特許第5785932号(P5785932)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5785932化学蓄熱材構造体及びその製造方法、並びに化学蓄熱器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5785932
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】化学蓄熱材構造体及びその製造方法、並びに化学蓄熱器
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/16 20060101AFI20150910BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   C09K5/16
   F28D20/00 G
【請求項の数】23
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-507074(P2012-507074)
(86)(22)【出願日】2011年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2011057248
(87)【国際公開番号】WO2011118736
(87)【国際公開日】20110929
【審査請求日】2014年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2010-69986(P2010-69986)
(32)【優先日】2010年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591117516
【氏名又は名称】近江鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】原 昌司
(72)【発明者】
【氏名】望月 美代
(72)【発明者】
【氏名】志満津 孝
(72)【発明者】
【氏名】曽布川 英夫
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 喜章
(72)【発明者】
【氏名】若杉 知寿
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一久
(72)【発明者】
【氏名】板原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】澤田 勉
(72)【発明者】
【氏名】藤村 崇恒
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−256520(JP,A)
【文献】 特開2009−227773(JP,A)
【文献】 特開2009−221289(JP,A)
【文献】 特開2009−149837(JP,A)
【文献】 特開2009−132844(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/069701(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00−5/20、
F28D17/00−21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状の化学蓄熱材と、層リボン構造を有する粘土鉱物と、前記化学蓄熱材及び前記粘土鉱物の反応生成物であって、アルカリ土類金属の少なくとも一種を含む金属複合シリケートと、を含み、
前記化学蓄熱材は、脱水反応に伴なって吸熱し、水和反応に伴なって放熱する水和反応性蓄熱材であり、アルカリ土類金属の無機水酸化物、アルカリ金属の無機水酸化物、及び酸化アルミニウム三水和物から選ばれる少なくとも一種である化学蓄熱材構造体。
【請求項2】
前記化学蓄熱材は、二次粒子径が50μm以下である請求項1に記載の化学蓄熱材構造体。
【請求項3】
多孔構造を有し、前記化学蓄熱材が前記金属複合シリケートを介して前記粘土鉱物に分散保持されている請求項1又は請求項2に記載の化学蓄熱材構造体。
【請求項4】
炭素濃度が全質量の1質量%以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の化学蓄熱材構造体。
【請求項5】
前記金属複合シリケートの含有比率が、全質量に対して、2〜80質量%の範囲である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の化学蓄熱材構造体。
【請求項6】
前記化学蓄熱材の含有比率が、全質量に対して20〜98質量%である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の化学蓄熱材構造体。
【請求項7】
前記粘土鉱物は、セピオライト、パリゴルスカイト、及びカオリナイトから選ばれる少なくとも一種である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の化学蓄熱材構造体。
【請求項8】
前記化学蓄熱材は、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化バリウムの水和物、水酸化リチウム一水和物、及び酸化アルミニウム三水和物から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の化学蓄熱材構造体。
【請求項9】
少なくとも粉状の化学蓄熱材と層リボン構造を有する粘土鉱物とを混合し、前記化学蓄熱材の二次粒子径が50μm以下である混合物を調製する混合工程と、
前記混合物を用いて成形する成形工程と、
前記成形工程で成形された成形体を酸素含有雰囲気下、700℃以上800℃未満の温度領域で焼成する焼成工程と、
を含み、
前記化学蓄熱材は、脱水反応に伴なって吸熱し、水和反応に伴なって放熱する水和反応性蓄熱材であり、アルカリ土類金属の無機水酸化物、アルカリ金属の無機水酸化物、及び酸化アルミニウム三水和物から選ばれる少なくとも一種である化学蓄熱材構造体の製造方法。
【請求項10】
前記焼成工程は、40℃/分以上の昇温速度で加熱し焼成する請求項9に記載の化学蓄熱材構造体の製造方法。
【請求項11】
前記焼成工程は、焼成された前記成形体を20℃/分以上の降温速度で冷却する冷却工程を含む請求項9又は請求項10に記載の化学蓄熱材構造体の製造方法。
【請求項12】
前記焼成工程は、前記焼成時の昇温速度及び前記焼成後の前記成形体の降温速度の少なくとも一方が150℃/分以上である請求項11に記載の化学蓄熱材構造体の製造方法。
【請求項13】
前記混合工程は、前記化学蓄熱材を媒質に分散懸濁した蓄熱材懸濁液と、前記粘土鉱物を媒質に分散懸濁した粘土鉱物懸濁液と、を混合し、乾粉化することにより前記混合物を調製する請求項9〜請求項12のいずれか1項に記載の化学蓄熱材構造体の製造方法。
【請求項14】
前記粘土鉱物の粘土鉱物懸濁液中における含有比率が、懸濁液全質量に対して1〜10質量%である請求項13に記載の化学蓄熱材構造体の製造方法。
【請求項15】
更に、粘土鉱物を媒質に分散し、得られた分散液を静置処理して前記粘土鉱物懸濁液を調製する懸濁液調製工程を含む請求項13又は請求項14に記載の化学蓄熱材構造体の製造方法。
【請求項16】
前記焼成工程は、15〜45分間の焼成を行なう請求項9〜請求項15のいずれか1項に記載の化学蓄熱材構造体の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の化学蓄熱材構造体と、反応ガスが流通し、流通する反応ガスが前記化学蓄熱材構造体と接触するように設けられたガス流路と、を備えた化学蓄熱器。
【請求項18】
更に、前記反応ガスを供給すると共に反応生成ガスを排出する給排口を備えた反応室を備え、
前記反応室は、前記化学蓄熱材構造体と、前記化学蓄熱材構造体の少なくとも一方面に設けられ、前記化学蓄熱材構造体の形状を保持すると共に前記ガス流路を確保するガス流路保持構造と、を備えた請求項17に記載の化学蓄熱器。
【請求項19】
前記ガス流路保持構造は、前記化学蓄熱材構造体の膨張力より大きい圧縮強度を有する請求項18に記載の化学蓄熱器。
【請求項20】
前記ガス流路保持構造は、前記反応ガスが通過可能な細孔を含み、前記化学蓄熱材構造体中の粒子の平均粒子径より小さいろ過精度を有する請求項18又は請求項19に記載の化学蓄熱器。
【請求項21】
前記ガス流路保持構造における圧力損失が、10kPa以下である請求項18〜請求項20のいずれか1項に記載の化学蓄熱器。
【請求項22】
前記ガス流路保持構造の熱容量が、前記反応室全体の熱容量の10%以下である請求項18〜請求項21のいずれか1項に記載の化学蓄熱器。
【請求項23】
更に、前記化学蓄熱材構造体との間で熱交換する熱交換器を備えた請求項17〜請求項22のいずれか1項に記載の化学蓄熱器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸放熱を担う化学蓄熱材を成形、焼成した化学蓄熱材構造体及びその製造方法、並びに化学蓄熱器に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応を利用して熱の吸収、放出を行なうことのできる物質である化学蓄熱材は、従来より広く知られており、種々の分野で利用が検討されている。
【0003】
例えば、粉体の水和反応系化学蓄熱材と粘土鉱物であるセピオライトとを混練して成形し、内部に反応物を供給又は反応生成物を排出するための流路が形成された化学蓄熱材成形体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この公報では、蓄熱や放熱のための反応性と伝熱性が両立できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−149838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の化学蓄熱材成形体は、350〜500℃程度の温度で焼成して得られるものである。そのため、比表面積の増大による反応性向上は期待されても、このような温度範囲では、化学蓄熱材と粘土鉱物との間の反応や、粘土鉱物の焼結は起こらない。したがって、作製された構造体は、構造強度が足りないという課題がある。そのため、構造体使用時に化学蓄熱材の吸発熱反応が生じると、その吸発熱に伴なって生じる体積変化の影響を受け、構造体に割れや変形が発生してしまう。
【0006】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、従来に比べ強度が高く、吸発熱での体積変化が生じた場合の破損(割れ等)、変形の発生が抑制された化学蓄熱材構造体及びその製造方法、並びに熱の利用特性に優れた化学蓄熱器が提供されることが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の知見に基づいて達成されたものである。すなわち、
CaやMg等の水酸化物などの化学蓄熱材の粉状物を用いて構造体を作製する場合に、粘土鉱物を用いるのみならず、化学蓄熱材と粘土鉱物との存在下にこれらの反応生成物をさらに存在させることが、成形性や構造体強度を飛躍的に高めるのに有効であるとの知見である。また、化学蓄熱材と粘土鉱物の反応は進行するがシンタリングが起きない温度領域で焼成し、更には金属の炭酸化が抑えられる焼成条件とすることが、構造体強度の飛躍的向上に有効であるとの知見である。
【0008】
前記目的を達成するために、第1の発明である化学蓄熱材構造体は、
<1> 粒状の化学蓄熱材と、層リボン構造を有する粘土鉱物(clay mineral)と、前記化学蓄熱材及び前記粘土鉱物の反応により生成され、アルカリ土類金属の少なくとも一種を含む金属複合シリケートと、を含ませて構成したものである。
【0009】
第1の発明においては、化学蓄熱材と粘土鉱物との存在下にこれらの反応生成物である金属複合シリケートをさらに存在させた構成であることで、多数の孔が形成された網目状の構造を有して弾性的変形し得るように構造化されるので、金属複合シリケートを含まない従来の構造体に比べ、高い構造強度を有し、吸発熱での体積変化が生じた場合の破損(割れ等)、変形の発生を抑制することができる。
【0010】
次に、第1の発明である化学蓄熱材構造体の好ましい実施形態を以下に示す。
<2> 前記<1>に記載の化学蓄熱材構造体において、化学蓄熱材の二次粒子径は、50μm以下であるのが好適である。
【0011】
化学蓄熱材が50μm以下の二次粒子径を有して存在している組成では、化学蓄熱材と粘土鉱物との間の反応は活発に進行しているため、両者間で生成する反応生成物が多く存在するので、構造体の構造強度はより高められる。
【0012】
<3> 前記<1>又は<2>に記載の化学蓄熱材構造体は、多孔構造を有し、化学蓄熱材が前記金属複合シリケートを介して粘土鉱物に分散保持されている態様が好ましい。
多孔を有する網目状の構造を有し、その構造を形成する粘土鉱物に化学蓄熱材が分散されているので、熱の吸収・放出が行ない易く、水蒸気の拡散性に優れる。ここでは、化学蓄熱材は、粘土鉱物との間で生成した前記金属複合シリケートを介して存在している。
【0013】
<4> 前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の化学蓄熱材構造体は、構造体中における炭素濃度が全質量の1質量%以下である場合が好ましい。
炭素濃度が1質量%以下の低含有率であるときには、成形対中に存在する炭酸塩量も少ないため、構造体はその構造強度に優れている。
【0014】
<5> 前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の化学蓄熱材構造体において、金属複合シリケートの含有比率は、構造体全質量に対して、2〜80質量%の範囲であることが好適である。
【0015】
金属複合シリケートが所定の割合で含まれることで、網目状の多孔構造は弾性的変形挙動を示すことができるので、吸発熱反応による体積変化がより緩和され、破損や変形の発生を回避できる。
【0016】
<6> 前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の化学蓄熱材構造体において、化学蓄熱材の含有比率は、構造体の全質量に対して、20質量%〜98質量%の範囲とすることが好適である。
化学蓄熱材が所定の割合で含まれることで、吸発熱量を高く保持することができ、構造強度にも優れる。
【0017】
<7> 前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載の化学蓄熱材構造体において、粘土鉱物としては、セピオライト、パリゴルスカイト、及びカオリナイトから選ばれる一種又は二種以上を含む態様が好ましい。
【0018】
<8> 前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載の化学蓄熱材構造体においては、化学蓄熱材として、脱水反応に伴なって吸熱し、水和反応に伴なって放熱する水和反応性蓄熱材を含有することができる。
このような水和反応性の蓄熱材で構成される場合に、吸発熱時に生じやすい割れ等の破損や変形による不具合を効果的に防止することができる。
【0019】
また、第2の発明である化学蓄熱材構造体の製造方法は、
<9> 少なくとも粉状の化学蓄熱材と層リボン構造を有する粘土鉱物とを混合し、前記化学蓄熱材の二次粒子径が50μm以下である混合物を調製する混合工程と、前記混合物を用いて成形する成形工程と、前記成形工程で成形された成形体を酸素含有雰囲気下、700℃以上800℃未満の温度領域で焼成する焼成工程と、を設けて構成したものである。
【0020】
第2の発明においては、化学蓄熱材を平均一次粒子径50μm以下の小径にて含む混合物を酸素存在下、所定の温度領域で焼成することで、化学蓄熱材と粘土鉱物との反応を活発に行なわせることが可能であり、シンタリング(凝集化)も抑えられるので、化学蓄熱材と粘土鉱物との反応生成物である金属複合シリケートの生成が多く保たれ、焼成後の構造体の構造強度を高めることができる。
【0021】
以下、第2の発明である化学蓄熱材構造体の製造方法の好ましい実施形態を示す。
<10> 前記<9>に記載の化学蓄熱材構造体の製造方法における焼成工程は、40℃/分以上の昇温速度で加熱することで好適に焼成することができる。
焼成時の昇温速度が40℃/分以上であると、バインダーや粘土鉱物由来の有機物などの燃焼で生じたCOが化学蓄熱材と反応(炭酸化)するのを抑制できる。これにより、CaCO等の炭酸塩の生成が抑えられるため、構造体の強度が向上する。
【0022】
<11> 前記<9>又は前記<10>に記載の化学蓄熱材構造体の製造方法において、前記焼成工程は、焼成された前記成形体(構造体)を20℃/分以上の降温速度で冷却する冷却工程を設けて構成することができる。
【0023】
焼成工程の焼成終了後に冷却過程を設け、冷却時の降温速度を20℃/分以上にすると、雰囲気中のCOとの反応でCaCO等の炭酸塩の生成が抑えられるため、得られる構造体の強度が向上する。
【0024】
<12> 前記<11>に記載の化学蓄熱材構造体において、焼成工程は以下の態様で行なわれるのが好適である。すなわち、
a)焼成時の昇温速度を150℃/分以上とする、及び/又は、
b)焼成後の前記成形体(構造体)を冷却する冷却工程を有し、該冷却工程で冷却する際の降温速度を150℃/分以上とする。
【0025】
焼成過程での昇温及び/又は降温は、速度が速いほど化学蓄熱材の炭酸化が防げるため好ましい。本発明においては、150℃/分以上であることが構造体の強度を高める上で好適である。
【0026】
<13> 前記<8>〜前記<12>のいずれか1つに記載の化学蓄熱材構造体の製造方法において、混合工程は、化学蓄熱材を媒質に分散懸濁した蓄熱材懸濁液と、粘土鉱物を媒質に分散懸濁した粘土鉱物懸濁液とを混合し、乾粉化することにより混合物を調製することができる。
【0027】
粉体の化学蓄熱材と粘土鉱物とを混合する場合に、あらかじめ両者を懸濁した状態を形成して混合することで、より微粒径の混合粉体、具体的には少なくとも化学蓄熱材の二次粒子径が50μm以下の混合粉体を容易に調製することが可能である。
【0028】
<14> 前記<8>〜前記<13>に記載の化学蓄熱材構造体の製造方法では、粘土鉱物の粘土鉱物懸濁液中における含有比率を、懸濁液全質量に対して1〜10質量%の範囲にすることが好適である。
【0029】
粘土鉱物の懸濁液を調製する場合に、増粘限界近傍にて分散懸濁を行なうため、ミクロ繊維状を呈する粘土鉱物の網目化が促進される。これにより、多孔構造に弾性変形性を付与できる。よって、吸発熱で体積変化を起こした場合に招く構造体の破損や大きな変形を解消することができる。
【0030】
<15> 前記<13>又は前記<14>に記載の化学蓄熱材構造体の製造方法において、粘土鉱物懸濁液の調製は、更に、粘土鉱物を媒質に分散し、得られた分散液を静置処理(エージング)してする懸濁液調製工程を設けることができる。
【0031】
エージング処理を含めることで、繊維を切らずに解きほぐすことができるため、粘土鉱物による網目状の構造強度がより向上する。
【0032】
<16> 前記<9>〜前記<15>のいずれか1つに記載の化学蓄熱材構造体の製造方法において、焼成工程では15〜45分間焼成を好適に行なえる。
【0033】
さらに、第3の発明である化学蓄熱器は、
<17> 前記<1>〜前記<8>のいずれか1つに記載の化学蓄熱材構造体と、反応ガスが流通し、流通する反応ガスが前記化学蓄熱材構造体と接触するように設けられたガス流路と、を設けて構成したものである。
【0034】
第3の発明においては、既述のように、化学蓄熱材と粘土鉱物との存在下にこれらの反応生成物である金属複合シリケートをさらに存在させて構成された本発明の化学蓄熱材構造体が備えられていることで、金属複合シリケートを含まない従来の蓄熱器に比べ、高い構造強度を有し、吸発熱での体積変化が生じた場合の破損(割れ等)、変形の発生が抑制されている。
【0035】
続いて、第3の発明である化学蓄熱器の好ましい実施形態を以下に示す。
<18> 前記<17>に記載の化学蓄熱器は、更に、反応ガスを供給すると共に反応生成ガスを排出する給排口を備えた反応室を備え、前記反応室が、化学蓄熱材構造体と、化学蓄熱材構造体の少なくとも一方面に設けられ、化学蓄熱材構造体の形状を保持すると共に前記ガス流路を確保するガス流路保持構造とを設けて構成された態様が好ましい。
【0036】
例えば板状に成形された化学蓄熱材構造体の一方面又は両方の面にガス流路保持構造が設けられることで、化学蓄熱材構造体の形状が保持され、仮に化学蓄熱材構造体が膨張と収縮を繰り返すうちに割れたり崩壊する等しても、ガス流路を確保することができる。これにより、長期に亘り吸発熱を繰り返し行なうことが可能であり、より安定的に熱の蓄熱及び利用(放熱)が行なえる。
【0037】
<19> 前記<18>に記載の化学蓄熱器において、ガス流路保持構造は、化学蓄熱材構造体の膨張力より大きい圧縮強度を有する態様が好ましい。
【0038】
ガス流路保持構造の圧縮強度が、化学蓄熱材構造体の膨張力より大きいことで、化学蓄熱材構造体が膨張した場合でも構造の圧縮に伴なう変形が防止される。
【0039】
<20> 前記<18>又は前記<19>に記載の化学蓄熱器において、ガス流路保持構造は、反応ガスが通過可能な細孔を含み、化学蓄熱材構造体中の粒子の平均粒子径より小さいろ過精度を有する態様が好ましい。
【0040】
ガス流路保持構造のろ過精度が、化学蓄熱材構造体が崩壊等した場合に、構造体中の粒子、具体的には粒状ないし微粉状の粒子の平均粒子径より小さいことで、仮に構造体に割れや崩壊が生じた場合でも流路は閉塞されず、ガス流路を確保することができる。これにより、長期に亘り吸発熱を繰り返し行なうことが可能であり、より安定的に熱の蓄熱及び利用(放熱)が行なえる。
【0041】
<21> 前記<18>〜前記<20>のいずれか1つに記載の化学蓄熱器において、ガス流路保持構造における圧力損失は、10kPa以下であることが好ましい。
【0042】
ガス流路保持構造の圧力損失が10kPa以下であることで、反応ガスと化学蓄熱材との間の反応(例えば、反応ガスとして水蒸気を流通する場合、水蒸気と化学蓄熱材との間の水和反応)が阻害されるのを防ぐことができる。
【0043】
なお、ここでの圧力損失は、反応ガスが流れるガス流路保持構造の、定常状態にある反応ガスのガス出口/入口間における圧力差をさす。
【0044】
<22> 前記<18>〜前記<21>のいずれか1つに記載の化学蓄熱器において、ガス流路保持構造の熱容量が、反応室全体の熱容量の10%以下である態様が好ましい。
【0045】
ガス流路保持構造の反応器全体における熱容量が10%以下に抑えられることで、反応時の発熱特性を低下させずに保つことができる。
【0046】
<23> 前記<17>〜前記<22>のいずれか1つに記載の化学蓄熱器において、更に、前記化学蓄熱材構造体との間で熱交換する熱交換器を備えた態様が好ましい。
【0047】
化学蓄熱材構造体との間で熱交換する熱交換器が隣接配置されることで、装置の小型化が図れると共に、反応ガスと化学蓄熱材との反応効率や反応速度がより高められる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、従来に比べて強度が高く、吸発熱での体積変化が生じた場合の破損(割れ等)、変形の発生が抑制された化学蓄熱材構造体及びその製造方法、並びに熱の利用特性に優れた化学蓄熱器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】焼成時の反応を温度毎に示す模式的に示す図である。
図2】実施形態に係る化学蓄熱器の概略構成を示す断面図である。
図3図2の化学蓄熱器に水蒸気を流入したときの動きを説明するための説明図である。
図4図2の化学蓄熱器の化学蓄熱材を昇温させたときの動きを説明するための説明図である。
図5】他の実施形態に係る化学蓄熱器の概略構成を示す断面図である。
図6】他の実施形態に係る化学蓄熱器の概略構成を示す断面図である。
図7】ガス流路保持構造を備えた他の実施形態に係る化学蓄熱器の概略構成を示す断面図である。
図8】ガス流路保持構造の一例を示す斜視図である。
図9】ガス流路保持構造の他の例を示す斜視図である。
図10】(a)は本発明の化学蓄熱材構造体の内部構造の一例を20000倍に拡大して示すSEM断面写真であり、(b)は本発明の化学蓄熱材構造体の内部構造の一例を40000倍に拡大して示すSEM断面写真である。
図11】粘土鉱物の配合比率[質量基準]が1%及び40%である場合の焼成前後におけるおよその成分構成を示す図である。
図12】化学蓄熱材が崩壊、小片化してガス流路が閉塞している様子を示す模式図である。
図13】本発明の構成と効果を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の化学蓄熱材構造体及びその製造方法、並びに化学蓄熱器について詳細に説明する。
<化学蓄熱材構造体>
本発明の化学蓄熱材構造体は、少なくとも、粒状の化学蓄熱材と、層リボン構造を有する粘土鉱物と、化学蓄熱材と粘土鉱物との反応生成物であって、アルカリ土類金属の少なくとも一種を含む金属複合シリケートとを含んで構成されている。本発明の化学蓄熱材構造体は、必要に応じて、さらに添加剤などの他の成分を用いて構成することができる。
【0051】
本発明においては、吸放熱を担う化学蓄熱材の成形物は一般に脆い。そのため、これに粘土鉱物を加えるとともに、加熱により両者間の反応で生成する金属複合シリケートを含ませた組成に構成する。この構成にすることで、従来に比べ、粒状の化学蓄熱材を固定化しやすく、構造体の構造強度を飛躍的に向上させることができる。具体的には、次のように推定される。
すなわち、反応生成される金属複合シリケートは、粘土鉱物の形状を受け継いで微視的には繊維状を有している。これが絡まり合って網目状に構成され、弾性変形性を示す多孔構造を形成する。このことにより、その内部に点在する化学蓄熱材の粒子が吸発熱反応を伴なって膨張・収縮しても、網目が弾性的に変形して体積変化を吸収し、構造体全体の体積変化、形状変形を軽減させる。そのため、構造体の割れ等の破損や変形の発生が抑制される。
【0052】
従来、化学蓄熱材と粘土鉱物を混合して350〜500℃の範囲で焼成することが行なわれていたが、このような焼成温度では、強度が不足し、例えば水和反応を繰り返すうちにその膨張・収縮で崩壊しやすく、結果として反応器内のガス流路(例えば水蒸気が流通する流路)が閉塞し、反応停止に至る傾向にあった。これに対して、
本発明においては、図13に示すように、化学蓄熱材と粘土鉱物を混合後、酸素含有雰囲気下で700〜800℃の高温域で焼成するようにし、化学蓄熱材と粘土鉱物とが反応して金属シリケートが生成されるようにすることで、従来よりも割れ等の破損や変形の発生を抑制することができる。このとき、粘土鉱物が比較的少ない系では、化学蓄熱材の量が相対的に多くなるため蓄熱量としては良好であるが、生成される金属シリケートが少なくなることで強度低下を来すおそれがあり、その場合には後述の実施形態に示すように、反応器に、化学蓄熱材の形状を保持すると共に、粒状や粉状の蓄熱材が生じたときにはこれら粒子でガス流路42が閉塞されないように保つガス流路保持構造を設けることで、長期での繰り返し使用が可能になる。
【0053】
−化学蓄熱材−
本発明の化学蓄熱材構造体は、粒状の化学蓄熱材の少なくとも1種を含有する。化学蓄熱材は、化学反応を利用して熱の吸収、放出を行うことのできる物質であり、構造体内部に粉体として存在させる。化学蓄熱材が粉状であるとは、粒子を含む粉末の状態をいう。
【0054】
化学蓄熱材としては、例えば、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化バリウム(Ba(OH))及びその水和物(Ba(OH)・HO)などのアルカリ土類金属の無機水酸化物や、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)などのアルカリ金属の無機水酸化物、酸化アルミニウム三水和物(Al・3HO)などの無機酸化物などを挙げることができる。中でも、脱水反応に伴なって吸熱し、水和反応に伴なって放熱する水和反応性蓄熱材が好ましく、特に水酸化カルシウム(Ca(OH))好ましい。
また、化学蓄熱材は、上市された市販品を用いてもよい。市販品の例として、近江鉱業(株)製のイブキライムNEO−1(Ca(OH))などを使用できる。
【0055】
粒状の化学蓄熱材の平均粒径としては、二次粒子径で50μm以下が好ましい。構造体内部に存在している化学蓄熱材の平均粒径が50μm以下であると、粘土鉱物との反応が起きやすく、反応生成物が得られやすい。そのため、より強固な多孔構造が得られる。中でも、平均粒径は、30μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましい。平均一次粒子径の下限については特に制限はない。
なお、平均粒径は、構造体を切断した切断面を走査型電子顕微鏡(例えば(株)日立ハイテクノロジーズ製;SEM)で観察して求められる値である。
【0056】
ここで、水酸化カルシウム(Ca(OH))を例に蓄熱と放熱について説明する。
化学蓄熱材であるCa(OH)は、脱水に伴なって蓄熱(吸熱)し、水和(水酸化カルシウムへの復原)に伴なって放熱(発熱)する構成となる。すなわち、Ca(OH)は、以下に示す反応により蓄熱、放熱を可逆的に繰り返することができる。
Ca(OH) ⇔ CaO + H
またこれに、蓄熱量、発熱量Qを併せて示すと、以下のようになる。
Ca(OH) + Q → CaO + H
CaO + HO → Ca(OH) + Q
【0057】
粒状の化学蓄熱材の粉体間には、後述の粘土鉱物が介在している。これにより、粘土鉱物が多孔の骨格構造をなし、その中に化学蓄熱材の粉体が分散保持された構造が形成されている。構造中、化学蓄熱材の粉体は分散状態で保持され、多孔により水蒸気の拡散性に優れているため、多くの粉体において上記反応を起こしやすいようになっている。
【0058】
化学蓄熱材の構造体中における含有量としては、体積比率では、構造体全体積に対して、20〜98体積%(構造体全質量に対して20〜98質量%)が好ましく、20〜80体積%(構造体全質量に対して20〜80質量%)がより好ましく、30〜70体積%(構造体全質量に対して30〜70質量%)が更に好ましい。化学蓄熱材の含有量が20体積%以上又は20質量%以上であると、吸発熱量を高く保つことができる。化学蓄熱材の含有量が98体積%以下又は98質量%以下であると、構造強度のより高い構造体が得られる。
【0059】
−粘土鉱物−
本発明の化学蓄熱材構造体は、層リボン構造を有する粘土鉱物の少なくとも1種を含有する。層リボン構造を有する粘土鉱物は、輝石に似た単鎖が複数本結合して四面体リボンを形成している粘土鉱物(層状珪酸塩鉱物)である。この粘土鉱物は、化学蓄熱材に粘度を与え、多孔構造を形成すると共に、構造体の構造強度を高く保つことができる。また、水蒸気の拡散性も付与できる。
【0060】
粘土鉱物としては、例えば、セピオライト〔MgSi1230(OH)・(OH・8HOで表される含水マグネシウム珪酸塩〕、アタパルジャイト〔パリゴルスカイト;=(Mg・AL)Si10(OH)・4HOで表されるパリゴルスカイト構造を有する含水珪酸マグネシウム、線径5μm以下〕、カオリナイト〔カオリン;=Al(Si)(OH)で表されるアルミニウム珪酸塩、線径1μm以下〕などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、粘土鉱物は上市された市販品を用いてもよく、市販品の例として、近江鉱業(株)製のトルコ産セピオライトなどを使用できる。
【0061】
層リボン構造を有する粘土鉱物は、これに属しない下記ベントナイトと比較し、シンタリング(凝集化)が少ない利点がある。特にセピオライトは、化学蓄熱材の脱水温度に近い温度で焼結され、該温度ではシンタリングによる比表面積の減少が少ない利点がある。
粘土鉱物は、このような利点を考慮して用途等に応じて適宜選択すればよい。
【0062】
本発明の化学蓄熱材構造体には、層リボン構造を有する粘土鉱物に属しないベントナイトを含んでもよく、粘土鉱物とベントナイトとを混合してもよい。ベントナイトは、層リボン構造を有する粘土鉱物と比較し、接着力が強い粘土鉱物であり、単体で(粘土鉱物と混合されない状態で)強固な多孔質構造を得ることができる。また、ベントナイトは、例えば金属壁への接合強度を向上することに寄与する。したがって、ベントナイトを用いた組成でも、化学蓄熱材の粉体間に細孔が形成された多孔質構造が得られる。
本発明においては、層リボン構造の粘土鉱物とベントナイトとを混合した粘土鉱物を粉状の化学蓄熱材と混合する構成であってもよい。この場合、ベントナイトの比率は、層リボン構造を有する粘土鉱物に対して10〜40質量%とするのが好ましい。
【0063】
粘土鉱物の構造体中における含有量としては、構造体全質量に対して、10〜40質量%の範囲が好ましく、25〜35質量%の範囲がより好ましい。粘土鉱物の含有量は、10質量以上であると、より高い構造強度が得られやすく、40質量%以下であると、より高い吸発熱量が得られやすい。
【0064】
−金属複合シリケート−
本発明の化学蓄熱材構造体は、金属複合シリケートの1種又は2種以上を含有する。化学蓄熱材に粘土鉱物を加えるだけでなく、金属複合シリケートを含めることにより、構造体としたときの構造強度が飛躍的に向上する。
【0065】
本発明における金属複合シリケートは、上記の化学蓄熱材と粘土鉱物とが反応することにより生成される反応生成物である。この金属複合シリケートは、化学蓄熱材及び粘土鉱物中に存在するアルカリ土類金属の1種又は2種以上を例えば酸化物の形態で含む複合シリケート化合物である。
【0066】
本発明の化学蓄熱材構造体は、使用する化学蓄熱材と粘土鉱物とが反応して生成される反応物としての金属複合シリケートを含む組成のほか、使用する化学蓄熱材と粘土鉱物とから直接生成される生成物ではない、すなわち例えば金属組成の異なる等の、他の金属複合シリケートを含ませて構成されてもよい。
【0067】
金属複合シリケートとしては、マグネシウムシリケート(例えば、メタケイ酸マグネシウム(MgSiO)、オルトケイ酸マグネシウム(MgSiO)、マグネシウムトリシリケート(MgSi)など)、カルシウムシリケート(CaSiO)、カルシウムマグネシウムシリケート、カルシウムアルミニウムシリケート、リチウムカルシウムシリケート、リチウムマグネシウムシリケート、等を挙げることができる。
【0068】
金属複合シリケートとしてカルシウムマグネシウムシリケートを含む場合、例えば、化学蓄熱材として水酸化カルシウムを用い、粘土鉱物としてセピオライトを用い、これらを混合し、混合した後に後述のように700℃以上800℃未満の温度領域で焼成する。このようにすることにより、シンタリングを起こさないようにカルシウムマグネシウムシリケートが生成し、水酸化カルシウム及びセピオライトと共に共存させることができる。このように本発明においては、混合状態にして焼成された際にこのような金属複合シリケートが生成されて、蓄熱材・粘土鉱物間に均一的に該シリケートを存在させ得る。このことにより、多数の孔ができて網目状(例:多孔質状)に構造化された構造体に、体積変化を吸収し得る弾性変形性を与え、吸発熱反応に耐える構造強度を高めることができる。
【0069】
金属複合シリケートの構造体中における含有量としては、構造体全質量に対して、2〜80質量%の範囲が好ましく、20〜80質量%の範囲がより好ましく、30〜70質量%の範囲が更に好ましい。金属複合シリケートの含有量は、2質量以上であると、弾性的変形挙動を示し、強度(例えば、吸発熱反応に伴なう体積変化の影響を緩和できる構造強度)が得られ、80質量%以下であると、吸発熱量の確保の点で有利である。
【0070】
本発明の化学蓄熱材構造体は、構造体全質量に含有される炭素濃度は、1質量%以下が好ましい。炭素濃度が1質量%以下である場合、例えば化学蓄熱材と粘土鉱物を反応させて作製する過程での炭酸塩(例えばCaCO3)の生成、含有量が抑えられている。そのため、吸発熱反応に耐える構造強度に優れている。
なお、炭素濃度が1質量%以下であることは、炭素を実質的に含まないことを示し、好ましくは炭素を含まない(炭素濃度=0(ゼロ)質量%)ことが望ましい。
【0071】
−他の成分−
本発明の化学蓄熱材構造体には、上記した成分以外に、場合により不可避的不純物や添加剤などの他の成分が含有されていてもよい。
【0072】
<化学蓄熱材構造体の製造方法>
本発明の化学蓄熱材構造体の作製は、化学蓄熱材及び粘土鉱物と共にこれらの反応生成物である金属複合シリケートを含有させることができる方法であれば、いずれの方法で作製されてもよい。中でも、吸発熱による割れ等の破損や変形を回避できる高い構造強度が得られる点から、後述する本発明の化学蓄熱材構造体の製造方法により作製されるのが好ましい。
【0073】
本発明の化学蓄熱材構造体の製造方法は、少なくとも、粉状の化学蓄熱材と層リボン構造を有する粘土鉱物とを混合し、化学蓄熱材の二次粒子径が50μm以下である混合物を調製し(以下、これを「混合工程」ともいう。)、得られた混合物を用いて成形し(以下、これを「成形工程」ともいう。)、成形された成形体を酸素含有雰囲気下、700℃以上800℃未満の温度領域で焼成する(以下、これを「焼成工程」ともいう。)構成としたものである。
【0074】
本発明においては、混合後の粉状の化学蓄熱材の平均一次粒子径が所定値以下に抑えられるように化学蓄熱材と粘土鉱物とを混合し、その混合物を酸素が存在する雰囲気下、700℃以上800℃未満の比較的高温の領域で焼成する。このことで、化学蓄熱材と粘土鉱物との反応を、化学蓄熱材が所定の粒径範囲を満たしてその偏在を抑えた混合状態のもとで起こさせるようにする。これにより、化学蓄熱材と粘土鉱物との反応が活発に進み、反応生成物である金属複合シリケートを、散りばめるように多く生成させることができる。しかも、シンタリングが起きず、体積膨張・収縮に耐える強い構造体が得られる。更には、その反応時に雰囲気中の炭素残留による反応阻害が防止されるので、所望とする構造強度を安定的に確保することができる。
【0075】
−混合工程−
本発明における混合工程は、粉状の化学蓄熱材と層リボン構造を有する粘土鉱物とを混合し、化学蓄熱材の二次粒子径が50μm以下である混合物(例えば混合粉体)を調製する。化学蓄熱材及び粘土鉱物の詳細については、既述の通りである。
【0076】
混合は、化学蓄熱材と粘土鉱物とを混ざり合わせることが可能であって、混合後の化学蓄熱材の二次粒子径が50μm以下になる方法であれば、特に制限はなく、場合に応じて適宜選択することができる。混合方法の具体例としては、
(1)粉体の化学蓄熱材と粉体の粘土鉱物とを乾式混合して混合粉体を調製する方法、
(2)化学蓄熱材と粘土鉱物とをともに粉砕することにより乾式混合して混合粉体を調製する方法、
(3)粉体の化学蓄熱材と粉体の粘土鉱物とをともに媒質中に分散懸濁して湿式混合し、濾過や乾燥等で乾粉化して混合粉体を調製する方法、
(4)化学蓄熱材を媒質に分散懸濁した蓄熱材懸濁液と、粘土鉱物を媒質に分散懸濁した粘土鉱物懸濁液とを湿式混合し、濾過や乾燥等で乾粉化して混合粉体を調製する方法(以下、湿式混合法ともいう。)、
等を挙げることができる。
【0077】
混合方法の中でも、前記(4)湿式混合法が好適である。化学蓄熱材の粉体と粘土鉱物の粉体とを混ぜ合わせる際、いずれの原料粉末も一次粒子が凝集して粗大な二次粒子を形成している。そのため、そのまま混合すると、相互の接触面積が少ないために反応生成物の生成が少なく、構造体強度が低くなりやすい。これに対し、前記湿式混合法によると、それぞれの懸濁液の調製時に攪拌により二次粒子が解粋され、化学蓄熱材、粘土鉱物それぞれの粉体中の粗大粒子が少なく、平均での一次粒子径の小さい粉体同士を混ぜ合わせることができる。そのため、相互の接触面積が高くなり、反応生成物が多く生成されて構造体強度を向上させることができる。
【0078】
前記湿式混合法では、粉体の化学蓄熱材又は粘土鉱物を、それぞれ別々の媒質中に加えて撹拌等し、媒質中に分散された懸濁液をそれぞれ得た後、これら懸濁液を混合する。あらかじめ各粉体をそれぞれ別個に懸濁してから混ぜ合わせる。このことで、平均での一次粒子径の小さい化学蓄熱材の粉体が粘土鉱物の隅々に行き渡り、最終的に得られる混合粉体の混合状態を安定的に均一化することができる。これは、焼成時に反応生成物を多く生成する上で有効となる。
【0079】
分散は、公知の分散機、攪拌機を適宜選択し、分散条件を調節することで行なえる。
媒質としては、分散質の分散が可能で濾過や加熱等により除去可能な液体を採用することができる。媒質は、例えば、水、溶剤、又はこれらの混合溶媒などを使用できる。
【0080】
混合時には、化学蓄熱材又は粘土鉱物とともに、バインダー、消泡剤、カルボキシメチルセルロース(CMC)等などの他の成分が混入されてもよい。例えば懸濁液を得る際は、バインダーを混入すると、分散性の向上や分散状態の保持などを図ることができる。
前記バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)などを使用できる。
【0081】
本発明においては、混合物中における化学蓄熱材の二次粒子径を50μm以下とする。化学蓄熱材の二次粒子径が50μmを超えると、焼成時の反応生成物(金属複合シリケート)の生成が少なくなり、成形後の構造強度が低下する。反応生成物の生成性をより向上させる観点から、化学蓄熱材の二次粒子径は、30μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。平均一次粒子径の下限については特に制限はない。
【0082】
なお、平均粒径は、構造体を切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡(例えば(株)日立ハイテクノロジーズ製のSEM)で観察して求められる値である。
【0083】
化学蓄熱材を分散懸濁した蓄熱材懸濁液を調製する場合、化学蓄熱材の濃度は、蓄熱材懸濁液全質量に対して、1〜30質量部の範囲であるのが好ましく、5〜15質量部の範囲であるのがより好ましい。化学蓄熱材の濃度が前記範囲内であることで、攪拌が容易で均一に懸濁化しやすく、作業効率の点で有利である。
【0084】
粘土鉱物を分散懸濁した粘土鉱物懸濁液を調製する場合、粘土鉱物の濃度は、懸濁液全質量に対して、1〜10質量%の範囲であるのが好ましく、3〜7質量%の範囲であるのがより好ましい。粘土鉱物の濃度が前記範囲にあるときに、液粘度は増粘限界近傍にあり、攪拌が良好に行なえる点で有利である。増粘限界近傍で分散懸濁することで、ミクロ繊維状を呈する粘土鉱物の網目化が促進され、化学蓄熱材が分散した多孔構造を得やすい。また、弾性変形性を付与できる。これにより、弾性的変形挙動を示すので、吸発熱反応に伴なう体積変化による化学蓄熱材構造体の割れ等の破損、及び変形をより抑制することができる。
【0085】
また、粘土鉱物懸濁液の調製に際しては、粘土鉱物を媒質中に加えた後、撹拌せずにエージング(静置)処理を施すこと(懸濁液調製工程ともいう)が好ましい。撹拌に代えてエージングすると、繊維を切らずに解きほぐすことができる。また、粘土鉱物による網目構造の強度をより向上させることが可能である。エージング処理は、粘土鉱物の媒質への添加後、0℃〜40℃下で50時間以上行なうのが好ましく、10℃〜30℃下で100時間以上行なうのがより好ましい。
【0086】
また、化学蓄熱材と粘土鉱物との混合比率としては、化学蓄熱材及び粘土鉱物の合計質量に対して、粘土鉱物の含有割合が1〜40質量%の範囲が好ましく、25〜35質量%の範囲がより好ましい。粘土鉱物の含有比率は、1質量%以上の少なすぎない範囲内であると、強度が保たれ、例えば水和反応で膨張等しても崩壊し難くなり、また40質量%以下の多すぎない範囲であることで、相対的に化学蓄熱材が少なくなり過ぎず、蓄熱量を高く保持することができる。
【0087】
懸濁液を調製して化学蓄熱材と粘土鉱物とを混合した後は、後述の成形にそなえ、混合粉(好ましくは造粒粉)とすることが好ましい。混合後に混合粉を得る方法としては、吸引ろ過などによる方法が挙げられる。
得られた造粒粉の二次粒子径としては、1mm以下が好ましく、100μm程度がより好ましく、更には50〜150μmが好ましい。二次粒子径は、小さ過ぎない範囲にすることで流動性が保て、大き過ぎない範囲とすることで薄肉での成形性を保持することができる。
【0088】
また、混合後の造粒粉は、水分率を超音波加湿や乾燥器などを使用して調整することが好ましい。造粒粉の最適な水分率は、粘度の割合によって大きく変化し、粘土の割合が高いほど水分率を高くする必要があり、水分率を全質量の1〜20質量%に調整されることが好ましい。造粒粉の水分率は、低過ぎない範囲にすることで、成形工程での成形性が良好になり、高過ぎない範囲に抑えることで、流動性を良好に維持することができる。
【0089】
−成形工程−
本発明における成形工程は、前記混合工程で得られた混合物(好ましくは混合粉、更には造粒粉)を用いて成形する。成形時には、水分が蒸発しない程度であれば、加熱を行なってもよい。
【0090】
成形方法については、特に制限はなく、従来公知の成形方法を目的等に応じて選択すればよい。成形方法の例として、プレス板等を用いたプレス成形や、金型等の型を用いて成形加工する方法などを適用することができる。
【0091】
成形条件は、常温下、40〜80MPaの圧力で1〜30秒間の加圧条件とすることが好ましい。このとき、被成形物である混合物(好ましくは造粒粉)の量は体積で15〜20mlが好ましい。
【0092】
−焼成工程−
本発明における焼成工程は、前記成形工程で成形された成形体を酸素含有雰囲気下、700℃以上800℃未満の温度領域で焼成する。
【0093】
焼成は、酸素含有雰囲気下で行なう。酸素含有雰囲気下で行なうことで、混合工程等で混入される等して、構造体中に含有されているバインダーや粘土鉱物由来の有機物などを燃焼し、水分(H2O)と二酸化炭素(CO2;以下、COと略記することがある。)に分解する。これにより、焼成雰囲気中での化学蓄熱材の炭酸化(例:Ca含有の化学蓄熱材ではCaCO3の生成)を抑制することができる。すなわち、炭素の残留が化学蓄熱材の炭酸化を招くが、炭素の酸化を促して炭酸化を抑制する。このことにより、化学蓄熱材と粘土鉱物との間の反応阻害が防止され、蓄熱量、及び構造体の構造強度を向上させることができる。
【0094】
酸素含有雰囲気は、酸素濃度が10%以上の雰囲気であり、酸素濃度が15%以上の雰囲気が好ましい。酸素濃度の上限については特に制限はない。例えば、酸素含有雰囲気は、大気雰囲気であってもよい。雰囲気中への酸素の導入は、焼成時の加熱開始後の炭酸化抑制の点から、焼成時の加熱開始時点から行なうのが好ましく、更には焼成終了後、後述の冷却工程に至るまで存在していることが望ましい。
酸素濃度が不足しないように10%以上とすることで、添加剤等の燃焼が充分に行なわれて炭素の残存が抑制される。これにより、金属シリケートの生成反応が良好に進み、強度を発現させることができる。
【0095】
本発明における焼成は、700℃以上800℃未満の温度領域で行なう。例えば、化学蓄熱材として水酸化カルシウムを用い、粘土鉱物としてセピオライトを用いた場合、水酸化カルシウムの脱水反応で生じたCaOとセピオライトが1:1程度(質量比)で反応し、メルビナイト(3CaO・MgO・2SiO;金属複合シリケート)が生成する。
なお、この温度領域は、焼成を行なう雰囲気の温度範囲をさし、雰囲気温度を計測し、雰囲気温度の調節により調整される。
【0096】
焼成温度は、700℃未満であると、化学蓄熱材由来の分解物(例えば水酸化カルシウムの場合、Ca(OH)2→ CaO + H2Oの脱水反応で生じるCaO)と粘土鉱物とが反応し難く、構造体の構造強度の向上が期待できない。また、焼成温度が800℃を超えると、シンタリングを起こして結晶粒が粗大化し、生成される生成物の量が少なく、構造体の構造強度の向上が期待できない。前記温度範囲の中でも、シンタリングのおそれを低減し、化学蓄熱材と粘土鉱物との間の反応生成物の生成性を保って構造体の構造強度を確保する点で、730℃以上780℃以下の範囲がより好適である。
【0097】
焼成時間は、焼成温度、スケール、化学蓄熱材や粘土鉱物の種類、混合比率などの諸条件に応じて適宜選択すればよい。本発明においては、700℃以上800℃未満の温度領域において、15分〜60分間(更には15分〜45分間)行なう態様が好ましい。焼成時間が15分以上であると、構造体の強度をより効果的に高めるのに必要な反応生成物(金属複合シリケート)が得られる。また、焼成時間が60分以下であることで、シンタリングによる粒子粒の粗大化を防ぎ、構造体の強度の向上効果が高い。
中でも、前記同様に理由から、730℃以上780℃以下の温度領域で20分〜40分間行なう態様がより好ましい。
【0098】
焼成時の昇温速度は、40℃/分以上の範囲であることが好ましい。昇温速度が40℃/分以上であると、バインダーや粘土鉱物由来の有機物などの燃焼で生じたCOと化学蓄熱材との反応を少なく抑制することができる。昇温速度があまり遅い場合、バインダーや粘土鉱物由来の有機物などの燃焼で生じたCOが未脱水の化学蓄熱材(例えばCa(OH)2)と反応して生成する炭酸塩(例えばCaCO3)の量が多くなる。その後にそれより高い温度で炭酸塩の分解(例えば500℃付近でCaCOの分解:CaCO3→CaO+CO2)が生じてもその分解が不充分となって炭酸塩(例えばCaCO3)が残留する。その結果として、構造体の強度が不足し、崩壊や化学蓄熱材の密度低下を生じやすくなるが、昇温速度を40℃/分以上に保つことで回避できる。
焼成時の昇温速度は、速いほど化学蓄熱材の炭酸化が防げるため好ましく、100℃/分以上とするのがより好ましく、150℃/分以上とするのが特に好ましい。昇温速度には、特に上限はない。
【0099】
また、昇温速度は、炭酸塩(例えばCaCO3)の分解が生じる温度近傍(例えばCaCO3では500℃付近)を跨いで調整することも好ましい。すなわち、炭酸塩の分解反応が起こる分解温度(例えばCaCO3では500℃付近)まではCOとの反応で炭酸塩(例えばCaCO3)の量が多くなりやすい。そのため、昇温速度を40℃/分以上を想定し、例えば炭酸塩の分解温度(例えばCaCO3では500℃)に達するまでに要する時間を制限し、分解温度(例えばCaCO3では500℃)に達した後(>500℃)は所望の加熱条件に切り替えるようにしてもよい。
【0100】
焼成工程では、焼成された前記成形体(構造体)を冷却すること(以下、冷却工程ともいう)が好ましい。焼成時の降温速度は、20℃/分以上の範囲であることが好ましい。降温速度が20℃/分以上であると、冷却する過程で雰囲気中の水分と化学蓄熱材由来の分解物(例えばCa(OH)2→ CaO + H2Oの脱水反応で生じるCaO)との反応が起きにくく、水酸化物(Ca(OH)2)となりにくいため、これに雰囲気中のCOが反応することによる炭酸塩(例えばCaCO3)の生成も抑えられる。これより、構造体の強度を高く保つことができ、崩壊や化学蓄熱材の密度低下を防ぐことができる。
本発明において、降温速度は、焼成温度から50℃までの平均冷却速度をいう。
【0101】
焼成時の降温速度は、速いほど化学蓄熱材の炭酸化が防げるため好ましく、焼成温度(700℃以上800℃未満)から50℃までの降温速度を20℃/分以上に調整することがより好ましい。降温速度としては、100℃/分以上が好ましく、150℃/分以上であるのが特に好ましい。降温速度には、特に上限はない。
また、前記昇温速度を想定した場合、焼成温度から50℃に達するまでに要する時間が30分以内となる速度で冷却する態様が好ましい。
【0102】
具体的な好ましい例として、Ca含有の化学蓄熱材を用いる場合には、加熱開始から雰囲気温度500℃までの所要時間を10分以内として昇温した後、700℃以上800℃未満の温度領域で(好ましくは15〜45分間)焼成し、その後は焼成温度から50℃までの所要時間を30分以内として降温する態様が好ましい。
【0103】
ここで、化学蓄熱材として水酸化カルシウムを、粘土鉱物としてセピオライトを用いて焼成する場合を一例に、反応の詳細を示す。
図1に示すように、約200℃以上で添加剤や粘土鉱物中の有機物の燃焼が開始され、水分とCOが発生する。ここで発生するCOで化学蓄熱材は一部炭酸化されやすくなる。焼成工程において、加熱を開始して約400℃から、下記の脱水反応が開始し、酸化物が生成される。
Ca(OH) → CaO + H
これと並行して、雰囲気中の酸素との反応によりバインダーや粘土鉱物由来の有機物などが燃焼し、HOとCOが発生する。このとき、Ca(OH)が存在していると、50℃未満では下記反応が進行してCaCOが生成する。
Ca(OH) + CO → CaCO + H
次に、約500℃以上では、化学蓄熱材中の炭酸塩が脱炭酸するようになり、例えばCaCOは約600℃以上で分解し、CaOとCOになる。また、セピオライト由来の有機物が燃焼してHOとCOが発生する。
そして約700℃以上では、化学蓄熱材と粘土鉱物との反応が進行するため、例えばCaOとセピオライトが質量比1:1程度で反応し、メルビナイト(3CaO・MgO・2SiO;金属複合シリケート)が生成する。このメルビナイトがCa(OH)及びセピオライトと共存することにより、構造体の強度が向上し、吸発熱反応による体積変化が生じても割れ等の破損、変形の発生が効果的に防止される。
このように、金属シリケートが生成されることで、焼成後の強度が飛躍的に向上する。
【0104】
<化学蓄熱器>
本発明の化学蓄熱器は、既述の本発明の化学蓄熱材構造体と、反応ガスが流通し、流通する反応ガスが化学蓄熱材構造体と接触するように設けられたガス流路とを設けて構成されている。
【0105】
以下、本発明の化学蓄熱器の実施形態を図2図7を参照して説明する。なお、反応ガスの例として水蒸気を用いた場合を示す。この場合、化学蓄熱材としてはアルカリ土類金属の水酸化物等の無機水酸化物が好ましい。
【0106】
図2は、板状の化学蓄熱材の一方面にガス流路が設けられた態様を示している。
本実施形態の化学蓄熱器10は、図2に示すように、反応器11の内部に、反応器11の内壁に接触させて配置された板状の化学蓄熱材14と、水蒸気を給排し、化学蓄熱材14の反応器内壁と接していない側の一方面に水蒸気を接触させるガス流路12とが設けられている。ガス流路12は、真空密閉されており、水蒸気のみが流通可能なようになっている。化学蓄熱材14のガス流路12が設けられている側と反対側には、壁を介して熱交換器16が配設されている。熱交換器16は、配管中に熱媒を流通して熱媒との間で熱交換を行なえるようになっている。
熱媒としては、エタノール等のアルコール、水、油類、これらの混合物等、熱媒体として一般に用いられる流体を用いることができる。
【0107】
反応器は、熱伝導性や耐食性の高い金属で形成されていることが好ましい。反応器の形状については、特に制限はないが、化学蓄熱剤の形状で決定すればよい。例えば、化学蓄熱材の形状が板状である場合は反応器は直方体が適し、化学蓄熱材の形状が円筒形である場合は反応器は円筒体が適している。
【0108】
具体的には、化学蓄熱材として例えば水酸化カルシウムを用いた場合、まず反応器11内に配置された焼成後の酸化カルシウム(CaO)に対し、図3に示すように、ガス流路12に水蒸気が供給されると、下記の反応が進行し、発熱する。
CaO + HO → Ca(OH) + Q
このとき、熱交換器16内を流通する熱媒が化学蓄熱材14との間で熱交換し、化学蓄熱材の温度を所定温度以下に保つことで、前記反応を効率良く進行し、蓄熱効率がより向上する。なお、熱交換器16に流入した熱媒は、昇温して流出される。
逆に、反応器11内に水酸化カルシウム(Ca(OH))が存在する状況では、図4に示すように、脱水反応に必要な熱量Q以上に昇温された熱媒が熱交換器16に流入することで、下記の反応式に示す脱水反応が進行し、水蒸気が排出されると共に、熱媒による昇温で反応が効率良く進行し、熱交換器16に流入した熱媒は、流入時より降温して流出されることになる。
Ca(OH) + Q → CaO + H
【0109】
他の実施形態として、図5に示すように、2つの板状の化学蓄熱材の間にガス流路を配置した構造を、2つの熱交換器で挟んだ態様であってもよい。
この実施形態の化学蓄熱器20では、反応器21の内部に、水蒸気を給排するガス流路12と、反応器21の内壁に接触させてガス流路12を挟むように配置された2つの板状の化学蓄熱材14a、14bとが設けられ、化学蓄熱材14a、14bの内壁と接していない側の一方面に水蒸気が接触して前記反応が行なえるようになっている。化学蓄熱材14a、14bのガス流路12が設けられている側と反対側には、壁を介してそれぞれ熱交換器16a、16bが配設されている。熱交換器16a、16bは、配管中に熱媒を流通して、熱媒との間でそれぞれ熱交換できるようになっている。
【0110】
さらに他の態様として、図6に示すように、2つの板状の化学蓄熱材の間にガス流路を配置した構造と、化学蓄熱材との熱交換する熱交換器とがそれぞれ交互に配置された態様であってもよい。
この実施形態の化学蓄熱器30では、反応器31の内部に、水蒸気を給排するガス流路12と、反応器31の内壁に接触させてガス流路12を挟むように配置された2つの板状の化学蓄熱材14a、14bとが設けられ、化学蓄熱材14a、14bの内壁と接していない側の一方面に水蒸気が接触して前記反応が行なえるようになっている。化学蓄熱材14a、14bのガス流路12が設けられている側と反対側には、壁を介してそれぞれ熱交換器16a、16b、16cが配設されている。熱交換器16a、16b、16cは、配管中に熱媒を流通して、熱媒との間でそれぞれ熱交換できるようになっている。
【0111】
また、別の態様として、図7は、板状の化学蓄熱材の一方面に、化学蓄熱材構造体の形状を保持するとともにガス流路を確保するガス流路保持構造を設けて形成されたガス流路を備えた態様を示している。
図7に示す化学蓄熱器40では、反応器41の内部に、反応器41の内壁に接触させて配置された板状の化学蓄熱材14と、水蒸気を給排するガス流路42とが設けられている。ガス流路42は、ガスの透過が可能な多孔性プレートとしてステンレス鋼製の細孔網を設けて形成されている。この細孔網は、化学蓄熱材14の内壁と接していない側の一方面にあてて固定され、そのろ過精度は化学蓄熱材14中の粒子の平均粒子径より小さく、熱膨張や収縮に伴なう化学蓄熱材構造体の崩壊や変形を防ぐと共に、粒状や粉状の蓄熱材が生じたときにはこれら粒子でガス流路42が閉塞されない構成になっている。また、この細孔網は多孔質状であり、流入した水蒸気を化学蓄熱材12に接触させることができる。
【0112】
ろ過精度(E)は、メーカー等で異なるが、除去効率が50〜98%程度となる粒子径のことをさし、例えば、ろ過精度が100μmの構造体は粒径100μmの粒子を50〜98%程度除去可能なことをいう。ろ過精度は、球形のラテックスビーズ又は試験用ダストを分散させた液体を、被検フィルタを通過させ、通過前後の液をサンプリングして各粒子径の粒子数を測定し、下記式に準じて求められる。
E[%]={(IN−OUT)×IN}×100
〔IN:フィルタ通過前の粒子数、OUT:フィルタ通過後の粒子数〕
【0113】
ガス流路保持構造は、そのろ過精度が化学蓄熱材構造体を構成する粒子の平均粒子径より小さいものが好ましい。ここでの平均粒子径は、造粒粉の二次粒子径であり、レーザー回折散乱法などの一般的な粒径測定法により求められる値である。本発明においては、平均粒子径とろ過精度との差が10〜50μmである場合がより好ましい。
【0114】
ガス流路保持構造は、化学蓄熱材構造体に接してその形状を保持すると共に成形された化学蓄熱材が崩れて粒状や粉状の蓄熱材が生じた際にこれら粒子でガス流路が閉塞されないように確保するものである。具体的には、細孔を有する細孔網等の網材やメッシュフィルタなどの多孔性プレートや、正弦曲線(サインカーブ)状の波形、周期的な鋭角の折り曲げ部を表裏交互に設けたギザギザ形などの凹凸プレートなどを用いて形成することができる。具体的な例として、図8に示すように、化学蓄熱材14の表面に細孔網44と断面がサインカーブ状の波形プレート46とをこの順で重ね、波形プレート46の凹部を通って流入した水蒸気が細孔網44を透過して化学蓄熱材と接触させる構造であってもよい。また、図5及び図6において、ガス流路12を、図9に示すようにステンレス鋼製の細孔網44と断面がサインカーブ状の波形プレート46とステンレス鋼製の細孔網48とを重ねたものを設けて形成し、波形プレート46の表裏の凹部を通って流入した水蒸気が細孔網44、48をそれぞれ透過して化学蓄熱材14a、14bと接触させる構造であってもよい。
【0115】
ガス流路保持構造は、圧力損失が10kPa以下であることが好ましい。圧力損失が10kPa以下であることで、反応ガスと化学蓄熱材との間の反応(例えば反応ガスとして水蒸気を流通する場合、水蒸気と化学蓄熱材との間の水和反応)が阻害されるのを防ぐことができる。前記圧力損失は小さいほど好ましいが、好ましくは5kPa以下である。
圧力損失は、ガスの流入口における圧力と、化学蓄熱材を設置する空間に化学蓄熱材を設置しない場合の、その空間における圧力とを測定し、その差により求められる。
【0116】
また、ガス流路保持構造の熱容量は、反応室全体の熱容量に対して10%以下であることが好ましい。熱容量を10%以下に抑えることで、反応時の発熱特性が低下しない。前記熱容量は小さいほど好ましいが、好ましくは5%以下である。
【0117】
ガス流路保持構造の圧縮強度は、化学蓄熱材構造体の膨張力より大きいことが好ましい。圧縮強度は、化学蓄熱材構造体が膨張するときの力(膨張力)に相当する圧縮荷重に対して構造体が耐えることができる最大の応力(最大荷重)をいい、その最大荷重を圧縮試験にかけた試験片の断面積で除算して求められる。
圧縮強度は、膨張力の1.2倍以上の範囲であることが好ましい。
【0118】
上記の実施形態では、熱交換器として、熱媒とこれを流通する熱交換管とを備えた循環系を用いた例を示したが、熱交換器としては、一般に用いられる
【0119】
本発明は、上記のように、化学蓄熱材が吸発熱反応に伴なう膨張・収縮を繰り返しても構造体の割れ等の破損や変形の発生が抑制され、また反応ガスが流通するガス流路が確保されているので、長期に亘り熱の蓄熱及び利用を安定的に行なえるシステムを構築することができる。
【実施例】
【0120】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0121】
(実施例1)
−混合粉の調製−
以下の手順により、化学蓄熱材の粉末とセピオライト粉末とを混合した混合粉懸濁液を調製した。
【0122】
(1)蓄熱材懸濁液の調製
化学蓄熱材として、近江鉱業(株)製のイブキライムNEO−1(消石灰;Ca(OH)=95質量%、CaCO=3質量%、不純物=2質量%、平均一次粒子径=10μm)を用意した。これを10%量(質量基準)となるようにイオン交換水と混合して、攪拌機により4分間攪拌することにより、化学蓄熱材の10質量%懸濁液を調製した。
【0123】
(2)セピオライト懸濁液の調製
粘土鉱物として、近江鉱業(株)製のミラクレー(登録商標)Pシリーズ トルコ産セピオライト粉末P−300(MgSi1230(OH)(OH・8HO;繊維状)を用意した。これをイオン交換水と混合して3質量%液とし、これを攪拌せずに2日間、エージング(静置)処理することにより、セピオライト懸濁液を調製した。このとき、セピオライトの混合量は、3質量%のときに増粘限界濃度を示した。増粘限界濃度は、セピオライトの濃度を増加させたときの粘度上昇の変化から求めた。
【0124】
(3)混合粉の作製
上記より得られた蓄熱材懸濁液とセピオライト懸濁液とを、セピオライト濃度が蓄熱材及びセピオライトの和の1質量%になるように混合し、攪拌機により30秒間、攪拌した。攪拌修了後、混合した懸濁液に対し吸引濾過を行なって、粉砕、乾燥して造粒し、造粒粉(混合粉)を得た。
得られた混合粉中のCa(OH)粉の平均一次粒子径を、(株)島津製作所製のSALD−2000Aを用いてレーザー回析散乱法により測定したところ、30μmであった。
上記より得た混合粉に、バインダーとしてポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール(株)製)の2質量%水溶液を上記混合粉の50質量%量添加した。このとき、二次粒子径が1mm以下となるように造粒し、乾燥させ、水分率を全質量の2質量%に調整した。
【0125】
−成形−
上記の造粒粉のうち、約15mlを秤量し、常温(25℃)下、44MPaで30秒間、一軸プレスを行なって成形した。そして、約64mm×28mm×3mmの成形体を作製した。
なお、二次粒子径は、成形体を所望サイズに切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して求めた。
【0126】
−焼成−
次いで、得られた成形体を大気雰囲気下、50℃/分の昇温速度にて加熱し、750℃で30分間保持、焼成した後、自然冷却した。このとき、降温速度は30℃/分であった。焼成は、大気雰囲気下で行なうことにより、バインダーや粘土鉱物中の有機物を完全に燃焼(HO及びCOの生成、Ca(OH)存在下では更に生成されたCaCOをHO及びCOに分解)させた。このようにすることにより、Caの炭酸化による化学蓄熱材と粘土鉱物との反応阻害を防止するようにした。
【0127】
以上のようにして、化学蓄熱材構造体を作製した。
上記で作製した化学蓄熱材構造体の一部を切り取った。その切り取り面を走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製;SEM)で撮影し、構造体内部の構造を観察した。図10は、実施例で作製した化学蓄熱材構造体の内部構造を示すSEM写真である。
図10に示されるように、構造体内部には、多数の孔を有する網目状の多孔構造が形成されていた。
【0128】
作製した化学蓄熱材構造体中の炭素濃度を燃焼法により測定した。その結果、炭素濃度は、構造体全質量の0.1質量%であった。
また、本実施例での粘土鉱物の混合比率が1質量%である場合、図11に示されるように、化学蓄熱材(酸化物)98質量%、及びメルビナイト(反応生成物;3CaO・MgO・2SiO;金属シリケート)の生成量2質量%となった。
【0129】
−評価−
焼成後の化学蓄熱材構造体について、下記の評価を行なった。評価結果は下記表1に示す。
(1.破損・変形)
作製した化学蓄熱材構造体を100℃に加熱し、これに50℃の飽和水蒸気を接触させて水和させた。このとき、構造体の割れ、変形の発生の有無を目視により観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:水和時の割れ及び変形はみられなかった。
B:水和時に僅かに変形がみられた。
C:水和時に割れ及び変形がみられた。
D:水和時の割れ及び変形の発生はともに著しかった。
E:水和時に破砕した。
【0130】
(実施例2〜4)
実施例1において、混合粉懸濁液の調製に用いたセピオライト懸濁液の混合割合を、セピオライト濃度が下記表1に示す割合になるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、化学蓄熱材構造体を作製した。また、構造体の内部構造の観察及び炭素濃度の測定を行なうと共に、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
なお、粘土鉱物の混合比率が40質量%である実施例4では、図11に示すように、化学蓄熱材(酸化物)20質量%、及びメルビナイト(金属シリケート)の生成量80質量%であった。
【0131】
(実施例5)
実施例3において、焼成時の温度を750℃から700℃に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、化学蓄熱材構造体を作製した。また、構造体の内部構造の観察及び炭素濃度の測定を行なうと共に、評価を行なった。測定、評価の結果は、下記表1に示す。
【0132】
(実施例6〜7)
実施例3において、750℃での焼成時間を30分から10分、60分にそれぞれ変更したこと以外は、実施例3と同様にして、化学蓄熱材構造体を作製した。また、構造体の内部構造の観察及び炭素濃度の測定を行なうと共に、評価を行なった。測定、評価の結果は、下記表1に示す。
【0133】
(実施例8〜12)
実施例3において、焼成時の昇温速度、降温速度を下記表1に示すようにそれぞれ変更したこと以外は、実施例3と同様にして、化学蓄熱材構造体を作製した。また、構造体の内部構造の観察及び炭素濃度の測定を行なうと共に、評価を行なった。測定、評価の結果は、下記表1に示す。
【0134】
(実施例13)
実施例1において、焼成時の温度を750℃から780℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、化学蓄熱材構造体を作製した。また、構造体の内部構造の観察及び炭素濃度の測定を行なうと共に、評価を行なった。測定、評価の結果は、下記表1に示す。
【0135】
(比較例1)
実施例3の「混合粉の調製」において、蓄熱材懸濁液とセピオライト懸濁液とを混合等して作製される混合粉中の化学蓄熱材の二次粒子径が100μmになるように調整したこと以外は、実施例3と同様にして、化学蓄熱材構造体を作製した。また、構造体の内部構造の観察及び炭素濃度の測定を行なうと共に、評価を行なった。測定、評価の結果は、下記表1に示す。
【0136】
(比較例2)
実施例3において、焼成を10−4MPa減圧下(酸素濃度200ppm以下の真空)にて行なったこと以外は、実施例3と同様にして、化学蓄熱材構造体を作製した。また、構造体の内部構造の観察及び炭素濃度の測定を行なうと共に、評価を行なった。測定、評価の結果は、下記表1に示す。
【0137】
(比較例3〜4)
実施例3において、焼成時の温度を750℃から800℃、600℃にそれぞれ変更したこと以外は、実施例3と同様にして、化学蓄熱材構造体を作製した。また、構造体の内部構造の観察及び炭素濃度の測定を行なうと共に、評価を行なった。測定、評価の結果は、下記表1に示す。
【0138】
(比較例5)
実施例1において、混合粉懸濁液の調製の際にセピオライト懸濁液を混合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、化学蓄熱材構造体を作製した。また、構造体の内部構造の観察及び炭素濃度の測定を行なうと共に、評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0139】
【表1】

【0140】
前記表1に示すように、実施例では、化学蓄熱材と粘土鉱物との反応生成物であるメルビナイトの生成が確認された。また、構造体内部には多孔質構造(網目状の構造)が形成されており、吸発熱に伴なう割れ等の破損や変形の発生を防止することができた。実施例1〜4に示されるように、粘土鉱物の含有比率が多いほど、崩壊し難くなった。
なお、焼成温度が低い又は焼成時間が短い場合(実施例5、6)、ある程度の強度は得られたものの、メルビナイトの生成量が少なくなった分、構造体の強度も低下した。逆に焼成時間が長い場合(実施例7)にも、シンタリングにより結晶粒が粗大化した分、構造体の強度が低下する傾向にあった。また、昇温速度又は降温速度を大幅に遅くした場合(実施例8,10)、昇温速度が遅すぎると炭酸化が生じ、また降温速度が遅すぎると水和が生じ、構造体強度が低下する傾向がみられた。焼成温度を780℃に上げた実施例13では、結晶粒の粗大化によりやや崩壊を起こし易くなった。
【0141】
これに対し、比較例1のように、化学蓄熱材の平均粒径が大きく粗粒であると、粘土鉱物との反応が起こりにくく、金属シリケートが生成せず、構造体強度が不足していた。この場合のように、構造体が崩壊してしまうと、図12に示すように小片化した。ガス流路を備えられている場合には、ガス流路が閉塞された。また、比較例2では、減圧して雰囲気中の酸素濃度が不充分であると、セピオライト由来の有機物の燃焼が不完全になり、セピオライト表面に炭素が残留した。メルビナイトの生成が阻害された結果、構造体強度が低下してしまった。焼成温度が高い場合(比較例3)には、シンタリングを起こして結晶粒が粗大化し、構造体の強度は低下した。逆に焼成温度が低い場合(比較例4)には、CaOとセピオライトが反応しないためにメルビナイト(金属シリケート)が生成せず、またセピオライトを用いない場合(比較例5)にもメルビナイトの生成はなく、したがっていずれの場合も、所望とする高強度は得られなかった。
【0142】
(実施例14、比較例6〜10)
実施例1及び比較例5で作製した化学蓄熱材構造体を用い、これを、図7に示す化学蓄熱器40の反応器41の化学蓄熱材14として配設した。ガス流路42には、図8に示す化学蓄熱材構造体、すなわち化学蓄熱材14の側から順に細孔網44と断面がサインカーブ状の波形プレート46とを重ねて構成されたガス流路保持構造を配置した。
ガス流路保持構造の各特性は以下の通りである。
[実施例1の化学蓄熱材構造体]
・膨張力:4MPa
・造粒粉の平均粒子径:100μm
[比較例5の化学蓄熱材構造体]
・膨張力:6MPa
・造粒粉の平均粒子径:100μm
【0143】
−評価−
ガス流路保持構造を備えた各化学蓄熱器について、下記の評価を行なった。評価結果は下記表2に示す。
【0144】
(2.流路確保性)
化学蓄熱器内の化学蓄熱材構造体を100℃に加熱し、これに50℃の飽和水蒸気を接触させて水和させた。このとき、構造体が割れ、変形を起して崩れたときのガス流路の状態を目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:水和時の割れ及び変形で僅かに粒状や粉状の蓄熱材が発生したが、ガス流路に影響はなかった。
B:水和時の割れ及び変形で発生した粒状や粉状の蓄熱材がガス流路に入り込んだが、閉塞されるには至らなかった。
C:水和時の割れ及び変形で粒状や粉状の蓄熱材が多く発生し、流路を確保できなかった。
【0145】
(3.発熱特性)
化学蓄熱器の熱交換器に流入した熱媒の温度と、化学蓄熱材と熱交換した後に管外に流出した熱媒の温度とを計測し、その温度差を指標に下記の評価基準にしたがって発熱特性を評価した。
<評価基準>
A:熱媒の昇温が大きく(30℃以上)、良好な発熱特性を示した。
B:熱媒の昇温が比較的大きく(10℃以上30℃未満)、実用上許容される発熱特性を示した。
C:熱媒の昇温が低く(10℃未満)、発熱特性に劣っていた。
【0146】
【表2】

【0147】
表2に示すように、実施例14では、ガス流路が確保され、良好な発熱特性を示した。
これに対し、比較例5の化学蓄熱材構造体を用いた比較例6では、前記表1に示すように、水和時の破損や変形が起きやすいものの、ガス流路保持構造を設けたことで、ガス流路が確保され、比較的良好な発熱特性を示した。また、ガス流路保持構造を設けたものの、圧縮強度が蓄熱材の膨張力より小さい比較例7では、蓄熱材の水和膨張によりガス流路保持構造が変形し、ガス流路を確保できなかった。同様に、ろ過精度が蓄熱材造粒粉の平均粒子径より大きい比較例8では、崩壊した蓄熱材粉によりガス流路保持構造の内部が閉塞してしまい、また、圧力損失が10KPaを超えるガス流路保持構造を用いた比較例9では、流路は確保されたものの、蓄熱材まで到達する水蒸気の量が減り、発熱特性が著しく低下した。また、反応器全体に対する熱容量が10%を超えるガス流路保持構造を用いた比較例10では、ガス流路は確保されたが、水和による発熱量の一部がガス流路保持構造の昇温に費やされ、結果として発熱特性は著しく低下した。
【0148】
日本出願2010−069986の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13