(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施の形態〕
図1は、実施の形態に係る蛍光体粉末の製造工程を表すフローチャートである。蛍光体粉末は、例えば、窒化物を母物質とするCaAlSiN
3:Eu等の窒化物蛍光体や、酸化物を母物質とする(Ba,Sr)
2SiO
4:Eu等の酸化物蛍光体の粉末である。以下、
図1のフローチャートに従って、蛍光体粉末の製造工程について説明する。
【0019】
まず、蛍光体の原料、及び炭素原料を化学量論比に従って秤量する(ステップS1)。
【0020】
炭素原料として粉末状のCを用いる場合は、蛍光体の原料に対して10mol%以上の炭素原料を混合することが好ましく、蛍光体の原料に対して30mol%以上の炭素原料を混合することがより好ましい。炭素原料として粉末状のC
3N
4を用いる場合は、蛍光体の原料に対して10mol%以上の炭素原料を混合することが好ましい。また、炭素原料としてチップ状のCを用いる場合は、蛍光体の原料に対して10mol%以上の炭素原料を混合することが好ましい。
【0021】
次に、秤量した蛍光体の原料及び炭素原料を混合して前駆体を形成する(ステップS2)。
【0022】
次に、前駆体をルツボに入れて電気炉で加熱し、焼成して、蛍光体粉末を得る(ステップS3)。焼成条件は、温度、時間、圧力が、それぞれ1600〜2300℃、1〜24時間、0〜1MPaであることが好ましい。また、N
2ガス等の不活性ガス雰囲気下で焼成を行うことが好ましい。
【0023】
本実施の形態に係る蛍光体粉末は、焼成直後の粒径のばらつきが小さい(粒度分布の均一性が高い)ため、最終的に得られる蛍光体粉末の粒径のばらつきも小さい。そのため、分級により除外され、廃棄される粉末が少なく、蛍光体粉末の歩留まりが高い。その結果、蛍光体粉末の製造コストを下げることができる。さらに、焼成後の粒径のばらつきが十分に小さい場合は、分級工程を省略することができる。
【0024】
炭素の添加により蛍光体粉末の粒径のばらつきが小さくなる機構は明らかではないが、焼成時に炭化物や炭酸化物等の炭素含有化合物が生成され、蛍光体の粒成長を阻害することによると推測される。
【0025】
炭素の添加により蛍光体粉末の粒径のばらつきが小さくなるという効果は、酸化物蛍光体よりも、窒化物蛍光体において顕著に現れる。これは、酸化物蛍光体においては、一部の炭素が酸化物の還元に用いられることによると考えられる。すなわち、一部の炭素が酸素と結合して二酸化炭素等として排出されるため、炭素含有化合物の生成量が少なくなり、窒化物蛍光体の場合ほどには粒成長が阻害されないものと考えられる。
【0026】
なお、蛍光体粉末の粒径のばらつきを小さくするためには、還元により酸素を除去するために用いられる炭素原料の量(例えば、粉末状のCで蛍光体の原料に対して0.03〜0.1wt%)では不十分である。これは、微量の炭素では炭素含有化合物がほとんど生成されず、粒成長が阻害されないためと考えられる。
【0027】
蛍光体粉末の粒径のばらつきの指標として、D90とD10の差であるD90−D10の値を用いることができる。ここで、D90は、体積基準のアンダーサイズ累積(粒径の小さいものからの累計)が90%での粒径を表し、D10は、体積基準のアンダーサイズ累積が10%での粒径を表す。D90−D10の値が小さいほど、粒径のばらつきが小さい。
【0028】
例えば、蛍光体粉末が窒化物蛍光体粉末である場合のD90−D10の値は41μm以下であり、好ましくは28μm以下、より好ましくは20μm以下である。また、蛍光体粉末が酸化物蛍光体粉末である場合のD90−D10の値は50μm以下であり、好ましくは47μm以下である。
【0029】
また、本実施の形態に係る蛍光体粉末は、焼成直後の粒径が小さい。このため、焼成後の蛍光体粉末の粒径が十分に小さく、所望の粒径が得られている場合は、粉砕処理を省略することができる。
【0030】
ここで、体積基準のアンダーサイズ累積が50%での粒径D50(メジアン径とも呼ばれる)の値を粒径分布の指標として用いることができる。
【0031】
例えば、蛍光体粉末が窒化物蛍光体粉末である場合のD50の値は19μm以下であり、好ましくは15μm以下である。また、蛍光体粉末が酸化物蛍光体粉末である場合のD50の値は24μm以下であり、好ましくは22μm以下である。
【0032】
上記のD10、D50、D90の値は、蛍光体粉末を解砕した後、レーザー回折・散乱法等により測定することができる。解砕は、粒子の凝集を解く処理であり、粒径を小さくするための粉砕とは異なる。
【0033】
次に、蛍光体粉末に粉砕処理を施し、微粒化する(ステップS4)。ただし、上述のように、ステップS3の焼成直後の蛍光体粉末の粒径が十分に小さく、所望の粒径が得られている場合は、粉砕処理を省略することができる。
【0034】
次に、蛍光体粉末を水又は酸水溶液を用いて洗浄し(ステップS5)、乾燥させる(ステップS6)。
【0035】
次に、蛍光体粉末を分級し、所望の粒径を有する粒子を選出する(ステップS7)。ただし、上述のように、ステップS3の焼成直後の蛍光体粉末の粒径のばらつきが十分に小さく、所望の均一性が得られている場合は、分級処理を省略することができる。
【実施例1】
【0036】
実施例1として、上記実施の形態によって製造したCaAlSiN
3:Euからなる窒化物蛍光体粉末の評価結果を以下に述べる。
【0037】
実施例1においては、Ca
3N
2、AlN、Si
3N
4、及びEu
2O
3をCaAlSiN
3:Eu蛍光体の原料として用いて、粉末状のC、チップ状のC、及び粉末状のC
3N
4を炭素原料として用いた。
【0038】
以下、実施例1において製造した、炭素原料を添加していないCaAlSiN
3:Eu蛍光体粉末を試料A、10mol%の粉末状のCを添加したCaAlSiN
3:Eu蛍光体粉末を試料B、30mol%の粉末状のCを添加したCaAlSiN
3:Eu蛍光体粉末を試料C、10mol%の粉末状のC
3N
4を添加したCaAlSiN
3:Eu蛍光体粉末を試料D、18.8mol%のチップ状のCを添加したCaAlSiN
3:Eu蛍光体粉末を試料Eと記載する。
【0039】
図2及び
図3は、実施例1に係る試料A、B、C、D、Eの焼成直後の体積基準の粒度分布を表すグラフである。ここで、
図2は頻度分布を表し、
図3は累積分布を表す。
【0040】
図2及び3の粒度分布は、各試料を解砕した後、レーザー回折・散乱法により測定した。測定において、イオン交換水を溶媒として用いた。
【0041】
図2から、炭素を添加したいずれの蛍光体粉末も、炭素を添加していない蛍光体粉末よりも曲線のピーク位置が小粒径側にあり、また、曲線の形状がシャープである。このことから、炭素を添加したいずれの蛍光体粉末も、炭素を添加していない蛍光体粉末よりも頻度の最も高い粒径が小さく、また、粒径のばらつきが小さいことがわかる。
【0042】
また、各蛍光体粉末のD10、D50、D90を
図3から求めることができる。D10、D50、D90は、それぞれ各曲線における体積基準の累計(%)が10、50、90であるときの粒径(μm)である。各蛍光体粉末のD10、D50、D90、及びD90−D10の値(μm)を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
炭素を添加したいずれのCaAlSiN
3:Eu蛍光体粉末も、炭素を添加していないCaAlSiN
3:Eu蛍光体粉末よりもD90−D10の値が小さく、粒径のばらつきが小さいことがわかる。
【0045】
表1は、炭素を添加した全ての試料、試料B、C、D、EのD90−D10の値が41μm以下であり、試料C、D、EのD90−D10の値が28μm以下であり、試料CのD90−D10の値が20μm以下であることを示している。
【0046】
また、表1は、炭素を添加した全ての試料、試料B、C、D、EのD50の値が19μm以下であり、試料CのD50の値が15μm以下であることを示している。
【0047】
図4は、試料A、B、Cの粒度分布を
図1から抜き出したグラフである。
【0048】
図4からわかるように、粉末状のCの添加量の増加に伴い、曲線のピーク位置が小粒径側にシフトし、また、曲線の形状がシャープになっている。このことから、頻度の最も高い粒径が小さくなり、また、粒径のばらつきが小さくなることがわかる。
【0049】
また、
図2からわかるように、粉末状のC
3N
4を添加したCaAlSiN
3:Eu蛍光体粉末と、チップ状のCを添加したCaAlSiN
3:Eu蛍光体粉末も、炭素を添加していないCaAlSiN
3:Eu蛍光体粉末よりも、頻度の最も高い粒径が小さく、また、粒径のばらつきが小さい。このことから、粒径のばらつきを小さくするためにCaAlSiN
3:Eu蛍光体粉末に添加される炭素原料の組成や形状は、限定されないといえる。
【実施例2】
【0050】
実施例2として、上記実施の形態によって製造した(Ba,Sr)
2SiO
4:Eu(BOS)からなる酸化物蛍光体粉末の評価結果を以下に述べる。
【0051】
実施例2においては、BaCO
3、SrCO
3、SiO
2、Eu
2O
3、及び融剤としてのハロゲン化合物を混合したものを(Ba,Sr)
2SiO
4:Eu蛍光体の原料として用いて、粉末状のCを炭素原料として用いた。実施例2において製造した(Ba,Sr)
2SiO
4:Eu蛍光体の具体的な組成は、(Ba
0.90Sr
0.10)
1.92SiO
4:Eu
0.08である。
【0052】
以下、実施例2において製造した、炭素原料を添加していない(Ba,Sr)
2SiO
4:Eu蛍光体粉末を試料F、10mol%の粉末状のCを添加した(Ba,Sr)
2SiO
4:Eu蛍光体粉末を試料G、30mol%の粉末状のCを添加した(Ba,Sr)
2SiO
4:Eu蛍光体粉末を試料Hと記載する。
【0053】
図5及び
図6は、実施例2に係る試料F、G、Hの焼成直後の体積基準の粒度分布を表すグラフである。ここで、
図5は頻度分布を表し、
図6は累積分布を表す。
【0054】
図5及び6の粒度分布は、各試料を解砕した後、レーザー回折・散乱法により測定した。測定において、イオン交換水を溶媒として用いた。
【0055】
図5からわかるように、粉末状のCの添加量の増加に伴い、曲線の形状がシャープになっており、粒径のばらつきが小さくなることがわかる。なお、粒径の変化は、実施例1の酸化物蛍光体粉末ほど大きくはない。
【0056】
また、各蛍光体粉末のD10、D50、D90を
図6から求めることができる。各蛍光体粉末のD10、D50、D90、及びD90−D10の値(μm)を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
炭素を添加したいずれの(Ba,Sr)
2SiO
4:Eu蛍光体粉末も、炭素を添加していない(Ba,Sr)
2SiO
4:Eu蛍光体粉末よりもD90−D10の値が小さく、粒径のばらつきが小さいことがわかる。
【0059】
表2は、炭素を添加した全ての試料、試料G、H、のD90−D10の値が50μm以下であり、試料HのD90−D10の値が47μm以下であることを示している。
【0060】
また、表2は、炭素を添加した全ての試料、試料G、HのD50の値が24μm以下であり、試料HのD50の値が22μm以下であることを示している。
【0061】
本発明は、上記の実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0062】
また、上記の実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。