査方法。
【請求項8】
基板上に陽極を形成し、当該陽極上に発光層を含む機能層を形成し、当該機能層上に薄膜法を用いて陰極を形成し、かつ、前記陰極と接するように、有機化合物を含む材料を用いて前記機能層を構成する電子輸送層をも形成して製造される有機ELデバイスの判定方法であって、
デバイス性能と相関を有する電子輸送層の特性を示す物理変数を指標として、当該指標を媒介させることにより前記デバイス性能と陰極の形成条件とを対応させた性能相関データに基づき、製造を継続するか否かを判定し、
前記物理変数は、
電子輸送層を構成する、当該電子輸送層と陰極との界面に形成される変質層と、当該変質層の残余である残余電子輸送層とにおける誘電率の和で与えられる合成誘電率であ
基板、陽極、電子輸送層、陰極のみから構成され且つ同順で積層される陰極薄膜評価素子を、前記製造される有機ELデバイスを構成する各前記基板、前記陽極、前記電子輸送層および前記陰極を形成する各製造の工程を用いて作製し、
当該陰極薄膜評価素子を対象とした測定にて得られた前記物理変数である合成誘電率の値と、前記性能相関データとを対照して前記判定をする、
ことを特徴とする有機ELデバイスの判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELデバイスの製造方法、有機ELデバイスの検査方法および有機ELデバイスの判定方法に関し、特に、有機ELデバイスの陰極形成の形成条件に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)デバイスにおいて、基板側の電極を陽極、デバイス上部側の電極を陰極とする構成が多く、具体的には、陽極、機能層を構成する発光層および電子輸送層、陰極とが同順にて積層されるデバイス構成が多く採用されている。
上記のようなデバイス構成からなる有機ELデバイスは、陰極を電子輸送層の表面上に薄膜形成することにより製造される。薄膜法としては、真空蒸着法やスパッタリング法などが採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−60468号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記薄膜法を用いて陰極を形成する場合には、電子輸送層は有機化合物を含むため、その表面状態は変化し易いと考えられる。そのため、陰極の形成条件を微調整しながら、設定される所望のデバイス性能に対応するように製造を行うことを要する。
しかしながら、現状においては、製造条件の微調整は、製造された実デバイスのデバイス性能の評価に基づきなされるが、如何なる製造条件を微調整すべきかを的確に把握できていない。そのため、微調整を繰り返して行う必要が生じやすく、ひいては、微調整の間、製造効率の著しい低下を招来する。
【0005】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであって、陰極の形成条件を求めるための調整作業の効率化による、合理的な有機ELデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法は、基板上に陽極を形成する陽極形成工程と、前記陽極上に発光層を含む機能層を形成する機能層形成工程と、前記機能層上に薄膜法を用いて陰極を形成する陰極形成工程と、を含み、前記機能層形成工程では、次工程で形成される陰極と接することとなる位置に、有機化合物を含む材料からなる電子輸送層をも形成し、前記陰極形成工程における陰極の形成は、電子輸送層の特性を示す物理変数を指標とした基準値に基づき決定された形成条件を用いて実行し、前記物理変数は、電子輸送層を構成する、当該電子輸送層と陰極との界面に形成される変質層と、当該変質層の残余である残余電子輸送層とにおける誘電率の和で与えられる合成誘電率とする。
【発明の効果】
【0007】
有機ELデバイスのデバイス構造は、基板、陽極、発光の機能を担う発光層及び電子輸送層などから構成される機能層、陰極などを順次積層させた多層構造とされる。そのため、デバイス性能は、陰極と機能層との界面を含めた各積層界面の状態や、電子注入性などの多くの要因に依存する。本発明者は、鋭意検討の結果、電子輸送層の特性を示す物理変数は、陰極の形成条件とデバイス性能とを相関させるための媒介項として良好な指標となる、との知見を得た。そして、具体的には、電子輸送層を構成する、当該電子輸送層と陰極との界面に形成される変質層と、当該変質層の残余である残余電子輸送層とにおける誘電率の和で与えられる合成誘電率(以下、単に合成誘電率とも記す)が良好な指標となる、との帰結に至った。
【0008】
そこで、本発明の一態様では、陰極の形成は、電子輸送層の特性を示す合成誘電率を指標とした基準値に基づき決定された形成条件を用いて実行する。当該基準値は、デバイス性能と良好に対応付けされるとともに、陰極の形成条件とも良好に対応付けされたものである。そのため、当該基準値に基づき形成条件を決定することより、陰極の形成条件を求めるための調整作業を効果的に行うことができ、調整作業の効率の向上を図ることができる。
【0009】
よって、本発明の一態様に係る製造方法によれば、有機ELデバイスを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法が製造対象とする有機ELデバイスを示す模式的な断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法を説明する工程図である。
図3】本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法における陰極の形成条件の決定の例示図である。
図4】本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法において用いる陰極薄膜評価素子を示す模式的な断面図である。
図5】本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法において用いる陰極薄膜評価素子の製造方法を説明する工程図である。
図6】(a)陰極薄膜評価素子の模式図であり、(b)陰極薄膜評価素子の仮定回路図である。
図7】(a)陰極の形成条件と合成誘電率との関係図であり、(b)電子輸送層の合成誘電率と電子電流との関係図であり、(c)電子輸送層の合成誘電率と寿命との関係図である。
図8】電子輸送層の合成誘電率と周波数との関係図である。
図9】本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの検査方法および有機ELデバイスの判定方法にて用いる性能相関データの例示図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の一態様の概要]
本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法は、基板上に陽極を形成する陽極形成工程と、前記陽極上に発光層を含む機能層を形成する機能層形成工程と、前記機能層上に薄膜法を用いて陰極を形成する陰極形成工程と、を含み、前記機能層形成工程では、次工程で形成される陰極と接することとなる位置に、有機化合物を含む材料からなる電子輸送層をも形成し、前記陰極形成工程における陰極の形成は、電子輸送層の特性を示す物理変数(以下、性能相関変数とも記す)を指標とした基準値(以下、性能相関基準値とも記す)に基づき決定された形成条件を用いて実行し、前記物理変数は、電子輸送層を構成する、当該電子輸送層と陰極との界面に形成される変質層と、当該変質層の残余である残余電子輸送層とにおける誘電率の和で与えられる合成誘電率とする。
【0012】
本発明者は、電子輸送層の特性を示す物理変数が陰極の形成条件とデバイス性能とを相関させるための媒介項として良好な指標となる、という知見を得た。そして、当該物理変数としては、電子輸送層を構成する、当該電子輸送層と陰極との界面に形成される変質層と、当該変質層の残余である残余電子輸送層とにおける誘電率の和で与えられる合成誘電率(以下、単に合成誘電率とも記す)が良好である、との帰結に至った。電子輸送層の膜厚はナノオーダーである。そのため、電子輸送層における陰極との界面および界面近傍の物理状態の変化を精度良く捉えるためには、対象とする物理変数を厳選する必要がある。このことは、現状の測定装置の性能にも多分に依存する。そこで、本発明者は、電子輸送層は基本的に絶縁体と見なし得ることから、電子輸送層を誘電体として近似することが可能であることに着目した。インピーダンス抵抗測定装置(例えば、東陽テクニカ製、誘電体測定システム126096W型)は、|Z|>100MΩの高抵抗サンプルを測定することが可能であり、mHzからGHzまで10桁以上に及ぶ範囲で測定条件を変化させることができ、広範囲にわたる周波数特性からデバイス特性の類推につなげることができ、分解能レンジも比較的幅広い。そこで、性能相関変数として、電子輸送層を構成する、当該電子輸送層と陰極との界面に形成される変質層と、当該変質層の残余である残余電子輸送層とにおける誘電率の和で与えられる合成誘電率を用いる。
【0013】
本態様によれば、陰極の形成条件は、電子輸送層の特性を示す合成誘電率を指標とした基準値(性能相関基準値)に基づき決定される。当該基準値は、デバイス性能と良好に対応付けされるとともに、陰極の形成条件とも良好に対応付けされたものである。そのため、当該基準値に基づき形成条件を決定することにより、陰極の形成条件を求めるための調整作業を効果的に行うことができ、調整作業の効率の向上を図ることができる。
【0014】
又、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法の特定の局面では、前記形成条件は、初期条件に対して、N回(Nは、1以上の整数)の変更をしたものを第N形成条件と定義した場合、第(N−1)形成条件から第N形成条件への条件変更を前記基準値に基づき行うことにより決定される。
有機ELデバイスの製造方法は、設定されたデバイス性能の範囲に収まるように製造条件を調整して製造が開始される。製造を開始する毎に、直近の製造条件を基準とすることなく新たに製造条件の調整を行っても良い。
【0015】
しかしながら、性能相関変数としての合成誘電率を媒介として陰極の形成条件とデバイス性能とに相関関係を持たせても、厳密にそれぞれの値が一対一に対応するほどの強いものではない。そのため、変更前の形成条件を前提に条件を補正する変更方法を採用する方が、より効率的に良好な製造条件へと収束させることができる。そこで、本態様では、形成条件は、初期条件の形成条件に対して、N回(Nは、1以上の整数)の変更をしたものを第N形成条件と定義した場合、第(N−1)形成条件の第N形成条件への条件変更を性能相関基準値に基づき行うことにより決定する。この様に、変更前の形成条件を前提に補正することにより、適宜微調整をしながら、より一層効率よく調整作業を行うことができる。
【0016】
又、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法の特定の局面では、前記条件変更は、基板、陽極、電子輸送層、陰極のみから構成され、且つ、同順で積層される陰極薄膜評価素子を、前記陽極形成工程、前記機能層形成工程における前記電子輸送層を形成する工程および前記陰極形成工程を用いて作成するとともに、当該陰極薄膜評価素子の前記物理変数の値を用いて前記基準値と対照することにより行う。
【0017】
陰極の形成条件の変更は、例えば、製造された有機ELデバイスにおける電子輸送層の性能相関変数としての合成誘電率を測定して得られた値を、性能相関基準値と対照することにより行う。電子輸送層の特性を示す合成誘電率が性能相関変数として良好な指標となることは、電子輸送層における陰極との界面および界面近傍の物理状態の変化が、陰極の形成条件とデバイス性能とを相関させるための媒介項として良好な指標となることを示している。そのため、電子輸送層および陰極は少なくとも必要であるが、必ずしも製造した実デバイスを対象として合成誘電率を測定することは要しないと言える。そこで、本態様では、実デバイスに比して積層数を減らした上記陰極形成評価素子を作成して、当該陰極形成評価素子を対象として合成誘電率を測定するとともに、得られた値を用いて性能相関基準値と対照することにより陰極の形成条件の変更を行う。この様に、実デバイスに比して簡便に製造できる陰極形成評価素子を用いることにより、より一層効率よく調整作業を行うことができる。
【0018】
又、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法の特定の局面では、前記合成誘電率は、印加する交流電圧の周波数を100kHz以上に設定して測定する。
誘電体の誘電率は、誘電体の結晶構造や構成元素などにより依存し、それに伴い印加する交流電圧の周波数に対する依存性も異なる。本発明の一態様に係る電子輸送層においては、印加する交流電圧の周波数が、100kHz未満であると、誘電率の特性が顕著に顕在化しない。そこで、本態様では、印加する交流電圧の周波数を100kHz以上に設定して合成誘電率を測定する。その結果、より精度よく性能相関変数としての合成誘電率の測定が可能となり、より一層効率よく調整作業を行うことができる。
【0019】
又、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法の特定の局面では、前記周波数は、1GHz以下とする。
印加する交流電圧の周波数の上限は、特に限定されないが、1GHzを上限として設定しておけば十分に精度よく性能相関変数としての合成誘電率の測定が可能である。
又、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法の特定の局面では、前記形成条件は、前記合成誘電率が2以上10以下となるように設定された前記基準値を用いて決定する。
【0020】
性能相関変数としての合成誘電率は、デバイス性能と良好に対応付けされるとともに、陰極の形成条件とも良好に対応付けされたものである。しかしながら、当該合成誘電率が、2未満であると、通常必要とされるデバイス性能よりも劣るため、設定されるデバイス性能に対応できない。又、上限は、特に限定されず、高いほど良いと言えるが、合成誘電率は10を上限として10以下となるように設定された基準値としておけば十分に通常必要なデバイス性能に対応できる。
【0021】
又、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法の特定の局面では、前記陰極形成工程にて、マグネトロンスパッタリング法を用いて前記陰極を形成する。
本発明の一態様においては、陰極は薄膜法にて形成する。薄膜法とは、一原子層を成長させながら数〜数十層積層させる成長方法を指すものである。具体的には、蒸着法、スパッタリング法などがある。スパッタリング法は、ターゲットの板を大きく確保でき、膜分布の均一化に優れおり、耐久性にも優れていることから連続量産に適している。しかし、成長させる表面に到達する粒子のエネルギーが蒸着法などに比して高いため、陰極が形成される電子輸送層の表面に与える影響が大きい。そのため、他の方法に比して、求められる形状条件の条件出しの精度は高く、ひいては、形成条件の調整を効率よく行うことが他の方法に比して困難である。そこで、本発明における性能相関基準値を用いて形成条件を決定することにより、陰極の形成条件を求めるための調整作業を効果的に行うことができ、調整作業の効率の向上を図ることができる。
【0022】
又、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法の特定の局面では、前記陰極形成工程にて、透明導電性材料を用いて前記陰極を形成する。
近年、アクティブ型の有機ELデバイスでは、画素の発光面積の割合を大きく確保するために、光取出しを基板とは逆方向のデバイス上部から行うトップ・エミッション型が盛んに研究・開発されている。トップ・エミッション型の有機ELデバイスでは、従来のボトム・エミッション型と異なり、透明導電性材料からなる陰極を用いることになる。透明導電性材料からなる陰極の形成は、スパッタリング法にて行われる。そのため、上記同様にして、電子輸送層の表面に与える影響が大きく、形成条件の調整を効率よく行うことが他の方法に比して困難である。そこで、本発明における性能相関基準値を用いて形成条件を決定することにより、陰極の形成条件を求めるための調整作業を効果的に行うことができ、調整作業の効率の向上を図ることができる。
【0023】
本発明の一態様に係る有機ELデバイスの検査方法は、基板上に陽極を形成し、当該陽極上に発光層を含む機能層を形成し、当該機能層上に薄膜法を用いて陰極を形成し、かつ、前記陰極と接するように、有機化合物を含む材料を用いて前記機能層を構成する電子輸送層をも形成して製造される有機ELデバイスの検査方法であって、デバイス性能と相関を有する電子輸送層の特性を示す物理変数を指標として、当該指標を媒介させることにより前記デバイス性能と陰極の形成条件とを対応させた性能相関データに基づき評価し、前記物理変数は、電子輸送層を構成する、当該電子輸送層と陰極との界面に形成される変質層と、当該変質層の残余である残余電子輸送層とにおける誘電率の和で与えられる合成誘電率(以下、合成誘電率とも記す)とする。
【0024】
製造条件は、予め設定されるデバイス性能を達成するように決定されるべきものである。そのため、適宜、製造される実デバイスの性能を評価することにより、陰極の形成条件が適正かを検査する必要が生じる。有機ELデバイスのデバイス構造は、基板、陽極、発光の機能を担う発光層及び電子輸送層などから構成される機能層、陰極などを順次積層させた多層構造とされる。よって、製造される実デバイスのデバイス性能には、陰極と機能層との界面を含めた各積層界面の状態や、電子注入性などの多くの要因が寄与する。そのため、単に実デバイスのデバイス性能を検査するのみでは、陰極の形成状態を介してデバイス性能に寄与する陰極の形成条件の寄与分を切り分けて評価することが困難である。本発明者は、鋭意検討の結果、次の知見を得た。電子輸送層の特性を示す物理変数は、陰極の形成条件とデバイス性能とを相関させるための媒介項として良好な指標となる。そして、当該物理変数としては、電子輸送層を構成する、当該電子輸送層と陰極との界面に形成される変質層と、当該変質層の残余である残余電子輸送層とにおける誘電率の和で与えられる合成誘電率が良好である、との帰結に至った。
【0025】
そこで、本態様では、デバイス性能と相関を有する電子輸送層の特性を示す物理変数(上記性能相関変数)たる合成誘電率を指標として、当該指標を媒介させることにより、デバイス性能と陰極の形成条件とを対応させた性能相関データに基づき評価する。性能相関データは、上記性能相関基準値に対する変数をデバイス性能および陰極の形成条件としたデータである。そのため、性能相関データは、デバイス性能と良好に対応付けされるとともに、陰極の形成条件とも良好に対応付けされたものである。電子輸送層の特性を示す合成誘電率を測定するとともに性能相関データと対照することで、効果的に陰極の形成条件の適正を検査することができる。
【0026】
よって、本発明の一態様に係る検査方法によれば、効率的に有機ELデバイスの検査をすることができる。
又、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの検査方法の特定の局面では、基板、陽極、電子輸送層、陰極のみから構成され且つ同順で積層される陰極薄膜評価素子を、前記製造される有機ELデバイスにおける各前記基板、前記陽極、前記電子輸送層および前記陰極を形成する各製造の工程を用いて作成するとともに、当該陰極薄膜評価素子を対象とした測定にて得られた前記物理変数の値と、前記性能相関データとを対照して前記評価をする。
本発明の一態様に係る有機ELデバイスの判定方法は、基板上に陽極を形成し、当該陽極上に発光層を含む機能層を形成し、当該機能層上に薄膜法を用いて陰極を形成し、かつ、前記陰極と接するように、有機化合物を含む材料を用いて前記機能層を構成する電子輸送層をも形成して製造される有機ELデバイスの判定方法であって、デバイス性能と相関を有する電子輸送層の特性を示す物理変数を指標として、当該指標を媒介させることにより前記デバイス性能と陰極の形成条件とを対応させた性能相関データに基づき、製造を継続するか否かを判定し、前記物理変数は、電子輸送層を構成する、当該電子輸送層と陰極との界面に形成される変質層と、当該変質層の残余である残余電子輸送層とにおける誘電率の和で与えられる合成誘電率(以下、合成誘電率とも記す)、とする。
【0027】
製造は、製品の違いや、製造装置のメンテナンスや原材料の補給などにより中断されることがある。その際、直近の陰極の形成条件が適正であったとしても、継続的にそのまま同形成条件を用いることができるかを判定する必要があり、継続的に用いることができないと判定されれば製造を中断することになる。そこで、本態様では、デバイス性能と相関を有する電子輸送層の特性を示す物理変数(上記性能相関変数)たる合成誘電率を指標として、当該指標を媒介させることにより、デバイス性能と陰極の形成条件とを対応させた性能相関データに基づき、製造を継続するか否かを判定する。性能相関データは、上記性能相関基準値に対する変数をデバイス性能および陰極の形成条件としたデータである。そのため、性能相関データは、デバイス性能と良好に対応付けされるとともに、陰極の形成条件とも良好に対応付けされたものである。電子輸送層の特性を示す合成誘電率を測定するとともに性能相関データと対照することで、効果的に製造を継続するか否かを判定することができる。
【0028】
よって、本発明の一態様に係る判定方法によれば、効率的に有機ELデバイスの判定をすることができる。
又、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの判定方法の特定の局面では、基板、陽極、電子輸送層、陰極のみから構成され且つ同順で積層される陰極薄膜評価素子を、前記製造される有機ELデバイスを構成する各前記基板、前記陽極、前記電子輸送層および前記陰極を形成する各製造の工程を用いて作成するとともに、当該陰極薄膜評価素子を対象とした測定にて得られた前記物理変数の値と、前記性能相関データとを対照して前記判定をする。
【0029】
〔上記物理変数として合成誘電率を採用することについての考察〕
有機ELデバイスに用いられる陰極は、設計されるデバイス構造毎に、構成材料および膜厚などにつき異なる条件が要求される。それに伴い形成方法および形成条件も当然に異なる。必要とされるデバイス性能は予め設定されるため、陰極の形成状態とデバイス性能との相関を評価できない限り、陰極の形成条件を如何なる範囲に設定すべきか判断できない。現状、陰極の形成状態とデバイス性能との相関を評価する方法は確立されていない。そのため、デバイス設計に対する具体的な指針を与えられないのみならず、実際に製造する際の形成条件の調整に対する基準も設定できない。そこで、本発明者は、全ての形成方法および形成条件を検討すると膨大な量と時間を要するため、一定範囲の材料群に対して形成条件を系統的に変化させた有機ELデバイスを作成し、デバイス性能へ影響を与える変数の抽出を試みた。
【0030】
先ず、SEM(Scanning electron Microscope)による表面観察を行った結果、陰極が形成される電子輸送層の表面が変質していることが観察された。又、当該変質に相関して有機ELデバイスの性能に差が出ていることが分かった。このことから、本発明者は、電子輸送層と陰極との界面および界面近傍の状態が、有機ELデバイスの性能と相関を持つという知見を得たものである。このことは、有機化合物を含む材料にて電子輸送層は構成されるため耐熱性や対衝撃性に比較的優れず、薄膜法を用いた陰極の形成時に電子輸送層の表面に与えられる熱エネルギーなどにより、電子輸送層の表面が変質しやすいことを示していると考えられる。そこで、本発明者は、電子輸送層の特性を示す物理変数が、有機ELデバイスの性能と相関をもつ指標となると考えて、具体的に誘電率測定を代表させて検討を行った。ここで、誘電率測定を選択したのは、次の理由からである。ナノオーダーの電子輸送層に形成される変質層を直接分析することは、測定装置の測定可能範囲の限界を超えており、現状は不可能である。そこで、精度よく測定が可能である電子輸送の特性を示す物理変数の検討を行った。電子輸送層は基本的に絶縁体と見なし得ることから、誘電体として近似することが可能であることに着目した。インピーダンス抵抗測定装置は、|Z|>100MΩの高抵抗サンプルを測定することが可能であり、分解能レンジも比較的幅広い。そのため、誘電率測定を選択すれば、精度よく測定できると考えたためである。誘電率測定の結果(後述の図7参照)、デバイス性能と誘電率とは良好な相関関係を持つことが分かった。以上より、本発明者は、電子輸送層の特性を示す物理変数としての合成誘電率が陰極の形成条件とデバイス性能とを相関させるための媒介項として良好な指標となる、という知見を得たものである。
【0031】
〔実施の形態1〕
先ず、製造方法の説明に入る前に、本実施形態に係る方法を用いて製造しようとする有機ELデバイスの構成について説明する。
≪有機ELデバイスの構成≫
図1は、本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法が対象とする有機ELデバイスを示す模式的な断面図である。なお、図1に示す有機ELデバイス100は、単体の有機EL素子として図示されているが、複数の有機EL素子を配設した有機EL表示パネルを有機ELデバイスとすることも可能であり、図1に示す有機ELデバイス100は例示にすぎない。
【0032】
図1に示すように、有機ELデバイス100は、上部電極を陰極4として、基板1上に、陽極2、機能層3を構成する正孔注入層31、正孔輸送層32、発光層33及び電子輸送層34、陰極4が順次積層されてなる。図示していないが、陰極4の上面には内部封止のための封止層が設けられるとともに、陽極2および陰極4には直流電流DCが接続され、外部より有機ELデバイス100に給電される。なお、以下の説明は、主にトップ・エミッション型のデバイス構造を念頭にするが、本発明が対象とする有機ELデバイスのデバイス構造は上部電極を陰極とするものであればよい。
【0033】
<基板>
基板1は、有機ELデバイス100の背面基板として基材となるものである。図示していないが、基板1の表面には有機ELデバイス100を駆動させるためのTFT(薄膜トランジスタ)が形成される。
基板1の構成材料としては、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコン系樹脂、またはアルミナ等の絶縁性材料を挙げることができる。
【0034】
<陽極>
陽極2は、基板1上に高反射性材料からなる反射電極層、透明導電材料から電極層が順次積層されて構成される。反射電極層は異なる材料からなる層を複数積層させて構成しても良く、陽極2を反射電極層、電極層の一方のみから構成することもできる。
陽極2の構成材料として、反射電極層では、例えば、アルミニウム合金、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)を挙げることができ、電極層では、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化インジウム亜鉛)を挙げることができる。
【0035】
<正孔注入層>
正孔注入層31は、発光層33側に正孔を効率よく注入する機能を目的として積層されている。なお、基板1上に複数の有機EL素子を配設する有機EL表示パネルを有機ELデバイスとする場合等には、正孔注入層31の表面には、絶縁性の有機材料からなるバンクが、一定の台形断面を持ち、且つ、基板1を見下ろした際に発光領域を区画するように、ストライプ構造又は井桁構造をなすように形成される。有機EL素子を単体とした有機ELデバイスでは不要である。
【0036】
正孔注入層31の構成材料としては、例えば、MoOx(酸化モリブデン)、WOx(酸化タングステン)又はMoxWyOz(モリブデン−タングステン酸化物)等の金属酸化物、金属窒化物又は金属酸窒化物を挙げることができる。
<正孔輸送層>
正孔輸送層32は、正孔注入特性を調整する機能を目的として積層されている。
【0037】
正孔輸送層32の構成材料としては、例えば、(4−ブチルフェニル)ジフェニルアミン(TFB)、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、ブタジエン化合物、ポリスチレン誘導体、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、テトラフェニルベンジン誘導体(いずれも特開平5−163488号公報に記載)などを挙げることができる。
【0038】
<発光層>
発光層33は、キャリアの再結合による発光を担う機能層3の要部である。
発光層33の構成材料としては、例えば、F8−F6(F8(ポリジオクチルフルオレン)とF6(ポリジヘキシルフルオレン)との共重合体)のほか、特開平5−163488号公報に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物およびアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質、などを挙げることができる。
【0039】
<電子輸送層>
電子輸送層34は、陰極4から注入された電子を発光層33側へ効率よく輸送する機能を目的として積層されている。電子輸送層34は、有機物質のみを材料として構成してもよいし、有機物質と無機物質を組み合わせた材料から構成してもよい。又、電子輸送層34を、電子注入性の機能をもつn型ドーパント材料(有機物質又は無機物質)と電子輸送性の機能をもつホスト材料(有機物質)で構成してもよい。この場合、n型ドーパント材料のHOMO準位とホスト材料のLUMO準位とが十分に近いと、n型ドーパントのHOMO準位からLUMO準位に電子が移動する。その結果、電子輸送層34は、自由電子および正孔を持つCT(Charge Transfer)錯体から構成されることになる。特に、CT錯体にて構成することで、電子輸送層34は、良好な電子輸送性を発揮できる。
【0040】
電子輸送層34の構成材料としては、例えば、ホスト材料として、BCP(バソキュプロイン)やBphen(バソフェナントロリン)、Alq3(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム)、NTCDA(ナフタレンテトラカルボン酸二無水物)等の材料を挙げることができ、n型ドーパント材料としては、有機物質としてCoCp2(コバルトセン)、TTN(ジチロシンの硝酸タリウム(III))、PyB(ピリジニウムベタイン)、ルテニウム錯体としてRu(terpy)2、クロム錯体としてCr(bby)3、Cr(TMB)3等の材料を挙げることができ、無機物質としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属などを挙げることができる。なお、Ru(terpy)2、Cr(bby)3、Cr(TMB)3については、非特許文献(J.Phys.Chem.B 2003,107,2933)を参照に出来る。なお、ホスト材料とn型ドーパント材料の組み合わせや成膜条件によっては、必ずしもCT錯体を形成できるとは言えない場合があるが、n型ドーパント材料のHOMO準位とホスト材料(電子輸送材料)のLUMO準位との差を小さく抑えることで、例えば、当該準位差を2〜4eV以下、より好ましくは1eV以内にすることで、良好な電子輸送性が期待できる
電子輸送層34の構成材料としては、上記したものも含めて、例えば、ニトロ置換フルオレノン誘導体、チオピランジオキサイド誘導体、ジフェキノン誘導体、ペリレンテトラカルボキシル誘導体、アントラキノジメタン誘導体、フレオレニリデンメタン誘導体、アントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ペリノン誘導体、キノリン錯体誘導体(いずれも特開平5−163488号公報に記載)などを挙げることができ、n型ドーパント材料として、バリウム、フタロシアニン、フッ化リチウムなどを挙げることができる。
【0041】
<陰極>
陰極4は、透明導電性材料として、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化インジウム亜鉛)などから構成される、又は、厚み10nmの金属層(アルミニウム層など)として積層される。なお、トップ・エッミション型でなく、ボトム・エミッション型のデバイス構造であれば、例えば、厚みを超薄膜とすることなく、上記したアルミニウム層として形成される。
【0042】
<封止層>
図示していないが、封止層は、例えば、窒化シリコン、酸窒化シリコン等の材料で形成され、発光層33が水分や空気等に触れて劣化するのを抑制する機能を有する。トップ・エミッション型のデバイス構造では、光透過性材料にて構成するのが望ましい。
≪有機ELデバイスの製造方法≫
図2は、本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法を説明する工程図である。なお、以下、図1に示す有機ELデバイス100の製造方法を念頭に説明するが、あくまで例示にすぎない。
【0043】
<陽極形成工程>
基板1上に陽極2を形成する工程である(ステップS1)。この工程では、先ず、TFT(薄膜トランジスタ)、供給電極が形成された基板1を用意する。次に、真空蒸着法またはスパッタリング法に基づき、金属材料からなる厚さ200nm程度の陽極2を、給電電極と電気接続させながら形成する。
【0044】
<正孔注入層形成工程>
陽極2上に正孔注入層31を形成する工程である(ステップS21)。この工程では、陽極2の表面上に、反応性スパッタリング法に基づき、正孔注入層31を形成する。
正孔注入層形成工程(ステップS21)は、機能層形成工程(ステップS2)を構成するものである。
【0045】
<正孔輸送層形成工程>
正孔注入層31上に正孔輸送層32を形成する工程である(ステップS22)。この工程では、先ず、正孔輸送層32を構成する材料と溶媒を所定比率で混合したインクを調製する。次に、当該インクを塗布することにより、溶媒を蒸発乾燥させ、必要に応じて加熱焼成することにより、厚さ20nm程度の正孔輸送層32を形成する。
【0046】
正孔輸送層形成工程(ステップS22)は、機能層形成工程(ステップS2)を構成するものである。
<発光層形成工程>
正孔輸送層32上に発光層33を形成する工程である(ステップS23)。この工程では、先ず、発光層33を構成する材料と溶媒を所定比率で混合したインクを調製する。次に、当該インクを塗布することにより、溶媒を蒸発乾燥させ、必要に応じて加熱焼成することにより、厚さ70nm程度の発光層33を形成する。
【0047】
発光層形成工程(ステップS23)は、機能層形成工程(ステップS2)を構成するものである。
<電子輸送層形成工程>
発光層33上に電子輸送層34を形成する工程である(ステップS24)。この工程では、発光層11の表面上に、真空蒸着法に基づき、電子輸送層34を形成する。
【0048】
電子輸送層形成工程(ステップS24)は、機能層形成工程(ステップS2)を構成するものである。
<陰極形成工程>
機能層3上に陰極4を形成する工程である(ステップS3)。この工程では、機能層3を構成する電子輸送層34の表面上に、ITO、IZO等の材料を用い、薄膜法としての真空蒸着法、スパッタリング法等に基づき、陰極4を形成する。陰極4は、性能相関変数を指標とした性能相関基準値に基づき決定した形成条件を用いて形成されるが、当該形成条件の決定過程については、以下で図面を参照して説明を行う。
【0049】
なお、図2において、機能層形成工程(ステップS2)は、正孔注入層形成工程(ステップS21)、正孔輸送層形成工程(ステップS22)、発光層形成工程(ステップS23)および電子輸送層形成工程(ステップS24)から構成されるが、これに限定されるものではない。本発明においては、機能層3の要部である発光層33および、陰極4が形成される電子輸送層34を形成する工程は必須であるが、他の機能層3を構成する層を形成する工程はあくまで例示である。そのため、機能層形成工程(ステップS2)は、少なくとも、発光層形成工程(ステップS23)および電子輸送層形成工程(ステップS24)から構成されればよい。
【0050】
(陰極の形成条件の決定過程)
図3は、本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法における陰極の形成条件の決定例を示すものである。ここでは、形成条件を補正する方法にて決定する場合につき説明を行う。
[上記物理変数として合成誘電率を採用することについての考察]にて上述したように、本発明者は、電子輸送層の特性を示す物理変数(上記性能相関変数)が陰極の形成条件とデバイス性能とを相関させるための媒介項として良好な指標となる、という知見を得た。当該知見に基づけば、性能相関変数の値を測定することにより、予め設定されるデバイス性能の範囲に収まるべき形成条件の範囲が判断できるとともに、形成条件をどの程度調整すれば良いかを判断できることになる。例えば、図3に示すようなテーブルを用いて陰極の形成条件の調整を行う。図3に示す具体例は、性能相関変数を電子輸送層と陰極との界面に形成される変質層と当該変質を除く残余の電子輸送層との誘電率の和である合成誘電率であり、当該合成誘電率の値を基準値(上記性能相関基準値)とするとともに、形成条件を、スパッタリング法にて形成する場合の条件の内、ガス圧力(Pa)、流量(sccm)、基板温度(℃)にて代表させたものである。当該具体例をテーブルとして、次のように陰極の形成条件の調整を行う。例えば、予め設定されるデバイス性能の値は、合成誘電率の値が8のものに対応するとする。製造した有機ELデバイス100における電子輸送層34の合成誘電率を測定する。そして、測定値が8.2であれば、ガス圧力を0.1Pa減圧する、流量を10sccm抑える、又は、基板温度を5℃下げることにより形成条件を変更して陰極4の形成を実行する。又、製造した有機ELデバイス100における電子輸送層34の合成誘電率の測定値が8であれば、形状条件は良好であるとして条件を変更することなく陰極4の形成を実行する。この様にして、変更前の形状条件を前提として形成条件を補正する又は補正しないという補正方法にて形成条件の変更を行う。性能相関変数としての合成誘電率を指標とする性能相関基準値に基づき形成条件を決定することにより、設定されるデバイス性能に対応した形成条件にて陰極の形成を実行することができる。よって、陰極の形成条件を求めるための調整作業を効果的に行うことができ、調整作業の効率の向上を図ることができる。
【0051】
(性能相関データ)
性能相関データは、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの検査方法および判定方法にて用いるものであるが、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの製造方法においても用いることが可能である。そのため、ここで、性能相関データについて説明する。
[上記物理変数として合成誘電率を採用することについての考察]にて上述したように、本発明者は、電子輸送層の特性を示す物理変数(上記性能相関変数)が陰極の形成条件とデバイス性能とを相関させるための媒介項として良好な指標となる、という知見を得た。そこで、性能相関変数とデバイス性能との相関関係を性能相関データの1としてデータ化するとともに、性能相関変数と陰極の形成条件との相関関係を性能相関データの2としてデータ化する。更に、性能相関変数を媒介項にして、陰極の形成条件とデバイス性能との相関関係をデータ化したものを性能相関データの3として作成することも可能である。この様に作成される性能相関データは、デバイス性能と良好に対応付けされたものであり、陰極の形成条件とも良好に対応付けされたものである。図9を用いて具体的に説明する。図9は、本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの検査方法および有機ELデバイスの判定方法にて用いる性能相関データの例示図であり、図の上中下に各性能相関データを示す。図の上側に示すデータが、性能相関変数としての物理変数Aとデバイス性能Bとの相関関係を示す性能相関データの1である。物理変数Aは、合成誘電率を表し、デバイス性能Bは、B1、B2として、それぞれ電子電流、寿命などを表す。物理変数Aの測定値a1、a2、a3に対応して、それぞれ、B1の測定値b11、b12、b13が、B2の測定値b21、b22、b23がデータ化されている。図の中ほどに示すデータが、性能相関変数としての物理変数Aと陰極の形成条件Cとの相関関係を示す性能相関データの2である。形成条件Cは、例えば、スパッタリング法によるものとして、形成条件の各要素C1およびC2は、それぞれガス圧力(Pa)、流量(sccm)などを表す。他の形成条件の要素を固定して、特定の要素をパラメータとした場合の物理変数の値の変化につき、例えば、それぞれ形成条件C1の値c11、c12、c13、形成条件C2の値c21、c22、c23に対する物理変数Aの測定値a1、a2、a3としてデータ化される。更に、これらデータを用いて、図の下側に示す性能相関データの3を作成することも可能である。図中の性能相関データの3は、形成条件Cにおける要素として形状条件C1とデバイス性能Bとの相関データを例示したものである。性能相関データの1が、本発明の一態様に係る有機ELデバイスの検査方法および有機ELデバイスの判定方法にて用いる性能相関データに対応する。
【0052】
性能相関データの3は、陰極の形成条件とデバイス性能との相関関係を示すものである。そのため、予め設定されるデバイス性能に対応する陰極の形成条件の決定として、例えば、初期条件の決定に用いることができる。又、形成条件の変更につき、変更前の形成条件を前提として補正する方法をとらず、新たに初期条件として変更する場合にも用いることができる。性能相関データの3を含めて、性能相関変数を媒介項として陰極の形成条件とデバイス性能とに相関関係を持たせても、厳密にそれぞれの値が一対一に対応するほどの強いものではない。そのため、上記(形成条件の決定過程)に示すように、変更前の形状条件を前提として補正する方法を採用することが、設定されるデバイス性能に対応した最適な形成条件への収束をより図ることができる。
【0053】
〔実施の形態2〕
以下、本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法につき図面を用いて説明する。
本実施形態に係る製造方法では、陰極薄膜評価素子を用いるところに主な特徴を有する。このため、先ず、陰極薄膜評価素子の構成について説明する。
【0054】
≪陰極薄膜評価素子の構成≫
図4は、本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法において用いる陰極薄膜評価素子を示す模式的な断面図である。図4に示すように、陰極薄膜評価素子200は、基板10上に、陽極20、電子輸送層30、陰極40が同順にて積層してなる。陰極薄膜評価素子200は、図1に示す有機ELデバイス100の基板1、陽極2、電子輸送層34、陰極4と同一の構成材料および形成条件にて製造されるものである。そのため、上記《有機ELデバイスの構成》にて記載した、<基板>、<陽極>、<電子輸送層>および<陰極>の構成材料と同一のものが用いられる。
【0055】
《陰極薄膜評価素子の製造方法》
図5は、本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法において用いる陰極薄膜評価素子の製造方法を説明する工程図である。
図5に示すように、製造工程は、陽極形成工程(ステップS10)、電子輸送層形成工程(ステップS11)、陰極形成工程(ステップS12)の流れにて構成される。陰極薄膜評価素子は、有機ELデバイスにおける陰極の形成条件の適否をなす変更作業にて用いられるものである。そのため、製造される有機ELデバイスの製造工程と同一の工程を用いて製造される。つまり、陽極形成工程(ステップS10)は図2の陽極形成工程(ステップS1)を、電子輸送層形成工程(ステップS11)は図2の電子輸送層形成工程(ステップS24)を、陰極形成工程(ステップS12)は図2の陰極形成工程(ステップS3)を用いて製造される。そのため、上記《有機ELデバイスの製造方法》にて記載した、<陽極形成工程>、<電子輸送層形成工程>および<陰極形成工程>と同一の条件のものが用いられる。
【0056】
(陰極の形成条件の決定過程)
[実施の形態2]では、[実施の形態1]と異なり、図1に示す有機ELデバイス100に比して積層数を減らした図4に示す陰極薄膜評価素子200を作成して、陰極薄膜評価素子200の性能相関変数を測定するとともに、得られた値を用いて性能相関基準値と対照することにより陰極の形成条件の変更を行うものである。図3を用いて具体的に説明する。例えば、予め設定されるデバイス性能の値は、合成誘電率の値が8のものに対応するとする。製造した陰極薄膜評価素子200における電子輸送層30の合成誘電率を測定する。そして、測定値が8.2であれば、ガス圧力を0.1Pa減圧する、流量を10sccm抑える、又は、基板温度を5℃下げることにより形成条件を変更して陰極の形成を実行する。又、製造した陰極薄膜評価素子200における電子輸送層30の合成誘電率の測定値が8であれば、形状条件は良好であるとして条件を変更することなく陰極の形成を実行する。この様に、有機ELデバイス100に比して簡便に製造できる陰極薄膜評価素子200を用いることにより、〔実施の形態1〕より一層効率よく調整作業を行うことができる。
【0057】
<各種実験と考察>
(電子輸送層の特性を示す物理変数の指標性について)
本発明者は、[上記物理変数として合成誘電率を採用することについての考察]にて上述したとおり、SEM(Scanning electron Microscope)による表面観察の結果、陰極が形成される電子輸送層の表面が変質していることを観察した。電子輸送層は、膜厚がナノオーダーであることから、変質層の物理状態を測定にて捉えることは困難である。そこで、電子輸送層は基本的に絶縁体と見なしうることから、誘電体として近似することが可能であることに着目した。図6(a)に示すように、電子輸送層30は、変質層36と変質層36を除く残余電子輸送層35として構成されていると言える。そして、図6(b)に示すように、残余電子輸送層35をC1、変質層36をC2とする直列のコンデンサからなる電子回路を仮定できる。ここで、電子輸送層30を含む、陽極20および陰極40は、図4に示す陰極薄膜評価素子200を構成するものでる。
【0058】
そこで、種々の膜厚からなる電子輸送層30に対して、種々の形成条件にて陰極40を形成するとともに、電子輸送層30の誘電率測定を行った。その結果を示すのが図7(a)である。図7(a)は、横軸を電子輸送層の膜厚、縦軸を電子輸送層の合成誘電率として、斜線四角印はAlを構成材料として蒸着法にて形成した場合、斜線三角印はITOを構成材料としてスパッタリング法にて形成した場合、斜線丸印はITOを構成材料として蒸着法にて形成した場合の測定結果を示すものである。Alを構成材料とした蒸着法による形成は、抵抗加熱による蒸着法にて、成膜レート1nm/s、基板温度50℃とする条件にて行い、ITOを構成材料としたスパッタリング法による形成は、マグネトロンスパッタリング法にて、ガス圧力0.6Pa、Ar流量200sccm、酸素流量10sccm、基板温度50℃、放電パワー5.4kW、周波数250kHzとする条件にて行い、ITOを構成材料とした蒸着法による形成は、プラズマガン蒸着法にて、ガス圧力0.7Pa、Ar流量300sccm、酸素流量35sccm、H2O流量5sccm、基板温度50℃とする条件にて行った。誘電率測定は、インピーダンス測定装置を用いて、直流電圧5V、交流電圧200mV、周波数1MHzの条件にて容量電圧を測定することにより行った。図7(a)が示すように、電子輸送層の膜厚に関わらず、それぞれの陰極の形成条件に対する合成誘電率の値には有意な差が生じる。このことは、電子輸送層の合成誘電率が、変質層の物理状態を反映する良好な物理変数であることを示しているとともに、電子輸送層の合成誘電率と陰極の形成条件とが良好な相関関係をもつことを示している。そこで、合成誘電率とデバイス性能との相関を調べるため、図7(a)にて示した、それぞれ斜線四角印、斜線三角印および斜線丸印に対応する陰極の形成条件および電子輸送層の形成条件にて、それぞれ図1に示す有機ELデバイス100を製造するとともに、デバイス性能として電子電流および寿命を測定した。寿命は、初期輝度8000cd/m2における輝度半減寿命であり、本実験対象であるスパッタリング法にて形成したITOを陰極とするもの(斜線三角印)の寿命を100%として規格化した値に基づく相対値として示す。その結果を示すのが、図7(b)および図7(c)である。図7(b)は、横軸を電子輸送層の合成誘電率、縦軸を電子電流として、図7(c)は、横軸を電子輸送層の合成誘電率、縦軸を寿命とするとともに、それぞれ斜線四角印はAlを構成材料として蒸着法にて形成した場合、斜線三角印はITOを構成材料としてスパッタリング法にて形成した場合、斜線丸印はITOを構成材料として蒸着法にて形成した場合の測定結果を示すものである。ぞれぞれの図が示すように、電子輸送層の合成誘電率とデバイス性能とは良好な相関関係をもつ。図7(a)と、図7(b)および(c)の測定結果より、電子輸送層の合成誘電率は、陰極の形成条件とデバイス性能とを相関させるための媒介項として良好な指標となることが示される。
【0059】
以上より、電子輸送層の特性を示す物理変数としての合成誘電率が陰極の形成条件とデバイス性能とを相関させるための媒介項として良好な指標となることを確認した。
(電子輸送層の合成誘電率の周波数依存性について)
図8は、合成誘電率と周波数との関係図を示すものである。図8は、横軸を周波数、縦軸を合成誘電率として、斜線四角印はAlを構成材料として蒸着法にて形成した場合、斜線三角印はITOを構成材料としてスパッタリング法にて形成した場合、斜線丸印はITOを構成材料として蒸着法にて形成した場合の測定結果を示すものである。それぞれの印に示される陰極の形成条件は、上記図7の各印にて示される陰極の形成条件と同一なものである。図8が示すように、合成誘電率は、斜線三角印のスパッタリング法にて形成したものにつき顕著な周波数の依存性を示すとともに、高周波領域で合成誘電率が低下する。陰極の形成により形成される変質層は、陰極の形成条件に伴い構成物質および結晶構造が異なるとともに、均一な層として形成されずに複数の結晶化領域が集合した状態となる場合があると考えられる。そのため、変質層における外部電場に対する分極の感受性も異なるものとなり、高周波の交流電圧を印加しないと、より良く変質層の特性を示した誘電率特性が得られない場合があると言える。そこで、図8が示すように、印加する交流電圧の周波数を100kHz以上とした測定にて得られる合成誘電率を、性能相関変数の値である性能相関基準値として用いることが望ましい。印加する交流電圧の周波数の上限は特に制限されず、本実験で用いた測定装置((東陽テクニカ製、誘電体測定システム126096W型))の測定可能範囲の上限は5MHzであるが、あくまで本実験で用いた測定装置に係る上限であって現状の測定可能範囲である1GHzを上限としておけば十分に精度よく性能相関変数としての合成誘電率の測定が可能である。
【0060】
(デバイス性能に対する性能相関基準値の最適範囲について)
上記図7(b)および図7(c)が示すように、電子輸送層の合成誘電率とデバイス性能とは良好な相関関係をもつ。デバイス性能としての電子電流および寿命は高いほどよいため、合成誘電率は高いほどよいと言える。通常必要とされるデバイス性能に対応するためには、合成誘電率を性能相関変数とした場合、合成誘電率が2以上となるように性能相関基準値を設定することが望ましい。設定すべき合成誘電率の上限は特に制限されないが、予め設定されるデバイス性能は、設計されるデバイス構造など陰極以外の製造条件も考慮されるため、通常必要とされるデバイス性能に対応した形で合成誘電率の上限値を10としておけば十分であると言える。なお、図7に示す合成誘電率は、印加する交流電圧の周波数を1MHzとして測定したものである。そのため、十分に精度よく電子輸送層の特性が示されたものである。
【0061】
[実施の形態3]
以下、本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの検査方法について説明する。
≪検査方法≫
本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの検査方法は、[実施の形態1]で製造の対象とした有機ELデバイスを、同様にして検査の対象とするものである。図1に示す有機ELデバイス100は、図2に示す製造工程にて製造される。製造された有機ELデバイス100における陰極4の形成条件の適正を、上記の性能相関データに基づき評価することにより検査する。図9を用いて具体的に説明する。図9に示す性能相関データの1が、本実施形態の検査方法にて用いる性能相関データに対応する。物理変数Aは合成誘電率であり、予め設定されるデバイス性能Bの値はB1でb12、B2でb22として、それに対応する合成誘電率の値であるa2は8であるとする。製造した有機ELデバイス100における電子輸送層34の合成誘電率を測定する。そして、測定した合成誘電率の値が8でなければ陰極の形成条件の適正に問題があると評価する。この様にして、電子輸送層の特性を示す合成誘電率を測定するとともに性能相関データと対照することで、効果的に陰極の形成条件の適正が検査される。
【0062】
なお、[実施の形態2]と同様にして、図4に示す陰極薄膜評価素子200を製造して、陰極薄膜評価素子200の電子輸送層30の合成誘電率を測定するとともに、性能相関データと対照とすることで、有機ELデバイス100における陰極4の形成条件の適正を評価することとしてもよい。
〔実施の形態4〕
以下、本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの判定方法について説明する。
【0063】
≪判定方法≫
本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの判定方法は、[実施の形態1]で製造の対象とした有機ELデバイスを、同様にして判定の対象とするものである。図1に示す有機ELデバイス100は、図2に示す製造工程にて製造される。製造された有機ELデバイス100における陰極4の形成条件の適正を、上記の性能相関データに基づき評価することにより、製造を継続するか否かを判定する。図9を用いて具体的に説明する。図9に示す性能相関データの1が、本実施形態の判定方法にて用いる性能相関データに対応する。物理変数Aは合成誘電率であり、予め設定されるデバイス性能Bの値はB1でb12、B2でb22として、それに対応する合成誘電率の値であるa2は8であるとする。製造した有機ELデバイス100における電子輸送層34の合成誘電率を測定する。そして、測定した合成誘電率の値が8でなければ陰極の形成条件の適正に問題があると評価する。当該評価に基づき製造を継続しないとの判定を行う。この様にして、電子輸送層の特性を示す物理変数を測定するとともに性能相関データと対照することで、効果的に製造を継続する否かの判定を行う。ここでは、製造を開始した後、一定の期間製造を継続している状態に対する判定方法を想定して記載しているが、それに限定されるものではない。例えば、製造を休止して、製造装置のメンテナンスを行った後、休止する前の陰極の形成条件にて有機ELデバイスを製造する場合にも用いることができる。当該場合においては、予備的に有機ELデバイス100を製造するとともに本発明の判定方法を用いて判定を行うことにより製造を継続するか否かを判定することになる。
【0064】
なお、[実施の形態2]と同様にして、図4に示す陰極薄膜評価素子200を製造して、陰極薄膜評価素子200の電子輸送層30の合成誘電率を測定するとともに、性能相関データと対照とすることで、有機ELデバイス100の製造を継続するか否かを判定することとしてもよい。
<その他>
以上、本発明の実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法、有機ELデバイスの検査方法および有機ELデバイスの判定方法を具体的に説明してきたが、上記実施の形態は、本発明の構成および作用・効果を分かり易く説明するために用いた例であった、本発明の内容は、上記の実施の形態に限定されない。
【0065】
本実施の形態においては、電子輸送層の特性を示す物理変数(性能相関変数)として、電子輸送層の合成誘電率を用いて具体的に説明した。それは、本発明においては、性能相関変数として合成誘電率を用いるためではある。性能相関変数としては、<各種実験と考察>にて上述したように合成誘電率が優れて効果的なものである。しかしながら、合成誘電率と同様に電子輸送層が絶縁体であることに着目した物理変数であれば、効果的な性能相関変数として機能する可能性はある。例えば、抵抗、光透過率、比熱などを挙げることができる。勿論、電子輸送層の膜厚がナノオーダーであること、および、電子輸送層の抵抗が高抵抗であるため、現状の測定装置の測定精度および測定可能範囲によって事実上選択が制限されることはある。
【0066】
本実施の形態においては、陰極の形成条件の決定につき、変更前の形成条件を前提として性能相関基準値に基づき補正する場合を説明した。しかしながら、本発明の有機ELデバイスの製造方法はこれに限定されない。例えば、図9にて示した性能相関データの3を用いて、変更前の形成条件を前提とすることなく、性能相関基準値に基づき初期条件として形成条件を決定することも可能である。
【0067】
本実施の形態においては、有機ELデバイスのデバイス構造につきトップ・エミッション型を念頭において説明した。そのため、陰極を、透明導電性材料としてのITO、IZOから構成している。しかしながら、本発明が対象とする有機ELデバイスのデバイス構造は上部電極を陰極となるものであればよい。そのため、有機ELデバイスのデバイス構造はボトム・エミッション型でもよく、陰極をアルミニウムなどの金属材料から構成してもよい。又、陰極を透明導電性材料から構成する場合、陰極の形成は、薄膜法としてのスパッタリング法を用いる。しかしながら、<各種実験と考察>に示したように、陰極をITOにて構成する場合において、マグネトロンスパッタリング法などのスパッタリング法以外にも、プラズマガン蒸着法などの蒸着法を用いて形成してもよい。このように、本発明においては、薄膜法を用いて陰極を形成する方法であればよい。但し、図7に示したように、構成材料をAlとして蒸着法を用いて陰極を形成した場合には、構成材料をITOとしてスパッタリング法を用いて陰極を形成した場合に比して、電子輸送層の合成誘電率は高く、良好なデバイス性能を有した有機ELデバイスを製造することが可能である。又、構成材料をITOとしてスパッタリング法を用いて陰極を形成した場合には、構成材料をITOとして蒸着法を用いて陰極を形成した場合に比して、電子輸送層の合成誘電率は高く、良好なデバイス性能を有した有機ELデバイスを製造することが可能である。
【0068】
本実施の形態においては、有機ELデバイスの製造方法にて対象とする有機ELデバイスを単体の有機EL素子として説明した。しかしながら、本発明が対象とする有機ELデバイスは、これに限定されない。基板上に複数の有機EL素子を配設した有機EL表示パネルなどを対象とする有機ELデバイスとすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の有機ELデバイスの製造方法は、例えば、有機EL素子、有機ELパネルおよび有機EL表示装置等に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1、10 基板
2、20 陽極
3 機能層
4、40 陰極
30、34 電子輸送層
31 正孔注入層
32 正孔輸送層
33 発光層
35 残余電子輸送層
36 変質層
100 有機ELデバイス
200 陰極薄膜評価素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9