(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記2種類以上の基準パワーは、呼吸流速反映パワーと特定の変化反映パワーとの重み付き加算に基づく基準パワーと、前記呼吸流速反映パワーと前記特定の変化反映パワーとの重み付き減算に基づく基準パワーとを含む
請求項4に記載の生体音検査装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された生体音検査装置は、頚部用と胸部用の2つのセンサを使用する分、操作が煩雑になるという課題がある。頚部と胸部では、抹消気道に近い胸部の方が気道状態の小さな変化を検知するのに適していることから胸部用のセンサのみでも気道状態の推定が可能と想定できるが、呼吸音は胸部の方が小さいため、知りたい気道状態以外の要因の影響が大きく、気道状態を適切に反映した指標値が得られない。このように、気道状態を適切に反映した指標値を得るためには、胸部用と頚部用の2つのセンサが必要であった。
【0007】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、生体音を測定するセンサの数を減らしながらも、気道状態を適切に反映した指標値を得ることができる生体音検査装置及び生体音検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の生体音検査装置は、生体音に基づき所定の複数の周波数帯域について所定の区間内の帯域パワーを算出する帯域パワー算出部と、前記所定の複数の周波数帯域の帯域パワーのうち、250以上1050Hz以下の範囲のいずれかの周波数及び1250以上1550Hz以下の範囲のいずれかの周波数を少なくとも一部に含む帯域の前記帯域パワーに基づき基準パワーを算出する基準パワー算出部と、前記基準パワーと前記所定の複数の周波数帯域の帯域パワーとに基づき少なくとも1つの指標値を算出する指標値算出部と、を備えた。
【0009】
上記構成により、気道状態を適切に反映した指標値が得られる。
【0010】
上記構成において、前記指標値算出部は、少なくとも前記基準パワーに基づき、帯域ごとの予測値を算出する予測値算出部と、帯域ごとの前記帯域パワーから帯域ごとの前記予測値を減算することで、帯域ごとの補正後パワーを算出する補正後パワー算出部とを備え、前記補正後パワーに基づき指標値を算出する。
【0011】
上記構成において、前記補正を行う複数の帯域は、700Hzと1400Hzを含む。
【0012】
上記構成において、前記指標値算出部は、2種類以上の基準パワーのそれぞれに基づいて、1つの帯域についての補正を行い、それぞれの補正後パワーを指標値とする。
【0013】
上記構成において、前記2種類以上の基準パワーは、前記呼吸流速反映パワーと前記特定の変化反映パワーとの重み付き加算に基づく基準パワーと、前記呼吸流速反映パワーと前記特定の変化反映パワーとの重み付き減算に基づく基準パワーとを含む。
【0014】
上記構成において、さらに表示部を備え、前記指標値を表示する。
【0015】
上記構成において、前記表示部は、2種類以上の指標値を時間軸に沿ってプロットする。
【0016】
上記構成において、前記表示部は、2種類の指標値を2次元マップとして表示し、時系列に沿って、測定点を結んで表示する。
【0017】
上記構成において、前記指標値算出部は、2つ以上の補正後パワーの線形和に基づき指標値を算出する。
【0018】
上記構成において、前記予測値算出部は、標準状態の測定サンプルに基づき、前記基準パワーに対応する前記帯域パワーの標準値を予測する。
【0019】
上記構成において、前記帯域パワー算出部は、測定された生体音に対して周波数分析を行う周波数分析部と、複数の呼吸区間から分析する区間を指定する区間指定部と、前記周波数分析部により周波数分析が行われた前記生体音に基づき、所定の複数の周波数帯域について前記区間指定部により指定された前記区間内の代表帯域パワーを算出する区間代表帯域パワー算出部と、を備えた。
【0020】
上記構成において、前記生体音を測定する生体音測定部は、生体の胸部一点で前記生体音を測定する。
【0021】
上記構成により、生体音を測定するセンサが一点で済むことから、操作の簡素化が図れる。
【0022】
上記構成において、250以上1050Hz以下の範囲のいずれかの周波数を少なくとも一部に含む呼吸流速を反映する帯域の前記帯域パワーに基づき呼吸流速反映パワーを算出し、1250以上1550Hz以下の範囲のいずれかの周波数を少なくとも一部に含む生体の特定の変化を反映する帯域の前記帯域パワーに基づき特定の変化反映パワーを算出し、前記呼吸流速反映パワーと前記特定の変化反映パワーとに基づいて前記基準パワーを求める。
【0023】
上記構成において、前記特定の変化を反映する帯域は、気管支拡張薬の投薬後のパワーと抗炎症薬の投薬後のパワーとの差分が大きい帯域である。
【0024】
本発明の生体音検査方法は、生体音に基づき所定の複数の周波数帯域について所定の区間内の帯域パワーを算出するステップと、前記所定の複数の周波数帯域のうち、250以上1050Hz以下の範囲のいずれかの周波数及び1250以上1550Hz以下の範囲のいずれかの周波数を少なくとも一部に含む帯域に基づき基準パワーを算出するステップと、前記基準パワーと前記所定の複数の周波数帯域の帯域パワーとに基づき少なくとも1つの指標値を算出するステップと、を備えた。
【0025】
上記方法により、気道状態を適切に反映した指標値が得られる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、生体音を測定するセンサの数を減らしながらも、気道状態を適切に反映した指標値を得ることができる。また、センサ数を少なくできるので、操作の簡素化が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る生体音検査装置の概略構成を示すブロック図である。同図において、本実施の形態に係る生体音検査装置1は、生体音測定部7と、帯域パワー算出部2と、基準パワー算出部8と、指標値算出部5と、表示部6と、を備える。なお、基準パワー算出部8は、呼吸流速反映パワー算出部3と、特定の変化反映パワー算出部4とを含む。生体音測定部7は、例えば電子聴診器等のセンサ付き測定器であり、生体の胸部一点で生体音を測定する。なお、本実施の形態では、生体音をリアルタイムで取得するが、録音機能を持たせて、録音済みの生体音を取得するようにしても構わない。また、貼り付け型や埋め込み型のセンサを使用しても構わない。帯域パワー算出部2は、生体音に基づき所定の複数の周波数帯域について所定の区間内の帯域パワーを算出するものであり、生体音測定部7で測定された生体音に対して周波数分析を行う周波数分析部202と、複数の呼吸区間から分析する区間を指定する区間指定部203と、周波数分析部202により周波数分析が行われた生体音に基づき、所定の複数の周波数帯域について区間指定部203により指定された区間内の代表帯域パワーを算出する区間代表帯域パワー算出部204と、を備える。
【0029】
周波数分析部202は、例えば高速フーリエ変換を用いて周波数分析を行う。区間指定部203は、後述の区間代表帯域パワー算出部204の分析で使用する区間を指定する。指定する区間は、吸気であること、音のレベルが適当であること、ノイズが少ないことなどを条件とすればよく、医師の専門知識は必要としない。前述の条件を満たすようにプログラムにより自動的に抽出できる。また、GUI(Graphical User Interface)等により人手で呼吸区間を指定するようにしても構わない。
【0030】
区間代表帯域パワー算出部204は、例えば、15帯域(中心周波数100Hz,200Hz,300Hz,…,1300Hz,1400Hz,1500Hzで、帯域幅が100Hz帯域)それぞれの帯域について、区間指定部203により区間指定された区間を代表するパワーを算出する。例えば、周波数分析の分析フレーム単位のパワー値を区間内に含まれる分析フレームにわたって平均する。この場合、各帯域の幅を100Hzとするので、中心周波数100Hzの帯域は50〜150Hz、中心周波数200Hzの帯域は150〜250Hz、中心周波数300Hzの帯域は250〜350Hz、…、中心周波数1300Hzの帯域は1250〜1350Hz、中心周波数1400Hzの帯域は1350〜1450Hz、中心周波数1500Hzの帯域は1450〜1550Hzとなる。なお、「15」の周波数帯域はあくまでも一例であり、15帯域より多くしても少なくしても構わない。また、帯域幅も100Hzに限らないし、帯域ごとに可変であっても構わない。また、区間代表帯域パワー算出部204は、同様に、中心周波数300Hz,400Hz,500Hz,600Hz,700Hz,800Hz,900Hz,1000Hzの8帯域の区間代表帯域パワーを算出する。この8帯域は、呼吸流速を反映する帯域である。なお、呼吸流速を反映する帯域である「8」の周波数帯域は一例であり、8帯域より多くしても少なくしても構わない。
【0031】
また、区間代表帯域パワー算出部204は、同様に、中心周波数1300Hz,1400Hz,1500Hzの3帯域の区間代表帯域パワーを算出する。この3帯域は、生体の特定の変化を反映する帯域である。具体的には、気管支拡張薬の投薬後のパワーと抗炎症薬の投薬後のパワーとの差分が大きい帯域である。なお、生体の特定の変化を反映する帯域である「3」の周波数帯域は一例であり、3帯域より多くしても少なくしても構わない。
【0032】
区間代表帯域パワー算出部204は、中心周波数100Hz〜1500Hzにおける15帯域の帯域パワーを算出した後、算出した15帯域の帯域パワーを指標値算出部5の補正後パワー算出部503に出力する。また、区間代表帯域パワー算出部204は、中心周波数300Hz〜1000Hzにおける8帯域の帯域パワーを算出した後、算出した8帯域の帯域パワーを基準パワー算出部8に含まれる呼吸流速反映パワー算出部3に出力する。また、区間代表帯域パワー算出部204は、中心周波数1300Hz〜1500Hzにおける3帯域の帯域パワーを算出した後、算出した3帯域の帯域パワーを基準パワー算出部8に含まれる特定の変化反映パワー算出部4に出力する。
【0033】
呼吸流速反映パワー算出部3は、呼吸流速を反映する帯域である8帯域の帯域パワーの平均を取って呼吸流速反映パワーを算出する。なお、本実施の形態では、呼吸流速反映パワー算出部3における呼吸流速を反映する帯域を250以上1050Hz以下(中心周波数で言うと300〜1000Hz)の周波数とするが、250以上1050Hz以下の範囲のいずれかの周波数を少なくとも一部に含む帯域であればよい。特定の変化反映パワー算出部4は、呼吸流速以外の特定の変化を反映する帯域である3帯域の帯域パワーの平均を取って特定の変化反映パワーを算出する。なお、本実施の形態では、特定の変化反映パワー算出部4における特定の変化を反映する帯域を1250以上1550Hz以下(中心周波数で言うと1300〜1500Hz)の周波数とするが、1250以上1550Hz以下の範囲のいずれかの周波数を少なくとも一部に含む帯域であればよい。また、呼吸流速反映パワーの算出、および、特定の変化反映パワーの算出のための演算は平均以外の演算であっても構わない。
【0034】
指標値算出部5は、呼吸流速反映パワー算出部3で算出された呼吸流速反映パワーと特定の変化反映パワー算出部4で算出された特定の変化反映パワーと帯域パワー算出部2で算出された帯域パワーとから少なくとも1つの指標値を算出するものであり、帯域ごとの予測値を予測するための帯域ごとの予測係数を保持しておく予測係数保持部501と、呼吸流速反映パワー、特定の変化反映パワー及び帯域ごとの予測係数に基づき、帯域ごとの予測値を算出する予測値算出部502と、帯域ごとの代表帯域パワーから帯域ごとの予測値を減算することで、帯域ごとの補正後パワーを算出する補正後パワー算出部503と、帯域ごとの補正後パワーに基づき指標値を算出する指標値算出部504と、を備える。なお、予測値算出部502に、個人のプロフィール(例えば、体格、年齢、投薬状況等)を入力するようにしても構わない。一般に、呼吸音は、呼吸流速の大小に応じて、各帯域のパワーの大小も影響を受けるが、帯域ごとにその度合いは異なり、また、呼吸流速以外の要因の影響も帯域ごと異なる。本実施の形態では、予測値と実測値の差分(予測残差)に知りたい気道状態の情報が残り、それ以外の要因の影響が除かれるようにするために、呼吸流速等の影響を受けやすい帯域のパワーを基準パワーとし、基準パワーに対応する標準的なパワー値を予測する。基準パワーは、呼吸流速反映パワー算出部3で算出された呼吸流速反映パワーと特定の変化反映パワー算出部4で算出された特定の変化反映パワーとに基づいて算出すればよい。即ち、基準パワーは、基準パワー算出部8で算出される。
【0035】
表示部6は、液晶表示器や有機EL表示器等の表示手段を有し、指標値を視認可能な形態で表示する。記憶されている過去の指標値サンプルとともに表示すれば、指標値間の比較も行える。例えば、2つ以上の指標値を時間軸に沿ってプロットする。また、2つの指標値を2次元マップとして表示し、時系列に沿って、測定点を結んで表示する。
【0036】
次に、本実施の形態に係る生体音検査装置1の動作について説明する。
図2は、本実施の形態に係る生体音検査装置1の動作を説明するためのフローチャートである。同図において、まず帯域パワー算出部2は、生体音に基づき所定の複数の周波数帯域について所定の区間内の帯域パワーを算出する(ステップS1)。即ち、帯域パワー算出部2は、生体の胸部一点で生体音を測定するステップ(生体音測定ステップ)、測定された生体音に対して周波数分析を行うステップ(周波数分析ステップ)、複数の呼吸区間から分析する区間をGUI等により人手、または所定のプログラムに基づき自動で指定するステップ(区間指定ステップ)、周波数分析が行われた生体音に基づき、所定の複数の周波数帯域について指定された区間内の代表帯域パワーを算出するステップ(区間代表帯域パワー算出ステップ)を順次実行する。この場合、周波数帯は、100,200,…,1500Hzを中心周波数とする100Hz幅の15帯域(以下、単に「15帯域」と呼ぶ)である。なお、胸部の聴診位置は、体の前面のみならず、背面や側面も含まれる。
【0037】
帯域パワー算出部2は、生体音の帯域パワーを算出した後、15帯域のうち、呼吸流速を強く反映する帯域である中心周波数300〜1000Hzの帯域パワーと、生体の特定の変化(例えば、気道狭窄による変化、または、気道炎症と気道狭窄との違い)を強く反映する帯域である中心周波数1300〜1500Hzの帯域パワーとを基準パワー算出部8に出力する。基準パワー算出部8は、これらの帯域パワーに基づき、基準パワーを算出する(ステップS2)。即ち、基準パワー算出部8は、基準パワー算出ステップを実行する。そして、算出した基準パワーを指標値算出部5に出力する。
【0038】
詳細には、呼吸流速反映パワー算出部3が、中心周波数300〜1000Hzの帯域パワーに基づき、呼吸流速反映パワーを算出する。即ち、15帯域のうち、呼吸流速を反映する帯域の平均を取って呼吸流速反映パワーを算出する。そして、算出した呼吸流速反映パワーを指標値算出部5に出力する。
【0039】
また、特定の変化反映パワー算出部4が、中心周波数1300〜1500Hzの帯域パワーに基づき、特定の変化反映パワーを算出する。即ち、15帯域のうち、特定の変化を反映する帯域の平均を取って特定の変化反映パワーを算出する。そして、算出した特定の変化反映パワーを指標値算出部5に出力する。
【0040】
指標値算出部5は、基準パワー算出部8で算出された基準パワー(呼吸流速反映パワーと特定の変化反映パワー)と、帯域パワー算出部2で算出された帯域パワーとに基づき、1つ以上の指標値を算出する(ステップS3)。即ち、指標値算出部5は、帯域ごとの予測値を予測するための帯域ごとの予測係数を読み込むステップ(予測係数読み込みステップ)、呼吸流速反映パワー、特定の変化反映パワー及び帯域ごとの予測係数に基づき、帯域ごとの予測値を算出するステップ(予測値算出ステップ)、帯域ごとの代表帯域パワーから帯域ごとの予測値を減算することで、帯域ごとの補正後パワーを算出するステップ(補正後パワー算出ステップ)、帯域ごとの補正後パワーに基づき少なくとも1つの指標値を算出するステップ(指標値算出ステップ)を順次実行する。指標値算出部5で算出する指標値は、単独の補正後パワーや、複数の補正後パワーの線形和として求める。
【0041】
なお、ステップS1において、複数の吸気区間を指定し、ステップS3において、指定された区間ごとの指標値の中から代表値(medianなど)を決めるようにしてもよい。
【0042】
次に、本実施の形態に係る生体音検査装置1の特徴について詳細に説明する。
図3は、呼吸流速を反映する帯域の例を示す図である。同図において、横軸は帯域(中心周波数)を示し、縦軸は呼吸流速に対する偏回帰係数を示す。生体音の測定は、頚部と胸部の双方で行い、同時に呼吸フロー計で呼吸流速の計測を行った。特に、胸部音は右鎖骨中線上第二肋間で測定した。61名のデータを用いて、測定部位と帯域ごとのパワーに対して、呼吸流速と身長による重回帰分析を行い、呼吸流速に対する偏回帰係数を求めた。同図に示すように、頚部のパワーについては高域まで呼吸流速依存性が高いが、胸部のパワーについては600Hzを中心に低域も高域も呼吸流速依存性が低くなることが分かった。胸部のパワーにおける呼吸流速を反映する帯域W1は、例えば、300〜1000Hzである。
【0043】
図4は、気道状態の特定の変化を反映する帯域の例を示す図である。同図において、横軸は帯域(中心周波数)を示し、縦軸は特定の変化に対する効果量を示す。これは、日々の管理薬により良化した群(20名)の投薬後の呼吸音と、気管支拡張剤のみにより気管を拡張した群(19名)の投薬後の音を群間比較した場合の効果量を帯域ごとに求めたものである。同図に示すように、1300〜1500Hzの帯域W2では比較的効果量が大きくなっているのが分る。この帯域W2では、日々の管理薬により良化した呼吸音のパワーは服薬前に比べて他の帯域よりも上昇傾向にあり、気管支拡張剤によってはパワーが服薬前に比べて他の帯域よりも下降傾向にあり、逆の動きをする。
【0044】
日々の管理薬により良化した呼吸音と気管支拡張剤のみにより気管を拡張した音の差分が大きい帯域のパワーを特定の変化反映パワーとし、また呼吸流速反映パワーと特定の変化反映パワーを加える方向に線形演算したものを基準パワーとすると、慢性炎症の良化に伴う呼吸音の変化を重視した指標値が計算できる。逆に、呼吸流速反映パワーから特定の変化反映パワーを減じる方向に線形演算したものを基準パワーとすると、気道狭窄の良化に伴う呼吸音の変化を重視した指標値が計算できる。
【0045】
図5は、補正の様子を表す例を示す図である。本実施の形態では、基準パワーに基づいて、15帯域についての補正を行い、それぞれの帯域の補正後パワーから指標値を求めるものである。基準パワーは15帯域に対して共通である。補正を行う15帯域は、700Hzと1400Hzを含む。
図5では、特に700Hzを中心周波数とするパワーの補正について、例示している。
【0046】
ここで、予測係数の求め方について説明する。本実施の形態の生体音検査装置の使用に先立って、医師により非喘息と診断された症例や喘息を患っているが気道状態が良いと診断された症例の呼吸音を多数集めて標準状態の呼吸音としてあるものとする。700Hzの単帯域と複数帯域をベースにした基準パワーの関係を分析することで標準値(標準状態における帯域パワーの値)を求めることができる。分析には回帰分析などの方法があり、基準パワーのほかに身長など体格を表すパラメータや、年齢を表すパラメータを加えてもよい。また、基準パワーをレベルにより複数のゾーンに分割し、ゾーンごとに最小二乗法に基づく代表値を決め、代表値を結んでもよい。これらの、回帰分析による係数や、ゾーンごとの代表値など、基準パワーと帯域パワーの標準値の関係を表した数値を予測係数と呼ぶ。
【0047】
通常、基準パワーが大きくなれば、単帯域のパワーも大きくなるので、単調増加の関係となる。概ね線形の関係になるが、細かく見れば非線形の関係となる。最初に、呼吸流速反映パワーを基準パワーとしたときの例を示す。
図5において、横軸は基準パワー(dB)、縦軸は700Hzの帯域パワーの値(dB)である。また、図中、「ドット」は測定サンプルを表す。また、2つの「黒丸」は説明のため注目した測定値P1と予測値P2を表す。予測値P2は、基準パワーから予測した標準値である。測定値P1と予測値P2の差分をとった予測残差Sが補正後のパワーとなる。標準的な気道状態であればこれくらいの値になるであろうという予測値からの残差であるために、標準的な状態との差が数値で表現される。この例は、補正(a)の基準パワーを用いた例である。この補正(a)は、呼吸流速による影響を低減するものである。この補正の基準パワーを用いた予測残差には、呼吸流速依存性や体格依存性や年齢依存性がほとんどないことがデータから確認されている。
【0048】
補正(a)の基準パワー base_pow=Fpow
ここで、base_powは基準パワー、Fpowは呼吸流速反映パワーを表す。
【0049】
次に、基準パワーを2種類用いる場合の例を示す。補正において、基準パワーを2種類以上にすることも可能である。ここで、基準パワーの式を変形して、基準パワーが大きくなった場合(「白丸P3」)を考えると、基準パワーの増加に伴い、予測値も増加するが、単帯域のパワーはそのままなので、予測残差Sは減少する。逆に、基準パワーが小さくなると予測残差Sは大きくなる。このように、基準パワーを増減させるために特定の変化反映パワーを足したり引いたりした式が、補正(b)および補正(c)の基準パワーの式である。ただし、変形後の基準パワーの式に応じた予測値を準備しておく必要がある。補正(b)は、呼吸流速による影響と気道狭窄の影響を低減するものであり、補正(c)は、呼吸流速による影響を低減し、気道狭窄の影響を強調するものである。
【0050】
補正(b)の基準パワー base_pow=Fpow+0.3×Npow
補正(c)の基準パワー base_pow=Fpow−0.2×Npow
ここで、base_powは基準パワー、Fpowは呼吸流速反映パワー、Npowは特定の変化反映パワーを表す。
【0051】
特定の変化反映パワーは、気管支拡張薬の効果(気道狭窄の良化)によってパワーが低下する帯域で、かつ抗炎症薬の効果(気道炎症の良化)によってパワーが増加する帯域であるため、呼吸流速反映パワーに特定の変化反映パワーが重み付き加算される補正(b)においては、気道狭窄の良化により補正後のパワーが増加、気道炎症の良化によって補正後のパワーが低下する傾向となる。また、呼吸流速反映パワーに特定の変化反映パワーが重み付き減算される補正(c)においては、気道狭窄の良化により補正後のパワーが減少、気道炎症の良化によって補正後のパワーが増加する傾向となる。
【0052】
補正(b)と補正(c)の計算式の重みを調整し、補正(b)においてはβ2刺激薬による変化が平均的に0になる程度にし、補正(c)においては、抗炎症薬による変化が平均的に0になる程度にした。補正(b)と補正(c)の重みは、例えば補正(b)に対して「0.3」とし、補正(c)に対しては「0.2」とした。したがって、補正(b)によって求めた指標値(b)は、主に気道炎症の程度を表現し、補正(c)によって求めた指標値(c)は、主に気道狭窄の程度を表現すると考える。
【0053】
このように、基準パワーの計算式を複数とおり準備して、対応した標準値を求めておき、補正を行うことができる。また、700Hz以外の単帯域についても同様に標準値を求めておき、補正を行う。補正(b)によっても、1400Hzなど気道狭窄の悪化によりパワーが増加する帯域では、気道狭窄の程度が表現される。つまり、標準値は、基準パワーの定義ごとに単帯域の数だけ存在する。ただし、最終的に利用されない帯域については演算を行う必要もパラメータを保存する必要もない。
【0054】
なお、補正(b)の変形例として、呼吸流速反映パワーの帯域と特定の変化反映パワーの帯域を含む広帯域(例えば、300〜1500Hzや200〜1500Hz)のパワーの平均値を基準パワーとしてもよい。また、一部の帯域にノイズが乗りやすい場合には、その帯域を除いたり、周囲の帯域パワーから補間してもよい。
また、補正(a)の補正後の700Hzのパワーと補正後の1400Hzのパワーの値とを重み付き加算または重み付き減算しても、それぞれ、補正(c)、補正(b)と似た効果が得られる。
指標値は、投薬内容によって、使い分けることができる。
また、「15」の周波数帯域は一例であり、他の定義でも構わない。
【0055】
図5に示す700Hzの例と同様に1400Hzについても補正を行うと、共通の基準パワー(補正(a))に基づいて、2つ帯域(700Hz、1400Hz)についての補正を行い、それぞれの補正後パワーを指標値とすることになるが、2種類以上の基準パワー(例えば、補正(b)と補正(c)の基準パワー)のそれぞれに基づいて、1つの帯域(例えば、700Hz)についての補正を行い、それぞれの補正後パワーを指標値としてもよい。この場合、2種類以上の基準パワーは、呼吸流速反映パワーと特定の変化反映パワーとの重み付き加算に基づく基準パワーと、呼吸流速反映パワーと特定の変化反映パワーとの重み付き減算に基づく基準パワーとを含むものである。
【0056】
図6は、補正(a)による補正を行った後のパワー(平均値)の周波数依存性を示すグラフである。また、
図7は、補正(a)による補正を行った後のパワー分布の周波数依存性を示す箱ひげ図である。また、
図8は、補正(b)による補正を行った後のパワー(平均値)の周波数依存性を示すグラフである。また、
図9は、補正(b)による補正を行った後のパワー分布の周波数依存性を示す箱ひげ図である。それぞれ、長期管理薬の投薬開始時と投薬開始から1ヶ月後の症例数「11」の統計量を表している。
図6及び
図8で、投薬前後の平均値の比較をすると、低域から中域で、投薬前後でパワーの低下が見られるが、300〜700Hzについてはどの帯域でも変化量の大きな差はない。
図6と
図8を比べると、補正(b)では、補正(a)よりも700Hzまでの差が拡大している。一方、
図7及び
図9では、特に700Hzにおいて、ばらつきが小さく、投薬前後での分布の重なりが小さいため、指標値として、特に700Hzの値に注目するのが良いということが分る。
図7と
図9を比べると、補正(b)は補正(a)よりも補正後パワーの分布の重なりが小さい。
【0057】
図10は、薬の種類((1)抗炎症薬、(2)抗炎症薬と気管支拡張薬の合剤、および、(3)抗炎症薬と合剤の両方)と指標値の変化の例を示す図である。同図において、指標値(a)は、呼吸流速による影響を低減した指標値、指標値(b)は、呼吸流速による影響と気道狭窄の影響を低減した指標値、指標値(c)は、呼吸流速による影響を低減し気道狭窄の影響を強調した指標値、指標値(d)は、指標値(b)と指標値(c)の平均値である。薬の種類ごとに投薬開始時と投薬開始から1ヵ月後の指標値の分布を表示しており、個別の症例を点線で結んでいる。指標値(a)では、症例ごとの投薬前後の指標値の変化の方向がマチマチであるが、指標値(b)では、症例ごとの変化に一定の傾向が見られ、薬の種類にもよらない。指標値(d)と指標値(a)が似ていることから、指標値(b)と指標値(c)は、指標値(a)を別々の観点で分解したものと解釈できる。つまり、指標値(b)では、気道狭窄性の影響を除くことで、炎症の良化による変化が抽出されていると思われる。
【0058】
ここで、日々の気道のコントロール状態としては、気管支拡張薬により拡張されているかという点よりも、炎症のコントロールがうまくいっているかの方を知りたい。気管支拡張薬は、文字どおり、気管を拡張する作用があり、音響管としての物理特性を変化させるため、呼吸音も変化する。しかしながら、呼吸音に表れる気道状態には炎症のコントロール状態と狭窄のコントロール状態は混合されている。この点、本発明では、気道狭窄性の影響を除くことができるので、炎症のコントロールがうまくいっているかを知ることができる。
【0059】
図11は、指標値(a)と指標値(b)の違いを示す図である。同図に示すように、指標値(a)での効果量dは「0.86」、指標値(b)での効果量dは「2.11」となった。このように、呼吸流速のみを考慮した補正方法から呼吸流速および気道状態の特定の変化を考慮した補正方法への変更により、投薬前後の指標値の平均値の差に関する効果量は、「0.86」から「2.11」に大きく改善された。
【0060】
図12は、複数指標による分析マップの例を示す図である。同図において、上段の各図は、指標値(b)700Hzと指標値(c)700Hzの2次元マップであり、下段の各図は、指標値(b)700Hzと指標値(b)1400Hzの2次元マップである。下段の図において、グループG1は長期管理薬によるグループ分けであり、投薬前(細い線M1)と1ヵ月後(太い線M2)で指標値の分布が異なる。状態の良化により、指標値は左に動いている。グループG2はβ2刺激薬によるグループ分けであり、投薬前(細い線M1)と20分後(太い線M2)で指標値の分布が異なる。状態の良化により、指標値は下に動いている。グループG3は、スパイロメトリーによるグループ分けであり、V50の値が80未満(細い線M1)と80以上(太い線M2)で指標値の分布が異なる。状態が悪い方が、右上に分布している。上段の図においては、縦軸の動きが異なるが、グループ間で異なる動きをするという点では下段の図と同様である。
【0061】
図13は、指標値の表示の例を示す図である。同図に示すように、本実施の形態に係る生体音検査装置1の表示部6は、記憶しておいた過去の指標値サンプルとともに現在の指標値を表示する。同一の被測定者について、2つの指標値を時系列で追うと、気道状態の変化を多角的に評価することを支援できる。同図に示す例では、気道炎症が先に良化し、後から気道狭窄が良化している。
【0062】
図14は、指標値の表示の他の例を示す図である。同図に示すように、2つの指標をX軸とY軸に振り分け、背景に多数の測定サンプルをプロットし、その上に、特定の被測定者の指標値の変化の軌跡をプロットすることで、全体的な分布の中での位置づけを明確にすることができる。
【0063】
このように、本実施の形態に係る生体音検査装置1は、胸部一点で得られる生体音に基づき100〜1500Hz(中心周波数)における帯域幅100Hzの15帯域の周波数帯域について帯域パワーを算出し、また100〜1500Hzにおける15帯域のうち、呼吸流速を反映する帯域である300〜1000Hzの8帯域と生体の特定の変化を反映する帯域である1300〜1500Hzの3帯域の帯域パワーをそれぞれ算出し、算出した呼吸流速を反映する帯域の帯域パワーの平均を取って呼吸流速反映パワーを算出すると共に、特定の変化を反映する帯域の帯域パワーの平均を取って特定の変化反映パワーを算出し、算出した呼吸流速反映パワーと特定の変化反映パワーとの線形和により基準パワーを求め、帯域ごとに基準パワーに対応する予測値と帯域パワーとの差分を補正後パワーとして算出し、補正後パワーに基づき少なくとも1つの指標値を算出するので、生体音を測定するセンサの数を減らしながらも、気道状態を適切に反映した指標値を得ることができる。また、センサ数を少なくできるので、操作の簡素化が図れる。
【0064】
なお、本実施の形態における演算は線形の演算を例に説明したが、対数や指数などの非線形の演算を含んでも構わない。
【0065】
また、本実施の形態に係る生体音検査装置1は、専用の回路構成で実現可能であり、またコンピュータを用いた構成でも実現可能である。端末とクラウドとで処理を分割して行うことも可能である。
【0066】
また、
図2に示すプログラムを磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶媒体に格納して頒布することもできる。プログラムをネットワークを介して、ダウンロードすることも可能である。
【0067】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
【0068】
本出願は、2013年7月26日出願の日本特許出願(特願2013−155811)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。