【実施例】
【0033】
以下に本発明の磁気記録媒体およびその製造方法を、実施例および比較例を参照して詳細に説明する。
[実施例1]
実施例1においては、非磁性基体、その上に順次設けられるCoZrNb軟磁性裏打ち層、NiCrMo/Ru中間層、三層構造のCoCrPt系グラニュラー磁気記録層(Ru交換結合制御層を含む)、C保護層、および液体潤滑層を有する垂直磁気記録媒体を作製した。
【0034】
まず、非磁性基体として表面が平滑な化学強化ガラス基体(HOYA社製N−10ガラス基体)を用い、これを洗浄後スパッタ装置内に導入し、CoZrNbターゲットを用いて膜厚50nmのCoZrNb非晶質軟磁性裏打ち層を形成した。次にNiCrMo層およびRu層からなる二層構造の中間層を形成した。具体的には、NiCrMoターゲットを用いて膜厚5nmのNiCrMo層を形成し、その上に、Ruターゲットを用いて膜厚20nmのRu層を形成した。
【0035】
次に、下磁気記録層として、第1表に記載のB
4C割合xと同じ割合のTiO
2でTiO
2およびCo
70Cr
10Pt
20を混合した(100−x)体積%(Co
70Cr
10Pt
20)−x体積%(TiO
2)ターゲット(x=10〜45)を用いて、膜厚6nmのCoCrPt−TiO
2層を形成した。その上に、交換結合制御層として膜厚0.1nmのRu層を形成した。さらに、上磁気記録層として、第1表に記載のB
4C割合xでCo
80Cr
15Pt
5およびB
4Cを混合した(100−x)体積%(Co
80Cr
15Pt
5)−x体積%B
4Cターゲット(x=10〜45)を用いて、膜厚10nmのCoCrPt−B
4C層を形成し、三層構造の磁気記録層を得た。
【0036】
第1表 実施例1の結果
【0037】
最後にカーボンターゲットを用いてCからなる膜厚2nmの保護層を形成後、真空装置から取り出した。
【0038】
全ての層の形成は、Arガス雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法により行った。
【0039】
その後、パーフルオロポリエーテルからなる膜厚2nmの液体潤滑層をディップ法により形成し、垂直磁気記録媒体とした。
【0040】
[比較例2]
比較例2においては、磁気記録層の構成を以下の手順で行ったことを除いて、実施例1と同一の手順により磁気記録媒体を作製した。
具体的には、下磁気記録層として、第2表に記載のSiO
2割合yと同じ割合のTiO
2でCo
70Cr
10Pt
20およびTiO
2を混合した(100−y)体積%(Co
70Cr
10Pt
20)−y体積%(TiO
2)ターゲット(y=10〜50)を用いて、膜厚6nmのCoCrPt−TiO
2層を形成した。その上に、交換結合制御層として膜厚0.1nmのRu層を形成した。さらに、上磁気記録層として、第2表に記載のSiO
2割合yでCo
80Cr
15Pt
5およびSiO
2を混合した(100−y)体積%(Co
80Cr
15Pt
5)−y体積%SiO
2ターゲット(y=10〜50)を用いて、膜厚10nmのCoCrPt−SiO
2層を形成した。
【0041】
第2表 比較例2の結果
【0042】
[実施例3]
実施例3においては、非磁性基体、その上に順次設けられるCoZrNb軟磁性裏打ち層、NiCrMo/MgO中間層、規則化合金系FePtグラニュラー磁気記録層、C保護層、および液体潤滑層を有する垂直磁気記録媒体を作製した。
【0043】
まず、非磁性基体として表面が平滑な化学強化ガラス基体(HOYA社製N−10ガラス基体)を用い、これを洗浄後スパッタ装置内に導入し、CoZrNbターゲットを用いて膜厚50nmのCoZrNb非晶質軟磁性裏打ち層を形成した。次にNiCrMo層およびMgO層からなる二層構造の中間層を形成した。具体的には、NiCrMoターゲットを用いて膜厚5nmのNiCrMo層を形成し、その上に、MgOターゲットを用いて膜厚20nmのMgO層を形成した。
【0044】
次に、磁気記録層として、第3表に記載のC割合zでFe
50Pt
50およびCを混合した(100−z)体積%(Fe
50Pt
50)−z体積%Cターゲット(z=10〜40)を用いて、膜厚10nmのFe
50Pt
50−C層を得た。
【0045】
第3表 実施例3の結果
【0046】
最後にカーボンターゲットを用いてCからなる膜厚2nmの保護層を形成後、真空装置から取り出した。
【0047】
MgO層を除く層の形成は、Arガス雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法により行った。MgO層の形成は、Arガス雰囲気中でRFスパッタリング法により行った。
【0048】
その後、パーフルオロポリエーテルからなる膜厚2nmの液体潤滑層をディップ法により形成し、垂直磁気記録媒体とした。
【0049】
以下、実施例1、3および比較例2の評価結果について説明する。断面TEM観察により、表面粗さの状態を観察した。各サンプルの適当な位置の100nm幅の領域を断面TEMにより観察し、磁気記録媒体表面の凹凸(粗さ)を確認しながら、JISB0601に従って、算術平均粗さRaおよび粗さ曲線要素の平均長さRSmを測定した。また、半導体レーザーが発生する波長785nmの光を導くための光導波路、および近接場光を発生させるための散乱体を備えた磁気記録ヘッドを用いて、電磁変換特性を測定した。記録時には半導体レーザーを100mWで発生させ、近接場光でのエネルギーがクロストラック方向に80nm程度の幅で入射できるようにした。ヘッドライトポールのクロストラック方向の幅は、200nmであり、最大ヘッド磁場は5kOe(398A/mm)出力とした。また、記録再生時には2.5インチ磁気記録媒体を5400rpmで回転させ、磁気記録媒体の基板の中周部分での記録再生を行った。SNR特性および書込みトラック幅を測定した。書込みトラック幅は、トラックプロファイルの半値幅とした。
【0050】
図4は、実施例1において、上磁気記録層を80体積%(Co
80Cr
15Pt
5)−20体積%B
4Cターゲット(第1表のx=20)で形成したサンプルのTEM観察結果を示す。Ru中間層表面ではほとんど凹凸が見られず、CoCrPt−B
4C層表面で凹凸が大きくなっていることがわかる。なお、実施例1の各サンプルを観察した結果、実施例1のxが15以上の断面構造で、磁気記録層より下層では表面の凹凸はほとんど見られないものの、磁気記録層以上の層で表面の凹凸が見られた。
【0051】
図5は、比較例2において、上磁気記録層を80体積%(Co
80Cr
15Pt
5)−20体積%SiO
2ターゲット(第2表のy=20)で形成したサンプルのTEM観察結果を示す。CoCrPt−SiO
2層表面の凹凸はほとんどないことがわかる。
【0052】
実施例1、比較例2、および実施例3で作製したサンプルにおける算術平均粗さRa、粗さ曲線要素の平均長さRSm、Ra/RSm、SNR特性、および書込みトラック幅の結果を、それぞれ第1表、第2表および第3表にまとめて示す。なお、高記録密度で良好な信号特性を得る目的から、SNR10dB以上、かつ、書込みトラック幅90nm以下を良品として判定した。
【0053】
この結果、グラニュラー構造中の非磁性部(SiO
2、C、B
4C)を増加させると、Raが大きくなることがわかる。さらに、その傾向は、グラニュラー構造中の非磁性部の材質で異なり、SiO
2に比べて、CおよびB
4Cの方が顕著であることがわかる。すなわち、グラニュラー構造中のC、B
4Cなどの炭素系材料の割合を増加させると、Raが顕著に大きくなることがわかる。これはSiO
2、TiO
2などの酸化物に比べ、C、B
4Cなどの炭素系材料のほうが、粒内成分であるCoCrPtまたはFePtとの表面エネルギー差が大きいことに寄与していると考えられる。
【0054】
Ra/RSmが0.05より小さいときには、書込みトラック幅が広がってしまうことがわかる。これは、表面からの熱拡散が小さいために、うまく放熱できなくなるためと想定される。
【0055】
比較例2においては、非磁性部の増加とともにSNRは低下し、非磁性部が50体積%以上では、SNRが10dBより小さくなる。これは、信号強度に寄与する磁性材の体積比率が低下したことによると考えられる。
【0056】
さらに、実施例1、3のように、Ra/RSmが0.15より大きくなると、SNR評価においてヘッド表面へのヒットノイズが多く観察された。これは、表面粗さのためにヘッド浮上性が不安定になり、SNRが劣化したためと考えられる。
【0057】
以上より、グラニュラー構造を有する磁気記録層における非磁性部の割合が15体積%以上30体積%以下の範囲において、表面のRa/RSmが0.05以上0.15以下であると、熱アシスト記録装置に適した磁気記録媒体とすることができることがわかる。
【0058】
また、グラニュラー磁気記録層表面のRa/RSmを0.05以上0.15以下とするためには、非磁性部を炭素系材料とすればよいことがわかる。