【実施例】
【0074】
(実施例1:Papilionanthe teres抽出物)
ラン:Papilionanthe teresの各部分を分析して、該植物の各部分におけるバンダテロシドの有無を検出し、その含有量を測定する。
【0075】
ラン:Papilionanthe teres(中国、Tian Zi原産)の茎(実施例1.1及び1.2)、根(実施例1.3)又は葉(実施例1.4)からなる乾燥植物原料(PM)100gを抽出工程の前にすり潰す。
【0076】
(実施例1.1:Papilionanthe teresの茎の水/アルコール抽出物)
乾燥PMの水/アルコール全抽出物(エタノール(EtOH)/水=90/10(v/v)、PM/溶媒比=1/15)を還流下(30分、80℃)で調製する。このようにして得た全抽出物の重量収率(抽出物重量/乾燥PM重量)は12.8%である。
【0077】
(実施例1.2:Papilionanthe teresの茎のメタノール抽出物)
実施例1.1よりも特異的なソックスレー抽出(Soxtec Avanti 2055装置)を用いれば、三種類の溶媒、すなわちシクロヘキサン(45分、180℃)、ジクロロメタン(1回目:45分、180℃、2回目:続いて30分、180℃)及びメタノール(MeOH)(45分、180℃で2回)を極性を漸増させるように連続的に使用して乾燥PMを使い果たすことができる。
【0078】
このようにして得たバンダテロシドを濃縮したメタノール抽出物の重量収率(抽出物重量/乾燥PM重量)は6.9%である。
【0079】
(実施例1.3:Papilionanthe teresの根の水/アルコール抽出物)
水/アルコール全抽出物を以下の条件:EtOH/水=90/10、PM/溶媒比=1/15で調製する。抽出物は還流下(30分、80℃)で調製する。根抽出物について得られた重量収率は14.8%である。
【0080】
(実施例1.4:Papilionanthe teresの葉の水/アルコール抽出物)
水/アルコール全抽出物を以下の条件:EtOH/水=90/10、すり潰した乾燥PM/溶媒比=1/15で調製する。抽出物は還流下(30分、80℃)で調製する。葉抽出物について得られた重量収率は15.0%である。
【0081】
これらの抽出物(実施例1.1〜1.4)を実施例2に記載した条件で分析(分画、単離)して、単離及び構造解析後に式(I)の化合物3種、すなわちVT1、VT2及びVT3の存在を確認する。各抽出物及び画分の濃度を実施例2.1の方法に従ってRP−HPLCで外部校正により測定する。すなわち、単離化合物VT1、VT2及びVT3それぞれの段階希釈液を調製して検量線を決定する。
【0082】
結果を以下の表1に示す(
図5も参照)。
【0083】
【表1】
【0084】
(結論)
これらの分析から、以下のことが分かった。
・バンダテロシドVT1、VT2及びVT3は、Papilionanthe teres植物の全部位(茎、葉及び根)に存在する。
・Papilionanthe teresの根の抽出物にはVT2が集中し、その含有量は茎又は葉の水−アルコール抽出物中の1.8倍になっている。
【0085】
(実施例2:バンダテロシドが特異的に濃縮された抽出物)
単離及び構造解析後、上記実施例1に従って得られた抽出物を選択し、サイズ分画工程を行って、式(I)の各化合物、すなわちVT1、VT2及びVT3について、これらの抽出物を特異的に濃縮する。
【0086】
(実施例2.1:ゲルカラムクロマトグラフィーによる分画)
実施例1.2で得られたメタノール抽出物をSephadex LH20ゲル(LH20−100、Sigma)(28×180mm)のカラムで極性溶媒の勾配(水100%→メタノール100%に変化、流量:1ml/分)を用いて分画する。
【0087】
このメタノール抽出物1gを水/メタノール混合物(v/v=50/50)で希釈し、Sephadexゲル30gに載せる。サイズ及び溶出溶媒への溶解度に従って極性分子を分離する。
【0088】
10mlの画分が20個が得られ、これらを薄層クロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/酢酸/ギ酸/水(v/v/v/v=100/11/11/26)、担体:60F
254シリカゲル(0.25mm、MERCK)、発色剤:Vanillin(Merck)−H
2SO
4(97%、Fluka)5%)にかけ、得られたプロファイルが類似するものをあわせて、最終的に10画分とする。
【0089】
逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)分析は、最初の10画分のうち、全抽出物中に含まれる式(I)の化合物が集中する画分を同定することを目的とする。
【0090】
RP−HPLC分析は、ポンプ(Prostar 230)及びダイオードアレイ検出器(Prostar 330)を備えたNucleodur C
18ecカラム(5μm、250mm×内径4.6mm)を有するクロマトグラフ(Varian)を用いて行う。MeOH/(水+0.1%ギ酸(HCO
2H))混合液を溶出溶媒として使用し、流量1ml/分で、20%MeOHで開始して47%まで13.5分かけて上昇させた後、47%MeOHで10分間保持し、最終的に47%MeOHから100%まで10分かけて上昇させる直線勾配とする。画分は、波長200〜400nmで可視化する。
【0091】
178mgの画分A及び39.5mgの画分Bを回収する。
【0092】
(実施例2.2:式(I)の化合物の単離)
実施例2.1で選択した2つの画分A及びBを用いて本発明の化合物を精製し、実施例2.1の各画分中の該化合物の定量を行う。
【0093】
グラジエントポンプ(Gilson 322)、UV検出器(Gilson UV−VIS 151)及びNucleodur C18ecカラム(5μm、250mm×内径21mm)を備えたGilsonクロマトグラフを用いたセミ分取HPLCによって、選択した2つの画分それぞれから式(I)の化合物(VT1、VT2及びVT3)を単離する。各画分をMeOH中、30mg/mlで調製した後、ろ過する(Minisart RC15フィルタ、0.45μm)。溶出条件は、MeOH/(水+0.1%HCO
2H)混合液で以下の条件とする:13.5分かけて20→47%MeOH、47%MeOHで10分間、更に5分かけて20%に戻す;流量14ml/分。205nmで検出する。
【0094】
セミ分取HPLCで画分Aを精製した後、VT1化合物64mg及びVT2化合物112mgを回収する。
【0095】
同様の方法で画分Bを精製した後、VT3化合物20mgを回収する。
【0096】
各画分A及びB中並びに画分(A+B)中のVT1、VT2及びVT3化合物の各含有量並びに合計含有量(VT1+VT2+VT3)を表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
(結論)
画分A及びBはそれぞれ、50重量%を超える式(I)の化合物で構成されているため、本発明の主題である式(I)の化合物が特異的に濃縮された抽出物であると言える。
【0099】
また、これら2つの画分を組み合わせて単一の画分(A+B)にすることもでき、これも本発明の特異的に濃縮された抽出物の一例である。このように組み合わせることで、同定された3つの化合物(VT1、VT2及びVT3)をそれぞれ含み、その全含有量が乾燥抽出物中90重量%である抽出物が得られる。
【0100】
従って、これらの抽出物はそれぞれ化粧品組成物又は皮膚科学的組成物において化粧品有効成分又は皮膚科学的有効成分として使用できる。
【0101】
(実施例3:式(I)の化合物の構造解析)
ラン:Papilionanthe teres(実施例1.2)のPMから抽出した後、サイズ分画及びRP−HPLCにより単離した式(I)の化合物の構造を解析するには、一連のスペクトル技術が必要である。
【0102】
(機材)
(質量分析(MS))
ESI源を備えたAgilent 6520 Accurate Mass QTOF質量分析計に接続され、且つ、Supelco Discovery C
18カラム(25cm×内径2.1mm×5μm)を備えたAgilent 1200 RRLCで高速液体クロマトグラフィーを行い、バンダテロシドを分析する。
【0103】
溶出条件は、アセトニトリル(ACN)/(水+0.01%HCO
2H)混合液を用いて以下の条件とする:2%から50%ACNまで30分かけ、次いで95%ACNまで5分かけて変化させ、95%ACNで5分間保持し、2%ACNまで5分かけて戻す;流量0.6ml/分。
【0104】
更に、ESIポジティブ源を備えたBruker microTOF−Q分光計を用いてESI MS高分解能質量スペクトルを得た。校正は、ギ酸リチウムの10
−4Mイソプロパノール/水(v/v=50/50)混合溶液を用いて行った。
【0105】
(核磁気共鳴(NMR))
Bruker 400MHz Avance III分光計でNMR分析を行った。単離した分子の構造を完全に解析するには、1D(
1H及び
13C)及び2D(Cosy、HSQC、HMBC)スペクトルを求める必要がある。スペクトルは、NMR Notebook softwareを用いて分析する。
【0106】
最低限の精製した分子10mgを重水素化DMSO(DMSO D
6、C
2D
6OS;99.9%D、Sigma)600μlで希釈する。得られた最低濃度は16mg/ml程度である。
【0107】
(紫外線(UV)分光法)
バンダテロシドのUVスペクトル特性は、Shimazu UV−2401PC装置を用いて求める。VT1分子を5×10
−5Mで、VT2及びVT3分子を2.5×10
−5MでMeOHに溶解させる。ランベルト・ベールの法則に従って、モル吸光係数ξ(mol
−1・L・cm
−1)を求める。
A=ξ×c×l
A=波長λにおける分子の吸光度
C=分子の濃度(mol/L)
l=光路長(cm)
【0108】
(偏光分析)
バンダテロシドの不斉炭素による偏光の比旋光度[α]は、Perkin Elmer 341偏光計を用いて測定する。分子を1mg/mlMeOH溶液として保持し、偏光計の測定セル内に入れて、589nm、20℃における偏光の旋光度を測定する。よって、ビオの法則に従って、各分子の[α]
20°を求める。
α=[α]
T°×l×c
a=観測された旋光度(度)
l=キュベットの長さ(dm)
c=溶液の濃度(g/ml)
[α]
T°=温度T、所定の波長で得られた比旋光度(g
−1・mL・dm
−1で表す)
【0109】
(構造解析結果)
VT1、VT2及びVT3化合物それぞれについて得られたNMRスペクトルデータを下記表3に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
各化合物について各種分析方法を用いて得られた結果を以下で詳述する。
【0112】
・VT1
外観:黄色樹脂
溶解性:MeOH及びDMSOに可溶、水に難溶
NMR:
1H NMR及び
13C NMRデータ(DMSO D
6、400MHz及び100MHz)→
図3〜4及び表3
MS:m/z=526.19236のHR−ESI−MSイオン[(M+NH
4)]
+(C
24H
28O
12として計算された分子式:508.15808、Δ:−0.89ppm)→
図2及び表4
【0113】
【表4】
【0114】
UV:203(logξ4.2)、225(logξ4.0)及び278(logξ3.2)nmで吸収極大→
図5
[α]
MeOH20°=−50°g
−1・mL・dm
−1
【0115】
酸加水分解:
分子を酸加水分解(2.0M HClの存在下、80℃で3時間)後、水で飽和させたn−ブタノールで水相を3回洗浄し、その後、蒸発乾固する。ピリジンと1−(トリメチルシリル)イミダゾール(Sigma)の混合物(v/v=1/4)を乾燥残留物に加え、60℃で1時間加熱して誘導体化する。次に、反応混合物1〜2μlを500μlの分析用CH
2Cl
2で希釈した後、TR−5MS SQCキャピラリーカラム(15m×0.25mm×0.25μm)を備え、且つ、質量分析計(Thermo Scientific DSQII)に接続されたガスクロマトグラフ(Trace GS Ultra型)で分析する。検出は、70eVの電子衝撃で行う。用いた条件は以下の通りである:40℃で1分、続いて10℃/分の勾配で250℃まで上昇させ、250℃の静止期に保持(ヘリウム流量:1ml/分、注入温度:250℃、トランスファーライン温度:285℃)。検出は分析2分後に行い、質量測定間隔は0〜500にわたる。
【0116】
酸加水分解の最後に放出される糖は、同様の誘導体化プロセスを行ったD−グルコースコントロール(Merck)(Tr=15.60分)の保持時間及び質量スペクトルと比較して同定する。3種類のバンダテロシドを解析したところ、加水分解後に同定された糖はD−グルコースである。
【0117】
・VT2
外観:非晶質白色粉末
溶解性:水中では約10mMでゲルを形成。VT2はMeOH及びDMSOに可溶、水に難溶。
NMR:
1H NMR及び
13C NMRデータ(DMSO D
6、400MHz及び100MHz)→
図3〜4及び表3
MS:m/z=794.28867のHR−ESI−MSイオン[(M+NH
4)]
+(C
37H
44O
18として計算された分子式:776.25276、Δ:−0.01ppm)→
図2及び表5
【0118】
【表5】
【0119】
UV:203(logξ4.5)、225(logξ4.5)及び278(logξ3.5)nmで吸収極大→
図5
[α]
MeOH20°=−56°g
−1・mL・dm
−1
酸加水分解:VT1を参照
【0120】
・VT3
外観:黄色樹脂
溶解性:化合物はMeOH及びDMSOに可溶、水に難溶
NMR:
1H NMR及び
13C NMRデータ(DMSO D
6、400MHz及び100MHz)→
図3〜4及び表3
MS:m/z=1086.38484のHR−ESI−MSイオン[(M+NH
4)]
+(C
52H
60O
24として計算された分子式:1068.34745、Δ:−1.89ppm)→
図2及び表6
【0121】
【表6】
【0122】
UV:223(logξ4.5)及び276(logξ3.5)nmで吸収極大→
図5
[α]
MeOH20°=−37°g
−1・mL・dm
−1
酸加水分解:VT1を参照
【0123】
(実施例4:本発明に係る化合物の生物活性)
(処理)
あらかじめ単離しておいた3つの化合物VT1、VT2及びVT3それぞれのストック溶液をDMSO(Sigma)を用いて調製する。
【0124】
次に、ストック溶液を培地で直接希釈して細胞(正常なヒトケラチノサイトNHK又はHaCaT細胞系)を処理する。
【0125】
(ケラチノサイトに対するミトコンドリアデヒドロゲナーゼの刺激)
37歳コーカソイド女性のまぶたから単離した正常なヒトケラチノサイト(NHK)を、5%ウシ胎児血清(FCS、Invitrogen)添加ケラチノサイト無血清培地(KSFM、Invitrogen)の完全培地(Invitrogen)で3継代培養する。
【0126】
NHKを1×10
4細胞/ウェルの割合で96ウェルプレート(Greiner Bio One)に播き、37℃、5%CO
2で24時間培養する。次いで、これらの細胞にUV
Bを照射(60mJ/cm
2、Vilbert−Lourmat社製照射装置)した後又は照射することなく、DMSO(Sigma)で希釈したVT1、VT2及びVT3化合物の段階希釈液(6.25〜0.78μg/ml)を用いて最終濃度0.1v/v%で処理する。このプレートを37℃、5%CO
2で培養する。DMSOを0.1v/v%含む未処理細胞をネガティブコントロールとする。48時間処理後、上清を除去して各ウェルにXTT溶液(細胞増殖キットII、Roche Diagnostic)を載せ、ミトコンドリアデヒドロゲナーゼの全活性を測定する。この活性は、ミトコンドリア呼吸鎖の構成要素である糖分解NAD(P)Hデヒドロゲナーゼ(複合体I)及びコハク酸デヒドロゲナーゼ(複合体II)の酵素活性が必要となる細胞機構を介して、XTTテトラゾリウム塩を可溶性ホルマザンに変換することにより評価する。着色ホルマザン量(450nmでの光学密度を読み取って測定)は、第一に、ミトコンドリアデヒドロゲナーゼの酵素活性と直接関連づけられ、第二に、代謝活性細胞量と関連づけられる(Roehm et al.,J.Immunol.Methods,1991;142:257−265)。3時間培養後、XTTを上記デヒドロゲナーゼで可溶性ホルマザンに還元する。96ウェルプレートを蛍光分光計(SpectraFluor Plus、Tecan)を用いて450nmで読み取る。BCA法(Bicinchoninic acid assay(Uptima Interchim kit))により、各ウェル中の総タンパク量を分析する。
【0127】
結果を450nmにおける光学密度(OD)の平均として表し、総細胞タンパク濃度(μg/ml)に対して標準化する。これにより、上記デヒドロゲナーゼの活性のみを測定し、得られたODの測定値に対する細胞増殖の影響をなくすことができる。
【0128】
各分子濃度(Rm)について得られた平均結果を、ネガティブコントロール(Rc)について得られた結果と比較する。Rm/Rc>1であれば、ミトコンドリアデヒドロゲナーゼ活性の刺激がみられたことを示す。
【0129】
(組み換えヒトケラチノサイト(HaCaT)に対するシトクロムCオキシダーゼの刺激)
本試験は、ミトコンドリア呼吸鎖の性能レベルに対する本発明の主題に係る化合物の刺激能を評価することを目的とする。分析は、遺伝子組み換えヒトケラチノサイト(HaCaT)で行う。
【0130】
6ウェルプレートを用いて、HEPES(Invitrogen)の非存在下、10%ウシ胎児血清(FCS、Invitrogen)及びペニシリン/ストレプトマイシン混合物を添加したRPMI 1640培地(Roswell Park Memorial Institute)によりHaCaT細胞をコンフルエンスまで培養した。続いて、グルコース4.5g/L及び0.1%BSA(ウシ血清アルブミン、AM2618、Invitrogen)を含むDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地、Invitrogen)において、DMSOで段階希釈したバンダテロシド(6.25〜0.78μg/ml)(最終濃度0.1v/v%)で処理した。レスベラトロール(Sigma)50μM、すなわち11.41μg/mlをポジティブ対照として用いた。0.1v/v%のDMSOを含む未処理細胞をネガティブコントロールとした。3時間処理後、細胞を溶解させ(20mM HEPES、0.1%Triton、1mM EDTA)、Bradford法(B6916、Sigma)で総細胞タンパク量を分析した。続いて、各サンプルの総タンパク濃度を2mg/mlに調整した。
【0131】
細胞溶解物をアッセイバッファー(Sigma)の存在下で培養し、基質を加えないで酵素反応速度を測定し、これをVoと表した。また、シトクロムC(ウマ心臓由来、C−7752、Sigma)をDTT(ジチオスレイトール、Sigma)で還元し、50μMで上記アッセイバッファーに加え、酵素反応速度を測定した。分光光度計(Beckman DU640)を用いて、メーカー(Sigma)の指示書に従い、550nmで90秒間、還元型シトクロムCの消失をモニタリングした。酵素反応速度曲線から算出した結果をシトクロムCオキシダーゼ活性(タンパク質1μg当たりのU)として表す。
【0132】
下記式により、酵素活性が算出できる。
・シトクロムCの酵素活性(U/ml)=A
COX=(DA/分)/21.84
式中、
・DA/分=A/分(v)−A/分(v0)
・21.84(mM)=550nmにおけるフェロシトクロムCのε(モル吸光係数)
・A=550nmにおける吸光度
・A/分(v)=基質追加後の測定時間に相当する時間“v”(分)、550nmでの吸光度
・A/分(v0)=“v0”(分)(開始時、すなわち基質追加前)、550nmでの吸光度
【0133】
結果は、バンダテロシド(A
COXサンプル)存在下で測定した酵素活性を酵素活性コントロール(A
COXコントロール)と比較して、すなわち(A
COXサンプル)/(A
COXコントロール)として表す。
【0134】
算出した(A
COXサンプル)/(A
COXコントロール)比が1を超えた場合、サンプル存在下でシトクロムCオキシダーゼ活性の刺激がみられたことを示す。
【0135】
(組み換えヒトケラチノサイト(HaCaT)におけるミトコンドリア生合成の測定)
シトクロムC活性の刺激作用を有するバンダテロシドVT1及びVT2について、ミトコンドリア生合成測定を行う。
【0136】
測定された酵素活性の増加が、当初から存在するミトコンドリアの呼吸鎖の基礎刺激に関連するのか、又は、ミトコンドリア生合成が刺激されたことを意味する細胞内ミトコンドリア数の増加に関連するのかを確認することが、本測定の目的である。
【0137】
HaCaT細胞を6ウェルプレートで培養した後、上述の通り処理する。48時間処理後、10mM Tris塩基、1mM EDTA、0.3M酢酸ナトリウム及び1%SDSからなるバッファー(1ml/ウェル)を用いて、55℃で一晩という培養時間に従い、細胞を溶解する。細胞溶解物に対してフェノール溶液(1/1比)を用いてミトコンドリアDNAを抽出する。4000rpm(5分)での遠心分離を2回行う。その後、CHCl
3/イソアミルアルコール溶液(v/v=24/1)を上部の水相に加え、沈殿後に回収する。次いで、混合物を遠心分離する(5分、4000rpm、4℃)。
【0138】
無水エタノール/3M酢酸ナトリウム混合物(v/v=2.5/1.10
e)を上清に加え、全DNAを析出させる。遠心分離(30分、12000rpm、4℃)後、ペレットを70°v/vのEtOHで洗浄し、乾燥し、脱イオン水に取る。分光計(Thermo Scientific Nanodrop)を用いてDNAを分析する。DNA溶液は、濃度10ng/μlに調整する。
【0139】
qPCRにより、3つの異なる遺伝子の発現を測定する。この方法によれば、蛍光標識によってDNA重合量を測定できる。選択したのは2つのミトコンドリア遺伝子16S及びCOX2(それぞれミトコンドリアリボソーム及びシトクロムCオキシダーゼの発現に関する遺伝子)、並びに、細胞核に位置する遺伝子UCP−2(ゲノムDNA)である。上記遺伝子の発現を測定してコントロールとする。
【0140】
プライマーは以下のものを用いた。
16S DNA:センス(5’−TGG−ACA−ACC−AGC−TAT−CAC−CA−3’);アンチセンス(5’−ACT−TTG−CAA−GGA−GAG−CCA−AA−3’)
COX−2 DNA:センス(5’−AGG−CGA−CCT−GCG−ACT−CCT−TGA−3’);アンチセンス(5’−TTA−GCT−TTA−CAG−TGG−GCT−CTA−GAG−GC−3’)
UCP−2 DNA:センス(5’−CCT−AGC−GCT−GCC−TCA−TAA−AC−3’);アンチセンス(5’−CCT−ATG−GGT−CTG−TGC−CTG−TT−3’)
【0141】
qPCR試験は96ウェルプレートで行う。全サンプルのDNA混合物に当たる一連のDNA範囲を段階希釈によって各プライマーにつき調製する。細胞DNAサンプルは、脱イオン水を加えたMIX−PCR SYBR Green(Applied Biosystems)混合物と混合する。PCRは、ハイブリダイゼーション温度60℃で45サイクル行う(StepOnePlus Thermocycler、Applied Biosystems)。
【0142】
45サイクル後に蛍光発光を測定し、得られたDNA量をDNA範囲に基づいて評価する。
【0143】
結果を16S及びCOX2(Q
COX2)DNA量で表し、UCP−2ゲノムDNA(Q
UCP−2)量に応じて算出し、(Q
COX2)/(Q
UCP−2)とする。
【0144】
算出した(Q
COX2)/(Q
UCP−2)比が1を超えている場合、ミトコンドリアDNA量が増加したことを示し、細胞内ミトコンドリア数が増加したことを反映している。
【0145】
(結果)
48時間処理後に行ったXTT測定から、試験した化合物がケラチノサイトのミトコンドリア呼吸機能を顕著に刺激していることが分かる。だが、顕著な用量効果は見られない。
【0146】
また、ケラチノサイトにUV
Bを照射しても、上記デヒドロゲナーゼに顕著な刺激は見られない。
【0147】
VT1及びVT2化合物は、ケラチノサイトミトコンドリアデヒドロゲナーゼの活性を最も刺激する化合物である。
【0148】
特に、VT2化合物は、最も低い0.78μg/ml、すなわち1μM(ネガティブコントロールに対して+39%)という試験濃度においても、上記デヒドロゲナーゼ活性を顕著に刺激する(
図6)。
【0149】
試験した3つの化合物は、レスベラトロール(ポジティブコントロール)よりも低い濃度でシトクロムCオキシダーゼを活性化し、VT2化合物は最も良好なシトクロムCオキシダーゼ活性化剤である。VT2は、濃度1.56μg/ml(2μM)において、濃度11.41μg/ml(50μM)のレスベラトロールに匹敵する活性レベルでシトクロムCオキシダーゼ活性を刺激する(
図7)。
【0150】
VT1化合物にのみ用量効果が見られる。
【0151】
VT1及びVT2についてミトコンドリア生合成測定を行い、測定された酵素活性の増加が、当初から存在するミトコンドリアの呼吸鎖の基礎刺激と関連するのか、又は、細胞内ミトコンドリア数の増加と関連するのかを確認する。
【0152】
その結果、6.25μg/mlのVT1を除いた試験濃度において、2つの化合物のいずれもミトコンドリア生合成の活性化、すなわち細胞内ミトコンドリア数の増加を引き起こさないことが分かった。
【0153】
従って、ミトコンドリアシトクロムCオキシダーゼ又はデヒドロゲナーゼの酵素活性の増加を示す得られた結果は、これらの酵素活性の基礎刺激を反映したものであり、細胞内ミトコンドリア数の増加を反映したものではない。
【0154】
VT1及びVT2は、複合体I及びIIのデヒドロゲナーゼ酵素活性を刺激することにより、またミトコンドリア呼吸鎖のシトクロムCオキシダーゼを刺激することにより、最も良好なミトコンドリア活性化能を示す。
【0155】
従って、VT1、とりわけVT2化合物は、それぞれ、上記鎖の複合体I及びIIの刺激並びにシトクロムCオキシダーゼ活性の刺激によって、ケラチノサイトのミトコンドリア呼吸鎖に対し顕著な活性を示す。これにより、これらの化合物が肌細胞のエネルギー代謝をそのミトコンドリア呼吸機能によって活性化することが確認できる。
【0156】
上記活性から、本発明の化合物、特にVT1及び/又はVT2を化粧品有効成分又は皮膚科学的有効成分として、特に成熟した肌に対する化粧処置又は皮膚科学的処置、例えば、皮膚の老化を防ぐこと、並びに/又は、皮膚の保湿性及び/若しくは皮膚治癒を維持若しくは改善することに用いることができることが示される。
【0157】
(正常ヒトケラチノサイト(NHK)の分化の刺激)
デスモグレインはカドヘリン(膜貫通タンパク質)であって、デスモソームを形成して上皮細胞(ケラチノサイト等)同士を結合させる。ロリクリンと同様、インボルクリンは、最終分化段階にある角質層の構成要素であるケラチノサイトにより発現されるタンパク質である。このケラチノサイトはコルネオサイトと呼ばれる。トランスグルタミナーゼはCa
2+依存酵素であり、上記タンパク質間に共有結合点を形成する。従って、これら3種類のタンパク質は、ケラチノサイトの早期分化(デスモグレインI)及び後期分化(インボルクリン及びトランスグルタミナーゼ)のマーカーとなる。肌が老化していくと、ケラチノサイトの再生、その活性、及び、そのコルネオサイトへの変換に遅れが見られる。表皮の萎縮が見られる。肌は水分を失い、そして表皮の保護及び治癒機能が遅くなる。こうして、肌は生気のない乾燥した外観を呈する。
【0158】
(方法)
T75フラスコを用いて、KSFM完全培地にてNHKを3継代培養する。コンフルエンスに達する前にNHKをトリプシン処理し、8ウェルLab−TekII培養システム(Nalge Nunc International)に1ウェル当たり20000細胞の割合で播き、各処理条件につき4ウェルを使用する。80%コンフルエンスとなったら、種々の有効成分組成物(VT1、VT2及びVT3、各12μg/ml)を用いて、コンフルエンスに達するまで5日間細胞を処理する。3%のVitactyl(登録商標)clair(Malva sylvestris抽出物、Silab)をポジティブコントロールとして用いる。
【0159】
(免疫標識)
細胞をPBS(PBSタブレット、Invitrogen、GIBCO)で洗浄した後、ホルマリン(中性緩衝ホルマリン溶液、10%、Sigma)で10分間固定する。
【0160】
PBSで洗浄後、培養チャンバを0.1%Triton溶液(Triton X−100、Sigma)で10分間満たして膜を透過処理し、その後PBSで2回洗浄する。続いて、周囲温度下で30分間、細胞をPBS/1%BSA(BSA、Sigma)溶液で覆う。スライドを吸収紙上で傾けて、PBS/BSA溶液をスライドから除去する。
【0161】
次いで、周囲温度下で60分間、細胞を一次抗体溶液で覆う。
・抗トランスグルタミナーゼ(マウスモノクローナル、Harbor Bio products)1/200希釈
・抗デスモグレイン1(マウスモノクローナル、Zymed)1/100希釈
・抗インボルクリン(マウスモノクローナル、Neomarkers)1/200希釈
【0162】
PBSで洗浄後、1/200に希釈した二次抗体溶液(Alexa fluor 488、ヤギ抗マウスIgG(Molecular probes))で細胞を覆う。暗所にて、周囲温度下で60分間、スライドを培養する。このスライドをPBSで3回洗浄する。
【0163】
(封入)
スライドの培養チャンバを取り出し、封入剤(Fluorescent Mounting Medium、DAKO)を細胞に数滴載せてから、カバーガラス(24×60mm、Knittel Glaeser)を被せる。
【0164】
(共焦点顕微鏡による写真の取得)
Alexa fluor 488フィルタを備えたビデオ顕微鏡(Nikon TE2000)で画像を得る。
【0165】
各条件につき、20倍の対物レンズを用いて緑色蛍光(マーカー発現)の写真を4枚撮影する。取得時のパラメータ(露光時間、ゲイン)は、試験した各マーカーにつき同様である。
【0166】
写真はLeica QWin画像分析ソフトで分析する。プログラムを作成して上記分化マーカーの発現量を定量化する。
【0167】
(結果)
その結果、本発明の化合物は、ネガティブコントロールと比較して、ケラチノサイト分化タンパク質の発現を顕著に刺激することが分かった。
【0168】
試験した化合物の中でも、VT1及びVT2が最も効果的である(
図8〜13)。またVT2は、3%で使用したポジティブコントロールよりも高いレベルでインボルクリン発現を刺激する。
【0169】
このことから、バンダテロシド、とりわけVT1及びVT2は、表皮上層を構成するケラチノサイトの再生を刺激することが分かる。
【0170】
バンダテロシドは角質の再生を促進し、従って肌の外観を若くする。この現象は、表皮の保護及び修復機能を維持するとともに、皮膚の保湿性を維持又は改善するのに役立つ。