(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フェライト組成物で構成されるコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部に形成された被覆層と、を有するフェライトコアであって、前記フェライト組成物は、主成分が、酸化鉄をFe2 O3 換算で63.3〜65.5モル%、酸化亜鉛をZnO換算で11.6〜15.8モル%を含有し、残部が酸化マンガンで構成されており、前記主成分100重量%に対して、副成分として、酸化珪素をSiO2 換算で60〜250ppm、酸化カルシウムをCaO換算で360〜1000ppmを含有し、さらには前記主成分100重量%中に、Pbの含有量が7ppm以下、Cdの含有量が7ppm以下とを含有し、前記フェライト組成物の磁気損失の極小温度Tspが0〜50℃の範囲にあり、前記被覆層の熱膨張係数が、前記コア部の熱膨張係数以下であることを特徴とするフェライトコア。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用機器等の各種電子機器の小型・軽量化が急速に進み、それに対応すべく、各種電子機器の電気回路に用いられる電子部品の小型化・高効率化・高周波数化への要求が急速に高まっている。
【0003】
たとえば、携帯用機器等のDC−DCコンバータ用のコイル磁芯としては、従来Ni−Znフェライトが用いられてきた。しかしながら、Ni−Znフェライトは比較的に電力損失が大きいため、コイル磁芯等の部品の小型化・高効率化・高周波数化への対応が困難であった。
【0004】
このような問題に対し、Ni−Znフェライトに代えて、Mn−Znフェライトを用いることが考えられる。従来、Mn−Znフェライトは、電源用トランスなどに用いられ、低周波数かつ高磁場の環境下で使用されてきた。
【0005】
一般にトランス等の磁芯として用いられるフェライトには、実際の使用温度域よりも高い温度域において磁気損失が最小となるような温度特性を持つことが要求されてきた。これは、使用時にトランスが磁気損失により発熱しトランス自体の温度が上昇、その結果、さらに磁気損失が増大してトランスの発熱が大きくなることを繰り返す、いわゆる熱暴走を起こす危険性があったからである。電源用トランスの場合、使用温度域は、通常、動作温度(たとえば80℃)付近の温度とされる。
【0006】
ところが、近年、たとえば、トランスをフッ素系不活性液体等を用いて冷却した場合、その環境温度あるいは使用温度を室温以下、さらには任意の温度とすることが可能となっている。この場合、磁気損失が最小となる温度は特に制限されず、磁気損失の絶対値が小さいことのみが要求される。
【0007】
一方、携帯用機器等のDC−DCコンバータ用のコイル磁芯として用いる場合、環境温度あるいは使用温度は室温付近あるいは外気温付近であり、トランスと比較すると、電圧も低く、熱暴走の危険は少ない。また、このような携帯用機器では、駆動周波数の高周波数化(たとえば1MHz以上)が進み、高周波数領域における損失が小さいことが要求される。
【0008】
また、トランスにおいても、DC−DCコンバータのような携帯用機器に用いられる部品においても、大電流への対応が進んでいる。そのため、このような部品に用いられる磁芯には大電流でもインダクタンスが低下しない優れた直流重畳特性が要求される。優れた直流重畳特性を実現するには、高い飽和磁束密度が必須であり、特にその環境温度あるいは使用温度において高い飽和磁束密度を有することが必要となる。
【0009】
したがって、環境温度あるいは使用温度が室温付近あるいは外気温付近であって、高周波数領域での磁気損失を低下させ、高い飽和磁束密度を有するフェライト組成物が求められている。
【0010】
低損失で高飽和磁束密度を有するMn−Znフェライトの例として、たとえば、特許文献1では、主成分として、Fe
2 O
3 が52.4〜53.7モル%、ZnOが7.0〜11.5モル%、残部MnOとし、副成分として、CaOと、V
2 O
5 と、Nb
2 O
5 と、Al
2 O
3 またはBi
2 O
3 とを特定量含むMn−Znフェライトが提案されている。
【0011】
しかしながら、上記のMn−Znフェライトは、特許文献1にも記載されているように、トランスの実駆動温度である60℃以上において、低周波数領域での磁気損失が最小となる温度(Pcv
min )を設定しており、室温付近かつ高周波領域では使用が適さないという問題があった。
【0012】
また、各種用途のフェライトコアについて、コア部の表面にガラス被膜を形成することが検討されている。しかし、従来では、ガラス被膜の応力によりフェライト本来の特性が劣化するなどの影響を受け、好ましくないと考えられていた。
【0013】
特許文献2では、コアの表面にバレルコーティング法でガラス塗膜を形成することが提案されている。しかしながら、特許文献2においては、このようなフェライトコアの特性の劣化については検討されておらず、特に電力損失(Pcv)の改善や磁束密度(Bs)の向上等については何ら考慮されていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0028】
フェライトコア
本発明に係るフェライトコアの形状は、
図1に示したドラム型のほか、FT型、ET型、EI型、UU型、EE型、EER型、UI型、トロイダル型、ポット型、カップ型等を例示することができる。本実施形態では、
図1に示すように、フェライトコア1はドラムコア形状を有しており、コア部2の表面全体に被覆層10が形成された構成を有している。
【0029】
コア部
コア部2は、円柱または角柱状の巻芯部4と、その巻芯部4の軸方向に沿って両側に一体的に形成してある一対の鍔部5とを有する。鍔部5の外径は、巻芯部4の外径よりも大きく、巻芯部4の外周には、鍔部5にて囲まれた凹部6が形成してある。そして、その凹部6にワイヤ30を巻回することでコイル部品とされる。
【0030】
コア部2の寸法は、特に制限されないが、本実施形態では、巻芯部4の外径は0.6〜1.2mmであり、巻芯部4の軸方向幅は0.3〜1.0mm、鍔部5の外径は2.0〜3.0mmであり、鍔部5の厚みは0.2〜0.3mm、鍔部5の外周表面から巻芯部4の外周表面までの深さは、0.5〜1.0mmである。なお、鍔部5の形状は、円形の他、四角形、八角形などでもよい。
【0031】
コア部2は、本実施形態に係るフェライト組成物で構成してある。
【0032】
本実施形態に係るフェライト組成物は、Mn−Zn系フェライトであり、主成分として、酸化鉄、酸化マンガンおよび酸化亜鉛を含有している。また、本実施形態に係るフェライト組成物の磁気損失が極小となる温度(Tsp)は、0〜50℃の範囲にある。
【0033】
従来、Mn−Zn系フェライトにおいて、Tspを示す温度は、結晶磁気異方性によって説明がなされていた。すなわち、結晶磁気異方性定数K1の符号が温度上昇に伴って、負から正の値に変わるK1=0の温度において、磁気損失が極小値を持つと言われている。
【0034】
また、この温度は、透磁率が極大となる、いわゆる透磁率のセカンダリーピークと一致することが知られている。上記のK1は、温度上昇に対して単調に増加するが、Fe
2+ は正のK1を持つため、Fe
2+ の量が増加すると(すなわち、Fe
2 O
3 量が増加すると)、セカンダリーピークの温度は低温側に移動する。
【0035】
「電子材料シリーズ フェライト」(丸善株式会社発行、昭和63年)の79頁には、Fe
2 O
3 量をXモル%、ZnO量をZモル%とした場合に、Tspを求める式として、下記の式が記載されている。Tsp=−45.5(X+0.2Z)+2620
【0036】
また、Fe
2 O
3 量を増やすことで、高い飽和磁束密度が得られやすいことが知られている。しかしながら、Fe
2 O
3 量が多くなると、飽和磁束密度は、Fe
2 O
3 量だけではなく、Fe
2 O
3 量とZnO量との比率にも影響されると考えられる。
【0037】
本実施形態に係るフェライト組成物のTspは0〜50℃の範囲にある。このようなフェライト組成物では、Fe
2 O
3 量を増加させることで、Tspを上記の範囲内とし、飽和磁束密度を高めることが考えられる。そこで、上記の式を用いてFe
2 O
3 量およびZnO量を決定しようとすると、たとえばFe
2 O
3 量が64.4モル%で、ZnOを13.7モル%とし、残部をMnOとすると、Tspが−400℃以下となってしまい、現実的ではない。
【0038】
そのため、上記のTspを求める式は、Fe
2 O
3 量が多い(たとえば、63モル%以上)場合には、成り立たないと考えられる。ところが、Fe
2 O
3 量が多い場合にTspを求める指標となるものが存在しないため、Fe
2 O
3 量が多い場合に、1MHz以上の高周波領域において、高い飽和磁束密度を有するフェライト組成物については、何ら知見がなかった。
【0039】
そこで、本発明者等は鋭意実験を行い、フェライト組成物中の酸化鉄の含有量が比較的多い場合に、Tspと酸化鉄および酸化亜鉛とが、上記の式とは異なる関係を有することを見出した。すなわち、主成分が、酸化鉄をFe
2 O
3 換算で63.3〜65.5モル%、好ましくは63.9〜65.0モル%、酸化亜鉛をZnO換算で11.6〜15.8モル%、好ましくは12.0〜15.8モル%を含有し、残部を酸化マンガンとした場合にTspが0〜50℃の範囲となることがわかった。
【0040】
酸化鉄あるいは酸化亜鉛の含有量が少ない場合には、磁気損失が極小となる温度(Tsp)が0℃未満であり、また多すぎると50℃を超える。
【0041】
本実施形態に係るフェライト組成物は、上記の組成範囲にある主成分に加え、副成分として、酸化ケイ素および酸化カルシウムを含有している。このような副成分を含有させることで、電力損失の絶対値を小さくし、かつ高い飽和磁束密度を得ることができる。
【0042】
酸化ケイ素の含有量は、主成分100重量%に対して、SiO
2 換算で、60〜250ppm、好ましくは60〜200ppmである。酸化ケイ素の含有量が多くても少なすぎても、高周波数領域での電力損失が劣化する傾向にある。
【0043】
酸化カルシウムの含有量は、主成分100重量%に対して、CaO換算で、360〜1000ppm、好ましくは630〜830ppmである。酸化カルシウムの含有量が多くても少なすぎても、高周波数領域での電力損失が劣化する傾向にある。
【0044】
また、本実施形態に係るフェライト組成物は、上記主成分および副成分の他に、CdおよびPbを含有している。このような成分を所定の範囲に制御することにより、高周波数領域での電力損失の劣化を防止することができる。
【0045】
Pbの含有量は、主成分100重量%中に、7ppm以下、好ましくは2〜7ppm、より好ましくは、5〜7ppmである。その含有量が、主成分100重量%中に、7ppmを超えると、高周波数領域での電力損失が劣化する傾向にある。
【0046】
Cdの含有量は、主成分100重量%中に、7ppm以下、好ましくは2〜7ppm、より好ましくは、5〜7ppmである。その含有量が、主成分100重量%中に、7ppmを超えると、高周波数領域での電力損失が劣化する傾向にある。
【0047】
PbおよびCdは、主成分原料である酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マンガン中に含まれることがある。主成分中のPbおよびCdの含有量が所定の範囲を超えると、高周波数領域での電力損失が劣化する傾向にあることが、本願発明者らによって見出された。そこで、本発明では、原料中のCdおよびPdの含有量を厳密に管理し、上記の範囲内となるようにする。なお、PbおよびCdの含有量を所定の範囲に制御する方法は、特に限定されない。
【0048】
この他、本実施形態に係るフェライト組成物には、原料中の不可避的不純物元素の酸化物が数ppm〜数百ppm程度含まれ得る。
【0049】
具体的には、B、C、S、Cl、As、Se、Br、Te、Iや、Li、Na、Mg、Al、K、Ga、Ge、Sr、In、Sn、Sb、Ba、Bi等の典型金属元素や、Sc、Ti、V、Cr、Y、Nb、Mo、Pd、Ag、Hf、Ta等の遷移金属元素が挙げられる。
【0050】
また、コア部2の熱膨張係数は、フェライト組成物の組成により変化するが、おおむね9×10
−6 /℃〜10×10
−6 /℃程度である。
【0051】
被覆層
被覆層10の材質としては、コア部2の熱膨張係数以下である熱膨張係数を有するものであれば、特に制限されず、たとえば、ガラス組成物、SiO
2 、B
2 O
3 、ZrO
2 等が例示される。なお、被覆層10は複数の材質から構成されていてもよいし、複数の層からなる積層構造を有していてもよい。
【0052】
本実施形態では、被覆層10はガラス組成物から構成されることが好ましい。ガラス組成物としては、コア部2の表面に非晶質の状態で形成されるもの、あるいは結晶化ガラスとして形成されるものであれば特に制限されず、たとえば、Si−B系ガラス(ホウケイ酸ガラス)、無アルカリガラス、鉛系ガラス等が例示される。
【0053】
ガラス組成物の熱膨張係数は、ガラス組成物に含有される成分の組成や、各成分の含有量等により変化する。したがって、ガラス組成物の熱膨張係数が、コア部2の熱膨張係数以下となるように、成分の組成や含有量を適切に設定する必要がある。
【0054】
被覆層10は、電力損失の改善効果が得られる程度に被覆されていれば特に限定されないが、コア部2の表面の少なくとも一部に形成されていればよく、コア部2の表面積に対して、被覆層が形成される割合(被覆率)を、好ましくは50〜100%、より好ましくは90〜100%とする。被覆率が高くなるほど、コア部2の欠け等を防止する保護層としての役割も大きくなる。
【0055】
なお、
図1では、被覆率が100%の場合を示している。また、コア部2において、ワイヤ等が巻回される部分(本実施形態では凹部6)付近に被覆層10が形成されていると、より高い効果が得られやすい。
【0056】
被覆層10の厚みは、電力損失の改善効果が得られる程度の厚みであれば特に限定されないが、好ましくは0μm超50μm以下、より好ましくは5μm以上25μm以下である。被覆層10が形成されていれば、電力損失が改善されるが、被覆層が厚くなりすぎると、電力損失の改善効果に対する寄与が少なく、製造コストが増加する傾向にある。また、被覆層がある程度の厚みを有していると、コア部の保護層としての機能を果たすこともできる。そのため、被覆層10の厚みは上記の範囲内であることが好ましい。
【0057】
さらに、被覆層10が絶縁性を有していれば、コア部2が導電性であっても、巻回されるワイヤとの絶縁を確保することができる。
【0058】
次に、本実施形態に係るフェライトコアとして、被覆層10がガラス組成物で構成されているフェライトコアの製造方法の一例を説明する。
【0059】
まず、コア部2を構成するフェライト組成物の原料を準備するため、出発原料(主成分の原料および副成分の原料)を、所定の組成比となるように秤量して混合し、原料混合物を得る。混合する方法としては、たとえば、ボールミルを用いて行う湿式混合や、乾式ミキサーを用いて行う乾式混合が挙げられる。なお、平均粒径が0.1〜3μmの出発原料を用いることが好ましい。
【0060】
主成分の原料としては、酸化鉄(α−Fe
2 O
3 )、酸化亜鉛(ZnO)、酸化マンガン(Mn
3 O
4 )、あるいは複合酸化物などを用いることができる。さらに、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物等を用いることができる。焼成により上記した酸化物になるものとしては、たとえば、金属単体、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、有機金属化合物等が挙げられる。なお、主成分中の酸化マンガンの含有量はMnO換算で計算されるが、主成分の原料としては、Mn
3 O
4 が好ましく用いられる。
【0061】
副成分の原料としては、主成分の原料の場合と同様に、酸化物だけではなく複合酸化物や焼成後に酸化物となる化合物を用いればよい。酸化ケイ素(SiO
2 )の場合には、SiO
2 を用いることが好ましい。また、酸化カルシウム(CaO)の場合には、炭酸カルシウム(CaCO
3 )を用いることが好ましい。
【0062】
なお、CdおよびPbについては、主成分の原料である酸化鉄、酸化亜鉛および酸化マンガンに含まれることがある。そのため、CdおよびPbの含有量の異なる種々の酸化鉄、酸化亜鉛および酸化マンガン原料の使用量を調整することで、CdおよびPbの含有量を調整することができる。
【0063】
次に、原料混合物の仮焼きを行い、仮焼き材料を得る。仮焼きは、原料の熱分解、成分の均質化、フェライトの生成、焼結による超微粉の消失と適度の粒子サイズへの粒成長を起こさせ、原料混合物を後工程に適した形態に変換するために行われる。こうした仮焼きは、好ましくは800〜1100℃の温度で、通常1〜3時間程度行う。仮焼きは、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が高い雰囲気や純酸素雰囲気で行っても良い。なお、主成分の原料と副成分の原料との混合は、仮焼きの前に行なってもよく、仮焼き後に行なってもよい。
【0064】
次に、仮焼き材料の粉砕を行い、粉砕材料を得る。粉砕は、仮焼き材料の凝集をくずして適度の焼結性を有する粉体とするために行われる。仮焼き材料が大きい塊を形成しているときには、粗粉砕を行ってからボールミルやアトライターなどを用いて湿式粉砕を行う。湿式粉砕は、仮焼き材料の平均粒径が、好ましくは1〜2μm程度となるまで行う。
【0065】
次に、粉砕材料の造粒(顆粒)を行い、造粒物を得る。造粒は、粉砕材料を適度な大きさの凝集粒子とし、成形に適した形態に変換するために行われる。こうした造粒法としては、たとえば、加圧造粒法やスプレードライ法などが挙げられる。スプレードライ法は、粉砕材料に、ポリビニルアルコールなどの通常用いられる結合剤を加えた後、スプレードライヤー中で霧化し、低温乾燥する方法である。
【0066】
次に、造粒物を所定形状に成形し、成形体を得る。造粒物の成形としては、たとえば、乾式成形、湿式成形、押出成形などが挙げられる。乾式成形法は、造粒物を、金型に充填して圧縮加圧(プレス)することにより行う成形法である。成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて適宜決定すればよいが、本実施形態ではドラムコア形状とされる。
【0067】
次に、成形体の本焼成を行い、焼結体(コア部2)を得る。本焼成は、多くの空隙を含んでいる成形体の粉体粒子間に、融点以下の温度で粉体が凝着する焼結を起こさせ、緻密な焼結体を得るために行われる。このような本焼成は、好ましくは900〜1300℃の温度で、通常2〜5時間程度行う。本焼成は、大気(空気)中で行ってもよく、大気中よりも酸素分圧が高い雰囲気で行っても良い。
【0068】
次に得られたコア部2に対して、
図2に示すバレル装置を用いて、コア部2の表面に、ガラス組成物、バインダ樹脂等から構成される熱処理前の被覆層10aを形成する。
【0069】
図2に示すバレル装置20は、円柱状または角柱状のシリンダケーシング20aを有し、その中空の内部に、バレル容器22が、その軸芯回りに矢印A方向(またはその逆方向)に回転自在に収容してある。
【0070】
ケーシング20aには、入口管23と出口管24とがそれぞれ形成してある。入口管23からは乾燥用気体がケーシング20aの内部に入り込み、出口管24からケーシング内部の空気を排出可能になっている。
【0071】
バレル容器22の内部における軸芯位置には、スプレーノズル25が軸方向に沿って配置してあり、ノズル25から、バレル容器22の内部に貯留してある多数のコア部2に向けてスラリー26を吹き付け可能になっている。バレル容器22は、矢印A方向に回転するために、コア部2は、
図2に示すような状態で存在し、バレル容器22の回転により撹拌される。
【0072】
ノズル25は、コア部2の集合に向けてスラリー26を噴霧することができるようになっている。なお、ノズル25からのスラリーの噴霧方向を自由に変えられるようにしても良い。また、ケーシング20aには、図示省略してある排出パイプが接続してあり、余分なスラリー26を排出可能になっている。
【0073】
バレル容器22の壁には、外部と内部とを連通する多数の孔が形成してあり、ケーシング20aの下方に貯留してあるスラリー26は、バレル容器22の内部にも侵入し、そのスラリー26にコア部2を浸漬することができる。また、乾燥用気体が入口管23からケーシング20aを通り出口管24へと流通する際には、バレル容器22の内部にも流通するようになっている。
【0074】
熱処理前の被覆層10aを形成するために、まず、コア部2を、
図2に示すバレル容器22の内部に多数収容する。そして、バレル容器22を回転させ、コア部2の集合を撹拌しながら、ノズル25からスラリー26を吹き付けて、熱処理前の被覆層10aを形成する。
【0075】
スラリー26は、上述したガラス組成物を粉砕して得られるガラス粉末と、バインダ樹脂と、溶剤とを含む。さらにその他の添加物を含んでいてもよい。ガラス組成物は、該組成物を構成する酸化物、ハロゲン化物等の非酸化物等の原料を混合、溶融し、急冷して非晶質とすればよい。また、ガラス組成物として、結晶化ガラスを用いてもよい。本実施形態では、ガラス粉末としてSi−B系ガラスを用いる。ガラス粉末の平均粒径(メジアン径)は、特に限定されないが、好ましくは、0.1μm以上10μm以下の範囲である。
【0076】
スラリー26に含まれるバインダ樹脂はポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアルコール樹脂変性体、またはこれらの混合物であることが好ましい。このようにすることで、形成される熱処理前の被覆層10aは、コア部2との密着性に優れる。
【0077】
溶剤は、水を含むことが好ましい。溶剤は水のみでもよいが、ガラス粉末の表面と水との接触角が大きいときは、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、イソブチルアルコール(IBA)等の水溶性のアルコールを一定の割合で混ぜることにより、ガラス粉末の凝集や沈降を抑制することが好ましい。
【0078】
コア部2に吹き付けられたスラリー26は、各コア部2の表面を覆い焼成前被覆層10aを形成する。この時、余分なスラリー26は、図示省略してある排出パイプを通して排出される。ノズル25からスラリー26を吹き付ける処理時間は、特に限定されないが、たとえば30〜180分程度である。また、スプレー時のスラリー26の温度は、溶剤の組成にもよるが40℃以上100℃以下が好ましい。沸点の低い溶剤を使用する場合は、上記温度範囲内で温度を下げることが好ましい。
【0079】
次に、スラリー26をスプレーしながら同時に熱処理前の被覆層10aの乾燥処理を行う。乾燥処理では、入口管23から乾燥用気体をケーシング20aの内部に流し込み、出口管24から排出させる。この乾燥処理に用いる乾燥用気体は、たとえば温度50〜100℃の空気である。スプレー処理後、さらに乾燥処理を、たとえば5〜30分行ってもよい。
【0080】
乾燥処理後、熱処理前の被覆層10aが形成されたコア部2は、バレル容器22から取り出され、熱軟化処理される。熱処理条件は、熱処理前の被覆層10aに含まれるガラス粉末の軟化点などに応じて決定される。具体的には、熱処理温度は、好ましくは600〜800℃であり、熱処理時間は、5〜120分である。
【0081】
Mn−Zn系フェライトの場合、熱処理は、酸素分圧0.1%以下での窒素ガス雰囲気下で焼成を行うことが好ましい。コア部2の酸化は、特性劣化の原因となるため、酸素分圧を低くすることで、酸化を防止することができるからである。
【0082】
熱処理後、コア部2の表面には、ガラス化した被覆層10が形成され、
図1に示すフェライトコア1が得られる。なお、本実施形態では、ガラス化とは、連続された非晶質な個体膜で、結晶と同程度の剛性を持つ状態になることと定義される。
【0083】
その後に、
図3に示すように、各コア部2における一方の鍔部5の端面に、銀、チタン、ニッケル、クロム、銅などで構成された一対の端子電極32を、印刷、転写、浸漬、スパッタ、メッキ法などで形成する。端子電極32は、コア部2が導電性であっても、被覆層10が存在しているために絶縁されている。
【0084】
その後に、巻芯部4の周囲にワイヤ30を巻回し、そのワイヤの両端を、それぞれ端子電極32に熱圧着、超音波やレーザなどによる溶接、はんだ法などで接続し、本発明の一実施形態に係るコイル部品が完成する。
【0085】
本実施形態に係るフェライトコアでは、飽和磁束密度(Bs)を高く維持しつつ、高周波領域(たとえば、1MHz以上)においても電力損失(Pcv)を低減でき、結果として品質係数(Pcv/Bs)を改善することができる。また、特に被覆層をガラス組成物で構成することで、被覆層をコア部の表面に容易に形成することができる。また、ガラス組成物が絶縁性である場合には、コア部が導電性であっても、巻回されるワイヤ等との絶縁性を確保することができる。
【0086】
本実施形態に係るフェライトコアにおいて、品質係数(Pcv/Bs)を改善することができる理由に関しては、必ずしも明らかではないが、たとえば以下のように考えることができる。
【0087】
フェライトコアには、残留応力として内的な圧縮応力がすでに加えられている場合がある。このような残留応力は、フェライト組成物の焼成・冷却時の収縮に起因する応力や、焼成・冷却時におけるフェライト組成物中の成分、特にZnO成分の蒸発等により生じる応力等が原因となっていると考えられる。
【0088】
そこで、コア部2の表面の少なくとも一部に、コア部2の熱膨張係数以下である熱膨張係数を有する被覆層10を形成することで、熱が加えられ、冷却される過程で、被覆層10の熱膨張がコア部2の熱膨張以下であるため、被覆層10にはコア部2の熱膨張に起因する引張応力が生じる。そして、この引張応力が、コア部2の残留応力(圧縮応力)をキャンセルするのではないかと考えられ、そのためにフェライトコアの電力損失Pcvを改善することができるのではないかと考えられる。
【0089】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0090】
たとえば、上述の実施形態においては、焼成されたコア部に対して、熱処理前の被覆層を形成し、これを熱処理して被覆層を形成したが、コア部の焼成と被覆層の熱処理とを同時に行ってもよい。このようにすることで、工程を簡略化できる。
【0091】
また、脱バインダ工程において、スラリーに含まれるバインダ樹脂の有機成分が揮発しやすいように、ガラス粉末の粒径を特定の範囲としてもよい。このようにすることで、熱処理前の被覆層自体の強度を高めて、熱処理前の被覆層形成時におけるコア部の欠け等を防止することができる。
【0092】
また、熱処理前の被覆層を形成する工程において、たとえばスラリーに含まれるバインダ樹脂の量を変化させることで、熱処理前の被覆層の表面付近の強度を、該被覆層のコア部との境界付近の強度よりも弱くなるようにしてもよい。このようにすることで、該被覆層の表面付近が犠牲膜の役割を果たし、コア部の欠け等を効果的に防止することができる。
【0093】
さらに、熱処理前の被覆層を複数層とし、コア部に近い層に含まれるガラス組成物の軟化点よりも、該被覆層の表面側の層に含まれるガラス組成物の軟化点を高くしてもよい。そして、熱処理工程において、熱処理温度を、コア部に近い層に含まれるガラス組成物の軟化点より高く、かつ被覆層の表面側の層に含まれるガラス組成物の軟化点よりも低くする。このようにすることで、被覆層の表面側の層を犠牲膜とすることができ、コア部の欠け等を効果的に防止することができる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
実施例1
まず、主成分の原料として、Fe
2 O
3 、ZnOおよびMn
3 O
4 を準備した。副成分の原料として、SiO
2 およびCaCO
3 を準備した。
【0095】
なお、CdおよびPbについては、主成分の原料である酸化鉄、酸化亜鉛および酸化マンガンに含まれる。そのため、最終的に得られるサンプルが表1〜表3に記載のCd量およびPb量を含有するよう、CdおよびPbの含有量の異なる種々の酸化鉄、酸化亜鉛および酸化マンガン原料の使用量を調整して準備した。
【0096】
次に、準備した主成分の原料の粉末を秤量し、さらに、副成分の原料の粉末を表1に示す量となるように秤量した後、ボールミルで5時間湿式混合して原料混合物を得た。
【0097】
次に、得られた原料混合物を、空気中において950℃で2時間仮焼した後、ボールミルで20時間湿式粉砕して、平均粒径が1.5μmである粉砕材料を得た。
【0098】
次に、この粉砕材料を乾燥した後、該粉砕材料100重量%に、バインダとしてのポリビニルアルコールを1.0重量%添加して造粒し、20メッシュの篩で整粒して顆粒とした。この顆粒を196MPa(2ton/cm
2 )の圧力で加圧成形して、トロイダル形状(寸法=外径22mm×内径12mm×高さ6mm)の成形体を得た。
【0099】
得られた成形体について、蛍光X線分析を行い、フェライトコアの組成を測定し、表1に示す量と一致していることを確認した。
【0100】
次に、これら各成形体を、酸素分圧を適宜制御しながら、1270℃で2.5時間焼成して、焼結体としてのコア部を得た。
【0101】
次に被覆層を形成するためのガラス組成物の粉末を準備した。ガラス組成物としてはSi−B系ガラスを用いた。Si−B系ガラスは、ガラス成分を構成する酸化物等の原料を混合・溶融し、その後急冷して作製した。
【0102】
本実施例では、Si−B系ガラス中の成分の組成、含有量等を変化させて、熱膨張係数を変化させたガラス組成物A〜Dを用いた。ガラス組成物Aの熱膨張係数は6×10
−6 /℃、ガラス組成物Bの熱膨張係数は11×10
−6 /℃、ガラス組成物Cの熱膨張係数は8×10
−6 /℃、ガラス組成物Gの熱膨張係数は10×10
−6 /℃であった。
【0103】
なお、コア部およびガラス組成物の熱膨張係数は、TMAにより測定した。
【0104】
次に、熱処理前の被覆層を形成するために用いられるスラリーを作製した。まず、得られたガラス組成物の粉末とPVAとを所定の重量比で混合した。さらに、得られた固形成分(ガラス粉末およびPVAの混合物)と溶剤とを所定の重量比で混合し、ボールミルで混合してスラリーを準備した。溶剤としては、水とエタノールを8:2で混合したものを用いた。スラリー中のガラス粉末に対するバインダ樹脂の含有量は10重量%であった。
【0105】
次に、バレル装置のバレル容器内にコア部を投入し、コア部の表面全体に、上述したスラリーを用いたスプレー処理により、被覆層を形成した。また、スプレーと同時に、温風温度70℃で乾燥処理した。
【0106】
その後に、バレル容器から、熱処理前の被覆層が形成されたコア部を取り出し、このコア部を750℃で1時間熱処理して、ガラス化した被覆層がコア部の表面全体に形成されたフェライトコア(トロイダル形状)を得た。
【0107】
被覆層の厚みは、3〜25μm程度であった。なお、被覆層の厚みは、被覆層形成前後の寸法より算出した。
【0108】
また、被覆率は、98〜100%程度であった。なお、被覆率は、20個の試料について目視により観察し、被覆層の形成が不完全であった試料について、被覆面積を測定することにより算出した。
【0109】
<電力損失(Pcv)>
得られたコア部サンプルおよび被覆層形成後のフェライトコアに、1次巻線および2次巻線を3回ずつ巻回し、1MHz−50mTの条件において、−10〜60℃における電力損失を測定し、損失が最小となる温度(Tsp)を求め、Tspでの電力損失Pcvを算出した(単位:kW/m
3 )。測定は、B−Hアナライザー(岩崎通信機株式会社製SY−8217)を用いて行った。結果を表1〜3に示す。
【0110】
<飽和磁束密度(Bs)>
得られたコア部サンプルおよび被覆層形成後のフェライトコアに、巻線を60回巻回した後、B−Hカーブトレーサー(理研電子株式会社製Model BHS40)を用いて2kA/mの磁場を印加したときの飽和磁束密度BsをTspにおいて測定した(単位:mT)。結果を表1および表2に示す。
【0111】
また、表1および表2には、高周波数領域(1MHz)におけるコア部および被覆層形成後のフェライトコアの品質係数を示すPcv/Bsを示した。Pcvが小さいほど、あるいは、Bsが大きいほど、このPcv/Bsは小さくなる。したがって、Pcv/Bsの値が小さいほど、電力損失の低減と高い飽和磁束密度とを両立できるため好ましい。
【0112】
また、表2には、被覆層形成前のコア部サンプルの電力損失(Pcv)の値と、被覆層形成後のフェライトコアの電力損失(Pcv)の値から算出した、被覆層形成前後における電力損失(Pcv)の向上率(変化率)を示した。なお、本実施例では、向上率(変化率)が15%以上のものを良好とし、より好ましくは20%以上のものとした。
【0113】
また、表2では、被覆層形成後のフェライトコアのPcv/Bsは、1.0未満を良好とし、より好ましくは0.9未満とした。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
表1より、試料2〜6および試料9〜11では、Tspが0〜50℃の範囲内であることが確認できた。さらに、試料2〜6および9〜11では、Tspが0〜50℃の範囲内にない試料1、7、8および12に比べて、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が低くなることが確認できた。
【0117】
表2の試料2a〜6aおよび9a〜11aは、Tspが本願の発明の範囲内(Tspが0〜50℃の範囲内)にある試料2〜6および9〜11をコア部とし、該コア部の熱膨張係数(10×10
−6 /℃)よりも小さい熱膨張係数(6×10
−6 /℃)を持つガラスAにより、該コア部の表面を被覆した。
【0118】
このような試料2a〜6aでは、被覆層を形成する前の試料2〜6に比べ、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が低減されていることが確認でき、さらに試料9a〜11aにおいても、被覆層を形成する前の試料9〜11に比べ、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が低減されていることが確認できた。すなわちコア部サンプル(試料2〜6および9〜11)に比べ、ガラスAからなる被覆層が形成されたフェライトコア(試料2a〜6aおよび9a〜11a)では、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が22〜28%向上程度することが確認できた。
【0119】
さらに、ガラスAからなる被覆層をコア部の表面に形成する前後で、高い飽和磁束密度(Bs)が維持されており、その結果、ガラスAからなる被覆層が形成されたフェライトコア(試料2a〜6aおよび9a〜11a)では、Pcv/Bsで表される品質係数が向上することが確認された。
【0120】
しかし、Tspが本願の発明の範囲内にない試料1、7、8および12をコア部として用いた場合には、ガラスAからなる被覆層をコア部の表面に形成しても、被覆層の形成の前後において、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善効果が十分に得られないことが確認できた(試料1a、7a、8aおよび12a)。
【0121】
これらの結果から、コア部を形成するフェライト組成物のTspが本願の発明の範囲内(Tspが0〜50℃の範囲内)にある場合には、コア部以下の熱膨張係数を持つ被覆層をコア部の表面に形成することにより、飽和磁束密度(Bs)を高く維持しつつ、高周波領域(たとえば、1MHz以上)においても電力損失(Pcv)を低減でき、結果として品質係数(Pcv/Bs)を改善することができることが確認できた。
【0122】
特に、このような電力損失の改善効果は、コア部を形成するフェライト組成物のTspが本願の発明の範囲内(Tspが0〜50℃の範囲内)にある場合に顕著に現れる効果である。
【0123】
表2の試料1b〜12bは、試料1a〜12aで用いたガラスAに代えて、コア部よりも大きい熱膨張係数(11×10
−6 /℃)を持つガラスBを用いた以外は、試料1a〜12aと同様にフェライトコアを作成し、同様の評価を行った。
【0124】
試料1b〜12bでは、コア部を形成するフェライト組成物のTspが本願の発明の範囲内にあるか否かに関係なく、ガラスBの被覆層の形成前後において、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善効果が得られず、むしろ悪化していることが確認できた。
【0125】
すなわち、コア部より大きい熱膨張係数を持つ被覆層によりコア部を被覆した場合には、Tspの範囲に関係なく、被覆層の形成の前後において電力損失(Pcv)の改善効果は得られないことが確認できた。
【0126】
また、表2の試料4cおよび4dでは、試料4aで用いたガラスAに代えて、コア部より小さい熱膨張係数(8×10
−6 /℃)を持つガラスC、またはコア部と同じ熱膨張係数(10×10
−6 /℃)を持つガラスDを用いた以外は、試料4aと同様にフェライトコアを作成し、同様の評価を行った。
【0127】
試料4cおよび4dでは、コア部を形成するフェライト組成物のTspが本願の発明の範囲内にある試料4のコア部サンプルを用い、コア部の熱膨張係数以下の熱膨張係数を持つ被覆層により、コア部を被覆しているため、4aと同様に、被覆層の形成前後において高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善効果が得られることが確認できた。
【0128】
実施例2
コア部を形成するフェライト組成物中の副成分であるSiO
2 とCaOの含有量を表3のように変動させた以外は、実施例1の試料4(Tspが25℃)と同様にコア部となるサンプルを作成し、同様の評価を行った(試料13〜21)。結果は表3に示す。
【0129】
次に、表3に示すフェライト組成物をコア部とし、ガラスAまたはガラスBにより、コア部の表面に被覆層を形成したフェライトコア(トロイダル形状)を得た。得られたフェライトコアサンプルに対し、実施例1と同様の評価を行った(試料13a〜21aおよび試料13b〜21b)。結果は表4に示す。
【0130】
【表3】
【0131】
【表4】
【0132】
表3より、フェライト組成物中の副成分であるSiO
2 およびCaOの含有量が本願の発明の範囲内にある試料4、14、15および18〜20では、副成分の含有量が本願の発明の範囲内にない試料13、16、17、および21に比べて、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が低いことが確認できた。
【0133】
表4の試料4a、14a、15aおよび18a〜20aは、フェライト組成物中の副成分であるSiO
2 およびCaOの含有量が本願の発明の範囲内にある試料4、14、15、18〜20をコア部とし、該コア部より小さい熱膨張係数を持つガラスAにより、該コア部の表面を被覆した。
【0134】
このような試料4a、14a、15aおよび18a〜20aでは、被覆層を形成する前の試料4、14、15および18〜20に比べ、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が低減されていることが確認できた。すなわち、コア部サンプル(試料4、14、15および18〜20)に比べ、ガラスAからなる被覆層が形成されたフェライトコア(試料4a、14a、15aおよび18a〜20a)では、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が20〜22%程度向上することが確認できた。
【0135】
さらに、ガラスAからなる被覆層をコア部の表面に形成する前後で、高い飽和磁束密度(Bs)が維持されており、その結果、ガラスAからなる被覆層が形成されたフェライトコア(試料4a、14a、15aおよび18a〜20a)では、Pcv/Bsで表される品質係数が向上することが確認された。
【0136】
しかし、フェライト組成物中の副成分であるSiO
2 およびCaOの含有量が本願の発明の範囲内にない試料13、16、17、および21をコア部として用いた場合には、ガラスAからなる被覆層を形成しても、被覆層の形成の前後において、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善効果が十分に得られないことが確認できた(試料13a、16a、17a、および21a)。
【0137】
これらの結果から、コア部を形成するフェライト組成物中の副成分であるSiO2およびCaOの含有量が本願の発明の範囲内にある場合には、コア部以下の熱膨張係数を持つ被覆層をコア部の表面に形成することにより、飽和磁束密度(Bs)を高く維持しつつ、高周波領域(たとえば、1MHz以上)においても電力損失(Pcv)を低減でき、結果として品質係数(Pcv/Bs)を改善することができることが確認できた。
【0138】
試料13b〜21bでは、コア部を形成するフェライト組成物中の副成分であるSiO2およびCaOの含有量が本願の発明の範囲内にあるか否かに関係なく、ガラスBの被覆層の形成前後において、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善効果が得られず、むしろ悪化していることが確認できた。
【0139】
すなわち、コア部より大きい熱膨張係数を持つ被覆層によりコア部を被覆した場合には、フェライト組成物中の副成分であるSiO
2 およびCaOの含有量に関係なく、被覆層の形成の前後において電力損失(Pcv)の改善効果は得られないことが確認できた。
【0140】
実施例3
コア部を形成するフェライト組成物中のCdとPbの含有量を、フェライト組成物の主成分原料である酸化鉄、酸化亜鉛および酸化マンガンに含まれる量から調整し、表5のように変動させた以外は、実施例1の試料4(Tspが25℃)と同様にコア部となるサンプルを作成し、同様の評価を行った(試料22〜31)。結果は表5に示す。
【0141】
次に、表5に示すフェライト組成物をコア部とし、ガラスAまたはガラスBにより、コア部の表面に被覆層を形成したフェライトコア(トロイダル形状)を得た。得られたフェライトコアサンプルに対し、実施例1および2と同様の評価を行った(試料22a〜31aおよび試料22b〜31b)。結果は表6に示す。
【0142】
【表5】
【0143】
【表6】
【0144】
表5より、フェライト組成物中のCdとPbの含有量が本願の発明の範囲内にある試料4、22〜25および27〜30では、副成分の含有量が本願の発明の範囲内にない試料26および31に比べて、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が低いことが確認できた。
【0145】
表4の試料4a、22a〜25aおよび27a〜30aは、フェライト組成物中のCdとPbの含有量が本願の発明の範囲内にある試料4、22〜25、27〜30をコア部とし、該コア部より小さい熱膨張係数を持つガラスAにより、該コア部の表面を被覆した。
【0146】
このような試料4a、22a〜25aおよび27a〜30aでは、被覆層を形成する前の試料4、22〜25および27〜30に比べ、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が低減されていることが確認できた。すなわち、コア部サンプル(試料4、22〜25および27〜30)に比べ、ガラスAからなる被覆層が形成されたフェライトコア(試料4a、22〜25aおよび27a〜30a)では、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)が20〜24%程度向上することが確認できた。
【0147】
さらに、ガラスAからなる被覆層をコア部の表面に形成する前後で、高い飽和磁束密度(Bs)が維持されており、その結果、ガラスAからなる被覆層が形成されたフェライトコア(試料4a、22〜25aおよび27a〜30a)では、Pcv/Bsで表される品質係数が向上することが確認された。
【0148】
しかし、フェライト組成物中のCdとPbの含有量が本願の発明の範囲内にない試料26および31をコア部として用いた場合には、ガラスAからなる被覆層を形成しても、被覆層の形成の前後において、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善効果が十分に得られないことが確認できた(試料26aおよび31a)。
【0149】
これらの結果から、コア部を形成するフェライト組成物中のCdとPbの含有量が本願の発明の範囲内にある場合には、コア部以下の熱膨張係数を持つ被覆層をコア部の表面に形成することにより、飽和磁束密度(Bs)を高く維持しつつ、高周波領域(たとえば、1MHz以上)においても電力損失(Pcv)を低減でき、結果として品質係数(Pcv/Bs)を改善することができることが確認できた。
【0150】
試料22b〜31bでは、コア部を形成するフェライト組成物中のCdとPbの含有量が本願の発明の範囲内にあるか否かに関係なく、ガラスBの被覆層の形成前後において、高周波数領域(1MHz)における電力損失(Pcv)の改善効果が得られず、むしろ悪化していることが確認できた。
【0151】
すなわち、コア部より大きい熱膨張係数を持つ被覆層によりコア部を被覆した場合には、フェライト組成物中のCdとPbの含有量に関係なく、被覆層の形成の前後において電力損失(Pcv)の改善効果は得られないことが確認できた。