【文献】
山口 基,崎村 昇,四柳 道夫,バンドパスΔΣ変調器の伝達関数設計,2000年電子情報通信学会総合大会講演論文集 エレクトロニクス2,社団法人電子情報通信学会,2000年 3月 7日,p.137,C-12-42
【文献】
和保 孝夫,安田 彰,ΔΣ型アナログ/デジタル変換器入門,2007年 8月15日,pp.11,12,114-135
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ΔΣ変調器は、オーバサンプリング変調の一種であり、一般的には、AD変換又はDA変換に用いられている技術である(非特許文献1参照)。
ΔΣ変調では、信号帯域内の量子化雑音を、信号帯域外に移動させて、信号帯域内の量子化雑音を大きく低下させるノイズシェイピング(Noise Shaping)が行われる。
【0003】
ここで、「ΔΣ変調」という用語は、多くの場合、ローパス型ΔΣ変調を指す。
ローパス型ΔΣ変調では、低い周波数の量子化雑音が、より高い周波数側に移動して、低い周波数の量子化雑音が減衰するようノイズシェイピングされる。つまり、ローパス型Δ変調では、雑音伝達関数は、低周波数(0Hz付近)において、通過雑音を阻止する特性を有している。
【0004】
ΔΣ変調としては、ローパス型ΔΣ変調以外に、雑音伝達関数が、0Hzよりも大きい周波数において通過雑音を阻止するバンドパス型ΔΣ変調もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1によれば、ローパス型ΔΣ変調器のz領域モデルに対して、z→−z
2の変換を行うことで、ローパス型ΔΣ変調器を、バンドパス型ΔΣ変調器に変換できる。
【0007】
しかし、z→−z
2の変換式を用いても、サンプリング周波数fsの1/4の周波数で動作するfs/4バンドパス型ΔΣ変調器(量子化雑音阻止帯域の中心周波数f
0がfs/4であるバンドパス型ΔΣ変調器)しか得られない。
つまり、z→−z
2の変換式を用いて得たバンドパス型ΔΣ変調器は、処理対象の信号の帯域の中心周波数f
0が、サンプリング周波数fsの1/4の周波数であるものに限られる。
【0008】
そして、非特許文献1には、サンプリング周波数fsの1/4の周波数以外の周波数f
0用のバンドパス型ΔΣ変調器の構造は全く開示されていない。当然ながら、サンプリング周波数fsの1/4以外の任意の周波数f
0用のバンドパス型ΔΣ変調器をどのようにして設計すればよいのか、についても全く開示されていない。
【0009】
そこで、本発明は、所望の周波数f
0用のバンドパス型ΔΣ変調器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、ローパス型ΔΣ変調器のz領域モデルにおけるzを、以下のz’に置き換えることでバンドパス型ΔΣ変調器(θ
0=±
(π/2
)×nを除く;nは1以上の整数)を得ることを特徴とするバンドパス型ΔΣ変調器の設計方法である。
z’=f
cnv(z,θ
0)
ただし、
f
cnv(z,θ
0)は、任意のz,θ
0について、f
cnv(z,θ
0)の絶対値が常に1となる関数
θ
0=2π×(f
0/fs)
fsは、サンプリング周波数
f
0は、前記バンドパス型ΔΣ変調器の量子化雑音阻止帯域の中心周波数
【0011】
上記の設計方法によれば、所望の周波数f
0用のバンドパス型ΔΣ変調器を得ることができる。
【0012】
(2)f
cnv(z,θ
0)は、一方の辺の値が1又は−1である恒等式における他方の辺の式であり、前記恒等式は、以下の式を変形することで得られたものであるのが好ましい。
【数1】
【0013】
(3)z’は、以下の式で表されるのが好ましい。
【数2】
【0014】
(4)z’は、以下の式で表されるのが好ましい。
【数3】
【0015】
(5)z’は、以下の式で表されるのが好ましい。
【数4】
(6)z’は、以下の式で表されるのが好ましい。
【数5】
【0016】
(7)他の観点からみた本発明は、ローパス型ΔΣ変調器のz領域モデルにおけるzを、以下のz’に置き換えて得られたバンドパス型ΔΣ変調器(θ
0=±
(π/2
)×nを除く;nは1以上の整数)である。
z’=f
cnv(z,θ
0)
ただし、
f
cnv(z,θ
0)は、任意のz,θ
0について、f
cnv(z,θ
0)の絶対値が常に1となる関数
θ
0=2π×(f
0/fs)
fsは、サンプリング周波数
f
0は、前記バンドパス型ΔΣ変調器の量子化雑音阻止帯域の中心周波数
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所望の周波数f
0用のバンドパス型ΔΣ変調器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】(a)はローパス型ΔΣ変調器の出力スペクトルであり、(b)はバンドパス型ΔΣ変調器の出力スペクトルである。
【
図4】(a)はローパス型ΔΣ変調器の出力スペクトルであり、(b)はバンドパス型ΔΣ変調器の出力スペクトルである。
【
図5】(a)はローパス型ΔΣ変調器の動作を示す極座標であり、(b)はバンドパス型ΔΣ変調器の動作を示す極座標である。
【
図6】1次ローパス型ΔΣ変調器から変換して得られた2次ローパス型ΔΣ変調器である。
【
図7】CRFB構造のローパス型ΔΣ変調器である。
【
図8】CRFB構造のリーパス型ΔΣ変調器から変換して得られたバンドパス型ΔΣ変調器である。
【
図9】θ
0=π/4用のバンドパス型ΔΣ変調器の出力スペクトラム波形図である。
【
図10】θ
0=3π/4用のバンドパス型ΔΣ変調器の出力スペクトラム波形図である。
【
図11】θ
0=5π/4用のバンドパス型ΔΣ変調器の出力スペクトラム波形図である。
【
図12】θ
0=7π/4用のバンドパス型ΔΣ変調器の出力スペクトラム波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.ΔΣ変調器]
図1に示すように、ΔΣ変調器25は、ループフィルタ27と、量子化器28と、を備えている(非特許文献1参照)。
図1に示すΔΣ変調器25は、入力Uが、ループフィルタ27に与えられる。ループフィルタ27の出力Yは、量子化器(1bit又は多bitの量子化器)28に与えられる。量子化器28の出力(量子化信号)Vは、ループフィルタ27への他の入力として与えられる。
【0020】
ΔΣ変調器25の特性は、信号伝達関数(STF;Signal Transfer Function)及び雑音伝達関数(NTF;Noise Transfer Function)によって表すことができる。
つまり、ΔΣ変調器25の入力をUとし、ΔΣ変調器25の出力をVとし、量子化雑音をEとしたときに、ΔΣ変調器25の特性を、z領域において表すと、次のとおりである。
【数6】
【0021】
図2は、1次ローパス型ΔΣ変調器125の線形z領域モデルのブロック図を示している。符号127がループフィルタの部分を示し、符号128が量子化器を示している。このΔΣ変調器125への入力をU(z)とし、出力をV(z)とし、量子化雑音をE(z)としたときに、ΔΣ変調器125の特性を、z領域において表すと、次のとおりである。
V(z)=U(z)+(1−z
−1)E(z)
【0022】
つまり、
図2に示す1次ローパス型ΔΣ変調器125において、信号伝達関数STF(z)=1であり、雑音伝達関数NTF(z)=1−z
−1である。
【0023】
[2.ローパス型ΔΣ変調器からバンドパス型ΔΣ変調器への変換]
[2.1 変換式]
非特許文献1によれば、ローパス型ΔΣ変調器に対して、以下の変換を行うことで、ローパス型ΔΣ変調器を、バンドパス型ΔΣ変調器に変換できる。
【数7】
【0024】
上記変換式に従って、ローパス型ΔΣ変調器125のz領域モデルにおけるzを、z’=−z
2に置き換えることでバンドパス型ΔΣ変調器が得られる。
【0025】
上記変換式を用いると、n次のローパス型ΔΣ変調器(nは1以上の整数)を、2n次のバンドパス型Σ変調器に変換できる。
例えば、1次ローパス型ΔΣ変調器125の周波数特性は、
図3(a)に示すとおりである。1次ローパス型ΔΣ変調器125を、上記変換式で変換して得られた2次バンドパス型ΔΣ変調器の周波数特性は、
図3(b)に示すようになる。なお、
図3において、横軸θは正規化周波数である。
【0026】
上記変換式で得られたバンドパス型ΔΣ変調器の信号伝達関数及び雑音伝達関数は、変換前のローパス型ΔΣ変調器125と同じ利得を持つものの、
図3(b)に示す周波数特性は、
図3(a)に示す周波数特性が2分の1に圧縮され、折り返されている。
【0027】
上記変換式で得られたバンドパス型ΔΣ変調器は、同じオーバサンプリング比で動作する変換前のローパス型ΔΣ変調器125と同じ安定性特性とSNR特性を持つ。
【0028】
しかし、上記変換式では、
図3(b)に示すように、サンプリング周波数fsの1/4の周波数(正規化周波数θ=±π/2)用のバンドパス型ΔΣ変調器しか得られない。つまり、上記変換式では、サンプリング周波数fsの1/4周波数(正規化周波数θ=±π/2)が量子化雑音阻止帯域の中心周波数f
0であるバンドパス型ΔΣ変調器しか得られない。
【0029】
本発明者は、ローパス型ΔΣ変調器から、所望の周波数f
0(θ=θ
0)を、中心周波数f
0として持つバンドパス型ΔΣ変調器を得るための変換式を見出した。当該変換式は、例えば、次の式(3)に示す通りである。
【数8】
ここで、
θ
0=2π×(f
0/fs)
【0030】
式(2)の変換式では、特定の周波数θ
0=π/2に関するものであったが、式(3)の変換式では、任意の周波数(θ
0)に一般化されている。
【0031】
[2.2 変換式の考え方]
ローパス型ΔΣ変調器において、z=e
jωT=1という前提に立つと、ローパス型変調器の特性を維持しつつバンドパス型ΔΣ変調器に変換するためのz’の絶対値は1となるべきである。
|z’|=1でなければ、素子zを通過した信号の大きさ(振幅)が変化するため、変換前のローパス型ΔΣ変調器よりも特性が劣化するからである。
なお、z’の大きさは、1であっても、−1であってもよい。これは、z’=1とz’=−1とは、単に位相が反転した関係にすぎず、信号の大きさを変化させないからである。
【0032】
したがって、ローパス型ΔΣ変調器の特性を劣化させずに維持しつつ、バンドパス型ΔΣ変調器を得るためのz’は、z及びθ
0を含む関数f
cnv(z,θ
0)であって、任意のz,θ
0について、f
cnv(z,θ
0)の絶対値が常に1となる関数f
cnv(z,θ
0)であれば良い。
【0033】
そのような関数f
cnv(z,θ
0)を見出せば、ローパス型ΔΣ変調器を、所望の周波数f
0(θ
0)用のバンドパス型ΔΣ変調器が得られる。
【0034】
本発明者は、次のようにして、そのような関数z’=f
cnv(z,θ
0)を見出し、式(2)を一般化した変換式z→z’(式(3))を得た。
【0035】
まず、ローパス型ΔΣ変調器から、所望の周波数f
0(θ=θ
0)を中心周波数f
0として持つバンドパス型ΔΣ変調器への変換は、周波数特性で考えると、
図4に示すようになる。
図4は、
図3を、任意の周波数f
0(θ=θ
0)で一般化したものである。
図4(b)に示すように、バンドパス型ΔΣ変調器の雑音阻止帯域の中心周波数はf
0(θ
0=2π×(f
0/fs))である。
【0036】
ここで、
【数9】
とおくことで、周波数領域で考える。なお、Tはサンプリング周期である。
【0037】
また、式(4)のωTは、
【数10】
である。
【0038】
そして、
図4(a)に示すように、ローパス型ΔΣ変調器では、f
0=0(θ=0)で動作している。そこで、本発明者は、式(4)に関して、ローパス型ΔΣ変調器では、以下の式(6)が成り立つと考えた。
【数11】
つまり、ローパス型ΔΣ変調器では、
図5(a)に示すように、e
j0で動作していると考えることができる。
【0039】
式(6)より、以下の式(7)が得られる。
【数12】
【0040】
一方、バンドパス型ΔΣ変調器では、
図4(b)及び
図5(b)に示すように、θ
0及び−θ
0において、複素共役の対で動作する。
したがって、ローパス型Δ変調器における式(7)に基づくとともに、バンドパス型ΔΣ変調器が複素共役の対を持つことを考慮すると、次の式(8)が得られる。
【数13】
【0041】
本発明者は、式(8)を利用して、z’=f
cnv(z,θ
0)を得た。
すなわち、まず、上記式(8)を次のように変形して、右辺(一方の辺)の値が1である式(10)を得る。
【数14】
【数15】
【0042】
式(10)は、その左辺(他方の辺)の式の値が、任意のz,θ
0について、常に左辺の値=1となる恒等式であることが明らかである。
したがって、式(10)の左辺は、任意のz,θ
0について、値が常に1となる関数f
cnv(z,θ
0)となっている。
【0043】
式(10)より、ローパス型からバンドパス型へ変換するための変換式z→z’におけるz’は、次の通りである。
【数16】
上記式(11)より、式(3)の変換式が得られる。
なお、上記式(3)において、θ
0=π/2(f
0=fs/4の場合)とおくと、式(2)の変換式と等価であることがわかる。
さらに、ローパス型ΔΣ変換器は、θ
0=0である。θ
0=0の場合、式(3)の変換式は、z→zとなり、式(3)は、ローパス型ΔΣ変換器を変形させないことがわかる。
【0044】
また、z’=f
cnv(z,θ
0)の値は、−1でもよいため(絶対値が1であればよいため)、z’は、次の形式であってもよい。
【0046】
また、z’=f
cnv(z,θ
0)の分母と分子とを入れ替えても、1又は−1となるため、z’は、次の形式であってもよい。
【数18】
【数19】
【0047】
なお、任意のz,θ
0について、絶対値が常に1となる式z’=f
cnv(z,θ
0)の表現形式は、当然ながら、例示したものに限定されない。f
cnv(z,θ
0)について、多様な表現形式が存在することは、式(8)から一方の辺の値が1又は−1である恒等式を得るための式の変形の仕方が一通りではないことからも明らかである。
【0048】
[3.バンドパスΔΣ変調器の例]
[3.1 第1例]
図6は、
図2に示す1次ローパス型ΔΣ変調器125を、式(3)の変換式で変換して得られた2次バンドパス型ΔΣ変調器25を示している。
なお、
図2から
図6への変換では、表記の便宜上、式(3)において、a=cosθ
0とおいた下記の変換式を用いた。
【数20】
【0049】
[3.2 第2例]
図7は、非特許文献1に記載されたCRFB構造のループフィルタ127を持つローパス型ΔΣ変調器125を示している。なお、
図7において、符号128は、量子化器を示す。
【0050】
図7に示すローパス型ΔΣ変調器125を、式(3)の変換式で変換すると、
図8に示すバンドパス型ΔΣ変調器25が得られる。なお、ここでも、表記の便宜上、式(3)において、a=cosθ
0とおいた。
【0051】
図7の(1/(z−1))と(z/(z−1))におけるzが、変換式によって変換される。(1/(z−1))と(z/(z−1))の変換後の式は、それぞれ、次の通りである。
【数21】
【数22】
【0052】
[3.3 その他]
バンドパス型ΔΣ変調器への変換は、その他の高次ローパス型ΔΣ変調器(例えば、非特許文献1記載のCIFB構造、CRFF構造、CIFF構造など)に対しても適用できる。
【0053】
[4.出力結果]
図9〜
図12は、第2例(
図8)のバンドパス型ΔΣ変調器において、θ
0=π/4とした場合(
図9)、θ
0=3π/4とした場合(
図10)、θ
0=5π/4とした場合(
図11)、θ
0=7π/4とした場合(
図12)の出力スペクトラム波形を示している。
【0054】
図9〜
図12に示すように、θ
0=π/4,3π/4,5π/4,7π/4の各周波数において、信号が所望のθ
0において出現しており、θ
0=±π/2以外の他の周波数用のバンドパス型ΔΣ変調器が得られていることが分かる。
【0055】
[5.付記]
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。