特許第5786214号(P5786214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5786214
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】単結晶CVD合成ダイヤモンド材料
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20150910BHJP
   C01B 31/06 20060101ALI20150910BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   C30B29/04 W
   C30B29/04 V
   C30B29/04 A
   C01B31/06 A
   C23C16/27
【請求項の数】21
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2014-546485(P2014-546485)
(86)(22)【出願日】2012年12月12日
(65)【公表番号】特表2015-505810(P2015-505810A)
(43)【公表日】2015年2月26日
(86)【国際出願番号】EP2012075237
(87)【国際公開番号】WO2013087697
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2014年8月18日
(31)【優先権主張番号】1121642.1
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】61/576,465
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514093327
【氏名又は名称】エレメント シックス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】ディロン ハープリート カウル
(72)【発明者】
【氏名】トウィッチェン ダニエル ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】カーン リツワン ウッディン アーマド
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/151415(WO,A2)
【文献】 国際公開第2010/149775(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/061400(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/149777(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/149779(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/052177(WO,A1)
【文献】 Akiyoshi Chayara, et al.,Development of single-crystalline diamond wafers,Synthesiology - English edition,2010年,Vol.3,No.4,pp.259-267
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/04
C01B 31/06
C23C 16/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶CVD合成ダイヤモンド材料であって、
成長中、直接形成された窒素空孔欠陥を有する前記単結晶CVD合成ダイヤモンド材料中の総窒素濃度が5ppm以上であり
下の特徴のうちの1つ又は2つ以上によって定められる欠陥の一様な分布状態を有し、当該特徴は
(i)前記総窒素濃度は、10μm以下の分析領域を用いて50×50μm以上の面積にわたり二次イオン質量分析法(SIMS)によってマップされたとき2点間のばらつきが平均総窒素濃度値の30%未満であり、或いは、60μm以下の分析領域を用いて200×200μm以上の面積にわたりSIMSによってマップされたとき2点間のばらつきが平均総窒素濃度値の30%未満であること、
(ii)成長により形成された窒素空孔欠陥(NV)濃度が77K・UV可視吸収率測定を用いて測定して50ppb以上であって、前記窒素空孔欠陥は、50mW連続波レーザを用いて室温で10μm以下のスポットサイズの514nmレーザ励起源を用いて励起され、0μm未満のデータ間隔で50×50μm以上の面積にわたってマップされたときフォトルミネッセンス強度の領域と低フォトルミネッセンス強度の領域との窒素空孔フォトルミネッセンスピークの強度面積比、575nmフォトルミネッセンスピーク(NV0又は637nmフォトルミネッセンスピーク(NV-いずれかについて2倍未満である低い2点間のばらつきが生じるよう合成単結晶CVDダイヤモンド材料中に一様に分布すること
(iii)ラマン強度のばらつきが、50mW連続波レーザを用いて室温で10μm以下のスポットサイズの514nmレーザ励起源を用いて励起され(その結果、552.4nmでのラマンピークが生じ)、0μm未満のデータ間隔で50×50μm以上の面積にわたってマップされたときラマン強度の領域と高ラマン強度の領域とのラマンピーク面積の比が1.25倍未満である低い2点間のばらつきが生じること、
(iv)成長により形成された窒素空孔欠陥(NV)濃度が77K・UV可視吸収率測定を用いて測定して50ppb以上であり、50mW連続波レーザを用いて77Kで10μm以下のスポットサイズの514nmレーザ励起源を用いて励起されたときNV0に対応した575nmでの強度が552.4nmでのラマン強度の120倍超であること、及び/又はNV-に対応した637nmでの強度が552.4nmでのラマン強度の200倍超であること、
(v)単置換型窒素欠陥(Ns)濃度が5ppm以上であり、344cm-1赤外吸収特徴を用い0.5mm2りも大きな面積をサンプリングしたとき、前記平均値で標準偏差を除算することによ導き出されるばらつきが80%未満であるように、前記単置換型窒素欠陥が前記合成単結晶CVDダイヤモンド材料中に一様に分布すること、
(vi)平均値で除算された標準偏差により求められる赤色ルミネッセンス強度のばらつきが15%未満であること、
(vii)中性単置換型窒素濃度の平均標準偏差が80%未満であること、
(viii)50を超える平均濃淡値を含む顕微鏡画像からストグラムを用いて測定した色の強度が前記濃淡値平均で除算した濃淡値標準偏差により特徴付けられる灰色のばらつきが40%未満であるように前記単結晶CVD合成ダイヤモンド材料中で一様であることである、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項2】
前記単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、前記特徴のうちの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ又は8つ全てを有する、請求項1記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項3】
前記総窒素濃度は、10μm以下として定義された分析領域を用いて50×50μm以上の面積にわたり二次イオン質量分析法(SIMS)によってマップされたとき2点間のばらつきが平均窒素濃度値の5%未満である、請求項1又は2記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項4】
前記窒素空孔欠陥からのルミネッセンスは、10μm以下として定義された分析領域を用いて50×50μm以上の面積にわたりマップされたとき、高PL強度の領域と低PL強度の領域の強度比が.6未であるような2点間のばらつきを有する、請求項1〜3のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項5】
575nmにおける前記NV0ルミネッセンスは、552.4nmでの前記ラマン強度の60倍を超ると共に/或いは637nmにおける前記NV-ルミネッセンスは、552.4nmにおける前記ラマン強度の40倍を超る、請求項1〜4のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項6】
前記単置換型窒素欠陥は、前記単置換型窒素欠陥からの1344cm-1赤外吸収特徴を用いると共に0.5mm2の面積よりも大きな面積をサンプリングすることによって、前記平均値で標準偏差を除算することによって導き出されるばらつきが0%未であるように前記合成単結晶CVDダイヤモンド材料中に一様に分布する、請求項1〜5のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項7】
前記赤色ルミネッセンスのばらつきは、%未である、請求項1〜6のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項8】
前記中性単置換型窒素濃度の平均標準偏差は、0%未である、請求項1〜7のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項9】
前記色強度は、200×200×200μm以上の体積にわたって画像化されたとき、前記平均濃淡値で除算した前記濃淡値標準偏差により定められる2点間のばらつきが、平均色強度の0%未満である、請求項1〜8のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項10】
前記総窒素濃度は、0ppm以である、請求項1〜9のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項11】
前記単置換型窒素欠陥(Ns)濃度は、0ppm以である、請求項1〜10のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項12】
前記成長により形成された窒素空孔欠陥(NV-)濃度は、00ppb以である、請求項1〜11のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項13】
1×1015原子個数・cm-3以下の珪素の濃度を有する、請求項1〜12のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項14】
前記単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、mm以の最も長い寸法を有する、請求項1〜13のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項15】
前記1つ又は2つ以上の特徴が当てはまる.5mm3の体積を有する、請求項1〜14のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項16】
前記単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、厚さが0μm未の層の形態をしている、請求項1〜15のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項17】
前記単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、厚さがmmの層の形態をしている、請求項1〜16のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項18】
×103転位数・cm-2の転位束密度を有する、請求項1〜17のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項19】
×10-6の複屈折性を有する、請求項1〜18のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項20】
アニールされると共に/或いは照射されている、請求項1〜19のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【請求項21】
前記単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、次の色、即ち、桃色、黄色、緑色、橙色、赤色、紫色のうちの1つ又は2つ以上を有する、請求項1〜20のうちいずれか一に記載の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、単結晶CVD(化学気相成長又は化学蒸着)合成ダイヤモンド材料及び単結晶CVD合成(人工)ダイヤモンド材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
技術背景として、ダイヤモンド材料科学についての短い概論的説明がこの項目で与えられており、その目的は、本発明の技術的前後関係を説明することにある。
【0003】
ダイヤモンド材料は、理論的に完全なダイヤモンド格子に基づいている。この理論的に完全な格子により示される特性は、十分に理解されている。例えば、かかる理論的に完全なダイヤモンド格子は、極めて高い熱伝導率、低い導電率(電荷キャリヤをそれほど備えていないが、電荷キャリヤが格子構造中に導入された場合には高い電荷キャリヤ移動性を持つ極めて広いバンドギャップの真性半導体)、極めて低い熱膨張率、それほど大きくはない光学複屈折及び低い光吸収率(可視スペクトルではそれほど光吸収がなく、従って、無色である)を示す。
【0004】
かかる理論的に完全なダイヤモンド格子は、熱力学的に見て達成するのが不可能である。実際問題として、熱力学的検討事項を考慮に入れたときに理論的に達成するのが可能ではある完全度レベルに達することさえも事実上困難である。したがって、全てのダイヤモンド材料は、相当多くの欠陥を含んでいることが明らかなはずである。かかる欠陥は、不純物の形態となる場合がある。ダイヤモンド格子構造中に入り込む場合のある典型的な不純物としては、窒素、ホウ素、珪素、燐、水素及び金属例えば、ナトリウム、ニッケル及びクロムが挙げられる。加うるに、ダイヤモンド材料中の欠陥としては、点欠陥、例えば原子空孔や侵入型原子及び拡張欠陥、例えば種々の形態の転位欠陥の形態の完全なダイヤモンド格子構造からの結晶学的な逸脱が挙げられる。欠陥は又、種々の仕方で組み合わさる場合がある。例えば、空孔欠陥は、クラスタの状態に組み合わさる場合があり又は不純物原子と組み合わさってそれ自体の個々の特性を持つ独特な空孔構造を形成する場合がある。例としては、珪素含有欠陥、例えば珪素空孔欠陥(Si‐V)、珪素複空格子点欠陥(Si‐V2)、珪素空孔水素欠陥(Si‐V:H)、珪素複空格子点水素欠陥(Si‐V2:H)並びに窒素含有欠陥、例えば窒素空孔欠陥(N‐V)、二窒素空孔欠陥(N‐V‐N)及び窒素空孔水素欠陥(N‐V‐H)が挙げられる。これら欠陥は、典型的には、中性電荷状態又は帯電状態、例えば負に帯電した状態で見受けられる。
【0005】
ダイヤモンド材料中の欠陥は、材料の特性を著しく変えてしまう。この分野における目下進行中の仕事は、ダイヤモンド材料中の種々の欠陥の特性及び材料の機能的特性に対するこれら欠陥の全体的な影響の理解と関連している。さらに、目下進行中の仕事は、ダイヤモンド材料をこれらダイヤモンド材料が特定の用途に特に望ましい特性を有するよう誂えるために欠陥の特定の形式及び分布状態を有するようにするダイヤモンド材料の工学的設計と関連している。かくして、望ましい欠陥の形式及び分布状態は、特定の用途に必要な特性で決まることになろう。
【0006】
この点に関し、ダイヤモンド材料は、3つの主要な形式、即ち、天然ダイヤモンド材料、HPHT(高圧高温)合成ダイヤモンド材料及びCVD(化学気相成長又は化学蒸着)合成ダイヤモンド材料に分類可能である。これらカテゴリは、ダイヤモンド材料の形成の仕方を反映している。さらに、これらカテゴリは、材料の構造的特性及び機能的特性を反映している。これは、天然ダイヤモンド材料、HPHT合成ダイヤモンド材料及びCVD合成ダイヤモンド材料は全て、理論的に完全なダイヤモンド格子に基づいているが、これら材料中の欠陥は、同一ではないからである。例えば、CVD合成ダイヤモンドは、CVDのプロセスに固有の多くの欠陥を含み、欠陥の中には、他のダイヤモンド形態で見受けられるものがあり、これらの相対的濃度及び寄与の度合いは、極めて異なっている。したがって、CVD合成ダイヤモンド材料は、天然ダイヤモンド材料とHPHT合成ダイヤモンドの両方とは異なっている。
【0007】
ダイヤモンド材料は又、これらの物理的形態に従って分類可能である。この点に関し、ダイヤモンド材料は、3つの主要な形式、即ち、単結晶ダイヤモンド材料、多結晶ダイヤモンド材料及び複合ダイヤモンド材料に分類可能である。単結晶ダイヤモンド材料は、研磨用途で用いられる小さな「グリット(grit)」粒子から種々の技術的用途で用いられると共にジュエリ用途における宝石に適した大きな単結晶までの範囲にわたる種々のサイズの個々の単結晶の形態をしている。多結晶ダイヤモンド材料は、ダイヤモンド材料の多結晶物体、例えば、多結晶ダイヤモンドウェーハを形成するようダイヤモンドとダイヤモンドの結合(ダイヤモンド間結合)によって互いに結合された複数個の小さなダイヤモンド結晶の形態をしている。かかる多結晶ダイヤモンド材料は、熱管理基板、光学窓及び機械的用途を含む種々の用途で有用であると言える。複合ダイヤモンド材料は、一般に、複合材料の物体を形成するよう非ダイヤモンドマトリックスによって互いに結合された複数個の小さなダイヤモンド結晶の形態をしている。種々のダイヤモンド複合材が知られており、かかる複合材としては、金属マトリックス複合材、特にPCDと呼ばれているコバルト金属マトリックス複合材を含むダイヤモンドや珪素、炭化珪素及びダイヤモンド粒子を含む複合材であるスケルトンセメンテッドダイヤモンド(skeleton cemented diamond: ScD)が挙げられる。
【0008】
また、理解されるべきこととして、上述のカテゴリの各々の中には、ダイヤモンド材料をこれらダイヤモンド材料が特定の用途に特に望ましい特性を有するよう誂えるために欠陥の特定の濃度及び分布状態を有するようにするダイヤモンド材料の工学的設計のための多大な適用領域が存在する。この点に関し、本発明は、本明細書の焦点が次に差し向けられるCVD合成ダイヤモンド材料に関する。
【0009】
ダイヤモンド材料の合成のためのCVDプロセスは、当該技術分野において今や周知である。ダイヤモンド材料の化学気相成長に関する有用な技術背景としての情報は、ダイヤモンド関連技術専門のジャーナル・オブ・フィジックス:コンデンスド・マター(Journal of Physics: Condensed Matter),2009年,第21巻,第36号の特集号に見受けられる。例えば、アール・エス・バルマー等(R. S. Balmer et al.)の書評論文は、CVDダイヤモンド材料、技術及び用途に関する包括的な概観を与えている(これについては、「ケミカル・ベーパー・デポジション・シンセティック・ダイヤモンド:マテリアルズ・テクノロジ・アンド・アプリケーションズ(Chemical vapour deposition synthetic diamond: materials, technology and applications)」,ジャーナル・オブ・フィジックス:コンデンスド・マター(J. Phys.: Condensed Matter),2009年,第21巻,第36号,364221を参照されたい)。
【0010】
ダイヤモンドが黒鉛と比較して準安定状態である領域内においては、CVD条件下におけるダイヤモンドの合成は、バルク熱力学ではなく表面動力学によって推し進められる。CVDによるダイヤモンド合成は、通常、典型的にはメタンの形態をした僅かなフラクションの炭素(典型的には5%未満)を用いて実施される。ただし、水素分子が過剰な状態で他の炭素含有ガスを利用することができる。水素分子を2000Kを超える温度まで加熱した場合、水素原子への相当な解離が生じる。適当な基板材料の存在下において、CVD合成ダイヤモンド材料を析出させることができる。多結晶CVDダイヤモンド材料は、非ダイヤモンド基板、例えば高融点金属又は珪素基板上に形成できる。単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、ホモエピタキシャル成長によって単結晶ダイヤモンド基板上に形成できる。
【0011】
水素原子は、CVDプロセスにとって必要不可欠である。というのは、水素原子は、非ダイヤモンド炭素を選択的にエッチングしてこれを基板から除去し、その結果としてダイヤモンド成長が起こることができるようになるからである。CVD合成ダイヤモンド成長に必要な反応性炭素含有ラジカル及び水素原子を発生させるために、炭素含有ガス種及び水素分子を加熱する種々の方法が利用可能であり、かかる方法としては、アークジェット、ホットフィラメント、DCアーク、酸素アセチレン炎及びマイクロ波プラズマが挙げられる。CVDプロセスガス中の不純物は、成長中、CVD合成ダイヤモンド材料中に取り込まれる。したがって、種々の不純物は、CVDプロセスガス中に意図的に取り込まれる場合があり又はCVDプロセスガスから意図的に取り除かれる場合があり、その目的は、特定の用途向けにCVD合成ダイヤモンド材料の工学的設計を行うことにある。さらに、基板材料の性状及び成長条件は、成長中、CVD合成ダイヤモンド材料中に取り込まれた欠陥の形式及び分布状態に影響を及ぼす場合がある。
【0012】
或る特定の用途に関し、ダイヤモンド格子構造中の欠陥の数又は少なくとも或る特定の形式の欠陥を最小限に抑えることが望ましい。例えば、或る特定の電子用途、例えば放射線検出器又は半導電型スイッチングデバイスに関し、ダイヤモンド材料中に特有の電荷キャリヤの数を最小限に抑えると共に使用中、ダイヤモンド材料中に意図的に導入される電荷キャリヤの移動性を増大させることが望ましい。かかる材料は、もし上述のように構成されていなければ電荷キャリヤをダイヤモンド格子構造中に導入する低濃度の不純物を含む単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を作製することによって工学的に設計されるのが良い。かかる電子/検出器等級の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料に関して適切な特許文献としては、国際公開第01/096633号パンフレット及び同第01/096634号パンフレットが挙げられる。
【0013】
例えば或る特定の光学用途に関し、低光吸収率及び低光複屈折性を有する材料を提供することが望ましい。かかる材料は、低濃度の不純物(不純物は、材料の光吸収率を増大させる)及び低濃度の拡張欠陥(かかる欠陥は、ダイヤモンド格子構造中に異方性ひずみを導入して複屈折を生じさせる)を有する単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を作製することによって工学的に設計可能である。かかる光学等級単結晶CVD合成ダイヤモンド材料に関連した特許文献としては、国際公開第2004/046427号パンフレット及び同第2007/066215号パンフレットが挙げられる。
【0014】
高純度ダイヤモンド材料は又、或る特定の量子検出(例えば、磁界を検出する際)及び処理用途において量子スピン欠陥のためのホスト材料として機能することが望ましい。ダイヤモンド材料は、かかる用途において、有用である。というのは、ダイヤモンド格子構造中に存在する或る特定の量子スピン欠陥(例えば、負に帯電した窒素空孔欠陥)は、室温でも長いデコヒーレンス時間を有するからである(即ち、量子スピン欠陥は、実施されるべき検出及び/又は量子処理用途を可能にする相当長い時間にわたり、特定の量子スピン状態のままだからである)。さらに、ダイヤモンド格子中のかかる量子スピン欠陥を光学的にアドレスすることができる。しかしながら、かかる用途では、不純物は、ダイヤモンド格子構造中の量子スピン欠陥と相互作用する場合があり、それにより量子スピン欠陥のデコヒーレンス時間が短くなり、かくして量子スピン欠陥の感度が低くなると共に/或いは量子処理用途を実施することができる時間が短くなる。かかる高純度量子等級単結晶CVD合成ダイヤモンド材料に関する特許文献としては、国際公開第2010/010344号パンフレット及び同第2010/010352号パンフレットが挙げられる。
【0015】
上述の低欠陥材料とは対照的に、或る特定の用途に関し、かなりの程度のしかしながら制御された量、形式及び分布状態の欠陥をダイヤモンド格子構造中に意図的に導入することが望ましい。例えば、ホウ素含有ガスをCVDプロセスガス中に加えてホウ素をダイヤモンド格子中に導入することによって、ダイヤモンド材料のバンド構造中にアクセプタ準位が提供される。極めて高いレベルのホウ素をダイヤモンド格子構造中に導入した場合、この材料は、完全に金属性の導電率を示す。かかる材料は、電極として、電気化学的検出電極として更に電子用途において有用である。かかるホウ素ドープ単結晶CVD合成ダイヤモンド材料に関する特許文献としては、国際公開第03/052174号パンフレットが挙げられる。
【0016】
別の例は、高圧高温(HPHT)合成ダイヤモンド材料への窒素の添加である。高濃度(百万当たり数百部)の窒素原子をHPHT合成ダイヤモンド中に取り込むことができるということは周知である。しかしながら、幾つかの用途に関し、HPHT成長ダイヤモンドは、有害な追加の特質を呈する。成長は、非常に高い非一様性である傾向があり、セクタによっては他のセクタと比較して、高い欠陥不純度(窒素並びに微量金属)を示し、それ故、HPHT成長ダイヤモンドは、一般に、その成長したばかりの状態と処理済みの状態との両方においてカラーゾーニング(colour zoning)を示す。非一様性は、セクタ境界部に沿う異常の積み重ねと一緒になって、製造される材料の破壊靱性にも影響を及ぼす場合がある。また、HPHT成長プロセスにおける触媒として用いられた溶媒金属の結果としてHPHT成長ダイヤモンド材料中には一般に、金属混入物が存在する。この金属混入は、製造される材料の機械的性質に強い影響を及ぼす場合がある。
【0017】
特に本発明に関する別の例は、窒素ドープ単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の例である。窒素は、CVDダイヤモンド材料合成における最も重要なドーパントのうちの1つである。というのは、窒素をCVDプロセスガス中に加えることにより、材料の成長速度が増大し、しかも、結晶学的欠陥、例えば転位の生成に影響を及ぼすことができるということが判明しているからである。したがって、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の窒素ドーピングは、多岐にわたって詳細に研究され、そして文献に報告されている。窒素ドープCVD合成ダイヤモンド材料は、色が茶色になりがちである。したがって、上述の用途、例えば光学用途に関し、窒素をCVDプロセスガスから意図的に除く技術を開発するのが有利であることが判明した。しかしながら、例えば光学、電子及び量子結合パラメータが関心事ではない機械的用途のような用途に関し、相当なレベルまでの窒素ドーピングは、CVD合成ダイヤモンド材料の厚い層の成長を達成する上で有用な場合がある。かかる窒素ドープCVD合成ダイヤモンド材料に関する特許文献としては、国際公開第2003/052177号パンフレットが挙げられ、この国際公開パンフレットは、窒素分子として計算して0.5から500ppmまでの濃度範囲にある窒素を含むCVD合成雰囲気を用いたダイヤモンド材料の作製方法を記載している。
【0018】
窒素ドープ単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は又、所望の色の実現を達成するための成長後処理、例えば照射及び/又はアニーリングのための有用な開始材料であることが判明した。例えば、国際公開第2004/022821号パンフレットは、所望の色、例えば桃色、緑色、無色及び無色に近い色の実現を達成するよう黄色/茶色の窒素ドープ単結晶CVD合成ダイヤモンド材料に利用できるアニーリング技術を記載している。かかる処理済み単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、宝石としてのジュエリ用途を有することができる。窒素含有単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を所望の色に変換するための別の照射及びアニーリング技術が国際公開第2010/149777号パンフレット(橙色の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を製造するため)、同第2010/149775号パンフレット(明るい桃色の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を製造するため)及び同第2010/149779号パンフレット(明るい青色の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を製造するため)に記載されている。これら処理は、種々のレベルの単置換型窒素、単置換型空孔欠陥(中性及び負に帯電した状態)及び窒素空孔欠陥を備えた単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を必要とする。さらに色を一般的に発光性にし、従って、このようにダイヤモンドの成長後処理を行わせる欠陥中心により、例えばダイヤモンドを主成分とする色素に用いることができる発光(ルミネッセンス)中心の工学的設計が可能である。
【0019】
上記のことに加えて、米国特許出願公開第2011/0151226号明細書は、一様に分布されると共に他の欠陥、例えば、通常HPHT合成プロセスと関連した混入のない比較的高い窒素含有量を有する単結晶CVD合成ダイヤモンド材料が要望されていることを記載している。この点に関し、米国特許出願公開第2011/0151226号明細書は、標準の炭素及び水素含有ガスに加えて、窒素及び酸素含有ガスを含むCVDプロセスガスを用いるCVD成長プロセスを記載している。これらプロセスガスは、或る特定の指定された比で混入され、それにより、単置換型窒素の形態の窒素の高い濃度と他の欠陥の低い濃度の両方を有するCVD合成ダイヤモンド材料が得られる。かかる成長に関する化学作用は、茶色欠陥によって決定されるわけではなく、これとは異なり、単置換型窒素の存在に起因して黄色の色合いによって決定される色を有する材料を製造するのに有利であることが記載されている。さらに、材料の電子的性質が単置換型窒素によって決定されるが、通常、成長プロセスにおける窒素に起因して生じる他の欠陥によっては劣化されることがないこと及び材料を宝石用途及び技術的用途、例えばエレクトロニクス及び放射線検出器において使用することができるということが記載されている。
【0020】
米国特許出願公開第2011/0151226号明細書は、0.4ppmから50ppmまでの範囲の原子濃度で窒素を含むCVD合成雰囲気を用いている。さらに、合成プロセスの持続時間の間、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を成長させる基板は、750℃から1000℃までの範囲の温度に維持されることが記載されている。このプロセスは、約0.5ppmを超える濃度で単置換型窒素(Ns0)を有すると共に350nmから750nmまでの可視範囲の全積分吸収量を有するCVDダイヤモンド材料を合成することができ、吸収量の少なくとも約35%はNs0に由来することが記載されている。
【0021】
チャン他(Zhang et al.),ダイヤモンド・アンド・リレイテッド・マテリアルズ(Diamond & Related Materials),2011年,第20巻,p.496〜500も又、水素及び炭素含有種に加えて窒素及び酸素含有ガスを含むプロセスガスを用いたCVD成長プロセスを開示している。開示されたプロセスは、1000℃の基板温度を利用する。CO2の添加は、CVD合成ダイヤモンド材料中への窒素混入濃度を実際に減少させることができるということが教示されている。
【0022】
上述のことに加えて、多くの追加の先行技術文献は、窒素プロセスガス、高い基板温度及び酸素プロセスガスのうちの1つ又は2つ以上を利用する種々のCVDダイヤモンド合成プロセスを記載している。これらについて以下に簡単に説明する。
【0023】
米国特許第7883684号明細書は、H2の一単位当たり8%〜20%のCH4及びCH4の一単位当たり5%〜25%のO2を含む合成雰囲気を用いるCVDダイヤモンド合成方法を開示している。また、ガス混合物は、オプションとして、CH4の一単位当たり0.2%〜3%のN2を含むのが良いことが記載されている。この濃度でのガス混合物へのN2の添加により、利用可能な成長部位が多く作られ、成長速度が高められ、しかも{100}フェース成長が促進されるということが述べられている。さらに、この方法は、成長中の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の成長面の温度を700℃から1100℃までの範囲の成長温度に制御するステップを含むことが記載されている。窒素を利用する例に関し、結果として得られる単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の色が茶色であり、又、材料の色をアニーリングによって変化させることができるということが述べられている。
【0024】
米国特許第7820131号明細書は、無色単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を製造するためにH2の一単位当たり8%〜30%を超えるCH4及びオプションとしてCH4の一単位当たり5%〜25%O2を含む合成雰囲気を使用するCVDダイヤモンド合成方法を開示している。また、酸素ではなく窒素を含むガス混合物の使用の結果として、色が茶色である単結晶CVD合成ダイヤモンド材料が得られることが記載されている。さらに、この方法は、成長中の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の成長面の温度を900℃から1400℃までの範囲の成長温度に制御するステップを含むことが記載されている。
【0025】
米国特許出願公開第2010/0126406号明細書も又、水素、炭素源及び酸素源を含む合成雰囲気を用いたCVDダイヤモンド合成方法を開示している。2つの変形実施形態、即ち、(i)合成雰囲気に実質的に酸素が含まれておらず、その結果として無色単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の成長を行うプロセス及び(ii)合成雰囲気が少量の窒素を含み、その結果として、茶色の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の成長を行うプロセスが記載されている。
【0026】
米国特許第7157067号明細書は、水素、炭素源及び窒素を含む合成雰囲気を用い、N2/CH4の比が0.2%〜5.0%であり、CH4/H2の比が12%〜20%であるCVDダイヤモンド合成方法を開示している。かかる合成雰囲気を用いると共に成長中の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の成長面の温度を1000℃から1100℃までの範囲の成長温度に制御することによって、破壊靱性が増大した単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を製造することが可能であるということが記載されている。
【0027】
米国特許出願公開第2009/0038934号明細書は、酸素を含む合成雰囲気を使用したCVDダイヤモンド合成方法を開示している。さらに、オプションとして、合成雰囲気は、水素、水素の一単位当たり6%〜12%の濃度のメタン、水素の一単位当たり1%〜5%の濃度の窒素及び水素の一単位当たり1%〜3%の濃度の酸素を含むことが記載されている。さらに、成長中の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の成長面の温度を900℃〜1400℃の範囲の成長温度に制御することが記載されている。
【0028】
日本国特開2008‐110891号公報は、炭素の原子濃度と水素の原子濃度の比が2%〜10%、窒素の原子濃度と炭素の原子濃度の比が0.1%〜6%、酸素の原子濃度と炭素の原子濃度の比が0.1%〜5%合成雰囲気を使用したCVDダイヤモンド合成方法を開示している。
【0029】
日本国特開平7‐277890号公報は、水素、炭素、窒素及びオプションとして酸素又はホウ素を含む合成雰囲気を使用したCVDダイヤモンド合成方法を開示している。さらに、窒素原子の数と水素原子の数の比が3〜1,000ppm又は酸素原子の数と炭素原子の数の比が3〜100%のダイヤモンドを合成することが開示されている。極めて少量の窒素がガス状開始材料として添加されるので、高品質のダイヤモンドが合成速度を増大させた状態で合成されることが記載されている。
【0030】
米国特許第6162412号明細書は、水素ガスに対する炭素原子の濃度(A%)、反応ガス全体に対する窒素ガスの濃度(Bppm)及び水素ガスに対する酸素原子の濃度(C%)が方程式α=(B)1/2×(A−1.2C)を満足させる合成雰囲気を用いたCVDダイヤモンド合成方法を開示しており、ただし、αは、13以下であり又はBが20以下であることを条件とする。これら例は、基板がCVDダイヤモンド成長中、950℃の温度に保持されたことを示している。さらに、合成されたCVDダイヤモンド材料は、20ppm以下の窒素を含むことが述べられている。
【0031】
チャヤハラ他(Chayahara et al.),「ザ・エフェクト・オブ・ニトロジェン・アディション・ドゥアリング・ハイレート・ホモエピタキシャル・グロース・オブ・ダイヤモンド・バイ・マイクロウェーブ・プラズマ・シーブイディー(The effect of nitrogen addition during high-rate homoepitaxial growth of diamond by microwave plasma CVD)」,ダイヤモンド・アンド・リレイテッド・マテリアルズ(Diamond & Related Materials),2004年,第13巻,p.1954〜1958は、500sccm水素、40sccmメタン及び0〜3sccmの窒素を含む合成雰囲気を用いたCVDダイヤモンド合成方法を開示している。2つの互いに異なる基板温度、即ち、開放型基板ホルダについては1220℃、密閉型ホルダについては1155℃の使用が開示されている。窒素は、成長速度を増大させると共にCVD合成ダイヤモンド材料の表面形態学的特性を変更することが記載されている。
【0032】
モクノ他(Mokuno et al.),「ハイ・レート・ホモエピタキシャル・グロース・オブ・ダイヤモンド・バイ・マイクロウェーブ・プラズマ・シーブイディー・ウィズ・ニトロジェン・アディション(High rate homoepitaxial growth of diamond by microwave plasma CVD with nitrogen addition)」,ダイヤモンド・アンド・リレイテッド・マテリアルズ(Diamond & Related Materials),2006年,第15巻,p.455〜459は、500sccm水素、60sccmメタン及び0.6〜1.8sccmの窒素を含む合成雰囲気を用いたCVDダイヤモンド合成方法を開示している。上述の論文の場合と同様、2つの互いに異なる基板ホルダが用いられ、一方は、開放型ホルダであり、網一方は閉鎖型ホルダである。1060℃から1250℃までの範囲の基板温度が開示されている。これらプロセスパラメータを用いて形成されたCVD合成ダイヤモンド材料中の窒素濃度は、8.9から39ppmまでの範囲にわたることが報告されている。
【0033】
チャヤハラ他(Chayahara et al.),「デベロップメント・オブ・シングル‐クリスタライン・ダイヤモンド・ウェーハーズ(Development of single-crystalline diamond wafers)」,シンセシオロジー(Synthesiology),2011年,第3巻,第4号,p.259〜267は、500sccm水素、60sccmメタン及び0〜3sccmの窒素を用いた同様なCVDダイヤモンド合成方法を開示しており、基板温度は、1100℃から1200℃の範囲にある。
【0034】
上述のことに照らして、CVDダイヤモンド合成プロセスにおける窒素ドーピングに関する先行技術は、かなり多岐にわたっていることが明らかである。この先行技術との関連において、本発明者は、CVD合成ダイヤモンド材料中への高い窒素混入レベルを達成する手段について詳細に研究した。したがって、本発明者は、特に、「高」窒素ガスフラクション/「高」基板温度(以下「高窒素/高基板温度」と記載する場合がある)CVDダイヤモンド合成プロセスに関心を持ち、「高」は、窒素ガスフラクションが例えばガス混合物の20ppm未満の状態で700〜950℃で起こる「標準」ダイヤモンド成長よりも実質的に高いものとして定義される。本発明者は、高窒素ガスフラクション/高基板温度成長条件により、標準成長条件よりも実質的に高い濃度(例えば、5〜50ppm)の単置換型窒素欠陥(Ns)を相当に高い濃度の成長させたままの窒素空孔欠陥(例えば、約100ppb)と共にCVD合成ダイヤモンド材料中に混入させることができるということを見出した。かかる材料は、或る特定の量子検出及び処理用途を含む所与の範囲の用途、光フィルタ、機械的工具部品にとって、又、着色宝石を作るための成長後照射及び/又はアニーリング処理のための開始材料として有用である。量子検出及び処理用途と関連して、高純度ダイヤモンド材料が長いデコヒーレンス時間を達成するためにかかる用途に望ましいことについては上述した。しかしながら、或る特定の量子検出用途、例えば磁気測定法に関し、感度は、NV-欠陥の密度とこれら欠陥のデコヒーレンス時間の積に関連付けられる。かかる状況下において、デコヒーレンス時間が幾分損なわれる場合であっても或る特定の用途については高い濃度のNV-欠陥を提供することが望ましいと言える。
【0035】
窒素空孔欠陥は、空孔欠陥を形成するよう単置換型窒素欠陥を含むCVD合成ダイヤモンド材料を照射し、そしてこのCVD合成ダイヤモンド材料をアニールして空孔を移動させてこれらが単置換型窒素欠陥と対をなし、それにより窒素空孔欠陥の実現を達成することによって形成できる。変形例として、或る特定の成長条件の下においては、相当多くの数の窒素空孔欠陥を成長中、直接形成することができ、これら「成長させたままの」窒素空孔欠陥は、成長後の照射及びアニーリングによって形成された窒素空孔欠陥と比較して幾つかの利点を有することが判明した。例えば、成長させたままの窒素空孔欠陥をCVD合成ダイヤモンド材料の成長方向に対して優先的に位置合わせさせるのが良く、この優先的位置合わせは、大きさと方向性感度の両面において量子スピン欠陥の感度を高めることができる。さらに、窒素空孔欠陥を形成する上で照射を必要としないということにより、ダイヤモンド格子の損傷を最小限に抑えることができ、結果的に材料の量子光学的性質にとってもう1つの有害な原因をもたらす照射及び/又はアニーリングの結果として生じる他の欠陥形式(例えば、単空格子点及び複空格子点)の生成をなくすことができる。
窒素空孔欠陥の存在に加えて、中性の欠陥を或る特定の量子スピン欠陥用途に適した負に帯電した状態の欠陥に変換するには電子ドナー種が必要である。この点に関し、単置換型窒素欠陥は、通常、電子供与種として機能する。したがって、高濃度の単置換型窒素及び相当に高い濃度の窒素空孔欠陥を含むCVD合成ダイヤモンド材料の層は、単置換型窒素が電荷を窒素空孔欠陥に供与して量子検出及び処理用途に適したNV-欠陥を形成することができるという点で、有利であると言える。
【0036】
上述の単一層構造体に関する一問題は、単置換型窒素欠陥が窒素空孔欠陥と相互作用する場合があり、それにより上述したようにこれらのデコヒーレンス時間を短縮させるということにある。したがって、2つの別々の層、即ち、電子供与層として機能するよう多数の単置換型窒素欠陥を含む層及び検出及び処理用途のための量子スピン欠陥をオンに切り替えるよう負の電荷を受け入れることができる量子スピン欠陥を含む別の層を提供することが有利な場合がある。この場合、電子ドナー層は、高窒素/高基板温度CVDダイヤモンド合成プロセスを用いることによって提供できる。
【0037】
光フィルタ用途に関し、特定の光吸収特性を備えた高濃度の或る特定の窒素含有欠陥を用いると、光を制御された仕方で濾波することができる。変形例として、機械的工具部品用途に関し、高濃度の或る特定の窒素含有欠陥がCVD合成ダイヤモンド材料の耐摩耗性及び/又は靱性特性を向上させることができるということが前提とされていた。さらに又、上述したように、高濃度の或る特定の窒素含有欠陥を有するCVD合成ダイヤモンド材料は、着色宝石を形成するために成長後照射及び/又はアニーリング処理のための開始材料として使用できる。かかる高濃度窒素CVD合成ダイヤモンド材料の別の潜在的な用途は、レーザ処理用途である。
【0038】
しかしながら、本発明者は、かかる高窒素/高基板温度CVDダイヤモンド合成プロセスについて問題のあることを突き止めた。具体的に説明すると、本発明者は、窒素欠陥の非一様分布に起因して光ルミネッセンス条件下(例えば、DiamondView(商標)画像化技術を用いた)においてはかかるプロセスを用いて作製されたCVD合成ダイヤモンド材料に縞模様又はストリエーション(striation )が付くことを発見した。ストリエーション及び非一様な窒素分布は、CVD合成ダイヤモンド材料が多くの成長後処理、例えば高圧高温処理及び次の照射及びアニーリング処理を受けた場合であっても、残る。
【0039】
これは、材料中の窒素空孔欠陥の非一様な分布として窒素空孔量子スピン欠陥を利用する量子検出及び処理用途にとって問題であり、結果として、材料の感度が定まらない。さらに、材料が上述したようにかかる用途における電荷供与層として用いられるべき場合、単置換型窒素の非一様な分布の結果として、量子スピン欠陥を含む別の層への非一様な電荷の供与が生じる場合があり、その結果負に帯電した量子スピン欠陥の濃度が非一様になる。この場合も又、この結果として、変わりやすい感度が生じる。
【0040】
非一様な窒素分布も又、上述の他の用途について問題である。例えば、光フィルタ用途では、窒素空孔欠陥の非一様な分布の結果として、非一様な光濾波が生じることになる。同様に、機械的工具部品用途に関し、窒素空孔欠陥の非一様な分布の結果として、非一様な耐摩耗性及び/又は靱性特性が生じる場合がある。さらに、宝石用途に関し、窒素空孔欠陥の非一様な分布の結果として、非一様な色が生じ、かくして宝石の品質が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0041】
【特許文献1】国際公開第01/096633号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/096634号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/046427号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2007/066215号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2010/010344号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2010/010352号パンフレット
【特許文献7】国際公開第03/052174号パンフレット
【特許文献8】国際公開第2003/052177号パンフレット
【特許文献9】国際公開第2004/022821号パンフレット
【特許文献10】国際公開第2010/149777号パンフレット
【特許文献11】国際公開第2010/149775号パンフレット
【特許文献12】国際公開第2010/149779号パンフレット
【特許文献13】米国特許出願公開第2011/0151226号明細書
【特許文献14】米国特許第7883684号明細書
【特許文献15】米国特許第7820131号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2010/0126406号明細書
【特許文献17】米国特許第7157067号明細書
【特許文献18】米国特許出願公開第2009/0038934号明細書
【特許文献19】日本国特開2008‐110891号公報
【特許文献20】日本国特開平7‐277890号公報
【特許文献21】米国特許第6162412号明細書
【非特許文献】
【0042】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・フィジックス:コンデンスド・マター(Journal of Physics: Condensed Matter),2009年,第21巻,第36号の特集号
【非特許文献2】アール・エス・バルマー等(R. S. Balmer et al.),「ケミカル・ベーパー・デポジション・シンセティック・ダイヤモンド:マテリアルズ・テクノロジ・アンド・アプリケーションズ(Chemical vapour deposition synthetic diamond: materials, technology and applications)」,ジャーナル・オブ・フィジックス:コンデンスド・マター(J. Phys.: Condensed Matter),2009年,第21巻,第36号,364221
【非特許文献3】チャン他(Zhang et al.),ダイヤモンド・アンド・リレイテッド・マテリアルズ(Diamond & Related Materials),2011年,第20巻,p.496〜500
【非特許文献4】チャヤハラ他(Chayahara et al.),「ザ・エフェクト・オブ・ニトロジェン・アディション・ドゥアリング・ハイレート・ホモエピタキシャル・グロース・オブ・ダイヤモンド・バイ・マイクロウェーブ・プラズマ・シーブイディー(The effect of nitrogen addition during high-rate homoepitaxial growth of diamond by microwave plasma CVD)」,ダイヤモンド・アンド・リレイテッド・マテリアルズ(Diamond & Related Materials),2004年,第13巻,p.1954〜1958
【非特許文献5】モクノ他(Mokuno et al.),「ハイ・レート・ホモエピタキシャル・グロース・オブ・ダイヤモンド・バイ・マイクロウェーブ・プラズマ・シーブイディー・ウィズ・ニトロジェン・アディション(High rate homoepitaxial growth of diamond by microwave plasma CVD with nitrogen addition)」,ダイヤモンド・アンド・リレイテッド・マテリアルズ(Diamond & Related Materials),2006年,第15巻,p.455〜459
【非特許文献6】チャヤハラ他(Chayahara et al.),「デベロップメント・オブ・シングル‐クリスタライン・ダイヤモンド・ウェーハーズ(Development of single-crystalline diamond wafers)」,シンセシオロジー(Synthesiology),2011年,第3巻,第4号,p.259〜267
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0043】
上述のことに照らして、本発明の実施形態の目的は、高濃度と一様な分布状態の両方を満たした窒素欠陥を有するCVD合成ダイヤモンド材料を形成することができるCVDダイヤモンド合成法を提供することにある。或る特定の実施形態の目的は、高濃度と一様な分布状態の両方を満たした単置換型窒素欠陥を有するCVD合成ダイヤモンド材料を提供することにある。代替的に又は追加的に、或る特定の実施形態の目的は、高濃度と一様な分布状態の両方を満たした窒素空孔欠陥を有するCVD合成ダイヤモンド材料を提供することにある。代替的に又は追加的に、或る特定の実施形態の目的は、光ルミネッセンス条件(例えば、DiamondView(商標)画像化技術を用いた)下においてはストリエーションが実質的に目に見えないCVD合成ダイヤモンド材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0044】
本発明の第1の観点によれば、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料であって、
5ppm以上の成長させたままの窒素の総濃度と、
欠陥の一様な分布状態とを有し、欠陥の一様な分布状態は、以下の特徴のうちの1つ又は2つ以上によって定められ、当該特徴は、次の通りであり、即ち、
(i)総窒素濃度は、10μm以下の分析領域を用いて50×50μm以上の面積にわたり二次イオン質量分析法(SIMS)によってマップされると、平均総窒素濃度値の30%未満のポイントツーポイントばらつきを有し、或いは、60μm以下の分析領域を用いて200×200μm以上の面積にわたりSIMSによってマップされると、平均総窒素濃度値の30%未満のポイントツーポイントばらつきを有すること、
(ii)成長させたままの窒素空孔欠陥(NV)濃度が77K・UV可視吸収率測定を用いて測定して50ppb以上であり、窒素空孔欠陥は、50mW連続波レーザを用いて室温で10μm以下のスポットサイズの514nmレーザ励起源を用いて励起され、そして10μm未満のデータ間隔で50×50μm以上の面積にわたってマップされると、低ポイントツーポイントばらつきが生じるよう合成単結晶CVDダイヤモンド材料中に一様に分布し、高フォトルミネッセンス強度の領域と低フォトルミネッセンス強度の領域との窒素空孔フォトルミネッセンスピークの強度面積比は、575nmフォトルミネッセンスピーク(NV0)か637nmフォトルミネッセンスピーク(NV-)かのいずれかについて2倍未満であること、
(iii)ラマン強度のばらつきが、50mW連続波レーザを用いて室温で10μm以下のスポットサイズの514nmレーザ励起源を用いて励起され(その結果、552.4nmでのラマンピークが生じ)、そして10μm未満のデータ間隔で50×50μm以上の面積にわたってマップされると、低ポイントツーポイントばらつきが生じるようなものであり、低ラマン強度の領域と高ラマン強度の領域とのラマンピーク面積の比が1.25倍未満であること、
(iv)成長させたままの窒素空孔欠陥(NV)濃度が77K・UV可視吸収率測定を用いて測定して50ppb以上であり、50mW連続波レーザを用いて77Kで10μm以下のスポットサイズの514nmレーザ励起源を用いて励起されると、552.4nmでのラマン強度の120倍超のNV0に対応した575nmでの強度及び/又は552.4nmでのラマン強度の200倍超のNV-に対応した637nmでの強度が与えられること、
(v)単置換型窒素欠陥(Ns)濃度が5ppm以上であり、単置換型窒素欠陥は、1344cm-1赤外吸収特徴を用いると共に0.5mm2の面積よりも大きな面積をサンプリングすることによって、平均値で標準偏差を除算することによって導き出されるばらつきが80%未満であるように合成単結晶CVDダイヤモンド材料中に一様に分布すること、
(vi)平均値で除算された標準偏差により求められる赤色ルミネッセンス強度のばらつきが15%未満であること、
(vii)中性単置換型窒素濃度の平均標準偏差が80%未満であること、
(viii)50を超える平均濃淡値を含む顕微鏡画像からのヒストグラムを用いて測定した色の強度が存在し、色強度は、濃淡値平均で除算した濃淡値標準偏差により特徴付けられる灰色のばらつきが40%未満であるように単結晶CVD合成ダイヤモンド材料中で一様であることであることを特徴とする単結晶CVD合成ダイヤモンド材料が提供される。
【0045】
好ましくは、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、上記特徴のうちの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ又は8つ全てを有する。
【0046】
オプションとして、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、次の特徴のうちの1つ又は2つ以上を有する。
・総窒素濃度は、7ppm以上、10ppm以上、15ppm以上、20ppm以上、30ppm以上、50ppm以上、75ppm以上、100ppm以上、150ppm以上、200ppm以上又は300ppm以上である。
・単置換型窒素欠陥(Ns)濃度は、7ppm以上、10ppm以上、15ppm以上、20ppm以上、30ppm以上、50ppm以上、75ppm以上、100ppm以上、150ppm以上、200ppm以上又は300ppm以上である。
・成長させたままの窒素空孔欠陥(NV-)濃度は、120ppb以上、140ppb以上、160ppb以上、180ppb以上、200ppb以上、250ppb以上、300ppb以上、400ppb以上、500ppb以上、1000ppb以上又は5000ppb以上である。
【0047】
単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、好ましくは、低濃度の不純物(窒素以外)を更に含む。例えば、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、1×1015原子数・cm3以下の濃度の珪素を有するのが良い。この材料は又、好ましくは、少ない結晶学的欠陥を有するよう作製される。例えば、この材料は、106転位数・cm-2以下、104転位数・cm-2以下、3×103転位数・cm-2以下、103転位数・cm-2以下、102転位数・cm-2以下又は10転位数・cm-2以下の転位束密度を有するのが良い。かかる材料は、良好な光学的特性を有する。例えば、この材料は、5×10-5以下、1×10-5以下、5×10-6以下又は1×10-6以下の複屈折性を有する。
【0048】
或る特定の用途に関し、本明細書において説明するように大きな材料片を作製することが望ましい。例えば、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、次の特徴、即ち、
・200μm以上、500μm以上、1mm以上、1.5mm以上、2.0mm以上、3.0mm以上又は5.0mm以上の最も長い寸法、
・上述の1つ又は2つ以上の特徴が当てはまる0.01mm3以上、0.05mm3以上、0.1mm3以上、0.5mm3以上、1.0mm3以上、3.0mm3以上、6.0mm3以上、9.0mm3以上又は15.0mm3以上の体積、及び
・200μm超、500μm超、1mm超、1.5mm超、2.0mm超、3.0mm超又は5.0mm超の総厚さのうちの1つ又は2つ以上を有するのが良い。
【0049】
或る特定の他の用途、例えば或る特定の量子検出及び処理用途に関し、かかる材料の極めて薄い層を形成することが望ましい場合がある。例えば、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、厚さが200μm未満、100μm未満、50μm未満、20μm未満、10μm未満、5μm未満、2μm未満又は1μm未満の層の形態をしている。
【0050】
また、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料をアニールすると共に/或いは照射するのが良い。例えば、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料をアニールすると共に/或いは照射すると、桃色、黄色、緑色、橙色、赤色及び紫色を含む種々の色を生じさせることができる。
【0051】
本発明の第2の観点によれば、上述の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を作製する方法であって、この方法は、
水素、炭素源ガス、窒素源ガス及びオプションとして酸素源ガスを含むCVD合成雰囲気を生じさせるステップを含み、CVD合成雰囲気は、全ガス組成に対し0.1%から3%まで、0.1%から2%まで、0.1%から1%まで又は0.2%から0.8%までの範囲の原子濃度の窒素を含み、
支持基板に取り付けられた単結晶ダイヤモンド基板上で単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させるステップを含み、
支持基板の温度を制御して成長プロセス中、任意所与の時点における支持基板全体における温度のばらつきが標的温度値から50℃未満、40℃未満、30℃未満、20℃未満、10℃未満又は5℃未満の範囲にあり、成長プロセス全体における温度のばらつきは、標的温度値から50℃未満、40℃未満、30℃未満、20℃未満、10℃未満又は5℃未満の範囲にあり、標的温度値は、1000℃から1400℃までの範囲にあるようにするステップを含み、
CVD合成雰囲気は、
全ガス組成に対して0.1%から2.0%まで、0.3%から1.7%まで、0.5%から1.5%まで、0.7%から1.3%まで又は0.8%から1.2%までの範囲にある原子濃度の炭素、及び
全ガス組成に対して5%から40%まで、10%から30%まで、10%から25%まで又は15%から20%までの範囲にある原子濃度の酸素のうちの少なくとも一方を含むことを特徴とする方法が提供される。
【0052】
低い、例えば0.8%以下の原子濃度の炭素を含むCVD合成雰囲気の場合、酸素源ガスは不要である。
【0053】
オプションとして、単結晶ダイヤモンド基板がろう合金によって支持基板に取り付けられる。
【0054】
本発明の良好な理解を得るため且つ本発明をどのように具体化するかを示すために、今、添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明するが、かかる実施形態は例示に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】高窒素/高基板温度条件下における単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のステップフロー成長状態を示す図である。
図2】単結晶ダイヤモンド基板が選択された耐熱ろう合金により下に位置する高融点金属支持基板に結合され、ろう合金が単結晶ダイヤモンド基板上で成長している単結晶CVD合成ダイヤモンド材料と下に位置する高融点金属基板との間の良好な熱的接触を提供し、それにより合成プロセス中、単結晶CVDダイヤモンド材料の成長面全体にわたる温度の正確な制御を可能にしている状態を示す基板組成物を示す図である。
図3】合成プロセス中、単結晶CVDダイヤモンド材料の成長面全体にわたる温度の正確な制御を達成するために図2に示されている基板組成物と組み合わせて用いられる基板取り付けステージ及び温度制御システムを有するCVDダイヤモンド材料の合成のためのマイクロ波プラズマ反応器を示す図である。
図4】(a)は、明確に目に見えるストリエーションを示す高窒素/高基板温度条件下で成長させた単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のDiamondView(商標)画像の図であり、(b)は、ストリエーションが実質的に目に見えない状態を示す合成雰囲気に添加された高濃度の酸素を含む高窒素/高基板温度条件下で成長させた単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のDiamondView(商標)画像の図である。
図5】高窒素/高基板温度条件下で成長させた明確に目に見えるストリエーションを示す第1の層及び高濃度の酸素を合成雰囲気に添加することによって形成されたストリエーションが実質的に目に見えない第2の層を含む2つの層を有する単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のDiamondView(商標)画像を示す図である。
図6】高窒素/高基板温度条件下で成長させた明確に目に見えるストリエーションを示す第1の層及び合成雰囲気中のメタンの濃度を減少させることによって形成されたストリエーションが実質的に目に見えない第2の層を含む2つの層を有する単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のDiamondView(商標)画像を示す図である。
図7】高窒素/高基板温度条件下で成長させた明確に目に見えるストリエーションを示す第1の層及び高濃度の酸素を合成雰囲気に添加することによって形成されたストリエーションが実質的に目に見えない第2の層を含む図5に示された2つの層を含む単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のための光ルミネッセンスマップ(514nm励起)を示す図である。
図8】高窒素/高基板温度条件下で成長させた明確に目に見えるストリエーションを示す第1の層及び濃度の酸素を合成雰囲気に添加することによって達成させた実質的に良好な色の一様性を示す第2の層を含む2つの層を有する二層型単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の顕微鏡画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
CVD合成ダイヤモンド成長の物理的特徴/化学的特徴が文献に多岐にわたって文書化されており、これについては、例えば、バトラー他(Butler et al.),ジャーナル・オブ・フィジックス:コンデンスド・マター(J. Phys Condens. Matter),2009年,第21巻,364201,(20pp)を参照されたい。CVD合成ダイヤモンド成長の一般的な原子に関する写真の示唆するところによれば、CVD合成ダイヤモンド成長は、幾つかのプロセス、即ち、(i)プラズマ内での水素原子及びメチルラジカルの発生、(ii)通常水素ラジカルと水素を末端基とするダイヤモンド表面との間の表面反応を介するダイヤモンド表面上の活性炭素ラジカル部位の生成、(iii)表面ラジカル部位上におけるメチルラジカルの添加、かくして新たな層の生成を開始するメチル吸着原子の生成、及び(iv)隣りのラジカル部位へのホッピングによるメチル吸着原子の表面拡散に起因して起こる。これらプロセスの全ては、成長条件の影響を受ける場合がある。
【0057】
高窒素/高基板温度成長の際、ダイヤモンド表面上における反応性(ラジカル)原子の濃度が2つの理由で増大する。第1に、高い温度は、水素原子の僅かなフラクションをダイヤモンド表面から熱の作用で解離するのに十分であり、後に表面ラジカル炭素原子が残る。第2に、成長中のダイヤモンド表面の数個の原子層内における高い濃度の窒素の存在は又、表面C‐H結合を弱める場合があり、これ又その結果として、多くの表面ラジカル部位が生じる。というのは、窒素は、そのたった1つの電子対を表面部位に供与することができ、かくして、これらの反応性が高まるからである。
【0058】
窒素ドープCVD合成ダイヤモンドの成長面は、テラス領域が傾斜したライザによって互いに隔てられている成長ステップのシーケンスを示している。かかるステップフロー成長が図1に示されており、図1は、単結晶ダイヤモンド基板2を示し、単結晶CVDダイヤモンド材料4をこの単結晶ダイヤモンド基板2上で成長させる。成長方向は、矢印6で示されている。線のシーケンスは、種々の成長段階中、単結晶CVDダイヤモンド材料4の成長面の形態学的特徴を示している。理解できるように、成長面は、傾斜したライザ10によって互いに隔てられた一連のテラス領域8を生じさせる。高窒素/高基板温度成長により、特に粗い/大きなステップが作られる場合のあることが判明した。
【0059】
CVD合成ダイヤモンドサンプルの断面ルミネッセンス像を吟味すると(例えば、周知のDiamondView(商標)分析ツールを用いて)、ストリエーション付きパターン又は縞模様をなした窒素空孔ルミネッセンスの分布状態が観察され、これらストリエーションは、高い不純物密度及び低い不純物密度の領域に対応している。これらストリエーションは、特に、高窒素/高基板温度成長について目立つ。ストリエーション相互間の間隔は、成長面上のステップ相互間の間隔と一致している。かくして、理論に束縛されるものではないが、ストリエーションは、表面ステップのライザ及びテラス上における不純物関連欠陥の吸収度の差によって引き起こされると考えられ、ステップのライザ(成長面に対して角度をなしている)上における欠陥取り込み量は、段部のテラス(成長面に対して平行である)上における欠陥取り込み量よりも多い。
【0060】
上述のことに照らして、本発明者は、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のための高窒素/高基板温度成長プロセスにおけるストリエーションの問題を解決する一手法が上述したように不純物の非一様な取り込みを減少させる技術を開発することにあるということを認識した。この点に関し、CVD合成雰囲気の組成を調整して単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のための高窒素/高基板温度成長プロセスにおける非一様な窒素取り込みを減少させ又は実質的になくすことが可能であることが判明した。具体的に説明すると、本発明者は、多量の酸素をCVD合成雰囲気中に添加すると共に/或いはCVD合成雰囲気中の炭素源ガスの量を著しく減少させることによってより一様な高窒素/高基板温度成長を達成することができるということを見出した。かくして、合成方法は、
水素、炭素源ガス、窒素源ガス及びオプションとして酸素源ガスを含むCVD合成雰囲気を生じさせるステップを含み、CVD合成雰囲気は、全ガス組成に対し0.1%から3%まで、0.1%から2%まで、0.1%から1%まで又は0.2%から0.8%までの範囲の原子濃度の窒素を含み、
支持基板に取り付けられた単結晶ダイヤモンド基板上で単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させるステップを含むのが良く、
CVD合成雰囲気は、
全ガス組成に対して0.1%から2.0%まで、0.3%から1.7%まで、0.5%から1.5%まで、0.7%から1.3%まで又は0.8%から1.2%までの範囲にある原子濃度の炭素、及び
全ガス組成に対して5%から40%まで、10%から30%まで、10%から25%まで又は15%から20%までの範囲にある原子濃度の酸素のうちの少なくとも一方を含む。
【0061】
上述のことに照らして、CVD合成ガスの化学的性質を変更して高窒素/高基板温度成長プロセスが多量の酸素及び/又は著しく減少した炭素源ガス含有量を含むようにすることによって単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のための高窒素/高基板温度成長プロセスを適合させることができるということは明らかである。しかしながら、これ自体では、高窒素/高基板温度条件下においてCVDダイヤモンド成長中における非一様な窒素欠陥取り込みの問題を解決するのに十分であるとは考えられない。成長に関する化学的性質を上述したように変更した場合であっても、窒素の非一様な取り込みは、窒素取り込み量に影響を及ぼす成長面のところの温度のばらつきに起因して依然として起こる場合がある。これら温度のばらつきは、1回の成長プロセス中における特定の箇所(空間的に分布されている)のところにおける成長方向に対する横方向であり又は1回の成長プロセスの持続時間(時間的に分布されている)にわたり温度のばらつきに起因して成長方向に平行である場合がある。結果的に窒素の非一様な取り込みをもたらすかかる温度のばらつきは、高窒素/高基板温度条件下では特に問題である。効果的な熱的管理は、これら高い温度での成長に関しては困難であり、これは、高濃度窒素レベルを用いて一様な材料を成長させようとする場合により重要になる。
【0062】
したがって、上述したような特定のCVD成長に関する化学的性質の提供に加えて、(i)1回の成長プロセス中における任意の一時点における窒素取り込みの横方向非一様性を回避するために横方向にという条件と、(ii)1回の成長プロセスが進むにつれて窒素取り込みの垂直方向の非一様性を回避するために1回の成長プロセス全体にわたるという条件の両方において、CVDダイヤモンド材料の成長面全体における温度を正確に制御するための効果的な熱管理方式を提供することも又重要である。
【0063】
多種多様な特徴が(i)CVD合成ダイヤモンド材料を成長させるべき単結晶ダイヤモンド基板と下に位置する支持基板との良好な熱的接触、(ii)高い熱伝導率を有すると共に熱エネルギーを成長中の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料から除去する効果的なヒートシンクとして機能することができしかも1つ又は2つ以上の単結晶ダイヤモンド基板が取り付けられた支持基板の表面全体にわたって一様な温度を維持することができる下に位置する支持基板、(iii)支持基板の温度を迅速に且つ再現可能に変化させることができ、かくしてポイント(i)において具体的に説明した単結晶CVD合成ダイヤモンド材料と下に位置する支持基板との良好な熱的接触の提供に起因して成長中の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の温度のばらつきを迅速且つ再現可能に考慮に入れることができる温度制御システム、(iv)温度のばらつきがあればこれを検出することができ、そして温度制御システムを用いてかかるばらつきをなくすことができるよう成長中の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料(又は下に位置する単結晶ダイヤモンド基板又は支持基板が全て良好な熱的接触状態で提供されている場合に下に位置する単結晶ダイヤモンド基板又は支持基板)の温度を再現可能な仕方で測定することができる温度モニタシステムのうちの1つ又は2つ以上を含む効果的な熱的管理方式の提供に寄与することができる。以下において、要件(i)〜(iv)を満たす形態について説明する。
【0064】
図2は、単結晶ダイヤモンド基板2が選択された耐熱ろう合金14により下に位置する支持基板12に結合された基板形態を示しており、ろう合金は、単結晶ダイヤモンド基板2上で成長している単結晶CVD合成ダイヤモンド材料4と下に位置する支持基板12との良好な熱的接触を提供し、かかる良好な熱的接触は、合成プロセス中、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料4の成長面全体にわたる温度の正確な制御を可能にする。
【0065】
支持基板、例えば高融点金属キャリヤへの単結晶ダイヤモンド基板のろう付けについては先に開示してある。用いられる代表的なろうは、薄いAu/Ta箔であり、最高900度の成長温度まで良好に働く。しかしながら、1000℃から1400℃までの範囲の温度における高窒素/高基板温度条件下における成長に関し、かかるろう継手が破損するということがあらかじめ想定された。驚くべきこととして、Au/Taろうをその融点を超える温度で使用することができるということが判明した。ろうは、1000℃から1200℃の温度範囲で溶融する傾向があるが、ろうは、上に位置する単結晶ダイヤモンド基板を定位置に保持するのに十分凝集性を備えたままであり、単結晶ダイヤモンド基板の周囲周りで成長する多結晶ダイヤモンド材料が炭化物形成高融点金属支持基板を利用する場合、単結晶ダイヤモンド基板を定位置に保持するのを助けることができるということが判明した。したがって、単結晶ダイヤモンド基板は、単結晶ダイヤモンド基板上で単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させるための標的温度よりも低い融点を持つろう合金によって支持基板に取り付け可能であり、ろう合金は、単結晶CVDダイヤモンド材料の成長中、液体状態にある。この種のろう付けを本発明の実施形態に利用することができ、又、他の単結晶CVD合成ダイヤモンド成長プロセスに利用することができる。
【0066】
変形例として、高い温度の場合、ろう付け方法が熱的管理及びダイヤモンド基板結合の手段として用いられる場合、極めて高い融点を持つ別のろうを用いると、一貫すると共に信頼性のある結合を保証することができる。本発明者は、1400℃を超える成長温度に達することを目的として多種多様な形式のろう粉末組成物を試験した。これらろう粉末組成物としては、(i)8%Pd、87%Au、5%Ti又は11%Pd、84%Au、5%Ti(これらの両方は約1100℃の成長温度まで好適である)、(ii)12.5%Pd、82.5%Au、5%Ti(これは、1250℃の成長温度まで好適である)及び14%Pd、81%Au、5%Ti(これは、1400℃を超える成長温度まで好適である)が挙げられる。かくして、選択されるろうは、高窒素/高基板温度CVDプロセスで用いられる成長温度で決まることになろう。例えば、1150℃から1200℃までの範囲の成長温度に関し、適当なろうは、組成12.5%Pd、82.5%Au、5%Tiによって提供される。当然のことながら、これら特定の組成物からの僅かな変形が可能である。また、注目されるように、これは、網羅的なリストではなく、他の耐熱ろう組成物及び材料(例えば、箔)が本発明の具体化に適している場合がある。
【0067】
ろう組成物は、種として粉末形態で利用でき、かかるろう組成物を結合剤と混ぜ合わせて単結晶ダイヤモンド基板と支持基板の良好な結合を達成するのに適したコンシステンシー(稠度)を有するペーストを作るのが良い。
【0068】
上述の説明に照らして、ろう合金は、以下の特徴、即ち、
1000℃以上、1100℃以上、1200℃以上、1300℃以上又は1400℃以上の融点、
金、タンタル、パラジウム及び/又はチタンのうちの1つ又は2つ以上を含む組成物、
少なくとも8%、少なくとも10%、少なくとも12%又は少なくとも14%のパラジウム、
70〜90%金、8〜20%パラジウム及び1〜15%のタンタル及び/又はチタンのうちの1つ又は2つ以上を有するのが良いことが理解されよう。
【0069】
上述したように、支持基板は、高い熱伝導率を有し、熱エネルギーを成長中の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料から除去するための効果的なヒートシンクとして機能し、しかも、1つ又は2つ以上の単結晶ダイヤモンド基板が取り付けられた支持基板の表面全体にわたり一様な温度を維持することができるべきである。この点に関し、平坦な上面及び平坦な下面を備えた高融点金属の円筒形ディスクから成る支持基板を提供するのが有利であることが判明した。円筒形ディスクの直径は、80mm以上であるのが良い。さらに、上限及び加減は、100μm以下の平坦度ばらつきを有するのが良い。この点に関し、支持基板表面の平坦度は、CVD成長中、支持基板上で支持されているダイヤモンドの温度に影響を及ぼす場合のあることが判明した。したがって、驚くべきこととして、支持基板は、基板全体にわたる温度のばらつきを回避するために極めて高い平坦度まで処理されなければならないということが判明した。この理由は、基板温度制御システムと支持基板の相互作用に関しており、かかる理由について後で詳細に説明する。
【0070】
図3は、温度モニタシステム及び基板温度制御システムを有するマイクロ波プラズマ反応器の一例を示している。マイクロ波プラズマ反応器は、次の基本的なコンポーネント、即ち、プラズマチャンバ16、基板ホルダ18、CVD合成ダイヤモンド材料4を成長させる図2に示した状態で上述した基板構造体2,12,14、プラズマ22をプラズマチャンバ16内に生じさせるマイクロ波発生器20、マイクロ波をマイクロ波発生器20から誘電体窓26を経てプラズマチャンバ16内に送り込むよう構成されたマイクロ波結合構造体24及び源ガス28、プロセスガスをプラズマチャンバ16内に送り込んだりプロセスガスをプラズマチャンバから取り出したりするための1つ又は2つ以上のガス入口30及び1つ又は2つ以上のガス出口32を含むガス流システムを有する。
【0071】
プラズマチャンバは、使用中、定在マイクロ波を支える空胴共振器を形成するよう構成されている。一形態によれば、プラズマチャンバは、使用中、TM01n定在マイクロ波、例えばTM011モードを支えるよう構成されている。動作周波数は、400〜500MHzまでの範囲、800〜1000MHzまでの範囲又は2300〜2600MHzまでの範囲にあるのが良い。炭素源及び水素分子を含む源ガスは、プラズマ反応器容器内に送り込まれ、定在マイクロ波電場によって源ガスを活性化させると、高電場領域内にプラズマを生じさせることができる。基板構造体は、プラズマに密接して設けられ、その結果、ラジカルを含む反応性炭素がプラズマから基板に拡散することができ、そしてかかる反応性炭素を基板上に蒸着させることができるようになっている。水素原子も又、プラズマから基板に拡散することができ、そして非ダイヤモンドカーボンを選択的にエッチングし、これを基板から除去することができ、その結果、ダイヤモンド成長が起こることができる。
【0072】
支持基板12は、基板ホルダ34の支持面と支持基板12の後面との間にガス隙間38を構成するようスペーサワイヤ又はスペーサパッド36によって基板ホルダ34から間隔を置いて配置されている。ガス隙間の高さhは、指定された合成条件に応じて、25μmから2000μmまでの範囲、50μmから1000μmまでの範囲又は100μmから750μmまでの範囲にあるのが良い。かかるガス隙間を例えば直径120mmの支持基板に用いるのが良い。高温ダイヤモンド合成プロセスに関し、ガス隙間高さが500μmから750μmまでの範囲又は600μmから650μmまでの範囲にあることが好ましいことが判明した。これは、ガス隙間高さが100μmから300μmまでの範囲又は150μmから250μmまでの範囲にあることが好ましい低温ダイヤモンド合成プロセスとは対照的である。さらに、ガス供給システム40が供給管42を経てガス隙間38に結合され、この供給管は、ガス供給システム40から基板ホルダ34を通って延び、この供給管42は、基板ホルダ34の支持面に設けられた1つ又は2つ以上の出口を通ってガスをガス隙間38中に送り込むよう構成されている。基板ホルダ34を冷却するための液体冷却材供給システム44も又設けられている。
【0073】
また、注目されるべきこととして、図5に示されているマイクロ波プラズマ反応器は、プラズマチャンバ内に設けられた別個の基板ホルダ34を有し、基板ホルダは、プラズマチャンバ16のベースによって形成されるのが良い。「基板ホルダ」という用語の使用は、かかる変形例に及ぶことが意図されている。さらに、基板ホルダは、支持基板12と同じ直径(図示されているように)又はこれよりも大きい直径を有する平坦な支持面を有するのが良い。例えば、基板ホルダは、チャンバベース又はチャンバベース上に設けられた別個のコンポーネントにより形成される広い平坦な表面を形成するのが良く、基板は、平坦な支持面の中央領域上に注意深く配置されるのが良い。一構成例では、平坦な支持面は、支持基板を位置合わせし、オプションとしてこれを保持するための別の要素、例えば突出部又は溝を有するのが良い。変形例として、基板ホルダが支持基板を載せる平坦な支持面を単に提供するようかかる追加の要素が設けられなくても良い。
【0074】
液体冷却材供給システム44は、基板ホルダに対して大まかな基本的冷却作用をもたらす。しかしながら、このシステムは、広い面積にわたって高品質の一様なCVDダイヤモンド析出を得るために本発明者によって必要とされると考えられる基板の細かい温度制御又は調整にとって正確さの度合いが不十分であるということが判明した。したがって、基板温度の正確な制御又は調整を可能にするためにガス供給システム40,42が設けられている。ガス供給システムは、互いに異なる熱伝導率を有する少なくとも2種類のガスを基板の下のガス隙間中に注入すると共に、基板ホルダ上の基板の温度を制御するために少なくとも2種類のガスの比を変化させるよう構成されているのが良い。例えば、ガス供給システムは、軽いガス、例えば水素と重いガス、例えばアルゴン(アルゴンは、熱伝導率が低い)の混合物を利用するのが良い。有利には、基板の温度を制御するために用いられるガスは、主要なプロセス化学作用にも利用されるガスであり、従って、追加のガス源は、不要である。支持基板の縁部温度が支持基板の中央領域に対して高すぎる場合、軽ガスに対する重ガスの比率を増大させて支持基板の中央領域下のガスの熱伝導率を減少させるのが良く、かくして支持基板の中央領域は、支持基板の縁部に対して昇温する。これとは逆に、支持基板の縁部温度が支持基板の中央領域に対して低すぎる場合、重ガスに対する軽ガスの比率を増大させて支持基板の中央領域化のガスの熱伝導率を増大させるのが良く、かくして支持基板の中央領域は、支持基板の縁部に対して冷える。支持基板の絶対温度並びに支持基板の互いに異なる領域の相対温度は、支持基板の下のガス隙間内のガス流量及びガス組成を変化させることによっても制御できる。
【0075】
スペーサワイヤ36は、基板の下に中央ガス隙間空胴を形成するよう構成されるのが良く、その結果、ガスは、中央ガス隙間空胴内に溜まるようになる。スペーサワイヤは各々、形状が弧状であり、これらスペーサワイヤは、隙間付きのリングの状態に形作られており、かかる隙間の間を通ってガスが流通することができる。スペーサ要素は、導電性であると共に/或いは導電性接着剤、例えばSilver DAG(商標)により定位置に固定されるのが良く、この導電性接着剤は、スペーサ要素と基板ホルダとの良好な電気的接触を保証するのに有用であることが判明した。これは、温度制御に悪影響を及ぼす場合のある支持基板の下におけるアーク発生という問題を阻止するのに役立つ。
【0076】
マイクロ波プラズマ反応器は、支持基板の中央領域の1つ又は2つ以上の測定値及び支持基板の周辺領域の1つ又は2つ以上の測定値を含む少なくとも2つの温度測定値を取るよう構成された1つ又は2つ以上の温度測定装置46を更に含む。温度測定値を互いに同時に又は互いに短い時間間隔内で取ることができ、基板温度制御システムを用いると、温度のばらつきを補正することができる。温度測定装置は、図3に示されている高温計(パイロメータ)46から成るのが良い。2つの高温計が設けられるのが良く、一方の高温計は、中央温度測定値を取るためのものであり、もう一方は、周辺の温度測定値を取るためのものである。変形例として、複数個の熱電対が基板中に埋め込まれても良い。とはいうものの、熱電対を埋め込むことは、困難であることが判明しており、しかも信頼性が低い場合がある。したがって、高温測定法が良好な手段であると考えられる。この点に関し、高温測定法は、成長中のCVD合成ダイヤモンド材料の温度に的を絞ることができる。しかしながら、材料が下に位置する支持基板と良好な熱的接触状態にある場合、ダイヤモンド材料の温度は、下に位置する支持基板の温度とほぼ同じであろう。かくして、複数個の単結晶ダイヤモンド基板が支持基板上に設けられている方式の単結晶CVD合成ダイヤモンド成長の場合、温度測定を成長中のCVD単結晶相互間で実施するのが良い。
【0077】
例えば上述した構成を利用した場合であっても、依然として多くの問題が存在する場合がある。但し、上述の構成によってこれら問題を実質的に軽減することができる。例えば、或る場合において、特に比較的広い領域(例えば、直径80mm以上)にわたって支持基板にくっつけられた複数個の単結晶ダイヤモンド基板上で1回の成長プロセスで複数個のダイヤモンド単結晶を成長させる場合、支持基板領域全体にわたって非一様なCVD合成ダイヤモンド成長及び窒素の非一様な取り込みという問題が依然として存在する場合がある。これは、高品質で一様なCVD合成ダイヤモンドを成長させることができる領域を増大させる目下の必要性があるので特に問題である。さらに、これら問題は、支持基板を次の複数回の成長プロセスの際に再利用する場合に深刻になる傾向がある。これは、効果であり、経済的に競合する工業プロセスにおいて再使用することが望ましい高融点金属基板について特に問題である。
【0078】
驚くべきこととして、上述の問題は、支持基板の頂面全体にわたる温度の僅かなばらつきが支持基板の下のガス隙間の高さの極めて僅かなばらつきによって引き起こされた結果であるということが判明した。具体的に説明すると、本発明者は、円筒形高融点金属支持基板の供給業者によってもたらされたかかる円筒形高融点金属支持基板は、見かけ上、平坦な前面及び後面を有するが、これら表面は、十分に平坦ではないということを見出した。支持基板の後面の僅かな平坦度のばらつきがあっても、その結果として、ガス隙間の高さの僅かなばらつきが生じ、この結果、支持基板全体にわたる冷却作用の差が生じることが判明した。
【0079】
上述の構成例は、円周方向に対称である温度のばらつきを制御することができるが、円周方向に対称ではない温度のばらつき、例えば、ガス隙間高さのばらつきによって引き起こされる温度のばらつきを制御することは一層困難な場合がある。例えば、高融点金属支持基板は、使用中(高融点金属支持基板の融点からかけ離れているにもかかわらず)垂れ下がったり座屈したりする傾向がある。一様な垂れ下がりは、種として、上述したように制御できるエッジと中心との間の温度プロフィールを変化させる。しかしながら、座屈は、対称ではない支持基板の温度の非一様性をもたらす。代表的な座屈の大きさは、20ミクロン(山から谷まで)を超える場合がある。
【0080】
この問題を解決するため、本発明者は、ガス隙間の高さhのばらつきが200μm以下、150μm以下、100μm以下、80μm以下、60μm以下、40μm以下、20μm以下、10μm以下又は5μm以下であるようにすることが有利であることを見出した。これは、例えば、供給業者によって提供される支持基板の後面を更に処理してこれが基板ホルダの支持面のプロフィールと相補する極めて正確に規定されたプロフィールを有するようにすることによって達成できる。例えば、基板ホルダの支持面が平坦である場合、支持基板の後面は、これが極めて正確に平坦であるようにするよう処理されるべきである。
【0081】
したがって、機械的手段(好ましくは、一様で無指向性の処理、例えば、研削ではなくラップ仕上げ)による後面支持基板形状の制御が有利であることが判明した。さらに、基板ホルダの支持面も又、これが基板の後面と相補する正確に規定されたプロフィールを有するよう処理されるのが良い。最も好都合には、これは平らである。ただし、基板ホルダの支持面のプロフィールと支持基板の後面のプロフィールが極めて正確に規定されたガス隙間高さを維持するよう相補する限り、他の形状を使用することができる。さらに、基板ホルダの支持面又は支持基板の後面の少なくとも一部分を意図的に成形して例えばガス隙間の高さの制御されたばらつきをもたらし、それにより支持基板の周囲周りに僅かなガス隙間を提供して周辺領域を優先的に冷却すると共に/或いは電場改変構造体をもたらすことが可能である。したがって、ガス隙間高さhのばらつきは、支持基板の全直径の60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上又は99%以上の中心直径を有する支持基板の少なくとも中央領域全体にわたり200μm以下、150μm以下、100μm以下、80μm以下、60μm以下、40μm以下、20μm以下、10μm以下又は5μm以下であるのが良い。さらに、ガス隙間は、第1のガス隙間高さを備えた中央領域及び第2のガス隙間高さを備えた周辺領域を有するのが良く、第1のガス隙間高さは、第2のガス隙間高さよりも大きい。
【0082】
上述の説明は又、非一様CVD合成ダイヤモンド成長及び窒素取り込みの問題が支持基板の再使用によってなぜ深刻化するかを説明している。基板は、CVD合成ダイヤモンド成長中に座屈する場合があり、従って、平坦度を失う場合がある。したがって、所望の表面プロフィールを再び得るために使用相互間で支持基板を再処理するのが有利であることが判明した。基板の厚さがかかる再処理によって減少するので、基板ホルダ高さを次の複数回の成長プロセスの際、基板の成長表面が最適高さのままであるようにするよう変化させるのが良い。
【0083】
同様に、基板ホルダの支持面も又、所望のプロフィールを維持するよう成長相互間で再処理されるのが良い。ただし、この表面の座屈の問題は、支持基板に生じるばらつきよりも低いことが判明した。基板ホルダの支持面を容易に再処理するためには、基板ホルダが容易に取り出し可能であり、基板ホルダを測定して支持面の平坦度を求めることができ、基板ホルダを必要ならば再処理して支持面平坦度を維持することができ、そして基板ホルダをプラズマチャンバ内で交換できるようチャンバ設計を行うことが望ましい。
【0084】
上述のことに照らして、多数回の合成ダイヤモンド成長のために同じ支持基板を再使用する一方法では、再使用によって支持基板及び/又は基板ホルダから除去された材料を考慮に入れると共に次の複数回の合成ダイヤモンド成長プロセス中、成長面の実質的に一定の高さを維持するために必要な場合、合成ダイヤモンド成長相互間で反応器内において支持基板の高さを調節する。成長面の高さは、反応器内の支持基板の成長面に関する標的高さから2mmの範囲、1mmの範囲、0.8mmの範囲、0.5mmの範囲、0.3mmの範囲又は0.2mmの範囲に維持されるのが良い。この方法を用いると、成長相互間で再処理状態になる支持基板の寿命を延ばすことができ、従って、薄くなり、他方、上述したように反応器内のCVD合成ダイヤモンド成長のための最適高さに成長面を維持する。高さ調節可能な基板ホルダを提供することによって成長面の高さを調節するのが良い。変形例として、一定高さの基板ホルダが用いられる場合、支持基板厚さが数値で上述したように規定されている厚さの許容差の幅をいったん下回ると、基板ホルダを支持基板の直径に適合した段部を備える基板ホルダに交換して成長面高さをその許容差の幅に戻すのが良い。変形例として、高さ調節可能な基板ホルダを提供しても良い。
【0085】
上述したことに照らして、支持基板はCVD合成ダイヤモンド成長中、非一様な窒素の取り込みを招く温度のばらつきを回避するために極めて高い平坦度を備えた表面を有するよう処理されるべきである。かかる支持基板は、例えばモリブデン、タングステン、ニオブ又はこれらの合金のうちの1つから選択された高融点金属で作られるのが良い。
【0086】
本発明の実施形態によれば、支持基板の前面及び後面の平坦度のばらつきは、できるだけ小さいものであるのが良い。例えば、表面の平坦度ばらつきは、75μm以下、50μm以下、40μm以下、30μm以下、20μm以下、10μm以下、5μm以下又は1μm以下であるのが良い。当然のことながら、平坦度のばらつきがないことが理想的であるが、平坦度のばらつきを除去するために用いられる表面処理技術及び工業プロセスにおいてコスト面での影響を持つ良好な平坦度を達成するのに必要な処理時間に関する限度に応じて或る程度の極めて僅かなばらつきが依然として存在するのが通例である。したがって、平坦度ばらつきについて0.001μm又は0.01μmの下限が適応されるのが良い。
【0087】
支持基板は、400から500MHzまでの範囲のマイクロ波周波数fに関し、165mmから415mmまで、185mmから375mmまで、205mmから375mmまで、205mmから330mmまで若しくは240mmから330mmまでの範囲にあり、800から1000MHzまでの範囲のマイクロ波周波数fに関し、80mmから200mmまで、90mmから180mmまで、100mmから180mmまで、100mmから160mmまで若しくは115mmから160mmまでの範囲にあり、又は2300から2600MHzまでのマイクロ波周波数fに関し、30mmから75mmまで、33mmから65mmまで、37mmから65mmまで、37mmから58mmまで若しくは42mmから58mmまでの範囲にあるよう選択された直径を有するのが良い。本発明の実施形態を利用すると、CVD合成ダイヤモンド材料をこれらの範囲に収まった状態で支持基板上で首尾良く成長させることができ、他方、一様な成長及び窒素取り込みが保持される。注目されるべきこととして、「円筒形ディスク」という用語は、ほぼ円筒形であるディスク、例えば平均周長の±10mm、±5mm又は±1mmの真円度の範囲内の断面を有するディスクを含むことが意図されている。円筒形ディスクは又、エッジの改造、例えば面取りエッジ及び溝並びに切断誤差を含むものである。
【0088】
オプションとして、動作周波数が400〜500MHzのマイクロ波プラズマ反応器の場合、円筒形ディスクの深さは、10mmから30mmまでの範囲又は15mmから25mmまでの範囲にあるのが良い。変形例として、動作周波数が800〜1000MHzの範囲にあるマイクロ波プラズマ反応器の場合、円筒形ディスクの深さは、5mmから15mmまでの範囲又は7mmから13mmのまでの範囲にあるのが良い。さらに変形例として、動作周波数が2300〜2600MHzの範囲にあるマイクロ波プラズマ反応器の場合、円筒形ディスクの深さは、2.0mmから5.5mmまでの範囲又は2.5mmから4.5mmのまでの範囲にあるのが良い。支持基板の深さは、CVD合成ダイヤモンド成長プロセスが成長面の高さに極めて敏感なので重要であることが判明している。さらに、基板の深さは、効果的なヒートシンクとして機能するよう十分に大きいものであることが必要である。
【0089】
単結晶ダイヤモンド基板が析出に先立って高融点金属基板に取り付けられる単結晶ダイヤモンド成長の場合、単結晶基板の取り付け及びこの単結晶基板上における次のCVD成長に先立って、100nm〜500nmの表面粗さが提供されるのが良い。単結晶ダイヤモンド基板が取り付けられる下に位置する金属製基板の表面粗さ、平坦度及び温度は、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料が単結晶ダイヤモンド基板を支持する下に位置する金属製基板上で直接成長するのではなく、単結晶ダイヤモンド基板上で成長するという事実にもかかわらず、重要である。これは、単結晶ダイヤモンド成長中、多結晶ダイヤモンド材料が単結晶相互間で下に位置する支持基板上で成長するからである。この多結晶ダイヤモンド材料がCVD合成ダイヤモンド成長中に離層した場合、成長が乱される場合がある。さらに、この多結晶ダイヤモンド材料が冷却時に亀裂を生じた場合、これにより、この中に埋め込まれている単結晶ダイヤモンド材料の亀裂発生が生じる場合がある。したがって、多結晶ウェーハの成長に関する問題は、単結晶材料の成長にも当てはまると言える。この点に関し、本発明との関連で支持基板及び支持基板成長面について説明する場合、この支持基板は、単結晶CVD合成ダイヤモンド成長のために下に位置する基板に取り付けられる単結晶基板ではなく、下に位置する基板であることを意味している。この下に位置する支持基板は、基板キャリヤと呼ばれる場合がある。というのは、この下に位置する支持基板は、この上に別の単結晶ダイヤモンド基板を支持するからである。さらに、支持基板の成長面の温度について述べる場合、これは、単結晶ダイヤモンド基板の成長面の温度ではなく高融点金属基板の成長面の温度であることを意味している(ただし、これら温度は、これら2つ相互の良好な熱的接触が本明細書において説明しているろう継手を用いて達成される場合にはほぼ同一であると言える)。
【0090】
代表的には、まず最初に、ラッピング用流体中に懸濁させたダイヤモンドグリットを用いて高融点金属ディスクを鋳鉄ホイール上でラップ仕上げする。一般に、ラッピングプロセスは、バルク材料除去のために用いられると共に所与のプロセスに必要な平坦度を達成するためにも用いられる。ラップ仕上げされたままの表面が用いられる数少ないプロセスが存在する。ラップ仕上げに関する代表的なRa値は、100nm〜500nmである。しかしながら、次に、必要に応じて、低い表面粗さ値を得るために例えば研削機/研磨機を用いると共に細かいグリット(砥粒)を用いてラップ仕上げされた表面を更に加工することができる。CVDダイヤモンド成長に先立って、高融点金属支持基板をクリーニングしてラッピングプロセスから生じた汚染を全て除去するのが良い。
【0091】
上述した基板の構成は、化学気相成長によるCVD合成ダイヤモンド材料の製造方法、特に、マイクロ波プラズマ反応器を利用する方法で使用するのに有利であることが判明した。しかしながら、原理的には、かかる基板の構成は、他形式のCVDダイヤモンド反応器にも使用できる。支持体全体にわたる温度のばらつきを50℃未満、40℃未満、30℃未満、20℃未満、10℃未満又は5℃未満に制御するのが良い。さらに、単結晶ダイヤモンド基板全体にわたる温度のばらつきを50℃未満、40℃未満、30℃未満、20℃未満、10℃未満又は5℃未満に制御するのが良い。
【0092】
かくして、本発明の実施形態は、高窒素/高基板温度成長プロセスを用いて一様な単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を作製するために効果的な熱管理と選択された成長に関する化学的性質とを組み合わせている。この方法は、
水素、炭素源ガス、窒素源ガス及びオプションとして酸素源ガスを含むCVD合成雰囲気を生じさせるステップを含み、CVD合成雰囲気は、全ガス組成に対し0.1%から3%まで、0.1%から2%まで、0.1%から1%まで又は0.2%から0.8%までの範囲の原子濃度の窒素を含み、
支持基板に取り付けられた単結晶ダイヤモンド基板上で単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させるステップを含み、
支持基板の温度を制御して成長プロセス中、任意所与の時点における支持基板全体における温度のばらつきが標的温度値から50℃未満、40℃未満、30℃未満、20℃未満、10℃未満又は5℃未満の範囲にあり、成長プロセス全体における温度のばらつきは、標的温度値から50℃未満、40℃未満、30℃未満、20℃未満、10℃未満又は5℃未満の範囲にあり、標的温度値は、1000℃から1400℃までの範囲にあるようにするステップを含み、
CVD合成雰囲気は、
全ガス組成に対して0.1%から2.0%まで、0.3%から1.7%まで、0.5%から1.5%まで、0.7%から1.3%まで又は0.8%から1.2%までの範囲にある原子濃度の炭素、及び
全ガス組成に対して5%から40%まで、10%から30%まで、10%から25%まで又は15%から20%までの範囲にある原子濃度の酸素のうちの少なくとも一方を含む。
【0093】
かくして、上述の構成を用いると、本発明の実施形態は、以下の特徴を提供するのが良い。
(i)例えば、単結晶ダイヤモンド基板を支持基板にくっつけるための耐熱ろうを用いた効果的な熱管理、良好に処理された高融点金属支持基板及び適当な温度モニタ・制御システム。この結果、各単結晶CVD合成ダイヤモンド全体にわたり且つ支持基板に取り付けられた複数個の単結晶CVD合成ダイヤモンド結晶全体にわたる一様な温度勾配が得られる。耐熱ろう取り付け方法は、成長中の単結晶CVD合成ダイヤモンド材料と支持基板との良好な熱的接触をもたらす効果的で単純であり且つ費用効果の良い方法を提供する。
(ii)(a)気相中への高濃度酸素の添加(例えば、O2、CO2又はCOとして導入される)か(b)炭素源ガス濃度を下げること(例えば、CH4として導入される)かのいずれかを用いた改造高窒素/高基板温度合成化学的性質。これらの改造の両方は、非一様なドーパント/不純物取り込みを阻止することができる。
【0094】
改造熱管理構成と改造合成化学的性質の組み合わせを提供することによって、成長ステップに起因した不純物取り込みの差の減少と温度ばらつきに起因した不純物取り込みの差の減少の組み合わせを達成することが可能である。かかる特徴の組み合わせを達成することによって、次の特徴を有する単結晶CVD合成ダイヤモンド材料を合成することが可能であることが判明した。
(i) 高く且つ一様な全窒素欠陥分布
(ii) Nsの高く且つ一様な分布
(iii) NVの高く且つ一様な分布
(iv) ストリエーションなし
(v) 単一のCVD合成ダイヤモンド石、単一の成長、又成長ごとに成長させた複数個のCVD合成ダイヤモンド石に関する製品の一様性
【0095】
結果として得られる単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、
5ppm以上、7ppm以上、10ppm以上、15ppm以上、20ppm以上、30ppm以上、50ppm以上、75ppm以上、100ppm以上、150ppm以上、200ppm以上又は300ppm以上の成長させたままの窒素の総濃度と、
欠陥の一様な分布状態とを有し、欠陥の一様な分布状態は、以下の特徴のうちの1つ又は2つ以上によって定められ、当該特徴は、次の通りであり、即ち、
(i)総窒素濃度は、10μm以下の分析領域を用いて50×50μm以上の面積にわたり二次イオン質量分析法(SIMS)によってマップされると、平均総窒素濃度値の30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、3%未満又は1%未満のポイントツーポイントばらつきを有し、或いは、60μm以下の分析領域を用いて200×200μm以上の面積にわたりSIMSによってマップされると、平均総窒素濃度値の30%未満、25%未満、20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、3%未満又は1%未満のポイントツーポイントばらつきを有すること、
(ii)成長させたままの窒素空孔欠陥(NV)濃度が77K・UV可視吸収率測定を用いて測定して50ppb以上であり、窒素空孔欠陥は、50mW連続波レーザを用いて室温で10μm以下のスポットサイズの514nmレーザ励起源を用いて励起され、そして10μm未満のデータ間隔で50×50μm以上の面積にわたってマップされると、低ポイントツーポイントばらつきが生じるよう合成単結晶CVDダイヤモンド材料中に一様に分布し、高フォトルミネッセンス強度の領域と低フォトルミネッセンス強度の領域との窒素空孔フォトルミネッセンスピークの強度面積比は、575nmフォトルミネッセンスピーク(NV0)か637nmフォトルミネッセンスピーク(NV-)かのいずれかについて2.0未満、1.8未満、1.6未満、1.4未満又は1.2未満であること、
(iii)成長させたままの窒素空孔欠陥(NV)濃度が77K・UV可視吸収率測定を用いて測定して50ppb以上であり、50mW連続波レーザを用いて77Kで10μm以下のスポットサイズの514nmレーザ励起源を用いて励起されると、552.4nmでのラマン強度の120倍超、140倍超、160倍超又は180倍超のNV0に対応した575nmでの強度及び/又は552.4nmでのラマン強度の200倍超、220倍超、240倍超又は260倍超のNV-に対応した637nmでの強度が与えられること、
(iv)単置換型窒素欠陥(Ns)濃度が5ppm以上であり、単置換型窒素欠陥は、1344cm-1赤外吸収特徴を用いると共に0.5mm2の面積よりも大きな面積をサンプリングすることによって、平均値で標準偏差を除算することによって導き出されるばらつきが80%未満、60%未満、40%未満、20%未満又は10%未満であるように合成単結晶CVDダイヤモンド材料中に一様に分布すること、
(v)平均値で除算された標準偏差により求められる赤色ルミネッセンス強度のばらつきが15%未満、10%未満、8%未満、6%未満又は4%未満、であること、
(vi)中性単置換型窒素濃度の平均標準偏差が80%未満、60%未満、40%未満、20%未満又は10%未満であること、
(vii)50を超える平均濃淡値を含む顕微鏡画像からのヒストグラムを用いて測定した色の強度が存在し、色強度は、濃淡値平均で除算した濃淡値標準偏差により特徴付けられる灰色のばらつきが40%未満、30%未満、20%未満、10%未満又は5%未満(例えば、指定したポイントツーポイントばらつきにより200×200×200μm以上の体積にわたり測定して)であるように単結晶CVD合成ダイヤモンド材料中で一様であることである。
【0096】
単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、上記特徴のうちの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ全てを有するのが良い。
【0097】
単置換型窒素欠陥(Ns)濃度は、5ppm以上、7ppm以上、10ppm以上、15ppm以上、20ppm以上、30ppm以上、50ppm以上、75ppm以上、100ppm以上、150ppm以上、200ppm以上又は300ppm以上であるのが良い。
【0098】
成長させたままの窒素空孔欠陥(NV-)濃度は、50ppb以上、75ppb以上、100ppb以上、120ppb以上、140ppb以上、160ppb以上、180ppb以上、200ppb以上、250ppb以上、300ppb以上、400ppb以上、500ppb以上、1000ppb以上又は5000ppb以上であるのが良い。
【0099】
単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、1×1015原子数・cm3以下の濃度の珪素を有するのが良い。低濃度珪素材料は、石英ベルジャー又は大きな石英窓を備えていない本明細書において説明したCVD反応器設計を用いて作製できる。かかる石英コンポーネントは、成長中、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の珪素汚染の原因となる場合がある。
【0100】
単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、次の寸法上の特徴のうちの1つ又は2つ以上を有するのが良く、この特徴は、
上述の特徴のうちの1つ又は2つ以上が当てはまる200μm以上、500μm以上、1mm以上、1.5mm以上、2.0mm以上、3.0mm以上又は5.0mm以上の最も長い寸法、
上述の特徴のうちの1つ又は2つ以上が当てはまる0.01mm3以上、0.05mm3以上、0.1mm3以上、0.5mm3以上、1.0mm3以上、3.0mm3以上、6.0mm3以上、9.0mm3以上又は15.0mm3以上の体積、及び
上述の特徴のうちの1つ又は2つ以上が当てはまる200μm未満、500μm未満、1mm未満、1.5mm未満、2.0mm未満若しくは1.0mm未満又は200μm超、500μm超、1mm超、1.5mm超、2.0mm超、3.0mm超又は5.0mm超の総厚さである。
【0101】
好ましくは、単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は又、106転位数・cm-2以下、104転位数・cm-2以下、3×103転位数・cm-2以下、103転位数・cm-2以下、102転位数・cm-2以下又は10転位数・cm-2以下の転位束密度を有する。かかる材料は、単結晶基板が成長面を提供するよう注意深く選択されると共に処理され、この成長面にはこの成長面上での成長に先立って結晶欠陥が実質的にないようにすることによって作製できる。
【0102】
単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、成長させたままの材料であっても良く、或いは、アニールされると共に/或いは照射された材料であっても良い。単結晶CVD合成ダイヤモンド材料は、次の色、即ち、桃色、黄色、緑色、橙色、赤色、紫色のうちの1つ又は2つ以上を有することができる。
【0103】
上述の特徴のうちの1つ又は2つ以上を提供した場合の商業的な利点としては、次が挙げられる。
(i) 一様な量子検出及び処理能力を備えた材料
(ii) 光学フィルタリング用途のための一様な光吸収率を有する材料
(iii) 機械的用途のための一様な耐摩耗性を備えた材料
(iv) 高品質着色宝石を形成するための成長後照射及び/又はアニーリング処理に適した一様な色を有する材料
(v) 高い成長速度(例えば、30μm/時を超える)
【0104】
また、CVD合成ダイヤモンド材料が成長後アニーリング処理を受ける場合、窒素欠陥が凝集して種々の形式の凝集状態の窒素欠陥を形成する場合があることに注目されるべきである。しかしながら、窒素分布における一様性の高いレベルは、材料の色が一様なままであり、しかも、光ルミネッセンス観察条件下でストリエーションという特徴がほとんど見えず又は全く見えないよう保持される。
【0105】
標準の(即ち、低濃度窒素、低基板温度)CVD合成ダイヤモンド材料の高い一様性は、例えば金属不純物の減少等のような他の要因と共に、HPHT合成と比較した場合に通常、その重要な利点である。例えば、CVD合成は、複数個の成長セクタを示さない。CVD方法の一欠点は、HPHT成長プロセスと比較した場合に成長プロセス中、高レベルの窒素を取り込むのが困難であるということにある。本発明の実施形態は、この問題に取り組んで高レベルの窒素の取り込みを達成する一方で、更に、HPHT成長プロセス及び高窒素/高基板温度プロセスを利用する他のCVD成長プロセスと比較した場合に一様な窒素取り込みを達成する。
【0106】
実施例
上述のCVD反応器及び基板構成を利用して、種々の濃度の酸素含有源ガス及び種々の濃度の炭素源ガスをCVD合成雰囲気中に用いて高窒素/高基板温度条件下において単結晶CVDダイヤモンド材料を成長させた。
【0107】
図4(a)は、明確に目に見えるストリエーションを示す高窒素/高基板温度条件下で成長させた単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のDiamondView(商標)画像の図である。この実施例では、次のガス流量、即ち、3000sccmH2、0sccmCO2、165sccmCH4及び4.0sccm純粋N2(1254ppm)を用いてCVD合成雰囲気を形成した。これら流量は、次の原子濃度、即ち、97.5%H、2.4%C、0%O及び0.1%Nに相当している。
【0108】
これとは対照的に、図4(b)は、ストリエーションが実質的に目に見えない状態を示す合成雰囲気に添加された高濃度の酸素を含む高窒素/高基板温度条件下で成長させた単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のDiamondView(商標)画像の図である。この実施例では、次のガス流量、即ち、1000sccmH2、5000sccmCO2、530sccmCH4及び3sccmN2を用いてCVD合成雰囲気を形成した。これら流量は、次の原子濃度、即ち、67%H、16.7%C、16.2%O及び0.1%Nに相当している。
【0109】
図5は、図4(a)を参照して上述したCVD合成雰囲気を用いて成長させた明確に目に見えるストリエーションを示す第1の層及び図4(b)を参照して上述したCVD合成雰囲気を用成長させたストリエーションが実質的に目に見えない第2の層を含む2つの層を有する単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のDiamondView(商標)画像を示す図である。
【0110】
フリーウェアImageJプログラム(http://rsbweb.nih.gov/ij/)を用いたDiamondView(商標)画像の分析に基づき、ダイヤモンドサンプルのルミネッセンスの一様性を確認するためにダイヤモンドのサンプルの画像に関する明度のヒストグラムを導き出すことが可能である。図5に示されているサンプルをかかる仕方で分析した(成長に平行な{100}表面、変形例として、2つの{100}垂直面を分析することができ、一様性の最も貧弱な画像を研究の表面として取り上げることができる)。DiamondView(商標)画像を撮ってサンプル画像のうちで飽和状態のものがないようにし、そしてアパーチュア及び視野絞り設定値を100%に設定し、ゲイン値を0.00dBに設定し(即ち、ノイズを最小限にし)、ガンマエンハンスメント設定値を「オフ」に設定した(即ち、直線ガンマ曲線)。画像をImageJにロードした。分析の第1段階では、「スプリット・チャネル(Split
Channels)」指令を「イメージ・メニュー(Image menu)」の下で「カラー(Color)」サブメニューから選択することによって画像の赤色成分、緑色成分及び青色成分を分割した。ルミネッセンスの主要な色は、赤色だったので(NV中心がほとんどルミネッセンスに寄与し、これら中心が赤色/橙色に発光していることにより)、赤色画像成分を分析すると共に緑色及び青色成分を捨てることが最も賢明であると考えられた。次に、赤色成分から、選択した長方形を各CVD層から取り出し、測定に影響を及ぼす恐れのあるサンプル表面、基板及び対になった又は含まれた領域の採用を回避した。この長方形は、0.3mm2よりも広く又は好ましくは0.6mm2よりも広く或いはより好ましくは1.0mm2よりも広いことが必要であることに注目されたい。「分析(Analyse)」をクリックし、次に「ヒストグラム(Histogram)」をクリックすると、以下のヒストグラム及び統計学的パラメータが明らかになった。

【0111】
上述のデータから次のことを演繹することができ、即ち、(i)測定した面積は、極めて類似しており、両方とも、サンプルフェースを表していること。(ii)HT/HN/O層に関する平均値は、HT/HN層の平均値よりも大きく、このことは、Oが赤色ルミネッセンスの強度を増大させる作用効果を有していることを示唆している(即ち、高いNVルミネッセンス強度)。(iii)本発明に最も関連していることであるが、図7から推定されるようにHT/HN/O層に関する標準偏差は、HT/HN層に関する標準偏差よりも極めて小さい。(iv)HT/HN層に関する最小値及び最大値よりもHT/HN/O層に関する最小値及び最大値のほうの広がりがはるかに小さく、これは、(iii)と一致している。(v)HT/HN/O層のモードがHT/HN層のモードよりも高く、これは、(ii)と一致している。
【0112】
この分析から、重いOドープ化学的性質を用いるかメタンを減少させることによるルミネッセンス一様性の向上は、標準偏差を上述した仕方で平均値によって除算することによって得られる15%未満又は好ましくは10%未満又はより好ましくは8%未満又はより好ましくは6%未満又はより好ましくは4%未満の赤色ルミネッセンス強度のばらつきによって特徴付けられるということが言える。
【0113】
図6は、高窒素/高基板温度条件下で成長させた明確に目に見えるストリエーションを示す第1の層及び合成雰囲気中のメタンの濃度を減少させることによって形成されたストリエーションが実質的に目に見えない第2の層を含む2つの層を有する単結晶CVD合成ダイヤモンド材料のDiamondView(商標)画像を示す図である。第1の層に関し、次のガス流量、即ち、3000sccmH2、20sccmAr、165sccmCH4及び4sccmN2を用いてCVD合成雰囲気を生じさせた。これら流量は、次の原子濃度、即ち、2.4%C及び0.1%Nに相当している。第2の層に関し、次のガス流量、即ち、3000sccmH2、20sccmAr、45sccmCH4及び4sccmN2を用いてCVD合成雰囲気を生じさせた。これら流量は、次の原子濃度、即ち、0.7%C及び0.1%Nに相当している。
【0114】
図7は、図5に示された二層型単結晶CVD合成ダイヤモンド材料に関する光ルミネッセンス(PL)マップを示している。サンプルが室温に保持された状態で514nmでの50mW連続波レーザ(Arレーザ)を用いてこれら光ルミネッセンスマップを作製した。直径10μm未満、より好ましくは直径5μm未満のレーザスポットサイズが利用されている。600本(線の数)/mm格子を用いたが、約0.1nmのスペクトル分解能が与えられた。格子を550〜650nmからのスペクトルデータが収集可能であるように位置決めした。レーザを〈100〉成長方向に平行であるサンプルの研磨面の250μm×250μm領域に対してラスター走査した。実際には、50μm×50μmを超えるラスター走査で十分であった。ステップ増分は、5μmであった。室温で線強度を計算するため、以下の方法を利用した。まず最初に、ベースライン領域への多項式当て嵌めを用いて各ピークをベースラインとした。552.4nmでのラマンピークは鮮明であり、従って、551〜554nmのベースライン窓は十分であった。575nm及び637nmの特徴は、かなり広く、従って、570〜582nm(575nmピーク)及び630〜645nm(637nmピーク)のベースライン隣っている窓が必要であった。次に、各ピークの分析前に、スペクトルをxスケール上のnmからeVに変換した。次に、各ピークに関し、混合ガウス型/ローレンツ型非線形最小二乗アルゴリズムを用いてピークの各々への当て嵌めによって積分面積を導き出した。その結果として得られるピーク面積は、毎秒eVカウント(cps)で表される。552.4nmの特徴、575nmの特徴及び637nmの特徴でダイヤモンドラマンについてこの手順を採用した。これを層の各々における最も低い及び最も高い575及び637nm線強度の領域について実施した。575及び637面積をダイヤモンドラマン線の面積によって除算することにより標準化された535及び637nm線面積値を計算した。値は、以下の表に示されている。

【0115】
この表から、ダイヤモンドラマン特徴の積分面積は、標準のHT/HN成長層の低PL強度及び高PL強度の領域相互間で約1.3×だけ変化するが、HT/HN/O成長層では約1.1倍だけしか変化していない。注目されるように、これらの値は、サンプル表面上で測定した最小及び最大ラマン値であり、即ち、最も低いラマン強度の領域は、最も高い575及び637nmPLの領域に直接対応するよう観察され、又この逆の関係が成り立つ。したがって、ダイヤモンドラマン特徴とこのように測定したサンプル面積の積分面積比が1.25未満であり、或いは好ましくは1.20未満であり又はより好ましくは1.15未満であり又はより好ましくは1.10未満であり又はより好ましくは1.05未満である場合、本発明の或る特定の実施形態を実証することができる。
【0116】
この表から、HT/HN成長層中の575nm特徴と637nm特徴の両方について低い強度の領域と高い強度の領域との間に2倍を超える変化が存在するが、HT/HN/O成長層では、この変化は、2倍未満であることが明らかである。したがって、高いPL強度の領域と低いPL強度の領域との標準化された575又は637ルミネッセンス強度比が2未満であり、又は好ましくは1.8未満であり又はより好ましくは1.6未満であり又はより好ましくは1.4未満であり又はより好ましくは1.2未満である場合、本発明の或る特定の実施形態を実証することができる。
【0117】
また、PL線強度値が層1の場合よりも層2の場合のほうが大きいことが注目される。幾分かのオーバーラップが存在するが、室温PL測定の場合、30を超える575nm/R値及び/又は70を超える637nm/R値が本発明の或る特定の実施形態を特徴付けると言える。
【0118】
77K(液体窒素温度)でのPLも又、575及び637nm線を更に詳細に研究するために使用できる。同じサンプルに関し、同一のセットアップ及び514nm励起を用いて77KでPLを実施した。77Kでは、575nmPL線と637nmPL線の両方は、かなり鮮明であり、強度が増大している。標準のクライオスタットを用いてサンプルを冷却し、サンプルが77Kに達するよう十分な遅延を許容した(熱電対を用いてサンプルの近くの温度を測定した)。次に、520nmと850nmとの間のスペクトルを取った。77Kでの線強度を計算するために以下の方法を利用した。まず最初に、ベースライン領域への多項式当て嵌めを用いて各ピークをベースラインとした。ラマン及びPLピークは鮮明であり且つベースラインはゼロに近かったのでこれは問題ではなかった。次に、分析前に、スペクトルをxスケール上のnmからeVに変換した。次に、各ピークに関し、混合ガウス型/ローレンツ型非線形最小二乗アルゴリズムを用いてピークの各々への当て嵌めによって積分面積を導き出した。その結果として得られるピーク面積は、毎秒eVカウント(cps)で表される。これを層の552.4nmでのダイヤモンドラマン、575nm特徴部及び637nm特徴部について実施した。サンプルについて取られた2つのスポット(一方は、HT/HN層についてのものであり、他方は、HT/HN/O層についてのものであった)に関する標準化されたPL線強度を以下に示す。

【0119】
層1について575線面積比と637線面積比とにはかなりの開きがあることが明らかであるが、値は、層1の場合よりも層2の場合のほうが大きい。これは又、DiamondView(商標)画像で観察される(例えば、図5及び図6に示されているように)。77Kの結果は又、既に示した室温結果を裏付けるように思われる。かくして、77KPL測定に関し、120よりも大きい575nm/R値及び/又は200よりも大きい637nm/R値は、本発明の或る特定の実施形態を特徴付けていると言える。
【0120】
成長させたままのNV欠陥、例えば上述のNV欠陥は、少なくとも一部が照射及びアニーリングによって形成されたNV欠陥とは容易に識別できる。というのは、このように処理されたCVD合成ダイヤモンド材料は、成長させたままのCVD合成ダイヤモンド中には存在していないが、UV可視スペクトル、IRスペクトル又はPLスペクトルには存在している特徴を示しているからである。これら特徴としては、UV可視スペクトル中の594nm特徴、IRスペクトル中の1450cm-1特徴及び例えばPL中の470nm及び550.8nm特徴のような特徴が挙げられる。さらに、成長させたままの窒素欠陥は、(i)打ち込みの際の損傷がないこと及び(ii)窒素欠陥が打ち込みによって形成された表面に近い平面内ではなく、ダイヤモンド材料全体にわたり又は本明細書において説明するように成長させた材料の層全体にわたって分布していることにより打ち込まれた窒素とは識別できる。したがって、本発明によれば、窒素欠陥は、2つの互いに直交する平面内で分析された場合に一様に分布して配置されている。
【0121】
図8は、高窒素/高基板温度条件下で成長させた明確に目に見えるストリエーションを示す第1の層及び濃度の酸素を合成雰囲気に添加することによって達成させた実質的に良好な色の一様性を示す第2の層を含む2つの層を有する二層型単結晶CVD合成ダイヤモンド材料の顕微鏡画像を示す図である。第1の層に関し、次のガス流量、即ち、3000sccmH2、165sccmCH4及び40sccmの10%N2とH2の混合物を用いてCVD合成雰囲気を生じさせた。これら流量は、次の原子濃度、即ち、2.4%C及び0.1%Nに相当している。第2の層に関し、次のガス流量、即ち、380sccmH2、530sccmCH4、470sccmCO2及び10sccmの10%N2とH2の混合物を用いてCVD合成雰囲気を生じさせた。これら流量は、次の原子濃度、即ち、20.7%C、19.5%O及び0.04%Nに相当している。
【0122】
DiamondView(商標)画像(図5に示されている)の分析と同様な仕方で、フリーウェアImageJプログラム(http://rsbweb.nih.gov/ij/)を用いた顕微鏡画像の分析に基づき、ダイヤモンドサンプルの色の一様性を確認するためにダイヤモンドのサンプルの画像に関する濃淡値の分布を与えるヒストグラムを導き出すことが可能である。図8に示されているサンプルをかかる仕方で分析した(成長に平行な{100}表面、変形例として、2つの{100}垂直面を分析することができ、一様性の最も貧弱な画像を研究の表面として採用することができる)。2メガピクセルを超えるCCDカメラを用いて成長特徴部がシャープなピントに合った状態で元の顕微鏡画像を撮り、倍率をサンプルの最も長い長さ方向軸線が画像の幅の少なくとも50%を占めるように選択した。バックグラウンドを飽和させるがサンプルのどの領域も飽和させないよう画像収集条件を設定すると共にガンマ設定値を0.5にし、かくして良好なコントラスト及び輝度を保証した。画像をImageJにロードした。分析のため、考えられる限り最も大きな選択長方形を各CVD層から取り、測定の邪魔になる恐れのあるサンプル表面、基板及び対になった又は含まれた領域の採用を回避した。この長方形は、0.3mm2よりも広く又は好ましくは0.4mm2よりも広く或いはより好ましくは0.5mm2よりも広いことが必要であることに注目されたい。「分析(Analyse)」をクリックし、次に「ヒストグラム(Histogram)」をクリックすると、次のヒストグラム及び統計学的パラメータが明らかになった。

【0123】
上述のデータから次のことを演繹することができ、即ち、(i)HT/HN層で測定した面積は、HT/HN/O層で測定した面積よりも大きいが(前者は厚く、そこでこのことが可能であった)、両方の面積は、ほぼ同じオーダのものでありしかもサンプルフェースの妥当な領域を含んでおり、(ii)HT/HN/O層に関する平均濃淡値は、HT/HN層の平均濃淡値よりも大きく、このことは、全体として、酸素が色彩を向上させるという作用効果を有するように思われることを示唆しており、(iii)本発明に最も関連していることであるが、図8から推定されるようにHT/HN/O層に関する標準偏差は、HT/HN層に関する標準偏差よりも極めて小さく、(iv)HT/HN層に関する最小濃淡値及び最大濃淡値よりもHT/HN/O層に関する最小濃淡値及び最大濃淡値のほうの広がりがはるかに大きく、これは、(iii)と一致しており、(v)HT/HN層のモードがHT/HN/O層のモードよりも高く、これは、(ii)と一致している。この分析から、重いOドープ化学的性質を用いるかメタンを減少させることによる色の一様性の向上は、濃淡値の平均値で除算した濃淡値標準偏差によって特徴付けられるように、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満又は5%未満の灰色のばらつきによって特徴付けられるということが言える。
【0124】
図8に示されたサンプルに関するHT/HN及びHT/HN/O成長層中の窒素濃度及び窒素一様性を測定するためにNicolet Magna-IR 750フーリエ変換赤外線(FTIR)分光計に取り付けられた顕微鏡を用いた。この場合も又、成長方向に平行な{100}表面を検討した。各層について5つのスポットの代表的なサンプルを測定した。代表的なサンプルという表現は、5つのスポットを測定して各層のスペクトル特性の表示を良好なものであるとして与え、他方、誤った結果をもたらす場合のある次の特徴、即ち、(a)対にされた成長、(b)サンプル基板及び(c)サンプル表面を回避した。実際には、これよりも多くのスポットを測定することができるが、各層中の5つの箇所が良好な加減である。用いられるアパーチュアのサイズは、上側アパーチュアについて1.5mm、下側のアパーチュアについて1mmであった。分光計を2cm-1の空間分解能で(器具の設定値によって定められる)650〜4000cm-1を相互間の512回の走査を用いて収集のためにスペクトロメータをセットアップした。データ収集前に、バックグラウンドスペクトルを収集し、かかるバックグラウンドスペクトルをサンプルスペクトルから差し引いた。サンプルスペクトルの収集に続き、水蒸気のIRスペクトルをサンプルスペクトルから差し引いた。次に、スペクトルを既知の厚さの標準型IIa天然ダイヤモンドのスペクトルで除算することによって標準化し、それによりcm-1の単位の吸収係数値を得た。
【0125】
中性単置換型窒素濃度([Ns0])を導き出すために1334cm-1でのIR特徴の強度を用いることができるということは周知である(例えば、エス・シー・ローソン(S. C. Lawson),ディー・フィッシャー他(D. Fisher et al.),ジャーナル・オブ・フィジックス:コンデンスド・マター(J. Phys.: Condens. Matter),1998年,第10巻,p.6171〜6180)。1344cm-1での特徴の面積への当て嵌め及び14.70の係数の乗算によって、[Ns0]値をHT/HN層中の5つの代表的な箇所につき及びHT/HN/O層中の5つの代表的な箇所について導き出した。増倍率を前もって決定し、かかる増倍率は、広範なダイヤモンドサンプルについて[Ns0]を演繹するための正確な値を与えることが判明した。各層について[Ns0]の平均偏差及び標準偏差を導き出した。以下の表は、得られた値を示している。

【0126】
上述の表から幾つかの要点を観察することができ、即ち、(i)平均[Ns0]は、HT/HN層よりもHT/HN/O層のほうが高く、このことは、材料中の窒素の濃度を増大させる上で有利である可能性が多分にあり、これは、或る特定の用途にとって有用であり、更に、(ii)[Ns0]の標準偏差は、HT/HN/O層の場合よりもHT/HN層のほうが著しく大きく、このことは、HT/HN/O層中の窒素一様性が大幅に向上したことを示している。以上要約すると、HT/HN/O層は、80%未満又は好ましくは60%未満又はより好ましくは40%未満又はより好ましくは20%未満又はより好ましくは10%未満の中性単置換型窒素濃度のばらつき(サンプルのできるだけ広い領域にわたって測定されるが、0.5mm2の面積よりも大きな面積をサンプル採取した少なくとも5つのスポットを用いる共にIRスペクトル中の1344cm-1特徴を用いる)によって特徴付けられ、ばらつきは、標準偏差を平均偏差で除算することによって導かれる。
【0127】
上述したことに加えて、サンプル中の総窒素濃度のばらつきを求めるために二次イオン質量分光法(SIMS)によるマッピングを実施するのが良い。まず最初に、既知の窒素濃度の基準ダイヤモンドサンプルを用いてN信号を較正する。次に、分析面積を定めるために、アパーチュアをラスター走査されたSIMSビーム(代表的には、15keV182+である)の前に配置する。この研究の目的で、10×10ミクロンアパーチュアを用いる。これは、百万当たり数部のオーダのN濃度感度ということになる。次に、このアパーチュアをサンプル上に逐一方式でマップする。各箇所のところで、ビームを代表的な10分間当て、それによりサンプルダイヤモンド中のデータ、代表的には2ミクロンを集め、これは、雰囲気汚染の原因を最小限に抑える。このように、数時間にわたり、5×5マップにより、サンプルの50×50ミクロン領域をサンプル採取することができよう。
【0128】
また、サンプルを照射及び/又はアニーリングによって処理することができる。例えば、HPHT処理済みサンプルは、上述した限度内のNs濃度及び分布を依然として有する。ただし、50ppbNV限度は、もはや当てはまらない場合があり、というのは、NV欠陥は、アニーリングにより少なくとも部分的に材料からなくなっている場合があるからである。色及びルミネッセンスは、一様のままであろう。特定の開始材料及びHPHT処理に応じて、処理済みサンプルの色は、無色である場合があり、黄色である場合があり又は灰色である場合がある。ルミネッセンスに関し、これは、もはや、特徴的な赤色/橙色NVルミネッセンスである傾向はなく、これとは異なり、緑色ルミネッセンス又は青緑ルミネッセンスである傾向がある。(i)アニーリング時に生じ、(ii)CVD固有である分光学的特徴としては、PLにおいて524.3nm、IRにおいて1341cm-1、77KUV可視吸収において451/454nmが挙げられる。多数回のアニーリング及び/又は照射ステップを実施すると、特定の標的色を達成することができる。例えば、アニーリング、照射及びアニーリングから成るトリプル処理を本発明の材料に利用するのが良い。かかるトリプル処理を用いると、桃色着色を達成することができる。この場合も又、かかる処理済みサンプルは、上述の限度内でNS濃度及び分布を依然として有する。色及びルミネッセンスの面での一様性も又保持される。トリプル処理特徴は、上述のアニーリング関連CVD特徴に加えて77KUV可視吸収における594nm特徴及びIRにおける1250cm-1特徴(並びに、NV欠陥からの強力な575/637nmルミネッセンス)が挙げられる。
【0129】
これら実施例は、本発明の実施形態によって達成された材料品質の向上を示している。しかしながら、好ましい実施形態を参照して本発明を具体的に図示すると共に説明したが、当業者であれば理解されるように、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなく形態及び細部の種々の変更を行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8