特許第5786704号(P5786704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5786704
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】誘電体磁器組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/468 20060101AFI20150910BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20150910BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20150910BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   C04B35/46 D
   H01B3/12 303
   H01G4/12 358
   H01G4/30 301E
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-279786(P2011-279786)
(22)【出願日】2011年12月21日
(65)【公開番号】特開2013-129560(P2013-129560A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100097180
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 均
(74)【代理人】
【識別番号】100110917
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 亨
(72)【発明者】
【氏名】森ケ▲崎▼ 信人
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
(72)【発明者】
【氏名】小松 和博
(72)【発明者】
【氏名】松谷 淳生
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−222520(JP,A)
【文献】 特開2005−217000(JP,A)
【文献】 特開2011−136894(JP,A)
【文献】 特開2008−297179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/46−35/493
H01B 3/12
H01G 4/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として、チタン酸バリウム系複合酸化物を含み、
副成分として、R1元素の酸化物(R1元素は、La、Sm、Gd、TbおよびDyからなる群から選ばれる少なくとも1つである)を含む誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体磁器組成物は、複数の誘電体粒子を有し、前記誘電体粒子の少なくとも一部が、主相と、前記主相の周囲に存在し、前記R元素が固溶している拡散相と、からなるコアシェル構造を有する粒子であり、
前記誘電体粒子の平均結晶粒子径は、130nm〜200nmであり、
前記拡散相の厚みをra、前記コアシェル構造を有する粒子の結晶粒子径の半径をrbとしたとき、前記raおよびrbは、0.20≦ra/rb≦0.50である関係を満足し、
前記コアシェル構造を有する粒子の表面から、前記主相と前記拡散相との境界に向かう方向において、前記R元素の濃度勾配Sが負であり、前記Sは、0.010≦|S|≦0.040(atom%/nm)である関係を満足することを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
主成分として、チタン酸バリウム系複合酸化物を含み、
副成分として、R1元素の酸化物(R1元素は、La、Sm、Gd、TbおよびDyからなる群から選ばれる少なくとも1つである)を含む誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体磁器組成物は、複数の誘電体粒子を有し、前記誘電体粒子の少なくとも一部が、主相と、前記主相の周囲に存在し、前記R1元素が固溶している拡散相と、からなるコアシェル構造を有する粒子であり、
前記拡散相の厚みをra、前記コアシェル構造を有する粒子の結晶粒子径の半径をrbとしたとき、前記raおよびrbは、0.20≦ra/rb≦0.50である関係を満足し、
前記コアシェル構造を有する粒子の表面から、前記主相と前記拡散相との境界に向かう方向において、前記R1元素の濃度勾配Sが負であり、前記Sは、0.010≦|S|≦0.040(atom%/nm)である関係を満足し、
前記コアシェル構造を有する粒子の表面における前記R1元素の濃度が0.3〜1.8atom%であることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物から構成される誘電体層と、電極と、を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物および該誘電体磁器組成物が誘電体層に適用された電子部品に関する。さらに詳しくは、信頼性等の特性が良好な誘電体磁器組成物、および該誘電体磁器組成物が適用された電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高い。たとえば、電子部品の一例である積層セラミックコンデンサの小型・大容量化が急速に進んでおり、これに伴い用途も拡大している。その結果、このようなコンデンサには様々な特性が要求される。
【0003】
たとえば、高い定格電圧で使用される場合、高い電界強度下において使用されることとなるが、電界強度が高くなると、絶縁抵抗が低下しやすく、高温負荷寿命等の信頼性が低下してしまうという問題があった。
【0004】
たとえば、特許文献1には、BaTiO結晶粒子がMg、Mnおよび希土類元素を含み、これらのMg、Mnおよび希土類元素が、結晶粒子中心から粒子表面にかけて濃度が高くなる濃度勾配を有し、希土類元素の勾配が特定の範囲にある積層セラミックコンデンサが開示されている。この積層セラミックコンデンサは、誘電体層を薄層化しても、容量温度特性および高温負荷寿命等の信頼性に優れる旨が記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1には、電界強度が比較的低い場合の特性について記載されているため、さらに高い電界強度下における信頼性等の特性の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−217000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高い電界強度下においても良好な特性(たとえば、信頼性、静電容量温度特性など)を示す誘電体磁器組成物および該誘電体磁器組成物が誘電体層に適用された電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る誘電体磁器組成物は、
主成分として、チタン酸バリウム系複合酸化物を含み、
副成分として、R1元素の酸化物(R1元素は、La、Sm、Gd、TbおよびDyからなる群から選ばれる少なくとも1つである)を含む誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体磁器組成物は、複数の誘電体粒子を有し、前記誘電体粒子の少なくとも一部が、主相と、前記主相の周囲に存在し、前記R1元素が固溶している拡散相と、からなるコアシェル構造を有する粒子であり、
前記拡散相の厚みをra、前記コアシェル構造を有する粒子の結晶粒子径の半径をrbとしたとき、前記raおよびrbは、0.20≦ra/rb≦0.50である関係を満足し、
前記コアシェル構造を有する粒子の表面から、前記主相と前記拡散相との境界に向かう方向において、前記R1元素の濃度勾配Sが負であり、前記Sは、0.010≦|S|≦0.040(atom%/nm)である関係を満足することを特徴とする。
【0009】
本発明では、拡散相にR1元素が固溶したコアシェル構造を有する粒子(コアシェル構造粒子)を存在させている。このコアシェル構造粒子において、拡散相の厚み(ra)と結晶粒子径の半径(rb)との比を上記の範囲とし、さらに、拡散相におけるR1元素の濃度勾配Sの絶対値(|S|)を上記の範囲としている。このような構造を有することで、高温加速寿命等の信頼性の高い電子部品が得られる。
【0010】
また、本発明に係る電子部品は、上記に記載の誘電体磁器組成物から構成される誘電体層と、電極と、を有している。電子部品としては、特に限定されないが、高い定格電圧で使用される中高圧用の電子部品が好ましい。このような電子部品としては、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
図2図2は、図1に示す誘電体層2の要部拡大断面図である。
図3図3は、コアシェル構造粒子について、拡散相におけるR1元素の濃度勾配Sと、該粒子の結晶粒子径の半径と、該粒子の拡散相の厚みと、を測定する方法を説明するための模式図である。
図4図4(A)および(B)は、主成分原料の結晶性を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0013】
(積層セラミックコンデンサ1)
図1に示すように、積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0014】
(誘電体層2)
誘電体層2は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成されている。該誘電体磁器組成物は、主成分として、チタン酸バリウム系複合酸化物を含有し、副成分として、R1元素の酸化物を含有している。また、該誘電体磁器組成物は、複数の誘電体粒子を有する。
【0015】
(誘電体粒子)
本実施形態では、複数の誘電体粒子のうち、少なくとも一部の誘電体粒子は、主成分粒子内にR1元素が固溶(拡散)した粒子である。このような粒子は、図2に示すように、実質的に主成分からなる主相21aと、主相21aの周囲に存在し、R1元素が主成分に拡散している拡散相21bと、から構成されるコアシェル構造を有する結晶粒子(コアシェル構造粒子21)である。すなわち、主相21aは実質的に主成分からなっており、拡散相21bはR1元素が固溶した主成分からなっている。なお、副成分として、R1元素以外の元素の酸化物が、誘電体磁器組成物に含まれる場合、これらの元素が主成分粒子に固溶していてもよい。
【0016】
本実施形態では、図3に示すように、コアシェル構造粒子表面から主相と拡散相との境界に向かう方向において、R1元素の濃度勾配をSとすると、Sは負であり、かつSの絶対値(|S|)が0.010atom%/nm以上、0.040atom%/nm以下であるコアシェル構造粒子が存在する。また、|S|は0.02〜0.03atom%/nmであることが好ましい。
【0017】
また、本実施形態では、コアシェル構造粒子において、該粒子の結晶粒子径の半径をrbとし、該粒子の表面から該粒子の中心に向かう方向における拡散相の長さ(拡散相の厚み)をraとしたとき、ra/rbは0.20〜0.50である。また、ra/rbは0.3〜0.4であることが好ましい。
【0018】
本実施形態では、上記のR1元素の濃度分布と、結晶粒子径の半径と拡散相厚みとの比(ra/rb)と、を満足するコアシェル構造粒子が存在している。このような粒子を存在させることにより、電子部品としての信頼性を向上させるとともに、規定の温度域における容量変化率を抑制することができる。
【0019】
なお、コアシェル構造粒子表面におけるR1元素の濃度は0.3〜1.8atom%であることが好ましい。
【0020】
また、上述した|S|の範囲と(ra/rb)の範囲との両方を満足する粒子の割合は、誘電体粒子全体に対して、個数割合で、60%以上であることが好ましい。粒子の割合を上記の範囲とすることで、信頼性に優れ、温度による容量変化率にも優れるという効果が得られる。
【0021】
特に、|S|の範囲およびra/rbの範囲の一方、あるいは、両方が、上述した好ましい範囲を満足するコアシェル構造粒子の割合が60%以上である場合には、さらに良好な特性が得られる。
【0022】
なお、誘電体粒子として、図2に示すように、コアシェル構造を有さない粒子20が含まれていてもよい。また、通常、コアシェル構造の有無は、誘電体層2の断面写真に基づいて判断している。そのため、実際にはコアシェル構造を有しているにもかかわらず、断面写真において拡散相のみしか現れていないコアシェル構造粒子が存在する。
【0023】
|S|、raおよびrbを測定する方法としては、特に制限されず、本実施形態では、たとえば、下記に示す方法により行う。
【0024】
まず、誘電体粒子がコアシェル構造を有しているか否かを判断する。たとえば、走査透過型電子顕微鏡(STEM)による明視野像において、誘電体粒子内に観察されるコントラストが異なる2つの相に基づいて判断してもよい。あるいは走査透過型電子顕微鏡(STEM)に付属のエネルギー分散型X線分光装置(EDS)を用いて、誘電体粒子内の主成分を構成する元素以外の元素の含有割合の分布から判断してもよい。
【0025】
本実施形態では、誘電体粒子内のR1元素の分布を示すマッピングデータを測定し、R1元素の検出量が0.2atom%未満である領域を主相とし、検出量が0.2atom%以上である領域を拡散相とする。そして、粒子内において、主相の周りの少なくとも一部を覆うように拡散相が存在しているものをコアシェル構造を有する粒子(コアシェル構造粒子)であると判断する。
【0026】
そして、コアシェル構造粒子と判断された粒子について、該粒子の結晶粒子径の半径と、該粒子の表面から該粒子の中心に向かう方向における拡散相の長さと、を測定し、それぞれ、rb、raとする。
【0027】
rbの測定方法は、後述する誘電体粒子の結晶粒子径の半径の測定方法と同様にすればよい。また、raは、たとえば次のようにして測定すればよい。図3に示すように、該粒子の略中心を通る直線において、主相と拡散相との境界と該粒子の表面との間の距離を測定する。この測定を3回以上行い、得られた距離の平均値を拡散相の厚み(ra)とする。
【0028】
次に、コアシェル構造粒子に対し、STEMに付属のEDSを用いて、図3に示すように、粒子20の略中心を通る直線上で点分析を行う。分析により得られた特性X線を解析して得られたR1元素の含有割合から、R1元素の濃度勾配Sを算出し、その絶対値(|S|)が上述した範囲内であるか否かを判断する。
【0029】
上述した構造は、たとえば、主成分原料の結晶性あるいは平均粒径、R1元素の種類あるいは含有量、焼成条件等を制御することで達成される。
【0030】
本実施形態では、誘電体粒子の平均結晶粒子径は、130〜200nmであることが好ましい。
【0031】
なお、誘電体粒子の結晶粒子径は、たとえば以下のようにして算出すればよい。まず、コンデンサ素子本体10を誘電体層2および内部電極層3の積層方向に平行な面から中心まで研磨した後、サーマルエッチング処理を施し、得られたエッチング面を電界放出型走査型顕微鏡(FE−SEM)で観察する。FE−SEM観察により、2次電子像として得られる誘電体粒子の面積を測定し、その面積に相当する円の直径(円相当径)を算出した値を結晶粒子径とする。得られた結晶粒子径を2で割ったものを結晶粒子径の半径とする。
【0032】
また、得られた結晶粒子径から平均結晶粒子径を算出する方法としては特に制限されないが、たとえば、結晶粒子径を2000個以上の誘電体粒子について測定し、そのメジアン径を平均結晶粒子径とすればよい。
【0033】
チタン酸バリウム系複合酸化物としては、たとえば一般式{(Ba(100−x−y)CaSr)O}(Ti(100−z)Zr)Oで表される化合物が例示される。なお、x,y,zは、いずれも任意の範囲である。Aサイト原子とBサイト原子との比を示すA/B比は、化学量論組成から若干偏倚してもよい。また、酸素(O)量も化学量論組成から若干偏倚してもよい。
【0034】
本実施形態では、チタン酸バリウム系複合酸化物としてチタン酸バリウム(BaTiO)が特に好ましい。
【0035】
R1元素は、La、Sm、Gd、TbおよびDyから選ばれる少なくとも1つであり、Gd、TbおよびDyから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。なお、本実施形態では、該誘電体磁器組成物は、R1元素の酸化物に加え、R2元素の酸化物を含有することが好ましい。
【0036】
R2元素は、Y、Ho、YbおよびErから選ばれる少なくとも1つであり、Y、HoおよびYbから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0037】
R1元素の分布を上記のように制御することで、高温加速寿命等の信頼性を向上させることができる。また、R2元素が含まれることで、上述した構成が容易に得られる。
【0038】
R1元素の酸化物の含有量は、主成分100モルに対して、R1換算で、好ましくは1.2〜2.4モルである。また、R2元素の酸化物が含まれる場合には、R1元素の酸化物およびR2元素の酸化物の合計の含有量は、酸化物換算で1.7〜2.9モルであることが好ましい。
【0039】
本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、さらに、所望の特性に応じて、その他の成分を含有してもよい。たとえば、Mgの酸化物、Baの酸化物、Mnの酸化物、Vの酸化物などが挙げられる。また、SiOなど、Siを含む酸化物を含有してもよい。
【0040】
誘電体層2の厚みは、小型高容量化の要求に応えるため、一層あたり0.3〜3.5μm程度であることが好ましい。
【0041】
誘電体層2の積層数は、特に限定されないが、20以上であることが好ましい。積層数の上限は、特に限定されないが、たとえば2000程度である。
【0042】
(内部電極層3)
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されず、たとえばNiまたはNi合金など公知の導電材を用いればよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、0.1〜1.5μm程度であることが好ましい。
【0043】
(外部電極4)
外部電極4に含有される導電材は特に限定されず、たとえばNi,Cuや、これらの合金など公知の導電材を用いればよい。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、10〜50μm程度であることが好ましい。
【0044】
(積層セラミックコンデンサ1の製造方法)
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、公知の方法により製造すればよい。本実施形態では、ペーストを用いてグリーンチップを作製し、これを焼成することで、積層セラミックコンデンサを製造する。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0045】
まず、誘電体層を形成するための誘電体原料を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
【0046】
本実施形態では、まず、主成分原料としてのチタン酸バリウム系複合酸化物の原料と、副成分原料としてのR1元素の酸化物の原料と、を準備する。なお、副成分の原料として、R1元素の酸化物以外の酸化物の原料を準備してもよい。
【0047】
これらの原料としては、酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物を用いてもよい。
【0048】
なお、チタン酸バリウム系複合酸化物の原料として、以下に示すチタン酸バリウム粉末を用いることが好ましい。
【0049】
一般的に、チタン酸バリウム(BaTiO)の粉末を、粉末X線回折により測定すると、ペロブスカイト型結晶構造の(002)面および(200)面での回折に起因するピークが観察される。
【0050】
本実施形態では、図4(A)に示すように、(002)面の回折角と(200)面の回折角との間において、回折強度の極小点を持たないチタン酸バリウム粉末を用いることが好ましい。すなわち、(002)面でのピークから(200)面でのピークに向かうにつれて、回折強度が連続的に増加あるいは減少していることが好ましい。
【0051】
このようなチタン酸バリウム粉末は、結晶性が比較的低いため、各ピークがブロードとなり、回折強度の極小点が観察されない。
【0052】
また、このチタン酸バリウム粉末のBET比表面積は5.0m/g以上であることが好ましい。
【0053】
すなわち、本実施形態では、チタン酸バリウム系複合酸化物の原料として、BET比表面積が比較的高く、結晶性の低い粉末が好ましい。
【0054】
また、(002)面の回折角と(200)面の回折角との間において、回折強度の極小点を有するチタン酸バリウム粉末であっても、下記に示すK−factorとBET比表面積との積が特定の範囲内にある粉末を好適に用いることができる。
【0055】
図4(B)に示すように、K−factorは、(002)面および(200)面でのピーク強度のうち、大きい方の強度(b)と、回折強度の極小点の強度(a)と、の比(b/a)として表される。
【0056】
本実施形態では、このK−factorとBET比表面積との積(α)が30以下であることが好ましい。αを上記の範囲することで、BET比表面積が比較的高くかつ結晶性の低い粉末を選択できる。
【0057】
誘電体原料は、主成分原料と副成分原料とを混合して得られる。また、主成分原料と、少なくとも一部の副成分原料と、を仮焼し、残りの副成分原料を添加することで誘電体原料を得てもよい。あるいは、主成分原料粉末の表面に、少なくとも一部の副成分原料粉末を、物理的または化学的な手法により固定させてもよい。本実施形態では、主成分原料と少なくとも一部の副成分原料とを仮焼する、あるいは、主成分原料粉末の表面に少なくとも一部の副成分原料粉末を固定させることにより、誘電体原料を得ることが好ましい。
【0058】
誘電体層用ペーストは、上記の誘電体原料と、バインダと、溶剤と、を混練して得られる。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。該ペーストは、必要に応じて、可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0059】
内部電極層用ペーストは、上記の導電材と、バインダと、溶剤と、を混練して得られる。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。該ペーストは、必要に応じて、共材や可塑剤等の添加物を含んでもよい。
【0060】
外部電極用ペーストは、内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0061】
得られたペーストを用いて、グリーンシートや内部電極パターンを形成し、これらを積層してグリーンチップを得る。
【0062】
得られたグリーンチップに対し、脱バインダ処理を行う。脱バインダ処理条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、保持温度を好ましくは180〜400℃とする。
【0063】
脱バインダ処理後、グリーンチップの焼成を行い、焼結体としてのコンデンサ素子本体を得る。焼成条件は、昇温速度を100〜1200℃/時間、保持温度を1100〜1300℃、焼成時の酸素分圧を2.0×10−7 〜 5.2×10−7Paとすることが好ましい。
【0064】
焼成後、得られたコンデンサ素子本体に対し、再酸化処理(アニール)を行うことが好ましい。アニール条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、アニール時の酸素分圧を焼成時の酸素分圧よりも高い酸素分圧とし、保持温度を1100℃以下とすることが好ましい。
【0065】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0066】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0068】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係るセラミック電子部品として、積層セラミックコンデンサを例示したが、このようなセラミック電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成を有する電子部品であれば何でも良い。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0070】
(実験1)
まず、主成分の原料として、平均粒径が表1に示す値であるBaTiO粉末を準備した。
【0071】
試料番号1〜7については、BET1点法により測定したBET比表面積が8.0m/gであり、(002)面の回折角と(200)面の回折角との間で回折強度の極小点を有するBaTiO粉末を用いた。また、試料番号1〜7については、K−factorとBET比表面積との積(α)は表1に示す値であった。
【0072】
試料番号8〜10については、BET比表面積が8.0m/gであり、回折強度の極小点を有さないBaTiO粉末を用いた。
【0073】
副成分の原料は、R1元素の酸化物の原料として、Dy粉末を準備し、さらに、MgO粉末、SiO粉末、MnO粉末、BaO粉末およびV粉末を準備した。
【0074】
次に、上記で準備したBaTiO粉末と副成分の原料とを混合し、800℃で3時間仮焼した。仮焼後の粉末を粉砕して誘電体原料を得た。なお、各副成分の添加量は、焼成後の誘電体磁器組成物において、主成分であるBaTiO100モルに対して、酸化物換算で、以下の組成となるように配合した。Dyが1.8モル%、MgOが1.4モル%、SiOが1.6モル%、MnOが0.1モル%、BaOが0.5モル%、Vが0.05モル%であった。
【0075】
次いで、得られた誘電体原料と、バインダ等を含む有機ビヒクルとを混合して誘電体層用ペーストを作製した。また、Niを含む内部電極層用ペーストを作製した。
【0076】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、グリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体を得て、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0077】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件で行い、コンデンサ素子本体としての焼結体を得た。
【0078】
脱バインダ処理条件は、昇温速度を25℃/時間、保持温度を260℃、温度保持時間を8時間、雰囲気を空気中とした。
【0079】
焼成条件は、昇温速度および降温速度を600℃/時間、保持温度を1200〜1300℃とし、保持時間を2時間とした。雰囲気ガスは、加湿したN+H混合ガス(酸素分圧:10−13MPa)とした。
【0080】
アニール条件は、昇温速度および降温速度を200℃/時間、保持温度を1050℃、温度保持時間を2時間とした。雰囲気ガスは、加湿したNガス(酸素分圧:10−7MPa)とした。
【0081】
次いで、得られた焼結体に外部電極を形成して、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.8mmであり、誘電体層の厚みが約3.0μm、内部電極層の厚みが約0.8μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は100であった。
【0082】
得られたコンデンサ試料について、誘電体粒子の平均結晶粒子径を測定し、R1元素の濃度勾配Sの絶対値(|S|)と、コアシェル構造粒子の結晶粒子径の半径(rb)および拡散相の厚み(ra)と、を算出した。さらに高温加速寿命(HALT)および温度に対する容量変化率の測定を、それぞれ下記に示す方法により行った。
【0083】
(平均結晶粒子径)
コンデンサ試料を中心まで研磨し、その研磨面を焼成温度よりも100℃低い温度でサーマルエッチング処理した。処理後の研磨面を、電界放出型電子顕微鏡(FE−SEM)により観察し、2次電子像によるSEM写真を撮影した。このSEM写真をソフトウェアにより画像処理を行い、誘電体粒子の境界を判別し、各誘電体粒子の面積を算出した。そして、算出された誘電体粒子の面積を円相当径に換算して結晶粒子径を算出した。この測定を2000個の誘電体粒子について行い、そのメジアン径を平均結晶粒子径とした。結果を表1に示す。
【0084】
(R1元素の濃度勾配Sの絶対値(|S|))
まず、コンデンサ試料を誘電体層に対して垂直な面で切断した。この切断面について、透過型電子顕微鏡(TEM)に付属のEDS装置を用いて、面分析を行い、R1元素のマッピングデータを得た。
【0085】
得られたデータに基づき、R1元素の濃度が0.2atom%未満である領域と、0.2atom%以上である領域と、に分け、誘電体粒子がコアシェル構造を有しているか否かについて評価した。
【0086】
次いで、コアシェル構造を有する粒子について、拡散相におけるR1元素の濃度勾配Sの絶対値(|S|)を算出した。結果を表1に示す。
【0087】
(コアシェル構造粒子の結晶粒子径の半径および拡散相の厚みの測定)
コアシェル構造粒子の結晶粒子径の半径(rb)は、上記の方法により測定した。また、誘電体粒子内において、粒子表面から粒子中心に向かう方向に拡散相の長さを3箇所測定し、その平均値を拡散相の厚み(ra)とした。
【0088】
(高温加速寿命(HALT))
コンデンサ試料に対し、195℃にて、25V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、寿命時間を測定することにより、高温加速寿命を評価した。本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を故障時間とし、これをワイブル解析することにより算出した平均故障時間(MTTF)を寿命と定義した。また、本実施例では、上記の評価を10個のコンデンサ試料について行い、その平均値を高温加速寿命とした。本実施例では高温加速寿命が20時間以上であった試料を良好であると判断した。結果を表1に示す。
【0089】
(静電容量変化率)
コンデンサ試料に対し、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件下で、静電容量を測定した。そして、25℃での静電容量(C25)と、−55℃での静電容量(C−55)と、125℃での静電容量(C125)と、に基づき、下記式(1)または(2)で表される静電容量温度変化率を算出した。
{(C125−C25)/C25}×100 (1)
{(C−55−C25)/C25}×100 (2)
式(1)および(2)より算出された静電容量温度変化率のうち、絶対値がより大きい方を表1に示した。本実施例では、EIA規格のX7R特性(静電容量温度変化率が−15%〜+15%)、X7S特性(静電容量温度変化率が−22%〜+15%)を満足するか否かを評価した。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1より、チタン酸バリウム粉末の結晶性を制御することで、ra/rbおよび|S|を制御できることが確認できた。また、試料番号1〜3は、ra/rbが上述した範囲の下限値未満となるか、|S|が上述した範囲の上限値よりも大きくなるため、高温加速寿命が悪化していることが確認できた。
【0092】
これに対し、試料番号4〜10は、ra/rbおよび|S|の両方が上述した範囲内であるため、高温加速寿命が良好であることが確認できた。特に、試料番号6および7は、X7R特性も満足することが確認できた。
【0093】
(実験2)
Dyの代わりに、表2に示す元素を用いた以外は、実験1の試料番号10と同様にして、積層セラミックコンデンサの試料を作製し、実験1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。なお、試料番号13〜15については、R2元素を用い、|S|に相当する傾きを算出した。
【0094】
Dyの代わりに、表3に示す元素を用いた以外は、実験1の試料番号8と同様にして、積層セラミックコンデンサの試料を作製し、実験1と同様の評価を行った。結果を表3に示す。なお、試料番号18〜20については、R2元素を用い、|S|に相当する傾きを算出した。
【0095】
Dyの代わりに、表4に示す元素を用いた以外は、実験1の試料番号9と同様にして、積層セラミックコンデンサの試料を作製し、実験1と同様の評価を行った。結果を表4に示す。なお、試料番号23〜25については、R2元素を用い、|S|に相当する傾きを算出した。
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
表2〜4より、Dy等のR1元素を用いた場合には、高温加速寿命が良好であり、Y等のR2元素を用いた場合には、高温加速寿命が悪化する傾向にあることが確認できた。
【0100】
また、表4より、R1元素を用い、|S|の値が上述した範囲内であっても、ra/rbの値が上述した範囲外である場合には、容量温度変化率が悪化する傾向にあることが確認できた。さらに、R2元素を用いた場合、|S|およびra/rbの両方が上述した範囲内であっても、高温加速寿命が悪化する傾向にあった。すなわち、R1元素を用い、|S|およびra/rbの両方が上述した範囲内でなければ、良好な高温加速寿命が得られないことが確認できた。
【0101】
(実験3)
表5に示すR1元素およびR2元素を用いた以外は、実験1の試料番号8と同様にして、積層セラミックコンデンサの試料を作製し、実験1と同様の評価を行った。結果を表5に示す。なお、試料番号26〜30については、R1元素の酸化物の含有量を1.8モル%とし、R2元素の酸化物の含有量を0.5モル%とした。試料番号31〜33については、R2元素の酸化物の含有量を2.3モル%とした。試料番号34および35については、R1元素の酸化物の含有量を2.3モル%とした。
【0102】
【表5】
【0103】
表5より、試料番号26〜30は、R1元素とR2元素とを含有しているため、高温加速寿命が良好であり、かつ容量変化率が低下して、X7R特性を満足することが確認できた。
【0104】
これに対し、R2元素のみを複数含有している場合には、|S|が上述した範囲外となり、R1元素のみを複数含有している場合には、高温加速寿命が非常に良好となることが確認できた。
【0105】
(実験4)
DyおよびHoの含有量を表6に示す量とした以外は、実験1の試料番号8と同様にして、積層セラミックコンデンサの試料を作製し、実験1と同様の評価を行った。結果を表6に示す。
【0106】
【表6】
【0107】
表6より、試料番号37〜41および、試料番号43〜47は、R1の酸化物の含有量と、R1の酸化物およびR2の酸化物の合計の含有量と、が上述した範囲内であるため、高温加速寿命が向上しつつ、X7R特性を満足することが確認できた。
【0108】
試料番号42のように、ra/rbの値が上述した範囲内であっても、|S|の値が上述した範囲の下限値よりも小さい場合には、容量温度変化率が悪化する傾向であることが確認された。また、試料番号48のように、|S|の値が上述した範囲内であってもra/rbの値が上述した範囲の下限値未満である場合は高温加速寿命が悪化する傾向にあることが確認できた。すなわち、|S|およびra/rbの両方が上述した範囲内でなければ、良好な高温加速寿命が得られないことが確認できた。
【符号の説明】
【0109】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
21… コアシェル構造粒子
21a… 主相
21b… 拡散相
3… 内部電極層
4… 外部電極
図1
図2
図3
図4