特許第5786169号(P5786169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5786169発酵茶、発酵茶からの抽出物およびこれを含有する薬効性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5786169
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】発酵茶、発酵茶からの抽出物およびこれを含有する薬効性組成物
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/06 20060101AFI20150910BHJP
   A61K 36/18 20060101ALI20150910BHJP
   A61K 36/00 20060101ALI20150910BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20150910BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20150910BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20150910BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20150910BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   A23F3/06 T
   A61K35/78 C
   A61K35/78 X
   A61P1/16
   A61P3/06
   A61P3/10
   A61P7/04
   A61P7/06
【請求項の数】3
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2009-68709(P2009-68709)
(22)【出願日】2009年3月19日
(65)【公開番号】特開2010-220489(P2010-220489A)
(43)【公開日】2010年10月7日
【審査請求日】2011年8月18日
【審判番号】不服2013-1120(P2013-1120/J1)
【審判請求日】2013年1月22日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地域資源活用型研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】599035339
【氏名又は名称】株式会社 レオロジー機能食品研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591027927
【氏名又は名称】福岡県醤油醸造協同組合
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】595123760
【氏名又は名称】一番食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069903
【弁理士】
【氏名又は名称】幸田 全弘
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 志郎
(72)【発明者】
【氏名】船津 軍喜
(72)【発明者】
【氏名】藤野 武彦
(72)【発明者】
【氏名】野田 義治
(72)【発明者】
【氏名】植木 達朗
(72)【発明者】
【氏名】園元 謙二
(72)【発明者】
【氏名】善藤 威史
(72)【発明者】
【氏名】猪熊 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】有吉 崇
(72)【発明者】
【氏名】仁田原 寿一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 哲也
(72)【発明者】
【氏名】堺田 輝貴
(72)【発明者】
【氏名】中園 健太郎
【合議体】
【審判長】 千壽 哲郎
【審判官】 鳥居 稔
【審判官】 紀本 孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−333929(JP,A)
【文献】 特開2002−95413(JP,A)
【文献】 特開2005−341876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00-3/42
A61K 35/00-35/76
C07G 1/00-99/00
C12P 1/00-41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料茶葉を、黒麹を用いて温度30〜45℃、期間3〜6日間で好気発酵させた後、蒸煮処理することにより調製されたこと
を特徴とする発酵茶。
【請求項2】
原料茶葉を、黒麹を用いて温度30〜45℃、期間3〜6日間で好気発酵させた後、蒸煮処理することにより調製された発酵茶から、熱水を用いて分離されたこと
を特徴とする熱水による抽出物。
【請求項3】
請求項に記載の抽出物を含有すること
を特徴とする薬効性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、茶葉の発酵によって産生させた発酵茶、この発酵茶からの抽出物および前記抽出物を含有する薬効性組成物に関するものである。
特に、この発明は、風味において優れ、健康により貢献する発酵茶、さらには、その発酵茶から抽出・分離された各種疾病の予防、又は治療用の医薬として使用される可能性のある抽出物ないし薬効性化合物、ならびに前記抽出物ないし薬効性化合物を含む薬効性組成物に関するもので、製茶技術、健康食品調製技術および医薬調製技術に属するものである。
【背景技術】
【0002】
嗜好品としてのお茶は、非常に古くから、また全世界的に愛用されている。
その多くは、茶葉に湯を注いで、その浸出液を飲むというものである。
前記浸出液には、茶葉から抽出された種々の成分が含まれているため、独特の香と味とを有し、特有の機能を有するものである。
そのため、茶葉の成分に関しての研究が、幅広く行われ、その成分に関しても、以下のようなことが知られている。
【0003】
すなわち、茶の特徴的な成分は、カフェインとタンニン系の物質のカテキンである。
このカフェインは、人に興奮作用を与え、苦味を呈し、利尿作用も有する。
前記カテキンは、茶の成分としては一番量の多いもので、茶の渋味の成分である。
さらに、それら以外にも、テアニンに代表されるアミノ酸、ビタミンCに代表されるビタミン類、クロロフィル類、カリウムやカルシウムなどの無機成分、ジメチルスルフィド、青葉アルコール、テルペンアルコールなどの香料成分など幅広く知られている。
【0004】
これらの成分が茶葉からの製茶の段階で、変化することも知られている。
例えば、釜炒茶、ほうじ茶では、ピラジン、ピロール等の含窒素化合物が多くなり、発酵茶では、花香をもつテルペンアルコールが、非常に多くなることが知られている(平凡社発行:世界大百科事典参照)。
【0005】
このように茶葉には、各種の有用な成分が多く含まれているため、その成分を効率よく抽出することや、茶葉を加工して有効成分を多く取得する試みが、古くから多くなされている。
特に、発酵茶に関するものでは、例えば、特開2002−370994号公報(特許文献1)においては、黒茶、すなわち、黒麹菌等による後発酵法により長期熟成した黒茶から、熱水抽出により血糖値抑制物質が得られたことが報告されている。
【0006】
特開2005−341876号公報(特許文献2)においては、茶葉に麹菌又は麹を加え、これを発酵させることによって、マルターゼ阻害効果を有するお茶が得られることが報告されている。
【0007】
一方、本願の発明者らは、先に酢酸による抽出で、発酵茶葉から肝機能の悪化の防止等が図れる薬効性組成物が得られることを見出して、特許出願を行なった。
その内容は、特開2007−238584号公報(特許文献3)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−370994号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2005−341876号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2007−238584号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献3に記載の発明は、茶葉における有効成分を抽出し、健康食品や医薬の原料として用い、より効率的に茶葉を、しかも製茶に利用できない茶葉(刈捨葉)も利用できる、薬効性の高い組成物を提供することを目的としたものである。
この特許文献3における有効成分は、粉末状態でも、酢酸あるいは水又はエタノール溶液としても使用することができ、使用されていなかった刈捨葉からでも調製されるため、環境に優しく、エコロジカルな面でも優れたものである。
【0010】
特に、この薬効性組成物は、肝機能(AST、ALT)の悪化の防止、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の増大、血糖値の上昇防止、血小板の減少防止、酸化ストレスによる赤血球変形能の低下の防止など優れた医学的効果を奏するものである。
【0011】
かかる状況において、発明者らは、さらに発酵茶(後発酵茶・黒茶)の有する各種成分の特性をより深く追求するとともに、発酵茶の調製条件、原料茶葉による含有成分の変化等について検討し、幅広く利用されている茶葉を、さらに有効活用するために、茶葉における有効成分について、また、その発酵条件による変化について鋭意検討を行った。
【0012】
その結果、発明者らは、黒麹を用いて醗酵させた茶葉には、発酵条件によるが、未だ構造は解明されていないが、従来の茶葉には存在しない化合物が産生して存在すること、この化合物の存在した茶葉は風味がよいこと、また、この化合物は、水、特には熱水や冷水さらには希酢酸による抽出により分離され、それらが薬効性を有することを見出し、この発明を完成させたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、この発明の請求項1に記載の発明は、
原料茶葉を、黒麹を用いて温度30〜45℃、期間3〜6日間で好気発酵させた後、蒸煮処理することにより調製されたこと
を特徴とする発酵茶である。
【0014】
この発明の請求項2に記載の発明は、
原料茶葉を、黒麹を用いて温度30〜45℃、期間3〜6日間で好気発酵させた後、蒸煮処理することにより調製された発酵茶から、熱水を用いて分離されたこと
を特徴とする熱水による抽出物である。
【0015】
この発明の請求項に記載の発明は、
請求項に記載の抽出物を含有すること
を特徴とする薬効性組成物である。
【発明の効果】
【0016】
この発明にかかる発酵茶は、薬効性化合物の存在により、赤血球変形能に及ぼす効果が大きいものである。
したがって、健康維持のためのお茶として有効なばかりでなく、その風味は、玉露から調製された発酵茶を凌ぐものであって、風味の高い健康飲料として、茶葉のさらなる活用が図れるものである。
しかも、この発明によれば、このような薬効性化合物を高含量で含有する発酵茶を、3〜6日間で得ることができる。
【0017】
特に、この発明にかかる発酵茶は、各種の機能を有する薬効性化合物を含んでいる。
当該発酵茶からの抽出液、さらには精製された、薬効性化合物は、以下のような優れた薬効性を奏するもので、健康食品の素材として、医薬の原料として、有効に利用される可能性の高いものである。
1.赤血球変形能低下防止
2.抗酸化活性、ラジカル捕捉活性
3.α−グルコシダーゼ/リパーゼ阻害活性
【0018】
この発明にかかる薬効性化合物は、粉末状態でも、酢酸あるいは水又はエタノール溶液としても使用することができるため、上記のような効果を発現させるために、健康食品や医薬として利用する際に、効率的、効果的に活用することを可能とするものである。
【0019】
この発明にかかる薬効性組成物は、前記抽出物ないし薬効性化合物を含有するので、各種疾病の予防や治療用の医薬として使用することが可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】発酵処理1日後の、発酵茶サンプルの抽出液のHPLCチャートである。
図2】発酵処理3日後の、発酵茶サンプルの抽出液のHPLCチャートである。
図3】発酵処理期間による抽出液の成分の変化を示す図である。
図4】カテキンの蛍光検出法による抽出液の検出結果を示す図である。
図5】70%アセトンを用いる重合カテキンの検出法による抽出液の検出結果を示す図である。
図6】加チオール分解でのX成分の検出結果を示す図である。
図7】発酵茶の4.5%酢酸抽出物のHPLC分析の結果を示す図である。
図8図7の各ピークの紫外線吸収スペクトルである。
図9】発酵茶の4.5%酢酸抽出物のBio−Gelカラムによる分画図である。
図10】発酵茶酢酸抽出物からの酢酸エチル抽出のBio−Gelカラムによる分画図である。
図11図10の3画分のHPLCチャートである。
図12図10の画分5のSephdex LHカラム(2×27cm)による吸着クロマトの図である。
図13図15の300nmに吸収を持つ画分のHPLCチャートである。
図14】画分5のHPLCで精製したX成分のHPLCチャートである。
図15】画分5のHPLCで精製したX成分の紫外線吸収スペクトルである。
図16】X成分の結晶写真である。
図17】X成分の赤血球変形能低下抑制効果を示す図である。
図18】X成分の抗酸化活性を示す図である。
図19】X成分のDHHPラジカル捕捉活性を示す図である。
図20】X成分の酵素阻害活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の発酵茶は、従来公知の黒麹を用いた発酵方法で調製されるものである。
その方法自体には、格別新規な条件は存在しないが、今回、発明者らが見出した薬効性化合物が産生し、発酵茶が、薬効性化合物を含有する状態を維持することが必要である。
【0022】
前記発酵茶が、薬効性化合物を含有する状態を維持する発酵条件として、一番重要な条件は、発酵期間である。
優れた黒茶の製造には、長い場合には数ヶ月要するとされ、特許文献2においても好ましくは3週間程度(段落0030)とされているが、上記条件を満たすための期間として、この発明にとり好ましい発酵期間は、3〜10日間、より好ましくは3〜6日間で、それにより薬効性化合物を高含量で含有する発酵茶が得られる。
前記発酵期間は、3〜6日間が採用される。
前記発酵は、好気発酵が採用される。
【0023】
この発明に使用される原料茶葉としては、得られる発酵茶の風味の点から二番茶、すなわち、5月頃に収穫した一番茶の後に出てくる芽を6月頃に収穫した茶葉を用いるのが好ましい。
この二番茶を用いた発酵茶は、玉露、一番茶、三番茶、秋冬番茶を用いた発酵茶に比べて、優れた風味を有するものとなる。
【0024】
その他の発酵条件、すなわち、原料黒麹、発酵中の温度(通常温度30〜45℃)、発酵中の水分(通常25〜35%)など、一般に、黒麹を用いて発酵茶を調製する条件に従って行なうことによって、目的とする発酵茶および薬効性化合物を得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下、この発明にかかる発酵茶、この発酵茶からの抽出物、およびこれらに含まれる薬効性化合物、ならびに前記抽出物ないし薬効性化合物を含有する薬効性組成物を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【0026】
<発酵茶の調製>
原料茶葉として、玉露、一番茶、二番茶、三番茶、秋冬番茶を用い、以下の工程で発酵茶を調製した。
【0027】
原料茶葉(荒茶)240kgをドラム回転式自動製麹装置に投入し、ドラムの回転により攪拌しながら水210kgを加えて、原料茶葉を膨潤させた。
別途、原料茶葉(粉茶)30kgと黒麹により調製した種麹210g混和したものを、膨潤させた原料茶葉に添加し、撹拌しながら設定温度35℃で6日間発酵させた。
発酵時の温度上昇は、空冷ファンを用いて抑え、設定温度を維持するように努めた。
発酵した茶葉は、温度100℃の蒸煮殺菌と、温度55℃の乾燥を経て製品としての発酵茶とした。
【0028】
<発酵茶の官能試験>
各原料から得られた発酵茶について、男女各5名による風味試験を、5点法(5:良い、3:普通、1:悪い)で行ったところ、下記表1に示される結果が得られた。
表1から明らかなように、原料茶葉(荒茶)においては、玉露が一番高く評価され、次いで一番茶である。
上記条件で調整された発酵茶においては、玉露の評価が大きく落ち、それに変わって二番茶を原料とする発酵茶が最も風味が良いという結果になっている。
【0029】
【表1】
【0030】
<発酵茶の赤血球変形能低下抑制>
上記の発酵茶のうち、原料を玉露、二番茶、秋冬番茶とするものについて、その原料、発酵茶および当該発酵茶を、さらに、通常の発酵条件で15日間嫌気発酵させた二次発酵茶について、その熱湯抽出液に関する、下記に示す方法で測定した赤血球変形能低下抑制効果を表2に示す。
なお、表中の数字は、赤血球変形能を低下させる酸化剤AAPH添加時(B)と、AAPHと試料液添加時(C)との相対変化(%)で表したものである。
【0031】
【表2】
【0032】
<赤血球変形能測定方法>
3.8%クエン酸ソーダ溶液1.0mlを含む採血管に、採血した血液10.0mlを2,500rpm×10分遠心分離して赤血球を沈殿させたのち、洗浄し、HEPESを加え、6.0%赤血球浮遊液を調製した。
この6.0%赤血球浮遊液3.0mlに、HEPESを((A)3.0ml、(B)2.40ml、(C):2.34ml)加え、温度37.0℃で予備インキュベートしたのち、前記(B)には、500mMのAAPH溶液0.6mlを、前記(C)には、500mMのAAPH溶液0.6mlと醗酵茶の抽出物溶液0.06ml(10mg/2ml)を添加し、温度37.0℃で45分インキュベートした。
その後、測定するまで氷冷し、測定は、温度25.0℃で7分、再度インキュベートしてから行なった。
なお、前記(A)はコントロールである。
【0033】
前記測定は、垂直に立てたガラス管(vertical tube)に、タイゴンチューブを介してニッケルメッシュホルダーを接続し、通常15cmの高さ(height:h)より、HEPESバッファーで調整した生理食塩水を用いて作成した赤血球浮遊液を、濾過させて行う。
前記ガラス管の周囲は、恒温水を還流させて、試料を定温に保っている。
ガラス管のゼロレベルに設置した圧力(pressure:P)トランスデューサーで、試料を濾過中の圧力降下を連続的に検出し、これを増幅器とAD変換器を介してパソコンに取り込み、流量(flowrate:Q)を計算する。
流量は、圧力を高さに変換し(P=pgh)、高さ‐時間(h−t)曲線の微分値(dh/dt)を取って、これにガラス管の断面積(a)を乗じて得られる(Q=dh/dt・a)。
【0034】
血球を含まないコントロールx(HEPESバッファー調整生食水:ニュートン流体)の圧−流量曲線を対照として、赤血球浮遊液の圧‐流量曲線を検討し、ある一定圧(通常100mm・HO)での、対照液の流量に対する赤血球浮遊液の流量(%)をもって赤血球変形能を評価した。
【0035】
<発酵茶抽出液の成分変化>
二番茶に基づく発酵茶の調製時に、1日毎にサンプリングした茶葉について、熱湯抽出を行ない、得られた抽出物をHPLCにより分析した。
【0036】
図1は、1日後のサンプルの抽出液、図2は、3日後のサンプルの抽出液のHPLCチャートである。
それらの結果に基づいて得られた抽出液の成分の変化を、図3に示した。
なお、図中の略号は、以下の化合物を示すものである。
GA ;没食子酸
EC ;エピカテキン
ECG ;エピカテキンガレート
EGC ;エピガロカテキン
EGCG;エピガロカテキンガレート
【0037】
X、Y、Zはポリフェノールとも思われるが、現状不明成分であり、なかでもX成分の量が飛び抜けて多いものである。
それらの抽出液の赤血球変形能は、以下の表3の通りであった。
なお、表には表されていないが、発酵後に行われる蒸煮処理によっても、香味の向上や赤血球変形能低下抑制効果が向上し、例えば、4日間発酵させたもので37%を示したものは、蒸煮処理後に79%と上昇していた。
【0038】
【表3】
【0039】
<X成分の同定>
図3から明らかなように、図中、X成分を除いて、他の成分の殆どは、発酵開始1日〜2日後に最大値を有し、その後減少傾向にある。
これに対し、成分Xは、1日目には存在が認められなかったのに対し、2日目から顕著に増加し、5日目において最大値を有しており、表3に示された赤血球変形能との関連が強い化合物であると推定された。
【0040】
現在のところ、X成分の同定はなされていないが、下記のデータから、カテキン、重合カテキン、加水分解型タンニンではないことは確認された。
1)カテキンの蛍光検出法(280nmEx,310nmEm)では、図4に示されるように、抽出液に、カテキンの存在は認められない。
2)70%アセトンを用いる重合カテキンの検出法では、図5に認められるように重合カテキンは検出されない。
3)図6に示されるように、X成分の加チオール分解でカテキンが検出されない。
なお、没食子酸起因化合物が加水分解型タンニンであることも考慮されるが、4M塩酸を用い、温度85℃で5時間、X成分を加水分解したところ、分解により生じたものは幾つかのフェノール酸であって、加水分解型タンニンではないことが確認された。
【0041】
<X成分の抽出・精製>
X成分の抽出・精製を、以下の手順で行った。
まず、200gの発酵茶を用い、抽出媒体として4.5%酢酸を用い、減圧濃縮・凍結乾燥によって、72.6gの抽出物(収率:36.3%)を得た。
この抽出物について、前記と同様にHPLC分析を行い、その結果を図7に、図8に、
各ピークの紫外線吸収スペクトルを示す。
図7において、ピークa〜cは、その溶出位置と吸収スペクトルから、それぞれEGC、Cafein、ECで、ピークdは、図1の条件下でX成分と同一溶出位置を示し、X成分であることがわかった。
【0042】
前記抽出物を、Bio−Gel P−10カラム(2×28cm)を用い、1%酢酸水溶液を展開液として分画した結果を、図9および表4に示した。
各画分を前記と同様にHPLCで分析した結果、X成分は画分5に、褐色のカテキン重合体と一緒に含まれることが分かった。
【0043】
【表4】
【0044】
上記分画により得られた、X成分を含有する画分5について、酢酸エチルによる抽出を行なった。
その結果、X成分は酢酸エチル層に抽出され、カテキン重合体は水層に残ることが確認され、X成分含有酢酸エチルを濃縮した後脱イオン水を加えて希釈した溶液を、Bio−Gel P−10カラム(ラボラトリーズ社製:3×28cm)に供し、1%酢酸水溶液で展開したときの溶出パターンを図10に示す。
その画分4〜6について、前記と同様にして、HPLC分析を行った結果、図11に示すように、いずれもX成分を含むことが分かった。
【0045】
凍結乾燥した画分5にメタノールを加えて撹拌、遠心分離して得られた上清を、予めメタノールで平衡化したSephadex LHカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製:2×27cm)に供し、メタノールで展開した。
その溶出パターンを図12に、300nmに吸収をもつ画分のHPLCパターンを図13に示す。
【0046】
この画分を上記と同様に、TFA−MeCN系のHPLCで精製したところ、図14に示されるように、精製されたX成分が得られた。
その紫外線吸収スペクトルは、図15に示す通りであった。
この画分を減圧乾固し、脱イオン水を加え、暖めて溶解した後、冷却した結果、図16のような結晶が得られた。
【0047】
得られたX成分の機能を測定し、その結果を図17〜20に示した。
なお、図17〜20の内容は、以下の通りである。
これらの結果から、X成分は優れた薬効性を有する化合物であることが明らかで、この発明においては、このX成分を薬効性化合物と云う。
図17:赤血球変形能
図18:抗酸化活性
図19:DHHPラジカル捕捉活性
図20:酵素阻害活性
赤血球変形能以外の測定法は、以下の通りである。
【0048】
<抗酸化活性の測定方法>
前記で得られた各試料の抗酸化活性を、リノ−ル酸の酸化物がβ−カロチンを退色させる作用を利用したMillerらの方法に準じ、以下の方法で測定した。
試料を分注した分光光度計用試験管セルに、リノ−ル酸−β−カロチン溶液を加えて攪拌し、温度50℃の恒温槽で、20分間反応させた場合のβ−カロチンの退色度を470nmの吸光度によって求め、合成抗酸化剤ブチルヒドロキシアニソール(BHA)による吸光度の減少量を測定し、試料と同じ減少量を与えるBHAの濃度によって、試料の抗酸化活性を表した。
【0049】
<ラジカル捕捉活性測定法>
試料溶液に、等量のDPPH(1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル)溶液、MES緩衝液、20%エタノールを加え、室温で20分間反応させた後、520nmでの吸光度を測定した。
その活性は、同様にして行ったアスコルビン酸(AsA)で、DPPHラジカル捕捉活性の検量線を作成し、試料g当たりのラジカル捕捉活性を、AsA当量(μmol/g又はmmol/g)で表した。
【0050】
<酵素阻害活性測定方法>
試料溶液50μl又は25μlに、小腸α−グルコシダーゼ溶液又は膵リパーゼ溶液25μlを加え、温度37℃で10分間インキュベートしたのち、4−メチルウンベリフェロンのα−D−グルコース又はオレイン酸エステル(基質)溶液25μl又は50μlを添加してインキュベートした。
0.2モル濃度のNaCO3溶液又は0.1モル濃度のクエン酸緩衝液(pH4.2)を加えて反応を停止したのち、生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光度を450nmで測定して阻害率を算出した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明における発酵茶、この発酵茶からの抽出物、およびこれらに含まれる薬効性化合物、ならびに前記抽出物ないし薬効性化合物を含む薬効性組成物は、前記のような優れた特性を有し、かつ前記抽出物および薬効性化合物は、粉末ないし水、酢酸又はエタノールの無毒の溶媒溶液として供給可能なものであるため、この発明は製茶業界を始めとして、健康食品産業や医薬業界で広く利用される可能性の高いものである。
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