【文献】
Sunhyung Kim et al,Drying of the Silica/PVA Suspension: Effect of Suspension Microstructure,Langmuir,米国,American Chemical Society,2009年 5月 1日,25(11),6155-6161
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したような従来法では、シリカガラスの加工に莫大な熱エネルギーを必要とし、また、加工精度の要求を満足することができない。そこで、新しい3次元構造を有するシリカ微小光学部品を簡便に低コストで開発可能な加工技術が望まれている。さらに、所望の導電特性や発光特性を有するシリカガラスの製造技術の開発も望まれている。
【0005】
しかしながら、シリカガラスの加工技術と導電特性或いは発光特性とを満足させた研究報告例はない。例えば、シリカガラスのインプリント技術に関しても、光リソグラフィやエッチング等の現状のプロセスでは所定の微細加工精度の要求特性は満足しているが、環境負荷、多段階に渡る複雑な製造プロセスやコストの面において問題がある。
【0006】
また近年、レーザー光化学加工による高機能性微細デバイス製造技術の報告がなされているが、市販品のシリカ板ガラスの微細加工技術に関するものであり、新しいシリカガラスの製造法までは言及していない。
【0007】
また、蛍光性を有するシリカガラス製造技術に関する技術としては、改良型バイコール法が挙げられる。しかしながら、当該技術で製造されるものはガラス中に不純物が存在し、光透過性が不十分であると考えられる。さらに、成形加工を行う場合には再度熱加工を施す必要があり、製造プロセスにおいて多くの製造工程と熱エネルギーを必要とする。
【0008】
さらに、上述のとおりシリカガラスは次世代のフォトニクス産業を担う基盤材料として期待されているものの、これまでにシリカガラスに導電性を付与した(導電性を発現させた)技術はなかった。現在、既存のシリカガラスに対して、2次加工することで製品化する試みがなされているものの、任意の微細配線技術等の高度化は困難な状況にある。また、仮に既存の技術において製品化を達成することができたとしても、製造コストが高く、また、配線の密着性、耐久性、機能性に問題があるものと考えられる。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、成形加工性に優れるとともに、例えば、導電性が付与されたシリカガラスの製造にも好適に用いられ得るコンポジット成形体、及び、当該コンポジット成形体から得られるシリカガラス(特に、導電性シリカガラス)を提供し、さらには、それらを得るための製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採る。すなわち、
本発明の第1の態様は、シリカナノ粒子と有機高分子とを含み、シリカナノ粒子と有機高分子とが3次元ネットワークを構成している、コンポジット成形体である。
【0011】
本発明において、「シリカナノ粒子」とは、ナノオーダーの粒子径を有するシリカ粒子を意味する。特に、粒子径が好ましくは100nm以下、より好ましくは5nm以上50nm以下のものを用い、また、平均粒子径が好ましくは5nm以上50nm以下のものを用いる。なお、本願において「粒子径」とは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、TEM像の5μm×5μmの範囲に存在するシリカナノ粒子の円相当径の平均値を意味し、また、「平均粒子径」とは、一次粒子に係るシリカナノ粒子の平均粒子径をいう。当該平均粒子径は、レーザー式粒度測定機を用いて測定可能である。例えば、レーザー式粒度測定機を用いたマイクロソーティング制御方式(測定領域内にのみ測定対象粒子を通過させ、測定の信頼性を向上させる方式)により測定可能である。この測定方法は、セル中に測定対象0.01g〜0.02gが流されることで、測定領域内に流れてくる測定対象に波長670nmの半導体レーザー光が照射され、その際のレーザー光の散乱と回折が測定機にて測定されることにより、フランホーファの回折原理から、平均粒径及び粒径分布が計算され、その結果を得ることができる。「有機高分子」とは、シリカナノ粒子と溶媒中(水以外の溶媒でも可能)で混合できる高分子であればよい。
【0012】
本発明の第1の態様において、3次元ネットワークは、シリカナノ粒子が有機高分子中に分散されてなるとともに、有機高分子の部分にナノポアが形成されてなるものであることが好ましい。尚、本発明において、「シリカナノ粒子が有機高分子中に分散されてなる」とは、例えば、シリカナノ粒子と有機高分子とが、ナノオーダーで均一分散された形態である。「ナノポア」とは、有機高分子の絡み合いにより生じたナノオーダーの空隙を意味する。
【0013】
また、本発明の第1の態様に係るコンポジット成形体は、ナノポアの径を5〜50nmとすることが可能である。また、ナノポアの平均径を30nm程度とすることが可能である。これにより、コンポジット成形体自体に十分な強度を備えさせることができ、作業時の取り扱いが容易となる。また、シリカガラスとする場合の収縮量を低減することも可能である。
【0014】
また、本発明の第1の態様において、BET法に基づく比表面積が50m
2/g以上250m
2/g以下であることが好ましい。当該範囲内において、コンポジット成形体の機械強度や表面特性をより優れたものとすることができる。例えば、コンポジット成形体に導電体を設けたのち焼成し、導電体を備えたシリカガラスとすることを想定した場合、焼成後、導電体をシリカガラスに、より強固に接合することもできる。
【0015】
また、本発明の第1の態様において、シリカナノ粒子に対する有機高分子の重量比が、0.02以上0.45以下であることが好ましい。成形加工性により優れたコンポジット成形体とすることが可能だからである。
【0016】
また、本発明の第1の態様において、有機高分子が、ビニル系高分子、アクリル系高分子、及びアミド系高分子から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。3次元ネットワークをより適切に構成することができ、成形加工性に一層優れたコンポジット成形体とすることが可能だからである。
【0017】
また、本発明の第1の態様において、有機高分子がポリビニルアルコールであることが特に好ましい。3次元ネットワークを最も適切に構成することができ、成形加工性に最も優れたコンポジット成形体とすることが可能だからである。
【0018】
ここで、有機高分子としてポリビニルアルコールを用いる場合、当該ポリビニルアルコールの数平均重合度が、500以上2000以下であると好ましく、1000以上1600以下であるとより好ましく、モノリシックな成形体とする観点からは、1500が最も好ましい。当該範囲内において、コンポジット成形体の成形加工性が一層向上する。
【0019】
また、有機高分子としてポリビニルアルコールを用いる場合、当該ポリビニルアルコールのけん化度が、50%以上90%以下であると好ましく、70%以上85%以下であるとより好ましく、モノリシックな成形体とする観点からは、80%が最も好ましい。当該範囲内において、コンポジット成形体の成形加工性が一層向上する。尚、本発明において、けん化度の「%」とは、「モル%」を意味する。
【0020】
一方、本発明の第1の態様に係るコンポジット成形体は、少なくとも一部に機能性元素がドープされたドープ領域を有していてもよい。ここで、「機能性元素」とは、特に、導電性を付与可能な元素を意味し、金属や金属酸化物由来のものを例示することができる。後述するように、コンポジット成形体の段階で予めドープ領域を設けることで、焼成後、適切に導電性が付与されたシリカガラスとすることができる。
【0021】
ドープ領域を設ける場合、当該ドープ領域は、成形体の表面から内部に亘って存在していることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明の第1の態様に係るコンポジット成形体は、導電体が成形体の表面又は内部に設けられていてもよい。すなわち、導電体によりコンポジット成形体の表面の少なくとも一部が被覆された形態、或いは、導電体がコンポジット成形体の内部に埋込まれた形態等とすることができる。例えば、コンポジット成形体の表面に導電体を設けた場合、当該導電体の一部がコンポジット成形体の表面近傍内部に浸入するため、焼成後、導電体が強固に接合されたシリカガラスを得ることが可能である。また、コンポジット成形体の一部にドープ領域を設ける場合は、当該ドープ領域と接触するように導電体を設けることが好ましく、この場合、焼成後に得られるシリカガラスにおいて、導電体とドープ領域との相乗効果によって導電ネットワークが形成され、導電パスの分断等を防止でき、且つ、導電体をガラスに強固に接合することもできる。一方、コンポジット成形体の内部に導電体を設けた場合、焼成後、内部に導電体が配設された全く新しい形態のシリカガラスを提供することも可能である。尚、本発明においては、ITO、Au、Pt等の導電性元素を含むペーストをスクリーン印刷によって、成形体表面へと塗布し、焼成することで、表面に形成されたドープ領域のみで導電性を発現させることも可能である。すなわち、マトリックスは透明で、印刷された箇所のみ導電性を発現するようなものも作製できる。
【0023】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係るコンポジット成形体を焼成してなる、シリカガラスである。
【0024】
本発明の第2の態様に係るシリカガラスは、波長160nmでの光透過率が80%以上、ビッカース硬度が770以上である。
【0025】
また、本発明の第2の態様に係るシリカガラスは、少なくとも一部に機能性元素がドープされたドープ領域を有していてもよい。このような形態にあるシリカガラスは、ドープ領域を備えたコンポジット成形体を焼成することにより容易に得られる。
【0026】
この場合、ドープ領域が、ガラスの表面から内部に亘って存在することが好ましい。このような形態にあるシリカガラスは、ドープ領域が表面から内部に亘って存在するコンポジット成形体を焼成することにより容易に得られる。
【0027】
尚、従来のシリカガラスにあっては、導電性の付与のためにドープ領域を設けることは考えられなかった。従来においては、高温でシリカを溶融させることで所定形状のシリカガラスを得ており、このような溶融状態において機能性元素をドープしても、当該機能性元素を所定箇所に留めることは困難であり、シリカガラスの所望部分にドープ領域を設けることができなかったためである。また、所定形状のシリカガラス得た後、イオン注入等によってガラス表面から機能性元素を配置したとしても、ガラスの内部にまで機能性元素を浸入させることはできず、すなわち、ガラス内部にドープ領域を設けることはできなかった。また、気相法や液相法を用いたドープも考えられるが、これらはともに局所的なドープが困難なものであった。一方、本発明では、コンポジット成形体の段階で所望の箇所(成形体の内部も含む。)に予めドープ領域を設けることができ、その後、焼成することによって、所望箇所の表面から内部に亘ってドープ領域を有するシリカガラスとすることができる。
【0028】
さらに、本発明の第2の態様に係るシリカガラスは、導電体がガラスの表面又は内部に設けられていてもよい。すなわち、導電体によりガラスの表面を被覆した形態、或いは、導電体がガラスの内部に埋込まれた形態等とすることができる。このような形態にあるシリカガラスは、導電体が表面又は内部に設けられたコンポジット成形体を焼成することにより容易に得られる。特に、ガラス表面に導電体が設けられる場合、導電体が上記ドープ領域と接触していることが好ましい。上述したように、導電体とドープ領域との相乗効果によって導電ネットワークが形成され、導電パスの分断等を防止でき、且つ、導電体をガラスに強固に接合すること可能だからである。尚、本発明においては、ITO、Au、Pt等の導電性元素を含むペーストをスクリーン印刷によって、コンポジット成形体表面へと塗布し、焼成することで、表面に形成されたドープ領域のみで導電性を発現させることも可能である。すなわち、マトリックスは透明で、印刷された箇所のみ導電性を発現するようなものも作製できる。
【0029】
さらに、本発明の第2の態様に係るシリカガラスは、真空紫外域における吸収端を155nmに有し、紫外〜可視領域における光透過率が80〜90%であるものとすることが可能である。
【0030】
本発明の第3の態様は、シリカナノ粒子を溶媒に分散させて分散液を調整する、第1の調整工程、有機高分子を溶媒に溶解させて有機溶液を調整する、第2の調整工程、分散液と有機溶液とを混合して混合液とする、混合工程、及び、混合液を乾燥させて、シリカナノ粒子と有機高分子とによる3次元ネットワークを有する成形体とする、乾燥工程、を備えるコンポジット成形体の製造方法である。
【0031】
本発明の第3の態様において、混合溶液のpHを2.0以上4.0以下とすることが好ましい。得られるコンポジット成形体の成形加工性が一層向上するためである。
【0032】
また、本発明の第3の態様において、成形体を、機能性元素を含む溶液と接触させる、ドープ工程をさらに備えていてもよい。ここで、「成形体を、機能性元素を含む溶液と接触させる、ドープ工程」とは、例えば、成形体表面から内部に亘って、機能性元素を浸透させるように、成形体を、機能性元素を含む溶液と接触させる工程を意味し、より具体的には、機能性元素を含む溶液に成形体を浸漬する浸漬工程、或いは、成形体に対して機能性元素を含む溶液を吹き付ける吹き付け工程等を含む概念である。
【0033】
さらに、本発明の第3の態様において、成形体の表面又は内部に導電体を配設する、配設工程をさらに備えていてもよい。「成形体の表面又は内部に導電体を配設する、配設工程」とは、成形体に導電体を設ける工程であればよく、例えば、成形体の表面に導電体を被覆する、被覆工程、或いは、成形体の内部に導電体を埋込む、埋込工程等を含む概念である。また、本発明にいう配設工程は、混合液の段階で導電体を配置し、その後、乾燥工程に供した結果、成形体の表面又は内部に導電体が配設される形態をも含むものである。
【0034】
本発明の第4の態様は、本発明の第3の態様に係るコンポジット成形体の製造方法によって得られたコンポジット成形体を焼成する、焼成工程を備える、シリカガラスの製造方法である。
【0035】
本発明の第4の態様において、コンポジット成形体をさらに成形・加工したのち、前記焼成工程に供してもよい。例えば、インプリント等によってコンポジット成形体を所望の形状としたうえで焼成工程を行うことができる。これにより所望の形状のシリカガラスを得ることができる。コンポジット成形体をさらに成形・加工する場合、室温での成形・加工が可能であるため、シリカガラスを成形・加工する場合と比較して、製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、成形加工性に優れるとともに、例えば導電性が付与されたシリカガラスの製造にも好適に用いられ得るコンポジット成形体、当該コンポジット成形体から得られるシリカガラス(特に、導電性シリカガラス)、さらには、それらを得るための製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
[1.本発明の概要]
本発明では、ナノサイズオーダーのシリカナノ粒子と有機高分子とからなるコンポジット成形体、及び、当該コンポジット成形体を焼成してなるシリカガラスの製造プロセス技術を確立した。さらに、熱インプリント法を用いず、環境負荷が少ないソフトリソグラフィ法(室温ナノインプリンティング成形法)によりナノインプリントされたコンポジット成形体及び焼結体(シリカガラス)の製造を行った。
【0039】
ナノサイズオーダーのシリカナノ粒子と有機高分子とからなるコンポジット成形体の製造プロセス技術を確立し、得られたコンポジット成形体を大気中にて1000℃程度で焼成することで、真空紫外透過シリカガラスの製造に成功した。
【0040】
一般的に、シリカガラスの微細加工は、フォトリソグラフィーとプラズマなどを用いたエッチングとを組み合わせて行われる。しかし、フォトレジストの塗布、感光、エッチング、レジスト除去など、多段階にわたる煩雑な工程が必要である。また、熱インプリント技術が一部実施されているが、シリカガラスの軟化温度は1700℃以上と非常に高温であるため、耐久性の問題からモールド材の選択が限定される上、加工精度も高くない。
【0041】
本発明の特徴は、シリカナノ粒子と有機高分子のナノコンポジット成形体を製造すること、及び、有機/無機の界面特性を利用した室温インプリント技術を用いることにある。また、高温熱プロセスが不要なニアネットシェイプ成形が可能であり、そのまま焼結できる省エネルギー型プロセスによってシリカガラスを製造することができる。
【0042】
また、微細加工されたシリカガラスに機能性元素をドーピングすることは、シリカガラスの構造上不可能とされてきたが、本発明ではシリカガラスに機能性元素をドーピングすることができる。さらに、本発明では、局所的ドープ技術も確立することができた。
【0043】
さらに、本発明では、透明性と導電性とを兼ね備えた、画期的なシリカガラスを製造することができる。また、本発明では、シリカガラスに対する新しい微細配線技術、及び、導電性、密着性、耐久性、透明性を備えた技術を提供する。
【0044】
以下、実施形態について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
2.本発明の第1実施形態
3.本発明の第2実施形態
4.本発明の第3実施形態
【0045】
[2.本発明の第1実施形態]
以下、本発明の一実施形態である第1実施形態について、具体的に説明する。この実施形態によれば、コンポジット成形体及び蛍光性を有するシリカガラスを製造することができる。
図1は、本実施形態におけるシリカガラスの製造工程を示すフロー図である。以下、有機高分子としてPVA(Polyvinyl alcohol、ポリビニルアルコール)を用いた実施形態について説明する。
【0046】
[2−1.シリカ−PVA水溶液の調製(調製工程)]
以下、シリカ−PVA水溶液について具体的に説明する。
図1に示すように、シリカ−PVA水溶液は、シリカナノ粒子分散水溶液とPVA水溶液とから調製される。
【0047】
[2−1−1.シリカナノ粒子分散水溶液の調製(第1の調製工程)]
シリカナノ粒子(平均粒径7nm)を8wt%になるように水に加え、超音波分散を3時間行う。これにより、シリカナノ粒子が凝集することなく溶媒に均一分散した、シリカナノ粒子分散水溶液(サスペンション)が得られる。
【0048】
なお、この超音波分散或いはその時間は単なる一例であり、シリカナノ粒子の凝集を解離できればその手法や時間は特に限定されない。攪拌子等を用いた攪拌によってシリカナノ粒子を溶媒中に分散させてもよい。また、本実施形態では、平均粒径7nmのシリカナノ粒子を用いているが、シリカナノ粒子の平均粒径はこれに限られない。例えば、平均粒径が50nm未満、好ましくは5nm以上50nm以下のシリカナノ粒子を用いることができる。尚、シリカナノ粒子の粒子径は、ナノオーダーであればよく、好ましくは100nm以下、より好ましくは5nm以上50nm以下である。また、コンポジット成形体(後述)に機能性元素をドープするためには、シリカナノ粒子間に空隙が均一に存在することが好ましいため、各粒径が略均一なシリカナノ粒子を用いることが望ましい。これにより、ドープ処理を高精度かつ効率的に行うことができる。
さらに、コンポジット成形体を所望の形状に加工するためには、シリカナノ粒子間に空隙が均一に存在することが好ましいため、この観点からも、各粒径が略均一なシリカナノ粒子を用いることが望ましい。これにより、加工処理を高精度かつ効率的に行うことができる。
なお、シリカナノ粒子を分散させる溶媒は、水に特に限定されない。例えば、有機溶媒を用いることも可能である。特に、親水性シリカ(親水性のヒュームドシリカ)について、均一分散したサスペンションを得るためには水が好ましいが、疎水性シリカ(疎水性のヒュームドシリカ)について、均一分散したサスペンションを得る場合は、水以外の有機溶媒(アルコール等)を用いることも可能である。ただし、後述するように、有機高分子としてポリビニルアルコール(PVA)を用いる場合、PVAを容易に溶解可能とする観点から、溶媒として水を用いることが最も好ましい。また、本発明の実現可能な限度において、シリカナノ粒子の重量%濃度は適宜選択することができる。例えば、当該重量%濃度を1wt%以上20wt%以下とすればよい。
【0049】
[2−1−2.PVA水溶液の調製(第2の調製工程)]
PVA(平均重合度1500、 けん化度78〜80%)を、8wt%になるように水に加え、室温にて2日以上攪拌することにより均一なPVA水溶液が得られる。
【0050】
なお、本発明の実現可能な限度において、PVAの平均重合度、けん化度およびPVA水溶液の重量%濃度は、適宜選択することができる。例えば、PVAの数平均重合度が好ましくは500以上2000以下、より好ましくは1000以上1600以下、最も好ましくは1500、けん化度が好ましくは50%以上90%以下、より好ましくは70%以上85%以下、最も好ましくは80%のものを用いる。このようなPVAとしては、例えば、和光純薬工業株式会社製ポリビニルアルコール(重合度約500、重合度約1500、重合度約2000等)がある。また、PVA水溶液の重量%濃度については1〜20wt%、好ましくは5〜10wt%程度とする。また、上記の撹拌時間は単なる一例であり、均一なPVA水溶液が得られればその時間は特に限定されない。例えば、1時間以上1日間以下程度とすればよい。また、PVAの種類によっては水に溶解させるため加熱攪拌してもよい。
【0051】
また、有機高分子としてPVAに限らず、他の高分子を用いても良い。例えば、キチン、キトサン、カゼイン、ゼラチン、コラーゲン、卵白、デンプン、海藻、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、寒天、植物性粘性質物、キサンタンガム、プルランなどの天然高分子、デンプン系(ジアルデヒドデンプン、デキストリン、ポリ乳酸)、セルロース系(メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース)などの半合成高分子、ビニル系(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン)、アクリル系(ポリアクリル酸ナトリウム、メタクリル酸メチル)、アミド系(ポリアクリルアミド)、ポリエチレンオキサイドなどの合成高分子等が挙げられる。
或いは、以上に挙げた有機高分子以外のものであっても、シリカナノ粒子と溶媒中(水以外の溶媒でも可能)で混合できる高分子であれば、本発明に係る有機高分子として用いることが可能である。
ただし、コンポジット成形体の成形加工性を一層優れたものとする観点からは、有機高分子として、ビニル系高分子、アクリル系高分子、及びアミド系高分子のいずれかから選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましく、この中でもPVAを用いることが特に好ましい。
【0052】
[2−1−3.シリカ−PVA水溶液の調製(混合工程)]
上記2−1−1.及び2−1−2.で製造したナノ粒子分散水溶液及びPVA水溶液を、80wt%シリカ−20wt%PVAの重量比になるように混合し、室温にて12時間以上攪拌することで、均一なシリカ-PVA水溶液(8wt%)が得られる。
【0053】
なお、この攪拌時間は単なる一例であり、均一なシリカ−PVA水溶液を得ることができればその時間は特に限定されない。例えば、0.5時間以上〜1日間以下程度とすればよい。また、シリカとPVAの重量比は上述したもの限られず、PVA中にシリカナノ粒子が適度に充填できる範囲において適宜変更可能である。例えば、シリカ:PVA=50wt%:50wt%〜90wt%:10wt%程度となるような範囲で重量比を決定することができる。この中でも特に、シリカナノ粒子に対する有機高分子の重量比を、好ましくは0.02以上0.45以下、より好ましくは0.1以上0.3以下とする。
【0054】
以上の工程を経て、シリカ−PVA水溶液を得ることができる。尚、本実施形態では、シリカナノ粒子分散溶液とPVA水溶液とを別々に調製した後に、両溶液を混合するものとしたが、シリカナノ粒子とPVAと水とを混合してシリカ−PVA水溶液を調製してもよい。
【0055】
また、シリカナノ粒子分散溶液とPVA水溶液とを混合して混合溶液とする場合、当該混合液のpHを2.0以上4.0以下とすることが好ましい。混合溶液のpHを当該範囲内とした場合、得られるコンポジット成形体の成形加工性が一層向上する。また、後述するように、コンポジット成形体の3次元ネットワークにおいて、所望のナノポアを容易に形成することもできる。
【0056】
[2−2.シリカ−PVAコンポジット成形体の製造(乾燥工程)]
上記2−1.にて製造したシリカ−PVA水溶液をテフロン(登録商標)容器にキャストして、30℃の乾燥器内で7日間乾燥する(なお、乾燥時間は、試料の大きさにより異なる。小さい場合はこれよりも短時間にて乾燥可能であるが、大きい場合はこれよりも長時間の乾燥時間を必要とする)ことで、シリカ粒子とPVAとが3次元ネットワークを形成した、80wt%シリカ−20wt%PVAコンポジット成形体が得られる。シリカ−PVAコンポジット成形体は、本発明に係るコンポジット成形体の一例である。
【0057】
ここで、シリカ−PVA水溶液をキャストする容器は、フッ素系樹脂容器などの非粘着性に優れた(他の物質との相互作用の小さな)容器を用いることが望ましい。例えば、ガラスシャーレなどでは、溶液中のPVA成分がガラスと接着してしまい、結果として割れの多い成形体となるなど成形性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0058】
また、シリカ−PVA水溶液は8wt%程度の濃度のものを用いることが好ましい。溶液濃度が低すぎると、乾燥の際の収縮が大きくなり、乾燥して得られるシリカ−PVAコンポジット成形体に割れが入りやすくなる。また、溶液濃度が高すぎると、溶液の粘度が大きくなることによりキャスト時や乾燥時に泡が生成し易くなり、結果として、得られたシリカ−PVAコンポジット成形体は表面や内部に泡などの不均一構造を生じやすくなる。
【0059】
なお、製造するガラスのサイズが小さいものであれば、割れや泡は生成しにくくなるため、シリカナノ粒子分散水溶液やPVA水溶液の濃度を1〜20wt%としてよい。この場合において、シリカナノ粒子分散水溶液の重量%濃度及びPVA水溶液の重量%濃度は適宜選択可能である。
【0060】
また、上記説明では、シリカ−PVA水溶液を所定の容器にキャストするものとしたが、シリカ−PVAコンポジットの成形方法は、射出、押出、ドクターブレード、スリップキャスト等、様々な成形法が適用可能である。その結果、どのような成形も可能である。
【0061】
ここで、上述したシリカ−PVAコンポジット成形体の概念断面図を
図2に示す。
図2に示すように、シリカ−PVAコンポジット成形体の3次元ネットワークにおいては、分散したシリカナノ粒子間に、PVAが入りこみ、また、各PVA間には空隙(ナノポア)が存在する。これにより、後述する室温インプリントを行う際に押圧された領域のシリカナノ粒子の自由な移動を可能とし、ナノオーダーの形状を効率的に転写することができる。更に、各PVA間にナノポアが存在することにより、後述の機能性元素のドープを効果的に行うことが可能である。
【0062】
本発明に係るコンポジット成形体は、ナノポアの径が5〜50nm程度、ナノポアの平均径が30nm程度のものとすることが可能である。特に、上述したシリカナノ粒子とPVAとの混合溶液の段階で、当該混合溶液のpHを2.0〜4.0の範囲内とすると、乾燥後のコンポジット成形体においてこのような径を有するナノポアを容易に形成することができ、且つ、十分な機械的強度を備えさせることもできる。
尚、本願において、ナノポアの上記分布(細孔分布)は、次のようにして測定した。すなわち、定容量式ガス吸着法の原理に基づき、BELSORP−miniII(日本ベル株式会社製)を用いて、コンポジット成形体の細孔分布を測定した。
【0063】
また、本発明に係るコンポジット成形体は、上記細孔分布特性以外に、所定の比表面積を有し得ることも特徴の一つである。具体的には、BET法に基づく比表面積が50m
2/g以上250m
2/g以下のものとすることが可能である。これにより、コンポジット成形体の機械強度や表面特性をより優れたものとすることができる。例えば、コンポジット成形体に導電体を設けたのち焼成し、導電体を備えたシリカガラスとすることを想定した場合、焼成後、導電体をシリカガラスに、より強固に接合することができる。
【0064】
また、本発明に係るコンポジット成形体は、上記細孔分布特性、比表面積特性以外に、所定の機械的強度(圧縮強度)を有し得ることも特徴の一つである。具体的には、JIS K7181−1994(プラスチック−圧縮特性試験)に準じた測定において、得られた応力−歪曲線から1%圧縮時の応力を計測し、圧縮強度を求めたところ、本発明に係るコンポジット成形体は200〜1000GPaの圧縮強度を示した。本発明に係るコンポジット成形体は、このような十分且つバランスのとれた機械的強度を有し、所定の形状を維持しつつ、容易に加工することが可能である。
【0065】
[2−3.シリカ−PVAコンポジット成形体の焼成(焼成工程、透明シリカガラスの製造)]
製造したシリカ−PVAコンポジット成形体を大気中にて1000℃程度で焼成を行うことで、シリカガラスが得られる。
【0066】
なお、昇温速度は出来るだけ低いほうが望ましい。具体的には、1〜5 ℃/minとすることが好ましい。また、PVAを揮発・燃焼させるためにか焼した後、焼成することが望ましい。か焼温度は600〜950℃程度である。さらに、焼成温度は、シリカの軟化点以下とすることが好ましい。具体的には好ましくは1700℃以下、より好ましくは1200 ℃以下、特に好ましくは1050℃〜1200℃にて焼成を行う。焼成温度をこのような範囲内とすることで、シリカの結晶化や軟化の進行を抑制でき、また、型崩れを防止することもできる。このように、本発明では、従来よりも極めて低温度でシリカガラスを製造することができる。
【0067】
以上の操作により、透明な(可視光域にて90%以上の透過率)シリカガラスが得られる。また、得られたシリカガラスは、真空紫外域では80%の透過率を示した。機械的強度の指標のひとつであるビッカース硬度は777と、市販のシリカガラスと同程度の値を示した。また、本発明に係るシリカガラスは、真空紫外域における吸収端を155nmに有し、紫外〜可視領域における光透過率が80〜90%とすることが可能である。なお、焼成されたシリカガラスのサイズは、焼成前のコンポジットのサイズよりも小さくなる。
【0068】
[2−4.ドープ系シリカガラスの製造(ドープ工程)]
シリカガラスに機能性元素を自由自在にドーピングすることが可能となれば、高機能性材料としての応用が期待される。例えば、紫外線等の照射時に種々の蛍光やりん光を発するシリカガラスを製造することができる。しかしながら、シリカガラスの性質上、通常の溶融法ではドーピングが困難である。そのため従来は、気相法や液相法による取り組みがなされてきた。しかしながら、気相法は薄膜シリカガラスを製造する手法であり、大型装置を必要とし、コストが高く、局所ドープが困難であるという問題点があった。また、液相法によって製造されたシリカガラスは割れが生じやすいため、割れの生じにくい薄いシリカガラスや粒子状のシリカガラスの製造にしか適用できず、また、局所ドープが困難であるという問題があった。
【0069】
本実施形態では、金、銀や遷移金属元素、希土類元素等をシリカガラスにドープすることが可能である。ドープ量としては元素の種類に依存するが、1mol%程度まで可能である。ここでは、銀ドープや金ドープを例に挙げて説明する。なお、上述した元素は単なる一例であり、その他の元素をドープしてもよい。さらに、上記元素を含む化合物をドープしても良い。具体的には、例えば、Al
2O
3をはじめ、上記元素を含む硝酸塩、酸化物、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、有機金属塩等の化合物及びこれら化合物の水和物等が挙げられる。
【0070】
[2−4−1.浸漬によるドープ系シリカガラスの製造]
製造したシリカ−PVAコンポジット成形体を、銀を含む溶液(例えば、硝酸銀エタノール溶液(0.001mol/L))に1時間浸漬させることで、シリカ−PVAコンポジット成形体に溶液を含浸させる。なお、この時間は単なる一例であり、成形体に溶液が十分に含浸されればその時間は特に限定されない。例えば0.5時間以上1日間以下程度である。
その後、大気中にて1000℃程度で焼成を行う。焼成温度の上限は、上述したように、シリカの軟化点以下である1700℃以下、特に好ましくは、1050℃〜1200℃にて焼成を行う。焼成温度をこのような範囲内とすることで、シリカの結晶化や軟化の進行を抑制でき、また、型崩れを防止することもできる。
【0071】
以上の操作により、銀がドープされた透明なシリカガラスが得られる。なお、1つのシリカガラスにドープできる元素は、一種類のみだけでなく、多種類の元素を1つのシリカガラスにドープすることが可能である。
【0072】
また、シリカ−PVAコンポジット成形体の一部のみを浸漬することにより、さまざまなドープパターンを付与することもできる。
【0073】
[2−4−2.吹きつけによるドープ系シリカガラスの製造]
製造したシリカ−PVAコンポジット成形体に、金を含む溶液(例えば塩化金エタノール溶液など)を吹き付ける(滴下する)ことにより、金コロイドが局所的にドープされたシリカ−PVAコンポジット成形体を製造することが可能である。また、金コロイドが局所ドープされた成形体を1000℃程度で焼成することにより、金が局所ドープされたシリカガラスの製造が可能である。焼成温度の上限は、上述したように、シリカの軟化点以下である1700℃以下が好ましい。
【0074】
また、このときのパターニングサイズは上記溶液の液滴サイズに依存し、ナノオーダーからセンチオーダーまで、種々のサイズのパターニングが可能である。
【0075】
例えば、Φ30μmの塩化金エタノール溶液(0.1mol/L)の液滴をシリカ−PVAコンポジット成形体上に吹きつけ(滴下)し、焼成することによりΦ30μmの領域に局所的に金コロイドがドープされたシリカガラスが得られる。尚、塩化金だけでなく様々な元素を局所的にドープすることが可能である。また、インクジェットによりパターニングしてもよい。
【0076】
また、本実施形態では、溶液の液滴によるドープが可能であるため、所望の形状にパターンニングすることができる。例えば、製造されたシリカガラスが紫外線照射により星型模様に蛍光するように機能性元素をパターンニングすることができる。
【0077】
図3は、製造されたシリカガラス10に、機能性元素20がドープされた様子を示している。
図3に示すシリカガラス10に紫外線を照射すると、機能性元素20から発せられる蛍光により、シリカガラス10上で星型模様が浮かび上がる。
【0078】
なお、
図3に示したパターニングの形状は単なる一例であり、所望の文字、記号、模様、絵柄等、任意の形状にすることができる。また、その大きさも任意に決定することができる。
【0079】
[2−4−3.シリカ−PVA水溶液への添加によるドープ系シリカガラスの製造]
上記2−2.の乾燥工程前に、シリカ−PVA水溶液に機能性元素を添加し、当該添加されたシリカ−PVA水溶液を乾燥させてコンポジット成形体を調製し、調製したコンポジット成形体を焼成することによっても、ドープ系シリカガラスを製造することができる。また、機能性元素をドープしたコンポジット成形体を、機能性元素をドープしていないシリカ−PVA溶液中に配置したうえで乾燥させれば、一部にドープ領域を有するコンポジット成形体を作製でき、これを焼成することで、一部にドープ領域を有するシリカガラスを製造することもできる。或いは、機能性元素をドープしたコンポジット成形体と、機能性元素をドープしていないコンポジット成形体とを組み合わせて焼成に供した場合も、一部にドープ領域を有するシリカガラスを製造することができる。
【0080】
[2−5.コンポジットの成形(加工工程)]
周期構造などの形状を有するモールドを、シリカ−PVAコンポジット成形体に室温にて押し付けて加圧(室温インプリント)することにより、モールド表面の形状を精度良く転写させることが可能である。また、形状転写された成形体を1000℃程度で焼成することにより、形状転写されたシリカガラスの製造が可能である。例えば100nm程度から数cmのライン&スペースや、ホール、ピラー、レンズなどの様々な形状が製造可能である。
【0081】
例えば、500nmのライン&スペースの周期構造を有する石英モールド(例えば、凹凸形状が形成された版)を、シリカ−PVAコンポジット成形体の上面にのせ、「室温、5MPa、1min」の条件にて加圧することにより、シリカ−PVAコンポジット成形体の表面に500nmのライン&スペース形状が転写される。
図4(a)は、シリカ−PVAコンポジット成形体1に、それぞれ500nmのライン&スペース形状が転写されている様子を示している。そして、形状転写された成形体を1000℃程度で数時間焼成することにより、ライン&スペースの周期構造が転写されたシリカガラスを得ることができる。なお、ライン&スペースの幅は、用いる石英モールドによって適宜変更することができる。また、加圧条件についても適宜選択すればよい。本発明は、室温での成形・加工が可能である点に一つの特徴を有する。
【0082】
本実施形態では、シリカ−PVAコンポジット成形体中のシリカナノ粒子は、当該シリカ−PVAコンポジット内を自由に移動できる。したがって、室温インプリントを行う際に押圧された領域のシリカナノ粒子が成形体内で移動することにより、ナノオーダーの形状を効率的に転写することができる。
【0083】
また、ライン&スペースの周期構造が転写されたシリカガラスを石英モールドとして利用することにより、さらに細かい周期構造が転写されたシリカガラスを得ることができる。
【0084】
また、本実施形態では、
図4(b)に示すように、直径が1μmの円の窪みを形成したシリカ−PVAコンポジット成形体2を製造することもできる。
なお、裁断、打ち抜き加工も可能であり、それらを組み合わせてもよい。その場合には、ドリル等で容易に加工することができる。
【0085】
なお、この手法は機能性元素がドープされたシリカ−PVAコンポジット成形体にも適用できる。すなわち、ドープされたコンポジット成形体に型を転写した後に焼成してもよく、また、型を転写したコンポジット成形体にドープした後に焼成してもよい。例えば、上述した
図4(b)のシリカ−PVAコンポジット成形体2において、各窪みに液滴を滴下してもよい。また、窪みごとに異なる元素の液滴を滴下することによって、窪みごとに異なる蛍光を発光させることもできる。
【0086】
[3.本発明の第2実施形態]
以下、本発明の一実施形態である第2実施形態について、具体的に説明する。この実施形態によれば、透明性と導電性とを兼ね備えたシリカガラスを製造することができる。
【0087】
シリカガラスに導電性を付与する(導電性を発現させる)ことができれば、透明性と導電性とを兼ね備えた新しい材料を得ることができる。従来、無電解メッキを用いたガラス上の配線技術が報告されているが、ガラスと金属配線との密着性が低く(すなわち、剥がれ易い)、配線のパターンニングの自由度が低いという問題があった。また、配線を行うガラスの表面を凹凸に加工すれば、ガラスと金属配線とを密着させることはできるが、透明性を確保することが困難であった。
【0088】
本実施形態では、上述した第1実施形態で用いた蛍光性を発現させるための技術を導電性発現のために適用する、という新たな発想のもとに、透明性と導電性とを兼ね備えたシリカガラスを製造するものである。
【0089】
[3−1.本実施形態の概略]
まず、本実施形態の概略について、
図5を参照しつつ説明する。
図5に示すように、コンポジット成形体に対して、ドープ工程における処理(ドープ処理)、被覆工程における処理(被覆処理)、焼成工程における処理(焼成処理)を施すことにより、導電性シリカガラスを製造することができる。
また、これらの処理に加え、加工工程における処理(加工処理)を施すことにより、所望の形状に成形加工された導電性シリカガラスを製造することができる。
【0090】
本実施形態では、上述した第1実施形態と同様の方法で製造されたコンポジット成形体を用いる。また、焼成処理については、上述した第1実施形態の焼成工程と同じ条件で行う。説明の重複を避けるため、コンポジット成形体及び焼成工程については、詳細な説明を省略する。
【0091】
[3−2.各工程の詳細な説明]
以下、本実施形態の各工程の詳細について説明する。
【0092】
[3−2−1.ドープ工程]
ドープ工程では、コンポジット成形体の表面領域のうち、後述の被覆工程において導電体が被覆される表面領域に対して、所望の機能性元素をドープする。なお、このドープ工程は、第1実施形態と異なり、製造されるシリカガラスに蛍光性を発現させるために行われるものではなく、導電性の発現、および、被覆する導電体とシリカガラスとの密着性を向上させるために行われるものである。また、コンポジット成形体の表面全体に機能性元素をドープしてもよい。本実施形態のドープ工程は、後続の被覆工程のためにコンポジット成形体に対して下地処理を行うための工程としても有効となる。
【0093】
ここで、ドープの方法は、上述の第1実施形態で示したいずれの方法を用いてもよい(上記2−4−1,2−4−2,2−4−3を参照)。ただし、用いる機能性元素については、導電性を有する元素に限られる。例えば、金属元素や金属酸化物元素である。特に、金、銀、銅、ITO等を用いることが好ましい。また、機能性元素のドープ濃度については、少なくとも導電性を発現させるために必要なドープ濃度以上とする必要がある。すなわち、上述した第1実施形態において用いた機能性元素のドープ濃度のうち、蛍光性を発現させることができるものの導電性を発現させることができないものについては、本実施形態には適用することができない。具体的には、ドープ濃度を0.1wt%以上とすることが好ましい。
【0094】
[3−2−2.被覆工程]
被覆行程では、所望のパターンを有する導電体をコンポジット成形体の表面に被覆する。換言すれば、コンポジット成形体の表面に、導電体で所望のパターンを描画する。ここで、被覆の方法は、めっき、インクジェット、プリント、気相法(スパッタリング)、マスク法等の種々の公知技術を適用することができる。
また、導電体は、コンポジット成形体の表面領域のうち、ドープ工程において機能性元素がドープされた表面領域上に被覆されることが好ましい。
【0095】
被覆する導電体は、導電性金属(Pt,Pd,Au等)であればどのようなものでもよい。さらに、被覆される導電体の被覆厚は、特に限定されるものではないが、例えば200nm程度とすることができる。なお、被覆される導電体の被覆厚は、導電体の材質によって適宜調整することができる。
【0096】
次に、ドープされた機能性元素と被覆した導電体とにより、シリカガラスに導電性が発現するメカニズムについて、
図6を参照しつつ具体的に説明する。
【0097】
図6(a)はAuをドープした領域上の任意の位置にPtを被覆したコンポジット成形体の表面部分の断面図であり、
図6(b)は焼成後における当該部分のシリカガラスの断面図である。なお、
図6(a)および
図6(b)はAuおよびPtの存在分布を示すために模式的に表したものであり、成分比率やサイズは実際のものと異なる。また、実際にドープおよび被覆する材料はAuやPtに限られず、導電性を有するものであれば何でも良い。
【0098】
図6(a)に示すように、Ptを被覆する際、Ptの一部はコンポジット成形体内に拡散浸透しているものと考えられる。
そして、
図6(b)に示すように、焼成工程においてコンポジット成形体内のAuおよびPtはPt被覆領域周辺に集まるものと考えられる。一方、被覆されたPtの一部は焼成工程において融解し、この融解したPtはコンポジット成形体内に浸透するものと考えられる(なお、ナノメートルサイズの金属材料は、融点が降下するなどバルク状態とは異なる現象が現れることが知られている。その結果、本実施形態においても、
図6に見られるような被覆されたPtの融解および物質移動(拡散)が起こったと考えられる。)。
【0099】
これにより、被覆されたPtは焼成工程において一部融解し分断されるが、
(1)一部融解し分断された、被覆されたPt、
(2)Pt被覆領域周辺に集まったシリカガラス内のAu、
(3)Pt被覆領域周辺に集まったシリカガラス内のPt、
(4)融解、浸透によりシリカガラス内に存在するPt、
により、導電体のネットワークが形成されるものと考えられる。
【0100】
その結果、導電体のネットワーク形成部は導電性を有することになる。さらに、導電体のネットワークの形成はアンカー効果を高めることとなり、被覆されたPtのシリカガラスへの密着性が高くなる。
【0101】
ここで、コンポジット成形体に対し機能性元素のドープを行い、導電体を被覆しない場合について説明する。
図7(a)はAuをドープしたコンポジット成形体の表面部分の断面図であり、
図7(b)は焼成後における当該部分のシリカガラスの断面図である。
図7(a)に示すように、ドープされたAuはコンポジット成形体内に分散している。
図7(b)に示すように、ドープされたAuは焼成後のシリカガラス深部により多く存在している。
なお、
図7(a)および
図7(b)はAuの存在分布を示すために模式的に表したものであり、成分比率やサイズは実際のものと異なる。
【0102】
図7(b)に示すように、導電体を被覆しない場合は、ドープされたAuはシリカガラスの深部により多く存在しており、また、導電体を被覆した場合のような導電体のネットワークが形成され難く、導電性シリカガラスを得ることは困難である。ただし、ドープ量を調節することで、深部における導電パスの形成が可能と考えられる。
【0103】
次に、コンポジット成形体に対し機能性元素のドープを行わず導電体の被覆のみを行った場合について説明する。
図8(a)は、コンポジット成形体上の任意の位置にPtを被覆した場合の表面部分の断面図であり、
図8(b)は焼成後における当該部分のシリカガラスの断面図である。
図8(b)に示すように、機能性元素のドープを行わない場合は、被覆されたPtが焼成工程において一部融解し分断された際、シリカガラス内に存在する機能性元素の密度が低いため、導電体のネットワークが形成され難いと考えられる。その結果、導電性シリカガラスを得ることは困難である。また、導電体のネットワークが形成されないため充分なアンカー効果を発揮できず、被覆されたPtのシリカガラスへの密着性が低く、剥がれ易い。ただし、塗布するPt量を調節することにより、焼成後の導電パスの分断を抑制でき、また、Ptの一部が内部に浸透することによって、導電体とガラスとの密着性を向上させることが可能である。すなわち、導電性元素を含む所定濃度のペーストを、スクリーン印刷等によって成形体表面へと塗布し、焼成することにより、さらなる被覆工程を行うことなく、マトリックスは透明で印刷された箇所のみ導電性を有する導電性シリカガラスを得ることも可能である。
なお、
図8(a)および
図8(b)はPtの存在分布を示すために模式的に表したものであり、成分比率やサイズは実際のものと異なる。
【0104】
このように、コンポジット成形体に対して機能性元素をドープするのみではシリカガラスに導電性を発現させることができない場合があり、さらに、コンポジット成形体に対して導電体を被覆するのみでもシリカガラスに導電性を発現させることができない場合がある。一方、本実施形態のように、コンポジット成形体に対して機能性元素をドープしつつ、かつ、当該ドープ部分に導電体を被覆した場合、シリカガラスにより適切に導電性を発現させることができる。
【0105】
すなわち、本実施形態は、一見すると無関係であるように思われる2つの技術(コンポジット成形体に対するドープ及び被覆)を組み合わせる、という新たな発想のもとに、従来よりも適切に導電性が付与されたシリカガラスを製造することができた。
【0106】
また、本実施形態では、コンポジット成形体の表面に、所望のパターンを有する導電体を被覆することができるので、製造するシリカガラス上に配線等のデザインが可能となる。また、インクジェット(印刷技術)を用いてコンポジット成形体に直接回路を描画することにより、線幅が数〜数十μm(例えば、5〜20μm)の微細配線が可能となる。しかも、原版を用いる必要がないため、導電性シリカガラスの製造コストを削減することができる。これにより、回路の小型化を図ることが可能となり、この回路を種々の電子機器等に用いることができる。すなわち、本実施形態により製造された導電性シリカガラスの汎用性を高めることができる。
【0107】
[3−2−3.加工工程]
加工工程では、上述した第1実施形態と同様に、製造されるシリカガラスの形状を所定の形状とするために、焼成前のコンポジット成形体を所定の形状に加工する(上記2−5.を参照)。
また、
図5では、ドープ工程の前段階において加工工程の処理を行っているが、機能性元素がドープされた後(すなわち、ドープ工程の後)に行うようにしてもよい。さらに、被覆工程の後に行うようにしてもよい。
【0108】
[3−3.シリカガラスの表面分析結果]
次に、本実施形態により製造されたシリカガラスの表面分析結果について説明する。今回の表面分析に供したシリカガラスの製造条件および表面分析方法は以下の通りである。
(製造条件)
コンポジット成形体へのAuのドープ量は1.0mol/Lとし、その後、コンポジット成形体表面へPtスパッタリングを行い(被覆厚約200nm)、焼成した。
(表面分析方法)
焼成後のシリカガラス表面の深さ方向に対する元素分析を二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて行った(一次イオン種:Cs+ 、 一次イオンエネルギー:5keV、分析領域:50×100μm)。
【0109】
図9は、AuをドープしPtを被覆したシリカガラス内部における表面部分のAuおよびPtの分布を示している。
図10は、Auをドープしたシリカガラス内部における表面部分のAuの分布を示している。
【0110】
図9および
図10では、縦軸に二次イオン強度を、横軸にシリカガラスの深さをプロットしている。
図9に示されるように、シリカガラス内のPtはシリカガラスの表面付近に多く存在することがわかる。さらに、
図9および
図10に示されるように、Ptを被覆することにより、Auがシリカガラスの表面に集まることがわかる。
【0111】
これにより、シリカガラス表面付近に導電体のネットワークが形成され、より適切に導電性が発現するものと考えられる。さらに、導電体のネットワークの形成は、被覆された導電体のシリカガラスへの密着性を高めることになる。なお、
図9および
図10は分析結果の一例を示したにすぎず、他の機能性元素をドープした場合や他の導電体を被覆した場合も同様の結果が得られるものと考えられる。
【0112】
以上のとおり、本実施形態によれば、蛍光性発現のための技術を導電性発現のために用いる、という新たな発想により、透明性と導電性とを兼ね備えた新たなシリカガラスを製造することができる。
しかも、シリカガラスと被覆される導電体との密着性を高めることができ、さらに、導電性シリカガラスの耐久性、機能性を高めることができる。
さらに、シリカガラスに対して微細配線が可能となり、製造された導電性シリカガラスを広範な技術分野に適用することができる。
【0113】
[4.本発明の第3実施形態]
以下、本発明の一実施形態である第3実施形態について、具体的に説明する。この実施形態によれば、導電性シリカガラスを製造することができる。
【0114】
本実施形態では、導電体が埋め込まれたコンポジット成形体を焼成することにより、透明性と導電性とを兼ね備えたシリカガラスを製造するものである。すなわち、焼成前にコンポジット成形体に導電体を埋め込むことにより、製造されるシリカガラスに導電体を配設することができる。
【0115】
本実施形態では、上述した第1実施形態と同様の方法で製造されたコンポジット成形体を用いる。説明の重複を避けるため、コンポジット成形体については、詳細な説明を省略する。
【0116】
導電体は、金属線(例えば、極細い金属のワイヤ等)や金属板等の導電性を有する材料であれば、どのようなものでもよい。
埋込行程における処理(埋込処理)は、上述した乾燥工程前に行ってもよく、また、焼成工程前に行ってもよい。
【0117】
まず、乾燥工程前に行う埋込処理ついて、
図11(a)を参照しつつ説明する。テフロン(登録商標)容器にキャストしたシリカ−PVA水溶液に導電体を埋め込み、その状態でシリカ−PVA水溶液を乾燥させることにより、導電体が埋め込まれたコンポジット成形体を製造することができる。
【0118】
なお、上述した第2実施形態と同様に、焼成前のコンポジット成形体を所定の形状に加工する加工工程の処理を行ってもよい。
【0119】
次に、焼成工程前に行う埋込処理について、
図11(b)を参照しつつ説明する。導電体を2つのコンポジット成形体で挟んで1つのコンポジット成形体とすることで、導電体が埋め込まれたコンポジット成形体を製造することができる。また、コンポジット成形体に導電体を押し付けることによっても、導電体が埋め込まれたコンポジット成形体を製造することができる。なお、これら以外の方法により、導電体が埋め込まれたコンポジット成形体を製造してもよい。
【0120】
このようにして製造されたコンポジット成形体を焼成することにより、導電体が埋め込まれたシリカガラス、すなわち、導電性を発現させたシリカガラスを製造することができる。なお、導電体の端部については、シリカガラスの表面に露出させる必要がある。
【0121】
なお、上述した第2実施形態と同様に、焼成前のコンポジット成形体を所定の形状に加工する加工工程の処理を行ってもよい。この加工処理は、埋込処理の前であっても後であってもよい。
【0122】
以上のとおり、本実施形態によれば、透明なシリカガラスに導電体が埋め込まれることにより、透明性と導電性とを兼ね備えたシリカガラスを製造することができる。
しかも、コンポジット成形体に機能性元素をドープする必要がないために、簡素な工程で導電性シリカガラスを製造することができる。
さらに、シリカガラスに導電体を埋め込むことにより、導電性シリカガラスの耐久性、機能性を高めることができる。
【0123】
以上、本発明について、第1〜第3実施形態に基づいて説明した。本発明のシリカガラスは、光集積基盤ガラス材料、発光ガラス等微小光学素子、マイクロ流路、ナノ流路、マイクロアレイ、ナノアレイ、各種センサー基盤等に用いることができる。
【0124】
また、光学用途として、透明蛍光体、微小光学部品、紫外線検知センサー基板等に適用することができる。また、電気・電子用途として、透明導電性ガラス基板、識別微細コードマーキング等に適用することができる。また、化学・生体用途として、DNAチップ、SAM膜基板、表面プラズモン、配線埋設流路、その他ガラス表面高機能化等に適用することができる。
すなわち、光材料業界、バイオ材料業界、電気電子業界等、広範な技術分野において、本発明を適用することができる。
【0125】
本発明に係る実施の形態について具体的に説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。また、平均粒径が50nm以上のシリカナノ粒子を用いてもよく、さらに、各粒径が略均一でないシリカナノ粒子を用いてもよい。
【0126】
また、上述した第1実施形態における蛍光性発現の処理、及び、第2ないし第3実施形態における導電性発現の処理を、1つのコンポジット成形体に施すことにより、一部の領域では蛍光性を有し、他の領域では導電性を有する、透明なシリカガラスを製造することもできる。