【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕種々のpct遺伝子の評価
本実施例では、Clostridium. propionicum由来のpct遺伝子、Megasphaera elsdenii由来のpct遺伝子及びStaphylococcus aureus由来のpct遺伝子について、乳酸を乳酸CoA変換する活性を評価した。Clostridium. propionicum由来のpct遺伝子を導入するためのベクターpTV118N-C.P PCT、Megasphaera elsdenii由来のpct遺伝子を導入するためのベクターpTV118N-M.E PCT及びStaphylococcus aureus由来のpct遺伝子を導入するためのベクターpTV118N-S.A PCTを作製した。
【0037】
先ず、M. elsdenii(ATCC17753)、S. aureus(ATCC10832)及びC.propionicum(ATCC25522)のゲノムを常法により取得し、PCR法により各PCT遺伝子を取得した。M. elsdenii由来のpct遺伝子を含むDNA断片を増幅するためのプライマーとして、MePCTN:5’-atgagaaaagtagaaatcattac-3’(配列番号9)及びMePCTC:5’-ttattttttcagtcccatgggaccgtcctg-3’ (配列番号10)を使用した。S. aureus(ATCC10832)由来のpct遺伝子を含むDNA断片を増幅するためのプライマーとして、SpctN:5’-gtgccatggaacaaatcacatggcacgac-3’ (配列番号11)及びSpctC:5’-cacgaattcatactttatgaattgattg-3’ (配列番号12)を使用した。C.propionicum(ATCC25522) 由来のpct遺伝子を含むDNA断片を増幅するためのプライマーとして、CpPCTN:5’-gggggccatgggaaaggttcccattattaccgcagatgag-3’ (配列番号13)及びCpPCTC: 5’-ggggggctcgagtcaggacttcatttccttcagacccat-3’ (配列番号14)を使用した。
なお、プライマーの塩基配列はNCBIに登録されている情報を参考にしたが、M.elsdemniiについては特許WO02/42418に記載されている配列を参考にした。
【0038】
ゲノムから各遺伝子の増幅は以下の条件で行った。PCR (酵素KOD plus)(94℃ 1min)×1, (94℃ 0.5min, 50℃ 0.5min, 72℃ 2min)×30, (94℃ 2min)。増幅断片をTOPO BluntIIベクターに導入し、シークエンスを行った結果、C.propionicum 及びS.aureus由来PCTについてはNCBIデータベースに登録されている配列、AJ276553及びMW0211と完全に一致した。M.elsdenii由来PCTについては報告されている配列と塩基配列では97.8%のホモロジーであったが、アミノ酸配列では1箇所のみ異なっていた。
【0039】
上述したPCRにより得られたC.propionicum、M. elsdenii及びS. aureus由来の各PCT遺伝子を、それぞれpTV118Nベクター(タカラバイオ社製)のNcoI-BamHI、EcoR1-PstI及びNcoI-EcoRI間に挿入することで発現プラスミドpTV118N-C.P PCT、pTV118N-M.E PCT及びpTV118N-S.A PCTを作製した。その後、これら各発現プラスミドをそれぞれEscherichia coli W3110に導入した。
【0040】
得られた形質転換大腸菌を前培養した後、200ml LB/2L flaskに2%植菌、37℃、180rpmで3h培養した。OD600=0.5付近で10mM IPTGにより発現誘導し、30℃、80rpmで6h培養した。次に、遠心により菌体を回収し、37℃でM9(+1.5%Glucose, 10mMMgSO
4, 10mM パントテン酸Ca)で培養し(OD=20、3ml)、適宜サンプリングを行った。
【0041】
C.propionicum、M. elsdenii及びS. aureus由来の各PCT遺伝子による乳酸から乳酸CoAへの変換活性を、乳酸CoA合成量を測定することによって比較した。先ず、菌体を回収(1×10
5cellに相当量)し、試料調製を行った(n=3)。サクションフィルターシステムにアプライし、ミリQ水で2回洗浄した。MeOH溶液2ml入りのシャーレにフィルター(裏返)を入れ、室温で10分間放置後、1.6mlのMeOH溶液を遠沈管に移送し、1.6mlのクロロホルム及び640ulのミリQ水を混合し懸濁した。4600g、4℃、5min遠心後、水+MeOH層1.5mlを5k限外ろ過膜(Millopore社製)にて約2h遠心ろ過した。ろ液を回収し、凍結乾燥後、二次内部標準物質を含むミリQ水により200倍濃縮溶解しCE-MS分析に供した。CE-MS分析条件はAnal.Chem 2002,74, 6224-6229「Pressure-Assisted Capillary Electrophoresis Electrospray Ionization Mass Spectrometry for Analysis of Multivalent Anions」を参照した。
【0042】
結果を
図1に示す。
図1に示すように、Megasphaera elsdenii由来のpct遺伝子及びStaphylococcus aureus由来のpct遺伝子は、Clostridium. propionicum由来のpct遺伝子と比較して乳酸を乳酸CoAへ変換する活性が著しく高いことが明らかとなった。この結果から、Megasphaera elsdenii由来のpct遺伝子及び/又はStaphylococcus aureus由来のpct遺伝子を利用することによって、乳酸を基本骨格の一部又は全部とする脂肪族ポリエステルの合成反応における基質を十分に供給できることが明らかとなった。
【0043】
〔実施例2〕種々のPHAシンターゼ遺伝子の評価
本実施例では、種々のPHAシンターゼ遺伝子について、実施例1で乳酸から乳酸CoAの変換活性が著しく高いと評価されたMegasphaera elsdenii由来のpct遺伝子とともに発現させた場合のポリ乳酸の生産性を評価した。本例で検討したPHAシンターゼ遺伝子の一覧を表1に示す。表1中、No1のRhodobacter sphaeroides及びNo4のRhodospirillum rubrumについては、異なるAccession 番号で登録された複数の遺伝子が見いだされているためこれら複数の遺伝子について検討した。
【0044】
【表1】
【0045】
なお、表1において、ClassIとは活性は強いものの基質特異性が高いPHAシンターゼ遺伝子であり、ClassIIとは基質特異性が低いものの活性が弱いPHAシンターゼ遺伝子であり、ClassIIIとはPHAシンターゼ反応に他にphaEが存在していることを必要とするPHAシンターゼ遺伝子であり、ClassIVとはPHAシンターゼ反応に他にphaRが存在していることを必要とするPHAシンターゼ遺伝子である。
【0046】
これらNo1〜No17に示した17種類の微生物由来の19種類のPHAシンターゼ遺伝子を含むDNA断片を1回のPCR又は2回のPCRによって増幅し、当該DNA断片をMegasphaera elsdenii由来のpct遺伝子が導入されたpTV188Nベクターに導入した。DNA断片の増幅のために設計した、1stPCR用プライマーを表2及び3に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
DNA断片の増幅のために設計した、2stPCR用プライマーを表4及び5に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
また、これらプライマーを用いたPCRにおける反応条件を表6及び表7に示した。
【0053】
【表6】
【0054】
【表7】
【0055】
なお、表6及び7に示した反応条件における反応液組成A〜Hまでを表8に示す。
【0056】
【表8】
【0057】
なお、No.13のpha遺伝子に関しては、2つの遺伝子(phaR及びphaC)が間に別の遺伝子を挟んで存在するため、1stPCRでそれぞれをクローニングした後に2ndPCRにより一つに繋げた。さらに、ベクターとライゲーションするために、もう一度PCR (反応液組成:G’、温度条件:94℃2分→94℃15秒、50℃30秒、68℃1分40秒×5サイクル→94℃15秒、60℃30秒、68℃1分40秒×30サイクル→68℃5分)した。
【0058】
また、No.2、3及び8のphaC遺伝子については、2ndPCR産物を精製したものとpTV118N-PCT-C1ベクターとをそれぞれ、制限酵素(XbaI及びPstI(タカラバイオ製))で消化し,10×loading Buffer(タカラバイオ(株)製)とともに、アガロースゲル(0.8%、TAE)にロードし電気泳動で分離、切り出し精製を行った。精製はMinElute Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用い、プロトコールに従って行った。ライゲーションおよび形質転換は、それぞれLigation-Convenience Kit(ニッポンジーン製)、ECOS competent E.coli JM109(ニッポンジーン(株)製)を用いてプロトコールに従い行った。得られた形質転換体をLB-Amp培地2mlで培養し,QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を用いてプラスミド抽出を行った。Big Dye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社製)を用いてシークエンス反応を行い,DNAシークエンサー3100 Genetic Analyzer (Applied Biosystems社製)を用いて配列の確認を行った。
【0059】
さらに、No.1、4〜7及び9〜17のphaC 遺伝子については、実験操作の簡便性又はphaC遺伝子内にPstIサイトがある(No.4、6、10及び12)ことから、ライゲーションをIn-Fusion 2.0 Dry-Down PCR Cloning Kit (Clontech Laboratories社製)を使用して行った。他の部分は上記と同様に行った。
【0060】
上述のように得られた各種phaC遺伝子をそれぞれpTV118N-M.E PCTに組み込みベクターを取得した。得られたベクターを大腸菌W3110コンピテントセルに導入し、Megasphaera elsdenii由来のpct遺伝子及び上記いずれかのPHAシンターゼ遺伝子を発現する組み換え大腸菌を作製した。得られた組み換え大腸菌は、アンピシリンを含むLB培地に植菌され、37℃で一晩静置培養した。得られたコロニーを、アンピシリンを含むLB液体培地2mLに植菌し、37℃でOD600=0.6〜1.0になるまで試験管内で振とう培養した。これを前培養液とした。
【0061】
次に、アンピシリン、2%グルコース及び0.1mMIPTGを含むM9培地200mLに前培養液2mLを添加し、500mLバッフル付き三角フラスコを用いて30℃で48時間、130rpmで回転培養した。
【0062】
培養終了後、培養液を50mLコーニングチューブに移し、3000rpm、15分間の条件で集菌し、上清を破棄した後、-80℃のフリーザー内で一晩保管することで凍結させた。その後、凍結乾燥機を用いて2日間凍結乾燥させた。その後、乾燥菌体100mgを用いて耐圧反応菅へ移し、クロロホルムを1.6mL添加した。更に、メタノールと硫酸の混合溶液(メタノール:硫酸=17:3(体積比))を1.6mL添加し、95℃に設定したウォーターバス内で3時間リフラックスさせた。その後、耐圧反応菅を取り出し、室温まで冷却し、内部の溶液を試験管に移した。試験管内に更に超純水を0.8mL添加し、vortexを用いて混合した後、静置した。十分に静置した後、下層のクロロホルム相をパスツールピペットにて分取した。クロロホルム相を0.2μmメッシュの有機溶媒耐性フィルターでろ過し、GC-MS用のバイアル瓶に移し、分析用サンプルとした。
【0063】
GC-MS装置としては、ヒューレットパッカード社製のHP6890/5973を使用した。カラムとしては、アジレントテクノロジー社製のBD-1 122-1063(内径:0.25mm、長さ:60m、膜厚:1μm)を使用した。昇温条件は、120℃で5分間保持した後、10℃/minにて200℃まで昇温し、その後、20℃/minで300℃まで昇温して8分間保持する条件とした。
【0064】
各組み換え大腸菌におけるポリ乳酸の生産性を比較した結果を
図2に示す。
図2に示すように、No7に示すPseudomonas sp. 61-3株由来のPHAシンターゼ遺伝子(phaC2遺伝子)及びAlcanivorax borkumensis SK2株由来のPHAシンターゼ遺伝子を使用した組み換え大腸菌は、他の微生物由来のPHAシンターゼ遺伝子を使用した組み換え大腸菌と比較すると、ポリ乳酸の生産性が極めて高い値を示した。以上の結果から、Megasphaera elsdenii由来のpct遺伝子と、Pseudomonas sp. 61-3株由来のPHAシンターゼ遺伝子(phaC2遺伝子)又はAlcanivorax borkumensis SK2株由来のPHAシンターゼ遺伝子を共発現させることで、ポリ乳酸の生産性が大幅に向上することが明らかとなった。なお、本実施例においては、培中に乳酸を別途添加しておらず、通常の炭素源(グルコース)を有する培地にてポリ乳酸を合成したものである。また、Alcanivorax borkumensis SK2株由来のPHAシンターゼ遺伝子は、単独では活性を示さず、PHA合成反応にはphaEが必要であることが示唆されている遺伝子である(表1におけるClassIII)。ところが、本実施例では、phaE遺伝子を導入していないにも拘わらず、Alcanivorax borkumensis SK2株由来のPHAシンターゼ遺伝子単独でPHAシンターゼ活性を示すことが明らかとなった。