(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回転方向変換装置が、互いに平行に配置された入力側、出力側両回転軸と、これら両回転軸同士の間に設けられた、第一、第二両歯車伝達機構と、これら両歯車伝達機構毎に設けられた第一、第二両クラッチとから成り、これら両歯車伝達機構のうちの一方の歯車伝達機構を構成する歯車の数が偶数であり、他方の歯車伝達機構を構成する歯車の数が奇数である、請求項1に記載した変速機能及び回転方向変換機能を備えた駆動装置。
【背景技術】
【0002】
自動車用の変速装置として使用可能なトロイダル型無段変速機が、多くの刊行物に記載されて従来から広く知られている。トロイダル型無段変速機は、相対回転を可能にして互いに同心に配置された1対のディスクの軸方向側面であって互いに対向したトロイド曲面に、複数個のパワーローラの外周面を転がり接触させて成る。又、これら各パワーローラを回転自在に支持した支持部材は、軸方向に関して前記両ディスク同士の間部分に、これら両ディスクの中心軸に対し捩れの位置に存在する傾転軸を中心とする揺動変位を可能に支持されている。この様なトロイダル型無段変速機の運転時に、一方のディスクの回転は、当該ディスクの軸方向側面から前記各パワーローラを介して他方のディスクに伝わる。これら両ディスク同士の間の変速比を変更する場合には、前記各パワーローラの回転中心軸の傾斜角度を変化させて、これら各パワーローラの周面と前記両ディスクの軸方向側面との転がり接触部(トラクション部)の、これら両ディスクの径方向位置を変える。
【0003】
上述の様なトロイダル型無段変速機の変速比調節は、トロイダル型無段変速機の技術分野で周知の様に、前記各パワーローラを回転自在に支持している各支持部材を、前記傾転軸の軸方向に変位させる事により行う。この変位に伴って、前記各トラクション部に接線方向に加わる力の向きが変化し、前記各支持部材を前記各傾転軸を中心に揺動変位させる方向の力が発生し、変速動作が行われる。この様な変速動作を安定させて行う為に、前記各傾転軸の方向を前記各ディスクの中心軸に対し直角な方向に対し少し傾斜させ、これら各傾転軸にキャスタ角を付与する事が知られている。例えば、特許文献1、2には、各トラクション部が傾転軸の中心を通る仮想中心軸を挟んで180度反対側に存在するフルトロイダル型のトロイダル型無段変速機で、各支持部材の傾転軸にキャスタ角を付与した構造が記載されている。又、特許文献3には、各トラクション部が傾転軸の中心に対して偏った位置に存在するハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機で、各支持部材の傾転軸にキャスタ角を付与した構造が記載されている。
【0004】
この様な特許文献3に記載された構造に就いて、
図3〜11により説明する。このトロイダル型無段変速機は、入力回転軸1の両端部に1対の入力ディスク2a、2bを、それぞれがトロイド曲面である入力側側面3、3を互いに対向させた状態で、互いに同心に設けている。そして、前記両入力ディスク2a、2bを互いに同期した回転を自在とすると共に、油圧式の押圧装置4により、一方の入力ディスク2aに向け他方の入力ディスク2bを押圧自在としている。更に、この一方の入力ディスク2aの外側面に入力歯車5を、この入力ディスク2aと同心に設けている。又、前記入力回転軸1の中間部周囲に一体型の出力ディスク6を、この入力回転軸1に対する相対回転を可能に設けている。この出力ディスク6は、軸方向両側面を、それぞれがトロイド曲面である出力側側面7、7とし、外周縁部に出力歯車8を設けている。
【0005】
前記両入力ディスク2a、2bの入力側側面3、3と、前記出力ディスク6の出力側側面7、7との間部分(1対のキャビティ部分)に、それぞれ
図5〜8に示す様なパワーローラユニット9、9を、各キャビティ毎に複数個ずつ(図示の例では3個ずつ、合計6個)配置している。これら各パワーローラユニット9、9は、それぞれ、特許請求の範囲に記載した支持部材であるトラニオン10と、揺動ブロック11と、スラスト転がり軸受12と、パワーローラ13とを備える。このうちのトラニオン10は、両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸14、14と、これら両傾転軸14、14同士の間に存在し、これら両傾転軸14、14に対し前記各ディスク2a、2b、6の径方向外側に偏心した支持梁部15とを備える。この支持梁部15の内側面は、円筒状凸面16としており、この円筒状凸面16の中心軸イは、
図7に示す様に、前記両傾転軸14、14の中心軸ロと平行で、この傾転軸14、14の中心軸ロよりも、前記各ディスク2a、2b、6の径方向に関して外側に存在する。
【0006】
又、前記揺動ブロック11の外側面に、部分円筒面状の凹部17を、この外側面を径方向に横切る状態で設けている。そして、この凹部17と、前記支持梁部15の円筒状凸面16とを係合させて、前記トラニオン10に対し前記揺動ブロック11を、前記入力側、出力側各ディスク2a、2b、6の軸方向に関する揺動変位を可能に支持している。
【0007】
前記パワーローラ13は前記揺動ブロック11の内側面に、前記スラスト転がり軸受12により、回転自在に支持している。又、このスラスト転がり軸受12を構成する外輪18は前記揺動ブロック11の内側面に、傾斜軸19を中心とする揺動変位を自在に支持している。従って、前記パワーローラ13は前記揺動ブロック11の内側面に、揺動及び回転自在に支持されている。又、前記外輪18の内側面中央部に突設した支持軸20の周囲に前記パワーローラ13を、ラジアルニードル軸受21により回転自在に支持している。
【0008】
前記傾斜軸19は、前記外輪18の外側面に形成した凹部22に嵌合固定した状態で前記外輪18の外側面に、この外輪18の径方向に、且つ、前記両傾転軸14、14の中心軸ロに対し傾斜した状態で配置している。又、前記傾斜軸19は、その内半部をこの凹部22に内嵌した状態でその軸方向中間部を、この凹部22と、前記外輪18の外側面中央部に形成したアーチ状の抑え部23との間に嵌合する事で、前記外輪18の外側面に支持固定している。この様にして、この傾斜軸19を前記外輪18に結合固定した状態で、この傾斜軸19の中心軸ハは、前記両傾転軸14、14の中心軸ロに対し、所定角度θだけ傾斜する。尚、これら両傾転軸14、14の中心軸ロと前記傾斜軸19の中心軸ハとは、同一の仮想平面上に位置する(これら両中心軸ロ、ハが互いに交差する)。
【0009】
前記揺動ブロック11の内側面と前記外輪18の外側面との間隔は、
図9〜10から明らかな通り、何れの部分でも、前記傾斜軸19から離れる程広くなる。又、この傾斜軸19の軸方向両端部と、前記揺動ブロック11の内側面でこの傾斜軸19の軸方向両端部に対向する部分に形成した断面半円弧状の凹部61、61とを、ラジアルニードル軸受24、24を介して係合させている。この構成により前記外輪18を前記
揺動ブロック11に対し、前記傾斜軸19を中心として、軽い力での揺動変位を可能に支持している。図示の従来構造の場合には、この様な構成で、前記傾斜軸19に対し前記外輪18を揺動変位し易くしている。
【0010】
それぞれが以上に述べた様に構成する、複数組(図示の例では6組)の前記パワーローラユニット9、9は、支持フレーム25に、それぞれの両端部に設けた前記傾転軸14、14を中心とする揺動変位のみ自在に支持している。前記各パワーローラユニット9、9は、前記支持フレーム25に揺動変位のみ自在に支持した状態で、同期手段26により前記各トラニオン10、10の揺動角度を機械的に同期させつつ、変位駆動手段27により所望角度揺動変位させられる様に構成している。
【0011】
前記同期手段26を構成する為、前記各トラニオン10、10の端部に設けた前記各傾転軸14、14に、それぞれセクター歯車28、28を固定している。そして、前記各ディスク2a、2b、6の回転方向に関して互いに隣り合うトラニオン10、10の端部の各傾転軸14、14に設けたセクター歯車28、28同士を、互いに噛合させている。従って同一キャビティ内に存在する3個ずつのトラニオン10、10は、互いに同方向に、同じ角度ずつ揺動変位する。
【0012】
一方、前記変位駆動手段27は、互いに異なるキャビティ内に存在する3個ずつのトラニオン10、10のうち、前記各ディスク2a、2b、6の回転方向に関する位相が互いに一致する部分に存在する1個ずつ、合計2個のトラニオン10、10を、逆方向(変速比の変化方向に関して互いに同方向)に、同じ角度ずつ、互いに同期して揺動変位させる様に構成している。この為に、前記各ディスク2a、2b、6の側方に送りねじ杆29を、これら各ディスク2a、2b、6の中心軸と平行に、回転のみ自在に支持している。この送りねじ杆29は、軸方向片半部に順方向のねじを、軸方向他半部に逆方向のねじを、互いに同じピッチで、それぞれ設けたもので、所望の方向に所望角度(360度以上を含む)だけ、回転駆動自在としている。
【0013】
又、前記送りねじ杆29の軸方向片半部に形成した順方向のねじに第一の送りナット30を、軸方向他半部に形成した逆方向のねじに第二の送りナット31を、それぞれ螺合している。そして、これら両送りナット30、31に形成した係止切り欠き32、32と、前記両セクター歯車28、28の基部に支持固定した係止ピン33、33の両端部とを、それぞれ係合させている。そして、前記送りねじ杆29の軸方向に関する、前記第一、第二両送りナット30、31の動きを、それぞれのトラニオン10、10に伝達可能としている。
【0014】
上述の様に構成するトロイダル型無段変速機の変速比を変更する際には、前記変位駆動手段27により、互いに異なるキャビティに設置した前記2個のトラニオン10、10を逆方向(変速比の変化方向に関して互いに同方向)に、同じ角度ずつ、互いに同期して揺動変位させる。具体的には、正転、逆転自在な電動モータ等の回転駆動手段により前記送りねじ杆29を所望方向に所望角度だけ回転させれば、前記第一、第二両送りナット30、31が互いに逆方向に移動(遠近動)し、前記両トラニオン10、10を、それぞれの両端部に設けた傾転軸14、14を中心として揺動変位させる。同時に、前記同期手段26により、前記両キャビティ毎に残り2個ずつ、合計残り4個のトラニオン10、10も、これら両キャビティ同士の間で逆方向(変速比の変化方向に関して互いに同方向)に、同じ角度ずつ、互いに同期して揺動変位させる。この様にして、合計6個のトラニオン10、10の傾斜角度を、目標とする変速比に見合う角度とする。
【0015】
この様にして行なう変速動作の開始時に、前記6個のトラニオン10、10の傾斜角度は、直ちに目標とする変速比に見合う角度に変更される。同時に、前記各揺動ブロック11の傾斜角度も、前記各トラニオン10、10と同期して、前記目標とする変速比に見合う角度に変更される。即ち、トロイダル型無段変速機の運転時に、前記各トラニオン10、10の支持梁部15の円筒状凸面16と、前記各揺動ブロック11の凹部17の軸方向両端部とは、前記各ディスク2a、2b、6の側面3、7と前記各パワーローラ13、13の周面との転がり接触部(トラクション部)から加わるスラスト荷重により、強く(大きな当接圧で)当接している。この為、前記変速動作時に前記各揺動ブロック11は、前記各トラニオン10、10に釣られて、これら各トラニオン10、10と同じ角度だけ揺動変位する。
【0016】
これに対して、前記ラジアルニードル軸受24、24及び前記傾斜軸19を介して前記揺動ブロック11に対し支持された前記外輪18は、軽い力で、この揺動ブロック11に対し揺動する。又、この外輪18を含む前記スラスト転がり軸受12及び前記ラジアルニードル軸受21により回転自在に支持された前記各パワーローラ13、13の傾斜角度は、前記各トラクション部に作用する抵抗により、直ちに変化する事はない。この為、前記外輪18を含むスラスト転がり軸受12及び前記各パワーローラ13、13は、前記傾斜軸19を中心として、前記各揺動ブロック11に対し傾斜する。そして、この傾斜に伴って、これら各パワーローラ13、13が、前記各傾転軸14、14の方向に変位する。この変位の結果、前記トラクション部にサイドスリップが発生して、前記各パワーローラ13、13が、前記外輪18を含むスラスト転がり軸受12と共に、目標とする変速比に見合う角度に向けて揺動変位する。
【0017】
この際の各部の挙動は、次の通りである。変速動作を行なう際には、先ずトラニオン10及び揺動ブロック11を、その両端部に設けた傾転軸14、14を中心として、
図11の矢印α方向に、所望角度(変化させるべき変速比の大きさに見合う角度)だけ揺動変位させる。上述した様に、この様なトラニオン10及び揺動ブロック11の揺動変位の直後には、前記外輪18及びパワーローラ13は揺動変位せずにそのままの位置に留まる傾向になる。この為、このパワーローラ13は前記揺動ブロック11に対し、傾斜軸19を中心として、
図11の矢印β方向に揺動変位する。尚、実際には、パワーローラ13が揺動変位せずに、前記揺動ブロック11がこのパワーローラ13に対し揺動変位する。
【0018】
そして、前記パワーローラ13が前記矢印β方向に揺動変位する結果、このパワーローラ13の中心が、各ディスク2a(2b)、6の回転方向に関して変位する。即ち、前記矢印β方向の揺動変位に伴って前記パワーローラ13の中心が、
図11に矢印γで示す様に変位する。この矢印γの方向は、前記傾斜軸19の中心軸に対し直角方向であり、前記各ディスク2a(2b)、6の中心軸の方向に対し傾斜している。従って、前記
図11の矢印γ方向の変位に伴って前記パワーローラ13の中心が、前記各ディスク2a(2b)、6の回転方向に関して(例えば
図11のδ分)変位する。
【0019】
この結果、トロイダル型無段変速機の技術分野で広く知られている様に、前記各パワーローラ13の周面と前記各ディスク2a、2b、6の軸方向片側面3、7との接触部(トラクション部)の接線方向に作用する力の方向が変化し(サイドスリップが発生し)、前記各パワーローラ13が前記各傾斜軸19を中心として揺動変位する。この様なサイドスリップに基づく揺動変位の方向は、変速動作の開始時に於ける前記矢印β、γ方向の変位を打ち消す方向(変速動作の開始時に於ける矢印β、γ方向とは逆方向で同じ変位量)になる。そして、この様な前記傾斜軸19を中心とする、前記パワーローラ13の変速動作の開始時に於ける矢印β、γ方向とは逆方向の揺動変位は、このパワーローラ13の傾斜角度が、前記目標とする変速比に見合う角度になるまで行なわれてから停止する。この様に、このパワーローラ13及びスラスト転がり軸受12の揺動が停止した状態で、このパワーローラ13と前記トラニオン10との位置関係が、変速動作開始以前と同じ、中立状態となる。
【0020】
要するに、変速動作を行なう際には、先ず、前記変位駆動手段27及び前記同期手段26により、前記両キャビティ毎に3個ずつ、合計6個のトラニオン10、10の傾斜角度を、目標とする変速比に見合う角度に変化させる。この状態で、これら各トラニオン10、10に支承した各パワーローラ13、13が、これら各トラニオン10、10に対し揺動しつつ各ディスク2a、2b、6の回転方向に変位し、各トラクション部にサイドスリップを発生させる。そして、このサイドスリップにより、前記各パワーローラ13、13が、前記各トラニオン10、10の揺動変位を追う様にして揺動変位し、これら各パワーローラ13、13の傾斜角度が、目標とする変速比に見合う角度になる。
【0021】
上述の様に本例のトロイダル型無段変速機は、前記各トラニオン10、10の傾斜角度を目標とする変速比に見合う角度にする事で、変速動作を開始させるが、これら各トラニオン10、10の傾斜角度を変える動作は、変速比変更の為のきっかけに過ぎない。前記変速動作の開始に伴って前記各パワーローラ13、13を、トラクション部に作用する力の大きさ及び方向とは関係なく、傾斜させる事はない。従って、前記両キャビティ毎に1個ずつ、合計2個のトラニオン10、10を傾斜させる為の変位駆動手段27を構成する回転駆動手段の出力は小さくて済み、この変位駆動手段27を含むトロイダル型無段変速機の小型・軽量化を図れる。又、この変位駆動手段27により前記2個のトラニオン10、10を介して全部で6個の揺動変位させる為に要するエネルギが少なくて済む為、トロイダル型無段変速機のシステム全体として考えた場合の伝達効率を向上させる事ができる。特に、前記回転駆動手段を電動モータとすれば、変速比変更の為のエネルギによる損失を僅少に抑えられる。
【0022】
更に、トロイダル型無段変速機の運転時には、前記各ディスク2a、2b、6及び前記各パワーローラ13、13等が弾性変形するが、前記トロイダル型無段変速機が伝達するトルクの大きさが変動すると、この弾性変形の量も変化する。従って、前記各トラクション部の面圧を適正に維持する為には、前記トルクの変動に伴って、前記各パワーローラ13、13を前記各ディスク2a、2b、6の軸方向に変位させる必要がある。この様な理由で、前記各パワーローラ13、13を前記各ディスク2a、2b、6の軸方向に変位させる必要が生じると、これら各パワーローラ13、13を回転自在に支持している前記揺動ブロック11が、外側面に設けた部分円筒面状の凹部17と前記支持梁部15の円筒状凸面16との当接面を滑らせつつ、この円筒状凸面16の中心軸イを中心として揺動変位する。そして、この揺動変位に基づき、前記各パワーローラ13、13の周面のうちで、前記各ディスク2a、2b、6の軸方向片側面と転がり接触する部分が、これら各ディスク2a、2b、6の軸方向に変位し、前記接触状態を適正に維持する。
【0023】
図3〜11に示した従来構造の場合、前記各パワーローラ13、13の揺動中心軸の方向を、前記各ディスク2a、2b、6の中心軸の方向に対し直角な方向に対し傾斜させる、所謂キャスタ角を持たせている。この為、変速動作を安定させられる他、変速比変更の為に要するエネルギを少なく抑えて、小型軽量化を図り易い等の利点がある。但し、前記各パワーローラ13、13にキャスタ角を持たせた場合、前記各ディスク2a、2b、6の回転方向が一定でなければならない。
図11で、各ディスク2a(2b)、6が太矢印とは逆方向に回転すると、これら各ディスク2a(2b)、6と各パワーローラ13との転がり接触部である各トラクション部で有害なサイドスリップが発生し、その結果、意図しない変速動作が開始されたり、これら各トラクション部での発熱が著しくなる。
【0024】
各ディスク2a(2b)、6が逆方向に回転した場合にも、この様な不都合が発生しない様にする為には、逆回転時に前記各パワーローラ13、13の揺動変位を規制する為のストッパ機構が必要になる。但し、その場合でも、逆回転時に所望の変速動作を行わせる事は困難である。又、逆回転時に変速比固定の状態で使用する事を考慮したとしても、ストッパ機構の構造が複雑になり、コスト並びに重量が嵩む事が避けられない。
【0025】
特許文献4等には、トロイダル型無段変速機を挟んで原動機と反対側に遊星歯車機構を組み込んだ無段変速装置が記載されている。この無段変速装置の場合、低速用クラッチを接続すると共に高速用クラッチの接続を断った、所謂低速モードの状態で、無段変速装置の入力軸を一方向に回転させたまま、出力軸の回転方向を、停止状態を挟んで両方向に変換できる。但し、前記特許文献4等に記載された無段変速装置では、トロイダル型無段変速機として、各パワーローラの揺動中心軸にキャスタ角を持たせたものを使用する事を考慮してはいない。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[実施の形態の第1例]
図1は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の変速機能及び回転方向変換機能を備えた駆動装置は、原動機であるエンジン34と、トロイダル型無段変速機35と、回転方向変換装置36とを備える。このうちのエンジン34は、出力軸であるクランク軸37を一方向にのみ回転させ、このクランク軸37の回転方向の変換を行わない。
【0032】
又、前記トロイダル型無段変速機35は、前述の
図3〜11に示した従来構造と同様のもので、変速機入力部である入力回転軸38を備える。そして、この入力回転軸38と前記クランク軸37とを、発進クラッチであるトルクコンバータ39により接続している。又、前記入力回転軸38の両端部に1対の入力ディスク2a、2bを、互いに同期した回転を自在に支持すると共に、押圧装置4(
図3〜4参照)によりこれら両入力ディスク2a、2bを、互いに近付く方向に押圧する様にしている。又、これら両入力ディスク2a、2bに挟まれた、前記入力回転軸38の中間部周囲部分に、一体型の出力ディスク6を、この入力回転軸38に対する相対回転を可能に支持している。更に、この出力ディスク6の外周縁部分に出力歯車8を、この出力ディスク6と同心に設けて、変速機出力部としている。
【0033】
又、それぞれが断面円弧形のトロイド曲面である、前記両入力ディスク2a、2bの軸方向片側面と前記出力ディスク6の軸方向両側面との間のキャビティ部分に、それぞれ複数個ずつのパワーローラ13、13を設置している。本例の場合、前記トロイダル型無段変速機35はハーフトロイダル型であって、それぞれが支持部材である、各トラニオン10、10の両端部に互いに同心に設けられた各傾転軸14、14(
図7〜8参照)を、前記各ディスク2a、2b、6の中心軸の方向に対し直角方向(但し捩れの位置)に配置している。そして、前記各トラニオン10、10の端部にそれぞれ固設した、複数のセクター歯車28、28から成る同期手段26(
図3参照)により、前記各トラニオン10、10の揺動角度を機械的に同期させる様にしている。又、送りねじ杆29、第一、第二の送りナット30、31(
図3参照)等を備えた変位駆動手段27(
図3参照)により、前記両キャビティ毎に複数個ずつ設置した前記各トラニオン10、10のうち、これら両キャビティ毎に1個ずつのトラニオン10、10を、それぞれの両端部に設けた前記傾転軸14、14を中心として揺動変位させる様にしている。更に、前記各パワーローラ13、13を前記各トラニオン10、10に対し、前記各傾転軸14、14の方向に対し傾斜した方向に配設された傾斜軸19、19を中心とする揺動変位を可能に、且つ、支持軸20、20(
図4、6〜9)を中心とする回転を自在に支持している。そして、それぞれが部分球面状の凸面である、前記各パワーローラ13、13の周面を、前記各ディスク2a、2b、6の軸方向側面に、それぞれ転がり接触させている。
【0034】
又、前記回転方向変換装置36は、それぞれが変換装置入力部である、変換装置用第一、第二両入力歯車40、41と、変換装置出力部である変換装置用出力歯車62と、遊星歯車機構42と、高速用、低速用両クラッチ43、44とを備える。そして、このうちの高速用クラッチ43の接続を断ち、低速用クラッチ44を接続した状態で、前記変換装置用第一、第二両入力歯車40、41を一方向に回転させた状態のまま、変換装置用出力歯車62の回転方向を、停止状態を挟んで逆転させられる様にしている。
【0035】
前記回転方向変換装置36を構成する遊星歯車機構42は、前記トロイダル型無段変速機35の入力回転軸38と平行に配設された中間回転軸45の中間部周囲に設置したもので、太陽歯車46と、リング歯車47と、複数個の遊星歯車48、48とを備える。このうちの太陽歯車46は、前記中間回転軸45の中間部周囲に、この中間回転軸45に対する相対回転を可能に設けている。又、前記リング歯車47は、前記太陽歯車46の周囲に、この太陽歯車46と同心に、この太陽歯車46に対する相対回転を可能に配置している。又、前記各遊星歯車48、48は、これら太陽、リング両歯車46、47と同心に配置されたキャリア49に回転自在に支持された状態で、それぞれがこれら太陽、リング両歯車46、47と噛合している。
【0036】
前記太陽歯車46は前記変換装置用第一入力歯車40と同心に結合されて、この変換装置用第一入力歯車40と同期して(同方向に同一角速度で)回転する。又、これら両歯車46、40と前記中間回転軸45との間に、前記高速用クラッチ43を設けている。この高速用クラッチ43を接続した状態で、前記トロイダル型無段変速機35の出力歯車8の回転が、前記中間回転軸45に伝達される。
【0037】
又、前記変換装置用第二入力歯車41と前記トロイダル型無段変速機35の入力回転軸38との間に、駆動歯車50と中間歯車51とを備えた歯車伝達機構を設け、前記変換装置用第二入力歯車41を、前記入力回転軸38と同方向に回転駆動自在としている。更に、この変換装置用第二入力歯車41と前記キャリア49との間に、前記低速用クラッチ44を設けている。この低速用クラッチ44を接続した状態で、前記キャリア49が前記入力回転軸38と同方向に、前記駆動歯車50と前記変換装置用第二入力歯車41との歯数に応じた角速度で回転する。尚、前記高速用クラッチ43と前記低速用クラッチ44とは、後述する、高速モードと低速モードとの切り換え時にのみ同時に接続され、それ以外の状態では、何れか一方のクラッチのみが接続される。
【0038】
更に、前記リング歯車47は、前記中間回転軸45に対し結合固定して、このリング歯車47の回転をこの中間回転軸45に、そのまま伝達する様にしている。そして、この中間伝達軸45の回転を、出力側歯車列52を介してデファレンシャルギヤ53に伝達し、左右1対のアクスル軸54、54を回転駆動する様にしている。
【0039】
上述の様な本例の構造の場合、前記低速用クラッチ44を接続して前記高速用クラッチ43の接続を断った、低速モードの状態で、前記中間回転軸45の回転方向を、停止状態を挟んで両方向に変換できる。即ち、前記低速モード時には、前記遊星歯車機構42の構成各部のうちの太陽歯車46が、前記トロイダル型無段変速機35の出力ディスク6の回転速度と比例した回転速度で回転する。又、前記各遊星歯車48、48が、前記入力回転軸38の回転速度に比例した速度で公転運動する。そして、この公転運動の速度と、前記太陽歯車46の回転速度との差分の回転運動が、前記リング歯車47から前記中間回転軸45に取り出される。
【0040】
前記各遊星歯車48、48の公転速度が一定であると仮定した場合、前記太陽歯車46の回転速度は、前記トロイダル型無段変速機35の変速比を調節する事により変える事ができる。そして、前記太陽歯車46の回転速度の変化に伴って、前記リング歯車47から前記中間回転軸45に取り出される、前記差分が変化する。従って、各歯車8、40、41、46、48、50の歯数比を、前記トロイダル型無段変速機35の変速比の変動幅との関係で適切に規制すれば、前記入力回転軸38を一方向に回転させた状態のまま、前記中間回転軸45の回転方向を、停止状態を挟んで両方向に変換できる。この中間回転軸45の回転方向に関係なく、前記トロイダル型無段変速機35を構成する前記各ディスク2a、2b、6の回転方向は一定である。従って、前記各パワーローラ13、13の揺動中心となる、前記傾斜軸19、19に付与されたキャスタ角の存在に拘らず、前記トロイダル型無段変速機35の変速動作は、安定して行われる。
【0041】
尚、前記低速用クラッチ44の接続を断って前記高速用クラッチ43を接続した、高速モードの状態では、前記トロイダル型無段変速機35の出力歯車8の回転が、前記中間回転軸45に伝達される。この状態では、このトロイダル型無段変速機35の変速比を変える事により、前記入力回転軸38の回転速度と前記中間回転軸45の回転速度との比を変える事はできるが、この中間回転軸45の回転方向を変換する事はできない。前記高速モード状態は、車両を前方に比較的高速で前進させるモードであるから、前記中間回転軸45の回転方向を変換できない事は、全く問題とはならない。
【0042】
[実施の形態の第2例]
図2は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、回転方向変換装置36aを、入力側、出力側両回転軸55、56と、第一、第二両歯車伝達機構57、58と、第一、第二両クラッチ59、60とから構成している。このうちの入力側、出力側両回転軸55、56は、互いに平行に配置された状態で、相対回転を可能としている。又、前記第一、第二両歯車伝達機構57、58は、前記入力側、出力側両回転軸55、56同士の間に設けられたもので、構成する歯車の数を互いに異ならせている。具体的には、自動車が前進する際に動力を伝達する第一歯車伝達機構57を構成する歯車の数を3個(奇数)とし、後退する際に動力を伝達する第二歯車伝達機構58を構成する歯車の数を2個(偶数)としている。更に、前記第一、第二両クラッチ59、60は、前記第一、第二両歯車伝達機構57、58毎に、前記入力側回転軸55との間に設けている。
【0043】
上述の様に構成する本例の構造によれば、前記第一クラッチ59を接続して前記第二クラッチ60の接続を断ち、前記出力側回転軸56を前記入力側回転軸55と同じ方向に回転させる状態で、車両を前進させる事ができる。これに対して、前記第一クラッチ59の接続を断ち、前記第二クラッチ60を接続し、前記出力側回転軸56を前記入力側回転軸55と逆方向に回転させる状態で、車両を後退させる事ができる。何れの状態でも、トロイダル型無段変速機35を構成する前記各ディスク2a、2b、6の回転方向は一定であるから、傾斜軸19、19(
図4、7〜11参照)に付与されたキャスタ角の存在に拘らず、前記トロイダル型無段変速機35の変速動作は、安定して行われる。尚、図示の例とは逆に、奇数の歯車列での動力の伝達状態で車両を後退させ、偶数の歯車列での動力の伝達状態で車両を前進させる事もできる。何れにしても、一般的には、前進時に動力を伝達する歯車列の減速比を、後退時に動力を伝達する歯車列の減速比よりも小さくする。
回転方向変換装置36a以外の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。