特許第5786756号(P5786756)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5786756
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】蛍光体粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20150910BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20150910BHJP
   C09K 11/59 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   C09K11/08 B
   C09K11/64CQD
   C09K11/59CPR
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-33299(P2012-33299)
(22)【出願日】2012年2月17日
(65)【公開番号】特開2013-170184(P2013-170184A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】関 聡美
(72)【発明者】
【氏名】並木 明生
【審査官】 馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−336450(JP,A)
【文献】 特開2008−163259(JP,A)
【文献】 特開2008−088399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体原料に炭素原料として粉末状のCを30mol%以上添加して前駆体を形成する工程と、
前記前駆体を焼成し、蛍光体粉末を得る工程と、
を含み、
前記焼成の直後の前記蛍光体粉末の粒度分布における、体積基準のアンダーサイズ累積が90%の粒径であるD90と10%の粒径であるD10との差が、前記蛍光体粉末がCaAlSiN:Euの粉末である場合は41μm以下であり、(Ba,Sr)SiO:Euの粉末である場合は50μm以下であることにより、前記蛍光体粉末に粉砕処理及び分級処理を施さない、
蛍光体粉末の製造方法。
【請求項2】
前記蛍光体粉末がCaAlSiN:Euの粉末である場合の前記D90とD10との差が、28μm以下である、
請求項1に記載の蛍光体粉末の製造方法。
【請求項3】
前記蛍光体粉末がCaAlSiN:Euの粉末である場合の前記D90とD10との差が、20μm以下である、
請求項1又は2に記載の蛍光体粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の蛍光体粉末の製造方法として、蛍光体粉末又はその原料化合物に炭素を添加し、還元することにより、原料化合物に含有される酸素を除去する方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1によれば、AlN:Eu、Si蛍光体を製造した後、AlN:Eu、Si蛍光体に対して0.03〜0.1wt%の高純度カーボンを添加し、アニール処理を行う。
【0004】
また、特許文献2によれば、蛍光体の原料混合物を焼成する際に、炭素若しくは炭素含有化合物からなる容器、発熱体、又は断熱材から生じる微量の炭素を蛍光体の原料混合物に添加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−046780号公報
【特許文献2】特開2008−208238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、所望の粒径の蛍光体粉末を得るためには、製造した蛍光体粉末を分級し、所望の粒径を有する粒子を選出する。このとき、所望したものと異なる粒径を有する粒子は、通常、廃棄されるため、製造した蛍光体粉末の粒径のばらつきが大きいほど蛍光体粉末の歩留まりが低下し、製造コストが高くなる。そのため、蛍光体粉末は、粒径が小さいだけでなく、ばらつきが小さいことが求められる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、粒径が小さく、かつ粒径のばらつきの小さい蛍光体粉末を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一態様は、蛍光体原料に炭素原料として粉末状のCを30mol%以上添加して前駆体を形成する工程と、
前記前駆体を焼成し、蛍光体粉末を得る工程と、
を含み、
前記焼成の直後の前記蛍光体粉末の粒度分布における、体積基準のアンダーサイズ累積が90%の粒径であるD90と10%の粒径であるD10との差が、前記蛍光体粉末がCaAlSiN:Euの粉末である場合は41μm以下であり、(Ba,Sr)SiO:Euの粉末である場合は50μm以下であることにより、前記蛍光体粉末に粉砕処理及び分級処理を施さない、
蛍光体粉末の製造方法を提供する。
【0009】
前記蛍光体粉末がCaAlSiN:Euの粉末である場合の前記D90とD10との差が、28μm以下であってもよい。
【0010】
前記蛍光体粉末がCaAlSiN:Euの粉末である場合の前記D90とD10との差が、20μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粒径が小さく、かつ粒径のばらつきの小さい蛍光体粉末を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施の形態に係る蛍光体粉末の製造工程を表すフローチャートである。
図2図2は、実施例1に係る試料A、B、C、D、Eの焼成直後の体積基準の粒度分布を表すグラフである。
図3図3は、実施例1に係る試料A、B、C、D、Eの焼成直後の体積基準の粒度分布を表すグラフである。
図4図4は、試料A、B、Cの粒度分布を図1から抜き出したグラフである。
図5図5は、実施例2に係る試料F、G、Hの体積基準の粒度分布を表すグラフである。
図6図6は、実施例2に係る試料F、G、Hの体積基準の粒度分布を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施の形態〕
図1は、実施の形態に係る蛍光体粉末の製造工程を表すフローチャートである。蛍光体粉末は、例えば、窒化物を母物質とするCaAlSiN:Eu等の窒化物蛍光体や、酸化物を母物質とする(Ba,Sr)SiO:Eu等の酸化物蛍光体の粉末である。以下、図1のフローチャートに従って、蛍光体粉末の製造工程について説明する。
【0019】
まず、蛍光体の原料、及び炭素原料を化学量論比に従って秤量する(ステップS1)。
【0020】
炭素原料として粉末状のCを用いる場合は、蛍光体の原料に対して10mol%以上の炭素原料を混合することが好ましく、蛍光体の原料に対して30mol%以上の炭素原料を混合することがより好ましい。炭素原料として粉末状のCを用いる場合は、蛍光体の原料に対して10mol%以上の炭素原料を混合することが好ましい。また、炭素原料としてチップ状のCを用いる場合は、蛍光体の原料に対して10mol%以上の炭素原料を混合することが好ましい。
【0021】
次に、秤量した蛍光体の原料及び炭素原料を混合して前駆体を形成する(ステップS2)。
【0022】
次に、前駆体をルツボに入れて電気炉で加熱し、焼成して、蛍光体粉末を得る(ステップS3)。焼成条件は、温度、時間、圧力が、それぞれ1600〜2300℃、1〜24時間、0〜1MPaであることが好ましい。また、Nガス等の不活性ガス雰囲気下で焼成を行うことが好ましい。
【0023】
本実施の形態に係る蛍光体粉末は、焼成直後の粒径のばらつきが小さい(粒度分布の均一性が高い)ため、最終的に得られる蛍光体粉末の粒径のばらつきも小さい。そのため、分級により除外され、廃棄される粉末が少なく、蛍光体粉末の歩留まりが高い。その結果、蛍光体粉末の製造コストを下げることができる。さらに、焼成後の粒径のばらつきが十分に小さい場合は、分級工程を省略することができる。
【0024】
炭素の添加により蛍光体粉末の粒径のばらつきが小さくなる機構は明らかではないが、焼成時に炭化物や炭酸化物等の炭素含有化合物が生成され、蛍光体の粒成長を阻害することによると推測される。
【0025】
炭素の添加により蛍光体粉末の粒径のばらつきが小さくなるという効果は、酸化物蛍光体よりも、窒化物蛍光体において顕著に現れる。これは、酸化物蛍光体においては、一部の炭素が酸化物の還元に用いられることによると考えられる。すなわち、一部の炭素が酸素と結合して二酸化炭素等として排出されるため、炭素含有化合物の生成量が少なくなり、窒化物蛍光体の場合ほどには粒成長が阻害されないものと考えられる。
【0026】
なお、蛍光体粉末の粒径のばらつきを小さくするためには、還元により酸素を除去するために用いられる炭素原料の量(例えば、粉末状のCで蛍光体の原料に対して0.03〜0.1wt%)では不十分である。これは、微量の炭素では炭素含有化合物がほとんど生成されず、粒成長が阻害されないためと考えられる。
【0027】
蛍光体粉末の粒径のばらつきの指標として、D90とD10の差であるD90−D10の値を用いることができる。ここで、D90は、体積基準のアンダーサイズ累積(粒径の小さいものからの累計)が90%での粒径を表し、D10は、体積基準のアンダーサイズ累積が10%での粒径を表す。D90−D10の値が小さいほど、粒径のばらつきが小さい。
【0028】
例えば、蛍光体粉末が窒化物蛍光体粉末である場合のD90−D10の値は41μm以下であり、好ましくは28μm以下、より好ましくは20μm以下である。また、蛍光体粉末が酸化物蛍光体粉末である場合のD90−D10の値は50μm以下であり、好ましくは47μm以下である。
【0029】
また、本実施の形態に係る蛍光体粉末は、焼成直後の粒径が小さい。このため、焼成後の蛍光体粉末の粒径が十分に小さく、所望の粒径が得られている場合は、粉砕処理を省略することができる。
【0030】
ここで、体積基準のアンダーサイズ累積が50%での粒径D50(メジアン径とも呼ばれる)の値を粒径分布の指標として用いることができる。
【0031】
例えば、蛍光体粉末が窒化物蛍光体粉末である場合のD50の値は19μm以下であり、好ましくは15μm以下である。また、蛍光体粉末が酸化物蛍光体粉末である場合のD50の値は24μm以下であり、好ましくは22μm以下である。
【0032】
上記のD10、D50、D90の値は、蛍光体粉末を解砕した後、レーザー回折・散乱法等により測定することができる。解砕は、粒子の凝集を解く処理であり、粒径を小さくするための粉砕とは異なる。
【0033】
次に、蛍光体粉末に粉砕処理を施し、微粒化する(ステップS4)。ただし、上述のように、ステップS3の焼成直後の蛍光体粉末の粒径が十分に小さく、所望の粒径が得られている場合は、粉砕処理を省略することができる。
【0034】
次に、蛍光体粉末を水又は酸水溶液を用いて洗浄し(ステップS5)、乾燥させる(ステップS6)。
【0035】
次に、蛍光体粉末を分級し、所望の粒径を有する粒子を選出する(ステップS7)。ただし、上述のように、ステップS3の焼成直後の蛍光体粉末の粒径のばらつきが十分に小さく、所望の均一性が得られている場合は、分級処理を省略することができる。
【実施例1】
【0036】
実施例1として、上記実施の形態によって製造したCaAlSiN:Euからなる窒化物蛍光体粉末の評価結果を以下に述べる。
【0037】
実施例1においては、Ca、AlN、Si、及びEuをCaAlSiN:Eu蛍光体の原料として用いて、粉末状のC、チップ状のC、及び粉末状のCを炭素原料として用いた。
【0038】
以下、実施例1において製造した、炭素原料を添加していないCaAlSiN:Eu蛍光体粉末を試料A、10mol%の粉末状のCを添加したCaAlSiN:Eu蛍光体粉末を試料B、30mol%の粉末状のCを添加したCaAlSiN:Eu蛍光体粉末を試料C、10mol%の粉末状のCを添加したCaAlSiN:Eu蛍光体粉末を試料D、18.8mol%のチップ状のCを添加したCaAlSiN:Eu蛍光体粉末を試料Eと記載する。
【0039】
図2及び図3は、実施例1に係る試料A、B、C、D、Eの焼成直後の体積基準の粒度分布を表すグラフである。ここで、図2は頻度分布を表し、図3は累積分布を表す。
【0040】
図2及び3の粒度分布は、各試料を解砕した後、レーザー回折・散乱法により測定した。測定において、イオン交換水を溶媒として用いた。
【0041】
図2から、炭素を添加したいずれの蛍光体粉末も、炭素を添加していない蛍光体粉末よりも曲線のピーク位置が小粒径側にあり、また、曲線の形状がシャープである。このことから、炭素を添加したいずれの蛍光体粉末も、炭素を添加していない蛍光体粉末よりも頻度の最も高い粒径が小さく、また、粒径のばらつきが小さいことがわかる。
【0042】
また、各蛍光体粉末のD10、D50、D90を図3から求めることができる。D10、D50、D90は、それぞれ各曲線における体積基準の累計(%)が10、50、90であるときの粒径(μm)である。各蛍光体粉末のD10、D50、D90、及びD90−D10の値(μm)を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
炭素を添加したいずれのCaAlSiN:Eu蛍光体粉末も、炭素を添加していないCaAlSiN:Eu蛍光体粉末よりもD90−D10の値が小さく、粒径のばらつきが小さいことがわかる。
【0045】
表1は、炭素を添加した全ての試料、試料B、C、D、EのD90−D10の値が41μm以下であり、試料C、D、EのD90−D10の値が28μm以下であり、試料CのD90−D10の値が20μm以下であることを示している。
【0046】
また、表1は、炭素を添加した全ての試料、試料B、C、D、EのD50の値が19μm以下であり、試料CのD50の値が15μm以下であることを示している。
【0047】
図4は、試料A、B、Cの粒度分布を図1から抜き出したグラフである。
【0048】
図4からわかるように、粉末状のCの添加量の増加に伴い、曲線のピーク位置が小粒径側にシフトし、また、曲線の形状がシャープになっている。このことから、頻度の最も高い粒径が小さくなり、また、粒径のばらつきが小さくなることがわかる。
【0049】
また、図2からわかるように、粉末状のCを添加したCaAlSiN:Eu蛍光体粉末と、チップ状のCを添加したCaAlSiN:Eu蛍光体粉末も、炭素を添加していないCaAlSiN:Eu蛍光体粉末よりも、頻度の最も高い粒径が小さく、また、粒径のばらつきが小さい。このことから、粒径のばらつきを小さくするためにCaAlSiN:Eu蛍光体粉末に添加される炭素原料の組成や形状は、限定されないといえる。
【実施例2】
【0050】
実施例2として、上記実施の形態によって製造した(Ba,Sr)SiO:Eu(BOS)からなる酸化物蛍光体粉末の評価結果を以下に述べる。
【0051】
実施例2においては、BaCO、SrCO、SiO、Eu、及び融剤としてのハロゲン化合物を混合したものを(Ba,Sr)SiO:Eu蛍光体の原料として用いて、粉末状のCを炭素原料として用いた。実施例2において製造した(Ba,Sr)SiO:Eu蛍光体の具体的な組成は、(Ba0.90Sr0.101.92SiO:Eu0.08である。
【0052】
以下、実施例2において製造した、炭素原料を添加していない(Ba,Sr)SiO:Eu蛍光体粉末を試料F、10mol%の粉末状のCを添加した(Ba,Sr)SiO:Eu蛍光体粉末を試料G、30mol%の粉末状のCを添加した(Ba,Sr)SiO:Eu蛍光体粉末を試料Hと記載する。
【0053】
図5及び図6は、実施例2に係る試料F、G、Hの焼成直後の体積基準の粒度分布を表すグラフである。ここで、図5は頻度分布を表し、図6は累積分布を表す。
【0054】
図5及び6の粒度分布は、各試料を解砕した後、レーザー回折・散乱法により測定した。測定において、イオン交換水を溶媒として用いた。
【0055】
図5からわかるように、粉末状のCの添加量の増加に伴い、曲線の形状がシャープになっており、粒径のばらつきが小さくなることがわかる。なお、粒径の変化は、実施例1の酸化物蛍光体粉末ほど大きくはない。
【0056】
また、各蛍光体粉末のD10、D50、D90を図6から求めることができる。各蛍光体粉末のD10、D50、D90、及びD90−D10の値(μm)を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
炭素を添加したいずれの(Ba,Sr)SiO:Eu蛍光体粉末も、炭素を添加していない(Ba,Sr)SiO:Eu蛍光体粉末よりもD90−D10の値が小さく、粒径のばらつきが小さいことがわかる。
【0059】
表2は、炭素を添加した全ての試料、試料G、H、のD90−D10の値が50μm以下であり、試料HのD90−D10の値が47μm以下であることを示している。
【0060】
また、表2は、炭素を添加した全ての試料、試料G、HのD50の値が24μm以下であり、試料HのD50の値が22μm以下であることを示している。
【0061】
本発明は、上記の実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0062】
また、上記の実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6