【実施例】
【0025】
以下、この発明にかかる発酵茶、この発酵茶からの抽出物、およびこれらに含まれる薬効性化合物、ならびに前記抽出物ないし薬効性化合物を含有する薬効性組成物を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【0026】
<発酵茶の調製>
原料茶葉として、玉露、一番茶、二番茶、三番茶、秋冬番茶を用い、以下の工程で発酵茶を調製した。
【0027】
原料茶葉(荒茶)240kgをドラム回転式自動製麹装置に投入し、ドラムの回転により攪拌しながら水210kgを加えて、原料茶葉を膨潤させた。
別途、原料茶葉(粉茶)30kgと黒麹により調製した種麹210g混和したものを、膨潤させた原料茶葉に添加し、撹拌しながら設定温度35℃で6日間発酵させた。
発酵時の温度上昇は、空冷ファンを用いて抑え、設定温度を維持するように努めた。
発酵した茶葉は、温度100℃の蒸煮殺菌と、温度55℃の乾燥を経て製品としての発酵茶とした。
【0028】
<発酵茶の官能試験>
各原料から得られた発酵茶について、男女各5名による風味試験を、5点法(5:良い、3:普通、1:悪い)で行ったところ、下記表1に示される結果が得られた。
表1から明らかなように、原料茶葉(荒茶)においては、玉露が一番高く評価され、次いで一番茶である。
上記条件で調整された発酵茶においては、玉露の評価が大きく落ち、それに変わって二番茶を原料とする発酵茶が最も風味が良いという結果になっている。
【0029】
【表1】
【0030】
<発酵茶の赤血球変形能低下抑制>
上記の発酵茶のうち、原料を玉露、二番茶、秋冬番茶とするものについて、その原料、発酵茶および当該発酵茶を、さらに、通常の発酵条件で15日間嫌気発酵させた二次発酵茶について、その熱湯抽出液に関する、下記に示す方法で測定した赤血球変形能低下抑制効果を表2に示す。
なお、表中の数字は、赤血球変形能を低下させる酸化剤AAPH添加時(B)と、AAPHと試料液添加時(C)との相対変化(%)で表したものである。
【0031】
【表2】
【0032】
<赤血球変形能測定方法>
3.8%クエン酸ソーダ溶液1.0mlを含む採血管に、採血した血液10.0mlを2,500rpm×10分遠心分離して赤血球を沈殿させたのち、洗浄し、HEPESを加え、6.0%赤血球浮遊液を調製した。
この6.0%赤血球浮遊液3.0mlに、HEPESを((A)3.0ml、(B)2.40ml、(C):2.34ml)加え、温度37.0℃で予備インキュベートしたのち、前記(B)には、500mMのAAPH溶液0.6mlを、前記(C)には、500mMのAAPH溶液0.6mlと醗酵茶の抽出物溶液0.06ml(10mg/2ml)を添加し、温度37.0℃で45分インキュベートした。
その後、測定するまで氷冷し、測定は、温度25.0℃で7分、再度インキュベートしてから行なった。
なお、前記(A)はコントロールである。
【0033】
前記測定は、垂直に立てたガラス管(vertical tube)に、タイゴンチューブを介してニッケルメッシュホルダーを接続し、通常15cmの高さ(height:h)より、HEPESバッファーで調整した生理食塩水を用いて作成した赤血球浮遊液を、濾過させて行う。
前記ガラス管の周囲は、恒温水を還流させて、試料を定温に保っている。
ガラス管のゼロレベルに設置した圧力(pressure:P)トランスデューサーで、試料を濾過中の圧力降下を連続的に検出し、これを増幅器とAD変換器を介してパソコンに取り込み、流量(flowrate:Q)を計算する。
流量は、圧力を高さに変換し(P=pgh)、高さ‐時間(h−t)曲線の微分値(dh/dt)を取って、これにガラス管の断面積(a)を乗じて得られる(Q=dh/dt・a)。
【0034】
血球を含まないコントロールx(HEPESバッファー調整生食水:ニュートン流体)の圧−流量曲線を対照として、赤血球浮遊液の圧‐流量曲線を検討し、ある一定圧(通常100mm・H
2O)での、対照液の流量に対する赤血球浮遊液の流量(%)をもって赤血球変形能を評価した。
【0035】
<発酵茶抽出液の成分変化>
二番茶に基づく発酵茶の調製時に、1日毎にサンプリングした茶葉について、熱湯抽出を行ない、得られた抽出物をHPLCにより分析した。
【0036】
図1は、1日後のサンプルの抽出液、
図2は、3日後のサンプルの抽出液のHPLCチャートである。
それらの結果に基づいて得られた抽出液の成分の変化を、
図3に示した。
なお、図中の略号は、以下の化合物を示すものである。
GA ;没食子酸
EC ;エピカテキン
ECG ;エピカテキンガレート
EGC ;エピガロカテキン
EGCG;エピガロカテキンガレート
【0037】
X、Y、Zはポリフェノールとも思われるが、現状不明成分であり、なかでもX成分の量が飛び抜けて多いものである。
それらの抽出液の赤血球変形能は、以下の表3の通りであった。
なお、表には表されていないが、発酵後に行われる蒸煮処理によっても、香味の向上や赤血球変形能低下抑制効果が向上し、例えば、4日間発酵させたもので37%を示したものは、蒸煮処理後に79%と上昇していた。
【0038】
【表3】
【0039】
<X成分の同定>
図3から明らかなように、図中、X成分を除いて、他の成分の殆どは、発酵開始1日〜2日後に最大値を有し、その後減少傾向にある。
これに対し、成分Xは、1日目には存在が認められなかったのに対し、2日目から顕著に増加し、5日目において最大値を有しており、表3に示された赤血球変形能との関連が強い化合物であると推定された。
【0040】
現在のところ、X成分の同定はなされていないが、下記のデータから、カテキン、重合カテキン、加水分解型タンニンではないことは確認された。
1)カテキンの蛍光検出法(280nmEx,310nmEm)では、
図4に示されるように、抽出液に、カテキンの存在は認められない。
2)70%アセトンを用いる重合カテキンの検出法では、
図5に認められるように重合カテキンは検出されない。
3)
図6に示されるように、X成分の加チオール分解でカテキンが検出されない。
なお、没食子酸起因化合物が加水分解型タンニンであることも考慮されるが、4M塩酸を用い、温度85℃で5時間、X成分を加水分解したところ、分解により生じたものは幾つかのフェノール酸であって、加水分解型タンニンではないことが確認された。
【0041】
<X成分の抽出・精製>
X成分の抽出・精製を、以下の手順で行った。
まず、200gの発酵茶を用い、抽出媒体として4.5%酢酸を用い、減圧濃縮・凍結乾燥によって、72.6gの抽出物(収率:36.3%)を得た。
この抽出物について、前記と同様にHPLC分析を行い、その結果を
図7に、
図8に、
各ピークの紫外線吸収スペクトルを示す。
図7において、ピークa〜cは、その溶出位置と吸収スペクトルから、それぞれEGC、Cafein、ECで、ピークdは、
図1の条件下でX成分と同一溶出位置を示し、X成分であることがわかった。
【0042】
前記抽出物を、Bio−Gel P−10カラム(2×28cm)を用い、1%酢酸水溶液を展開液として分画した結果を、
図9および表4に示した。
各画分を前記と同様にHPLCで分析した結果、X成分は画分5に、褐色のカテキン重合体と一緒に含まれることが分かった。
【0043】
【表4】
【0044】
上記分画により得られた、X成分を含有する画分5について、酢酸エチルによる抽出を行なった。
その結果、X成分は酢酸エチル層に抽出され、カテキン重合体は水層に残ることが確認され、X成分含有酢酸エチルを濃縮した後脱イオン水を加えて希釈した溶液を、Bio−Gel P−10カラム(ラボラトリーズ社製:3×28cm)に供し、1%酢酸水溶液で展開したときの溶出パターンを
図10に示す。
その画分4〜6について、前記と同様にして、HPLC分析を行った結果、
図11に示すように、いずれもX成分を含むことが分かった。
【0045】
凍結乾燥した画分5にメタノールを加えて撹拌、遠心分離して得られた上清を、予めメタノールで平衡化したSephadex LHカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製:2×27cm)に供し、メタノールで展開した。
その溶出パターンを
図12に、300nmに吸収をもつ画分のHPLCパターンを
図13に示す。
【0046】
この画分を上記と同様に、TFA−MeCN系のHPLCで精製したところ、
図14に示されるように、精製されたX成分が得られた。
その紫外線吸収スペクトルは、
図15に示す通りであった。
この画分を減圧乾固し、脱イオン水を加え、暖めて溶解した後、冷却した結果、
図16のような結晶が得られた。
【0047】
得られたX成分の機能を測定し、その結果を
図17〜20に示した。
なお、
図17〜20の内容は、以下の通りである。
これらの結果から、X成分は優れた薬効性を有する化合物であることが明らかで、この発明においては、このX成分を薬効性化合物と云う。
−
図17:赤血球変形能
−
図18:抗酸化活性
−
図19:DHHPラジカル捕捉活性
−
図20:酵素阻害活性
赤血球変形能以外の測定法は、以下の通りである。
【0048】
<抗酸化活性の測定方法>
前記で得られた各試料の抗酸化活性を、リノ−ル酸の酸化物がβ−カロチンを退色させる作用を利用したMillerらの方法に準じ、以下の方法で測定した。
試料を分注した分光光度計用試験管セルに、リノ−ル酸−β−カロチン溶液を加えて攪拌し、温度50℃の恒温槽で、20分間反応させた場合のβ−カロチンの退色度を470nmの吸光度によって求め、合成抗酸化剤ブチルヒドロキシアニソール(BHA)による吸光度の減少量を測定し、試料と同じ減少量を与えるBHAの濃度によって、試料の抗酸化活性を表した。
【0049】
<ラジカル捕捉活性測定法>
試料溶液に、等量のDPPH(1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル)溶液、MES緩衝液、20%エタノールを加え、室温で20分間反応させた後、520nmでの吸光度を測定した。
その活性は、同様にして行ったアスコルビン酸(AsA)で、DPPHラジカル捕捉活性の検量線を作成し、試料g当たりのラジカル捕捉活性を、AsA当量(μmol/g又はmmol/g)で表した。
【0050】
<酵素阻害活性測定方法>
試料溶液50μl又は25μlに、小腸α−グルコシダーゼ溶液又は膵リパーゼ溶液25μlを加え、温度37℃で10分間インキュベートしたのち、4−メチルウンベリフェロンのα−D−グルコース又はオレイン酸エステル(基質)溶液25μl又は50μlを添加してインキュベートした。
0.2モル濃度のNa
2CO
3溶液又は0.1モル濃度のクエン酸緩衝液(pH4.2)を加えて反応を停止したのち、生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光度を450nmで測定して阻害率を算出した。