【実施例1】
【0021】
図1乃至
図3を参照しながら本発明の実施例1を説明する。
図1は本発明の実施例1に係る射出成形用金型及び射出成形装置の主要構成要件の概略側面図である。
図2は
図1の要部Aの拡大図である。
図3は本発明の実施例1に係る射出成形方法の成形工程を示す概略部分断面図である。
図3(a)が型締め後、射出充填工程及び金型キャビティ加熱工程が重複して行われている状態、
図3(b)が射出充填工程後の金型冷却工程及び金型キャビティ加熱工程が重複して行われている状態、
図3(c)が型開き及び製品取り出し工程、
図3(d)が回転工程を示す。
【0022】
最初に、
図1を参照しながら、本発明に係る射出成形用金型及び射出成形装置1の基本構成について説明する。射出成形装置1は製品取り出し工程が完了した型開き状態である。射出成形装置1は、ベッド2に固定された固定盤3と、固定盤3に対して型開閉方向に移動可能に設けられた可動盤5と、固定盤3及び可動盤5の間に配置され、取り付けられた回転金型部40を型開閉方向に直交する回転軸周りに回転可能に支持し、型開閉方向に移動させる回転金型支持機構4と、回転金型部40の一部を構成し、固定盤3及び可動盤5に対向する2つの金型取付面を有し、回転金型支持機構4に型開閉方向に直交する鉛直方向の回転軸周りに回転可能に支持される回転金型取付部41と、固定盤3側に設けられた射出ユニット17と、を備えている。
【0023】
固定盤3には、正面側(可動盤5と対向する側)の面に、本発明に係る射出成形用金型を構成する共通金型19が取り付けられると共に、背面側から正面側に亘って射出ユニット17を共通金型19に向けて進退させるための図示しない貫通穴が形成されている。固定盤3の四隅からは図示しないタイバーが突出して設けられ、このタイバーは、可動盤5を貫通している。
【0024】
可動盤5には、回転金型部40と対向する面に、本発明に係る射出成形用金型を構成するダミープレート6が取り付けられ、図示しないタイバーに案内され、図示しない型締手段によって、固定盤3に対して進退自在に設けられている。ダミープレート6は、型締め時に、対向する回転金型部40の金型分割面を保護すると共に、その回転金型部40の金型取付面と対向する面に加熱手段6aが配置されている。これらダミープレート6及び加熱手段6aについては、他の構成を説明した後に説明する。
【0025】
回転金型支持機構4は、固定盤3と可動盤5との間に配置され、ベッド2上を型開閉方向に移動可能に設けられている。この回転金型支持機構4の型開閉方向の移動の案内(ガイド)は、ベッド2に設けられた直動ガイド等の案内手段によるものであっても良いし、回転金型部40の回転金型取付部41を、金型取付面を有し回転する回転部と、これを回転可能に支持し、自身は回転しない枠部とで構成し、この回転しない枠部の四隅に、図示しないタイバーを貫通させて案内させるものであっても良いし、公知の案内手段が適宜、選択されれば良い。この回転金型支持機構4により、型開閉方向に直交する鉛直方向の回転軸周りに回転可能に支持され、本発明に係る射出成形用金型を構成する回転金型部40は、固定盤3及び可動盤5に対向する2つの金型取付面を有する回転金型取付部41と、回転金型取付部41の金型取付面にそれぞれ取り付けられた第1回転金型20及び第2回転金型21とから構成され、回転金型支持機構4に着脱可能に取り付けられている。
【0026】
これら回転金型取付部41と、第1回転金型20及び第2回転金型21とは、固定盤3及び可動盤5に対向する2つの金型分割面を有する1つの金型(回転金型部)として構成され、回転金型支持機構4、あるいは、先に説明した回転金型取付部41の回転しない枠部に着脱可能に取り付けられても良い。また、回転金型部40は、型開閉方向に直交する水平方向の回転軸周りに回転可能に支持される形態であっても良い。
【0027】
第1回転金型20及び第2回転金型21は同じ金型キャビティ形状を有しており、それらの金型キャビティ面20a及び金型キャビティ面21aが樹脂成形品の意匠面を形成する。また、第1回転金型20及び第2回転金型21は、それぞれ、型締めにより共通金型19と組み合わされて、それぞれ同じ金型キャビティを形成させる。説明のため、共通金型19と第1回転金型20とで第1金型キャビティ30を、共通金型19と第2回転金型21とで図示しない第2金型キャビティ31を形成させるものとする。ここで、第1回転金型20及び第2回転金型21は必ずしも同じ金型キャビティ形状を有している必要はない。例えば、樹脂成形品が使用される工業製品において、仕様変更等が行われ、樹脂成形品の意匠や形状に若干の変更が生じた場合、第1回転金型20及び第2回転金型21を仕様変更前と仕様変更後の、若干相違する金型キャビティ形状として、仕様変更前後の樹脂成形品を交互に連続して成形しても良い。
【0028】
また、これらの回転金型には、冷却手段42及び冷却手段43が配置され、それぞれの金型キャビティ(金型キャビティ面20a及び金型キャビティ面21a)毎に独立して作動(冷却)可能である。これらの冷却手段は、これらの回転金型内部に金型キャビティ形状に応じて配置された冷却媒体用管路と、射出成形装置1の外部に配置され、回転金型部40の型開閉方向の移動動作や型開閉方向に直交する鉛直方向の回転軸周りの回転動作が考慮された管路構成によって、これら冷却媒体用管路と接続された、水等の冷却媒体を所定圧力で所定量循環させることができる図示しない冷却媒体圧送装置とで構成される。この冷却媒体圧送装置については、冷却媒体の入出力系統が金型キャビティを形成する回転金型と同数以上備えられ、それぞれが独立して冷却媒体の圧送圧力や圧送流量を制御できるものであれば、これらの回転金型毎に配置する必要はない。また、これらの回転金型には、特許文献1及び特許文献2の金型のように、1つの金型に加熱手段(加熱媒体)と冷却手段(冷却媒体)との両方を配置(接続)させる必要はなく、冷却媒体のみを接続すれば良いため、型開閉方向の移動動作や回転動作を行わせる回転金型部40には好適な構成である。
【0029】
更に、これら冷却手段のと、それぞれが配置された金型キャビティ面との間に断熱手段を設けても良い。具体的には、
図2に示すように、第2回転金型21の冷却手段43と金型キャビティ面21aとの間に断熱手段45を、同様に、図示はしていないが、第1回転金型20の冷却手段42と金型キャビティ面20aとの間に断熱手段45を設けても良い(
図2の括弧付符号参照)。これら断熱手段は、後述するように、金型の加熱と冷却とを重複して行わせる際に、一方が他方与える影響を最小にするために、熱エネルギーの移動を抑制するものである。このような断熱手段としては、該当する箇所に空間を設け、空気やその他熱伝導率の低い物質を挿入させる等の公知の構造であって良い。
【0030】
ここで、金型の金型取付面への取付は、金型の加熱及び冷却効率を高めるために、断熱板等の図示しない断熱手段を介して取り付けられることが一般的である。一方、樹脂成形品の意匠面に微細な意匠(例えば、自動車のダッシュボード等内層部品表面のシボ模様等)を形成させる必要がある場合や、金型キャビティ面の加工等の制約から、比熱が大きい(温まりにくく、且つ、冷えにくい)金属材料で製作された金型、あるいは、そのような金属材料で意匠層が製作された金型を使用する場合等においては、その金型キャビティ面を通常よりも高い温度で加熱する必要がある。このような場合、先に説明したように、金型と金型取付面との間にしか断熱手段が設けられていなければ、その金型全体が加熱されるため、加熱効率が悪く、非常に強力な出力の加熱手段を必要としたり、制約時間内に所望の温度まで加熱させることができなかったりする虞がある。それだけでなく、金型内に設けられた冷却手段の管路も加熱されるため、金型の加熱温度が同管路内の冷却媒体の沸点以上に上昇すると、同管路内を循環する冷却媒体が沸騰して同媒体内に気泡が発生し、同媒体内に混在することで本来の冷却能力が発揮できなくなったり、冷却媒体を循環させるポンプ等の圧送手段に吸い込むことで同圧送手段を破損させたりする。また、沸騰により同媒体の体積が膨張することで同管路を破裂させ、同媒体が飛散する虞がある。このような場合に、断熱手段45は、加熱容積を意匠層の必要な部位に限定することができ、あるいは、冷却手段の管路内の冷却媒体の温度上昇を防止することができ、有効である。しかしながら、断熱手段45は、同時に、冷却手段43(42)による金型キャビティ面21a(20a)の冷却効率を低下させるため、これら冷却手段と、それぞれが配置された金型キャビティ面との間の、断熱を必要とする部位に適宜設けられることが好ましい。本実施例1においては、先に説明したような場合ではないものとし、第1回転金型20及び第2回転金型21のいずれにも断熱手段45は設けられていないものとする。
【0031】
ダミープレート6は、型締めにより第2回転金型21及び第1回転金型20それぞれと組み合わされて、それぞれ密閉空間を形成させる。ダミープレート6と第2回転金型21とで第1密閉空間33を、ダミープレート6と第1回転金型20とで図示しない第2密閉空間34を形成させると共に、型締め時に、対向する回転金型部40の金型分割面を保護する。そして、ダミープレート6の回転金型部40に対向する面に配置されている加熱手段6aは、型締め(型閉じ)により、ダミープレート6及び回転金型部40間に形成させた第1密閉空間33及び第2密閉空間34内において、対向する回転金型部40の金型キャビティ(金型キャビティ面21a及び金型キャビティ面20a)を加熱するものである。この加熱手段6aは、型締め時に、加熱する金型キャビティ面の形状等に応じて、加熱手段6aと金型キャビティ面との距離及び位置関係が、加熱効率の点から最適になるように配置されることが好ましい。具体的には、加熱手段6aは、加熱温度や加熱パターンの制御が容易で、金型キャビティ面の形状に応じて、その形状を変更可能な加熱部を備えた電気式ヒータ等を、金型キャビティ面の形状等に応じて、型開閉方向及び型開閉方向に直交する面におけるその取付位置を変更可能な取付部材を介して、ダミープレート6の回転金型部40に対向する面に配置させることが好ましい。
【0032】
また、金型キャビティ面にヒケやウエルドライン等の成形不良が発生し易い部位があり、その部位を特に高い温度で加熱する必要がある場合や、逆に、加熱してはいけない部位がある場合等、これら金型キャビティ面の加熱程度や加熱要否に応じて、適宜、金型キャビティ面の加熱部位や加熱温度分布を最適にする加熱手段6aの仕様及び配置が選択されることが好ましい。更に、金型キャビティ面全面を加熱するために、加熱手段6aを金型キャビティ面と略同じ形状にして金型キャビティ面全面に略接触させた状態で直接加熱する、あるいは、ごく近距離から加熱する構成であっても良い。
【0033】
ここで、共通金型19には、その金型キャビティ面19aに対して、これを加熱する加熱手段(加熱媒体用管路等)及び冷却手段(冷却媒体用管路等)のいずれを設けても良い。共通金型19は射出成形装置1の固定盤3に固定されて移動しないため、両方の手段を個別に設ける構成であっても、あるいは、共通の媒体用管路に加熱媒体及び冷却媒体の切り替え手段を設けて、適宜切り替える構成であってもその配置に大きな困難を伴うことはない。本実施例1においては、第1回転金型20及び第2回転金型21に設けられた冷却手段42及び43と同様に、共通金型19の金型キャビティ(金型キャビティ面19a)を冷却することができる共通金型冷却手段19bが設けられているものとする。
【0034】
次に、
図3を参照しながら、本発明の実施例1に係る射出成形方法の成形工程を説明する。
図3は成形工程の理解を容易にするために、
図1の金型部分(側面図)を中心に、成形工程を順に図示した概略部分断面図であり、成形工程に直接関係ない構成部位は図示していない。共通金型19、第1回転金型20及び第2回転金型21のみにハッチングを施し、断面であることを示している。
【0035】
図1に示す型開き状態から、
図3(a)に示すように、図示しない型締手段及び回転金型支持機構4により回転金型部40とダミープレート6とを共通金型19に型閉じさせた後、型締力を付与させて型締状態に移行する。矢印は金型の移動や射出ユニットの射出充填状態を示し、白抜き矢印は型締力が付与されていることを示す。ダミープレート6及び第2回転金型21間には外気と遮断された第1密閉空間33が形成され、第2回転金型21の金型キャビティ面21aが加熱手段6aにより加熱される(金型キャビティ加熱工程)。この金型キャビティ加熱工程において、第2回転金型21に設けられた冷却手段43による金型の冷却は行われていない。これを白抜き丸で表す(以下同様)。加熱手段6aの金型キャビティ面21aを加熱する熱エネルギーは、先に説明した図示しない断熱手段により回転金型取付部41や第1回転金型20への移動が抑制されるため、形成された第1密閉空間33内で金型キャビティ面21aが効率的に加熱される。この金型キャビティ加熱工程は、後述する金型キャビティ内で進行する成形サイクルとは別に行われる、次の成形サイクルのため工程であることは言うまでもない。
【0036】
一方、共通金型19と第1回転金型20との間には金型キャビティ30が形成され、射出ユニット17から溶融樹脂が射出充填される(射出充填工程)。第1回転金型20の金型キャビティ面20aは、前の成形サイクルの金型キャビティ加熱工程により、十分に加熱されている。これを金型キャビティ面に直交する短線で表す(以下同様)。更に、第1回転金型20及び回転金型取付部41間に設けられた図示しない断熱手段により回転金型取付部41への熱エネルギーの移動が抑制され、所望の温度が維持される。当然ながら、第1回転金型20に設けられた冷却手段42による金型の冷却は行われておらず、共通金型19の共通金型冷却手段19bによる金型の冷却も行われていない。これを白抜き丸で表す(以下同様)。このように、金型キャビティ30を構成する金型キャビティ面、特に意匠面である第1回転金型20の金型キャビティ面20aが、射出充填時の溶融樹脂の流動性を確保し、樹脂成形品形状の熱容量の少ない部分や意匠面の微細な凹凸への確実な溶融樹脂の充填を行うことができる、あるいは、溶融樹脂の流動先端部が合流する部分にウエルドライン等の成形不良が発生しない所望の温度に維持されているため、意匠面の転写性に優れ、成形不良の少ない樹脂成形品を成形することができる。
【0037】
また、先に説明したように、共通金型19の金型キャビティ面19aを加熱することができる加熱手段を共通金型19に設けることに大きな困難を伴うことはない。このような、加熱手段を共通金型冷却手段19bと共に、所定の部位に設ければ、例えば、非意匠面である共通金型19の金型キャビティ面19aの一部に意匠面が一部形成されているような場合であっても、優れた転写性を確保することが可能である。
【0038】
そのまま、
図3(b)に示すように、第1金型キャビティ30においては、射出充填工程完了後、溶融樹脂の冷却固化時間が経過するまで、所定の型締力で共通金型19、回転金型部40及びダミープレート6の型締めを継続させる金型冷却工程に移行する。金型冷却工程においては、第1回転金型20の冷却手段42及び共通金型19の共通金型冷却手段19bにより、第1金型キャビティ30を冷却する。これを黒丸で表す(以下同様)。射出充填された溶融樹脂はこの金型の冷却により冷却固化されて、樹脂成形品9へと成形される。この射出充填工程から金型冷却工程への移行においては、第1金型キャビティ30内の溶融樹脂が、意匠性等の必要な品質を確保し、かつ、成形サイクルが長くならないように、冷却手段42及び共通金型冷却手段19bが、型締力と合わせて適宜制御されることが好ましい。
【0039】
また、金型冷却工程において、非意匠面となる金型キャビティ面19aの共通金型冷却手段19bを先に作動させて、意匠面となる金型キャビティ面20aの冷却手段42を所定時間後に作動させても良い。このように、樹脂成形品の非意匠面と意匠面とで時間差を付けて金型キャビティを冷却することにより、第1金型キャビティ30内の溶融樹脂の冷却固化を、その冷却固化収縮方向が、非意匠面(共通金型19)から意匠面(第1回転金型20)へ進行する指向性凝固とすることができ、非意匠面側のリブ部等の意匠面側に生じるリブヒケ不良等の成形不良を低減させることができる。
【0040】
一方、ダミープレート6及び第2回転金型21間に形成された第1密閉空間33においては、金型キャビティ加熱工程が継続されており、第2回転金型21の金型キャビティ(金型キャビティ面21a)が射出充填時の溶融樹脂の流動性を確保し、樹脂成形品形状の熱容量の少ない部分や意匠面の微細な凹凸への確実な溶融樹脂の充填を行うことができる、あるいは、溶融樹脂の流動先端部が合流する部分にウエルドライン等の成形不良が発生しない所望の温度まで加熱される。これを金型キャビティ面に直交する短線で表す(以下同様)。この所望の温度は後述する回転工程における第2回転金型21の金型キャビティ(金型キャビティ面21a)の温度降下が考慮されることが好ましい。
【0041】
このように、型締め中に、射出充填工程及び金型冷却工程と、金型キャビティ加熱工程を任意で重複させることができるため、特許文献1や特許文献2のように、1つの金型内で金型の加熱と冷却とを行う形態に対して、成形サイクルを短縮することができる。すなわち、第1密閉空間33で行われる金型キャビティ加熱工程は、第1金型キャビティ30内で進行する成形サイクル(射出充填工程及び金型冷却工程)とは別の、すなわち、直接関係ない次の成形サイクルに備えて、次の成形サイクルに使用される金型キャビティ(金型キャビティ面21a)を加熱するものであるため、進行中の成形サイクルにおける射出充填工程の開始から金型冷却工程の完了までの間、その成形サイクルに影響を及ぼすことなく、金型キャビティ加熱工程を任意のタイミングで必要な時間、重複させることができる。この重複により、第1金型キャビティ30内で進行する成形サイクルが完了して、次の成形サイクルが開始される時には、次の成形サイクルに使用される金型キャビティは十分に加熱されている。また、加熱時間が短くて済む場合も、進行中の金型冷却工程が完了し、型開きが行われるまでに必要な加熱を完了するよう加熱開始のタイミングが選択されれば、加熱時間を不要に長くして消費エネルギーを増大させることもない。
【0042】
第1金型キャビティ30における金型冷却工程及び第1密閉空間33における金型キャビティ加熱工程が完了した後、
図3(c)に示すように、図示しない型締手段及び回転金型支持機構4とより、ダミープレート6及び回転金型部40を共通金型19から型開きさせる。その後、共通金型19及び回転金型部40間から、図示しない製品取り出し手段により樹脂成形品9を取り出し、射出成型装置1外に搬送する(製品取り出し工程)。このとき、第1密閉空間33を維持させた状態で、すなわち、ダミープレート6及び回転金型部40を一体化させた状態で、共通金型19から型開きさせることが好ましい。このような型開き動作により、射出成形装置の限られた型開閉ストローク内において、共通金型19及び回転金型部40間の型開き量をより多く確保することができ、製品取り出し工程をより容易に行わせることができる。また、第1密閉空間33が維持されているため、この製品取り出し工程が完了するまで金型キャビティ加熱工程を継続して行わせることができ、成形サイクルに影響を及ぼすことなく、更に金型の加熱時間を長く確保することができると共に、この製品取り出し工程における金型の温度降下を防止することができる。
【0043】
尚、第1密閉空間33を維持させた状態で、ダミープレート6及び回転金型部40を共通金型19から型開きさせるために、回転金型部40と、ダミープレート6、又は、可動盤5とを任意で一体化させる図示しない機械的手段を設けて、一体化させたダミープレート6及び回転金型部40を図示しない型締手段により型開きさせても良い。また、樹脂成形品9は、回転金型部40側を意匠面とするため、製品取り出し工程においては、非意匠面となる共通金型19側に保持させて型開きさせ、共通金型19側から図示しない製品押し出し手段により押し出されることが好ましいが、必要あれば、回転金型部40側に保持させて型開きさせ、回転金型部40側から図示しない製品押し出し手段により押し出されても良い。また、省エネルギーの観点から、加熱手段6aは、金型キャビティ加熱工程完了後、出力を低下させるか完全に停止させることが好ましいが、加熱手段6aの加熱能力や仕様によっては、若干出力を低下させた状態で、次の成形サイクルの金型キャビティ加熱工程まで作動させ続けても良い。
【0044】
製品取り出し工程が完了した後、第1密閉空間33を維持させた状態であれば、回転金型部40が回転可能な位置まで、回転金型支持機構4により回転金型部40を共通金型19側へ移動させる。その後、
図3(d)に示すように、回転金型支持機構4により回転金型部40を回転させ、回転金型部40の第2回転金型21を共通金型19と対向する位置に移動させる(回転工程)。回転工程の前の型開き動作の際、第1密閉空間33を維持させるか否かによらず、金型キャビティ加熱工程において加熱された第2回転金型21の金型キャビティ(金型キャビティ面21a)の温度降下を最小限とするために、この回転工程は可能な限り短時間で行われることが好ましいことは言うまでもない。
【0045】
この
図3(d)に示す型開き状態は、
図1に示す型開き状態から、共通金型19及びダミープレート6に対向する、回転金型部40の第1回転金型20及び第2回転金型21が入れ替わった状態であり、
図3(a)に示すように、共通金型19、回転金型部40及びダミープレート6を型締めさせると、ダミープレート6及び回転金型部40の第1回転金型20間に新たに形成される第2密閉空間34において金型キャビティ加熱工程が、共通金型19及び第2回転金型21間に新たに形成される第2金型キャビティ31において射出充填工程が行われる。すなわち、
図3(a)から
図3(d)の成形工程が、本発明の実施例1に係る射出成形の成形工程の1成形サイクルとなり、本成形サイクルを繰り返すことにより、金型の加熱による成形サイクルの増加を招くことなく、意匠面の転写性に優れ、成形不良の少ない樹脂成形品を型開き毎に連続して成形することができる。
【0046】
本実施例1で説明したように、本発明に係る射出成形装置及び射出成形方法は、型締め中に、射出充填工程及び金型冷却工程と、金型キャビティ加熱工程とを任意で重複させることができるため、特許文献1や特許文献2のように、1つの金型内で金型の加熱と冷却とを行う形態に対して、成形サイクルを短縮することができる。また、溶融樹脂が射出充填される金型キャビティを形成する共通金型19及び回転金型部40に加熱手段6aを金型内に配置させる必要がないため、特許文献1や特許文献2のようにこれら金型の構成を複雑にすることはない。更に、金型キャビティの加熱に、十分な長さの加熱時間を確保することができるため、加熱手段6aの、加熱能力や形状、仕様等の設計自由度が高い。また更に、回転金型部40には加熱手段は配置されず、冷却手段のみが配置されるため、回転金型部40の冷却手段42及び冷却手段43は、加熱手段に制約を受けることなく、金型キャビティの冷却効率を優先して、その冷却能力や形状、仕様等を設計することができる。
【0047】
一方、特許文献1の合成樹脂成形用金型は、金型の構成が複雑なだけでなく、金型の加熱・冷却の切り替え時間を短縮するために、金型が水冷却専用回路により常時冷却されているため、そうでない場合と比較して、冷却能力を上回る多大な加熱能力が必要となる。特許文献1中には、蒸気が、加熱手段(加熱媒体)として、他の加熱手段(熱風、電気ヒータ、電気伝導層、高周波誘導加熱、熱板、ハロゲン電球)より加熱能力や経済性他で優れている点について記載されているが、金型の加熱時においては、水冷却専用回路の冷却能力分に相当する加熱能力分は相殺されてしまうため、それを超える加熱能力のみで金型表面の加熱が行われる。また、成形サイクルを短縮するために、水冷却専用回路による冷却能力を高めようとすると、先の説明のとおり、蒸気による加熱能力をより高める必要があるため、金型の加熱能力と冷却能力とのいずれか一方の能力のみ向上させ、成形サイクルを短縮することが困難である。そのため、加熱能力や経済性他で優れている蒸気を加熱媒体として使用するとしても、特許文献1の合成樹脂成形用金型の加熱効率や冷却効率は非常に悪いと言わざるを得ない。
【0048】
更に、特許文献2の射出成型装置においては、金型の構成が複雑なだけでなく、その複雑な構成に起因する金型内外への漏水や漏電の危険性があることを説明したが、これは、射出成形装置及び作業者の両者にとって非常に危険であることは言うまでもない。また更に、本射出成型装置において、金型の冷却効率を高めようとすると、当然ながら、内部に水を循環させ、かつ、金型キャビティ部を形成する入子に分離可能に当接する構成の冷却用入子が、その入子のできるだけ多くの部分に当接するよう配置せざるを得ない。その場合、冷却用入子を介して金型キャビティ部へ突出させる必要のある製品押出のための押出ピンについて、その配置の制約と漏水の危険性とが増加する。逆に、これらの危険性を少なくするためには、冷却用入子の入子への当接範囲を少なくせざるを得ず、その結果、金型の冷却能力は低下せざるを得ない。