特許第5786329号(P5786329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5786329
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】潤滑油の油温制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 5/00 20060101AFI20150910BHJP
【FI】
   F01M5/00 D
   F01M5/00 M
   F01M5/00 N
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-285784(P2010-285784)
(22)【出願日】2010年12月22日
(65)【公開番号】特開2012-132377(P2012-132377A)
(43)【公開日】2012年7月12日
【審査請求日】2013年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】飯島 章
【審査官】 安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭62−011289(JP,Y2)
【文献】 実開平06−012707(JP,U)
【文献】 実開昭57−092815(JP,U)
【文献】 特開2006−077696(JP,A)
【文献】 特開平07−127414(JP,A)
【文献】 特開平05−001536(JP,A)
【文献】 特開2001−082120(JP,A)
【文献】 実開昭56−132305(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の摺動部を潤滑する潤滑油を貯留する潤滑油貯留部と、
前記内燃機関に設けられ、前記潤滑油を流通させる潤滑油流路と、
前記潤滑油貯留部から潤滑油を汲み上げて前記潤滑油流路に圧送供給する潤滑油供給手段と、
前記潤滑油供給手段よりも下流側の潤滑油流路に設けられ、前記内燃機関の冷却水と潤滑油との熱交換を行う熱交換部と、
前記潤滑油供給手段と前記熱交換部との間の潤滑油流路から分岐して、前記熱交換部よりも下流側の潤滑油流路と合流するバイパス流路と、
前記潤滑油流路と前記バイパス流路との分岐部に設けられ、前記潤滑油の流路を切り替える流路切替手段と、を備え、
前記流路切替手段は、前記分岐部内に設けられ、前記分岐部の上流側の潤滑油流路から下流側の潤滑油流路に潤滑油を流す第一開口部と前記分岐部の上流側の潤滑油流路から前記バイパス流路に潤滑油を流す第二開口部とを有する筒状の本体と、前記本体内に摺動可能に設けられ、摺動で前記第一開口部と前記第二開口部のいずれかを閉じる筒状の弁体と、前記本体内に取り付けられると共に、前記弁体に取り付けられ、前記第一開口部を閉じるように前記弁体を付勢するスプリングと、前記上流側の潤滑油流路に位置するように前記本体に取り付けられると共にバルブピストンを介して前記弁体に連結され、前記上流側の潤滑油流路内の潤滑油の油温に応じて縮小・膨張し、前記油温が閾値以下のときに前記弁体が前記第一開口部を閉じるように、前記油温が閾値よりも高いときに前記弁体が前記第二開口部を閉じるように縮小・膨張して、前記弁体を前記スプリングに抗して付勢するワックスペレットと、前記ワックスペレットに設けられ、前記ワックスペレットを加熱膨張させる電熱ヒータと、前記電熱ヒータの通電ON・OFFを制御し、前記油温が閾値以下であっても、前記内燃機関の暖機中は前記弁体が前記第二開口部を閉じるように前記電熱ヒータに通電して前記ワックスペレットを加熱膨張させる電子制御ユニットと、で構成される
ことを特徴とする潤滑油の油温制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油の油温制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(以下、エンジンという)の内部には、エンジン内の各摺動部における摩擦を低減するために潤滑油を循環させている。この潤滑油は所定の高温状態になると、粘度の低下により潤滑作用が損なわれてしまう。そのため、潤滑油流路にはエンジン冷却水との熱交換により潤滑油温を低下させる熱交換器(オイルクーラ等)が設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、潤滑油流路にオイルクーラを備えたバイパス流路を設け、潤滑油温が目標温度よりも低いか等しい場合は、オイルクーラを経由せずに送油し、潤滑油温が目標温度よりも高い場合は、オイルクーラを経由するバイパス流路に送油することで高温状態の潤滑油を冷却する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−231119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の装置によれば、エンジンの暖機時など潤滑油温が低い時はオイルクーラに潤滑油を送油しない。そのため、暖機時における潤滑油温の昇温が遅れ、低油温に起因したエンジンの各摺動部における摩擦抵抗が大きくなることで、暖機中の燃費を悪化させてしまう可能性がある。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、その目的は、暖機中における潤滑油温の上昇を早めることで、燃費を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の潤滑油の油温制御装置は、内燃機関の摺動部を潤滑する潤滑油を貯留する潤滑油貯留部と、前記内燃機関に設けられ、前記潤滑油を流通させる潤滑油流路と、前記潤滑油貯留部から潤滑油を汲み上げて前記潤滑油流路に圧送供給する潤滑油供給手段と、前記潤滑油供給手段よりも下流側の潤滑油流路に設けられ、前記内燃機関の冷却水と潤滑油との熱交換を行う熱交換部と、前記潤滑油供給手段と前記熱交換部との間の潤滑油流路から分岐して、前記熱交換部よりも下流側の潤滑油流路と合流するバイパス流路と、前記潤滑油流路と前記バイパス流路との分岐部に設けられ、前記潤滑油の油温が所定の閾値以下の場合は前記潤滑油を前記バイパス流路に流通させるとともに、前記潤滑油の油温が所定の閾値よりも高い場合は前記潤滑油を前記熱交換部に流通させる流路切替手段とを備え、前記流路切替手段は、前記潤滑油の油温が所定の閾値以下であっても、前記内燃機関の暖気中は前記潤滑油を前記熱交換部に流通させることを特徴とする。
【0008】
また、前記流路切替手段は、前記内燃機関の暖気中において、電熱ヒータが通電されて加熱されると該電熱ヒータを内蔵するワックスペレットの膨張により前記バイパス流路を閉鎖する弁体を備えるものであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の潤滑油の油温制御装置によれば、暖機中における潤滑油温の上昇を早めることで、燃費を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る潤滑油の油温制御装置を示す模式的な全体構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る潤滑油の油温制御装置における切替バルブを示す模式的な部分断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る潤滑油の油温制御装置による制御内容を示すフローチャートである。
図4】他の実施形態に係る潤滑油の油温制御装置を示す模式的な全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1〜3に基づいて、本発明の一実施形態に係る潤滑油の油温制御装置について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0012】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る潤滑油の油温制御装置1は、オイルパン12と、潤滑油流路13と、オイルポンプ14と、オイルクーラ15と、バイパス流路16と、切替バルブ17と、冷却水温センサ18と、ECU(電子制御ユニット)30とを備える。なお、本実施形態において、オイルパン12は本発明の潤滑油貯留部に相当し、オイルポンプ14は本発明の潤滑油供給手段に相当する。また、オイルクーラ15は本発明の熱交換部に相当し、切替バルブ17とECU30とは、本発明の流路切替手段を構成する。
【0013】
オイルパン12には、エンジン10のシリンダヘッド10a内及びシリンダブロック10b内における各摺動部(不図示)を潤滑又は冷却する潤滑油が貯留されている。このオイルパン12に貯留されている潤滑油は、オイルポンプ14により汲み上げられて潤滑油流路13に圧送供給され、オイルクーラ15、オイルフィルタ19及び、各摺動部を流通した後に、再びオイルパン12に戻される。なお、シリンダヘッド10a内及びシリンダブロック10b内の各摺動部としては、例えば、ロッカーアーム、カムシャフト、ピストン、ピストンピン、クランクシャフトベアリング等がある。
【0014】
潤滑油流路13は、図1に示すようにエンジン10内に設けられている。また、潤滑油流路13には、上流側から順に、オイルポンプ14、オイルクーラ15及び、潤滑油を濾過するオイルフィルタ19が介装されている。
【0015】
オイルポンプ14は、エンジン10により駆動され、オイルパン12に貯留された潤滑油を汲み上げて潤滑油流路13へと圧送供給する。なお、本実施形態において、このオイルポンプ14は、エンジン10の動力で駆動する機械式のポンプであるが、例えば、図示しないバッテリの電力で駆動する電動式のポンプを適用することもできる。
【0016】
オイルクーラ15は、潤滑油流路13を流通する潤滑油とエンジン10の冷却水との熱交換を行うもので、図1に示すように、冷却水循環路40が接続されている。さらに、この冷却水循環路40には、図示しないサーモスタットが設けられている。そして、エンジン10の暖機時など冷却水温が低い時は、サーモスタットが閉じられることで、図示しないウォータポンプにより圧送供給される冷却水は、エンジン10内のウォータジャケット(不図示)を通過した後にラジエータ(不図示)を迂回して循環する。すなわち、エンジン10の暖機時には、ラジエータを迂回して早期に昇温される冷却水がオイルクーラ15内を流通するように構成されている。
【0017】
一方、エンジン10の暖機後など冷却水温が高いときは、サーモスタットが開かれることで、ウォータポンプにより圧送供給される冷却水は、ウォータジャケットを通過した後にラジエータを経由して循環する。すなわち、エンジン10の暖機後には、ラジエータを経由して外気との熱交換により冷却された冷却水がオイルクーラ15内を流通するように構成されている。
【0018】
バイパス流路16は、潤滑油をオイルクーラ15から迂回させるもので、図1に示すように、オイルポンプ14とオイルクーラ15との間の潤滑油流路13から分岐して、オイルクーラ15とオイルフィルタ19との間の潤滑油流路13に合流する。このバイパス流路16と潤滑油流路13との分岐部には、切替バルブ17が設けられている。
【0019】
切替バルブ17は、図2(a)〜(c)に示すように、有底筒状に形成されるとともに、筒側部にオイルクーラ15側の第一開口部21とバイパス流路16側の第二開口部24とを有する本体20と、本体20の筒内に摺動可能に挿入された筒状の弁体22と、一端を本体20の底部に取り付けられるとともに、他端を弁体22に取り付けられたスプリング25と、一端を弁体22に固定されたバルブピストン26と、低温時に凝固して体積が縮小するとともに高温時に溶融して体積が膨張する感温部材としてのワックスペレット27と、ワックスペレット27に内蔵された電熱ヒータ28とを有する。さらに、この電熱ヒータ28の通電ON・OFFはECU30によって制御されている。
【0020】
ワックスペレット27は、設定温度を例えば80〜90℃(所定の閾値)に設定されている。すなわち、オイルポンプ14によって潤滑油流路13に圧送供給される潤滑油の油温が設定温度80〜90℃を上回ると、ワックスペレット27の体積は溶融により膨張する。そして、ワックスペレット27の体積膨張により、弁体22がスプリング25の付勢力に抗して移動され、第二開口部24を閉鎖するとともに第一開口部21を開放することで、切替バルブ17は開状態に維持される(図2(a)参照)。このように、切替バルブ17が開状態に維持されると、オイルポンプ14により汲み上げられて圧送供給される潤滑油は、オイルクーラ15に流入する。
【0021】
一方、オイルポンプ14によって潤滑油流路13に圧送供給される潤滑油の油温が設定温度80〜90℃を下回ると、ワックスペレット27の体積は凝固により縮小する。そして、ワックスペレット27の体積縮小により、弁体22がスプリング25の付勢力により移動され、第二開口部24を開放するとともに第一開口部21を閉鎖することで、切替バルブ17は閉状態に維持される(図2(b)参照)。このように、切替バルブ17が閉状態に維持されると、オイルポンプ14により汲み上げられ圧送供給される潤滑油は、バイパス流路16に流入し、その後、オイルクーラ15よりも下流側の潤滑油流路13に戻されるように構成されている。
【0022】
さらに、ワックスペレット27の体積は、電熱ヒータ28の通電がONに制御されると溶融により膨張する。すなわち、切替バルブ17は、潤滑油温が設定温度80〜90℃を下回る場合であっても電熱ヒータ28の通電がONに制御されると、ワックスペレット27の体積膨張により開状態に維持されるように構成されている(図2(c)参照)。
【0023】
冷却水温センサ18は、冷却水循環路40内を流通する冷却水の温度を検出するもので、図1に示すように電気配線を介してECU30に接続されている。
【0024】
ECU30は、エンジン10の運転状態に応じて燃料噴射期間や燃料噴射量等の各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備え構成されている。この各種制御を行うために、ECU30には、エンジン回転センサ(不図示)、アクセル開度センサ(不図示)、冷却水温センサ18等の各種センサの出力信号がA/D変換された後に入力される。
【0025】
また、ECU30は、エンジン10の暖機時に切替バルブ17を冷却水温センサ18の検出値に基づいて制御する。具体的には、このECU30は、エンジン10の始動時から冷却水温センサ18の検出値が例えば40℃に達するまでに間は、切替バルブ17に電熱ヒータ28の通電をONにする制御信号を出力する。
【0026】
すなわち、切替バルブ17が開状態に維持されることで、オイルポンプ14により汲み上げられ圧送供給される潤滑油はオイルクーラ15に供給される。これにより、暖気時に低温状態の潤滑油は、オイルクーラ15で冷却水と熱交換されることで、昇温が促進されるように構成されている。
【0027】
本発明の一実施形態に係る潤滑油の油温制御装置1は、以上のように構成されているので、例えば図3に示すフローに従って以下のような制御が行われる。
【0028】
ステップ(以下、ステップを単にSと記載する)100では、図示しないイグニッションスイッチの操作によりキースイッチがONになる。すなわち、エンジン10が始動する。
【0029】
S110では、ECU30から切替バルブ17に電熱ヒータ28の通電をONにする制御信号が出力される。すなわち、切替バルブ17は開状態に制御され、オイルポンプ14により汲み上げられて圧送供給される潤滑油がオイルクーラ15に流入する。
【0030】
S120では、冷却水温センサ18の検出値に基づいて、冷却水温が40℃に達したか否かが確認される。冷却水温が40℃に達している場合は、S130へと進む。一方で、冷却水温が40℃に達していない場合は、S110へと戻される。すなわち、エンジン10の始動後から冷却水温が40℃まで達するまでの間は、切替バルブ17が開状態に維持される。
【0031】
S130では、電熱ヒータ28の通電がOFFに制御され、本制御はリターンされる。すなわち、その後の切替バルブ17の開閉状態は、ワックスペレット27の体積が潤滑油温に応じて膨張・縮小することで制御されるように構成されている。
【0032】
以上のような構成により、本発明の一実施形態に係る潤滑油の油温制御装置1によれば以下のような作用効果を奏する。
【0033】
エンジン10の暖気時に低温状態の潤滑油は、エンジン10の始動後から冷却水温が40℃に達するまでの間、切替バルブ17を開状態に制御することで、オイルクーラ15に供給される。そして、オイルクーラ15で、早期に水温が上昇する冷却水と熱交換されることで、低温状態の潤滑油は効率よく昇温される。
【0034】
したがって、暖気中における潤滑油の昇温が促進されるとともに、低油温に起因したエンジン10の各摺動部における摩擦抵抗を効果的に抑制することができる。
【0035】
また、暖気中におけるエンジン10の各摺動部の摩擦抵抗が抑制されることで、暖機中のエンジン10の燃費を効果的に向上することが可能となる。
【0036】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0037】
例えば、上述の実施形態において、オイルクーラ15は潤滑油流路13に設けられるものとして説明したが、図4に示すように、このオイルクーラ15をバイパス流路16に設けてもよい。この場合も上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0038】
また、暖機時における切替バルブ17の開閉状態を、冷却水温センサ18の検出値ではなく、オイルパン12等に設けられた潤滑油温センサ50の検出値に基づいて制御してもよい。
【0039】
また、切替バルブ17に、電磁作動型の三方弁など公知の制御弁を用いてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 潤滑油の油温制御装置
10 エンジン(内燃機関)
12 オイルパン(潤滑油貯留部)
13 潤滑油流路
14 オイルポンプ(潤滑油供給手段)
15 オイルクーラ(熱交換部)
16 バイパス流路
17 切替バルブ(流路切替手段)
22 弁体
27 ワックスペレット
28 電熱ヒータ
30 ECU(流路切替手段)
図1
図2
図3
図4