(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記算出ステップでは、前記記憶ステップで記憶される予測情報にアクセスして、前記所定期間経過後における六価クロムの溶出の有無を算出する際の基準となる基準値を決定し、前記取得ステップで取得される対象全クロム情報に含まれる全クロムの溶出量が前記基準値以下であるか否か判断し、該全クロムの溶出量が基準値以下の場合、六価クロムの溶出がないと算出する、請求項1に記載の六価クロムの溶出予測方法。
前記算出ステップでは、前記記憶ステップで記憶される予測情報にアクセスし、前記情報取得ステップで取得される対象全クロム情報に基づいて、前記所定期間経過後における六価クロムの溶出量を算出する、請求項1又は2に記載の六価クロムの溶出予測方法。
破砕されたコンクリートを再生材料として活用する場合、該再生材料に含まれる六価クロムの溶出を予測し、六価クロムの溶出を低減する六価クロムの溶出低減方法であって、
前記破砕されたコンクリートを採取し、前記再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する全クロム情報を取得する採取ステップと、
前記採取ステップで取得される全クロム情報に基づいて、前記再生材料に含まれる六価クロムの溶出を予測する予測ステップと、
前記予測ステップで、六価クロムの溶出があると予測された場合、六価クロムの溶出を低減する所定の処理を実行する処理ステップと、を備え、
前記予測ステップでは、
コンピュータが、
再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する全クロム情報と、該再生材料から所定期間で溶出する六価クロムの溶出量に関する六価クロム情報と、を関連付けて予測情報として記憶する記憶ステップと、
予測対象としての再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する対象全クロム情報を取得する情報取得ステップと、
前記記憶ステップで記憶される予測情報にアクセスし、前記情報取得ステップで取得された対象全クロム情報に基づいて、前記所定期間経過後における六価クロムの溶出の有無を算出する算出ステップと、
前記算出ステップで算出された六価クロムの溶出の有無を出力する出力ステップと、を実行し、
前記記憶ステップでは、前記予測情報を、前記再生材料の養生条件ごとに記憶し、
前記情報取得ステップでは、前記予測対象としての再生材料の養生条件に関する養生条件情報を更に取得し、
前記算出ステップでは、養生条件毎に記憶される前記予測情報にアクセスし、前記情報取得ステップで取得された対象全クロム情報と前記養生条件情報に基づいて、前記所定期間経過後における六価クロムの溶出の有無を算出する、六価クロムの溶出低減方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
破砕されたコンクリートを再生骨材などの再生材料として活用する場合、製造直後の六価クロムの溶出量は土壌環境基準を下回るものの、中性化の進行に伴って溶出量が増加することが懸念される。そのため、製造直後の再生材料に対する六価クロムの溶出量の測定だけでは、将来的な溶出量を把握することが困難であった。また、六価クロムの将来的な溶出の程度を把握することができなければ、六価クロムが溶出することに対する適切な防止策、若しくは低減措置を施すこともできない。
【0005】
本発明では、上記した背景に鑑み、破砕されたコンクリートを再生骨材などの再生材料として活用する際、この再生材料に含まれる六価クロムの将来的な溶出を予測する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上述した課題を解決するため、再生材料に含まれる全クロムの溶出量に着目し、全クロムの溶出量と六価クロム量の溶出量の相関関係に基づいて、六価クロムの将来的な溶出を予測することとした。
【0007】
より詳細には、本発明は、破砕されたコンクリートを再生材料として活用する場合、該再生材料に含まれる六価クロムの溶出を予測する六価クロムの溶出予測方法であって、コンピュータが、再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する全クロム情報と、該再生材料から所定期間で溶出する六価クロムの溶出量に関する六価クロム情報と、を関連付けて予測情報として記憶する記憶ステップと、予測対象としての再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する対象全クロム情報を取得する情報取得ステップと、前記記憶ステップで記憶される予測情報にアクセスし、前記情報取得ステップで取得された対象全クロム情報に基づいて、所定期間経過後における六価クロムの溶出の有無を算出する算出ステップと
、前記算出ステップで算出された六価クロムの溶出の有無を出力する出力ステップと、を実行する。
【0008】
本発明では、コンピュータが、記憶ステップで記憶される予測情報にアクセスし、情報取得ステップで取得された対象全クロム情報に基づいて、所定期間経過後における六価クロムの溶出の有無が算出される。記憶ステップで記憶される予測情報には、再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する全クロム情報と、該再生材料から所定期間で溶出する六価クロムの溶出量に関する六価クロム情報とが関連付けて予測情報として記憶されている。本発明者等は、全クロムの溶出量と六価クロムの溶出量との関係に着目し研究を重ねたところ、全クロムの溶出量と六価クロムの溶出量との間に相関関係があることを見出した。そこで、記憶ステップでは、このような相関関係を有する、全クロムの溶出量に関する全クロム情報と六価クロムの溶出量に関する六価クロム情報とを関連付けて記憶する。その結果、予測対象となる再生材料に含まれる全クロムの溶出量さえ取得できれば、所定期間経過後、すなわち将来の六価クロムの溶出を予測することが可能となる。六価クロムの溶出量は、再生骨材が置かれた環境により大きく異なるため、将来的な排出の予測をすることが従来難しいとされていた。一方、全クロムの溶出量は、破砕されたコンクリートに元々使用されていたセメントに含まれていたものであり、六価クロムと異なり環境の変化を受け難い。従って、本発明では、このような環境の変化の受け難い全クロムの溶出量と六価クロムとを関連付けて予めデータ化しておくことで、環境の変化の受け難い全クロムの溶出量から将来的な六価クロムの溶出を予測することが可能となる。
【0009】
対象全クロム情報は、破砕されたコンクリートを採取して、前記再生材料に含まれる全クロムの溶出量を試験することで得ることができる。また、対象全クロム情報は、セメントの種類毎に公表されている全クロムの溶出量から得るようにしてもよい。
【0010】
ここで、本発明において、前記算出ステップでは、前記記憶ステップで記憶される予測情報にアクセスして、前記所定期間経過後における六価クロムの溶出の有無を算出する際の基準となる基準値を決定し、前記取得ステップで取得される対象全クロム情報に含まれる全クロムの溶出量が前記基準値以下であるか否か判断し、該全クロムの溶出量が基準値以下の場合、六価クロムの溶出がないと算出するようにしてもよい。
【0011】
予測情報とは、上記のように、全クロム情報と六価クロム情報とが関連付けられた情報であり、予測情報をグラフ化すると全クロム情報と六価クロム情報との相関関係を表す、所定の傾きを有する回帰直線を得ることができる。一方、六価クロムに関する土壌環境基準値は、例えば、0.05(mg/L)のように既定されている。従って、例えば、縦軸を六価クロムの溶出量、横軸を全クロムの溶出量とするグラフ上に回帰直線を設定し、更に土壌環境基準値を設定することで、回帰直線と土壌環境基準値の交点から所定期間経過後における六価クロムの溶出の有無を算出する際の基準となる基準値を得ることが可能となる。このように得られた基準値を基に、六価クロムの溶出の有無の判断が可能となる。なお、本発明における六価クロムの溶出が無い状態には、六価クロムの溶出が一切無い状態、六価クロムの溶出は認められるものの土壌慣用基準値を下回っており環境への影響が無い状態が含まれる。
【0012】
また、本発明において、前記算出ステップでは、前記記憶ステップで記憶される予測情報にアクセスし、前記情報取得ステップで取得された対象全クロム情報に基づいて、前記所定期間経過後における六価クロムの溶出量を算出するようにしてもよい。
【0013】
予測情報において全クロム情報と六価クロム情報との間には、相関関係があることから、六価クロムの溶出の有無だけでなく、六価クロムの溶出量を得ることができる。従って、例えば六価クロムの溶出量が土壌環境基準値を上回っている場合には、六価クロムを固
定化するなどの処置を施す必要があると判断することが可能となる。一方、例えば六価クロムの溶出量が土壌環境基準値を上回っていない場合には、六価クロムを固定化するなどの処置を施さずに、路盤材として使用できると判断することが可能となる。すなわち、本発明によれば、六価クロムの溶出量に応じた適切な措置を講じることが可能となる。なお、予測情報として、全クロム情報と六価クロム情報を蓄積していくことで、六価クロムの溶出の予測精度をより高めることができる。
【0014】
また、本発明において、前記算出ステップでは、算出された六価クロムの溶出量に基づいて再生材料の用途を更に決定するようにしてもよい。再生材料の用途には、路盤材や埋め戻し材としての用途、再生材料を建設現場に到着したコンクリートミキサー車のアジデータ内に投入し、混練して現場打ちコンクリートとして使用する用途、再生材料を普通骨材の一部として置換し、コンクリート二次製品とする用途などが例示される。
【0015】
また、本発明において、前記記憶ステップでは、前記予測情報を、前記再生材料の養生条件ごとに記憶し、前記情報取得ステップでは、前記予測対象としての再生材料の養生条件に関する養生条件情報を更に取得し、前記算出ステップでは、養生条件毎に記憶される前記予測情報にアクセスし、前記情報取得ステップで取得された対象全クロム情報と前記養生条件情報に基づいて、前記所定期間経過後における六価クロムの溶出の有無を算出するようにしてもよい。
【0016】
六価クロムの溶出には、再生材料の養生条件が関係することが、本発明者らの研究により確認された。そこで、予測情報に、養生条件を更に加えることで六価クロムの溶出の予測精度をより高めることが可能となる。養生条件には、再生材料を乾燥状態で養生する乾燥養生、再生材料を湿潤状態で密封して養生する密封養生、再生材料を乾燥・湿潤状態で養生する乾湿養生が例示される。なお、本発明者らの研究によれば、乾燥養生よりも密封養生の方が、六価クロムの溶出量が少ないことが確認された。
【0017】
ここで、本発明は、六価クロムの溶出予測装置であってもよい。具体的には、本発明は、破砕されたコンクリートを再生材料として活用する場合、該再生材料に含まれる六価クロムの溶出を予測する六価クロムの溶出予測装置であって、再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する全クロム情報と、該再生材料から所定期間で溶出する六価クロムの溶出量に関する六価クロム情報と、を関連付けて予測情報として記憶する記憶部と、予測対象としての再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する対象全クロム情報を取得する情報取得部と、前記記憶部で記憶する予測情報にアクセスし、前記情報取得部で取得された対象全クロム情報に基づいて、前記所定期間経過後における六価クロムの溶出の有無を算出する算出部と、前記算出部で算出された六価クロムの溶出の有無を出力する出力部と、を備える。
【0018】
また、本発明は、上述した六価クロムの溶出予測方法を実現させるプログラムであってもよい。更に、本発明は、そのようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体であってもよい。この場合、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。なお、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、又は化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。
【0019】
更に、本発明は、上述した六価クロムの溶出予測方法を活用した六価クロムの溶出低減方法としてもよい。具体的には、本発明は、破砕されたコンクリートを再生材料として活用する場合、該再生材料に含まれる六価クロムの溶出を予測し、六価クロムの溶出を低減する六価クロムの溶出低減方法であって、前記破砕されたコンクリートを採取し、前記再
生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する全クロム情報を取得する採取ステップと、前記採取ステップで取得される全クロム情報に基づいて、前記再生材料に含まれる六価クロムの溶出を予測する予測ステップと、前記予測ステップで、六価クロムの溶出があると予測された場合、六価クロムの溶出を低減する所定の処理を実行する処理ステップと、を備え、前記予測ステップでは、コンピュータが、再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する全クロム情報と、該再生材料から所定期間で溶出する六価クロムの溶出量に関する六価クロム情報と、を関連付けて予測情報として記憶する記憶ステップと、予測対象としての再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する対象全クロム情報を取得する情報取得ステップと、前記記憶ステップで記憶される予測情報にアクセスし、前記情報取得ステップで取得された対象全クロム情報に基づいて、前記所定期間経過後における六価クロムの溶出の有無を算出する算出ステップと、前記算出ステップで算出された六価クロムの溶出の有無を出力する出力ステップと、を実行する。
【0020】
本発明は、上述した六価クロムの溶出予測方法を活用して、六価クロムの溶出削減を実現する。採取ステップでは、破砕されたコンクリートを採取し、再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する全クロム情報を取得する。予測ステップでは、採取ステップで取得される全クロム情報に基づいて、再生材料に含まれる六価クロムの溶出を予測する。予測ステップで行われる具体的な処理には、上述した六価クロムの溶出予測方法における各ステップを対応させることができる。処理ステップでは、予測ステップで、六価クロムの溶出があると予測された場合、六価クロムの溶出を低減する所定の処理を実行する。なお、処理ステップでは、例えば、破砕されたコンクリートに含まれる再生細骨材に対して所定量のセメントを投入し、投入されたセメントと前記再生細骨材とを攪拌することで、該再生細骨材を該セメントによって造膜するといった処理を行うことができる。なお、処理ステップでは、上記の他、再生材料を建設現場に到着したコンクリートミキサー車のアジデータ内に投入し、混練して現場打ちコンクリートとする処理、再生材料を普通骨材の一部として置換し、コンクリート二次製品とする処理を行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、破砕されたコンクリートを再生骨材などの再生材料として活用する際、この再生材料に含まれる六価クロムの将来的な溶出を予測する技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明に係る六価クロムの溶出予測方法の実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明では、六価クロムの溶出予測方法を六価クロムの溶出予測装置として実現する場合を例に説明する。また、本発明に係る六価クロムの溶出予測方法を活用した、六価クロムの溶出低減方法と共に説明する。
【0024】
<構成>
図1は、実施形態に係る六価クロムの溶出予測装置(以下、単に予測装置ともいう。)100の概略構成を示す。
図2は、予測装置100の機能ブロック図を示す。予測装置100は、制御部10を格納する筐体1、ディスプレイ等の表示部2、ポインティングデバイスやキーボード等の操作部3、外部機器と接続可能なインターフェース4備える。
【0025】
表示部2は、例えば、液晶表示装置、プラズマディスプレイパネル、CRT(Cathode Ray Tube)、エレクトロルミネッセンスパネル等である。なお、図示されていないが、表示部2には、画像データを格納するRAM、およびRAMのデータに基づき表示部2を駆動する駆動回路が含まれる。但し、画像データを格納するRAM、表示部2を駆動する駆動回路等は、画像処理基板として、表示部2とは独立に設けても良い。
【0026】
操作部3は、コンピュータの入力装置であり、例えば、キーボード、ポインティングデバイス等が含まれる。ポインティングデバイスの種類には特に限定はなく、マウス、トラックボール、ダイヤル式操作部、スティック形式でディスプレイ上のポインタを移動する装置、静電容量によってユーザの指の操作を検出するデバイス、タッチパネル、ジョイスティック等ユーザのニーズ等に応じて、適切なものを使用すればよい。
【0027】
キーボードは、ユーザの入力操作に応じて、入力されたキーに対応する電気信号をキーボードの不図示のキーボードコントローラに送信する。キーボードコントローラは、その電気信号に対応する符号をCPU11に送信する。CPU11のデバイスドライバは、OSが内蔵するフォントデータ(輪郭線を描くためのいくつかの点の座標とそれを結ぶ曲線の方程式)に基づき、その符号に対応するフォントの輪郭線を形成し(True Fontと呼ぶ)表示部2に表示する。また、CPU11は、ユーザの入力操作に応じて、文字入力先を示す文字カーソルを画面上に表示し、画面上を移動させる。
【0028】
ポインティングデバイスは、ユーザ操作を検知して、操作信号を不図示のポインティングデバイス制御装置(例えば、不図示のマウスコントローラ、又は、インターフェース4等)に送信する。操作信号を受けたポインティングデバイス制御装置は、操作の方向および操作量を生成するための情報をCPU11に送信する。CPU11のデバイスドライバは、ポインティングデバイス制御装置からの操作信号に基づき、表示部2上の画面にポインタを表示し、画面上を移動させる。
【0029】
インターフェース4は、USB等のシリアルインターフェース、あるいは、PCI(Peripheral Component Interconnect)、ISA(In
dustry Standard Architecture )、EISA(Extended ISA)、ATA(AT Attachment)、IDE(Integrated Drive Electronics)、IEEE1394、SCSI(Small Computer System Interface)等のパラレルインターフェースのいずれでもよい。
【0030】
制御部10は、CPU(中央演算処理装置)11、メモリ12、情報取得部13、算出部14、出力部15、記憶部16を備える。CPU11は、バス17を介して上述した記憶部16等の各ハードウェアと接続されている。CPU11は、記憶部16等のハードウェアを制御すると共に、例えばメモリ12に格納された制御プログラムに従って、所定の処理を実行する。
【0031】
メモリ12は、揮発性のRAM(Random Access Memory)と、不揮発性のROM(Read Only Memory)を含む。ROMには、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read−Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read−Only Memory)のような書き換え可能な半導体メモリを含む。
【0032】
記憶部16は、ハードディスクドライブ(以下、HDDとする。)により構成することができる。記憶部16は、再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する全クロム情報と、該再生材料から所定期間で溶出する六価クロムの溶出量に関する六価クロム情報と、を関連付けて予測情報として記憶する。ここで、
図3は、予測情報としてのグラフの一例を示す。
図3に示すグラフは、縦軸が六価クロムの溶出量、横軸が全クロムの溶出量であり、グラフ上に回帰直線A、B、Cが設けられている。回帰直線Aは、再生材料を乾燥状態で養生する乾燥養生における回帰直線、回帰直線Bは、再生材料を湿潤状態で密封して養生する密封養生における回帰直線、回帰直線Cは、再生材料を乾燥・湿潤状態で養生する乾湿養生における回帰直線を示す。いずれの回帰直線も全クロムの溶出量が少なくなるにつれて六価クロムの溶出量が少なくなっている。また、いずれの回帰直線も六価クロムの溶出が比較的安定する材齢4週のものである。養生条件ごとに回帰直線を設けることで、六価クロムの溶出量の予測精度をより高めることができる。六価クロムの溶出を予測する所定期間については、材齢4週、材齢8週、材齢13週、材齢26週といったように所定期間毎の回帰直線を別途設けることで、所定期間経過後における六価クロムの溶出量をより正確に算出することが可能となる。そして、このような全クロムの溶出量と六価クロムの溶出量との間に相関関係が見られる予測情報を記憶部16が有することで、全クロムの溶出量により六価クロムの溶出量を予測することが可能となる。なお、記憶部16は半導体メモリによって構成してもよい。
【0033】
情報取得部13は、予測対象としての再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する対象全クロム情報を取得する。対象全クロム情報は、破砕されたコンクリートを採取して、再生材料に含まれる全クロムの溶出量を試験によって得ることができる。このように得られた対象全クロム情報は、操作部3を介して入力することができ、その結果、情報取得部13は、対象全クロム情報を取得することができる。なお、対象全クロム情報は、セメントの種類毎に公表されている全クロムの溶出量から得るようにしてもよい。この場合、試験を行うことなく対象全クロム情報を得ることができる。
【0034】
ここで、
図4は、入力画面の一例を示す。このような入力画面は、表示部2に表示される。試験者等は、操作部3を介して必要な情報を入力する。
図4に示す入力画面は、全クロムの溶出量入力領域、期間入力領域、養生条件入力領域、決定ボタン、リセットボタンを有する。全クロムの溶出量入力領域を選択することで、全クロムの溶出量をキーボード
を介して入力可能となる。期間(材齢4週、材齢8週、材齢13週、材齢26週)、養生条件(乾燥養生、密封養生、乾湿養生)は、予め設定されている中から選択可能である。決定ボタンが選択されることで、予測処理が開始される。また、リセットボタンが選択されると、入力した情報が初期化される。
【0035】
算出部14は、記憶部16で記憶する予測情報にアクセスし、情報取得部13で取得された対象全クロム情報に基づいて、所定期間経過後における六価クロムの溶出の有無や溶出量を算出する。所定期間の特定は、例えば操作部3を介して指定することができる。なお、算出部14は、算出された六価クロムの溶出量に基づいて再生材料の用途を更に決定するようにしてもよい。再生材料の用途には、路盤材や埋め戻し材としての用途、再生材料を建設現場に到着したコンクリートミキサー車のアジデータ内に投入し、混練して使用する用途、再生材料を普通骨材の一部として置換し、コンクリート二次製品とする用途などが例示される。六価クロムの溶出の予測処理の詳細については後述する。
【0036】
出力部15は、算出部14で算出された算出結果、換言すると六価クロムの溶出の予測結果を出力する。具体的には、出力部15は、例えば算出結果を表示部2に表示させる。また、出力部15は、インターフェース4を介して予測装置100の外部に出力することもできる。
【0037】
<予測処理>
図5は、六価クロムの溶出を予測する予測処理フローを示す。ステップS01では、情報取得部13は、対象全クロム情報を取得する。対象全クロム情報は、例えば試験によって得ることができ、このように得られた対象全クロム情報が、操作部3を介して入力されることで、情報取得部13が、対象全クロム情報を取得する。対象全クロム情報の取得が完了すると、ステップS02へ進む。
【0038】
ステップS02では、算出部14は、記憶部16で記憶する予測情報にアクセスして、所定期間経過後における六価クロムの溶出の有無を算出する際の基準となる基準値を決定する。基準値は、土壌環境基準値(例えば、0.05(mg/L))を設定し、回帰直線と土壌環境基準値との交点における全クロムの溶出量を読み取ることで得ることができる。回帰直線Aであれば、全クロムの溶出量の基準値は、33mg/kg程度となる。基準値が決定されると、ステップS03へ進む。
【0039】
ステップS03では、算出部14は、情報取得部13で取得される対象全クロム情報に含まれる全クロムの溶出量が基準値以下であるか否か判断する。算出部14は、ステップS02で決定された基準値と情報取得部13で取得された全クロムの溶出量とを比較し、取得された全クロムの溶出量が基準値以下であるか否かを判断する。全クロムの溶出量が基準値以下の場合、六価クロムの溶出が無い、換言すると、六価クロムの溶出量が土壌環境基準値以内であるとしてステップS04へ進む。一方、全クロムの溶出量が基準値を上回っている場合、六価クロムの溶出がある、換言すると、六価クロムの溶出量が土壌環境基準値を上回るとしてとしてステップS05へ進む。
【0040】
ステップS04では、出力部15は、六価クロムの溶出がない、換言すると、六価クロムの溶出量が土壌環境基準値以内である旨を表示部2に表示させる。一方、ステップS05では、出力部15は、六価クロムの溶出がある、換言すると、六価クロムの溶出量が土壌環境基準値を上回る旨を表示部2に出力させる。
【0041】
ここで、上記態様では、算出部14が六価クロムの溶出の有無を算出したが、算出部14は、溶出の有無に代えて、若しくは溶出の有無に加えて六価クロムの溶出量を算出してもよい。六価クロムの溶出量は、
図3に示す予測情報にアクセスし情報取得部13が取得
した対象全クロム情報から算出することができる。例えば、養生条件が乾燥養生であり、4週経過後の六価クロムの溶出量を算出したい場合、操作部3を介してこれらの条件を入力し、決定ボタンを選択する。その結果、算出部14は、回帰直線Aから4週経過後の六価クロムの溶出量を算出する。
【0042】
また、算出部14は、算出された六価クロムの溶出量に基づいて再生材料の用途を更に決定するようにしてもよい。ここで、
図6は、再生材料の用途に関するテーブル例を示す。
図6に示すテーブルは、再生材料の用途として、路盤材や埋め戻し材としての用途、再生材料を建設現場に到着したコンクリートミキサー車のアジデータ内に投入し、混練して現場打ちコンクリートとする用途、再生材料を普通骨材の一部として置換し、コンクリート二次製品とする用途を有する。そして、これらの用途が、六価クロムの溶出量と関連付けて記憶されている。なお、全クロムの溶出量と関連付けて記憶するようにしてもよい。従って、算出部14は、再生材料の用途決定の要求があった場合には、
図6に示すテーブルにアクセスして、算出された六価クロムの溶出量に基づいて用途を決定する。用途決定の要求は、例えば、
図4に示す入力画面に更に用途要求ボタンを設ければよい。
【0043】
<活用方法>
次に、上述した六価クロムの溶出予測方法の活用方法について説明する。
図7は、六価クロムの溶出予測方法を活用した、六価クロムの溶出低減方法の手順を示す。ステップS11では、試験者等により、破砕されたコンクリートが採取され、再生材料に含まれる全クロムの溶出量に関する全クロム情報が取得される。全クロム情報が取得されるとステップS12へ進む。
【0044】
ステップS12では、上述した予測処理(ステップS01から05)が予測装置100で実行される。予測処理が完了すると、ステップS13へ進む。
【0045】
ステップS13では、試験者等により、六価クロムの溶出量を低減する処理が行われる。予測処理において、再生材料の用途が決定されている場合には、この用途に従った処理を行えばよい。また、六価クロムの溶出の有無や六価クロムの溶出量のみが算出されている場合には、算出結果に応じた処理を行うことができる。六価クロムの溶出は無いとの結果が得られている場合には、特別な処理を施す必要はないことから、そのまま路盤材などに用いることができる。一方、六価クロムの溶出が有るとの結果が得られている場合、若しくは、算出された六価クロムの溶出量に応じて六価クロムを固定化するなどの処置を施す必要がある。なお、六価クロムの溶出が有る場合の処理対応の一例として、破砕されたコンクリートに含まれる再生細骨材に対して所定量のセメントを投入し、投入されたセメントと前記再生細骨材とを攪拌することで、該再生細骨材を該セメントによって造膜するようにしてもよい。
【0046】
<試験1>
次に、先に行った六価クロムの溶出予測に関する試験1について説明する。
【0047】
<試験1の概要>
再生粗骨材残渣(5〜0mm)のモデル試料として、A建物(経年約45年)、B構造物(経年約45年)およびC建物(経年約40年)のコンクリート塊を破砕してふるって得たものを用いた。なお、A建物とB構造物のモデル試料は、破砕直後のものであったが、C建物のモデル試料は破砕後、数週間が経過したものであった。残渣の保管期間および保管条件がCr(VI)の溶出に及ぼす影響について把握するため、最大26週まで乾燥条件、乾湿繰返し条件(週2回程度の割合で散水、含水率が10%程度となるように調整)および密封条件で保管した。
【0048】
<試験1の試験方法>
(1)六価クロム(Cr(VI))溶出量
再生粗骨材残渣からの六価クロム(以下、Cr(VI)とも記載する。)溶出量に関しては、土壌汚染に係る環境基準が示されている環境庁告示第46号法(以下、JLT−46)に準拠して実施した。また、その定量はJIS K 0102(工場排水試験方法)の65.2.1「ジフェニルカルバジド吸光光度法」に準拠した。なお、同法はもともと土壌を対象とした試験方法であるため、2mmふるい通過分を試料として利用するが、ここでは利用有姿での試験を実施した。
【0049】
(2)pHおよび酸化還元電位
溶出液のpHをJIS K 0102−1998 12.1「ガラス電極法」により測定した。また、酸化還元電位(ORP)を、酸化還元電位計を用いて測定した。ORPは酸化還元力の指標であり、プラスで大きければ酸化力が強く、マイナスで大きければ還元力が強いという目安となるものである。
【0050】
(3)不溶残分および全クロムの溶出量
残渣に含まれる骨材量を把握するため、JCAS F−18「硬化コンクリートの配合推定」に規定される「不溶残分の定量方法」に準拠し、不溶残分試験を実施した。また、一部のサンプルについて、硬化セメントペースト中の全クロムの溶出量を推定するため、不溶残分試験のろ液を用い、JCAS I−513.6「原子吸光によるクロムの定量法:ICP発光分光分析法」による分析を実施した。
【0051】
<試験1の試験結果および考察>
(六価クロム溶出量の変化)
試験1の試験結果の一覧を
図8から15に示す。残渣からの六価クロムの溶出量は、建物によって大きく異なり、C>A>Bの順であった。建物Cについては、全クロムの溶出量の測定を実施していないが、建物A、Bの結果から、全クロムの溶出量も最も大きいと推定される。また、密封条件を除き、六価クロムの溶出量は増加した。破砕直後(あるいは入手直後)から4週までの増加が大きかった。密封条件で特徴的なのはpHの低下がなく、ORPの値が低い点である。硬化コンクリートから六価クロムの溶出がほとんど認められないのは、セメント水和物による物理的吸着と化学的固定のためとされている。したがって、初期の六価クロムの溶出量の差は、破断面に物理的に吸着されていた六価クロムの差と考えられる。一方、破砕後に、乾燥条件や乾湿繰返し条件で六価クロムの溶出量が増加するのは、破断面にあるAFm相やAFt相が炭酸化に伴って、化学的に固定していたCrO
42-を放出したためと考えられる。なお、4週以降の溶出量に大きな差がない理
由として、タンクリーチング試験と異なり、この種の溶出試験の特徴として、溶出時間が比較的短いため、ごく表層の影響が大きいことが考えられる。
【0052】
(全クロムの溶出量と高炉スラグの有無)
サンプル中に含まれる硬化セメントペースト量を(100−Insol.)%とし、硬化セメントペースト中のセメント分を74%として、元のセメントに含まれていた全クロムの溶出量を推定すると、A建物で使われていたセメントの全クロムの溶出量は約238mg/kg、B構造物のセメントの全クロムの溶出量は約47mg/kgとなる。セメントメーカは1998年9月に水溶性六価クロムの含有量を20mg/kgとする自主規制を設定したこともあり、セメント原料のクロム量が管理されるようになり、例えば、2001年に採取した普通ポルトランドセメント中の全クロムの溶出量として、53〜114mg/kgというデータが示されている。しかし、過去にはA建物のように、全クロムの溶出量が多いと考えられるセメントを使用しているケースもあり、注意が必要と思われる。B構造物残渣で六価クロムの溶出量が少ない理由として、高炉セメントを用いた場合の特徴である可能性もあるため、高炉スラグの定性分析を実施した。コンクリート片からモ
ルタル部分を採取し、電界放射形走査電子顕微鏡を用い、組成像の観察と組成分析を行ったが、このセメントは高炉セメントではないことがわかった。
【0053】
(まとめ)
複数の建物から得た再生粗骨材残渣を用いて、六価クロムの溶出特性について検討を行い、保管状況や全クロムの溶出量等が及ぼす影響について考察した。その結果、以下の結論を見出すことができた。(1)再生粗骨材残渣には、土壌環境基準を超える量の六価クロムが溶出する場合がある。(2)元々の全六価クロム量が少ない場合は溶出の可能性は少ない。
【0054】
<試験2>
次に、先に行った六価クロムの溶出予測に関する試験2について説明する。
【0055】
<試験2の概要>
上述した試験1では、再生粗骨材残渣(5〜0mm)のモデル試料として、A建物(経年約45年)、B構造物(経年約45年)およびC建物(経年約40年)のコンクリート塊を破砕してふるって得たものを用いた。試験2は、モデル試料として、D建物(経年約49年)を更に加えて行ったものである。
【0056】
<試験2の試験方法>
試験方法は、基本的には、試験1と同じである。すなわち、原則、再生粗骨材残渣を対象とした溶出試験方法は定められていないため、試験2では、土壌を対象とした環境庁告示46号(以下46号法、但し試料は利用有姿)、およびスラグ類を対象としたJIS K0058−1「スラグ類の化学物質試験」による方法(以下JIS法)により六価クロムの溶出量を求めた。なお検液の分析はJIS K0102の65.2.1「ジフェニルカルバジド吸光光度法」に準拠した。
図16に、試験2における、六価クロムの溶出量を求める試験方法を示す。
【0057】
また、セメント協会「コンクリート専門委員会報告 F−18(硬化コンクリートの配合推定に関する共同試験報告書)」に準拠し、得られた酸溶解液をICP発光分光分析法により分析し、試料中の全クロム(T−Cr)量を求めた。
【0058】
<試験2の試験結果および考察>
六価クロムの溶出量を求める試験の試験結果の比較を
図17および
図18に示す。
図18には、六価クロムの溶出量(mg/L)に関する土壌環境基準を併せて示す。試料は週に2〜3回空気と接触するように手で攪拌を行いながら、所定の材齢まで20℃、60%RHの恒温恒湿室にて保管した。各試料とも保管期間の増加に伴い六価クロム溶出量も増加する傾向が見受けられた。特にA建物の試料では、初期の段階では土壌環境基準を下回る溶出量であったものが、保管期間の増加に伴い、土壌環境基準を上回る結果となった。
【0059】
全クロム量を求める試験の試験結果を
図17および
図19に示す。
図17及び
図19より、試料ごとに全クロム量は大きく異なる結果となっていることがわかる。その原因は、元々のセメントに含有されていた全クロム量の差であると考えられる。
【0060】
全クロム量と六価クロムの溶出量の関係を
図20に示す。
図20には回帰直線を併せて示す。試験2においても、全クロム量と六価クロムの溶出量には正の相関があることが確認された。
【0061】
六価クロムの溶出量は、コンクリートの炭酸化(中性化)の進行に伴って増加する傾向にある。そのため、初期の段階で六価クロムの溶出量が土壌環境基準を下回る場合でも、保
存期間が長くなると土壌環境基準を上回る六価クロムが溶出する可能性がある。そのため、六価クロムの溶出量を求める試験を行う場合、ある程度の養生期間を経た試料により溶出試験を行う方が望ましい。但し、そのために試料採取から試験結果が出るまでに、相当の期間を要することになる。これに対し、全クロム量は養生期間には影響されないため、採取した試料により直ぐに試験を行うことができ、試験に費やす時間を削減することができる。試験2においても、試験1と同じく、全クロム量と六価クロムの溶出量には正の相関があることが確認された。従って、全クロムr量から六価クロムの溶出量を推定するこ
とで、再生粗骨材残渣の再利用を行う場合、粒状化処理等の対策が必要であるか否かの判断を迅速に得ることができる。
【0062】
<効果>
以上説明したように、実施形態に係る六価クロムの溶出予測方法によれば、六価クロムに比べて環境の変化を受け難い全クロムの溶出量から、将来的に再生材料から六価クロムが溶出されるか否か、又は六価クロムの溶出量を算出することができる。また、六価クロムの溶出量を算出することで、再生材料の用途を判断することが可能となる。すなわち、六価クロムの溶出量に応じた適切な措置を講じることが可能となる。