特許第5786145号(P5786145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5786145
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】電源制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 23/34 20060101AFI20150910BHJP
   H01J 23/10 20060101ALI20150910BHJP
   H05H 1/24 20060101ALN20150910BHJP
【FI】
   H01J23/34 B
   H01J23/10
   !H05H1/24
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-12771(P2011-12771)
(22)【出願日】2011年1月25日
(65)【公開番号】特開2012-155935(P2012-155935A)
(43)【公開日】2012年8月16日
【審査請求日】2014年1月24日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー使用合理化技術実用化開発/マイクロ波プラズマ燃焼エンジンの研究開発」に関する共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504293528
【氏名又は名称】イマジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】牧田 實
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕二
【審査官】 遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−038025(JP,A)
【文献】 特開平03−254093(JP,A)
【文献】 特開平08−329848(JP,A)
【文献】 特開平10−134726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 23/00−25/78
H05H 1/00−1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネトロンの陽極にパルス電流を供給して、該マグネトロンを駆動するパルス電源を制御する電源制御装置であって、
上記マグネトロンの磁石の温度を検出する温度検出手段と、
上記マグネトロンの駆動中に、上記温度検出手段により検出された検出磁石温度に基づいて、上記マグネトロンの熱暴走が回避されるように、上記パルス電源の出力エネルギーを調節する調節動作を行う出力調節手段とを備え
上記パルス電源は、所定の期間に亘って上記パルス電流をマグネトロンへ連続的に出力してプラズマを生成維持する生成動作と、上記パルス電流の出力を停止してプラズマの生成を休止する休止動作とを交互に繰り返し
上記出力調節手段は、上記生成動作が複数回行われる度に上記調節動作を行う
ことを特徴とする電源制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記出力調節手段は、上記調節動作として、上記マグネトロンの出力エネルギーが略一定になるように上記パルス電源の出力エネルギーを調節する動作を行う
ことを特徴とする電源制御装置。
【請求項3】
請求項において、
上記出力調節手段は、上記調節動作として、上記パルス電流の電流値を一定に保ちつつ、パルス電流のパルス幅及びパルス電流の周期の少なくとも一方を調節して、上記マグネトロンの出力エネルギーが略一定になるように上記パルス電源の出力エネルギーを調節する動作を行う
ことを特徴とする電源制御装置。
【請求項4】
請求項1又は2において、
上記出力調節手段は、上記調節動作において、上記パルス電流の電流値が所定の上限値以下になるように、パルス電流のパルス幅及びパルス電流の周期の少なくとも一方を調節して、上記パルス電源の出力エネルギーを調節する
ことを特徴とする電源制御装置。
【請求項5】
請求項1において、
上記出力調節手段は、上記調節動作として、上記パルス電流のピーク値が略一定になるように上記パルス電源の出力エネルギーを調節する
ことを特徴とする電源制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンの陽極にパルス電流を供給してマグネトロンを駆動するパルス電源を制御する電源制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、マグネトロンの陽極にパルス電流を供給してマグネトロンを駆動するパルス電源を制御する電源制御装置が知られている。この種の電源制御装置が、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
具体的に、特許文献1には、電源制御装置を構成する制御部を有するプラズマ拡大装置が記載されている。このプラズマ拡大装置は、スパークプラグのスパークギャップにおいてスパーク放電を生じさせる同時に、そのスパークギャップに向けてマイクロ波を放射することにより、スパーク放電により生成されたプラズマを拡大させる。このプラズマ拡大装置では、制御部がパルス電源に制御信号を出力し、そのパルス電源が制御信号に応答して短時間の電力供給をマグネトロンに行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−38025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の電源制御装置では、マグネトロンの駆動時間が長くなってその磁石の温度が上昇すると、マグネトロンが熱暴走するおそれがある。
【0006】
具体的に、マグネトロンの磁石の温度が上昇すると、磁石の残留磁束密度が低下し、陽極と陰極の間の磁界が弱くなる。そうすると、例えば陽極電圧が一定であれば、陰極からの熱電子が陽極に到達しやすくなり、陽極電流が上昇してゆく。そして、マグネトロンの動作状態が効率の良い動作範囲から外れ、マグネトロンにおけるエネルギー損失が増大してゆき、最終的に熱暴走(温度制御が不能な状態)に陥る。
【0007】
例えば電磁波を燃焼室へ放射してプラズマを生成するプラズマ生成装置にマグネトロンを適用して、そのプラズマ生成装置をエンジンの点火に用いる場合は、マグネトロンの駆動時間が頻繁に長くなる。従来の電源制御装置では、マグネトロンが熱暴走して、プラズマを生成することができなくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、マグネトロンの陽極にパルス電流を供給してマグネトロンを駆動するパルス電源を制御する電源制御装置において、マグネトロンが長時間に亘って駆動される場合の熱暴走を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、マグネトロンの陽極にパルス電流を供給して、該マグネトロンを駆動するパルス電源を制御する電源制御装置を対象とし、上記マグネトロンの磁石の温度を検出する温度検出手段と、上記マグネトロンの駆動中に、上記温度検出手段により検出された検出磁石温度に基づいて、上記マグネトロンの熱暴走が回避されるように、上記パルス電源の出力エネルギーを調節する調節動作を行う出力調節手段とを備え、上記パルス電源は、所定の期間に亘って上記パルス電流をマグネトロンへ連続的に出力してプラズマを生成維持する生成動作と、上記パルス電流の出力を停止してプラズマの生成を休止する休止動作とを交互に繰り返し、上記出力調節手段は、上記生成動作が複数回行われる度に上記調節動作を行うようにしている
【0010】
第1の発明では、マグネトロンの駆動中に、温度検出手段が、マグネトロンの磁石の温度を検出する。出力調節手段は、検出磁石温度に基づいて、マグネトロンの熱暴走が回避されるように、パルス電源の出力エネルギーを調節する調節動作を行う。第1の発明では、検出磁石温度を考慮して、マグネトロンの熱暴走が回避されるように、パルス電源の出力エネルギーが調節される。また、生成動作と休止動作が交互に繰り返される中で、生成動作が複数回行われる度に調節動作が行われる。調節動作の周期は、生成動作に比べて長くなっている。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、上記出力調節手段が、上記調節動作として、上記マグネトロンの出力エネルギーが略一定になるように上記パルス電源の出力エネルギーを調節する動作を行う。
【0012】
第2の発明では、マグネトロンの熱暴走を回避できる動作範囲の中で、マグネトロンの出力エネルギーが略一定に保たれる。
【0013】
第3の発明は、第の発明において、上記出力調節手段が、上記調節動作として、上記パルス電流の電流値を一定に保ちつつ、パルス電流のパルス幅及びパルス電流の周期の少なくとも一方を調節して、上記マグネトロンの出力エネルギーが略一定になるように上記パルス電源の出力エネルギーを調節する動作を行う。
【0014】
第3の発明では、パルス電源の出力エネルギーを調節するために、パルス電流のパルス幅およびパルス電流の周期(パルスの周期)の少なくとも片方が調節される。そのため、パルス電流の電流値が上昇することが回避される。
【0015】
第4の発明は、第1又は第2の発明において、上記出力調節手段が、上記調節動作において、上記パルス電流の電流値が所定の上限値以下になるように、パルス電流のパルス幅及びパルス電流の周期の少なくとも一方を調節して、上記パルス電源の出力エネルギーを調節する。
【0016】
第5の発明は、第1の発明において、上記出力調節手段が、上記調節動作として、上記パルス電流のピーク値が略一定になるように上記パルス電源の出力エネルギーを調節する。
【0017】
また、上記出力調節手段が、上記調節動作として、上記パルス電流の実効値がマグネトロンの定格電流以下になるように上記パルス電源の出力エネルギーを調節することもできる
【発明の効果】
【0018】
本発明では、マグネトロンが長時間使用される場合であっても、検出磁石温度を考慮して、マグネトロンの熱暴走が回避されるように、パルス電源の出力エネルギーが調節される。従って、マグネトロンが長時間に亘って駆動される場合の熱暴走を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施形態1で説明する内燃機関の縦断面図である。
図2図2は、実施形態1で説明するプラズマ生成装置及び電源制御装置のブロック図である。
図3図3は、陽極電圧と陽極電流の関係を表す図表である。
図4図4は、実施形態3で説明するマグネトロンの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
《実施形態1》
【0021】
本実施形態1は、内燃機関20に設けられるプラズマ生成装置30のパルス電源32を制御する電源制御装置40である。この電源制御装置40は本発明の一例である。以下では、電源制御装置40について説明する前に、まず内燃機関20及びプラズマ生成装置30について説明する。
−内燃機関−
【0022】
本実施形態1の内燃機関20は、ピストン23が往復動するレシプロタイプのエンジンである。この内燃機関20は、図1に示すように、シリンダブロック21とシリンダヘッド22とピストン23とを備えている。シリンダブロック21には、横断面が円形のシリンダ24が複数形成されている。各シリンダ24内には、シリンダ24の軸方向にピストン23が往復自在に設けられている。ピストン23は、コンロッドを介して、クランクシャフトに連結されている(図示省略)。クランクシャフトは、シリンダブロック21に回転自在に支持されている。各シリンダ24内でピストン23が往復運動すると、コンロッドによりピストン23の往復運動がクランクシャフトの回転運動に変換される。
【0023】
シリンダヘッド22は、ガスケット18を挟んで、シリンダブロック21上に載置されている。シリンダヘッド22は、シリンダ24及びピストン23と共に、燃焼室10を区画している。シリンダヘッド22には、各シリンダ24に対して、スパークプラグ15が1つずつ設けられている。スパークプラグ15は、放電ギャップが燃焼室10に露出している。シリンダヘッド22には、各シリンダ24に対して、吸気ポート25及び排気ポート26が形成されている。吸気ポート25には、吸気ポート25を開閉する吸気バルブ27と、燃料を噴射するインジェクター29とが設けられている。一方、排気ポート26には、排気ポート26を開閉する排気バルブ28が設けられている。
−プラズマ生成装置−
【0024】
プラズマ生成装置30は、図2に示すように、パルス発生器31とスパークプラグ15とパルス電源32とマグネトロン33と混合器34を備えている。プラズマ生成装置30は、内燃機関20を制御する電子制御装置35(ECU)に接続されている。プラズマ生成装置30は、電子制御装置35より制御される。
【0025】
パルス発生器31は、例えばイグニッションコイルである。パルス発生器31は、入力端子が電子制御装置35に接続され、出力端子が混合器34に接続されている。パルス発生器31は、直流電源(図示省略)に接続されている。パルス発生器31は、電子制御装置35から放電信号を受ける同時に、直流電源から印加された電圧を昇圧した高電圧パルスを混合器34へ出力する。
【0026】
パルス電源32は、入力端子が電子制御装置35に接続され、出力端子がマグネトロン33に接続されている。パルス電源32は、直流電源(図示省略)に接続されている。パルス電源32は、電子制御装置35から電磁波発振信号(例えばTTL信号)を受ける同時に、マグネトロン33へパルス電流を出力する。パルス電源32は、所定のデューティー比で所定の設定時間(例えば、1ms)に亘ってパルス電流を出力する。なお、電磁波発振信号は、放電信号とほぼ同時に出力されるが、厳密には放電信号よりも僅かに先に出力される。
【0027】
マグネトロン33は、入力端子がパルス電源32に接続され、出力端子が混合器34に接続されている。マグネトロン33は、パルス電源32からパルス電流を受けると、混合器34にマイクロ波パルス(パルス波形のマイクロ波)を出力する。マグネトロン33は、所定のデューティー比で所定の設定時間に亘ってマイクロ波パルスを出力する。
【0028】
混合器34は、第1の入力端子がパルス発生器31に接続され、第2の入力端子がマグネトロン33に接続され、出力端子がスパークプラグ15の中心電極15aに接続されている。混合器34には、パルス発生器31からの高電圧パルスとマグネトロン33からのマイクロ波パルスとが入力される。混合器34は、高電圧パルスとマイクロ波パルスを混合してスパークプラグ15の中心電極15aに出力する。
【0029】
スパークプラグ15では、混合器34から高電圧パルスとマイクロ波パルスを受けると、放電ギャップでスパーク放電が生じ、そのスパーク放電により生じた放電プラズマに対して、中心電極15aからマイクロ波が照射される。中心電極15aは、電磁波用のアンテナとして機能する。スパーク放電により生じた放電プラズマは、マイクロ波のエネルギーを吸収して拡大する。このようにして、プラズマ生成装置30は、非平衡のマイクロ波プラズマを生成する。プラズマ生成装置30では、電磁波発振信号の出力時点から上記設定時間が経過すると、マイクロ波パルスの発振が停止され、マイクロ波プラズマが消滅する。
【0030】
なお、本実施形態では、混合器34を設けて、スパークプラグ15の中心電極15aを電磁波用のアンテナとして機能させているが、混合器34を設けずに、中心電極15aとは別途に電磁波用のアンテナを設けてもよい。電磁波用のアンテナは、スパークプラグ15の碍子に内蔵してもよいし、スパークプラグ15と別体にしてシリンダヘッド22に設けてもよい。
−電源制御装置−
【0031】
本実施形態では、パルス電流を継続的に出力するパルス電源32を制御する電源制御装置40が設けられている。電源制御装置40は、マグネトロン33の磁石の温度が変化してもマグネトロン33の出力エネルギーのピーク値(以下「マグネトロン33の出力ピーク値」という。)が略一定になるように、パルス電源32を制御する。
【0032】
電源制御装置40は、図2に示すように、マグネトロン33の陽極電流を計測する陽極電流モニタ3と、マグネトロン33の磁石の温度を計測する温度センサ4(温度検出手段)と、温度センサ4により検出された磁石の温度(以下「検出磁石温度」という。)に基づいてパルス電源32の単位時間当たりの出力エネルギーを調節する調節動作を行う出力調節器5(出力調節手段)とを備えている。なお、出力調節器5は、例えば電子制御装置35に設けてもよいし、パルス電源32に設けてもよい。
【0033】
出力調節器5は、マグネトロン33の陽極電圧の目標値を決定するための第1制御テーブルと、パルス電流のピーク値を補正する必要がある場合にパルス電流のピークの目標値を決定するための第2制御テーブルとを備えている。第1制御テーブルには、検出磁石温度の想定範囲における所定の温度間隔で、マグネトロン33の出力ピーク値を所定値Xに調節するための陽極電圧の目標値(第1目標値)が設定されている。第2制御テーブルには、検出磁石温度の想定範囲における温度間隔で、マグネトロン33の陽極電圧を第1目標値に調節する場合のパルス電流のピークの目標値(第2目標値)が設定されている。
【0034】
ここで、図3に示すように、マグネトロン33では、陽極電圧Vと陽極電流Iとの関係が一定ではない。仮に陽極電圧Vが一定であれば、磁石の実温度が高くなるほど、陽極電流Iは大きくなる。つまり、パルス電流の実効値及びピーク値が大きくなる。そのため、パルス電源32の制御に磁石の温度を考慮しなければ、磁石の温度上昇によるパルス電流のピーク値の上昇に伴って、マグネトロン33の出力ピーク値が増大する。その結果、マグネトロン33の温度が急激に上昇して熱暴走が生じるおそれがある。それに対して、本実施形態では、熱暴走が生じないように、マグネトロン33の出力ピーク値が略一定になるように調節動作が行われる。
【0035】
電源制御装置40の調節動作について説明する。調節動作は、例えば内燃機関20の燃焼室10おいて燃焼サイクルが所定の回数行われる度に行われる。
【0036】
調節動作では、まず第1ステップ(磁石温度の検出)が行われる。第1ステップでは、出力調節器5が、温度センサ4の出力値を検出する。この出力値は、上述の検出磁石温度に相当する。
【0037】
次に、第2ステップ(電圧目標値の設定)が行われる。第2ステップでは、出力調節器5が、第1ステップにおいて検出した検出磁石温度に対応する陽極電圧の目標値(第1目標値)を第1制御テーブルから読み出す。
【0038】
次に、第3ステップ(陽極電圧の操作)が行われる。第3ステップでは、出力調節器5が、パルス電源32に対して、第1目標値に陽極電圧を変更するように指令を出力する。パルス電源32は、第1目標値に基づいて陽極電圧を変更する。
【0039】
次に、第4ステップ(電圧値の補正)が行われる。第4ステップでは、出力調節器5が、陽極電流モニタ3の出力値から、パルス電流の実際のピーク値を検出する。また、出力調節器5は、検出磁石温度及び第1目標値に基づいて、パルス電流のピークの目標値(第2目標値)を第2制御テーブルから読み出す。出力調節器5は、パルス電流の実際のピーク値が第2目標値に一致しているか否かを確認する。出力調節器5は、パルス電流の実際のピーク値が第2目標値に一致していない場合にだけ、パルス電流の実際のピーク値と第2目標値との差に基づいて、パルス電流のピーク値が第2目標値に近づくように、パルス電源32に陽極電圧を変更させる。
【0040】
このように、電源制御装置40は、マグネトロン33の磁石の温度が変化すると、それに追随して、陽極電圧の値及びパルス電流のピーク値を変化させて、マグネトロン33の出力ピーク値を一定に保つ。
【0041】
なお、第1目標値および第2目標値は、制御テーブルではなく計算により決めてもよい。
−実施形態1の効果−
【0042】
実施形態1では、マグネトロン33が長時間使用される場合であっても、磁石の温度を考慮して、マグネトロン33の熱暴走が回避されるように、パルス電源32の単位時間当たりの出力エネルギーが調節される。従って、マグネトロン33が長時間に亘って駆動される場合の熱暴走を回避することができる。
【0043】
また、実施形態1では、マグネトロン33の出力ピーク値が略一定に保たれるので、プラズマ生成装置30により安定的にプラズマを生成することができる。
【0044】
なお、実施形態1では、マグネトロン33の磁石の温度が変化してもマグネトロン33の出力ピーク値が略一定になるようにパルス電源32の単位時間当たりの出力エネルギーを調節したが、マグネトロン33の磁石の温度が変化してもマグネトロン33の単位時間当たりの出力エネルギーが略一定になるようにパルス電源32の単位時間当たりの出力エネルギーを調節してもよい。
−実施形態1の変形例1−
【0045】
実施形態1の変形例1について説明する。この変形例1では、出力調節器5が、パルス電流のパルス幅を調節する。
【0046】
具体的に、実施形態1のようにマグネトロン33の出力ピーク値を略一定に保とうとすると、磁石温度が高くなるほど陽極電圧が低下する一方で、パルス電流の電流値が上昇してゆく。従って、パルス電流の電流値(ピーク値)がマグネトロン33の定格電流を超えるおそれがある。変形例1では、そのようにならないように、パルス電源32の単位時間当たり出力エネルギーの調節に、パルス電流のパルス幅が調節される。
【0047】
変形例1では、出力調節器5が、パルス電流の電流値が所定の上限値(例えば、マグネトロン33の定格電流)以下の場合は、マグネトロン33の出力ピーク値が略一定になるようにパルス電流の電流値だけを調節する。出力調節器5は、パルス電流の電流値が上限値を超える場合は、マグネトロン33の出力ピーク値が略一定になるように、パルス電流の電流値を概ね上限値に保ちつつ、パルス電流のパルス幅を調節する。出力調節器5は、磁石温度が高くなって陽極電圧が低下するほど、パルス電流のパルス幅を広げて、マグネトロン33の出力ピーク値を略一定に調節する。
【0048】
なお、パルス電流のパルス幅の代わりに、パルス電流の出力周期を調節することによりパルス電源32の単位時間当たりの出力エネルギーを調節してもよい。その場合は、マグネトロン33の出力ピーク値が略一定になるように、磁石温度が高くなるほど、パルス電流の出力周期が短縮される。
−実施形態1の変形例2−
【0049】
実施形態1の変形例2について説明する。変形例1では、パルス電流の電流値が上限値を超える場合にパルス電流の電流値を略一定に保つが、変形例2では、常にパルス電流の電流値(ピーク値)を略一定に保つ。マグネトロン33の出力ピーク値を略一定に保つ点は、変形例1と同じである。パルス電流のパルス幅は、検出磁石温度に基づいて決定され、磁石温度が高くなるほど広げられる。
【0050】
なお、パルス電流のパルス幅の代わりに、パルス電流の出力周期を調節することによりパルス電源32の単位時間当たりの出力エネルギーを調節してもよい。その場合は、パルス電流の出力周期は、検出磁石温度に基づいて決定され、磁石の温度の上昇に伴って短縮される。
−実施形態1の変形例3−
【0051】
実施形態1の変形例3について説明する。この変形例3では、出力調節器5が、マイクロ波パルスの1波当たりのエネルギー(マイクロ波パルスの1つの波におけるエネルギーの積算値)が一定に保たれるように、パルス電流の電流値(ピーク値)を一定に保ちつつ、パルス電流のパルス幅および出力周期を変更する。
【0052】
出力調整器5は、パルス電流と磁石温度を観測しながら、マイクロ波パルスの1波当たりのエネルギーが一定になるようなパルス電流のパルス幅および出力周期の目標値を決める。出力調整器5は、パルス電流のパルス幅および出力周期を目標値へ変更するように、パルス電源32に指令を出力する。
《実施形態2》
【0053】
本実施形態2は、有害化学物質を排出する排気ダクトに設けられるプラズマ生成装置30のパルス電源32を制御する電源制御装置40である。プラズマ生成装置30は、有害物質を無害化するために、マイクロ波の出力エネルギーを比較的大きな値にして、強度の強いプラズマを生成する必要がある。プラズマ生成装置30は、排気期間中に亘って運転を継続する。従って、長時間の運転を行ってもマグネトロン33が熱暴走しないように、電源制御装置40によりパルス電源32が制御される。
【0054】
出力調節器5は、パルス電流のピーク値、パルス幅、パルス周期の目標値を決定するための制御テーブルを備えている。制御デーブルでは、マグネトロン33の熱暴走を十分に回避できるマグネトロン33の磁石温度の最大値以下の温度範囲において、所定の温度間隔で、マグネトロンの出力ピーク値が所定値Xになる陽極電圧値が設定されている。また、制御テーブルでは、磁石温度に対して所定の温度間隔で、陽極電圧値に対するパルス電流の電流値(ピーク値)が設定されている。
【0055】
電源制御装置40の調節動作について説明する。調節動作は、例えばミリ秒のオーダーのサンプリング時間毎に行なわれる。
【0056】
調節動作では、まず第1ステップ(磁石温度の検出)が行われる。第1ステップでは、出力調節器5が、温度センサ4の出力値(検出磁石温度)を検出する。
【0057】
次に、第2ステップ(目標値の設定)が行われる。第2ステップでは、出力調節器5が、第1ステップにおいて検出した検出磁石温度に対応する陽極電圧の目標値(第1目標値)を制御テーブルから読み出す。第1目標値は、マグネトロン33が熱暴走を始めないように、温度センサ4の出力値を監視しながら決定される。温度センサの出力値が、マグネトロン33の熱暴走を回避できるマグネトロンの磁石温度の最大値に近づいていれば、その磁石温度に応じて第1目標値は、マグネトロン33の磁石温度を上昇させず、かつ、有害物質を無害化できる値が選択させる。
【0058】
次に、第3ステップ(陽極電圧値の操作)が行われる。第3ステップでは、出力調節器5が、パルス電源32に対して、第2ステップで設定した第1目標値に陽極電圧を変更するように指令を出力する。パルス電源32は、第1目標値に基づいて陽極電圧を変更する。
【0059】
次に、第4ステップ(電圧値の補正)が行われる。第4ステップでは、出力調節器5が、陽極電圧が第1目標値になるときの陽極電流のピーク値を制御テーブルから読み出し、読み出した値が実際の値と一致しているか否かを確認する。出力調節器5は、制御テーブルから読み出した値と陽極電流モニタ3から取得した陽極電流のピーク値との差に基づいて、陽極電圧値の目標値を変更する。
【0060】
このように、電源制御装置では、マグネトロン33の磁石の温度が変化すると、それに追随して、マグネトロン33の陽極に対する印加電圧、及び陽極電流のピーク値が変化し、マグネトロン33が熱暴走を始めることなく、有害物質を無害化するマグネトロン33の出力エネルギーを出力する。
【0061】
出力調整器5は制御テーブルではなく、計算により印加電圧および陽極電流のピーク値を決めることもできる。
《実施形態3》
【0062】
実施形態3は、車の内燃機関20を冷却するための冷却水により温度が制御されるマグネトロン33である。上記実施形態の電源制御装置40と組み合わせることで、マグネトロン33が長時間に亘って駆動される場合の熱暴走をさらに確実に回避することが可能である。なお、マグネトロン33は、真空管部分が故障した場合に、取り外して交換可能になっている。
【0063】
具体的に、マグネトロン33は、図4に示すように、マイクロ波を発生させる本体部51と、本体部51で発生したマイクロ波を外部に出力するアンテナ52と、チョークコイル及び貫通コンデンサーからなるLCフィルター回路が設けられたフィルターケース53とを備えている。本体部51は、陽極部54と陽極部55と磁気部56とを備えている。アンテナ52には、同軸導波管変換器が接続されている。
【0064】
陽極部54は、円筒状の陽極円筒61と、陽極円筒61内において放射状に配置された複数枚の陽極ベイン62とを備えている。各陽極ベイン62は、その外端が陽極円筒61の内面に固定され、その内端が後述するフィラメント63と間隔を隔てて対面している。陽極円筒61内は、真空状態になっており、複数枚の陽極ベイン62により共振空洞器が形成されている。陽極ベイン62からはアンテナ52が導出されている。
【0065】
陽極部55は、陽極円筒61の軸心に沿って配置されたフィラメント63と、フィラメント63の両端にそれぞれ設けられた一対のエンドハット64とを備えている。フィラメント63は、リード65を介して、フィルターケース53のLCフィルター回路に接続されている。フィラメント63は、LCフィルター回路を介して外部電源に接続される。
【0066】
磁気部56は、陽極円筒61の両端にそれぞれ設けられた一対のポールピース66と、各ポールピース66の外側にそれぞれ設けられた円環状の磁石67(永久磁石)とを備えている。磁石67は、フィラメント63と陽極ベイン62との間に、フィラメント63から放出された熱電子を旋回させる磁界を形成する。
【0067】
マグネトロン33では、フィラメント63と陽極ベイン62との間に高電圧が印加されると、フィラメント63から熱電子が放出される。熱電子は、磁気部56により形成された磁界により旋回運動する。その際、熱電子の運動エネルギーが高周波エネルギーに変換され、マイクロ波が陽極ベイン62を介してアンテナ52から出力される。マグネトロン33の駆動中は、本体部51の温度および磁石67の温度が上昇する。
【0068】
本実施形態3では、マグネトロン33の本体部51を冷却するために、内燃機関20の冷却水が流れる温調用流路70が内部に形成された熱交換部71が、本体部51の周囲に取り付けられている。熱交換部71は、温調用流路70を流れる冷却水と本体部51とを熱交換させるための金属製部材である。熱交換部71は、略円筒状に形成されている。
【0069】
また、本実施形態3では、上述したように、真空管部分が取り外して交換可能になっている。本体部51およびアンテナ52は、一体化され、真空管部分を構成している。真空管部分を交換する際は、着脱自在に設けられたアンテナ52側の磁石67が一時的に取り外される。
《その他の実施形態》
【0070】
上記実施形態は、以下のように構成してもよい。
【0071】
上記実施形態について、出力調節器5が、マグネトロン33の磁石の温度変化に対する陽極電圧の低下率(例えば、磁石がフェライトの場合は、−0.2%/℃)を用いて、調節動作を行っても良い。例えば、上記陽極電圧の低下率および検出磁石温度を用いると、陽極電流を推測できるので、陽極電流モニタ3を省略することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明は、マグネトロンの陽極にパルス電流を供給してマグネトロンを駆動するパルス電源を制御する電源制御装置について有用である。
【符号の説明】
【0073】
3 陽極電流モニタ
4 温度センサ(温度検出手段)
5 出力調節器(出力調節手段)
30 プラズマ生成装置
32 パルス電源
33 マグネトロン
40 電源制御装置
図1
図2
図3
図4